説明

アルコール刺激抑制物質の評価方法

【課題】アルコールによる刺激を抑制する物質を簡便な操作で評価することができるアルコール刺激抑制物質の評価方法を提供すること。
【解決手段】被験物質とエタノールまたは多価アルコールとを、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞と接触させるか、またはTRPA1−TRPV1共発現細胞と接触させ、該エタノールまたは多価アルコールによりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象およびエタノールまたは多価アルコールによりTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とするアルコール刺激抑制物質の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール刺激抑制物質の評価方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ヒトの皮膚に用いられる化粧料などの皮膚外用剤の開発などに有用なアルコール刺激抑制物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚に用いられる化粧料などの皮膚外用剤には、必要により、爽快感や清涼感を付与するための清涼化剤や、皮膚の保湿のための保湿剤が配合されている。前記清涼化剤として、例えば、エタノールなどが用いられている。また、前記保湿剤として、ジプロピレングリコールなどの多価アルコールが用いられている。
【0003】
しかしながら、前記エタノールや多価アルコールなどのアルコールを配合した皮膚外用剤を用いた場合、使用者によっては皮膚に痛みや灼熱感などの不快な刺激を感じることがあるため、アルコールによる不快な刺激を抑制することが求められている。
【0004】
ところで、一過性受容体電位チャネル(以下、「TRPチャネル」という)は、痛みを惹起する因子を受容する受容体として機能することが知られている。例えば、TRPチャネルの1つであるTRPA1を介した細胞内カルシウムイオン濃度の変化が、パラベン類やアルカリ剤が配合された皮膚外用剤を用いたときに引き起こされる不快な刺激と関連していることが、本発明者らによって見出されている。また、前記パラベン類やアルカリ剤による刺激と前記TRPA1を介した細胞内カルシウムイオン濃度の変化との関連性を利用して、パラベン類やアルカリ剤による刺激を抑制する物質を評価することが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0005】
しかしながら、本発明者らは、現時点では、アルコールによる刺激とTRPA1との関連性や当該関連性を利用して、アルコールによる刺激を抑制する物質を簡便な操作で評価する方法を具体的に記載した文献を発見していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−79528号公報
【特許文献2】特開2009−82053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、アルコールによる刺激を抑制する物質を簡便な操作で評価することができるアルコール刺激抑制物質の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)被験物質とアルコールとを、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞と接触させるか、またはTRPA1−TRPV1共発現細胞と接触させ、アルコールによりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象およびアルコールによりTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とするアルコール刺激抑制物質の評価方法、
(2)前記生理学的事象が、アルコールとの接触前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化である前記(1)に記載の評価方法、
(3)前記TRPA1発現細胞が、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞である前記(1)または(2)に記載の評価方法、
(4)前記TRPV1発現細胞が、TRPV1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の評価方法、
(5)前記TRPA1−TRPV1共発現細胞が、TRPA1をコードする核酸およびTRPV1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞である前記(1)または(2)に記載の評価方法、ならびに
(6)前記宿主細胞が、HEK293細胞、CHO細胞、COS−7細胞またはNIH3T3細胞である前記(3)〜(5)のいずれかに記載の評価方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルコール刺激抑制物質の評価方法は、アルコールによる刺激を抑制する物質を簡便な操作で評価することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1において、各試料とΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフである。
【図2】実施例1において、各試料とΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフである。
【図3】比較例1において、各試料とΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフである。
【図4】比較例2において、各試料とΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフである。
【図5】実施例2において、各試料と抑制率との関係を示すグラフである。
【図6】実施例2において、各試料と抑制率との関係を示すグラフである。
【図7】試験例1において、各試料とΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフである。
【図8】試験例1において、各試料とΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のアルコール刺激抑制物質の評価方法は、被験物質とアルコールとを、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞それぞれに接触させるか、またはTRPA1−TRPV1共発現細胞に接触させ、アルコールによりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象およびアルコールによりTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とする。
【0012】
本発明者らは、アルコールを、TRPチャネルを発現する種々の細胞と接触させたとき、TRPチャネルのうち、TRPA1およびTRPV1両方が活性化するが、TRPM8およびTRPV2のいずれもが活性化しないことを見出した。さらに、本発明者らは、被験物質の存在下において、アルコールによりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象およびアルコールによりTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することにより、前記被験物質がアルコールによる皮膚などへの刺激を抑制する物質であるか否かを評価することができることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0013】
以下、アルコールによる皮膚などへの刺激をアルコール刺激という。また、本明細書において、アルコール刺激抑制物質とは、前記アルコール刺激を抑制する物質をいう。
【0014】
本発明のアルコール刺激抑制物質の評価方法は、被験物質とアルコールとを、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞と接触させるか、またはTRPA1−TRPV1共発現細胞と接触させる点に1つの大きな特徴がある。本発明のアルコール刺激抑制物質の評価方法によれば、アルコールによってTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象に対する被験物質の影響およびアルコールによってTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象に対する被験物質の影響を簡便な操作で測定することができるので、被験物質がアルコール刺激を抑制するか否かを簡便な操作で評価することができる。
【0015】
