説明

アルコール系溶液および焼結磁石

【課題】重希土類元素を使用しない磁性材料の特性向上のため、軟磁性材料となるFeCo系粒子を改善したアルコール系溶媒、及びそれを用いて製造した焼結磁石を提供することが課題である。
【解決手段】FeCo系粒子とフッ化物溶液とを混合したスラリーは、アルコール溶媒中にFeCo系粒子が1〜50wt%、希土類フッ化物粒子を0.001〜10wt%含有し、FeCo系粒子の粒径が20〜200nm、希土類フッ化物粒子の粒径が1〜50nmである。本スラリーをNd2Fe14B系粉と混合し、磁場中で成形後に焼結して焼結磁石を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール系溶液および焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2は、希土類を含む硬磁性粒子(NdFeB、SmCo等)とFeCo合金等の軟磁性粒子との複合磁性材料を焼結した磁石について開示されている。特許文献1には希土類鉄ホウ素系焼結磁石において、粒界に希土類酸素フッ素からなる相が形成されていることが開示されている。特許文献2にはNdFeB系磁粉とFe粉の間にフッ素化合物が存在する複合材料の記載がある。
【0003】
体心立方晶(BCC)構造のFeCo系合金は、安定かつバルク化可能な材料の中で最も高い飽和磁束密度を示す軟磁性材料となる。飽和磁束密度はFe70Co30で2.4Tであり、硬磁性材料であるNd2Fe14Bの値(1.61T)を上回る。このような高飽和磁束密度を示すFeCo合金とNd2Fe14Bとを磁気的に結合させた複合材料が提案され、高エネルギー積を目的としてナノコンポジット磁石や熱間成形磁石として開発されている。しかし、ナノコンポジット磁石はメルトスピニング法(急冷凝固法)で製造されており、急冷磁粉は加熱により容易に結晶粒の成長や拡散反応が生じ焼結工程に適用できない。このため、焼結温度では磁気特性が劣化し磁粉占有率が95%以上でかつ異方性を有するような焼結磁石には適用困難である。
【0004】
上記従来の発明は、希土類鉄系結晶粒と鉄コバルト合金結晶粒の間にフッ素含有粒界相を形成し、希土類元素が偏在化した希土類鉄系結晶粒と鉄コバルト合金結晶粒には磁気的な結合を発現させることにより高エネルギー積を実現させている。更にこの複合材料系において特徴的なのは、メルトスピニング法ではなく、比較的大きなμmオーダーの硬磁性粒子とnmオーダーの軟磁性粒子を混合したものを複合磁性材料として用いていることである。この複合磁性材料は焼結可能であり、磁粉占有率を上げ異方性を有する焼結磁石が製造可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−157903号公報
【特許文献2】特開2008−60183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
重希土類元素を使用しない磁性材料の特性向上のため、軟磁性材料となるFeCo系粒子を改善したアルコール系溶媒、及びそれを用いて製造した焼結磁石を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
FeCo系粒子とフッ化物溶液とを混合したスラリーは、アルコール溶媒中にFeCo系粒子が1〜50wt%、希土類フッ化物粒子を0.001〜10wt%含有し、FeCo系粒子の粒径が20〜200nm、希土類フッ化物粒子の粒径が1〜50nmである。本スラリーをNd2Fe14B系粉と混合し、磁場中で成形後に焼結して焼結磁石を製造する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアルコール系溶液を用いて作成した焼結磁石は、希土類元素使用量を低減し、磁石のエネルギー積及びキュリー点上昇を実現できる。このほか、GHz以上の高い周波数帯において周波数特性が良く、かつ電磁波吸収率が高い磁性損失材料にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で得られたFeCo系粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られたFeCo系粒子のヒステリシス曲線である。
