説明

アルコールの精製方法及び装置

【課題】含有水分濃度が1000ppm以下であるイソプロピルアルコールなどのアルコールから、不純物である鉄(Fe)及びアルミニウム(Al)を極微量にまで除去する。
【解決手段】アルコールに対してイオン交換処理を行うイオン交換手段11と、イオン交換処理されたアルコールをろ過する、孔径が20nm以下であるフィルター12と、を設ける。イオン交換手段11としてはイオン吸着膜を用いることが好ましく、フィルター12としては精密ろ過膜を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの精製方法及び装置に関し、特に、不純物として鉄(Fe)及びアルミニウム(Al)の少なくとも一方の元素を含むアルコールを精製する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール類は、化学工業用の洗浄剤や溶剤、合成原料として多量に用いられている。特に、半導体デバイスの製造工程では、洗浄及び乾燥等の用途で多量のIPAが使用されている。例えば、半導体デバイスに対して純水洗浄を行った後にその水分除去を行うためのIPA蒸発乾燥法は、水分除去を行う工程として効果的であるが、その反面、揮発性が高く高純度が要求されるIPAを使用するため、結果として半導体デバイスの製造原価が高くなる、という問題点を有する。したがって、半導体デバイス製造工程で使用した廃IPAを回収し再利用することが、経費節減及び環境負荷の改善の面で望まれている。半導体デバイスの製造工程で排出されるIPA中には、製造工程や材料、装置に由来する不純物が含まれており、IPAを回収して再利用するためには、これらの不純物を高度に除去し、半導体デバイス製造工程用として購入したときと同程度にまでIPAを精製する必要がある。不純物の成分としては、主に、水分、イオン性不純物、金属、微粒子が挙げられる。市販のIPAではその用途(例えば、半導体デバイス製造工程用)などに応じてグレードが設定されており、グレードごとに、各不純物についての規格値が定められれている。
【0003】
IPAを半導体デバイス製造における例えば洗浄及び乾燥の工程に用いる場合、そのIPA中の水分濃度は0.1%以下とされ、また、金属成分の濃度は0.1ppb以下、好ましくは0.01ppb以下とされる。また、微粒子に関しては、例えば、直径が0.2μm以上のものの数について基準を設けている。半導体デバイス製造分野での将来の技術予測について記載しているITRS(国際半導体技術ロードマップ;International Technology Roadmap for Semiconductors)においても、将来的には、直径65nm以上の微粒子を半導体デバイスの製造工程から除去すべきことが述べられている。
【0004】
汚染され不純物を含むようになったアルコールの精製方法としては、蒸留法が知られている。しかしながら、蒸留法のみを使用してアルコールを所定の純度まで精製しようとすると大がかりな蒸留設備が必要となって設備費や設置面積が大きくなり、多大なエネルギーも必要とすることからエネルギーコストも上昇し、経済面で好ましくない。
【0005】
アルコールに含まれる可能性がある不純物ごとに、以下に示すように、アルコールからそれらの不純物を除去する方法が提案されている。
【0006】
イオン性不純物を除去する方法としては、特許文献1や非特許文献1に示されるように、イオン交換樹脂を用いた方法が知られている。イオン交換樹脂による処理は、蒸留装置を用いるよりもエネルギーや設備費が小さくて簡便であり、かつ純度の高いアルコールを得ることができる。イオン交換樹脂を用いる方法ではアルコール含有液をイオン交換樹脂の層に通液するが、特許文献2では、イオン交換樹脂の代わりにイオン吸着膜を用いることとして、イオン吸着膜への負荷軽減のためにイオン吸着膜の前段にフィルターを設けることが示されている。特許文献2には、フィルターの定格ろ過精度を0.2μm以下とすることが好ましいことと、定格ろ過精度を0.1μmとした場合の実施例とが記載されている。
【0007】
特許文献3は、金属を除去するために蒸留を行い、微粒子を除去するために精密ろ過膜を使用することを開示している。
【0008】
そして特許文献4には、上述したような各種の方法を組み合わせ、半導体デバイス製造工程から回収したIPAを精製して再び半導体デバイス製造工程に供給するようにした再生システムと、そのような再生システムにおける精製方法が開示されている。特許文献4のシステムでは、微粒子の除去のために孔径が0.09μmのフィルターを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−57286号公報
