説明

アルコール濃度検出装置

【課題】アルコール濃度検出装置に搭載される各種センサをその装置本来の用途であるアルコール濃度の検出以外にも使用することで車両におけるセンサ搭載状況を最適化する。
【解決手段】アルコール濃度検出装置10は、乗員の呼気に含まれるアルコール成分を検出するアルコールセンサ17aと、その呼気に含まれるアルコール成分以外のガス成分を検出するガスセンサ17b〜17eとを含んで構成されるガスセンサ群17と、アルコールセンサ17aの検出値に基づいてアルコール濃度を算出し、その算出したアルコール濃度をガスセンサ17b〜17eの検出値に基づいて補正するマイクロコンピュータ21(制御手段)を有するアルコール検出ECU20とを備える。ガスセンサ群17は、アルコール濃度を算出することに加えて、車室内の空気状態を検知するために利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール濃度検出装置に関し、特に複数種類のガスセンサを備えたアルコール濃度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飲酒運転を防止するために、自動車の運転者の呼気に含まれているアルコール濃度を検出し、そのアルコール濃度が基準値以上であるときにエンジンを始動させないようにしたアルコール濃度検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。一方、アルコール濃度の検出精度を高めるために、エチルアルコールのみに反応するものではない複数種類のアルコールセンサを用いて、各アルコールセンサの検出値に基づいてアルコール濃度を算出するようにしたアルコール濃度検出装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−37563号公報
【特許文献2】特許第4208871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車室内にはその空気状態(環境)をモニタ、例えば空調装置にて車室内の温度又は湿度を検出し、乗員により設定された温度となるように車室内の空調を制御するための各種センサが搭載されている。このようなセンサと、上記特許文献2に記載されたアルコール濃度検出装置で用いられているセンサとは機能が重複する場合があり、車両全体から見ると最適なセンサ搭載状況とは言えない場合が多かった。
【0005】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、アルコール濃度検出装置に搭載される各種ガスセンサをその装置本来の用途であるアルコール濃度の検出以外にも使用することで、車両におけるセンサ搭載状況を最適化し、センシング価値を向上させ得るアルコール濃度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のアルコール濃度検出装置は、乗員の呼気に含まれるアルコール成分を検出するアルコールセンサと、その呼気に含まれるアルコール成分以外のガス成分を検出するガスセンサとを含んで構成されるガスセンサ群と、アルコールセンサの検出値に基づいてアルコール濃度を算出し、その算出したアルコール濃度をガスセンサの検出値に基づいて補正する制御手段とを備え、ガスセンサ群は、アルコール濃度を算出することに加えて、車室内の空気状態を検知するために利用されることを特徴とする。
【0007】
本発明のアルコール濃度検出装置においては、その装置に搭載されたガスセンサ群が、アルコール濃度を計算することに加えて、車室内の空気状態を検知するために利用される。
【0008】
このように、ガスセンサ群が、装置本来の用途であるアルコール濃度の検出に限らず、車室内の空気状態を検知するために利用されるので、他の装置に搭載されていた機能が重複するセンサを廃止することができ、車両全体におけるセンサ搭載状況を最適化することができる。
【0009】
この場合、乗員の呼気を引き込む呼気引込手段を備え、呼気引込手段が乗員の呼気の代わりに車室内の空気を引き込んだときの前記ガスセンサ群の検出値に基づいて車室内の空気状態を報知する報知手段を備えるように構成するとよい。
【0010】
例えば、乗員が呼気を吹きかける方式のアルコール濃度検出装置では、装置の内部へ乗員の呼気を引き込む呼気引込手段(例えば、ファンやポンプ)を設けることが考えられる。したがって、このような呼気引込手段を使用して車室内の空気を装置内のガスセンサ群に向けて引き込むようにすれば、車室内の空気状態を効率よくセンシングすることが可能となり、センシング性能を良好に向上させることが期待できる。また、従来の制御装置(例えば、空調装置)においても、ファンやポンプ等により検出対象とするガスをセンサ側へ引き込むように構成することも考えられていたが、アルコール濃度検出装置において呼気引込手段を設けるようにすれば、従来の制御装置にてファンやポンプを省略できるので、コストをより一層低減化することができる。
