説明

アルキレンカーボネートの製造方法

【課題】本発明は、アルキレンオキサイドと二酸化炭素を触媒の存在下に反応させてアルキレンカーボネートを製造するプロセスであって、爆発の可能性を回避しつつ、少ないブローダウン量であっても、長期間安定して運転できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】化学式(1)で表されるアルキレンオキサイドと二酸化炭素から、触媒の存在下、化学式(2)で表されるアルキレンカーボネートを製造するプロセスにあって、
a.反応温度が、アルキレンオキサイドの臨界温度以下であり、
b.アルキレンオキサイドの転化率が95%以上であり、
c.反応混合物から、未反応のアルキレンオキサイドと二酸化炭素の混合物を分離するに際して、該混合物中のアルキレンオキサイドのモル比(C)が、80%以下に維持され、
d.該未反応アルキレンオキサイドの処理方法が、水に吸収させる工程を含むこと
を特徴とするアルキレンカーボネートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキサイドと二酸化炭素から触媒の存在下、安全にアルキレンカーボネートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレンオキサイドと二酸化炭素からアルキレンカーボネートを合成する反応(以下しばしば本反応と略記する)は、その有用性から多くの検討がなされている。特に、化学的に最も安定な化合物の一つである二酸化炭素を反応させなければならないため、触媒に関して活発な検討が続けられている(例えば、特許文献1〜5)。
一方、本反応を工業的に実施するための検討も進められており、反応器の運転条件(特許文献6)、触媒の回収方法(特許文献7)、高収率を得るための反応器の種類と組み合わせ法(特許文献8)、製造したアルキレンカーボネートからアルキレングリコールを製造するプロセスまで含めたプロセス検討(特許文献9)などが挙げられる。
【0003】
さて、化学反応を工業プロセスに組む場合に最も注意を払わなければいけない観点は安全である。特に、本反応は、実施例でも述べるように、エチレンオキサイドを用いる場合が多い訳であるが、エチレンオキサイドのように極めて自己燃焼性(爆発性)の高い化合物を取り扱う場合には、何重にも安全対策を取り入れ、大型化学プラントの爆発という激甚災害を絶対に起こさない技術開発が必須である。
これほど重要な技術課題にも関わらず、上記先行文献等では、技術課題は、製品収率、操業の安定性、装置の簡便さ等の経済性が優先され、安全に関する記述は思いのほか少なく、わずかに特許文献8に、「安全上の理由から二酸化炭素分圧を高める必要がある」という記載があるのみで、具体的な記述は一行もない。
【0004】
このような危険な化合物の反応を扱う際の鉄則は、まずは反応で消滅させてしまうことであり、高い転化率を維持して排出されるアルキレンオキサイドの濃度と量を減らしてしまうことが大原則である。
ところが、例えばエチレンオキサイドの場合では、このような高転化率の条件で反応を行うと、アセトアルデヒドやグリコールの副生も顕著と成る。これらアルデヒドやグリコールは、エチレンオキサイドやエチレンカーボネートの重合を誘発して、エチレンカーボネートの収率を下げてしまうという不都合があった。
さて、本反応の製造プロセスでは、反応器出口混合物からアルキレンカーボネート、未反応のアルキレンオキサイド、未反応の二酸化炭素を分離した後の、触媒を含む残液を反応器に戻して再利用する。
【0005】
このリサイクル液には上記で説明したポリマー様の化合物が含まれていて、これが系内に蓄積したり、リサイクルを繰返すうちに触媒を劣化させたりするため、通常、本反応では、ある割合でリサイクル液を系外に抜き出して(以下しばしばブローダウンと呼ぶ)、ポリマー様化合物を反応系から除去するとともに、劣化した触媒の入替えを行い、長期間の連続運転を達成する。例えば、非特許文献1には、ブローダウンの比率として30%が望ましいと記載されている。しかしながら、これでは、工業プロセスとしてはブローダウン比率が大きいうえに、許容範囲も示されておらず、不充分な開示に止まっていた。
