説明

アルコール代謝改善

【課題】アルコールの摂取に伴う各種の副作用を防止・改善することを可能とするアルコール代謝促進組成物の提供。
【解決手段】大豆タンパク又は大豆タンパク加水分解物から選ばれる少なくとも1種類とコエンザイムQ10を共に含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルコール代謝促進組成物に関する。より詳細には、飲酒により摂取されたアルコールの代謝を促進し、悪酔い、二日酔いなどの症状を予防・緩和し得るアルコール代謝促進組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール(エタノール)飲料による酔いは、その中に含まれているアルコールによるものである。胃や小腸で体内に吸収されたアルコールは、血液の流れに乗って脳に達し、脳の中枢神経に対して働きかけ、脳の働きを麻痺させ気分をリラックスさせる。アルコールは肝臓に取り込まれると、アルコール脱水素酵素(以下、ADHと記す)の働きによって酸化され、アセトアルデヒドに変換される。一部のアルコールはミクロソームのエタノール酸化系(MEOS)やペルオキシソームに存在するカタラーゼによってもアセトアルデヒドへと酸化される。アセトアルデヒドは更にアルデヒド脱水素酵素(以下、ALDHと記す)の働きによって酢酸に変換される。
しかし、アルコールの代謝生成物であるアセトアルデヒドが十分に代謝されないでそのまま体内に残留していると、皮膚紅潮、熱感、動悖、頻脈、頭痛、吐気、口臭、尿臭などの悪酔いの症状を呈する。
【0003】
大量かつ長期間の飲酒は、脂肪肝や肝硬変、又は痛風などの疾病をもたらす。上述したように、アルコールはADHの働きによって酸化されてアセトアルデヒドになるが、この際NADがNADHに変換されるので、[NADH]/[NAD]の比が上昇する。この上昇は、リンゴ酸⇔オキザロ酢酸の平衡関係を崩し、クエン酸回路の活性を減少させる。クエン酸回路の活性の減少は脂肪酸の酸化を抑制するので、脂肪酸はエステル化されてトリグリセライドとなる。アルコールの酸化は、アセチルCoAからの脂肪合成及びコレステロール合成も促進する。このような生体反応が脂肪肝や肝硬変の発生に関与していると考えられている。
また、[NADH]/[NAD]の比の上昇は、[乳酸]/[ピルビン酸]の比を上昇させるので、高乳酸血症を生じると共に、腎臓からの尿酸の排泄能を減じる。このような生体反応が痛風の発生に関与していると考えられている。
【0004】
アルコール飲料(例えば、清酒、焼酎、ワイン、ビール、ウイスキー、ウオッカ、乳酒など)は古代から各民族が世界各地で育て上げてきた食品であり、文化、儀式、宗教などと深く関わってきた。さらに、適量の飲酒は、食欲の増進、血管平滑筋の弛緩とそれに伴う血流の増加など、肉体的な健康の維持・増進にも寄与し、気分転換、リラックス、歓談や円滑なコミュニケーション等を可能にするなど、精神的、社会的な健全性の維持・増進にも寄与している。日本人をはじめとするモンゴロイドでは、遺伝的にALDHの欠損(タイプI)が約50%の人々にみられ、この酵素の欠損者におけるアルコール摂取後の血中アセトアルデヒド濃度は、この酵素を欠損していない人と比べて、著しく高い(約17倍)ことが観察されている。
【0005】
健常又は通常の社会生活を送れる健康を保持しているものの、上述のような遺伝的背景から、生まれつきアルコール耐性の弱い人や、通常のアルコール耐性を保有しているものの、酒酔いから覚醒するための期間又は肝臓がアルコールを解毒するのに必要な期間を休養時間として確保する事のできない多忙な現代人は、飲酒のもたらす利点、即ち、肉体的、精神的、社会的な健全性の維持・向上を十分に享受することはできなかった。
【0006】
コエンザイムQ10(以下、CoQ10と記す)はベンゾキノン誘導体であり、ミトコンドリア、リソゾーム、ゴルジ体、ミクロソーム、ペルオキシソーム、或いは細胞膜等に局在し、電子伝達系の構成成分としてATP産生賦活、生体内での抗酸化作用、膜安定化に関与している事が知られている、生体の機能維持に必要不可欠な物質である。これらは、食事によって補給される一方、生体内でも生合成されているが、生体内での含量は加齢や生体が受ける種々のストレスにより顕著に減少することが知られている。
更に、激しい運動や過労時等、生体内で過酸化物が生成しやすい条件下においても、組織内濃度の減少が推定されている。生体内CoQ10含量の低下は、その特性上、ATP産生力の減退、心機能の減退、酸化ストレスに対する抵抗性の減退、生体膜の不安定化をもたらし、健康上好ましくない。従って、不足しているCoQ10を補給することは、ミトコンドリアでのエネルギー産生促進及び生体の抗酸化能を向上し、恒常性を維持するために有益である。
【0007】
このCoQ10を使用し、アルコール代謝を上げることが提案されている(例えば特許文献1,2)。しかしながら、CoQ10は脂溶性であることから、吸収性に劣り、その機能を十分に果たすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007−52225号公報
【特許文献2】特開2007−20432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、アルコールの摂取に伴う各種の副作用を防止・改善することを可能とするアルコール代謝促進組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、以下に示す項目によって解決できることを見出した。
〔1〕コエンザイムQ10を含むアルコール代謝促進組成物
〔2〕大豆タンパクまたは大豆タンパク加水分解物から選ばれる少なくとも1種類とコエンザイムQ10を共に含むアルコール代謝促進組成物。
〔3〕配合割合が質量比で大豆タンパクまたは大豆タンパク加水分解物が5から99.9、コエンザイムQ10が0.1から90である〔2〕に記載のアルコール代謝促進組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、アルコールに伴う副作用の低減を行うことを可能とした。また、簡便にCoQ10の生体吸収性を高めることを可能とすると共に、栄養学上の優れた特性を活かしたアルコール代謝促進組成物を提供することが可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】CoQ10摂取によるアルコール代謝への影響
【図2】CoQ10摂取によるアルデヒド代謝への影響
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、安全性が高く、しかも簡便かつ経済的に少量の添加量でアルコール代謝の改善を高めることができるCoQ10を含む組成物に関するものである。より好ましくは、大豆タンパク又はその加水分解物とCoQ10を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明で使用するCoQ10は一般式(1)で示される酸化型又は還元型どちらでも使用できる。その合成は有機合成、発酵法どちらでも構わない。
【化1】

