説明

アルキルベンゼン類の製造方法及びそれに用いる触媒

【課題】過分解を抑制し、多環芳香族炭化水素から付加価値の高いアルキルベンゼン類を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】重質芳香族炭化水素から高効率でアルキルベンゼン類に変換する上で、従来から採用されてきた抽出等のエネルギー消費量の多い分離工程を不要にすることにより、簡便な蒸留のみの低エネルギー消費でアルキルベンゼン類を濃縮する方法であって、ブレンステッド酸の最高酸強度が135kJ/mol以上である固体酸を含有する水素化分解触媒を用いることで、分子径の小さいベンゼン・トルエン・キシレン(BTX)を選択的に製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
重質芳香族炭化水素から高効率でアルキルベンゼン類に変換する上で、従来から採用されてきた抽出等のエネルギー消費量の多い分離工程を不要にすることにより、簡便な蒸留のみの低エネルギー消費のアルキルベンゼン類の濃縮方法に関する。特に、本発明により、ベンゼン・トルエン・キシレン(BTX)を選択的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
BTXに代表されるアルキルベンゼン類は、従来、石油精製においては接触改質法により製造されてきた。接触改質反応から得られる生成油は芳香族炭化水素と非芳香族炭化水素の混合油であり、そこからのBTX濃縮方法としては、これまで溶剤抽出、精密蒸留、などエネルギーを要するプロセスしかなかった。
【0003】
接触改質装置から得られる生成油を脱アルキル化反応やトランスアルキル化反応によって目的の化合物へ変換する方法も広く知られている(特許文献1、2)。この場合では、1環芳香族炭化水素のみが原料として使用されており、2環芳香族炭化水素はむしろ被毒成分という解釈であり、有効に1環芳香族炭化水素へ変換されるものではなかった。
【0004】
一方、多環芳香族炭化水素から1環芳香族炭化水素を選択的に製造する方法が開示されている(特許文献3)。しかし、この方法では、依然として生成油中には1環芳香族炭化水素以外にも非芳香族炭化水素が含まれており、蒸留分離だけでは1環芳香族炭化水素を分離することはできず、抽出分離などを使用せざるを得なかった。
【0005】
また、ゼオライトのような固体酸性を有する材料を原料に用いて1環芳香族炭化水素を製造する方法も開示されている(特許文献4)が、1環芳香族炭化水素の単離を考えた場合、まだ充分なレベルではなかった。
【0006】
さらに、アンモニア吸着熱の限定によりゼオライト組成物を定義する方法も開示されている(特許文献5)が、具体的な反応例が示されておらず、どのような酸がどのような反応に効果を発揮するかについては解明されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004−514726号公報
【特許文献2】特開2008−238136号公報
【特許文献3】国際公開第2007/135769号
【特許文献4】米国特許第5219814号
【特許文献5】特開平5−097428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで、重質芳香族炭化水素から、分子径の小さいベンゼン、トルエンやキシレンのアルキルベンゼン類を選択的に製造する方法はこれまで開示されていなかった。
かかる状況下、過分解を抑制し、多環芳香族炭化水素から付加価値の高いアルキルベンゼン類を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の酸強度を有する固体酸材料を選定し使用することにより上記問題を解決できることに想到した。中でも、ブレンステッド酸の最高酸強度が135kJ/mol以上である固体酸を含有する水素化分解触媒を用いることで、分子径の小さいベンゼン、トルエンやキシレンを選択的に製造することが可能になることを見出し本発明に想到した。
【0010】
すなわち本発明は次のとおりのものである。
【0011】
[1] 炭素数9以上の芳香族炭化水素の含有量が全芳香族炭化水素中に80容量%以上であり、2環芳香族炭化水素が30容量%未満、テトラリン類とインダン類の合計含有量が20容量%以上である原料炭化水素油の水素化分解において、ブレンステッド酸の最高酸強度が135kJ/mol以上である固体酸を含有する水素化分解触媒を用い、反応温度310℃以上400℃未満で処理させることにより、反応液収率30容量%以上で、生成油中の組成として、テトラリン類とインダン類の合計含有量が5.0容量%未満、2環以上の芳香環を有する炭化水素が1.0容量%未満、沸点70℃以上の留分に占めるアルキルベンゼン類の割合が80容量%以上の水素化分解生成油を得ることを特徴とするアルキルベンゼン類の製造方法。
[2] ベンゼン、トルエン及びキシレンの生成速度定数k(BTX)と、1環芳香族炭化水素の生成速度定数k(1RA)の比k(BTX)/k(1RA)が0.60以上である上記[1]に記載のアルキルベンゼン類の製造方法。
[3] 2環芳香族炭化水素が30容量%以上である原料炭化水素油を水素化処理して30容量%未満に低減した留分を原料に用いることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のアルキルベンゼン類の製造方法。
[4] 上記[1]〜[3]のいずれかに記載のアルキルベンゼン類の製造に用いる水素化分解触媒。
【発明の効果】
【0012】
