説明

アルコール飲料の改質方法および改質装置

【課題】
アルコール飲料を、短時間で均一に混合または希釈する。
【解決手段】
アルコール飲料の改質装置は、少なくともいずれかがアルコール飲料である2種類以上の液体をマイクロ流体チップ10で処理する。マイクロ流体チップは、2種類以上の液体を供給する液体供給部22と、微小断面に形成された複数流路に、液体供給部から供給される複数種の液体が流れ、幅方向に複数種の液が交互に帯状に流れるラミネートフロー形成部24とを有する。ラミネートフロー形成部の下流側には蛇行形状の処理部25が位置している。ラミネートフロー形成部は、下流に向かうにしたがい幅方向長さが小さくなる。処理部は、アルコール飲料の混合または希釈に十分な長さを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料を改質する方法および改質装置に係り、特にアルコール飲料を混合または希釈して改質するのに好適なアルコール飲料の改質方法および改質装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本酒やワイン、ウィスキーの水割りや、各種のカクテルなどのアルコール飲料の製造においては、アルコールと水を均一に混合させると、その質感が向上する。この混合度合いが高ければ高いほど質感が向上するので、良質な混合のためには比較的長い時間を必要とする。アルコールと水との混合の不均一度合いが高いと、局所的なアルコール濃度が高い部分では、アルコールの刺激が味に強く現れ、刺々しい印象を与える。
【0003】
この不具合を解決する従来の方法の一例が、特許文献1に開示されている。この公報では、アルコール飲料の味をまろやかにするために、アルコール飲料を20〜100kHzの超音波振動で撹拌している。これにより、アルコール飲料中のアルコール分子会合体を1個ずつのアルコール分子に分離させ、個々のアルコール分子が水分子に取り囲まれた状態に調整している。
【0004】
【特許文献1】特開平11−9257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のアルコール飲料の味改良方法においては、処理するアルコール飲料の量に応じて処理時間が変化する。例えば、数分から数十分程度の時間が少なくとも必要となる。しかも、超音波照射するために、所定容量の容器にアルコール飲料を注ぎ、その容器ごと超音波照射設備に載置するので、バッチ式の処理にならざるを得ない。その結果、容器内での混合度合い、つまりは味にムラが生じやすい。また、アルコール飲料を長時間貯蔵してアルコールと水分の混合を促進するものでは、数日から長い場合では数年もの時間を要し、急場の使用に対応できない。
【0006】
本発明は、上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、アルコール飲料を、短時間で均一に混合または希釈することにある。本発明の他の目的は、アルコール飲料を、短時間でまろやかにすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の特徴は、第1、第2の液の少なくともいずれかがアルコール飲料であるアルコール飲料の改質方法において、間隔を置いて配置された複数の第1の供給口から流出する第1の液をほぼ第1の供給口の間隔と同じ間隔だけ離して所定流路長流し、次いで前記第1の液の流路の間に形成した複数の第2の液の供給口から第2の液を供給し、流れ方向と直角な方向に第1、第2の液が並んだ帯状の流れを形成し、この帯状の流れを、流れ方向に収縮させたラミネートフロー形成部を流通させた後に、混合に要する所定長さ以上の流路を備えた処理部を流通させて混合するものである。
【0008】
そしてこの特徴において、流路の流れを層流とするのが好ましく、流路を通過する液体の流速をv、流路の代表長さ(水力直径)をd、液体の動粘性係数をνとしたときに、Re=vd/νが2000以下となるようにvとdを選定するのが望ましい。
