説明

アルコールの精製方法及び装置

【課題】イソプロピルアルコールなどのアルコールを高純度に精製する。
【解決手段】アルコール含有液から精製アルコールを得るアルコール精製装置において、アルコール含有液に対してイオン交換処理を行う第1のイオン交換手段23と、第1のイオン交換手段23で処理された液を浸透気化あるいは蒸気透過によって脱水する脱水膜24と、脱水膜24により脱水された液を蒸留する蒸留手段25と、蒸留手段25で得られた液に対してさらにイオン交換処理を行って精製アルコールを得る第2のイオン交換手段26と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの精製方法及び装置に関し、特に、回収されたアルコールを精製してリサイクルするのに適した方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール類は、化学工業用の洗浄剤や溶剤、合成原料として多量に用いられている。特に、半導体デバイスの製造工程では、洗浄及び乾燥等の用途で多量のIPAが使用されている。例えば、半導体デバイスに対して純水洗浄を行った後にその水分除去を行うためのIPA蒸発乾燥法は、水分除去を行う工程として効果的であるが、その反面、揮発性が高く高純度が要求されるIPAを使用するため、結果として半導体デバイスの製造原価が高くなる、という問題点を有する。したがって、半導体デバイス製造工程で使用した廃IPAを回収し再利用することが、経費節減及び環境負荷の改善の面で望まれている。半導体デバイスの製造工程で排出されるIPA中には、製造工程や材料、装置に由来する不純物が含まれており、IPAを回収して再利用するためには、これらの不純物を高度に除去し、半導体デバイス製造工程用として購入したときと同程度にまでIPAを精製する必要がある。不純物の成分としては、主に、水分、イオン性不純物、金属、微粒子が挙げられる。
【0003】
なお、市販のIPAではその用途(例えば、半導体デバイス製造工程用)などに応じてグレードが設定されており、グレードごとに、各不純物についての規格値が定められれている。
【0004】
汚染され不純物を含むようになったアルコールの精製方法としては、蒸留法が知られている。しかしながら、蒸留法のみを使用してアルコールを所定の純度まで精製しようとすると大がかりな蒸留設備が必要となって設備費や設置面積が大きくなり、多大なエネルギーが必要であることから、エネルギーコストも上昇し、経済面で好ましくない。
【0005】
アルコールに含まれる可能性がある不純物ごとに、以下に示すように、アルコールからそれらの不純物を除去する方法が提案されている。
【0006】
例えば、アルコール中の水分を効率的に除去する方法としては、特許文献1には、浸透気化法を用いてアルコール中の水分濃度を一定レベル以下とした上で、ゼオライトなどの吸着剤を用いて水分を吸着除去する方法が示されている。特許文献2には、陰イオン交換膜を蒸気透過(Vapor permeation:VP)法での分離膜として用いてアルコールから水分を分離し、さらに蒸留によってアルコールを精製することが示されている。
【0007】
浸透気化(Pervaporation:PV)法は、分離処理の対象となる成分(例えば水分)と親和性のある分離膜を用い、対象成分を含む混合液(例えば不純物としての水分を含むアルコール)を分離膜の供給側に流し、分離膜の透過側を減圧にしたり不活性ガスを流すことで、分離膜における各成分の透過速度差により分離を行うものである。膜に接する流体が気相の場合の分離は蒸気透過法、接触する流体が液体の場合は浸透気化法と呼ばれている。特許文献1では分離膜としてポリイミド系分離膜あるいはセルロース系分離膜が用いられているが、アルコールからの脱水用の分離膜としては、ゼオライト膜も広く用いられている。ゼオライト膜は、きわめて強い吸湿性を有し、水分子などの極性分子の吸着に関してはその分子種の分圧がきわめて低い場合においても分離性能が高く、また、目的物であるアルコールのロスが少ない、という特徴を有する。
【0008】
イオン性不純物を除去する方法としては、特許文献3や非特許文献1に示されるように、イオン交換樹脂を用いた方法が知られている。イオン交換樹脂による処理は、蒸留装置を用いるよりもエネルギーや設備費が小さくて簡便であり、かつ純度の高いアルコールを得ることができる。イオン交換樹脂を用いる方法ではアルコール含有液をイオン交換樹脂層に通液するが、特許文献4では、イオン交換樹脂層の代わりにイオン交換膜を用いることとして、フィルタとイオン交換膜とを組み合わせ、金属イオンなどのカチオン性不純物と微粒子とを除去する方法が提案されている。
【0009】
