説明

アルキルホスフェートを調製するための方法

【課題】アルキルホスフェートを調製するための方法を提供する。
【解決手段】本発明は、テトラクロロビスホスフェートをアルコールと反応させ、塩基を用いて生成した塩化水素を中和し、そしてその反応混合物から抽出によって所望の反応生成物を単離することによる、テトラアルキルビスホスフェートを調製するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラクロロビスホスフェートをアルコールと反応させ、塩基を用いて生成した塩化水素を中和し、そしてその反応混合物から抽出によって所望の反応生成物を単離することによる、テトラアルキルビスホスフェートを調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラアルキルビスホスフェートは低揮発性の粘稠な液状物であって、工業的な用途、たとえばポリマー添加物として((特許文献1)参照)または作動油として((特許文献2)参照)長い間使用されてきた。これらの用途のためには、典型的には、そのテトラアルキルビスホスフェートに可能な限りわずかしか不純物が含まないようにする必要がある。したがって、酸性の不純物(これは、たとえば、酸価を測定することによって求めることができる)を極端に少なくするべきであるが、その理由は、酸が分解や腐食を加速する可能性があるからである。約1.0mgKOH/gよりも高い酸価を有するテトラアルキルビスホスフェートは、先に述べた用途には使用することができない。酸の場合と同様に、塩基性を有する不純物も同様に望ましくないが、その理由は、使用中にそれらが触媒として、望ましくない方向に機能する可能性があるからである。さらに、電解質が存在することも望ましくないが、その理由は、それが同様に腐食の問題を起こしたり、テトラアルキルビスホスフェートとポリマーマトリックスとの間に不相溶性をもたらしたりする可能性があるからである。公知のクロマトグラフ法または分光学的方法によって測定して、約5000ppmを超えるレベルの金属イオンは望ましくない。
【0003】
テトラアルキルビスホスフェートを調製するための方法は各種知られている。しかしながら、それらには、上述のような不純物を防止したり除去したりするのに、コストや手間がかかり、工業的製造には不適切であるという欠陥を有している。さらに、公知の方法は、収率が不十分であり、そのために、技術的に高価で手間のかかる、利用されなかった原料または副生物の除去および廃棄が必要とされている。
【0004】
(特許文献1)には、ピリジンの存在下にジアルキルクロロホスフェートをジオールと反応させることによる、テトラアルキルビスホスフェートを調製するための方法が記載されている。合成シーケンスの第一段階で三塩化リン、アルコールおよび塩素から調製されるジアルキルクロロホスフェート中間体は、ベンゼン溶媒を用いて後処理をし、次いで減圧下に蒸留しなければならない。第二段階において、ジエチルエーテル溶媒を添加することによってその副生物であるピリジン塩酸塩を沈殿させなければならない。さらに、塩酸を用いてピリジンの残分を抽出しなければならず、次いで水酸化ナトリウム溶液を用いて、その生成物相を酸が無くなるまで洗浄し、次いで水を用いて中性になるまで洗浄しなければならない。最後に、溶媒および残存水分を蒸留除去することが必要である。その二つの段階での総合収率は、74%〜77%であると言われている。この方法の欠点は、多段の処理操作が必要であり、溶媒を複数使用し、中程度の収率しか得られないことである。
【0005】
文献の(非特許文献1)には、(特許文献1)に類似の方法が記載されており、この方法の欠点は、わずか50%と収率が極めて低いこと、ならびに中間体および最終反応生成物の精製にかなりの困難がともなうことであると言及している。より良好な方法が代替え法として記述されているが、そこでは、第一段階においてジオールをオキシ塩化リンと反応させてテトラクロロビスホスフェートを形成させ、次いで第二段階においてそれを、アルコールと反応させて、最終反応生成物を形成させる。その収率は満足のいくものであると書かれているが、実際の数値が引用されていない。第二段階からの反応混合物を後処理するために、ピリジンを添加し、沈殿したピリジン塩酸塩を吸引濾過し、次いで水を用いてその反応生成物相を洗浄する。最後に、減圧下にピリジンを除去しなければならない。
【0006】
この手順の欠点は、第一に、その最終反応生成物から残存ピリジンを完全に除去するのが困難なことである。濾過によってテトラアルキルビスホスフェートからピリジン塩酸塩を満足のいく程度に除去することが達成されるのは、テトラアルキルビスホスフェートの中へのその溶解度が低いときに限られる。水を用いてその生成物相を洗浄するということから、さらなる欠点が生じる。そのテトラアルキルビスホスフェートが水と部分的な混和性があるならば、この操作の間に収率が低下することは避けられない。テトラアルキルビスホスフェートが水と任意の比率で混和することが可能であるような場合には、この洗浄は完全に失敗するが、その理由は、生成物を洗浄水から相分離法によって分離することが不可能であるからである。
