アルコール連続生産方法
【課題】アルコール連続生産において、菌体流出を防止し、アルコール原料と酵母の接触効率を向上させて、凝集沈殿性を有する酵母のアルコール生産能力を十分に生かすことが出来るアルコール連続生産方法を提供すること。
【解決手段】発酵槽内に凝集沈殿性を有する酵母を存在させ、発酵槽にアルコール原料を供給してアルコール発酵を行う際に、発酵槽下方に強制的な液流を発生させてアルコールを生産するアルコール連続生産方法であって、菌体の界面が形成されている状態でアルコール発酵することを特徴とする。
【解決手段】発酵槽内に凝集沈殿性を有する酵母を存在させ、発酵槽にアルコール原料を供給してアルコール発酵を行う際に、発酵槽下方に強制的な液流を発生させてアルコールを生産するアルコール連続生産方法であって、菌体の界面が形成されている状態でアルコール発酵することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール連続生産方法に関し、詳しくは、凝集沈殿性を有する酵母を用いたアルコール連続生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、サッカロマイセス属セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AM12菌株(以下、必要によりAM12菌株と称する)からなる酵母を用いたアルコールの生産方法が開示されており、AM12菌は優れたアルコール生産能とアルコール耐性、凝集沈降性を有するという記載がある。
【特許文献1】特開昭59−135896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アルコールの連続生産では、発酵槽に連続的にアルコール原料を供給して酵母によりアルコール発酵を行い、一方で得られたアルコール培養液を発酵槽から引き抜いている。菌体リサイクル(再利用)のないアルコール連続生産では、アルコール培養液中の菌体は発酵槽に戻されることはない。
【0004】
発酵槽内では、アルコール原料と酵母の接触回数が多いほど反応効率が上がるので、攪拌等で完全混合することが好ましい。しかし、完全混合すれば、アルコール培養液を発酵槽から引き抜く際に、高濃度の酵母が一緒に抜き出されて、発酵槽内の菌体濃度が減少してしまう。
【0005】
アルコール培養液の引き抜き量に対して、酵母の増殖量が少なければ、流出した菌体分を補うことができないので、発酵槽内に存在する酵母の菌体量が減少し、アルコール原料と酵母の接触回数は酵母の減少により大幅に低下して、アルコール生成反応の効率が低下する問題がある。
【0006】
一方、発酵槽内を攪拌しなければ、凝集沈降性を有する酵母は沈降し、発酵槽底部に沈積してしまう。菌体は沈降が進むと、所定時間経過後は沈降領域から圧密領域に入るので、底部に菌体の層ゾーン(圧密ゾーン)が形成される。発酵槽の底部からアルコール原料を供給すると、この層ゾーンをアルコール原料が通過して、アルコール原料と酵母の接触が生じることになるが、かかる層ゾーンでの接触では圧密されていること、及びアルコール原料に対して酵母菌体量が過剰であることからアルコール原料と酵母の反応効率は極端に悪くなる問題がある。
【0007】
特に、AM12菌は、高いアルコール生産性とアルコール耐性を示す一方で、菌体の増殖能力が低いという特徴があり、上記問題が顕著に見られる。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、本発明の課題は、アルコール連続生産において、菌体流出を防止し、アルコール原料と酵母の接触効率を向上させて、凝集沈殿性を有する酵母のアルコール生産能力を十分に生かすことが出来るアルコール連続生産方法を提供することにある。
【0009】
また本発明の他の課題は、以下の記載により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0011】
(請求項1)
発酵槽内に凝集沈殿性を有する酵母を存在させ、発酵槽にアルコール原料を供給してアルコール発酵を行う際に、発酵槽下方に強制的な液流を発生させてアルコールを生産するアルコール連続生産方法であって、
菌体の界面が形成されている状態でアルコール発酵することを特徴とする高濃度アルコール連続生産方法。
【0012】
(請求項2)
前記界面が、発酵槽内のアルコール発酵液に形成される、酵母菌体の濃度が高い層と低い層の、層の境目として観察できることを特徴とする請求項1記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0013】
(請求項3)
前記凝集沈殿性を有する酵母が、サッカロマイセス属セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AM12菌株であることを特徴とする請求項1又は2記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0014】
(請求項4)
前記発酵槽内の平均酵母菌体濃度が、20〜33g(乾燥重量)/Lであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0015】
(請求項5)
前記界面より上のアルコール発酵液に含まれる酵母菌体の濃度が14g(乾燥重量)/L未満であり、界面より下の部分の平均酵母菌体の濃度が、31〜38g(乾燥重量)/Lであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0016】
(請求項6)
前記界面の有無を、前記発酵槽の側面に形成される覗き窓から目視して判断することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0017】
(請求項7)
前記界面の有無を、前記発酵槽の液面の上方に設けた発酵素子と受光素子を用いて測定することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0018】
(請求項8)
前記界面の有無を、前記発酵槽内のアルコール発酵液の液面から下方に向かって高さ方向に複数設けた濁度計によって検出することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0019】
