説明

アルキレンオキシド誘導体からなる可溶化剤及びこれを含有する可溶化組成物。

【課題】難水溶性の油性成分に対し優れた可溶化力を有する上、使用感が良好で、使用後のべたつきが少ない可溶化剤を提供する。
【解決手段】下記の式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体からなる可溶化剤、及び当該可溶化剤と油性成分とを含有する可溶化組成物。

HO−(EO)a−(AO)n−(EO)b−H (I)

(式中、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数8〜12の1種又は2種以上のオキシアルキレン基であり、AOが2種以上の場合は、ブロック状付加又はランダム状付加であってもよく、AOとEOの付加形態はブロック状である。a及びbは前記オキシエチレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、10≦a+b≦300、2≦n≦50、及び0.75≦(a+b)/(a+b+n)≦0.99の関係を有する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキシド誘導体からなる可溶化剤、及びこれを配合してなる可溶化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年アンチエイジングや美白を望む声が高まっており、酢酸トコフェロールやコエンザイムQ10などのような抗酸化作用や美白作用を有する薬効成分が化粧料に配合されることが多くなっている。これら成分の多くは非極性の油性成分であり、水系の化粧品に配合すると白濁するため、商品価値を損ねる。これら課題を解決するために、各種界面活性剤によりこの油性成分を可溶化させるのが一般的である。
【0003】
各種界面活性剤としては、CMCが低いため、より低濃度で可溶化できる非イオン性界面活性剤が汎用されており、非イオン性界面活性剤の中でも、アルキレンオキシド誘導体は、付加モル数によって、親水―親油バランスを自在に調整することが可能であり、非常に有用である。
【0004】
可溶化力が高いアルキレンオキシド誘導体の界面活性剤として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(特許文献1)や、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどのソルビタンエステル誘導体(特許文献2)、これら2種類を組み合わせた配合物(特許文献3)といったものが知られている。しかし、上記界面活性剤はべたつきを感じるといった課題があった。
【0005】
また、エーテル型非イオン性界面活性剤として、炭化水素鎖を親油基としたアルキルエーテル型アルキレンオキシドやポリプロピレンオキシドやポリブチレンオキシドを親油基としたプルロニック型アルキレンオキシド誘導体(特許文献4)がある。しかし、これら界面活性剤で非極性の油性成分を可溶化するには充分な効果を発揮することができず、可溶化させるために高配合すると使用感が低下する。そのため、これら課題を満たす化粧料用界面活性剤の開発が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−67241号公報
【特許文献2】特開2001−261579号公報
【特許文献3】特開2002−020220号公報
【特許文献4】特開2002−129189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、香料、油溶性薬剤などといった難水溶性の油性成分に対し優れた可溶化力を有する上、使用感が良好で、使用後のべたつきが少ない可溶化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題につき鋭意研究の結果、ある種のアルキレンオキシド誘導体が、優れた可溶化力と使用感を併せ持つことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下に示されるものである。
(1) 式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体からなる可溶化剤。
HO−(EO)a−(AO)n−(EO)b−H (I)
(式中、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数8〜12の1種又は2種以上のオキシアルキレン基であり、AOが2種以上の場合は、ブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、AOとEOの付加形態はブロック状である。aとbは前記オキシエチレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、10≦a+b≦300、2≦n≦50、及び0.75≦(a+b)/(a+b+n)≦0.99の関係を有する。)
(2)AOが炭素数8〜10のオキシアルキレン基である、上記可溶化剤。
(3)(A)請求項1又は2記載のアルキレンオキシド誘導体を0.01〜50質量%
(B)油性成分を0.001〜10質量%
含有し、成分(A)及び(B)の質量割合が(A)/(B)=0.1〜20である、可溶化組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルキレンオキシド誘導体からなる可溶化剤は、水系製剤に対する油溶性の美容成分や医薬成分、着色剤や香料、あるいは一般の油脂類の溶解性を顕著に向上させることができる。しかも、当該可溶化剤を使用して調製した油性成分を含有する可溶化組成物は、肌に対するなじみ性がよく、べたつきも少ないなど、使用感が顕著に優れる。したがって、本発明の可溶化組成物は、肌に直接適用する、化粧料、あるいは医薬部外品や外用医薬品など、皮膚外用剤として、とくに有用である。

