説明

アルクチゲニン高含有ゴボウシエキス及びその製造方法

【課題】アルクチゲニンを高含量に含むゴボウシエキス及びその製造方法を提供し、膵臓癌治療に供する。
【解決手段】ゴボウシに内在する酵素であるβ-グルコシダーゼにより、アルクチインをアルクチゲニンに酵素変換し、エタノールを加えて抽出、濃縮した後、凍結乾燥又は噴霧乾燥することによりアルクチゲニンを高濃度に含有するゴボウシエキスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルクチゲニンを高含量に含むゴボウシエキス及びその抽出・製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴボウシは日局15でゴボウ Arctum lappaLinne (Compositae)の果実であると規定されており、銀翹散、駆風解毒湯、消風散などに処方される生薬で、専ら医薬品として使用される成分本質に分類される。
【0003】
ゴボウシは、リグナン配糖体に分類されるアルクチインを約7%、及びそのアグリコンであるアルクチゲニンを約0.6%含む。
【0004】
近年、PANC−1、AsPC−1、BxPC−1、KP−3のような膵臓癌由来の細胞は、極度の栄養飢餓状態においても強い耐性が見られ、その耐性を解除することが癌治療における新しい生化学的アプローチとなる可能性が報告されている(特許文献1)。
【0005】
更に膵臓癌細胞株PANC−1を用いて、低栄養状態における腫瘍細胞の生存能力を解除できる物質のスクリーニングを行ったところ、アルクチゲニンが有効であることが報告されている。(非特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−065298号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Awale, J. Lu, S. K. Kalauni, Y.Kurashima, Y. Tezuka, S. Kadota, H. Esumi,Cancer Res.,2006,66(3),1751-1757)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在知られているゴボウシは、ゴボウシ中のアルクチゲニン含量が約0.6%と低く、かつ水に溶け難い。このため、従来より行われている熱水抽出法では、アルクチゲニンを高含量に含むエキス製造は極めて困難であった。
【0009】
そのため、実際に生体に投与可能な形態で、かつアルクチゲニンを高含量に含むゴボウシエキスの提供が望まれていた。
【0010】
そこで本発明の課題は、アルクチゲニンを高含量に含むゴボウシエキス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、生薬に内在する酵素であるβ-グルコシダーゼに着目し、この酵素反応を利用してアルクチインをアルクチゲニンに変換する技術、変換したアルクチゲニンを効率よく抽出する技術、およびアルクチゲニンを高含量に含むゴボウシエキスを見い出した。
【0012】
第1の発明は、アルクチゲニンを3%以上含有するアルクチゲニン高含有ゴボウシエキスである。
第2の発明は、ゴボウシに内在するβ-グルコシダーゼにより、アルクチインをアルクチゲニンに酵素変換して抽出することを特徴とするアルクチゲニン高含有ゴボウシエキスの製造方法である
第3の発明は、上記発明のいずれかにおいて、アルクチインをアルクチゲニンに酵素変換した後、エタノールを加えて抽出することを特徴とするアルクチゲニン高含有ゴボウシエキスの製造方法である。
第4の発明は、上記発明のいずれかにおいて、抽出後、濃縮し、凍結乾燥又は噴霧乾燥して製造することを特徴とするアルクチゲニン高含有ゴボウシエキスの製造方法である。
第5の発明は、上記発明のいずれかにおいて、抽出後、濃縮し、デキストリンを添加して噴霧乾燥することを特徴とするアルクチゲニン高含有ゴボウシエキスの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、抗腫瘍効果を有するアルクチゲニンを高含量に有するゴボウシエキスの提供が可能となった。特に膵臓癌患者に投与することで、腫瘍の増殖抑制や抗腫瘍効果を期待できる。また製造時の生産性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】酵素変換有効性結果の分析クロマトグラム
【図2】培養細胞(CAPAN−1)を用いた細胞毒性の評価
【図3】培養細胞(PANC−1)を用いた細胞毒性の評価
【図4】培養細胞(PSN−1)を用いた細胞毒性の評価
