説明

アルケニルメルカプタンの製造方法

【課題】優れた品質のアルケニルメルカプタン(2)を良好な収率で製造する方法の提供。
【解決手段】水硫化アルカリの含有量が50重量%以上で、水硫化アルカリに対して5.0〜10.0重量%の硫化アルカリを含有する水硫化アルカリ水和物とアルケニルハライド(1)とアルケニルハライド(1)及びアルケニルメルカプタン(2)の合計100重量部に対してジスルフィド(3)を0.5重量部以上存在させた混合物を、酸素濃度が5体積%以下であるガスの雰囲気下、該混合物の単位容積あたりの攪拌動力が0.15〜6kW/mとなるように攪拌しながら、反応を行う。






(式中、R1及びR2は、水素原子又はアルキル基を、Xは、ハロゲン原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(1)
【0002】
【化1】

【0003】
(式中、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
で示される化合物〔以下、アルケニルハライド(1)ということがある。〕を水硫化アルカリと反応させることにより、式(2)
【0004】
【化2】

【0005】
(式中、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物〔以下、アルケニルメルカプタン(2)ということがある。〕を製造する方法に関する。アルケニルメルカプタン(2)は、例えば医薬や農薬の原料として有用である。
【背景技術】
【0006】
アルケニルハライド(1)を水硫化アルカリと反応させてアルケニルメルカプタン(2)を製造する方法として、例えば、特開2010−120883号公報(特許文献1)には、アルケニルハライド(1)としてアリルクロリドを用い、これをジアリルジスルフィドの存在下に水硫化ナトリウムと反応させ、アルケニルメルカプタン(2)としてアリルメルカプタンを製造する方法が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2010−120883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の方法では、目的物であるアルケニルメルカプタン(2)のほかに、副生物として、式(4)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物〔以下、副生物(4)ということがある。〕が多く生成することがあり、アルケニルメルカプタン(2)の品質及び収率の点で必ずしも満足のいくものではなかった。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、副生物(4)の副生を良好に抑制し、優れた品質のアルケニルメルカプタン(2)を良好な収率で製造しうる方法を提供することにある。
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0014】
[1]式(1)
【0015】
【化4】

(式中、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
で示される化合物を水硫化アルカリと反応させることにより、式(2)
【0016】
【化5】

(式中、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物を製造する方法であって、
水硫化アルカリの含有量が50重量%以上であり、かつ、水硫化アルカリに対して5.0〜10.0重量%の硫化アルカリを含有する水硫化アルカリ水和物と、式(1)で示される化合物とを混合した後、得られた混合物を、酸素濃度が5体積%以下であるガスの雰囲気下、該混合物の単位容積あたりの攪拌動力が0.15〜6kW/mとなるように攪拌しながら、該混合物中に、式(1)で示される化合物及び式(2)で示される化合物の合計100重量部に対して式(3)
【0017】
【化6】

(式中、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物を0.5重量部以上存在させて、前記反応を行うことを特徴とする式(2)で示される化合物の製造方法。
[2]前記混合物が、さらに、相関移動触媒、有機溶媒及び水を含む前記[1]に記載の製造方法。
[3]前記反応により得られる反応混合物を、−5〜10℃の温度で洗浄処理する前記[1]又は[2]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、副生物(4)の副生を充分に抑制し、優れた品質のアルケニルメルカプタン(2)を良好な収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では、式(1)
【0020】
【化7】

【0021】
(式中、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
【0022】
