説明

アルコール感が付与された非アルコール飲料およびその製造方法

【課題】アルコール感が付与された非アルコール飲料とその製造方法を提供する。
【解決手段】シトロネロールを含んでなる、アルコール感が付与されたエタノール濃度が1.0v/v%未満である非アルコール飲料であって、飲料中のシトロネロール濃度が0.2ppm以上10ppm未満である飲料とその製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール感が付与された非アルコール飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりの中でアルコール摂取量を自己管理する消費者が増加している。また、飲酒運転に対する罰則の強化など道路交通法の改正により、自動車等の運転に従事する者のアルコール摂取に対する関心が高まっている。このような中で、清涼飲料でありながらアルコール感のある飲料への需要が一段と高まっている。
【0003】
特許文献1には、フリーラジカル除去剤として山椒の水性溶媒抽出物を使用することが記載されている。しかし、特許文献1には、山椒の水蒸気蒸留抽出物が非アルコール飲料にアルコール感を付与できることについては開示されていない。特許文献2には、保存安定性を付与することを目的として山椒の溶媒抽出物を使用することが示唆されている。しかし、特許文献2には、山椒の水蒸気蒸留抽出物が非アルコール飲料にアルコール感を付与できることについては開示されていない。特許文献3には、山椒抽出梅酒が記載されている。しかし、特許文献3には、山椒の水蒸気蒸留抽出物が非アルコール飲料にアルコール感を付与できることについては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−104985号公報
【特許文献2】特開2007−119360号公報
【特許文献3】特開2007−68505号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、非アルコール飲料に山椒の水蒸気蒸留法抽出物を添加することにより、非アルコール飲料にアルコール感を付与できることを見出した(実施例1)。山椒の水蒸気蒸留法抽出物を添加することにより、山椒の香味からは全く想定できない「アルコール感」を非アルコール飲料に付与できたことは本発明者らにとって驚くべき知見であった。本発明者らは、また、山椒の水蒸気蒸留法抽出物のうち、シトロネロールがアルコール感を付与できることを見出した(実施例3)。本発明者らは、さらに、山椒の水蒸気蒸留法抽出物のうち、シトロネロールとゲラニオールとリナロールとの濃度比を一定の範囲にすることにより、アルコール感を付与しつつ、アルコール様の香気も付与できることを見出した(実施例4)。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0006】
本発明は、アルコール感が付与された非アルコール飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明によれば、シトロネロールを含んでなるアルコール感が付与された非アルコール飲料およびその製造方法が提供される。
【0008】
具体的には、以下の発明が提供される。
(1)シトロネロールを含んでなる、アルコール感が付与されたエタノール濃度が1.0v/v%未満である非アルコール飲料であって、飲料中のシトロネロール濃度が0.2ppm以上10ppm未満である、飲料。
(2)ゲラニオールおよび/またはリナロールを更に含んでなり、飲料中のシトロネロールと、ゲラニオールおよび/またはリナロールとの濃度比が、シトロネロール1に対して、ゲラニオールが1〜3、かつ/またはリナロールが0.5〜3である、(1)に記載の飲料。
(3)ゲラニオールとリナロールとを更に含んでなり、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの合計濃度が、2〜30ppmである、(1)または(2)に記載の飲料。
(4)飲料中のエタノール濃度が、0.00v/v%である、(1)〜(3)のいずれかに記載の飲料。
(5)シトロネロールが、山椒由来である、(1)〜(4)のいずれかに記載の飲料。
(6)シトロネロールを、山椒の水蒸気蒸留抽出物として用いる、(1)〜(4)のいずれかに記載の飲料。
(7)飲料中のシトロネロール濃度を0.2ppm以上10ppm未満に調整することを特徴とする、アルコール感が付与された飲料中のエタノール濃度が1.0v/v%未満である非アルコール飲料の製造方法。
(8)飲料中のシトロネロールと、ゲラニオールおよび/またはリナロールとの濃度比を、シトロネロール1に対して、ゲラニオールを1〜3、かつ/またはリナロールを0.5〜3に調整することを特徴とする、(7)に記載の製造方法。