【図5】腫瘍モデル動物(CAPAN−1 Xenografts)における抗腫瘍性の評価
【図6】腫瘍モデル動物(PSN−1 Xenografts)における抗腫瘍性の評価
【図7】ヒト血中アルクチゲニン(AG)の血中濃度推移
【図8】ヒト血中アルクチゲニングルクロン酸抱合体(AGG)の血中濃度推移
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。開示する条件は一例であり、これに限定されるものではない。
本願発明のゴボウシエキスは、生薬切裁工程・抽出工程・固液分離工程・濃縮工程・乾燥工程を経て製造される。
【0016】
(生薬切裁工程)
原料とするゴボウシを抽出に適した大きさに切裁する。原料となる生薬は、植物の様々な部位や鉱物、動物など種々の大きさ、形状、固さがあり、その特質に応じた切裁が必要となる。粒度は細かいほど酵素反応が促進され、エキス収率も上昇するが、その反面、酵素反応が速過ぎてプロセス管理が困難になったり、後工程で正確な固液分離に支障が生じることがある。そのため、本発明に用いる生薬の粒度は、細切り程度が望ましい。
【0017】
(抽出工程)
抽出工程は漢方エキス粉末製造工程中で、品質上最も重要な工程であり、ここで漢方エキス粉末の品質が決まる。本願発明では、抽出工程を酵素反応工程と有機溶媒抽出工程の2段階に分けて実施する。
【0018】
(酵素反応工程)
本願発明が見い出した最も重要な工程で、ゴボウシに含まれているアルクチインをアルクチゲニンに酵素変換する工程である。
前工程で準備したゴボウシ細切1kgに水7リットルを加え、20〜40℃で攪拌するなどして約1時間経過させる。この工程によりアルクチインがアルクチゲニンに酵素変換され、アルクチゲニンの含有量が飛躍的に上昇する。当該抽出方法を冷浸抽出という。
なお、反応速度の観点でみれば、酵素反応のピーク温度である37〜40℃が望ましいが、品質制御面でみると反応速度が速すぎてプロセス管理が困難になることもある。
したがって小スケールでは20〜25℃で約1時間の抽出が望ましいが、工業スケールでは攪拌装置の能力や温度制御の能力に応じて、30℃で30分間、37℃で15分間など適宜設定すればよい。尚、60℃を超えると酵素が失活するので、それ以上の温度となる従来の熱水加熱法は使用できない。
【0019】
(有機溶媒抽出工程)
アルクチゲニンが高含量となった状態で、加熱還流し、ゴボウシエキスを抽出する工程である。ここでアルクチゲニンは水難溶性であることから、溶媒を添加することで収率を向上させることができる。
具体的には酵素反応工程を終えた溶液(ゴボウシ細切1kg+水7リットル)に、溶媒3リットル加え、更に1時間加熱還流する。ここで溶媒は安全性の面で、エタノールが望ましい。
エタノール量は多いほどアルクチゲニンの溶解度が高くなり収率も向上するが、不要な油脂類が多く溶け出し、濃縮工程の負荷が大きくなるので、投入量は状況に応じて適宜決めればよい。なおこの工程での加熱還流は、滅菌・殺菌も兼ねている。
【0020】
(固液分離工程)
抽出の終わった生薬を抽出液から分離する工程である。固液分離方式にはろ過法,沈降法などがあり、工業的には遠心分離方式が望ましい。
【0021】
(濃縮工程)
乾燥に先立ち抽出液中の溶媒を除去する工程である。得られたエキスの抽出液が更に高温に長時間曝されることがないように減圧濃縮法を用いる。この工程では,次工程の乾燥が適正に行え、かつ乾燥エキス粉末を製剤した場合に適切な製剤特性を得られるような濃度まで濃縮を行う。
なお、アルクチゲニンは水難溶性であるため、乾燥工程の製造装置内に付着する量が多く、最終的な収率が大幅に低下する。そこでデキストリンを添加することで、製造装置への付着が防止できる。添加量は濃縮液の固形分に対し、20%程度が望ましい。
【0022】
(乾燥工程)
抽出したエキスを粉末状に仕上げる工程である。乾燥法には凍結乾燥と噴霧乾燥が知られているが、実験室レベルであれば前者、量産レベルであれば後者を用いるのが一般的である。
【0023】
以上の製造プロセスにより、アルクチゲニン高含有のゴボウシエキスを得ることができる。
【0024】
(ゴボウシエキス粉末配合製剤)
このようにして得られたエキス粉末はそのままの形で使用することもできるが、通常、食品及び/又は医薬品に使用される通常の賦形剤(例えば、結晶セルロース、ショ糖脂肪酸エステル、乳糖等)を加え、例えば、乾式造粒法或は湿式造粒法により造粒して製造し、このようにした造粒物をそのまま使用することもできるが、それらをさらに打錠機を用いた圧縮成形物として使用することもできる。
【0025】
