説明

アルケニルリン化合物、アルケニルリン化合物重合体、及びアルケニルリン化合物共重合体

【課題】従来の難燃剤の問題点を解決しつつ、加熱しても着色しにくいという特性を兼ね備えたアルケニルリン化合物重合体及びアルケニルリン化合物共重合体、並びにそれらのモノマー(単量体)として好適なアルケニルリン化合物を提供する。
【解決手段】一般式


で表されるアルケニルリン化合物の単独重合体、ないし、前記アルケニルリン化合物とスチレン、アクリル酸エステル、アクリロニトリル等のアルケン化合物との共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケニルリン化合物、その単独重合体(ホモポリマー)であるアルケニルリン化合物重合体、及び、アルケニルリン化合物とアルケン化合物との共重合体(コポリマー)であるアルケニルリン化合物共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、熱可塑性樹脂(ポリエステル、ポリアミド等)や熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)等のポリマーは、汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチック等として優れた成形加工性、機械的強度、電気特性等を有しているので、電気分野や電子分野を含む各種の分野で広く使用されている。そして、このようなポリマーを成形・加工したポリマー成形品には、火災の発生や延焼を防止するために難燃性が要求されることが多い。
【0003】
ポリマーに難燃性を付与するために添加される従来の難燃剤としては、
〔1〕ハロゲン系難燃剤〔テトラブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、トリ(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリ(ジブロモプロピル)ホスフェート等〕
の他、
〔2〕有機リン系難燃剤(トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等)、
〔3〕無機難燃剤(金属酸化物、金属水和物、赤リン等)、
〔4〕尿素から誘導されるトリアジン系難燃剤、
〔5〕有機環状リン化合物(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシド等)、
等の非ハロゲン系難燃剤も知られている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
【0004】
前記〔5〕有機環状リン化合物については、環状リン構造を有するエポキシ樹脂の反応原料(反応型難燃剤)として使用可能なもの(例えば、特許文献2参照。)も提案されているが、ポリマー中に練り込むのが一般的である。このような有機環状リン化合物をポリマー中に練り込んだ難燃性ポリマーとしては、有機環状リン化合物からなる難燃剤と、平均粒子径が15μm以下の親水性シリカパウダーと、樹脂とを含有し、前記難燃剤と前記親水性シリカパウダーとの合計含有量が10〜45質量%である樹脂組成物を成形又は塗膜化した難燃性樹脂加工品が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
また、反応型難燃剤を化学結合によりポリマー鎖内に導入した難燃性ポリマーとして、
〔6〕ビニルリン化合物重合体(ポリジフェニルビニルホスフィンオキシド等)
等も提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−114783号公報(従来の技術、発明が解決しようとする課題、請求項1等)
【特許文献2】特開昭61−197588号公報(従来の技術、発明が解決しようとする問題点、特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2006−328125号公報(背景技術、発明が解決しようとする課題、請求項1等)
【特許文献4】特開2006−28102号公報(背景技術、発明が解決しようとする課題、請求項1等)
【特許文献5】特開2007−91824号公報(請求項1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記〔1〕ハロゲン系難燃剤については、熱分解等により生成したハロゲン化ラジカルが燃焼源としての有機ラジカルを捕捉し、燃焼の連鎖反応を停止させることによって、難燃化効果が発揮されると考えられている。しかし、ハロゲン系難燃剤においては、ポリマー組成物の燃焼時に人体に有害なダイオキシンが発生するおそれがあるという問題点がある。
【0008】
前記〔2〕有機リン系難燃剤においては、ポリマー組成物中に共存する他の成分の作用により分解され易いので、難燃化効果を十分に発揮できないことがあるという問題点がある。また、ポリマー中に均一に分散されていなければ難燃化効果を十分に発揮できないので、有機リン系難燃剤を添加するポリマーの種類によっては添加量が多くなりがちであるという問題点がある。
【0009】
前記〔3〕無機難燃剤のうち、金属酸化物(酸化アンチモン、酸化アルミニウム等)や金属水和物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等)においては、難燃化効果が余り高くなく、ポリマー中に多量に配合する必要があるので、ポリマー成形品の成形性が悪いと共に、ポリマー成形品の機械的強度が低下し易いという問題点がある。赤リンにおいては、難燃化効果が高いものの、ポリマーに対する分散不良によりポリマー成形品の成形性や電気特性が低下すると共に、人体に有害なガスが発生し易いという問題点がある。また、赤リンのブリードアウト(外部への放出)が発生するので、ポリマー成形品の難燃性が徐々に低下すると共に、環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)汚染公害を引き起こすおそれがあるという問題点がある。更に、赤リンが空気中の水分と反応してリン酸を生成し、そのリン酸が電子基板を錆びさせるので、電子基板の難燃剤として使いにくいという問題点がある。
【0010】
前記〔4〕トリアジン系難燃剤においては、ポリマー成形品に光沢が生じ易いので、意匠性が制限されるという問題点がある。ポリマーにタルク、炭酸カルシウム等の艶消し剤を配合した場合には、ポリマー成形品に光沢が生じるのを防止できるものの、ポリマー成形品の靱性が低下するという問題点がある。また、トリアジン系難燃剤のブリードアウトが発生するので、ポリマー成形品の難燃性が徐々に低下すると共に、環境ホルモン汚染公害を引き起こすおそれがあるという問題点がある。
【0011】
前記〔5〕有機環状リン化合物においては、それが徐々に加水分解するので、ポリマー成形品の耐水性や電気絶縁性が低いという問題点がある。また、有機環状リン化合物のブリードアウトが発生するので、ポリマー成形品の難燃性が徐々に低下すると共に、環境ホルモン汚染公害を引き起こすおそれがあるという問題点がある。
【0012】
前記〔6〕ビニルリン化合物重合体においては、ビニルリン化合物が化学結合によりポリマー鎖内に導入されているが、成形時等における加熱によって着色し易いという問題点がある。
【0013】
本発明は、以上のような事情や問題点に鑑みてなされたものであり、前記〔1〕〜〔5〕のような従来の難燃剤の問題点を解決しつつ、加熱しても着色しにくいという特性を兼ね備えたアルケニルリン化合物重合体及びアルケニルリン化合物共重合体、並びにそれらのモノマー(単量体)として好適なアルケニルリン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するための第1の発明に係るアルケニルリン化合物は、一般式
【化1】