【0009】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、第1、第2の液の少なくともいずれかがアルコール飲料であるアルコール飲料改質装置において、第1の液と第2の液とを処理してアルコール飲料を改質するマイクロ流体チップと、このマイクロ流体チップに供給する第1の液を貯留する第1の貯留手段、第2の液を貯留する第2の貯留手段と、第1の貯留手段からマイクロ流体チップに第1の液を供給する第1のポンプと、第2の貯留手段からマイクロ流体チップに第2の液を供給する第2のポンプとを備え、前記マイクロ流体チップは、マイクロ流体チップ本体とこの本体の表面側に対抗して設けた蓋部材と、マイクロ流体チップ本体の背面側に配置したアダプタ部材とを有し、マイクロ流体チップ本体の背面側に第1の液及び第2の液を一時的に保有する第1、第2のバッファ槽を有し、これら第1、第2のバッファ槽にはそれぞれ間隔を置いて複数のノズルが接続されており、このノズルから第1、第2の液を幅方向に並んだ帯状の流れとして前記マイクロ流体チップ本体の表面側から流出させ、流出した帯状の流れを幅方向に収縮するラミネートフロー形成部とこのラミネートフロー形成部で収縮した流れを混合させる処理部とを前記マイクロ流体チップ本体に形成したものである。
【0010】
そしてこの特徴において、流路内の流れが層流となるように前記流路の形状を定めるのがよい。
【0011】
上記目的を達成する本発明のさらに他の特徴は、少なくともいずれかがアルコール飲料である2種類の液体をマイクロ流体チップ内で処理するアルコール飲料の改質方法において、各液体をマイクロ流体チップに間隔を置いて配置された多数の供給口からマイクロ流体チップの処理部に供給し、処理部では、各供給口から供給された液体を帯状の流れとし、この帯状の流れを下流に行くにしたがい幅方向長さが収縮する流路に導き、次いで、流れが層流となる混合流路に導いたものである。
【0012】
上記目的を達成する本発明のさらに他の特徴は、少なくともいずれかがアルコール飲料である2種類以上の液体を処理するマイクロ流体チップを備えたアルコール飲料改質装置において、前記マイクロ流体チップは、2種類以上の液体を供給する液体供給部と、微小断面に形成された複数流路に、前記液体供給部から供給される複数種の液体が流れ、幅方向に複数種の液が交互に帯状に流れるラミネートフロー形成部と、このラミネートフロー形成部の下流側に位置する処理部とを有し、前記ラミネートフロー形成部は下流に向かうにしたがい幅方向長さが小さくなるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アルコール飲料を短時間で均一に混合することで味をまろやかに改質する方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係るアルコール飲料の改質手法を、図面を用いて説明する。図1に、アルコール飲料を改質する改質システム1の一実施例を、模式図で示す。本実施例では、2種類の液体を混合可能なマイクロ流体チップ10を用いてウィスキーの水割りを製造する例を説明するが、本発明は他のアルコール飲料、例えば焼酎やジンに、水や各種シロップを混合させたチューハイやカクテルの製造にも適用できる。
【0015】
アルコールの改質システム1は、マイクロ流体チップ10を主要構成要素としたシステムである。本アルコール飲料改質システム1では、改質対象となるウィスキーをウィスキー貯蔵用の液体容器91aに、希釈液である水を水貯蔵用の液体容器91bに、それぞれ貯蔵している。
【0016】
液体容器91aに貯蔵されたウィスキーは、送液ポンプ92aでマイクロ流体チップ10に供給される。同様に、液体容器91bに貯蔵された水は、送液ポンプ92bでマイクロ流体チップ10に送液される。マイクロ流体チップ10へウィスキーおよび水を送液する各ライン95a、95bには、各液が逆流するのを防止する逆止弁93a、93bが、設けられている。
【0017】
マイクロ流体チップ10は、送液されたウィスキーと水を均一に混合してまろやかな味に改質する。ここで、「まろやか」とは、ウィスキーと水との混合状態の指標であり、混合の度合いが均一に近づけば近づくほど、「まろやか」さが向上する。マイクロ流体チップ10で改質されたウィスキーの水割りは、配管95cを介して貯蔵容器94に送られる。
【0018】
本アルコール飲料改質システム1に用いる部材の材質は、改質対象となるアルコール飲料を変質させない安定的な物質を用いる。例えば、ステンレス鋼やガラス、シリコン、フッ素樹脂などが望ましい。本実施例では、マイクロ流体チップ10およびポンプ92の接液部にステンレス鋼SUS316を、その他の部材には、フッ素樹脂やフッ素ゴムを用いた。
