説明

アルコール代謝促進剤組成物

【課題】本発明は、柑橘糖蜜のアルコール発酵産物又はこれと冬虫夏草抽出物の混合組成物を含むアルデヒド脱水素酵素活性を促進するがアルコール脱水素酵素活性には実質的に影響しないユニークなアルコール代謝促進組成物である。また該組成物を含有する悪酔い及び二日酔い予防飲食品も提供する。
【解決手段】柑橘糖蜜をサッカロミセス属酵母を用いてアルコール発酵させて得られる発酵産物の減圧濃縮物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール代謝促進剤組成物及び悪酔い又は二日酔い予防改善剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
経口的に摂取(飲酒)したアルコールの大部分は、上部消化管で吸収され、肝臓で代謝されるが、肝臓にはアルコールの酸化を規定する制御機構が存在していない。そのためアルコールを過剰に摂取すると、肝臓でのアルコール代謝が選択的に亢進し、その結果として肝臓内の代謝系に大きな変動を伴うことになる。摂取したアルコールの大部分は、肝細胞のサイトゾールに存在するアルコール脱水素酵素系を介してアセトアルデヒドとなり、アセトアルデヒドはさらにアルデヒド脱水素酵素による脱水素反応を受けて酢酸に変換される。アルコール摂取量が多すぎたり、体調が悪くてアルコールの代謝が遅れたりすると、アセトアルデヒドが処理しきれなくなり、血中のアセトアルデヒド濃度が高くなる。アセトアルデヒドは強い毒性があり、胃腸のムカツキ、吐き気、頭痛、二日酔い等の不快症状の原因となる。よって、アルコール摂取後に生じるアセトアルデヒドをいかに血中から速やかに消失させるかが悪酔いや二日酔いの予防に重要である。そこで、アルデヒド脱水素酵素の活性を高める作用を有する経口物質、すなわち、アセトアルデヒドの代謝を促進する経口物質は、上記の悪酔いや二日酔いの予防や改善に効果があると考えられる。このような経口物質として、例えば、とうもろこし蛋白質を酵素分解して得られる分子量200〜4,000のペプチドを有効成分とするアルコール代謝促進剤(特許文献1)、豚肉をプロテアーゼで処理して得られる豚肉加工品を含有するアルコール代謝促進作用物(特許文献2)、あるいはイソフラボノイドを有効成分とする二日酔い防止食品(特許文献3)、などが提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-285881号公報
【特許文献2】特開平11-276116号公報
【特許文献3】特開平2000-7694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アルデヒド脱水素酵素活性を促進するがアルコール脱水素酵素活性には実質的に影響しないユニークなアルコール代謝促進剤組成物を提供することを課題とする。また、該組成物を有効成分として含有する悪酔い又は二日酔い予防改善剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ラットに対し、柑橘糖蜜のアルコール発酵産物の濃縮液に冬虫夏草抽出物を配合した組成物を、エタノール経口投与前に予め経口投与しておくと、対照に対して、血中エタノール濃度には有意な変化は認められなかったが、血中アセトアルデヒド濃度は有意に低下することを見出した。この結果がどのような作用機序に起因しているかを、柑橘糖蜜のアルコール発酵産物の濃縮液を添加した酵素反応系で調べたところ、該濃縮物は、アルデヒド脱水素酵素の活性を増強する作用があり、一方、アルコール脱水素酵素の活性には影響を及ぼさないことから、この濃縮物が悪酔い又は二日酔いの予防改善に有用であることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、柑橘糖蜜をサッカロミセス属酵母を用いてアルコール発酵させて得られる発酵産物を含有するアルコール代謝促進剤組成物及び悪酔い又は二日酔い予防改善用組成物を提供するものである。
また、本発明は上記発酵産物及び冬虫夏草抽出物を含有するアルコール代謝促進剤組成物及び悪酔い又は二日酔い予防改善剤組成物を提供するものである。