【0011】
また、ガスセンサ群は、温度センサ及び湿度センサを備えており、報知手段は、温度センサ及び湿度センサの各検出値に基づいて車室内の空気状態の一指標としての温度及び湿度をそれぞれ乗員に報知するように構成することができる。
【0012】
これによれば、例えば空調装置がアルコール濃度検出装置に搭載された温度センサ及び湿度センサの検出値を利用できるよう、空調装置とアルコール濃度検出装置とを連携させることで、元来空調装置に搭載されていた温度センサ及び湿度センサを廃止することができ、車両全体から見てセンサに要するコストの削減を図ることができる。
【0013】
また、ガスセンサ群は、さらに匂いセンサを備え、アルコールセンサ、湿度センサ及び匂いセンサのうちいずれか一つの検出値に基づいて車室内の空気状態の一指標としての空気清浄度を算定する空気清浄度算定手段が設けられており、報知手段は、空気清浄度算定手段が算定した空気清浄度を乗員に報知するように構成することもできる。
【0014】
これによれば、車室内の空気清浄度を乗員に報知することで、空気清浄度が低い場合は車室内の換気を促すことができ(例えば、空調装置の起動)、車室内の空気状態の清浄度を良好に保つことができる。
【0015】
この場合、制御手段は、車室内の空調を制御する空調制御手段と通信線を介して温度センサ及び湿度センサの各検出値を通信可能に接続されており、空気清浄度算定手段が算定した空気清浄度に応じて空調制御手段に対し内外気切り替え手段を内気循環モードから外気導入モードへ切り替える旨の制御信号を送信するように構成するとよい。あるいは、制御手段は、車室内の空調を制御する空調制御手段と通信線を介して温度センサ、湿度センサ、アルコールセンサ及び匂いセンサの各検出値を通信可能に接続されており、空調制御手段は、空気清浄度算定手段が算定した空気清浄度に応じて内外気切り替え手段を内気循環モードから外気導入モードへ切り替えるように構成してもよい。
【0016】
これによれば、半自動あるいは自動的に車室内の空気状態の清浄度を保つことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るアルコール濃度検出装置を示す概略図。
【図2】図1のアルコールセンサの機能を示す説明図。
【図3】図1のアルコール検出ECUのブロック図。
【図4】大気中と呼気中で各ガス濃度が占める成分比率を示す説明図。
【図5】希釈率の算出方法を示す説明図。
【図6】図3のアルコール検出ECUのマイクロコンピュータにより実行されるアルコール濃度演算プログラムを示すフローチャート。
【図7】図4のアルコール濃度演算プログラムのS10で実行される空気清浄度算定プログラムを示すフローチャート。
【図8】(a)はアルコール濃度とアルコールセンサの検出値との対応関係を示す判定テーブル。(b)は匂いに関するガス濃度と匂いセンサの検出値との対応関係を示す判定テーブル。(c)は湿度と湿度センサの検出値との対応関係を示す判定テーブル。
【図9】本発明の実施例2に係り、エアコンECUにより実行される空気清浄度算定プログラムを示すフローチャート。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明に係るアルコール濃度検出装置は、自動車での飲酒運転を防止するものであり、自動車の車室に搭載されている。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明に係るアルコール濃度検出装置10を示す概略図である。アルコール濃度検出装置10は、例えば運転席近傍の運転者が操作できる位置に設けられており、筐体11、操作スイッチ12、表示部13、ファン14、呼気流路15、内壁16、ガスセンサ群17及びアルコール検出ECU20を備えている。
【0020】
筐体11は、その内部に運転者の呼気を取り込むための取込口11aと、取り込まれた呼気を外部へ排出するための排出口11bとを備えている。運転者が筐体11を把持して取込口11aに口を近づけて呼気を吹きかけると、取り込まれた呼気が内壁16の内側に形成された呼気流路15を通って排出口11bへ向けて流動する。
【0021】
