説明

アルコール飲料の呈味向上剤

【課題】アルコール飲料の呈味を向上する組成物を提供する。
【解決手段】ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物であって、ブナ科コナラ属植物を溶媒で抽出して得られる抽出液を多孔質樹脂に吸着させ、エタノールで溶離して得られる、樹脂吸着エタノール溶離成分の一部又は全部を選択的に除去されていることを特徴とする、ブナ科コナラ属植物の精製抽出物をアルコール飲料の呈味向上剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物の精製物、詳しくは、ブナ科コナラ属植物を溶媒で抽出して得られる抽出液を多孔質樹脂に吸着させ、エタノールで溶離して得られる、樹脂吸着エタノール溶離成分の一部又は全部を選択的に除去されているブナ科コナラ属植物の精製抽出物、およびこの精製抽出物を有効成分とするアルコール飲料の呈味向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料は嗜好飲料として、広く飲用されている。しかしながら、アルコール飲料、特に高アルコール濃度(約7.0%以上)の飲料は、アルコール(エタノール)特有の強い刺激感やアルコール臭を有し、飲みにくいといった不満が聞かれることもある。そこで、まろやかで飲みやすいアルコール飲料を得るために、種々の提案がなされている。例えば、カプシクム属アヌム種( Capsiucum annum L. var.grossum)の植物であるパラディチョムパプリカの呈味改善成分を有効成分とするアルコール飲料の呈味改善剤(特許文献1)、アルコール飲料を多数の微細通孔を有する分相法多孔質体の微細通孔を通じて透過させることにより長期間熟成した高級品に近いまろやかな呈味に向上させる方法(特許文献2)、ベタインを含有させたアルコール含有食品(特許文献3)、焼酎を竹炭で接触処理することにより焼酎の香味を改質する方法(特許文献4)、等が知られている。
【0003】
また、まろやかで飲みやすいアルコール飲料を得るための別の方法も存在する。即ち、一般に、ウイスキーやブランデー等の蒸留酒は、長期間の貯蔵熟成により味の「まるみ」(まろやかな呈味)を生じることが知られているが、この長期貯蔵熟成により初めて得られる「まるみ」を短期間に増進せしめる目的で、熟成香を付与する試みがなされている。例えば、蒸留酒に酢酸、コハク酸、シリンガ酸、フェルラ酸、イソアミルアルコール等を添加して蒸留酒の品質を改良する方法(特許文献5)や、1−(2−ヒドロキシ−2.6.6−トリメチルシクロヘキシリデン)−1−ブテン−3−オール(アレンジオールとも称される)を微量添加して熟成香を付与する方法(特許文献6)、木材を挿入したアルコール飲料に超音波処理を行うことによってアルコール飲料の成熟感を増強する方法(特許文献7)等が知られている。
【特許文献1】特開平10−313849号公報
【特許文献2】特開2004−261051号公報
【特許文献3】特開2003−204779号公報
【特許文献4】特開2001−275650号公報
【特許文献5】特開平6−062829号公報
【特許文献6】特公昭49−4391号公報
【特許文献7】特開昭54−119098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、長期間の貯蔵熟成によりアルコール飲料に味の「まるみ」生じることが経験的に知られていることから、樽の熟成が貯蔵されている酒類に及ぼす影響について、長年に渡り研究が進められている。そして、エステル成分の生成酸化反応、水・アルコールの蒸散、樽材成分の溶出・分解などの様々な要因により、貯蔵されている酒類は複雑な香味を有するように仕上がることが解明されつつある。しかし、今もなお、味の「まるみ」に寄与する物質が何であるかは明らかになっておらず、アルコール飲料に、味の「まるみ」を付加することができる組成物の開発が望まれていた。
【0005】
