説明

アルギナーゼ製剤および方法

血清残存性の高いアルギナーゼバリアントを生成するための方法および組成物が提供される。例えば、ある特定の局面では、ペグ化されたアルギナーゼを精製する方法が記載される。さらに、本発明は、安定化されたアルギナーゼ多量体またはその薬学的組成物を提供する。第1の実施形態において、本発明は、安定化されたアルギナーゼを形成するために結合体化された少なくとも2つのアルギナーゼ単量体を含む安定化された多量体アルギナーゼを含み、その多量体アルギナーゼは、安定化されたヒトアルギナーゼ(例えば、安定化されたヒトアルギナーゼIまたはヒトアルギナーゼII)としてさらに定義され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、概してタンパク質治療薬の分野に関する。より詳細には、本発明は、ヒトにおける長い安定性および残存性について改変されたヒトアルギナーゼを生成するための改善された方法および組成物に関係する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
50年超にわたって、ある特定の腫瘍細胞が、L−アルギニンを強く要求すること、およびL−アルギニン枯渇条件下において死滅することが認識されている(特許文献1(Wheatley and Campbell,2002))。ヒト細胞では、L−アルギニンは、2工程で合成される:まず、アルギニノコハク酸合成酵素(ASS)がL−シトルリンおよびL−アスパラギン酸をアルギニノコハク酸に変換し、続いて、アルギニノコハク酸リアーゼによってアルギニノコハク酸がL−アルギニンおよびフマル酸に変換される。L−シトルリン自体は、オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)酵素によってL−オルニチンおよびカルバモイルリン酸から合成される。多数の肝細胞癌腫、メラノーマ、および最近発見された腎細胞癌腫(特許文献2(Ensorら、2002);特許文献3(Feunら、2007);特許文献4(Yoonら、2007))は、ASSを発現せず、ゆえに、L−アルギニン枯渇に感受性である。ASS発現を欠くことについての分子基盤は、多様であるとみられ、異常な遺伝子制御およびスプライシングの欠陥を含む。非悪性細胞では、L−アルギニンが枯渇したら休止期(G)に入り、数週間生存可能なままであるのに対し、腫瘍細胞は、細胞周期に欠陥があり、それにより、タンパク質合成が阻害されているとしてもDNA合成を再開し、その結果、大きな不均衡および急速な細胞死がもたらされる(非特許文献5(Shenら、2006);非特許文献6(Scottら、2000))。HCC、メラノーマおよび他のASS欠乏癌細胞に対するL−アルギニン枯渇の選択的な毒性は、インビトロ、異種移植片動物モデルおよび臨床試験において広く証明されている(非特許文献5:IShenら、2006;非特許文献2:Ensorら、2002;非特許文献3(Feunら、2007);非特許文献7(Izzoら、2004))。近年、Chengら(2007)(非特許文献8)は、多くのHCC細胞ではオルニチントランスカルバミラーゼの発現にも欠陥があり、ゆえに、それらの細胞は、酵素的なL−アルギニン枯渇にも影響されやすいことを証明した。
【0003】
癌治療にL−アルギニン加水分解酵素を使用することに関心が寄せられている。2つのL−アルギニン分解酵素:細菌のアルギニンデイミナーゼおよびヒトのアルギナーゼが、癌治療に対して研究されている。残念なことに、これらの酵素の両方ともが、臨床上の使用を大きく妨害する重大な欠点を示す(それぞれ、免疫原性および血清中での低触媒活性)。したがって、L−アルギニン枯渇癌治療用の改善された組成物および方法を開発する必要があり、特に、循環中の長い残存性をはじめとしたヒトにおける好ましい薬物動態を示す、L−アルギニン枯渇療法用の治療薬を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Wheatley and Campbell, Pathol. Oncol. Res., 8:18−25, 2002.
【非特許文献2】Ensor et al., Cancer Res., 62:5443−5450, 2002.
【非特許文献3】Feun et al., J. Neurooncol., 82:177−181, 2007.
【非特許文献4】Yoon et al., Int. J. Cancer, 120:897−905, 2007.
【非特許文献5】Shen et al., Cancer Lett., 231:30−35, 2006.
【非特許文献6】Scott et al., Br. J. Cancer, 83:800−810, 2000.
【非特許文献7】Izzo et al., J. Clin. Oncol., 22:1815−1822, 2004.
【非特許文献8】Cheng et al., Cancer Res., 67:4869−4877, 2007.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、癌治療により適した、高い循環残存性を備えたアルギナーゼバリアントを調製する方法および組成物を提供することによって当該分野における主要な欠点を克服する。第1の実施形態において、本発明は、安定化されたアルギナーゼを形成するために結合体化された少なくとも2つのアルギナーゼ単量体を含む安定化された多量体アルギナーゼを含み、その多量体アルギナーゼは、安定化されたヒトアルギナーゼ(例えば、安定化されたヒトアルギナーゼIまたはヒトアルギナーゼII)としてさらに定義され得る。さらなる実施形態において、安定化されたアルギナーゼは、その金属補因子としてコバルトを含むことにより、L−アルギニンの加水分解の速度および血清中のその酵素の安定性をさらに改善し得る。好ましくは、安定化されたアルギナーゼは、少なくとも2つのアルギナーゼ単量体が、1つ以上の単量体の間に位置する1つ以上の可撓性リンカー(例えば、[(Gly)−Ser](n=反復数)リンカーまたは当該分野で公知の他の任意のペプチドリンカー)を含む直鎖状のポリペプチドとして融合された、融合タンパク質としてさらに定義され得る。その融合タンパク質の配列の1つの例は、配列番号4によってコードされる配列番号3に示され得る。あるいは、上記単量体が化学的に結合体化されることにより、そのような安定化された多量体アルギナーゼが形成され得る。安定化されたアルギナーゼは、腎臓の濾過に対するカットオフを超える高分子量を達成するために2〜4個のアルギナーゼ単量体を含み得、安定化された三量体の形態は、一例であり得る。
【0006】
本発明はまた、長い半減期および高度の均一性を示すアルギナーゼ製剤、例えば、C末端またはN末端の操作されたCys残基(an engineered Cys residue)をペグ化したヒトアルギナーゼを含むアルギナーゼ製剤も開示する。ポリエチレングリコール(PEG)へのタンパク質の結合体化またはペグ化は、タンパク質治療薬の分子量を増加させて、腎臓による濾過を妨害することによって循環中の保持を高めるために、当該分野において広く使用されている。タンパク質のペグ化は、タンパク質内の1つ以上の反応基、代表的には−NH、COOH、−OHまたは−SH基に対する、適切なサイズのPEG分子の化学的結合体化を含む。タンパク質は、代表的には複数の−NH、−COOHまたは−OH反応基を含むがゆえに、PEGの化学的結合体化によって、様々な反応基に付着された1つまたは複数のPEG鎖を含むポリペプチドからなる不均一なタンパク質サンプルが生成される。そのような不均一にPEG化されたタンパク質は、複雑な薬理学的特性および安定性を示すがゆえに、一般に、治療上の目的では望ましくない。しかしながら、多くのタンパク質が、1つも−SH反応基を含まない。そのような場合、そのタンパク質を操作する(engineer)ことにより、代表的には、C末端またはN末端に、露出されるCys残基を導入することが可能である。操作されたCysアミノ酸は、タンパク質に単一の反応性−SH基を与える。次いで、その単一の−SHは、−SH特異的PEG部分と反応することができ、化学的に均一な(homogenous)タンパク質−PEG結合体が形成される。特定のaaにおける単一のPEG分子との反応によってタンパク質が改変されるプロセスは、部位特異的PEG化と呼ばれる。ヒトアルギナーゼIは、3つのCys残基を含むが、しかしながらそれらは、その天然のタンパク質の3次元構造の内部に部分的にまたは完全に埋まっている。
【0007】
本発明者らは、ヒトアルギナーゼ内の3つの天然のCysが、−SH反応性PEG分子による改変を比較的行いにくいことを見出した。本発明者らはさらに、ヒトアルギナーゼ内の3つの天然のCys aaの1つ以上の改変は手間取り、酵素が失活することも見出した。本発明者らはまた、操作する場合に、利用できるCysをタンパク質の末端に導入し、そのCysは、活性を失うことなく−SH反応性PEGポリマーと容易に反応し得ることも見出した。さらに、本発明者らは、末端にCysを含む操作されたヒトアルギナーゼが、長時間にわたって過剰量の−SH反応性PEG分子と反応するとき、反応の程度が100%近くまで上昇するが、これらの条件下ではタンパク質内の埋まっている天然のCys残基も改変されるようになり、よってそのタンパク質はほとんど不活性化されることを見出した。本発明者らは、末端にCysを含む操作されたヒトアルギナーゼと、低化学量論的に過剰量の−SH特異的PEGとの、短い時間にわたる反応が、タンパク質の不活性化を妨害することに気付いた。しかしながら、それらの条件下では、反応の程度、すなわち、PEG化されたCys含有ヒトアルギナーゼの程度は、100%未満、代表的には40〜70%である。
【0008】
ヒトアルギナーゼIは、インビボにおいて三量体−単量体平衡を起こす3つの同一のポリペプチドを含む三量体である。酵素活性を完全に保持する条件下でのPEG結合体化は、すべての単量体ポリペプチドがPEGと反応した三量体を含むヒトアルギナーゼ三量体と2つまたは1つだけの単量体ポリペプチドがPEGと反応した三量体との混合物を形成する。3つすべてのポリペプチドがPEGに結合体化された三量体は、治療上の目的にとって望ましい。1つ以上のペグ化されていないポリペプチドを含む三量体は、腎臓での濾過を受けやすいことがあり、短い半減期を示すことがある。構成している単量体の各々がPEGに結合体化された所望の三量体を、1つまたは2つだけがPEG化された単量体を含む三量体から標準的な生化学的手法(例えば、生理学的緩衝液におけるゲル濾過クロマトグラフィー)によって分離することはできない。しかしながら、本発明者らは、−SH反応性PEGに結合体化されたヒトアルギナーゼを生理学的pHより低いpHで一時的にインキュベートすることにより、すべてのポリペプチドが単一のPEG鎖に結合体化された三量体ヒトアルギナーゼ(すなわち、3つのPEG鎖を有する三量体)を、1または2つのPEG部分を含む他の形態から単離することが劇的に容易になることを発見した。
【0009】
したがって、本発明のある特定のさらなる実施形態は、ペグ化されたアルギナーゼをペグ化されていないアルギナーゼから分離する方法を提供し、その方法は:a)ペグ化されたアルギナーゼおよびペグ化されていないアルギナーゼを含むタンパク質溶液を得る工程;およびb)約3〜約5.5、好ましくは、約3.5〜約5.0、より好ましくは、約4.5または任意のその間の範囲もしくは値のpHにおいて、ペグ化されたアルギナーゼをペグ化されていないアルギナーゼから分離する工程を包含する。ヒトの癌治療における潜在的な用途のために、ペグ化されたアルギナーゼは、ペグ化されたヒトアルギナーゼ(例えば、ペグ化されたヒトアルギナーゼIまたはペグ化されたヒトアルギナーゼII)としてさらに定義され得る。好ましくは、ペグ化されたアルギナーゼは、操作されたシステイン残基、例えば、配列番号2によってコードされる配列番号1によって例証されるようなアルギナーゼのN末端のシステイン置換においてペグ化され得る。動態および血清残存性をさらに高めるために、ペグ化されたアルギナーゼは、その金属補因子としてコバルトを含み得る。ある特定の局面において、ペグ化されたアルギナーゼは、サイズ排除クロマトグラフィーまたはサイズに基づく任意の精製方法によって、ペグ化されていないアルギナーゼから分離され得る。