特定の酸強度を有する固体酸を含有する水素化分解触媒を使用することにより、パラフィンやアロマ側鎖を分解してガス化し、アロマ骨格だけを残存させることで、抽出分離工程なく1環芳香族炭化水素のみを得、とりわけBTXの比率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、多環芳香族炭化水素とは2以上の芳香環を有する炭化水素を指し、1環芳香族炭化水素とはベンゼンの水素を0〜6個の鎖状炭化水素基で置換したものを意味しアルキルベンゼン類とも呼ぶ。また、テトラリン類とインダン類とは、テトラリン(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン)やインダン(2,3−ジヒドロインデン)のように1個の芳香環と飽和された1個のナフテン環を1分子内に有する化合物を指し、その芳香環の水素を鎖状炭化水素基で置換したものを含み、1.5環芳香族炭化水素とも呼ぶ。
【0014】
以下、本発明の炭化水素留分の製造方法の詳細について、反応原料、前処理工程、水素化分解反応、水素化分解触媒、水素化分解触媒の製造方法、水素化分解生成油の分離方法、及び製品炭化水素に分けて順次説明する。
【0015】
[反応原料]
本発明において、反応原料として使用する炭化水素油は、炭素数9以上の芳香族炭化水素の含有量が全芳香族炭化水素中に80容量%以上であり、かつ2環芳香族炭化水素が30容量%未満、テトラリン類とインダン類の合計含有量が20容量%以上である。ここで、炭素数9以上の芳香族炭化水素の含有量が全芳香族炭化水素中80容量%未満で、2環芳香族炭化水素が30容量%以上、テトラリン類とインダン類の和が20容量%未満であるの場合、目的とする1環芳香族炭化水素(アルキルベンゼン類)を高効率、高収率で得ることができず好ましくない。
【0016】
前記芳香族組成に基づき、好ましい蒸留性状を設定することができる。すなわち、炭素数9の芳香族炭化水素の沸点が150℃以上180℃未満であり、2環芳香族炭化水素のナフタレンの沸点が218℃であることから、少なくとも150℃以上210℃未満の留分が10容量%以上であり、215℃以上の留分として30容量%未満、より好ましくは20容量%未満が好ましい。従って、好ましい原料油の蒸留性状としては、10%留出温度が100℃以上200℃未満、より好ましくは120℃以上190℃未満、さらに好ましくは140℃以上185℃未満であり、90%留出温度が200℃以上300℃未満、より好ましくは205℃以上280℃未満、特には210℃以上260℃未満である。
【0017】
水素化分解反応用原料中の反応阻害物質として、通常、窒素分が0.1重量%以上3000重量ppm未満、硫黄分が0.1重量%以上3重量%未満含まれる。主な硫黄化合物としては、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類、スルフィド類であるが、本発明に用いる原料油の沸点範囲では、ベンゾチオフェン類とジベンゾチオフェン類が多い。ジベンゾチオフェンは電子的に非局在化しているため安定であり、反応しにくいことが知られていることから、本発明に使用する原料油中にはあまり多く含まれない方が好ましい。窒素分、硫黄分を多く含む場合は、後述する前処理によって、予め低減しておくことが好ましい。
原料中の硫黄分及び窒素分は、後述する前処理により低減することができ、硫黄分は好ましくは500重量ppm未満、より好ましくは100重量ppm未満、特に好ましくは50重量ppm未満、窒素分は好ましくは50重量ppm未満、より好まくは20重量ppm未満、特に好ましくは10重量ppm未満に低減しておくことが好ましい。
【0018】
本発明において、反応原料として用いる多環芳香族炭化水素を含有する炭化水素油として、炭素数9以上の芳香族炭化水素の含有量が全芳香族炭化水素中に80容量%以上であり、かつ2環芳香族炭化水素が30容量%未満、テトラリン類とインダン類の和が20容量%以上であれば、どのようなものでも使用することができる。
具体的には、原油を常圧蒸留して得られる留出分、常圧残渣を減圧蒸留して得られる減圧軽油、各種の重質油の軽質化プロセス(接触分解装置、熱分解装置等)から得られる留出物、例えば接触分解装置から得られる接触分解油(特に、LCO)、熱分解装置(コーカーやビスブレーキング等)から得られる熱分解油、エチレンクラッカーから得られるエチレンクラッカー重質残渣、接触改質装置から得られる接触改質油、さらに接触改質油を抽出、蒸留、あるいは膜分離して得られる芳香族リッチな接触改質油、潤滑油ベースオイルを製造する芳香族抽出装置から得られる留分、溶媒脱ろう装置から得られる芳香族リッチな留分およびこれらの部分水素化油等が挙げられる。ここで、芳香族リッチとは、接触改質装置から得られる炭素数10以上でかつ芳香族化合物の含有量が50容量%を超えるものを指す。その他、常圧蒸留残渣、減圧蒸留残渣、脱ろうオイル、オイルサンド、オイルシェール、石炭、バイオマス等などを精製する脱硫法又は水素化転化法(例えば、H−Oilプロセス、OCRプロセス等の重油分解プロセスや重油の超臨界流体による分解プロセス)から生ずる留出物およびこれらの部分水素化油等も好ましく用いることができる。
【0019】
また、複数の上記精製装置で適宜の順序で処理されて得られた留出物も水素化分解反応用原料の炭化水素油として用いることもできる。さらに、これら炭化水素油は、単独で用いても2種以上の混合物を使用してもよく、水素化分解の原料油として上記の沸点範囲及び芳香族環構成炭素比率に調整されたものであれば使用できる。したがって、上記の沸点範囲及び芳香族環構成炭素比率を外れる炭化水素油であっても、沸点範囲及び芳香族環構成炭素比率を上記の範囲に調整して用いることもできる。上記の炭化水素油のなかでも、接触分解油、熱分解油、減圧軽油、エチレンクラッカー重質残渣、接触改質油、超臨界流体分解油が好ましく、特には接触分解軽油(LCO)およびその部分水素化油が好ましい。