【特許文献2】特開2005−263729号公報
【特許文献3】特開平9−57069号公報
【特許文献4】特許第3634147号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Partha V. Buragohain, William N. Gill, and Steven M. Cramer; "Novel Resin-Based Ultrapurification System for Reprocessing IPA in the Semiconductor Industry," Ind. Eng. Chem. Res., 1996, 35(9), pp. 3149-3154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
イオン交換樹脂やイオン吸着膜を用いる方法は、イオン性不純物を除去する優れた方法である。しかしながら本発明者らの検討によれば、アルコール中の水分濃度が例えば1000ppm以下である場合に、不純物として存在する鉄やアルミニウムは、イオン交換樹脂やイオン吸着膜だけでは極微量にまで除去することが困難である。
【0012】
本発明の目的は、イソプロピルアルコールなどのアルコールを精製する方法及び装置であって、アルコール中での含有水分濃度が低い場合であっても鉄やアルミニウムを極微量にまで低減できる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
アルコール中の水分濃度が例えば1000ppm以下と低濃度であると、鉄やアルミニウムなどの金属成分の一部は、イオン化せずにコロイドなどの粒子としてアルコール中に存在していると考えられる。そのため、イオン交換作用によりアルコールからイオン性不純物を除去するイオン交換樹脂あるいはイオン吸着膜では、これらの金属成分を除去できないことになる。本発明者らは、イオン交換樹脂あるいはイオン吸着膜の後段に、孔径が20nm以下であるか、またはそれに相当する分画分子量を有するフィルターを設置することで、イオン化していない金属を除去できることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち本発明のアルコール精製方法は、含有水分濃度が1000ppm以下であって、かつ鉄及びアルミニウムの少なくとも一方の元素を不純物として含むアルコールを精製するアルコール精製方法であって、アルコールに対してイオン交換処理を行う工程と、孔径が20nm以下であるフィルターによって、イオン交換処理されたアルコールをろ過処理する工程と、を有する。
【0015】
本発明のアルコール精製装置は、含有水分濃度が1000ppm以下であって、かつ鉄及びアルミニウムの少なくとも一方の元素を不純物として含むアルコールを精製するアルコール精製装置であって、アルコールに対してイオン交換処理を行うイオン交換手段と、イオン交換処理されたアルコールをろ過する、孔径が20nm以下であるフィルターと、を有する。
【0016】
アルコールの精製に際してイオン交換樹脂の後段にフィルターを配置することはこれまでも行われているが、それらのフィルターは、半導体デバイス製造用のIPAにおいて、現在、直径が0.2μm以上の微粒子数が管理されていることに応じたものであり、直径が0.2μm以上の微粒子を除去するために設けられている。例えば、特許文献2では、実例として定格ろ過精度を0.1μmとしたものが示され、特許文献4では、孔径が0.09μmのフィルターを用いた例が示されている。またITRSにおいて、将来的には、直径65nm以上の微粒子を半導体デバイスの製造工程から除去すべきことが述べられているが、この場合でも、用いるフィルターの孔径は、0.05μmで十分である。
【0017】
これらに対し、含有水分濃度が低いアルコール中で鉄やアルミニウムなどの不純物がコロイドのなどの粒子を形成した場合、その粒子の直径は、後述の実施例の結果からも分かるように、現在のところ管理の対象となっている微粒子の直径よりもはるかに小さい。したがって、従来の微粒子除去目的のフィルターを本発明におけるフィルターとして使用することはできず、本発明では、孔径が20nm以下であるか、あるいは、20nm以下の孔径に相当する分画分子量を有するフィルターを使用する必要がある。本明細書において、孔径によってフィルターを指定したときは、その孔径に対応する分画分子量によって指定されるフィルターも含まれるものとする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水分濃度が1000ppm以下であるアルコールから、不純物である鉄及びアルミニウムが極微量にまで低減された精製アルコールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の一形態のアルコール精製装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態や実施例に限定されるものではない。