で示される化合物〔アルケニルハライド(1)〕を水硫化アルカリと反応させる。式(1)中、炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。アルケニルハライド(1)として、例えば、2−プロペニルクロリド(アリルクロリド)、2−プロペニルブロミド(アリルブロミド)、2−プロペニルヨードジド(ヨウ化アリル)のような2−プロペニルハライド(アリルハライド)や、2−ブテニルクロリド(クロチルクロリド)、3−メチル−2−ブテニルクロリド、2−ペンテニルクロリド、2−ヘキセニルクロリド、2−ヘプテニルクロリド等が挙げられる。中でも、2−プロペニルハライド(アリルハライド)を原料とする場合に、本発明の方法は有利に採用される。
【0023】
水硫化アルカリ水和物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム等の水硫化アルカリの水和物が挙げられ、中でも、水硫化ナトリウム水和物が好ましい。また、本発明で用いる水硫化アルカリ水和物中には、硫化アルカリが含まれており、硫化アルカリの他に、炭酸アルカリ、亜硫酸アルカリ、チオ硫酸アルカリが含まれていてもよい。かかる水硫化アルカリ水和物は、フレーク状のものを用いてもよく、水に溶解させて得られる水溶液を用いてもよい。
【0024】
特に、後述するような品質の観点から、水硫化アルカリ水和物に含まれる水硫化アルカリの含有量は通常50重量%以上であり、65重量%以上が好ましく、また、水硫化アルカリ水和物に含まれる硫化アルカリの含有量は、水硫化アルカリに対して、通常5.0〜10.0重量%である。また、反応系内の硫化アルカリの含有量が、水硫化アルカリに対して5.0〜10.0重量%の範囲内となるのであれば、前記水硫化アルカリ水和物とともに、別途所定量の硫化アルカリを反応系内に入れてもよい。
【0025】
本発明においては、前記アルケニルハライド(1)と、前記水硫化アルカリ水和物とを混合する。水硫化アルカリ水和物の使用量は、水硫化アルカリ水和物に含まれる水硫化アルカリが、アルケニルハライド(1)1モルに対して、通常1モル以上、好ましくは1.05〜2モルとなるように調整する。
【0026】
前記アルケニルハライド(1)及び前記水硫化アルカリ水和物とともに、溶媒を混合してもよい。該溶媒として、有機溶媒を単独で用いてもよいが、有機溶媒及び水からなる油水二相系の混合溶媒を用いるのが好ましい。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンのような脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンのような脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンのようなハロゲン化脂肪族炭化水素;モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンのようなハロゲン化芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジブチルエーテルのようなエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル等が挙げられる。中でも芳香族炭化水素が好ましく用いられる。
【0027】
上記溶媒の使用量は、アルケニルハライド(1)に対して、通常0.5〜10重量倍程度である。有機溶媒と水との混合溶媒を用いる場合、有機溶媒の使用量は、アルケニルハライド(1)に対して、通常0.5〜5重量倍程度であり、水の使用量は、水硫化アルカリに対して、通常0.5〜5重量倍程度である。また、有機溶媒と水との使用割合は、有機溶媒/水の重量比で表して、通常1/5〜5/1程度である。
【0028】
上述したように、前記アルケニルハライド(1)及び前記水硫化アルカリ水和物とともに、有機溶媒及び水を混合する場合、さらに相関移動触媒を混合するのが好ましい。該相関移動触媒としては、例えば、テトラ−n−エチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−エチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウム硫酸水素塩、トリエチルベンジルアンモニウムクロライドのような第4級アンモニウム塩や、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドのような第4級ホスホニウム塩の他、クラウンエーテル、クリプタンドなどが挙げられる。中でも第4級アンモニウム塩が好ましく用いられる。相間移動触媒の使用量は、アルケニルハライド(1)に対して、通常0.001〜0.2モル倍、好ましくは0.05〜0.1モル倍である。
【0029】
このようにして得られる混合物を、酸素濃度が5体積%以下であるガスの雰囲気下、該混合物の単位容積あたりの攪拌動力が0.15〜6kW/mとなるように攪拌しながら、アルケニルハライド(1)と、水硫化アルカリとを反応させる。
【0030】
前記反応時における前記攪拌動力としては、通常、0.15〜6kW/mであり、好ましくは0.25〜4.5kW/mである。0.15kW/m未満では、得られるアルケニルメルカプタン(2)の収率が低下し、6kW/mを超える範囲では、その攪拌動力とするために設備面やエネルギー面でコストがかかるため経済的に好ましくない。前記攪拌動力は、反応途中において前記範囲内で変動させてもよい。
【0031】