【0020】
本発明における水素化分解用原料として、前述の原料性状の以外にも、2環芳香族炭化水素が30容量%以上含まれている場合、あらかじめ水素化処理を行い、30容量%未満に変換しておくこともできる。水素化処理条件としては特段限定されるものではないが、例えば後述する前処理工程に記載される反応条件を用いることもできる。
【0021】
[前処理工程]
本発明において、その水素化分解処理に先立ち、必要に応じて前処理を施すことも可能である。水素化分解反応用原料は、前記の通り様々なものがあり、それらに含まれる硫黄化合物や窒素化合物の含有量も様々である。したがって、特にその濃度が高すぎる場合、水素化分解触媒の機能を充分に発揮できないこともある。そこで、水素化分解工程の前に、あらかじめ前処理工程として周知の方法を適用して硫黄分や窒素分を低減しておくことが好ましい。前処理工程としては水素化精製、吸着分離、収着分離、酸化処理等が挙げられるが、特に水素化精製が好ましい。水素化精製で対処する場合、水素化分解反応用原料と水素化精製触媒とを、水素の存在下で、温度150℃以上400℃未満、より好ましくは200℃以上380℃未満、さらに好ましくは250℃以上360℃未満で、圧力1MPa以上10MPa未満、より好ましくは2MPa以上8MPa未満、液空間速度(LHSV)0.1h−1以上10.0h−1未満、より好ましくは0.1h−1以上8.0h−1未満、さらに好ましくは0.2h−1以上5.0h−1未満、水素/炭化水素比(容積比)100NL/L以上5000NL/L未満、好ましくは150NL/L以上3,000NL/L未満で接触させることが好ましい。
【0022】
以上の処理により、硫黄分は好ましくは500重量ppm以下、より好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは50重量ppm以下、窒素分は好ましくは50重量ppm以下、より好ましくは20重量ppm以下、特に好ましくは10重量ppm以下に低減される。この水素化精製処理による脱硫、脱窒素反応に伴い、芳香族分の水素化も一部進行してしまう。本発明において、多環芳香族炭化水素の量を減少させることは問題ないが、1環芳香族炭化水素の量も減少させることは望ましくない。従って、多環芳香族分を1環芳香族炭化水素へ水素化するところまでで留めることができるような反応条件で処理することが好ましい。
【0023】
前処理工程の水素化精製に用いる水素化精製触媒としては特に限定されるものではないが、耐火性酸化物担体に周期律表の第6族及び第8族から選ばれる少なくとも1種の金属を担持した触媒を好適に用いることができる。このような触媒として、具体的には、アルミナ、シリカ、ボリア、ゼオライトから選ばれる少なくとも1種が含まれる担体に、周期律表の第6族及び第8族の金属としてモリブデン、タングステン、ニッケル、コバルト、白金、パラジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属が担持された触媒が挙げられる。水素化精製触媒は、必要に応じて水素化反応前に乾燥、還元、硫化等の処理をしてから使用する。また、前処理工程に用いる触媒の量は、水素化分解触媒に対して10容量%以上200容量%未満の範囲で使用することが好ましい。ここで、10容量%未満の場合、硫黄分の除去が不十分であり、一方200容量%以上の場合、装置が大規模なものになってしまい非効率である。なお、前処理工程と水素化分解工程は、一つの反応塔に充填したそれぞれのための触媒層として構成されても良く、あるいは別々の反応塔から構成されても良い。この際、両触媒層の間に水素供給ラインさらにその上流に反応生成ガス抜出ラインを設置して反応生成ガスを抜き出し、フレッシュな水素ガスを供給して反応を促進させることもできる。また、前処理工程と水素化分解工程は、それぞれ別々の個々の装置であっても良いことは断るまでもない。
【0024】
[水素化分解反応]
本発明における炭化水素油の水素化分解方法は、水素の存在下で、後で詳しく説明する水素化分解触媒と接触させ、炭素数9以上の芳香族炭化水素から選択的にBTXを生成する方法である。すなわち、原料の炭化水素油から、その炭化水素油に含まれる特定の温度よりも高い沸点を有する留分の炭化水素を転化して、換言すれば、重質芳香族炭化水素のアルキル側鎖を減少させて、BTXに変換して、それと併せて各種の軽質な炭化水素留分を含む水素化分解生成油を生成するものである。
【0025】
また、本発明における炭化水素油の水素化分解方法において、反応次数を1次とした場合のベンゼン、トルエン及びキシレンの生成速度定数をk(BTX)、同じく反応次数を1次とした場合の1環芳香族炭化水素の生成速度定数をk(1RA)とした際、ベンゼン、トルエン及びキシレンの生成速度定数k(BTX)と、1環芳香族炭化水素の生成速度定数k(1RA)の比k(BTX)/k(1RA)が好ましくは0.60以上、より好ましくは0.70以上、特に好ましくは0.80以上である。前記生成速度定数の比が0.60未満であると目的とするBTXの生成よりも炭素数9以上の芳香族炭化水素のような重質炭化水素が残存してしまうため好ましくない。
【0026】
本発明における炭化水素油の水素化分解の反応形態は、特に限定されるものではなく、従来から広く使用されている反応形態、すなわち、固定床、沸騰床、流動床、移動床等が適用できる。この中で、固定床式が好ましく、装置構成が複雑でなく操作も容易である。
【0027】