【0019】
このように構成したアルコール飲料改質システムを用いて、アルコール飲料を改質する詳細を以下に述べる。対象となるウィスキーを液体容器91aに、水を液体容器91bに注ぐ。次に、各液体容器91a、91bに配管95a、95bで連結されたポンプ92a、92bを動作させ、ウィスキーと水をマイクロ流体チップ10へ送液する。
【0020】
各ポンプ92a、92bの送液速度に、配管95a、95bの断面積を乗じた値が、ウィスキーと水の混合割合となるから、ウィスキーと水との割合が所望の割合になるように、ポンプ92a、92bの速度を調整する。なお、後に説明するが、マイクロ流体チップ10内では、ウィスキーと水が同時に流れていなければならない。そこで本実施例では、ポンプ92として回転周期を同調させたチューブポンプを使用している。チューブポンプを使用したので、ウィスキーと水がほぼ同じタイミングで、マイクロ流体チップ10内に送液される。
【0021】
ここで、ポンプ92a、92bから送り出されたウィスキーと水は、マイクロ流体チップ10に流入する前に、配管95a、95bに介在させた逆止弁を93a、93bを通過する。逆止弁93a、93bは、ポンプ92a、92bが故障などしてトラブルが発生したときに、ウィスキーや水の逆流を防止するために設けられている。
【0022】
図2に、図1に示したアルコール飲料改質システムに用いるマイクロ流体チップ10を、分解斜視図で示す。マイクロ流体チップ10は、数mm厚さのSUS316ステンレス鋼板材から形成したマイクロ流体チップ本体20と、このマイクロ流体チップ本体20の上面側(この図2では右側面)に配置する蓋部材30と、マイクロ流体チップ本体20の下面側(図2では左側面)に配置されるアダプタ部材40とを有している。そして、これらアダプタ部材40とマイクロ流体チップ本体20と蓋部材30とを積層し、周縁部を図示しないボルトで締結して、マイクロ流体チップ10を構成する。
【0023】
したがって、蓋部材30は、マイクロ流体チップ本体20に形成した流路21〜26の天井部分を構成する。またアダプタ部材40のマイクロ流体チップ本体20と対向する面には、マイクロ流体チップ本体20にウィスキーや水を導入するための入口ポート部43および出口ポート部44が形成されている。
【0024】
入口ポート部43は、アダプタ部材40の側面に形成した液体導入口41a、41bに連通している。同様に、出口ポート部44は、アダプタ部材40の側面に形成した液体排出口42に連通している。流路21〜26の外周部、および入口ポート部43と出口ポート部44のそれぞれの外周部には、フッ素ゴム製のOリング等からなるシール部材50(図4参照)が配設されている。
【0025】
本実施例では、シール部材50にフッ素ゴムを用いて分解可能な組立式チップとしているが、レーザー接合や接着剤など他の方法を用いて、マイクロ流体チップ本体20の表裏に蓋部材30やアダプタ部材40を直接固定して分解不可能なチップとしてもよい。このばあい、Oリングの破損等によるシールの不具合を回避できる。なお、図2では、マイクロ流体チップ本体20と蓋部材30とアダプタ部材40の外周部に、10個のから穴またはねじ孔を形成し、ねじ締結を容易にしている。
【0026】
図3に、マイクロ流体チップ本体20の正面図を示す。この図3は、図2における右側面である。マイクロ流体チップ本体20の周縁部には縦方向に4個、横方向に3個の締結用から穴27が形成されている。このから穴27よりも中心部側には、角部が丸く形成された長方形の溝29が設けられている。溝29には、図示しないシール部材50が装着される。
【0027】
図3において、マイクロ流体チップ本体20の表面には、溝29よりも中心部であって上部から順に、第1液供給部21、第1液誘導流路部22、第2液供給部23、ラミネートフロー形成部24、処理部25、液体排出部26が形成されている。以下に、これら各部の詳細を説明する。
【0028】