また、エキス粉末が特有のえぐみを有することから、エキス粉末をマスキングする製剤が服用上好ましく、被覆剤で被覆するフィルムコート剤とすることもできる。また、成分の安定性の観点や簡単に摂取できる形態として、前述のエキス粉末又は上記造粒物をそのままハードカプセルやソフトカプセルに充填し摂取してもよい。
【0026】
(試験)アルクチゲニンの酵素変換有効性試験
抽出工程の酵素反応工程(冷浸抽出)において、アルクチインがアルクチゲニンに酵素変換されているか否かの評価を実施した。
[比較例1]
ゴボウシ粗末(18号篩通過)0.1gをとり、50%メタノール50mLを加えて1時間加熱した後、ろ過する。
[試験例1]
ゴボウシ粗末(18号篩通過) 0.1gをとり、水25mLを加えて振り混ぜ、室温(22℃)に1時間放置した後、メタノール25mLを加えて、ろ過する。
試験例1と比較例1で得た濃縮液を以下の分析条件でHPLC法により、測定を行った。
【0027】
[アルクチゲニン含量測定方法]
カラム:YMC-Pack ProC18 AS−307−3(3μm,4.6mmID×7.5cm)
カラム温度:30℃
検出:UV280nm(上段),UV230nm(下段)
流量:0.8mL/min
注入量:5、10μL
移動相:A液/0.05M
リン酸二水素ナトリウム溶液:アセトニトリル混液(5:1)、
B液/0.05M
リン酸二水素ナトリウム溶液:アセトニトリル混液(1:1)
gradient 条件:0〜10min/B液20%、10〜25min/B液40%
【0028】
[比較例1]表1に示すように、原料生薬中のアルクチイン及びアルクチゲニンの含量はそれぞれ6.88%及び0.58%で、アルクチゲニン/アルクチイン含量比(以下、AG/Aという)=0.08であった。
[試験例1]表1に示すように。アルクチイン及びアルクチゲニン含量はそれぞれ0.15%及び3.80%で、AG/A比=25.33で、アルクチゲニン含量は明らかに上昇した。また図1に示すように原料生薬中のアルクチインは、ほぼ定量的にアルクチゲニンに変換した。
【0029】
【表1】

【実施例】
【0030】
[実施例1](刻み、冷浸抽出によるゴボウシエキスの製造)
ゴボウシ細切300gを水(22℃)1.5Lに加えて1時間攪拌した後、更に1時間加熱還流する。同様にろ過し、水0.5Lで洗浄し、合せた抽出液(1.5L)を凍結乾燥した。
表2に示すように、生薬の刻みを冷浸抽出したエキスは、アルクチイン及びアルクチゲニン含量
はそれぞれ、10.1%及び4.8%でAG/A比=0.48であった。
【0031】
[実施例2](刻み、冷浸抽出、エタノール添加によるゴボウシエキスの製造)
ゴボウシ細切200gを水(22℃)1Lに加えて1時間攪拌した後、エタノール0.45Lを加えて更に1時間加熱還流する。ガーゼ4枚(金網100mesh)でろ過し、30%エタノール0.5Lで洗浄し、合せた抽出液(1.5L)を凍結乾燥した。
表2に示すように、生薬の刻みを冷浸抽出したエキスは、アルクチイン及びアルクチゲニン含量がそれぞれ、13.3%及び11.4%で、AG/A比=0.86であった。実施例1よりもアルクチゲニン含量が大幅に上昇したのは、エタノール添加によりアルクチゲニンが溶解できたためと推測できる。
【0032】
[実施例3〜6](中間スケール、噴霧乾燥によるゴボウシエキスの製造)
ゴボウシ細切2kgを水(37℃)14Lに加えて1時間攪拌した後、エタノール6Lを加えて更に1時間加熱還流する。この液を遠心分離し、得られた抽出液約16Lを減圧濃縮し、エキス固形分に対してデキストリン0〜50%を加えて、噴霧乾燥した。
【0033】
アルクチゲニンは水に溶け難いため、噴霧乾燥工程で付着による損失が大きく、エキス収率が5%に低下した。(実施例3)
このため、デキストリンを添加(実施例3〜6)することにより、機械への付着が防止され、流動性に優れた噴霧乾燥エキスを調製できた。エキス収率は5%から20%程度に向上した。
添加量として、濃縮液の固形分に対して20%程度の添加が望ましい。
【0034】
[実施例7](中間スケール、噴霧乾燥によるゴボウシエキスの製造)
ゴボウシ細切2kgを水(22℃)14Lに加えて1時間攪拌した後、エタノール6Lを加えて更に1時間加熱還流する。この液を遠心分離し、得られた抽出液約16Lを減圧濃縮し、エキス固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。
アルクチイン及びアルクチゲニン含量はそれぞれ7.1%及び6.3%でAG/A比=0.89となり、実験室での結果が再現でき、大量のエキスが得られた。
【0035】
[実施例8](工業スケール、噴霧乾燥によるゴボウシエキスの製造)