操作スイッチ12は、呼気や車室内の空気を取込口11aを通して筐体11の内部へ取り込むときにオン操作されるものであり、筐体11の正面にて外部に突出した形態で配置されている。
【0022】
表示部13は、アルコール成分の検出結果等を表示するよう複数(例えば、3つ)のLEDで構成され、筐体11の正面にて外部から目視可能な形態で配置されており、運転者が表示部13の表示態様を外部から視認できるようになっている。表示部13は、例えばアルコール濃度が予め定められた設定値より大きい場合は全てのLEDを点滅させ、設定値より小さい場合は全てのLEDを点灯させる。
【0023】
ファン14は、取込口11aの全域を覆うように設けられている。ファン14は、操作スイッチ12のオン操作に基づくアルコール検出ECU20からの駆動信号に基づいて駆動される。ファン14が駆動されると、呼気や車室内の空気が取込口11aを通して筐体11内のガスセンサ群17に向けて強制的に引き込まれる。このファン14により、呼気や車室内の空気が攪拌された状態で呼気流路15を流れ、ガスセンサ群17の各センサに均一に接触するようになる。ファン14が本発明の呼気引込手段に相当する。
【0024】
ガスセンサ群17は、呼気流路15に突出した形態で基板18に実装されている。このガスセンサ群17は、アルコールセンサ17a、匂いセンサ17b、温度センサ17c、湿度センサ17d及び酸素センサ17eの各種ガスセンサで構成されている。ガスセンサ群17については、後述する。
【0025】
図3に示すように、アルコール検出ECU20は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータ21、入力I/F(インタフェース)回路22及び出力I/F(インタフェース)回路23を主要構成部品としている。マイクロコンピュータ21は、入力I/F回路23を介して取得したガスセンサ群17の検出値に基づいて、ROM等に記憶された図6のアルコール濃度演算プログラムや図7の空気清浄度算定プログラムを実行し、その実行に応じた制御信号を出力I/F回路23に出力する。アルコール検出ECU20のマイクロコンピュータ21が本発明の制御手段に相当する。
【0026】
また、アルコール検出ECU20は、多重通信回路24を備えており、この多重通信回路24を経て多重通信線BUS(例えば、CAN、LINなどの通信線)を介してエアコンECU100、エンジンECU200、ナビゲーションECU210、メータECU220などと双方向通信可能に接続されている。
【0027】
エアコンECU100は、エアコンユニットAUとで空調装置を構成しており、アルコール検出ECU20と同様、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータ101、入力I/F回路102及び出力I/F回路103を備えている。マイクロコンピュータ101は、ROM等に記憶された温度制御プログラム、内外気切り替えプログラムなど(図示省略)を実行し、その実行に応じた制御信号を出力I/F回路103に出力する。出力I/F回路103は、駆動回路を含んで構成され、マイクロコンピュータ101の制御指令に応じてエアコンユニットAUに設けられた各モータ111〜114に駆動電流を流す。入力I/F回路102には、空調センサ群120が接続されている。エアコンECU100のマイクロコンピュータ101が本発明の空調制御手段に相当する。
【0028】
空調センサ群120は、外気センサ121、日射センサ122及びエバ後センサ123で構成されている。外気センサ121は、外気温度を検出して入力I/F回路102に出力する。日射センサ122は、日射量を検出して入力I/F回路102に出力する。エバ後センサ123は、エバポレータを通過した直後の空気の温度を検出して入力I/F回路102に出力する。
【0029】
また、エアコンECU100には、操作パネル124が接続されている。操作パネル124は、ブロワモータ111の風量を変更するためのブロワコントロールスイッチ、内外気切り替えダンパ用モータ112(内外気切り替え手段)を作動させるための内外気切り替えスイッチ、温度を設定するための温度コントロールスイッチ(エアミックスダンパ用モータ113を作動させるためのスイッチ)、モード切り替えダンパ用モータ114を作動させるための吹出口切り替えスイッチ、フルオート制御状態とするためのオートモードスイッチ、コンプレッサに取り付けられたマグネットクラッチ(エバポレータへの冷媒通路を開閉動作する)をオン・オフするためのA/Cスイッチなどの各種スイッチを備えている。また、操作パネル124は、上記各種スイッチにより切り替えられた各モード、および設定温度を表示するための表示部(例えば、LCD)を備えている。