(式中、
1、R2は、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はシリル基を示し、
3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10は、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、シアノ基、又はアシル基を示す。)
で表されるものである。
【0015】
第2の発明に係るアルケニルリン化合物重合体は、一般式
【化2】

(式中、
nは、2以上の整数を示し、
1、R2は、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はシリル基を示し、
3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10は、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、シアノ基、又はアシル基を示す。)
で表されるものである。
【0016】
第3の発明に係るアルケニルリン化合物共重合体は、第1の発明に係るアルケニルリン化合物と、一般式
【化3】

(式中、R11、R12、R13、R14は、それぞれ水素原子、アリール基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アルキル基、又はカルボキシル基を示す。)
で表されるアルケン化合物と、を共重合させたものである。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、前記アルケニルリン化合物重合体や前記アルケニルリン化合物共重合体のモノマーとして好適に使用することができる。
【0018】
第2及び第3の発明によれば、第1の発明に係るアルケニルリン化合物が化学結合によりポリマー鎖内に導入されているので、難燃性を有すると共に、成形時等に加熱しても着色しにくい。また、前記アルケニルリン化合物のブリードアウトが発生しないので、難燃性を長期間(半永久的に)維持できると共に、環境ホルモン汚染公害を引き起こすおそれがない。更に、前記アルケニルリン化合物の部位が加水分解しにくいので、耐水性や電気絶縁性に優れると共に、前記アルケニルリン化合物の部位が加水分解したとしても加水分解物が外部へ放出されることがない。加えて、難燃性を有しないポリマーにブレンド(混合)することによって、そのポリマーに難燃性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
第1実施形態に係るアルケニルリン化合物は、一般式
【化4】