また、本発明のアルコール刺激抑制物質の評価方法には、被験物質を評価する際に、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞を用いているか、またはTRPA1−TRPV1共発現細胞を用いている点にも1つの大きな特徴がある。このように、本発明のアルコール刺激抑制物質の評価方法によれば、実験動物などと比べて、低コストで、かつ取扱いが簡便な細胞を用いるので、前記アルコール刺激抑制物質を低コストで評価することができる。
【0016】
前記被験物質としては、特に限定されないが、例えば、無機化合物、有機化合物、植物抽出物、微生物培養物、微生物抽出物などが挙げられる。前記被験物質は、そのまま用いてもよく、必要に応じて、溶媒に溶解させて用いてもよい。前記溶媒は、前記生理学的事象の測定に影響を与えない溶媒であることが好ましい。前記溶媒としては、例えば、生理的食塩水、水などが挙げられる。
【0017】
本明細書において、前記アルコールとは、一価アルコールおよび多価アルコールをいう。
【0018】
前記一価アルコールとしては、例えば、脂肪族一価アルコールなどが挙げられる。前記一価アルコールは、当該一価アルコールによる刺激を抑制する物質を簡便な操作で的確に評価する観点から、好ましくは炭素数2〜10の直鎖または分岐鎖の脂肪族一価アルコール、より好ましくは炭素数2〜8の直鎖または分岐鎖の脂肪族一価アルコールである。前記炭素数2〜10の直鎖または分岐鎖の脂肪族一価アルコールとしては、例えば、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコールなどが挙げられる。
【0019】
前記多価アルコールとしては、例えば、皮膚外用剤に配合される多価アルコールなどが挙げられる。前記皮膚外用剤に配合される多価アルコールとしては、例えば、脂肪族多価アルコールなどが挙げられる。前記多価アルコールは、当該多価アルコールによる刺激を抑制する物質を簡便な操作で的確に評価する観点から、好ましくは炭素数2〜6の脂肪族二価アルコール、より好ましくは炭素数3〜6の脂肪族二価アルコールである。前記炭素数2〜6の脂肪族二価アルコールとしては、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコールなどが挙げられる。
【0020】
前記TRPA1発現細胞は、TRPA1の生理学的機能を発現する細胞である。前記TRPA1の生理学的機能としては、例えば、マスタード、シナモアルデヒド、アリルイソチオシアネート、カルバクロール、アリシンなどによる化学刺激、冷覚刺激(例えば、17℃前後での刺激)、痛み刺激、機械刺激などの刺激による細胞外から細胞内へのナトリウムイオン、カルシウムイオンなどの陽イオンの透過などが挙げられる。
【0021】
前記TRPA1発現細胞としては、内因性TRPA1を発現している野生型の細胞、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞などが挙げられる。前記TRPA1発現細胞のなかでは、かかるTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を簡便な操作で測定する観点から、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞(以下、「外因性TRPA1発現細胞」ともいう)が好ましい。
【0022】
前記TRPV1発現細胞は、TRPV1の生理学的機能を発現する細胞である。前記TRPV1の生理学的機能としては、例えば、カプサイシン、カンフル、プロトンなどによる化学刺激、熱覚刺激(例えば、43℃前後の刺激)、痛み刺激、機械刺激などの刺激による細胞外から細胞内へのナトリウムイオン、カルシウムイオンなどの陽イオンの透過などが挙げられる。
【0023】
前記TRPV1発現細胞としては、内因性TRPV1を発現している野生型の細胞、TRPV1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞などが挙げられる。前記TRPV1発現細胞のなかでは、かかるTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象を簡便な操作で測定する観点から、TRPV1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞(以下、「外因性TRPV1発現細胞」ともいう)が好ましい。
【0024】
前記内因性TRPA1を発現している野生型の細胞としては、特に限定されないが、例えば、感覚神経の細胞、内耳の細胞などが挙げられる。また、前記内因性TRPV1を発現している野生型の細胞としては、特に限定されないが、例えば、感覚神経の細胞、脳の細胞、膀胱上皮の細胞などが挙げられる。
【0025】
前記TRPA1−TRPV1共発現細胞は、TRPA1をコードする核酸およびTRPV1をコードする核酸がいずれも発現可能に宿主細胞に導入された細胞などが挙げられる。前記TRPA1−TRPV1共発現細胞においては、TRPA1をコードする核酸およびTRPV1をコードする核酸は、前記アルコールによってTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象およびTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象をそれぞれ測定する観点から、それぞれ別々の発現プロモーターの制御下にあることが好ましい。発現プロモーターは、宿主細胞内でTRPA1を発現させるのに適したプロモーターであればよい。発現プロモーターは、用いられる宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
【0026】
前記外因性TRPA1発現細胞、外因性TRPV1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞は、染色体外要素として前記核酸が存在している細胞であってもよく、前記核酸が染色体に組み込まれている細胞であってもよい。
【0027】
前記外因性TRPA1発現細胞は、例えば、TRPA1をコードする核酸を保持する組換えベクターにより宿主細胞を形質転換することによって得られる。また、前記外因性TRPV1発現細胞は、TRPV1をコードする核酸を保持する組換えベクターにより宿主細胞を形質転換することによって得られる。前記TRPA1−TRPV1共発現細胞は、例えば、TRPA1をコードする核酸およびTRPV1をコードする核酸を保持する組換えベクターにより宿主細胞を形質転換することによって得られる。
【0028】
前記TRPA1をコードする核酸は、ヒトTRPA1をコードする核酸であってもよく、他の動物のTRPA1をコードする核酸であってもよい。また、前記TRPV1をコードする核酸は、ヒトTRPV1をコードする核酸であってもよく、他の動物のTRPV1をコードする核酸であってもよい。
【0029】
前記TRPA1をコードする核酸は、ヒトに適用することができるアルコール刺激抑制物質を的確に評価する観点から、好ましくはヒトTRPA1をコードする核酸である。前記TRPA1をコードする核酸としては、例えば、配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸などが挙げられる。この配列番号:1に示される塩基配列は、アクセッション番号:NM_007332としてGenBankに登録されているヒトTRPA1をコードする核酸の塩基配列である。前記TRPA1をコードする核酸は、前記核酸によりコードされるポリペプチドが前記生理学的機能を発現するのであれば、TRPA1の構造遺伝子の塩基配列の内部または末端に、1または数個のヌクレオチド残基の置換、欠失または挿入を有する変異型核酸であってもよい。
【0030】
また、前記TRPV1をコードする核酸は、ヒトに適用することができるアルコール刺激抑制物質を的確に評価する観点から、好ましくはヒトTRPV1をコードする核酸である。前記TRPV1をコードする核酸としては、例えば、配列番号:3に示される塩基配列からなる核酸などが挙げられる。この配列番号:3に示される塩基配列は、アクセッション番号:NM_080704.3としてGenBankに登録されているヒトTRPV1をコードする核酸の塩基配列である。前記TRPV1をコードする核酸は、前記核酸によりコードされるポリペプチドが前記生理学的機能を発現するのであれば、TRPV1の構造遺伝子の塩基配列の内部または末端に、1または数個のヌクレオチド残基の置換、欠失または挿入を有する変異型核酸であってもよい。また、TRPV1をコードする核酸は、前記配列番号:3に示される塩基配列からなる核酸とオルタナティブスプライシングを介して異なるスプライシングバリアントであってもよい。前記スプライシングバリアントとしては、例えば、GenBankアクセッション番号:NM_018727.5、NM_080705.3、NM_080706.3などの塩基配列で示される核酸が挙げられる。
【0031】
TRPA1をコードする核酸の変異型核酸としては、例えば、
(A)配列番号:1に示される塩基配列に対して、BLASTアルゴリズムにより、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 11の条件でアライメントして算出される配列相同性の値が、それぞれの生理学的機能を十分に発揮させる観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である塩基配列からなり、かつコードされるポリペプチドが少なくとも前記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸、