【0030】
また、エアコンECU100は、多重通信のための多重通信回路104を備えており、この多重通信回路104を経て多重通信線BUSを介してアルコール検出ECU20などと双方向通信可能に接続されている。
【0031】
これにより、エアコンECU100は、アルコール検出ECU20に接続された温度センサ17c及び湿度センサ17dの各検出値や、アルコール検出ECU20から送信されたエアコンユニットAUに対する外気導入モードへの切り替え制御信号を多重通信線BUSを介して受信できるようになっている。
【0032】
エンジンECU200は、アルコール検出ECU20から送信されたアルコール濃度に関する情報(例えば、アルコール濃度が予め定められた設定値以上であるという判定結果)に基づいて、そのエンジンの始動を不能とする。
【0033】
メータECU220は、アルコール検出ECU20に接続された温度センサ17c及び湿度センサ17dの各検出値に基づく温度情報や湿度情報、あるいはアルコール検出ECU20から送信されたアルコール濃度に関する情報や車室内の空気清浄度に関する情報をディスプレイ221に表示させる。
【0034】
ディスプレイ221(例えば、LCD)は、運転席の前方の速度メータやエンジン回転数メータなどの各種メータが配置されたメータパネルに設けられている。ディスプレイ221は、後述するアルコール濃度が予め定められた設定値以上であるときは酒気帯び状態に該当するためエンジンが始動不能となっている旨のメッセージを表示する一方、設定値未満であるときは酒気帯び状態に該当しないためエンジンが始動可能である旨のメッセージを表示する。また、上述したように、アルコール検出ECU20から送信された温度情報や湿度情報、空気清浄度に関する情報を表示する。ディスプレイ221が本発明の報知手段に相当する。
【0035】
上記ガスセンサ群17のうちアルコールセンサ17aは、運転者の呼気に含まれているアルコール成分を検出し、その検出値としてのセンサ抵抗を出力する半導体センサである。より具体的には、アルコールセンサ17aは、図2に示すように、表面が酸化スズ等の金属酸化物17a1を焼結したものである。また、アルコールセンサ17aの表面には、金属酸化物17a1と重ねて、白金より成るコイル17a2が構成されている。金属酸化物17a1には検出回路17a3が接続され、コイル17a2には電源回路17a4が接続されている。電源回路17a4によりコイル17a2が定期的に通電されることで、金属酸化物17a1が所定の温度に加熱され、金属酸化物17a1の表面に付着した水蒸気や異物が定期的に除去されるようになっている。
【0036】
ここで、アルコールセンサ17aの機能について簡単に説明しておく。大気中(アルコール成分を含まない又は非常に少ない空気状態)では、大気中の酸素原子と金属酸化物17a1(酸化スズ)中の電子が結合しているため、金属酸化物17a1では電気が流れにくくなっている。一方、金属酸化物17a1にアルコール成分を含む呼気が接触すると、呼気中のアルコール成分と酸素原子とが反応し、金属酸化物17a1中の電子と結合している酸素原子が剥ぎ取られる。これにより、金属酸化物17a1中の電子が自由になって電気が流れるようになる。この変化を検出回路17a3で検出し、金属酸化物17a1のセンサ抵抗の変化を計測することにより、呼気中のアルコール濃度が測定される。
【0037】
アルコールセンサ17aは、アルコール成分以外の匂いに関するガス成分に反応してセンサ抵抗が変化することがある。このため、匂いの影響を回避するために、匂いセンサ17bが用いられている。匂いセンサ17bは、アルコールセンサ17aのセンサ抵抗に影響を及ぼす妨害ガスを検出し、その検出値としてのセンサ抵抗を出力する半導体センサである。なお、匂いセンサ17bもアルコールセンサ17aと同様の半導体センサであり、図2に示したアルコールセンサ17aと同様に構成されている。
【0038】
温度センサ17cは、例えば「サーミスタ」と称され、ニッケル、コバルト、マンガン等の酸化物よりなる半導体センサである。呼気の温度は、運転者による呼気の吹きかけ方法によって変化する。例えば、運転者が吹きかけた呼気が運転者の体内(肺)から生じたものである場合、その温度は高く、しかもアルコール成分を含んでいるか否かの判定が容易である。しかし、運転者の口腔内から生じたものであったり、風船等を使用した不正手段によって吹き付けたものであったりする場合、その温度は低い。また、外気温によっても変化する。このため、温度センサ17cが検出する温度の変化をモニタすることにより、運転者の肺からの呼気であるか否かを判定することができる。
