説明

アルキル化芳香族化合物の製造方法およびフェノールの製造方法

【課題】芳香族化合物とケトンと水素とを直接反応させ、効率良くアルキル化芳香族化合物(たとえばクメン)を製造するための方法の提供と、該方法によって得たクメンを使用したフェノールの製造方法の提供。
【解決手段】芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を、特定の成分からなる上流側の触媒層および特定の成分からなる下流側の触媒層を形成するように触媒が充填された断熱式固定床反応器中で、上流側、下流側の触媒層の温度を制御することにより、極めて高いケトン転化率・アルキル化芳香族化合物選択率でアルキル化芳香族化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキル化芳香族化合物の製造方法およびフェノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゼンとプロピレンとを反応させてクメンを製造する方法、クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドを製造する方法、クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンを製造する方法は、既にそれぞれ公知であり、これらの反応を組み合わせた方法は一般にクメン法と呼ばれるフェノール製造方法であり、現在フェノール製造法の主流である。
【0003】
このクメン法はアセトンが併産されるという特徴があり、アセトンが同時にほしい場合は長所となるが、得られるアセトンがその需要よりも過剰である場合には原料であるプロピレンとの価格差が不利な方向へ働き、経済性を悪化させる。そこで原料とするオレフィンと併産するケトンの価格差を有利な方向へ導く為、例えばn−ブテンとベンゼンとから得られるセカンダリーブチルベンゼンを酸化、酸分解して、フェノールと同時にメチルエチルケトンを得る方法が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。この方法ではセカンダリーブチルベンゼンの酸化で目的とするセカンダリーブチルベンゼンヒドロペルオキシドの選択率が80%程度しかなく、その他に15%以上のアセトフェノンが副生するため、フェノール製造法としての収率はクメン法には及ばない。
【0004】
さらにシクロヘキセンとベンゼンとから得られるシクロヘキシルベンゼンを酸化、酸分
解し、フェノールとシクロヘキサノンを得る方法も提案されている。この方法では得られるシクロヘキサノンを脱水素することによりフェノールが得られるので、形式的にはケトンの副生は回避できている。しかし、シクロヘキシルベンゼンの酸化反応で目的とするシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの収率が低く、工業的な価値は低い。
【0005】
そこで、酸化および酸分解の収率が最も高いクメン法について、その優位性を保ったまま原料であるプロピレンと併産するアセトンの上記欠点を回避する為、併産するアセトンを様々な方法を用いてクメン法の原料として再使用する方法が提案されている。
【0006】
アセトンは、水添することにより容易にイソプロパノールへ変換でき、このイソプロパノールをさらに脱水反応によりプロピレンとした後にベンゼンと反応させクメンを得るプロセス。すなわち、アセトンをクメン法の原料として再使用するプロセスが提案されている(特許文献3参照)。しかしながらこの方法では水添工程と脱水工程という2つの工程が増えるという問題点がある。
【0007】
そこでアセトンの水添で得られたイソプロパノールを直接ベンゼンと反応させてクメンを得る方法が提案されている(特許文献4〜6参照)。特に特許文献6では併産するアセトンをイソプロパノールとし、ベンゼンと反応させて得られるクメンを用いてフェノールを製造するというプロセス的な方法が記載されている。しかしながらこの方法においても、元のクメン法よりも水添工程が増えている。
【0008】
これに対して、従来のクメン法の工程を増やすことなく併産するアセトンを再使用する方法、すなわちアセトンとベンゼンと水素とを直接反応させる方法として、固体酸物質と銅を含む触媒組成物との存在下において芳香族化合物をケトンおよび水素と反応させることによりアルキル化芳香族化合物を調製する方法が開示されている(特許文献7参照)。
【特許文献1】特開昭57−91972号公報
【特許文献2】米国特許出願公開2004/0162448号明細書
【特許文献3】特開平2−174737号公報
【特許文献4】特開平2−231442号公報
【特許文献5】特開平11−35497号公報
【特許文献6】特表2003−523985号公報