【図3】実施例2で得られたFeCo系粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2で得られたFeCo系粒子のヒステリシス曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態を以下に説明する。本発明は以下の特徴を有する。(1)焼結磁石の主成分であるFeCo系粒子がFexCo1-x(0.25<x<0.55)の組成を有し、(2)焼結磁石の主成分であるFeCo系粒子がbcc構造を有する。(3)上記主成分の他にフェライト成分を持ち、焼結磁石の主成分であるFeCo系粒子が全体の90〜99%以上を占める。(4)FeCo系粒子表面に希土類フッ化合物を被覆(被覆率は50%以上)。(5)キュリー点が900℃以上。(6)短径が10〜300nm。(7)アスペクト比(D/d):5〜50。(8)変動係数(標準偏差/平均粒径×100)<15%。(8)湿式法により作成したFeCo合金の粒子を含むスラリーにフッ化物溶液を混合し、磁場中で配向後に焼結させることで焼結磁石を製造する。
【0011】
FeCo系粒子が複合磁性材料として優れた特性を発揮するには、FexCo1-x(0.25<x<0.55)である必要がある。これは、Fe単体ではα−γの相の転移温度が低く、キュリー点が低下するためである。一方Co単体時よりFeCo合金のほうが高い磁束飽和密度を示すことが知られている。結晶構造は、高い結晶磁場異方性を持つbct(体心正方晶)構造が本来望ましいが、今のところ、安定したbct構造のFeCo合金を合成したという報告はない。一方、bcc構造は、バルク化可能な材料の中で最も高い飽和磁束密度を示し、本発明で採用したプロセスでもbcc構造が生成されることが明らかになっている。
【0012】
合成時には、還元を満たす条件が完全でないと不均化反応により、磁束飽和密度を低下させるフェライト成分が生成されることがある。また、不均化反応以外でも微小な金属粒子は常に酸化する可能性がある。これによってもフェライト成分が生成される。但しフェライト成分は水素雰囲気中で300℃〜500℃で熱成することで還元可能である。さらに、軟磁性粒子と硬磁性粒子との結晶粒界近傍には、希土類リッチ相、TbOF、NdOFなどの酸化物が形成されていてもよいため、10%程度のフェライト成分が含まれていてもよい。
【0013】
FeCo系粒子が球状の場合、粒径は20nm〜程度がよく、これより小さい場合は超磁性サイズに近づき逆に磁束飽和密度が低下していくことが知られている。一方、粒子が小さいほど合成後の粒子の回収時、保存時の酸化、凝集の制御に加え、希土類フッ化溶液の被覆処理が困難となる。そこで、本発明では短径を10〜300nm、アスペクト比を5〜50とした。
【0014】
本発明では、FeCo系粒子の結晶構造に由来する磁場異方性は期待できない。このため、配向性や焼結後の磁石全体としての異方性エネルギーとヒステリシスループの角型(残留磁化密度/磁束飽和密度)の向上のため軟磁性粒子の形状を針状とし、そのアスペクト比を5〜50としている。
【0015】
急冷法によるFeCo系粒子や、凝集したFeCo系粒子を粉砕することで扁平状の粒子が得られ、これらの粒子のアスペクト比が高いことが知られているが、硬磁性材料の粒子の形状には特に特徴はなく、扁平形状では3次元的に考えると配向性が悪くなるため、針状を採用する。
【0016】
本発明は液相法(湿式)により合成される。通常、CVD(Chemical Vapor Deposition)によるナノ粒子合成が粒径の微小でかつ不純物が含まれず良いとされる。しかし、CVDでは、粒子の回収・保存時の凝集や酸化が問題となる。凝集に関して言えば粒径20〜40nmだったものが100〜200μmの塊となる。また、酸化防止対策として炭素が被覆する方法がよく用いられるが、これは結局、不純物が含まれないというCVDの特性を損ねることになる。本発明では、これらを鑑みて液相法を用いた合成後の酸化・凝集を抑えフッ化処理を行う。
【0017】
FeCo系粒子表面にフッ素化合物を層状に形成させる手法として表面処理を利用できる。表面処理は希土類元素を1種類以上含むフッ素化合物の処理溶液を作成し、それを軟磁性粒子に塗布する手法である。処理液に必要な特性は以下のようになる。(1)磁粉表面の酸化物生成量を極力抑えること。(2)使用する磁粉と処理液との濡れ性が高いこと。(3)使用する磁粉に対する処理膜の被覆性が高く、且つ磁粉と処理材との接着性が高いこと。(4)処理膜厚が均一であること。(5)処理膜の高温安定性が高いこと。
【0018】