【0039】
湿度センサ17dは、空気中の水分量に応じてセンサ素子の導電率や静電容量が変化することにより、当該空気の湿度を計測するもの(例えば、容量変化型湿度センサ)である。アルコールセンサ17aは、大気中の湿度に反応する場合があり、酒気帯び状態でなくてもアルコールセンサ17aは反応する。このため、湿度センサ17dが検出する湿度の変化をモニタすることにより、アルコールセンサ17aが大気中の湿度や通常状態の呼気中のアルコール成分を検出した場合でも、それらの検出値を採用しないようにすることができる。
【0040】
酸素センサ17eは、車室内の大気と混ざり合うことによって希釈される呼気の酸素濃度を検出するものであり、アルコールセンサ17aと同様の半導体センサである。車室内の空気中の酸素濃度は、天候や乗員の数が変化してもほぼ一定である。呼気中の酸素濃度は、大気によって希釈された場合であっても大気の酸素濃度よりも低い。このため、酸素センサ17eが検出する酸素濃度の変化をモニタすることにより、呼気であるか否かを判定することができる。
【0041】
この酸素センサ17eは、運転者によって吹きかけられた呼気が大気で希釈された場合に、その希釈率を算出して、算出されたアルコール濃度を補正するために用いられる。以下、酸素センサ17eを用いたアルコール濃度の補正の考え方について説明する。
【0042】
運転者によって吹きかけられた呼気は、アルコール濃度検出装置10内に取り込まれることになるが、その呼気と同時にいくらかの車室内の大気も取り込まれる。したがって、同時に取り込まれた大気によって呼気が希釈されるので、アルコールセンサ17aのセンサ抵抗に基づいて計算されたアルコール濃度は、実際のアルコール濃度よりも小さな値となる。そこで、呼気の希釈率を算出し、その希釈率に応じて算出したアルコール濃度を補正するようにしている。
【0043】
図4は、大気中と呼気中で各ガスの濃度が占める成分比率を示す。図4から明らかなように、大気中では、酸素濃度が約20.6%、二酸化炭素濃度が約0.03%を占め、水分量(水蒸気)は湿度や気温等で変化することに起因して不定となっている。
【0044】
これに対して、大気により希釈されないときの呼気中では、酸素濃度が約15.2%、二酸化炭素濃度が約5%を占め、水分量は呼吸深度や気温等で変化することに起因して不定となっている。このように、大気中と呼気中とでは各ガス濃度が異なっているため、アルコール濃度検出装置10内に取り込まれた混合気(空気と混ざり合った呼気)の各ガス濃度を測定することにより、呼気がどの程度大気で希釈されているのかを判断することができる。
【0045】
この場合、各ガス濃度のうち、酸素濃度は、大気中、呼気中ともに成分量が安定しているので、酸素濃度を比較すれば正確な希釈率を算出しやすいと考えられる。すなわち、アルコール濃度検出装置10内に取り込まれた混合気の酸素濃度が、例えば15.2%であったとすると、大気により希釈されないときの呼気中の酸素濃度15.2%と同じであるので、大気による希釈がないものと判断することができる。
【0046】
そこで、アルコール濃度検出装置10においては、取り込まれた混合気の酸素濃度を酸素センサ17eで測定し、図5に示すように、測定した酸素濃度と大気中の酸素濃度(例えば20.6%)との差分b(図5ではb=2.7%を例示)を算出する。
【0047】
そして、大気中の酸素濃度(例えば20.6%)と希釈がないときの呼気中の酸素濃度(例えば15.2%)との差分をa(=5.4%)とすれば、希釈率はb/aで算出することができる。図5の例では、希釈率b/aが50%となる。これにより、算出したアルコール濃度を希釈率(b/a)で除算すれば、アルコール濃度を補正することができる。
【0048】
さらに、匂いセンサ17bの検出値に基づいて妨害ガスの影響を除去するとともに、温度センサ17c及び湿度センサ17dの各検出値に基づいて検出対象として不適切な呼気を除外することにより、算出されるアルコール濃度のばらつきが小さくなって、実際のアルコール濃度とほぼ同じ値が得られるようになる。なお、希釈率は、取り込まれた混合気の湿度によって求めることもできるので、酸素濃度と湿度の両方で希釈率を求めるようにしてもよい。
【0049】
次に、上記のように構成されたアルコール濃度検出装置10の作動について説明する。アルコール検出ECU20のマイクロコンピュータ21は、操作スイッチ12のオンによりROM等に記憶された図6のアルコール濃度演算プログラムを所定の短時間毎に繰り返し実行する。
【0050】