ゴボウシ細切80kgを30℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、更に30分間加熱抽出した。この液を遠心分離し、得られた抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、エキス固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。
アルクチイン及びアルクチゲニン含量はそれぞれ6.8%及び5.9%でAG/A比=0.87となり、中間スケールでの結果が再現でき、31.5kgのエキス粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0036】
[比較例2]
(刻み、熱水抽出によるゴボウシエキスの製造)
ゴボウシ細切(8.6号通過)300gを熱水(80℃)1.5Lに加えて1時間加熱還流した後、熱時、ガーゼ4枚(金網100mesh)でろ過した。水0.5Lで洗浄し、合せた抽出液(1.4L)を凍結乾燥した。
本原料生薬を通常行われる水を抽出溶媒とし、加熱抽出して得られた熱水抽出エキス中のアルクチイン及びアルクチゲニン含量はそれぞれ29.2%及び0.92%で、AG/A比0.03であった。AG/A比率がさらに小さくなっていることからアルクチゲニンはエキスに移行し難いことが確認できた。
【0037】
【表2】

【0038】
[実施例9](ゴボウシエキス粉末配合顆粒剤)
(1)実施例8のゴボウシエキス粉末 33.3%
(2)乳糖 65.2%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース
1.5%
合 計
100%
【0039】
(製造方法)
「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製する。すなわち上表に記載の、ゴボウシエキス粉末からヒドロキシプロピルセルロースまでの成分をとり、顆粒状に製し、これを1.5gずつアルミラミネートフィルムに充填し1包あたりゴボウシエキス粉末を0.5g含有する実施例9の顆粒剤を得た。
【0040】
[実施例10](ゴボウシエキス粉末配合錠剤)
(1)実施例8のゴボウシエキス粉末 37.0%
(2)結晶セルロース 45.1%
(3)カルメロースカルシウム 10.0%
(4)クロスポピドン 3.5%
(5)含水二酸化ケイ素 3.4%
(6)ステアリン酸マグネシウム 1.0%
合 計
100%
【0041】
(製造方法)
「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製する。すなわち上表に記載の、ゴボウシエキス粉末からステアリン酸マグネシウムまでの成分をとり、実施例10の錠剤を得た。
【0042】
[試験例2](培養細胞を用いた細胞毒性の評価)
(試験方法)
膵臓がん細胞株CAPAN−1、PANC−1およびPSN−1を96穴プレートに播種し、通常栄養状態のDMEM培地中で37℃,5%CO2/95% Airで24時間前培養した。細胞をPBSで洗浄した後、通常栄養状態のDMEM培地(グラフ中:末尾がD)及び栄養飢餓培地であるNDM培地(グラフ中:末尾がI)に抽出方法の異なるエキス(グラフ中:実施例2及び比較例2)を、アルクチゲニン濃度を一定にして添加したものを各ウェルに加えて24時間インキュベーションした。細胞を再びPBSで洗浄し、10%WST−8を含むDMEM培地100μLを加えて2時間反応させ、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定し、細胞の生存状態を評価した。
【0043】
評価の結果、ゴボウシエキスは、図2〜4に示すごとく、栄養飢餓培地中のすい臓がん細胞株に対して、いずれも顕著な選択的細胞毒性を示した。また、その効果は、エキスにおいてもアルクチゲニンの濃度に依存した、精製アルクチゲニンと同等の抗腫瘍効果を持つことが明らかになった。また、アルクチゲニン(グラフ中:AG)の前駆体であるアルクチイン(グラフ中:A)には、いずれの条件においても抗腫瘍性は見られなかった。
【0044】
[試験例3](腫瘍モデル動物における抗腫瘍性の評価)
(試験方法)
腫瘍モデル動物は、ドナーとなるヌードマウス(BALB-cAJ nu/nu; 日本クレア)の背皮下にヒトすい臓がん細胞株CAPAN−1もしくは、PSN−1を播種し、得られたドナーマウスの腫瘍塊をレシピエントマウスの背皮下に移植することによって作製した。アルクチゲニン(AG)、アルクチイン(A)およびゴボウシエキス(実施例2)は、DMSOに10mg/mlの濃度で溶解したものを生理食塩水で希釈し、マウス1匹あたり50μgを1週間に5回、胃内に経口投与した。抗腫瘍性は、背皮下の腫瘍塊のサイズを経時的に計測することによって評価した。