本発明の課題は、アルコール飲料に、味の「まるみ」を付加することができる、アルコール飲料の呈味向上作用を有する組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、長期間の貯蔵熟成により得られる「まるみ」に寄与する物質について鋭意検討した結果、その物質の一つが、ウイスキーやブランデーの熟成用樽材として用いられているブナ科コナラ属植物、特にオーク類を溶媒で抽出して得られるブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物であることを発見した。そして、当該抽出物をアルコール飲料に添加すると、アルコール特有の刺激やアルコール臭が低減されるばかりか、アルコール飲料に好ましい風味、具体的にはすっきりとした甘味が付与されることを見出した。
【0007】
さらに、本発明者らは、当該抽出物をスチル−ベンゼン系合成樹脂のような多孔質樹脂を用いて処理することにより得られた精製物をアルコール飲料に添加した場合に、精製前の抽出物を添加した場合と比較して顕著に高いアルコール飲料の呈味向上作用が認められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
従って、本発明は、ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物の精製物、及びそれを有効成分とするアルコール飲料の呈味改善剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の精製抽出物(本明細書中、単に、「精製抽出物」ということもある)は、アルコール飲料の摂取時に摂取することにより、または、当該抽出物をアルコール飲料に添加又は配合させることにより、アルコール飲料におけるアルコール特有の刺激やアルコール臭が低減され、かつすっきりとした甘味を付加するので、アルコール飲料の呈味を向上させることができる。また、本発明の精製抽出物は、アルコール飲料だけでなく、茶、コーヒー等にも有効に用いることができ、その呈味を向上させることが可能である。
【0010】
本発明の精製抽出物は、天然素材から分離されたものであるため穏やかな作用を有し、極めて安全性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ブナ科コナラ属植物
本発明で用いられるブナ科(Fagacwae)コナラ属(Quercus sp)の植物としては、例えば、コナラ(ナラ)(Quercus serrata Thunb.)、ミズナラ(オオナラ)(Quercus grosseserrata Blume , Quercus crispula Blume , Quercus mongolica Fisch. var.grosseserata (Blume) Rehd. et Wils.),クヌギ(Quercus acutissima Carruth.),アベマキ(Quercus variabilis Blume),カシワ(Quercus dentata Thunb.),ナラガシワ(Quercus aliena Blume),ウバメガシ(Quercus phillyraeoides A. Gray),シラカシ(クロガシ)(Quercusmyrsinaefolia Blume , Cyclobalanopsis myrsinaefolia (Blume) Oerst.),アラカシ(Quercus glauca Thunb. , Cyclobalanopsis glauca (Thunb.) Oerst.),ツクバネガシ(Quercus paucidentata Franch. , Quercus salicina Blume , Cyclobalanopsis paucidentata Kudo et Masam. , Quercus sessilifolia Blume, Cyclobalanopsis sessilifolia Blume),ウラジロガシ(Quercus stenophylla Makino , Quercus salicina Blume , Cyclobalanopsis salicina (Blume) Oerst.),ヨコメガシ(シマガシ)(Quercus glauca Thunb. var.fasciata Blume),ヒリュウガシ(Quercus glauca Thunb. var. lacera Matsum.),アカガシ(オオガシ,オオバガシ)(Quercus acuta Thunb. , Cyclobalanopsis acuta (Thunb.) Oerst.),イチイガシ(Quercus gilva Blume ,Cyclobalanopsis gilva (Blume) Oerst.),ホワイトオーク(Quercus alba L.),アリゾナホワイトオーク(Quercus arizonica),スワンプホワイトオーク(Quercus bicolor Willd.),ターキーオーク(イタリアンオーク)(Quercus cerris L.),モールオーク(キャニオンライブオーク、アリゾナスクラブオーク)(Quercus chrysolepis Liebm.),ブラックジャックオーク(Quercus marilandica),石栗(Quercus cornea Lour., Lythocarpus cornea(Lour.)Rehd.),シンオーク(Quercus gambelii Nutt.),エンシナ(Quercus agrifolia Nee),ブルーオーク(Quercus douglasii),ウォーターオーク(Quercus nigra),パルマーオーク(Quercus palmeri),ピンオーク(Quercus palustris),カルフォルニアスクラブオーク(Quercus dumosa),アモリーオーク(Quercus emoryi Torr.),メサオーク(Quercus engelmannii Greene),オレゴンホワイトオーク(Quercus garryana Dougl.),オレゴンホワイトオーク(Quercus garryana Dougl.),カリフォルニアホワイトオーク(Quercus lobata Nee),ブラックオーク(Quercus velutina),カリフォルニアブラックオーク(Quercus kelloggii),バーオーク(Quercus macrocarpa),ウェイビーリーフオーク(Quercus undulata Torr.),コルクオーク(コルクガシ)(Quercus lucombeana Sweet ,Quercus suber L.),ホーリーオーク(Quercus ilex L.),オキナワウラジロガシ(Quercus miyagii Koidz. , Cyclobalanopsis miyagii(Koidz.)Kudo et Masamune),スモールオーク(Quercus pungens),モンゴリナラ(モウコガシワ)(Quercus mongolicaFisch.var.mongolica),チェスナッツオーク(Quercus prinus L.),コモンオーク(リムザンオーク、イングリッシュオーク、フレンチオーク)(Quercus robur L.),スパニッシュオーク(サウザンレッドオーク)(Quercus falcata),ノーザンレッドオーク(Quercus rubra),バージニアライブオーク(Quercus virginiana),インテリアライブオーク(Quercus wislizeni),ポストオーク(Quercus stellata),高山櫟(Quercus semicarpifolia Sm.),セシルオーク(Quercus peraea (Mattuschka) Lieblein)等を挙げることができる。古来、ウイスキーやブランデー等の製造、貯蔵用の樽の原料として用いられてきた植物の多くはこの属に属される。特にオーク類と称される植物が好ましい。本発明でいうオーク類とは、ブナ科コナラ属の植物のうち、ウイスキーやブランデー等の製造、貯蔵用の樽の原料として用いられた植物群を言う。本発明においてはこのオーク類を好適に用いることができる。中でも、ホワイトオーク、コモンオーク、セシルオーク、スパニッシュオーク、バーオークやミズナラを特に好適に用いることができ、特にスパニッシュオークを好適に用いることができる。
【0012】
これらの植物について、原料として用いる部位には特に制限されるものではなく、幹、葉、枝、樹皮、花、実などを用いることができるが、幹及び主枝から樹皮を除いた心材から抽出するのが好ましい。また、それらは採取直後でもよいし、乾燥させた後に用いてもよい。必要により粉砕、切断、細切、成形等の加工をして用いることもできる。かかる植物の木材から得られるチップ、木粉、樽等が加工品として挙げられる。樽は溶媒抽出に使用する前に内面を焼く等の加熱処理をするのが好ましい。
【0013】
ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物