(B)配列番号:2において、1個または数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列をコードし、コードされるポリペプチドが少なくとも陽イオンを透過させる機能を発現するポリペプチドである核酸、
(C)配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸に対する相補鎖核酸と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、コードされるポリペプチドが、陽イオンを透過させる機能を発現するポリペプチドである核酸
などが挙げられる。
【0032】
また、TRPV1をコードする核酸の変異型核酸としては、例えば、
(a)配列番号:3に示される塩基配列に対して、BLASTアルゴリズムにより、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 11の条件でアライメントして算出される配列相同性の値が、それぞれの生理学的機能を十分に発揮させる観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である塩基配列からなり、かつコードされるポリペプチドが少なくとも前記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸、
(b)配列番号:4において、1個または数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列をコードし、コードされるポリペプチドが少なくとも前記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸、
(c)配列番号:3に示される塩基配列からなる核酸に対する相補鎖核酸と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、コードされるポリペプチドが、前記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸
などが挙げられる。
【0033】
なお、本明細書において、前記ストリンジェントな条件としては、例えば、配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸または配列番号:3に示される塩基配列からなる核酸と、前記核酸に対応するハイブリダイゼーション対象の核酸とを、ハイブリダイゼーション用溶液〔組成:6×SSC(組成:0.9M塩化ナトリウム、0.09Mクエン酸ナトリウム、pH7.0に調整)、0.5質量%ドデシル硫酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、100μg/ml変性サケ精子DNA、50体積%ホルムアミド〕中で、室温、よりストリンジェントな条件として42℃以上、さらにストリンジェントな条件として60℃以上の温度で10時間インキュベーションし、つぎに、例えば、2×SSC、よりストリンジェントな条件として0.1×SSCのイオン強度条件下で、かつ室温、よりストリンジェントな条件として42℃以上、さらにストリンジェントな条件として60℃以上の温度で洗浄を行なう条件などが挙げられる。
【0034】
前記TRPA1をコードする核酸は、例えば、配列番号:1に示される塩基配列に基づいて作成されたプローブを用いるハイブリダイゼーション法、配列番号:1に示される塩基配列に基づいて設計され、合成された2種類のオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対を用いる核酸増幅法などによって得られる。TRPV1をコードする核酸は、例えば、配列番号:3に示される塩基配列に基づいて作成されたプローブを用いるハイブリダイゼーション法、配列番号:3に示される塩基配列に基づいて設計され、合成された2種類のオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対を用いる核酸増幅法などによって得られる。
【0035】
前記宿主細胞としては、前記TRPA1をコードする核酸および/またはTRPV1をコードする核酸が効率よく発現され、かつ培養が容易なものであればよく、特に限定されないが、例えば、動物細胞、細菌細胞、植物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。これらのなかでは、ヒトにおけるTRPA1および/またはTRPV1の生理学的機能を十分に再現する観点から、好ましくは動物細胞である。動物細胞としては、例えば、ヒト細胞、サル細胞、マウス細胞などが挙げられる。サル細胞としては、特に限定されないが、例えば、COS−7細胞などが挙げられる。マウス細胞としては、特に限定されないが、例えば、CHO細胞、NIH3T3細胞などが挙げられる。ヒト細胞としては、特に限定されないが、例えば、HEK293細胞、Hela細胞などが挙げられる。前記宿主細胞のなかでは、取扱いが容易であり、アルコール刺激抑制物質を的確に評価する観点から、HEK293細胞、CHO細胞、COS−7細胞およびNIH3T3細胞が好ましい。これらのなかでは、TRPチャネルがほとんど発現しておらず、外因性のTRPA1および/またはTRPV1の活性化を容易にかつ選択的に測定することができる観点およびヒトへの適用に適したアルコール刺激抑制剤を的確に評価する観点から、HEK293細胞が好ましい。
【0036】
前記組換えベクターは、TRPA1をコードする核酸および/またはTRPV1をコードする核酸と慣用のベクターとを連結させることによって得られるベクターである。前記ベクターは、調製が容易であり、効率よく宿主細胞に導入することができ、かつ宿主細胞内でTRPA1および/またはTRPV1を効率よく発現させることができるベクターであればよい。前記ベクターは、形質転換後に、組換えベクターを保持する細胞を容易に選択する観点から、好ましくは選択マーカー遺伝子を有するベクターである。ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどが挙げられる。これらのベクターは、用いられる宿主細胞に応じて適宜選択することができる。なお、前記外因性TRPA1発現細胞および外因性TRPV1発現細胞を作製するための組換えベクターに用いられるベクターは、発現プロモーターを有していてもよい。
【0037】
前記組換えベクターを用いた形質転換は、用いられる宿主細胞の種類に応じて、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、トランスフェクション法、パーティクルガン法などの形質転換方法によって行なうことができる。これらの形質転換方法は、例えば、モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)〔ザンブルーク(Sambrook)ら、コールドスプリングハーバープレス(Cold Spring Harbor Press)、1989年発行〕などの記載に準じて行なうことができる。形質転換後の細胞からの外因性TRPA1発現細胞、外因性TRPV1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞の選択は、例えば、用いられた組換えベクターが選択マーカー遺伝子を有する場合、選択マーカー遺伝子に応じた選択培地で培養することなどによって行なうことができる。
【0038】
得られた細胞が、TRPA1を発現している細胞であることの確認は、例えば、細胞を1〜10mMパラオキシ安息香酸メチルエステルと接触させ、後述の細胞内カルシウムイオン濃度の測定方法により、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を測定することによって行なうことができる。細胞がTRPA1を発現している場合、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度は、パラオキシ安息香酸メチルエステルと接触させていない細胞の細胞内カルシウムイオン濃度よりも高くなる。また、得られた細胞が、TRPV1を発現している細胞であることの確認は、例えば、細胞を100nM〜10μMカプサイシンと接触させ、後述の細胞内カルシウムイオン濃度の測定方法により、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を測定することによって行なうことができる。細胞がTRPV1を発現している場合、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度は、カプサイシンと接触させていない細胞の細胞内カルシウムイオン濃度よりも高くなる。
【0039】