第1、第2液供給部21,23は、アダプタ部材40に形成した入口ポート43に連通するように形成されており、多数の厚さ方向(図3の紙面垂直方向)に穿設されたノズルを有している。第1液供給部21は、第2液供給部23よりも上方に位置している。この理由は、第1液と第2液を混合させる前に、微小な第1液の流れを確立させて、第1液と第2液とを安定して混合させるためである。この安定した混合のためには、流量の多い液体を第1液とする。また、マイクロ流体チップ本体20内を流通する液を駆動するポンプの動力を低減し、ポンプを小型化するためには、マイクロ流体チップ本体20内での圧力損失の抑制が必須であり、粘度の高い液体を第2液とすることにより、マイクロ流体チップ本体20内を流れる液の流動損失を低減できる。
【0029】
図4に、図3のA−A矢視断面図を示す。本図は、第1液供給部21の横断面図である。第1液供給部21に形成された多数の第1液供給ノズル21aは、マイクロ流体チップ本体20の幅方向に、ほぼ一定の間隔で1列に形成されている。第1液供給ノズル21aの背面には、供給液である第1液を一時的に溜めるバッファ槽28が形成されている。第1液供給ノズル21aは、このバッファ槽28とマイクロ流体チップ本体20の上面(蓋部材30に対向する面)とを連通する開孔である。バッファ槽28は、マイクロ流体チップ本体20の裏面に形成した凹部を、アダプタ部材40で覆うことで形成される。
【0030】
図1に示したポンプ92から送液された第1液であるウィスキーは、アダプタ部材40の側面に形成された液体導入口41aからマイクロ流体チップ10内に導かれる。液体導入口41aは、図示しないソケットを取り付けるために大径に形成されており、マイクロ流体チップ本体20の幅方向中央部付近まで延びる小径の下穴41cに接続している。下穴41cは、アダプタ部材40がマイクロ流体チップ本体20に対向する面側から明けられた穴41dに連通しており、液体導入口41aから供給されるウィスキーを、矢印で示すようにバッファ槽28に導く。
【0031】
バッファ槽28を満たしたウィスキーは、全ての第1液吐出ノズル21aに、均圧で供給される。その結果、全ての第1液吐出ノズル21aから、ほぼ均一にウィスキーが吐出され、各第1液吐出ノズル21aから第1液誘導流路部22に導かれる。第1液誘導流路部22は、第1液吐出ノズル21aの表面直径とほぼ同じ大きさの流路幅であり、流路深さもほぼ同じ大きさである。この流路幅の十数倍程度の流路長さを経た後に、第1液であるウィスキーは、漏斗状に形成されたラミネートフロー形成部24へ流出する。
【0032】
ラミネートフロー形成部24は、マイクロ流体チップ本体20表面をわずかに掘り下げた溝である。第1液誘導流路部22間に形成されるランド部の終端部(最下部)には、多数の第2液吐出ノズル23aを有する第2液供給部23が形成されている。第2液吐出ノズル23aは、第1液吐出ノズル21aとノズル1個分ずつ位置がマイクロ流体チップ本体20の幅方向にずれて位置している。
【0033】
第2液吐出ノズル23aは、第1液供給部21と同様の構成であり、マイクロ流体チップ本体20の背面側にバッファ槽を有している。第1液と同様に第2液も、液体導入口41bからアダプタ部材40の入口ポート43を経て、マイクロ流体チップ本体20に供給される。第2液吐出ノズル23aからは、第2液である水が吐出され、ラミネートフロー形成部24へ導かれる。
【0034】
異なる液体同士の混合現象は、各液体を構成する分子を相互に拡散させた状態にすることである。分子拡散により液体を混合させるときに、混合完了までに要する時間は、接触界面に垂直な方向の液体の厚さ(=分子や粒子の拡散距離)により影響される。具体的には、接触界面に垂直な方向の液体の厚さの2乗に、混合時間が比例する。
【0035】
例えば、10秒で1mm拡散する試料では、拡散距離を1/2の0.5mmに短縮すると、時間は1/4の2.5秒しか必要でない。そこで、本実施例では、拡散距離に関係する接触界面に垂直な方向の液体の厚さを短縮している。それとともに、多数の微細流路とすることにより、液体を高速かつ均一に混合させている。
【0036】
図5に、第1液供給部21から第2液供給部23までを、斜視図で示す。第1液供給部21と第2液供給部23間に形成される第1液誘導流路部22では、第1液吐出ノズル21aの位置からマイクロ流体チップ本体20の長手方向(液体の流れの方向)に沿って多数のランド部22aが形成されている。このランド部22a間に、第1液誘導流路22bが形成されており、第1液吐出ノズル21aから吐出された第2液であるウィスキーは、第1液誘導流路22bから流れ出る。