【特許文献7】特表2005−513116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アセトン等のケトンと水素とベンゼン等の芳香族化合物とを直接反応させ、クメン等のアルキル化芳香族化合物を製造する方法であって、効率良く、クメン等のアルキル化芳香族化合物を製造するための方法を提供することを目的とする。また、該方法によってクメンを得る工程を有するフェノールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を、触媒が充填された断熱式固定床反応器中で反応させて、アルキル化芳香族化合物を製造する際に、前記触媒を、特定の成分からなる上流側の触媒層および特定の成分からなる下流側の触媒層を形成するように充填し、かつ反応における上流側、下流側の触媒層の温度を制御することにより極めて高いケトン転化率・アルキル化芳香族化合物選択率でアルキル化芳香族化合物が得られる事を見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係るアルキル化芳香族化合物の製造方法およびフェノールの製造方法は以下の(1)〜(6)に関する。
【0012】
(1) 芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を、触媒が充填された断熱式固定床反応器中で反応させて、アルキル化芳香族化合物を製造する方法であって、
前記触媒が、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とから形成され、
前記触媒が、上流側および下流側を形成する区別可能な触媒層からなり、上流側の触媒層は前記金属成分からなり、下流側の触媒層は前記固体酸成分または前記金属成分と前記固体酸成分との混合物からなるように充填されており、
前記反応における上流側の触媒層内の最高温度が205℃以下であり、
下流側の触媒層の入口温度が180℃以上であることを特徴とするアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【0013】
(2) 前記金属成分が第IIB族元素、IIIA族元素、VIB族元素およびVIII族元素(但し、ニッケルとコバルトとを除く)からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含む(1)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【0014】
(3) 固体酸成分がゼオライトである(1)または(2)のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(4) ゼオライトが10〜12員環構造を有するゼオライトである(3)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【0015】
(5) 芳香族化合物がベンゼンであり、ケトンがアセトンである(1)〜(4)のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(6) 下記工程(a)〜工程(d)を含むフェノールの製造方法において、工程(c)を(5)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法に従って実施することを特徴とするフェノールの製造方法。
工程(a):クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドへ変換する工程
工程(b):クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンとを得る工程
工程(c):上記工程(b)において得られるアセトンを用いて、ベンゼンとアセトンと水素とを反応させてクメンを合成する工程
工程(d):上記工程(c)で得られるクメンを工程(a)へ循環する工程
【発明の効果】
【0016】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法によれば、単一反応工程で、アセトン等のケトンと、ベンゼン等の芳香族化合物と、水素とを含む出発物質(原料)から、従来よりも高収率かつ工業上、実用的な方法でクメン等のアルキル化芳香族化合物を得ることができる。しかも得られるクメンは、プロピレンまたはイソプロパノールとベンゼンとから得られるクメンと比べ何ら品質的に問題が無い。
【0017】
