説明

アルギン酸類含有水性組成物

【課題】アルギン酸またはその誘導体を含有する水性組成物、具体的には、ペースト状タイプの歯科用アルジネート印象材における基材ペースト等において、長期にわたり粘度が安定に保持されるものを開発すること。
【解決手段】(A)アルギン酸またはその誘導体、
(B)水、及び
(C)非還元糖、好適にはトレハロースやスクロース等のニ糖類
を含有することを特徴とし、更には、
(D)充填材を添加してペースト状としても良いアルギン酸類含有水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルギン酸またはその誘導体を含有する水性組成物において、組成物の粘度低下を長期にわたり抑制し、安定に粘度が保持されたアルギン酸類含有水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸またはその誘導体(以下、これらを「アルギン酸類」ともいう)は、水溶液に溶解させると非常に粘稠均一な溶液となる性質を有しており、操作性等の面でこうした粘稠性が求められる製品、例えば、ジャム、ソース、マヨネーズ等の食品類、目薬やコンタクトレンズケア用剤等の眼科用組成物等として使用されている。また、アルギン酸またはその誘導体は、カルシウムイオンのような多価金属イオンと接触することでゲル化する性質を有することから、特に歯科用印象材として汎用されている。
【0003】
ところが、こうしたアルギン酸類は、水溶液中で経時的に粘度が低下することが知られている。このため、アルギン酸類の水溶液や、これに充填材を添加したアルギン酸類含有水性組成物においては、長期にわたり粘度を安定に保持できず、組成物の取扱い性状悪化の大きな要因になっていた。このことから、アルギン酸類含有水性組成物では、長期にわたって粘度を安定に保持させることが、組成物の保存安定性を向上させる観点から大きな課題となっていた。
【0004】
上記の課題を克服するため、アルギン酸類を含有する水性組成物に添加剤を配合することで、組成物の粘度低下を抑制する方法が開発されてきた(特許文献1〜4)。しかしながら、上記の方法は、いずれも適用可能な組成物が限定されており、さらに添加剤を配合することにより、組成物の初期粘度が低下してしまうため、所望の初期粘度が得られないという問題があった。
【0005】
一方、糖類に代表される有機ヒドロキシ化合物を配合したペースト状の歯科用アルジネート印象材が開発されている(特許文献5〜6)。ここで使用されている有機ヒドロキシ化合物は、歯牙離型性とトレー保持性を向上させる目的で配合されるものであり、下記の数式1を満たすものが使用されている。
(分子量)÷(ヒドロキシ基の数)<40
有機ヒドロキシ化合物として具体的には、グルコース、フルクトース、マンノース、リボース等の糖類、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコール類、グリセリン等の多価アルコール類などが挙げられており、ここで挙げられている糖類はいずれも還元糖に属するものである。しかしながら、これらの還元糖を配合したのでは、上記アルギン酸類の水性組成物中における経時的な粘度低下はほとんど抑制できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−193475号公報
【特許文献2】特開2006−206481号公報
【特許文献3】特開2006−225323号公報
【特許文献4】特開2006−248960号公報
【特許文献5】特開2003−171219号公報
【特許文献6】特許第4322025号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】櫻井実、井上義夫,「糖の水和とトレハロースの生理機能」,生物物理,日本生物物理学会,1997年,第37巻、326−330頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
こうした背景にあって本発明は、初期の粘度を低下させることなく、長期にわたり粘度が安定に保持されたアルギン酸またはその誘導体を含有する水性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記技術課題を克服すべく鋭意研究を重ねたてきた。その結果、アルギン酸類を含有する水性組成物に、さらに非還元糖を含有させることによって、組成物の経時的な粘度低下が抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明によれば、(A)アルギン酸またはその誘導体、(B)水、及び(C)非還元糖を含有することを特徴とするアルギン酸類含有水性組成物が提供される。
