説明

アルコール飲料ベース

【課題】ワイン風味が感じられるアルコール飲料を提供する。
【解決手段】アルコールとしてワイン由来のアルコールを含み、糖類が10〜40(w/v)%、総酸に対する糖類の重量比が6〜23、及びクエン酸に対する酒石酸の重量比率が10〜147(w/w)%に調整された、アルコール飲料ベースを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料ベース、より詳細には、ワインを含有するアルコール飲料ベースを提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、若年層を中心とする消費者の酒離れが進み、酒類の消費量が減少傾向にある。酒類の飲用時に感じられるアルコールに由来する苦み感や刺激感等が酒離れの一因と考えられており、アルコール度数の低いチューハイ類が人気を集めている。
【0003】
一方、ワインの一般的なアルコール度数は11〜14(v/v)%程度であり、ビールやチューハイ類に比べて高い。さらに、ワインはポリフェノールに由来する渋味を有することがある。従って、若年層でのワインの消費が伸びない理由の一つとして、ワインの高いアルコール度数や味覚的な特性が若者の嗜好に合っていないことが考えられる。
【0004】
そこで、若年層を中心とする消費者の嗜好に合わせながら、ワインの美味しさを十分に維持した、ワインをベースとする低アルコール飲料の開発が求められている。これに関連するものとして、天然香気成分による芳醇なワインの香りとコク味及び渋み等の味を濃厚に有する低アルコール濃縮ワイン組成物(特許文献1)、酒石が除去され、ブランデーが添加された、調理用に適した濃縮ワイン組成物(特許文献2)、そしてアルコールが除去されたワイン、清涼飲料基礎物質、及び炭酸を含有する、ワイン清涼飲料が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−159503
【特許文献2】特開平3−240462
【特許文献3】特開昭63−276468
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載された濃縮ワイン組成物は調理に適用するものであり、ワインを希釈して飲用するものではない。また、特許文献3に記載されたワイン清涼飲料は、アルコールが除去されているため、アルコール飲料とはいえない。即ち、割って飲むためのアルコール飲料ベースであって、割り材で希釈した後においてもワイン風味が感じられるものは見当たらない。
【0007】
本発明は、割り材で希釈した後においてもワイン風味を有するアルコール飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の事情に鑑み、本願の発明者らは、アルコール飲料の風味に影響を及ぼす成分に注目して、各成分の配合について検討を行ったところ、ワイン、糖分、有機酸、及びアルコールを特定量で配合することによって、割り材で希釈した後においてもワインの風味を良好に感じさせることができることを発見した。当該知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は限定的ではないが、(1)〜(6)のアルコール飲料ベース、及び(7)のアルコール飲料を提供する。
(1)アルコールとしてワイン由来のアルコールを含み、糖類が10〜40(w/v)%、総酸に対する糖類の重量比が6〜23、及びクエン酸に対する酒石酸の重量比率が10〜147(w/w)%に調整された、アルコール飲料ベース。
【0010】
(2)ワイン由来のアルコールを純アルコール比率33〜66(v/v)%で含有する、(1)に記載のアルコール飲料ベース。
(3)酒石酸を7g/L以下で含有する、(1)又は(2)に記載のアルコール飲料ベース。
【0011】
(4)アルコール度数が13〜30(v/v)%に調整された、(1)〜(3)のいずれかに記載のアルコール飲料ベース。
(5)糖類が、ショ糖、グルコース、及びフルクトースからなる群より選択される1種又は2種以上である、(1)〜(4)のいずれかに記載のアルコール飲料ベース。
【0012】
(6)蒸留酒を含有する(1)〜(5)のいずれかに記載のアルコール飲料ベース。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のアルコール飲料ベースを割り材で希釈することによって製造される、アルコール飲料。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、割り材で希釈してもワインの風味を有し、かつ十分な飲みごたえとすっきり感を有し、さらに長期の保存安定性にも優れるアルコール飲料ベースを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<アルコール飲料ベース>