最初に、アルコール濃度演算処理(S1〜S8)について説明する。操作スイッチ12のオン操作に応じて、各センサ17a〜17eが検出待機状態となる(S1)。アルコール濃度検出装置10を飲酒運転防止のために使用するときは、運転者がアルコールの濃度検出装置10を自身の口に近づけて筐体11の取込口11aに呼気を吹きかけるようにする(S2)。呼気は、大気(車室内の空気)あるいは筐体11内の空気と混ざり合って内壁16間へ流入する。
【0051】
このようにして取り込まれた混合気は、ファン14によって攪拌されながら呼気流路15の下流側へ送り出され、アルコールセンサ17a、匂いセンサ17b、温度センサ17c、湿度センサ17d及び酸素センサ17eと接触しながら呼気流路15を通過し、排出口11bから排出される。このとき、アルコール検出ECU20のマイクロコンピュータ21は、各ガスセンサ17a〜17eの検出値を入力し、RAM等に記憶する(S3)。
【0052】
そして、マイクロコンピュータ21は、酸素センサ17eの検出値に基づいた酸素濃度が大気中の酸素濃度未満(図4参照)、すなわち予め定められた設定値未満であれば、取り込まれた混合気が呼気を含むものであると判定し(S4:Yes)、さらに、匂いセンサ17b、温度センサ17c及び湿度センサ17dの各検出値に基づいて、取り込まれた混合気が検出対象として適切であると判定した場合は(S5:Yes)、アルコールセンサ17aの検出値に基づいてアルコール濃度を算出し(S6)、算出したアルコール濃度を希釈率で除算(図5参照)することで、アルコール濃度を補正する(S7)。なお、マイクロコンピュータ21は、取り込まれた混合気が検出対象として不適切であると判定した場合は(S5:No)、表示部13のLEDを点滅させ、運転者に検出エラーを報知する。
【0053】
そして、マイクロコンピュータ21は、補正後のアルコール濃度に基づいて運転者の酒気帯び状態を判定し、その判定結果を表示部13を通じて運転者に報知する。これと同時に、運転者が酒気帯び状態にあると判定した場合はエンジンが始動不能である旨のメッセージ情報を、運転者が酒気帯び状態にないと判定した場合はエンジンが始動可能である旨のメッセージ情報を多重通信線BUSを介してメータECU220に送信し、ディスプレイ221に表示させる(S8)。
【0054】
次に、車室内の空気状態モニタ処理(S1〜S4,S9,S10)について説明する。アルコール濃度検出装置10を車室内の空気状態をモニタするために使用するときは、操作スイッチ12をオン操作する、もしくは、多重通信線BUS上のECUからの要求を受けることにより起動する。車室内の空気はファン14によって攪拌されつつ、各センサ17a〜17eと接触しながら呼気流路15を通過し、排出口11bから排出されるが、この場合も運転者がアルコールの濃度検出装置10の取込口11aに呼気を吹きかけた場合と同様、マイクロコンピュータ21が各センサ17a〜17eの検出値を入力し、RAM等に記憶する(S3)。
【0055】
ただし、この場合は、酸素センサ17eの検出値に基づく酸素濃度が大気中の酸素濃度とほぼ同じ値(図4参照)、すなわち予め定められた設定値以上となるため(S4:No)、マイクロコンピュータ21は、S9以降の処理を実行し、温度センサ17c及び湿度センサ17dの各検出値に基づいて、それぞれ温度情報及び湿度情報を多重通信線バスBUSを介してメータECU220に送信し、ディスプレイ221に表示させる(S9)。
【0056】
これにより、乗員は車室内の空気状態の一指標としての温度及び湿度をディスプレイ221を通じて視認することができる。また、これら温度情報や湿度情報は、多重通信線BUSを介してエアコンECU100にも送信される。このため、操作パネル124のオン操作により、エアコンECU100は空調センサ群120からのセンサ情報に加えて、アルコール検出ECU20からの温度情報及び湿度情報を参照しながら、各モータ111〜114を駆動制御できるようになる。
【0057】
S9の処理後、マイクロコンピュータ21は、S10にて空気清浄度算定処理を実行する。図7は、図6のS10で実行される空気清浄度算定ルーチンを示すフローチャートである。空気清浄度算定ルーチンにおいて、マイクロコンピュータ21は、アルコールセンサ17aの検出値に基づいてアルコール濃度を算出し、その算出したアルコール濃度が設定値V1以上であるか否かを判定する(S11)。アルコール濃度が設定値V1未満である場合は(S11:No)、匂いセンサ17bの検出値に基づいて匂いに関するガス濃度を算出し、その算出したガス濃度が設定値V2以上であるか否かを判定する(S12)。匂いに関するガス濃度が設定値V2未満である場合は(S12:No)、さらに湿度センサ17dの検出値に基づいて湿度を算出し、その算出した湿度が設定値V3以上であるか否かを判定する(S13)。マイクロコンピュータ21によるS10の処理(S11〜S13の処理)が本発明の空気清浄度算定手段に相当する。