【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、EOはオキシエチレン基である。a及びbはオキシエチレン基の平均付加モル数で、10≦a+b≦300、好ましくは20≦a+b≦250、より好ましくは30≦a+b≦200である。10より小さいと可溶化力が充分に発揮できない傾向にあり、200を超えると使用感に劣る傾向にある。
【0011】
AOは炭素数8〜12のオキシアルキレン基であり、好ましくは炭素数8〜10のオキシアルキレン基である。例えば炭素数8のオキシアルキレン基としてはオキシオクタメチレン基、オキシオクチレン基など、炭素数9のオキシアルキレン基としてはオキシノナメチレン基、オキシノニレン基など、炭素数10のオキシアルキレン基としてはオキシデカメチレン基、オキシデシレン基など、炭素数11のオキシアルキレン基としてはオキシウンデカメチレン基、オキシウンデシレン基など、炭素数12のオキシアルキレン基としてはオキシドデカメチレン基、オキシドデシレン基などが挙げられる。炭素数が7以下のオキシアルキレン基は可溶化力が充分に発揮できない傾向にあり、炭素数13以上となると使用感が劣る傾向にある。これらオキシアルキレン基は直鎖状もしくは分岐状のいずれであってもよい。分岐状のオキシアルキレン基において、炭素数8のオキシアルキレン基としては、オクチレンオキシド由来のオキシオクチレン基があり、例えば1,2−オキシオクチレン基など、炭素数9のオキシアルキレン基としては、ノニレンオキシド由来のオキシノニレン基があり、例えば1,2−オキシノニレン基など、炭素数10のオキシデシレン基としては、デシレンオキシド由来のオキシデシレン基があり、例えば1,2−オキシデシレン基など、炭素数11のオキシドデシレン基としては、ドデシレンオキシド由来のオキシドデシレン基があり、例えば1,2−オキシドデシレン基など、炭素数12のオキシデシレン基としては、ウンデシレンオキシド由来のオキシウンデシレン基があり、例えば1,2−オキシウンデシレン基などが挙げられる。
【0012】
式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体の製造過程における、アルキレンオキシドの開裂反応は、α開裂、β開裂、又はその混合型のいずれであってもよい。例えば炭素数8のオクチレンオキシド由来の1,2−オクチレンオキシドの場合、下記一般式(II)で表されるオキシ−1−ヘキシルエチレン基、又は下記一般式(III)で表されるオキシ−2−ヘキシルエチレン基のいずれかとなる。
【0013】
【化1】

(II)

