説明

アルコールの分離膜及びアルコールの分離濃縮方法

【課題】 アルコールが分離膜を選択的に透過することによりアルコールを効率的に分離濃縮できるアルコールの分離膜を提供することを課題とする。また、該アルコールの分離膜を用いたアルコールの分離濃縮方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 容積比1倍以上のエタノール、容積比1倍以上の2−プロパノール又は容積比0.17倍以上の1−ブタノールを溶解するイオン性液体が基材に担持されてなることを特徴とするアルコールの分離膜などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの分離膜、及びアルコールの分離濃縮方法に関するものであり、具体的には例えば、水中に含まれたエタノールなどのアルコールを分離濃縮することができるアルコールの分離膜、及び該分離膜を用いたアルコールの分離濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物による発酵等を利用して製造するエタノールなどのアルコールは、化石燃料の代替となり得るものとして注目されていることから、発酵等によって生じるアルコール含有水溶液から効率よくアルコールを分離濃縮して回収できる分離膜が強く要望されている。
【0003】
従来、アルコールと水とを含むアルコール水溶液からアルコールを分離濃縮するための分離膜としては、該アルコール水溶液の水を選択的に透過させ該アルコール水溶液をアルコール濃度の高まった濃縮物と水濃度の高まった透過物とに分離する分離膜、具体的には例えば、ポリ(メチルメタクリレート−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)共重合体で形成された分離膜などが知られている(特許文献1)。
【0004】
斯かるアルコールの分離膜は、アルコール水溶液等の分離濃縮において水を選択的に透過させ得るものであることから、斯かるアルコールの分離膜を用いた分離濃縮方法においては、分離膜を透過した透過物ではなく、分離膜を透過しない濃縮物でアルコールが濃縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−15146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、アルコールの分離膜としては、アルコールを選択的に透過させることにより分離膜を透過した透過物でアルコールを分離濃縮するものが考えられる。この種の分離膜としては、アルコールの選択透過性に優れ、効率的にアルコールを分離濃縮できるものが要望されている。
【0007】
本発明は、上記の要望点等に鑑み、アルコールが分離膜を選択的に透過することによりアルコールを効率的に分離濃縮できるアルコールの分離膜を提供することを課題とする。また、該分離膜を用いたアルコールの分離濃縮方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルコールの分離膜は、容積比1倍以上のエタノール、容積比1倍以上の2−プロパノール又は容積比0.17倍以上の1−ブタノールを溶解するイオン性液体が基材に担持されてなることを特徴とする。
前記アルコールの分離膜においては、前記イオン性液体がエタノール、2−プロパノール、又は1−ブタノールなどのアルコールと比較的高い親和性を有することから、アルコールが該分離膜を優先的に透過することができる。そして、該分離膜を透過して分離されアルコールが濃縮された透過物からアルコールを回収することができる。
【0009】
本発明のアルコールの分離膜は、前記イオン性液体がパーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含んでいることが好ましい。
【0010】
本発明のアルコールの分離膜は、前記基材がα,β−エチレン性不飽和モノマーの重合体で形成されていることが好ましい。前記基材がα,β−エチレン性不飽和モノマーの重合体で形成されていることにより、分離膜におけるアルコールの選択的透過性がより優れたものになり得るという利点がある。
【0011】
本発明のアルコールの分離膜は、前記イオン性液体を5〜30重量%含有していることが好ましい。前記分離膜が前記イオン性液体を5重量%以上含有していることにより、分離膜におけるアルコールの選択透過性がより優れたものになり得るという利点がある。また、分離膜におけるアルコールの選択透過性が、それ以上用いてもイオン性液体の量の増加に伴って高まりにくくなるという点で、前記分離膜が前記イオン性液体を30重量%以下含有していることが好ましい。
【0012】