特許文献5は、浸透気化法によって水分を除去されたアルコールに対し、さらに、蒸留を行って金属分を除去し、精密濾過膜を通過させて不溶性の微粒子を除去することを開示している。
【0010】
そして特許文献6には、上述したような各種の方法を組み合わせ、半導体デバイス製造工程から回収したIPAを精製して再び半導体デバイス製造工程に供給するようにした再生システムと、そのような再生システムにおける精製方法が開示されており、水分除去部を複数個設け、水分除去を反復遂行して廃化学薬品に含まれた水分含有量が化学薬品の原料水準になるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−276801号公報
【特許文献2】特開平6−69175号公報
【特許文献3】特開2009−57286号公報
【特許文献4】特開2005−263729号公報
【特許文献5】特開平9−57069号公報
【特許文献6】特開平11−57304号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Partha V. Buragohain, William N. Gill, and Steven M. Cramer; "Novel Resin-Based Ultrapurification System for Reprocessing IPA in the Semiconductor Industry," Ind. Eng. Chem. Res., 1996, 35(9), pp. 3149-3154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、IPAなどのアルコールを精製する方法として各種の方法が知られている。このうち、特許文献1に示すような浸透気化膜と吸着剤を組み合わせた方法では、アルコール中の水分を低減することはできるものの、吸着剤の再生に関わるエネルギー消費量が非常に大きくなり、コスト増につながったり、吸着剤からの溶出物により後段の蒸留装置に負荷がかかるおそれがある。特許文献2に示すような陰イオン交換膜による蒸気透過と蒸留とを組み合わせた方法では、IPAに対する水の分離係数が160程度であってゼオライト膜を用いた場合の分離係数の1000程度と比較して非常に低く、脱水効率が悪いため、装置規模が大きくなる。特許文献4に示すようなフィルタとイオン交換膜とを組み合わせた方法では、この方法単独では水分やアニオン性不純物を除去することができない。
【0014】
また、特許文献6に示すIPAの再生システム及び精製方法では、脱水膜による処理に際して脱水膜から溶出するイオン性不純物を除去することができないという問題点がある。
【0015】
本発明の目的は、IPAに代表されるアルコールを高純度で精製できる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のアルコール精製方法は、アルコール含有液に対してイオン交換処理を行う第1のイオン交換工程と、第1のイオン交換工程で処理された液に対し脱水膜を用いて脱水処理を行う工程と、脱水処理された液に対して蒸留を行う蒸留工程と、蒸留工程で得られた液に対してさらにイオン交換処理を行って精製アルコールを得る第2のイオン交換工程と、を有する。
【0017】
本発明のアルコール精製装置は、アルコール含有液に対してイオン交換処理を行う第1のイオン交換手段と、第1のイオン交換手段で処理された液を浸透気化あるいは蒸気透過によって脱水する脱水膜と、脱水膜により脱水された液を蒸留する蒸留手段と、蒸留手段で得られた液に対してさらにイオン交換処理を行って精製アルコールを得る第2のイオン交換手段と、を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第1のイオン交換処理、膜脱水、蒸留及び第2のイオン交換処理を組み合わせることにより、アルコール含有液中の水分、イオン性不純物、金属、微粒子等の不純物を低濃度にまで除去できて、高純度の精製アルコールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態のアルコール精製装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態のアルコール精製装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施形態のアルコール精製装置の構成を示す図である。
【図4】実施例1での各工程出口での水分濃度を示すグラフである。
【図5】実施例1での各工程出口での各金属成分の濃度を示すグラフである。