これらの条件を満たす処理液は、次の手法で作成することができる。まず、水溶性の希土類塩を水に溶解したものを希釈したフッ化水素酸を添加し、ゲル状フッ素化合物を作成する。次にゲル状フッ素化合物をアルコール溶媒中で超音波撹拌器により粉砕し、遠心分離を行うことで上澄みを捨てる。上澄みには軟磁性粒子の酸化を助長するイオン性成分や水が含まれているため、可能な限り除去する必要がある。また、処理溶液の塗布に関しては、磁粉表面全体に処理液が濡れる程度に、磁粉に対する一回当りの処理液添加量を極力少なくする必要がある。これは、形成された処理膜が脱落しないようにするためである。この後、硬磁性粒子やスラリーと浸透混合し200℃から400℃で加熱し溶媒を除去するが、この際、真空中(1×10-5torrの減圧下)で解砕する必要がある。この解砕を怠ると軟磁性粒子が凝集し、焼結後の分散性が低下する。
【0019】
本発明では、希土類フッ化物粒子としてTbF系を用いた。CVD法で製造された粒径30〜50nm(市販品であり、凝集により100〜200μmの塊となっているもの)のFeCo系粒子に対してTbF系膜を被覆し1050℃で熱処理したものの飽和磁化は、Fe70Co30で211emu/g、Fe50Co50で218emu/gである。一方、粒径50nmのFe50Co50ナノ粒子表面にSiO2やZrO2、Al23などの酸化物を溶液処理した場合の飽和磁化が最大205emu/gであることが報告されており、TbF系膜を被覆したFeCo系粒子がこれまでの絶縁層被覆処理FeCoナノ粒子の飽和磁化を超えた値を持つことを既に確認している。
【0020】
FeCo系粒子表面に希土類フッ素化合物を層状に形成させる手法として、液相法による合成中、希土類塩とフッ化剤を投入する方法を採用できる。この場合、FeCo系粒子がある程度成長したのち、希土類塩とフッ化剤を投入し希土類フッ素化合物相を成長させる必要がある。この手法は、溶液中で軟磁性粒子表面の希土類フッ素化合物相を成長させるため、個々の粒子の被覆率と被覆膜の膜厚の均一化の制御が可能である。
【実施例1】
【0021】
前駆体は、Fe塩として塩化鉄II四水和物(Fe(Cl)2・4H2O)、Co塩として酢酸コバルト(II)四水和物(Co(CH3COO)2・4H2O)を用いる。還元剤としてエチレングリコール(以下EG)を用いる。EGは溶媒としても使用することができる。EGはモリキュラーシーブスにより脱水し、水分含有量を50ppm程度とした。EGは、2C662→C24O+2H2Oのように脱水反応によりアセトアルデヒドとなる。アセトアルデヒドは、2C24O→C462+H2のように縮合しジアセチルが生成されるが、この際に電子が生じる。この電子により金属イオンを還元し金属粒子が得られる。また、アルデヒド基はNaOHの添加により生成が促進することが知られているため、NaOHを添加する。更に、還元剤としてジメチルアミン−ボラン((CH3)2NH・BH3)を添加した。本実施例では、EGを300ml、Fe錯体を0.008mol/L、Co錯体を0.002mol/L、NaOHを0.2mol/L、ジメチルアミンボランを0.001mol/Lそれぞれ用い、140℃で300〜500mTの磁場をかけて7時間保温する。室温から120℃までは1時間かけて昇温する。7時間の保温後は、EGに気化性防錆であるベンゾトリアゾール(C653)を0.02mol/L投入し、さらに1時間保温した。粒子を合成した後はモリキュラーシーブスで脱水したメタノールで数回置換することで洗浄し、短径10〜20nm、長径50〜200nmのbccと僅かにfccとが混相したFeCo合金粒子メタノールが混合したスラリーが得られる。
【0022】
図1はスラリーを加熱乾燥させたFeCo合金粒子の走査型電子顕微鏡写真である。このFeCo系粒子を含有するスラリーにフッ化物溶液を混合する。フッ化物溶液は、Tb(CH3COO)3・4H20を水に溶解し、希釈したフッ化水素酸(HF)を徐々に添加後、ゲル状沈殿した溶液を超音波攪拌器を用いて攪拌した。これを遠心分離し上澄み液を除去後、メタノールを加え攪拌して処理液とした。この溶液をTbF系膜の塗布量が上記FeCo系粒子に対して2wt%となるように添加し、硬磁性材料である(Nd0.7Dy0.3)2Fe14B粉と1:10の重量比で浸透混合した。
【0023】
このように作成された複合磁性材料を磁場中で仮成形後に溶媒除去し、焼結(900℃)、時効処理、急冷(500℃近傍の温度で20℃/秒の冷却速度)後、磁場中成形時の磁場印加方向に着磁して焼結磁石を得た。
【0024】