(請求項9)
前記発酵槽下方に液流を強制的に発生させる手段が、主として攪拌機の回転によることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、菌体流出を防止し、アルコール原料と酵母の接触効率を向上させて、凝集沈殿性を有する酵母のアルコール生産能力を十分に生かすことが出来る高濃度アルコール連続生産方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者らは、アルコール連続生産方法において、凝集沈殿性を有する酵母を用いて、発酵槽下方の強制的な液流を調整すると、発酵槽内に、攪拌等に由来する液流によって菌体が舞い上がる働きと、酵母の持つ凝集沈殿性によって菌体が凝集沈降する働きとによって、菌体濃度の異なる二つの層が形成され、その層の境目が界面として観察できることを見出した。
【0022】
この界面より下の菌体濃度が高い領域は、凝集沈降による圧密領域とは異なり、界面下の菌体濃度と界面上の菌体濃度が極端に違うものであり、この界面の形成されている状態では、アルコール原料の発酵反応を阻害せず却って反応を促進することを見出した。またかかる攪拌下での界面が存在する場合には、その界面の上部の発酵液を引き抜けば菌体流出を防止でき、アルコール原料と酵母の接触効率を向上させて、AM12菌のアルコール生産能力を十分に生かすことが出来ることを見出した。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0024】
図1において、1は発酵槽であり、アルコール原料は発酵槽1の底部の原料供給口10から供給される。発酵槽1内には凝集沈殿性を有する酵母が入れられている。
【0025】
原料供給口10から発酵槽1内に例えば連続的にアルコール原料が供給されると、酵母によってアルコール発酵され、アルコール発酵液が得られる。アルコール発酵液は、排出口11から引き抜かれる。なお、アルコール原料は発酵槽の底部から供給されれば供給の方法は限定されず、原料供給口10の設置は一例を示したに過ぎない。同様にアルコール発酵液の引き抜きも上部から引き抜くものであればその引き抜き方法は限定されない。
【0026】
本発明において、アルコール連続生産というのは、発酵槽にアルコール原料である糖液を例えば連続的に供給しながら、一方で、生成物を例えば連続的に取り出すことをいう。従って、アルコール原料を供給するのが不連続であっても、時間当たりの供給量が実質的に一定していればよい。
【0027】
また、本発明のアルコール連続生産においては、発酵槽から菌体の流出を抑制しているが若干の菌体は流出する可能性がある。しかし、かかる菌体流出によって発酵槽内の菌体濃度が減少することは防止されている。本発明では界面が観察される状態、つまり発酵槽の上下方向で濃度が異なる層が形成されているため発酵槽内での菌体増殖量は流出量に比べれば圧倒的に多く、菌体を常時発酵槽に追加していくことは基本的に意図していない。しかし、種菌として追加することはあるだろうし、若干流出した菌体を分離して発酵槽内に返送することは本発明の効果を何等阻害するものでない。
【0028】
本発明において、発酵槽1内のアルコール発酵液には、攪拌などによって液流が生じている状態であっても界面が形成されている状態でアルコール発酵を行うことを大きな特徴とする。
【0029】
界面とは、アルコール発酵液内に観察される、濁度(透明度)、或いは色相が異なる二つの層の境目に形成される線状の境界面である。なお、線状の境界は、発酵槽を横方向から観察したときにみられるものであり、直線でなくてもよい。
【0030】
各層はアルコール発酵液中に含まれる酵母菌体濃度が劇的に異なっているので、濁度(透明度)、或いは色相が異なる二つの層として認められるものである。
【0031】
例えば、界面より上ではアルコール発酵液自体の色が観察され、濁度は低く、界面より下は酵母菌体が多いため不透明で濁度が高くなるので、AとBの差が明確にわかり、目視にて界面の有無を観察することが出来る。
【0032】
界面より上(A)は、酵母菌体の濃度が極端に低い層であり、界面より下(B)は、酵母菌体の濃度が高い層である。
【0033】
菌体濃度で定量的に表現すれば、発酵槽内のアルコール発酵液中の平均酵母菌体濃度(完全混合状態の時に測定される菌体濃度であり、発酵槽内の全酵母菌体量(乾燥重量:g)を発酵槽内のアルコール発酵液量(L)で除した値に等しい)は、好ましくは20〜33g(乾燥重量)/L、より好ましくは25〜32g(乾燥重量)/L、更に好ましくは、26〜31g(乾燥重量)/Lであり、それに対して、界面より上にある、酵母菌体濃度が低い層(A)の酵母菌体濃度は、好ましくは14g(乾燥重量)/L未満、より好ましくは10g(乾燥重量)/L未満、更に好ましくは7g(乾燥重量)/L未満であり、界面より下にある酵母菌体濃度が高い層(B)の酵母菌体濃度は、好ましくは31〜38g(乾燥重量)/L、より好ましくは32〜37g(乾燥重量)/L、更に好ましくは33〜36g(乾燥重量)/Lである。
【0034】
界面は、アルコール発酵液を抜き取る排出口11よりも下方に形成されていることが重要である。そうすると、菌体濃度が低い層からアルコール発酵液が抜き取られるため、酵母菌体の流出を抑制することができる。
【0035】
含まれる酵母菌体濃度が違うことから、当然酵母菌体濃度が低い層(A)と酵母菌体濃度が高い層(B)では、酵母菌体濃度が高い層(B)の方が、アルコール生産性は高い。そのため、界面より酵母菌体濃度が高い層(B)が占める割合が高い方が生産性は向上する。
【0036】
すなわち、界面が、前記発酵槽内のアルコール発酵液の液面から下方に向かって0.1H〜0.8H(H:液面高さ)の深さ領域に形成され、好ましくは0.2H〜0.6H、より好ましくは0.2H〜0.5Hに形成されている、あるいは酵母菌体濃度が高い層(B)がアルコール発酵液の体積Vの20〜90%、好ましくは40〜80%、より好ましくは50〜80%を占めており、発酵槽の底側(下方)に形成されていることが望ましい。
【0037】
図1には、界面が形成される高さ方向の好ましい位置が示されている。
