説明

アルコキシシラン化合物およびその製造方法

【課題】アミノ基がケイ素原子に結合した種々の化合物が副生することがなく、目的のアミノ変性シリコーンオイルを高い収率で容易に得ることのできる合成用原料を提供。
【解決手段】式(1)で表されるアルコキシシラン化合物。


(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、Rは炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基、または、活性水素を有しないSi、O、NまたはS原子を含む2価の有機基であり、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基である。2つ存在するRは、互いに同じでも異なっていてもよい。2つ存在するRは、互いに同じでも異なっていてもよい。nは1〜3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ変性シリコーンオイルの製造原料や、シランカップリング剤や、表面処理剤や、各種シランカップリング剤の製造原料等として有用な新規なアルコキシシラン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ変性シリコーンオイルは、アミノ基の吸着能力を生かして、繊維処理剤、つや出し剤、塗料添加剤、樹脂改質用オイル等の用途で広く使用されている。このアミノ変性シリコーンオイルは、一般的には、アミノ基を有するアルコキシシランを加水分解し、得られたオリゴマーとオクタメチルテトラシロキサンなどの環状シロキサンとを塩基性触媒を用いて反応させることによって得られる。
【0003】
しかしながら、上記合成法では、原料であるアミノ基を有するアルコキシシラン化合物が、反応性の高い遊離可能なアミノ基を有するため、オリゴマー化時及び環状シロキサンとの反応時に、アミノ基がケイ素原子に結合した種々の化合物が副生してしまい、目的とするポリシロキサン骨格にアミノ基が結合した構造のポリマーを高い収率で得ることが難しいという問題があった。従って、目的とする構造のアミノ変性シリコーンオイルを高い収率で容易に得るための新規な合成用原料の開発が望まれていた。
【0004】
上記のようなアミノ基がケイ素原子に結合した種々の化合物の副生を抑制する方法としては、アミノ基の2つの水素原子をトリメチルシリル基で置換した基(ジ(トリメチルシリル)アミノ基)を有するアルコキシシラン化合物を使用する方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−17579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献に記載されているアルコキシシラン化合物は、中性に近いアルカリ性の条件下では、ジ(トリメチルシリル)アミノ基が加水分解して、副反応が進行してしまうという問題があった。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、中性に近いアルカリ性の条件下で加水分解を行った場合であっても、アミノ基がケイ素原子に結合した種々の化合物が副生することがなく、目的とする構造を有するアミノ変性シリコーンオイルを高い収率で容易に得ることのできる新規な合成用原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アミノ基の2つの水素原子を特定のシリル基で置換したアルコキシシラン化合物が、目的とするアミノ変性シリコーンオイルを高い収率で容易に得るための合成用原料として好適であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[6]を提供するものである。
[1] 下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、Rは炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基、または、活性水素を有しないSi、O、NまたはS原子を含む2価の有機基であり、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基である。2つ存在するRは、互いに同じでも異なっていてもよい。2つ存在するRは、互いに同じでも異なっていてもよい。nは1〜3の整数である。)
[2] 上記一般式(1)中のnが3である、前記[1]に記載のアルコキシシラン化合物。
[3] 上記一般式(1)中のRが炭素数1〜12の2価の炭化水素基である、前記[1]または[2]に記載のアルコキシシラン化合物。
[4] 上記一般式(1)中のR、Rがそれぞれ独立にメチル基またはエチル基である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のアルコキシシラン化合物。
【0009】
[5] 下記式(2)または(3)で表される化合物である、前記[1]に記載のアルコキシシラン化合物。
【化2】