本発明における炭化水素油の水素化分解方法に使用する水素化分解触媒は、反応器に充填した後、乾燥、還元、硫化などの前処理をして用いられる。これらの処理は当業者に一般的であり、周知の方法によって反応塔内又は反応塔外で実施できる。触媒の硫化による活性化は、一般的には水素化分解触媒を水素/硫化水素混合物流下150℃以上800℃未満、好ましくは200℃以上500℃未満の温度で処理することによって行われる。
【0028】
水素化分解において、例えば、反応圧力、水素流量、液空間速度などの操作条件は、原料の性状、生成油の品質、生産量や精製設備・後処理能設備の能力に応じて適宜調整すればよい。水素化分解反応用の原料炭化水素油と水素化分解触媒を、水素の存在下で反応温度310℃以上400℃未満、より好ましくは315℃以上390℃未満、さらに好ましくは320℃以上380℃未満で、反応圧力2MPa以上10MPa未満、より好ましくは2MPa以上8MPa未満で、液空間速度(LHSV)0.1h−1以上10.0h−1未満、より好ましくは0.1h−1以上8.0h−1未満、さらに好ましくは0.2h−1以上5.0h−1未満で、水素/炭化水素比100NL/L以上5000NL/L未満、好ましくは150NL/L以上3000NL/L未満で接触させる。以上の操作により、水素化分解反応用の原料炭化水素油中のナフテン環は分解され、所望のBTXに転化する。上記の操作条件の範囲外では、分解活性が不足したり触媒の急激な劣化を引き起こしたりするなどの理由から好ましくない。
【0029】
[水素化分解触媒]
本発明の水素化分解触媒は、特定の複合酸化物とそれを結合するバインダーとから構成される担体をペレット状(円柱状、異形柱状)、顆粒状、球状等に成形したものを使用できる。また、その物性として、比表面積が100m/g以上800m/g未満、中央細孔直径が3nm以上15nm未満、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積が0.1mL/g以上1.0mL/g未満であることが好ましい。
比表面積はASTM規格D3663−78に基づき窒素吸着によって求めたBET比表面積の値であり、より好ましくは150m/g以上700m/g未満、さらに好ましくは200m/g以上600m/g未満である。BET比表面積が上記100m/gよりも小さい場合は活性金属の分散が不十分になり活性が向上せず、逆に800m/gより大きすぎる場合は十分な細孔容積を保持できないため反応生成物の拡散が不十分になり、反応の進行が急激に阻害されるので好ましくない。
【0030】
水素化分解触媒の中央細孔直径は、より好ましくは4.0nm以上12nm未満、特に好ましくは5.0nm以上10nm未満である。また、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積は、より好ましくは0.15mL/g以上0.8mL/g未満、特に好ましくは0.2mL/g以上0.7mL/g未満である。中央細孔直径及び細孔容積は、反応に関与する分子の大きさと拡散との関係から適正範囲が存在するため、大きすぎても小さすぎても好ましくない。
【0031】
いわゆるメソポアの細孔特性、すなわち上記細孔直径、細孔容積は窒素ガス吸着法によって測定し、BJH法などによって細孔容積と細孔直径の関係を算出することができる。また、中央細孔直径は、窒素ガス吸着法において相対圧0.9667の条件で得られる細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積の累積をVとするとき、各細孔直径の容積量を累積させた累積細孔容積曲線において、累積細孔容積がV/2となる細孔直径をいう。
【0032】
本発明における水素化分解触媒は、マクロポア、メソポア、ミクロポアを有するものを用いることができる。通常、複合酸化物担体のメソポアの細孔特性が触媒形成時まで維持されることから、上記水素化分解触媒のメソポアの細孔特性は、基本的には複合酸化物担体の細孔特性として上記メソポアの細孔特性を持つように、混練条件(時間、温度、トルク)や焼成条件(時間、温度、流通ガスの種類と流量)を制御することにより調節することができる。
【0033】
マクロポアの細孔特性は、複合酸化物粒子間の空隙とバインダーによる充填率とにより制御することができる。複合酸化物粒子間の空隙は複合酸化物粒子の粒径により、充填率はバインダーの配合量により制御することができる。
【0034】
ミクロポアの細孔特性は、主にゼオライト等の複合酸化物が本来有する細孔に依存するところが大きいが、スチーミングなどの脱アルミニウム処理により制御することもできる。
【0035】
メソポアとマクロポアの細孔特性は、また、後述するバインダーの性状及び混練条件により影響され得る。複合酸化物は、無機酸化物マトリックス(バインダー)と混合して担体とする。
【0036】
[複合酸化物]
本発明でいう複合酸化物とは、固体酸性を有する複合酸化物である。例えば、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−ジルコニア、酸化タングステン−ジルコニア、硫酸化ジルコニア、硫酸アルミナ、ゼオライトから選ばれる1種を単独で使用することもできるし、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
前記複合酸化物としてはゼオライトを好適に用いることができる。ゼオライトとしては特定の酸強度を有する必要があり、ZSM型のゼオライトを好適に用いることができる。具体的には、特にブレンステッド酸の強度が重要であり、特定の酸強度のブレンステッド酸が必要である。
ブレンステッド酸の最高酸強度が135kJ/mol以上が好ましく、より好ましくは137kJ/mol以上、特に好ましくは138kJ/mol以上である。前記ブレンステッド酸の最高酸強度が135kJ/mol未満の場合、充分な酸点が付与されないため開環反応が進行しにくいため好ましくない。