【0038】
円筒状の発酵槽など、断面積が一定の発酵槽においては、界面が観察される位置は、前記発酵槽内のアルコール発酵液の液面から下方に向かって0.1H〜0.8H(H:液面高さ)の深さ領域に形成され、好ましくは0.2H〜0.6H、より好ましくは0.2H〜0.5Hの深さ領域が望ましい。
【0039】
界面が0.1H〜0.8H、好ましくは0.2H〜0.6H、より好ましくは0.2H〜0.5Hの深さ領域に形成されているときは、攪拌と沈降のバランスが取れている状態であり、発酵槽1内の菌体濃度を高く維持し、かつアルコール原料との接触効率が良いので、エタノール生産性を高くすることができる。
【0040】
界面の位置が0.1Hより上である場合は、ほとんど完全混合に近い場合であり、そうすると、排出口11から菌体が流出しやすくなり、発酵槽内の菌体量が少なくなるのでアルコール生産性が落ちてしまい好ましくない。
【0041】
また、界面の位置が0.8Hより下である場合は発酵槽内の菌体は、発酵槽底部に沈積しはじめ、沈降領域や圧密領域ゾーンが形成される。発酵槽の底部からアルコール原料を供給していても、これらの沈降領域や圧密領域ではアルコール原料に対して酵母が多すぎるためアルコール原料と酵母の反応効率は極端に悪くなり、これもアルコール生産性を低下させるので好ましくない。
【0042】
なお、界面が観察されない状態とは、完全混合による場合、あるいは発酵槽中の菌体量が少なすぎて濃度差がわからない状態などが考えられるが、いずれも本発明のアルコール生産方法を行う上では好ましくない状態である。
【0043】
図2は、酵母菌体の濃度が高い層(B)が、アルコール発酵液の体積Vに占める割合で好ましい界面の位置を示したものである。界面は、酵母菌体濃度が低い層(A)と酵母菌体濃度が高い層(B)の境目に形成されるものであるから、発酵槽の底側(下方)に形成されている酵母菌体濃度が高い層(B)の割合をアルコール発酵液の体積Vの20〜90%、好ましくは40〜80%、より好ましくは50〜80%とすることで、界面の形成される位置が規定できる。なお、酵母菌体の濃度が高い層(B)の体積をv1とし、酵母菌体濃度が低い層(A)をv2とすると、V=v1+v2である。
【0044】
体積の概念で菌体濃度が高い層を設定すると、発酵槽の断面積が一定でない形状をし、高さによる規定が難しい場合にも対応することができる。
【0045】
本発明において、酵母菌体の高い層(B)の体積v1がアルコール発酵液の体積Vの90%より多くを占めるようになると、完全混合に近い場合であり、そうすると、排出口11から菌体が流出しやすくなり、発酵槽内の菌体量が少なくなるのでアルコール生産性が落ちてしまい好ましくない。
【0046】
また、酵母菌体の高い層(B)の体積v1がアルコール発酵液の体積Vの20%より少ないと、発酵槽内の菌体は、発酵槽底部に沈積しはじめ、沈降領域や圧密領域ゾーンが形成される。発酵槽の底部からアルコール原料を供給していても、これらの沈降領域や圧密領域ではアルコール原料に対して酵母が多すぎるためアルコール原料と酵母の反応効率は極端に悪くなり、これもアルコール生産性を低下させるので好ましくない。
【0047】
本発明では、アルコール発酵液の供給によって生じる液流の他に、発酵槽下方に強制的な液流を発生する手段が設けられ、液流を強制的に発生させる手段は、主として攪拌機の回転によるものが好ましい。即ち、攪拌機だけでもよいし、攪拌機と空気曝気の併用のいずれでも良いが、制御の便宜性を考慮すれば攪拌機のみによることが好ましい。
【0048】
図1や図2の例では、攪拌羽根を持つ攪拌機12が攪拌手段として示されている。
【0049】
界面の位置は、上記の好ましい領域に形成されるように攪拌の強度等、連続発酵の運転条件を適宜変更することで維持できる。
【0050】
界面は、液流によって菌体を巻き上げる働きが強くなると上昇し、巻き上げる働きが弱くなると沈降が進行するため下降する。
【0051】
例えば、攪拌機の回転を上げれば界面は上昇する。
【0052】
また、アルコール原料や空気の供給が多くなることによって、上昇流が起きれば界面は上昇する。
【0053】
また、完全混合状態のときに攪拌機の回転を停止あるいは回転を下げれば界面が形成される。
【0054】
界面の有無の観察については、酵母菌体濃度が低い層(A)と酵母菌体濃度が高い層(B)に色相あるいは透明度の違いがあるので、目視にて観察することが出来る。
【0055】
ステンレス製など、不透明の発酵槽の場合は、図3のように発酵槽101に覗き窓(観察窓)102を設け、界面の有無を観察することが出来る。
【0056】
他に、前記界面の有無は、発酵槽内のアルコール発酵液の液面から下方に向かって、上下方向に位置が異なる2つ以上の濁度計を設けて菌体濃度を測定し、確認することもできる。
【0057】
さらに、界面の有無を、前記発酵槽の液面の上方に設けた発光素子と受光素子を用い、発光素子からの光を界面で反射させその反射光を受光素子で受けて光量変化を求めて測定することもできる。
【0058】
凝集沈殿性を有する酵母としては、攪拌が行われていても、界面が形成される沈降性を備えた酵母であれば構わないが、好ましくは、サッカロマイセス属セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AM12菌株(AM12菌)からなる酵母が用いられる。
【0059】
AM12菌は、工業技術院生物工業研究所 微生物工業技術研究所(現:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD))に、微工研受託番号第6749号として寄託されており、入手できる。
【0060】
本発明で用いるアルコール原料は、穀物由来の原料が好ましく、例えば米、麦、イモなどは糖濃度が高いので好ましい例として挙げられる。糖濃度としては、穀物原料の糖化反応効率の観点から、グルコース換算で100〜300g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは150〜200g/Lの範囲である。
【0061】
希釈率(アルコール原料供給速度を培養体積で割った値)は好ましくは0.1〜0.3の範囲であり、より好ましくは0.14〜0.18の範囲である。