本発明における混合物の単位容積あたりの攪拌動力は、攪拌翼の形状と大きさ(翼径)、邪魔板(バッフル)の形状と数等の反応器の装置形状と、反応器内の混合物の容積、比重、粘度、及び攪拌回転数とから解析的に算出することができ、例えば、各種形状の反応器を使用して攪拌条件下に反応を行う場合において、レイノルズ数Reと、攪拌機の所要動力に関する無次元数である動力数Nとの関係を表す線図を利用して算出することができる。前記線図は、攪拌翼の形状や邪魔板(バッフル)の数等によって異なるものであり、各種形状の攪拌翼及び所定の数の邪魔板を備えた反応器を使用して、各種攪拌条件下に攪拌を行い、攪拌動力を実測することで実験的に作成することができる。また、前記動力数Nは、公知文献から求めることもでき、反応場が十分発達した乱流域にあるときは一定値となることが知られている。
【0032】
前記レイノルズ数Re[−]は、下記式(A)から算出することができる。
【0033】
Re=ρnd/μ (A)
(式(A)中、ρは液の密度[kg/m]、nは攪拌回転数[rpm]、dは攪拌翼径[m]、μは液の粘度[kg/(m・min)]である。)
【0034】
算出されたレイノルズ数Reと前記線図又は公知文献とから、動力数N[−]を算出する。
【0035】
算出された動力数N[−]から、下記式(B)により混合物の単位容積あたりの攪拌動力P[kW/m]を算出することができる。
【0036】
=Nρ(n/60)/V/1000 (B)
(式(B)中、ρ、n及びdはそれぞれ前記と同じ意味を表す。Vは混合物の容積[m]である。)
【0037】
前記攪拌動力は、例えば、攪拌機、及び必要に応じて邪魔板を供えた反応器を使用して前記反応を行う際に、攪拌回転数を調節することにより調整することができる。
【0038】
前記攪拌翼としては、例えば、ファウドラー型、タービン型、プロペラ型、パドル型、傾斜パドル型、湾曲パドル型、アンカー型、プロペラ型等、公知の種々の攪拌翼が挙げられる。前記攪拌翼の翼径、翼の枚数及び攪拌翼の段数は、適宜選択される。
【0039】
前記反応器としては、攪拌混合方式の反応器が使用され、反応器を複数直列に接続して使用してもよい。
【0040】
本発明においては、前記反応の際、式(3)
【0041】
【化8】

【0042】
(式中、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)
【0043】
で示される化合物〔以下、ジスルフィド(3)ということがある。〕を、アルケニルハライド(1)及びアルケニルメルカプタン(2)の合計100重量部に対して0.5重量部以上存在させることにより、式(4)
【0044】
【化9】

【0045】
(式中、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)
【0046】
で示される化合物〔副生物(4)〕の副生を良好に抑制して、優れた品質のアルケニルメルカプタン(2)を製造することができる。ジスルフィド(3)の存在量の上限には特に制限はないが、後の精製での負荷を考慮すると、アルケニルハライド(1)及びアルケニルメルカプタン(2)の合計100重量部に対して6.0重量部以下が好ましい。
【0047】
ジスルフィド(3)は、本発明における硫化アルカリを含有する水硫化アルカリを前記反応に用いた場合に、硫化アルカリやアルケニルメルカプタン(2)に起因して生成しうる反応副生物である。ジスルフィド(3)を所定量以上存在させる方法としては、例えば、上述したように、所定量の硫化アルカリを反応系内に入れて前記反応を行う方法や、反応系内に直接ジスルフィド(3)を添加する方法が挙げられる。
【0048】
上述したように反応系内でのジスルフィド(3)の含有量の観点から、反応系内に入れる硫化アルカリの量は、水硫化アルカリ100重量部に対して5.0〜10.0重量部であるのが好ましい。
【0049】
前記反応は、酸素濃度が5体積%以下であるガスの雰囲気下で行うことにより、アルケニルメルカプタン(2)を良好な収率で製造することができる。該ガスとしては、酸素濃度が5体積%以下である窒素や、酸素濃度が5体積%以下であるアルゴンや、酸素濃度が5体積%以下であるヘリウムや、酸素濃度が5体積%以下である二酸化炭素や、窒素、二酸化炭素、ヘリウム及びアルゴンから選ばれる二種以上の酸素濃度が5体積%以下である混合ガス等が挙げられる。該ガス中の酸素濃度は、2体積%以下であるのが好ましく、1.0体積%以下であるのがより好ましく、0.50体積%以下であるのがさらに好ましい。
【0050】
反応方式としては、適宜選択されるが、水硫化アルカリ水和物と溶媒との混合物にアルケニルハライド(1)を供給して上記反応を行うのが好ましい。一方、反応系内にジスルフィド(3)を添加する場合、溶媒、アルケニルハライド(1)、水硫化アルカリ水和物のいずれに加えてもよく、相間移動触媒を用いる場合も、溶媒、アルケニルハライド(1)、水硫化アルカリ水和物のいずれに加えてもよい。
【0051】
アルケニルハライド(1)を供給する場合、不純物の副生を抑制する観点から、冷却して供給するのが好ましい。かかる冷却温度は、アルケニルハライド(1)の種類によるが、通常−20〜50℃程度である。
【0052】
反応温度は通常0〜100℃、好ましくは30〜50℃である。また、反応は通常、常圧付近で実施されるが、必要により加圧下又は減圧下に行ってもよい。
【0053】
