説明

アルケニル基含有有機シラン化合物から成るSi含有膜形成材料およびその用途

【課題】新規なSi含有膜形成材料、殊にPECVD装置に適したアルケニル基含有有機シラン化合物から成るSi含有膜形成材料を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される有機シラン化合物を含有するSi含有膜形成材料を用い、化学気相成長法、特にプラズマ励起化学気相成長法によりSi含有膜を形成させ、絶縁膜として使用する。
【化1】


(式中、R,Rは、炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子を表し、nは0〜3の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機シラン化合物から成るSi含有膜形成材料およびその用途等に関するものである。殊に、ロジックULSIにおける多層配線技術において用いられる低誘電率層間絶縁膜の形成に適した材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子産業の集積回路分野の製造技術において、高集積化かつ高速化の要求が高まっている。シリコンULSI、殊にロジックULSIにおいては、MOSFETの微細化による性能よりも、それらをつなぐ配線の性能が課題となっている。すなわち、多層配線化に伴う配線遅延の問題を解決する為に配線抵抗の低減と配線間および層間容量の低減が求められている。
【0003】
これらのことから、現在、集積回路の大部分に使用されているアルミニウム配線に変えて、より電気抵抗が低く、マイグレーション耐性のある銅配線の導入が必須となっており、スパッタリングまたは化学気相成長(以下、CVDと略記)法によるシード形成後、銅メッキを行うプロセスが実用化されつつある。
【0004】
低誘電率層間絶縁膜材料としては、さまざまな提案がある。従来技術としては、無機系では、二酸化珪素(SiO)、窒化珪素、燐珪酸ガラス、有機系では、ポリイミドが用いられてきたが、最近では、より均一な層間絶縁膜を得る目的で予めテトラエトキシシランモノマーを加水分解、すなわち、重縮合させてSiOを得、Spin on Glass(無機SOG)と呼ぶ塗布材として用いる提案や、有機アルコキシシランモノマーを重縮合させて得たポリシロキサンを有機SOGとして用いる提案がある。
【0005】
また、絶縁膜形成方法として絶縁膜ポリマー溶液をスピンコート法等で塗布、成膜を行う塗布型のものと、主にプラズマCVD装置中でプラズマ重合させて成膜するPECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法の二つ方法がある。
【0006】
PECVD法の提案としては、例えば、特許文献1において、トリメチルシランと酸素とからPECVD法により酸化トリメチルシラン薄膜を形成する方法が、また、特許文献2では、メチル,エチル,n−プロピル等の直鎖状アルキル、ビニル、フェニル等のアルキニル及びアリール基を有するアルコキシシランからPECVD法により酸化アルキルシラン薄膜を形成する方法が提案されている。これら従来のPECVD法材料で形成された絶縁膜は、バリアメタル、配線材料である銅配線材料との密着性が良好な反面、膜の均一性が課題となる場合があった。また、その成膜には、高い成膜速度を実現する為に、高プラズマパワーが必要であり、数千W(ワット)に及ぶ高パワーの高周波電源や成膜を行うチャンバー内に石英等の高価な材料を使用しなければならず、経済面での課題があった。更に高プラズマパワーで成膜することから、生成する薄膜重合体の構造の制御が困難となり、比誘電率が不十分な場合があった。また、特許文献3では、ジビニルジメチルシランを用いたシリコンカーバイト層を基板上に蒸着する方法が提案されている。しかし、この材料は、高温条件となる気化器内で重合し、気化器配管を閉塞させる場合があり、PECVD装置の安定運転が困難な場合がある。
【0007】
そこで安価な装置を用い、低プラズマパワーで、高い成膜速度で低比誘電率絶縁膜を成膜が可能で、かつ安定的気化が可能な材料が求められている。
【0008】
一方、塗布型の提案としては、膜の均一性は良好であるものの、塗布、溶媒除去、熱処置の三工程が必要であり、CVD材料より経済的に不利であり、また、バリアメタル、配線材料である銅配線材料との密着性や、微細化している基板構造への塗布液の均一な塗布自体が課題となる場合が多かった。
【0009】