本発明のアルコール飲料ベースとは、アルコール飲料を得るために用いられる組成物であって、ワイン、その他の酒類、糖類、及び有機酸が特定の割合で配合されている。
【0015】
本発明のアルコール飲料ベースに含まれるアルコールは、成分として配合されるワイン及びその他の酒類に由来する。アルコール飲料ベースのアルコール度数は、例えば13〜30(v/v)%、好ましくは15〜30(v/v)%、より好ましくは15〜20(v/v)%に調整することができる。特に、アルコール飲料ベースのアルコール度数を15(v/v)%以上、例えば20(v/v)%に調整することによって、常温での長期間保管による品質劣化を抑制することができるため、品質の安定性の観点から好ましい。なお、本明細書でいうアルコールとは、別段の記載がなければエチルアルコール(エタノール)をいう。また、本明細書でいうアルコール度数とは、アルコールが存在する溶液に占めるアルコールの容積(v/v)%を意味する。
【0016】
本発明のアルコール飲料ベースに含有されるワインは、ワインに由来するアルコールの純アルコール比率が一定の範囲になるように配合されていればよく、ワイン自体の配合量は特に制限されないが、例えば20〜50(v/v)%で配合される。ここで、ワインに由来するアルコールの純アルコール比率とは、アルコール飲料ベースに含有される総アルコール容積に占めるワイン由来のアルコール容積の百分率をいう。例えば、アルコール度数12(v/v)%のワイン(500ml)を配合して、総アルコール度数15(v/v)%のアルコール飲料ベース(1000ml)を調製した場合、ワイン由来のアルコールの純アルコール比率は、((0.12×500)/(0.15×1000))×100=40(v/v)%となる。本発明のアルコール飲料ベース中のワインに由来するアルコールの純アルコール比率は、33〜66(v/v)%、好ましくは33〜50(v/v)%に調整することができる。アルコール飲料ベース中のワインに由来するアルコールの純アルコール比率が33(v/v)%未満では、ワインらしい味わいに欠け、水っぽい香味になってしまうため好ましくない。また、ワインに由来するアルコールの純アルコール比率が66(v/v)%を超えるものは、糖類や有機酸の濃度を本発明の効果が発揮される範囲に調整することが難しくなり、十分な飲み応えやキレを付与することができないため好ましくない。ワインに由来するアルコールの純アルコール比率を上記の範囲に調整することにより、糖類を添加することによる効果:アルコール飲料の飲みごたえの向上、及び有機酸を添加することによる効果:後味のキレの維持、を発揮させることができる。
【0017】
本発明においては、一般的に入手可能ないずれのワインを用いてもよい。そのようなワインとは、ブドウを原料として酵母を用いて発酵させることによって得られるアルコールを含有する醪(もろみ)を、オリ引き等によって固液分離することによって製造されるものであればよく、ブドウの品種や産地、発酵に用いる酵母の種類、製造条件等は制限されない。本発明においては、赤ワインを好ましく用いることができる。
【0018】
本発明のアルコール飲料ベースに配合されるその他の酒類とは、アルコール飲料ベースのアルコール度数を15(v/v)%以上に調整することを可能にする酒類であればよい。例えば、ワインのアルコール度数は、一般的に11〜14(v/v)%であることが知られている。従って、アルコール飲料ベースのアルコール度数を上記で説明した範囲に調整するために、アルコール度数が少なくとも20(v/v)%以上の酒類を使用する。そのような酒類として、例えば、蒸留酒類を用いることができる。ここで、蒸留酒類とは、アルコール含有物を単式蒸留機又は連続式蒸留機で蒸留することによって製造される酒類をいう。具体的には、醸造アルコール、スピリッツ類(例えばジン、ウォッカ、ラム、テキーラ等のスピリッツ及び原料用アルコール)、ウイスキー類(例えばウイスキー、ブランデー等)、又は焼酎(例えば単式蒸留焼酎、連続式蒸留焼酎等)が挙げられる。さらに、アルコール度数20(v/v)%以上の醸造酒を用いてもよい。本発明においては、例えば、醸造アルコール、ウォッカ、原料用アルコール、連続式蒸留焼酎等の連続式蒸留酒類を好ましく用いることができる。
【0019】
