説明

アルキル芳香族化合物の酸化法

アルキル芳香族化合物を対応するヒドロパーオキシドに酸化する方法において、一般式(I)のアルキル芳香族化合物(R1とR2はそれぞれ、1から4炭素をもつアルキル基を表し、R1とR2は結合して4から10炭素原子をもつ環状の基を形成してもよく、該環状基は任意に置換されても良く、R3は水素、1から4炭素原子をもつ1以上のアルキル基、又はシクロヘキシル基を表す)をtert-ブチルヒドロパーオキシドを含む触媒の存在下、かつ、他の触媒の不存在下、酸素と接触し、一般式(II)のヒドロパーオキシド(II)(R1、R2とR3は式(I)と同一の意味をもつ)を生成する。当該ヒドロパーオキシドは、次にフェノールと一般式R1COCH2R2(III) (R1とR2は式(I)と同一の意味をもつ)のケトンへ変換されることができる。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明はアルキル芳香族化合物を酸化し、選択によりその生成物をフェノールとケトンへ変換する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノールと置換フェノールは化学工業において重要な製品であり、例えばフェノール樹脂、ビスフェノールA、ε-カプロラクタム、アジピン酸及び可塑剤の生産において有用である。
【0003】
現在、フェノールの生産の最も一般的な方法はホック法(Hock process)である。これは3段階の製法であって、第1段階はプロピレンによるベンゼンのアルキル化によりクメンを生成する反応を含み、次にクメンを酸化により対応するヒドロパーオキシドに酸化し、ヒドロパーオキシドを開裂して、等モルのフェノールとアセトンを生成する反応を含む。しかし、フェノールに対する世界の需要は、アセトンに対するものより迅速に大きくなっている。加えて、プロピレンの不足が大きくなっているため、ブテン類のコストと比較してプロピレンのコストは大きくなりやすい。
【0004】
そこで、原料としてプロピレンの代替にブテンまたはより高級なアルケンを使用し、アセトンではなく、メチルエチルケトン(MEK)又はより高級なケトン、例えばシクロヘキサノンを共に生成する製造法はフェノールを生産する魅力的な代替経路であろう。例えば、MEK、これはラッカー、溶剤及び潤滑油の脱ワックス用として有用であるが、その市場は成長している。加えて、シクロヘキサノンは工業用溶剤、酸化反応における活性化剤として、またアジピン酸、シクロヘキサノン樹脂、シクロヘキサノンオキシム、カプロラクタムとナイロン6の生産において使用される。
【0005】
フェノールとMEKはsec-ブチルベンゼンから生産することができることは知られている。この製法ではsec-ブチルベンゼンが酸化されsec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドが得られ、このヒドロパーオキシドは目的とするフェノールとメチルエチルケトンに分解される。そのような製法の概観は、1977年12月にスタンフォードリサーチインスチチュート(Stanford Research Institute)により発刊された”Phenol”と題されたProcess Economics Report No.22Bの113-121ページと261-263ページに記載されている。
【0006】
しかし、クメンと比較して、4以上の炭素原子をもつ分岐アルキル基により置換された芳香族化合物、例えば、sec-ブチルベンゼンの対応するヒドロパーオキシドへの酸化はより高い温度が必要で不純物の存在に非常に敏感である。例えば、重量で1%のイソブチルベンゼンを含むsec-ブチルベンゼンの場合、sec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドの生成速度はsec-ブチルベンゼンがイソブチルベンゼンを含まないときのそれの約91%まで減少する。同様に、イソブチルベンゼン含量が重量で1.65%であるときは、酸化速度は約86%に減少する。イソブチルベンゼン含量が重量で2%のときは、酸化速度は約84%に減少する。そしてイソブチルベンゼン含量が重量で約3.5%であるときは、酸化速度は約82%という低さとなる。
【0007】
従って、既存の酸化法よりも不純物の存在にはるかに敏感でなく、フェノールとMEK又は高級なケトンの効率的な実生産スケールの生産を可能にする、C4+アルキル芳香族ヒドロパーオキシド、特にsec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドを生産する酸化法を見出す必要性が依然、残っている。