で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ビニル−10−フォスファフェナントレン−10−オキシド(9,10-Dihydro-9-Oxa-10-vinyl-10-Phosphaphenanthrene-10-oxide)又はその誘導体である。
【0020】
一般式(1)中のR1、R2は、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はシリル基である。また、一般式(1)中のR3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10は、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、シアノ基、又はアシル基である。
【0021】
アルキル基の炭素数としては、1〜18、好ましくは1〜10が適当である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、デシル基等が挙げられる。
【0022】
シクロアルキル基の炭素数としては、5〜18、好ましくは5〜10が適当である。シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基等が挙げられる。
【0023】
アリール基の炭素数としては、6〜14、好ましくは6〜10が適当である。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基、ナフチル基、ベンジルフェニル基等が挙げられる。
【0024】
ヘテロアリール基は、ヘテロ原子(酸素、窒素、硫黄等)を含む環式化合物であり、それに含まれる原子数としては、4〜12、好ましくは4〜8が適当である。ヘテロアリール基としては、チエニル基、フリル基、ピリジル基、ピロリル基等が挙げられる。
【0025】
アラルキル基の炭素数としては、7〜13、好ましくは7〜9が適当である。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルベンジル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0026】
アルケニル基の炭素数としては、2〜18、好ましくは2〜10が適当である。アルケニル基としては、ビニル基、3−ブテニル基等が挙げられる。
【0027】
アルコキシ基の炭素数としては、1〜8、好ましくは1〜4が適当である。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0028】
アリールオキシ基の炭素数としては、6〜14、好ましくは6〜10が適当である。アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0029】
シリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジメチルシリル基、トリメトキシシリル基等が挙げられる。
【0030】
アシル基の炭素数としては、1〜8、好ましくは1〜4が適当である。アシル基としては、アルデヒド基(ホルミル基)、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。
【0031】
一般式(1)で表されるアルケニルリン化合物を製造するには、下記の反応式
【化5】

に示すように、一般式(4)で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシド(9,10-Dihydro-9-Oxa-10-Phosphaphenanthrene-10-oxide)又はその誘導体と、一般式(5)で表されるアルキン化合物とを、メチルアルコール等の溶媒中、Ni(PMe3)4等の金属触媒の存在下で反応させる。なお、「Me」は、メチル基を示す。一般式(5)及び一般式(1)中のR2が水素原子でない場合は、E体(又はトランス体)のアルケニルリン化合物が選択的に生成する。
【0032】
金属触媒は、Ni(PMe3)4、Ni[P(n-Bu)3]4等のニッケル(Ni)触媒の他、従来公知のパラジウム(Pd)触媒、ロジウム(Rh)触媒等であってもよい。なお、「n-Bu」は、n−ブチル基を示す。
【0033】
一般式(5)で表されるアルキン化合物としては、アセチレン、ブチン(1−ブチン、2−ブチン)、オクチン(1−オクチン、2−オクチン、3−オクチン、4−オクチン)、フェニルアセチレン、トリメチルシリルアセチレン、エチニルチオフェン、ヘキシノニトリル、シクロヘキセニルアセチレン等が挙げられる。
【0034】
得られたアルケニルリン化合物は、分子内にアルケニル基を有しているので、後述するように、第2実施形態のアルケニルリン化合物重合体や第3実施形態のアルケニルリン化合物共重合体のモノマーとして好適に使用することができる。
【0035】
第2実施形態に係るアルケニルリン化合物重合体(ホモポリマー)は、一般式
【化6】