【0011】
上記アルギン酸類含有水性組成物において、
(C)非還元糖が、グリコシド結合によって結合した単糖分子の数が10個以下であること、
(C)非還元糖がトレハロースであること、
(C)非還元糖の含有量が、(A)アルギン酸またはその誘導体1重量部に対し1〜100重量部であること、
が好適である。
【0012】
また、本発明によれば、上記アルギン酸類含有水性組成物に更に(D)充填材を添加してペースト状としたアルギン酸類含有水性組成物が提供される。さらに、上記ペースト状としたアルギン酸類含有水性組成物と硬化材とからなる歯科用アルジネート印象材が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、アルギン酸またはその誘導体を含有する水性組成物に、非還元糖を含有させることによって、初期粘度を低下させることなく、組成物の経時的な粘度低下を高度に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルギン酸類含有水性組成物は、アルギン酸またはその誘導体に非還元糖を配合することにより、組成物の粘度低下を長期にわたり抑制し、粘度が安定に保持される。
【0015】
ここで、アルギン酸は、β−D−マンヌロン酸とα−L−グルロン酸の2種のブロックが(1−4)−結合した直線状のポリマーであり、その誘導体とは通常、カルボン酸部分の反応物であり、アルギン酸塩、アルギン酸のエステル誘導体、アルギン酸のエーテル誘導体等が挙げられる。具体的には、アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸アルカリ金属塩;アルギン酸アンモニウム、アルギン酸トリエタノールアミン等のアルギン酸アンモニウム塩が挙げられる。また、アルギン酸のエステル誘導体としては、アルギン酸プロピレングリコール等のアルギン酸アルキレングリコールが挙げられ、アルギン酸のエステル誘導体としては、プロピレングリコールアルギン酸エーテル等が挙げられる。これらのなかでも、水溶性の高いことからアルギン酸アルカリ金属塩が好ましく、アルギン酸ナトリウムとアルギン酸カリウムが特に好ましく、経時的な粘度低下が起りにくいアルギン酸ナトリウムが最も好ましい。
【0016】
なお、これらアルギン酸やアルギン酸誘導体は、天然物、合成品のいずれを使用しても良い。代表的な天然物としては、アメリカ西海岸のマクロシスティス、南米チリのレッソニア、北欧のアスコフィラム等があるが、原料の海藻の種類、産地はいずれでも良い。また、抽出方法については、アルカリ抽出法や熱水抽出法等があるが、特に規定されない。また、アルギン酸を構成するマンヌロン酸/グルロン酸比(M/G比)は特に規定されず、MリッチなものからGリッチなものまで広範なアルギン酸類が使用可能であるが、4.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.5以下である。
【0017】
また、市販品も利用することができる。市販品は、例えばアルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムであれば、株式会社フードケミファ、株式会社キミカ、富士化学工業株式会社等より供給されている。
【0018】
本発明のアルギン酸類含有水性組成物中におけるアルギン酸類の含有量は、その種類、分子量、組成(M/G比)および組成物中に共存する成分の種類、組成物に付与する所望の粘度に応じて適宜設定することができる。アルギン酸類含有水性組成物の粘度は、アルギン酸類の含有量だけでなくアルギン酸類の分子量にも大きく依存し、一般には重量平均分子量が1万〜100万の広い範囲から採択される。アルギン酸類含有水性組成物を取扱い性に優れる一定の粘稠さを備えたものにするためには、上記重量平均分子量は2万〜30万の範囲であるのが好ましい。また、アルギン酸類はカルシウムイオンのような2価以上の陽イオン(多価金属イオン)と接触することでゲル化する性質を有するが、このようなアルギン酸類のゲル化能を利用する組成物(具体的には、歯科用アルジネート印象材)においては、アルギン酸類の1重量%水溶液の粘度(23℃)が50〜1000mPa・sのものが好適に使用される。
【0019】