【0008】
米国特許第5,298,667号(住友)とEP-A-548,986(住友)は、(I) (A)実質的にエチルヒドロパーオキシド、カルボン酸及びフェノールを含まないsec-ブチルベンゼン、(B)スチレンを実質的に含まないsec-ブチルベンゼン、及び(C)メチルベンジルアルコールを実質的に含まないsec-ブチルベンゼンから選択された物質を、触媒を用いず酸素を含むガスにより酸化し、sec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドを得、(II)sec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドを酸性触媒により分解し、フェノールとMEKを得る段階を含む製造法を開示している。
【0009】
EP-A-1,088,809(フェノールケミー(Phenolchemie))は、クメンと、sec-ブチルベンゼンを25wt%まで含む混合物を酸化し次にそのヒドロパーオキシドのホック開裂(Hock cleavage)によりフェノール、MEKとアセトンを生産でき、その結果、生成物中のフェノール:アセトン:MEKの比率が原料混合物の組成により調整できる製造法を開示している。原料混合物は、AlCl3、H3PO4/SiO2又はゼオライトのような市販のアルキル反応触媒の存在下ベンゼンをプロペンと1-ブテン/2-ブテンの対応する混合物によりアルキル化することにより直接に生産される。酸化は空気又は酸素の存在下、触媒のない条件で起こる。
【0010】
FR-A-2,182,802(ユニオンカーバイド)は、sec-ブチルベンゼンの酸化によりフェノールとMEKを生産する製造法を開示し、その中で、sec-ブチルベンゼンは空気と、選択によりsec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドの存在下、sec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドへ酸化され、次に過酸化物の分解が起こる。この文書によると、イソブチルベンゼンは全反応工程の効率を下げそのためフェノールとMEKの収量を下げるため、sec-ブチルベンゼンは1wt%より多くイソブチルベンゼンを含んではならない。
【0011】
1987年5月26日に公開された日本特許出願公開第62/114922号は、90から145℃の温度、1から20kg/cm2Gの圧力でsec-ブチルベンゼンは酸素分子を含むガス、好ましくは空気により、クメン又はクメンヒドロパーオキシド存在下酸化されうることを開示している。
【0012】
米国特許出願公開第2004/0162448号(シェル)及び第2004/0236152号(シェル)はフェノールとアセトン及び、又はMEKを生産する製造方法を開示し、その中でクメンとsec-ブチルベンゼンの混合物が酸素存在下、対応する過酸化物に酸化され、過酸化物の分解が続いている。実施例では、酸化混合物は、また開始剤として1%クメンヒドロパーオキシドも含む。これらの文書によれば、酸化混合物中の中和用塩基の添加はハイドロパーオキシキドの収量を向上させ、そして望ましくない副生成物の生成を減少させる。
【0013】
米国特許第6,852,893号(Creavis)及び第6,720,462号(Creavis)はアルキル芳香族炭化水素を触媒的酸化により対応するヒドロパーオキシドとし、当該ヒドロパーオキシドを続いて開裂させフェノールとケトンを与えることによるフェノールの製造方法を記載している。触媒的酸化はフリーラジカル反応開始剤と触媒、通常N-ヒドロキシフタル酸イミド、例えばN-ヒドロキシカルボジイミドの存在下、酸素により生じる。この製造方法により酸化される好ましい基質は、クメン、シクロヘキシルベンゼン、シクロドデシルベンゼンとsec-ブチルベンゼンを含む。
【0014】
米国特許第4,136,123号(グッドイヤー)は、スルホン化されたメタロフタロシアニン触媒と、4から6個の炭素原子をもつアルキルヒドロパーオキシドと8から14個の炭素原子をもつアラルキルヒドロパーオキシドからなる群から選択されたフリーラジカル反応開始剤の存在下、アルキル芳香族化合物を対応するヒドロパーオキシドへ酸化する製造方法を開示している。
【0015】