かくして、アルケニルメルカプタン(2)を含む反応混合物を得ることができる。反応後の後処理操作としては、適宜選択されるが、例えば、洗浄処理として、反応混合物に水を加えて洗浄し、次いで油水分離を行うことにより、有機相としてアルケニルメルカプタン(2)の有機溶媒溶液を得るのがよい。その洗浄処理時の温度は、アルケニルメルカプタン(2)の分解や逐次反応を抑制する観点から、−5〜10℃であるのが好ましく、0〜10℃であるのがより好ましい。洗浄処理時の水の添加量は、使用したアルケニルハライド(1)100重量部に対して、通常100〜1000重量部であり、好ましくは100〜200重量部である。得られたアルケニルメルカプタン(2)の有機溶媒溶液は、必要に応じて洗浄処理を繰り返し、必要に応じて蒸留、晶析等により精製した後、各種用途に使用できる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。尚、実施例中、アリルメルカプタン〔式(2)中、R及びRが水素原子である化合物〕の収率や、ジアリルジスルフィド〔式(3)中、R及びRが水素原子である化合物〕及び副生物(4)〔ここでは、式(4)中、R及びRが水素原子である化合物〕の各含有量は、ガスクロマトグラフィーにより分析し、算出した。
【0055】
実施例1
還流冷却器、温度計、攪拌器及びジャケット付き滴下ロートを備えた1Lのガラス製反応器(内径114mm)に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム含有量=70.00重量%、硫化ナトリウム含有量=4.10重量%、硫化ナトリウム/水硫化ナトリウム=5.9重量%)115.11g(1.43モル)、水100.04g、キシレン80.04g、69.6重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロリド水溶液55.68g(0.17モル)及びジアリルジスルフィド2.32g(0.01モル)を入れ、ファウドラー型3枚翼(翼径60.4mm、段数1段)及びフィンガーバッフル2本を使用し、攪拌動力が1.60kW/mとなる条件(攪拌回転数760rpm)で攪拌しながら、反応器内の気相部に窒素を導入して反応器内の気相部の酸素濃度を0体積%とした。
【0056】
次いで、アリルクロリド100.06g(1.28モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロリドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、7時間かけて滴下し、さらに40℃で3時間保温した。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水120.23gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、攪拌を停止した。0.5時間静置することで油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのキシレン溶液174.38gを得た。該溶液中のアリルクロリド及びアリルメルカプタンに対するジアリルジスルフィドの含有量は5.99重量%、副生物(4)の含有量は0.01重量%であった。またアリルクロリドに対するアリルメルカプタンの収率は80.94%であった。
【0057】
実施例2
還流冷却器、温度計、攪拌器及びジャケット付き滴下ロートを備えた1Lのガラス製反応器(内径114mm)に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム含有量=70.00重量%、硫化ナトリウム含有量=4.10重量%、硫化ナトリウム/水硫化ナトリウム=5.9重量%)109.14g(1.36モル)、水94.99g、キシレン76.34g、69.6重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロリド水溶液52.00g(0.16モル)及びジアリルジスルフィド2.00g(0.01モル)を入れ、ファウドラー型3枚翼(翼径60.4mm、段数1段)及びフィンガーバッフル2本を使用し、攪拌動力が1.60kW/mとなる条件(攪拌回転数760rpm)で攪拌しながら、反応器内の気相部の酸素濃度が1体積%となるように反応器内の気相部に窒素を導入した。
【0058】
次いで、アリルクロリド95.00g(1.22モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロリドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、7時間かけて滴下し、さらに40℃で3時間保温した。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水113.50gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、攪拌を停止した。0.5時間静置することで油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのキシレン溶液165.75gを得た。該溶液中のアリルクロリド及びアリルメルカプタンに対するジアリルジスルフィドの含有量は5.97重量%、副生物(4)の含有量は0.02重量%であった。またアリルクロリドに対するアリルメルカプタンの収率は80.19%であった。
