説明

アルギン酸塩印象材用接着剤組成物

【課題】 金属,プラスチック等の各種の印象用トレーの材質に対して優れた接着性を有し、従来、印象用トレーに対する保持力が不足していたペーストタイプのアルギン酸塩印象材にも効果のあるアルギン酸塩印象材用接着剤組成物を提供する。
【解決手段】 有機溶剤に、ロジン,エステルガム,ポリアミド樹脂より選ばれる1種または2種以上の化合物が1〜50重量%溶解されていることを特徴とするアルギン酸塩印象材用接着剤組成物とする。有機溶剤としては、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、トルエンなどが使用でき、これら単独でも使用できるが、イソプロピルアルコールと酢酸エチルあるいは、イソプロピルアルコールとトルエンを組み合わせた有機溶剤が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルギン酸塩印象材にて口腔内の印象を採得するに際し、事前に印象用トレーに塗布して印象用トレーとアルギン酸塩印象材とを接着させるためのアルギン酸塩印象材用接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科医療における補綴物作製の際に口腔内の状態や欠損部位の状態を再現する必要がある。このために用いられるのが歯科用印象材であり、印象材を印象用トレーに盛り上げてから口腔内の所望の部位に圧接し印象材を硬化させる。硬化後の印象材は印象用トレーと共に口腔内より撤去される。
【0003】
印象材の種類としては、アルギン酸塩印象材、シリコーン印象材、ポリエーテル印象材、寒天印象材等が主に用いられている。中でもアルギン酸塩印象材は比較的安価であるため広く使用されているが口腔内から取り出す際に硬化後の印象材が印象用トレーから剥がれてしまうことがある。その結果、印象材が変形してしまい精度の高い印象が得られないという問題があった。
【0004】
本来、アルギン酸塩印象材には歯科臨床で多く用いられているステンレス製やプラスチック製等の印象用トレーとの接着性がないため、印象用トレーの表面に凹凸や穴等を設けて機械的な保持力を利用している。しかし、実際には機械的な保持のみでは印象材と印象材トレーとの一体化が不十分であるから精度の高い印象を得るためには専用の接着剤を用いる必要があった。
【0005】
しかし、現在このような目的で使用されている接着剤は印象用トレーとアルギン酸塩印象材の両者に対して接着性を有しているわけではなく、金属製のトレーのみしか接着性を有していない(例えば、特許文献1,2参照。)。更にアルギン酸塩印象材には、アルギン酸塩印象材粉末と水とを混合して練和するタイプのものと、アルギン酸塩を含むペーストと硬化材粉末あるいは硬化材ペーストとを混合して練和するタイプのものが使われている。特にペーストタイプのアルギン酸塩印象材は、もともと接着性が無いことに加えてペースト化するために多量の油分や界面活性剤が配合されているので、この油分や界面活性剤が分離材として作用してしまい、印象材を口腔内より撤去する際に印象材が印象用トレーから完全に剥がれてしまうという問題が生じていた。
【0006】
【特許文献1】特開平10−175812号公報
【特許文献2】特開2000−160106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにアルギン酸塩印象材と印象用トレーとの保持力が十分ではないために口腔内から印象を取り出す時に印象材が剥離してしまう等の問題が生じていた。特に従来の接着剤ではプラスチック製の印象用トレーに対する接着性が弱いため、全ての印象用トレーの材質に対して接着性を有する接着剤が要望されていた。特にペーストタイプのアルギン酸塩印象材の保持力が低いのでペーストタイプのアルギン酸塩印象材にも効果のある接着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記問題点を解決するために鋭意検討した結果、アルギン酸塩印象材用の接着剤組成物として、有機溶剤に特定の樹脂を溶解させ印象用トレーに塗布して乾燥させると、粘着性のある皮膜が印象用トレー表面に形成されることに着目した。この皮膜は粘着により強固に印象用トレーと粘着することができ、その粘着性は金属,プラスチックを問わないという優れたものであった。