本発明のアルコールの分離濃縮方法は、前記アルコールの分離膜の一方側にアルコールと水とを含むアルコール水溶液が配されるように該分離膜を配置し、前記分離膜のアルコール水溶液の側の圧力よりも該分離膜の他方側の圧力を低くし、アルコール水溶液に含まれるアルコールが前記分離膜を透過することによりアルコールを分離濃縮することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明のアルコールの分離膜は、アルコールを選択的に透過させることによりアルコール水溶液から効率的にアルコールを分離濃縮できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】アルコールの分離濃縮方法の例を示す図。
【図2】分離膜におけるエタノールの透過性及び選択除去性を表すグラフ。
【図3】分離膜表面における水の静的接触角及び分離膜に吸着したエタノールの量を表すグラフ。
【図4】分離膜におけるエタノールの透過性及び選択除去性を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るアルコールの分離膜の実施形態について詳しく説明する。
【0016】
本発明の実施形態であるアルコールの分離膜は、容積比1倍以上のエタノール、容積比1倍以上の2−プロパノール又は容積比0.17倍以上の1−ブタノールを溶解するイオン性液体と基材とを含み、該イオン性液体が前記基材に担持されてなるものである。
【0017】
前記分離膜は、前記基材に担持されているイオン性液体が容積比1倍以上のエタノール、容積比1倍以上の2−プロパノール、又は容積比0.17倍以上の1−ブタノールを溶解するものであることから、エタノール、2−プロパノール、又は1−ブタノールなどのアルコールと比較的親和性が高い。即ち、前記分離膜は、前記イオン性液体を含むため、例えば親水性の多孔性無機膜のみで形成された膜と比較してアルコールとの親和性が高く、アルコールと比較的高い親和性を有する。
従って、前記分離膜においては、アルコールと該分離膜との比較的高い親和性により、アルコールが該分離膜において前記イオン性液体に優先的に吸着し得る。これにより、アルコールが分離膜を優先的に透過できる。従って、該分離膜は、アルコールの選択透過性に優れる。
【0018】
前記アルコールは、詳しくは、炭素数1〜4の1価アルコールである。即ち、分子中に1つのヒドロキシ基を有する炭素数1〜4のアルコールである。
【0019】
前記イオン性液体は、容積比1倍以上のエタノール、容積比1倍以上の2−プロパノール又は容積比0.17倍以上の1−ブタノールを溶解するものである。即ち、イオン性液体1mLに対して、20℃において1mL以上のエタノールを溶解するもの、20℃において1mL以上の2−プロパノールを溶解するもの、又は、20℃において0.17mL以上の1−ブタノールを溶解するものである。また、アニオンとカチオンとを含むものであり、通常、室温(20℃)で液体状をなす有機化合物塩である。
【0020】
前記イオン性液体としては、従来公知のものを用いることができ、該イオン性液体は、分離膜の基材の材質、又は分離濃縮するアルコールの種類等によって適宜選択できる。
【0021】
前記イオン性液体のアニオンとしては、例えば、BF4-、NO3-、PF6-、SbF6-、CH3CH2OSO3-、CH3CO2-、又はフルオロアルキル基含有アニオン等が挙げられる。
前記フルオロアルキル基含有アニオンとしては、CF3CO2-、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオン等が挙げられる。
【0022】
前記パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンとしては、CF3SO3-、(CF3SO22-、(CF3SO23-等が挙げられる。
【0023】
前記イオン性液体のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウム、又はホスホニウム等が挙げられる。
【0024】
前記イミダゾリウムとしては、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム、1,3−ジアリルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム等が挙げられる。
前記ピリジニウムとしては、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウム、1−エチル−3−メチルピリジニウム等が挙げられる。
前記ピロリジニウムとしては、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム等が挙げられる。
前記ピペリジニウムとしては、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム等が挙げられる。
前記テトラアルキルアンモニウムとしては、N,N,N,−トリメチル−N−プロピルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。
