説明

アルコールデヒドロゲナーゼを用いた光学活性第二級アルコールのラセミ化方法

光学活性第二級アルコールを少なくとも1種のE.C. 1.1.1.クラスのアルコールデヒドロゲナーゼと共にインキュベートすることにより光学活性第二級アルコールをラセミ化する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性第二級アルコールの酵素的ラセミ化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第二級アルコールデヒドロゲナーゼは、第二級アルコールの酸化および対応するケトンのアルコールへの還元を触媒する。
【化1】

【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、光学活性第二級アルコールを少なくとも1種のE.C. 1.1.1.クラスのアルコールデヒドロゲナーゼと共にインキュベートすることにより光学活性第二級アルコールをラセミ化する方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
本発明の方法で用いることができる光学活性第二級アルコールには、多くの構造的に異なるアルコールおよび第二級アルコール基を含む化合物が含まれる。
【0005】
4〜約20個のC原子の鎖長を有する脂肪族アルコールが好適であり、脂肪族基は、分岐もしくは非分岐、一価もしくは多価不飽和、または環状であることも、あるいは環系、例えばモルホリン、ピロール、チオフェン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピリジン、ピラン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、クマロン、インドール、キノリンのような複素環系の一部を形成することもできる。
【0006】
好ましい脂肪族アルコールは、2-ブタノール、2-ペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、2-オクタノール、3-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノールである。
【0007】
さらに好適な第二級アルコールは、アリール-アルキル構造を有するものであり、芳香族部分はホモ芳香族またはヘテロ芳香族であってもよい。
【0008】
好ましいアルコールは、芳香族部分として、場合により置換されていてもよいフェニル、ナフチル、ピリジル基を有するものである。
【0009】
特に好ましい第二級アルコールは、場合により置換されていてもよいフェニルエタノール-2、フェニルプロパノール-2、フェニルブタノール-2、フェニルペンタノール-2、フェニルヘキサノール-2である。
【0010】
アルコールは、1回以上、すなわち1個以上のH原子がF、Cl、Br、I、NH2、NHR、NR2、SH、CN、COOH、COOR、CO、CS、CNH、NO2(ここで、Rはアルキルまたはアルキルアリール基である)のような基により置換されていてもよい。
【0011】
好適なアルコールデヒドロゲナーゼは、酵素分類E.C. 1.1.1.のNADまたはNADP依存性オキシドレダクターゼ、特にアルコールデヒドロゲナーゼ、好ましくは微生物から単離された、あるいは遺伝子操作法により微生物から単離および/または改変されたアルコールデヒドロゲナーゼである。改変は、いわゆるランダム突然変異誘発法またはいわゆる部位特異的突然変異誘発法により導入することができる。
【0012】
好ましく使用されるアルコールデヒドロゲナーゼは、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、特にラクトバチルス・ケフィール(Lactobacillus kefir)種の微生物、およびロドコッカス(Rhodococcus)属、特にロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)種の微生物由来のアルコールデヒドロゲナーゼである。
【0013】
これらのアルコールデヒドロゲナーゼは、市販されているか(例えばFlukaから)、または公に利用可能な菌株のコレクションから入手可能で公知の方法により単離することができる。例えばラクトバチルス・ケフィール DSM 20587、ATCC 35411;ロドコッカス・エリスロポリス DSM 43066、ATCC 25544がある。
【0014】
好ましい実施形態において、複数の異なるアルコールデヒドロゲナーゼをアルコールデヒドロゲナーゼとして使用する。好ましくはプレログ特異性(Prelog specificity)において異なるアルコールデヒドロゲナーゼ、特に好ましくはプレログ特異性(Prelog specificity)を有するアルコールデヒドロゲナーゼとアンチプレログ特異性(anti-Prelog specificity)を有する第2のアルコールデヒドロゲナーゼをアルコールデヒドロゲナーゼとして使用する。プレログ特異性の定義については、Kurt Faberによる文献、Pure Appl. Chem. 69, 1613-1632, 1997、特に酸化還元反応についてのセクション(本明細書に参照により明確に組み込む)を参照されたい。
【0015】
熱力学的考察によれば、いずれのアルコールデヒドロゲナーゼを用いてもラセミ化は可能である。最大のラセミ化速度を達成するためには、ラセミ化に用いるアルコールデヒドロゲナーゼは、酸化と還元の両方に対して最小のエナンチオ選択性/立体選択性を有するべきである。選択性はとりわけ温度の関数であるので、高温条件下で活性が損なわれないのであれば、「通常の」条件下で選択性を有する酵素を用いて高温でラセミ化を行うことも同様に可能である(例えばL.ケフィール(L.kefir)アルコールデヒドロゲナーゼ)。高いエナンチオ選択性および立体選択性(E > 200)を有するアルコールデヒドロゲナーゼは低いラセミ化活性を示す。
【0016】
二酵素系または多酵素系において、アルコールデヒドロゲナーゼ系の選択性は用いる酵素の選択性によって構成される。それぞれ基質に関連した高いエナンチオ選択性または立体選択性を有するが、反対の立体優先性(stereopreference)を有する、「プレログ(Prelog)」酵素(R.エリスロポリス(R.erythropolis)アルコールデヒドロゲナーゼ)とアンチ「プレログ」酵素(L.ケフィールアルコールデヒドロゲナーゼ)を同時に使用すると、この系の全体の選択性は1であり、ラセミ化は加速する。
【0017】
本発明で使用するデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素は、本発明の方法において遊離酵素または固定化酵素として使用することができる。
【0018】
本発明の方法は、0℃〜95℃、好ましくは10℃〜85℃、特に好ましくは15℃〜75℃の温度で行うことが有利である。
【0019】
本発明の方法におけるpHは、pH 4〜12、好ましくはpH 4.5〜9、特に好ましくはpH 5〜8に維持することが有利である。
【0020】
本発明の方法は、基質に応じて、追加の溶媒中または溶媒としての基質自身の中で行うことができる。好適な溶媒は、酵素的酸化還元反応を可能とする全ての慣用の有機溶媒、特にアルコール、ケトン、エーテル、炭化水素またはこれらの物質の混合物である。有利なことに、ラセミ体の第二級アルコールは選択された溶媒により容易に取り出すことができる。
【0021】
本発明の方法において、光学活性アルコールはエナンチオ濃縮(enantiomeric enrichment)を示すエナンチオマーを意味する。本方法において好ましく使用するエナンチオ純度(enantiomeric purities)は、少なくとも70% ee、好ましくは少なくとも80% ee、特に好ましくは少なくとも90% ee、非常に特に好ましくは少なくとも98% eeである。
【0022】
これに関連して、光学活性アルコールのラセミ化は、初めのアルコール(基質)と比較してエナンチオ純度が減少すること、特にエナンチオ純度が10、20、25、30 パーセント減少することを意味する。完全なラセミ化は本発明の好ましい実施形態を表すが、ラセミ化はエナンチオマーの比が50:50に達する絶対的な必要性を意味すると理解されるべきではない。
【0023】
完全な酵素-補酵素複合体を確実に形成させるためには、酵素1モル当たり少なくとも1モルのNAD+またはNADPが確実に存在するかぎり、用いる補酵素(NAD/NADHまたはNADP/NADPH)の量はラセミ化にとって重要ではない。中間体として形成するケトンの濃度は、用いるNAD+/NADHの比およびアルコール/ケトンの酸化還元電位によって制御される。
【0024】
本発明の方法は、有利には、補酵素再生系と組み合わせることができる。
【0025】
本発明の方法は、連続式およびバッチ式の両方で行うことができる。
【実施例】
【0026】
【表1】

