説明

アルコール揮散剤

【課題】従来のアルコール揮散剤において問題となっていた、印刷インク、撥水剤、撥油剤などの食品への付着を防止すると共に、油脂分の多い食品に対しても優れた保存効果を発揮するアルコール揮散剤を提供すること。
【解決手段】包材A及び包材Bを積層して成るシートを、包材Bの内面同士が対向するようにシートの周縁部8を接着して構成された包装袋1の中に、アルコール吸着体6を含有させてなるアルコール揮散剤を提供する。包材A:ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ビニロン、セロファンおよび蒸着フィルムからなる群から選択される単層プラスチックフィルム、または該群から選択される2種以上を積層した積層プラスチックフィルムに、紙または不織布を積層した積層体に貫通孔を穿設した積層有孔フィルム。包材B:有孔プラスチックフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封包装内又は密封容器内に食品と共に封入して用いるアルコール揮散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から食品を保存するための保存剤として、乾燥剤、酸素吸収剤、アルコール揮散剤等の包装系内の雰囲気を調節するものが知られている。その中でもアルコール揮散剤は、カビの増殖抑制効果が高く、パン類や菓子類を中心に広く普及している。
【0003】
食品の保存に用いられるアルコール揮散剤は、エタノールを雲母やシリカ等の吸着材に吸着させたアルコール吸着体をアルコールガス透過性の小袋に充填したものであり、食品と共に封入し、包装系内でアルコールガスを揮散させることにより食品の保存性を向上させるものである。
【0004】
アルコール揮散剤の包装袋としては、有孔または無孔のプラスチックフィルムや、不織布、紙などの材料が用いられているが、現在、市場に流通しているアルコール揮散剤は、特許文献1に記載されるように、食品との接触面に耐水・耐油加工が施された紙を使用したものが主流となっている。
【0005】
食品との接触面に紙を使用したアルコール揮散剤は生産性に優れ、アルコールガスが徐々に揮散されるという利点を有する反面、耐水・耐油加工の際に塗布された撥水剤や撥油剤が、アルコールの作用によって食品に付着するという問題がある。また、紙表面に製品名等が印刷されているため、食品にインクが転写し商品価値が損なわれるおそれがあった。
【0006】
撥水剤やインク等の付着を防止するために、有孔プラスチックフィルムと不織布または紙とを積層し、食品との接触面をプラスチックフィルムとした包装材も提案されているが、有孔プラスチックフィルムと不織布または紙が密着して一体化していることから、不織布または紙から揮散するアルコールがプラスチックフィルムの孔以外の部分により遮断されるため、アルコールの揮散が阻害され、食品の保存効果が十分に得られないという問題があった。また、アルコールガスを十分に揮散させるためには、プラスチックフィルムに設ける孔の孔径を比較的大きくする必要があったため、開孔することによって製品名や注意書き等の文字が欠け、混乱を招くおそれがあった。
【0007】
そこで本発明者等は、特許文献2において、通気性を有するプラスチックフィルムからなる外包材と、アルコールガス透過性材料からなる内包材とを、外包材と内包材の間に空隙を有するよう重ね合わせることにより、アルコールの揮散を阻害すること無く、撥水剤やインクの転写が起こらないアルコール揮散剤を提案した。このようなアルコール揮散剤は、油脂分の少ない食品に好適に用いられる一方、ドーナツ等の油脂分の多い食品に適用した際に、外包材に設けた孔から外包材と内包材の間の空隙に油脂が浸入することにより、アルコールの揮散が阻害される場合があった。
【0008】
従って、油脂分の多い食品に使用した場合でもアルコールガスの揮散が阻害されず、食品へのインク等の付着のおそれのないアルコール揮散剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平4−21586号公報
【特許文献2】特開2009−179330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来のアルコール揮散剤において問題となっていた、印刷インク、撥水剤、撥油剤などの食品への付着を防止すると共に、油脂分の多い食品に対しても優れた保存効果を発揮するアルコール揮散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、アルコール揮散剤の包装袋について鋭意研究した結果、特定の材料からなる積層フィルムの周縁部を接着して包装袋を構成することにより、アルコールガスの揮散を阻害することなく、印刷インク等が食品に付着するという不具合が解消されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の包材A及び包材Bを積層して成るシートを、包材Bの内面同士が対向するようにシートの周縁部を接着して構成された包装袋の中に、アルコール吸着体を封入してなるアルコール揮散剤を提供する。