本発明のアルギン酸類含有水性組成物に含まれる水は、特に制限されるものではなく、水道水、イオン交換水、蒸留水等が使用できる。水の含有量は特に制限されないが、アルギン酸類のゲル化能を利用する組成物においては、水の含有量はアルギン酸類1重量部に対して1〜2000重量部の割合であり、10〜1000重量部であることがより好ましい。特にアルギン酸類含有水性組成物を硬化材と組み合わせて歯科用アルジネート印象材として使用する場合、水の含有量はアルギン酸類1重量部に対し10〜30重量部であることが好適である。含有量が少なすぎると、アルギン酸類と多価金属イオンとのゲル化反応が不均一に起こったり、ゲル化反応が遅くなったりする場合がある。一方、水の量が多すぎると、ゲル化反応が起りにくくなったり、ゲル化後のゲル状硬化体の強度が低くなったりする場合がある。
【0020】
本発明のアルギン酸類含有水性組成物は非還元糖を添加することにより、長期にわたって安定して粘度が保持された組成物が得られる。本発明で用いられる非還元糖は、還元性を示さない糖類であれば何ら制限なく使用される。ここでいう還元性とは、アルカリ性溶液中で銀や銅等の重金属イオンに対して還元作用を示す性質を有することである。還元性を有する糖類は、重金属イオンに対する還元作用を利用したトレンス試薬やベネジクト試薬、フェーリング試薬によって検出されるが、本発明で用いられる非還元糖は、これらの試薬で検出されない糖類である。非還元糖を具体的に例示すれば、二糖類のトレハロースやスクロース、オリゴ糖類のラフィノース、メレジトース、スタキオース、シクロデキストリン類が挙げられる。
【0021】
本発明において、アルギン酸類含有水性組成物に非還元糖を配合することにより、粘度低下が抑制される理由は必ずしも定かではないが、次のように推定している。即ち、アルギン酸類を含む水溶液では、アルギン酸類の分子鎖間または分子鎖内で水素結合を形成し、アルギン酸類の凝集が起こるため、水溶液の粘度が経時的に低下すると考えられる。一方、アルギン酸類を含有する水性組成物に非還元糖が存在すると、水分子と非還元糖が分子集合体を形成し、この分子集合体がアルギン酸類の分子鎖間または分子鎖内に入り込むことにより水素結合の形成、即ち、アルギン酸類の凝集を阻害し、組成物の粘度低下を抑制しているものと推察される。
【0022】
本発明で使用される非還元糖は、あまりに高分子量のものを使用すると、アルギン酸類と非還元糖で水素結合を形成して凝集が発生することから、組成物の粘度低下の抑制効果は低くなると考えられる。このため、本発明で使用される非還元糖は、グリコシド結合によって結合した単糖分子の数が10個以下であるものが好ましく、二糖類がより好ましい。ペースト状の歯科用アルジネート印象材として使用する場合は、組成物の粘度低下のほかに液分離が劣化要因となるが、トレハロースは非還元糖の中でも特に水和力が高く(非特許文献1)、水分子と分子集合体を形成しやすいことから、液分離が起こりにくくなるため、非還元糖として該トレハロースは特に好適に使用される。なお、スクロースは口腔内の細菌が齲蝕の原因となる酸を産生する際の材料となることから、ペースト状の歯科用アルジネート印象材として使用する場合には適さない。
【0023】
本発明のアルギン酸類含有水性組成物中における非還元糖の含有量は、特に制限されるものではないが、アルギン酸類1重量部に対して0.05重量部以上であることが好ましい。非還元糖の含有量が少なすぎると組成物の粘度低下を十分に抑制できない虞があるため、アルギン酸類1重量部に対して1重量部以上含有させるのが好ましい。含有量の上限はそのアルギン酸類の溶解度までであるが、あまり高粘度になっても取扱い難くなるため、一般にはアルギン酸類1重量部に対して100質量部以下である。また、アルギン酸類のゲル化能を利用する組成物に関しては、アルギン酸類に対して非還元糖があまりに多いとゲル化反応が阻害されてしまうため、非還元糖の含有量はアルギン酸類1重量部に対して50重量部以下であることが好適であり、より好ましくはアルギン酸類1重量部に対して1〜10重量部の範囲で使用される。
【0024】
アルギン酸類含有水性組成物に還元性を示す還元糖(例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース等の全ての単糖類、マルトース、ラクトース、セロビオース等の二糖類、パノース、マルトトリオース、デキストリン等のオリゴ糖類)を含有させると、経時的に起こる組成物の粘度低下が促進されてしまう。アルギン酸類含有水性組成物に還元糖を配合することにより、粘度低下が促進される理由は必ずしも定かではないが、次のように推定している。即ち、還元糖も上記したような粘度抑制効果を有するが、一方で還元糖の有する還元性がアルギン酸類の加水分解反応、即ち、アルギン酸類の低分子化を促進すると考えられる。アルギン酸類の低分子化による粘度低下の影響は、上記の粘度抑制効果に比べて遥かに大きいため、結果として組成物の粘度低下が促進されるものと推察される。このため、本発明のアルギン酸類含有水性組成物において、非還元糖の他に、こうした還元糖も少量であれば含有することは排除されるものではないが、その含有量はアルギン酸類1重量部に対して1重量部以下であることが好適であり、より好ましくは0.05重量部以下に抑えることが特に好ましい。