【図6】イオン交換樹脂出口及びイオン吸着膜出口での水分量の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示す本発明の第1の実施形態のアルコール精製装置20は、例えば半導体デバイス製造工程などの各種の工程から排出されて不純物を含んでいるアルコールを回収して精製するために好ましく用いられるものである。図1に示した例では、精製対象のアルコールがIPA(イソプロピルアルコール)であり、半導体デバイス製造装置12で使用されて不純物を含むようになったIPAが回収されており、アルコール精製装置20は、回収されたIPAを精製し、精製したIPAを供給タンク11を介して再び半導体デバイス製造装置12に供給する。供給タンク11には、運転開始時に必要となったり運転中に不足した分を補うために、補充用アルコールが供給されるようになっている。
【0021】
アルコール精製装置20では、半導体デバイス製造装置12から回収したIPAをアルコール含有液として一時的に保持する回収タンク21と、回収タンク21の出口に設けられてアルコール含有液を送液するポンプ22とが設けられ、このポンプ22の出口に対し、第1のイオン交換手段23と脱水膜24と蒸留手段25と第2のイオン交換手段26とがこの順で直列に接続し、精製されたアルコールが第2のイオン交換手段26から得られるようになっている。第2のイオン交換手段26からの精製アルコールは、配管を介して供給タンク11に戻されるようになっている。
【0022】
このアルコール精製装置20において回収タンク21のIPA中から除去すべき対象としては、主に水分、カチオン・アニオンのイオン成分、微粒子が挙げられる。
【0023】
第1のイオン交換手段23は、ポンプ22から流入するアルコール含有液に対してイオン交換処理を行うものであり、イオン交換樹脂を用いてアルコール含有液中のイオン成分を除去し、後段の蒸留手段25及び第2のイオン交換手段26への負荷を大幅に低減させることができる。また、第1のイオン交換手段23でイオン交換処理を行うことにより、後段の脱水膜24の劣化要因となる酸やイオン性金属などのイオン負荷を低減し、脱水膜24の高寿命化を図ることができる。第1のイオン交換手段23は、例えば、塔状の容器内にイオン交換樹脂を充填し、液がイオン交換樹脂の層を通過するように構成される。イオン交換樹脂のうちカチオン交換樹脂は、Naイオン、Caイオン等の陽イオンを除去し、アニオン交換樹脂はClイオン等の陰イオンや酸成分を除去する。第1のイオン交換手段23内に充填されるカチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂の仕様や装置構成は、アルコール含有液として第1のイオン交換手段23に供給されるIPAの性状や、このアルコール精製装置20から送出される精製アルコールにおける要求品質に応じて決定されるが、吸着性能や低溶出の観点から、H(水素イオン)形の強酸性カチオン交換樹脂(SACER)、OH(水酸化物イオン)形の強塩基性アニオン交換樹脂(SBAER)を使用することが望ましい。
【0024】
イオン交換樹脂としては、カチオン交換樹脂またはアニオン交換樹脂を単床で設けたもの、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを複床で設けたもの、あるいは、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを混床で設けたものいずれであってもよいが、後段の脱水膜24の劣化要因となる酸やイオン性金属などのイオン負荷を低減させるためには、混床であることが好ましい。最終的な精製アルコールにおける水分濃度を低くすることが要求される場合や、イオン交換樹脂交換直後にイオン交換樹脂からの水分溶出を低減させたい場合には、イオン交換樹脂として、極力水分を含まない乾燥樹脂を使用することが好ましい。例えば、オルガノ株式会社製の乾燥強酸性カチオン交換樹脂であり、水分2%以下である15JS―HG・DRYや、乾燥強酸性カチオン交換樹脂と乾燥弱塩基性アニオン交換樹脂との混床樹脂であり水分10%以下であるMSPS2−1・DRYなどを利用することができる。
【0025】
脱水膜24は、第1のイオン交換手段23で処理された液に対して浸透気化(PV)あるいは蒸気透過(VP)による膜脱水を行ってアルコールを濃縮するものである。脱水膜24は、例えば、透水性膜モジュールとして構成されるものであり、膜としてはポリイミド系、セルロース系、ポリビニルアルコール系等の高分子系もしくはゼオライト等の無機系の素材からなる膜を用いることができる。機械的強度、脱水性能、耐熱性などの観点から、ゼオライトを素材とする膜を脱水膜24として用いることが好ましい。
【0026】