(9)飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの合計濃度を2〜30ppmに調整することを特徴とする、(7)または(8)に記載の製造方法。
(10)飲料中のエタノール濃度が、0.00v/v%である、(7)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
(11)飲料中のシトロネロール濃度を0.2ppm以上10ppm未満に調整することを特徴とする、飲料中のエタノール濃度が1.0v/v%未満である非アルコール飲料にアルコール感を付与する方法。
【0009】
本発明によれば、アルコール感が付与された非アルコール飲料とその製造方法が提供される。本発明による飲料は、非アルコール飲料であるにもかかわらず、アルコール感が感じられることから、非アルコール飲料でありながらアルコール感のある飲料への需要に応えることができる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0010】
定義
【0011】
本発明において「アルコール感」とは、アルコール飲料を飲んだ時に強く感じる口から鼻に抜ける揮発感が得られることにより、アルコール飲料を飲んだように感じる状態をいう。
【0012】
本発明において「アルコール感が付与された飲料」とは、非アルコール飲料であっても「アルコール感」がある飲料を意味する。「アルコール感が付与された飲料」は、非アルコール飲料であるにもかかわらずアルコール飲料を飲用したような擬似的感覚を飲用者に与えることができる。「アルコール感が付与された飲料」は、例えば、チューハイ様飲料、カクテル様飲料、ワイン風飲料や、その他アルコール飲料との代替性がある飲料をいう。
【0013】
本願明細書において「非アルコール飲料」とは、エタノール濃度が1.0v/v%未満の飲料を意味する。「非アルコール飲料」のうち、アルコールが全く含まれない、すなわち、エタノール濃度が0.00v/v%である飲料については特に「完全無アルコール飲料」と表現することができる。
【0014】
本発明による飲料
本発明による飲料は、典型的には、原飲料に、シトロネロールを添加することにより製造することができる。本発明による飲料は、また、シトロネロールの添加に加え、さらにゲラニオールやリナロールを添加することにより製造することができる。本発明によれば、アルコールを含まない原飲料を使用することにより、アルコール成分を含まないが、アルコール感が付与された飲料を提供することができる。
【0015】
本発明による飲料を構成する原飲料は、非アルコール飲料でありながらアルコール感が付与された飲料を提供するという観点から、エタノール濃度が1.0v/v%未満である飲料(非アルコール飲料)である。本発明において使用される原飲料のエタノール濃度は、好ましくは、0.1v/v%、より好ましくは、0.00v/v%である。
【0016】
原飲料は、シトロネロール濃度を調整することによりアルコール感が付与されるような飲料であればよく、例えば、炭酸飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、果汁含有飲料、茶飲料、牛乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、コーヒー、ココア、栄養ドリンク、スポーツ飲料、飲用水(ミネラルウォーター等)等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。原飲料は、麦芽を使用しない非麦芽飲料であってもよい。原飲料は、麦芽とホップを使用しない非ビール様飲料であってもよい。
【0017】
炭酸飲料とは、飲用に適した水に二酸化炭素を圧入したもの、すなわち、炭酸ガスを含む飲料を意味する。炭酸飲料には、甘味料、酸味料、香料等を加えることもできる。
【0018】
炭酸飲料における炭酸ガス圧は、20℃において測定した場合、例えば、0.1〜0.4MPa、好ましくは、0.13〜0.35MPaとすることができる。炭酸ガス圧は、例えば、国税庁所定の分析法に基づく、ビールのガス圧分析法によって測定できる(例えば、国税庁webページ: http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/sonota/070622/01.htm を参照)。具体的には、穿孔圧力計が使用できる容器に入った検体について、検体を時々振りながら20℃の水槽に30分間保った後、穿孔圧力計を取り付け、針を突き刺し軽く振って圧力を読むことにより測定することができる。また、市販の機械式炭酸ガス圧測定器を用いて測定することもできる。例えば、ガスボリューム測定装置(GVA-500、京都電子工業株式会社製)を用いてもよい。
【0019】
果汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、果汁含有飲料に用いられる果物としては、例えば、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ、マンダリン、ユズ、アップル、ブドウ、モモ、バナナ、パイナップル、ストロベリー、メロン、ウメ、ライチ、マンゴ、パッションフルーツ、ナシ等が挙げられる。また、野菜汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる野菜としては、例えば、トマト、ニンジン、セロリ、キュウリ、スイカ、ピーマン、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、クレソン、ケール、ほうれん草、大根、かぼちゃ、白菜、レタス等が挙げられる。
【0020】
茶飲料とは、ツバキ科の常緑樹である茶樹の葉(茶葉)、または茶樹以外の植物の葉もしくは穀類等を煎じて飲むための飲料をいい、発酵茶、半発酵茶および不発酵茶のいずれも包含される。茶飲料の具体例としては、日本茶(例えば、緑茶、麦茶)、紅茶、ハーブ茶(例えば、ジャスミン茶)、中国茶(例えば、中国緑茶、烏龍茶)、ほうじ茶等が挙げられる。
【0021】
乳飲料とは、生乳、牛乳等またはこれらを原料として製造した食品を主原料とした飲料をいい、牛乳等そのもの材料とするものの他に、例えば、栄養素強化乳、フレーバー添加乳、加糖分解乳等の加工乳を原料とするものも包含される。
【0022】
本発明において使用される原飲料は、好ましくは、果汁含有飲料、炭酸飲料であり、より好ましくは、果汁含有炭酸飲料である。
【0023】
本発明において使用される原飲料の製造に当たっては、シトロネロール等以外に、通常の飲料の処方設計に用いられている甘味料(例えば、砂糖、ブドウ糖、果糖、オリゴ糖、異性化液糖、糖アルコール、高甘味度甘味料等)、酸味料(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、フマル酸、グルコン酸、アジピン酸、酢酸、これらの塩類等)、フレーバー(例えば、香料(例えば、シトラス類(例えば、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ、マンダリン、ユズ等)の香料、その他のフルーツ(例えば、アップル、ブドウ、モモ、バナナ、パイナップル、ストロベリー、メロン、ウメ、ライチ、マンゴ、パッションフルーツ、ナシ等)の香料))、果汁(例えば、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ、マンダリン、ユズ、アップル、ブドウ、モモ、バナナ、パイナップル、ストロベリー、メロン、ウメ、ライチ、マンゴ、パッションフルーツ、ナシ等の果汁))、食品添加剤等を適宜添加することができる。
【0024】
本発明において使用される原飲料は、当業界に公知の製造技術を用いて製造することができ、例えば、「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)を参考とすることができる。
【0025】
本発明による飲料を構成するシトロネロールは、対象の原飲料(非アルコール飲料)にアルコール感を付与することができ、また、本発明による飲料に、後述するような所定のシトロネロール濃度を与えることができる。
【0026】
本発明において用いられるシトロネロールは、柑橘類の果実や果皮に存在し、芳香を持つモノテルペンアルコールである。柑橘類としては、例えば、山椒、レモン、オレンジ等が挙げられる。
【0027】
飲料中のシトロネロール濃度は、0.2ppm以上10.0ppm未満、好ましくは、0.3ppm以上8.0ppm以下、より好ましくは、0.3ppm以上6.0ppm以下、さらにより好ましくは、0.3ppm以上4.0ppm以下となるように調整することができる。
【0028】
本発明による飲料は、更にゲラニオールおよび/またはリナロールを含んでなることができる。ゲラニオールやリナロールを、シトロネロールとともに用いることにより、対象の原飲料(非アルコール飲料)にアルコール感とともにアルコール様の香味も付与することができ、これにより、より自然なアルコール感とすることができる。また、本発明による飲料に、後述するような所定のゲラニオール濃度、リナロール濃度を与えることができる。
【0029】
本発明において用いられるゲラニオールは、植物等に存在し、芳香を持つモノテルペンアルコールである。植物としては、例えば、バラ、ゼラニウムや、山椒、レモン、オレンジ等の柑橘類等が挙げられる。
【0030】
飲料中のゲラニオール濃度は、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとの濃度比が、シトロネロール:ゲラニオール=1:1〜1:3、好ましくは、シトロネロール:ゲラニオール=1:1.1〜1:2.2となるように調整することができる。
【0031】
本発明において用いられるリナロールは、柑橘類の果実や果皮に存在し、芳香を持つモノテルペンアルコールである。柑橘類としては、例えば、山椒、ホップ等が挙げられる。
【0032】