米国特許第4,282,383号(アップジョン)はフェノールとシクロヘキサノンの生成において中間体として有用なシクロヘキシルベンゼンヒドロパーオキシドを合成する製造法を述べている。本製造法は約80℃から約105℃の範囲で、酸素及び、tert-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド及びp-ジイソプロピルベンゼンジヒドロパーオキシドからなる群から選択された、重量でシクロヘキシルベンゼンに基づき、約2から6パーセントのヒドロパーオキシド、及びアゾビスイソブチロニトリル、t-ブチル過安息香酸、ジクミルパーオキシドからなる群から選択された、重量でシクロヘキシルベンゼンに基づき約0.1から5%のフリーラジカル反応開始剤の存在下、シクロヘキシルベンゼンを加熱することを含む。
【0016】
米国特許第4,450,303(フィッリップ石油、Phillips Petroleum)は、シクロヘキシルベンゼン、クメン、sec-ブチルベンゼン、sec-ペンチルベンゼン、p-メチル-sec-ブチルベンゼン、1,4-ジフェニルシクロヘキサン、p-ジシクロヘキシルベンゼン及びsec-ヘキシルベンゼンのような、2級アルキル基で置換されたベンゼンを、酸素存在下、約60℃から200℃の温度で加熱することにより、2級アルキル基で置換されたベンゼンヒドロパーオキシドを合成する製造法を述べている。この加熱はまた、約0.05から5wt%の化学式R’’COOSmのサマリウム触媒(ここで、R’’はC1からC20のアルキル、アリール、アルカリール、又はアラルキル基である)及び選択によりアゾ-タイプの化合物とパーオキシド化合物からなる群から選択されるフリーラジカル反応開始剤の存在下でも行われる。一実施態様では、2級アルキル基で置換されたベンゼンはシクロヘキシルベンゼンであり、触媒は酢酸サマリウムであり、フリーラジカル反応開始剤はクメンヒドロパーオキシドである。
【0017】
Adv. Synth. Calal., 2004,346,1051-1071 のOrganocatalytic Oxidations Mediated by Nitroxyl Radicalsという表題のシェルドン(Sheldon)らによる論文はシクロヘキシルベンゼン(CHB)が、0.5モル%のN-ヒドロキシフタルイミド触媒とフリーラジカル反応開始剤としての2モル%の生成物のヒドロパーオキシドの存在下100℃で32%のCHB転換率で97.6%の選択性で1-ヒドロパーオキシドへ酸化されうることを開示している。
【0018】
米国特許第3,959,381号(テキサコ、Texaco)は、約90と140℃の間の温度、酸素のシクロヘキシルベンゼンに対するモル比を少なくとも3:1で、酸素を含有するガスとシクロヘキシルベンゼンとクメン又はクメンヒドロパーオキシドの混合物を1:99と99:1のモル比で接触させ、1-フェニルシクロヘキシルヒドロパーオキシドとクミルヒドロパーオキシドの第二の混合物を生成させ、続いて、第二の混合物から過剰のクメンと、過剰のシクロヘキシルベンゼンの少なくとも一部を除去し、続いて第二の混合物を3から6個の炭素のアルカノンとヒドロカルビルスルホン酸と無機酸から選択された酸触媒と、約20と50℃の間の温度で接触させ、最終生成物からフェノールとシクロヘキサノンを回収することによりフェノールとシクロヘキサノンを合成する方法を開示している。
【0019】
本発明によると、sec-ブチルベンゼンとシクロヘキシルベンゼン等の、ある種の2級アルキル基で置換されたベンゼンはtert-ブチルヒドロパーオキシドの存在下、他の触媒の不存在下で、対応するヒドロパーオキシドに酸化されえることが今や見出された。
【発明の概要】
【0020】
要約
ある面では、本願発明はアルキル芳香族化合物を対応するヒドロパーオキシドへ酸化する製造法にあり、当該製造法は一般式(I)のアルキル芳香族化合物、



(ここでR1 とRは1から4個の炭素原子を有するアルキル基で、R1 とRは、結合して4から10個の炭素原子をもつ環を形成しても良く、該環は、任意に置換されても良く、R3は水素、1から4個の炭素原子を有する1以上のアルキル基、又はシクロヘキシル基である)を、添加したtert-ブチルヒドロパーオキシド触媒の存在下、他の触媒の不存在下、酸素と接触させ、一般式(II)のヒドロパーオキシドを製造する方法である。


(ここでR1 、R、R3は化学構造式(I)におけると同一の意味を持つ。)
【0021】
さらに別の面では、本願発明はフェノールを生産する方法に存し、該製造方法は、以下の工程を含む。
(a) 一般式(I)のアルキル芳香族化合物(I)