包材A:ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ビニロン、セロファンおよび蒸着フィルムからなる群から選択される単層プラスチックフィルム、または該群から選択される2種以上を積層した積層プラスチックフィルムに、紙または不織布を積層した積層体に貫通孔を穿設した積層有孔フィルム
包材B:有孔プラスチックフィルム
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明のアルコール揮散剤の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明のアルコール揮散剤の包装袋1は包材Aと包材Bとを積層したシートで構成され、包材Bの内面同士が対向するように周縁部8で接着されている。包装袋の内部には、アルコールを吸着させたアルコール吸着体6が充填されている。
【0016】
包材Aは、単層または積層されたプラスチックフィルムに紙または不織布を積層した積層フィルムに貫通孔が穿設された積層有孔フィルムからなる。なお、紙または不織布の層は包材Bと対向する層へ配設する。
【0017】
このような包材Aに使用されるプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ビニロン、セロファンおよびアルミ、酸化アルミまたはシリカの蒸着フィルムからなる群から選択される単層フィルム、および該群から選択される2種以上を積層した積層フィルムが例示され、その中でも強度、ヒートシール性およびコストバランスの点で優れた、ポリエチレンテレフタレートの単層フィルム及びポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、延伸ポリプロピレンおよび無延伸ポリプロピレンからなる群から選択される二種以上を積層した積層フィルムが好ましく使用される。特に、包材Aに使用されるプラスチックフィルムとしては、図1に示すように、ポリエチレンテレフタレート(PET)2にポリエチレン(PE)を積層し、紙または不織布と接する面にポリエチレン(PE)3を配設したものがより好ましく使用される。
【0018】
包材Aは、上記のとおりプラスチックフィルムに紙または不織布がさらに積層されたものである。包材Aに採用可能な紙としては、和紙、洋紙、レイヨン紙、化繊布、レイヨンと化繊布の混合紙などが挙げられ、その中でも洋紙が好ましい。また、包材Aに採用可能な不織布としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、各種ナイロン等の材質からなるものが挙げられる。ポリエチレンテレフタレートは単一成分であってもイソフタル酸等を含んだ共重合体であってもよい。またポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン等の単一成分であっても、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテン等のオレフィン類との共重合体であってもよく、また、オレフィン以外の成分との共重合体であってもよい。その中でも不織布としては2軸延伸ポリプロピレンからなるものが好ましい。
【0019】
これらの紙や不織布は、本発明においては包材Aのプラスチックフィルムと包材Bの中間層となるため、耐水・耐油加工の有無に関わらず、撥水剤や撥油剤による食品汚染のおそれがない。
【0020】
紙または不織布の厚みは、いずれも目付量が15〜70g/mのものが好ましく、20〜50g/mのものがより好ましい。紙または不織布の厚みが15g/m未満の場合はヒートシール時に破損するおそれがあり、70g/mを超える場合はヒートシールによる製袋が困難となる傾向がある。
【0021】
包材Aは、上記プラスチックフィルムと紙または不織布を積層した後、貫通孔が穿設される。穿設方法としては、例えば針、加熱針、剣山状の金属ブラシ金型、レーザー光等を用いた方法が採用される。
【0022】
包材Aの貫通孔の孔径及び孔数は、アルコール揮散剤のサイズ、アルコール吸着体量などによって適宜定めればよいが、包材Aのガーレ式透気度が30000s/100ml以下、好ましくは100〜20000s/100mlとなるように、孔径及び孔数を設定するのが良い。包材Aの透気度が30000s/100mlを越えれば、包材Bを通過したアルコールガスが、包材Aを通気し難いことにより阻害される傾向がある。
【0023】
本発明において、ガーレ式透気度は王研式透気度試験機(旭精工(株)製)で測定される。
【0024】
適当なアルコール揮散量を達成するためには、包材Aの開孔率を0.001〜10%、好ましくは0.01〜7%、より好ましくは0.03〜5%とするのが良く、例えば、アルコール吸着体0.3〜3g程度を含有し、サイズが4x6cmのアルコール揮散剤の場合、孔径200μm未満、好ましくは150μm未満、より好ましくは10〜100μmの孔を1平方センチメートルあたり5〜50個、好ましくは10〜30個程度穿設するとよい。
【0025】
孔7の形状についても限定されるものではないが、包装袋の強度の点で円形または楕円形が好ましい。