【0038】
本発明において、触媒の酸強度とはアンモニアの吸着熱を指す。具体的な測定方法としては、N.Katada,T.Tsubaki,M.Niwa,Appl.Cat.A:Gen.,340巻,(2008)76頁、あるいは片田直伸,丹羽幹,ゼオライト,21巻,(2004)45頁に記載の方法により、アンモニア吸着−昇温脱離法(NH−TPD法)とフーリエ変換赤外分光法(FT−IR法)により求めた。すなわち、ブレンステッド酸の変角振動(1430cm−1)に起因する吸収量の各温度の差分から酸量を求める。アンモニアの吸着熱が一定であるとみなし、温度依存性から酸強度分布を求める。得られた分布のうちブレンステッド酸の強酸側ピークを読み取り、それを最高酸強度と定義した。
【0039】
前記ZSM−5を、鉄、コバルト、ニッケル、モリブテン、タングステン、銅、亜鉛、クロム、チタン、バナジウム、ジルコニア、カドミウム、スズ、鉛等の遷移金属の塩や、ランタン、セリウム、イッテルビウム、ユウロピウム、ジスプロシウム等の希土類から選ばれる1種以上の金属を担持した触媒が好適に使用できる。担持の方法は通常の方法で行うことができ、担体を前記金属の塩を含有する溶液に浸漬することにより、これらの金属イオンを導入し、遷移金属含有結晶性アルミノシリケートや希土類含有結晶性アルミノシリケートとしてもよい。後述する水素化分解反応に供する際には、前記結晶性アルミノシリケート、遷移金属含有結晶性アルミノシリケート、あるいは希土類含有結晶性アルミノシリケートを単独で用いても、これらの2種以上を混合して使用してもよい。
【0040】
[バインダー]
バインダーとしては、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア−アルミナ、ジルコニア−アルミナ、ボリア−アルミナなど、多孔質でかつ非晶質のものを好適に用いることができる。なかでも、複合酸化物を結合する力が強く、また比表面積が高いことから、アルミナ、シリカ−アルミナ及びボリア−アルミナが好ましい。これらの無機酸化物は活性金属を担持する物質として働くと共に、上記複合酸化物を結合するバインダーとして働き、触媒の強度を向上させる役割がある。このバインダーの比表面積は30m/g以上であることが望ましい。
【0041】
担体の構成成分の一つであるバインダーは、アルミニウム水酸化物及び/又は水和酸化物からなる粉体(以下、単にアルミナ粉体ともいう)、特には、擬ベーマイトなどのベーマイト構造を有する酸化アルミニウム1水和物(以下、単にアルミナともいう)が水素化分解活性や選択性を向上できるので好ましく用いることができる。また、バインダーは、ボリア(ホウ素酸化物)を含むアルミニウム水酸化物及び/又は水和酸化物からなる粉体、特にはボリアを含む擬ベーマイトなどのベーマイト構造を有する酸化アルミニウム1水和物も水素化分解活性や選択性を向上できるので好ましく用いることができる。
【0042】
酸化アルミニウム1水和物としては、市販のアルミナ源(例えば、SASOL社から市販されているPURAL(登録商標)、CATAPAL(登録商標)、DISPERAL(登録商標)、DISPAL(登録商標)、UOP社から市販されているVERSAL(登録商標)、又はALCOA社から市販されているHIQ(登録商標)など)を使用することができる。あるいは、酸化アルミニウム3水和物を部分的に脱水する周知の方法によって調製することもできる。上記酸化アルミニウム1水和物がゲルの形である場合、ゲルを水又は酸性水によって解こうする。アルミナを沈殿法で合成する場合、酸性アルミニウム源としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウムなどから選択することができ、塩基性アルミニウム源としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどから選択できる。
【0043】
バインダーの配合割合は、触媒を構成する複合酸化物とバインダーの合計重量に対して5重量%以上70重量%未満、特には10重量%以上60重量%未満とすることが好ましい。5重量%未満では触媒の機械的強度が低下しやすく、70重量%を超えると相対的に水素化分解活性や選択性が低下する。複合酸化物としてZSM−5ゼオライトを用いる場合、触媒を構成する複合酸化物部分及びバインダー部分の合計重量に対するZSM−5ゼオライトの重量は1重量%以上80重量%未満、特には10重量%以上70重量%未満とすることが好ましい。1重量%未満では、ZSM−5ゼオライトを用いたことによる分解活性向上効果が発現しにくく、80重量%を超えると相対的に中間留分選択性が低下する。
【0044】
[金属成分]
本発明の水素化分解触媒は、周期律表の第6族及び第8族から選ばれる金属を活性成分として含有することが好ましい。第6族及び第8族の金属のなかでも、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金が特に好適に用いられる。これらの金属は1種のみで用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これら金属の添加量は、水素化分解触媒中に占める第6族と第8族の金属元素の合計量が0.05重量%以上35重量%未満、特には0.1重量%以上30重量%未満となるように含有することが好ましい。金属としてモリブデンを用いる場合、その含有量は水素化分解触媒中5重量%以上20重量%未満、特には7重量%以上15重量%未満とすることが好ましい。金属としてタングステンを用いる場合、その含有量は水素化分解触媒中5重量%以上30重量%未満、特には7重量%以上25重量%未満とすることが好ましい。モリブデンやタングステンの添加量は、上記の範囲より少ないと、水素化分解反応に必要な活性金属の水素化機能が不足し好ましくない。逆に、上記の範囲より多いと、添加した活性金属成分の凝集が起こりやすく好ましくない。