【0010】
本発明者らは、改変されていないヒトアルギナーゼが、腎臓における濾過を非常に受けやすく、ゆえに哺乳動物におけるIV(静脈内)投与の後、1時間未満の半減期で循環から失われることを見出した。次いで、本発明者らは、薬物動態(pharamcokinetics)が改善された、潜在的な癌処置のための新規アルギナーゼバリアントを開発した。本発明のなおもさらなる実施形態において、半減期の長い安定化されたアルギナーゼを形成するように結合体化された少なくとも2つのアルギナーゼ単量体を含む安定化された多量体アルギナーゼであって、ここで、その安定化されたアルギナーゼは、約5時間〜100時間、約10時間〜100時間、約7〜35時間またはそれらの中の導き出せる任意の範囲もしくは値の血清半減期、特に、哺乳動物におけるIV注射後の血清半減期を有する。
【0011】
本発明の方法および/または組成物の文脈において述べられる実施形態は、本明細書中に記載される他の任意の方法または組成物に対して使用され得る。したがって、1つの方法または組成物に関係する実施形態は、本発明の他の方法および組成物に同様に適用され得る。
【0012】
本明細書中で使用されるとき、核酸に関する用語「コードする(encode)」または「コードする(encoding)」は、当業者が本発明を容易に理解できるようにするために使用される;しかしながら、これらの用語は、それぞれ「含む(comprise)」または「含む(comprising)」と交換可能に使用され得る。
【0013】
本明細書において使用されるとき、「a」または「an」は、1つまたはそれ以上を意味し得る。請求項において使用されるとき、単語「含む(comprising)」と共に使用されるときの単語「a」または「an」は、1つまたは1つより多い、を意味し得る。
【0014】
本開示は、ある選択すべきものだけを指す定義と「および/または」を指す定義とを支持するけれども、請求項における用語「または」の使用は、ある選択すべきものだけを指すと明示的に示されないかまたはそれらの選択すべきものが互いに矛盾しない限り、「および/または」を意味するために使用される。本明細書中で使用されるとき、「別の」は、少なくとも第2またはそれ以上を意味し得る。
【0015】
本願全体にわたって、用語「約」は、その値を決定するために使用されるデバイス、方法に対する誤差の固有のばらつき、または研究の被験体の間に存在するばらつきを含む値を示すために使用される。
【0016】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるだろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内の様々な変更および改変が、この詳細な説明から当業者に明らかになるので、詳細な説明および特定の例は、本発明の好ましい実施形態を示すが例証という目的だけで与えられることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある特定の局面をさらに証明するために含められる。本発明は、本明細書中に示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つ以上を参照することにより、よりよく理解され得る。
【図1】図1:pH7.4(実線)およびpH4.5(破線)におけるhArgI SECのオーバーレイ。生理学的pHでは、hArgIは、主に高分子量オリゴマーであるが、pH4.5では、hArgIは、主に単量体である。
【図2】図2A〜B.図2A.pH4.5の酢酸ナトリウム緩衝液におけるSECによって分離された、Peg20Kで結合体化されたhArgIの画分。図2B.4〜20%SDS−PAGEにおいて実行されたSEC分離からの画分であって、サンプル1〜5は、第1の溶出ピークからのものであり、サンプル6〜9は、第2の溶出ピークからのものである。
【図3】図3A〜B.図3A.約110kDaという見かけのMWを有する精製された三量体hArgIのSDS−PAGE。図3B.プールされたヒト血清中での37℃における三量体hArgI(●)またはwt−hArgI(○)のインキュベーションであって、ほぼ同一の経時的な安定性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例示的な実施形態の説明
I.本発明
本開示は、ある特定の実施形態によれば、概して、長い循環半減期を示すアルギナーゼの形態(例えば、安定化された多量体アルギナーゼまたは精製されたペグ化されたアルギナーゼ)を調製する方法、ならびにそのような用途において有用な構築物および組成物に関する。
【0019】
理論またはメカニズムに拘束するつもりはないが、本開示は、以下の研究に基づく。本発明者らは、PEG20,000MWマレイミドによる部位特異的ペグ化を可能にする特定のシステイン残基をアルギナーゼのN末端に入れるように操作した。部位特異的ペグ化によって、十分に定義された物理的特性および化学的特性を備えた均一な材料が生成される;本発明者らはさらに、多量体の状態のアルギナーゼを一時的に破壊し、部位特異的にペグ化されたアルギナーゼを未反応の酵素から効率的に分離することを可能にする方法を考案した。あるいは、本発明者らは、酵素の3つのサブユニットを可撓性のGly−Serリンカーと融合し、優れた動態および血清残存性を備えた安定な高分子量複合体を生じることによって、多量体の形態のアルギナーゼを作製した。その多量体のアルギナーゼは、容易に均一に精製され、ペグ化の下流のバイオプロセシング工程または結合体化されていない材料の分離を必要としない。
【0020】
II.定義
本明細書中で使用されるとき、用語「半減期」(1/2寿命)とは、インビトロまたはインビボにおいて、例えば、哺乳動物への注射の後、アルギナーゼまたはそのバリアントの濃度が半分に減少するのに必要とされる時間のことを指す。
【0021】
本明細書中で使用されるとき、用語「タンパク質」および「ポリペプチド」とは、ペプチド結合を介して結合されたアミノ酸を含む化合物のことを指し、それらは交換可能に使用される。
【0022】
本明細書中で使用されるとき、用語「融合タンパク質」とは、非天然の方法で作動可能に連結されたタンパク質またはタンパク質フラグメント(例えば、アルギナーゼまたはそのバリアント)を含むキメラタンパク質のことを指す。
【0023】
用語「作動可能な組み合わせで」、「作動可能な順序で」および「作動可能に連結された」とは、そのように記載される構成要素が、意図される様式で機能することを可能にする関係性で存在する結合、例えば、核酸分子が所与の遺伝子の転写および/もしくは所望のタンパク質分子の合成を指示することができるような様式での核酸配列の結合、または融合タンパク質が生成されるような様式でのアミノ酸配列の結合のことを指す。
【0024】
用語「リンカー」とは、2つの異なる分子を作動可能に連結する分子の橋として作用する化合物または部分のことを指すと意味され、ここで、そのリンカーの一部は、第1の分子に作動可能に連結され、そのリンカーの別の部分は、第2の分子に作動可能に連結される。
【0025】
用語「ペグ化された」とは、生体適合性の程度が高く、改変が容易である場合の、薬物キャリアとして広く使用されているポリエチレングリコール(PEG)との結合体化のことを指す。PEGは、化学的方法によってPEG鎖の末端のヒドロキシ基を介して活性な薬剤に結合され得る(例えば、共有結合され得る);しかしながら、PEG自体は、1分子あたり多くても2つの活性な薬剤に限定される。異なるアプローチでは、PEGとアミノ酸との共重合体が、PEGの生体適合性を保持し得るが、1分子あたり多数の付着点を有する(したがって、より多くの薬物を搭載ができる)という付加的な利点を有し得、そして種々の用途にふさわしいように総合的に設計することができる、新規バイオマテリアルとして探索されている。
【0026】
用語「遺伝子」とは、ポリペプチドまたはその前駆体の生成に必要な調節配列およびコード配列を含むDNA配列のことを指す。そのポリペプチドは、完全長コード配列、または所望の酵素活性が保持されるようなそのコード配列の任意の一部によってコードされ得る。
【0027】
用語「野生型」とは、天然に存在する起源から単離された遺伝子、遺伝子産物、またはその遺伝子もしくは遺伝子産物の特徴の代表的な形態のことを指す。野生型は、自然集団において最も頻繁に観察されるものであり、ゆえに、任意に正常型または野生型と指し示される。対照的に、用語「改変された」、「バリアント」または「変異体」とは、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比べたとき、配列および機能的特性において改変(すなわち、変更された特徴)を示す遺伝子または遺伝子産物のことを指す。例えば、本発明におけるアルギナーゼバリアントは、安定化されたアルギナーゼ多量体またはペグ化されたアルギナーゼを含み得る。天然に存在する変異体は、単離され得ることに注意されたい;それらの変異体は、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比べたとき、変更された特徴を有するという事実によって同定される。
【0028】
用語「ベクター」は、核酸配列が複製され得る細胞に導入するためにその核酸配列を挿入し得るキャリア核酸分子のことを指すために使用される。核酸配列は、「外来性」であり得、この外来性とは、ベクターが導入される細胞にとってその核酸配列が異質のものであること、またはその核酸配列が、細胞内の配列と相同であるがその配列が通常見られない宿主細胞の核酸内の位置以外に存在することを意味する。ベクターとしては、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)および人工染色体(例えば、YAC)が挙げられる。当業者であれば、標準的な組換え手法(例えば、Maniatisら、1988およびAusubelら、1994(この両方が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)によってベクターを構築する能力を十分に備えているだろう。
【0029】
用語「発現ベクター」とは、転写されることが可能なRNAをコードする核酸を含む任意のタイプの遺伝的構築物のことを指す。一部の場合では、RNA分子は、次いで、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに翻訳される。他の場合、例えば、アンチセンス分子またはリボザイムの生成では、これらの配列は、翻訳されない。発現ベクターは、種々の「調節配列」を含み得、その調節配列とは、作動可能に連結されたコード配列の特定の宿主細胞における転写およびおそらく翻訳に必要な核酸配列のことを指す。ベクターおよび発現ベクターは、転写および翻訳を支配する調節配列に加えて、他の機能を果たす核酸配列を同様に含み得、それらは、下で説明される。
【0030】
III.アルギナーゼおよび癌治療
ある特定の局面において、本発明は、成長にアルギニンを必要とする癌(例えば、アルギニノコハク酸合成酵素(ASS)またはオルニチントランスカルバミラーゼを発現しない(または別途それを欠く)癌(例えば、肝細胞癌腫、メラノーマおよび腎細胞癌腫))を、L−アルギニンを枯渇させかつ血清残存性が長くなるように製剤化されている操作されたヒト酵素を用いて処置するために使用され得る。本発明は、具体的には、血清残存性が長くなるように操作されたヒトアルギナーゼバリアントを調製する方法を開示する。
【0031】
B.癌治療のためのアルギニン枯渇