【0037】
第1、第2液吐出ノズル21a、23aの位置がずれているので、多数の第1液吐出ノズル21aから吐出されたウィスキーと多数の第2液吐出ノズル23aから吐出された水は、ラミネートフロー形成部24で、マイクロ流体チップ本体20の幅方向にウィスキーと水が交互に帯状に流れるラミネートフロー24Aを形成する。このように、第1液供給部21および第1液誘導流路部22、第2液供給部23、ラミネートフロー形成部24では、2種類の液体を複数個の流れに分割した後、交互に配した帯状の流れを形成する。
【0038】
ラミネートフロー形成部24で形成されたラミネートフロー24Aは、図5で下方へ流れるにしたがって、細分された各流れの幅方向断面積が減少して収縮され、加速した流れとなって処理部25へと流入する。すなわち、ラミネートフロー形成部24から処理部25に移動する際に、流路幅はラミネートフロー24Aの接触界面に垂直な方向に徐々に絞られ、ラミネートフロー24Aを構成する個々の液層の幅方向長さが狭くなる。
【0039】
処理部25は、シール部材50が収納される溝29付近まで流体マイクロチップ本体20の幅方向に延びる流路であり、流体マイクロチップ本体20の幅方向に多数回蛇行して、図3の下方に形成した液体排出部に26に達している。処理部25を蛇行形状としたのは、帯状の狭められたラミネートフロー24Aが、処理部25を流れる間に、ウィスキーの流れと水の流れが相互に拡散して、十分に混合する時間を確保するためである。したがって、処理部25の流路幅と長さは、ウィスキーと水との2種類の液体が完全に混合できる拡散時間に応じて決めればよく、本実施例に示した蛇行流路以外に渦巻状でもよい。
【0040】
ラミネートフロー形成部24でラミネートフロー24Aが形成されたので、2種類の液体の流量に対する接触面積の割合が増加し、接触面で発生する分子拡散が活発になる。これにより、所定時間内の分子拡散量が増加し、マイクロ流体チップ1における混合処理を高効率化できる。さらに、ラミネートフロー形成部24が下流に行くにしたがって収縮する形状であるから、ラミネートフロー24Aの各帯状流れの幅が下流に行くにしたがい狭められ、分子拡散距離が短縮される。これにより、高速混合が可能となる。なお、分子拡散を用いた混合では不規則性が無いので、界面の接触状態を混合に必要な時間だけ保持すれば、確実に2液を混合できる。
【0041】
本実施例では、第1液供給ノズル21aの直径を200μmとし、13個設けている。また、第2液供給ノズル23aの直径も200μmとし、12個設けている。したがって、本マイクロ流体チップ10が形成するラミネートフロー24Aでは、ウィスキーと水が交互に25列配置されている。
【0042】
このラミネートフロー24Aを、流路幅1mmの処理部25に送ると、一列当たりの厚みが拡散距離に等しいから、その大きさは40μmである。拡散係数を水と同程度と考えると、僅か0.16秒で水とウィスキーの混合が完了する。なお、ラミネートフロー24Aを乱さず保持するためには、流路内の流れが層流であることが望ましい。
【0043】
本実施例の場合には、処理部25において流れが層流であるように、流れの状態を示すレイノルズ数の上限を2000程度に設定する。この場合、ウィスキーと水の合計流量を90mL/min以下にする。ここでレイノルズ数Reは、Re=v・d/νで表される無地減数で、vは液体の流速(m/s)、dは流路の代表長さ(m)、νは流体の動粘性係数(m/s)である。ここでは代表長さを水力直径とする。
【0044】
具体的にレイノルズ数を求めるには、以下のようにする。水力直径dは流路断面積Aと流路断面周長Lで表され、d=4A/Lであるから、流路幅w=1mm、深さd=0.5mmとすると、d=0.667となる。このようにd=d=6.7×10−4、動粘性係数νを水と同じと考え、流量90mL/minとすると、Re=2000が得られる。
【0045】
処理部25を通過する間に、ウィスキーと水の混合は完全に終了する。混合が完了したウィスキーと水は、マイクロ流体チップ本体20の下部中央に形成した液体排出部26から、アダプタ部材40の出口ポート44に導かれ、アダプタ部材40の側面に形成された液体排出口42を経て、マイクロ流体チップ10外に接続された貯蔵容器94に、まろやかな水割りとして溜められる。