また、塗布型材料においては、比誘電率が2.5以下、更には、2.0以下のUltra Low−k材を実現する為に多孔質材料とする方法が提案されている。有機系もしくは無機系材料のマトリックスに容易に熱分解する有機成分微粒子を分散させ、熱処理し多孔化する方法、珪素と酸素をガス中蒸発させて形成したSiO超微粒子を蒸着させ、SiO超微粒子薄膜を形成させる方法等がある。
【0010】
しかしながら、これら多孔質化の方法は、低誘電率化には有効であるものの、機械的強度が低下し、化学的機械的研磨(CMP)が困難となったり、水分の吸収による誘電率の上昇と配線腐食を引き起こす場合があった。
【0011】
従って、市場は、低誘電率、十分な機械的強度、バリアメタルとの密着性、銅拡散防止、耐プラズマアッシング性、耐吸湿性等の全て要求性能を満たすバランスの良い材料を更に求めている。これらの要求性能をある程度バランスさせる方法として、有機シラン系材料において、シランに対する有機置換基の炭素比率を上昇させることによって、有機ポリマーと無機ポリマーの中間的特徴を有する材料が提案されている。
【0012】
例えば、特許文献4では、アダマンチル基を有するシリコン化合物を酸性水溶液共存下、ゾル−ゲル法により加水分解重縮合した塗布溶液を用い、多孔質化せずに比誘電率が2.4以下の層間絶縁膜を得る方法を提案している。しかしながら、この材料は、塗布型の材料であり、依然、上述したような塗布型による成膜方法の課題を抱えている。
【0013】
【特許文献1】特開2002−110670号公報
【特許文献2】特開平11−288931号公報
【特許文献3】特開2005−64518号公報
【特許文献4】特開2000−302791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、新規なSi含有膜形成材料、殊にPECVD装置に適したアルケニル基含有有機シラン化合物から成るSi含有膜形成材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、アルケニル基を有する有機シラン化合物が、殊に半導体デバイス用の低誘電率層間絶縁膜材料として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、下記一般式(1)
【0017】
【化1】

(式中、R,Rは、炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子を表し、nは0〜3の整数を表す。)で表される有機シラン化合物から成ることを特徴とする、Si含有膜形成材料である。
【0018】
また本発明は、上述のSi含有膜形成材料を用いることを特徴とする、Si含有膜の形成方法である。
【0019】
さらに本発明は、上述の方法で得られることを特徴とする、Si含有膜である。
【0020】
また本発明は、上述のSi含有膜を、炭素原子とケイ素原子との結合が切断される条件下で処理して得られることを特徴とする、Si含有膜である。
【0021】
さらに本発明は、上述のSi含有膜から成ることを特徴とする、絶縁膜である。
【0022】
また本発明は、上述の絶縁膜を用いることを特徴とする、半導体デバイスである。以下、本発明の詳細について説明する。
【0023】
上記一般式(1)において、R,Rは、炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子を表し、R,Rは、同一であっても異なっても良い。このときの炭化水素基としては飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよい。CVD装置での安定的使用を考慮した場合、R,Rは炭素数1〜10の炭化水素基が特に好ましい。炭素数が10を超えた場合、一般式(1)で表される有機シラン化合物の蒸気圧が低くなり、PECVD装置での使用に手間がかかる場合がある。
【0024】
,Rの炭化水素基は炭素数1〜20であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基を挙げることができる。
【0025】
例えば、飽和炭化水素基として、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert.−ブチル、n−ペンチル、tert.−アミル、n−ヘキシル、シクロヘキシル等を挙げることができる。
【0026】