本発明のアルコール飲料ベースに糖類を特定の濃度範囲で配合することによって、該アルコール飲料ベースを割り材を用いて希釈することにより得られるアルコール飲料に、飲みごたえのある香味を与えることができる。糖類濃度は、10〜40(w/v)%、好ましくは20〜40(w/v)%でアルコール飲料ベースに配合される。本発明でいう糖類の濃度とは、後述する固定化酵素電極(本明細書では「バイオセンサー」ともいう)を用いるフローインジェクション分析法によって測定されたアルコール飲料ベースに含有される各種糖類の濃度の総和である。
【0020】
本発明のアルコール飲料ベースに配合することができる糖類としては、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、及びそれ以上の構成糖からなるオリゴ糖類及び多糖類を挙げることができるが、単糖類又は二糖類を配合することにより、アルコール飲料ベースを割り材で割ることによって得られるアルコール飲料に自然な味わいを与えることができるため好ましい。単糖類としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、マンノース、アラビノース、及び、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、及びラクチトール等の糖アルコール等を使用することができるが、グルコース又はフルクトースが好ましい。二糖類としては、ショ糖、乳糖、及びマルトース等を使用することができるが、ショ糖が好ましい。
【0021】
本発明のアルコール飲料ベースにおいては、以下の(1)〜(3)の条件を同時に満たすように有機酸が配合される。これらの条件を満たすことによって、該アルコール飲料ベースを割り材を用いて希釈することにより得られるアルコール飲料に、後味の心地よいキレを与えることができる。これらの条件を満たすために、ワインに内在する有機酸に加えて、別途有機酸をアルコール飲料ベースに配合することができる。
【0022】
(1)アルコール飲料ベースの糖酸比
アルコール飲料ベースの糖酸比が6〜23、好ましくは9〜23、より好ましくは15〜23になるように、有機酸量を調節する。糖酸比をこの範囲に調節することにより、該アルコール飲料ベースを割り材で希釈することにより得られるアルコール飲料に、しっかりした飲みごたえがありながら後味のキレを維持させることができる。糖酸比が18を超えるとアルコール飲料の後味が悪くなり、糖酸比が4未満になるとアルコール飲料の酸味が強くなりすぎて飲用に適さなくなる。
【0023】
本明細書でいう糖酸比とは、本発明のアルコール飲料ベースに含有される総酸に対する糖類の量比をいう。ここで、総酸とはアルコール飲料ベースに含まれる全ての有機酸量の総和を意味し、本明細書においては、水酸化ナトリウムによる滴定酸度を有機酸が全て酒石酸であると仮定して換算した値をいう。総酸の測定方法及び計算方法については後述する。
【0024】
(2)アルコール飲料ベースの酒石酸濃度
アルコール飲料ベース中の酒石酸濃度を、7g/L以下、好ましくは5g/L以下になるように調節する。酒石酸濃度をこの範囲内に調節することにより、該アルコール飲料ベースの保管中に酒石の発生を防止することができ、さらにアルコール飲料ベースを割り材を用いて希釈することによって得られるアルコール飲料において、ワインらしい複雑な味わいを維持させることができる。酒石酸濃度が7g/Lより高くなるとアルコール飲料ベースの保管中に酒石が発生する危険性がある。
【0025】
(3)アルコール飲料ベースの酒石酸/クエン酸比率
本明細書でいう酒石酸/クエン酸比率とは、アルコール飲料ベースにおけるクエン酸に対する酒石酸の量比の百分率を意味し、次の式:
酒石酸/クエン酸比率(w/w)%=(酒石酸濃度/クエン酸濃度)×100
によって求めることができる。酒石酸濃度及びクエン酸濃度は、後述する「高速液体クロマトグラフィーによる有機酸濃度の測定」に記載された方法によって測定することができる。酒石酸/クエン酸比率は、10〜147(w/w)%、好ましくは37〜147(w/w)%となるように、適宜酒石酸及びクエン酸がアルコール飲料ベースに配合される。この範囲内に調節することにより、該アルコール飲料ベースを割り材を用いて希釈することによって得られるアルコール飲料において、しっかりした飲みごたえがありながら後味のキレを維持させることができる。当該(3)の条件は、上記(1)の条件よりもアルコール飲料の後味のキレに強く影響するため、重要である。酒石酸/クエン酸比率が10(w/w)%未満になるとキレが良くなりすぎて深い味わいが不足するようになり、酒石酸/クエン酸比率が147(w/w)%より高くなると味わいが重くなりすぎて飲みにくくなる。