【0059】
実施例3
還流冷却器、温度計、攪拌器及びジャケット付き滴下ロートを備えた1Lのガラス製反応器(内径114mm)に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム含有量=70.00重量%、硫化ナトリウム含有量=4.10重量%、硫化ナトリウム/水硫化ナトリウム=5.9重量%)109.14g(1.36モル)、水94.98g、キシレン76.35g、69.6重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロリド水溶液51.81g(0.16モル)及びジアリルジスルフィド2.01g(0.01モル)を入れ、ファウドラー型3枚翼(翼径60.4mm、段数1段)及びフィンガーバッフル2本を使用し、攪拌動力が1.60kW/mとなる条件(攪拌回転数760rpm)で攪拌しながら、反応器内の気相部の酸素濃度が2体積%となるように反応器内の気相部に窒素を導入した。
【0060】
次いで、アリルクロリド95.02g(1.22モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロリドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、7時間かけて滴下し、さらに40℃で3時間保温した。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水113.58gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、攪拌を停止した。0.5時間静置することで油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのキシレン溶液165.63gを得た。該溶液中のアリルクロリド及びアリルメルカプタンに対するジアリルジスルフィドの含有量は5.96重量%、副生物(4)の含有量は0.02重量%であった。またアリルクロリドに対するアリルメルカプタンの収率は79.96%であった。
【0061】
実施例4
還流冷却器、温度計、攪拌器及びジャケット付き滴下ロートを備えた1Lのガラス製反応器(内径114mm)に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム含有量=70.00重量%、硫化ナトリウム含有量=4.10重量%、硫化ナトリウム/水硫化ナトリウム=5.9重量%)109.11g(1.36モル)、水94.95g、キシレン76.36g、69.6重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロリド水溶液51.92g(0.16モル)及びジアリルジスルフィド2.06g(0.01モル)を入れ、ファウドラー型3枚翼(翼径60.4mm、段数1段)及びフィンガーバッフル2本を使用し、攪拌動力が1.60kW/mとなる条件(攪拌回転数760rpm)で攪拌しながら、反応器内の気相部の酸素濃度が5体積%となるように反応器内の気相部に窒素を導入した。
【0062】
次いで、アリルクロリド95.01g(1.22モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロリドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、7時間かけて滴下し、さらに40℃で3時間保温した。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水113.54gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、攪拌を停止した。0.5時間静置することで油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのキシレン溶液165.94gを得た。該溶液中のアリルクロリド及びアリルメルカプタンに対するジアリルジスルフィドの含有量は6.21重量%、副生物(4)の含有量は0.02重量%であった。またアリルクロリドに対するアリルメルカプタンの収率は79.65%であった。
【0063】
実施例5
還流冷却器、温度計、攪拌器及びジャケット付き滴下ロートを備えた1Lのガラス製反応器(内径114mm)に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム含有量=70.00重量%、硫化ナトリウム含有量=4.10重量%、硫化ナトリウム/水硫化ナトリウム=5.9重量%)109.24g(1.36モル)、水95.00g、キシレン76.00g、69.6重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロリド水溶液51.82g(0.16モル)及びジアリルジスルフィド1.94g(0.01モル)を入れ、ファウドラー型3枚翼(翼径60.4mm、段数1段)及びフィンガーバッフル2本を使用し、攪拌動力が5.60kW/mとなる条件(攪拌回転数1140rpm)で攪拌しながら、反応器内の気相部に窒素を導入して反応器内の気相部の酸素濃度を0体積%とした。
【0064】