【0006】
運転期間を長く取ろうとすれば、抜き出す量を増やして、なるべくポリマー様化合物の蓄積を抑え、触媒は劣化するはしから速やかに抜き出して新しい触媒を追添すればよい訳であるが、抜き出す混合物の量が多ければ多いほど、ポリマー成分を廃棄したり、劣化触媒を再生したりといった処理が煩雑になり好ましくない。逆に抜き出す量を少なくすれば、抜き出した混合物の処理負担は軽減されるが、ポリマー様化合物が反応系に過度に蓄積して、熱交換器の伝面に付着して除熱効率を下げたりして、長期間の連続運転ができなくなり好ましくない。このように、ブローダウン量を減らすこと、すなわち、廃棄物量を減らすことと、長時間連続運転することは、相反する要求であった。
すなわち、爆発の可能性を回避しつつ、少ない廃棄物量で、長時間安定してプラントを運転する技術開発が求められていた。
【0007】
【特許文献1】特開平7−206846号公報
【特許文献2】特開平7−206847号公報
【特許文献3】特開平7−206848号公報
【特許文献4】特開平8−53396号公報
【特許文献5】米国特許第5095124号
【特許文献6】特開昭54−98765号公報
【特許文献7】特開平02−32045号公報
【特許文献8】特開昭50−14632号公報
【特許文献9】特開昭57−106631号公報
【非特許文献1】W. J. Peppel、Preparation and Properties of the AlkyleneCarbonates、Industrial and Engineering Chemistry、米国、John Wiley& Sons Inc.、1958年5月、Vol.50、No.5、767〜770頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アルキレンオキサイドと二酸化炭素を触媒の存在下に反応させてアルキレンカーボネートを製造するプロセスであって、爆発の可能性を回避しつつ、少ないブローダウン量であっても、長期間安定して運転できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた。
まず、反応条件、特に反応温度について詳細に調べた。本反応に好ましい反応温度は、上記文献等より、おおよそ100〜200℃とされ(特許文献6〜9)、200℃を超えると副生成物が増えるとされていた(特許文献6)。本発明者らは、この副生成物を詳細に分析した結果、200℃より低い反応温度ではポリグリコール、ポリ炭酸エステルなどの透明で粘調な重合物がほとんどであったのに対して、200℃よりも高い反応温度では、重合物の量が多くなったのみならず、若干茶色や黒色に変色した重合物が副生して得られる場合があり、局所的に高温部分があることが示唆された。
そして、この現象を詳細に調べた結果、このような副生成物の変化は、アルキレンオキサイドの臨界温度を境にして起こっていることが推定され、本発明の端緒を得た。
【0010】
一方、本反応は、有機合成反応としては破格に高い転化率と選択率を示す優れた反応ではあるが、それでも未反応のアルキレンオキサイドや二酸化炭素は発生するため、アルキレンカーボネートと分離しなければならない。
現在工業化、あるいは技術開示されている本反応プロセスでは、この分離操作には一様にフラッシュタンクを用いており、本発明者らも同様の装置で検討をしていたが、このフラッシュタンクからの排出ガスの組成を調べたところ、例えば、エチレンオキサイドの場合ならば、エチレンオキサイドの濃度が、エチレンオキサイド/二酸化炭素系における爆発限界である80体積%には入っていなかったものの、エチレンオキサイド/空気系における爆発限界である3体積%ははるかに超えており、この排出ガスは、絶対に空気に触れさせてはいけないことがわかった。そこで、第一に、この排出ガスの含まれるアルキレンオキサイドの割合を下げるべく、アルキレンオキサイド転化率の下限を規定し、次に、この排出ガスを、空気に触れさせること無く、不活性ガスなどを添加して、爆発の可能性を回避しつつ無害化する方法を検討した。
【0011】
