説明

アルコール化合物の製造方法

【課題】水素化ホウ素化合物を用いることなく、カルボン酸エステル化合物をアルコール化合物に還元する新規な製造方法を提供する。
【解決手段】アミノ基を少なくとも1つ有するピリジン化合物及びルテニウム化合物を反応させてルテニウム錯体を得る第1工程、及び
該ルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元する第2工程を含むことを特徴とするアルコール化合物の製造方法。
該ピリジン化合物としては、式(A)


(R、R、Rは、水素原子等を表す。R、Rは、水素原子、アルキル基等を表すか、環状アミノ基を形成している。Qは、アルキレン基等を表す。波線は結合手を表す。)
で示される部分構造を有する化合物、または、アミノ基とピリジン環とを含み、該ピリジン環には該ピリジン環とは異なる炭化水素環が結合している化合物等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール化合物の製造方法および該製造方法に有用な触媒等に関する。
【背景技術】
【0002】
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルエステルなどのカルボン酸エステル化合物を還元して2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールなどのアルコール化合物を製造する方法としては、例えば、水素化ホウ素化合物による還元が特許文献1に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−023006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水素化ホウ素化合物を用いることなく、カルボン酸エステル化合物をアルコール化合物に還元する新規な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討したところ、以下の本発明に至った。
すなわち、本発明は、
<1> 置換基を有してもよいアミノ基を少なくとも1つ有するピリジン化合物と、ルテニウム化合物とを反応させてルテニウム錯体を得る第1工程、及び
第1工程で得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元する第2工程を含むことを特徴とするアルコール化合物の製造方法;
【0006】
<2> 該ピリジン化合物が、該アミノ基と、
該アミノ基とは異なる置換基を有していてもよいピリジン環とが
連結基を介して結合している化合物であることを特徴とする<1>記載の製造方法;
<3> 連結基が、置換基を有していてもよいアルキレン基であることを特徴とする<2>記載の製造方法;
<4> 該ピリジン化合物が、分子内に該アミノ基を2個有する化合物であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか記載の製造方法;
<5> 該アミノ基が、アミノ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、炭素数6〜10のアリールアミノ基、炭素数12〜20のジアリールアミノ基及び炭素数2〜8の環状アミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか記載の製造方法;
<6> 該ピリジン化合物が、式(A)

(式中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表すか、RまたはQと結合した2価の基を表す。Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表すか、Rと結合した2価の基を表す。Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、RとRとが互いに結合して、窒素原子とともに炭素数2〜8の環状アミノ基を形成している。Qは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表すか、Rと結合した2価の基を表す。波線は結合手を表す。)
で示される部分構造を有する化合物であることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか記載の製造方法;
【0007】
<7> 該ピリジン化合物が、式(I)

(式中、Q、Q、Q、QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び置換基を有していてもよいアミノアルキル基を表すか、QおよびQ、QおよびQ、QおよびQ並びにQおよびQは、それぞれ一緒になって2価の基を表してもよい。但し、Q、Q、Q、QおよびQの少なくとも1つはアミノ基、または置換基を有していてもよいアミノアルキル基を表す。)
で示される化合物であることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか記載の製造方法;
<8> 該ピリジン化合物が、置換基を有してもよいアミノ基と置換基を有してもよいピリジン環とを含み、該ピリジン環には該ピリジン環とは異なる炭化水素環が結合している化合物であることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか記載の製造方法;
【0008】
<9> ルテニウム化合物が、ハロゲン化ルテニウム、芳香族化合物が配位したルテニウム ジハライド ダイマー、ジエンが配位したルテニウム ジハライド ポリマーおよびトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のルテニウム化合物であることを特徴とする<1>〜<8>のいずれか記載の製造方法;
【0009】
<10> カルボン酸エステル化合物が、式(4)

(式中、RおよびRはそれぞれ互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。)
で示されるカルボン酸エステル化合物であり、得られるアルコール化合物が、式(5)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物であることを特徴とする<1>〜<9>のいずれか記載の製造方法;
<11> カルボン酸エステル化合物が、式(9)

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表す。)
で示されるラクトンであり、得られるアルコール化合物が、式(10)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物であることを特徴とする<1>〜<9>のいずれか記載の製造方法;
<12> カルボン酸エステル化合物が、式(6)

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは互いに独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、Xの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示されるハロゲン置換テレフタル酸ジエステルであり、得られるアルコール化合物が、式(7)

(式中、RおよびXはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示されるハロゲン置換(4−ヒドロキシメチル)安息香酸エステルおよび/または式(8)