さらに本発明は上記発酵産物の、アルコール代謝促進剤組成物及び悪酔い又は二日酔い予防改善用組成物製造のための使用を提供するものである。
さらに、本発明は上記発酵産物及び冬虫夏草抽出物の、アルコール代謝促進剤組成物及び悪酔い又は二日酔い予防改善用組成物製造のための使用を提供するものである。
さらに、本発明は上記組成物の有効量を投与することを特徴とするアルコール代謝促進方法、及び悪酔い又は二日酔い予防改善方法を提供するものである。
さらにまた本発明は上記組成物及び冬虫夏草抽出物の有効量を投与することを特徴とするアルコール代謝促進方法、及び悪酔い又は二日酔い予防改善方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】ラットに対する、柑橘糖蜜の発酵産物の濃縮物2,000mg/kg経口投与、及び冬虫夏草抽出物200mg/kg+濃縮物2000mg/kg経口投与が、その後のエタノール経口投与による血中アルコール濃度におよぼす影響を示すグラフである。
【図2】血中アセトアルデヒド濃度におよぼす影響を示すグラフである。*:p<0.05(Student's test)
【図3】in vitroにおける柑橘糖蜜の発酵産物の濃縮物のアルコール脱水素酵素活性に及ぼす効果を示す図である。
【図4】アルデヒド脱水素酵素活性に及ぼす効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
柑橘糖蜜の製造法は公知である(例えば特開平10-276578)。温州みかんなどの柑橘類を搾汁して果汁を製造するときに発生する搾汁粕は、約10〜15%の可溶性固形物を含んでおり含水量が多い。この搾汁粕(外果皮、果皮、及びじょうのう膜を含む)に、脱水を容易にするために消石灰を加えライミングを行った後圧搾して得た搾汁を、Brix50〜70%に濃縮した粘ちょう状の液は、「柑橘糖蜜」とよばれる。また、柑橘糖蜜からパルプなどの不溶性成分を除去したものは、「脱パルプ柑橘糖蜜」とよばれ、これも本発明に使用できる。
【0009】
柑橘類としては、温州みかん以外に、例えば、夏みかん、伊予柑、グレープフルーツ、マンダリンオレンジ、レモンなどの柑橘、あるいはユズ、カボス、スダチ、ダイダイ、サンポウカンなどが含まれる。
【0010】
本発明により、アルコール摂取前に温州みかん等の柑橘糖蜜の発酵産物を経口摂取すると、血中アセトアルデヒドが低下することが明らかとなった。そして、この現象は、該発酵産物がアセトアルデヒド代謝酵素活性を高める作用に基づくものであることが明らかとなった。すなわち、柑橘糖蜜の発酵産物からなる組成物は、悪酔いや二日酔いに有効であることが明らかにされた。
【0011】
柑橘糖蜜を酵母を用いてアルコール発酵することにより、本発明のアルコール代謝促進作用を有する組成物が得られる。柑橘糖蜜のアルコール発酵は、当業者公知の、廃糖蜜を原料とするアルコール発酵法に準じて行うことができる。
【0012】
柑橘糖蜜は不溶性のパルプ含量が高いため、食品素材として使用するには、遠心分離できるように希釈して遠心分離し、パルプを除去することが好ましい。この脱パルプ柑橘糖蜜は、酵母が資化可能な糖質を多量に含んでいる。そこで、有効成分の濃縮を目的に、脱パルプ柑橘糖蜜を酵母でアルコール発酵処理し、該柑橘糖蜜中の資化糖を、エタノール及び炭酸ガスに変換して有効成分の比率を高める処理をする。
【0013】
脱パルプ柑橘糖蜜を水で希釈して、糖度を10〜20%程度に調整する。栄養源として硫酸アンモニウム、アンモニア水、尿素などの窒素源、さらに必要あれば、過燐酸石灰、リン酸アンモニウムなどのリン酸塩を加える。pHをほぼ5に調整して加熱殺菌(60℃で30分、あるいは85℃で15分)する。冷却(30〜35℃)した後、酵母を加えアルコール発酵させる。発酵温度は、27±7℃である。酵母としては、市販のパン酵母Saccharomyces cerevisiaeが最もよいが、その他の酵母、例えば、S. formosensisS. carlsbergensisS. ellipsoideusS. rouxii、あるいはS. sakeなども用いてみてもよい。
【0014】