【0015】
本発明では大豆タンパクやその加水分解物を使用する。これらは大豆から製造され、製造方法は特に限定されない。製造方法の例としては、脱脂してある大豆から希アルカリ溶液(pH8〜9)でタンパク質を抽出後、不溶成分を遠心分離によって沈殿したタンパク質を回収し、水洗後水に懸濁して噴霧乾燥することによって得られる。またはアルカリ抽出後、酸添加して可溶分を除きアルカリ中和することによっても得られる。またはアルコール洗浄した後、酵素分解することによっても得ることができる。
当然、脱脂していない大豆も原料として使用できる。使用する大豆タンパクやその加水分解物に含まれるたんぱく含有量は40%以上が好ましく、より好ましくは55%以上である。
【0016】
大豆タンパクやその加水分解物は市販しており、それらを使用することができる。例えば不二製油社製のソヤサワー、ハイニュートシリーズ、フジプロシリーズ、サンラバーシリーズ、プロリーナシリーズ、日清オイリオ社製のニューソイミー、ニューコミテックス、プロコン、ソルピー、ソーヤフラワー、アルファープラス等が販売されており、容易に使用することが出来る。
【0017】
CoQ10と大豆タンパクやその加水分解物を混合する場合、粉末でCoQ10と大豆タンパクやその加水分解物と混合して作ることができる。大豆タンパクやその加水分解物は水やアルコールに均一の分散を作りやすく、これらを用いて混合してもよい。
配合割合は、質量比で大豆タンパクやその加水分解物が5から99.9、コエンザイムQ10が0.1から90となるように混合することが好ましい。
【0018】
調製方法は特に規定されないが、CoQ10の融点が70℃付近であることから、混合の際に過度の熱がかからない方法が好ましい。例えばー20から70℃で行うのが好ましい。
【0019】
CoQ10と大豆由来粉の粉体の大きさはどの種類でも0.1から500μmが好ましく、より好ましくは5μmから300μmである。
【0020】
本発明で得られるアルコール代謝促進組成物の投与剤形は、特に制限されず、使用する用途により適宜選択することができる。
本発明のアルコール代謝促進組成物は、ヒト用又は動物用として、食品、機能性食品、医薬品または医薬部外品として使用することができる。
【0021】
ここでいう機能性食品とは、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、栄養保険食品等、健康の維持あるいは食事にかわり栄養補給の目的で摂取する食品を意味している。具体的な形態としてはカプセル剤、タブレット、チュアブル、錠剤、ドリンク剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる添加剤、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防菌防黴剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等を用いることができる。
より一般的には通常の食品、例えば味噌、醤油、インスタントみそ汁、ラーメン、焼きそば、カレー、コーンスープ、マーボードーフ、マーボーなす、パスタソース、プリン、ケーキ、パン等に加えることも可能である。
【0023】
製剤は、CoQ10を少なくとも含む組成物からなり、より好ましくはCoQ10と大豆由来の粉体とを含む組成物よりなるが、さらに任意の有効成分を含有していてもよい。それら製剤は、医薬、食品として許容される一種またはそれ以上の加工用の担体と共に混合し、製剤学の技術分野において公知の任意の方法により製造される。
【実施例】
【0024】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例及び比較例のみに限定されるものではない。
【0025】
組成物の作製
参考例1
CoQ10粉末(三菱瓦斯化学製)80g、大豆タンパク加水分解物(日清オイリオ社製)20gをポリ袋に入れて混合した。これをBioQ10SAとする。
【0026】
ラットを使ったCoQ10の吸収性試験
実施例1,2
実験方法 摂餌方法
8週齢のSD系ラット(オス、一群3匹、体重250〜300g)に対し、CoQ10量として100mg/kgラット重となるように経口的に強制摂取させた後、投与3時間後に尾静脈よりヘパリン加真空採血管を用いて採血し、血漿を分離した。
血中CoQ10量の測定
得られた血漿を1ml分取し、血漿中のCoQ10の全量が酸化型になるように、2%FeCl3−エタノール溶液を2.5ml加えて混合し、還元型CoQ10を酸化型CoQ10に変換した。次いで、ヘキサンを5ml加えて激しく混合し、血漿中の酸化型CoQ10を抽出した後、遠心分離し、ヘキサン層を別の試験管に採取した。この操作を3回繰り返し得られたヘキサン抽出液15mlをエバポレーターにて減圧濃縮(10〜100torr)し、その後、イソプロパノールを0.2ml加えて溶解した。得られたイソプロパノール溶液0.2mlを、下記の条件でHPLCにより分析し、血漿1ml中の濃度を算出した。結果を表1に示す。
HPLC分析条件:
カラム;YMC PACK ODS−A、移動相;メタノール:ヘキサン=4:1(V:V)、検出波長;275nm、流速;1.0ml/min、カラム温度30℃
上記の参考例1で作製したBioQ10SA、通常のCoQ10について、ラットにおける吸収性試験を行った結果(二匹の平均値)を表1に示す。
【表1】