(式中、Xはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示されるハロゲン置換ベンゼンジメタノールであることを特徴とする<1>〜<9>のいずれか記載の製造方法;
【0010】
<13> 第2工程におけるルテニウム錯体の使用量が、ルテニウム原子に換算した量として、カルボン酸エステル化合物におけるカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)1モルに対して0.001〜0.2モルの範囲であることを特徴とする<1>〜<12>のいずれか記載の製造方法;
<14> 置換基を有してもよいアミノ基を少なくとも1つ有するピリジン化合物及びルテニウム化合物を反応させて得られるルテニウム錯体;
<15> 置換基を有してもよいアミノ基を少なくとも1つ有するピリジン化合物と、ルテニウム化合物とを反応させて得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元することを特徴とするアルコール化合物の製造方法;
等である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カルボン酸エステル化合物をアルコール化合物に還元することのできる新規な製造方法及び該製造方法に好適な触媒が提供可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、置換基を有してもよいアミノ基を少なくとも1つ有するピリジン化合物と、ルテニウム化合物とを反応させてルテニウム錯体を得る第1工程、及び
第1工程で得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元する第2工程を含む。
【0013】
まず、置換基を有してもよいアミノ基を少なくとも1つ有するピリジン化合物(以下、本ピリジンと記すことがある)について説明する。
本ピリジンは、置換基を有してもよいアミノ基と、
該アミノ基とは異なる置換基を有していてもよいピリジン環と
を有する化合物である。
かかるピリジン環は、該ピリジン環を構成する炭素原子と該アミノ基とが直接結合していてもよいし、該ピリジン環を構成する炭素原子と該アミノ基とが連結基を介して結合していてもよい。
【0014】
ピリジン環に有していてもよい置換基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアルキル基は、直鎖状、分枝鎖状および環状の何れであってもよく、炭素数1〜20のアルキル基が好ましい。
上記置換基を有していてもよいアルキル基のうち、無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、デシル基等の直鎖状または分枝鎖状の炭素数1〜20のアルキル基;シクロプロピル基、2,2−ジメチルシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メンチル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基;などが挙げられる。
【0015】
上記置換基を有していてもよいアルキル基の置換基としては、例えば、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。上記置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などの炭素数6〜10のアリール基;2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基等の(C1〜C4アルキル)置換アリール基;4−クロロフェニル基等のハロゲン置換アリール基;4−メトキシフェニル基等の(C1〜C4アルコキシ)置換アリール基;が挙げられる。上記置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基等の炭素数1〜6のハロアルコキシ基;ベンジルオキシ基;4−メチルベンジルオキシ基等の(C1〜C4アルキル)置換ベンジルオキシ基;3−フェノキシベンジルオキシ基;シクロペンチルベンジルオキシ基等の(C3〜C10シクロアルキル)置換ベンジルオキシ基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の(C1〜C4アルコシキ)置換C1〜C4アルコキシ基;などが挙げられる。
【0016】
上記置換基を有していてもよいアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基;2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基などの[(C1〜C4アルキル)置換アリール]オキシ基;4−メトキシフェノキシ基などの[(C1〜C4アルコシキ)置換アリール]オキシ基;3−フェノキシフェノキシ基などの(フェノキシ置換アリール)オキシ基;が挙げられる。
上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等が挙げられる。
【0017】
上記置換基を有していてもよいアルキル基のうち、置換基を有するアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基等の(C1〜C4アルコキシ)置換C1〜C4アルキル基;ベンジル基等のアリール置換アルキル基;4−フルオロベンジル基等の(ハロゲン置換アリール)C1〜C4アルキル基;4−メチルベンジル基等の(アルキル置換アリール)C1〜C4アルキル基;フェノキシメチル基等の(フェノキシ置換)C1〜C4アルキル基;が挙げられる。
本明細書中、各置換基の例示において、C1〜C4、C3〜C10は、それぞれ炭素数1〜4、炭素数3〜10を表す。
【0018】
上記置換基を有していてもよいアリール基としては、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基が好ましい。上記置換基を有していてもよいアリール基のうち、無置換のアリール基としては、例えば、炭素数6〜10のアリール基、具体的にはフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
上記置換基を有していてもよいアリール基のうち、置換されたアリール基は、例えば、上述の置換基を有していてもよいアルキル基、上述の置換基を有していてもよいアルコキシ基、上述のハロゲン原子を置換基として有する。
上記置換基を有していてもよいアリール基のうち、置換基を有するアリール基としては、例えば、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基等の(C1〜C4アルキル)置換アリール基;4−クロロフェニル基等のハロゲン置換アリール基;4−メトキシフェニル基等の(C1〜C4アルコキシ)置換アリール基;などが挙げられる。
【0019】
置換基を有していてもよいアルコキシ基は、−OR(式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基である。)で示される。Rにおいて、置換基を有していてもよいアルキル基としては、上述の例示したアルキル基が挙げられる。
【0020】
上記ピリジン環の置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、ベンジル基、(C1〜C4アルキル)置換ベンジル基が好ましい。
【0021】
上記ピリジン環は、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ピリジン環などの他の炭化水素基と縮環構造を形成していてもよい。上記炭化水素基には、連結基、アミノ基、上述の置換基等が結合していてもよい。
かかる縮環構造を有する環としては、例えば、キノリン環、シクロペンテノピリジン環、シクロヘキセノピリジン環等が挙げられる。
【0022】
置換基を有していてもよいアミノ基とは、上記アミノ基に含まれる窒素原子の結合手3つのうち2つは、sp3炭素原子又は水素原子と結合した窒素原子を含む原子団を意味する。残りの結合手1つは、ピリジン環のsp2炭素原子又は連結基などのsp3炭素原子と結合している。
上記アミノ基としては、例えば、アミノ基(−NH)の水素原子が置換基で置換されていてもよい基等を挙げることができる。上記アミノ基は、2つの水素原子が置換されている場合、環状アミノ基であってもよいし、後述する連結基に含まれていてもよい。
上記アミノ基が有しうる置換基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基が挙げられる。かかるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0023】
上記アミノ基としては、例えば、式(2)

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、RとRとが結合して一緒になって炭素数2〜8のアルキレン基を表す。波線は結合手を表す。)
で示されるアミノ基(以下、アミノ基(2)と記すことがある。)が挙げられる。
【0024】
が水素原子またはアルキル基、Rが水素原子であるアミノ基(2)としては、例えば、アミノ基(-NH);メチルアミノ基、エチルアミノ基等の炭素数1〜4のアルキルアミノ基等が挙げられ、R及びRがアルキル基であるアミノ基(2)としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数2〜8のジアルキルアミノ基が挙げられ、Rがアリール基、Rが水素原子であるアミノ基(2)としては、例えば、フェニルアミノ基等の炭素数6〜10のアリールアミノ基等が挙げられ、R及びRがアリール基であるアミノ基(2)としては、例えば、ジフェニルアミノ基等の炭素数12〜20のジアリールアミノ基が挙げられる。
また、アミノ基(2)におけるRとRとが結合して一緒になって炭素数2〜8のアルキレン基を表すとは、アミノ基(2)が、例えば、1−アジリジニル基、1−アゼチジニル基、1−ピロリジニル基、ピペリジノ基等の炭素数2〜8の環状アミノ基等を挙げることができる。
【0025】
本ピリジンにおいて、連結基としては、単結合、置換基を有していてもよいアルキレン基等が挙げられる。
上記連結基におけるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ヘキシレン基等の炭素数1〜6のアルキレン基が挙げられる。
また、前述したように、連結基がアルキレン基の場合、アルキレン基に含まれるメチレン基はNHに置き換わっていてもよく、例えば、-CH2-NH-、-CH2-CH2-NH-などを例示することができる。
【0026】
上記アルキレン基が有し得る置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基;置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基;置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリールオキシ基;ハロゲン原子;などが挙げられる。
上記アルキレン基が有し得る置換基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基;4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基等の置換基を有する炭素数6〜10のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;トリフルオロメトキシ基、ベンジルオキシ基、4−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基、3−フェノキシベンジルオキシ基等の置換基を有する炭素数1〜4のアルコキシ基;フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基等の置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリールオキシ基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。
置換基を有するアルキレン基としては、フルオロメチレン基、メトキシメチレン基、フェニルメチレン基、フルオロエチレン基、メトキシエチレン基、2−メトキシプロピレン基等が挙げられる。
【0027】
本ピリジンは、好ましくは、置換基を有していてもよいアミノ基が連結基を介してピリジン環の2位の炭素原子と連結しているか、ピリジン環の2位及び5位の各炭素原子それぞれに該アミノ基が連結基を介して連結している。
本ピリジンは、ピリジン環を1つ有する場合、ピリジン環に含まれる炭素原子は、アミノ基と結合する炭素原子または連結基と結合している炭素原子以外にはいずれも水素原子が結合していることが好ましい。
本ピリジンは、ピリジン環を2つ有する場合、ピリジン環同士は単結合しているものが好ましい。
【0028】
本ピリジンは、式(A)

(式中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表すか、RまたはQと結合した2価の基を表す。Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表すか、Rと結合した2価の基を表す。Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、RとRとが互いに結合して、窒素原子とともに炭素数2〜8の環状アミノ基を形成している。Qは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表すか、Rと結合した2価の基を表す。波線は結合手を表す。)
で示される構造を有する化合物であることが好ましい。
【0029】
ここで、R、RおよびRにおける、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、それぞれピリジン環の置換基として例示した基が挙げられる。
と、RまたはQとが結合した2価の基としては、上記ピリジン環に含まれる炭素原子のうち、互いに隣接する2個の炭素原子が結合した二価の置換基として例示した基などが挙げられる。
式(A)におけるRおよびRは、前記アミノ基(2)におけるRおよびRと同じ意味を表わす。
【0030】
また、Qは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表すか、Rと一緒になって二価の置換基を表す。置換基を有していてもよいアルキレン基としては、上述の連結基として例示した基が例示される。
QとRとにより示される2価の置換基としては、例えば、炭素数2〜6のアルキレン基、炭素数3〜6のアルケニレン基、炭素数3〜6のジエンジイル基が挙げられる。
【0031】
本ピリジンとしては、例えば、式(I)