発酵が進むにつれて、Brix糖度は低下する。発酵終了は、30分経過時のBrix糖度変化が0.1%以下を目安とする。発酵産物は、粘ちょう度が低下しており、さらに有効成分を濃縮することが可能である。濃縮液は、菌体分離、清澄化、殺菌、濃縮、再殺菌の工程を経て、最終的に本発明のアルコール代謝促進組成物が得られる。この組成物は、さらに乾燥粉末としてもよい。
【0015】
冬虫夏草は、子嚢菌類(Ascomycetes)、麦角菌目(Clavicipitales)、麦角菌科(Hypocreaceae)、冬虫夏草属(Cordyceps)に属し、完全世代と不完全世代とを有する微生物である。冬虫夏草は、その子実体が、不老長寿の妙薬として、あるいは滋養強壮の妙薬として、古来より珍重されてきた。このようにして従来より漢方薬として珍重されてきた冬虫夏草は、通常、子実体を粉末化し、これを服用するものである。
【0016】
本発明で用いる冬虫夏草は、上記子実体も用いることができると考えられるが、Cordyceps sinensis(Berk.) SaccやCordyceps militarisの菌糸体は大量培養が可能であり、これらの培養菌糸体から熱水で有効成分を抽出して得られる抽出物(例えばWO96/00580及び特開平8-12588号)を用いるのがよい。該抽出物を柑橘糖蜜の発酵産物に添加すると、アルデヒド脱水素酵素活性をさらに高めることが明らかにされた。冬虫夏草菌糸体の培養及び抽出操作は、公知方法(例えばWO96/00580及び特開平8-12588号)である。
【0017】
すなわち、Cordyceps sinensisの培養菌子体を、麦芽エキス、酵母エキス、ペプトン、バレイショ煮出汁、ブドウ糖、ビタミン類、アミノ酸、核酸、蛋白質、及び必要に応じ、昆虫等寄主の成分などを加えた培地に接種し、液体又は固体培養を行う。大量培養の場合は、通気攪拌型発酵槽(100〜300rpm)による液体培養を用いる。培養は、pH4〜7、培養温度20〜30℃、3〜10日間行う。培養終了後、培養菌子体を熱水(85〜100℃)抽出する。あるいは水又は水に可溶性の少量の酸、塩基又は有機溶媒を含む水系溶媒にて抽出してもよい。遠心分離、あるいは濾過などにより残さを取り除く。得られた冬虫夏草の熱水抽出物は、そのまま本発明に使用してもよいが、常法により濃縮、あるいは凍結乾燥粉末として使用してもよい。
【0018】
柑橘糖蜜の発酵産物を、アルコール摂取前に摂取すると、血中アセトアルデヒドが低下する。また、発酵産物と冬虫夏草の抽出物を併せて摂取すると血中アセトアルデヒドがさらに低下する。すなわち、柑橘糖蜜の発酵産物、あるいは該発酵産物と冬虫夏草の抽出物との混合組成物を摂取すると、悪酔いや二日酔い予防改善効果が得られる。この予防効果は、上記したように、柑橘糖蜜の発酵産物がアルデヒド脱水素酵素の活性を高める作用に基づく。冬虫夏草の抽出物にはアルデヒド脱水素酵素の活性を高める作用は認められない。冬虫夏草抽出物が該酵素活性を高める理由は明らかではないが、冬虫夏草抽出物には、肝血流量の増加作用(Food Style 21, vol.2, No.5, 1998)、及び肝臓でのATP産生量を高める作用(Jpn. J. PHarmacol., 70: 85-88, 1996)が知られている。冬虫夏草抽出物による肝血流量の増加は、該発酵産物の肝臓への流入を促進し、肝細胞内のアルデヒド脱水素酵素活性を高めると考えられる。また、アルデヒド脱水素酵素が作用するには、補酵素のNADが必要であり、NADはニコチン酸とATPより合成されることから、ATP量の増大は、結果的にNADの合成を促進し、アルデヒド脱水素酵素の活性を高めると考えられる。
【0019】
柑橘糖蜜の発酵産物中のアルデヒド脱水素酵素活性を高める成分を分析した結果、いくつかの成分が含まれていることが判明したが、これら成分の有効濃度と発酵産物中の含有量を考慮すると、発酵産物の該作用を、これら各成分の有するそれぞれの作用で説明することはできない。また、これらの成分を発酵産物の含有量割合に混合した組成物も、発酵産物の該作用を説明できない。その結果、発酵産物のアルデヒド脱水素酵素の活性を高める作用は、発酵産物含有成分の複合的な作用に基づくものであると考えられる。
【0020】