(ここでR1 とRは、1から4個の炭素原子をもつアルキル基を表し、R1 とRは結合し4から10個の炭素原子をもつ環を形成しても良く、前記の環は、任意に置換されて良く、R3は水素、1から4個の炭素原子をもつ1以上のアルキル基、又はシクロヘキシル基である)を、添加したtert-ブチルヒドロパーオキシド触媒の存在下、他の触媒の不存在下、酸素により一般式(II)のヒドロパーオキシドを製造する工程、及び


(R1 、RとR3は化学構造式(I)におけると同一の意味を持つ。)
(b) 化学式(II)のヒドロパーオキシドをフェノールと一般式R1COH2R2(III)のケトン(ここでR1 、Rは化学構造式(I)と同一の意味を持つ。)へ変換する工程。
【0022】
好ましくは、前記アルキル芳香族化合物はsec-ブチルベンゼン、sec-ペンチルベンゼン、p-メチルsec-ブチルベンゼン、1,4-ジフェニルシクロヘキサン、sec-ヘキシルベンゼン及びシクロヘキシルベンゼン、そして最も好ましくは、sec-ブチルベンゼンまたはシクロヘキシルベンゼンである。
【0023】
好ましくは、前記酸素との接触は、20℃から150℃の温度で行われる。酸化は酸素自体、又は酸素分子を含むガスによっても良く、空気によって行うことも便宜である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施例1の酸化製造法の添加tert-ブチルヒドロパーオキシド(TBHP)の濃度に対するsec-ブチルベンゼンの転換の図である。
【図2】図2は、実施例1の酸化法で種々の量のTBHP触媒を添加した場合の、反応時間に対するsec-ブチルヒドロパーオキシドの選択性の図である。
【図3】図3は実施例2の酸化法でクメンヒドロパーオキシド触媒を添加してまた添加せずに、反応時間に対するsec-ブチルベンゼン転換の図である。
【図4】図4は実施例2の酸化法でクメンヒドロパーオキシドを添加してまた添加せずに、反応時間に対するsec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドの選択性の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施態様の詳細な説明
本願発明は一般式(I)のアルキル芳香族化合物の酸化法を与える。

(ここでR1 とRはそれぞれ1から4個の炭素原子をもつアルキル基を表し、R1 とRは結合して4から10個の炭素原子をもつ環を形成しても良く、該環は、任意に置換されて良く、R3は水素、1から4個の炭素原子をもつ1以上のアルキル基、又はシクロヘキシル基である。)一実施態様では、R1 とRは結合して4から10個の炭素原子をもつ環を形成し(シクロヘキシル基が適当である)、1から4個の炭素原子をもつ1以上のアルキル基、又は1以上のフェニル基で置換される。適当なアルキル芳香族化合物の例はsec-ブチルベンゼン、sec-ペンチルベンゼン、p-メチル-sec-ブチルベンゼン、1,4-ジフェニルシクロヘキサン、sec-ヘキシルベンゼン、及びシクロヘキシルベンゼンであり、sec-ブチルベンゼンとシクロヘキシルベンゼンが好ましい。R1 とRが結合して環を形成する場合、環を形成する炭素数は4から10個であるとも理解されよう。しかし、1,4−ジフェニルシクロヘキサンの場合のように、その環自体が、例えば、1から4個の炭素原子をもつ1以上のアルキル基又はフェニル基のような1以上の置換基をもっても良い。
【0026】
酸化は、tert-ブチルヒドロパーオキシドを含む添加触媒の存在下、他のいずれの触媒も存在しない条件で、アルキル芳香族化合物を酸素と接触させることにより達成される。「添加触媒」とは反応の一部として反応中に生成されるものではなく、酸化反応へ意図的に加えられた触媒をいう。通常は、tert-ブチルヒドロパーオキシドは、アルキル芳香族化合物とtert-ブチルヒドロパーオキシドの合計の、0.05と5モル%の間の量、例えば、0.5と3モル%の間、好ましくは0.7と2モル%の間、より好ましくは、0.8と1.5%モル%の間の量で存在する。
【0027】
本願の発明はクメンと比較して、4以上の炭素原子をもつ分岐したアルキル基により置換された芳香族化合物、例えば、sec-ブチルベンゼン、の対応するヒドロパーオキシドへの酸化はより高い温度を要するという観察に基づいている。言い換えれば、それらは酸化速度が低い。理論に縛られることは望まないが、sec-ブチルベンゼンの低い酸化反応速度はβ開裂反応機構に帰すことができよう。sec-ブチルベンゼンに関するβ開裂はクメンを含むβ開裂(メチルラジカルを生成する)より非常に速い速度でエチルラジカルを生成し、非常に速い速度でラジカル反応を停止する。開始剤によるアラルカンから水素原子を引き抜く速度定数はアラルカンの構造により大きく影響はされないようである。(例.sec-ブチルベンゼン対クメン対シクロヘキシルベンゼン)しかし、アラルカンパーオキシラジカルは、停止段階で重要な役割を果たす。三級パーオキシラジカルの自己反応は次の反応式に示される。