(式中、Q、Q、Q、QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び置換基を有していてもよいアミノアルキル基を表すか、QおよびQ、QおよびQ、QおよびQ並びにQおよびQは、それぞれ一緒になって2価の基を表してもよい。但し、Q、Q、Q、QおよびQの少なくとも1つはアミノ基、または置換基を有していてもよいアミノアルキル基を表す。)
で示される化合物(以下、ピリジン化合物(I)と記すことがある。)を挙げることができる。
【0032】
ピリジン化合物(I)において、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び置換基を有していてもよいアミノアルキル基としては、それぞれ上記ピリジン環の置換基として例示した基を挙げることができる。
式(I)において、置換基を有していてもよいアルキル基としては、炭素数1〜4のアミノアルキル基、(C1〜C4アルキルアミノ)(C1〜C4アルキル)基、[ジ(C1〜C4アルキルアミノ)](C1〜C4アルキル)基等が挙げられる。置換基を有していてもよいアミノアルキル基の具体例としては、アミノメチル基、メチルアミノメチル基、(ジメチルアミノ)メチル基、エチルアミノメチル基、(ジエチルアミノ)メチル基、(ジプロピルアミノ)メチル基、アミノエチル基などが挙げられる。
【0033】
およびQ、QおよびQ、QおよびQ並びにQおよびQがそれぞれ一緒になった2価の基としては、例えば、炭素数2〜6のアルキレン基、炭素数3〜6のアルケニレン基、炭素数3〜6のジエンジイル基などが挙げられる。
【0034】
ピリジン化合物(I)としては、例えば、2−アミノピリジン、2−アミノメチルピリジン、2−アミノエチルピリジン、2−アミノプロピルピリジンなどの2−アミノ(C1〜C4アルキル)ピリジン;2−メチルアミノピリジン、2−メチルアミノメチルピリジン、2−メチルアミノエチルピリジン、2−メチルアミノプロピルピリジンなどの2−(C1〜C4アルキルアミノ)(C1〜C4アルキル)ピリジン;2−ジメチルアミノピリジン、2−ジメチルアミノメチルピリジン、2−ジメチルアミノエチルピリジン、2−ジメチルアミノプロピルピリジンなどの2−[ジ(C1−C4アルキル)アミノ](C1−C4アルキル)ピリジン;2−フェニルアミノピリジン、2−フェニルアミノメチルピリジン、2−フェニルアミノエチルピリジン、2−フェニルアミノプロピルピリジンなどの2−[(フェニルアミノ)メチル]ピリジン;3−アミノピリジン、3−アミノメチルピリジン、3−アミノエチルピリジン、3−アミノプロピルピリジンなどの3−アミノ(C1−C4アルキル)ピリジン;3−メチルアミノピリジン、3−メチルアミノメチルピリジン、3−メチルアミノエチルピリジン、3−メチルアミノプロピルピリジンなどの3−(C1−C4アルキルアミノ)(C1−C4アルキル)ピリジン;3−ジメチルアミノピリジン、3−ジメチルアミノメチルピリジン、3−ジメチルアミノエチルピリジン、3−ジメチルアミノプロピルピリジンなどの3−[ジ(C1−C4アルキル)アミノ](C1−C4アルキル)ピリジン;3−フェニルアミノピリジン、3−フェニルアミノメチルピリジン、3−フェニルアミノエチルピリジン、3−フェニルアミノプロピルピリジンなどの3−[(フェニルアミノ)メチル]ピリジン;4−アミノピリジン、4−アミノメチルピリジン、4−アミノエチルピリジン、4−アミノプロピルピリジンなどの4−アミノ(C1−C4アルキル)ピリジン;4−メチルアミノピリジン、4−メチルアミノメチルピリジン、4−メチルアミノエチルピリジン、4−メチルアミノプロピルピリジンなどの4−(C1−C4アルキルアミノ)(C1−C4アルキル)ピリジン;4−ジメチルアミノピリジン、4−ジメチルアミノメチルピリジン、4−ジメチルアミノエチルピリジン、4−ジメチルアミノプロピルピリジンなどの4−[ジ(C1−C4アルキル)アミノ](C1−C4アルキル)ピリジン;4−フェニルアミノピリジン、4−フェニルアミノメチルピリジン、4−フェニルアミノエチルピリジン、4−フェニルアミノプロピルピリジンなどの4−[(フェニルアミノ)メチル]ピリジン;2,5−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノメチルピリジン、2,5−ジアミノエチルピリジン、2,5−ジアミノプロピルピリジンなどの2,5−ビス[アミノ(C1−C4アルキル)]ピリジン;2,5−ビス(メチルアミノメチル)ピリジン、2,5−ビス(メチルアミノメチル)ピリジン、2,5−ビス(メチルアミノエチル)ピリジン、2,5−ビス(メチルアミノプロピル)ピリジンなどの2,5−ビス[(C1−C4アルキルアミノ)(C1−C4アルキル)]ピリジン;2,5−ビス(ジメチルアミノメチル)ピリジン、2,5−ビス(ジメチルアミノメチル)ピリジン、2,5−ビス(ジメチルアミノエチル)ピリジン、2,5−ビス(ジメチルアミノプロピル)ピリジンなどの2,5−ビス[[ジ(C1−C4アルキル)アミノ](C1−C4アルキル)]ピリジン;;2,6−ビス(アミノメチル)ピリジン、2,6−ビス(アミノメチル)ピリジン、2,6−ビス(アミノエチル)ピリジン、2,6−ビス(アミノプロピル)ピリジンなどの2,6−ビス[アミノ(C1−C4アルキル)]ピリジン;2,6−ビス(メチルアミノメチル)ピリジン、2,6−ビス(メチルアミノメチル)ピリジン、2,6−ビス(メチルアミノエチル)ピリジン、2,6−ビス(メチルアミノプロピル)ピリジンなどの2,6−ビス[(C1−C4アルキルアミノ)(C1−C4アルキル)]ピリジン;2,6−ビス(ジメチルアミノメチル)ピリジン、2,6−ビス(ジメチルアミノメチル)ピリジン、2,6−ビス(ジメチルアミノエチル)ピリジン、2,6−ビス(ジメチルアミノプロピル)ピリジンなどの2,6−ビス[ジ(C1−C4アルキル)アミノ(C1−C4アルキル)]ピリジン;2,6−ビス(フェニルアミノメチル)ピリジン、2,6−ビス(フェニルアミノメチル)ピリジン、2,6−ビス(フェニルアミノエチル)ピリジン、2,6−ビス(フェニルアミノプロピル)ピリジンなどの2,6−ビス[(フェニルアミノ)メチル]ピリジンなどが挙げられる。
【0035】
ピリジン化合物(I)として、例えば、式(3)