柑橘糖蜜の発酵産物、あるいは該発酵産物と冬虫夏草抽出物との混合組成物の摂取時期は、アルコール摂取前が望ましいと考えられるが、その作用機作から、アルコール摂取時、あるいは摂取後でも、悪酔いや二日酔いの軽減に効果が期待できる。該組成物を予め摂取しておくことにより、アルデヒド脱水素酵素の活性が高まり、飲酒により生じる有害な血中アセトアルデヒドが低下するが、一方、アルコール脱水素酵素の活性に対しては実質的な影響はなく、飲酒の楽しさである“ほろ酔い気分”をこわさずに、悪酔いや二日酔いを予防する、というユニークな作用が得られる。
【0021】
柑橘糖蜜の発酵産物は、風味が良好でそのまま経口摂取可能であるので、悪酔いや二日酔い予防のために、該発酵産物を、その有効量を含む剤型に製剤化して用いることもできる。このような製剤技術は当業者に周知である。有効量は、アルコールを同量飲んでも、その吸収代謝速度は、体重、体質などの違いにより非常に個人差が大きく、明確には算定することはできないが、ラットの試験結果から、約1〜10g(乾燥固形分換算)/成人と推定される。毒性に関しては、柑橘糖蜜は食品素材として長年用いられてきており、長年の食経験からその安全性は保証されている。
【0022】
また、本発明の発酵産物、あるいは該発酵産物と冬虫夏草抽出物を、悪酔いや二日酔い予防のために、飲食時にその有効量を直接飲食品に添加して用いてもよい。また、有効量を含む飲食品に加工してもよい。例えば、ドリンク剤として、糖質10%、酸味量0.1%、果汁2〜3%、フレーバー0.1%、に柑橘糖蜜の発酵産物5.3%、及び冬虫夏草抽出エキス1.7%を加えて、pHを3.5〜4.0に調整した後、65℃で10分間加熱殺菌し、次いで冷却・瓶詰めする。さらに、該ドリンク剤に脂肪酸の代謝改善効果を有するγ-リノレン酸及び/又はアラキドン酸カスケード内の脂肪酸を添加して、肝臓の脂質代謝機能の増進を補完することが考えられる。同様に他の機能性ドリンク剤、特定保健用食品などに配合してもよい。
【0023】
飲食品としては、上記の他、健康食品、栄養補助食品、及び治療用食品を含んでもよい。さらに、飲酒後の口臭を軽減するために、口臭予防作用を有する食品(例えば緑茶ポリフェノール)を併用してもよい。
【0024】
柑橘糖蜜の発酵産物に冬虫夏草抽出物を添加(配合)する場合は、その配合割合(重量)は、発酵産物:冬虫夏草エキス=20〜30:1〜3程度(固形分換算)と推定されるが、最適配合割合は、当業者であれば、さらなる実験により容易に決定することができるので、このようにして決定された配合割合も本発明に包含される。得られた混合組成物は均一であることが好ましい。
【0025】
本発明の発酵産物と冬虫夏草抽出物との混合組成物に加うるに、さらにアミノ酸を含有させてもよい。アミノ酸を含有させることにより、アルコールの胃や腸での吸収の阻害作用を補完させたり、NAD系に関与してアルコール代謝を促進させることができる(Biol. PHarm. Bull., 18(12): 1653-1656, 1995; Alcoholand Aldehyde metabolizing system-IV: p.109, 1980)。アミノ酸としては、例えば、グリシン、L-アスパラギン酸、L-システィン、L-セリン、L-アラニン、L-メチオニンなどが挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
[実施例1] 柑橘糖蜜の発酵産物の濃縮
温州みかん1000kgをインライン搾汁機で搾汁して、果汁500kgと搾汁粕500kgを得た。この搾汁残さ500kgに消石灰を加え(約0.3%)、ライミングした後圧搾して搾汁液250kgと搾汁粕250kgを得た。この搾汁液をBrix糖度40〜50%まで循環濃縮して柑橘糖蜜50kg(Brix45%、pH8〜9)を得た。柑橘糖蜜は、使用時まで冷凍保管した。
この柑橘糖蜜を解凍し、クエン酸でpH調整(pH6.0±0.5、10±5℃)後、熱水で希釈(50℃以上、Brix10±5%)し、遠心分離(5100G)して不溶性成分(パルプ質)を除去した。パルプ質を除去した糖蜜はプレート殺菌(88℃・15秒保持)した後、プレート式濃縮機で濃縮し、10℃以下に冷却した。Brix調整(Brix50±1%、パルプ20%以下、pH6.0±1)を脱パルプ糖蜜37kg得た。