【0062】
アルコール生産において、負荷は、希釈率とアルコール原料中の糖濃度から計算できる。
【0063】
本発明の界面を形成させるアルコール生産方法によって、菌体の流出を抑え、発酵槽内の菌体量を多く維持することで、凝集沈殿性を有する酵母、好ましくはAM12菌は高負荷の連続アルコール生産にも対応できるようになり、結果としてアルコール生産性を上げることができる。
【0064】
本発明において、発酵槽内に空気供給管を設けることも好ましい。
【0065】
空気量は酸素補給の意味で0.1〜0.2(vvm)が好ましく、より好ましくは0.125〜0.17(vvm)の範囲である(vvm:volume gas / (volume liquid / minute))。酵母の菌体増殖を促す上では、アルコール発酵を阻害しない範囲で、できるだけ多くの空気を供給できることが好ましい。
【0066】
発酵槽内の培養液の温度は、酵母の至適発酵温度の観点から、40℃以下が好ましく、より好ましくは30〜35℃の範囲である。温度調節には、ヒーターおよび冷却器などの調節手段を採用できるが、格別限定されない。
【0067】
pHは、酵母の至適pHの観点から、3〜7の範囲が好ましく、より好ましくは3.5〜5.0の範囲である。pH調整手法としては、pHメータで計測したデータに基づきpH調整剤を連続的に供給してpHを調整するpH制御システムを採用することができる。
【実施例】
【0068】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0069】
発酵槽にアルコール原料(グルコース)を供給すると共に、供給する原料と同じ速度で発酵液(培養液)を抜き出し、連続発酵を菌体リサイクルなしで行った。以下の実験では、発酵槽内に存在するAM12菌酵母菌体は、単に菌体ともいう。
【0070】
発酵槽は、図1に示す構成をしており、直径126mm、発酵槽内の液量は、1000mL(発酵槽の底から約85mm)であり、回転数を変更可能な攪拌羽根(4枚板羽根:攪拌翼の回転最大径64mm、各羽の大きさは15×12mm)が設けられている。
【0071】
なお、希釈率、攪拌機の回転数以外の発酵槽の運転条件は、温度30℃、pH5、通気量0.15vvm、アルコール原料中の糖濃度は、200g/Lである。
【0072】
実施例1
希釈率を0.18、攪拌機の回転数を50rpmと設定し連続発酵を行った。
界面が0.42Hに形成された。エタノール生産性は17.8g/L/hだった。
【0073】
実施例2
希釈率を0.14、攪拌機の回転数を150rpmと設定し連続発酵を行った。
界面が0.23Hに形成された。エタノール生産性は12.2g/L/hだった。
【0074】
比較例1
希釈率を0.18、攪拌機の回転数を200rpmと設定し連続発酵を行った。
完全混合状態となり、菌体流出がおきてエタノール生産性が著しく低下した。
【0075】
比較例2
希釈率を0.18、攪拌機の回転数を10rpmと設定し連続発酵を行った。
界面が0.95Hに形成された。エタノール生産性は10g/L/hだった。
【0076】
なお、本実施例の発酵槽は円柱状であることから、実施例1の0.42H、実施例2の0.23Hに形成された界面より下に形成されたB層は、v1の範囲を満たしている。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】界面が形成される好ましい位置を高さで示している模式図
【図2】界面が形成される好ましい位置を酵母菌体濃度の高い層(B)の体積で示している模式図
【図3】界面観察窓を設けた発酵槽の概略図
【符号の説明】
【0078】
1:発酵槽
10:原料供給口
11:排出口
12:攪拌機
101:発酵槽
102:観察窓
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール連続生産方法に関し、詳しくは、凝集沈殿性を有する酵母を用いたアルコール連続生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、サッカロマイセス属セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AM12菌株(以下、必要によりAM12菌株と称する)からなる酵母を用いたアルコールの生産方法が開示されており、AM12菌は優れたアルコール生産能とアルコール耐性、凝集沈降性を有するという記載がある。
【特許文献1】特開昭59−135896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アルコールの連続生産では、発酵槽に連続的にアルコール原料を供給して酵母によりアルコール発酵を行い、一方で得られたアルコール培養液を発酵槽から引き抜いている。菌体リサイクル(再利用)のないアルコール連続生産では、アルコール培養液中の菌体は発酵槽に戻されることはない。
【0004】
発酵槽内では、アルコール原料と酵母の接触回数が多いほど反応効率が上がるので、攪拌等で完全混合することが好ましい。しかし、完全混合すれば、アルコール培養液を発酵槽から引き抜く際に、高濃度の酵母が一緒に抜き出されて、発酵槽内の菌体濃度が減少してしまう。
【0005】
アルコール培養液の引き抜き量に対して、酵母の増殖量が少なければ、流出した菌体分を補うことができないので、発酵槽内に存在する酵母の菌体量が減少し、アルコール原料と酵母の接触回数は酵母の減少により大幅に低下して、アルコール生成反応の効率が低下する問題がある。
【0006】
一方、発酵槽内を攪拌しなければ、凝集沈降性を有する酵母は沈降し、発酵槽底部に沈積してしまう。菌体は沈降が進むと、所定時間経過後は沈降領域から圧密領域に入るので、底部に菌体の層ゾーン(圧密ゾーン)が形成される。発酵槽の底部からアルコール原料を供給すると、この層ゾーンをアルコール原料が通過して、アルコール原料と酵母の接触が生じることになるが、かかる層ゾーンでの接触では圧密されていること、及びアルコール原料に対して酵母菌体量が過剰であることからアルコール原料と酵母の反応効率は極端に悪くなる問題がある。
【0007】
