説明

アルゴンガスの精製方法および精製装置

【課題】アルゴンガスの不純物含有率を効果的に低減することで、その後の吸着処理の負荷を低減し、精製に要するエネルギーを少なくしてアルゴンガスを高純度に精製できる実用的な方法と装置を提供する。
【解決手段】少なくとも酸素、水素、一酸化炭素、および窒素を不純物として含有するアルゴンガスを精製する際に、アルゴンガスにおける酸素モル濃度を一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2を超える値に設定し、次に、酸素を一酸化炭素および水素と反応させ、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、次に、水分含有率を脱水操作により低減する。次に、その不純物の中の少なくとも酸素および二酸化炭素を、カーボン系吸着剤を用いた圧力スイング吸着法により吸着し、しかる後に、その不純物の中の少なくとも窒素を、−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物として少なくとも酸素、水素、一酸化炭素、および窒素を含有するアルゴンガスを精製する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、シリコン単結晶引上げ炉、セラミック焼結炉、製鋼用真空脱ガス設備、太陽電池用シリコンプラズマ溶解装置、多結晶シリコン鋳造炉のような設備においては、アルゴンガスが炉内雰囲気ガス等として使用されている。そのような設備から再利用のため回収されたアルゴンガスは、水素、一酸化炭素、空気などの混入により純度が低下している。そこで、回収されたアルゴンガスの純度を高めるため、混入した不純物を吸着剤に吸着させることが行われている。さらに、そのような不純物の吸着を効率良く行うため、吸着処理の前処理として不純物中の酸素と可燃成分とを反応させることが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に開示された方法においては、アルゴンガスにおける酸素の量を、水素、一酸化炭素等の可燃成分を完全燃焼させるのに必要な化学量論量よりも僅かに少なくなるよう調節し、次に、一酸化炭素と酸素との反応よりも水素と酸素との反応を優先させるパラジウムまたは金を触媒として、アルゴンガスにおける酸素を一酸化炭素、水素等と反応させることで、一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、次に、アルゴンガスに含有される二酸化炭素と水を常温で吸着剤に吸着させ、しかる後に、アルゴンガスに含有される一酸化炭素と窒素を−10℃〜−50℃の温度で吸着剤に吸着させている。
【0004】
特許文献2に開示された方法においては、アルゴンガスにおけるの酸素の量を、水素、一酸化炭素等の可燃成分を完全燃焼させるのに十分な量とし、次に、パラジウム系の触媒を用いてアルゴンガスにおける酸素を一酸化炭素、水素等と反応させることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、次に、アルゴンガスに含有される二酸化炭素と水を常温で吸着剤に吸着させ、しかる後に、アルゴンガスに含有される酸素と窒素を−170℃程度の温度で吸着剤に吸着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3496079号公報
【特許文献2】特許第3737900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、前処理の段階でアルゴンガスにおける酸素の量を水素、一酸化炭素等を完全燃焼させるのに必要な化学量論量よりも少なくし、一酸化炭素と酸素との反応よりも水素と酸素との反応を優先させる触媒を用いることで、一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成している。しかし、未反応の一酸化炭素が水蒸気と水性ガスシフト反応を起こすことで水素が再生成され、水素の低減が要求される場合に対応できないという欠点がある。また、特許文献1に記載の方法では、不純物中の酸素と可燃成分とを反応させた後の吸着処理の段階で、二酸化炭素と水を常温で吸着剤に吸着させた後に、一酸化炭素と窒素を−10℃〜−50℃で吸着剤に吸着させている。そのような低温で一酸化炭素と窒素を吸着した吸着剤を再生する場合、一酸化炭素は窒素に比べて吸着剤から脱離させるのにエネルギーを要することから工業的に不利である。