被験物質と、アルコールと、TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞またはTRPA1−TRPV1共発現細胞との接触は、例えば、各細胞の培養に適した培地中で、被験物質と、アルコールと、TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞またはTRPA1−TRPV1共発現細胞とをインキュベーションすること、被験物質と、アルコールと、TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞またはTRPA1−TRPV1共発現細胞との混合物をインキュベーションすることなどによって行なわれる。なお、TRPA1−TRPV1共発現細胞を用いる場合、アルコールによってTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象およびTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象をそれぞれ測定するタイミングに合わせて、TRPA1およびTRPV1をそれぞれ別々に発現させるようにする。
【0040】
前記培地としては、TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞またはTRPA1−TRPV1共発現細胞が生育するのに適した成分〔例えば、グルコース、アミノ酸、ペプトン、ビタミン、細胞増殖促進因子(例えば、細胞成長因子、ホルモン、結合タンパク質、細胞接着因子、脂質など)、血清(例えば、ウシ胎仔血清など)、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど〕を含む培地であればよい。前記培地は、慣用の基本培地に前記成分を補った培地であってもよく、市販されている培地であってもよい。基本培地としては、特に限定されないが、MEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地などが挙げられる。かかる培地は、細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、用いられる細胞がHEK293細胞から得られた細胞である場合、培地として、10質量%ウシ胎仔血清含有DMEM培地などが用いられる。
【0041】
TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞の各使用量は、試験データの信頼性の観点から、1視野(データ解析範囲)あたり、それぞれ1×101細胞以上が好ましく、1×102細胞以上がより好ましく、細胞の間隔を確保し、細胞が密になりすぎないようにする観点から、3×10細胞以下が好ましく、2×10細胞以下がより好ましい。
【0042】
前記TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞にそれぞれ接触させる被験物質の量は、被験物質の種類に応じて適宜設定することができる。
【0043】
前記TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞にそれぞれ接触させるアルコールの量は、例えば、当該アルコールが炭素数2〜6の脂肪族一価アルコールまたは炭素数2〜6の多価アルコールである場合、通常、皮膚外用剤に配合される量のアルコールによる刺激を再現し、アルコール刺激抑制物質を的確に評価する観点から、細胞1×102個あたり、100mM以上であることが好ましく、TRPA1およびTRPV1以外の因子による応答を抑制する観点から、5M以下であることが好ましく、2M以下であることがより好ましく、1M以下であることがさらに好ましい。
【0044】
また、前記TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞にそれぞれ接触させるアルコールの量は、例えば、当該アルコールが炭素数7〜8の脂肪族一価アルコールである場合、アルコール刺激抑制物質を的確に評価する観点から、細胞1×102個あたり、0.1mM以上であることが好ましく、0.5mM以上であることがより好ましく、TRPA1およびTRPV1以外の因子による応答を抑制する観点から、5mM以下であることが好ましく、2mM以下であることがより好ましい。
【0045】
さらに、前記TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞にそれぞれ接触させるアルコールの量は、例えば、当該アルコールが炭素数9〜10の脂肪族一価アルコールである場合、細胞とアルコールとの接触時に用いられる培地への炭素数9〜10の脂肪族一価アルコールの溶解度などにより異なるので一概には決定することができない。
【0046】
なお、TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞は、それぞれ、前記生理学的事象を測定するのに適した状態に細胞を維持するために、必要に応じて、TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞を、各細胞に適した条件下で、予めインキュベーションしておいてもよい。
【0047】
前記インキュベーションは、用いられる細胞の種類に応じた方法によって行なうことができる。かかる方法としては、例えば、単層静置培養法、浮遊培養法、回転培養法、三次元担体培養法などが挙げられる。また、インキュベーション温度、インキュベーション時間、二酸化炭素濃度などの条件は、用いられる細胞に応じて適宜設定される。例えば、TRPA1発現細胞、TRPV1発現細胞およびTRPA1−TRPV1共発現細胞として、HEK293細胞から得られた細胞を用いる場合、かかる細胞は、前記生理学的事象を測定するのに適した状態に細胞を維持する観点から、通常、5体積%二酸化炭素を含む雰囲気中で、36〜38℃、好ましくは36.5〜37.5℃でインキュベーションすればよい。
【0048】
前記生理学的事象としては、アルコールとの接触前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化、アルコールとの接触前後の一定電位下での電流の変化、これらの組み合わせなどが挙げられる。本発明においては、簡便な操作で、かつ高感度で測定することができる観点から、前記生理学的事象は、好ましくはアルコールとの接触前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化である。
【0049】
前記一定の電位での電流の測定方法としては、例えば、パッチクランプ法などが挙げられる。
【0050】
ここで、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞を用いた場合、被験物質がアルコール刺激抑制物質であることの判断基準としては、例えば、アルコールと接触させたTRPA1発現細胞における一定の電位下での電流と比べて、被験物質とアルコールとを接触させたTRPA1発現細胞における前記電位と同じ電位下での電流が小さくなっており、かつアルコールと接触させたTRPV1発現細胞における一定の電位下での電流と比べて、被験物質とアルコールとを接触させたTRPV1発現細胞における前記電位と同じ電位下での電流が小さくなっていること、すなわち、被験物質によって、アルコールによりTRPA1を介して引き起こされる一定の電位下での電流の増加およびアルコールによりTRPV1を介して引き起こされる一定の電位下での電流の増加が抑制されていることなどが挙げられる。
【0051】
また、TRPA1−TRPV1共発現細胞を用いた場合、被験物質がアルコール刺激抑制物質であることの判断基準としては、TRPA1を発現させるとともにアルコールと接触させたTRPA1−TRPV1共発現細胞における一定の電位下での電流と比べて、TRPA1を発現させるとともに被験物質とアルコールとを接触させたTRPA1−TRPV1共発現細胞における前記電位と同じ電位下での電流が小さくなっており、かつTRPV1を発現させるとともにアルコールと接触させたTRPA1−TRPV1共発現細胞における一定の電位下での電流と比べて、TRPV1を発現させるとともに被験物質とアルコールとを接触させたTRPA1−TRPV1共発現細胞における前記電位と同じ電位下での電流が小さくなっていることなどが挙げられる。
【0052】
細胞内カルシウムイオン濃度は、例えば、カルシウムキレート化剤に基づく蛍光試薬(以下、「蛍光カルシウム指示薬」ともいう)をTRPA1発現細胞に導入し、細胞内のカルシウムイオンに前記蛍光カルシウム指示薬を結合させ、カルシウムイオンと結合した蛍光カルシウム指示薬の蛍光強度を調べる方法などを用いて算出することができる。前記蛍光カルシウム指示薬としては、例えば、カルシウムイオンと結合した当該蛍光カルシウム指示薬の量によってその蛍光特性が変化する試薬であればよく、特に限定されないが、例えば、FURA 2、FURA 2−AM、Fluo−3などが挙げられる。
【0053】
なお、蛍光カルシウム指示薬が2種類の励起波長を有する場合、より精度を高める観点から、各励起波長における蛍光強度から蛍光強度比を算出することが好ましい。例えば、蛍光カルシウム指示薬であるFURA 2−AMの励起波長は、340nmおよび380nmである。この場合、TRPA1またはTRPV1のアゴニストと接触させたときの細胞内カルシウムイオン濃度に対する被験物質およびアルコールと接触させたときの細胞内カルシウムイオン濃度の変化は、式(I):
【0054】
【数1】

【0055】
に基づいて、変化率(%)を算出することにより調べることができる。なお、前記Δ蛍光強度比Aは、式(II):