また不飽和炭化水素基として、ビニル、1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル等のアルケニル、1,3−ブタジエニル、1,3−ペンタジエニル、1,3−ヘキサジエニル等のアルカジエニル、エチニル、1−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル等のアルキニル、フェニル等のアリール、トルイル等のアルキルアリール等を挙げることができる。
【0027】
これらの中でもRとしては1級炭化水素基が好ましく、メチル基が更に好ましい。一方、Rとしては水素原子が好ましい。
【0028】
一般式(1)におけるnは0〜3の整数であるが、好ましくはnが0〜2の整数であり、このとき一般式(1)はポリアルケニルシランを表す。
【0029】
一般式(1)で表される有機シラン化合物の具体例としては、
テトラアリルシラン、テトライソブテニルシラン、
メチルトリアリルシラン、エチルトリアリルシラン、イソプロピルトリアリルシラン、sec−ブチルトリアリルシラン、tert.−ブチルトリアリルシラン、フェニルトリアリルシラン、
メチルトリイソブテニルシラン、エチルトリイソブテニルシラン、イソプロピルトリイソブテニルシラン、sec−ブチルトリイソブテニルシラン、tert.−ブチルトリイソブテニルシラン、フェニルトリイソブテニルシラン等があげられる。
【0030】
またジメチルジアリルシラン、ジエチルジアリルシラン、ジイソプロピルジアリルシラン、ジsec−ブチルジアリルシラン、ジtert.−ブチルジアリルシラン、ジフェニルジアリルシラン、
ジメチルジイソブテニルシラン、ジエチルジイソブテニルシラン、ジイソプロピルジイソブテニルシラン、ジsec−ブチルジイソブテニルシラン、ジtert.−ブチルジイソブテニルシラン、ジフェニルジイソブテニルシラン、
トリメチルアリルシラン、トリエチルアリルシラン、トリイソプロピルアリルシラン、トリsec−ブチルアリルシラン、トリtert.−ブチルアリルシラン、トリフェニルアリルシラン等があげられる。
【0031】
またトリメチルイソブテニルシラン、トリエチルイソブテニルシラン、トリイソプロピルイソブテニルシラン、トリsec−ブチルイソブテニルシラン、トリtert.−ブチルイソブテニルシラン、トリフェニルイソブテニルシラン、
tert.−ブチルジメチルアリルシラン、tert.−ブチルメチルジアリルシラン、tert.−ブチルエチルジアリルシラン、
tert.−ブチルジメチルイソブテニルシラン、tert.−ブチルメチルジイソブテニルシラン、tert.−ブチルエチルジイソブテニルシラン等を挙げることができる。
【0032】
これらの中でもテトラアリルシラン、メチルトリアリルシラン、またはジメチルジアリルシランが好ましい。
【0033】
上記一般式(1)で表される有機シラン化合物の製造法は、特に限定されるものではないが、例えば、下記一般式(2)
【0034】
【化2】

(式中、R及びnは、上記一般式(1)に同じ。Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子、または炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。)で表される化合物と、下記一般式(3)
【0035】
【化3】

(式中、Rは、上記一般式(1)に同じ。Mは、Li、MgCl、MgBr、またはMgIを表す。)で表されるアルケニル金属化合物とを反応させ、製造することができる。
【0036】
また、例えば、下記一般式(4)
【0037】
【化4】

(式中、R及びnは、上記一般式(1)に同じ。Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子、または炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。)で表されるアルケニル基置換ハロゲン化シラン化合物と、下記一般式(5)
【0038】
【化5】

(式中、Rは、上記一般式(1)に同じ。Mは、上記一般式(3)に同じ。)で表される化合物とを反応させ、製造することもできる。
【0039】
本製造法では副生成物の生成が抑制され、高収率で高純度の一般式(1)で示される有機シラン化合物が得られる。
【0040】
上記一般式(2)で表される化合物と上記一般式(3)で示されるアルケニル金属化合物との反応条件、及び上記一般式(4)で表されるアルケニル基置換ハロゲン化シラン化合物と上記一般式(5)で表される化合物との反応条件は、特に限定されず、通常、工業的に使用されている温度である−100〜200℃の範囲、好ましくは−85〜150℃の範囲で行うことが好ましい。反応の圧力条件は、加圧下、常圧下、減圧下いずれであっても可能である。
【0041】