【0014】
【化2】

(III)
【0015】
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、2≦n≦50であり、好ましくは3≦n≦30である。
【0016】
オキシエチレン基とオキシアルキレン基の平均付加モル数の合計(a+b+n)に対するオキシエチレン基の平均付加モル数(a+b)の割合は0.75≦(a+b)/(a+b+n)≦0.99である。0.75より小さい、又は0.99より大きいと満足のいく可溶化力が得られず好ましくない。
【0017】
オキシエチレン基とオキシアルキレン基の付加形態はブロック状であることが好ましく、配列順序はオキシエチレン基−オキシアルキレン基−オキシエチレン基の順である。オキシアルキレン基は炭素数8〜12の範囲であれば、1種類でもよく、2種類以上でもよく、2種類以上の場合の付加形態はブロック状でもランダム状でもよい。
【0018】
本発明の可溶化組成物において用いる成分(A)のアルキレンオキシド誘導体は式(I)で示される構造であり、組成物全体に対する配合割合は0.01〜50質量%、好ましくは0.02〜30質量%、より好ましくは0.05〜10質量%である。
【0019】
本発明の可溶化組成物において用いる成分(B)の油性成分は、化粧品、医薬部外品、外用医薬品に配合される油性物質であれば、揮発性、不揮発性のいずれでもよく、常温における形態として固体状、ペースト状、液体状のいずれであってもよい。例えば、ビタミンA、D、E、K等の油溶性ビタミン、動植物の抽出物、合成・半合成の油溶性薬剤や美容成分、各種油分、香料、などの非水溶性物質が挙げられる。油溶性ビタミン類としては、レチノール等のビタミンAや酢酸トコフェロール、αートコフェロール、δートコフェロールなどのビタミンE類、コレカルシフェロールなどのビタミンD類が、合成・半合成の油溶性薬剤としては、ユビキノン等が、油分としては、オリーブ油、アボガド油、ひまし油、サフラワー油、綿実油、カカオ脂、ヤシ油等の液状又は固体油脂類、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、ステアリン酸等のエステル類、アルコールアルキルエーテル等のエーテル類、流動パラフィン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類、ミツロウ、ラノリン、カルバナウロウ等のロウ類、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン系の油相成分、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類、ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコール類などが、香料としては天然香料、合成香料、調合香料、天然香料から単離された香料などが例示される。油性成分は、1種類又は2種類以上を配合することができる。
【0020】
本発明の可溶化組成物の全組成中に対する油性成分(B)の配合量は、0.001〜10質量%、好ましくは0.002〜5質量%、より好ましくは0.005〜3質量%である。
【0021】
成分(A)と成分(B)の質量割合は、優れた可溶化安定性を得る観点から、(A)/(B)=0.1〜20程度がよく、好ましくは0.2〜15、より好ましくは0.5〜10である。
【0022】
本発明の可溶化組成物には、化粧品、医薬部外品、外用医薬品などに一般に配合される、上記成分以外の界面活性剤、エタノールなどの溶剤、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアガム、カラギーナン等の増粘安定剤、その他の油分、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の保湿剤、クエン酸、酢酸、酒石酸、乳酸等のpH調整剤、キレート剤、薬剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、フェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸等の防腐剤、香料、顔料、染料などの他の成分を配合してもよい。それらの成分は、各1種類ずつ配合してもよく、2種類以上配合してもよい。
【0023】
本発明の可溶化剤は、さまざまな油性物質をよく溶解し、しかも、当該可溶化剤によって可溶化した、油性物質を含有する組成物は、肌に対する感触が良好であることから、油性物質の配合ニーズとともに可溶化に関する技術的課題を有し、肌に対する良好な使用感をも求められる化粧料への配合に特に適する。同様に良好な使用感が望まれる、医薬外用剤への配合にも適する。したがって、本発明の可溶化組成物は、皮膚や毛髪用の化粧料、医薬部外品や外用の医薬品等として適する。

【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。製造例1及び2として化合物1(表1)の例を示す。
【0025】
製造例1(オキシオクチレン化反応)
1,2−オクタンジオール118gと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル1.7gを5L容オートクレーブに仕込み、乾燥窒素で置換した後、撹拌しながら、1,2−オクチレンオキシド800gを滴下させ、3時間撹拌した。反応物を取り出し、水酸化カリウムで中和しpH6〜7とし、含有する水分を100℃で1時間処理することで除去し、さらに生成した塩を除去するためにろ過を行い、ポリオキシオクチレン902gを得た。水酸基価は123.9KOHmg/gであった。
【0026】
製造例2(オキシエチレン化反応)
製造例1で得られたポリオキシオクチレン450gと水酸化カリウム1.5gを5L容オートクレーブに仕込み、乾燥窒素で置換した後、撹拌しながら140℃で水酸化カリウムを完全に溶解した。引き続き、140℃、0.2〜0.5MPa(ゲージ圧)にて、滴下装置よりエチレンオキシド300gを滴下し、2時間撹拌した。その後オートクレーブより反応物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を100℃で1時間処理することで除去した。更に処理後精製した塩を除去するためにろ過を行い、化合物1を得た。水酸基価は48.6KOHmg/gであった。
【0027】
本発明者らは、上記製造例に準じて、下記表1のアルキレンオキシド誘導体である化合物2〜9を合成した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の化合物1〜11について、表2のように配合して可溶化状態を確認した。
【0030】
<可溶化状態確認>
系が可溶化状態であることは、以下の方法に従って確認した。すなわち、吸光度測定器;分光光度計(JASCO)V−530を用いて、25℃、600nmの波長を有する可視光の1cmセルの透過率%を測定し、透過率90%以上を良好とした。
◎:透過率95%以上
○:透過率90%以上95%未満
△:透過率80%以上90%未満
×:透過率50%以上80%未満
××:透過率50%未満
<組成物>
d−δ−トコフェロール 0.05質量%
可溶化剤 表2参照
エタノール 5.0質量%
水 残部
【0031】
【表2】