結晶粒界には、Fe及びCoを含有する希土類リッチ相、TbOF、NdOF、NdF2などの酸化物やフッ素含有相が形成されており、(Nd0.7Dy0.3)2Fe14Bの粒界近傍にはTbの偏在がみられた。焼結体の(Nd0.7Dy0.3)2Fe14B(Nd2Fe14B系粒子)とFeCo系粒子間の粒界相には平均で0.2〜50%のFe及び0.1〜50%のCoが認められる。
【0025】
粒界相は上記酸化物やフッ素含有相である。粒界相のFeやCo含有濃度が0.1%未満の場合、(Nd0.7Dy0.3)2Fe14B(Nd2Fe14B系粒子)とFeCo系粒子間の磁気結合が弱くなるため残留磁束密度は増加しない。また50%を超えるFeやCoが上記粒界相に含有すると粒界相が軟磁性的な磁気特性を示し保磁力が著しく低下することから、50%以下が望ましい。
【0026】
粒界近傍のTb偏在は主相((Nd0.7Dy0.3)2Fe14B)の結晶磁気異方性エネルギーを増加させ保磁力が増加し、結晶粒界のFeCo合金相と強磁性結合により磁化反転を抑制しており、(Nd0.7Dy0.3)2Fe14BとFeCo系粒子間の粒界相に平均で0.2%Fe及び0.1%Co含有する場合、(Nd0.7Dy0.3)2Fe14Bと比較し磁気特性の向上が見られた。CVD法で製造された粒径30〜50nm(市販品)のFeCo系粒子に同じ手法で希土類フッ化合物を塗布して作製した複合磁性材料からなる焼結磁石と比較すると残留磁束密度1.5Tが1.7Tと増加が確認された。なお、保磁力は17.8kOeから18.3kOeとやや微増した。キュリー温度は550〜780℃であり変化は見られなかった。
【0027】
【表1】

【0028】
図2はFeCo系粒子のヒステリシス曲線である。また、表1はFeCo系粒子のX線回折パターンから算出した主要ピーク積分強度比を示す。上記手法では、希土類フッ化物を被覆した軟磁性粒子の単体では磁束飽和密度は、209emu/gとなり、結晶構造はbccとなった。Fe:Coの重量比は、エネルギー分散型蛍光X線分析によりFe:Co=67:33であった。洗浄で洗いきれなかった溶液由来の非磁性成分は、原子吸光分光装置による分析から全体の5〜9wt%であった。透過型電子顕微鏡の像から求めた100個の粒子のアスペクト比は15〜50であり、長径の変動係数は約0.15となった。なお、Fe塩、Co塩は、それぞれ、硫酸鉄(II)七水和物(FeSO4・7H2O)、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO3)3・9H2O)、硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO3)2・6H2O)、コバルト(II)アセチルアセトナート二水和物(Co(C572)・2H2O)などでも代用でき、溶液はプロピレングリコール(C382)、ジエチレングリコール(C4103)、トリメチレングリコール(C6144)などのグリコール類でも代用できる。また、気化性防錆剤としては、チアゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピロール、ピラゾール系の窒素含有複素環類を用いることができる。
【0029】
本実施例で使用したFeCo系粒子とフッ化物溶液とを混合したスラリーはアルコール溶媒中にFeCo系粒子が1〜50wt%、希土類フッ化物粒子を0.001〜10wt%含有し、FeCo系粒子の粒径が20〜200nm、希土類フッ化物粒子の粒径が1〜50nmである。本スラリーはNd2Fe14B系粉と混合、磁場中で成形後に焼結することで、残留磁束密度、保磁力及び最大エネルギー積いずれも増加させることが可能である。
【0030】
次に上記スラリーの仕様について説明する。FeCo系粒子は1wt未満の場合、Nd2Fe14B系粉の飽和磁化よりも高い磁性相成分が少なくなるため、残留磁束密度を増加させることが困難となる。またFeCo系粒子が50wt%よりも多くなると仮成形時の磁界方向がFeCo系粒子の配列に依存して乱れ、Nd2Fe14B系粉の配向に乱れが生じ、減磁曲線の角型性が低下する。このことから、FeCo系粒子の濃度は1〜50wt%が望ましい。
【0031】
また、上記スラリー中の希土類フッ化物粒子の含有量が0.001wt%未満では偏在して保磁力増大に寄与する希土類元素が不足し、保磁力増大が認められない。0.001wt%のTbF系粒子で1kOeの保磁力増加が可能であり、10wt%を超えると酸フッ化物などの非磁性化合物が形成し易いため最大エネルギー積が低下する傾向が確認される。
【0032】