【0007】
(特許文献2)が、テトラアルキルビスホスフェートを調製するための類似の方法を提案しているが、そこでもやはり、第一段階においてジオールをオキシ塩化リンと反応させてテトラクロロビスホスフェートを形成させ、第二段階においてそれをアルコールと反応させて最終反応生成物を形成させている。最終反応生成物の単離においては、ピリジンに代えて、希水酸化ナトリウム溶液を使用している。混合物が形成されるので、相分離によってそれから液状の生成物相を単離することができる。蒸留によって、その生成物相から過剰のアルコールを除去したら、その生成物は、この場合もまた、水を用いて洗浄し、最終的には減圧下に残存水分を除去しなければならない。テトラアルキルビスホスフェートの収率は、12%〜74%である。
【0008】
この方法の欠点は、この場合もまた、中程度の収率しか得られず、また、この方法には数回の液−液相分離が含まれているという事実にある。したがって、その方法は、部分的に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートを調製するにはほとんど適しておらず、そして完全に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートを調製するにはまったく適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第2,782,128号明細書
【特許文献2】米国特許第4,056,480号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「Diphosphate Ester Plasticizers」、Indust.Eng.Chem.,1950,Volume 42,p.488
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来技術よりも実施が容易であり、かつより高い収率が得られる、完全にまたは部分的に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートを調製するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことには、テトラクロロビスホスフェートとアルコールとの反応において生成する塩化水素を、塩基を用いて中和し、その水性反応混合物から所望の生成物を抽出によって単離すれば、容易かつ高収率で、完全にまたは部分的に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートを調製することが可能であるということが見出された。したがって、前記の目的は、完全にまたは部分的に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートを調製するための方法の手段によって達成されるが、その特徴とするところは、次の通りである:
a)テトラクロロビスホスフェートを、1種または複数のアルコールと反応させ、
b)工程a)において、テトラクロロビスホスフェート中に存在しているP−Cl基の少なくとも50%が反応したときに、工程a)からの反応混合物を、式(Catn+(Xm−(ここでCatn+は、電荷nを有するカチオンであり、Xm−は電荷mを有するアニオンであり、aおよびbは、n×a=m×bの条件を満たす整数である)の1種または複数の物質を含む塩基と反応させ、
c)工程b)からの反応混合物に水を添加し、
d)次いで、工程a)において使用した(1種または複数の)アルコールとは異なっていて、水と完全には混和はしない溶媒を、工程c)からの反応混合物に添加して、2相の分離した液相からなる混合物を形成させ、そして
e)工程d)で得られた混合物から、テトラアルキルビスホスフェートを含む相を単離する。
【0013】
式(Catn+(Xm−において、好ましくは、
nが、1、2または3を表し、
mが、1、2または3を表し、
aが、1、2または3を表し、
そして
bが、1、2または3を表す。
【0014】
一つの好ましい実施態様においては、工程b)において使用される塩基が、式(Catn+(Xm−の1種または複数の物質からなっている。「テトラアルキルビスホスフェート」という用語は、1分子あたり2個のリン酸エステル基−O−P(=O)(OR)を含む有機物質に相当しているが、ここでRは一般的にはアルキル基を表しており、一つの分子中に存在しているアルキル基Rは、同一であっても異なっていてもよい。「完全にまたは部分的に水溶性の」という用語は、本発明の関連においては、25℃の水の中への溶解度が、約1重量パーセントよりも高い物質に相当している。「テトラクロロビスホスフェート」という用語は、1分子あたり2個のリン酸エステルジクロリド、−O−P(=O)Clを含む有機物質に相当している。
【0015】