前記ピラゾリウムとしては、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0025】
前記イオン性液体としては、これら各種アニオンと各種カチオンとを組み合わせたものを採用することができる。なかでも、フルオロアルキル基含有アニオンを含むイオン性液体が好ましく、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含むイオン性液体がより好ましい。
イオン性液体がフルオロアルキル基含有アニオンを含むことにより、分離膜とアルコールとの親和性が高まり、アルコールをより効率的に分離濃縮できる。また、イオン性液体がパーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含むことにより、即ち、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含むイオン性液体が基材に担持されてなる分離膜であることにより、分離膜とアルコールとの親和性が高まり、アルコールをさらに効率的に分離濃縮できるという利点がある。
【0026】
具体的には、前記イオン性液体としては、例えばアニオンとしてのパーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンと、カチオンとしてのイミダゾリウムとを組み合わせた塩を用いることが好ましく、より具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いることが好ましい。
【0027】
前記イオン性液体が分離膜に含まれる量としては、特に限定されるものではないが、アルコールの選択透過性をより高め得るという点で、分離膜に対して5重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましい。また、必要以上の量を用いなくともアルコールの選択透過性に優れるという点で、分離膜に対して30重量%以下が好ましい。
【0028】
前記基材は、通常、前記分離膜の形状を維持する役割を担う。該基材には、前記イオン性液体が該基材に包含されたり、該基材に吸着されたりすることによって担持されている。
【0029】
前記基材の材質としては、無機物、有機物などが挙げられる。
前記無機物としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)などのセラミックス、ガラス等が挙げられる。
前記有機物としては、α,β−エチレン性不飽和モノマー重合体、ポリエステル、ポリアミドなどの高分子化合物が挙げられる。また、ポリジメチルシロキサン誘導体やポリホスファゼン誘導体などが挙げられる。
【0030】
前記基材は、材質が無機物である場合、平均細孔径が5〜5000nmであり平均細孔率が20〜60%である多孔質のものが好ましい。また、α-アルミナ、シリカ、ジルコニア等の複合物で形成されたものなどが採用され得る。該基材は、比表面積が比較的大きいという点で、中空糸状の構造であることが好ましい。
【0031】
前記基材は、材質が有機物である場合、後述するアルコールの分離濃縮方法において前記分離膜が該分離膜両側の圧力差に耐えられるという点で、通常、比較的強度を有する重合体で形成されている。
【0032】
前記基材は、分離膜におけるアルコールの選択透過性がより優れたものになり得るという点で、前記基材がα,β−エチレン性不飽和モノマーの重合体で形成されていることが好ましい。
【0033】
前記α,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン及びその誘導体類などが挙げられる。
また、その他にも、例えば、(メタ)アクリロニトリル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、ステアリン酸ビニル、マレイン酸ジアルキルエステル、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、又は、含フッ素α,β−エチレン性不飽和モノマーなどが挙げられる。
これらモノマーは、1種が単独で又は2種以上が組み合わされて採用され得る。
【0034】
前記α,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、分離膜におけるアルコールの選択透過性がより優れたものになり得るという点で、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸n−ブチル又は(メタ)アクリル酸メチルがより好ましい。
【0035】