過去50年にわたって、生化学的データおよび臨床データから、ある特定のアミノ酸の血清レベルの大幅な減少が、種々のヒト癌を処置するための有望なストラテジーとなることが確立された(Shenら、2006;Cellarierら、2003;Wetzlerら、2007;Dinndorfら、2007)。アミノ酸生合成遺伝子を発現しない悪性細胞は、成長のためにそのアミノ酸の血漿プールに依存する。血清中の特定のアミノ酸を効率的に分解し得る酵素の投与によって、栄養要求性の悪性細胞が、代謝不均衡、タンパク質合成の阻害、および不可逆的な細胞周期の停止を起こし、最終的には細胞死に至る。
【0032】
アルギニン枯渇のインビトロ抗腫瘍活性が報告された(Scottら、2000;Wheatleyら、2000)。一般的な癌(例えば、乳癌、直腸結腸癌、肺癌、前立腺癌および卵巣癌)を含む試験された24個の異なる腫瘍細胞株のうちすべてが、アルギニン枯渇の5日以内に死滅した。フローサイトメトリー研究を用いることにより、そのグループは、正常細胞株がいかなる明らかな害もなく最大数週間にわたって細胞周期のG0期の休止期に入ることを示すことができた。しかしながら、腫瘍細胞は、アルギニン欠乏であってもG1期における「R」点を過ぎて進み、S期に入り得る。代わりがきかないアミノ酸であるアルギニンが無いと、タンパク質合成は、混乱する。いくつかの細胞株は、アポトーシスが原因で死滅することが示された。より刺激的なことには、枯渇の反復によって、「抵抗性」が生じることなく腫瘍を殺滅することができる(Lambら、2000)。
【0033】
有望なインビトロデータにもかかわらず、インビボにおいて癌を処置するためにアルギニン枯渇を用いるという試みは成功しなかった。腫瘍を有するラットを腹腔内肝臓抽出物で処置するいくつかの試みは、不成功に終わった(Storr & Burton,1974)。正常な生理学的条件下では、血漿アルギニンレベル(および実際には他のアミノ酸のレベルにおいても)が正常範囲内(100〜120μM)に維持され、筋肉が主要な制御因子であることが現在、広く認識されている。アミノ酸欠乏に直面すると、細胞内のタンパク質分解経路が活性され(プロテアソームおよびリソソーム)、アミノ酸が循環中に放出される(Malumbres & Barbacid,2001)。このアミノ酸恒常性維持機構は、様々なアミノ酸レベルを一定範囲に維持している。したがって、その身体のアミノ酸恒常性維持機構が原因で、様々な物理的方法またはアルギニン分解酵素を用いてアルギニンを枯渇させる以前の試みは、失敗した。
【0034】
C.アルギナーゼ
アルギナーゼは、マンガン含有酵素である。アルギナーゼは、尿素経路の最後の酵素である。アルギナーゼは、身体が有害なアンモニアを処分する、哺乳動物における生物物理学的な反応の連続である尿素回路内の第5および最後の工程である。具体的には、アルギナーゼは、L−アルギニンをL−オルニチンおよび尿素に変換する。
【0035】
L−アルギニンは、L−シトルリンおよびNOを生成する一酸化窒素シンターゼ(NOS)に対する窒素供与基質である。アルギナーゼのK(2〜5mM)は、L−アルギニンに対するNOSのK(2〜20μM)よりもかなり高いと報告されているが、アルギナーゼは、NOS活性の制御にも関与し得る。ある特定の条件下において、アルギナーゼIがCys−S−ニトロシル化されると、その結果、L−アルギニンに対する親和性が高くなり、NOSに対する基質の利用能が低下する。
【0036】
アルギナーゼは、いくつかのヘリックスに囲まれた8本の平行なストランドより構成されるβシートであるα/βフォールドのホモ三量体の酵素である。この酵素は、L−アルギニンのグアニジニウム炭素に対する求核攻撃のための水酸化物を生成するために不可欠な二核(di−nuclear)金属クラスターを含む。アルギナーゼに対する天然の金属は、Mn2+である。これらのMn2+イオンは、水を配位し、その結果、分子が方向づけられて安定化し、水が求核剤として作用することおよびL−アルギニンを攻撃することが可能になり、L−アルギニンがオルニチンおよび尿素に加水分解される。
【0037】
哺乳動物は、尿素およびL−オルニチンへのL−アルギニンの加水分解を触媒する2つのアルギナーゼアイソザイム(EC3.5.3.1)を有する。アルギナーゼI遺伝子は、6番染色体に位置し(6q.23)、肝細胞のサイトゾルにおいて高度に発現され、尿素回路の最後の工程のような窒素除去において機能する。アルギナーゼII遺伝子は、14番染色体上に見られる(14q.24.1)。アルギナーゼIIは、腎臓、脳および骨格筋などの組織内のミトコンドリアに位置し、アルギナーゼIIは、プロリンおよびポリアミンの生合成のためにL−オルニチンを供給すると考えられている(Lopezら、2005)。
【0038】
アルギナーゼは、細胞外のL−アルギニンを分解する方法として、およそ50年間にわたって調査された(Dillonら、2002)。いくつかの有望な臨床上の結果は、経肝臓的な動脈塞栓術によってアルギナーゼを体循環に導入することによって達成された;その後、一部の患者は、HCCの部分的な緩解を示した(Chengら、2005)。しかしながら、アルギナーゼが、高いK(約2〜5mM)を有し、生理学的pH値で非常に低い活性しか示さないので、化学療法的な目的では高用量が必要である(Dillonら、2002)。天然のアルギナーゼは、数分以内に循環からクリアランスされるが(Savocaら、1984)、ラットにおけるPEG−アルギナーゼMW5000の単回の注射は、約3日間にわたってほぼ完全なアルギニン枯渇を達成するのに十分だった(Chengら、2007)。
【0039】
Chengらは、多くのヒトHCC細胞株が(ASSに加えて)OTCを発現せず、ゆえにPEG−アルギナーゼに感受性であるという驚くべき所見を得た(Chengら、2007)。Hep3b肝細胞癌腫細胞を移植されたマウスでは、PEG−アルギナーゼを毎週投与することにより、腫瘍の成長が減速した(それは、5−フルオロウラシル(5−FU)の同時投与によって強調された)。しかしながら、PEG−アルギナーゼは、その低い生理学的活性を反映して、ヒト治療では実際的でない非常に高い用量で使用された。
【0040】
これらの問題に取り組むために、良好な動態および安定性を示す細菌アルギニン加水分解酵素、アルギニンデイミナーゼまたはADIをインビトロにおいて試験した。ペグ化された形態のADIは、現在、第II/III相臨床試験中である。残念ながら、ADIは、細菌の酵素であるので、ほとんどの患者において強い免疫応答および有害作用を誘導する。しかしながら、有意な有害応答を起こさない患者については、目覚ましいパーセンテージが安定病態または緩解を示す。それにもかかわらず、その好ましくない免疫学的プロファイルが原因で、ADIによるL−アルギニン枯渇が肝臓癌に対する処置の主流になる可能性は低い。
【0041】
臨床で使用するためには、長時間(例えば、数日)にわたって循環中に残存することを可能にするようにアルギナーゼが操作されることが不可欠である。いかなる改変もない場合、ヒトアルギナーゼは、そのサイズが腎臓による濾過を回避するには十分に大きくないことが主な原因で、循環中においてわずか数分という半減期しか有しない。また、本発明者らは、改変されていないヒトアルギナーゼが、血清中で非常に不活性化されやすく、わずか4時間の半減期で分解されることを見出した。それゆえ、本発明は、改善された循環残存性を有する、臨床研究用および潜在的な治療的使用のためのアルギナーゼの新規の形態および改善された形態を開発した。
【0042】
D.本発明のアルギナーゼバリアント
本発明のある特定の局面は、長い血清残存性のために高分子量を有する均一なアルギナーゼバリアント、例えば、安定化された多量体アルギナーゼまたはペグ化されたアルギナーゼを生成するための組成物を開示する。本発明のさらなる局面は、バイオプロセシングおよびスケールアップを受け入れやすいそのようなバリアントを生成する方法、ならびに均一なタンパク質材料を生成し、所望の薬物動態学的特徴および薬力学的特徴を付与する新規製剤も開示する。そのようなアルギナーゼバリアントおよび関連方法は、後の項で詳細に記載される。
【0043】
IV.結合体
本発明の組成物および方法は、安定化されたアルギナーゼを形成するために結合体化された複数のアルギナーゼ単量体を含む安定化された多量体アルギナーゼを含む。その多量体のアルギナーゼは、従来の方法を用いて、化学的に結合体化され得るか、架橋され得るか、またはタンパク質レベルで融合され得る。
【0044】
B.融合タンパク質
本発明のある特定の実施形態は、融合タンパク質に関する。これらの分子は、一般に、N末端またはC末端に連結された3つのアルギナーゼ単量体サブユニットを有する。例えば、融合は、異種宿主におけるタンパク質の組換え発現を可能にする他の種由来のリーダー配列も使用し得る。別の有用な融合は、融合タンパク質の精製を容易にする、6つのヒスチジン残基または免疫学的に活性なドメイン(例えば、抗体エピトープ)の付加を含む。
【0045】
融合タンパク質を生成する方法は、当業者に周知である。そのようなタンパク質は、例えば、完全な融合タンパク質のデノボ合成によって、またはアルギナーゼ単量体をコードする3つのDNA配列を付着させた後、インタクトな融合タンパク質を発現させることによって、生成され得る。
【0046】
親タンパク質の機能活性を回復させる融合タンパク質の生成は、タンデムに接続されたポリペプチドの間につなぎ合わされるペプチドリンカーをコードする架橋DNAセグメントと遺伝子を接続することによって、容易になり得る。そのリンカーは、生じる融合タンパク質の適切な折り畳みを可能にするのに十分な長さであり得る。
【0047】
C.リンカー
ある特定の実施形態において、多量体のアルギナーゼは、二官能性の架橋試薬を用いて化学的に結合体化され得るか、またはペプチドリンカーを用いてタンパク質レベルで融合され得る。
【0048】
二官能性の架橋試薬は、親和性マトリックスの調製、多様な構造の改変および安定化、リガンド結合部位およびレセプター結合部位の同定、ならびに構造的研究をはじめとした種々の目的のために広範に使用されている。適当なペプチドリンカーは、本発明においてアルギナーゼ単量体を連結するためにも使用され得る(例えば、Gly−Serリンカー)。
【0049】
2つの同一の官能基を有するホモ二官能性の試薬は、同一および異なる高分子または高分子のサブユニットの間に架橋を誘導する際、ならびにポリペプチドリガンドをそれらの特定の結合部位に連結する際に、高度に有効であることが立証された。ヘテロ二官能性試薬は、2つの異なる官能基を含む。2つの異なる官能基の反応性が異なることを利用することによって、架橋は、選択的かつ連続的に管理され得る。二官能性の架橋試薬は、それらの官能基、例えば、アミノ、スルフヒドリル、グアニジノ、インドール、カルボキシルに特異的な基の特異性に従って分類され得る。これらのうち、遊離アミノ基に対する試薬は、商業的に入手可能であり、合成が容易であり、そしてそれらが適用され得る反応条件が穏やかであるので、特に一般的である。
【0050】
ヘテロ二官能性の架橋試薬の大部分は、1級アミン反応基およびチオール反応基を含む。別の例では、ヘテロ二官能性の架橋試薬およびそれらの架橋試薬を使用する方法が記載されている(米国特許第5,889,155号(明確にその全体が本明細書中で参考として援用される))。上記架橋試薬は、求核性ヒドラジド残基を求電子性マレイミド残基と組み合わせることにより、1つの例では、遊離チオールにアルデヒド類を結合させる。その架橋試薬は、様々な官能基を架橋するために改変され得る。
【0051】
さらに、当業者に公知の(know)他の任意の連結剤/カップリング剤および/または連結/カップリングの機序(例えば、抗体−抗原相互作用、アビジンビオチン結合、アミド結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、リン酸エステル結合、ホスホルアミド結合、無水物結合、ジスルフィド結合、イオン性および疎水性の相互作用、二重特異性の抗体および抗体フラグメントまたはそれらの組み合わせ)を用いることにより、本発明のヒトアルギナーゼを結合させてもよい。