BioQ10SAを使用することで吸収性が向上していることが分かる。
【0027】
アルコール代謝に関する実験
実施例3、4,比較例1
《被験者事前スクリーニング》試験実施一ヶ月以内に健康診断を医療機関で受診し、アルコール摂取試験に参加し、問題ない健康状態であることを確認する
実施例3:BioQ10SA 125mg/Day 3週間継続摂取
実施例4:CoQ10 100mg/Day 3週間継続摂取
比較例1:未摂取
《被験者数》5名年齢が20歳以上75歳以下の男女
《アルコール代謝能測定》
体重1kgあたり2mlの25%の焼酎(いいちこ)を同量の水で割ったものを10分以内に飲み、血中アルコール濃度と血中アセトアルデヒド濃度の変化を確認した。表2,3、図1,2に結果を示す。図中において、◆は比較例1、■は実施例4、▲は実施例3の結果を示す。
【表2】

血中アルコール濃度(mg/ml)
【表3】

血中アルデヒド濃度(mg/ml)
本発明のCoQ10組成物を使用することで、飲酒後の血中アルコールの濃度、アセトアルデヒド濃度共に低くすることができ、代謝を上げることが可能となったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のアルコール代謝促進組成物は、ヒト用又は動物用として、食品、機能性食品、医薬品または医薬部外品として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コエンザイムQ10を含むアルコール代謝促進組成物
【請求項2】
大豆タンパクまたは大豆タンパク加水分解物から選ばれる少なくとも1種類とコエンザイムQ10を共に含む請求項1記載のアルコール代謝促進組成物。
【請求項3】
配合割合が質量比で大豆タンパクまたは大豆タンパク加水分解物が5から99.9、コエンザイムQ10が0.1から90である請求項2に記載のアルコール代謝促進組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−219087(P2012−219087A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89730(P2011−89730)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】