【0056】
【数2】

【0057】
に基づいて算出することができる。また、前記Δ蛍光強度比Bは、式(III):
【0058】
【数3】

【0059】
に基づいて算出することができる。なお、本明細書において、「蛍光強度340nm」は励起波長340nmにおける蛍光強度を示し、「蛍光強度380nm」は励起波長380nmにおける蛍光強度を示す。
【0060】
ここで、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞を用いた場合、被験物質がアルコール刺激抑制物質であることの判断基準としては、例えば、アルコールに接触させたTRPA1発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度と比べて、被験物質とアルコールとに接触させたTRPA1発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度が低くなっており、かつアルコールに接触させたTRPV1発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度と比べて、被験物質とアルコールとに接触させたTRPV1発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度が低くなっていること、すなわち、被験物質によって、アルコールによってTRPA1を介して引き起こされる細胞内カルシウム濃度の増加およびアルコールによってTRPV1を介して引き起こされる細胞内カルシウム濃度の増加が抑制されていることなどが挙げられる。
【0061】
また、TRPA1−TRPV1共発現細胞を用いた場合、被験物質がアルコール刺激抑制物質であることの判断基準としては、
(a)TRPA1を発現させるとともに、アルコールに接触させたTRPA1−TRPV1共発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度と比べて、TRPA1を発現させるとともに、被験物質とアルコールとに接触させたTRPA1−TRPV1共発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度が低くなっていること、
(b)TRPV1を発現させるとともに、アルコールに接触させたTRPA1−TRPV1共発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度と比べて、TRPV1を発現させるとともに、被験物質とアルコールとに接触させたTRPA1−TRPV1共発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度が低くなっていること
などが挙げられる。
【0062】
本発明のアルコール刺激抑制物質の評価方法により、アルコール刺激抑制物質であることが判明した被験物質は、例えば、エタノールまたは炭素数2〜6の多価アルコールを配合した化粧品、皮膚外用剤などにより皮膚などで引き起こされる感覚刺激を抑制する成分として用いることができる。したがって、本発明のアルコール刺激抑制物質の評価方法によれば、エタノールまたは炭素数2〜6の多価アルコールによって皮膚トラブルを生じやすい人に適した化粧品、皮膚外用剤などの成分の評価およびスクリーニングが可能になる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
(製造例1)
ヒトTRPA1をコードするcDNA〔配列番号:1(GenBankアクセッション番号:NM_007332)に示される塩基配列の63位〜3888位のポリヌクレオチド〕を、哺乳動物細胞用ベクター〔インビトロジェン社製、商品名:pcDNA3.1(+)〕のクローニングサイトに挿入し、ヒトTRPA1発現ベクターを得た。得られたヒトTRPA1発現ベクター1μgと、遺伝子導入用試薬〔インビトロジェン社製、商品名:PLUS Reagent(プラスリージェント)、カタログ番号:11514−015〕6μlとを混合し、混合物Iを得た。また、遺伝子導入用カチオン性脂質〔インビトロジェン社製、商品名:リポフェクタミン(登録商標)、カタログ番号:18324−012〕4μlと、血清使用量低減培地〔インビトロジェン社製、商品名:OPTI−MEM(登録商標)I Reduced−Serum Medium(カタログ番号:11058021)200μlとを混合し、混合物IIを得た。
【0065】
また、5体積%二酸化炭素の雰囲気中、37℃に維持された直径35mmのシャーレ上の10質量%FBS含有DMEM培地中において、5×10細胞のHEK293細胞を70%のコンフルエンシーになるまで培養した。
【0066】
得られた細胞培養物に、前記混合物Iと混合物IIとを添加することにより、HEK293細胞に前記ヒトTRPA1発現ベクターを導入し、TRPA1発現細胞を得た。
【0067】
(製造例2)
製造例1において、ヒトTRPA1をコードするcDNAの代わりにヒトTRPV1をコードするcDNA〔配列番号:3(GenBankアクセッション番号:MN_080704.3)に示される塩基配列の276位〜2795位のポリヌクレオチド〕を用いたことを除き、製造例1と同様にしてTRPV1発現細胞を得た。
【0068】
(製造例3)
製造例1において、ヒトTRPA1をコードするcDNAの代わりにヒトTRPM8をコードするcDNA〔GenBankアクセッション番号:NM_024080.4に示される塩基配列の41位〜3355位のポリヌクレオチド〕を用いたことを除き、製造例1と同様にしてTRPM8発現細胞を得た。
【0069】
(製造例4)
製造例1において、ヒトTRPA1をコードするcDNAの代わりにヒトTRPV2をコードするcDNA〔GenBankアクセッション番号:NM_016113.3に示される塩基配列の368位〜2662位のポリヌクレオチド〕を用いたことを除き、製造例1と同様にしてTRPV2発現細胞を得た。
【0070】
(実施例1)
(1)TRPA1発現細胞による評価
前記製造例1で得られたTRPA1発現細胞を、細胞内カルシウムイオン測定用試薬であるFURA 2−AM(インビトロジェン社製)を最終濃度5μMで含む10質量%ウシ胎仔血清含有DMEM培地中、室温で60分間インキュベーションすることにより、前記TRPA1発現細胞にFURA 2−AMを導入し、FURA 2−AM導入TRPA1発現細胞を得た。
【0071】
得られたFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞を循環定温チャンバー付蛍光測定装置〔浜松ホトニクス(株)製、商品名:ARGUS−50〕の各チャンバーに入れた。その後、チャンバー中のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞を、溶媒A〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、2mM塩化カルシウム、10mMグルコース、10mMヘペス塩酸緩衝液(pH7.4)〕で洗浄した。
【0072】
つぎに、洗浄後のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞が入ったチャンバーに、試料として、アルコール水溶液を還流し、FURA 2−AM導入TRPA1発現細胞とアルコール水溶液とを混合した。なお、前記アルコール水溶液として、200mMエタノール水溶液、500mMエタノール水溶液、1Mエタノール水溶液、5Mエタノール水溶液、200mMジプロピレングリコール水溶液、500mMジプロピレングリコール水溶液、1Mジプロピレングリコール水溶液、200mMプロピレングリコール水溶液、500mMプロピレングリコール水溶液、1Mプロピレングリコール水溶液、200mM1,3−ブチレングリコール水溶液、500mM1,3−ブチレングリコール水溶液または1M1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた。
【0073】
その後、チャンバーにおいて、励起波長340nmにおけるTRPA1発現細胞に導入され、かつ細胞内のカルシウムイオンに結合したFURA 2−AMに基づく蛍光の強度(以下、「蛍光強度340nm」という)および励起波長380nmにおけるTRPA1発現細胞に導入されたFURA 2−AMに基づく蛍光の強度(以下、「蛍光強度380nm」という)を測定した。
【0074】
測定された蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmから、Δ蛍光強度比アルコールを算出した。前記Δ蛍光強度比アルコールは、下記式(IV):
【0075】
【数4】

【0076】
に基づいて算出した。
【0077】
また、アルコール水溶液の代わりにTRPA1に対する既知のアゴニストであるアリルイソチオシアナート(20μMアリルイソチオシアナート水溶液)を用いたことを除き、前記アルコール水溶液を用いた場合と同様にしてΔ蛍光強度比アゴニストを算出した。前記Δ蛍光強度比アゴニストは、下記式(V):
【0078】
【数5】

【0079】
に基づいて算出した。
【0080】
算出されたΔ蛍光強度比アルコールとΔ蛍光強度比アゴニストとから、Δ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。