【0021】
図1に示した本発明の実施の一形態のアルコール精製装置は、イオン交換手段11と、イオン交換手段11の後段に設けられたフィルター12と、を備えている。そして、含有水分濃度が1000ppm以下であって鉄(Fe)及びアルミニウム(Al)の少なくとも一方の元素を不純物として含む不純物含有アルコールが、イオン交換手段11に供給され、イオン交換手段11からフィルター12へと送液される。その結果、不純物含有アルコールが精製され、フィルター12の出口から精製アルコールが得られる。不純物含有アルコールは、例えば、半導体デバイス製造工程などの任意の工程から回収され、水分濃度が1000ppm以下となるように含有水分濃度が調整された(水分濃度が1000ppmを超える場合には、脱水膜により脱水処理が行われた)イソプロピルアルコール(IPA)である。特に、アルコール中のFe及びAl濃度が1ppb以上の場合、イオン化せずにコロイドなどの粒子としてアルコール中に存在する可能性が高く、イオン交換樹脂あるいはイオン吸着膜では、FeやAlを極微量まで除去することができなくなる場合が多いため、本発明の効果が大きい。
【0022】
イオン交換手段11は、不純物含有アルコールに対してイオン交換処理を行うものであり、イオン交換機能を有する官能基を備えた機能材料であれば、特に限定することなくイオン交換手段11に用いることができる。しかしながら、そのような機能材料に保持される水分量が小さいことが望ましいので、イオン交換手段11としては、イオン交換樹脂に比べて保持水分量が小さく、かつ、イオン交換の反応速度にも優れたイオン吸着膜を用いることが好ましい。イオン吸着膜としては、多孔性の膜素材を有してその膜材料の表面にイオン交換基(イオン交換能を有する官能基)を導入したものや、イオン交換能を有する繊維を膜状に加工したものなどがある。本実施形態では、イオン吸着膜として、その官能基がカチオン交換基であるものを少なくとも使用する。さらに、不純物含有アルコールに溶出している成分に応じ、官能基がアニオン交換基であるイオン吸着膜や官能基がキレート交換基であるイオン吸着膜を組み合わせて使用することもできる。
【0023】
フィルター12は、その孔径が20nm以下であるフィルターか、あるいは、20nm以下の孔径に相当する分画分子量を有するフィルターである。フィルターを構成する膜の材質などは特に限定されないが、必要な透過流速を得るために、フィルターとしては精密ろ過膜(MF膜)を用いることが好ましい。
【0024】
精密ろ過膜以外にも、フィルター12には、例えば、限外ろ過膜(UF膜)も使用することができる。限外ろ過膜のろ過性能は、孔径ではなくて分画分子量で表されることが多い。そこで、孔径と分画分子量との関係について説明しておく。
【0025】
ストークス・アインシュタイン(Stokes-Einstein)の式から、分子のストークス半径rsは、(1)式で表される。
【0026】
【数1】

【0027】
ここでkBはボルツマン定数(=1.38×10-23J/K)、Tは絶対温度、πは円周率、μは溶液の粘度(水の場合、25℃においてμ=0.00089Pa・s)、Dは溶液中における溶質の拡散定数である。市販の限外ろ過膜は、溶媒が水であって、溶質であるある分子量の鎖状高分子がその限外ろ過膜をある割合で通過できるかできないかで分画分子量を定めている。鎖状高分子の場合、その分子量MW[g/mol]と拡散定数D[m2/s]との間に(2)式で表される関係があるとされているので、分画分子量をMwとし、孔径をストークス半径rsとすることによって、孔径と分画分子量との関係を得ることができる。
【0028】
【数2】

【0029】
例えば、孔径20nmは、ほぼ1000000の分画分子量に相当する。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
【0031】
[実施例1]