【0052】
血液中で妥当な安定性を有する架橋剤を使用することが好ましい。標的化剤および治療的/予防的な薬剤を結合体化するために首尾良く使用され得る、数多くのタイプのジスルフィド結合含有リンカーが知られている。立体的に妨げられるジスルフィド結合を含むリンカーは、インビボにおいてより高い安定性を与えると証明される場合がある。よって、これらのリンカーは、連結剤の1群である。
【0053】
妨げられた架橋剤に加えて、妨げられていないリンカーも、本明細書に従って使用され得る。保護されたジスルフィドを含むかまたは生成すると考えられていない他の有用な架橋剤としては、SATA、SPDPおよび2−イミノチオランが挙げられる(Wawrzynczak & Thorpe,1987)。そのような架橋剤の使用は、当該分野において十分理解されている。別の実施形態は、可撓性リンカーの使用を含む。
【0054】
上記ペプチドは、化学的に結合体化されると、通常、精製されることにより、結合体化されていない薬剤および他の夾雑物から上記結合体が分離され得る。多数の精製手法が、それらを臨床的に有用にするのに十分な純度の結合体を提供する際に使用する場合に利用可能である。
【0055】
サイズ分離に基づく精製方法(例えば、ゲル濾過、ゲル浸透または高性能(high performance)液体クロマトグラフィー)が、一般に最も有用であり得る。Blue−Sepharose分離などの他のクロマトグラフィーによる手法を使用してもよい。N−ラウロイル−サルコシンナトリウム(SLS)のような弱い界面活性剤を用いるなどの融合タンパク質を封入体から精製する従来の方法は、本発明にとって有用であり得る。
【0056】
V.ペグ化
本発明のある特定の局面において、ペグ化されたアルギナーゼに関する方法および組成物が開示される。具体的には、操作されたシステイン残基におけるアルギナーゼのペグ化(例えば、N末端の3番目の残基の置換)を用いることにより、ペグ化された均一なアルギナーゼ組成物が生成され得る。ペグ化されたアルギナーゼを重合の一時的な破壊に基づいて単離する方法も開示される。
【0057】
ペグ化は、別の分子(通常、薬物または治療用タンパク質)へのポリ(エチレングリコール)ポリマー鎖の共有結合のプロセスである。ペグ化は、PEGの反応性誘導体と標的高分子とのインキュベーションによって通例のとおり達成される。薬物または治療用タンパク質へのPEGの共有結合は、宿主の免疫系からその薬剤を「マスク」し得(免疫原性および抗原性の低下)、また、その薬剤の流体力学的サイズ(溶液中でのサイズ)を大きくすることにより、腎クリアランスを減少させることによってその薬剤の循環時間を延長する。ペグ化は、疎水性の薬物およびタンパク質を水溶性にもし得る。
【0058】
ペグ化の第1工程は、一方または両方の末端におけるPEGポリマーの適当な機能付与である。同じ反応性部分を有する各末端において活性化されたPEGは、「ホモ二官能性」として知られているのに対し、存在する官能基が異なる場合、そのPEG誘導体は、「ヘテロ二官能性」または「ヘテロ官能性」と呼ばれる。PEGポリマーの化学的に活性な誘導体または化学的に活性化された誘導体は、所望の分子にPEGを付着させるために調製される。
【0059】
PEG誘導体に適した官能基の選択は、PEGに結合され得る分子上の利用可能な反応基のタイプに基づく。タンパク質の場合、代表的な反応性アミノ酸としては、リジン、システイン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシンが挙げられる。N末端のアミノ基およびC末端のカルボン酸もまた使用され得る。
【0060】
第1世代のPEG誘導体を形成するために使用される手法は、一般に、ヒドロキシル基、代表的には、無水物、酸塩化物、クロロホルメートおよびカーボネートと反応性の基とPEGポリマーを反応させることである。第2世代のペグ化化学では、より効率的な官能基(例えば、アルデヒド、エステル、アミドなど)が結合体化のために利用可能である。
【0061】
ペグ化の用途が、高度になり、洗練されるにつれて、結合体化のためのヘテロ二官能性PEGに対する必要性も高まっている。これらのヘテロ二官能性PEGは、親水性かつ可撓性かつ生体適合性のスペーサーが必要とされる、2つの実体を連結する際に非常に有用である。ヘテロ二官能性PEGに対して好ましい末端基は、マレイミド、ビニルスルホン、ピリジルジスルフィド、アミン、カルボン酸およびNHSエステルである。
【0062】
最も一般的な修飾剤またはリンカーは、メトキシPEG(mPEG)分子に基づく。それらの活性は、アルコール末端へのタンパク質修飾基の付加に依存する。場合によっては、ポリエチレングリコール(PEGジオール)が、前駆体分子として使用される。このジオールは、PEGに連結されたヘテロ二量体またはホモ二量体の分子を生成するために、その後、両端が改変される(PEGビス−ビニルスルホンを用いた例において示されるように)。
【0063】
タンパク質は、一般に、保護されていないチオール(システイニル残基)またはアミノ基などの求核性部位においてPEG化される。システイニル特異的修飾試薬の例としては、PEGマレイミド、PEGヨードアセテート、PEGチオールおよびPEGビニルスルホンが挙げられる。4つすべてが、穏やかな条件下および中性からわずかにアルカリpHにおいて強いシステイニル特異性であるが、各々は、いくつかの欠点を有する。上記マレイミドを用いて形成されたアミドは、アルカリ性条件下ではいくらか不安定であり得るので、このリンカーを用いた製剤化の選択にいくらか制限が存在し得る。ヨードPEGを用いて形成されたアミド結合は、より安定であるが、遊離ヨウ素は、いくつかの条件下でチロシン残基を改変し得る。PEGチオールは、タンパク質チオールとジスルフィド結合を形成するが、この結合もまた、アルカリ性条件下で不安定であり得る。PEG−ビニルスルホンの反応性は、マレイミドおよびヨードPEGと比べて相対的に遅い;しかしながら、形成されるチオエーテル結合は、かなり安定である。そのより遅い反応速度のおかげで、PEG−ビニルスルホン反応が管理しやすくなり得る。
【0064】
天然のシステイニル残基における部位特異的ペグ化は、あまり行われない。なぜなら、これらの残基は、通常、ジスルフィド結合の形態をとっているか、または生物学的活性に必要とされているからである。他方、部位特異的突然変異誘発を用いることにより、チオール特異的リンカー用のシステイニルペグ化部位を組み込むことができる。このシステイン変異は、ペグ化試薬に到達可能であるように、かつペグ化の後も生物学的に活性であるように設計されなければならない。
【0065】
アミン特異的修飾剤には、PEG NHSエステル、PEGトレシレート、PEGアルデヒド、PEGイソチオシアネートおよびいくつかのその他のものが挙げられる。すべてが、穏やかな条件下で反応し、アミノ基に対して非常に特異的である。PEG NHSエステルは、おそらく、より反応性の薬剤の1つである;しかしながら、その高い反応性は、ペグ化反応を大規模で管理することを難しくし得る。PEGアルデヒドは、アミノ基とともにイミンを形成し、次いでそれは、シアノ水素化ホウ素ナトリウムによって第二級アミンに還元される。水素化ホウ素ナトリウムとは異なり、シアノ水素化ホウ素ナトリウムは、ジスルフィド結合を還元しない。しかしながら、この化学物質は、高度に毒性であり、特にそれが揮発性になる低pHでは、慎重に取り扱わなければならない。
【0066】
ほとんどのタンパク質上に複数のリジン残基が存在することに起因して、部位特異的ペグ化は、難問であり得る。都合のいいことには、これらの試薬は、保護されていないアミノ基と反応するので、低pHにおいてその反応を行うことによって、より低いpKアミノ基にペグ化を指示することが可能である。一般に、アルファ−アミノ基のpKは、リジン残基のイプシロン−アミノ基よりも1〜2pH単位低い。その分子をpH7またはそれ以下でPEG化することによって、N末端に高い選択性を与えることができることが多い。しかしながら、これは、そのタンパク質のN末端の部分が生物学的活性に必要でない場合にだけ可能である。それにもかかわらず、ペグ化からの薬物動態学的利点は、インビトロにおける有意な生物活性の喪失に勝ることが多く、ペグ化化学に関係なく、かなり高いインビボ生物活性を備えた生成物がもたらされる。
【0067】
ペグ化手順を開発する際に考慮するパラメータがいくつか存在する。都合のいいことには、通常、鍵となるパラメータは4または5つしか存在しない。ペグ化条件を最適化する「実験計画法」アプローチが、非常に有用であり得る。チオール特異的ペグ化反応の場合、考慮するパラメータとしては:タンパク質の濃度、PEGとタンパク質との比(モル濃度基準)、温度、pH、反応時間、および場合によっては酸素の除去が挙げられる(酸素は、PEG化された生成物の収量を減少させるタンパク質による分子間ジスルフィド形成に寄与し得る)。特にN末端のアミノ基を標的にするときにpHがなおもより決定的であり得ることを除いて、同じ因子が、アミン特異的改変についても考慮されるべきである(酸素を除く)。
【0068】
アミン特異的修飾とチオール特異的修飾の両方の場合は、反応条件がタンパク質の安定性に影響し得る。これにより、温度、タンパク質濃度およびpHが限定され得る。さらに、PEGリンカーの反応性は、ペグ化反応を開始する前に知られているべきである。例えば、ペグ化剤が70パーセントしか活性でない場合、使用されるPEGの量は、活性なPEG分子だけが、タンパク質とPEGとの反応化学量論に数えられることを確実にすべきである。PEGの反応性および品質を測定する方法は、後で記載される。
【0069】
VI.タンパク質およびペプチド
ある特定の実施形態において、本発明は、安定化されたアルギナーゼ多量体などの少なくとも1つのタンパク質またはペプチドを含む新規組成物に関する。これらのペプチドは、融合タンパク質に含められてもよいし、前に記載されたような薬剤に結合体化されてもよい。
【0070】
B.タンパク質およびペプチド
本明細書中で使用されるとき、タンパク質またはペプチドとは、一般に、遺伝子から翻訳される、約200アミノ酸を越え、完全長配列までのタンパク質;約100アミノ酸を越えるポリペプチド;および/または約3〜約100アミノ酸のペプチドのことを指すが、これらに限定されない。便宜上、用語「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、本明細書中で交換可能に使用される。
【0071】
ある特定の実施形態において、少なくとも1つのタンパク質またはペプチドのサイズは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、約110、約120、約130、約140、約150、約160、約170、約180、約190、約200、約210、約220、約230、約240、約250、約275、約300、約325、約350、約375、約400、約425、約450、約475、約500、約525、約550、約575、約600、約625、約650、約675、約700、約725、約750、約775、約800、約825、約850、約875、約900、約925、約950、約975、約1000、約1100、約1200、約1300、約1400、約1500、約1750、約2000、約2250、約2500またはそれ以上のアミノ酸残基を含み得るが、これらに限定されない。
【0072】
本明細書中で使用されるとき、「アミノ酸残基」とは、当該分野で公知の、任意の天然に存在するアミノ酸、任意のアミノ酸誘導体または任意のアミノ酸模倣物のことを指す。ある特定の実施形態において、タンパク質またはペプチドの残基は、任意の非アミノ酸がアミノ酸残基の配列を中断することなく、連続している。他の実施形態において、その配列は、1つ以上の非アミノ酸部分を含み得る。特定の実施形態において、タンパク質またはペプチドの残基の配列は、1つ以上の非アミノ酸部分によって中断され得る。
【0073】