で表される。
【0036】
一般式(2)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10は、それぞれ一般式(1)中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10と同じであり、nは2以上の整数である。
【0037】
一般式(2)で表されるアルケニルリン化合物重合体を製造するには、一般式(1)で表されるアルケニルリン化合物を重合(単独重合)させる。
【0038】
重合反応の温度条件としては、0〜200℃、好ましくは室温〜100℃が適当である。重合反応は、空気雰囲気、又は不活性ガス雰囲気(窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等)で行うことができる。重合反応は加熱だけでも進行するが、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤等の重合開始剤の存在下で反応させれば、効率良く重合させることができる。重合開始剤の添加割合としては、0.1〜50mol%、好ましくは1〜5mol%が適当である。
【0039】
ラジカル重合開始剤としては、過酸化物触媒、アゾ系触媒等が挙げられる。過酸化物触媒としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酢酸、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド等が挙げられる。アゾ系触媒としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が挙げられる。
【0040】
アニオン重合開始剤としては、グリニャール化合物、有機リチウム化合物等が挙げられる。グリニャール化合物としては、メチルマグネシウムハライド、n−ブチルマグネシウムハライド、t−ブチルマグネシウムハライド、ビニルマグネシウムハライド、アリルマグネシウムハライド、ベンジルマグネシウムハライド、フェニルマグネシウムハライド等が挙げられる。ここで、ハライドとは、クロリド(塩化物)、ブロミド(臭化物)、及びヨージド(ヨウ化物)を意味する。有機リチウム化合物としては、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウム等が挙げられる。
【0041】
また、溶媒中で反応させた場合も、効率良く重合させることができる。溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、環状エーテル系溶媒等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。環状エーテル系溶媒としては、THF(テトラヒドロフラン)、テトラヒドロピラン、ジオキサン等が挙げられる。
【0042】
重合反応は、通常の場合、30分〜24時間程度で終了する。重合反応終了後、必要に応じて反応混合物から溶媒を留去し、水及び希酸水溶液で洗浄してから真空乾燥等により乾燥させれば、一般式(2)で表されるアルケニルリン化合物重合体を得ることができる。
【0043】
得られるアルケニルリン化合物重合体の分子量は、特に限定されるものではないが、1000〜100万程度が適当である。
【0044】
得られたアルケニルリン化合物重合体においては、一般式(1)で表されるアルケニルリン化合物が化学結合によりポリマー鎖内に導入されているので、難燃性を有すると共に、成形時等に加熱しても着色しにくいという利点がある。また、前記アルケニルリン化合物のブリードアウトが発生しないので、難燃性を長期間(半永久的に)維持できると共に、環境ホルモン汚染公害を引き起こすおそれがないという利点がある。更に、前記アルケニルリン化合物の部位が加水分解しにくいので、耐水性や電気絶縁性に優れると共に、前記アルケニルリン化合物の部位が加水分解したとしても加水分解物が外部へ放出されることがないという利点がある。
【0045】
第3実施形態に係るアルケニルリン化合物共重合体(コポリマー)は、一般式(1)で表されるアルケニルリン化合物と、一般式
【化7】

で表されるアルケン化合物とを共重合させたものである。
【0046】
一般式(3)中のR11、R12、R13、R14は、それぞれ水素原子、アリール基(フェニル基等)、シアノ基、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基等)、アルキル基(メチル基等)、又はカルボキシル基である。このようなアルケン化合物としては、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸メチル(メチルアクリレート)、メタクリル酸メチル(メチルメタクリレート)、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0047】
アルケニルリン化合物共重合体を製造するには、第2実施形態と同様の反応条件及び操作で、一般式(1)で表されるアルケニルリン化合物と、一般式(3)で表されるアルケン化合物とを共重合させる。
【0048】
共重合反応終了後、必要に応じて反応混合物から溶媒を留去し、水及び希酸水溶液で洗浄してから真空乾燥等により乾燥させれば、アルケニルリン化合物共重合体を得ることができる。
【0049】
前記アルケニルリン化合物に対するコモノマーとしてのアルケン化合物の配合割合は、特に限定されるものではないが、1〜1000程度が適当である。
【0050】
得られたアルケニルリン化合物共重合体においては、一般式(1)で表されるアルケニルリン化合物が化学結合によりポリマー鎖内に導入されているので、第2実施形態のアルケニルリン化合物重合体と同様の利点がある。また、第2実施形態のアルケニルリン化合物重合体や第3実施形態のアルケニルリン化合物共重合体においては、難燃性を有しないポリマーにブレンド(混合)することによって、そのポリマーに難燃性を付与できるという利点がある。
【0051】
以下、実施例を列挙して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
〔反応触媒の調製〕
下記の反応式
【化8】