【0026】
前述したように、ワイン自体に含まれる酒石酸及びクエン酸のみによっては、(3)の条件を満たすることができない場合があるため、必要に応じて酒石酸及びクエン酸を別途アルコール飲料ベースに配合してもよい。特にワイン(赤ワイン)のクエン酸濃度は低いため、酒石酸及びクエン酸を別途添加することによって(3)の条件を満たすようにすることができる。
【0027】
上記(1)〜(3)の条件を満たす限りにおいて、飲食品の製造において一般的に使用されているいずれの有機酸を本発明のアルコール飲料ベースの成分として用いてもよい。そのような有機酸としては、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、グルコン酸、コハク酸、乳酸、酢酸、ピルビン酸、及びα−ケトグルタル酸等が挙げられる。
【0028】
また、これらの有機酸を含有する果汁をアルコール飲料ベースに配合することにより、上記(1)〜(3)の条件を満足させてもよい。そのような果汁としては、ブドウ、リンゴ、ウメの各果汁が挙げられる。具体的な態様として、ピューレ、ストレート果汁、加熱濃縮果汁、減圧濃縮果汁、透明果汁、又は混濁果汁等を本発明のアルコール飲料ベースに配合することができる。果汁は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記で説明した以外の成分を本発明のアルコール飲料ベースの成分として使用することができる。そのような成分として、低アルコール飲料の成分として一般的に使用されているいずれの成分を用いることができ、例えば、香料、ビタミン、色素、酸化防止剤、酸味料、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、及び品質安定化剤等が挙げられる。
【0030】
<容器詰め飲料ベース>
本発明のアルコール飲料ベースは、常温下で長期間保管しても品質の劣化を受けにくいが、その特徴をより長期間維持する観点から、容器に充填して容器詰めとすることが好ましい。容器の形態は何ら制限されず、プラスチックを主成分とする成形容器、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと積層されたラミネート紙容器、及びガラス瓶等の通常の形態で提供することができる。
【0031】
<アルコール飲料>
本明細書でいうアルコール飲料とは、本発明のアルコール飲料ベースを割り材を用いて希釈することによって得られるものをいう。アルコール飲料のアルコール度数は、例えば2〜10(v/v)%であり、好ましくは3〜8(v/v)%である。具体的な一態様として、アルコール飲料のアルコール度数は3〜6(v/v)%である。
【0032】
<割り材>
本明細書でいう割り材とは、本発明のアルコール飲料ベースの希釈に用いるものをいう。割り材としてアルコール類及び非アルコール類を用いることができる。アルコール類として焼酎、スピリッツ等、非アルコール類として水、お湯、炭酸水、果汁、牛乳、緑茶、ウーロン茶等を用いることができる。また、前記のようなアルコール類及び非アルコール類の2種類以上を組み合わせて割り材としてもよい。本発明のアルコール飲料ベースは、割り材を用いて1.5〜10倍、好ましくは3〜6倍に希釈される。
【0033】
<糖類濃度の測定>
本明細書において示される糖類の濃度は、バイオセンサーを用いるフローインジェクション分析法によって測定された値である。ここで、バイオセンサーとは、試料中の糖類と特異的に作用する固定化酵素膜を有する電極を意味する。バイオセンサーの固定化酵素と測定対象の糖類との反応によって発生する酸化還元電位を測定して、その糖濃度を算出する。使用する固定化酵素の種類によって種々の糖類濃度を測定することができる。本明細書においては、王子計測機器株式会社から販売されている、フローインジェクション分析装置バイオフローBF−4のシステムを用いて糖類濃度を測定する。
【0034】
<総酸の測定>
本明細書において示される総酸は、次の方法によって測定される。試料20mLをホールピペットで100mL容のビーカーにとり、蒸留水を加えて液量を約50mLに調整する。当該液にpHメーターの電極を挿入し、撹拌しながら1/10N水酸化ナトリウム溶液をビュレットから滴下し、pHが7.0になるまで滴定する。試料液のpHを7.0にするために要する1/10N水酸化ナトリウム溶液の液量を滴定量(XmL)とする。ここで、1/10N水酸化ナトリウム溶液は、市販のファクター既知の容量分析用試薬を用いる。