【0028】
脱パルプ糖蜜を温水に溶解した。栄養源(窒素源)として硫酸アンモニウム、消泡剤としてアワブレークG-109、pH調整剤としてクエン酸を、それぞれ5倍量の水に溶解して上記脱パルプ糖蜜仕込み液に添加した。仕込み液はBrix糖度13±1%、pH5±0.2となるように調整した。仕込み液中の脱パルプ糖蜜量は27%(重量)であった。仕込み液は、バッチ殺菌(85℃、15分)後、34±4℃まで冷却した。仕込み液にパン酵母(0.5%)を接種して発酵させた。酵母は、脱パルプ柑橘糖蜜中に含まれる糖を資化して炭酸ガスを発生し、発酵が進むにつれて、Brix糖度とpHは低下する。発酵時間はおよそ5〜6時間である。発酵終了時点は、30分経過時のBrix糖度変化が0.1%以下の時を目安とする。発酵終了後、加熱(85℃、15分)して酵母を失活させた後、発酵液に含まれるスラッジ(酵母菌体、パルプ)を全自動圧搾機及びフィルタープレスで除去した。次いで、その上清をプレート殺菌(134℃、3秒)した。殺菌時に生じる不溶性成分をキュノーフィルターで除去後、減圧濃縮した。この濃縮物は再殺菌(8℃、30秒)後冷却して、本発明のアルコール代謝促進組成物(Brix45±2%)10kgを得た。
【0029】
[実施例2] 冬虫夏草抽出物の製造
M20Y2培地150mLを500mL容三角フラスコに採りオートクレーブ滅菌した。この培地に、Cordyceps sinensis MF-20008(FERM BP-5149)の凍結保存菌糸体1mLを接種し、25℃、180rpmで5日間振とう培養した。これを種菌として、以下のように150L大量培養を行った。
D培地(1L中の組成:蔗糖 40.0g、K2HPO4 4.0g、アスパラギン0.5g、(NH4)2HPO4 2.0g、MgSO4・7H2O 2.0g、CaCO3 0.25g、CaCl20.1g、酵母エキスB-2 4.0g、pH5.6)150Lを、150 Lファーメンターに無菌濾過処理後投入し、上記の種培養液150mLを接種し、25℃、pH 5.5、DO 50%に制御し、157rpmで攪拌しながら、3日間培養した。この間、発生する泡は、シリコン消泡剤投入により処理した。培養により得られた150L培養液を、クラリファイヤーにより菌体分離処理を行い、菌体の水懸濁液を得た。これを90から95℃の間で、2時間保持することにより加熱抽出処理を行った後、クラリファイヤーによる清澄化を行い、上清液を得た。これを0.45μm、及び0.22μm無菌フィルターを用い濾過し、淡黄色の熱水抽出液80L(固形物乾燥重量800g)を得た。
【0030】
[実施例3] 二日酔い予防ドリンク剤の製造
以下の原料配合割合(単位:kg)で二日酔い予防ドリンク剤を製造した。
柑橘糖蜜発酵産物の濃縮液(製造例1で得られたもの): 52.5
冬虫夏草抽出物(製造例2で得られたもの) : 16.7
糖 : 40
果汁 :100
アスコルビン酸 : 1
クエン酸 : 3
香料 : 4
水 :782.8
全量 1000
【0031】
上記を溶解し95℃で20分間殺菌した後、ビンに無菌的に120mLづつ充填し二日酔い予防ドリンク剤を得た。
【0032】
[試験例1] アルコール代謝促進作用(in vivo)
6週齢の雄性ウイスター系ラット(体重160〜170g)を用いた。試験物質として実施例1で得た柑橘糖蜜の発酵産物の濃縮物と実施例2で得た冬虫夏草抽出物を用いた。試験群として、(1)濃縮物2,000mg/kg投与群、(2)冬虫夏草抽出物200mg/kg+濃縮物2,000mg/kg投与群、及び(3)陰性対照群として蒸留水投与群(10mL/kg)の3群 (1群6匹)を設定した。24時間絶食後、蒸留水に溶解した濃縮物溶液、あるいは蒸留水を10mL/kg体重となるように経口投与した。その1時間後に、20%(W/V)エタノールを10mL/kg体重となるように経口投与した。エタノール投与1時間後にエーテル麻酔下で大腿静脈より採血した。さらにエタノール投与3時間後にエーテル麻酔下で後大静脈より採血した。血中エタノール濃度は、F-キットエタノール(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて測定した。