本発明で用いる抽出溶媒としては、好ましくは低級アルコールの水溶液を用いることができる。ここで低級アルコールとしては、炭素数が1ないし4のアルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)を挙げることができるが、飲食品に用いることを考慮すると、抽出溶媒としては、安全性の観点からエタノール水溶液を用いることが好ましい。またここでいう抽出溶媒には、低級アルコールと水のほか、抽出効率を大きく損わない範囲で他の成分が含まれていてもよい。例えば、所望により糖類、塩類またはアミノ酸などの水溶性成分や各種他の溶媒が含まれていてもよい。
【0014】
従って、低級アルコールとして、例えばエタノールを用いる場合、エタノール水溶液として、工業的な試薬を水と混合したものを用いてもよいし、あるいは、各種アルコール製品やその仕掛品を用いてもよい。例えばブランデー、ウイスキー、焼酎、日本酒、ビール、発泡酒、スピリッツ、ウオッカまたはそれらの仕掛品が挙げられる。これらの製造方法は常法に従えばよい。植物原料で樽を成形し、その中に溶媒を注入して抽出を行う場合には、溶媒として、エタノール含有物を蒸留したものを好適に用いることができる。ここでいう、エタノール含有物を蒸留したものとは、エタノールを含有する液を蒸留して得られる蒸留物をいう。具体的には、麦芽、米、ブドウ等を原料の一部としてとして糖化、醗酵させて得られるエタノール含有物を、単式蒸留または複式蒸留して得ることができる。例えば、焼酎、ウォッカ、ウイスキー貯蔵前原酒(モルトウイスキーの原酒のニューポット、グレンウイスキーの原酒のニューメイク)、ブランデー貯蔵前原酒(ヌーベル)、を用いるのが好ましい。中でも、ウイスキー貯蔵前原酒、ブランデー貯蔵前原酒を好適に用いることができる。これらの製造方法は常法に従えばよい。この場合には、抽出条件は室温で約半年〜30年程度とすることが好ましい。
【0015】
本発明で原料として用いられる植物の溶媒による抽出方法としては、特に限定されるものではなく、溶媒を上記植物原料と接触させることにより行われる。溶媒中に原料を浸漬させるか、あるいは、植物原料を用いて樽等の容器を成形しその中に溶媒を注入してもよい。静置保存してもよいし、加熱還流や浸漬抽出など、抽出様式は公知手段に従い所望に応じて適宜設定することができる。抽出は常温で行われても加温で行われてもよい。抽出温度は特に限定されないが、操作上、溶媒の沸点以下であることが好ましい。抽出に要する時間は、温度条件や抽出方法にもよるが、通常約30分程度以上である。抽出時間の上限は特に制限されないが、約30年程度で充分な場合が多い。もちろん、本発明では30年以上でもよい。
【0016】
本発明によれば、上記抽出後、公知の手段に従って、ブナ科コナラ属植物、その処理物またはその加工品を、香味改善作用を有する抽出液と分離する。分離手段としては、公知手段に従ってよく、例えば遠心分離、ろ過などが挙げられる。
【0017】
精製抽出物
本発明の精製抽出物は、上記のようにして得られたブナ科コナラ属植物の溶媒抽出液を精製することにより得られる。ここで、この精製抽出物とは、溶媒抽出液を多孔質樹脂に吸着させ、エタノールで溶離して得られる樹脂吸着エタノール溶離成分の一部又は全部を、ブナ科コナラ族植物の溶媒抽出液から選択的に除去したものをいう。
【0018】
多孔質樹脂としては、スチル−ベンゼン系合成樹脂、特にスチレン−ジビニルベンゼン系合成樹脂(例えば三菱化成工業(株)社製 DIAION HP-10,20,30,40,50 、オルガノ(株)社製アンバーライトXAD-2,4 、或いは住友化学工業(株)社製デュオライトsシリーズなど)や、デキストラン系合成樹脂(例えばファルマシア社製Sephadex LH-20)を用いることができる。なお、デキストラン系合成樹脂は、これを構成するデキストラン鎖が三次元的に架橋された多糖類的な編目を形成しているから、水酸基に対する炭素原子数割合が比較的大きく、特にLH-20 は、デキストラン鎖のグルコース単位毎にエーテル結合しているハイドロキシプロプル基を有しているから、特に大きい。従って、デキストラン系合成樹脂ゲル、特にLH-20は、親水性、親油性の両方の性質を持ち、吸着性の点に関してみれば、スチレン−ジビニルベンゼン系合成樹脂と同様と考えることができるが、現在のところ、経済性の観点から、スチレン−ジビニルベンゼン系合成樹脂を好適に用いることができる。
【0019】