ところが、これらの安全対策を打ったところ、驚くべきことに、リサイクル液の液性が安定したのみならず、触媒の劣化度合いも低減し、抜き出し量を少なくしても、安定操業期間を大幅に伸ばせることが判り、相反する要求を同時に満たす顕著な効果を見出すに至った。そして、これらの知見を総合して、さらには、プラント設計における安全係数と呼ばれる操業条件の決定方法、安全対策の多重化も組み込み本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
1.化学式(1)で表されるアルキレンオキサイドと二酸化炭素から、触媒の存在下、化学式(2)で表されるアルキレンカーボネートを製造するプロセスにあって、
a.反応温度が、アルキレンオキサイドの臨界温度以下であり、
b.アルキレンオキサイドの転化率が95%以上であり、
c.反応混合物から、未反応のアルキレンオキサイドと二酸化炭素の混合物を分離するに際して、該混合物中のアルキレンオキサイドのモル比(C)が、80%以下に維持され、
d.該未反応アルキレンオキサイドの処理方法が、水に吸収させる工程を含むこと
を特徴とするアルキレンカーボネートの製造方法に係わる。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
(化学式(1)及び(2)において、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜8の鎖状炭化水素基、炭素数1〜8の脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、これらは同じであっても、異なっていてもよい)
【0015】
2.該モル比(C)が40%以下であることを特徴とする上記1記載のアルキレンカーボネートの製造方法に係わる。
3.該モル比(C)を所定の割合以下に維持する方法が、当該分離操作後の未反応アルキレンオキサイドと二酸化炭素の混合物に不活性ガスを吹き込むことを特徴とする上記1あるいは2記載のアルキレンカーボネートの製造方法に係わる。
4.該水に吸収させた未反応アルキレンオキサイドを無害化する工程が、酸を添加して反応させたのち、中和して活性汚泥処理する工程を含むことを特徴とする上記1〜3のいずれか記載のアルキレンカーボネートの製造方法に係わる。
5.該未反応アルキレンオキサイドを吸収させる水が、酸を含んでいることを特徴とする上記4記載のアルキレンオキサイドの製造方法に係わる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、アルキレンオキサイドと二酸化炭素を触媒の存在下に反応させてアルキレンカーボネートを製造するプロセスであって、爆発の可能性を回避しつつ、少ないブローダウン量であっても、長期間安定して運転できる方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の反応は、アルキレンオキサイドと二酸化炭素からアルキレンカーボネートを得るものである。
本発明で使用されるアルキレンオキサイドは、化学式(1)で表される化合物である。
このようなアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ビニルエチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド及びスチレンオキサイド等が挙げられ、特にエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドが入手の容易さなどの点で好ましい。これらのアルキレンオキサイドは、単独でも、また、複数種類を組み合わせて用いても良い。
【0018】
本発明により製造されるアルキレンカーボネートは、化学式(2)で表される化合物である。
アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、シクロヘキセンカーボネート及びスチレンカーボネート等が挙げられ、本発明は、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの製造に好ましく用いられる。