【0007】
特許文献2に記載の方法では、前処理の段階でアルゴンガスにおけるの酸素の量を水素、一酸化炭素等を完全燃焼させるのに十分な量とすることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成している。しかし、酸素を吸着するには吸着時の温度を−170℃程度まで低下させる必要がある。すなわち、吸着処理の前処理で酸素を残留させるため、吸着処理の際の冷却エネルギーが増大し、精製負荷が大きくなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題を解決できるアルゴンガスの精製方法および精製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明方法は、少なくとも酸素、水素、一酸化炭素、および窒素を不純物として含有するアルゴンガスを精製する方法であって、前記アルゴンガスにおける酸素モル濃度が一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2以下である場合は、酸素を添加することで1/2を超える値に設定し、次に、前記アルゴンガスにおける酸素を一酸化炭素および水素と触媒を用いて反応させることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、次に、前記アルゴンガスにおける水分含有率を脱水操作により低減し、次に、前記アルゴンガスにおける不純物の中の少なくとも酸素および二酸化炭素を、カーボン系吸着剤を用いた圧力スイング吸着法により吸着し、しかる後に、前記アルゴンガスにおける不純物の中の少なくとも窒素を、−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着することを特徴とする。
本発明によれば、アルゴンガスにおける酸素を一酸化炭素および水素と反応させることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、次に、脱水操作によりアルゴンガスの水分含有率を低減している。これにより、アルゴンガスの主な不純物は酸素、二酸化炭素、および窒素とされるので、圧力スイング吸着法による不純物の吸着に際して水分の吸着が不要になり吸着負荷が軽減され、また、圧力スイング吸着法による吸着剤として酸素の吸着効果が高いカーボン系吸着剤が用いられる。これにより、PSAユニットを用いた圧力スイング吸着法による酸素吸着効果が高められるので、その後のTSAユニットを用いたサーマルスイング吸着法での酸素の吸着を不要にし、サーマルスイング吸着法での不純物の吸着温度を酸素を吸着する場合に比べて高くできる。よって、吸着処理の前処理で酸素を残留させても、冷却エネルギーを増大することなく、アルゴンガスの回収率および純度を高めることができる。
【0010】
本発明において圧力スイング吸着法による酸素吸着効果を高める上では、前記カーボン系吸着剤がカーボンモレキュラーシーブであるのが好ましい。
【0011】
本発明装置は、少なくとも酸素、水素、一酸化炭素、および窒素を不純物として含有するアルゴンガスを精製する装置であって、前記アルゴンガスが導入される反応器と、前記反応器に導入される前記アルゴンガスにおける酸素モル濃度が一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2以下である場合は、酸素を添加することで1/2を超える値に設定する濃度調節装置と、前記反応器から流出する前記アルゴンガスの水分含有率を脱水操作を行うことで低減する乾燥機と、前記乾燥機に接続される吸着装置とを備え、前記反応器内で前記アルゴンガスにおける酸素が一酸化炭素および水素と反応することで、酸素が残留した状態で二酸化炭素と水が生成されるように、前記反応器に触媒が充填され、前記吸着装置は、前記アルゴンガスにおける不純物の中の少なくとも酸素および二酸化炭素を、カーボン系吸着剤を用いた圧力スイング吸着法により吸着するPSAユニットと、前記アルゴンガスにおける不純物の中の少なくとも窒素を、−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着するTSAユニットとを有することを特徴とする。