に示すように、Ni(cod)2とPMe3とを反応させることにより、反応触媒としてのNi(PMe3)4を調製した。なお、「cod」は、1,5−シクロオクタジエンを示す。
【0053】
具体的には、フラスコ内の空気を窒素ガスで置換した後、フラスコ内に1当量のNi(cod)2を入れ、更に4当量のPMe3を加えた。そして、フラスコを氷浴で冷却しながら溶液を30分間撹拌したところ、固体が得られた。
【0054】
〔アルケニルリン化合物の製造〕
下記の反応式
【化9】

に示すように、前記の操作で得られた固体を反応触媒として使用し、構造式(4)で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシドとアセチレンとを反応させることにより、構造式(6)で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ビニル−10−フォスファフェナントレン−10−オキシドを製造した。
【0055】
具体的には、構造式(4)で表される環状リン化合物12.75gをフラスコに入れ、フラスコ内の空気を窒素ガスで置換した後、フラスコ内にメチルアルコール30mLを入れ、前記環状リン化合物をメチルアルコールに溶解させた。次いで、溶液を脱気した後、溶液に1当量のアセチレンを吹き込み、更に1mol%の前記反応触媒を添加してから70℃で3時間撹拌することにより反応を行った。反応終了後、反応液を濃縮、減圧蒸留(真空度:0.1Pa、沸点:200〜230℃)した。このような操作により、白色の結晶が13.0g(収率:90%)得られた。得られた結晶の融点は、62.6〜62.9℃であった。
【0056】
また、得られた結晶のNMR(核磁気共鳴)スペクトルデータを測定した。その結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ: 7.87(dt、J=17.1Hz,6.1Hz、2H)、7.70(dt、J=13.4Hz,3.9Hz、1H)、7.61(t、J=7.8Hz、1H)、7.45〜7.39(m、1H)、7.28(q、J=6.4Hz、1H)、7.16(s、1H)、7.13(d、J=9.1Hz、1H)、6.27(ttt、J=32.5Hz,13.2Hz,4.2Hz、3H)
31P−NMR(400MHz、CDCl3): 23.47
【0057】
更に、得られた結晶の高分解能質量分析スペクトル(HRMS)データを測定した。その結果を以下に示す。
構造式(6)で表されるアルケニルリン化合物の分子式: C14122
14122Pの分子量の理論値: 242.0497
得られた結晶の分子量の実測値: 242.0479
【実施例2】
【0058】
〔アルケニルリン化合物の製造〕
下記の反応式
【化10】

に示すように、構造式(4)で表される環状リン化合物とジフェニルアセチレンとを反応させることにより、構造式(7)で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ビニル−10−フォスファフェナントレン−10−オキシドの誘導体を製造した。
【0059】
具体的には、構造式(4)で表される環状リン化合物を1mmolとし、溶媒を2mLのTHFとし、アルキン化合物を1mmolのジフェニルアセチレンとし、反応触媒を5mol%のNi[P(n-Bu)3]4とした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0060】
その結果、白色の結晶が得られた(収率:72%)。得られた結晶の融点は、169.2℃であった。また、得られた結晶のNMRスペクトルデータを測定した。その結果を以下に示す。
1H−NMR(399.78MHz、CDCl3)δ: 6.97〜7.85(m、19H)
【実施例3】
【0061】
〔アルケニルリン化合物の製造〕
下記の反応式
【化11】