特に、AM12菌は、高いアルコール生産性とアルコール耐性を示す一方で、菌体の増殖能力が低いという特徴があり、上記問題が顕著に見られる。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、本発明の課題は、アルコール連続生産において、菌体流出を防止し、アルコール原料と酵母の接触効率を向上させて、凝集沈殿性を有する酵母のアルコール生産能力を十分に生かすことが出来るアルコール連続生産方法を提供することにある。
【0009】
また本発明の他の課題は、以下の記載により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0011】
(請求項1)
発酵槽内に凝集沈殿性を有する酵母を存在させ、発酵槽にアルコール原料を供給してアルコール発酵を行う際に、発酵槽下方に強制的な液流を発生させてアルコールを生産するアルコール連続生産方法であって、
菌体の界面が形成されている状態でアルコール発酵することを特徴とする高濃度アルコール連続生産方法。
【0012】
(請求項2)
前記界面が、発酵槽内のアルコール発酵液に形成される、酵母菌体の濃度が高い層と低い層の、層の境目として観察できることを特徴とする請求項1記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0013】
(請求項3)
前記凝集沈殿性を有する酵母が、サッカロマイセス属セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AM12菌株であることを特徴とする請求項1又は2記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0014】
(請求項4)
前記発酵槽内の平均酵母菌体濃度が、20〜33g(乾燥重量)/Lであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0015】
(請求項5)
前記界面より上のアルコール発酵液に含まれる酵母菌体の濃度が14g(乾燥重量)/L未満であり、界面より下の部分の平均酵母菌体の濃度が、31〜38g(乾燥重量)/Lであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0016】
(請求項6)
前記界面の有無を、前記発酵槽の側面に形成される覗き窓から目視して判断することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0017】
(請求項7)
前記界面の有無を、前記発酵槽の液面の上方に設けた発酵素子と受光素子を用いて測定することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0018】
(請求項8)
前記界面の有無を、前記発酵槽内のアルコール発酵液の液面から下方に向かって高さ方向に複数設けた濁度計によって検出することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【0019】
(請求項9)
前記発酵槽下方に液流を強制的に発生させる手段が、主として攪拌機の回転によることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、菌体流出を防止し、アルコール原料と酵母の接触効率を向上させて、凝集沈殿性を有する酵母のアルコール生産能力を十分に生かすことが出来る高濃度アルコール連続生産方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者らは、アルコール連続生産方法において、凝集沈殿性を有する酵母を用いて、発酵槽下方の強制的な液流を調整すると、発酵槽内に、攪拌等に由来する液流によって菌体が舞い上がる働きと、酵母の持つ凝集沈殿性によって菌体が凝集沈降する働きとによって、菌体濃度の異なる二つの層が形成され、その層の境目が界面として観察できることを見出した。
【0022】
この界面より下の菌体濃度が高い領域は、凝集沈降による圧密領域とは異なり、界面下の菌体濃度と界面上の菌体濃度が極端に違うものであり、この界面の形成されている状態では、アルコール原料の発酵反応を阻害せず却って反応を促進することを見出した。またかかる攪拌下での界面が存在する場合には、その界面の上部の発酵液を引き抜けば菌体流出を防止でき、アルコール原料と酵母の接触効率を向上させて、AM12菌のアルコール生産能力を十分に生かすことが出来ることを見出した。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0024】
図1において、1は発酵槽であり、アルコール原料は発酵槽1の底部の原料供給口10から供給される。発酵槽1内には凝集沈殿性を有する酵母が入れられている。
【0025】
原料供給口10から発酵槽1内に例えば連続的にアルコール原料が供給されると、酵母によってアルコール発酵され、アルコール発酵液が得られる。アルコール発酵液は、排出口11から引き抜かれる。なお、アルコール原料は発酵槽の底部から供給されれば供給の方法は限定されず、原料供給口10の設置は一例を示したに過ぎない。同様にアルコール発酵液の引き抜きも上部から引き抜くものであればその引き抜き方法は限定されない。
【0026】
本発明において、アルコール連続生産というのは、発酵槽にアルコール原料である糖液を例えば連続的に供給しながら、一方で、生成物を例えば連続的に取り出すことをいう。従って、アルコール原料を供給するのが不連続であっても、時間当たりの供給量が実質的に一定していればよい。
【0027】
また、本発明のアルコール連続生産においては、発酵槽から菌体の流出を抑制しているが若干の菌体は流出する可能性がある。しかし、かかる菌体流出によって発酵槽内の菌体濃度が減少することは防止されている。本発明では界面が観察される状態、つまり発酵槽の上下方向で濃度が異なる層が形成されているため発酵槽内での菌体増殖量は流出量に比べれば圧倒的に多く、菌体を常時発酵槽に追加していくことは基本的に意図していない。しかし、種菌として追加することはあるだろうし、若干流出した菌体を分離して発酵槽内に返送することは本発明の効果を何等阻害するものでない。
【0028】