したがって、用語「タンパク質またはペプチド」は、天然に存在するタンパク質に見られる20種の通常のアミノ酸のうちの少なくとも1つ、または少なくとも1つの改変されたもしくは普通でないアミノ酸(それらとしては、下記の表1に示されているものが挙げられるがこれらに限定されない)を含むアミノ酸配列を包含する。
【0074】
【表1】

タンパク質またはペプチドは、標準的な分子生物学的手法によるタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドの発現、自然源からのタンパク質もしくはペプチドの単離、またはタンパク質もしくはペプチドの化学的合成をはじめとした、当業者に公知の任意の手法によって生成され得る。様々な遺伝子に対応するヌクレオチドならびにタンパク質、ポリペプチドおよびペプチド配列は、以前から開示されたものであり、当業者に公知のコンピューター化されたデータベースに見られることがある。そのようなデータベースの1つは、National Center for Biotechnology InformationのGenbankおよびGenPeptデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)である。公知の遺伝子に対するコード領域は、本明細書中で開示される手法を用いてまたは当業者に公知であるように、増幅され得、そして/または発現され得る。あるいは、タンパク質、ポリペプチドおよびペプチドの様々な市販の調製物が当業者に公知である。
【0075】
C.核酸およびベクター
本発明のある特定の局面において、安定化された多量体アルギナーゼとして融合タンパク質をコードする核酸配列が、開示され得る。核酸配列は、使用される発現系に応じて、従来の方法に基づいて選択され得る。例えば、ヒトアルギナーゼIおよびIIは、発現を干渉し得る、大腸菌では滅多に利用されない複数のコドンを含むので、それぞれの遺伝子またはそれらのバリアントは、大腸菌における発現のためにコドンが最適化され得る。様々なベクターは、目的のタンパク質(例えば、融合多量体アルギナーゼまたはシステインで置換されたアルギナーゼ)を発現するためにも使用され得る。例示的なベクターとしては、プラスミドベクター、ウイルスベクター、トランスポゾンまたはリポソームベースのベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
D.宿主細胞
本発明において有用な宿主細胞、好ましくは、真核細胞は、アルギナーゼおよびその融合多量体の発現および分泌を可能にするように形質転換され得る任意の細胞である。それらの宿主細胞は、細菌、哺乳動物細胞、酵母または糸状菌であり得る。様々な細菌としては、EscherichiaおよびBacillusが挙げられる。Saccharomyces属、Kiuyveromyces属、Hansenula属またはPichia属に属する酵母は、適切な宿主細胞としての用途が見出され得る。様々な種の糸状菌が、発現宿主として使用され得、それらとしては、以下の属が挙げられる:Aspergillus、Trichoderma、Neurospora、Penicillium、Cephalosporium、Achlya、Podospora、Endothia、Mucor、CochliobolusおよびPyricularia。
【0077】
使用可能な宿主生物の例としては、細菌、例えば、大腸菌MC1061、枯草菌BRB1の誘導体(Sibakovら、1984)、Staphylococcus aureus SAI123(Lordanescu,1975)またはStreptococcus lividans(Hopwoodら、1985);酵母、例えば、Saccharomyces cerevisiae AH22(Mellorら、1983)およびSchizosaccharomyces pombe;糸状菌、例えば、Aspergillus nidulans、Aspergillus awamori(Ward、1989)、Trichoderma reesei(Penttilaら、1987;Harkkiら、1989)が挙げられる。
【0078】
哺乳動物宿主細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−K1;ATCC CCL61)、ラット下垂体細胞(GH;ATCC CCL82)、HeLa S3細胞(ATCC CCL2.2)、ラットヘパトーマ細胞(H−4−II−E;ATCCCRL 1548)、SV40で形質転換されたサル腎臓細胞(COS−1;ATCC CRL1650)およびマウス胚細胞(NIH−3T3;ATCC CRL1658)が挙げられる。前述のものは、実例であって、当該分野で公知の多くの宿主生物となり得るものを限定したものではない。原則としては、原核生物であるか真核生物であるかに関係なく、分泌することができるすべての宿主を使用することができる。
【0079】
アルギナーゼおよび/またはそれらの融合多量体を発現する哺乳動物宿主細胞は、親の細胞株を培養するために代表的に使用される条件下で培養される。一般には、細胞は、生理学的塩および栄養分を含む、代表的には、ウシ胎児血清などの5〜10%血清が補充された標準的な培地(例えば、標準的なRPMI、MEM、IMEMまたはDMEM)中で培養される。培養条件もまた標準であり、例えば、培養物は、所望のレベルタンパク質に達するまで、静置培養または回転培養において37℃でインキュベートされる。
【0080】
E.タンパク質精製
タンパク質精製手法は、当業者に周知である。これらの手法は、1つのレベルにおいて、細胞、組織または器官の、均質化ならびにポリペプチド画分および非ポリペプチド画分への粗分画を含む。別段明記されない限り、目的のタンパク質またはポリペプチドは、部分的または完全な精製(または均一になるまでの精製)を達成するために、クロマトグラフィーおよび電気泳動による手法を用いてさらに精製され得る。純粋なペプチドを調製するのに特にふさわしい分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル排除クロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、イムノアフィニティークロマトグラフィーおよび等電点電気泳動である。ペプチドを精製する特に効率的な方法は、高速(fast performance)液体クロマトグラフィー(FPLC)または高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)である。
【0081】
精製されたタンパク質またはペプチドとは、他の構成要素から単離可能な組成物のことを指すと意図され、ここで、そのタンパク質またはペプチドは、その自然に入手可能な状態と比べて任意の程度まで精製される。それゆえ、単離されたまたは精製されたタンパク質またはペプチドとは、それが天然に存在し得る環境を含まないタンパク質またはペプチドのことも指す。一般に、「精製された」とは、様々な他の構成要素を除去するために分画に供されたタンパク質組成物またはペプチド組成物のことを指し得、その組成物は、発現されるその生物学的活性を実質的に保持する。用語「実質的に精製された」が使用される場合、この指摘は、そのタンパク質またはペプチドが組成物の主要な構成要素を形成する(例えば、その組成物中の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%またはそれ以上のタンパク質を構成する)組成物のことを指し得る。
【0082】
タンパク質精製における使用に適した様々な手法が、当業者に周知である。これらとしては、例えば、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などを用いた沈殿、または後に遠心分離を伴う熱変性、クロマトグラフィー工程(例えば、イオン交換、ゲル濾過、逆相、ヒドロキシルアパタイトおよびアフィニティークロマトグラフィー);等電点電気泳動;ゲル電気泳動;ならびにこれらおよび他の手法の組み合わせによるものが挙げられる。一般に当該分野で公知であるように、様々な精製工程を実施する順序は変更されてもよいし、ある特定の工程は省略してもよいが、なおも実質的に精製されたタンパク質またはペプチドの調製にとって適当な方法をもたらし得ると考えられている。
【0083】
タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量化するための様々な方法が、本開示に鑑みて当業者に公知である。これらとしては、例えば、活性な画分の比活性を測定すること、またはSDS/PAGE解析による画分中のポリペプチドの量を評価することが挙げられる。画分の純度を評価するための好ましい方法は、画分の比活性を計算すること、それを最初の抽出物の比活性と比較すること、および「〜倍精製」という数値によって評価される、その中の純度の程度を計算することである。当然、活性の量を表すために使用される実際の単位は、精製の後に選択される特定のアッセイ法および発現されたタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を示すか否かに依存し得る。
【0084】
タンパク質またはペプチドが常に最も精製された状態で提供されるのに一般的に要求される事項は存在しない。実際に、ある特定の実施形態において、あまり実質的に精製されていない生成物が有用性を有し得ることが企図される。より少ない精製工程を組み合わせて用いることによって、または同じ一般的な精製スキームの異なる形態を利用することによって、部分的な精製が達成され得る。例えば、HPLC装置を利用して行われる陽イオン交換カラムクロマトグラフィーが、一般に、低圧クロマトグラフィーシステムを利用する同じ手法よりも「〜倍」高く精製され得ることが認識されている。より低い程度の相対的な精製を示す方法は、タンパク質生成物の完全な回収の際、または発現されたタンパク質の活性を維持する際に、利点を有し得る。
【0085】
ある特定の実施形態において、タンパク質またはペプチド、例えば、安定化されたアルギナーゼ多量体の融合タンパク質、またはペグ化の前もしくは後のアルギナーゼは、単離され得るかまたは精製され得る。例えば、Hisタグまたは親和性エピトープが、精製を容易にするためにそのようなアルギナーゼバリアントに含められ得る。アフィニティークロマトグラフィーは、単離される物質とそれが特異的に結合し得る分子との間の特異的な親和性に依存するクロマトグラフィーの手順である。これは、レセプター−リガンドタイプの相互作用である。そのカラム材料は、結合パートナーのうちの一方を不溶性マトリックスに共有結合することによって合成される。そして、そのカラム材料は、溶液から物質を特異的に吸着することができる。溶出は、結合が生じない条件まで条件を変更すること(例えば、pH、イオン強度、温度などの変更)によって生じる。そのマトリックスは、それ自体が任意の有意な程度に分子を吸着せず、かつ幅広い化学的安定性、物理的安定性および熱安定性を有する、物質であるべきである。そのリガンドは、その結合特性に影響しないような方法で結合されるべきである。そのリガンドはまた、比較的堅固な結合を提供するべきである。そして、サンプルまたはリガンドを破壊することなく、物質を溶出することが可能であるべきである。
【0086】
さらなる局面において、低pH条件(例えば、約3〜約5.5の範囲)を用いることによって、ペグ化されたアルギナーゼをペグ化されていないアルギナーゼから単離する方法も開示される。そのような低いpHは、単量体型のペグ化されていないアルギナーゼを大きく減少させ得、ゆえに、高分子量のペグ化されたアルギナーゼをペグ化されていない単量体のアルギナーゼから良好に分離することが可能になる。サイズ分離に基づく精製方法(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過))、ゲル浸透または高性能液体クロマトグラフィーが一般に最も有益であり得る。