本発明のフェノールの製造方法においては、上記アルキル化芳香族化合物の製造方法を適用することにより、従来のクメン法の工程数を増やすことなく、フェノールの製造の際に併産するアセトンを再使用することが可能となる。よって本発明のフェノールの製造方法はプロセス上および経済上著しく優位にフェノールを生産することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を、触媒が充填された断熱式固定床反応器中で反応させて、アルキル化芳香族化合物を製造する方法であって、前記触媒が、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とから形成され、前記触媒が、上流側および下流側を形成する区別可能な触媒層からなり、上流側の触媒層は前記金属成分からなり、下流側の触媒層は前記固体酸成分または前記金属成分と前記固体酸成分との混合物からなるように充填されており、前記反応における上流側の触媒層内の最高温度が205℃以下であり、下流側の触媒層の入口温度が180℃以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法においては、芳香族化合物としてはベンゼンが好適であり、ケトンとしてはアセトンが好適である。
すなわち、本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、芳香族化合物としてはベンゼンであり、ケトンとしてはアセトンであることが好ましく、この場合に得られるアルキル化芳香族化合物は、クメンである。
【0020】
ここで本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法における反応について記述すると、触媒を形成する金属成分の触媒能により、ケトンの水添反応が行われ、固体酸成分の触媒能により、芳香族化合物のアルキル化が行われる。さらに詳述すると、金属成分の触媒能によりケトンが水添されアルコールとなり、固体酸成分の触媒能により前記アルコールと芳香族化合物とのアルキル化反応が起こると共に、アルコールの脱水反応によるオレフィンの生成と、該反応により生成したオレフィンと芳香族化合物とのアルキル化反応が起こり、アルキル化芳香族化合物が生成する。
【0021】
なお、アルキル化反応としては、逐次反応である、アルコールの脱水反応によるオレフィンの生成と、該反応により生成したオレフィンと芳香族化合物とのアルキル化反応が、アルコールと芳香族化合物とのアルキル化反応よりも支配的である。
【0022】
ここでケトンがアセトンであり、芳香族化合物がベンゼンである系について、反応熱を
標準生成エンタルピーより計算すると、アセトンの水添反応は発熱反応(ΔH=-70kJ/mol)である。またイソプロパノールとベンゼンとのアルキル化反応は発熱反応(ΔH=-58kJ/mol)であるが、(1)イソプロパノールの脱水反応は吸熱反応(ΔH=52kJ/mol)であり
、(2)プロピレンとベンゼンとのアルキル化反応は発熱反応(ΔH=-110kJ/mol)となる。
【0023】
非支配的な反応であるイソプロパノールとベンゼンとのアルキル化反応の反応熱を無視して考えると、金属成分では水添反応の発熱反応により温度が上昇し、脱水反応が主に起こる固体酸成分(好ましくはゼオライト)上部では吸熱反応である脱水反応により温度が低下、その後アルキル化反応により発熱し温度が上昇するという非常に複雑な温度プロファイルとなる。特に前記固体酸成分においては、温度条件によっては、脱水反応による温度低下によってアルキル化反応に必要な温度域に達せずに反応が失速してしまう可能性が考えられる。よって、全ての反応が最適温度域で運転されることは非常に困難な温度コントロールを必要とする。
【0024】
まず、アセトンの水添反応を考えるとこの反応は平衡反応であり、高温になるほど反応により生成したイソプロパノールがアセトンに戻ってしまう(Harry J. Kolb, Equilibrium in the Dehydrogenation of Secondary Propyl and Butyl Alcohols, J. Am. Chem. Soc., 67, 1084 (1945))。よって、この反応には上限温度がありその温度以下での運転が望まれる。
【0025】
一方、ゼオライトでの逐次反応について着目すると、まず(1)のようなアルコールの脱水反応では一般的に低温域では分子間脱水が優位に起こりエーテル(イソプロパノールの場合、ジイソプロピルエーテル)が生成し、高温域では分子内脱水が優位に起こりオレフィン(イソプロパノールの場合、プロピレン)が生成する。特開平8-143495によれば、βゼオライトを用いたジイソプロピルエーテルの製造法での最適温度は100〜180℃であり、実施例では160℃が採用されている。つまり、ジイソプロピルエーテルではなく主とし
てプロピレンを得るには少なくとも160℃以上の温度が望まれる。次に(2)の反応に着
目するとプロピレンとベンゼンの反応はクメンの製造法として一般的であり、第2746694
によればβゼオライトを用いたクメンの製造法では120〜190℃が望ましい範囲とされている。しかし、本反応系では脱水反応で生じた水が系内に存在している点が異なる。一般的に、水がゼオライトをはじめとする固体酸成分の活性を低下させる事は公知であり、系内に水が存在する場合には水が存在しない系と比べて活性低下分を補うために温度をさらにあげる必要がある。よって、脱水反応にて下がった触媒層内温度でもアルキル化が進む温度以上での運転が望まれる。