飲料中のリナロール濃度は、飲料中のシトロネロールとリナロールとの濃度比が、シトロネロール:リナロール=1:0.5〜1:3、好ましくは、シトロネロール:リナロール=1:0.9〜1:2.5となるように調整することができる。
【0033】
本発明による飲料が、シトロネロールとゲラニオールとリナロールとを含んでなる場合において、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの合計濃度は、2〜30ppm、好ましくは、3〜30ppm、さらに好ましくは、3〜29ppm、より好ましくは、3〜20ppmとなるように調整することができる。
【0034】
本発明による飲料が、シトロネロールとゲラニオールとリナロールとを含んでなる場合において、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの濃度比は、シトロネロール1に対して、ゲラニオールが1〜3、かつ/または、リナロールが0.5〜3、好ましくは、シトロネロール1に対して、ゲラニオールが1.1〜2.2、かつ/または、リナロールが0.9〜2.5となるように調整することができる。さらには、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの濃度比は、シトロネロール1に対して、ゲラニオールが1〜3、かつ、リナロールが0.5〜3(シトロネロール:ゲラニオール:リナロール=1:1〜3:0.5〜3)、好ましくは、シトロネロール1に対して、ゲラニオールが1.1〜2.2、かつ、リナロールが0.9〜2.5(シトロネロール:ゲラニオール:リナロール=1:1.1〜2.2:0.9〜2.5)となるように調整することができる。
【0035】
本発明において用いられるシトロネロール、ゲラニオール、リナロールは、それぞれ、柑橘類の果実または果皮等を粉砕し、不溶性固形分を含んだ状態で使用することができる。
【0036】
本発明において用いられるシトロネロール、ゲラニオール、リナロールは、それぞれ、市販されているものを入手することができる。
【0037】
本発明において用いられるシトロネロール、ゲラニオール、リナロールは、それぞれ、公知の方法に従って製造することもできる。
【0038】
本発明において用いられるシトロネロール、ゲラニオール、リナロールは、それぞれ、柑橘類の果実または果皮等から、公知の方法に従って、抽出または精製されたものを使用することができる。
【0039】
本発明において使用されるシトロネロール、ゲラニオール、リナロールは、これらを含む植物等の抽出物を使用することもできる。
【0040】
シトロネロール、ゲラニオール、およびリナロールを含む植物としては、山椒、ホップ等が挙げられるが、抽出効率の観点から、好ましくは、山椒であり、より好ましくは、山椒の皮である。
【0041】
抽出方法としては、水蒸気蒸留法、還流抽出法、直接蒸留法、有機溶剤抽出法、超臨界二酸化炭素抽出法等が挙げられるが、抽出効率および好適な抽出成分割合の観点から、好ましくは、水蒸気蒸留法である。
【0042】
水蒸気蒸留方法は、蒸気圧の高い高沸点の化合物を沸点以下の温度で蒸留する方法であり、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留のいずれの方法であってもよい。水蒸気蒸留法は、公知の方法であり、当業者であれば適宜実施することができる。例えば、山椒を使用する場合、山椒の皮に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて流出する香気成分を蒸留液とともに凝縮することにより実施することができる。水蒸気の温度や蒸気流量、蒸留液の留出液量などは、化学成分を勘案し、当業者であれば最適化することができる。
【0043】
本発明において、シトロネロール(特には、シトロネロールと、ゲラニオールと、リナロールとの組み合わせ)は、山椒抽出物、好ましくは、山椒の水蒸気蒸留抽出物として使用することができる。
【0044】
本発明による飲料の製造方法
本発明によれば、飲料中のシトロネロール濃度を調整することを特徴とする、アルコール感が付与された非アルコール飲料の製造方法が提供される。具体的には、飲料中のシトロネロール濃度を0.2ppm以上10ppm未満に調整することを特徴とする、アルコール感が付与された非アルコール飲料の製造方法が提供される。
【0045】
本発明によれば、また、飲料中のシトロネロール、ゲラニオール、リナロールの合計濃度を調整することを特徴とする、アルコール感が付与された非アルコール飲料の製造方法が提供される。具体的には、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの合計濃度を、2〜30ppmとなるように調整することを特徴とする、アルコール感が付与された非アルコール飲料の製造方法が提供される。
【0046】