前記基材を形成するα,β−エチレン性不飽和モノマーの重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルの重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸n−ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、又は(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル基含有ポリジメチルシロキサンとの共重合体がより好ましい。
【0036】
前記α,β−エチレン性不飽和モノマーの重合体としての(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル基含有ポリジメチルシロキサンとの共重合体において、(メタ)アクリル酸エステルに対するジメチルシロキサン構造単位の比率は、特に限定されるものではないが、分離膜におけるアルコールの選択透過性がより優れたものになり得るという点で、(メタ)アクリル酸エステル10モルに対してジメチルシロキサン構造単位が10モル以上であることが好ましい。また、前記分離膜の強度を比較的大きく保てるという点で、(メタ)アクリル酸エステル10モルに対してジメチルシロキサン構造単位が14モル以下であることが好ましい。なお、このモル比は、実施例に記載されているように、α,β−エチレン性不飽和モノマーの重合体を1H−NMR測定することにより、算出されるものである。
【0037】
次に、前記アルコールの分離膜の製造方法について説明する。
【0038】
本実施形態のアルコールの分離膜の製造方法では、容積比1倍以上のエタノール、容積比1倍以上の2−プロパノール、又は容積比0.17倍以上の1−ブタノールを溶解するイオン性液体を基材に担持させる。
【0039】
前記アルコールの分離膜は、前記基材の材質が無機物である場合、例えば、前記基材をイオン性液体自体に浸漬し、イオン性液体を基材に吸着固定させてから、イオン性液体が吸着固定された基材を引き上げることにより製造できる。また、例えば、イオン性液体を溶解させた有機溶媒に前記基材を浸漬し、その後、有機溶媒を蒸発除去することによりイオン性液体を基材に担持させて製造することができる。
【0040】
また、前記アルコールの分離膜は、前記基材の材質が有機物としての高分子化合物である場合、例えば、イオン性液体及び該高分子化合物の両方を溶解する有機溶媒に、イオン性液体及び該高分子化合物を溶解させた高分子溶液を調製し、その後、所定の形状の型枠に入れた所定量の該高分子溶液から、有機溶媒を蒸発除去することにより、イオン性液体を基材に担持させて製造することができる。該分離膜の形状としては、特に限定されるものではなく、平板状、管状(中空糸状を含む)等が挙げられる。
【0041】
なお、前記膜の厚さは、特に限定されるものではなく、通常、80μm〜300μm程度である。
【0042】
続いて、本実施形態のアルコールの分離濃縮方法について説明する。
【0043】
本実施形態のアルコールの分離濃縮方法は、前記分離膜の一方側にアルコールと水とを含むアルコール水溶液が配されるように該分離膜を配置し、前記分離膜のアルコール水溶液の側の圧力よりも該分離膜の他方側の圧力を低くし、アルコール水溶液に含まれるアルコールが前記分離膜を透過することによりアルコールを分離濃縮するものである。
斯かる構成により、アルコール及び水の両方が該分離膜に吸着され得るものの、分離膜に含まれるイオン性液体とアルコールとの親和性に起因して、アルコールが優先的に該膜を透過する。従って、アルコールが濃縮された透過物を得ることができる。
【0044】
前記分離濃縮方法では、具体的には、例えば、アルコールと水とを含むアルコール水溶液を、前記分離膜を介して大気圧未満の状態とし、アルコール水溶液に含まれるアルコールが前記分離膜を透過することにより、アルコールが濃縮された透過物を得ることができる。
即ち、前記分離濃縮方法では、例えば、前記分離膜を介してアルコール水溶液を陰圧状態とすることにより、該分離膜を通過したアルコールを回収し、アルコールが濃縮された透過物を得ることができる。
【0045】
前記分離濃縮方法においては、前記分離膜は、前記アルコール水溶液に接していてもよく、前記アルコール水溶液と離反していてもよい。
【0046】
具体的には、前記分離濃縮方法においては、分離膜がアルコール水溶液に接している場合、分離膜をアルコール水溶液の下方側に配し、分離膜を介してアルコール水溶液を下方側から真空ポンプ等によって減圧することにより、アルコール水溶液からアルコールを分離濃縮できる。斯かる方法は、いわゆるパーベーパレーション法(PV法)とも称されるものである。
【0047】
また、前記分離濃縮方法においては、分離膜がアルコール水溶液と離反している場合、分離膜をアルコール水溶液の上方側に配し、分離膜を介してアルコール水溶液を上方側から真空ポンプ等によって減圧することにより、アルコール水溶液からアルコールを分離濃縮できる。斯かる方法は、いわゆるエバポミエーション法(EV法)とも称されるものである。
【0048】