結果を図1に示す。一方、血中アセトアルデヒド濃度は、Cario Di Padovaらの方法(ALCHOLISM:CLINICAL AND EXPERIMENTAL RESERCH, vol.10,No.1, p86〜89, 1986)に準じて測定した。すなわち、アセトアルデヒドをDNP(2,4-ジニトロフェニルヒドラジン)試薬で誘導体生成後にHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて測定した。結果を図2に示す。
【0033】
エタノール経口投与1時間後、及び3時間後の血中アルコール濃度は、図1から明らかなように、濃縮物2000mg/kg投与群、冬虫夏草抽出物200mg/kg+濃縮物2000mg/kg投与群、陰性対照群である蒸留水投与群(10mL/kg)の間に、統計的な有意差が認められなかった。
【0034】
一方、エタノール経口投与後の血中アセトアルデヒド濃度については、図2から明らかなように、1時間後においては、濃縮物投与群と対照群との間に統計的有意差はみられないが、濃縮物投与により、血中アセトアルデヒド濃度が低下傾向にあり、これに冬虫夏草抽出物が加わると、血中アセトアルデヒド濃度が有意に低下することが認められる。3時間後においては、濃縮物投与群と対照群との間に差は認められないが、濃縮物+冬虫夏草抽出物投与群では、なお血中アセトアルデヒド濃度の低下傾向が認められた。
【0035】
以上の結果から、アルコール経口摂取前に本発明の柑橘糖蜜の発酵産物の濃縮物を経口摂取することにより、血中のエタノール濃度は低下しないが、アセトアルデヒド濃度は低下傾向にあり、該濃縮物とともに冬虫夏草の抽出物を経口摂取すると、アセトアルデヒド濃度の低下が増強され、その低下時間も延長されることが明らかとなった。
【0036】
[試験例2] 柑橘糖蜜の発酵産物の濃縮液がアルコール代謝酵素活性に及ぼす効果
上記動物実験で得られた二日酔い予防効果がどのような作用機序で機能しているかを、in vitroでの酵素反応系(生化学実験講座, タンパク質V, 日本生化学会編, p269-285)を構築して調べた。
【0037】
アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素の活性測定は、これらの酵素が反応する際の補酵素、β−NADがNADHへと変換することを利用した。β−NAD、NADHは紫外部の吸収極大波長に違いが見られ、β−NADではほとんど見られない340nm付近にNADHの吸収が見られる。すなわち、340nmの紫外部吸収を測定することは、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素の酸化還元反応の活性の指標として利用できる。
【0038】
・アルコール脱水素酵素反応液
ピロリン酸ナトリウム(リン酸でpH10.0調製)32mM
基質:エタノール33mM
β−NAD2.4mM
酵素溶液:アルコール脱水素酵素(SIGMA, EC1.1.1.1, ウマ肝臓由来,5mUnits/mL )
精製水
【0039】
・アルデヒド脱水素酵素反応液
ピロリン酸ナトリウム(リン酸でpH8.0に調製)32mM
基質:アセトアルデヒド4mM
β−NAD4mM
ピラゾール0.1mM
EDTA1mM
酵素溶液:アルデヒド脱水素酵素(SIGMA, EC1.2.1.5, パン酵母由来,0.5 Units/mL)
精製水
【0040】
酵素反応液は全量が0.2mLとなるように調製した。基質は最後に添加し、基質添加後速やかに340nmの吸光値を測定した。その後、37℃で10分反応させた。反応後の340nmの吸光値を測定し、吸光値の増加量を算出し、酵素活性の上昇を検討した。アルコール脱水素酵素活性を図3に、アルデヒド脱水素酵素活性を図4にそれぞれ示す。アルコール脱水素酵素反応系に発酵濃縮物を様々な濃度で添加しても、無添加の場合と酵素活性に変化は認められない(図3)。一方アルデヒド脱水素酵素反応系に、発酵濃縮物を様々な濃度で添加すると、アルデヒド脱水素酵素活性が発酵濃縮物の濃度依存的に上昇した。