本発明で用いられる二酸化炭素は、工業的に入手可能なものが好ましく、天然ガス、発酵ガス、石油精製の副生ガス、アンモニア合成工程の副生ガスなどから得られる二酸化炭素が例示される。荷姿は、ガス状炭酸ガス、液化炭酸ガス、ドライアイスから選ばれるが、なかでもガス状炭酸ガスおよび液化炭酸ガスが、取り扱いの容易さから好ましく用いられる場合が多い。
【0019】
本発明に用いる触媒は、背景技術の項で説明したように、種々の触媒を用いることが可能であり、よく知られているテトラエチルアンモニウムブロマイド、カルボン酸型陽イオン交換樹脂、タングステン酸化物ないしはモリブデン酸化物を主体とするヘテロポリ酸、アルカリ金属のヨウ化物や臭化物などが例示される。なかでもハロゲン化アルカリが容易に入手できるなどの利点があり好ましく、アルカリ金属のヨウ化物は、反応混合物からの分離回収が容易であり、一般に安定であり、一層好ましい。
触媒濃度は、用いる触媒、反応条件、反応器の形状等により異なり、反応器中の濃度として、0.01〜5質量%に調整されるのが一般的である。
【0020】
本発明の反応方式は、気泡塔反応器、完全混合型反応器、完全混合型反応器を直列に用いた多段反応方式、プラグフロー反応器、完全混合反応器とプラグフロー反応器を組み合わせた方式等、一般的に用いられる反応方式を使用することができる。
本発明の要件の第一は反応温度である。
本発明では、反応温度は、用いるアルキレンオキサイドの臨界温度以下の温度でなければならない。臨界温度を越えて高い反応温度では、副生成物が増えて所望のアルキレンカーボネートの収率が落ちてしまうため好ましくない。
反応温度の下限は、一般に100℃付近とされる場合が多く、150℃以上であれば好ましい。
【0021】
本発明を実施するに当り、アルキレンカーボネートを合成する反応の、反応圧力は、通常、2〜15MPa、好ましくは4〜12MPaである。反応時間は、原料であるアルキレンオキサイドと二酸化炭素の組成比、アルキレンオキサイドの種類、使用触媒の種類と濃度、反応温度等によって異なり、例えば、エチレンオキサイドと二酸化炭素を完全混合反応器を用いて合成する場合には、反応器の滞留液量と全供給液量から求められる平均滞留時間を反応時間と定義すると、通常、0.5〜10Hr、好ましくは1〜5Hrである。
本発明を実施するに当り、原料であるアルキレンオキサイドと二酸化炭素の量比は、アルキレンオキサイドに対する二酸化炭素のモル比で表現して、通常、1〜5、好ましくは1〜2である。しかし、通常は反応器から余剰の二酸化炭素ガスを放出すると、同伴する未反応のアルキレンオキサイドも増えるので、反応器圧力が一定となるように二酸化炭素供給量を調整する方法が好ましい。
【0022】
本反応は、二酸化炭素の反応液への溶解が律速過程になる場合が圧倒的に多いため、溶解度を上げる目的で高圧反応が選ばれる場合が多い。二酸化炭素で高圧をかけることは、自己燃焼性(爆発性)のアルキレンオキサイドを、爆発限界を外して安全に反応させる目的からも好ましい。
また、二酸化炭素を反応液に溶解させるために、種々の反応器形式が考案されており、本発明で開示するシャワーノズル式や、エジェクター方式、気泡塔反応器などが例示され、ベンチュリー攪拌子を備えた完全混合槽反応器などを用いることも好ましい。
本反応は著しい発熱反応であり、反応熱の除去が重要である。種々の方式が提案されているが、一般的には、反応器の周りにジャケットを設けてオイルを流し、このオイルを熱交換器に通して除熱したり、反応器から反応混合物を一部抜き出し、熱交換器を通して冷ました反応混合物を再び反応器に戻して除熱したりする方式が用いられる場合が多い。
【0023】
反応を完全混合槽反応器で行う場合には、反応液中に二酸化炭素が溶解し易いように、大流量の反応液をポンプで循環する方法も好ましい。通常、単位時間当たりの循環回数は10〜50回/Hrであり、好ましくは20〜40回/Hrである。反応液をポンプ循環する配管の途中に熱交換器を設けて、反応熱の除去を行う場合には、大流量の循環を行うと、熱交換器の冷却能力が上がるので好ましい。
反応器等のプロセス液が通る部位の材質は、プロセス液に対する耐蝕性があれば使用可能である。鉄錆があるとその触媒作用によりアルキレンオキサイドの重合物の生成原因となるので、ステンレス鋼を用いるのが好ましい。