(式中、R1aおよびR2aは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表すか、R1aとR2aとが結合した2価の置換基を表す。
3aは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
4aおよびR5aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表すか、R4aとR5aとが結合して、窒素原子とともに炭素数2〜8の環状アミノ基を表す。)
で示される化合物(以下、ピリジン化合物(3)と記すことがある)が好ましい。
【0036】
ここで、R1a、R2aおよびR3aにおいて、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、及び置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、それぞれピリジン環の置換基として例示した基を挙げることができる。
【0037】
ピリジン化合物(3)としては、例えば、2,6−ビス(アミノメチル)ピリジン、2,6−ビス[(メチルアミノ)メチル]ピリジン、2,6−ビス[(ジメチルアミノ)メチル]ピリジン、2,6−ビス[(ジエチルアミノ)メチル]ピリジン、α2,α2,α6,α6−テトラメチル−2,6−ビス(アミノメチル)ピリジン、2,6−ビス(アミノメチル)−4−メトキシピリジン、2,6−ビス(アミノメチル)−4−ジメチルアミノピリジン、2,6−ビス(アミノメチル)−4−メチルピリジン、2,6−ビス(アミノエチル)ピリジン、2,6−ビス[(メチルアミノ)メチル]ピリジン、2,6−ビス[(ジメチルアミノ)エチル]ピリジン、2,6−ビス(アミノプロピル)ピリジン、2,6−ビス[(メチルアミノ)プロピル]ピリジン、2,6−ビス[(ジメチルアミノ)プロピル]ピリジン、2,6−ビス[(ジフェニルアミノ)メチル]ピリジン、2,6−ビス[(フェニルアミノ)メチル]ピリジン等が挙げられる。
【0038】
本ピリジンの異なる例示として、置換基を有してもよいアミノ基と置換基を有してもよいピリジン環とを含み、該ピリジン環には該ピリジン環とは異なる炭化水素環が結合している化合物(以下、多環ピリジンと記すことがある)を挙げることができる。
該炭化水素環は、例えば、ビピリジル環の如く、ピリジン環と単結合で結合していてもよいし、例えば、ピリジン環と連結基を介して結合してもよいし、例えば、ピリジン環とアミノ基を介して結合してもよいし、例えば、キノリン環、シクロペンテノピリジン環、シクロヘキセノピリジン環の如く、ピリジン環と縮環構造を形成していてもよい。
多環ピリジンとしては、例えば、N,N’−[ビス(8−キノリル)]エタン−1,2−ジアミン(下式左)、6,6’−ビス(アミノメチル)−1,2’−ビピリジル(下式右)等を挙げることができる。

【0039】
本ピリジンは、塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素や硫酸、リン酸等の鉱酸と塩を形成していてもよい。
【0040】
本ピリジンは市販品であってもよいし、公知の方法またはそれに準じた方法で製造したものであってもよい。
本ピリジンの製造法として、例えば、X−Q−(式中、Xは脱離基を表し、Qは上記意味と同じ。)で示される基を置換基として有するピリジンとアルキルアミンとを反応させることにより、Xをアルキルアミノ基に変換する方法、ピリジンアルデヒドとアルキルアミン塩酸塩を反応させる方法等が挙げられる。
上記脱離基としては、ハロゲン、水酸基等が挙げられる。
【0041】
ピリジン化合物(3)は、具体的には、下記のルート1〜3に示す方法により製造することができる。ルート1はInorganic Chemistry,36,4812(1997)に、ルート2はTetorahedron,62,9973(2006)に、ルート3はLiebigs Ann.Chem.,537(1978)に、それぞれ記載されている。
【0042】

(式中、R1a、R2a、R3a、R4a、R5aおよびQは、それぞれ上記と同一の意味を表し、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)
【0043】
次に、置換基を有してもよいアミノ基を少なくとも1つ有するピリジン化合物及びルテニウム化合物を反応させることにより得られるルテニウム錯体(以下、ルテニウム錯体と記すことがある。)並びに該ルテニウム錯体を含有する組成物について説明する。
上記ルテニウム錯体は、後述のカルボン酸エステル化合物を還元する触媒として好適に用いることができる。上記ルテニウム錯体は、本ピリジン及びルテニウム化合物から得られるので、安価に製造することができる。
ルテニウム化合物は、ルテニウム原子及びハロゲン原子を含むことが好ましい。
【0044】
ルテニウム原子及びハロゲン原子を含むルテニウム化合物としては、例えば、塩化ルテニウム(III)、臭化ルテニウム(III)等のハロゲン化ルテニウム;(p−シメン)ルテニウム ジクロライド ダイマー、(ベンゼン)ルテニウム ジクロライド ダイマー、(メシチレン)ルテニウム ジクロライド ダイマー、(ヘキサメチルベンゼン)ルテニウム ジクロライド ダイマー、(p−シメン)ルテニウム ジブロマイド ダイマー等の芳香族化合物が配位したルテニウム ジハライド ダイマー;ルテニウム 1,5−シクロオクタジエン ジクロライド ポリマー、ルテニウム ジノルボルナジエン ジクロライド ポリマー等のジエンが配位したルテニウム ジハライド ポリマー;トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロライド、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジブロマイド、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムハイドロクロライド等のトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムハライド;等が挙げられる。これらルテニウム化合物は水和物であってもよい。
上記ルテニウム化合物としては、芳香族化合物が配位したルテニウム ジハライド ダイマー、ハロゲンとルテニウムとからなる化合物およびトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムハライドがより好ましい。
上記ルテニウム化合物は単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。ルテニウム化合物は、市販品であってもよいし、公知の方法により合成したものであってもよい。
ルテニウム化合物は、ルテニウム化合物におけるルテニウム原子の量が、本ピリジン1モルに対して、一般に0.3〜2モル、好ましくは0.3〜1モル、さらに好ましくは0.4〜0.6モルの範囲となる量で使用される。
ルテニウム化合物におけるルテニウム原子の量は、ICP発光分析による元素分析等の公知の手段により求められる。
【0045】
第1工程は、有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。
かかる有機溶媒としては、例えば、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド溶媒;等が挙げられ、エーテル溶媒、アミド溶媒が好ましい。
有機溶媒の使用量として、例えば、本ピリジン化合物1重量部に対して、1重量部以上、100重量部以下の範囲等を挙げることができる。
【0046】
第1工程において、その手順は限定されず、例えば、本ピリジン化合物と塩基(C)とを混合し、そこにルテニウム化合物を加える工程等を挙げることができる。
第1工程の反応温度としては、例えば、−20〜100℃の範囲等を挙げることができ、好ましくは0〜60℃の範囲等が挙げられる。第1工程の進行は、例えば高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0047】
第1工程により得られた反応混合物中にはルテニウム錯体が含まれている。該反応混合物は、そのまま、または該反応混合物からルテニウム錯体を単離したり、さらに、ルテニウム錯体を精製した後、後述の第2工程に供してもよい。
単離する際の具体的な処理方法としては、例えば、洗浄、分液、濾過、晶析、濃縮等が挙げられる。精製する際の具体的な処理方法としては、再結晶、カラムクロマトグラフィ等が挙げられる。
本発明において、ルテニウム錯体は、反応混合物から単離されたものが好ましい。例えば、反応混合物中にアルカリ金属ハロゲン化物等の不溶物が析出している場合は、濾過等により該反応混合物から該不溶物を除去することが好ましい。
【0048】
上記ルテニウム錯体は、本ピリジン及びルテニウム化合物から得られるものであり、一般に、本ピリジンに由来するピリジン環及びアミノ基とルテニウム化合物に由来する成分とがルテニウム原子に配位した構造を有する。ルテニウム化合物がハロゲン原子を有する場合、ハロゲン原子を有するルテニウム錯体が得ることができる。なお、ルテニウム化合物としてトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムハライドのようなリン配位子を持つルテニウム化合物を用いた場合でも、トリフェニルホスフィンなどのリン配位子を晶析操作などにより除くことによりリン配位子を有していないルテニウム錯体を得ることができる。
上記ルテニウム錯体を含有する組成物としては、本ピリジンとルテニウム化合物との反応により得られた反応混合物や、該反応混合物から単離されたルテニウム錯体を含む粉末または溶液が挙げられる。該組成物は、ルテニウム錯体を含有するので、後述の第2工程に好適に用いることができる。
【0049】
次に、第2工程について説明する。
第2工程に用いられるカルボン酸エステル化合物は、カルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)を1つ以上有する有機化合物である。上記カルボン酸エステル化合物は、モノエステルであってもよいし、ジエステル等の複数のカルボニルオキシ基を有する化合物であってもよい。上記複数のカルボニルオキシ基を有する化合物として、シュウ酸ジエステル、マロン酸ジエステル、フタル酸ジエステル、マレイン酸ジエステル、グルタル酸ジエステル、アジピン酸ジエステルが挙げられる。
【0050】
上記カルボン酸エステル化合物としては、カルボニルオキシ基のカルボニルに脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基が結合したカルボン酸エステル化合物(以下、この化合物を「脂肪族炭化水素含有カルボン酸エステル」と称する。)、カルボニルオキシ基のカルボニルに芳香族炭化水素基が結合したカルボン酸エステル化合物(以下、この化合物を「芳香族炭化水素含有カルボン酸エステル」と称する。)、環状カルボン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0051】
脂肪族炭化水素含有カルボン酸エステルとしては、例えば、式(4)