【0026】
包材Aの厚さは、好ましくは15〜85μm、より好ましくは30〜75μmである。
【0027】
包材Bに使用する有孔フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンなどのガスバリア性プラスチックフィルムに孔を穿設したものが挙げられるが、ガス透過性フィルムに孔を穿設したものであってもよい。
【0028】
包材Bに使用する有孔フィルムは、ガーレ式透気度30000s/100ml以下であるのが好ましく、100〜20000s/100mlであるのがより好ましい。有孔フィルムの透気度が30000s/100mlを超える場合、揮散が阻害される傾向がある。
【0029】
包材A−B間の層間剥離強度は、50未満が好ましく、0.1〜45g/10mmがより好ましく、0.5〜40g/10mmがさらに好ましい。包材A−B間の層間剥離強度が50g/10mm以上である場合、揮散率の調整が困難となる傾向がある。
【0030】
本発明のアルコール揮散剤においては、積層体とした後に貫通孔を設けた包材Aと包材Bとを全面接着したことにより、アルコール揮散率を維持しつつ包材Aに設ける貫通孔の孔径を微細化することができ、従来の外包材に有孔プラスチックフィルムを用いたアルコール揮散剤のように油脂の浸入に起因するアルコールの揮散不良を抑制できると共に、印刷文字に与える影響を最小限とすることができる。また、包材Aに設けた孔が貫通孔であるため、孔径や孔数を調節することによってアルコール揮散率を容易に調整することができる。
【0031】
本発明のアルコール揮散剤は、25℃、相対湿度55%の大気下における24時間後のアルコール揮散率を40〜95%に調整したものが好ましく、50〜90%に調整したものがより好ましく、60〜85%に調整したものがさらに好ましい。
アルコール揮散率が40%未満の場合、食品と共に封入した際に十分な保存効果が得られず、95%を超える場合は流通過程でアルコールの染み出しが発生し易い傾向を示す。アルコール揮散率を上記範囲に調整することにより、十分な食品保存効果が得られ、且つアルコールの染み出しも抑制することができる。
【0032】
本発明のアルコール揮散剤に製品名等の印刷を施す場合は、包材Aの食品と接触する面以外に印刷を施せばよく、包材Aが二種以上の積層プラスチックフィルムと紙を積層した積層フィルムである場合、積層プラスチックフィルムの積層面のいずれかの面に印刷すればよい。例えば、図1の包材Aにおいて、ポリエチレンテレフタレート(PET)2又はポリエチレン(PE)3のいずれか一方に印刷し、他方のフィルムを印刷面9に積層することによって印刷面9と食品とが接触することがなく、食品へのインクの付着が防止される。同様に、積層プラスチックフィルムの紙と対向する面、紙の積層プラスチックフィルムと対向する面、および紙の包材Bと対向する面のいずれかに印刷を施すことによっても、印刷面と食品との接触を阻止し得る。
【0033】
包材Aが単層フィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレートの単層フィルムと紙を積層した積層フィルムである場合、単層フィルムの紙と対向する面、紙の単層フィルムと対向する面、および紙の包材Bと対向する面のいずれかに印刷を施すことによって、印刷面と食品との接触を阻止し得る。
【0034】
また、印刷を施す包材Aの印刷面よりも外側の層は透明フィルムであればよく、無色あるいは有色透明フィルムを目的に応じて適宜採用すればよい。
【0035】
本発明のアルコール揮散剤において周縁部8の接着方法としては、ヒートシール、接着剤等の方法が挙げられるが、生産効率の点でヒートシールによる接着が好ましい。また、ヒートシールによる製袋方法には折り込み三方シールおよび四方シールがあり、本発明においてはいずれの製袋方法でもよいが、様々なサイズの袋を効率良く製造できる点やヒートシール時のトラブルが少ない点で折り込み三方シール包装体とするのが好ましい。
【0036】
本発明のアルコール揮散剤に使用するアルコールとしては特に制限はなく、一般に食品工業用途に用いられているエタノールのいずれを用いてもよい。
【0037】
本発明のアルコール揮散剤において、内部に封入するアルコール吸着体に使用する吸着材は、アルコールを吸着することが可能であれば特に限定されず、シリカ、焼成雲母、バーミキュライト、タルク、ゼオライト、パーライト、ベントナイト、珪藻土、アルミナ、不織布、パルプ等、従来からアルコール揮散剤に使用されているものを使用することができる。その中でもシリカ、焼成雲母、バーミキュライト、不織布、パルプが好ましく、アルコールの吸着力の点でシリカがより好ましい。
【0038】
吸着材へアルコールを吸着させる態様、吸着材自体のアルコール吸着量は、従来からアルコール揮散剤に用いられているものを適宜用いればよい。
【実施例】
【0039】
実施例1及び比較例1
方法:
表1に示す構成のアルコール揮散剤(サイズ:6cm×4cm)を製造し、25℃、相対湿度55%の大気下に静置し、製造直後及び24時間後の重量から、下記計算式によりアルコール揮散率を算出した。