【0028】
終了反応の速度論的進行に影響する3因子は
i) R-O-O-O-O-R形成の平衡定数
ii) 非可逆的なテトロキシドの分解反応の変動
iii) 溶媒ケージ中で結合を受けるアルコキシラジカル対の割合の変動
である。
【0029】
アルコキシラジカル(RO・)はβ開裂を受けることができ、ケトンとアルキルラジカルを生じ、酸素と反応し一級パーオキシラジカルを与える。例えば、sec-ブチルベンゼンからのアルコキシラジカルはエチルパーオキシラジカルとアセトフェノンを与える。一級パーオキシラジカルは一般的に、三級パーオキシラジカルより約3-5倍反応性が高く、例えば、sec-ブチルベンゼンの酸化において、2-フェニルブチル-2-パーオキシラジカルは他の2-フェニルブチルラジカルよりも、又はベンジル位の水素引き抜きより速くエチルパーオキシラジカルと反応する。また、発生時のケトンとアルキルラジカルの安定性はβ開裂の様式を決定する。
【0030】
全停止反応のより高い活性化エネルギーは高温でのアルコキシラジカルのβ開裂のより大きい速度とそれらが生成されたケージから出た2個のアルコキシラジカルの拡散のより容易さを反映している。下記の表は、sec-ブチルベンゼンとクメンの酸化に対するsec-ブチルベンゼンとクメンの酸化反応の停止反応速度定数(kt)と成長反応速度定数(kp)を示している。両基質について成長反応の速度定数は、同様である。しかし、sec-ブチルベンゼンの停止反応の速度定数はクメンのそれよりも10倍高い。

【0031】
β開裂停止反応を最小にするような基質は停止反応速度定数を減少させ、結果として速度定数を向上させるであろう。触媒量の開始剤の添加はこの問題を解消する一方法であり、優雅でおそらく経済的な回答はtert-ブチルヒドロパーオキシド(TBHP)の使用である。従って、tert-ブチルパーオキシラジカルによる連鎖停止反応の速度定数は他のいずれの既知のアルキルパーオキシラジカルよりも低い。本願で使用される触媒(TBHP)はエチル又はn-プロピルのような有害な一級ラジカルの生成を妨げる。他方、ベンジル位の炭素に結合したエチル基の開裂によりエチルラジカルが形成されやすいことより、sec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドのような化合物は適切な酸化触媒とは考えられないであろう。
【0032】
本願の酸化段階の適した条件は20℃と150℃の間の温度、例えば70℃から130℃、及び、又は100から3000kPa(約1から30気圧)、例えば、100から1000kPa(約1から10気圧)の圧力を含む。塩基性の緩衝剤を加えて、酸化反応中に生成するかもしれない酸性副生成物と反応させても良い。さらに、水層を形成して、塩基性化合物、例えば炭酸ナトリウム、の溶解を促進しても良い。副生成物の生成を最小とするため酸化段階の1回の転換率は50%未満に保つことが好ましい。酸化反応は触媒的蒸留装置で行われるのが便利であり、生成されたヒドロパーオキシドは未反応のアルキル芳香族化合物を留去することにより濃縮されても良い。
【0033】
酸化反応の生成物は一般式(II)のヒドロパーオキシドを含む。

(ここでR1、R2及びR3は化学構造式(I)におけると同一の意味をもつ。)好ましくは、ヒドロパーオキシドはsec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシド又はシクロヘキシルベンゼンヒドロパーオキシドである。このヒドロパーオキシドは次に、酸開裂によりフェノール又は置換フェノールと一般式R1COCH2R2(III)(ここで、R1、R2は化学構造式(I)と同一の意味をもつ)のケトンに転換されえる。
【0034】
開裂反応は20℃から150℃の温度、例えば40℃から120℃、及び、又は50から2500kPaの圧力、例えば100から1000kPa 及び、又はヒドロパーオキシドに基づき、0.1から100 hr-1好ましくは1から50 hr-1の液時空間速度(LHSV)でヒドロパーオキシドを触媒と接触させることにより行うのが便利である。ヒドロパーオキシドは、熱の除去を促進するためメチルエチルケトン、フェノール、又はsec-ブチルベンゼンのような、開裂反応に不活性な有機溶媒で希釈されることが好ましい。この開裂反応は触媒的蒸留装置で行うことが便利である。