ここで、本発明における精製抽出物の製造方法の一例を示す。ブナ科コナラ属植物(スパニッシュオーク)を60%エタノール水溶液により抽出して溶媒抽出液を調製する。この抽出液をスチレン−ジビニルベンゼン系合成樹脂(三菱化成工業(株)社製 DIAION HP-20)に通液し、透過液を回収する。次に、当該樹脂に60%エタノール水溶液を通液して洗浄する。本発明の精製抽出物は、上記透過液のみを使用してもよいし、収率を考慮して、透過液と洗浄液とを合わせて使用してもよい。
【0020】
このようにして得られた精製抽出物は、液体状のまま呈味向上用組成物として使用してもよいし、この液体状の精製抽出物を濃縮または乾燥して、濃縮物や乾燥物(濃縮乾固物)として使用してもよい。濃縮は常圧または減圧下に行われる。濃縮によって濃縮液の容積を約5〜70容量%、好ましくは約10〜50容量%に減少させるのがよい。乾固物は、液体状の精製抽出物から溶媒を好ましくは減圧下に蒸発させることによって得られる。
アルコール飲料の呈味向上剤
本発明の精製抽出物は、アルコール飲料の呈味向上剤として用いることができる。アルコール飲料に添加して、その呈味を向上させたアルコール飲料として好適に用いることができる。アルコール飲料としては、ブランデー、ジン、ウォッカ、テキーラ、ラム、ビール、ワイン、清酒、ウイスキー、焼酎、チューハイ、カクテル、果実酒等が挙げられる。
【0021】
本発明の精製抽出物は、容器詰された飲料、特にRTD(Ready to Drink)飲料に好適に用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
[試験例1]オーク材の溶媒抽出物の製造
樽材として用いられるホワイトオーク及びスパニッシュオークを用い、これらの溶媒抽出物物を調製した。まず、これらの樽材(新材)を爆砕機にかけ、おが屑状に破砕した。このおが屑状にした樽材100kgを、連続式焙煎機を用いて200℃で30分間加熱焙煎した。この焙煎した樽材100kgを60%エタノール水溶液2000Lに浸漬し、80℃で24時間還流抽出した。これを濾過して抽出液を分離し、ロータリーエバポレーターで加熱濃縮した後、凍結乾燥して溶媒抽出物(乾固物)を得た。この乾固物3mgを、ウイスキー原酒に添加し、ウイスキーの呈味向上効果を、専門パネラー3名により官能評価した。評価は、溶媒抽出物無添加のウイスキーを0点とし、−2点(極めて劣る)、−1点(劣る)、0点(変わらない)、+1点(優れている)、+2点(極めて優れている)の5点法により行った。結果を表1に示す(表中の値は、平均値)。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示されるように、スパニッシュオークを用いると、アルコール飲料(ウイスキー)の呈味をより改善することがわかった。
[実施例1]精製抽出物の製造
試験例1で得られたスパニッシュオークの60%エタノール水溶液抽出液(試料A)について、多孔質樹脂を用いた処理を行った。
【0025】
まず、試料Aを、スチレン−ジビニルベンゼン系合成樹脂(三菱化成工業(株)社製 DIAION HP-20)に通液し、透過液を回収した。次に、60%エタノール水溶液を通液して樹脂を洗浄し、その洗浄液を回収した(透過液を洗浄液を合わせて、試料Bとする)。その後、樹脂に99%エタノールを通液し、樹脂吸着された成分を溶離させ、この溶出液を回収した(試料C)。
【0026】
試料A,B及びCをロータリーエバポレーターで加熱濃縮した後、凍結乾燥して溶媒抽出物(乾固物)を得た(試料A〜Cから得られた乾固物を、それぞれ乾燥物A、B、Cと称する)。この乾固物3mgを、ウイスキーの水割り1Lに添加し、ウイスキーの呈味向上効果を官能により評価した。評価は、試験例1と同様に5点法により行った。表2に結果を示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2より、乾燥物A(多孔質樹脂処理なし)及び乾燥物B(樹脂の非吸着部分)を添加したウイスキーの水割りは、無添加のものよりも香味がよくなること、特に乾燥物Bを添加した場合にその効果が高いことが明らかとなった。一方、乾燥物C(樹脂の吸着部分)を添加したウイスキー水割りは、無添加のものよりも香味が悪くなった。従って、オーク材の60%アルコール抽出物の場合、スチレン−ジビニルベンゼン系合成樹脂の吸着部分(乾燥物C)に、「えぐみ」、「苦味」、又は「渋味」を呈する呈味劣化物質が高濃度で存在すること、および、吸着部分を除去した非吸着部分(乾燥物B)を添加した飲料において「甘さ」を含めた香味が向上することが明らかとなった。