本発明の方法において使用されるテトラクロロビスホスフェートは、たとえば、Indust.Eng.Chem.,1950,Volume 42,p.488または米国特許第4,056,480号明細書に記載されているような公知の方法によって調製することができる。
【0016】
本発明の方法において使用するテトラクロロビスホスフェートは、一般式(I)
【化1】

[式中、
Aは、直鎖状、分岐状および/または環状のC〜C20アルキレン基、残基−CH−CH=CH−CH−、残基−CH−C≡C−CH−、残基−CHR−CHR−(O−CHR−CHR−(ここで、aは1〜5の数)、残基−CHR−CHR−S(O)−CHR−CHR−(ここで、bは0〜2の数)、または残基−(CHR−CHR−O−R−O−(CHR−CHR−(ここで、cおよびdは互いに独立して、1〜5の数)であり、
、R、R、Rは互いに独立して、Hまたはメチルであり、
は、残基−CH−CH=CH−CH−、残基−CH−C≡C−CH−、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、一般式(II)の基、
【化2】

一般式(III)の基、
【化3】

一般式(IV)の基、
【化4】

または、式−C(=O)−R12−C(=O)−の基であり、
10およびR11は互いに独立して、HもしくはC〜Cアルキルであるか、またはR10とR11とが合体して、場合によってはアルキル−置換された4〜8個のC原子を有する環を形成し、そして
12は、直鎖状、分岐状および/または環状のC〜Cアルキレン基、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、または1,4−フェニレン基である。]
に相当しているのが好ましい。
【0017】
好ましくはAが、直鎖状のC〜Cアルキレン基であるか、または好ましくはAが、R10およびR11が同一であってメチルである一般式(III)の残基、式(V)、(VI)もしくは(VII)の残基であるか、
【化5】

または好ましくはAが、残基−CHR−CHR−(O−CHR−CHR−(ここで、aは、1〜2の数であり、R、R、RおよびRは同一であってHである)であるか、または好ましくはAが、残基−(CHR−CHR−O−R−O−(CHR−CHR−(ここで、cおよびdは互いに独立して1〜2の数であり、Rは一般式(II)の残基であり、そしてR10およびR11は同一であって、メチルである)である。
【0018】
Aが、−CHCH−O−CHCH−、−CHCHCHCH−、および−CH−CH(CHCHCH−CH−からなる群から選択される基であれば特に好ましい。
【0019】
本発明の方法において使用するアルコールは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、および2−ブタノールからなる群から選択するのが好ましい。メタノールおよびエタノールを使用するのが特に好ましい。
【0020】
本発明の方法において使用する式(Catn+(Xm−の塩基は、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、またはアルカリ土類金属塩であるのが好ましい。これらの塩を構成するアニオンは、水酸化物、アルコキシド、酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、または酢酸塩であるのが好ましい。特に好ましいのは以下のものである:水酸化アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カリウム、カリウムtert−ブトキシド、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、カルシウムメトキシド、または酸化カルシウム。水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、または炭酸水素カリウムを採用するのが、さらに特に好ましい。
【0021】
本発明の方法の工程a)は、1モル当量のテトラクロロビスホスフェートあたり、少なくとも4モル当量のアルコールを使用して実施する。それらの反応剤は、バルク状態または溶媒中の溶液状態で、相互に反応させることができる。好適な溶媒は、トルエン、ヘプタン、およびジクロロメタン、ならびに反応の中で過剰に使用されているアルコールである。反応容器の中にテトラクロロビスホスフェートを導入し、アルコールを計量仕込みする。別な方法としては、反応容器の中にアルコールを導入し、テトラクロロビスホスフェートを計量仕込みする。反応容器の中にアルコールとテトラクロロビスホスフェートとを平行して計量仕込みすることもまた可能である。純粋な反応剤に代えて、それらの反応剤の溶液を計量仕込みすることもできる。
【0022】
次いで進行するその反応においては、テトラクロロビスホスフェートのP−Cl基がアルコールとの反応によって変換されて、P−OR基となり、塩化水素が発生する。
【0023】