さらに上記スラリー中のFeCo系粒子の粒径が20nm未満では粒子の凝集が不可避でありNd2Fe14B系粉との磁気結合が小さくなり残留磁束密度が低下する。20〜200nmの範囲でCoが0.1から50%である場合は、残留磁束密度が0.01〜0.3Tの範囲で増加する。FeCo系粒子の粒径が200nmを超えると表面に塗布される希土類フッ化物粒子の厚さが厚くなり、Nd2Fe14B系粉との静磁結合が弱くなるために保磁力が小さくなる。したがってFeCo系粒子の粒径は20〜200nmが望ましい。FeCo系粒子の構造はbccやfcc構造の結晶である。
【0033】
上記スラリー中の希土類フッ化物粒子の粒径が1nm未満では容易に酸フッ化物が成長し希土類元素が酸フッ化物から粒界近傍に拡散することが困難となるため、保磁力増加効果が小さくなる。また、50nmを超えると粒界三重点に希土類元素が集中し、粒界に沿ったスラリー中の希土類元素の偏在化が困難となる。したがって、スラリー中の希土類フッ化物粒子の粒径は1〜50nmが望ましい。希土類フッ化物粒子には非晶質が1%から90%の範囲でフッ化物結晶と混合している。流動性を確保するために非晶質が1%以上必要であり、非晶質が90%を超えるとフッ化物の構造が不安定となるためスラリーの仕様を安定にすることが困難である。従って、スラリーは非晶質の希土類フッ化物粒子及び結晶質のFeCo系粒子が混合されたアルコール系溶液である。
【0034】
上記スラリーは流動性があり、Nd2Fe14B系粉との混合工程以外に焼結磁石ブロック表面に塗布拡散させることが可能である。また、スラリーのような固体粒子と液体の不均一な混合物ではなく、上記と同じ材料系のコロイドのような微小粒子が均一に分散した液体であっても良い。
【0035】
上記スラリーまたはコロイドなどの混合溶液は、FeCo系粒子と希土類フッ化物粒子が混合されており、一部のFeCo系粒子表面には希土類フッ化物粒子膜が成長している。FeCo系粒子の粒径が希土類フッ化物粒子の粒径よりも大きくすることで、希土類フッ化物粒子がFeCo系粒子径よりも小さい幅をもった粒界が形成され、希土類元素が粒界近傍に偏在することで残留磁束密度及び保磁力が増加する。溶液あるいは乾燥した溶液をX線回折測定するとFeCo系結晶の回折ピーク半値幅は、希土類フッ化物粒子の回折ピーク半値幅よりも小さくなる。これはFeCo系結晶の結晶子が希土類フッ化物粒子の結晶子よりも大きいことを示しており、このような溶液を使用してNd2Fe14B系焼結磁石を作成することにより最大エネルギー積及び保磁力が増加可能である。
【0036】
この混合溶液において、FeCo系粒子の粒径が希土類フッ化物粒子の粒径以下の場合にはFeCo系粒子の表面に酸フッ化物が成長し易く、かつFeCo系粒子表面が酸化し易いために磁化が減少し易くなり、保磁力は増加する傾向があるが残留磁束密度が減少する。このため最大エネルギー積も減少する。
【実施例2】
【0037】
EGを300mlに対し、塩化鉄II四水和物(Fe(Cl)2・4H2O)を0.045mol/L、酢酸コバルトII四水和物(Co(CH3COO)2・4H2O)を0.005mol/L、NaOHを0.2mol/Lを添加した。室温から140℃までは1時間かけて昇温し、140℃で3時間保温する。その後。[Fe(H2O)6]2+、[Fe(H2O)4(OH)2]等の水酸化物の生成を防ぐため、2、2′−ビピリジル(C1082)を0.02mol/L添加した。室温まで冷やすと赤色の粒子が析出するが、これを水で洗浄し、ビピリジル配位子を外した。これにより短径20〜50nm、長径0.5〜2.0μmのマグネタイトを得る。
【0038】
図3はFeCo合金粒子の走査型電子顕微鏡写真である。上述のマグネタイトを水素雰囲気中で300℃で熱成することで、bcc構造のFeCo系粒子を得た。この粒子に対して実施例1で示した手法で希土類フッ化物粒子を被覆し、キュリー点が900℃を超えるFeCo系粒子を得た。
【0039】
【表2】

【0040】
図4はFeCo系粒子のヒステリシス曲線である。また、表2はFeCo系粒子のX線回折パターンから算出した主要ピーク積分強度比を示す。磁束飽和密度は、195emu/gとなり、結晶構造はBCCとなった。Fe:Co重量比は、エネルギー分散型蛍光X線分析によりFe:Co=70:30であった。洗浄で洗いきれなかった溶液由来の非磁性成分は、原子吸光分光装置による分析から全体の11〜15wt%であった。透過型電子顕微鏡の像から求めた100個の粒子の変動係数は約0.13、アスペクト比は5〜30となった。実施例1で示した手法により作成された焼結磁石は、市販品を用いたものを比較すると保磁力とキュリー温度にも変化は見られないが、残留磁束密度が16.5Tと増加が確認された。