【化3】

[6] ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンを原料の一つとして用いて、下記の(A)または(B)の反応を生じさせ、アルコキシシラン化合物を生成させることを特徴とするアルコキシシラン化合物の製造方法。
(A)上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンと、アミノ基及びアルコキシシリル基を有するシラン化合物を混合して、上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンのSi原子と上記シラン化合物のアミノ基のN原子が結合してなるアルコキシシラン化合物を生成させる反応
(B)上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンと、アミノ基及びビニル基を有するアミノ基含有化合物を混合して、上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンのSi原子と上記アミノ基含有化合物のアミノ基のN原子が結合してなるビニル基含有化合物を生成させた後、該ビニル基含有化合物と、Si原子に水素原子及びアルコキシ基が結合しているシラン化合物を混合して、上記ビニル基含有化合物のビニル基の末端炭素原子と上記シラン化合物のSi原子が結合してなるアルコキシシラン化合物を生成させる反応
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルコキシシラン化合物は、アミノ基の2つの水素原子がいずれも特定のシリル基で置換されているため、中性に近いアルカリ性の条件下で加水分解を行った場合において、アミノ基としての反応性が抑えられ、アミノ基がケイ素原子に結合した種々の副生物を生じさせることがない。このため、目的とする構造のアミノ変性シリコーンオイルを高い収率で得ることができる。
すなわち、本発明のアルコキシシラン化合物中の上記特定のシリル基及び窒素原子を含む構造部分は、中性に近い領域も含むアルカリ性の条件下では極めて安定であり、かつ、中性及び酸性の条件下では容易に分解して遊離のアミノ基を生成する。よって、本発明のアルコキシシラン化合物を例えば中性に近いアルカリ性の条件下で加水分解及び縮合させ、得られたオリゴマーや環状シロキサン等を塩基性触媒を用いて反応させ、その後に中性又は酸性下で脱シリル化することにより、目的とする構造のアミノ変性シリコーンオイルを高い収率で容易に得ることができる。
本発明のアルコキシシラン化合物は、シランカップリング剤、アニオン重合ポリマーの末端変性剤、表面処理剤、各種シランカップリング剤の原料等としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の化合物は下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物である。
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、Rは炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基、または、活性水素を有しないSi、O、NまたはS原子を含む2価の有機基であり、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基である。2つ存在するRは、互いに同じでも異なっていてもよい。2つ存在するRは、互いに同じでも異なっていてもよい。nは1〜3の整数である。)
【0012】
上記一般式(1)中のRは炭素数1〜6のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基(n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等)、ヘキシル基(n−ヘキシル基、イソヘキシル基等)を挙げることができる。中でも加水分解反応時の反応性の観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましく、メチル基及びエチル基が特に好ましい。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基(n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等)、ヘキシル基(n−ヘキシル基、イソヘキシル基等)、ヘプチル基(n−ヘプチル基等)、オクチル基(n−オクチル基、イソオクチル基等)等のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基を挙げることができる。中でも、加水分解反応時の反応性の観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましく、メチル基及びエチル基が特に好ましい。
上記式(1)中のnは、1〜3の整数であり、反応性の観点から、2〜3が好ましく、3が特に好ましい。ORが2つ以上存在する場合は、ORは互いに同じでも異なっていてもよい。
とRは、互いに同じでも異なっていてもよい。
【0013】
上記一般式(1)中のRは、炭素数1〜12の2価の炭化水素基、または、活性水素を有しないSi、O、NまたはS原子を含む2価の有機基である。
炭素数1〜12の2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基や、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンテリレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等のアルキレン基が挙げられる。
中でも、反応性の観点から、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が好ましく、プロピレン基が特に好ましい。
活性水素を有しないSi、O、NまたはS原子を含む2価の有機基は、直鎖状でも分岐状でもよく、複素環を含まなくても含んでいてもよく、飽和でも不飽和でもよい。該有機基の式量は、特に限定されないが、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,000以下である。なお、活性水素の例としては、Si−OH、−R−OH(ただし、Rはアルキレン基である。)、−NH2等における水素原子が挙げられる。
活性水素を有しないSi、O、NまたはS原子を含む2価の有機基の炭素数は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜12である。
活性水素を有しないSi、O、NまたはS原子を含む2価の有機基の好ましい一例は、直鎖状もしくは分岐状の、複素環を含まない飽和の炭素数1〜12の有機基である。
【0014】
活性水素を有しないSi原子を含む2価の有機基としては、例えば、アルキレン−ジアルキルシリル−アルキレンの構造、アルキレン−アルキルアリールシリル−アルキレンの構造、アリーレン−ジアリールシリル−アルキレンの構造、アリーレン−ジアリールシリル−アリーレンの構造、アルキレン−アルキルアルコキシシリル−アルキレンの構造等が挙げられる。
活性水素を有しないO原子を含む2価の有機基としては、例えば、アルキレン−O(酸素)−アルキレン、アリーレン−O(酸素)−アルキレン、アリーレン−O(酸素)−アリーレン、ポリアルキレンエーテル基(例えば、−C2n−O−(式中、nは1〜4の整数)の繰り返し構造単位を含む基)等が挙げられる。
前記のポリアルキレンエーテル基の一例としては、下記の式(4)で表されるものの他、ポリプロピレンオキサイド鎖や、ポリブチレンオキサイド鎖が挙げられる。
【化5】