次いで、アリルクロリド95.00g(1.21モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロリドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、7時間かけて滴下し、さらに40℃で3時間保温した。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水114.20gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、攪拌を停止した。0.5時間静置することで油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのキシレン溶液164.41gを得た。該溶液中のアリルクロリド及びアリルメルカプタンに対するジアリルジスルフィドの含有量は5.68重量%、副生物(4)の含有量は0.01重量%であった。またアリルクロリドに対するアリルメルカプタンの収率は79.42%であった。
【0065】
実施例6
還流冷却器、温度計、攪拌器及びジャケット付き滴下ロートを備えた1Lのガラス製反応器(内径114mm)に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム含有量=70.00重量%、硫化ナトリウム含有量=4.10重量%、硫化ナトリウム/水硫化ナトリウム=5.9重量%)109.12g(1.36モル)、水95.06g、キシレン75.98g、69.6重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロリド水溶液51.92g(0.16モル)及びジアリルジスルフィド1.94g(0.01モル)を入れ、ファウドラー型3枚翼(翼径60.4mm、段数1段)及びフィンガーバッフル2本を使用し、攪拌動力が0.20kW/mとなる条件(攪拌回転数380rpm)で攪拌しながら、反応器内の気相部に窒素を導入して反応器内の気相部の酸素濃度を0体積%とした。
【0066】
次いで、アリルクロリド95.00g(1.21モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロリドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、7時間かけて滴下し、さらに40℃で3時間保温した。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水114.11gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、攪拌を停止した。0.5時間静置することで油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのキシレン溶液164.74gを得た。該溶液中のアリルクロリド及びアリルメルカプタンに対するジアリルジスルフィドの含有量は5.62重量%、副生物(4)の含有量は0.01重量%であった。またアリルクロリドに対するアリルメルカプタンの収率は79.55%であった。
【0067】
比較例1
還流冷却器、温度計、攪拌器及びジャケット付き滴下ロートを備えた1Lのガラス製反応器(内径114mm)に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム含有量=70.00重量%、硫化ナトリウム含有量=4.10重量%、硫化ナトリウム/水硫化ナトリウム=5.9重量%)109.21g(1.36モル)、水94.97g、キシレン76.37g、69.6重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロリド水溶液51.86g(0.16モル)及びジアリルジスルフィド2.01g(0.01モル)を入れ、ファウドラー型3枚翼(翼径60.4mm、段数1段)及びフィンガーバッフル2本を使用し、攪拌動力が1.60kW/mとなる条件(攪拌回転数760rpm)で攪拌しながら、反応器内の気相部の酸素濃度が10体積%となるように反応器内の気相部に窒素を導入した。
【0068】
次いで、アリルクロリド95.01g(1.22モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロリドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、7時間かけて滴下し、さらに40℃で3時間保温した。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水113.59gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、攪拌を停止した。0.5時間静置することで油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのキシレン溶液164.39gを得た。該溶液中のアリルクロリド及びアリルメルカプタンに対するジアリルジスルフィドの含有量は6.88重量%、副生物(4)の含有量は0.03重量%であった。またアリルクロリドに対するアリルメルカプタンの収率は75.72%であった。
【0069】
比較例2