その反応は、−10℃〜+70℃の間の温度と10〜6000mbarの間の圧力下で実施するのが好ましい。反応剤は、適切な手段、より好ましくは撹拌によって、この手順で相互に接触させる。
【0024】
反応において生成する副生物の塩化水素は、その反応混合物の中に実質的に残存させ、本方法の工程b)において塩基を用いて中和させるのが好ましい。本方法の、また別な同様に好ましい実施態様においては、工程a)における副生物として生成した塩化水素を、その反応容器から少なくとも部分的に循環除去する。この操作は、たとえば、真空をかけるか、または反応容器の中に窒素または二酸化炭素のような不活性ガスを通過させることによって実施する。
【0025】
一つのまた別な実施態様においては、工程a)にさらに、任意の分離操作、たとえば未反応のアルコールを除去するための蒸留のようなものを含んでいてもよい。
【0026】
工程a)において、テトラクロロビスホスフェート中に存在していたP−Cl基の少なくとも50%が反応してしまってから、それに続く工程b)の実施を開始する。P−Cl基の変換率は、分析的に、好ましくは31P−NMR分光法によってモニターすることができる。
【0027】
工程b)を実施するには、工程a)において得られた反応混合物を塩基と、好ましくは完全混合下で接触させる。塩基の量を選択して、工程b)の後の反応混合物が好ましくは6〜11の間のpHを有するようにする。工程b)の後の反応混合物が、7〜10の間のpHを有しているのが好ましい。
【0028】
工程a)の反応容器の中に、塩基を計量可能な形で導入するのが好ましい。同様に好ましい別な方法では、適切な形態にある塩基を、第二の反応容器に導入しておいて、工程a)からの反応混合物をその容器に移し込む。
【0029】
適切かつ好ましい計量可能な塩基の形態は、たとえば、粉体、顆粒、溶液、または分散液である。本方法の一つの特に好ましい実施態様では、水性の溶液または分散液の形態の塩基を使用する。10重量%〜60重量%強度の、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、および/または炭酸カリウムの水溶液を使用するのが、極めて特に好ましい。
【0030】
本方法のまた別な同様に好ましい実施態様では、0.1μm〜2000μmの平均粒径を有する粉体の形態の塩基を使用する。この場合、粉体状の炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、および/または炭酸水素カリウムを使用するのが、特に好ましい。
【0031】
工程b)は、5℃〜70℃の間の温度と10〜6000mbarの間の圧力下で実施するのが好ましい。
【0032】
工程b)には、任意の分離操作、好ましくは工程a)からの未反応のアルコールを除去するための蒸留が含まれていてもよい。
【0033】
本発明の方法の工程c)においては、工程b)において得られた反応混合物に水を添加し、そうして得られた混合物を適切な方法で完全に混合する。その結果、塩のCatClが水溶液の中に転化され、固形分がすべて実質的に溶解する。水の添加は、工程b)そのものの中に水を、水溶液または分散液の形態で導入することによって実施してもよい。
【0034】
工程c)は、5℃〜70℃の間の温度と10〜6000mbarの間の圧力下で実施するのが好ましい。
【0035】
工程c)にはさらに、任意の分離操作、好ましくは水不溶性の固形分を除去するための濾過、または工程a)からの未反応のアルコールを除去するための蒸留が含まれていてもよい。
【0036】
工程d)においては、工程a)において使用した(1種または複数の)アルコールとは異なり、水とは完全に混和しない溶媒を添加する。2種以上の溶媒を組み合わせて採用することもまた可能である。溶媒は、好ましくは、以下のものからなる群から選択する:脂肪族炭化水素類、より詳しくはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、芳香族炭化水素類、より詳しくはベンゼン、トルエン、キシレン、ハロ炭化水素類、より詳しくは塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、アルコール類、より詳しくは1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、エーテル類、より詳しくはジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、ジブチルエーテル、ケトン類、より詳しくは2−ブタノン、3−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノン、シクロヘキサノン、またはエステル類、より詳しくは酢酸エチル、酢酸1−ブチル、酢酸1−ペンチル。
【0037】
工程c)における水および工程d)における溶媒の精密な量は、相分離を達成させる目的では、厳密なものではない。水および溶媒の必要量は、簡単な試験によって容易に求めることができる。工程c)における水の量および工程d)における溶媒の量は、水相対有機相の容積比が、(20:1)から(1:20)までの間になるように選択するのが好ましい。水相対有機相の容積比が(10:1)から(1:10)までの間になるように、それらの量を選択するのが特に好ましい。