【0081】
実施例1において、各試料とΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフを図1に示す。
【0082】
図1において、試料番号1は200mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号2は500mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号3は1Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号4は5Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号5は200mMジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号6は500mMジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号7は1Mジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号8は200mMプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号9は500mMプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号10は1Mプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号11は200mM1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号12は500mM1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストおよび試料番号13は1M1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを示す。
【0083】
図1に示された結果から、エタノール水溶液(試料番号1〜4)、ジプロピレングリコール水溶液(試料番号5〜7)、プロピレングリコール水溶液(試料番号8〜10)および1,3−ブチレングリコール水溶液(試料番号11〜13)のいずれのアルコール水溶液を用いた場合であっても、アルコール水溶液におけるアルコールの濃度に依存して、TRPA1発現細胞におけるΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストが大きくなっていることがわかる。これらの結果から、TRPA1を活性化させて細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることが知られているアリルイソチオシアナートと同様に、エタノール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールは、TRPA1を濃度依存的に活性化させ、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることがわかる。
【0084】
(2)TRPV1発現細胞による評価
前記(1)において、製造例1で得られたTRPA1発現細胞の代わりに製造例2で得られたTRPV1発現細胞を用い、アゴニストとして、TRPV1に対する既知のアゴニストであるカプサイシン(1μMカプサイシン水溶液)を用いたことを除き、前記(1)と同様にして、Δ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。
【0085】
実施例1において、各試料とΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフを図2に示す。
【0086】
図2において、試料番号1は200mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号2は500mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号3は1Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号4は5Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号5は200mMジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号6は500mMジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号7は1Mジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号8は200mMプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号9は500mMプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号10は1Mプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号11は200mM1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号12は500mM1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストおよび試料番号13は1M1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを示す。
【0087】
図2に示された結果から、エタノール水溶液(試料番号1〜4)、ジプロピレングリコール水溶液(試料番号5〜7)、プロピレングリコール水溶液(試料番号8〜10)および1,3−ブチレングリコール水溶液(試料番号11〜13)のいずれのアルコール水溶液を用いた場合であっても、濃度に依存して、TRPV1発現細胞におけるΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストが大きくなっていることがわかる。これらの結果から、TRPV1を活性化させて細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることが知られているカプサイシンと同様に、エタノール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールは、TRPV1を濃度依存的に活性化させ、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることがわかる。
【0088】
(比較例1)
実施例1の(1)において、製造例1で得られたTRPA1発現細胞の代わりに、製造例3で得られたTRPM8発現細胞を用い、アゴニストとして、TRPM8に対する既知のアゴニストであるメントール(1mMメントール水溶液)を用いたことを除き、前記(1)と同様にしてΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。
【0089】
比較例1において、各試料とΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフを図3に示す。
【0090】
図3において、試料番号1は1Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号2は1Mジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号3は1Mプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号4は1M1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを示す。
【0091】
図3に示された結果から、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞それぞれにおけるΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト(図1および2)と比べて、TRPM8発現細胞におけるΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストは、エタノール水溶液、ジプロピレングリコール水溶液、プロピレングリコール水溶液および1,3−ブチレングリコール水溶液のいずれのアルコール水溶液を用いた場合であっても、著しく小さいことがわかる。これらの結果から、エタノール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールは、TRPM8をほとんど活性化させず、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させないことがわかる。
【0092】
(比較例2)