【0025】
本発明のアルギン酸類含有水性組成物は、発明の効果を利用するものであれば、その使用用途は特定されず、取扱い性等の面から粘稠性が求められる種々の製品、例えば、歯科材料、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、雑品等の各種分野において利用することができる。具体的には、歯科用アルジネート印象材組成物、点眼剤や洗眼剤等の眼科用組成物、点鼻剤や点耳剤等の耳鼻科用組成物、口腔咽頭薬や口内炎治療薬等の口腔用組成物、傷薬等の皮膚外用組成物等が挙げられる。
【0026】
このうち歯科用アルジネート印象材に適用するのが特に好適である。歯科用アルジネート印象材は、アルギン酸類と多価金属塩を成分とする印象材であり、主として歯牙の治療修復の際の歯牙の型取りのために使用されている。上記歯科用アルジネート印象材は、印象精度が良い、微細な部分を再現することができる、印象操作が容易である等の特徴を有しており、歯科用の印象材として広く使用されている。歯科用アルジネート印象材には粉末状タイプとペースト状タイプの二種類があるが、いずれのタイプもアルギン酸類と多価金属塩とが水の存在下で反応しゲル化し弾性を有する硬化体になることで印象に供される。ペースト状印象材は、アルギン酸類を水と混練した基材ペーストを予め調製しておき、使用に際して硫酸カルシウム等の多価金属塩からなる硬化材ペーストが混合される。本発明を歯科用アルジネート印象材に適用する場合、(C)非還元糖が配合されたアルギン酸類含有水性組成物は、上記ペースト状タイプにおける、アルギン酸類と水とを混練した基材ペーストが該当する。
【0027】
本発明のアルギン酸類含有水性組成物には、物性を調節するために充填材を添加しても良い。該充填材としてはタルク、セライト(珪藻土)等の粘土鉱物が好適に使用でき、また、シリカ、アルミナ等の金属または半金属の酸化物も使用可能である。充填材の配合量は特に制限されるものではないが、ペースト状の歯科用アルジネート印象材として使用する場合には、アルギン酸類1重量部に対して0.01〜20重量部であることが好ましく、0.1〜10重量部であることがより好ましい。
【0028】
また、本発明のアルギン酸類含有水性組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な成分や添加物を適宜選択し、一種またはそれ以上を併用して含有させても良い。それらの成分または添加物として、例えば、半固形剤や液剤等の調製に一般的に使用される担体(水性溶媒など)、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、殺菌剤または抗菌剤、pH調整剤、等張化剤、キレート剤、緩衝剤等の各種添加剤を挙げることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
【0030】
実施例1
1.0gのアルギン酸(株式会社キミカ製,M/G比=1.2)を1000gの蒸留水中にて撹拌溶解し、アルギン酸が溶解後、非還元糖として10gのトレハロースを加えて溶解した。
【0031】
上記の方法で調製した組成物について、毛細管粘度計の一種であるキャノン・フェンスケ粘度計(柴田科学株式会社製)を用いて23℃恒温水槽中における粘度を測定し、製造直後における粘度とした。その後、該組成物を透明ガラス瓶に50mLずつ充填し密栓して、50℃の恒温槽内にて7日間保管した。7日間保管後に再度粘度を測定し、熱処理前後における該組成物の粘度測定値から、以下の数式2に従い、粘度残存率(%)を算出した。該組成物の組成ならびに粘度残存率の結果を表1に示した。
【0032】
粘度残存率(%)=(50℃7日間保管後の粘度)÷(製造直後の粘度)×100
実施例2〜4、比較例1〜3
実施例1の方法に準じ、表1に示した組成の異なるアルギン酸類含有水性組成物を調製した。各組成物の組成ならびに粘度残存率の結果を表1に示した。使用したアルギン酸ナトリウム及びアルギン酸カリウムは、全て株式会社キミカ製で、いずれもM/G比は1.2のものである。
【0033】
【表1】