しかしながら、脱水膜24は、一般的に、高温、高圧下で運転されるため、その膜素材から不純物が溶出してしまうおそれがある。また、第1のイオン交換手段23で用いられるイオン交換樹脂では、半導体デバイス製造装置12内で発生する微粒子を効果的に除去することが難しく、また、カチオン交換樹脂やアニオン交換樹脂に対して選択性が非常に低いシリカなどのイオンを長期間にわたって除去することも難しい。そこで、脱水膜24の後段に蒸留手段25を設け、脱水膜24によって脱水された液に対して蒸留操作を実行する。この蒸留操作は、アルコールと水とを蒸留分離することを目的とするものではなく、微粒子や塩、シリカ及び金属性の不純物をアルコールから分離するためのものである。
【0027】
蒸留手段25は、例えば、単段の蒸留装置によって構成される。蒸留操作によって蒸留装置内などで不純物が濃縮するが、この濃縮された不純物の一部が後段に流出することを防ぐために、蒸留手段25には、不純物が濃縮されている液の一部を定期的もしくは定常的に外部に排出する手段を設けることが好ましい。
【0028】
蒸留操作によって、塩や金属イオンからなる不純物、さらには微粒子からなる不純物を除去することは可能である。しかしながらこれらの不純物は排出しない限り蒸留手段25内に蓄積されたままであるので、不純物が濃縮した場合に後段に飛沫同伴によって不純物が流出する。濃縮した液の一部を系外に排出することで蒸留手段25から不純物の一部を後段に流出することを防ぐことは可能であるが、系外への排出量が大きくなればアルコールの回収率が低下することや、蒸留において濃縮率が一定で、流入する不純物濃度が高くなった場合は、濃縮側の不純物濃度が増加することから、飛沫同伴され後段へ排出される不純物濃度は増加してしまう。また、送液ラインとして利用されるステンレス鋼(SUS)配管からの溶出不純物を除去する必要もある。
【0029】
そこで、第2のイオン交換手段26において、蒸留手段25で得られた液に対してさらにイオン交換処理を行うことによって、蒸留手段25から排出される液におけるイオン成分をさらに低濃度にして、アルコールの純度を向上させている。第2のイオン交換手段26としては、塔状の容器内にイオン交換樹脂を充填したものや、イオン吸着膜を使用することができる。
【0030】
イオン吸着膜は、多孔性の膜素材を有してイオン交換機能を有するものである。このようなイオン吸着膜としては、例えば、100μm以下の孔径を有し、かつイオン交換機能を有するものであればよく、その材質や型式などに特に制限はないが、例えば、精密濾過膜などの膜素材の表面に、イオン交換能を有する官能基を導入したものなどを使用することができる。膜素材の形状としては、プリーツ型や平膜型、中空糸型、特開2003−112060号公報の記載にあるような多孔質体などのものを挙げられる。膜素材に導入されるイオン交換基としては、カチオン交換基、キレート交換基、アニオン交換基のいずれか、もしくは溶出してくる成分に応じてこれらの少なくとも2つを組み合わせたものを使用することができる。本発明者らは、イオン吸着膜がイオン交換樹脂に比べて母体に保有する水分とアルコールとの置換を、目的とする水分濃度まで急速に行うことができ、かつ、イオン交換の反応速度も優れていることを発見した。よって、第2のイオン交換手段26としてイオン吸着膜を採用することにより、水分濃度を増加させることなく、より高流速での処理が可能となる。またイオン吸着膜は多孔性を有しているため、一部微粒子の除去を行うことも可能である。
【0031】
図2は、本発明の第2の実施形態のアルコール精製装置を示している。図2に示したアルコール精製装置30は、図1に示したアルコール精製装置20において、第2のイオン交換手段26の後段に精密濾過膜27を設けたものである。本発明者らは、アルコール液中に不純物として鉄(Fe)、アルミニウム(Al)が存在する場合、水分濃度が低い条件(例えば水分濃度が1000ppm以下)においてはこれらの鉄やアルミニウムの不純物成分がコロイド化しやすい傾向があり、イオン吸着膜では除去が困難であるが、その一方で、孔径が20nm以下の精密濾過膜を用いればこれらの不純物成分の除去が可能であることを発見した。
【0032】
また、アルコール液中に、コロイド化した鉄やアルミニウムの不純物以外にも微粒子が存在する場合には、孔径が20nm以下の精密濾過膜の前段に、孔径が50nm以上の微粒子除去用の精密濾過膜を設けることが好ましい。
【0033】