【0038】
本発明の方法の工程e)においては、工程d)において得られた2相を分離し、テトラアルキルビスホスフェートを含む相を、慣用される方法により後処理する。
【0039】
生成物相を単離するためには、液−液混合物を分離するために慣用される方法、好ましくはデカント法または遠心分離法を採用する。単離した生成物相を、好ましくは、さらなる1種の相分離もしくは複数の相分離にかけることも可能であり、必要であれば、それに続く精製、好ましくは濾過、清澄化、抽出、蒸留もしくは乾燥、またはこれらの方法を適宜組み合わせた方法にかけることもできる。
【0040】
本発明の方法の工程b)、c)およびd)は、いかなる順序でも、また連続的もしくは完全にまたは部分的に同時に実施する。
【0041】
工程d)およびe)を連続的に繰り返して実施するのが好ましい。
【0042】
本発明の方法は、完全に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートを調製するのに使用するのが好ましい。
【0043】
この方法の四つの工程のいずれも、不連続的にでもあるいは連続的にでも、実施することができる。この方法全体を、連続的または不連続的に実施する工程を、各種望むように組み合わせて構成してよい。
【0044】
本発明の方法によれば、完全にまたは部分的に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートを、公知の方法よりも高収率、かつ高純度で合成することが可能となる。
【0045】
以下の実施例を使用して本発明をさらに詳しく説明するが、それらによって本発明を限定するということはまったく意図していない。使用されている「部」は、重量部である。明確を期するために言えば、本発明の範囲には、先に、一般的、好ましい範囲、各種所望の組合せとして示した、すべてのパラメーターおよび定義が包含される。
【実施例】
【0046】
実施例1:ジエチレングリコールビス(ジクロロホスフェート)の調製(本発明実施例ではない)
スターラー、温度計、圧力補償つき滴下ロートおよび還流冷却器を備えた1000mLの四口フラスコに、984.3gの塩化ホスホリルを20℃で仕込んだ。次いで約670mbarの真空をかけ、332.3gのジエチレングリコールを、滴下により4時間かけて添加した。氷水浴中で冷却して、温度を20℃に維持した。透明で無色の反応混合物が生成した。計量添加が終了してから、圧力を下げて約6mbarとし、25℃で16時間撹拌を続けた。これにより、1055.7g(98%)のジエチレングリコールビス(ジクロロホスフェート)が得られた。
【0047】
実施例2:テトラエチルジエチレングリコールビスホスフェートの調製(本発明実施例)
スターラー、温度計、圧力補償つき滴下ロートおよび還流冷却器を備えた1000mLの四口フラスコに、窒素雰囲気下で、169.8gの実施例1からのジエチレングリコールビス(ジクロロホスフェート)を仕込み、この最初の仕込み物を冷却して10℃とした。この温度で、350mLのエタノールを、滴下により50分かけて添加した。温度を10〜15℃に維持するために、粒状ドライアイスを加えた。次いで、その無色の溶液を、15℃で1時間、さらに23℃で2時間撹拌した。次いで、その無色で透明な合成溶液を、340mLの水と155gの50%強度の水酸化ナトリウム溶液との混合物に、2時間かけて滴下して混合した。氷水浴中で冷却して、温度を20℃に維持した。次いでその混合物を、23℃で16時間撹拌し、次いで、100mLのジクロロメタンを用いて4回抽出した。抽出した溶液を合わせ、ロータリーエバポレーター上で減圧下に濃縮した。最後に、ブフナーロートで反応生成物を濾過した。
収量:172.2g(91%)無色の液体
酸価:<0.1mgKOH/g
ナトリウム含量:1178ppm
【0048】
実施例3:テトラエチルジエチレングリコールビスホスフェートの調製(本発明実施例)
1000mLの四口フラスコに、N下に、169.8gの実施例1からのジエチレングリコールビス(ジクロロホスフェート)を5℃で仕込んだ。この温度で、滴下により50分かけて、276.4gのエタノールを添加した。その反応混合物は、発熱反応を示した。氷水浴を使用して、反応混合物の温度を10℃に維持した。次いで、その透明でわずかに橙褐色の溶液を、10℃で2時間撹拌してから、温めて20℃とし、さらに18時間撹拌した。2Lのガラスビーカーに、340mLの完全に脱イオンした水を仕込み、撹拌しながら155gの50%強度の水酸化ナトリウム溶液を添加した。その混合物を冷却して23℃とした。次いで、上述の合成溶液を2時間かけて計量仕込みすると、わずかなミストの発生がともなった。外部冷却の手段によって、温度は23℃に維持した。やや黄色の混合物は、透明で単一相であったが、このものは、最後になってもまだ酸性であった。少量の20%強度の炭酸ナトリウム水溶液を使用してそのpHを7.5に調節してから、100mLの塩化メチレンを用いて振盪することにより4回抽出した。やや黄色の、濁った有機相を合わせて、ロータリーエバポレーター上で減圧下に濃縮した。生成物を清澄化させるために、最後に、円形濾紙の上で吸引濾過も行った。