前記分離濃縮方法においては、分離膜の膨潤による性能低下を防ぐという点で、分離膜とアルコール水溶液とが接しているパーベーパレーション法より、分離膜とアルコール水溶液とか離反しているエバポミエーション法を採用することが好ましい。
【0049】
前記アルコール水溶液は、アルコールと水とを含むものであれば特に限定されないが、通常、1〜20重量%程度のアルコールを含む。また、アルコール発酵などにより得られたアルコール水溶液は、アルコールと水以外にも、例えば、アルコール発酵微生物やアルコール以外の該微生物の代謝物などを含み得る。
【0050】
前記分離濃縮方法は、前記分離膜のアルコール水溶液の側の圧力よりも該分離膜の他方側の圧力を低くするようにおこなえば、特にその圧力が限定されるものではないが、アルコール水溶液を、前記分離膜を介して大気圧未満の状態にする場合、アルコールの分離濃縮がより効率的におこなえるという点で、分離膜の他方側の圧力(絶対圧力)が0.1〜1000Paであることが好ましい。
【0051】
前記分離濃縮方法における温度は、特に限定されるものではないが、アルコールが分離膜を透過しやすくなるという点で、35〜60℃が好ましい。
【0052】
なお、分離膜におけるアルコールの選択透過性は、後述する実施例に記載された方法によって評価できる。
【0053】
本実施形態のアルコールの分離膜及びアルコールの分離濃縮方法は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示のアルコールの分離膜、及びアルコールの分離濃縮方法に限定されるものではない。また、本発明では、一般のアルコールの分離膜、及びアルコールの分離濃縮方法において採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(重合体1)
以下に示すポリn−ブチルメタクリレートを用いた。
・ポリn−ブチルメタクリレート(商品名「ハイパールM−6003」根上工業社製)
数平均分子量(Mn)170,700 重量平均分子量(Mw)332,000
【0056】
(重合体2)
以下に示すメチルメタクリレートとメタクリル基含有ポリジメチルシロキサンとを用いて共重合し高分子化合物(高分子重合体)を合成した。
・メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)(MMA) 仕込み40モル比(*)
・メタクリル基含有ポリジメチルシロキサン(MaDMS) 仕込み60モル比(*)
(数平均分子量5,000 商品名「サイラプレーンFM−0721」チッソ社製)
下記式(1)に示す化合物
ただし、上記モル比(*)は、MMAと式(1)の[ ]内に示すジメチルシロキサン構造単位とのモル比を表す。
【0057】
【化1】

【0058】
共重合は、重合溶媒としてのベンゼンを用い、ベンゼン中で40重量%となるように上記2種のモノマーをベンゼンと混合し、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用い、重合温度70℃、反応時間12時間の条件でおこなった。
重合後、過剰のエタノール/n−ヘキサン(2/1vol)混合液に重合溶液を投入し、粗高分子重合体を沈殿させ、この粗高分子重合体をテトラヒドロフランに溶解させ、上記と同様の混合液に再沈殿させる操作を3回おこなうことにより、高分子重合体を調製した。
得られた高分子重合体を1H−NMR測定することにより、MMAとMaDMSにおけるジメチルシロキサン構造単位とのモル比を算出したところ、MMA:ジメチルシロキサン構造単位=42:58(モル比)であった。なお、1H−NMRピークチャートにおいて、MMAのメチルエステルのメチル基のプロトンピーク面積とジメチルシロキサンのメチル基のプロトンピーク面積とから上記のモル比を算出した。
【0059】
(実施例1)
イオン性液体として下記式(2)に示すもの、及び重合体1の高分子重合体を用い、分離膜を作製した。
・1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)
イミド (以下、[EIM]TFSIともいう)
(1mLに対して1−ブタノールを0.18mL溶解可能
1mLに対してエタノール、2−プロパノールを上限なく溶解可能)
【0060】
【化2】

【0061】
即ち、有機溶媒としてのテトラヒドロフランに重合体1の高分子重合体と上記イオン性液体とを溶解させて高分子溶液を調製した。なお、イオン性液体の量は、分離膜中に10重量%となるようにした。
この高分子溶液(10重量%濃度)の10gを直径7cmの円筒状型枠に入れ、その後、温度25℃で24時間静置することによりテトラヒドロフランを蒸発させ、円盤状のアルコールの分離膜を製造した。なお、厚さは100μmであった。
【0062】
(実施例2)
イオン性液体の量が分離膜中に15重量%となるようにした点以外は、実施例1と同様にしてアルコールの分離膜を製造した。
【0063】