【0024】
本発明の第二の要件は、アルキレンオキサイドの転化率を95%以上とすることである。アルキレンオキサイドの転化率がこれよりも低いと、未反応アルキレンオキサイドを分離した際に、アルキレンオキサイドの濃度が爆発範囲に入ってしまう可能性が高くなるため好ましくない。
本発明では、反応器出口混合物から、まず未反応のアルキレンオキサイド、未反応の二酸化炭素を除去するが、この工程では、フラッシュタンクや段数の小さな簡便な蒸留塔などが用いられる場合が多く、本発明者らも、フラッシュタンクを用いて検討を行った。
フラッシュタンクの運転条件は、反応温度および反応圧力によってフラッシュ後の混合物の温度と圧力が決まるが、引き続く蒸留工程との熱量や圧力のバランスを考慮して、若干の調整をする場合が多い。エチレンオキサイドを用いる場合は、一般に100〜150℃、300〜2000Torrという条件が選ばれる場合が多い。
転化率として95%以上を達成する方法は種々あるため、そのうちのいくつかを例示する。
【0025】
活性の優れた触媒を用いることは重要であり、本発明の実施例で用いたヨウ化カリウム、一般的によく用いられるテトラエチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられ、これらを組み合わせて用いることも好ましい。
アルキレンオキサイドの転化率を上げるには、一般には反応時間を長くする方法がよく知られているが、逆にアルキレンカーボネート選択性は下がってしまう恨みがあるため、転化率を高く維持したままで、選択性を高く維持する方法としては、反応器を、一段で高い転化率を達成するのではなく、多段にして、いたずらに反応時間を延ばすことなく選択性を上げる方法も好ましい。また、完全混合型反応器を用いる場合には、反応器出口に、フィニッシャーと呼ばれる小型のピストンフロー型反応器を取り付けておき、転化率を稼ぐ方法も好ましい。
【0026】
原料の純度も重要であって、用いるアルキレンオキサイド、用いる二酸化炭素は、精製したものであることが好ましい。アルキレンオキサイドには、一般に、対応するグリコール、対応するアルデヒド、炭素数の一つ少ないアルデヒドなどが含まれる。また、アルケンの酸化反応によってアルキレンオキサイドを製造する工程においては、反応ガスを水で吸収させる工程を用いる場合が多いため、水分を含む場合もある。二酸化炭素の不純物は、その供給元によって異なるため、一概には例示できないが、例えば、アンモニア製造工程で副生する二酸化炭素の場合、最も多く含まれる不純物は水分である。これら水分は、アルキレンオキサイドと二酸化炭素の反応を著しく促進する効果があることがよく知られている(米国特許第4786741号明細書)。水があるとグリコールの副生も促進してしまうため、適切な水の量比を求める必要はあるが、水を共存させる方法も好ましく例示される。
【0027】
反応器から抜き出した混合物は、まず、未反応のアルキレンオキサイドと二酸化炭素を分離する。この工程で排出される混合物は、未反応アルキレンオキサイドを相当量含むため、爆発の可能性が高く、慎重に取り扱い、確実に無害化しなければならない。
本発明の要件の第三は、該混合物中のアルキレンオキサイドの濃度を80モル%以下にすることである。例えば、エチレンオキサイド/二酸化炭素系の爆発限界は上記分離工程の運転温度である100〜150℃では、エチレンオキサイド濃度として約80%であることが知られている(橋口 東京工業試験所報告、1965年、Vol.60、No.3、85頁)。
しかしながら、実際のプラント運転では、例えば急な停電で反応器の温度が下がる、二酸化炭素供給ポンプが故障するなど、なんらかの原因でアルキレンオキサイドの転化率が下がり、未反応のアルキレンオキサイドが安全な範囲を越えて大量に排出される場合も現実問題として想定されるため、爆発限界ギリギリの80%で操業する場合は少ない。
【0028】
このような非定常運転を予想して、安全係数として少なくとも2を見込むことが一般的であり、これに照らして、上記分離工程におけるアルキレンオキサイドの濃度は40%以下が好ましい。