飲料中のシトロネロール、ゲラニオール、リナロールの濃度の「調整」については、それぞれ、原飲料に元々含まれるシトロネロール、ゲラニオール、リナロールの濃度を考慮して、原飲料に、シトロネロール、ゲラニオール、リナロールを添加して調整することもできるし、シトロネロール、ゲラニオール、リナロールのいずれかを添加して調整することもできるし、シトロネロール、ゲラニオール、リナロールのいずれの物質も添加せずに調整することもできる。また、シトロネロール、ゲラニオール、リナロールのいずれかの物質を除去して調整することもできる。典型的には、原飲料に、シトロネロール、ゲラニオールおよびリナロールを添加して調整することができる。
【0047】
本発明において提供される飲料の製造に当たっては、当業界に公知の製造技術を用いて製造することができ、例えば、「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)を参考とすることができる。
【0048】
シトロネロール、ゲラニオール、リナロールの添加について、シトロネロール、ゲラニオール、リナロールは、原飲料の製造中、または原飲料の製造後に添加してもよい。シトロネロール、ゲラニオール、リナロールは、一緒に添加しても、別々に添加してもよく、別々に添加される場合にはいずれを先に添加してもよい。なお、シトロネロール、ゲラニオール、リナロールの添加に当たっては原飲料に元々含まれるシトロネロール、ゲラニオール、リナロールの濃度を考慮して添加の要否や添加量を決定できることはいうまでもない。
【0049】
また、シトロネロール、ゲラニオール、リナロール以外に、通常の飲料の処方設計に用いられている甘味料、酸味料、香料、色素、果汁、食品添加剤(例えば、起泡・泡持ち向上剤、苦味料、保存料、酸化防止剤、増粘安定剤、乳化剤、食物繊維、pH調整剤等)等の添加剤を添加してもよい。これらの添加剤は、原飲料の製造中、または原飲料の製造後に添加してもよい。複数の添加剤を添加する場合も、各成分を一緒に添加しても、別々に添加してもよく、別々に添加される場合にはいずれを先に添加してもよい。
【0050】
シトロネロールと組み合わせてゲラニオールを使用する場合は、飲料中のゲラニオール濃度は、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとの濃度比が、シトロネロール:ゲラニオール=1:1〜1:3、好ましくは、シトロネロール:ゲラニオール=1:1.1〜1:2.2となるように調整することができる。
【0051】
シトロネロールと組み合わせてリナロールを使用する場合は、飲料中のリナロール濃度は、飲料中のシトロネロールとリナロールとの濃度比が、シトロネロール:リナロール=1:0.5〜1:3、好ましくは、シトロネロール:リナロール=1:0.9〜1:2.5となるように調整することができる。
【0052】
シトロネロールと組み合わせてゲラニオールおよびリナロールを使用する場合は、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの合計濃度は、2〜30ppm、好ましくは、3〜30ppm、さらに好ましくは、3〜29ppm、より好ましくは、3〜20ppmとなるように調整することができる。
【0053】
ゲラニオールおよびリナロールをシトロネロールと組み合わせて使用する場合は、また、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの濃度比は、シトロネロール1に対して、ゲラニオールを1〜3、かつ/または、リナロールを0.5〜3、好ましくは、シトロネロール1に対して、ゲラニオールを1.1〜2.2、かつ/または、リナロールを0.9〜2.5となるように調整することができる。さらには、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの濃度比は、シトロネロール1に対して、ゲラニオールを1〜3、かつ、リナロールを0.5〜3、好ましくは、シトロネロール1に対して、ゲラニオールを1.1〜2.2、かつ、リナロールを0.9〜2.5となるように調整することができる。
【0054】
本発明による飲料は、pHを、例えば、2〜4、好ましくは、2.5〜3.8に調整することができる。本発明による飲料に、果実やその由来成分、果汁などを使用する場合には、それらも利用してpHを調整することができる。なお飲料のpHは市販のpHメーター(例えば、東亜電波工業株式会社製pHメーター)を使用して容易に測定することができる。
【0055】
本発明による飲料は、好ましくは、果汁または果汁フレーバー含有非アルコール飲料として提供される。
【0056】