【0045】
投与開始後1ケ月で、コントロールに比べて薬剤投与群に顕著な腫瘍の増殖抑制効果が認められた。また、精製アルクチゲニンの投与群においても抗腫瘍効果が得られたが、前駆体であるアルクチインをともに含んだゴボウシエキス(実施例2)の方が、より強い抗腫瘍効果が見られた(図5、6)。
【0046】
[試験例4](血中濃度)
(試験方法)
健常男性ボランティア1名を対象に、実施例9の顆粒剤2包(ゴボウシエキス粉末1g)を服用後、経時的(服用前30分)、0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、7時間、24時間)に静脈から約5mLの血液を採取し、血漿サンプルを得た。このようにして得られた血漿サンプル500μLに0.1mol/Lリン酸二水素ナトリウム溶液500μL及び内標準溶液(IS)100μLを加えた。これを試験管に移し、メタノール6mLを加えて振り混ぜた後、遠心分離してメタノール層をとり、減圧下乾固し、残留物に70%アセトニトリル250μLを加えて試料溶液とした。これを以下の条件を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によって測定し、内標準物質に対するピーク高さ比からアルクチゲニン(AG)とアルクチゲニンのグルクロン酸抱合体(AGG)の濃度をそれぞれ算出した。
【0047】
(HPLC条件)
カラム:YMC−pack
ODS−A−312
移動相:0.2%リン酸含有の0.1mol/Lリン酸に水素ナトリウム溶液/アセトニトリル混液(73.5:26.5)
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/min
検出:UV210nm
注入量:10μL
内標準溶液
4-ヒドロキシ安息香酸イソプロピル10mgを50%メタノールに溶かし50mLとし、この液1mLに50%メタノールを加えて100mLとし、内標準溶液とする。
【0048】
(試験結果)
ヒト血漿中のAG及びAGGの濃度推移をそれぞれ図7及び8に示した。
図7及び8から明らかなように、本発明のゴボウシエキス粉末の服用により、血中に検出される主な成分はAGGであった。AG濃度(CAG)は、1時間と2時間に2峰性のピークが検出され、最大濃度(Cmax)は0.15μg/mLであった。また、血中からの消失が緩やかであることから、腸―肝循環による影響があることが考えられる。AGGの血中濃度(CAGG)は1.5時間にピークが認められ、Cmaxは10.7μg/mLであった。また、24時間後においても3.6μg/mLと血中からの消失は緩やかであり、同様に腸-肝循環による影響が考えられる。このように、本発明のゴボウシエキス粉末の服用により、血中に長時間AG及びAGG濃度が維持されることから、生体内での効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルクチゲニンを3%以上含有するゴボウシエキス。
【請求項2】
アルクチゲニンを3%以上含有するゴボウシエキスを含む抗癌剤。
【請求項3】
前記ゴボウシエキスがさらにアルクチインを含有する、請求項2に記載の抗癌剤。
【請求項4】
前記ゴボウシエキスのアルクチゲニン/アルクチイン含量比が0.48以上である、請求項3に記載の抗癌剤。
【請求項5】
膵臓癌のための請求項2〜4のいずれか一項に記載の抗癌剤。
【請求項6】
経口剤形である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の抗癌剤。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−144558(P2012−144558A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69831(P2012−69831)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【分割の表示】特願2010−505497(P2010−505497)の分割
【原出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(306018343)クラシエ製薬株式会社 (32)
【出願人】(510097747)独立行政法人国立がん研究センター (35)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】