本発明装置によれば本発明方法を実施できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルゴンガスの不純物含有率を効果的に低減することで、その後の吸着処理の負荷を低減し、精製に要するエネルギーを少なくしてアルゴンガスを高純度に精製できる実用的な方法と装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るアルゴンガスの精製装置の構成説明図
【図2】本発明の実施形態に係るアルゴンガスの精製装置における圧力スイング吸着装置の構成説明図
【図3】本発明の実施形態に係るアルゴンガスの精製装置における温度スイング吸着装置の構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すアルゴンガスの精製装置αは、例えば多結晶シリコン鋳造炉のようなアルゴンガス供給源1から供給される使用済アルゴンガスを回収して再利用できるように精製するもので、加熱器2、反応器3、濃度調節装置4、乾燥機5、冷却器8、および吸着装置9を備える。
【0015】
供給源αから供給されるアルゴンガスは、図外フィルター等により除塵され、ブロワ等のガス送り手段(図示省略)を介して加熱器2に導入される。精製対象のアルゴンガスに含有される微量の不純物は少なくとも酸素、水素、一酸化炭素、および窒素とされるが、二酸化炭素、炭化水素、水等の他の不純物を含有していてもよい。精製されるアルゴンガスにおける不純物の濃度は特に限定されず、例えば5モルppm〜40000モルppm程度とされる。加熱器2によるアルゴンガスの加熱温度は、各反応器3、6における反応を完結するためには250℃以上にするのが好ましく、触媒の寿命短縮を防止する観点から450℃以下とするのが好ましい。
【0016】
加熱器2により加熱されたアルゴンガスは反応器3に導入される。濃度調節装置4は、反応器3に導入されるアルゴンガスにおける酸素モル濃度が一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2以下である場合は、酸素を添加することで1/2を超える値に設定する。本実施形態の濃度調節装置4は、濃度測定器4a、酸素供給源4b、酸素量調整器4c、及びコントローラ4dを有する。濃度測定器4aは、反応器3に導入されるアルゴンガスにおける酸素モル濃度、一酸化炭素モル濃度、および水素モル濃度を測定し、その測定信号をコントローラ4dに送る。コントローラ4dは、測定された酸素モル濃度が一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度の和の1/2以下である場合は、1/2を超える値にするのに必要な酸素量に対応する制御信号を酸素量調整器4cに送る。酸素量調整器4cは、酸素供給源4bから反応器3へ到る流路を、制御信号に応じた量の酸素が供給されるように開度調整する。これにより、精製対象のアルゴンガスにおける酸素モル濃度は一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2を超える値に設定される。
【0017】
反応器3に、酸素を水素および一酸化炭素と反応させる触媒が充填される。これにより、反応器3内でアルゴンガスにおける酸素が一酸化炭素および水素と反応することにより、酸素が残留した状態で二酸化炭素と水が生成される。なお、多結晶シリコン鋳造炉等から回収されるアルゴンガスは可燃成分として炭化水素を含むが、そのモル濃度は水素と一酸化炭素の合計モル濃度の通常は1/100以下である。よって、通常は一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2を僅かに超えるように酸素モル濃度を設定すれば、酸素が残留した状態で二酸化炭素と水を生成できる。反応器3に充填される触媒は、酸素を一酸化炭素および水素と反応させるものであれば特に限定されず、例えば、白金、白金合金、パラジウム等をアルミナ等に担持した触媒を用いることができる。