図3は、本発明の第3の実施形態のアルコール精製装置を示している。図3に示したアルコール精製装置31は、図2に示したアルコール精製装置30において、第2のイオン交換手段26の前段に、アルコール液を一時的に貯える中間タンク32と、中間タンク32内からアルコール液を送液するポンプ33とを設けたものである。半導体デバイス製造装置12の前段の供給タンクは設けられていない。ポンプ33の出口に対し、第2のイオン交換手段26と精密濾過膜27とがこの順で直列で接続され、精製アルコールが得られるようになっている。半導体デバイス製造装置12でのアルコール使用量の変動に対応するため、ポンプ33は一定量でアルコール液を循環できるようになっており、精密濾過膜27の出口は、半導体デバイス製造装置12に接続し、かつ、分岐配管34を介して中間タンク32にも戻されるようになっている。これにより、精密濾過膜27で得られた精製アルコールの全量あるいは一部が半導体デバイス製造装置12に供給され、残量は中間タンク32に戻されることになる。したがって、中間タンク32、ポンプ33、第2のイオン交換手段26、精密濾過膜27及び分岐配管34によって、精製アルコールについての循環系が構成されることになる。中間タンク32には、蒸留手段25からのアルコール液と、精密濾過膜27からの精製アルコールのほかに、運転開始時に必要となったり運転中に不足した分を補うために、補充用アルコールが供給されるようになっている。
【0034】
図3に示したアルコール精製装置31では、半導体デバイス製造装置12側でアルコールの供給を必要としない場合においても、上述した循環系内で精製アルコールが循環するので、タンクや配管等でのアルコールの滞留を防止することができる。このため、溶出不純物がなく、常に高純度なアルコールを供給することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。ただし本発明は、下記の実施例により限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
図2に示した構成のうち、アルコール精製装置30の部分を組み立てた。第1のイオン交換手段23として、オルガノ株式会社製のゲル形イオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂と強塩基性アニオン交換樹脂との混床のイオン交換樹脂)ESG−2を充填したものを用いた。イオン交換樹脂は水分を含有している状態で使用した。脱水膜24としては、A型ゼオライトを素材とする膜を使用し、蒸気透過法による脱水処理を行った。第2のイオン交換手段26としては、旭化成株式会社製のイオン吸着膜を用い、精密濾過膜27としては、0.02μmの孔径を有するものを用いた。
【0037】
回収タンク21に、IPA中の水分濃度が5%であるアルコール含有液を供給し、ポンプ22により通液速度を2kg/時間として、第1のイオン交換手段23、脱水膜24、蒸留手段25、第2のイオン交換手段26及び精密濾過膜27の順で通液し、回収タンク21、第1のイオン交換手段23、脱水膜24、蒸留手段25、第2のイオン交換手段26及び精密濾過膜27の各々の出口における水分濃度及び金属濃度を測定した。水分濃度の測定にはカールフィッシャー水分濃度計(平沼産業株式会社製)を用い、金属濃度の測定には、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いた。金属濃度測定における各金属イオンの分析下限値は0.05ppbであった。水分濃度測定の結果を図4に示し、金属濃度測定の結果を図5に示す。
【0038】
図4より、脱水膜24以降では液中の水分濃度は安定し、精密透過膜27の出口における水分濃度は0.046%であった。図5に示す金属濃度に関しては、第1のイオン交換手段23に通液することで大幅に金属濃度が減少することが観察されたものの、脱水膜24の出口においては、構成部材からと考えられる金属の溶出によって、一部の金属に関して濃度が上昇した。蒸発手段25の出口では、再度、金属濃度が減少したものの、一部の金属の流出が見られた。しかしながら、第2のイオン交換手段26の出口においては、全ての金属成分に関してその濃度が分析下限値を下回る水準まで除去されることが確認された。
【0039】
また同様の条件にてシリカ濃度を測定したところ、回収タンク21と第1のイオン交換手段23の出口に関しては、いずれも分析下限である0.2ppb以下であり、脱水膜24の出口においては、構成部材からと考えられる溶出によって、シリカ濃度が1.8ppbとなった。一方、蒸留手段25の出口においては、シリカ濃度は分析下限値である0.2ppb以下であり、蒸留によってシリカが除去されることが確認された。また、第2のイオン交換手段26、精密ろ過膜27の出口でもシリカ濃度は0.2ppb以下であり、シリカの溶出の増加は観察されなかった。
【0040】
[実施例2]