還流冷却器、温度計、攪拌器及びジャケット付き滴下ロートを備えた1Lのガラス製反応器(内径114mm)に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム含有量=70.00重量%、硫化ナトリウム含有量=4.10重量%、硫化ナトリウム/水硫化ナトリウム=5.9重量%)109.11g(1.36モル)、水94.97g、キシレン76.34g、69.6重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロリド水溶液51.77g(0.16モル)及びジアリルジスルフィド1.94g(0.01モル)を入れ、ファウドラー型3枚翼(翼径60.4mm、段数1段)及びフィンガーバッフル2本を使用し、攪拌動力が1.60kW/mとなる条件(攪拌回転数760rpm)で攪拌した。尚、反応器内の気相部は、酸素濃度約21体積%の空気雰囲気であった。
【0070】
次いで、アリルクロリド95.02g(1.22モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロリドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、7時間かけて滴下し、さらに40℃で3時間保温した。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水113.68gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、攪拌を停止した。0.5時間静置することで油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのキシレン溶液164.34gを得た。該溶液中のアリルクロリド及びアリルメルカプタンに対するジアリルジスルフィドの含有量は6.95重量%、副生物(4)の含有量は0.03重量%であった。またアリルクロリドに対するアリルメルカプタンの収率は76.85%であった。
【0071】
比較例3
還流冷却器、温度計、攪拌器及びジャケット付き滴下ロートを備えた1Lのガラス製反応器(内径114mm)に、水硫化ナトリウム水和物(水硫化ナトリウム含有量=70.00重量%、硫化ナトリウム含有量=4.10重量%、硫化ナトリウム/水硫化ナトリウム=5.9重量%)109.22g(1.36モル)、水95.16g、キシレン76.04g、69.6重量%トリエチルベンジルアンモニウムクロリド水溶液51.79g(0.16モル)及びジアリルジスルフィド1.93g(0.01モル)を入れ、ファウドラー型3枚翼(翼径60.4mm、段数1段)及びフィンガーバッフル2本を使用し、攪拌動力が0.10kW/mとなる条件(攪拌回転数300rpm)で攪拌しながら、反応器内の気相部に窒素を導入して反応器内の気相部の酸素濃度を0体積%とした。
【0072】
次いで、アリルクロリド95.00g(1.21モル)をジャケット付き滴下ロートに入れて−2〜5℃に冷却し、この冷却したアリルクロリドを、反応液の温度を40℃に保ちながら、7時間かけて滴下し、さらに40℃で3時間保温した。得られた反応液を0〜10℃に冷却し、水114.21gを添加して、析出した塩化ナトリウムを溶解させた後、攪拌を停止した。0.5時間静置することで油水分離し、有機相として、アリルメルカプタンのキシレン溶液153.00gを得た。該溶液中のアリルクロリド及びアリルメルカプタンに対するジアリルジスルフィドの含有量は5.93重量%、副生物(4)の含有量は0.02重量%であった。またアリルクロリドに対するアリルメルカプタンの収率は73.88%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
で示される化合物を水硫化アルカリと反応させることにより、式(2)
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物を製造する方法であって、
水硫化アルカリの含有量が50重量%以上であり、かつ、水硫化アルカリに対して5.0〜10.0重量%の硫化アルカリを含有する水硫化アルカリ水和物と、式(1)で示される化合物とを混合した後、得られた混合物を、酸素濃度が5体積%以下であるガスの雰囲気下、該混合物の単位容積あたりの攪拌動力が0.15〜6kW/mとなるように攪拌しながら、該混合物中に、式(1)で示される化合物及び式(2)で示される化合物の合計100重量部に対して式(3)
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物を0.5重量部以上存在させて、前記反応を行うことを特徴とする式(2)で示される化合物の製造方法。
【請求項2】
前記混合物が、さらに、相関移動触媒、有機溶媒及び水を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応により得られる反応混合物を、−5〜10℃の温度で洗浄処理する請求項1又は2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−197257(P2012−197257A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63711(P2011−63711)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】