【0046】
上述したように本実施例では、処理部25のウィスキーおよび水の混合流れが層流となるように設定している。したがって、マイクロ流体チップ10の混合性能は、ラミネートフロー24Aの層の数と処理部25における流路幅により決定される。従来のマイクロ流体チップでは、微細なノズルや溝が必要であった。しかしながら、本実施例では直径数百μmから数mmのノズルおよび溝の組み合わせで、従来の微細加工チップと同程度もしくはそれを上回る性能を発揮できるので、加工性が大幅に向上する。
【0047】
以上述べたように、本実施例に拠れば、ウィスキーと水を均一に混合して、ウィスキーが含むアルコール分子の周囲に、水分子を均等に配することを可能にしたので、口当たりのまろやかな水割りを短時間で得ることができる。なお、上記実施例ではウィスキーと水の2液を混合する例を説明したが、カクテルなどの3液以上の液体を混合させる場合にも本実施例を適用できる。その場合、液体供給部を混合する液の種類の数に応じて増加させる。また、混合する2液の処理量を増加させるときは、マイクロ流体チップ10を並列して設置すればよい。本マイクロ流体チップ10は小型化されているので、並列設置しても装置の大型化を招くことがない。
【0048】
本発明に係るアルコール飲料の改質システムの他の実施例を、以下に説明する。上記実施例ではウィスキーと水のような異なる2種類の液体を混合して、アルコール飲料を改質していたが、本実施例では日本酒やワインのように薄めずに飲むアルコール飲料を改質している。消費元で水などを混ぜずに、醸造元から送られ市販されるアルコール飲料を薄めずにそのまま飲む場合、市販されているアルコール飲料は超微視的には、その成分が必ずしも均一な状態にはなっていない。
【0049】
例えば日本酒の場合、製造の最終段階でアルコール度数調整のため水や醸造アルコールを加えて市販される日本酒では、アルコール分子が不均一に分布している。この状態は、アルコール分子が均一に分布しているものに比べて、味が刺々しい印象を与える。またワインでは、新酒はアルコールの刺激が強く、長時間貯蔵したヴィンテージワインは味がまろやかになる傾向がある。これは、新酒の段階ではアルコール分子の分布の不均一さの程度が大きいからである。そこで、日本酒やワインのような薄めずに飲むアルコール飲料を、マイクロ流体チップ10で混合して、アルコール分子を均一分散化させ、まろやかな味に改質する。
【0050】
具体的には、図1に示すアルコール飲料の改質システム1を用いて処理する。2個の液体容器91a、91bに、それぞれ同一のアルコール飲料を入れ、ポンプ92a、92bでマイクロ流体チップ10へ送液する。この場合、同じアルコール飲料を送液しているので、2台のポンプ92a、92bの送液比率は直接的には、味に影響しない。しかしながら、マイクロ流体チップ10内でのラミネートフロー24Aの安定性を増すために、各ポンプ92a、92bは等しい流量で送液する。
【0051】
送液されたアルコール飲料は、マイクロ流体チップ10内で上記実施例と同様に、多数の帯状流れを有するラミネートフロー24Aとなる。そして、マイクロ流体チップ10から流出するまでに、十分に混合される。これにより、アルコール分子を日本酒またはワイン内に均一に分散させることが可能になり、アルコール飲料の口当たりが改善され、まろやかな味に改質される。上述したことから分かるように、マイクロ流体チップ10を用いてアルコール飲料を改質する場合には、アルコール分子の偏在が著しい新酒において特に効果が顕著となる。そのような新酒であっても、数ヶ月から数年貯蔵した日本酒やワインに似たまろやかな味に、短時間で改質することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係るアルコール飲料改質システムの一実施例の模式図。
【図2】図1に示したアルコール飲料改質システムに用いるマイクロ流体チップの分解斜視図。
【図3】図2に示したマイクロ流体チップの正面図。
【図4】図2に示したマイクロ流体チップの横断面図。
【図5】図4に示したマイクロ流体チップの第1液供給部の詳細斜視図。
【符号の説明】
【0053】