実施例1の(1)において、製造例1で得られたTRPA1発現細胞の代わりに、製造例4で得られたTRPV2発現細胞を用い、アゴニストとして、TRPV2に対する既知のアゴニストであるリソフォスファチジルコリン(30μMリソフォスファチジルコリン水溶液)を用いたことを除き、前記実施例1の(1)と同様にして、Δ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。
【0093】
比較例2において、各試料とΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフを図4に示す。
【0094】
図4において、試料番号1は1Mエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号2は1Mジプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号3は1Mプロピレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号4は1M1,3−ブチレングリコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを示す。
【0095】
図4に示された結果から、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞それぞれにおけるΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト(図1および2)と比べて、TRPV2発現細胞におけるΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストは、エタノール水溶液、ジプロピレングリコール水溶液、プロピレングリコール水溶液および1,3−ブチレングリコール水溶液のいずれのアルコール水溶液を用いた場合であっても、著しく小さいことがわかる。これらの結果から、エタノール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールは、TRPV2をほとんど活性化させず、細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させないことがわかる。
【0096】
以上説明したように、エタノールおよび炭素数2〜6の多価アルコールは、TRPA1およびTRPV1の両方を活性化させるが、TRPM8およびTRPV2を活性化させないことがわかる。したがって、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞の両方を用いて、エタノールまたは炭素数2〜6の多価アルコールによりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象と、エタノールまたは炭素数2〜6の多価アルコールによりTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象とを測定することにより、エタノールおよび炭素数2〜6の多価アルコールによる刺激を抑制する物質を評価することができることが示唆される。
【0097】
(実施例2)
実施例1の(1)において、前記溶媒Aで洗浄した後のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞が入ったチャンバーに、アルコール水溶液の代わりに、被験物質と1Mジプロピレングリコール水溶液との混合物を還流したことを除き、実施例1の(1)と同様にして蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmを測定した。なお、前記被験物質として、TRPチャネルに対する既知のアンタゴニストであるルテニウムレッド〔シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製〕、TRPA1に対してブロッカーとして作用し、かつTRPV1を活性化させる物質であるカンファー〔シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製〕、TRPV1に対するアンタゴニストであるカプサゼピン〔シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製〕およびマルチトール〔(株)林原生物化学研究所製〕を用いた。各混合物中における被験物質の濃度は、それぞれ、ルテニウムレッドが10μM、カンファーが5mM、カプサゼピンが10μM、マンニトールが5mMとした。測定された蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmから、Δ蛍光強度比を算出した。前記Δ蛍光強度比は、下記式(VI):
【0098】
【数6】

【0099】
に基づいて算出した。
【0100】
また、実施例1の(1)において、前記溶媒Aで洗浄した後のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞が入ったチャンバーに、アルコール水溶液の代わりに、1Mジプロピレングリコール水溶液を還流したことを除き、実施例1の(1)と同様にして、蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmを測定した。測定された蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmから、Δ蛍光強度比を算出した。前記Δ蛍光強度比は、下記式(VII):
【0101】
【数7】

【0102】
に基づいて算出した。
【0103】
算出されたΔ蛍光強度比およびΔ蛍光強度比を用い、ジプロピレングリコールによるTRPA1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する被験物質による抑制率を、式(VIII):
【0104】
【数8】

【0105】
に基づき算出した。実施例2において、各試料と抑制率との関係を示すグラフを図5に示す。
【0106】
図5において、試料番号1はルテニウムレッドを用いた場合の抑制率、試料番号2はカンファーを用いた場合の抑制率、試料番号3はカプサゼピンを用いた場合の抑制率、試料番号4はマンニトールを用いた場合の抑制率を示す。
【0107】
一方、前記FURA 2−AM導入TRPA1発現細胞の代わりに、FURA 2−AM導入TRPV1発現細胞を用いたことを除き、前記と同様にして、Δ蛍光強度比およびΔ蛍光強度比それぞれを算出した。算出されたΔ蛍光強度比およびΔ蛍光強度比を用い、ジプロピレングリコールによるTRPV1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する被験物質による抑制率を、前記式(VIII)に基づき算出した。実施例2において、各試料と抑制率との関係を示すグラフを図6に示す。
【0108】
図6において、試料番号1はルテニウムレッドを用いた場合の抑制率、試料番号2はカンファーを用いた場合の抑制率、試料番号3はカプサゼピンを用いた場合の抑制率、試料番号4はマンニトールを用いた場合の抑制率を示す。
【0109】
図5および図6に示された結果から、ルテニウムレッドを用いた場合、ジプロピレングリコールによるTRPA1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する抑制率およびジプロピレングリコールによるTRPV1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する抑制率がいずれも40%以上となっていることがわかる。これに対して、カンファー、カプサゼピンまたはマンニトールを用いた場合には、ジプロピレングリコールによるTRPA1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する抑制率およびジプロピレングリコールによるTRPV1発現細胞内のカルシウムイオン濃度の増加に対する抑制率のいずれかまたは両者が20%以下となっていることがわかる。
【0110】
したがって、これらの結果から、被験物質のうち、ルテニウムレッドは、エタノールまたは炭素数2〜6の多価アルコールによる刺激に対して最も高い抑制効果を示すことが示唆される。
【0111】
以上の結果から、被験物質と、エタノールまたは多価アルコールとを、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞それぞれに接触させ、該エタノールまたは多価アルコールによりTRPA1およびTRPV1それぞれを介して引き起こされる生理学的事象を測定することにより、簡便な操作で、当該被験物質がアルコール刺激抑制物質であるか否かを評価することができることがわかる。また、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞を用いることの代わりに、TRPA1およびTRPV1を共発現するTRPA1−TRPV1共発現細胞を用いた場合であっても、エタノールまたは多価アルコールによりTRPA1およびTRPV1それぞれを介して引き起こされる生理学的事象を測定することができるため、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞を用いる場合と同様に、簡便な操作で、当該被験物質がアルコール刺激抑制物質であるか否かを評価することができることがわかる。
【0112】
(試験例1)