【0087】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、溶液中の分子がそのサイズに基づいて、またはより専門的な用語では流体力学的体積に基づいて分離される、クロマトグラフィーの方法である。サイズ排除クロマトグラフィーは、通常、タンパク質および工業用ポリマーなどの大分子または高分子複合体に適用される。代表的には、サンプルをカラムに通して移動させるために水溶液が使用されるとき、この手法は、移動相として有機溶媒が使用されるときに用いられるゲル浸透クロマトグラフィーという名称に対して、ゲル濾過クロマトグラフィーとして知られる。
【0088】
SECの基本原理は、異なるサイズの粒子が、異なる速度で固定相を通って溶出する(濾過される)ということである。これにより、サイズに基づいて粒子の溶液が分離される。すべての粒子が同時またはほぼ同時に充填されるならば、同じサイズの粒子は、一緒に溶出されるはずである。各サイズ排除カラムは、分離され得るある範囲の分子量を有する。排除限界は、この範囲の上限の分子量を規定し、分子が大きすぎて固定相に捕捉できなくなる点である。浸透限界は、分離の範囲の下限の分子量を規定し、十分に小さいサイズの分子が完全に固定相の孔に浸透することができ、かつ、この分子質量より小さいすべての分子が十分に小さいことから単一のバンドとして溶出される点である。
【0089】
高性能液体クロマトグラフィー(または高圧(High pressure)液体クロマトグラフィー,HPLC)は、化合物を分離するため、同定するため、および定量化するために生化学および分析化学において頻繁に使用されるカラムクロマトグラフィーの形態である。HPLCは、クロマトグラフィーの充填材料(固定相)を保持するカラム、移動相をそのカラムに通して移動させるポンプ、および分子の保持時間を示す検出器を利用する。保持時間は、固定相と、分析されている分子と、使用される溶媒との間の相互作用に応じて変動する。
【0090】
VII.アルギナーゼ補因子
補因子は、タンパク質に(堅固にまたは緩く)結合した、タンパク質の生物学的活性にとって必要な非タンパク質の化学的化合物である。これらのタンパク質は、通常、酵素であり、補因子は、生化学的な転換を助ける「ヘルパー分子/イオン」であると考えられ得る。金属イオンが一般的な補因子である。ヒトでは、このリストとしては、通常、鉄、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、セレンおよびモリブデンが挙げられる。
【0091】
天然の金属補因子(すなわち、Mn2+)を有するアルギナーゼは、9という最適pH値を示す。この酵素は、生理学的pHでは、L−アルギニンの加水分解において10倍超低いkcat/Kを示す。天然のMn2+補因子を有する野生型ヒトアルギナーゼ(arignase)によって示される低い触媒活性は、L−アルギニン血漿レベルを治療的に適切に(relevent)減少させるためには非実用的な用量のその酵素(enzme)を使用しなければならないことを意味するので、その低い触媒活性は、ヒトの治療にとって問題になる。
【0092】
本発明者らは、本来の金属(Mn2+)を他の二価の陽イオンで置換することが、その酵素の最適pH値をより低い値に移動させることに活用され得、ゆえに、生理学的条件下において高いL−アルギニン加水分解率が達成され得ることを企図した。
【0093】
本明細書で参考として援用される米国仮特許出願番号61/110,218に開示されているように、本発明者らは、触媒中心のMn(II)補因子を別の金属、例えば、コバルト(II)で置き換えることによって、ヒトアルギナーゼ(h−Arg)の動態および安定性を改善した。hArg−Co2+バリアントは、ADIと等しいかまたはそれより多いMn(II)を含む標準のhArgよりも10〜15倍超高い癌細胞傷害性を示すと示された。
【0094】
本発明のある特定の局面において、多量体のアルギナーゼまたはペグ化されたアルギナーゼは、コバルトなどの非天然の金属補因子を含み得る。例えば、所望の二価の金属陽イオンは、10mMの金属(例えば、CoCl)とともにインキュベートすることによって、安定化された多量体アルギナーゼに組み込まれ得る。
【0095】
VIII.薬学的組成物
臨床適用が企図される場合、意図される適用にとって適切な形態の薬学的組成物(発現ベクター、ウイルス株、タンパク質、抗体および薬物)を調製することが必要であり得る。一般に、本発明の薬学的組成物は、有効量の1つ以上のアルギナーゼバリアント、または薬学的に許容され得るキャリアに溶解されたかもしくは分散された追加の薬剤を含む。句「薬学的または薬理学的に許容され得る」とは、必要に応じて、動物、例えば、ヒトに投与されたときに、有害反応、アレルギー性反応または他の都合の悪い反応をもたらさない分子実体および組成物のことを指す。本明細書中で開示される方法によって単離された少なくとも1つのアルギナーゼバリアント(例えば、安定化された多量体アルギナーゼまたはペグ化されたアルギナーゼ)または追加の活性成分を含む薬学的組成物の調製は、本明細書中で参考として援用されるRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,1990に例証されているように、本開示に鑑みて当業者に公知であり得る。さらに、動物(例えば、ヒト)への投与の場合、調製物は、FDA Office of Biological Standardsによって要求されているような無菌性、発熱性、一般的な安全性および純度基準を満たすべきであることが理解されるだろう。
【0096】
本明細書中で使用されるとき、「薬学的に許容され得るキャリア」には、任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング剤、界面活性物質、酸化防止剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、色素、そのような同様の材料および当業者に公知であるようなそれらの組み合わせが含まれる(例えば、本明細書中で参考として援用されるRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,1990を参照のこと)。任意の従来のキャリアが活性成分と不適合性である場合を除いて、薬学的組成物におけるそれらの使用が企図される。
【0097】
本発明は、固体、液体またはエアロゾルの形態で投与されるかに応じて、および注射などの投与経路のために滅菌が必要であるかに応じて、種々のタイプのキャリアを含み得る。本発明は、静脈内、皮内、経皮的、髄腔内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、膣内、直腸内、局所的、筋肉内、皮下、粘膜、経口的、局所的、局在的、吸入(例えば、エアロゾル吸入)、注射、注入、持続注入、標的細胞を直接流す局所灌流、カテーテルを介して、洗浄を介して、脂質組成物(例えば、リポソーム)として、もしくは他の方法、または当業者に公知であるような前述のものの任意の組み合わせによって投与され得る(例えば、本明細書中で参考として援用される、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,1990を参照のこと)。
【0098】
アルギナーゼバリアントは、遊離塩基、中性または塩の形態で組成物に製剤化され得る。薬学的に許容され得る塩としては、酸付加塩、例えば、タンパク質性組成物の遊離アミノ基を用いて形成される塩、または無機酸(例えば、塩酸またはリン酸)もしくは有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸またはマンデル酸)を用いて形成される塩が挙げられる。遊離カルボキシル基を用いて形成される塩は、無機塩基、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは水酸化第二鉄;またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンもしくはプロカインのような有機塩基から得ることもできる。製剤化の際、溶液は、投薬製剤と適合する様式、かつ治療的に有効であるような量で、投与され得る。その製剤は、種々の剤形(例えば、注射可能な溶液などの非経口投与のために製剤化された剤形、または肺に送達するためのエアロゾル、または薬物放出カプセルなどの食餌性(alimentary)投与のために製剤化された剤形)などとして容易に投与される。
【0099】
さらに、本発明によれば、投与に適した本発明の組成物は、不活性な希釈剤を含むかまたは含まない薬学的に許容され得るキャリア中に提供される。そのキャリアは、同化可能であるべきであり、それらには、液体、半固体、すなわちペースト、または固体のキャリアが含まれる。任意の従来の媒質、薬剤、希釈剤またはキャリアが、レシピエントまたはその中に含められる組成物の治療有効性にとって有害である場合を除いて、本発明の方法を実施する際に使用するために投与可能な組成物において使用することは、妥当である。キャリアまたは希釈剤の例としては、脂肪、油、水、食塩水溶液、脂質、リポソーム、樹脂、結合剤、充填剤など、またはそれらの組み合わせが挙げられる。その組成物は、1つ以上の構成要素の酸化を遅らせる様々な酸化防止剤も含み得る。さらに、微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤(パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールまたはそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない)などの保存剤によってもたらされ得る。
【0100】
本発明によれば、本組成物は、任意の簡便かつ実際的な様式で、すなわち、溶解、懸濁、乳化、混合、被包、吸収などによって、キャリアと混和される。そのような手順は、当業者にとって通例のものである。
【0101】
本発明の特定の実施形態において、本組成物は、半固体または固体のキャリアと十分に混和されるかまたは混合される。その混合は、粉砕などの任意の従来の様式で行われ得る。治療活性の喪失、すなわち、胃の中での変性から組成物を保護するために、その混合プロセスに安定化剤が加えられ得る。本組成物において使用するための安定剤の例としては、緩衝剤、アミノ酸(例えば、グリシンおよびリジン)、炭水化物(例えば、デキストロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、ソルビトール、マンニトールなど)が挙げられる。
【0102】
さらなる実施形態において、本発明は、アルギナーゼバリアント、1つ以上の脂質および水性溶媒を含む薬学的脂質ビヒクル組成物の使用に関することがある。本明細書中で使用されるとき、用語「脂質」は、特質上、水に不溶性でありかつ有機溶媒で抽出可能である広範囲の任意の物質を含むと定義され得る。この広いクラスの化合物は、当業者に周知であり、用語「脂質」が本明細書中で使用されるとき、その用語は、任意の特定の構造に限定されない。例としては、長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体を含む化合物が挙げられる。脂質は、天然に存在するものであってもよいし、合成のもの(すなわち、人間によって設計されたものまたは生成されたもの)であってもよい。しかしながら、脂質は、通常、生物学的物質である。生物学的脂質は、当該分野で周知であり、それらとしては、例えば、中性脂肪、リン脂質、ホスホグリセリド、ステロイド、テルペン、リゾ脂質(lysolipids)、グリコスフィンゴリピド、糖脂質、スルファチド、エーテルおよびエステル結合型脂肪酸を有する脂質、および重合可能な脂質、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。言うまでもなく、本明細書中で具体的に記載される化合物以外の、脂質として当業者が理解する化合物もまた、本発明の組成物および方法によって包含される。