【0058】
なお、S11〜S13の各判定処理は、予め定められた計算式に基づいて実行してもよいし、例えば図8(a)〜8(c)に示すような各検出値とガス濃度とを対応付けた判定テーブルを参照して実行してもよい。
【0059】
マイクロコンピュータ21は、算出したアルコール濃度、匂いに関するガス濃度、及び湿度のうちいずれか一つでもそれぞれ対応する設定値以上であると判定した場合は(S11、S12、S13のいずれかがYes)、車室内の空気清浄度が低い旨のメッセージ情報を多重通信線BUSを介してメータECU220に送信し、ディスプレイ221に表示させる(S16)。また、マイクロコンピュータ21は、エアコンECU100に対して、エアコンユニットAUの吸い込み口が外気導入モードとなるように内外気切り替えモータ112を駆動するための制御信号を送信する(S17)。これにより、操作パネル124のオン操作によって、半自動的に吸い込み口が外気導入モードに切り替えられるようになる。
【0060】
一方、マイクロコンピュータ21は、算出したアルコール濃度、匂いに関するガス濃度、及び湿度のいずれもが対応する設定値未満であると判定した場合は(S11、S12、S13の全てがNo)、車室内の空気清浄度が高い旨のメッセージ情報を多重通信線BUSを介してメータECU220に送信し、ディスプレイ221に表示させる(S14)。また、マイクロコンピュータ21は、エアコンECU100に対して、エアコンユニットAUの吸い込み口が内気循環モードとなるように、あるいは内気循環が維持されるように内外気切り替えモータ112を駆動するための制御信号を送信する(S15)。これにより、操作パネル124のオン操作によって、半自動的に内気循環モードに切り替えられるようになる。
【0061】
したがって、車室内の空気清浄度が低い旨のメッセージ情報を乗員に報知することで、乗員に操作パネル124のオン操作を促すことができ、操作パネル124のオン操作により半自動的に外気導入モードに切り替えられるので、車室内の空気状態の清浄度を良好に保つことができる。
【0062】
以上の説明からも明らかなように、この実施例1によれば、ガスセンサ群17が、装置本来の用途であるアルコール濃度の検出に限らず、車室内の空気状態を検知するために利用されるので、他の装置に搭載されていた機能が重複するセンサを廃止することができ、車両全体におけるセンサ搭載状況を最適化することができる。
【実施例2】
【0063】
上記実施例1では、アルコール検出ECU20のマイクロコンピュータ21が空気清浄度算定手段を構成したが、これに加えて又は代えて、例えばエアコンECU100のマイクロコンピュータ101が空気清浄度算定手段を構成するようにしてもよい。この実施例2では、マイクロコンピュータ101のROM等に図9に示すような空気清浄度算定プログラムが記憶されていて、マイクロコンピュータ101がその空気清浄度算定プログラムを繰り返し実行することとなる。
【0064】
図9の空気清浄度算定プログラムでは、マイクロコンピュータ101がS20の処理にて、アルコールセンサ17a、匂いセンサ17b及び湿度センサ17dの各検出値を多重通信線BUSを介してアルコール検出ECU20から取得するように構成されており、このS20の処理を実行する点を除けば、以降のS21〜S27の処理は、図6における空気清浄度算定ルーチンのS11〜S17の処理とほぼ同様である。
【0065】
この実施例2によれば、車室内の空気清浄度が低い場合にはエアコンECU100のマイクロコンピュータ101が自動的に外気導入モードに切り替えるように構成することができ、上記実施例1と同様、車室内の空気状態の清浄度を良好に保つことができる。
【0066】
(変形例)
上記実施例1及び実施例2では、ガスセンサ群17を、アルコールセンサ17a、匂いセンサ17b、温度センサ17c、湿度センサ17d及び酸素センサ17eの各種ガスセンサで構成したが、これらのガスセンサ17a〜17eに加えて、例えば図3にて破線で示すように、車室内の気圧を検出する気圧センサ17fや、車室内の二酸化炭素を検出する二酸化炭素センサ17gを設けてもよい。気圧センサ17fが検出する気圧の変化をモニタし、又は二酸化炭素センサ17gが検出する二酸化炭素の変化をモニタすることにより、車室内をより一層快適な空気状態に保つことができる。
【0067】