【0045】
金属としてモリブデン又はタングステンを用いる場合には、さらに、コバルト又はニッケルを添加すると、活性金属の水素化機能が向上し一層好ましい。その場合のコバルト又はニッケルの合計含有量は、水素化分解触媒中0.5重量%以上10重量%未満、特には1重量%以上7重量%未満とすることが好ましい。金属としてロジウム、イリジウム、白金、パラジウムのうちの1種又は2種以上を用いる場合、その含有量は0.1重量%以上5重量%未満、特には0.2重量%以上3重量%未満とすることが好ましい。この範囲未満では、十分な水素化機能が得られず、この範囲を超えると添加効率が悪く経済的でないため好ましくない。
【0046】
なお、活性成分として担持する第6族金属成分は、パラモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸、無水タングステン酸、タングストリン酸などの化合物を水溶液として含浸させ、付加することができる。
また、第8族金属成分は、ニッケルやコバルトの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、フッ化物、臭化物、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩などの水溶液や、塩化白金酸、ジクロロテトラアンミン白金、テトラクロロヘキサアンミン白金、塩化白金、ヨウ化白金、塩化白金酸カリウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート、酢酸ロジウム、塩化ロジウム、硝酸ロジウム、塩化ルテニウム、塩化オスミウム、塩化イリジウムなどの化合物を水溶液として用いるとよい。
さらに、第三成分として、リン、ホウ素、カリウム、及びランタン、セリウム、イッテルビウム、ユウロピウム、ジスプロシウム等の希土類を添加しても良い。
【0047】
[水素化分解触媒の製造方法]
本発明の水素化分解触媒は、複合酸化物とバインダーを混練して成形した後、乾燥、焼成して担体を作成し、さらに金属成分を含浸担持した後、乾燥、焼成することによって調製することができる。本発明の水素化分解触媒の製造方法をより詳細に下記に説明するが、下記の方法に限定するものでなく、所定の細孔特性、性能を有する触媒を作製できる他の方法を用いることもできる。
【0048】
混練には、一般に触媒調製に用いられている混練機を用いることができる。通常は原料を投入し、水を加えて攪拌羽根で混合するような方法が好適に用いられるが、原料及び添加物の投入順序など特に限定はない。混練の際には通常水を加えるが、原料がスラリー状の場合などには特に水を加える必要はない。また、水以外にあるいは水の代わりに、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの有機溶媒を加えてもよい。混練時の温度や混練時間は、原料となる複合酸化物、バインダーにより異なるが、好ましい細孔構造が得られる条件であれば特に制限はない。同様に、本発明の触媒の性状が維持される範囲内であれば、硝酸などの酸やアンモニアなどの塩基、クエン酸やエチレングリコールなどの有機化合物、セルロースエーテル類やポリビニルアルコールのような水溶性高分子化合物、セラミックス繊維などを加えて混練しても構わない。
【0049】
混練後、触媒調製に一般的に用いられている周知の成形方法を用いて成形することができる。特に、ペレット状(円柱状、異形柱状)、顆粒状、球状等の任意の形状に効率よく成形できるスクリュー式押出機などを用いた押出成形や、球状に効率よく成形できるオイルドロップ法による成形が好ましく用いられる。成形物のサイズに特に制限はないが、例えば円柱状のペレットであれば、直径0.5〜20mm、長さ0.5〜15mm程度のものを容易に得ることができる。
【0050】
上記のようにして得られた成形物は、乾燥、焼成処理をすることにより担体とされる。この焼成処理は、空気又は窒素などのガス雰囲気中において300〜900℃の温度で0.1〜20時間焼成すればよい。
【0051】
担体に金属成分を担持する方法に特に制限はない。担持したい金属の酸化物やその塩、例えば硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物などの水溶液を用意して、スプレー法、浸漬などによる含浸法や、イオン交換法等により担持する。担持処理と乾燥処理を繰り返すことにより、より多くの金属成分を担持することができる。
【0052】
例えば、担体に第6族の金属成分を含有した水溶液を含浸させた後、常温〜150℃、好ましくは100〜130℃で0.5時間以上乾燥させるか、或いは乾燥させることなくそのまま第8族の金属成分を含有した水溶液を含浸させ、常温〜150℃、好ましくは100〜130℃で0.5時間以上乾燥させた後、350〜800℃、好ましくは450〜600℃で0.5時間以上焼成することにより触媒を調製することができる。
【0053】
本発明の触媒に担持された第6族及び第8族の金属は、金属、酸化物、硫化物などの何れの形態であってもよい。
【0054】
[水素化分解触媒及び担体の機械的強度]
水素化分解触媒の機械的強度は高いほど好ましく、例えば直径1.6mmの円柱ペレットの側面圧壊強度として3kg以上が好ましく、より好ましくは4kg以上である。また、成形担体を作製した後、金属成分を含浸担持して触媒を作製する場合においては、歩留りよく触媒を製造するために成形担体についても十分な機械的強度を有することが好ましい。具体的には、本発明における成形担体の機械的強度としては、同様に直径1.6mmの円柱ペレットの側面圧壊強度として3kg以上が好ましく、より好ましくは4kg以上である。