【0034】
比較例1〜3は非還元糖が全く含まれない場合であり、いずれの場合においても経時的な粘度の低下がみられた。これに対し、実施例1〜4はアルギン酸またはその誘導体、水、非還元糖が、本発明で示される構成を満足するように配合されたものであり、いずれの場合も非還元糖を含有しない比較例1〜3との比較において、経時的な粘度の低下が抑制されていることが確認できた。
【0035】
実施例5〜9
実施例1の方法に準じ、表2に示した組成の異なるアルギン酸類含有水性組成物を調製した。各組成物の組成ならびに粘度残存率の結果を表2に示した。
【0036】
【表2】

【0037】
実施例5〜9はアルギン酸またはその誘導体、水、非還元糖が、本発明で示される構成を満足するように配合されたものであり、いずれの場合も非還元糖を含有しない比較例3との比較において、経時的な粘度の低下が抑制されていることが確認できた。
【0038】
比較例4〜9
実施例1の非還元糖の代わりに還元糖を配合して、組成の異なるアルギン酸類含有水性組成物を調製した。各組成物の組成ならびに粘度残存率の結果を表3に示した。
【0039】
【表3】

【0040】
比較例4〜9は非還元糖の代わりに還元糖が配合された場合であり、いずれの場合においても、還元糖を含有しない比較例1〜3との比較において、経時的な粘度の低下の促進がみられた。
【0041】
実施例10〜13
実施例1の方法に準じ、表4に示した組成の異なるアルギン酸類含有水性組成物を調製した。各組成物の組成ならびに粘度残存率の結果を表4に示した。
【0042】
【表4】

【0043】
実施例10〜13は非還元糖の他に還元糖が配合された場合であり、いずれの場合においても、非還元糖を含有しない比較例3との比較において、経時的な粘度の低下が抑制されていることが確認できた。
【0044】
実施例14〜19
実施例1の方法に準じ、表5に示した組成の異なるアルギン酸類含有水性組成物を調製した。各組成物の組成ならびに粘度残存率の結果を表5に示した。
【0045】
【表5】

【0046】
実施例14〜19はアルギン酸またはその誘導体、水、非還元糖が、本発明で示される構成を満足するように配合されたものであり、いずれの場合においても、非還元糖を含有しない比較例2および3との比較において、経時的な粘度の低下が抑制されていることが確認できた。
【0047】
実施例20
1.0gのアルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ製)を20gの蒸留水中にて撹拌溶解し、アルギン酸ナトリウムが溶解後、非還元糖として1.0gのトレハロースを加えて溶解した。その後、さらに3.0gのセライトを加えてペースト状とし、歯科用アルジネート印象材の基材ペーストを調製した。
【0048】
上記の方法で調製した基材ペーストについて、スパイラル粘度計(株式会社マルコム製)を用いて23℃における粘度を測定し、製造直後における粘度とした。調製した基材ペーストと硬化材ペーストを3:1の重量比で混和し、硬化性を評価した。評価基準は硬化したものを○、完全に硬化しなかったものを×とした。硬化材ペーストには、株式会社トクヤマデンタル製「トクヤマAP−1」の硬化材ペーストを使用した。その後、該組成物を透明ガラス瓶に100mLずつ充填し密栓して、50℃の恒温槽内にて7日間保管した。7日間保管後に再度粘度を測定し、熱処理前後における該組成物の粘度測定値から数式1に従い、粘度残存率(%)を算出した。該組成物の組成ならびに粘度残存率の結果を表6に示した。
【0049】
実施例21、比較例10〜13
実施例20の方法に準じ、表6に示した組成の異なるアルギン酸類含有水性組成物を調製した。各組成物の組成、粘度残存率、ならびに硬化性の結果を表6に示した。
【0050】
【表6】

【0051】
比較例10〜13は非還元糖が全く含まれない場合であり、いずれの場合においても経時的な粘度の低下がみられた。これに対し、実施例20〜21はアルギン酸またはその誘導体、水、非還元糖が、本発明で示される構成を満足するように配合されたものであり、いずれの場合も、非還元糖を含有しない比較例10および11との比較において経時的な粘度の低下が抑制されていることが確認できた。
【0052】
実施例22〜26
実施例20の方法に準じ、表7に示した組成の異なるアルギン酸類含有水性組成物を調製した。各組成物の組成、粘度残存率、ならびに硬化性の結果を表7に示した。
【0053】
【表7】

【0054】
実施例22〜26はアルギン酸またはその誘導体、水、非還元糖が、本発明で示される構成を満足するように配合されたものであり、いずれの場合も、非還元糖を含有しない比較例10および11との比較において経時的な粘度の低下が抑制されていることが確認できた。ただし、実施例26では非還元糖であるトレハロース添加量が多すぎるため、硬化材ペーストと混合しても硬化しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルギン酸またはその誘導体、(B)水、及び(C)非還元糖を含有することを特徴とするアルギン酸類含有水性組成物。
【請求項2】
(C)非還元糖が、グリコシド結合によって結合した単糖分子の数が10個以下のものである請求項1に記載のアルギン酸類含有水性組成物。
【請求項3】
(C)非還元糖が、二糖類である請求項1または請求項2に記載のアルギン酸類含有水性組成物。
【請求項4】
(C)非還元糖の含有量が、(A)アルギン酸またはその誘導体1重量部に対し1〜100重量部である請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルギン酸類含有水性組成物。
【請求項5】
更に(D)充填材を添加してペースト状とした請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルギン酸類含有水性組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のアルギン酸類含有組成物と硬化材とからなる歯科用アルジネート印象材。

【公開番号】特開2011−225507(P2011−225507A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111495(P2010−111495)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】