上記の反応に用いる溶媒としては、当該技術分野で使用されるものであれば特に限定されるものでなく、例えば、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−デカン等の飽和炭化水素類、トルエン、キシレン、デセン−1等の不飽和炭化水素類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、tert.−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類を使用することができる。また、これらの混合溶媒も使用することができる。
【0042】
製造に際しては、当該有機金属化合物合成分野での方法に従う。すなわち、脱水および脱酸素された窒素またはアルゴン雰囲気下で行い、使用する溶媒および精製用のカラム充填剤等は、予め脱水操作を施しておくことが好ましい。また、金属残渣およびパーティクル等の不純物も除去しておくことが好ましい。
【0043】
上述の方法で得られた上記一般式(1)で示される有機シラン化合物の精製法については、絶縁膜材料として使用するに有用な水分含有量50ppm未満、ケイ素、炭素、酸素および水素以外の元素の含有量を10ppb未満とすることが好ましく、そのためには副生するリチウム塩、マグネシウム塩、またはアルカリ金属塩を、ガラスフィルター、焼結多孔体等を用いた濾過、常圧もしくは減圧蒸留またはシリカ、アルミナ、高分子ゲルを用いたカラム分離精製等の手段により除去すればよい。この際、必要に応じてこれらの手段を組み合せて使用してもよい。
【0044】
製造の際に用いる上記一般式(3)で表されるアルケニル金属化合物及び上記一般式(5)で表される化合物は、下記一般式(6)
【0045】
【化6】

(式中、Rは、アルケニル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Xは、上記に同じ。)で表される化合物と、金属リチウムまたは金属マグネシウムとを反応させて製造することができる。
【0046】
上記一般式(6)で表される化合物と、金属リチウムまたは金属マグネシウムとの反応条件は、特に限定されるものではないが、以下にその一例を示す。
【0047】
使用する金属リチウムとしては、リチウムワイヤー、リチウムリボン、リチウムショット、リチウム粒子等を用いることができるが、反応の効率面から、500μm以下の粒径を有するリチウム微粒子を用いることが好ましい。
【0048】
使用する金属マグネシウムとしては、マグネシウムリボン、マグネシウム粒子、マグネシウムパウダー等を用いることができる。
【0049】
上記の反応に用いる溶媒としては、当該技術分野で使用されるものであれば特に限定されるものでなく、上記一般式(1)で表される有機シラン化合物の製造で例示した溶媒を使用することができる。また、それらの混合溶媒も使用することができる。
【0050】
上記の反応における反応温度については、生成する有機リチウム化合物または有機マグネシウム化合物が分解しない様な温度範囲で行うことが好ましい。通常、工業的に使用されている温度である−100〜200℃の範囲、好ましくは、−85〜150℃の範囲で行うことが好ましい。反応の圧力条件は、加圧下、常圧下、減圧下いずれであっても可能である。
【0051】
合成した一般式(3)で表されるアルケニル金属化合物及び一般式(5)で表される化合物は、合成の後、そのまま用いることができ、また、未反応の一般式(6)で表される化合物、金属リチウムもしくは金属マグネシウム、または反応副生成物であるリチウムハライドもしくはマグネシウムハライドを除去した後、使用することもできる。
【0052】
本発明のSi含有膜形成材料は、Si含有膜を製造する際には当然のことながら不純物や水分が少ないほうが好ましいため、ケイ素、炭素、酸素および水素以外の元素の含有量が10ppb未満であり、かつ含水量が50ppm未満であることが好ましい。
【0053】
本発明によれば、上述のようなSi含有膜形成材料を用いることにより、Si含有膜を形成することができる。このときの形成方法には特に限定はないが、CVD法により成膜することが好ましく、PECVD法により成膜することが更に好ましい。
【0054】
上記一般式(1)で表される有機シラン化合物は、少なくとも1つのアルケニル基を有するものであり、その作用機構の詳細は不明であるが、従来の有機シラン化合物に比べて、高い成膜速度でSi含有膜を成膜することが可能である。
【0055】