イオン交換樹脂とイオン吸着膜について、アルコール置換の容易さを検討した。超純水で洗浄したイオン吸着膜モジュール(旭化成株式会社製)と、超純水で洗浄したイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製)を充填したカラムとを用意し、各々に高純度IPA(株式会社トクヤマ製)を通液し、所定の水分濃度(0.1%)以下になるまで各々の出口での液の水分濃度をカールフィッシャー水分濃度計(平沼産業株式会社製)を用いて測定した。通液時間とそのときの水分濃度との関係を図6に示す。図6に示されるように、イオン吸着膜では、通液開始から20分以内で出口の水分濃度が0.1%以下となった。これに対し、イオン交換樹脂では、通液開始から1時間以上を経過しても出口の水分濃度が0.1%以上であった。この結果より、イオン交換樹脂に比べてイオン吸着膜の方が、含有水分を急速にアルコールに置換できることが分かる。したがって、脱水膜24の後段に設けられる第2のイオン交換手段25としては、イオン交換樹脂よりもイオン吸着膜を用いた方が好ましいことが分かる。
【0041】
[実施例3]
次に、アルコール中における水分濃度が低い場合に、不純物としての鉄やアルミニウムを極微量にまで低減するためには、イオン吸着膜での処理の後段に精密濾過膜による処理を行うべきであることを示す。
【0042】
水分量が1000ppmで、かつFe、Alの含有量を10ppbに調整したIPAを、カチオン交換基を有するイオン吸着膜(旭化成株式会社製)に通液した後、孔径20nmであり母体がポリエチレン製の精密濾過膜(日本インテグリス株式会社製)に通液した。イオン吸着膜出口、精密濾過膜出口の液の金属濃度を表1に示す。結果より、イオン吸着膜で除去されず流出したFe,Alは、精密濾過膜にて除去されていることが分かる。
【0043】
【表1】

【0044】
[比較例1]
水分量が4000ppmであることを除いて実施例3と同様の実験を行った。結果を表2に示す。これより、IPA中の水分量が0.1%以下でないと、精密濾過膜でFe,Alが除去できないことが分かる。
【0045】
【表2】

【0046】
[比較例2]
孔径30nmの精密濾過膜(日本インテグリス株式会社製)を使用したことを除いて、実施例3と同様の実験を行った。結果を表3に示す。これより、精密濾過膜の孔径が20nm以下でないと、精密濾過膜でFe,Alを低濃度に除去することができないことが分かる。
【0047】
【表3】

【符号の説明】
【0048】
11 供給タンク
12 半導体デバイス製造装置
20,30,31 アルコール精製装置
21 回収タンク
22,33 ポンプ
23 第1のイオン交換手段
24 脱水膜
25 蒸留手段
26 第2のイオン交換手段
27 精密濾過膜
32 中間タンク
34 分岐配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール含有液に対してイオン交換処理を行う第1のイオン交換工程と、
前記第1のイオン交換工程で処理された液に対し脱水膜を用いて脱水処理を行う工程と、
前記脱水処理された液に対して蒸留を行う蒸留工程と、
前記蒸留工程で得られた液に対してさらにイオン交換処理を行って精製アルコールを得る第2のイオン交換工程と、
を有するアルコール精製方法。
【請求項2】
前記第2のイオン交換工程は、イオン吸着膜に通液する工程である、請求項1に記載のアルコール精製方法。
【請求項3】
前記第2のイオン交換工程で得られた液に対し精密濾過膜を用いて濾過処理を行う濾過工程をさらに有する、請求項1または2に記載のアルコール精製方法。
【請求項4】
ゼオライトを材質とする前記脱水膜を使用する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルコール精製方法。
【請求項5】
アルコール含有液に対してイオン交換処理を行う第1のイオン交換手段と、
前記第1のイオン交換手段で処理された液を浸透気化あるいは蒸気透過によって脱水する脱水膜と、
前記脱水膜により脱水された液を蒸留する蒸留手段と、
前記蒸留手段で得られた液に対してさらにイオン交換処理を行って精製アルコールを得る第2のイオン交換手段と、
を有するアルコール精製装置。
【請求項6】
前記第2のイオン交換手段は、イオン吸着膜である、請求項5に記載のアルコール精製装置。
【請求項7】
前記第2のイオン交換手段の後段に精密濾過膜をさらに有する、請求項5または6に記載のアルコール精製装置。
【請求項8】
前記脱水膜はゼオライトを材質とする、請求項5乃至7のいずれか1項に記載のアルコール精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−23439(P2013−23439A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156322(P2011−156322)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】