【0055】
触媒のバルク密度は、0.4g/cm以上2.0g/cm未満が好ましく、より好ましくは0.5g/cm以上1.5g/cm未満、特に好ましくは0.6g/cm以上1.2g/cm未満である。
【0056】
[水素化分解生成油の性状]
水素化分解工程において、生成した水素化分解生成油は、テトラリン類とインダン類の和が5.0容量%未満、好ましくは4.0容量%未満、特に好ましくは3.5容量%未満であり、2環以上の芳香環を有する炭化水素が1.0容量%未満、好ましくは0.5容量%未満、特に好ましくは0.3容量%未満である。また、沸点70℃以上の留分に占めるアルキルベンゼン類の割合が80容量%以上、好ましくは85容量%以上、特に好ましくは90容量%以上である。なお、反応液収率は、原料油を100とした場合の容量%で表し、分解反応では大量のガスを副生するため100容量%より小さくなることが多いが、ガス生成が抑えられ核水添やガス生成を伴わない選択的な分解が優先的に起こる場合は、100容量%を超えることもある。
【0057】
[後処理工程]
本発明において、前処理工程と同様、必要に応じて得られた水素化分解生成油を精製する後処理工程を設置することも可能である。後処理工程は特に限定されるものではないが、前処理工程と同様の触媒種、触媒量及び操作条件を設定することができる。後処理工程は、水素化分解工程直後に設置して水素化分解生成油を処理しても良いし、そのあとの分離工程の後に設置して分離された各炭化水素留分を個々に処理しても良い。この後処理工程の設置により製品中の不純物を大幅に低減することができ、例えば硫黄分や窒素分を0.1重量ppm以下にすることも可能である。
【0058】
[水素化分解生成油の分離方法]
得られた水素化分解生成油は、複雑な抽出工程が不要であり、簡便な蒸留操作のみにより。高濃度のBTXおよびアルキルベンゼン類を得ることができる。
【0059】
蒸留は沸点の差を利用して、軽質油(揮発成分)と重質油(芳香族リッチ成分)に分離するものであるが、本発明の水素化分解生成油は、重質な非芳香族炭化水素が効率的に分解され軽質化されているため、重質分が存在しておらず、例えば70℃で軽質分を留去させると、残渣分は80%以上が芳香族炭化水素となることが特徴である。
【0060】
[製品炭化水素]
本発明で得られる炭化水素製品としては、沸点−10〜30℃のLPG留分、沸点30〜70℃のガソリン留分、及び以上の留分を分離した後に残った1環芳香族炭化水素である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の炭化水素留分の製造方法を、実施例及び比較例を用いて詳細且つ具体的に説明する。
【0062】
[水素化分解触媒の調製]
SiO/Al比が30.6、比表面積が400m/gであるNH−ZSM−5型ゼオライト(Zeolyst製CBV3020E)1,533g、アルミナ粉末(UOP社製アルミナVersal 250)834g、4.0重量%の希硝酸溶液500mL、イオン交換水100gを添加して混練し、円柱状(ペレット)に押し出し成形し、130℃で6時間乾燥した後、600℃で2時間焼成して担体とした。なお、担体中に含まれるゼオライトおよびアルミナの乾燥重量(130℃乾燥時)が、それぞれ70重量%、30重量%になるように設定した。
この担体に、モリブデン酸アンモニウム水溶液をスプレー含浸して130℃で6時間乾燥した後、硝酸ニッケル水溶液をスプレー含浸して130℃で6時間乾燥した。次いで、空気の気流下で、500℃で30分間焼成して触媒Aを得た。触媒Aの組成(担持金属含有量)と代表的物性を表1に示す。
この触媒Aの細孔特性を窒素ガス吸着法で測定したところ、比表面積が280m/g、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積が0.279mL/g、中央細孔直径は5.9nmであった。
【0063】
上記触媒物性測定において使用した測定装置及び方法を以下に示す。
【0064】
[細孔特性の測定方法]
窒素ガス吸着法による細孔特性(比表面積、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積、中央細孔直径)の測定にはMicromeritics社製ASAP2400型測定器を用いた。
【0065】
[酸強度の測定方法]
試料約10mgの試料を直径10mmの円盤状に圧縮成形し、in−situ赤外セルにセットし、酸素40kPa(300Torr)の中で昇温し、500℃で1時間保ち、500℃のまま15分間真空脱気し、真空を保ったまま100℃まで降温した後に82μmol/s (標準状態の容積で120cm/min)のHeを流通させて系内を3.33kPa (25Torr)に保ち、10℃/minの速度で500℃まで昇温し、昇温中にIRスペクトルを10℃に1回測定した。続いて100℃でアンモニア133kPaを導入し30分間保ち、30分間脱気後に吸着前と同じ条件でHeを流通させて昇温し、IRスペクトルおよびMSスペクトルを測定した。測定後に既知量のアンモニアを質量分析計に送り、MSスペクトルの補正を行なった。アンモニアの変角振動によりブレンステッド酸(1430cm−1)とルイス酸(1330cm−1)の酸量をそれぞれ定量し、両酸点から脱離するアンモニアの温度依存性からそれぞれの酸強度分布を求め、得られた分布のうちブレンステッド酸の強酸側ピークを読み取り、それを最高酸強度とした。
【0066】
【表1】