【0035】
本明細書において示される総酸は、試料中の有機酸が全て酒石酸であると仮定して、下記の数式:
総酸(g/100mL)=X×F×0.0075×100/20
X:1/10N水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL)
F:1/10N水酸化ナトリウム溶液のファクター
により算出される。
【0036】
<高速液体クロマトグラフィーによる有機酸濃度の測定>
本明細書において示される酒石酸及びクエン酸の濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定される。本有機酸分析システムは、イオン排除クロマトグラフィーで有機酸を分離した後、カラム溶出液にpH緩衝化試薬を連続的に加え、pHを中性付近にして有機酸を解離状態にさせ、電気伝導度を測定するものである。本明細書においては、特に断りのない限り、次の条件で分析を行なう:
カラム Shim−pack SCR−102H(8mmI.D×300mmL、株式会社島津製作所)。試料によっては2本直列に接続して使用する。また、必要に応じて対応するガードカラム、例えばSCR−102H(6mmI.D×50mmL、株式会社島津製作所)を装着する;
カラム温度 45℃;
移動相 5mM p−トルエンスルホン酸水溶液;
pH緩衝化試薬 100μM EDTA及び20mM Bis−Trisを含む5mM p−トルエンスルホン酸水溶液;
流速 0.8mL/分;
電気伝導度を測定する。
【0037】
上記の条件は、LC−10A(株式会社島津製作所)等、市販のHPLCシステムを用いて実行させることができる。各種有機酸標準液として、例えば市販のカルボン酸分析形用試薬(関東化学株式会社)を適宜蒸留水で希釈して複数の濃度の標準液を作成し、検量線法によって分析に供する試料中の酒石酸及びクエン酸の濃度を測定する。
【0038】
<アルコール度数の測定>
アルコール度数はいずれの方法を用いて測定してもよいが、本明細書において示されるアルコール度数は、振動式密度計を用いて測定された値である。より詳細には、測定対象のアルコール飲料を濾過又は超音波処理することによって炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算することによりアルコール度数を求める。
【0039】
また、1.0(v/v)%未満のアルコール度数は、国税庁所定分析法3−4(アルコール分)に記載の「B)ガスクロマトグラフ分析法」を用いることによって測定する。
<酒石発生テスト>
濾紙によって固形分を除去した試料300mLを、360mL容透明ガラスサンプル瓶に封入し、密栓した後、0〜−2℃に設定された恒温器中で7日以上保持する。酒石の発生の有無を目視にて確認し、観察結果を次の基準により評価する。
【0040】
− 酒石は全く発生していない。
+ 酒石の結晶がわずかに認められる。
++ 酒石の結晶が約10個程度認められる。
【0041】
+++ 酒石の結晶がガラス瓶底面全体に広がっている。
【実施例】
【0042】
以下により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
[試験例1] アルコール飲料ベースへの糖類添加による影響
(1−1)アルコール飲料ベースの調製
赤ワイン(通常のマストワイン、アルコール度数12.7(v/v)%)とニュートラルスピリッツ(NS、アルコール度数59.0(v/v)%)、及び果糖ブドウ糖液糖(商品名IF55、加藤化学株式会社)を表1に示された割合で混合し、水を添加して最終液量を1000Lに調整することによって、アルコール度数が15(v/v)%、糖類の濃度が16〜35(w/v)%に調整されたサンプル2〜6を調製した。赤ワインそのものであるサンプル1を対照とした。
【0043】
上記NSは、糖蜜を発酵させた醪を連続式蒸留機を用いて蒸留することによって得られたアルコールを含有する蒸留物である。
【0044】
【表1】

【0045】
(1−2)官能評価
サンプル1〜6を水で約3倍に希釈してアルコール度数5v/v%に調整して官能評価を行った。官能評価においては、熟練した5人のパネラーが以下の5段階評価で飲み応えを評価した。
【0046】
1点 水っぽい;
2点 やや水っぽい;
3点 やや飲み応えがある;
4点 飲み応えがある;
5点 非常に飲み応えがある。
【0047】
各パネラーの評価点の平均値を算出し、3.0点以上を十分な飲み応えがあるものとして評価した(表2)。
【0048】
【表2】

【0049】