に示すように、構造式(4)で表される環状リン化合物と1−オクチンとを反応させることにより、構造式(8)で表されるアルケニルリン化合物と構造式(9)で表されるアルケニルリン化合物との混合物を製造した。
【0062】
具体的には、構造式(4)で表される環状リン化合物を1mmolとし、溶媒を2mLのTHFとし、アルキン化合物を1mmolの1−オクチンとし、反応触媒を5mol%のNi[P(n-Bu)3]4及び5mol%のジフェニルホスフィン酸とし、25℃で一晩撹拌した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0063】
その結果、油状物質が得られた(収率:87%)。また、得られた油状物質のNMRスペクトルデータを測定した。その結果を以下に示す。
1H−NMR(399.78MHz、CDCl3)δ: 7.00〜7.99(m、61.6H)、6.10(d、JPH=24.0、5.36H)、5.95(d、JPH=44.0、5.36H)、5.92(d、J=16.0、1H)、5.86(d、J=16.0、1H)、2.17〜2.28(m、3.62H)、1.20〜1.69(m、75.09H)、0.84〜0.90(m、31.67H)
【0064】
測定したNMRスペクトルデータに基づいて、構造式(8)で表されるアルケニルリン化合物と構造式(9)で表されるアルケニルリン化合物とのモル比率を算出したところ、
76.1:23.9
であった。
【実施例4】
【0065】
〔アルケニルリン化合物の製造〕
実施例3の反応式に示すように、構造式(4)で表される環状リン化合物と1−オクチンとを反応させることにより、構造式(8)で表されるアルケニルリン化合物と構造式(9)で表されるアルケニルリン化合物との混合物を製造した。
【0066】
具体的には、構造式(4)で表される環状リン化合物を1mmolとし、溶媒を2mLのエチルアルコールとし、アルキン化合物を1mmolの1−オクチンとし、反応触媒を5mol%のNi[P(n-Bu)3]4とした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0067】
その結果、油状物質が得られた(収率:75%)。また、得られた油状物質のNMRスペクトルデータを測定した。その結果を以下に示す。
1H−NMR(399.78MHz、CDCl3)δ: 6.95〜7.98(m、154H)、6.08(d、JPH=24.0、1.03H)、5.94(d、JPH=47.9、1H)、5.92(d、J=16.0、1H)、5.86(d、J=16.0、1.35H)、2.14〜2.28(m、7.5H)、1.68〜1.73(m、8.23H)、1.19〜1.45(m、33.53H)、0.81〜0.87(m、14.3H)
【0068】
測定したNMRスペクトルデータに基づいて、構造式(8)で表されるアルケニルリン化合物と構造式(9)で表されるアルケニルリン化合物とのモル比率を算出したところ、
29.9:70.1
であった。
【実施例5】
【0069】
〔アルケニルリン化合物重合体(ホモポリマー)の製造〕
5mol%のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を重合開始剤として使用し、構造式(6)で表されるアルケニルリン化合物(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ビニル−10−フォスファフェナントレン−10−オキシド。以下、「BPVP」という。)をモノマーとして、表1に示す条件(反応温度:80℃、反応時間:16時間)で重合(単独重合)させることにより、一般式
【化12】