収量:159.3g(84%)やや黄色の液体
酸価:<0.1mgKOH/g
ナトリウム含量:1794ppm
【0049】
実施例4:テトラエチルジエチレングリコールビスホスフェートの調製(本発明実施例)
スターラー、温度計、圧力補償つき滴下ロートおよび還流冷却器を備えた1000mLの四口フラスコに、窒素雰囲気下で、169.8gの実施例1からのジエチレングリコールビス(ジクロロホスフェート)を仕込み、この最初の仕込み物を冷却して10℃とした。この温度で、350mLのエタノールを、滴下により50分かけて添加した。温度を10〜15℃に維持するために、粒状ドライアイスを加えた。次いで、その無色の溶液を、15℃で1時間、さらに20℃で2時間撹拌した。次いで、その合成溶液を、340mLの水と155gの50%強度の水酸化ナトリウム溶液との混合物に、2時間かけて滴下して混合した。氷水浴中で冷却して、温度を20℃に維持した。次いでその混合物を、23℃で16時間撹拌し、次いで、100mLのトルエンを用いて4回抽出した。抽出した溶液を合わせ、ロータリーエバポレーター上で減圧下に濃縮した。最後に、円形濾紙の上で生成物の吸引濾過を行った。
収量:169.2g(89%)無色の液体
酸価:<0.1mgKOH/g
ナトリウム含量:1546ppm
【0050】
実施例5:テトラエチルジエチレングリコールビスホスフェートの調製(本発明実施例)
スターラー、温度計、圧力補償つき滴下ロートおよび還流冷却器を備えた1000mLの四口フラスコに、窒素雰囲気下で350mLのエタノールを仕込み、この最初の仕込み物を冷却して15℃とした。この温度で、169.8gの実施例1からのジエチレングリコールビス(ジクロロホスフェート)を滴下により35分かけて添加した。外部冷却により、温度を15〜20℃に維持した。次いで、その無色の溶液を、20℃で4時間撹拌した。次いで、無色の透明なその合成溶液を冷却して15℃とし、192.1gの50%強度水酸化ナトリウム溶液を40分かけて添加することによりpHを2に調節した。この間も、氷水浴の中で冷却して、温度20〜25℃に維持した。数mLの10%強度水酸化ナトリウム溶液を添加して、pHを8.5に設定した。そうして得られた混合物を、23℃で16時間撹拌してから、ロータリーエバポレーター上、20mbar、50℃で減圧下に濃縮した。得られた残留物を、400mLの水と混合し、30分撹拌してから、100mLのジクロロメタンを用いて3回抽出した。抽出した溶液を合わせ、ロータリーエバポレーター上で減圧下に濃縮した。この濃縮プロセスで残った残渣を濾過した。
収量:172.9g(91%)無色の液体
酸価:<0.1mgKOH/g
ナトリウム含量:530ppm
【0051】
実施例6:テトラメチルジエチレングリコールビスホスフェートの調製(本発明実施例)
実施例2に示した方法を使用して、250mLのメタノールと169.8gの実施例1からのジエチレングリコールビス(ジクロロホスフェート)とから、テトラメチルジエチレングリコールビスホスフェートを調製した。
収量:145.1g(90%)無色の液体
酸価:<0.1mgKOH/g
ナトリウム含量:1254ppm
【0052】
実施例7:テトラ−n−ブチルジエチレングリコールビスホスフェートの調製(本発明実施例)
実施例2に示した方法を使用して、600mLのn−ブタノールと169.8gの実施例1からのジエチレングリコールビス(ジクロロホスフェート)とから、テトラ−n−ブチルジエチレングリコールビスホスフェートを調製した。
収量:217.8g(89%)無色の液体
酸価:<0.1mgKOH/g
ナトリウム含量:1935ppm
【0053】
実施例8:1,4−ブタンジオールビス(ジクロロホスフェート)の調製(本発明実施例ではない)
スターラー、温度計、圧力補償つき滴下ロートおよび還流冷却器を備えた500mLの四口フラスコに、300.0gの塩化ホスホリルを20℃で仕込んだ。次いで、200mbarの真空をかけ、45.0gの1,4−ブタンジオールを滴下により45分かけて添加した。氷水浴中で冷却して、温度を20℃に維持した。透明で無色の反応混合物が生成した。計量添加が終了してから、圧力を下げて約100mbarとし、撹拌を2時間続けた。次いで、蒸留ブリッジを取り付けて、過剰の塩化ホスホリルを蒸留によって除去した。これにより、144.9g(91%)の1,4−ブタンジオールビス(ジクロロホスフェート)が得られた。
【0054】
実施例9:テトラエチル−1,4−ブタンジオールビスホスフェートの調製(本発明実施例)
実施例2に示した方法を用いて、350mLのエタノールと161.8gの実施例7からの1,4−ブタンジオールビス(ジクロロホスフェート)とから、テトラエチル−1,4−ブタンジオールビスホスフェートを調製した。