アルコール揮散率(%)=(Y−Z)/X ×100
X:アルコール保持量(g)
Y:製造直後のアルコール揮散剤重量(g)
Z:24時間後のアルコール揮散剤重量(g)

【表1】

PET:ポリエチレンテレフタレート
PE:ポリエチレン
EVA:エチレン−酢酸ビニル共重合体
【0040】
結果:
本発明のアルコール揮散剤は、最外層に紙を使用した一般的なアルコール揮散剤と同等のアルコール揮散率を保持していた。24時間後のアルコール揮散率を表2に示す。

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の包材A及び包材Bを積層して成るシートを、包材Bの内面同士が対向するようにシートの周縁部を接着して構成された包装袋の中に、アルコール吸着体を封入してなるアルコール揮散剤:
包材A:ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ビニロン、セロファンおよび蒸着フィルムからなる群から選択される単層プラスチックフィルム、または該群から選択される2種以上を積層した積層プラスチックフィルムに、紙または不織布を積層した積層体に貫通孔を穿設した積層有孔フィルム
包材B:有孔プラスチックフィルム。
【請求項2】
包材Aのガーレ式透気度が30000s/100ml以下である請求項1記載のアルコール揮散剤。
【請求項3】
包材Aが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、延伸ポリプロピレンおよび無延伸ポリプロピレンからなる群から選択される2種以上を積層した積層プラスチックフィルムと紙とを積層した積層フィルムに貫通孔を穿設した積層有孔フィルムからなり、積層面のいずれかの面に印刷が施されている請求項1または2に記載のアルコール揮散剤。
【請求項4】
包材Bが、ガーレ式透気度30000s/100ml以下の有孔プラスチックフィルムである請求項1〜3いずれかに記載のアルコール揮散剤。
【請求項5】
25℃、相対湿度55%の大気下における24時間後のアルコール揮散率が40〜95%である請求項1〜4いずれかに記載のアルコール揮散剤。
【請求項6】
アルコール吸着体が、シリカ、焼成雲母、バーミキュライト、パルプおよび不織布からなる群から選択される吸着剤へエタノールを吸着させたものである請求項1〜5いずれかに記載のアルコール揮散剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−73724(P2011−73724A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226771(P2009−226771)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(304002955)ドレンシー株式会社 (5)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】