Si含有膜を形成させる際には、少なくとも1つの酸素原子を有する化合物の共存下、行うことが好ましい。これにより、得られるSi含有膜を多孔化することができる。少なくとも1つの酸素原子を有する化合物としては、例えば酸素、オゾン、一酸化二窒素、水、過酸化水素、アルコキシシラン化合物、二酸化炭素、一酸化炭素、カルボン酸、カルボン酸過酸化物、またはカルボン酸過酸化物エステル等があげられる。
【0056】
PECVDにより成膜する場合には、PECVDの種類及び用いる装置は、特に限定されるものではないが、例えばこのPECVDは半導体製造分野、液晶ディスプレイ製造分野等の当該技術分野で一般的に用いられるものが使用される。
【0057】
例えばPECVD装置において、本発明のSi含有膜形成材料を気化器により気化させて成膜チャンバー内に導入し、高周波電源により成膜チャンバー内の電極に印加しプラズマを発生させ、成膜チャンバー内のシリコン基板等にプラズマCVD薄膜を形成させることができる。この際、プラズマを発生させる目的でアルゴン、ヘリウム等のガス、酸素、亜酸化窒素等の酸化剤を導入しても良い。
【0058】
PECVD装置のプラズマ発生方法については、特に限定されず、当該技術で使用されている誘導結合型プラズマ、容量結合型プラズマ、ECRプラズマ、マイクロ波プラズマ等を用いることができる。好ましくは、誘導結合型プラズマ、容量結合型プラズマである。また、プラズマ発生源としては、平行平板型、アンテナ型等の種々のものが使用でき、PECVD装置のチャンバーに供給する不活性ガスとしては、当該技術分野で使用されるヘリウム、アルゴン、クリプトン、ネオン、キセノン等が使用できる。
【0059】
PECVD装置の一例として、図1に平行平板容量結合型PECVD装置を示す。図1に示す平行平板容量結合型PECVD装置1は、PECVD装置チャンバー内にシャワーヘッド上部電極と基板の温度制御が可能な下部電極、Si含有膜形成材料をチャンバーに気化供給する気化器装置と高周波電源とマッチング回路から成るプラズマ発生装置、真空ポンプから成る排気系から成る。
【0060】
具体的には、このPECVD装置1は、PECVDチャンバー2、Si含有膜形成材料をチャンバー内に均一に供給する為のシャワーヘッドを有する上部電極3、Si基板等の薄膜形成用基板5を設置する為の温度制御装置8を有する下部電極4、Si含有膜形成材料を気化させるための気化装置9〜15、プラズマ発生源であるマッチング回路6とRF電源7、チャンバー内の未反応物及び副生物を排気する為の排気装置16から成る。17,18は、アースである。
【0061】
プラズマ発生源であるマッチング回路6とRF電源7は、上部電極3に接続され、放電によりプラズマを発生させる。RF電源7の規格については、特に限定されないが、当該技術分野で使用される電力が1W〜2000W、好ましくは10W〜1000W、周波数が50kHz〜2.5GHz、好ましくは100kHz〜100MHz、特に好ましくは200kHz〜50MHzのRF電源を用いることができる。
【0062】
基板温度は特に限定されるものでは無いが、−90〜1,000℃、好ましくは0℃〜500℃の範囲である。
【0063】
気化装置は、Si含有膜形成材料13を充填し、ディップ配管と上記不活性ガスにより加圧する配管15を備えている容器12、Si含有膜形成材料13の流量を制御する液体流量制御装置10、Si含有膜形成材料13を気化させる気化器9、上記不活性ガスを気化器経由でPECVD装置チャンバー内に供給する為の配管14とその流量を制御する気体流量制御装置11からなる。本気化装置は、気化器9からシャワーヘッドを備えた上部電極3に配管接続されている。
【0064】
また、PECVD装置の一例として、図2に誘導結合型リモートPECVD装置を示す。図2に示す誘導結合型リモートPECVD装置19は、PECVD装置チャンバー上部の石英の周りにコイル状に巻かれたプラズマ発生部、温度制御が可能な基板設置部、Si含有膜形成材料で表される化合物をチャンバーに気化供給する気化器装置と高周波電源とマッチング回路から成るプラズマ発生装置、真空ポンプから成る排気系から成る。
【0065】
具体的には、このPECVD装置19は、PECVDチャンバー20、プラズマ発生部であるコイル21と石英管22、Si基板等の薄膜形成用基板24を設置する為のヒーター部23と温度制御装置27、Si含有膜形成材料を気化させるための気化装置28〜35、プラズマ発生源であるマッチング回路25とRF電源26、チャンバー内の未反応物及び副生物を排気する為の排気装置36から成る。37は、アースである。
【0066】