収量:160.2g(88%)無色の液体
酸価:0.13mgKOH/g
ナトリウム含量:1085ppm
【0055】
実施例10:テトラアルキルビスホスフェートの水中への溶解性(本発明実施例)
分液ロートに50.0gのテトラアルキルビスホスフェートと50.0gの完全に脱イオンした水とを仕込み、激しく振盪させてから、周囲温度25℃で1時間静置させた。はっきりと相分離したら、その下側の水相を注意深く分離し、秤量した(m)。その水相を、ロータリーエバポレーター上で減圧下に、恒量になるまで濃縮し、その残渣を同様に秤量した(m)。水中への溶解性の尺度として、可変量のm/m×100%を計算したものを表1に列記した。
【0056】
テトラメチルジエチレングリコールビスホスフェートおよびテトラエチルジエチレングリコールビスホスフェートの物質では、上述の実験では相分離が起きなかった。テトラアルキルビスホスフェートと水の重量比を変化させた同様のさらなる実験でも、これらの物質では相分離は起きなかった。このことは、テトラメチルジエチレングリコールビスホスフェートおよびテトラエチルジエチレングリコールビスホスフェートが完全に水溶性であることを意味している。
【0057】
【表1】

【0058】
評価
実施例10は、考慮の対象となっているテトラアルキルビスホスフェートが、水と完全にまたは部分的に混和性であることを示している。したがって、これらの物質は、従来技術からの調製方法においては、極めて低い収率でしか得られないか、またはまったく得ることができない。実施例2〜7および9は、本発明の方法によれば、テトラアルキルビスホスフェートが極めて容易、かつ高収率で調製できることを示している。この場合には、酸価およびナトリウム含量が低いことから判るように、高純度の反応生成物が得られる。特に部分的または完全に水溶性であるテトラアルキルビスホスフェートの場合においても、満足のいくレベルで調製することが可能であるというのは、驚くべきことである。
【0059】
本発明における意味合いにおいては、完全に脱イオン化された水は、0.1〜10μsの導電率を有していて、溶解または非溶解の、Fe、Co、Ni、Mo、CrおよびCuの金属イオンの量が個々の成分としては1ppm以下、好ましくは0.5ppm以下であり、上述の金属を合計したものが10ppm以下、好ましくは1ppm以下であることを特徴としている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全にまたは部分的に水溶性のテトラアルキルビスホスフェートを調製するための方法であって、
a)テトラクロロビスホスフェートを、1種または複数のアルコールと反応させ、
b)工程a)において、前記テトラクロロビスホスフェート中に存在しているP−Cl基の少なくとも50%が反応したときに、工程a)からの反応混合物を、式(Catn+(Xm−(ここでCatn+は、電荷nを有するカチオンであり、Xm−は電荷mを有するアニオンであり、aおよびbは、n×a=m×bの条件を満たす整数である)の1種または複数の物質を含む塩基と反応させ、
c)工程b)からの反応混合物に水を添加し、
d)次いで、工程a)において使用した(1種または複数の)アルコールとは異なっていて、水と完全には混和はしない溶媒を、工程c)からの反応混合物に添加して、2相の分離した液相からなる混合物を形成させ、そして
e)工程d)で得られた混合物から、前記テトラアルキルビスホスフェートを含む相を単離する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記テトラクロロビスホスフェートが、一般式(I)
【化1】

[式中、
Aは、直鎖状、分岐状および/または環状のC〜C20アルキレン基、残基−CH−CH=CH−CH−、残基−CH−C≡C−CH−、残基−CHR−CHR−(O−CHR−CHR−(ここで、aは1〜5の数)、残基−CHR−CHR−S(O)−CHR−CHR−(ここで、bは0〜2の数)、または残基−(CHR−CHR−O−R−O−(CHR−CHR−(ここで、cおよびdは互いに独立して、1〜5の数)であり、
、R、R、Rは互いに独立して、Hまたはメチルであり、
は、残基−CH−CH=CH−CH−、残基−CH−C≡C−CH−、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、一般式(II)の基、
【化2】

一般式(III)の基、
【化3】

一般式(IV)の基、
【化4】

または、式−C(=O)−R12−C(=O)−の基であり、
10およびR11は互いに独立して、HもしくはC〜Cアルキルであるか、またはR10とR11とが合体して、場合によってはアルキル−置換された4〜8個のC原子を有する環を形成し、そして
12は、直鎖状、分岐状および/または環状のC〜Cアルキレン基、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、または1,4−フェニレン基である。]