【0018】
乾燥機5は、反応器3から流出するアルゴンガスの水分含有率を脱水操作を行うことで低減する。乾燥機5としては市販のものを用いればよく、例えばアルゴンガスを加圧して吸着剤により水分を除去し、吸着剤を減圧下で再生させる加圧式脱水装置、アルゴンガスを加圧冷却して凝縮された水分を除去する冷凍式脱水装置、アルゴンガスに含まれる水分を脱水剤により除去し、脱水剤を加熱して再生させる加熱再生式脱水装置等を用いることができ、加熱再生式脱水装置が水分含有率を効果的に低減する上で好ましく、アルゴンガスにおける水分を約99%程度除去できるものがよい。
【0019】
乾燥機5に冷却器8を介して吸着装置9が接続される。乾燥機5により脱水処理されて水分含有率を低減されたアルゴンガスは、冷却器8によって冷却された後に吸着装置9に導入される。吸着装置9はPSAユニット10とTSAユニット20を有する。PSAユニット10は、アルゴンガスにおける不純物の中の少なくとも酸素および二酸化炭素を、カーボン系吸着剤を用いた常温での圧力スイング吸着法により吸着する。TSAユニット20は、アルゴンガスにおける不純物の中の少なくとも窒素を、−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着する。
【0020】
PSAユニット10は公知のものを用いることができる。例えば図2に示すPSAユニット10は4塔式であり、反応器3から流出するアルゴンガスを圧縮する圧縮機12と、4つの第1〜第4吸着塔13を有し、各吸着塔13にカーボン系吸着剤が充填されている。そのカーボン系吸着剤としては、酸素吸着効果を高める上でカーボンモレキュラーシーブが好ましい。
圧縮機12は、各吸着塔13の入口13aに切替バルブ13bを介して接続される。吸着塔13の入口13aそれぞれは、切替バルブ13eおよびサイレンサー13fを介して大気中に接続される。
吸着塔13の出口13kそれぞれは、切替バルブ13lを介して流出配管13mに接続され、切替バルブ13nを介して昇圧配管13oに接続され、切替バルブ13pを介して均圧・洗浄出側配管13qに接続され、切替バルブ13rを介して均圧・洗浄入側配管13sに接続される。
流出配管13mは、圧力調節バルブ13tを介してTSAユニット20に接続され、TSAユニット20に導入されるアルゴンガスの圧力が一定とされる。
昇圧配管13oは、流量制御バルブ13u、流量指示調節計13vを介して流出配管13mに接続され、昇圧配管13oでの流量が一定に調節されることにより、TSAユニット20に導入されるアルゴンガスの流量変動が防止される。
均圧・洗浄出側配管13qと均圧・洗浄入側配管13sは、一対の連結配管13wを介して互いに接続され、各連結配管13wに切替バルブ13xが設けられている。
【0021】
PSAユニット10の第1〜第4吸着塔13それぞれにおいて、吸着工程、減圧I工程(洗浄ガス出工程)、減圧II工程(均圧ガス出工程)、脱着工程、洗浄工程(洗浄ガス入工程)、昇圧I工程(均圧ガス入工程)、昇圧II工程が順次行われる。
すなわち、第1吸着塔13において切替バルブ13bと切替バルブ13lのみが開かれ、反応器3から供給されるアルゴンガスは圧縮機12から切替バルブ13bを介して第1吸着塔13に導入される。これにより、第1吸着塔13において導入されたアルゴンガス中の少なくとも二酸化炭素および水分が吸着剤に吸着されることで吸着工程が行われ、不純物の含有率が低減されたアルゴンガスが第1吸着塔13から流出配管13mを介してTSAユニット20に送られる。この際、流出配管13mに送られたアルゴンガスの一部は、昇圧配管13o、流量制御バルブ13uを介して別の吸着塔(本実施形態では第2吸着塔13)に送られ、第2吸着塔13において昇圧II工程が行われる。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13b、13lを閉じ、切替バルブ13pを開け、別の吸着塔(本実施形態では第4吸着塔13)の切替バルブ13rを開け、切替バルブ13xの中の1つを開ける。これにより、第1吸着塔13の上部の比較的不純物含有率の少ないアルゴンガスが、均圧・洗浄入側配管13sを介して第4吸着塔13に送られ、第1吸着塔13において減圧I工程が行われる。