【0103】
当業者は、脂質ビヒクルに組成物を分散するために使用することができる手法の範囲に精通しているだろう。例えば、安定化された多量体アルギナーゼまたはペグ化されたアルギナーゼは、脂質を含む溶液に分散され得るか、脂質と共に溶解され得るか、脂質を用いて乳化され得るか、脂質と混合され得るか、脂質と混和され得るか、脂質に共有結合され得るか、脂質における懸濁液として含められ得るか、ミセルもしくはリポソームとともに含められ得るかもしくはそれらと複合体化され得るか、または当業者に公知の任意の手段によって脂質もしくは脂質構造と別途会合され得る。その分散物は、リポソームを形成するかもしれないし、形成しないかもしれない。
【0104】
動物患者に投与される本発明の組成物の実際の投薬量は、物理的因子および生理学的因子(例えば、体重、症状の重症度、処置される疾患のタイプ、以前に行われたかまたは同時に行われている治療的介入、患者の特発症および投与経路)によって決定され得る。好ましい投薬量および/または有効量の投与回数は、投薬量および投与経路に応じて、被験体の応答に従って変動し得る。いずれにしても、投与に対して責任のある従事者が、組成物中の活性成分の濃度および個別の被験体に対する適切な用量を決定し得る。
【0105】
ある特定の実施形態において、薬学的組成物は、例えば、少なくとも約0.1%の活性な化合物を含み得る。他の実施形態において、活性な化合物は、約2%〜約75%の重量の単位または例えば約25%〜約60%、およびその中の任意の導き出せる範囲を構成し得る。当然のことながら、治療的に有用な各組成物中の活性な化合物の量は、適当な投薬量が任意の所与の単位用量の化合物で得られるような方法で調製され得る。溶解性、バイオアベイラビリティ、生物学的半減期、投与経路、製品の有効期間、ならびに他の薬理学的に考慮すべき点などの因子は、そのような薬学的製剤を調製する当業者によって企図され得、同様に、種々の投薬量および処置レジメンが望ましい場合がある。
【0106】
他の非限定的な例において、用量は、1投与あたり約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重から約1000mg/kg/体重まで、またはそれ以上、およびそれらの中の導き出せる任意の範囲も含み得る。本明細書中に列挙される数値から導き出せる範囲の非限定的な例において、約5mg/kg/体重〜約100mg/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重〜約500ミリグラム/kg/体重などの範囲が、上に記載された数値に基づいて投与され得る。
【0107】
IX.キット
本発明は、治療用キットなどのキットを提供する。例えば、キットは、本明細書中に記載されるような1つ以上の薬学的組成物および必要に応じてそれらの使用に対する指示書を備え得る。キットは、そのような組成物の投与を達成するための1つ以上のデバイスも備え得る。例えば、主題のキットは、薬学的組成物、および癌性腫瘍に本組成物を直接的に静脈内注射するためのカテーテルを備え得る。他の実施形態において、主題のキットは、送達デバイスとともに使用するための医薬品として必要に応じて製剤化されるかまたは凍結乾燥される、安定化された多量体アルギナーゼまたは単離されたペグ化アルギナーゼが事前に充填されたアンプルを備え得る。
【0108】
キットは、ラベルを有する容器を備え得る。適当な容器としては、例えば、ボトル、バイアルおよび試験管が挙げられる。それらの容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成されたものであり得る。その容器は、上に記載されたものなどの治療的または非治療的な用途にとって有効な抗体を含む組成物を保持し得る。その容器のラベルは、その組成物が特定の治療または非治療な用途のために使用されることを示し得、また、上に記載されたものなどのインビボまたはインビトロでの使用のための指示も示し得る。本発明のキットは、代表的には、上に記載された容器、ならびに商業的観点およびユーザー観点から望ましい材料(例えば、緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、注射器、および使用するための指示を含む添付文書が挙げられる)の入った1つ以上の他の容器を備え得る。
【実施例】
【0109】
X.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を説明するために含められる。以下の実施例に開示される手法は、本発明者らによって発見された、本発明の実施において十分に機能する手法であり、よって、その実施のための好ましい様式を構成すると考えられ得ることが当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に鑑みて、多くの変更が、開示される特定の実施形態において行われ得ること、ならびに本発明の精神および範囲から逸脱することなく、なおも同様または類似の結果を得ることができることを認識すべきである。
【0110】
実施例1
N末端のCys残基の導入、精製およびペグ化
本発明者らは、3番目の残基におけるCysに対するコドンから始まるヒトアルギナーゼI(hArgI)の、大腸菌のコドンに最適化された遺伝子および精製を容易にするための6×Hisタグを含むヌクレオチド配列(NTC−hArgIと呼ばれる;配列番号1に示されるようなアミノ酸配列をコードする配列番号2)を構築した。pET28aベクター(Novagen)にクローニングした後、適切なアルギナーゼ発現ベクターを含む大腸菌(BL21)を、50μg/mlカナマイシンを含むTerrific Broth(TB)培地を用いて振盪フラスコにおいて250rpm、37℃で、OD600が0.5〜0.6に達するまで生育した。その時点で、その培養物を25℃に移し、0.5mM IPTGを用いて誘導し、さらに12時間にわたってタンパク質を発現させた。次いで、細胞ペレットを遠心分離により回収し、IMAC緩衝液(10mM NaPO/10mMイミダゾール/300mM NaCl,pH8)に再懸濁した。フレンチプレスにより細胞を溶解した後、溶解産物を4℃、20,000×gで20分間遠心分離し、得られた上清をコバルトが固定化された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)カラムに適用し、80〜90カラム体積の0.1%Triton114含有IMAC緩衝液、10〜20カラム体積のIMAC緩衝液で洗浄し、次いで、IMAC溶出緩衝液(50mM NaPO/250mMイミダゾール/300mM NaCl,pH8)で溶出した。次いで、10,000MWCO濾過デバイス(Amicon)を用いて、NTC−hArgIの緩衝液を20mM NaPO、100mM NaCl緩衝液,pH6.8に交換した。小型の反応ジャーを用いて、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(Molecular Probes)を6〜8モル当量でNTC−hArgIに加え、撹拌しながら25℃において30〜40分間反応させることにより、任意の酸化チオールを還元する。3モル当量のメトキシPEGマレイミドMW20,000(Peg20K)(Jenkem Technologies)を加え、25℃で1時間反応させる。天然のArgIは、タンパク質の内部に相対的に埋め込まれた3つのシステイン残基を含むが、導入されたN末端のシステインは、溶媒に露出している。そのN末端のシステインは、この様式では優先的にペグ化されるが、大過剰のモル濃度のPeg20Kは、天然のシステイン残基をペグ化し得る。約3モル当量のPeg20Kを用いることにより、40〜50%のNTC−hArgIが最小限の天然のシステイン結合体化で結合体化され得る。
【0111】
実施例2
ペグ化されたhArgIおよびペグ化されていないhArgIの分離
ペグ化されたタンパク質を未反応材料から分離するために、サイズ排除クロマトグラフィーが通常使用される。しかしながら、hArgIがオリゴマー化する傾向が高いことに起因して、ペグ化されたhArgIを天然の酵素から分離することは、問題があることが判明している。PBS pH7.4を移動相として使用するSuperdex200カラム(Pharmacia Biotech)における分離により、hArgIは、ペグ化された材料の分離が不十分になる、三量体から九量体までの範囲の種々のオリゴマーの状態で存在することが明らかになった。同様に、セファクリルS−500(GE Healthcare)は、いかなるよりよい解決法ももたらさなかった。それゆえ、本発明者らは、NTC−hArgIコード配列へのE256Q変異を操作した。そのE256Q変異体は、以前に、野生型に近い活性を有する単量体として存在すると示されている(Sabioら、2001)。このバリアントを用いた本発明者らのゲル濾過実験は、より高次のオリゴマー化は観察されずに、そのバリアントが主に単量体および二量体として存在することを示した。このバリアントをPeg20Kと結合体化させた後、本発明者らは、PBS pH7.4移動相緩衝液におけるSuperdex200カラムで均一な分離を得ることができた。しかしながら、単量体の形態のhArgIは、安定性を大きく低下させ、このバリアントを薬物候補として使えなくさせる。
【0112】
E256が、隣接サブユニットからのR255とイオン結合を形成することが確認されたので、本発明者らは、プロトン化するE256が、その結合を破壊し得、E256Q単量体バリアントを一過性に模倣し得ると仮定した。pH4.5の酢酸ナトリウム緩衝液で平衡化されたSuperdex200カラムを用いるとき、本発明者らは、高次のオリゴマーを約90%の単量体および約10%の二量体に減少させることができた(図1)。この方法は、ペグ化されていないhArgIからPeg20K−hArgIを良好に分離することを可能にする。
【0113】
実施例3
多量体のヒトアルギナーゼIの作製
活性かつ優勢なオリゴマーの状態のhArgIは、三量体の形態である(MW約105,000Da)。しかしながら、循環中では、35,000Daの単量体サブユニットに解離することにより、腎臓での濾過に対するカットオフより小さい種が生じ、それは、数分以内の腎クリアランスをもたらす。したがって、三量体−単量体の平衡は、哺乳動物の循環中におけるhArgの半減期に悪影響を与える。その循環クリアランスを克服するために、本発明者らは、可撓性のGly/Serリンカーによって接続された三量体のhArgI融合タンパク質を作製した(配列番号3)(それは、三量体の形態では循環中で安定化されている)。
【0114】
三量体のhArgI融合タンパク質をコードする核酸配列(配列番号4)を、いくつかの段階において構築し、各hArgIサブユニット(hArgI1〜3)に対するコード配列を配列確認のためにpET28aベクターに別個にクローニングした後、単一のpET28aベクターにおいて融合タンパク質として統合した。
【0115】
hArgI−1 鋳型として大腸菌のコドンに最適化された遺伝子、およびポリGly−Ser域をコードするオリゴヌクレオチド(IDT)を用いて、本発明者らは、N末端のNcoI制限酵素認識部位、6×Hisタグに対するコドンを有する第1のhArgIサブユニットを構築し、C末端が(Gly−Ser)10リンカー(GSGSGSGSGSGSGSGSGSGS;配列番号5)と連続的になるように終止コドンを除去し、EcoRI制限酵素認識部位を続けた。その配列をpET28aプラスミドにクローニングした後、その配列が望まれない変異を含まないことを確かめた。
【0116】
hArgI−2 鋳型として大腸菌のコドンに最適化された遺伝子、およびポリGly−Ser域をコードするオリゴヌクレオチド(IDT)を用いて、本発明者らは、N末端のEcoRI制限酵素認識部位を有する第2のhArgIサブユニットを構築し、C末端が(Gly−Serリンカー(GGSSGGSSGGSSGGSSGGSS;配列番号6)と連続的になるように終止コドンを除去し、インフレームのBamHI制限酵素認識部位、そしてインフレームのNotI制限酵素認識部位を続けた。その配列をpET28a内のEcoRIとNotIとの間にクローニングした後、その配列が望まれない変異を含まないことを確かめた。