【表2】

【表3】

【0027】
2 ml エッペンドルフ(Eppendorf(登録商標))容器中で、50 μlの酵素原液を500 μlのリン酸緩衝液(50 mM、pH 7.5)に溶解し、10 μlのNAD+/NADH原液(50 mg NADH/ml、30 mg NAD+/ml)を加えた。次に、2 μlの基質を加えることにより反応を開始した(48時間、30℃/65℃、130 rpm)。500 μlのEtOAcで抽出することにより反応を停止した。
【表4】

【0028】
a 正および負のe.e.値は、それぞれ(S)および(R)エナンチオマーの過剰に関する。
【0029】
b 48時間の反応時間後のe.e.。
【表5】

【0030】
a 正および負のe.e.値は、それぞれ(S)および(R)エナンチオマーの過剰に関する。
【0031】
b 48時間の反応時間後のe.e.。
【0032】
分析
GC分析
ガスクロマトグラフ:Variant 3900 ガスクロマトグラフ(FID)
カラム:Chrompack Chirasil-DEX CB(25 m x 0.32 mm x 0.25 μm、1.0 bar H2
【表6】

【0033】
a ℃/保持時間[分]/加熱速度[℃/分]/℃/保持時間/加熱速度/℃/保持時間[分]、
b 正および負のe.e.値は、それぞれ(S)および(R)エナンチオマーの過剰に関する。
【0034】
n.d.:検出不可
アルコールのアセチル化(一般的な方法)
誘導体化は、100 μlの無水酢酸/DMAP溶液を加え、30℃/130 rpmで60分間インキュベートすることにより行った。0.5 mlのH20を加えた。
【0035】
有機相を取り出し、Na2SO4で乾燥した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性第二級アルコールを少なくとも1種のE.C. 1.1.1.クラスのアルコールデヒドロゲナーゼと共にインキュベートすることにより光学活性第二級アルコールをラセミ化する方法。
【請求項2】
アルコールデヒドロゲナーゼとして微生物アルコールデヒドロゲナーゼを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルコールデヒドロゲナーゼとしてラクトバチルス(Lactobacillus)属またはロドコッカス(Rhodococcus)属の微生物由来のアルコールデヒドロゲナーゼを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アルコールデヒドロゲナーゼとして2種のアルコールデヒドロゲナーゼの混合物を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
一方のアルコールデヒドロゲナーゼがプレログ特異性(Prelog specificity)を有し、他方のアルコールデヒドロゲナーゼがアンチプレログ特異性(anti-Prelog specificity)を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
有機溶媒の非存在下、またはMTBE、トルエン、ヘキサンもしくは類似の有機溶媒の存在下でインキュベーションを行うことができる、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2009−534023(P2009−534023A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505898(P2009−505898)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053858
【国際公開番号】WO2007/122182
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】