【0026】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、金属成分からなる上流側の触媒層内の最高温度を205℃以下、かつ固体酸成分を含む下流側の触媒層の入口温度を180℃以上とすることにより極めて高い反応成績が得られることを見出した。
【0027】
なお、上流側の触媒層内の最高温度としては、203℃以下であることが好ましく、熱回収の観点から通常は110℃以上であり、140℃以上であることが好ましい。また、下流側の触媒層の入口温度としては、190℃以上であることが好ましく、高沸点の副生成物を抑制する観点から通常は250℃以下であり、230℃以下であることが好ましい。
【0028】
ここで、上流側の触媒層内での最高温度とは、反応熱により上昇した上流側の触媒層内における最高温度を表す。また、下流側の触媒層の入口温度とは、上流側の触媒層の出口より流出した反応液・ガスが下流側の触媒層に入る時の温度を表す。
【0029】
なお、本発明において、上流側の触媒層内での最高温度および下流側の触媒層の入口温度は定点温度計により測定することができる。
また、本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法においては、断熱式固定床反応器中に触媒が充填されているが、該断熱式固定床反応器としては特に限定はないが、断熱式の固定床反応器を用いることにより反応により得られる反応熱を熱回収にて有効利用出来る。
【0030】
本発明に用いる触媒は、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とから形成され、他の成分を含んでいてもよい。また前記触媒が上流側および下流側を形成する区別可能な触媒層からなる。
【0031】
本発明において、上流側の触媒層は、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分からなる。金属成分としては、該金属元素の単体そのものでもよく、ReO2、Re27、NiO、CuOなどの金属
酸化物や、ReCl3、NiCl2、CuCl2などの金属塩化物や、Ni−Cu、Ni−
Cu−Crなどのクラスター金属であってもよい。
【0032】
銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分としては、ケトンが有するカルボニル基を水添し、アルコールが得られるものであれば良く特に制限はないが、いわゆる水添触媒として市販されているものがそのまま使用可能であり、種々の担体に担持したもの等が市場で入手でき、これらを用いてもよい。例えば、5%Reカーボン触媒、5%Reアルミナ触媒、シリカアルミナ担持ニッケル触媒、及び列記した種類の担持量を、1%や0.5%へ変えたもの等が挙げられる。担体としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシア、シリカマグネシア、ジルコニア、カーボンのうちの少なくとも1つを選択することが好ましい。
【0033】
銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分の形状は特に制限は無く、球状・円柱状・押し出し状・破砕状いずれでもよく、またその粒子の大きさも、0.01mm〜100mmの範囲のもので反応器の大きさに応じ選定すればよい。
【0034】
本発明において、下流側の触媒層は固体酸成分または前記金属成分と固体酸成分との混合物からなる。固体酸成分としては、酸としての機能を持つ触媒であり、一般的に固体酸と呼ばれるものであれば良く、ゼオライト、シリカアルミナ、アルミナ、硫酸イオン担持ジルコニア、WO3担持ジルコニアなどを用いることができる。
【0035】
特に、ケイ素とアルミニウムから構成される無機の結晶性多孔質化合物であるゼオライトは耐熱性や目的とするアルキル化芳香族化合物(クメン)の選択率の面から本発明に好適な固体酸成分である。
【0036】
アルキル化芳香族化合物として、クメンを製造する際には、ゼオライトとしては、クメンの分子径と同程度の細孔を有する、10〜12員環構造を有するゼオライトが好ましく、特にβ型、MCM−22が好ましい。
【0037】
12員環構造を有するゼオライトの例としては、Y型、USY型、モルデナイト型、脱アルミニウムモルデナイト型、β型、MCM−22型、MCM−56型などが挙げられ、とくにβ型、MCM−22型、MCM−56型が好適な構造である。
【0038】
これらゼオライトのケイ素とアルミニウムの組成比は2/1〜200/1の範囲にあれば良く、特に活性と熱安定性の面から5/1〜100/1のものが好ましい。さらにゼオライト骨格に含まれるアルミニウム原子を、Ga、Ti、Fe、Mn、Bなどのアルミウム以外の金属で置換した、いわゆる同型置換したゼオライトを用いることも出来る。