【実施例3】
【0041】
前駆体は、Fe塩として鉄(III)アセチルアセトネート(Fe(C572)3)を0.07mol/L、Co塩としてコバルト(II)アセチルアセトナート(Co(C572)2)を0.03mol/L用いる。溶媒としてフェニルエーテル(C1210O)を100mlに保護剤としてオレイルアミン(C1837N)を5ml、オレイル酸(C18342)を6ml、還元剤として1、2−ヘキサデカンジオール(C16342)を0.15mol/L加える。合成中に磁場を300〜500mTをかけ、キャリアガスとしてArを流入させながら240℃で1時間保温した後、Tb(CH3COO)3・4H2Oとフッ化アンモニウムをそれぞれ、0.01mol/L、0.015mol/L投入し、更に2時間保温した。これによりTbFを被覆した短径約20nm、長径約0.5μmのBCC構造を持つFeCo系粒子が得られた。キュリー点は900℃を超え、磁束飽和密度は、172emu/gとなった。Fe:Co重量比は、エネルギー分散型蛍光X線分析によりFe:Co=65:35であった。洗浄で洗いきれなかった溶液由来の非磁性成分は、原子吸光分光装置による分析から全体の21〜26wt%であった。透過型電子顕微鏡の像から求めた100個の粒子の変動係数は約0.7、アスペクト比は20〜70となった。実施例1で示した手法により作成された焼結磁石は、市販品を用いたものを比較するとキュリー温度に変化は見られないが、残留磁束密度が1.62T、保磁力が18kOeと増加が確認された。
【0042】
本発明は、携帯電話、テレビ、船舶・飛行機に用いられる電子機器を高周波から守るために使用される電磁波吸収体の材料としても、使用可能である。高周波数(>GHz)での電磁波吸収率は、高周波数での透磁率と以下の関係がある。

【0043】
ここで、μ[H/m]:材料の透磁率、ω[sec-1]:電磁波の角速度、H[A/m]:放射電磁場の磁界強度である。本発明のFeCo系粒子の特徴はそれぞれ、下記パラメータ向上に寄与する。(1)フェライト成分が少ないBCC構造を有する金属系材料の使用による高磁束飽和密度化。(2)高アスペクト比に起因した形状磁気異方性磁界による共鳴周波数の高周波化。(3)粒子の厚さの縮小による表皮効果の低減。(4)粒子形状の均一化、及びフェライト成分の削減(低周波部分に共鳴ピークを持たせない)による周波数特性の向上。このため、本発明では周波数特性の良い高透磁率が得られ、高周波数(>GHz)用の電磁波吸収体としても有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeCo系粒子と希土類フッ化物粒子が混合したアルコール系溶液において、
前記FeCo系粒子の粒径が前記希土類フッ化物粒子の粒径よりも大きく、
前記FeCo系粒子の粒径が20〜200nmであり、
前記希土類フッ化物粒子の粒径が1〜50nmであることを特徴とするアルコール系溶液。
【請求項2】
請求項1に記載のアルコール系溶液において、
前記FeCo系粒子を1〜50wt%、前記希土類フッ化物粒子を0.001〜10wt%含有することを特徴とするアルコール系溶液。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルコール系溶液において、
前記希土類フッ化物粒子の1〜90%が非晶質であることを特徴とするアルコール系溶液。
【請求項4】
請求項3に記載のアルコール系溶液において、
前記FeCo系粒子は結晶質であることを特徴とするアルコール系溶液。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のアルコール系溶液と、Nd2Fe14B系粉とを混合して焼結して製造したことを特徴とする焼結磁石。
【請求項6】
請求項5に記載の焼結磁石であって、
Nd2Fe14B系粒子とFeCo系粒子の間の粒界相に0.2〜50%のFe及び0.1〜50%のCoを有することを特徴とする焼結磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−106016(P2013−106016A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251206(P2011−251206)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】