本発明において、発酵槽1内のアルコール発酵液には、攪拌などによって液流が生じている状態であっても界面が形成されている状態でアルコール発酵を行うことを大きな特徴とする。
【0029】
界面とは、アルコール発酵液内に観察される、濁度(透明度)、或いは色相が異なる二つの層の境目に形成される線状の境界面である。なお、線状の境界は、発酵槽を横方向から観察したときにみられるものであり、直線でなくてもよい。
【0030】
各層はアルコール発酵液中に含まれる酵母菌体濃度が劇的に異なっているので、濁度(透明度)、或いは色相が異なる二つの層として認められるものである。
【0031】
例えば、界面より上ではアルコール発酵液自体の色が観察され、濁度は低く、界面より下は酵母菌体が多いため不透明で濁度が高くなるので、AとBの差が明確にわかり、目視にて界面の有無を観察することが出来る。
【0032】
界面より上(A)は、酵母菌体の濃度が極端に低い層であり、界面より下(B)は、酵母菌体の濃度が高い層である。
【0033】
菌体濃度で定量的に表現すれば、発酵槽内のアルコール発酵液中の平均酵母菌体濃度(完全混合状態の時に測定される菌体濃度であり、発酵槽内の全酵母菌体量(乾燥重量:g)を発酵槽内のアルコール発酵液量(L)で除した値に等しい)は、好ましくは20〜33g(乾燥重量)/L、より好ましくは25〜32g(乾燥重量)/L、更に好ましくは、26〜31g(乾燥重量)/Lであり、それに対して、界面より上にある、酵母菌体濃度が低い層(A)の酵母菌体濃度は、好ましくは14g(乾燥重量)/L未満、より好ましくは10g(乾燥重量)/L未満、更に好ましくは7g(乾燥重量)/L未満であり、界面より下にある酵母菌体濃度が高い層(B)の酵母菌体濃度は、好ましくは31〜38g(乾燥重量)/L、より好ましくは32〜37g(乾燥重量)/L、更に好ましくは33〜36g(乾燥重量)/Lである。
【0034】
界面は、アルコール発酵液を抜き取る排出口11よりも下方に形成されていることが重要である。そうすると、菌体濃度が低い層からアルコール発酵液が抜き取られるため、酵母菌体の流出を抑制することができる。
【0035】
含まれる酵母菌体濃度が違うことから、当然酵母菌体濃度が低い層(A)と酵母菌体濃度が高い層(B)では、酵母菌体濃度が高い層(B)の方が、アルコール生産性は高い。そのため、界面より酵母菌体濃度が高い層(B)が占める割合が高い方が生産性は向上する。
【0036】
すなわち、界面が、前記発酵槽内のアルコール発酵液の液面から下方に向かって0.1H〜0.8H(H:液面高さ)の深さ領域に形成され、好ましくは0.2H〜0.6H、より好ましくは0.2H〜0.5Hに形成されている、あるいは酵母菌体濃度が高い層(B)がアルコール発酵液の体積Vの20〜90%、好ましくは40〜80%、より好ましくは50〜80%を占めており、発酵槽の底側(下方)に形成されていることが望ましい。
【0037】
図1には、界面が形成される高さ方向の好ましい位置が示されている。
【0038】
円筒状の発酵槽など、断面積が一定の発酵槽においては、界面が観察される位置は、前記発酵槽内のアルコール発酵液の液面から下方に向かって0.1H〜0.8H(H:液面高さ)の深さ領域に形成され、好ましくは0.2H〜0.6H、より好ましくは0.2H〜0.5Hの深さ領域が望ましい。
【0039】
界面が0.1H〜0.8H、好ましくは0.2H〜0.6H、より好ましくは0.2H〜0.5Hの深さ領域に形成されているときは、攪拌と沈降のバランスが取れている状態であり、発酵槽1内の菌体濃度を高く維持し、かつアルコール原料との接触効率が良いので、エタノール生産性を高くすることができる。
【0040】
界面の位置が0.1Hより上である場合は、ほとんど完全混合に近い場合であり、そうすると、排出口11から菌体が流出しやすくなり、発酵槽内の菌体量が少なくなるのでアルコール生産性が落ちてしまい好ましくない。
【0041】
また、界面の位置が0.8Hより下である場合は発酵槽内の菌体は、発酵槽底部に沈積しはじめ、沈降領域や圧密領域ゾーンが形成される。発酵槽の底部からアルコール原料を供給していても、これらの沈降領域や圧密領域ではアルコール原料に対して酵母が多すぎるためアルコール原料と酵母の反応効率は極端に悪くなり、これもアルコール生産性を低下させるので好ましくない。
【0042】
なお、界面が観察されない状態とは、完全混合による場合、あるいは発酵槽中の菌体量が少なすぎて濃度差がわからない状態などが考えられるが、いずれも本発明のアルコール生産方法を行う上では好ましくない状態である。
【0043】
図2は、酵母菌体の濃度が高い層(B)が、アルコール発酵液の体積Vに占める割合で好ましい界面の位置を示したものである。界面は、酵母菌体濃度が低い層(A)と酵母菌体濃度が高い層(B)の境目に形成されるものであるから、発酵槽の底側(下方)に形成されている酵母菌体濃度が高い層(B)の割合をアルコール発酵液の体積Vの20〜90%、好ましくは40〜80%、より好ましくは50〜80%とすることで、界面の形成される位置が規定できる。なお、酵母菌体の濃度が高い層(B)の体積をv1とし、酵母菌体濃度が低い層(A)をv2とすると、V=v1+v2である。
【0044】
体積の概念で菌体濃度が高い層を設定すると、発酵槽の断面積が一定でない形状をし、高さによる規定が難しい場合にも対応することができる。
【0045】
本発明において、酵母菌体の高い層(B)の体積v1がアルコール発酵液の体積Vの90%より多くを占めるようになると、完全混合に近い場合であり、そうすると、排出口11から菌体が流出しやすくなり、発酵槽内の菌体量が少なくなるのでアルコール生産性が落ちてしまい好ましくない。
【0046】
また、酵母菌体の高い層(B)の体積v1がアルコール発酵液の体積Vの20%より少ないと、発酵槽内の菌体は、発酵槽底部に沈積しはじめ、沈降領域や圧密領域ゾーンが形成される。発酵槽の底部からアルコール原料を供給していても、これらの沈降領域や圧密領域ではアルコール原料に対して酵母が多すぎるためアルコール原料と酵母の反応効率は極端に悪くなり、これもアルコール生産性を低下させるので好ましくない。
【0047】