【0039】
固体酸成分の形状は特に制限は無く、球状・円柱状・押し出し状・破砕状いずれでもよく、またその粒子の大きさも、例えば0.01mm〜100mmの範囲のものを用いることができ、反応器の大きさに応じ選定すればよい。
【0040】
下流側の触媒層が前記金属成分と前記固体酸成分との混合物からなる場合には、上述の金属成分と固体酸成分とが含まれていればよく、触媒を形成する方法(調製方法)については特に制限はないが、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とをセンチメートルサイズの触媒粒子レベルで物理混合して触媒としても良く、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とをそれぞれ微細化し混合した後改めてセンチメートルサイズの触媒粒子へ成型して触媒としても良い。また、固体酸成分を担体として、その上に銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分を担侍しても良く、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分を担体とし、固体酸成分を担侍しても良い。
【0041】
上述のように、下流側の触媒層としては、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分を、固体酸成分を担体として用い担持した触媒を用いることも可能である。具体的には上記金属元素の硝酸塩水溶液へ、固体酸成分を含浸し、含浸後に焼成する方法や、これら有機溶媒に可溶にするため配位子とよばれる有機分子を結合させた上記金属元素の錯体として、有機溶媒中に該錯体を溶解させ、該有機溶媒中へ固体酸成分を含浸し、焼成する方法や、さらに錯体のうちあるものは真空下で気化するため蒸着などの方法で固体酸成分へ担持することも可能である。また、固体酸成分を対応する金属塩から得る際に、水添触媒となる金属塩を共存させて、固体酸成分の合成と金属の担持とを同時に行う共沈法を採用することもできる。
【0042】
また上流側、下流側の触媒層において、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分には、第IIB族元素、IIIA族元素、VIB族元素およびVIII族元素(但し、ニッケルとコバルトとを除く)からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含んでいてもよい。
【0043】
なお、上記元素としては具体的にはZn、Cd、Hg、B、Al、Ga、In、Tl、Cr、Mo、W、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Ptが挙げられる。
中でも、金属成分として、銅に加えて、Znや、Alを含有すると、触媒寿命の延長効果の点で好適である。
【0044】
また本発明に用いる触媒は、PbSO4、FeCl2やSnCl2などの金属塩、KやN
aなどのアルカリ金属やアルカリ金属塩、BaSO4などを添加すると活性や選択性が向
上する場合が有り、必要に応じて添加されていてもよい。
【0045】
本発明を実施するに際して、その方法は固体触媒を用いた連続流通式の方法で実施する。その際、液相、気相、気−液混合相の、いずれの形態においても実施することが可能である。触媒の充填方式としては固定床反応器が選択され、その反応方式は断熱式である。
【0046】
クメンの生産量を維持するために、反応器を2つまたは3つ並列に並べ、1つの反応器
が再生している間に、残った1つまたは2つの反応器で反応を実施するメリーゴーランド方式をとっても構わない。さらに反応器が3つある場合、他の反応器2つを直列につなぎ、生産量の変動を少なくする方法をとっても良い。
【0047】
本発明における原料の供給速度としては、特に限定はないが、高生産性を達成するために好ましくは触媒重量に対する液重量基準空間速度(WHSV)が0.1〜200/hの範囲
、より好ましくは0.2〜100/hの範囲である。
【0048】
本発明に用いる芳香族化合物は、原理的には、ケトンと等モル以上あればよく、分離回収の点から、ケトンに対して、1〜15倍モルであることが好ましく、1〜5倍モルであることがより好ましい。
【0049】
また、本発明に用いる水素は、分離回収の点から、ケトンに対して、1〜20倍モルであることが好ましく、1〜10倍モルであることがより好ましい。
本発明における反応圧力は通常、水素を除く原料が液相状態にあるように設定すればよく、0.5〜10MPaG、好ましくは2〜5MPaGの範囲である。
【0050】