の物質であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Aが、直鎖状のC〜Cアルキレン基、R10およびR11が同一であってメチルである一般式(III)の残基、式(V)、(VI)もしくは(VII)の残基、
【化5】

残基−CHR−CHR−(O−CHR−CHR−(ここで、aは、1〜2の数であり、R、R、RおよびRは同一であってHである)、残基−(CHR−CHR−O−R−O−(CHR−CHR−(ここで、cおよびdは互いに独立して1〜2の数であり、Rは一般式(II)の残基であり、そしてR10およびR11は同一であって、メチルである)
であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Aが、−CHCH−O−CHCH−、−CHCHCHCH−、および−CH−CH(CHCHCH−CH−からなる群から選択される基であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記(1種または複数の)アルコールが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、および2−ブタノールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記(1種または複数の)アルコールが、メタノールおよびエタノールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
Catn+が、場合によっては置換されたアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンであり、Xm−が、水酸化物、アルコキシド、酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、または酢酸塩であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程b)の後における反応混合物が、6〜11の間のpHを有するように、前記塩基の量を選択することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基が、水性の溶液または分散液の形態で使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
塩基として、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムおよび/または炭酸カリウムの10重量%〜60重量%強度水溶液を使用することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記塩基を、0.1μm〜2000μmの平均粒径を有する粉体の形態で使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
塩基として、粉体状の炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムおよび/または炭酸水素カリウムを使用することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロ炭化水素、アルコール、エーテル、ケトン、およびエステルからなる群からの1種または複数の溶媒を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
工程b)、c)およびd)を、その順序を問わず、連続的に実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
工程b)、c)およびd)を、完全にまたは部分的に同時に実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
工程d)およびe)を、連続的に繰り返して実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
工程a)〜e)の内の少なくとも一つの工程を、不連続的に実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
工程a)〜e)の内の少なくとも一つの工程を、連続的に実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記テトラアルキルビスホスフェートが完全に水溶性であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2012−149065(P2012−149065A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−5988(P2012−5988)
【出願日】平成24年1月16日(2012.1.16)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】