(式中、RおよびRはそれぞれ互いに独立して、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基または置換基を有していてもよいアリール基等を表す。)
で示されるカルボン酸エステル化合物等を挙げることができる。
かかるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、デシル基、シクロプロピル基、2,2−ジメチルシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メンチル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数1〜20のアルキル基等が挙げられる。該アルキル基における置換基としては、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;アミノ基;水酸基;炭素数2〜5のカルボニルオキシアルキル基;が挙げられる。置換基を有するアルキル基の具体例としては、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基、ヒドロキシメチル基、アミノメチル基等の炭素数1〜20の置換アルキル基が挙げられる。
かかるアルケニル基としては、例えば、エテニル基、1−プロペニル基、1−メチルエテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、1−デセニル基、1−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状の炭素数2〜12のアルケニル基が挙げられる。アルケニル基における置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;アミノ基;水酸基;等が挙げられる。置換基を有するアルケニル基の具体例としては、3−フルオロ−1−プロペニル基、3−メトキシ−1−プロペニル基等が挙げられる。
【0052】
上記脂肪族炭化水素含有カルボン酸エステルの具体例としては、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、ブタン酸イソプロピル、ペンタン酸オクチル、ヘキサン酸ベンジル、ヘプタン酸ペンチル、オクタン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸ベンジル、ピバル酸ベンジル、tert−ブチル酢酸ブチル、アクリル酸エチル、3,3−ジメチル−2−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボン酸エチル、3,3−ジメチル−2−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボン酸ベンジル、3,3−ジメチル−2−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボン酸メチル、ピルビン酸ヘプチル、シュウ酸ジメチル、マロン酸ジエチル、グルタル酸ジプロピル、アジピン酸ジブチルが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素含有カルボン酸エステルは、市販品であってもよいし、公知の方法により製造したものであってもよい。
【0053】
上記カルボン酸エステル化合物において、上記芳香族炭化水素基としては、置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。
かかるアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。該アリール基における置換基としては、例えば、前記置換されていてもよいアルキル基;前記置換されていてもよいアルケニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;アミノ基;水酸基;カルボニルオキシアルキル基;等が挙げられる。置換基を有するアリール基の具体例としては、2−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−アミノフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、3−フェノキシ−1−ブテニル基、スチリル基等が挙げられる。
【0054】
上記芳香族炭化水素含有カルボン酸エステルとして、例えば、式(6)

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは互いに独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、Xの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示される化合物が挙げられる。
で示される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0055】
芳香族炭化水素含有カルボン酸エステルの他の例示として、桂皮酸エチル、桂皮酸(1−オクチル)、フェニル酢酸ベンジル、安息香酸メチル、安息香酸イソプロピル、2−フルオロ安息香酸メチル、2−フルオロ安息香酸ベンジル、2−クロロ安息香酸メチル、2−ブロモ安息香酸エチル、3−フルオロ安息香酸プロピル、3−クロロ安息香酸ブチル、3−ブロモ安息香酸ペンチル、4−フルオロ安息香酸メチル、4−アミノ安息香酸メチル、4−ブロモ安息香酸メチル、2,4−ジフルオロ安息香酸ベンジル、2,4−ジクロロ安息香酸エチル、3,5−ジフルオロ安息香酸メチル、2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチル、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチル、3−フェノキシ安息香酸メチル、4−メチル安息香酸メチル、3−トリフルオロメチル安息香酸メチル、2−メトキシ安息香酸メチル、4−フェニルブタン酸メチル、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン酸メチル、1−メトキシカルボニルナフタレン、フタル酸ジメチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジメチル、3,4,5,6−テトラフルオロフタル酸ジメチル、2,4,5,6−テトラフルオロイソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジメチル、2−フルオロテレフタル酸ジメチル、2−クロロテレフタル酸ジメチル、2,5−ジフルオロテレフタル酸ジメチル、2,6−ジフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3−ジフルオロテレフタル酸ジメチル、2,5−ジクロロテレフタル酸ジメチル、2,6−ジクロロテレフタル酸ジメチル、2,3−ジクロロテレフタル酸ジメチル、2,3,5−トリフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3,5−トリクロロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジエチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジプロピル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジイソプロピル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジブチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジtert−ブチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジエチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジプロピル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジイソプロピル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジブチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジtert−ブチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジペンチル、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジヘキシル、2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチル等が挙げられる。
上記例示された芳香族炭化水素含有カルボン酸エステルは、例えば、対応する酸ハライドとアルコールとを反応させる方法(例えば、特公平4−66220号公報参照。)等に準じて製造することができる。
【0056】
環状カルボン酸エステル化合物とは、例えば、式(9)