このように、上記分離工程におけるアルキレンオキサイドの濃度を下げる方法としては、まずはアルキレンオキサイドの転化率を上げて未反応分を減らすことが挙げられる訳であるが、上記分離工程に不活性ガスを吹き込み、濃度を下げる方法も好ましく例示される。
吹き込むガスは、二酸化炭素、チッソ、不活性ガスなどの不燃性ガスが好ましい。
【0029】
これらのガスを吹き込む設備を有しておくことは、緊急事態が発生して、上記分離工程が爆発限界に突入しそうになった場合に、即座に対応できる点からも好ましい。
さらに、例えば、エチレンオキサイドの場合、空気中での爆発範囲はエチレンオキサイドの濃度として3〜100%であり、上記分離工程で排出された混合物は、大量の二酸化炭素中だから爆発の可能性がないだけであって、絶対に空気に触れてはいけない混合物である。
本発明の第四の要件は、上記分離工程で分離した混合物を水に吸収させることであり、これは、その後の処理を安全に行うために、絶対に必須な要件である。
【0030】
吸収させる媒体は、不燃性液体であればよい訳であるが、水が最も簡便に入手でき好ましい。
水に吸収させた後の処理方法としては、アルキレンオキサイドを希硫酸などで対応するグリコールに無害化したのち吸収水を活性汚泥などで処理する方法、無害化したのち吸着剤などで除去する方法、水中に空気を吹き込みながら湿式燃焼で無害化する方法などが例示される。なかでも、アルキレンオキサイドを酸でグリコールに無害化したのち、活性汚泥処理する方法は好ましく例示される。また、吸収させる液として、水の代わりに希硫酸を用いることも簡便で好ましい実施様態である。
【0031】
爆発の可能性を回避する方法としては、他にもいくつかの手段が例示でき、これらの手段を多重に用いることは、安全確保の信頼性を一層高められ好ましい。
もしも万が一、急激な燃焼が始まったとしても、それがプラント全体に広がらないように、配管の要所に金網を詰めて火炎伝播体積以下になる個所を設けることは好ましい。このために用いる素材としては、金網や金属たわし、硝子ビーズなどの不燃性の充填物が挙げられる。
さらに、燃焼はラジカルの連鎖反応であるため、ラジカルの壁面消失を促す目的で、表面積の大きな素材を配管の要所に設けておくことも有効である。例えば、セラミックス製ハニカムや、シリカやアルミナなどの表面積の大きな多孔質無機粒子が挙げられる。
【0032】
また、貯槽などの、特に気相部分には可燃性ガスが充満することになるため、窒素や炭酸ガス、不活性ガスなどを吹き込んで、爆発範囲を下限で外しておくことが好ましい。
未反応のアルキレンオキサイドと二酸化炭素を分離した後の混合物は、主としてアルキレンカーボネートを含むため、蒸留などの適切な手段により、アルキレンカーボネートを製品として取り出すことができる。
上記混合物には、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンカーボネートなど、アルキレンカーボネートよりも沸点のはるかに高いポリマー様の高沸物を含むため、蒸留法を用いる場合は、薄膜蒸留法を用いるとよい。蒸留条件は、100〜150℃、1〜100Torrの範囲で選ばれる場合が多い。
【0033】
また、アルキレンカーボネートはアルキレンオキサイドと二酸化炭素を溶解している場合が多く、蒸留工程後、製品貯槽に貯めるまでに、溶解していたアルキレンオキサイドが放出される場合がある。この場合も、放出ガス中のアルキレンオキサイドの濃度は80%以下でなければならず、40%以下であることが好ましい。アルキレンカーボネートに対する溶解度を考慮するならば、例えば、エチレンオキサイドと二酸化炭素のエチレンカーボネートへの溶解度比は、およそ2:3程度なので、該排出ガス中のエチレンオキサイドの濃度は約40%である。
このようにして得られたアルキレンカーボネートは、凝固点が25℃と同じくらいかそれよりも高い場合が多いため、液体で貯蔵する場合は、該凝固点以上の温度で貯蔵する必要がある。
【0034】
また、アルキレンカーボネートを含む混合物が流れる配管では、アルキレンカーボネートの析出を防ぐために、配管を加熱、保温することが好ましく、一般には40〜100℃の温度範囲が選ばれることが多い。