なお、本発明において、上流側の触媒層と下流側の触媒層との量比は特に限定はされないが、通常は上流側の触媒層に含まれる銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素の重量と下流側の触媒層に含まれる固体酸成分との重量比(金属元素/固体酸成分)が、通常は0.001〜10、好ましくは0.01〜2である。
【0051】
また、下流側の触媒層が前記金属成分と前記固体酸成分との混合物からなる場合には、下流側の触媒層に含まれる銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素の重量と下流側の触媒層に含まれる固体酸成分との重量比(金属元素/固体酸成分)が、通常は0.5〜0.001、好ましくは0.4〜0.002である。
【0052】
本発明のフェノールの製造方法は、下記工程(a)〜工程(d)を含むフェノールの製造方法において、工程(c)を前述のアルキル化芳香族化合物の製造方法に従って実施することを特徴とする。なお、フェノールの製造方法の工程(c)として、前述のアルキル化芳香族化合物の製造方法を実施する場合には、前記芳香族化合物がベンゼンであり、ケトンがアセトンである。
工程(a):クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドへ変換する工程
工程(b):クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンとを得る工程
工程(c):上記工程(b)において得られるアセトンを用いて、ベンゼンとアセトンと水素とを反応させてクメンを合成する工程
工程(d):上記工程(c)で得られるクメンを工程(a)へ循環する工程
【0053】
本発明のフェノールノ製造方法は、工程(a)および(b)においてクメンからフェノールを生成し、副生するアセトンを用いて工程(c)においてクメンを生成し、工程(d)において、工程(c)で得られたクメンを工程(a)に用いるため、理論上はアセトンを反応系外から導入する必要がなく、コストの面でも優れている。なお実際のプラントにおいては、アセトンを100%回収することは困難であり、少なくとも減少した分のアセトンは新たに反応系に導入される。
【0054】
また本発明のフェノールの製造方法においては、種々の改良法を提供しても問題ない。
【実施例】
【0055】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0056】
〔実施例1〕
内径:38.4mm、長さ:4800mmのステンレス製縦型反応管に、まず反応管の下部にβゼオライト触媒(φ1.5mmのペレット状、東ソー製):1806g(2860mm)、上部にCu-Zn触媒(
φ3mm×H3mmの円柱状、ズードケミー製、元素質量%Cu 32〜35%、Zn 35〜
40%、Al 6〜7%、ZnのCuに対する原子比1.0〜1.2)):1496g(980mm)を充填し、上流側の触媒層(Cu-Zn触媒)、下流側の触媒層(βゼオライト触媒)を形成
した。なお、上流側の触媒層(Cu-Zn触媒)、下流側の触媒層(βゼオライト触媒)を形
成する際に、上流側の触媒層(Cu-Zn触媒)の上部、上流側の触媒層(Cu-Zn触媒)と下流側の触媒層(βゼオライト触媒)との間および、下流側の触媒層(βゼオライト触媒)の下部それぞれにイナート層としてとしてヘリパック(東京特殊金網):100gを充填した。
【0057】
充填後、イソプロパノール:24L/hを反応器上部より流し、1時間触媒洗浄を実施した
。洗浄終了後、反応器内を3MPaG、予熱温度:100℃にて水素:630NL/h流して触媒活性化
処理を3時間行った。
【0058】
反応器にベンゼン:7.0L/h、アセトン:0.56L/h、水素:330NL/hを送り込み、反応器入口温度(上流側の触媒層の入口温度):185℃に保ち、下流側の触媒層の入口温度を190℃に保った。この時、上流側の触媒層内の最高温度は、203℃であった。結果を表1、反応器内の温度分布を図1に示す。
【0059】
反応成績は、アセトン転化率:98.4%、クメン選択率:70.8%、クメン類選択率:76.3%であり、非常に高い反応成績が得られた。また、下流側の触媒層上部において吸熱により多少温度の低下が見られるが、その後発熱による温度上昇が見られ、良好にアルキル化反応が進行している事が確認できる。つまり、ゼオライト触媒入口にて吸熱が見られるが、低下してもなおアルキル化に必要な温度を保つ事が可能であるためにアルキル化反応も良好に起こると考えられる。
【0060】
〔比較例1〕
実施例1と同じ実験装置を用い、反応器入口温度(上流側の触媒層の入口温度):181℃に保ち、下流側の触媒層の入口温度を175℃に保った以外は実施例1と同様に行った。こ
の時、上流側の触媒層内の最高温度は、201℃であった。結果を表1、反応器内の温度分布を図1に示す。
【0061】