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表す。)
で示されるラクトン等を挙げることができる。
かかるラクトンは、4〜22員環であることが好ましい。上記ラクトンは、置換されてもよい炭素数2〜20のアルキレン基を有する環構造であることが好ましい。かかるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプタレン基、オクタレン基、デシレン基が挙げられる。該アルキレン基における置換基としては、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;エテニル基、1−プロペニル基、1−メチルエテニル基、1−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、1−デセニル基等のアルケニル基;アミノ基;水酸基;等が挙げられる。置換基を有するアルキレン基の具体例としては、フルオロエチレン基、メトキシメチレン基、2−ヒドロキシプロピレン基、2−アミノブチレン基、2−フェニルメチルブチレン基等が挙げられる。
上記環状カルボン酸エステル化合物としては、β―プロピオラクトン、γ―ブチロラクトン、δ―バレロラクトン、ε―カプロラクトン、β−メチル−ε―カプロラクトン、γ−メチル−ε―カプロラクトン、ヘプタノラクトン、オクタノラクトン、ノナノラクトン、デカノラクトン等が挙げられる。環状カルボン酸エステル化合物は、市販品であってもよいし、公知の方法により製造したものであってもよい。
【0057】
第2工程は、例えば、水素ガスを用いる還元等を挙げることができる。該水素ガスとして、市販のものを用いることができる。第2工程において、水素は第2工程が行われる反応装置に、例えば、0.1〜5MPaの範囲の圧力で供給される。
第2工程において、水素は、カルボン酸エステル化合物1モルに対し、例えば、1〜100モルの範囲で使用される。
【0058】
第2工程における上記ルテニウム錯体の使用量としては、ルテニウム原子に換算した量がカルボン酸エステル化合物におけるエステル構造1モルに対して、例えば、0.001〜0.2モルの範囲等を挙げることができ、好ましくは0.01〜0.2モルの範囲等が挙げられる。
上記ルテニウム錯体において、ルテニウム原子の量は、ICP発光分析を用いた元素分析等、公知の方法により測定することができる。
【0059】
上記ルテニウム錯体がルテニウム原子にハロゲン化物イオンが配位している場合、第2工程は塩基の存在下に行うことが好ましい。かかるルテニウム錯体は、塩基の存在下に行うと、該錯体中のハロゲン化物イオンが除去されるので触媒活性が向上される傾向があることから好ましい。
かかる塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;が挙げられ、アルカリ金属水酸化物が好ましい。
塩基の使用量は、ルテニウム錯体に配位しているハロゲン化物イオン1モルに対して、例えば、1〜100モルの範囲等を挙げることができ、好ましくは1〜10モルの範囲等、より好ましくは1〜5モルの範囲等が挙げられる。
上記ルテニウム錯体におけるハロゲン化物イオンの量は、ICP発光分析を用いた元素分析等、公知の方法により測定することができる。
【0060】
カルボニル(ジヒドリド)トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等の水素原子が配位したルテニウム化合物を用いる場合、塩基の非存在下で還元を行うことが好ましい。
【0061】
第2工程は、有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。かかる有機溶媒としては、例えば、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;が挙げられ、エーテル溶媒、芳香族炭化水素溶媒が好ましい。
有機溶媒の使用量は、カルボン酸エステル化合物1重量部に対して、例えば、1重量部以上、100重量部以下の範囲等を挙げることができる。
【0062】
第2工程としては、例えば、第1工程で得られたルテニウム錯体、カルボン酸エステル化合物、ならびに、必要により有機溶媒および/または塩基を反応装置内で混合し、次いで、該装置内を水素で置換して水素圧と反応温度を調整する工程等を挙げることができる。
第2工程における反応温度は、例えば、−20〜200℃、好ましくは50〜180℃の範囲等が挙げられる。
第2工程における反応圧力は、例えば、0.1〜5MPaの範囲、好ましくは0.5〜5MPaの範囲等が挙げられる。
第2工程における反応の進行は、例えば、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0063】
第2工程において還元反応終了後、得られる反応混合物中には生成物であるアルコール化合物が含まれている。該反応混合物に、例えば、洗浄、分液、晶析、濃縮等の単離処理を施すことにより目的のアルコール化合物を単離することができる。
反応混合物中にルテニウム錯体等の不溶物が析出している場合は、必要に応じて、ろ過等により該不溶物を除去した後で上記の単離処理を施せばよい。
上記の分液処理には、必要に応じて、水と混和しない有機溶媒を用いてもよい。また、単離されたアルコール化合物を、例えば、蒸留、カラムクロマトグラフィ等の精製手段により精製してもよい。
ここで、水と混和しない有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;等が挙げられる。
【0064】
第2工程により得られるアルコール化合物は、−CHOHを有する化合物である。該−CHOHは、カルボン酸エステル化合物におけるカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)が水素により還元されることにより形成された基である。
カルボン酸エステル化合物として前記式(4)で示される脂肪族炭化水素含有カルボン酸エステルを用いた場合、例えば、式(5)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物等を得ることができる。
【0065】
式(5)で示されるアルコール化合物としては、例えば、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、シクロペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、アリルアルコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3,3−ジメチル−2−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンメタノール、3,3−ジメチル−2−(1−プロペニル)シクロプロパンメタノール等が挙げられる。
【0066】
カルボン酸エステル化合物として芳香族炭化水素含有カルボン酸エステルを用いた場合、例えば、以下のアルコール化合物が得られる。
ベンジルアルコール、2−フルオロベンジルアルコール、3−フルオロベンジルアルコール、4−フルオロベンジルアルコール、2−クロロベンジルアルコール、4−クロロベンジルアルコール、4−アミノベンジルアルコール、4−メトキシベンジルアルコール、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコール、2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコール、2−フェニル−1−エタノール、4−フェニル−1−ブタノール、3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−プロパノール、
1−ナフチルメタノール、1,2−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、3,4,5,6−テトラフルオロ−1,2−ベンゼンジメタノール、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ベンゼンジメタノール。
【0067】
例えば、カルボン酸エステル化合物としてハロゲン置換テレフタル酸ジエステルを用いた場合、得られるアルコール化合物は、式(7)

(式中、RおよびXはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示される化合物(以下、化合物(7)と記すことがある。)および/または式(8)