果汁または果汁フレーバー含有非アルコール飲料は、例えば、チューハイ様飲料として提供される。「チューハイ様飲料」とは、チューハイ飲料を飲用したような感覚を飲用者に与える飲料である。「チューハイ飲料」は、一般的には、アルコール飲料(例えば、焼酎等)に果汁または果汁フレーバーや炭酸水等を混ぜ合わせてつくる飲料をいう。本発明による飲料は、チューハイ様飲料として、例えば、シトロネロール(好ましくは、シトロネロールとゲラニオールとリナロール)と、果汁または果汁フレーバーと、必要に応じて、甘味料、酸味料等とを含んでなる非アルコール炭酸飲料とすることができる。
【0057】
果汁または果汁フレーバー含有非アルコール飲料は、また、例えば、カクテル様飲料として提供される。「カクテル様飲料」とは、カクテル飲料を飲用したような感覚を飲用者に与える飲料である。「カクテル飲料」は、一般的には、アルコール飲料(例えば、ジン、ウオッカ、ウイスキー、ブランデー、ラム、テキーラ等の蒸留酒や、リキュール等)に、果汁または果汁フレーバー、果実、香辛料、甘味料(シロップ)、炭酸水等を混ぜ合わせてつくる飲料をいう。本発明による飲料は、カクテル様飲料として、例えば、シトロネロール(好ましくは、シトロネロールとゲラニオールとリナロール)と、果汁または果汁フレーバーと、必要に応じて、甘味料(シロップ)、果実、香辛料、炭酸水等とを含んでなる非アルコール飲料とすることができる。
【0058】
なお、本発明によって製造された非アルコール飲料に適宜アルコール類を添加して酒税法上のアルコール類として提供するような態様とすることも可能である。
【0059】
本発明による飲料は、好ましくは、容器詰飲料として提供される。本発明による飲料に使用される容器は、飲料の充填に通常使用される容器であればよく、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは、金属缶・樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル)、瓶である。
【0060】
本発明による飲料は、最終製品において、例えば、20℃において測定した場合に、炭酸ガス圧が、0.1〜0.4MPa、好ましくは、0.13〜0.35MPaとなるように調製することができる。
【0061】
本発明の好ましい態様によれば、シトロネロールを含んでなるアルコール感が付与された非アルコール飲料であって、飲料中のシトロネロール濃度が0.3〜6ppmである非アルコール飲料およびその製造方法が提供され、より好ましくは、エタノール濃度が0.00v/v%である飲料およびその製造方法が提供される。
【0062】
本発明の好ましい態様によれば、シトロネロールとゲラニオールとリナロールとを含んでなるアルコール感が付与された非アルコール飲料であって、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの合計濃度が、3〜29ppmであり、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの濃度比が、シトロネロール1に対して、ゲラニオールが1〜3、かつ、リナロールが0.5〜3である、非アルコール飲料およびその製造方法が提供され、より好ましくは、エタノール濃度が0.00v/v%である飲料およびその製造方法が提供される。
【0063】
本発明によれば、飲料中のシトロネロール濃度を調整することを特徴とする、非アルコール飲料にアルコール感を付与する方法が提供される。具体的には、飲料中のシトロネロール濃度を0.2ppm以上10ppm未満に調整することを特徴とする、非アルコール飲料にアルコール感を付与する方法が提供される。
【0064】
本発明によれば、また、飲料中のシトロネロール、ゲラニオール、リナロールの合計濃度を調整することを特徴とする、非アルコール飲料にアルコール感を付与する方法が提供される。具体的には、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの合計濃度を、2〜30ppmとなるように調整することを特徴とする、非アルコール飲料にアルコール感を付与する方法。
【0065】
本発明によれば、シトロネロールを含んでなる、非アルコール飲料に対するアルコール感付与剤が提供される。
【0066】
本発明によれば、シトロネロールと、ゲラニオールと、リナロールとを含んでなる、非アルコール飲料に対するアルコール感付与剤が提供される。
【0067】
本発明によれば、山椒の水蒸気蒸留抽出物を含んでなる、非アルコール飲料に対するアルコール感付与剤が提供される。
【実施例】
【0068】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0069】
実施例1:山椒の水蒸気蒸留抽出物のアルコール感付与に関する評価
(1)飲料の調製
非アルコール飲料は、pH2.8、エキス分6%、炭酸ガス圧0.17MPa(測定温度20℃)、エタノール含量0.00v/v%に調製した飲料(レモン果汁2w/w%)を使用した。この非アルコール飲料に、山椒を水蒸気蒸留法により抽出した成分(以下、山椒の水蒸気蒸留抽出物という)を100ppmとなるように添加し、サンプル飲料を調整した。なお、水蒸気蒸留抽出物は、山椒の皮に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて流出する香気成分を蒸留液とともに凝縮することにより得た。