(式中、nは2〜10の整数である。)
【0015】
活性水素を有しないN原子を含む2価の有機基としては、例えば、アルキレン−アルキルアミノ−アルキレンの構造、アルキレン−アリールアミノ−アルキレンの構造、アリーレン−アリールアミノ−アルキレンの構造、アリーレン−アルキルアミノ−アルキレンの構造、アリーレン−アリールアミノ−アリーレンの構造、アリーレン−アルキルアミノ−アリーレンの構造、シリル基で活性水素を置換したアミノ基を分岐鎖として有するアルキレン基、ポリアルキレンイミン基等が挙げられる。
前記の「シリル基で活性水素を置換したアミノ基を分岐鎖として有するアルキレン基」の一例としては、下記の式(5)で表されるものが挙げられる。
【化6】

(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基である。)
【0016】
前記のポリアルキレンイミン基の例としては、下記の式(6)で表されるものが挙げられる。
【化7】

(式(6)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、nは2〜10の整数である。)
活性水素を有しないS原子を含む有機基としては、例えば、アルキレン−S(硫黄)−アルキレンの構造、アリーレン−S(硫黄)−アルキレンの構造、アリーレン−S(硫黄)−アリーレンの構造、ポリアルキレンチオエーテル基等が挙げられる。
【0017】
上記式(1)中のR〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基であり、例示物及び好ましい例としては上述のRと同様のものが挙げられる。
上記式(1)中のRは炭素数1〜12の2価の炭化水素基であり、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンテリレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等のアルキレン基が挙げられる。中でも、反応性の観点から、エチレン基、プロピレン基が好ましく、エチレン基が特に好ましい。
【0018】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記の化合物(2)、(3)、(8)〜(12)が挙げられる。中でも、反応性の観点から下記式(2)、(3)で表される化合物が好ましい。
【化8】