(式中、Xはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示される化合物(以下、化合物(8)と記すことがある。)を得ることができる。
【0068】
化合物(7)としては、例えば2−フルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2−クロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸エチル、2,5−ジフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,6−ジフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸プロピル、2,3−ジフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,5−ジクロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,6−ジクロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3−ジクロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3,5−トリフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3,5−トリクロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3,5,6−テトラフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3,5,6−テトラフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸エチル、2,3,5,6−テトラフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラフルオロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸ブチル、2,3,5,6−テトラクロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチル、2,3,5−トリフルオロ−6−クロロ−(4−ヒドロキシメチル)安息香酸メチルが挙げられる。
化合物(8)としては、例えば、2−フルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2−クロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,5−ジフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,6−ジフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3−ジフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,5−ジクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,6−ジクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3−ジクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3,5−トリフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3,5−トリクロロ−1,4−ベンゼンジメタノール、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノール、2,3,5,6−テトラクロロベンゼンジメタノール、2,3,5−トリフルオロ−6−クロロベンゼンジメタノールが挙げられる。
【0069】
カルボン酸エステル化合物として、式(9)で示される環状カルボン酸エステルを用いた場合、例えば、(10)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物が得られる。
式(10)で示されるアルコール化合物としては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、4−メチル−1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等が挙げられる。
【0070】
カルボン酸エステル化合物として複数のカルボニルオキシ基を有するカルボン酸エステル化合物を用いて第2工程を行った場合、1つ以上のカルボニルオキシ基が水素により還元されたアルコール化合物が得られる。
本発明の製造方法によれば、医農薬原体、電子材料等の各種化学製品およびそれらの合成中間体等として有用なアルコール化合物を提供することができる。
【0071】
本発明のルテニウム錯体は、リン配位子を含有してもよいが、リン配位子を有さないルテニウム錯体であってもカルボン酸エステル化合物をアルコール化合物に還元することができる。ルテニウム錯体にリン配位子を含有しない場合には、リン含有廃棄物を低減することができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
融点は、メトラー社製 全自動融点測定装置 METTLER FP62にて測定した。
NMRはブルッカー社製 FT−NMR装置 DPX300にて測定した。
ガスクロマトグラフィーは、島津社製 GC−17Aにて測定した。
【0073】
ルテニウム錯体の製造例1
還流冷却管を付した50mLフラスコに、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロライド200mgとジクロロメタン50mlを仕込んだ。得られた混合物を室温で攪拌しながら、そこに、2,6−ビス(アミノメチル)ピリジン36mgとジクロロメタン5mlとの混合物を加えたところ、直ちに混合物の色が青紫から赤紫に変色し、結晶の析出が見られた。得られた混合物を、そのまま室温(約25℃)で30分攪拌した後、反応混合物をろ過することにより結晶を得、これを乾燥させることにより、ルテニウム錯体を含む赤紫色粉末150mgを得た。この赤紫色粉末の融点は190〜193℃(分解)であった。
【0074】
実施例1
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、「ルテニウム錯体の製造例1」で得た赤紫色粉末23mg、水酸化カリウム24mg、安息香酸メチル200mgおよびテトラヒドロフラン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、100℃まで昇温したところ、内圧は1.3MPaとなった。オートクレーブ内容物を100℃で16時間攪拌したところ、内圧は1.2MPaとなった。
オートクレーブ内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、ベンジルアルコールの収率は24%であった。また、安息香酸メチルが50%回収された。他に、ベンジルアルコールと安息香酸メチルから生成したと考えられる安息香酸ベンジルが10%副生していた。
【0075】
実施例2
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、「ルテニウム錯体の製造例1」で得た赤紫色粉末26mg、水酸化カリウム13mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびトルエン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、100℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブ内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.5MPaとなった。オートクレーブ内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの収率は25%であった。また、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが64%回収された。他に、2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチルが12%副生していた。
【0076】
ルテニウム錯体の製造例2
還流冷却管を付した50mLフラスコに、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロライド200mgとジクロロメタン50mlを仕込んだ。得られた混合物を室温で攪拌しながら、そこに、N,N’−[ビス(8−キノリル)]エタン−1,2−ジアミン66mgとジクロロメタン5mlとの混合物を加えたところ、直ちに混合物の色が青紫から黒紫に変色し、結晶の析出が見られた。得られた混合物を、そのまま室温で30分攪拌した後、反応混合物をろ過することにより結晶を得、これを乾燥させることにより、ルテニウム錯体を含む黒色粉末150mgを得た。この黒色粉末の融点は195〜198℃(分解)であった。
【0077】
実施例3
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、「ルテニウム錯体の製造例2」で得た黒色粉末22mg、水酸化カリウム14mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびトルエン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、100℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブ内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.5MPaとなった。オートクレーブ内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの収率は20%であった。また、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが64%回収された。他に、2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチルが13%副生していた。
【0078】
ルテニウム錯体の製造例3
還流冷却管を付した50mLフラスコに、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロライド200mgとジクロロメタン50mlを仕込んだ。得られた混合物を室温で攪拌しながら、そこに、6,6’−ビス(アミノメチル)−1,2’−ビピリジル45mgとジクロロメタン5mlとの混合物を加えたところ、直ちに混合物の色が青紫から黒紫に変色し、結晶の析出が見られた。得られた混合物を、そのまま室温で30分攪拌した後、反応混合物をろ過することにより結晶を得、これを乾燥させることにより、ルテニウム錯体を含む暗緑色粉末150mgを得た。この暗緑色粉末の融点は196〜200℃(分解)であった。
【0079】
実施例4
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、「ルテニウム錯体の製造例3」で得た暗緑色粉末20mg、水酸化カリウム15mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびトルエン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、100℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブ内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.5MPaとなった。オートクレーブ内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの収率は21%であった。また、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが62%回収された。他に、2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチルが14%副生していた。
【0080】
ルテニウム錯体の製造例4
還流冷却管を付した50mLフラスコに、カルボニル(ジヒドリド)トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム200mgとテトラヒドロフラン20mlを仕込んだ。得られた混合物を室温で攪拌しながら、そこに、2,6−ビス[(フェニルアミノ)メチル]ピリジン63mgとテトラヒドロフラン5mlとの混合物を加えたところ、結晶の析出が見られた。得られた混合物を、そのまま室温で30分攪拌した後、反応混合物をろ過することにより結晶を得、これを乾燥させることにより、ルテニウム錯体を含む白桃色粉末150mgを得た。この白桃色粉末の融点は183〜186℃(分解)であった。
【0081】
実施例5
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、「ルテニウム錯体の製造例4」で得た白桃色粉末25mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびテトラヒドロフラン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、130℃まで昇温したところ、内圧は1.5MPaとなった。オートクレーブ内容物を130℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.4MPaとなった。オートクレーブ内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの収率は10%であった。また、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが88%回収された。他に、2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチルが0.1%副生していた。
【0082】
ルテニウム錯体の製造例5
還流冷却管を付した50mLフラスコに、カルボニル(ジヒドリド)トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム200mgとテトラヒドロフラン20mlを仕込んだ。得られた混合物を室温で攪拌しながら、そこに、N,N’−[ビス(8−キノリル)]エタン−1,2−ジアミン69mgとテトラヒドロフラン5mlとの混合物を加えたところ、結晶の析出が見られた。得られた混合物を、そのまま室温で30分攪拌した後、反応混合物をろ過することにより結晶を得、これを乾燥させることにより、ルテニウム錯体を含む灰白色粉末150mgを得た。この灰白色粉末の融点は188〜190℃(分解)であった。
【0083】
実施例6
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、「ルテニウム錯体の製造例5」で得た灰白色粉末13mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびテトラヒドロフラン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、130℃まで昇温したところ、内圧は1.5MPaとなった。オートクレーブ内容物を130℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.4MPaとなった。オートクレーブ内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの収率は11%であった。また、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが85%回収された。他に、2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチルが0.1%副生していた。
【0084】
ルテニウム錯体の製造例6
還流冷却管を付した50mLフラスコに、カルボニル(ジヒドリド)トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム200mgとテトラヒドロフラン20mlを仕込んだ。得られた混合物を室温で攪拌しながら、そこに、6,6’−ビス(アミノメチル)−1,2’−ビピリジル47mgとテトラヒドロフラン5mlとの混合物を加えたところ、結晶の析出が見られた。得られた混合物を、そのまま室温で30分攪拌した後、反応混合物をろ過することにより結晶を得、これを乾燥させることにより、ルテニウム錯体を含む白黄色粉末150mgを得た。この白黄色粉末の融点は185〜189℃(分解)であった。
【0085】
実施例7
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、「ルテニウム錯体の製造例6」で得た白黄色粉末13mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびテトラヒドロフラン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、130℃まで昇温したところ、内圧は1.5MPaとなった。オートクレーブ内容物を130℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.4MPaとなった。オートクレーブ内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの収率は9%であった。また、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが86%回収された。他に、2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチルが0.1%副生していた。
【0086】
実施例8
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、「ルテニウム錯体の製造例2」で得た黒色粉末22mg、水酸化カリウム15mg、γ−ブチロラクトン65mgおよびトルエン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、100℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブの内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.5MPaとなった。オートクレーブの内容物を約25℃まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、1,4−ブタンジオールの収率は1%であった。また、γ−ブチロラクトンが98%回収された。
【0087】
実施例9
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、「ルテニウム錯体の製造例5」で得た灰白色粉末13mg、γ−ブチロラクトン65mgおよびテトラヒドロフラン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、100℃まで昇温したところ、内圧は1.4MPaとなった。オートクレーブの内容物を130℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.3MPaとなった。オートクレーブの内容物を約25℃まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、1,4−ブタンジオールの収率は7%であった。また、γ−ブチロラクトンが91%回収された。
【0088】
参考例1
実施例2において、「ルテニウム錯体の製造例1」で得た赤紫色粉末50mgに替えてトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロライド50mgを用いる以外は、実施例2と同様に反応を行った。オートクレーブ内容物をガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの生成も、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの生成も、認められず、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルエステルが90%回収された。
【0089】
参考例2
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、ビス{2−[ビス(1,1−ジメチルエチル)ホスフィノ−κP]エタンアミン−κN}ジクロロルテニウム(アルドリッチ社から入手)20mg、水酸化カリウム20mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル400mgおよびトルエン20gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、170℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブ内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.5MPaとなった。オートクレーブ内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの収率は8%であり、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの収率は51%であった。また、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが22%回収された。
【0090】
参考例3
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、(p−シメン) ルテニウム クロライド ダイマー20mg、ナトリウムメトキシド10mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびテトラヒドロフラン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、170℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブ内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブ内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの生成も、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの生成も認められず、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが主に回収された。他に、2,3,5−トリフルオロテレフタル酸ジメチルや2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチル等の副生が認められた。
【0091】
参考例4
ガラス製内筒管を備えた100mLオートクレーブに、5%パラジウム/炭素100mg、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル200mgおよびテトラヒドロフラン10gを仕込んだ。オートクレーブ内を窒素で置換した後に水素で置換し、水素圧1.0MPaまで加圧した後、170℃まで昇温したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブ内容物を170℃で4時間攪拌したところ、内圧は1.6MPaとなった。オートクレーブ内容物を室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの生成も、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシメチル安息香酸メチルの生成も認められず、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルが主に回収された。他に2,3,5−トリフルオロテレフタル酸ジメチルや2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸メチル等の副生が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、カルボン酸エステル化合物をアルコール化合物に還元することのできる新規な製造方法及び該製造方法に好適な触媒が提供可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換基を有してもよいアミノ基を少なくとも1つ有するピリジン化合物と、ルテニウム化合物とを反応させてルテニウム錯体を得る第1工程、及び
第1工程で得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元する第2工程を含むことを特徴とするアルコール化合物の製造方法。
【請求項2】
該ピリジン化合物が、該アミノ基と、
該アミノ基とは異なる置換基を有していてもよいピリジン環とが
連結基を介して結合している化合物であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
連結基が、置換基を有していてもよいアルキレン基であることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
該ピリジン化合物が、分子内に該アミノ基を2個有する化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
該アミノ基が、アミノ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、炭素数6〜10のアリールアミノ基、炭素数12〜20のジアリールアミノ基及び炭素数2〜8の環状アミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
該ピリジン化合物が、式(A)