対照のサンプル1(赤ワインのみ)を水で希釈したものは、平均評価点が2.0であり、やや水っぽいと評価された。サンプル2(赤ワインとNSの混合物)を水で希釈したものは、果実らしさは感じられるが、対照とほぼ同じやや水っぽいと評価された。
【0050】
一方、サンプル3(16(w/v)%の糖類、ワイン、及びNSの混合物)を水で希釈したものは、平均評価点が3.0であり、やや飲み応えがあると評価された。サンプル4〜6(35(w/v)%の糖類、ワイン、及びNSの混合物)を水で希釈したものも、それぞれ平均評価点が3.7、3.5、及び3.1であり、やや飲み応えがあると評価された。
【0051】
以上のことから、サンプル3〜6の希釈液は平均評価点が3.0以上となり、十分な飲みごたえを有していることが明らかとなった。これらの結果から、アルコール飲料ベースに糖類を16〜35(w/w)%で配合することによって、アルコール飲料の飲み応えがよくなることが示された。
【0052】
[試験例2] アルコール飲料ベースにおけるワインに由来するアルコールの純アルコール比率の影響
(2−1)アルコール飲料ベースの調製
赤ワイン(アルコール度数12.7(v/v)%)、NS(アルコール度数59.0(v/v)%)、及び酒石酸を表3に示された割合で混合し、水で液量を1000Lに調整することにより、総酸が3.0g/L、赤ワインに由来するアルコールの純アルコール比率が20〜80(v/v)%に調整されたアルコール飲料ベースを調製した(サンプル8〜12)。赤ワインそのものであるサンプル7を対照とした。
【0053】
【表3】

【0054】
(2−2)官能評価
サンプル7〜12を水で約3倍に希釈してアルコール度数5v/v%に調整して官能評価を行った。官能評価においては、熟練した5人のパネラーが以下の5段階評価で果実の味わいを評価した。
【0055】
1点 果実の味わいを感じない;
2点 果実の味わいを感じるが、弱い;
3点 果実の味わいを感じる;
4点 果実の味わいを豊かに感じる;
5点 果実の味わいを非常に豊かに感じる。
【0056】
各パネラーの評価点の平均値を算出し、3.0点以上を十分な果実の味わいがあると評価した(表4)。
【0057】
【表4】

【0058】
対照のサンプル7(赤ワインのみ)を水で希釈したものは、平均評価点が4.0であり、果実の味わいを豊かに感じると評価された。ワインに対するNSの比が上昇するにつれてワインに由来するアルコールの純アルコール比率が低下するため、果実の味わいの評価が低下することが予想された。しかし、ワインの純アルコール比率が79(v/v)%のサンプル8及び66(v/v)%のサンプル9を水で希釈したものは、果実の味わいの評価について対照とほとんど同等の高い評価を受けた。また、ワインに由来するアルコールの純アルコール比率が50(v/v)%のサンプル10、及び33(v/v)%のサンプル11の希釈物についても、平均評価点がそれぞれ3.7、及び3.4であり、十分な果実の味わいを有していることがわかった。
【0059】
以上の結果から、ワインに由来するアルコールの純アルコール比率が33(v/v)%以上のアルコール飲料ベースを希釈して得られるアルコール飲料は、果実の味わいを十分に保持していることが明らかとなった。
【0060】
[試験例3] アルコール飲料ベースにおける糖酸比の影響
(3−1)アルコール飲料ベースの調製
赤ワイン(アルコール度数12.7(v/v)%)、NS(アルコール度数59.0(v/v)%)、果糖ブドウ糖液糖、無水クエン酸(丸善薬品産業株式会社)、及び酒石酸を表5に示された割合で混合し、水を添加して最終液量を1000Lに調整することにより、糖酸比が5.0〜61.7に調整されたサンプル13〜17を調製した。
【0061】
【表5】

【0062】
(3−2)官能評価
サンプル13〜17を水で3倍に希釈してアルコール度数5v/v%に調整し、官能評価を行った。官能評価においては、熟練した5人のパネラーが以下の5段階評価で果実の味わいと後味のすっきりさのバランスを評価した。
【0063】
1点 果実の味わいと後味のすっきりさのバランスが非常に悪い;
2点 果実の味わいと後味のすっきりさのバランスが悪い;
3点 果実の味わいと後味のすっきりさのバランスがどちらかと言えば良い;
4点 果実の味わいと後味のすっきりさのバランスが良い;
5点 果実の味わいと後味のすっきりさのバランスが非常に良い。
【0064】
各パネラーの評価点の平均値を算出し、3.0点以上を果実の味わいと後味のすっきりさのバランスが良好であると評価した(表6)。
【0065】
【表6】

【0066】