プラズマ発生部である石英周りのコイルは、マッチング回路25に接続され、石英管中にRF電流によるアンテナ電流磁界で放電させ、プラズマを発生させる。RF電源26の規格については特に限定されないが、当該技術分野で使用される電力が1W〜2000W、好ましくは10W〜1000W、周波数が50kHz〜2.5GHz、好ましくは100kHz〜100MHz、特に好ましくは200kHz〜50MHzのRF電源を用いることができる。
【0067】
基板温度は特に限定されるものでは無いが、−90〜1,000℃、好ましくは0℃〜500℃の範囲である。
【0068】
気化装置は、Si含有膜形成材料33を充填し、ディップ配管と上記不活性ガスにより加圧する配管35を備えている容器32、Si含有膜形成材料33の流量を制御する液体流量制御装置29、Si含有膜形成材料33を気化させる気化器28、上記不活性ガスを気化器経由でPECVD装置チャンバー内に供給する為の配管34とその流量を制御する気体流量制御装置30と不活性ガスとガス化したSi含有膜形成材料33をチャンバー内に均一に供給する為のシャワーヘッド31から成る。
【0069】
Si含有膜形成材料は、上記で例示したPECVD装置等を用いてガス化され、必要に応じて不活性ガスと共にチャンバー内に供給され、PECVDにより、成膜される。この際のチャンバー内の圧力は特に限定されるものではないが、0.1Pa〜10000Pa、好ましくは1Pa〜5000Paである。
【0070】
本発明により得られるSi含有膜を、更に炭素原子とケイ素原子との結合が切断される条件下で処理することにより、例えば熱処理、紫外線照射処理、又は電子線処理することにより、多孔化または機械的強度が向上したSi含有膜を得ることができる。これらを組み合わせて処理を施してもよい
本発明により得られるSi含有膜は、比誘電率が低く、条件次第では、2.0以下の比誘電率を有するものが得られるため、低誘電率材料として好適なものであり、これらを絶縁膜として半導体デバイスに用いることができる。特に多層配線を用いたULSIの製造に好適である。
【発明の効果】
【0071】
一般式(1)で表される有機シラン化合物から成るSi含有膜形成材料を用いて成膜することにより、高い成膜速度でSi含有膜を得ることができ、この膜は低い比誘電率を有するため、半導体デバイス用の層間絶縁膜として使用することができる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を示すが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0073】
実施例1
[アリルマグネシウムクロリドの合成]
窒素雰囲気下、還流冷却器、滴下濾斗、攪拌装置を備えた5Lの四つ口フラスコ反応器にマグネシウム214g(8.80mol)とテトラヒドロフラン2883g(3.2L)を仕込み、反応器を氷冷しアリルクロリド612g(8.00mol)を3時間かけて滴下した。アリルクロリド滴下後、更に室温で16時間攪拌し、アリルマグネシウムクロリドのテトラヒドロフラン溶液を得た。
【0074】
[ジメチルジアリルシランの合成]
上記、アリルマグネシウムクロリドのテトラヒドロフラン溶液が調製されている5L四つ口フラスコ反応器を再び氷冷し、反応器中に、ジメチルジクロロシラン516g(4.00mol)を3時間かけて滴下した。ジメチルジクロロシランを滴下後、更に室温で一晩撹拌した。撹拌後、水911gを2時間かけて滴下し、更に硫酸184gと水900gの混合液を40分かけて滴下した。滴下後、分液操作により、反応混合物溶液(有機層)を得た。モレキュラーシーブ371gで乾燥した後、テトラヒドロフランを留去し、減圧蒸留により、目的物であるジメチルジアリルシランを単離した。
【0075】
収量は、179g(1.27mol)であり、収率31.9%に相当した。単離したジメチルジアリルシランをH−NMR及びGC−MSで分析した結果は、以下の通りであった。
【0076】
H−NMR;0.003ppm(s,6H)、1.541ppm(d,4H)、4.845ppm(m,4H)、5.773ppm(m,2H)
GC−MS;Mw=140。
【0077】
実施例2[ジメチルジアリルシランのプラズマCVD成膜]
図1に示した平行平板容量結合型PECVD装置を用いて、実施例1で合成したジメチルジアリルシランをシリコン基板上に成膜した。
【0078】