図1に示した装置を組み立てた。イオン交換手段11としては、カチオン交換基を有するイオン吸着膜モジュール(旭化成株式会社製)を用いた。フィルター12としては、孔径20nmであり材質がポリエチレンの精密ろ過フィルター(日本インテグリス株式会社製)を用いた。水分濃度が1000ppmであり、かつAlとFeとをともに10ppbずつ含有するように調整したIPAをイオン交換手段11(イオン吸着膜)とフィルター12に順に通液した。そして、イオン吸着膜の入口と出口、フィルターの出口でのAl濃度及びFe濃度をICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から、イオン吸着膜で除去されず流出したAl及びFeがフィルターによって除去されていることが分かる。
【0034】
[実施例2]
IPAにおける水分濃度を500ppmとしたほかは実施例1と同じ条件で実験を行った。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2から、イオン吸着膜で除去されず流出したAl及びFeがフィルターによって除去されていることが分かる。
【0037】
[比較例1]
IPAにおける水分濃度を4000ppmとしたほかは実施例1と同じ条件で実験を行った。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
比較例1では、フィルター通過の前後でAl及びFeの濃度はほとんど変化がなかった。このことから、IPA中の水分濃度が0.1%(すなわち1000ppm)以下でないと、フィルターでAl,Feを極微量にまで除去できないことが分かった。
【0040】
[比較例2]
フィルター12として、孔径30nmであり材質がポリエチレンの精密ろ過フィルター(日本インテグリス株式会社製)を使用したことを除いて、実施例1と同様の実験を行った。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
フィルターの孔径が30nmの場合には、イオン吸着膜から流出したAl,Feを十分には除去できなかった。これより、フィルターの孔径が20nm以下でないと、フィルターでAl,Feを極微量にまで除去できないことが分かった。
【符号の説明】
【0043】
11 イオン交換手段
12 フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有水分濃度が1000ppm以下であって、かつ鉄及びアルミニウムの少なくとも一方の元素を不純物として含むアルコールを精製するアルコール精製方法であって、
前記アルコールに対してイオン交換処理を行う工程と、
孔径が20nm以下であるフィルターによって、前記イオン交換処理されたアルコールをろ過処理する工程と、
を有するアルコール精製方法。
【請求項2】
前記イオン交換処理を行う工程は、前記アルコールをイオン吸着膜に通液する工程である、請求項1に記載のアルコール精製方法。
【請求項3】
前記フィルターは精密ろ過膜である、請求項1または2に記載のアルコール精製方法。
【請求項4】
前記アルコールはイソプロピルアルコールである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルコール精製方法。
【請求項5】
前記アルコールは鉄及びアルミニウムの少なくとも一方の元素を1ppb以上含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアルコール精製方法。
【請求項6】
含有水分濃度が1000ppm以下であって、かつ鉄及びアルミニウムの少なくとも一方の元素を不純物として含むアルコールを精製するアルコール精製装置であって、
前記アルコールに対してイオン交換処理を行うイオン交換手段と、
前記イオン交換処理されたアルコールをろ過する、孔径が20nm以下であるフィルターと、
を有するアルコール精製装置。
【請求項7】
前記イオン交換手段はイオン吸着膜からなる、請求項6に記載のアルコール精製装置。
【請求項8】
前記フィルターは精密ろ過膜である、請求項6または7に記載のアルコール精製装置。
【請求項9】
前記アルコールはイソプロピルアルコールである、請求項6乃至8のいずれか1項に記載のアルコール精製装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23441(P2013−23441A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156324(P2011−156324)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】