【0070】
(2)飲料の評価
(1)で調製された各サンプル飲料を、官能評価試験に供した。具体的には、良く訓練され、チューハイおよびカクテル系飲料の評価に熟練したパネル4名が試飲し、官能評価を行った。官能評価試験の結果は以下の通りであった。
【表1】

【0071】
非アルコール飲料に、山椒の水蒸気蒸留抽出物(100ppm)を添加することにより、非アルコール飲料にアルコール感を付与できることが認められた(表1)。一方、水蒸気蒸留抽出物の濃度が高すぎる場合は(例えば、30000ppm以上)、華やかな香りや苦味が目立つ、苦味が出る等、飲料として味の調和が崩れることが確認された(データ省略)。
【0072】
実施例2:山椒の水蒸気蒸留抽出物の分析
実施例1で得られた山椒の水蒸気蒸留抽出物について、成分の分析を行った。具体的には、 固相マイクロ抽出(SPME)にて揮発成分を抽出し、GC/MSにて分析した。その結果、山椒の水蒸気蒸留抽出物からは、β-ピネン、γ‐テルピネン、リモネン、リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、酢酸ゲラニル等が検出された(図1)。そこで、シトロネロール、ゲラニオールおよびリナロールの3成分に着目し、以下の検討を行った。
【0073】
実施例3:シトロネロールのアルコール感付与に関する評価
(1)飲料の調製
非アルコール飲料は、果糖ブドウ糖液糖(7w/v%)、レモン果汁(2w/w%)、酸味料(クエン酸およびクエン酸ナトリウム)を用い、pH2.8、エキス分6%、炭酸ガス圧0.17MPa(測定温度20℃)、エタノール含量0.00v/v%に調製した飲料を使用した。この非アルコール飲料に、プロピレングリコールに溶解させたシトロネロールを表2に示す濃度となるように添加し、各サンプル飲料を調整した。
【0074】
(2)飲料の評価
(1)で調製された各サンプル飲料を、官能評価試験に供した。具体的には、良く訓練され、チューハイおよびカクテル系飲料の評価に熟練したパネル4名が試飲し、官能評価を行った。官能評価試験の結果は以下の通りであった。
【表2】

【0075】
非アルコール飲料に、シトロネロールを0.2ppm以上10.0ppm未満、好ましくは、0.3ppm以上8.0ppm以下となるように添加することにより、飲料としての味の調和感を崩すことなく非アルコール飲料にアルコール感(アルコールの揮発感)を付与できることが認められた(表2)。
【0076】
実施例4:シトロネロール、ゲラニオールおよびリナロールのアルコール感付与に関する評価
(1)飲料の調製
非アルコール飲料は、果糖ブドウ糖液糖(7w/v%)、レモン果汁(2w/w%)、酸味料(クエン酸およびクエン酸ナトリウム)を用い、pH2.8、エキス分6%、炭酸ガス圧0.17MPa(測定温度20℃)、エタノール含量0.00v/v%に調製した飲料を使用した。この非アルコール飲料に、山椒の水蒸気蒸留抽出物を表3に示す濃度となるように添加し、各サンプル飲料を調整した。
【0077】
(2)飲料の評価
(1)で調製された各サンプル飲料を、官能評価試験に供した。具体的には、良く訓練され、低アルコール飲料の評価に熟練したパネル3名が試飲し、以下の基準でアルコール感について官能評価を行った。
[アルコール感の評価]
○ : アルコールの揮発感が適度にあり、アルコール様の香味を十分に感じられるもの
△ : アルコールの揮発感があるものの、他の香味により、アルコール様の香味を阻害しているもの
× : アルコールの揮発感が僅かにあるが、他の香味の影響が非常に強く、アルコール様の香味を阻害しているもの 又は、アルコールの揮発感がほとんどないもの
【0078】
官能評価試験の結果は以下の通りであった。
【表3】

【0079】
シトロネロールとともにゲラニオールおよびリナロールを添加する場合は、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの濃度の比率が、シトロネロール1に対して、ゲラニオールが1〜3、リナロールが0.5〜3の範囲である場合に、チューハイ様・カクテル様の果汁飲料(特に、柑橘系の果汁飲料)において好適なアルコール様の香味を実現できることが認められた(表3)。
【0080】
以上のことから、シトロネロールとゲラニオールとリナロールとを所定の範囲で添加することにより、飲料(特に、チューハイ様・カクテル様の飲料)としての味の調和感を崩すことなくアルコール感を付与できることが示された。
【0081】
実施例5:山椒の抽出方法についての検討
山椒の抽出について、抽出方法による抽出成分の違いについて検討した。具体的には、同量の山椒サンプルから水蒸気蒸留法、還流法をそれぞれ用いて抽出を行い、得られた各抽出物を加熱脱着導入システム(GERSTEL社)を用いて分析した。水蒸気蒸留抽出物は、実施例1と同様にして得た。還流抽出物は、山椒をお湯の中に煮出した後、濾過することにより得た。