このようにして得られたアルキレンカーボネートは、一般に安定で、毒性の無い、極性の大きな化合物であり、水や有機溶剤とよく混合し、高分子物質に対しても、一般に優れた溶解性を示す。そのため、有機溶剤として広範囲に用いられるのみならず、活性水素を有する化合物に対して、開環付加反応、開環縮合反応を行うため、有機合成原料としても有用である。また、二次電池用電解液としての用途にも好ましく用いることができる。
具体的な用途としては、有機溶剤、ポリマー溶剤、ヒドロキシアルキル化剤、リチウム二次電池用電解液、医薬品、アクリル繊維加工剤、土壌硬化剤などに用いられ、芳香族ポリカーボネート原料としての炭酸ジエステルを製造する原料としても、好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
図1を用いて本発明を具体的に説明する。
図1はアルキレンカーボネート製造プロセスを示すフロー図である。
反応器11は、内径10cmΦ、直胴部長さ250cm、容量20Lで、反応器上部に二酸化炭素の吸収効率を高める液分散ノズルを持った、ステンレス製の縦型円塔槽である。
なお、配管14と16の分岐から調整弁までの間に、フィニッシャーを設けたが、記載は省略した。
原料として、約5℃に冷却されたエチレンオキサイドを、原料配管1からエチレンオキサイドポンプ4に供給し、そこで2650g/hをポンプで昇圧し、エチレンオキサイド供給配管8から反応器循環配管14に供給した。もう一方の原料である二酸化炭素として、液化二酸化炭素を原料配管3から二酸化炭素供給ポンプ6に供給した。そこで昇圧させ、温水浴型の二酸化炭素蒸発器7でガス化させ、約90℃の温度で二酸化炭素供給配管10から反応器上部の気相部に約9.5MPaの一定圧力となるよう調節して供給した。平均的な二酸化炭素供給量は2870g/hであった。
【0036】
触媒には、沃化カリウム(KI)を用い、エチレンカーボネート溶液に5wt%となるように調合した。フレッシュ触媒は、触媒配管2から触媒供給ポンプ5に供給し、触媒供給配管9から反応器循環配管14に供給した。エチレンカーボネート精製工程で回収した触媒を含む混合物は、配管24を通じて、触媒供給ポンプ25に送り、反応器循環配管14に供給した。
エチレンカーボネート精製工程で回収した触媒とフレッシュ触媒の割合は、それぞれ9部及び1部として、反応器循環液中の沃化カリウム濃度が0.23〜0.26wt%となるように設定した。
【0037】
反応器内の液保有量が14.5kgで一定となるように、送り出し配管16の調節弁を調整して、抜き出した混合物は、まずフラッシュタンク18に供給し、未反応のエチレンオキサイド、未反応の二酸化炭素、微量のエチレンカーボネートをガスとして配管17から系外に排出した。フラッシュタンクの作動条件は、常圧、130℃であった。
さらに、フラッシュタンク18の底部より、主にエチレンカーボネートを含む混合物を配管19を通して抜き出し、エチレンカーボネート回収塔21に導入した。エチレンカーボネート回収塔は、160℃、49Torrに制御された薄膜蒸留器である。エチレンカーボネートは蒸留器21より配管20を通して抜き出し、触媒、高沸物を含む混合物は蒸留塔より配管22を通して抜き出した。この一部を、配管23を通して系外に排出した。
【0038】
[実施例1]
各配管の流量と組成を表1にまとめた。
反応温度は、180℃とした。エチレンオキサイドの臨界温度は196℃である。
エチレンオキサイド、エチレンカーボネート、二酸化炭素、ヨウ化カリウムはそれぞれ、EO、EC、CO2、KIと略記した。配管16の値は、フィニッシャー以降の混合物の分析結果である。
配管17から系外に排出されたガス、および、配管20から抜き出される製品エチレンカーボネートに若干含まれるエチレンオキサイドと二酸化炭素を、50℃に設定したスクラバーで、0.1モル/Lの希硫酸水溶液に吸収させて、エチレンオキサイドをエチレングリコールに無害化したのち、苛性ソーダで中和して活性汚泥処理した。スクラバーには、内径26cmΦ、直胴部長さ120cmの吸収塔を用いた。