本発明では、アルコール発酵液の供給によって生じる液流の他に、発酵槽下方に強制的な液流を発生する手段が設けられ、液流を強制的に発生させる手段は、主として攪拌機の回転によるものが好ましい。即ち、攪拌機だけでもよいし、攪拌機と空気曝気の併用のいずれでも良いが、制御の便宜性を考慮すれば攪拌機のみによることが好ましい。
【0048】
図1や図2の例では、攪拌羽根を持つ攪拌機12が攪拌手段として示されている。
【0049】
界面の位置は、上記の好ましい領域に形成されるように攪拌の強度等、連続発酵の運転条件を適宜変更することで維持できる。
【0050】
界面は、液流によって菌体を巻き上げる働きが強くなると上昇し、巻き上げる働きが弱くなると沈降が進行するため下降する。
【0051】
例えば、攪拌機の回転を上げれば界面は上昇する。
【0052】
また、アルコール原料や空気の供給が多くなることによって、上昇流が起きれば界面は上昇する。
【0053】
また、完全混合状態のときに攪拌機の回転を停止あるいは回転を下げれば界面が形成される。
【0054】
界面の有無の観察については、酵母菌体濃度が低い層(A)と酵母菌体濃度が高い層(B)に色相あるいは透明度の違いがあるので、目視にて観察することが出来る。
【0055】
ステンレス製など、不透明の発酵槽の場合は、図3のように発酵槽101に覗き窓(観察窓)102を設け、界面の有無を観察することが出来る。
【0056】
他に、前記界面の有無は、発酵槽内のアルコール発酵液の液面から下方に向かって、上下方向に位置が異なる2つ以上の濁度計を設けて菌体濃度を測定し、確認することもできる。
【0057】
さらに、界面の有無を、前記発酵槽の液面の上方に設けた発光素子と受光素子を用い、発光素子からの光を界面で反射させその反射光を受光素子で受けて光量変化を求めて測定することもできる。
【0058】
凝集沈殿性を有する酵母としては、攪拌が行われていても、界面が形成される沈降性を備えた酵母であれば構わないが、好ましくは、サッカロマイセス属セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AM12菌株(AM12菌)からなる酵母が用いられる。
【0059】
AM12菌は、工業技術院生物工業研究所 微生物工業技術研究所(現:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD))に、微工研受託番号第6749号として寄託されており、入手できる。
【0060】
本発明で用いるアルコール原料は、穀物由来の原料が好ましく、例えば米、麦、イモなどは糖濃度が高いので好ましい例として挙げられる。糖濃度としては、穀物原料の糖化反応効率の観点から、グルコース換算で100〜300g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは150〜200g/Lの範囲である。
【0061】
希釈率(アルコール原料供給速度を培養体積で割った値)は好ましくは0.1〜0.3の範囲であり、より好ましくは0.14〜0.18の範囲である。
【0062】
アルコール生産において、負荷は、希釈率とアルコール原料中の糖濃度から計算できる。
【0063】
本発明の界面を形成させるアルコール生産方法によって、菌体の流出を抑え、発酵槽内の菌体量を多く維持することで、凝集沈殿性を有する酵母、好ましくはAM12菌は高負荷の連続アルコール生産にも対応できるようになり、結果としてアルコール生産性を上げることができる。
【0064】
本発明において、発酵槽内に空気供給管を設けることも好ましい。
【0065】
空気量は酸素補給の意味で0.1〜0.2(vvm)が好ましく、より好ましくは0.125〜0.17(vvm)の範囲である(vvm:volume gas / (volume liquid / minute))。酵母の菌体増殖を促す上では、アルコール発酵を阻害しない範囲で、できるだけ多くの空気を供給できることが好ましい。
【0066】
発酵槽内の培養液の温度は、酵母の至適発酵温度の観点から、40℃以下が好ましく、より好ましくは30〜35℃の範囲である。温度調節には、ヒーターおよび冷却器などの調節手段を採用できるが、格別限定されない。
【0067】
pHは、酵母の至適pHの観点から、3〜7の範囲が好ましく、より好ましくは3.5〜5.0の範囲である。pH調整手法としては、pHメータで計測したデータに基づきpH調整剤を連続的に供給してpHを調整するpH制御システムを採用することができる。
【実施例】
【0068】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0069】
発酵槽にアルコール原料(グルコース)を供給すると共に、供給する原料と同じ速度で発酵液(培養液)を抜き出し、連続発酵を菌体リサイクルなしで行った。以下の実験では、発酵槽内に存在するAM12菌酵母菌体は、単に菌体ともいう。
【0070】
発酵槽は、図1に示す構成をしており、直径126mm、発酵槽内の液量は、1000mL(発酵槽の底から約85mm)であり、回転数を変更可能な攪拌羽根(4枚板羽根:攪拌翼の回転最大径64mm、各羽の大きさは15×12mm)が設けられている。
【0071】
なお、希釈率、攪拌機の回転数以外の発酵槽の運転条件は、温度30℃、pH5、通気量0.15vvm、アルコール原料中の糖濃度は、200g/Lである。
【0072】
実施例1
希釈率を0.18、攪拌機の回転数を50rpmと設定し連続発酵を行った。
界面が0.42Hに形成された。エタノール生産性は17.8g/L/hだった。
【0073】
実施例2
希釈率を0.14、攪拌機の回転数を150rpmと設定し連続発酵を行った。
界面が0.23Hに形成された。エタノール生産性は12.2g/L/hだった。
【0074】
比較例1
希釈率を0.18、攪拌機の回転数を200rpmと設定し連続発酵を行った。
完全混合状態となり、菌体流出がおきてエタノール生産性が著しく低下した。
【0075】
比較例2
希釈率を0.18、攪拌機の回転数を10rpmと設定し連続発酵を行った。
界面が0.95Hに形成された。エタノール生産性は10g/L/hだった。
【0076】
なお、本実施例の発酵槽は円柱状であることから、実施例1の0.42H、実施例2の0.23Hに形成された界面より下に形成されたB層は、v1の範囲を満たしている。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】界面が形成される好ましい位置を高さで示している模式図