反応成績は、アセトン転化率:97.7%、クメン選択率:34.7%、クメン類選択率:35.7%であり、非常に成績の悪い結果となった。特に、炭化水素選択率:41.8%であり、アルコールの脱水は進むが、アルキル化が進んでない事が分かる。また、図1より下流側の触媒層において吸熱後の発熱が見られずに温度が下がりつづける温度プロファイルからもアルキル化がほとんど進んでない事は明白である。
【0062】
【表1】

〔参考例1〕水添反応最適温度の確認
内径:38.4mm、長さ:4800mmのステンレス製縦型反応管にCu-Zn触媒(φ3mm×H3mmの円柱状、ズードケミー製、元素質量%Cu 32〜35%、Zn 35〜40%、Al 6〜7%、ZnのCuに対する原子比1.0〜1.2)):806g(420mm)を充填した。充
填後、イソプロパノール:24L/hを反応器上部より流し、1時間触媒洗浄を実施。洗浄終
了後、反応器内を3MPaG、予熱温度:100℃にて水素:630NL/h流して触媒活性化処理を3
時間行った。
【0063】
反応器にベンゼン:10.7L/h、アセトン:1.76L/h、水素:1030NL/hを送り込み、反応器入口温度(水添触媒層入口温度):120、160、175℃に保ち反応を行った。ここでベンゼ
ンは発熱をコントロールするためのイナートとしてフィードしている。結果を表2、反応
器内の温度分布を図2に示す。
【0064】
これより、本発明における、上流側の触媒層に相当する水添触媒層内の最高温度が210
℃になると、アセトン転化率・イソプロパノール選択率が低下することが解った。
【0065】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1および比較例1における反応器内の温度分布を示す図である。
【図2】参考例1における、反応器内の温度分布を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物とケトンと水素とを含む原料を、触媒が充填された断熱式固定床反応器中で反応させて、アルキル化芳香族化合物を製造する方法であって、
前記触媒が、固体酸成分と、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分とから形成され、
前記触媒が、上流側および下流側を形成する区別可能な触媒層からなり、上流側の触媒層は前記金属成分からなり、下流側の触媒層は前記固体酸成分または前記金属成分と前記固体酸成分との混合物からなるように充填されており、
前記反応における上流側の触媒層内の最高温度が205℃以下であり、
下流側の触媒層の入口温度が180℃以上であることを特徴とするアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記金属成分が第IIB族元素、IIIA族元素、VIB族元素およびVIII族元素(但し、ニッケルとコバルトとを除く)からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含む請求項1に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
固体酸成分がゼオライトである請求項1または2のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
ゼオライトが10〜12員環構造を有するゼオライトである請求項3に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
芳香族化合物がベンゼンであり、ケトンがアセトンである請求項1〜4のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項6】
下記工程(a)〜工程(d)を含むフェノールの製造方法において、工程(c)を請求項5に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法に従って実施することを特徴とするフェノールの製造方法。
工程(a):クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドへ変換する工程
工程(b):クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンとを得る工程
工程(c):上記工程(b)において得られるアセトンを用いて、ベンゼンとアセトンと水素とを反応させてクメンを合成する工程
工程(d):上記工程(c)で得られるクメンを工程(a)へ循環する工程

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−6737(P2010−6737A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166990(P2008−166990)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】