1…アルコール飲料改質システム、10…マイクロ流体チップ、20…マイクロ流体チップ本体、21…第1液供給部、21a…第1液供給ノズル、22…第1液誘導流路部、22a…ランド部、22b…第1液誘導流路、23…第2液供給部、23a…第2液供給ノズル、24…ラミネートフロー形成部、24A…ラミネートフロー、25…処理部、26…液体排出部、28…バッファ槽、30…蓋部材、40…アダプタ部材、41a、41b…液体導入口、42…液体排出口、50…シール部材、91…液体容器、92…ポンプ、93…逆止弁、94…貯蔵容器、95…配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、第2の液の少なくともいずれかがアルコール飲料であるアルコール飲料の改質方法において、間隔を置いて配置された複数の第1の供給口から流出する第1の液をほぼ第1の供給口の間隔と同じ間隔だけ離して所定流路長流し、次いで前記第1の液の流路の間に形成した複数の第2の液の供給口から第2の液を供給し、流れ方向と直角な方向に第1、第2の液が並んだ帯状の流れを形成し、この帯状の流れを、流れ方向に収縮させたラミネートフロー形成部を流通させた後に、混合に要する所定長さ以上の流路を備えた処理部を流通させて混合することを特徴とするアルコール飲料の改質方法。
【請求項2】
前記流路内の流れを層流としたことを特徴とする請求項1に記載のアルコール飲料の改質方法。
【請求項3】
前記流路内を通過する流体の流速をv、流路の代表長さをd、流体の動粘性係数をνとしたときに、Re=vd/νが2000以下となるようにvとdを選定したことを特徴とする請求項2に記載のアルコール飲料の改質方法。
【請求項4】
第1、第2の液の少なくともいずれかがアルコール飲料であるアルコール飲料改質装置において、第1の液と第2の液とを処理してアルコール飲料を改質するマイクロ流体チップと、このマイクロ流体チップに供給する第1の液を貯留する第1の貯留手段、第2の液を貯留する第2の貯留手段と、第1の貯留手段からマイクロ流体チップに第1の液を供給する第1のポンプと、第2の貯留手段からマイクロ流体チップに第2の液を供給する第2のポンプとを備え、前記マイクロ流体チップは、マイクロ流体チップ本体とこの本体の表面側に対抗して設けた蓋部材と、マイクロ流体チップ本体の背面側に配置したアダプタ部材とを有し、マイクロ流体チップ本体の背面側に第1の液及び第2の液を一時的に保有する第1、第2のバッファ槽を有し、これら第1、第2のバッファ槽にはそれぞれ間隔を置いて複数のノズルが接続されており、このノズルから第1、第2の液を幅方向に並んだ帯状の流れとして前記マイクロ流体チップ本体の表面側から流出させ、流出した帯状の流れを幅方向に収縮するラミネートフロー形成部とこのラミネートフロー形成部で収縮した流れを混合させる処理部とを前記マイクロ流体チップ本体に形成したことを特徴とするアルコール飲料の改質装置。
【請求項5】
前記流路内の流れが層流となるように前記流路形状を定めたことを特徴とする請求項4に記載の改質装置。
【請求項6】
少なくともいずれかがアルコール飲料である2種類の液体をマイクロ流体チップ内で処理するアルコール飲料の改質方法において、各液体をマイクロ流体チップに間隔を置いて配置された多数の供給口からマイクロ流体チップの処理部に供給し、処理部では、各供給口から供給された液体を帯状の流れとし、この帯状の流れを下流に行くにしたがい幅方向長さが収縮する流路に導き、次いで、流れが層流となる混合流路に導いたことを特徴とするアルコール飲料の改質方法。
【請求項7】
少なくともいずれかがアルコール飲料である2種類以上の液体を処理するマイクロ流体チップを備えたアルコール飲料改質装置において、前記マイクロ流体チップは、2種類以上の液体を供給する液体供給部と、微小断面に形成された複数流路に、前記液体供給部から供給される複数種の液体が流れ、幅方向に複数種の液が交互に帯状に流れるラミネートフロー形成部と、このラミネートフロー形成部の下流側に位置する処理部とを有し、前記ラミネートフロー形成部は下流に向かうにしたがい幅方向長さが小さくなることを特徴とするアルコール飲料の改質装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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