【0035】
開裂段階で用いられる触媒は均一触媒又は不均一触媒であってよい。
【0036】
適当な均一開裂触媒は硫酸、過塩素酸、リン酸、塩酸及びp-トルエンスルホン酸である。塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、二酸化硫黄及び三酸化硫黄もまた効果的な均一開裂触媒である。好ましい均一開裂触媒は硫酸である。
【0037】
sec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドの開裂に使用される適当な不均一触媒は、米国特許第4,870,217号(テキサコ)に記載されているような、スメクタイトクレー(smectite clay)、例えば酸性モンモリロナイト・シリカ-アルミナクレーを含む。この特許の全開示は参照により本願に組み入れられる。
【0038】
本願発明は以下の非限定的実施例を参照して、より詳細に説明される。
実施例1:tert-ブチルヒドロパーオキシド(TBHP)の存在下のSBB酸化
【0039】
コンデンサー、撹拌装置、空気導入装置を備えた250ml 丸底フラスコに、sec-ブチルベンゼン100gと予定量のTBHPを加える(TCIから購入される)。このフラスコは温度調節式マントルヒーターを用いて加熱された。反応温度は90℃であり、反応圧は、ほぼ大気圧であった。空気導入速度は約220cc/minであった。45分毎に、反応混合物の少量がフラスコから取り出され、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析された。この試験は6時間行われた。この試験はsec-ブチルベンゼンとTBHPの総モル数に基づき0と3モル%の間でTBHP量を変えで繰り返され、その結果は図1と2に示されている。図1から触媒が使用されないSBB酸化は転換は起こらず、TBHP濃度が約1.25モル%であるとき、最高のSBB転換率が得られたことが理解されよう。図2から6時間の試験終了時のsec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドへの選択性が、試験されたTBHPの全水準で本質的に同一、85-90wt%であったことが理解されよう。
実施例2(対照例):クメンヒドロパーオキシド(TBHP)の存在下のSBB酸化
【0040】
コンデンサー、撹拌装置、空気導入装置を備えた250ml 丸底フラスコに、sec-ブチルベンゼン100g(TCIから購入される)と1.5gのクメンヒドロパーオキシドを加える。このフラスコは温度調節式マントルヒーターを用いて加熱された。反応温度は115℃であり、反応圧はほぼ大気圧であった。空気導入速度は約220cc/minであった。45分毎に、反応混合物の少量がフラスコから取り出され、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析された。試験は6時間行われた(「反応時間」又はT.O.S)。試験はCHPを添加せずに繰り返され、両試験の結果は図3と4に示されている。添加CHPが無い場合、sec-ブチルベンゼン転換がわずかに約1%である一方、添加CHP存在下、sec-ブチルベンゼンの転換が、この試験の6時間の終点で約7%であることが図3から理解できるであろう。図4から6時間の試験終了時にsec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドへの選択性は約90wt%であったことが理解できよう。
【0041】
実施例1及び2の結果を比較するとき、CHPはTBHPよりもヒドロパーオキシドヘの選択性がわずかに高いようであるが、TBHPについて得られた有意に高い転換速度はCHP添加により得られたものと比較してTBHP添加によるsec-ブチルベンゼンヒドロパーオキシドの全収量が向上することを示した。
【0042】
本願発明は個々の実施態様を述べることにより記述、説明されてきたが、本願発明分野の通常の技能をもつ者なら、本願に必ずしも説明されていない変更が可能であると評価するであろう。このため、本願発明の真の技術的範囲を決定するためには、添付した特許請求の範囲のみが参照されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル芳香族化合物を酸化して対応するヒロパーオキシドを製造する方法であって、tert-ブチルヒドロパーオキシドを含む添加触媒の存在下で、かつ他のいずれの触媒も存在しない条件下、一般式(I)