【図2】界面が形成される好ましい位置を酵母菌体濃度の高い層(B)の体積で示している模式図
【図3】界面観察窓を設けた発酵槽の概略図
【符号の説明】
【0078】
1:発酵槽
10:原料供給口
11:排出口
12:攪拌機
101:発酵槽
102:観察窓
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵槽内に凝集沈殿性を有する酵母を存在させ、発酵槽にアルコール原料を供給してアルコール発酵を行う際に、発酵槽下方に強制的な液流を発生させてアルコールを生産するアルコール連続生産方法であって、
菌体の界面が形成されている状態でアルコール発酵することを特徴とする高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項2】
前記界面が、発酵槽内のアルコール発酵液に形成される、酵母菌体の濃度が高い層と低い層の、層の境目として観察できることを特徴とする請求項1記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項3】
前記凝集沈殿性を有する酵母が、サッカロマイセス属セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AM12菌株であることを特徴とする請求項1又は2記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項4】
前記発酵槽内の平均酵母菌体濃度が、20〜33g(乾燥重量)/Lであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項5】
前記界面より上のアルコール発酵液に含まれる酵母菌体の濃度が14g(乾燥重量)/L未満であり、界面より下の部分の平均酵母菌体の濃度が、31〜38g(乾燥重量)/Lであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項6】
前記界面の有無を、前記発酵槽の側面に形成される覗き窓から目視して判断することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項7】
前記界面の有無を、前記発酵槽の液面の上方に設けた発酵素子と受光素子を用いて測定することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項8】
前記界面の有無を、前記発酵槽内のアルコール発酵液の液面から下方に向かって高さ方向に複数設けた濁度計によって検出することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項9】
前記発酵槽下方に液流を強制的に発生させる手段が、主として攪拌機の回転によることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項1】
発酵槽内に凝集沈殿性を有する酵母を存在させ、発酵槽にアルコール原料を供給してアルコール発酵を行う際に、発酵槽下方に強制的な液流を発生させてアルコールを生産するアルコール連続生産方法であって、
菌体の界面が形成されている状態でアルコール発酵することを特徴とする高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項2】
前記界面が、発酵槽内のアルコール発酵液に形成される、酵母菌体の濃度が高い層と低い層の、層の境目として観察できることを特徴とする請求項1記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項3】
前記凝集沈殿性を有する酵母が、サッカロマイセス属セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AM12菌株であることを特徴とする請求項1又は2記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項4】
前記発酵槽内の平均酵母菌体濃度が、20〜33g(乾燥重量)/Lであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項5】
前記界面より上のアルコール発酵液に含まれる酵母菌体の濃度が14g(乾燥重量)/L未満であり、界面より下の部分の平均酵母菌体の濃度が、31〜38g(乾燥重量)/Lであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項6】
前記界面の有無を、前記発酵槽の側面に形成される覗き窓から目視して判断することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項7】
前記界面の有無を、前記発酵槽の液面の上方に設けた発酵素子と受光素子を用いて測定することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項8】
前記界面の有無を、前記発酵槽内のアルコール発酵液の液面から下方に向かって高さ方向に複数設けた濁度計によって検出することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【請求項9】
前記発酵槽下方に液流を強制的に発生させる手段が、主として攪拌機の回転によることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の高濃度アルコール連続生産方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2009−225755(P2009−225755A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77763(P2008−77763)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】
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