これより、発酵濃縮物は、アルコール脱水素酵素活性には影響せず、アルデヒド脱水素酵素の活性を上昇させる効果があることが明らかとなった。これらの実験結果から、柑橘糖蜜の発酵濃縮物は、アルデヒド脱水素酵素の活性を上昇させることにより、アセトアルデヒドの分解を促進し、結果血中アセトアルデヒド濃度を減衰させることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の柑橘糖蜜の発酵濃縮物を経口摂取すると、アルデヒド脱水素酵素活性が増強し、また、冬虫夏草抽出物と併用すると、上記酵素活性がさらに増強するとともに、その持続時間が延長するので、これらを飲酒前に経口摂取すると、二日酔いや悪酔いなどの不快な症状を抑制あるいは軽減させることができる。さらに、アルコール脱水素酵素活性には影響を及ぼさないので、酩酊感(ほろ酔い気分)は妨げないことが期待される。
また、本発明のアルコール代謝促進組成物は、継続的に摂取することによって、アルコール代謝能力を高め、アルコール依存症や、肝臓などの臓器障害の予防にも役立つと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘糖蜜をサッカロミセス属酵母を用いてアルコール発酵させて得られる発酵産物の減圧濃縮物。
【請求項2】
アルコール発酵が、Brix糖度の変化が0.1%以下となるまで発酵させる請求項1記載の発酵産物の減圧濃縮物。
【請求項3】
酵母がサッカロミセス セレビシエである請求項1又は2記載の発酵産物の減圧濃縮物。
【請求項4】
柑橘糖蜜が温州みかん由来である請求項1〜3のいずれか1項記載の発酵産物の減圧濃縮物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の発酵産物の減圧濃縮物を含有するアルコール代謝促進飲食品。
【請求項6】
発酵産物の減圧濃縮物の有効量が乾燥固形分換算で1〜10g/ 成人である請求項5記載のアルコール代謝促進飲食品。
【請求項7】
さらに冬虫夏草抽出物を含有する請求項5又は6記載のアルコール代謝促進飲食品。
【請求項8】
発酵産物の減圧濃縮物と冬虫夏草抽出物の配合割合が、固形分換算で20〜30:1〜3である請求項7記載のアルコール代謝促進飲食品。
【請求項9】
アルコール代謝が、アルデヒド脱水素酵素の活性増強によるものである請求項5〜8のいずれか1項記載のアルコール代謝促進飲食品。
【請求項10】
飲食品がドリンク剤である請求項5〜9のいずれか1項記載のアルコール代謝促進飲食品。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項記載の発酵産物の減圧濃縮物を含有する悪酔い又は二日酔い予防改善用飲食品。
【請求項12】
発酵産物の減圧濃縮物の有効量が乾燥固形分換算で1〜10g/ 成人である請求項11記載の悪酔い又は二日酔い予防改善用飲食品。
【請求項13】
さらに冬虫夏草抽出物を含有する請求項11又は12記載の悪酔い又は二日酔い予防改善用飲食品。
【請求項14】
発酵産物の減圧濃縮物と冬虫夏草抽出物の配合割合が、固形分換算で20〜30:1〜3である請求項13記載の悪酔い又は二日酔い予防改善用飲食品。
【請求項15】
飲食品がドリンク剤である請求項11〜14のいずれか1項記載の悪酔い又は二日酔い予防改善用飲食品。
【請求項16】
柑橘糖蜜をサッカロミセス属酵母を用いてアルコール発酵させて得られる発酵産物5.3%、及び冬虫夏草抽出エキス1.7%を含有する瓶詰飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−17337(P2012−17337A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208931(P2011−208931)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【分割の表示】特願2002−505020(P2002−505020)の分割
【原出願日】平成13年6月20日(2001.6.20)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】