(式中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表すか、RまたはQと結合した2価の基を表す。Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表すか、Rと結合した2価の基を表す。Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表すか、RとRとが互いに結合して、窒素原子とともに炭素数2〜8の環状アミノ基を形成している。Qは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表すか、Rと結合した2価の基を表す。波線は結合手を表す。)
で示される部分構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
該ピリジン化合物が、式(I)

(式中、Q、Q、Q、QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び置換基を有していてもよいアミノアルキル基を表すか、QおよびQ、QおよびQ、QおよびQ並びにQおよびQは、それぞれ一緒になって2価の基を表してもよい。但し、Q、Q、Q、QおよびQの少なくとも1つはアミノ基、または置換基を有していてもよいアミノアルキル基を表す。)
で示される化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項8】
該ピリジン化合物が、置換基を有してもよいアミノ基と置換基を有してもよいピリジン環とを含み、該ピリジン環には該ピリジン環とは異なる炭化水素環が結合している化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項9】
ルテニウム化合物が、ハロゲン化ルテニウム、芳香族化合物が配位したルテニウム ジハライド ダイマー、ジエンが配位したルテニウム ジハライド ポリマーおよびトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のルテニウム化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の製造方法。
【請求項10】
カルボン酸エステル化合物が、式(4)

(式中、RおよびRはそれぞれ互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。)
で示されるカルボン酸エステル化合物であり、得られるアルコール化合物が、式(5)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の製造方法。
【請求項11】
カルボン酸エステル化合物が、式(9)

(式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキレン基を表す。)
で示されるラクトンであり、得られるアルコール化合物が、式(10)

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるアルコール化合物であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の製造方法。
【請求項12】
カルボン酸エステル化合物が、式(6)

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは互いに独立に、水素原子またはハロゲン原子を表す。ただし、Xの少なくとも一つはハロゲン原子である。)
で示されるハロゲン置換テレフタル酸ジエステルであり、得られるアルコール化合物が、式(7)

(式中、RおよびXはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示されるハロゲン置換(4−ヒドロキシメチル)安息香酸エステルおよび/または式(8)

(式中、Xはそれぞれ上記と同一の意味を表す。)
で示されるハロゲン置換ベンゼンジメタノールであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の製造方法。
【請求項13】
第2工程におけるルテニウム錯体の使用量が、ルテニウム原子に換算した量として、カルボン酸エステル化合物におけるカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)1モルに対して0.001〜0.2モルの範囲であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の製造方法。
【請求項14】
置換基を有してもよいアミノ基を少なくとも1つ有するピリジン化合物及びルテニウム化合物を反応させて得られるルテニウム錯体。
【請求項15】
置換基を有してもよいアミノ基を少なくとも1つ有するピリジン化合物と、ルテニウム化合物とを反応させて得られたルテニウム錯体の存在下、カルボン酸エステル化合物を水素で還元することを特徴とするアルコール化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−254684(P2010−254684A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81672(P2010−81672)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】