【0082】
その結果、原料が同じであっても抽出方法が異なれば得られる抽出物の成分が異なること、具体的には、還流法に比べ、水蒸気蒸留法による方が山椒成分の抽出量が多く、アルコール感の付与に使用するのに好適であることが示された(図2)。
実施例6:原料についての検討
【0083】
原料によるシトロネロールの抽出量の違いについて検討した。具体的には、水蒸気蒸留法を用いて山椒、ホップからそれぞれ抽出を行い、得られた各抽出物を加熱脱着導入システム(GERSTEL社)を用いて分析した。山椒の水蒸気蒸留抽出物は、実施例1と同様にして得た。ホップの水蒸気蒸留抽出物は、ホップに水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて流出する香気成分を蒸留液とともに凝縮することにより得た。
【0084】
その結果、ホップに比べ、山椒を使用して水蒸気蒸留を行う方がシトロネロールの抽出量が多く、アルコール感の付与に使用するのに好適であることが示された(図3)。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】山椒の水蒸気蒸留抽出物のガスクロマトグラムを示した図である。
【図2】山椒の水蒸気蒸留抽出物と山椒の還流抽出物のガスクロマトグラムを示した図である(A:山椒の水蒸気蒸留抽出物;B:山椒の還流抽出物)。
【図3】山椒の水蒸気蒸留抽出物とホップの水蒸気蒸留抽出物のガスクロマトグラムを示した図である(A:山椒の水蒸気蒸留抽出物;B:ホップの水蒸気蒸留抽出物)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトロネロールを含んでなる、アルコール感が付与されたエタノール濃度が1.0v/v%未満である非アルコール飲料であって、飲料中のシトロネロール濃度が0.2ppm以上10ppm未満である、飲料。
【請求項2】
ゲラニオールおよび/またはリナロールを更に含んでなり、飲料中のシトロネロールと、ゲラニオールおよび/またはリナロールとの濃度比が、シトロネロール1に対して、ゲラニオールが1〜3、かつ/またはリナロールが0.5〜3である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
ゲラニオールとリナロールとを更に含んでなり、飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの合計濃度が、2〜30ppmである、請求項1または2に記載の飲料。
【請求項4】
飲料中のエタノール濃度が、0.00v/v%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
シトロネロールが、山椒由来である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項6】
シトロネロールを、山椒の水蒸気蒸留抽出物として用いる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項7】
飲料中のシトロネロール濃度を0.2ppm以上10ppm未満に調整することを特徴とする、アルコール感が付与された飲料中のエタノール濃度が1.0v/v%未満である非アルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
飲料中のシトロネロールと、ゲラニオールおよび/またはリナロールとの濃度比を、シトロネロール1に対して、ゲラニオールを1〜3、かつ/またはリナロールを0.5〜3に調整することを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
飲料中のシトロネロールとゲラニオールとリナロールとの合計濃度を2〜30ppmに調整することを特徴とする、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
飲料中のエタノール濃度が、0.00v/v%である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
飲料中のシトロネロール濃度を0.2ppm以上10ppm未満に調整することを特徴とする、飲料中のエタノール濃度が1.0v/v%未満である非アルコール飲料にアルコール感を付与する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−249560(P2012−249560A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123706(P2011−123706)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】