[実施例2]
実施例1で製造した試料A及び試料Bの乾固物3mgを次の1)〜21)の21種類の飲料各1Lに添加し、乾固物の添加による呈味改善効果を官能評価により評価した。評価方法は、実施例1と同様に、乾固物を添加していない(無添加)試料を0点とした−2点〜+2点の5点法で行った。
【0029】
1)渋み、収斂味のあるウイスキー原酒(サントリー株式会社)、2)ウイスキー(サントリー株式会社製、『角』)、3)ブランデー(サントリー株式会社製)、4)スピリッツ(サントリー株式会社製)、5)リキュール(サントリー株式会社製)、6)チューハイ(サントリー株式会社製)、7)焼酎(サントリー株式会社製)、8)ビール(サントリー株式会社製:「モルツ(登録商標)」)、9)発泡酒(サントリー株式会社製:「マグナムドライ(登録商標)」)、10)ワイン(サントリー株式会社製)、11)緑茶、12)紅茶、13)コーヒー、14)炭酸飲料、15)果汁飲料、16)野菜飲料、17)乳飲料、18)牛乳、19)アイスクリーム、20)こんにゃく飲料、21)日本酒(白鶴鶴酒造株式会社製、商品名:白鶴(登録商標))。
【0030】
結果を、表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
樽材抽出物の添加により、アルコール飲料の呈味が向上し、特に乾燥物Bの添加により顕著に向上した。天然水では、全く味に変化がないものの、ウイスキー原酒、ブランデー、日本酒ではその効果が大きかった。また、アルコール飲料に限らず、日本茶などの飲食品においても乾燥物Bの呈味向上効果が確認された。
[実施例3]
実施例1で製造した試料Bの固形乾燥物3mgを、水割り用の水1L又はソーダ水1Lに添加し、この水でアルコール飲料の水割りを調製した(アルコール飲料:水=1:2、アルコール飲料:ソーダ水=1:3)。固形乾燥物の添加による呈味改善効果を官能評価により評価した。評価方法は実施例1及び2と同様である。表4に、評価結果を示す。
【0033】
【表4】

【0034】
通常の水割りと比較して、本発明の精製抽出物を添加した水又はソーダ水で調製したアルコール飲料が、無添加の水又はソーダ水を用いて製造されたアルコール飲料と比較して、香味の点で優れていた。
[実施例4]
実施例1で製造した試料Bの固形乾燥物3mgを、飲料抽出用の水(温水)に添加し、その水を用いて、緑茶、紅茶又はコーヒーのティーパックからそれぞれの飲料を製造した。また、対象として、固形乾燥物Bを添加していない通常の水(温水)で抽出した飲料を製造した。固形乾燥物の添加による呈味改善効果を官能評価により評価した。評価方法は実施例1及び2と同様である。
【0035】
表5に評価結果を示す。通常の水で抽出した場合と比較して、本発明の樽剤抽出物のカラム処理物(固形乾燥物)を添加した水(温水)で抽出した飲料は、香味の点で優れていた。
【0036】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物であって、ブナ科コナラ属植物を溶媒で抽出して得られる抽出液を多孔質樹脂に吸着させ、エタノールで溶離して得られる、樹脂吸着エタノール溶離成分の一部又は全部を選択的に除去されていることを特徴とする、ブナ科コナラ属植物の精製抽出物。
【請求項2】
ブナ科コナラ属植物の抽出溶媒が、エタノール水溶液である、請求項1に記載の精製抽出物。
【請求項3】
多孔質樹脂が、スチル−ベンゼン系合成樹脂である、請求項1又は2に記載の精製抽出物。
【請求項4】
ブナ科コナラ属植物が、スパニッシュオークである請求項1〜3のいずれか1項に記載の精製抽出物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の精製抽出物を有効成分とする、アルコール飲料の呈味向上剤。




【公開番号】特開2008−48691(P2008−48691A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229941(P2006−229941)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)