この際、第4吸着塔13においては切替バルブ13eが開かれ、洗浄工程が行われる。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13pと第4吸着塔13の切替バルブ13rを開けたまま、第4吸着塔13の切替バルブ13eを閉じることで、第1吸着塔13と第4吸着塔13の間において内部圧力が相互に均一、またはほぼ均一になるまで第4吸着塔13にガスの回収を実施する減圧II工程が行われる。この際、切替バルブ13xは場合に応じ2つとも開けてもよい。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13eを開け、切替バルブ13pを閉じることにより、吸着剤から不純物を脱着する脱着工程が行われ、不純物はガスと共にサイレンサー13fを介して大気中に放出される。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13rを開け、吸着工程を終わった状態の第2吸着塔13の切替バルブ13b、13lを閉じ、切替バルブ13pを開ける。これにより、第2吸着塔13の上部の比較的不純物含有率の少ないアルゴンガスが、均圧・洗浄入側配管13sを介して第1吸着塔13に送られ、第1吸着塔13において洗浄工程が行われる。第1吸着塔13において洗浄工程で用いられたガスは、切替バルブ13e、サイレンサー13fを介して大気中に放出される。この際、第2吸着塔13では減圧I工程が行われる。次に第2吸着塔13の切替バルブ13pと第1吸着塔13の切替バルブ13rを開けたまま第1吸着塔の切替バルブ13eを閉じることで昇圧I工程が行われる。この際、切替バルブ13xは場合に応じ2つとも開けてもよい。
しかる後に、第1吸着塔13の切替バルブ13rを閉じて一旦、工程の無い待機状態になる。これは、第4吸着塔13の昇圧II工程が完了するまで持続する。第4吸着塔13の昇圧が完了して、吸着工程が第3吸着塔13から第4吸着塔13に切り替わると、第1吸着塔の切替バルブ13nを開き、吸着工程にある別の吸着塔(本実施形態では第4吸着塔13)から流出配管13mに送られたアルゴンガスの一部が、昇圧配管13o、流量制御バルブ13uを介して第1吸着塔13に送られ、第1吸着塔13において昇圧II工程が行われる。
上記の各工程が第1〜第4吸着塔13それぞれにおいて順次繰り返されることで、不純物含有率を低減されたアルゴンガスがTSAユニット20に連続して送られる。
なお、PSAユニット10は図2に示すものに限定されず、例えば塔数は4以外、例えば2でも3でもよい。
【0022】
TSAユニット20は公知のものを用いることができる。例えば図3に示すTSAユニット20は2塔式であり、PSAユニット10から送られてくるアルゴンガスを予冷する熱交換型予冷器21と、予冷器21により冷却されたアルゴンガスを更に冷却する熱交換型冷却器22と、第1、第2吸着塔23、各吸着塔23を覆う熱交換部24を有する。熱交換部24は、吸着工程時には冷媒で吸着剤を冷却し、脱着工程時には熱媒で吸着剤を加熱する。各吸着塔23は、吸着剤が充填された多数の内管を有する。その吸着剤としては窒素の吸着に適したものが用いられ、交換イオンが2価の陽イオンであるX型ゼオライトやY型ゼオライトを用いるのが好ましく、例えばカルシウム(Ca)またはリチウム(Li)でイオン交換されたゼオライト系吸着剤を用いることができ、さらに、その2価の陽イオンはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)の中から選ばれる少なくとも1種であるのがより好ましい。
冷却器22は、各吸着塔23の入口23aに切替バルブ23bを介して接続される。
吸着塔23の入口23aのそれぞれは、切替バルブ23cを介して大気中に通じる。
吸着塔23の出口23eそれぞれは、切替バルブ23fを介して流出配管23gに接続され、切替バルブ23hを介して冷却・昇圧用配管23iに接続され、切替バルブ23jを介して洗浄用配管23kに接続される。
流出配管23gは予冷器21の一部を構成し、流出配管23gから流出する精製されたアルゴンガスによりPSAユニット10から送られてくるアルゴンガスが冷却される。流出配管23gから精製されたアルゴンガスが一次側圧力制御バルブ23lを介し流出される。