糖酸比が61.7と最も高いサンプル13を水で希釈したものは、平均評価点が2.6であった。また、糖酸比が5.0と最も低いサンプル17を水で希釈したものも、平均評価点が2.0であった。一方、糖酸比が約22.7〜6.3のサンプル14〜16においては、平均評価点がそれぞれ、3.8、4.6、及び3.2であり、果実の味わいと後味のすっきりさのバランスが良好と評価された。
【0067】
以上の結果から、果実の味わいと後味のすっきりさのバランスを良好にするためには、アルコール飲料ベースの糖酸比を約22.7〜6.3に調整する必要のあることが示唆された。
【0068】
[試験例4] アルコール飲料ベースにおける酒石酸の影響
(4−1)アルコール飲料ベースの調製
赤ワイン(アルコール度数12.7(v/v)%)、NS(アルコール度数59.0(v/v)%)、果糖ブドウ糖液糖、無水クエン酸、及び酒石酸を表7に示された割合で混合し、水を添加して最終液量を1000Lに調整することにより、酒石酸/クエン酸比率が8〜9307(w/w)%に調整されたサンプル18〜23を調製した。
【0069】
【表7】

【0070】
(4−2)酒石の発生
サンプル18〜23について酒石発生テストを実施した。酒石が析出しないものを合格とした。
【0071】
(4−3)官能評価
サンプル18〜23を水で3倍に希釈し、試験例3(3−2)に記載された方法に従って果実の味わいと後味のすっきりさのバランスを評価した。
【0072】
(4−4)結果
【0073】
【表8】

【0074】
酒石の発生について検討した結果、サンプル18〜21では酒石は発生しなかったが、サンプル22及び23では酒石が発生した。酒石の発生はアルコール飲料ベースの安定性に影響する。従って、保存安定性の観点からアルコール飲料ベースにおける酒石の発生を防ぐ必要がある。そのためには、酒石酸濃度を7g/L以下にする必要があることが示された。
【0075】
次に、果実の味わいと後味のすっきりさのバランスについて官能評価を行った結果、サンプル19〜21の希釈物の平均評価点はそれぞれ、3.4、4.0、及び4.2となった。従って、アルコール飲料において、果実の味わいを維持しつつ後味のすっきりさを実現するためには、アルコール飲料ベースの酒石酸/クエン酸比率を10〜147(w/w)%、より好ましくは37〜147(w/w)%にする必要があることが示された。
【0076】
以上の結果から、アルコール飲料ベースの酒石酸濃度及び酒石酸/クエン酸比率を上記のような範囲に調節することにより、アルコール飲料ベースに良好な保存安定性(酒石が発生しない)を与えることができる。そして、当該アルコール飲料ベースを割り材で希釈して得られるアルコール飲料の味わいと後味とのバランスを良好に保つ(果実の味わいが豊かに感じられつつ、後味がスッキリとしている)ことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールとしてワイン由来のアルコールを含み、
糖類が10〜40(w/v)%、総酸に対する糖類の重量比が6〜23、及びクエン酸に対する酒石酸の重量比率が10〜147(w/w)%に調整された、
アルコール飲料ベース。
【請求項2】
ワイン由来のアルコールを純アルコール比率33〜66(v/v)%で含有する、請求項1に記載のアルコール飲料ベース。
【請求項3】
酒石酸を7g/L以下で含有する、請求項1又は2に記載のアルコール飲料ベース。
【請求項4】
アルコール度数が13〜30(v/v)%に調整された、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルコール飲料ベース。
【請求項5】
糖類が、ショ糖、グルコース、及びフルクトースからなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルコール飲料ベース。
【請求項6】
蒸留酒を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルコール飲料ベース。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルコール飲料ベースを割り材で希釈することによって製造される、アルコール飲料。

【公開番号】特開2012−244965(P2012−244965A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120980(P2011−120980)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)