更に、この粘着性の皮膜上に練和されたアルギン酸塩印象剤を盛り上げるとアルギン酸塩印象材が硬化する過程で特定の樹脂により形成された粘着性の皮膜とアルギン酸塩印象材とも強固に接着することを見出して本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、有機溶剤に、ロジン,エステルガム,ポリアミド樹脂より選ばれる1種または2種以上の化合物が1〜50重量%溶解されていることを特徴とするアルギン酸塩印象材用接着剤組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアルギン酸塩印象材用接着剤組成物は、金属製は勿論、プラスチック製の印象用トレーにも強固に粘着し、従来印象用トレーとの保持力が不足していたペーストタイプのアルギン酸塩印象材も確実に印象用トレーに保持することが可能な優れたアルギン酸塩印象材用接着剤組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るアルギン酸塩印象材用接着剤組成物は、ロジン,エステルガム,ポリアミド樹脂より選ばれる1種または2種以上の化合物を有機溶剤に1〜50重量%を溶解させることにより作製される。ロジンは製造方法によって各種存在するが、基本的にはアビエチエン酸を主成分とする各種異性体の混合物であり、本発明においてはアビエチエン酸を主成分としたロジンであれは使用可能である。
【0012】
エステルガムとしてはロジンエステル、即ちロジンのメチルあるいは、エチル、グリセリンエステル等が例示される。また、本発明中で用いるポリアミド樹脂は、重合脂肪酸とジアミンその他との縮合反応によって合成されるポリアミド樹脂が使用可能である。
【0013】
ロジン,エステルガム,ポリアミド樹脂より選ばれる1種または2種以上の化合物は有機溶剤に溶解させることにより、やや粘ちょう性のある液体となり筆やスプレー等により印象用トレーに塗布することが可能となると共に、塗布後は溶剤が揮発することによりアルギン酸塩印象材と接着性のある皮膜が印象用トレー表面に形成される。ロジン,エステルガム,ポリアミド樹脂は、1種または2種以上の化合物を組み合わせて使用することができ、特にポリアミド樹脂とロジンあるいは、ポリアミド樹脂とエステルガムとを組み合わせて使用することが望ましい。ポリアミド樹脂とロジンあるいは、ポリアミド樹脂とエステルガムを組み合わせることにより、粉末と水を練和するタイプのアルギン酸塩印象材は勿論、従来の接着剤では十分な接着力が得られなかったペースト状のアルギン酸塩印象材に対しても印象用トレーとの接着がより一層良好なものとなる。
【0014】
本発明においては、これらの樹脂の含有量は有機溶剤中に1〜50重量%で配合される。1重量%より少ないと印象用トレーとアルギン酸塩印象材との接着が十分ではなくなり、50重量%より多いと、接着剤組成物の粘性が上昇してしまい印象用トレーに塗布することが困難となり操作性が劣り、溶剤の揮発も遅くなり印象用トレーとの接着が不十分なものとなってしまう。より好ましい含有量は10〜30重量%である。
【0015】
本発明で用いる有機溶剤としては、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、トルエン等が使用でき、これら単独でも使用できるが、イソプロピルアルコールと酢酸エチルあるいは、イソプロピルアルコールとトルエンを組み合わせた有機溶剤の揮発性が高く比較的安全なので好適である。
【0016】
また、本発明に係るアルギン酸塩印象材用接着剤組成物には、着色剤,香料等の公知の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で使用しても良いのは勿論である。
【実施例】
【0017】
本発明について実施例を挙げ詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
<実施例1>
ポリアミド樹脂 20(重量%)
ロジン 1
イソプロピルアルコール 60
酢酸エチル 19
【0019】
上記ポリアミド樹脂とロジンとをイソプロピルアルコールと酢酸エチルの混合液に溶解した後、ガラス製容器に充填した。次に印象用トレーを準備した。この際、金属製トレー(製品名 インプレッショントレー(穴無し):ジーシー社製)とプラスチック製トレー(製品名 Disposable Spacer Trays:ジーシーアメリカ社製)及び個人トレー作製用レジン(製品名 オストロンII:ジーシー社製)の3種類を使用した。金属製トレー、プラスチック製トレーについては、その形態のまま使用することとし、トレー用レジンに関しては、トレー用レジンを用いて通法に従い個人トレーを作製して用いた。