【化9】

【0019】
【化10】

【0020】
【化11】

【0021】
【化12】

【0022】
【化13】

【0023】
【化14】

【0024】
次に、本発明のアルコキシシラン化合物の製造方法について説明する。
本発明のアルコキシシラン化合物は、ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンを原料の一つとして用いて、下記の(A)または(B)の反応を生じさせることによって得ることができる。
(A)上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンと、アミノ基及びアルコキシシリル基を有するシラン化合物を混合して、上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンのSi原子と上記シラン化合物のアミノ基のN原子が結合してなるアルコキシシラン化合物を生成させる反応
(B)上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンと、アミノ基及びビニル基を有するアミノ基含有化合物を混合して、上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンのSi原子と上記アミノ基含有化合物のアミノ基のN原子が結合してなるビニル基含有化合物を生成させた後、該ビニル基含有化合物と、Si原子に水素原子及びアルコキシ基が結合しているシラン化合物を混合して、上記ビニル基含有化合物のビニル基の末端炭素原子と上記シラン化合物のSi原子が結合してなるアルコキシシラン化合物を生成させる反応
【0025】
ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカン中のハロゲンの例としては、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカン中のアルキル基は、通常、炭素数1〜20のものであり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、より好ましくはメチル基、エチル基である。
ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカン中のアルカン(以下、化合物中の構造部分としてアルキレンの名称で記載する。)は、通常、炭素数1〜20のものであり、好ましくはエチレン基、プロピレン基、より好ましくはエチレン基である。
ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンの具体例としては、1,2−ビス(クロロジメチルシリル)エタン、1,2−ビス(クロロジメチルシリル)プロパン、1,2−ビス(ブロモジメチルシリル)ベンゼン等が挙げられる。
【0026】
[(A)の反応]
上記(A)の反応で用いられるアミノ基及びアルコキシシリル基を有するシラン化合物の例としては、一端にアミノ基を有し、他端にアルコキシシリル基を有し、これらアミノ基とアルコキシシリル基の間に、炭素数1〜12のアルキレン基、または、活性水素を有しないSi、O、NまたはS原子を含む2価の有機基を有する化合物が挙げられる。
ここで、炭素数1〜12のアルキレン基は、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、より好ましくはプロピレン基である。
反応は、ルイス酸触媒の存在下に行なわれる。ルイス酸触媒の例としては、塩化アルミニウム、四塩化チタン、塩化亜鉛、塩化スズ等が挙げられる。
反応は、好ましくは、反応によって副生する塩化水素(HCl)をトラップして無害化するためのトラップ剤の存在下に行なわれる。トラップ剤の例としては、トリエチルアミン、ピリジン、トリオクチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン等の三級アミンや、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム等の無機塩基が挙げられる。
ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンの量は、アミノ基及びアルコキシシリル基を有するシラン化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜3.0モル、より好ましくは0.5〜1.5モル、特に好ましくは0.8〜1.2モルである。
ルイス酸触媒の量は、上記の2つの原料の合計量に対して、好ましくは0.1〜100,000ppm、より好ましくは100〜10,000ppmとなる量である。
反応条件は、特に限定されず適宜定めることができるが、好ましくは、0〜200℃(特に、30〜120℃)で0.5〜20時間である。
トラップ剤の量は、アミノ基及びアルコキシシリル基を有するシラン化合物1モルに対して、好ましくは1.0〜10.0モル、より好ましくは2.0〜3.0モル、特に好ましくは2.0〜2.5モルである。
【0027】
[(B)の反応]
上記(B)の反応で用いられるアミノ基及びビニル基を有するアミノ基含有化合物の例としては、一端にアミノ基を有し、他端にビニル基を有し、これらアミノ基とビニル基の間に、炭素数1〜10のアルキレン基、または、活性水素を有しないSi、O、NまたはS原子を含む2価の有機基を有する化合物が挙げられる。
ここで、炭素数1〜10のアルキレン基は、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、より好ましくはメチレン基である。
アミノ基含有化合物を用いる反応は、ルイス酸触媒の存在下に行なわれる。また、この反応は、好ましくは、トラップ剤の存在下に行なわれる。ルイス酸触媒及びトラップ剤の例は、上記(A)の反応で説明した例示物と同じである。
ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンの量は、アミノ基及びビニル基を有するアミノ基含有化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜3.0モル、より好ましくは0.5〜1.5モル、特に好ましくは0.8〜1.2モルである。
ルイス酸触媒の量、反応条件(温度、時間)、及びトラップ剤の量は、上記(A)の反応で説明した量及び条件と同じである。
アミノ基含有化合物を用いる反応によって、ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンのSi原子とアミノ基含有化合物のアミノ基のN原子が結合してなるビニル基含有化合物が生成する。
【0028】
次に、得られたビニル基含有化合物と、Si原子に水素原子及びアルコキシ基が結合しているシラン化合物を反応させる。
Si原子に水素原子及びアルコキシ基が結合しているシラン化合物は、具体的には、Si原子に1〜3個の水素原子と1〜3個のアルコキシ基が結合(但し、水素原子とアルコキシ基の合計は4個である。)している化合物である。該化合物中のアルコキシ基の数は、好ましくは2〜3個、より好ましくは3個である。アルコキシ基の炭素数は、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2である。
該シラン化合物の例としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン等が挙げられる。
該シラン化合物を用いる反応は、白金触媒の存在下に行なわれる。白金触媒の例としては、塩化白金酸(HPtCl)、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン又はキシレン溶液、テトラキストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金、ジクロロシクロオクタジエン白金等が挙げられる。
シラン化合物の量は、ビニル基含有化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜3.0モル、より好ましくは0.8〜1.5モル、特に好ましくは0.8〜1.2モルである。
白金触媒の量は、2つの原料(ビニル基含有化合物、シラン化合物)の合計量に対して、好ましくは0.1〜1000ppm、より好ましくは5〜500ppmとなる量である。
反応条件は、特に限定されず適宜定めることができるが、好ましくは、0〜200℃(特に、50〜150℃)で0.5〜20時間である。
シラン化合物を用いる反応によって、目的とするアルコキシシラン化合物が生成する。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を合成例及び実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
撹拌機、還流冷却器、温度計及び滴下ロートを備えた2リットルのガラスフラスコ中にビス(クロロジメチルシリル)エタン215.0g(1.0mol)、トルエン600ml及び触媒として塩化アルミニウム3.33g(25mmol)を仕込み、そこに滴下ロートより3−アミノプロピルトリエトキシシラン221.4g(1.0mol)及びトリエチルアミン222.6g(2.2mol)を内温50〜60℃に保ちながら3時間で滴下し、そのまま6時間熟成した。この反応液へ水酸化ナトリウム水溶液を加えて、生成したトリエチルアミン塩酸塩を溶解した後、有機層を分離し、減圧蒸留により、108〜110℃/0.5mmHgの留分291.0gを分取した。
得られた主留分のH−NMRスペクトルの測定結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
これらの結果から、この主留分は、下記の式(13)で表される1−(3−トリエトキシシリルプロピル)−2,2,5,5−テトラメチル−1−アザ−2,5−ジシラシクロペンタンと同定された。収率は80%であった。
【化15】