【0117】
hArgI−3 鋳型として大腸菌のコドンに最適化された遺伝子およびオリゴヌクレオチド(IDT)を用いて、本発明者らは、N末端のBamHI制限酵素認識部位、C末端の終止コドンおよびNotI制限酵素認識部位を有する第3のhArgIサブユニットを構築した。その配列をpET28a内のBamHIとNotIとの間にクローニングした後、その配列が望まれない変異を含まないことを確かめた。
【0118】
三量体hArgIの組立 第2のサブユニットに対する遺伝子を、EcoRIおよびNotIを用いてhArgI−2プラスミドから消化し、ゲル精製した。次いでこれを、EcoRIおよびNotIで消化されたhArgI−1プラスミドのC末端にライゲートした。第3のサブユニットに対する遺伝子を、BamHIおよびNotIを用いてhArgI−3プラスミドから消化し、ゲル精製した。最初の2つのサブユニットを含むプラスミドを、BamHIおよびNotIを用いて消化し、それを第3のサブユニットとライゲートした。
【0119】
次いで、三量体hArgIを実施例1に記載されたように本質的に精製すると、約110kDaという見かけのMWが示される(図3A)。
【0120】
実施例4
Peg20K−hArgIおよび三量体hArgIの定常状態における動態
本発明者らは、加熱しながら行う、強酸、チオセミカルバジドおよびFe3+の存在下における尿素産物のジアセチルモノオキシム(diacetylmonoxine)(DAMO)誘導体化(dervitization)(約530nmというλmaxを有する発色団を生成する)を用いた。その色素の構造は、決定的には分かっていないが、その反応は、おそらくFe3+イオンによって安定化されるDAMOと尿素/ウレイド(uriedo)との縮合であると仮定されている(Beale and Croft,1961)。本発明者らは、0〜300μMの尿素で線形であると見出されているA530に対する尿素の検量線を構築した(検出下限は1〜2μMである)。Peg20K−hArgIおよび三量体hArgIの定常状態における動態を、37℃の100mM Hepes緩衝液pH7.4において、ある範囲のL−アルギニン濃度(0〜2mM)にわたって調べた。代表的には、200μLの基質が入った1.5mlのエッペンドルフチューブをヒートブロックにおいて37℃で平衡化し、5μLの酵素を30秒間加えることによって反応を開始し、15μLの12N HClでクエンチすることによって、反応を行った。次いで、反応物およびブランクを800μLの発色試薬(COLDER)と混合し(Knipp and Vasak,2000)、15分間煮沸した。10分間冷却した後、サンプルをキュベットに移し、分光光度計において530nmで読み出した。L−アルギニンは、補正が必要なバックグラウンド吸光度を有するので、使用したすべての濃度に対してL−アルギニンブランクを含めた。次いで、得られたデータをバックグラウンドに対して補正し、形成された生成物の濃度を検量線から計算した。次いで、その生成物を、使用された時間および酵素濃度によって分け、v/[E]を基質濃度に対してプロットし、Kaleidagrah製のソフトウェアを用いてミカエリスメンテン式に直接当てはめた。Peg20K−hArgIによるL−アルギニンの加水分解に対するデータへの当てはめにより、290±5s−1というkcat、0.16±0.01mMというKおよび1,800±140mM−1−1というkcat/Kが得られた。同様に、三量体hArgIから、290±5s−1というkcat、0.13±0.01mMというKおよび2,200±200mM−1−1というkcat/Kが得られた。
【0121】
実施例5
Peg20K−hArgIおよび三量体hArgIの血清安定性
酵素を、プールされたヒト血清(Innovative)に1μMという濃度で加え、37℃でインキュベートした。様々な時点において、アリコートを取り出し、ある濃度のL−Arg(1mM)を加水分解する能力について3つ組で試験した。データをパーセント活性として時間に対してプロットし、二相性の減衰モデル(式1)に当てはめることにより、T1/2値を計算した(ここで、y=所与の時間におけるv、ymax=時間0におけるv、ymid=第1の活性喪失の終わりにおけるv、ymin=実験の終わりにおけるv、kは、指数関数的速度であり、mは、Hill勾配係数であり、T0.5=時間1/2、およびτ=時間)。
【0122】
【化1】

三量体hArgIとPeg20K−hArgIの両方が、二相性の不活性化の動態を示すwt−hArgIと実質的に同一の安定性を示す(約7時間という第1の半減期および続いて起きる30〜35時間という半減期)。図3Bは、wt−hArgIと三量体hArgIとの比較を示している。
【0123】
本明細書中で開示されるおよび特許請求される方法のすべてが、本開示に鑑みて、過度の実験なしに行われ得、かつ遂行され得る。本発明の組成物および方法は、好ましい実施形態に関して記載されたが、変形が、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書中に記載される方法およびその方法の工程または工程の連続物に適用され得ることは当業者に明らかであろう。より詳細には、化学的かつ生理的に関係するある特定の薬剤が、本明細書中に記載される薬剤の代わりに用いられ得るが、同じまたは類似の結果に達し得ることが明らかであろう。当業者に明らかなそのようなすべての類似の置換および改変は、添付の請求項によって定義される本発明の精神、範囲および概念内であるとみなされる。
【0124】
参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書中に示されるものに対して補足する例示的な手順の詳細または他の詳細を提供する範囲で、明確に本明細書中で参考として援用される。
【0125】
【化2】

【0126】
【化3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化された多量体アルギナーゼであって、該安定化されたアルギナーゼを形成するために結合体化された少なくとも2つのアルギナーゼ単量体を含む、安定化された多量体アルギナーゼ。
【請求項2】
安定化されたヒトアルギナーゼとしてさらに定義される、請求項1に記載の安定化された多量体アルギナーゼ。
【請求項3】
安定化されたヒトアルギナーゼIとしてさらに定義される、請求項2に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項4】
安定化されたヒトアルギナーゼIIとしてさらに定義される、請求項2に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項5】
金属補因子としてコバルトを含む、請求項1に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項6】
前記少なくとも2つのアルギナーゼ単量体が直鎖状ポリペプチドとして融合されている融合タンパク質としてさらに定義される、請求項1に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項7】
1つ以上の単量体の間に位置する1つ以上の可撓性リンカーを含む、請求項6に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項8】
配列番号3に示されるアミノ酸配列を実質的に含む、請求項7に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項9】
前記単量体が、化学的に結合体化された、請求項1に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項10】
2から4つのアルギナーゼ単量体を含む、請求項1に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項11】
3つのアルギナーゼ単量体を含む、請求項10に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項12】
薬学的に許容され得るキャリア中に分散された、請求項1に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項13】
ペグ化されたアルギナーゼをペグ化されていないアルギナーゼから分離する方法であって、該方法は:
a)ペグ化されたアルギナーゼおよびペグ化されていないアルギナーゼを含むタンパク質溶液を得る工程;および
b)該ペグ化されたアルギナーゼを約3から約5.5までのpHにおいて該ペグ化されていないアルギナーゼから分離する工程
を包含する、方法。
【請求項14】
前記ペグ化されたアルギナーゼが、ペグ化されたヒトアルギナーゼとしてさらに定義される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ペグ化されたアルギナーゼが、ペグ化されたヒトアルギナーゼIとしてさらに定義される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ペグ化されたアルギナーゼが、ペグ化されたヒトアルギナーゼIIとしてさらに定義される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ペグ化されたアルギナーゼが、操作されたシステイン残基においてペグ化されている、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記ペグ化されたアルギナーゼが、その金属補因子としてとしてコバルトを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記ペグ化されたアルギナーゼが、サイズ排除クロマトグラフィーによって前記ペグ化されていないアルギナーゼから分離される、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記ペグ化されたアルギナーゼが、約3.5から約5.0までのpHにおいて前記ペグ化されていないアルギナーゼから分離される、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記ペグ化されたアルギナーゼが、約4.5のpHにおいて前記ペグ化されていないアルギナーゼから分離される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
安定化された多量体アルギナーゼを形成するために結合体化された少なくとも2つのアルギナーゼ単量体を含む、安定化された多量体アルギナーゼであって、ここで、該安定化されたアルギナーゼは、約5時間から100時間の血清半減期を有する、安定化された多量体アルギナーゼ。
【請求項23】
前記安定化されたアルギナーゼが、約10時間から100時間の血清半減期を有する、請求項22に記載の安定化されたアルギナーゼ。
【請求項24】
前記安定化されたアルギナーゼが、約7から35時間の血清半減期を有する、請求項22に記載の安定化されたアルギナーゼ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−531893(P2012−531893A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517824(P2012−517824)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/040205
【国際公開番号】WO2011/008495
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【Fターム(参考)】