【0067】
(実施例1〜2、比較例1)
原料油として原料油A(テトラリン44容量%、ノルマルドデカン56容量%の混合物:硫黄含有量1重量ppm未満、窒素含有量0.5重量ppm未満)を用い、表2に示すとおり反応圧力3.0MPa、LHSV1.0h−1、水素/原料油比=1,365NL/L、反応温度300〜350の条件下で、水素化分解反応を行った。その結果得られた生成油の性状を表2に示す。
【0068】
反応液収率は、反応後における炭素数5以上の留分の残存率(容量%)とした。
【0069】
【表2】

【0070】
(比較例2〜4)
SiO/Al比が6.9、比表面積が697m/gであるNH−Y型ゼオライト(東ソー製HSZ−341NHA)を1,684g、アルミナ粉末(UOP社製アルミナVersal 250)834g、4.0重量%の希硝酸溶液500mL、イオン交換水50gを使用した以外、触媒Aと同様の方法で触媒Bを得た。触媒Bの性状を表1に示す。
【0071】
比較例2〜4の水素化分解を、表3に示すとおり、触媒Aの代わりに触媒Bを使用した以外は、それぞれ実施例1〜2および比較例1と同様の条件で行った。その結果得られた生成油の性状等を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
(比較例5〜7)
SiO/Al比が39.6、比表面積が746m/gであるH−β型ゼオライト(東ソー製HSZ−940HOA)1,400gをアルミナ粉末(UOP社製アルミナVersal 250)834gと混合し、4.0重量%の希硝酸溶液500mL、イオン交換水100gを使用した以外は、触媒Aと同様の方法で触媒Cを得た。触媒Cの性状を表1に示す。
【0074】
比較例5〜7の水素化分解を、表4に示すとおり、触媒Aの代わりに触媒Cを使用した以外は、それぞれ実施例1〜2および比較例1と同様の条件で行った。その結果得られた生成油の性状等を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
表2〜4に示したとおり、実施例1〜2から明らかなように特定の原料油を適切な水素化分解触媒を使用して水素化分解することにより、従来から広く使用されてきた水素化分解触媒を使用した場合(比較例2〜7)と比較して、2環芳香族炭化水素から所望の1環芳香族炭化水素(アルキルベンゼン類)への変換が効率的に進行し、とりわけ付加価値の高いベンゼンやトルエンなどのBTX留分が高収率で得られ、簡便な蒸留分離のみで1環芳香族炭化水素を高濃度で得られることが分かる。
【0077】
上記の実施例及び比較例において使用した原料油及び生成油性状の分析方法は次のとおりである。
【0078】
1環芳香族炭化水素(アルキルベンゼン類)の組成(ベンゼン、トルエン、キシレン類)および1.5環芳香族炭化水素(テトラリン類など)の組成は、島津製作所製の炭化水素全成分分析装置を用いて測定し、JIS K2536に準じて算出した。
【0079】
芳香族化合物のタイプ分析(環分析)の測定は、石油学会法JPI−5S−49−97に従って、高速液体クロマトグラフ装置を使用し、移動相にはノルマルヘキサン、検出器にはRI法を用いて実施した。
【0080】
硫黄分の測定は、JIS K2541の硫黄分試験方法に従い、高濃度領域では蛍光X線法を、及び低濃度領域では微量電量滴定法を使用して行った。窒素分の測定は、JIS K2609の窒素分試験方法に従い、化学発光法を使用して行った。
【産業上の利用可能性】
【0081】
重質芳香族炭化水素から高効率でアルキルベンゼン類に変換する上で、従来から採用されてきた抽出等のエネルギー消費量の多い分離工程を不要にすることにより、簡便な蒸留のみの低エネルギー消費でアルキルベンゼン類を、特に、ベンゼン・トルエン・キシレン(BTX)を選択的に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数9以上の芳香族炭化水素の含有量が全芳香族炭化水素中に80容量%以上であり、2環芳香族炭化水素が30容量%未満、テトラリン類とインダン類の合計含有量が20容量%以上である原料炭化水素油の水素化分解において、ブレンステッド酸の最高酸強度が135kJ/mol以上である固体酸を含有する水素化分解触媒を用い、反応温度310℃以上400℃未満で処理させることにより、反応液収率30容量%以上で、生成油中の組成として、テトラリン類とインダン類の合計含有量が5.0容量%未満、2環以上の芳香環を有する炭化水素が1.0容量%未満、沸点70℃以上の留分に占めるアルキルベンゼン類の割合が80容量%以上の水素化分解生成油を得ることを特徴とするアルキルベンゼン類の製造方法。
【請求項2】
ベンゼン、トルエン及びキシレンの生成速度定数k(BTX)と、1環芳香族炭化水素の生成速度定数k(1RA)の比k(BTX)/k(1RA)が0.60以上である請求項1に記載のアルキルベンゼン類の製造方法。
【請求項3】
2環芳香族炭化水素が30容量%以上である原料炭化水素油を水素化処理して30容量%未満に低減した留分を原料に用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルキルベンゼン類の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアルキルベンゼン類の製造に用いる水素化分解触媒。

【公開番号】特開2010−235456(P2010−235456A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82483(P2009−82483)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】