【0020】
これらの3種類の印象用トレー上に、実施例及び比較例のアルギン酸塩印象材用接着剤組成物を筆を用いて塗布し乾燥させた。その後、粉末状のアルギン酸塩印象材(製品名 アローマファインDFIII:ジーシー社製)の粉末16.8gに対し蒸留水40mlを混合練和し、上記接着剤組成物を塗布したトレー上に盛り上げ上顎の印象を採得した。アルギン酸塩印象材用接着剤の接着剤としての効果については、この印象採得時に口腔内から印象用トレーを撤去する際にアルギン酸塩印象材が印象用トレーから剥離したものを×、口腔内から撤去した印象用トレーよりアルギン酸塩印象材を剥がしてみて印象用トレーにアルギン酸塩印象材が残らない状態で容易に剥離させることができたのを△、同様に印象用トレーよりアルギン酸塩印象材を剥がす際にアルギン酸塩印象材が印象用トレーに残るほどの保持力が認められたものについて○とした。
【0021】
ペースト状アルギン酸塩印象材は、主材ペーストとして、アルギン酸カリウム:9重量%、カラーギナン:0.5重量%、炭酸ナトリウム:0.5、水:90重量%、硬化材ペーストとして、硫酸カルシウム:40重量%、フッ化チタン酸カリウム:1.5重量%、酸化亜鉛:3重量%、リン酸三ナトリウム:3重量%、石英:35.5重量%、ポリブテン:17重量%を作製しペースト状アルギン酸塩印象材とした。主材ペーストと硬化材ペーストとを重量比1:1で混合練和し、練和後の粉末状アルギン酸と同様の試験を行った。結果を表1に纏めて示した。
【0022】
<実施例2>
ポリアミド樹脂 10(重量%)
エステルガム 1
イソプロピルアルコール 89
【0023】
<実施例3>
ポリアミド樹脂 30(重量%)
ロジン 5
イソプロピルアルコール 40
酢酸エチル 25
【0024】
<実施例4>
ポリアミド樹脂 1(重量%)
エステルガム 0.2
イソプロピルアルコール 98.8
【0025】
<実施例5>
ポリアミド樹脂 15(重量%)
イソプロピルアルコール 85
【0026】
<実施例6>
ポリアミド樹脂 45(重量%)
ロジン 5
イソプロピルアルコール 30
酢酸エチル 20
【0027】
<実施例7>
エステルガム 35(重量%)
ロジン 15
イソプロピルアルコール 30
酢酸エチル 20
【0028】
<比較例1>
ポリアミド樹脂 0.5(重量%)
ロジン 0.1
イソプロピルアルコール 99.3
酢酸エチル 0.1
【0029】
上記組成を用いて実施例1と同様の方法にてアルギン酸塩印象材用接着剤を作製した。実施例1と同様の試験を行い、結果を表1に示した。
【0030】
<比較例2>
実施例1の試験に用いた印象用トレーに接着剤を塗布しない以外は実施例1と同様な試験を行ったものを比較例2とした。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1より明らかなように、ロジン、エステルガム、ポリアミド樹脂を有機溶剤に溶解させたアルギン酸塩印象材用接着剤は、金属製印象用トレーのみならずプラスチック製印象用トレーあるいは個人トレー作製用レジン製印象用トレーに対してもアルギン酸塩印象材を十分に保持することが可能であることが分かる。特に、ポリアミド樹脂とロジンあるいは、ポリアミド樹脂とエステルガムを組み合わせて使用したアルギン酸塩印象材用接着剤は、粉末状アルギン酸塩印象材、ペースト状アルギン酸塩印象材両者に対し十分に良好な保持力を示している。一方、本発明中で用いる特定の化合物は含有しているが含有量が請求の範囲外である比較例1、あるいは本発明に係るアルギン酸塩印象材用接着剤組成物を塗布しない比較例2に関しては、口腔内より印象用トレーを撤去する際にアルギン酸塩印象材が印象用トレーより剥離してしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤に、ロジン,エステルガム,ポリアミド樹脂より選ばれる1種または2種以上の化合物が1〜50重量%溶解されていることを特徴とするアルギン酸塩印象材用接着剤組成物。

【公開番号】特開2007−262010(P2007−262010A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90360(P2006−90360)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】