(ここで、R1とR2は1から4個の炭素原子をもつアルキル基を表し、R1とR2は結合して4から10個の炭素原子をもつ環を形成しても良く、該環は任意に置換されても良く、R3は水素、1から4個の炭素原子をもつ1以上のアルキル基、又はシクロヘキシル基を表す)のアルキル芳香族化合物を酸素と接触させ、一般式(II)

(ここでR1、R2、R3は式(I)におけると同一の意味をもつ)のヒドロパーオキシドを得る製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法であって、tert-ブチルヒドロパーオキシドが、アルキル芳香族化合物とtert-ブチルヒドロパーオキシドの合計の0.05と5モル%の、好ましくは0.5と3モル%の間の量で存在する製造方法。
【請求項3】
請求項2の製造方法であって、tert-ブチルヒドロパーオキシドが、アルキル芳香族化合物とtert-ブチルヒドロパーオキシドの合計の0.7と2モル%の、好ましくは0.8と1.5モル%の間の量で存在する製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかの製造方法であって、前記アルキル芳香族化合物がsec-ブチルベンゼン、sec-ペンチルベンゼン、p-メチル-sec-ブチルベンゼン、1,4-ジフェニルシクロヘキサン、sec-ヘキシルベンゼン及びシクロヘキシルベンゼンから選択される製造方法。
【請求項5】
請求項4の製造方法であって、前記アルキル芳香族化合物はsec-ブチルベンゼン又はシクロヘキシルベンゼンである製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかの製造方法であって、前記接触は20℃から150℃、好ましくは70℃から130℃の温度で行われる製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかの製造方法であって、前記接触が100kPaから3000kPa、好ましくは100kPaから1000kPaの圧力で行われる製造方法。
【請求項8】
フェノールを製造する製造方法であって、前記製造方法は、請求項1から請求項7のいずれかの請求項記載の製造方法によりアルキル芳香族化合物を対応するヒドロパーオキシドへ酸化し、化学構造式式(II)の当該ヒドロパーオキシドをフェノールと一般式R1COCH22 (III) (ここでR1、R2は化学構造式(I)におけると同一の意味をもつ)のケトンに変換することを含む製造方法。
【請求項9】
請求項8の製造方法であって、前記変換は触媒の存在下で行われる製造方法。
【請求項10】
請求項9の製造方法であって、前記変換は均一触媒の存在下で行われる製造方法。
【請求項11】
請求項10の製造方法であって、前記均一触媒は硫酸、過塩素酸、リン酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸、塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、二酸化硫黄、及び三酸化硫黄の少なくとも一つを含む製造方法。
【請求項12】
請求項9の製造方法であって、当該変換は不均一な触媒の存在下で行われる製造方法。
【請求項13】
請求項12の製造方法であって、前記不均一触媒はスメクタイトクレー(smectite clay)を含む製造方法。
【請求項14】
請求項8から請求項13のいずれかの請求項記載の製造方法であって、当該変換は40℃から120℃の温度、及び、又は100から1000kPaの圧力及び、又はヒドロパーオキシドに基づき1から50h-1の液時空間速度(LHSV)で行われる製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−517933(P2010−517933A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522769(P2009−522769)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/016042
【国際公開番号】WO2008/018972
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(599134676)エクソンモービル・ケミカル・パテンツ・インク (301)
【Fターム(参考)】