成膜条件は、不活性ガスとしてアルゴンガスを10sccmで、酸素を0.1sccmで供給し、気化させたジメチルジアリルシランをチャンバー内圧が10Paとなるように供給し続け、基板温度150℃、RF電源電力30W、RF電源周波数13.56MHzの条件で成膜した。結果は、成膜速度20.7nm/min.であった。得られた薄膜の赤外吸収スペクトルを図3に示す。図中、aはアルキル鎖の吸収、bはSi−CHの吸収、cはSi−Oの吸収、dはSi−Cの吸収をそれぞれ示す。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】平行平板容量結合型PECVD装置を示す図である。
【図2】誘導結合型リモートPECVD装置を示す図である。
【図3】実施例2で得られた赤外吸収スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0080】
1.PECVD装置
2.PECVDチャンバー
3.上部電極
4.下部電極
5.薄膜形成用基板
6.マッチング回路
7.RF電源
8.温度制御装置
9.気化器
10.液体流量制御装置
11.気体流量制御装置
12.容器
13.Si含有膜形成材料
14.配管
15.配管
16.排気装置
17.アース
18.アース
19.PECVD装置
20.PECVDチャンバー
21.コイル
22.石英管
23.ヒーター部
24.薄膜形成用基板
25.マッチング回路
26.RF電源
27.温度制御装置
28.気化器
29.液体流量制御装置
30.気体流量制御装置
31.シャワーヘッド
32.容器
33.Si含有膜形成材料
34.配管
35.配管
36.排気装置
37.アース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R,Rは、炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子を表し、nは0〜3の整数を表す。)で表される有機シラン化合物から成ることを特徴とする、Si含有膜形成材料。
【請求項2】
nが0〜2の整数であることを特徴とする、請求項1に記載のSi含有膜形成材料。
【請求項3】
が水素原子であることを特徴とする、請求項1または2に記載のSi含有膜形成材料。
【請求項4】
が一級炭化水素基であることを特徴とする、請求項1〜3いずれかに記載のSi含有膜形成材料。
【請求項5】
がメチル基であることを特徴とする、請求項1〜4いずれかに記載のSi含有膜形成材料。
【請求項6】
一般式(1)で表される有機シラン化合物が、テトラアリルシラン、メチルトリアリルシラン、またはジメチルジアリルシランであることを特徴とする、請求項1〜5いずれかに記載のSi含有膜形成材料。
【請求項7】
ケイ素、炭素、酸素および水素以外の元素の含有量が10ppb未満であり、かつ含水量が50ppm未満であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のSi含有膜形成材料。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載のSi含有膜形成材料を用いることを特徴とする、Si含有膜の形成方法。
【請求項9】
化学気相成長法により成膜することを特徴とする、請求項8に記載のSi含有膜の形成方法。
【請求項10】
プラズマ励起化学気相成長法により成膜することを特徴とする、請求項8または9に記載のSi含有膜の形成方法。
【請求項11】
少なくとも一つの酸素原子を有する化合物の共存下、成膜することを特徴とする、請求項8〜10いずれかに記載のSi含有膜の形成方法。
【請求項12】
少なくとも一つの酸素原子を有する化合物が、酸素、オゾン、一酸化二窒素、水、過酸化水素、アルコキシシラン化合物、二酸化炭素、一酸化炭素、カルボン酸、カルボン酸過酸化物、またはカルボン酸過酸化物エステルであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項8〜12いずれかに記載の方法で得られることを特徴とする、Si含有膜。
【請求項14】
請求項13に記載のSi含有膜を、炭素原子とケイ素原子との結合が切断される条件下で処理して得られることを特徴とする、Si含有膜。
【請求項15】
請求項13または14に記載のSi含有膜から成ることを特徴とする、絶縁膜。
【請求項16】
請求項15に記載の絶縁膜を用いることを特徴とする、半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−294818(P2007−294818A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123591(P2006−123591)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】