【0032】
[合成例1]
撹拌機、還流冷却器、温度計及び滴下ロートを備えた2リットルのガラスフラスコ中にビス(クロロジメチルシリル)エタン215.0g(1.0mol)、トルエン600ml及び触媒として四塩化チタン1.9g(10mmol)を仕込み、そこに滴下ロートよりアリルアミン57.1g(1.0mol)及びトリエチルアミン222.6g(2.2mol)を内温50〜60℃に保ちながら3時間で滴下し、そのまま6時間熟成した。この反応液へ水酸化ナトリウム水溶液を加えて、生成したトリエチルアミン塩酸塩を溶解した後、有機層を分離し、減圧蒸留により主留分を分取することで1−アリル−2,2,5,5−テトラメチル−1−アザ−2,5−ジシラシクロペンタンを得た。
[実施例2]
撹拌機、還流冷却器、温度計及び滴下ロートを備えた2リットルのガラスフラスコ中に合成例1で得た1−アリル−2,2,5,5−テトラメチル−1−アザ−2,5−ジシラシクロペンタン185.0g(0.93mol)及びHPtCl・6HOの4%イソプロピルアルコール溶液0.98gを仕込み、そこに滴下ロートよりトリメトキシシラン122.2g(1.0mol)を内温70〜80℃に保ちながら3時間で滴下し、そのまま2時間熟成した。この反応液から減圧蒸留により、90〜94℃/0.98mmHgの留分234.3gを分取した。
得られた主留分のH−NMRスペクトルの測定結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
これらの結果から、この主留分は、下記の式(14)で表される1−(3−トリメトキシシリルプロピル)−2,2,5,5−テトラメチル−1−アザ−2,5−ジシラシクロペンタンと同定された。収率は76.3%であった。
【化16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、Rは炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基、または、活性水素を有しないSi、O、NまたはS原子を含む2価の有機基であり、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基である。2つ存在するRは、互いに同じでも異なっていてもよい。2つ存在するRは、互いに同じでも異なっていてもよい。nは1〜3の整数である。)
【請求項2】
上記一般式(1)中のnが3である、請求項1に記載のアルコキシシラン化合物。
【請求項3】
上記一般式(1)中のRが炭素数1〜12の2価の炭化水素基である、請求項1または2に記載のアルコキシシラン化合物。
【請求項4】
上記一般式(1)中のR、Rがそれぞれ独立にメチル基またはエチル基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルコキシシラン化合物。
【請求項5】
下記式(2)または(3)で表される化合物である、請求項1に記載のアルコキシシラン化合物。
【化2】

【化3】

【請求項6】
ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンを原料の一つとして用いて、下記の(A)または(B)の反応を生じさせ、アルコキシシラン化合物を生成させることを特徴とするアルコキシシラン化合物の製造方法。
(A)上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンと、アミノ基及びアルコキシシリル基を有するシラン化合物を混合して、上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンのSi原子と上記シラン化合物のアミノ基のN原子が結合してなるアルコキシシラン化合物を生成させる反応
(B)上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンと、アミノ基及びビニル基を有するアミノ基含有化合物を混合して、上記ビス(モノハロゲン化ジアルキルシリル)アルカンのSi原子と上記アミノ基含有化合物のアミノ基のN原子が結合してなるビニル基含有化合物を生成させた後、該ビニル基含有化合物と、Si原子に水素原子及びアルコキシ基が結合しているシラン化合物を混合して、上記ビニル基含有化合物のビニル基の末端炭素原子と上記シラン化合物のSi原子が結合してなるアルコキシシラン化合物を生成させる反応

【公開番号】特開2012−31149(P2012−31149A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140889(P2011−140889)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】