で表されるアルケニルリン化合物重合体を製造した。
【0070】
【表1】

【0071】
得られた重合体の収率を算出した。また、得られた重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定し、それらから分子量分布(Mw/Mn)を算出した。これらの結果を表1に示す。
【実施例6】
【0072】
〔アルケニルリン化合物重合体(ホモポリマー)の製造〕
実施例5と同様の操作を、実施例5とは異なる表1に示す条件で行った。得られた重合体の収率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。
【実施例7】
【0073】
〔アルケニルリン化合物重合体(ホモポリマー)の製造〕
実施例5と同様の操作を、実施例5とは異なる表1に示す条件で行った。得られた重合体の収率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。
【実施例8】
【0074】
〔アルケニルリン化合物重合体(ホモポリマー)の製造〕
表1に示すように、構造式(6)で表されるアルケニルリン化合物(BPVP)を1mmolとし、溶媒を2mLのTHFとし、0.05mmolのフェニルマグネシウムブロミドを添加し、25℃で3時間撹拌した以外は、実施例5と同様の操作を行った。得られた重合体の収率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。
【実施例9】
【0075】
〔アルケニルリン化合物共重合体(コポリマー)の製造〕
構造式(6)で表されるアルケニルリン化合物(BPVP)に対して5mol%のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を重合開始剤として使用し、前記アルケニルリン化合物(BPVP)と、表2に示すコモノマーとを、表2に示す条件で共重合させた。コモノマーとBPVPとのモル比は、
コモノマー:BPVP=5:1
とした。反応温度は80℃、反応時間は16時間とした。なお、表2中の「MeOH」は、メチルアルコールを示す。
【0076】
【表2】

【0077】
得られた共重合体の収率、及び前記アルケニルリン化合物(BPVP)の取込率を算出した。また、得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)をGPCで測定し、それらから分子量分布(Mw/Mn)を算出した。これらの結果を表2に示す。
【実施例10】
【0078】
〔アルケニルリン化合物共重合体(コポリマー)の製造〕
実施例9と同様の操作を、実施例9とは異なる表2に示す条件でそれぞれ行った。得られた共重合体の収率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)、並びに前記アルケニルリン化合物(BPVP)の取込率を表2に示す。
【実施例11】
【0079】
〔アルケニルリン化合物共重合体(コポリマー)の製造〕
実施例9と同様の操作を、実施例9とは異なる表2に示す条件でそれぞれ行った。得られた共重合体の収率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)、並びに前記アルケニルリン化合物(BPVP)の取込率を表2に示す。
【実施例12】
【0080】
〔アルケニルリン化合物共重合体(コポリマー)の製造〕
実施例9と同様の操作を、実施例9とは異なる表2に示す条件でそれぞれ行った。得られた共重合体の収率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)、並びに前記アルケニルリン化合物(BPVP)の取込率を表2に示す。
【実施例13】
【0081】
〔アルケニルリン化合物共重合体(コポリマー)の製造〕
実施例9と同様の操作を、実施例9とは異なる表2に示す条件でそれぞれ行った。得られた共重合体の収率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)、並びに前記アルケニルリン化合物(BPVP)の取込率を表2に示す。
【実施例14】
【0082】
〔アルケニルリン化合物共重合体(コポリマー)の製造〕
実施例9と同様の操作を、実施例9とは異なる表2に示す条件でそれぞれ行った。得られた共重合体の収率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)、並びに前記アルケニルリン化合物(BPVP)の取込率を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように、本発明に係るアルケニルリン化合物重合体及びアルケニルリン化合物共重合体は、従来の難燃剤の問題点を解決しつつ、加熱しても着色しにくいという特性を兼ね備えた難燃性ポリマーとして有用である。また、本発明に係るアルケニルリン化合物は、前記アルケニルリン化合物重合体や前記アルケニルリン化合物共重合体のモノマーとして有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

(式中、
1、R2は、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はシリル基を示し、
3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10は、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、シアノ基、又はアシル基を示す。)
で表されるアルケニルリン化合物。
【請求項2】
一般式
【化2】

(式中、
nは、2以上の整数を示し、
1、R2は、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はシリル基を示し、
3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10は、それぞれ水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、シアノ基、又はアシル基を示す。)
で表されるアルケニルリン化合物重合体。
【請求項3】
請求項1記載のアルケニルリン化合物と、
一般式
【化3】

(式中、R11、R12、R13、R14は、それぞれ水素原子、アリール基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アルキル基、又はカルボキシル基を示す。)
で表されるアルケン化合物と、
を共重合させたアルケニルリン化合物共重合体。



【公開番号】特開2010−202718(P2010−202718A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47433(P2009−47433)
【出願日】平成21年2月28日(2009.2.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(390016377)片山化学工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】