なお、例えばアルコール燃料を使用する車種においては、アルコールセンサ17aが検出するアルコールの変化をモニタすることにより、燃料漏れを良好に防止できるようになる。
【0068】
また、上記実施例1及び実施例2では、メータECU220に接続されたディスプレイ221が報知手段として機能するように構成したが、報知手段はこれに限らず、例えばナビゲーションECU210に接続されたディスプレイや、エアコンECUに接続されたディスプレイ、又はアルコール濃度検出装置10に新たにディスプレイを搭載し、これらのディスプレイが報知手段として機能するように構成してもよい。また、報知手段は視認できるものに限らず、例えばナビゲーションECU210に接続されたスピーカ等、音声メッセージによるものであってもよい。
【0069】
また、上記実施例1及び実施例2では、アルコール検出ECU20とエアコンECU100とを連携させるように構成したが、これに加えて又は代えて、例えばドアECUと連携させ、例えば車室内の空気清浄度が低い場合にはウインドが開くようにウインド開閉モータを駆動するように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 アルコール濃度検出装置
14 ファン(呼気引込手段)
17 ガスセンサ群
17a アルコールセンサ
17b 匂いセンサ
17c 温度センサ
17d 湿度センサ
17e 酸素センサ
20 アルコール検出ECU
21 マイクロコンピュータ(制御手段、空調清浄度算定手段)
24 多重通信回路
BUS 多重通信線(通信線)
100 エアコンECU
101 マイクロコンピュータ(空調制御手段、空調清浄度算定手段)
AU エアコンユニット
112 内外気切り替えダンパ用モータ(内外気切り替え手段)
220 メータECU
221 ディスプレイ(報知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の呼気に含まれるアルコール成分を検出するアルコールセンサと、その呼気に含まれるアルコール成分以外のガス成分を検出するガスセンサとを含んで構成されるガスセンサ群と、
前記アルコールセンサの検出値に基づいてアルコール濃度を算出し、その算出したアルコール濃度を前記ガスセンサの検出値に基づいて補正する制御手段とを備え、
前記ガスセンサ群は、前記アルコール濃度を算出することに加えて、車室内の空気状態を検知するために利用されることを特徴とするアルコール濃度検出装置。
【請求項2】
乗員の呼気を引き込む呼気引込手段を備え、前記呼気引込手段が乗員の呼気の代わりに車室内の空気を引き込んだときの前記ガスセンサ群の検出値に基づいて車室内の空気状態を報知する報知手段を備える請求項1に記載のアルコール濃度検出装置。
【請求項3】
前記ガスセンサ群は、温度センサ及び湿度センサを備えており、前記報知手段は、前記温度センサ及び前記湿度センサの各検出値に基づいて車室内の空気状態の一指標としての温度及び湿度をそれぞれ乗員に報知する請求項2に記載のアルコール濃度検出装置。
【請求項4】
前記ガスセンサ群は、さらに匂いセンサを備え、前記アルコールセンサ、前記湿度センサ及び前記匂いセンサのうちいずれか一つの検出値に基づいて車室内の空気状態の一指標としての空気清浄度を算定する空気清浄度算定手段が設けられており、前記報知手段は、前記空気清浄度算定手段が算定した空気清浄度を乗員に報知する請求項3に記載のアルコール濃度検出装置。
【請求項5】
前記制御手段は、車室内の空調を制御する空調制御手段と通信線を介して前記温度センサ及び前記湿度センサの各検出値を通信可能に接続されており、前記空気清浄度算定手段が算定した空気清浄度に応じて前記空調制御手段に対し内外気切り替え手段を内気循環モードから外気導入モードへ切り替える旨の制御信号を送信する請求項4に記載のアルコール濃度検出装置。
【請求項6】
前記制御手段は、車室内の空調を制御する空調制御手段と通信線を介して前記温度センサ、前記湿度センサ、前記アルコールセンサ及び前記匂いセンサの各検出値を通信可能に接続されており、前記空調制御手段は、前記空気清浄度算定手段が算定した空気清浄度に応じて内外気切り替え手段を内気循環モードから外気導入モードへ切り替える請求項4に記載のアルコール濃度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−95212(P2011−95212A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251941(P2009−251941)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】