上記条件で、配管23から排出されるブローダウン量は約11%で、2700時間の連続運転を達成した。ブローダウンした液に着色は無く、運転終了後の開放点検でも、反応器や熱交換器に付着物はほとんど見られなかった。
【0039】
[比較例1]
反応温度を200℃、反応圧力を3.5MPaとした以外は、実施例1と同様の運転を行った。EO転化率はほぼ100%であった。
反応時間400時間あたりから、反応温度の上昇が始まり、熱交換器での伝熱低下が推定されたため、430時間で運転を停止した。配管23より抜き出した液は薄く茶色に変色しており、熱交換器を開放点検したところ、伝面に茶色〜黒色の付着物が一面に付着していた。
【0040】
[比較例2]
反応温度を200℃から、徐々に190℃まで下げた以外は、比較例1と同様の運転を行った。190℃で反応成績が安定した時点で、EO転化率は約80%であった。
スクラバー出口でEO濃度をモニターしながら、EO濃度が爆発限界の3%以上にならないように慎重に実験を行ったが、実施例1で用いたスクラバー1基では処理能力が足りず、結局、スクラバー出口ガスに大量の窒素を吹き込んで爆発の可能性を回避した。
配管23からブローダウンした液に着色は無く、運転終了後の開放点検でも、反応器や熱交換器に付着物はほとんど見られなかった。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、溶媒、有機合成原料、二次電池電解液として有用なアルキレンカーボネートを製造する際の、爆発の可能性を回避しつつ、廃棄物が少なく、長時間連続が可能な製造方法として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】アルキレンカーボネート製造プロセスを示すフロー図。
【符号の説明】
【0044】
1、2、3、8、9、10、12、14、15 配管
16、17、19、20、22、23、24、26 配管
4、5、6、13、25 ポンプ
7 熱交換器
11 反応器
18 フラッシュタンク
21 薄膜蒸留器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)で表されるアルキレンオキサイドと二酸化炭素から、触媒の存在下に反応させ、化学式(2)で表されるアルキレンカーボネートを製造するプロセスにあって、
a.反応温度が、アルキレンオキサイドの臨界温度以下であり、
b.アルキレンオキサイドの転化率が95%以上であり、
c.反応混合物から、未反応のアルキレンオキサイドと二酸化炭素の混合物を分離するに際して、該混合物中のアルキレンオキサイドのモル比(C)が、80%以下に維持され、
d.該未反応アルキレンオキサイドの処理方法が、水に吸収させる工程を含むこと
を特徴とするアルキレンカーボネートの製造方法。
【化1】

【化2】

(化学式(1)及び(2)において、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜8の鎖状炭化水素基、炭素数1〜8の脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、これらは同じであっても、異なっていてもよい)
【請求項2】
該モル比(C)が40%以下であることを特徴とする請求項1記載のアルキレンカーボネートの製造方法。
【請求項3】
該モル比(C)を所定の割合以下に維持する方法が、当該分離操作後の未反応アルキレンオキサイドと二酸化炭素の混合物に不活性ガスを吹き込むことを特徴とする請求項1あるいは2記載のアルキレンカーボネートの製造方法。
【請求項4】
該水に吸収させた未反応アルキレンオキサイドを無害化する工程が、酸を添加して反応させたのち、中和して活性汚泥処理する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のアルキレンカーボネートの製造方法。
【請求項5】
該未反応アルキレンオキサイドを吸収させる水が、酸を含んでいることを特徴とする請求項4記載のアルキレンオキサイドの製造方法。

【図1】
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