【0032】
表2において、化合物5〜7及び9は、(A)/(B)=20としてもトコフェロールを可溶化することができず、化合物8は(A)/(B)=20とすると可溶化したが、(A)/(B)=10では良好な可溶化状態とならなかった。
化合物5はランダム付加であり、化合物6及び7は親水基と親油基の双方を有しないためであり、化合物9は親水基と親油基を有するが、親油基がオキシプロピレン基では不充分であった。また、化合物8も可溶化力が弱いため、良好な可溶化状態とするには、添加量を多くしなければいけない。それに対し、本発明品である化合物1〜4、化合物10及び11は(A)/(B)=10で良好な可溶化状態となった。
【0033】
可溶化状態が良好な結果となった表1の化合物1〜4、8、10、11について、表3、4のように配合した化粧水を製造し、官能評価(製造時の感触及び、使用後のべたつき)及び安定性評価を行った。アルキレンオキシド誘導体とトコフェロールとの配合割合は、上記可溶化状態を確認した割合に従った。実施例の可溶化安定性はすべて良好となった。評価結果を表3、4に併せて示す。
【0034】
<使用時の感触>
製造直後の化粧水について、使用時の感触は以下の方法に従って行った。すなわち、20名の専門女性パネラーにより、洗顔した後に化粧水を使用したときの感触について下記のように5段階で判定し、20名の平均値を求めて、平均値3.5以上を使用時の感触のよい化粧水であると判断した。
5:使用時に肌へのなじみが非常に良好で、とても軽い感触である。
4:使用時に肌へのなじみが良好で、軽い感触である。
3:使用時に肌へのなじみがやや良好で、やや軽い感触である。
2:使用時に肌へのなじみがやや良好で、若干重い感触である。
1:使用時に肌へのなじみが悪く、重い感触である。

【0035】
<使用後のべたつき>
調製直後の化粧水について、使用10分後のべたつきを以下の方法によって判定した。すなわち、20名の専門女性パネラーにより、洗顔した後に化粧水を使用した後、10分経ったときのべたつきについて下記のように5段階で判定し、20名の平均値を求めて、平均値3.5以上をべたつきのない化粧水であると判断した。
5:肌が全くべたつかないと感じる。
4:肌がべたつかないと感じる。
3:肌がややべたつくと感じる。
2:肌がべたつくと感じる。
1:肌がべたつくとはっきりと感じる。
【0036】
表3のように、実施例1〜4は官能評価すべてにおいて良好な結果が得られた。表4では、比較例1は可溶化させるために高配合したことにより感触が低下した。比較例2、3は使用時の感触が劣る、又はべたつきを感じられた。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体からなる可溶化剤。

HO−(EO)a−(AO)n−(EO)b−H (I)

(式中、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数8〜12の1種又は2種以上のオキシアルキレン基であり、AOが2種以上の場合は、ブロック状付加又はランダム状付加であってもよく、AOとEOの付加形態はブロック状である。a及びbは前記オキシエチレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、10≦a+b≦300、2≦n≦50、及び0.75≦(a+b)/(a+b+n)≦0.99の関係を有する。)
【請求項2】
AOが炭素数8〜10のオキシアルキレン基である、請求項1に記載の可溶化剤。
【請求項3】
(A) 請求項1又は2記載のアルキレンオキシド誘導体を0.01〜50質量%
(B) 油性成分を0.001〜10質量%
含有し、成分(A)及び(B)の質量割合が(A)/(B)=0.1〜20である、可溶化組成物。

【公開番号】特開2011−195522(P2011−195522A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65488(P2010−65488)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】