(1)TRPA1発現細胞による評価
実施例1の(1)において、前記溶媒Aで洗浄した後のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞が入ったチャンバーに、アルコール水溶液として、1mMメタノール水溶液、1mMエタノール水溶液、1mMプロパノール水溶液、1mMブタノール水溶液、1mMペンチルアルコール水溶液、1mMヘキシルアルコール水溶液、1mMヘプチルアルコール水溶液または1mMオクチルアルコール水溶液を還流したことを除き、実施例1の(1)と同様にしてΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。なお、1mMヘプチルアルコール水溶液は、前記溶媒Aによって、1Mヘプチルアルコールエタノール水溶液を1/1000倍のヘプチルアルコール濃度となるように希釈した溶液である。また、1mMオクチルアルコール水溶液は、前記溶媒Aによって、1Mオクチルアルコール水溶液を1/1000倍のオクチルアルコール濃度となるように希釈した溶液である。
【0113】
試験例1において、各試料とΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストとの関係を示すグラフを図7に示す。
【0114】
図7において、試料番号1は1mMメタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号2は1mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号3は1mMプロピルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号4は1mMブチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号5は1mMペンチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号6は1mMヘキシルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号7は1mMヘプチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号8は1mMオクチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを示す。
【0115】
図7に示された結果から、炭素数7〜8のアルコールを含む1mMアルコール水溶液を用いた場合(試料番号7〜8)、炭素数の増加に伴って、TRPA1発現細胞におけるΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストが大きくなっており、しかも、Δ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストが0を大きく超えていることがわかる。
【0116】
したがって、これらの結果から、炭素数7〜8のアルコールを含む1mMアルコール水溶液を用いた場合、TRPA1発現細胞に接触させるアルコールの量が1mMであっても、当該アルコールによるTRPA1の活性化を良好に検出することができることがわかる。
【0117】
(2)TRPV1発現細胞による評価
前記(1)において、製造例1で得られたTRPA1発現細胞の代わりに製造例2で得られたTRPV1発現細胞を用い、アゴニストとして、TRPV1に対する既知のアゴニストであるカプサイシン(1μMカプサイシン水溶液)を用いたことを除き、前記(1)と同様にして、Δ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。
【0118】
試験例1において、各試料とΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストとの関係を示すグラフを図8に示す。
【0119】
図8において、試料番号1は1mMメタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号2は1mMエタノール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号3は1mMプロピルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号4は1mMブチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号5は1mMペンチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号6は1mMヘキシルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号7は1mMヘプチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号8は1mMオクチルアルコール水溶液を用いた場合のΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストを示す。
【0120】
図8に示された結果から、炭素数1〜6のアルコールを含む1mMアルコール水溶液を用いた場合(試料番号1〜6)、TRPV1発現細胞におけるΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストがほぼ0であり、当該アルコールによるTRPA1の活性化を検出することが困難であることがわかる。これに対して、炭素数7〜8のアルコールを含む1mMアルコール水溶液を用いた場合(試料番号7〜8)、炭素数の増加に伴って、TRPV1発現細胞におけるΔ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストが大きくなっており、しかも、Δ蛍光強度比アルコール/Δ蛍光強度比アゴニストが0を大きく超えていることがわかる。
【0121】
したがって、これらの結果から、炭素数7〜8のアルコールを含む1mMアルコール水溶液を用いた場合、TRPV1発現細胞に接触させるアルコールの量が1mMであっても、当該アルコールによるTRPV1の活性化を良好に検出することができることがわかる。
【0122】
以上説明したように、炭素数7〜8のアルコールは、低濃度で用いた場合であっても、TRPA1およびTRPV1の両方を活性化させることがわかる。なお、炭素数9〜10のアルコールも、炭素数7〜8のアルコールの場合と同様の傾向を示した。したがって、炭素数7以上のアルコールによる刺激を抑制する物質の評価は、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞それぞれに接触させる当該アルコールの量が少なくても、高感度で行なうことができることが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質とエタノールまたは多価アルコールとを、TRPA1発現細胞およびTRPV1発現細胞と接触させるか、またはTRPA1−TRPV1共発現細胞と接触させ、エタノールまたは多価アルコールによりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象およびエタノールまたは多価アルコールによりTRPV1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とするアルコール刺激抑制物質の評価方法。
【請求項2】
前記生理学的事象が、エタノールまたは多価アルコールとの接触前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化である請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記TRPA1発現細胞が、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞である請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記TRPV1発現細胞が、TRPV1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞である請求項1〜3のいずれかに記載の評価方法。
【請求項5】
前記TRPA1−TRPV1共発現細胞が、TRPA1をコードする核酸およびTRPV1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞である請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項6】
前記宿主細胞が、HEK293細胞、CHO細胞、COS−7細胞またはNIH3T3細胞である請求項3〜5のいずれかに記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−205975(P2011−205975A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77286(P2010−77286)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】