(実施例3)
イオン性液体の量が分離膜中に20重量%となるようにした点以外は、実施例1と同様にしてアルコールの分離膜を製造した。
【0064】
(比較例1)
イオン性液体を用いなかった点以外は、実施例1と同様にして膜を製造した。
【0065】
<選択透過性及び透過速度>
実施例1〜3、比較例1の分離膜について、下記に示す選択透過性、透過速度を評価した。
詳しくは、図2に示すように、10重量%のエタノールを含むエタノール水溶液を膜から離反させて下側に配置し、膜の上方側から0.15Paの減圧度(40℃)で減圧し、いわゆるエバポミエーション法(EV法)によってアルコール水溶液からのエタノールを分離濃縮する操作をおこなった。
【0066】
・選択透過性
選択透過性については、分離係数を算出することにより評価した。詳しくは、分離係数(α)は、下記の式(3)によって算出した。
分離係数(α)={透過物中の(CA/CB)}/{エタノール水溶液の(CA/CB)}
(CAはエタノールの濃度、CBは水の濃度を表す) ・・・式(3)
なお、エタノールの濃度は、エタノール水溶液(供給液)及び透過物のエタノール含量をガスクロマトグラフィーによって測定することにより算出した。水の濃度は、求めたエタノール濃度から算出した。
【0067】
・透過速度
透過速度は、透過液量を測定することによって求めた。
【0068】
実施例1〜3、比較例1の分離膜について、上記の方法で選択透過性、透過速度を評価した結果を図2に示す。
図2に示すように、分離膜中におけるイオン性液体([EIM]TFSI)の比率が上がることに伴い、アルコールの選択透過性が高まった。
【0069】
<分離膜表面における水の静的接触角>
実施例1〜3、比較例1の分離膜について、分離膜表面における水の静的接触角を測定した結果を図3に示す。
【0070】
(実施例4〜6)
重合体2の共重合体を用いた点、イオン性液体の量を分離膜中に10、15、20重量%とした点以外は、それぞれ実施例1と同様にしてアルコールの分離膜を製造した。
【0071】
(比較例2)
重合体2の重合体を用いた点、イオン性液体を用いなかった点以外は、実施例1と同様にしてアルコールの分離膜を製造した。
【0072】
<メチルメタクリレートとポリジメチルシロキサンメタクリレートとの共重合体を含む
分離膜の選択透過性及び透過速度>
実施例4〜6、及び比較例2の各分離膜について、選択透過性及び透過速度を上記と同様の方法によって調べた。結果を図4に示す。
図4に示すように、分離膜中のイオン性液体の量が増加することに伴い、アルコールの選択透過性が高まった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のアルコールの分離膜は、アルコール水溶液等からアルコールを効率よく分離濃縮できることから、例えば微生物の発酵によって生じるアルコール水溶液のアルコール濃縮などにおいて、好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積比1倍以上のエタノール、容積比1倍以上の2−プロパノール又は容積比0.17倍以上の1−ブタノールを溶解するイオン性液体が基材に担持されてなることを特徴とするアルコールの分離膜。
【請求項2】
前記イオン性液体がパーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含んでいる請求項1記載のアルコールの分離膜。
【請求項3】
前記基材がα,β−エチレン性不飽和モノマーの重合体で形成されている請求項1又は2記載のアルコールの分離膜。
【請求項4】
前記イオン性液体を5〜30重量%含有している請求項1〜3のいずれかに記載のアルコールの分離膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアルコールの分離膜の一方側にアルコールと水とを含むアルコール水溶液が配されるように該分離膜を配置し、前記分離膜のアルコール水溶液の側の圧力よりも該分離膜の他方側の圧力を低くし、アルコール水溶液に含まれるアルコールが前記分離膜を透過することによりアルコールを分離濃縮することを特徴とするアルコールの分離濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−83721(P2011−83721A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239259(P2009−239259)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 第58回高分子学会年次大会(2009年) 〔主催者〕 社団法人 高分子学会 〔刊行物名〕 高分子学会予稿集58巻1号(2009) 〔発行年月日〕 平成21年5月12日
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】