冷却・昇圧用配管23i、洗浄用配管23kは、流量計23m、流量制御バルブ23o、切替バルブ23nを介して流出配管23gに接続される。
熱交換部24は多管式とされ、吸着塔23を構成する多数の内管を囲む外管24a、冷媒供給源24b、冷媒用ラジエタ24c、熱媒供給源24d、熱媒用ラジエタ24eで構成される。また、冷媒供給源24bから供給される冷媒を外管24a、冷媒用ラジエタ24cを介して循環させる状態と、熱媒供給源24dから供給される熱媒を外管24a、熱媒用ラジエタ24eを介して循環させる状態とに切り換えるための複数の切替バルブ24fが設けられている。さらに、冷媒用ラジエタ24cから分岐する配管により冷却器22の一部が構成され、冷媒供給源24bから供給される冷媒によりアルゴンガスが冷却器22において冷却され、その冷媒はタンク24gに還流される。
【0023】
TSAユニット20の第1、第2吸着塔23それぞれにおいて、吸着工程、脱着工程、洗浄工程、冷却工程、昇圧工程が順次行われる。
すなわち、TSAユニット20において、PSAユニット10から供給されるアルゴンガスは予冷器21、冷却器22において冷却された後に、切替バルブ23bを介して第1吸着塔23に導入される。この際、第1吸着塔23は熱交換機24において冷媒が循環することで−10℃〜−50℃に冷却される状態とされ、切替バルブ23c、23h、23jは閉じられ、切替バルブ23fは開かれ、アルゴンガスに含有される少なくとも窒素は吸着剤に吸着される。これにより、第1吸着塔23において吸着工程が行われ、不純物の含有率が低減された精製アルゴンガスが吸着塔23から一次側圧力制御バルブ23lを介して流出される。
第1吸着塔23において吸着工程が行われている間に、第2吸着塔23において脱着工程、洗浄工程、冷却工程、昇圧工程が進行する。
すなわち第2吸着塔23においては、吸着工程が終了した後、脱着工程を実施するため、切替バルブ23b、23fが閉じられ、切替バルブ23cが開かれる。これにより第2吸着塔23においては、不純物を含んだヘリウムガスが大気中に放出され、圧力がほぼ大気圧まで低下される。この脱着工程においては、第2吸着塔23で吸着工程時に冷媒を循環させていた熱交換部24の切替バルブ24fを閉状態に切り替えて冷媒の循環を停止させ、冷媒を熱交換部24から抜き出して冷媒供給源24bに戻す切替バルブ24fを開状態に切り替える。
次に、第2吸着塔23において洗浄工程を実施するため、第2吸着塔23の切替バルブ23c、23jと洗浄用配管23kの切替バルブ23nが開状態とされ、熱交換型予冷器21における熱交換により加熱された精製アルゴンガスの一部が、洗浄用配管23kを介して第2吸着塔23に導入される。これにより第2吸着塔23においては、吸着剤からの不純物の脱着と精製アルゴンガスによる洗浄が実施され、その洗浄に用いられたアルゴンガスは切替バルブ23cから不純物と共に大気中に放出される。この洗浄工程においては、第2吸着塔23で熱媒を循環させるための熱交換部24の切替バルブ24fを開状態に切り替える。
次に、第2吸着塔23において冷却工程を実施するため、第2吸着塔23の切替バルブ23jと洗浄用配管23kの切替バルブ23nが閉状態とされ、第2吸着塔23の切替バルブ23hと冷却・昇圧用配管23iの切替バルブ23nが開状態とされ、第1吸着塔23から流出する精製アルゴンガスの一部が冷却・昇圧用配管23iを介して第2吸着塔23に導入される。これにより、第2吸着塔23内を冷却した精製アルゴンガスは切替バルブ23cを介して大気中に放出される。この冷却工程においては、熱媒を循環させるための切替バルブ24fを閉じ状態に切り替えて熱媒循環を停止させ、熱媒を熱交換部24から抜き出して熱媒供給源24dに戻す切替バルブ24fを開状態に切り替える。熱媒の抜き出しの終了後に、第2吸着塔23で冷媒を循環させるための熱交換部24の切替バルブ24fを開状態に切り替え、冷媒循環状態とする。この冷媒循環状態は、次の昇圧工程、それに続く吸着工程の終了まで継続する。
次に、第2吸着塔23において昇圧工程を実施するため、第2吸着塔23の切替バルブ23cが閉じられ、第1吸着塔23から流出する精製アルゴンガスの一部が導入されることで第2吸着塔23の内部が昇圧される。この昇圧工程は、第2吸着塔23の内圧が第1吸着塔23の内圧とほぼ等しくなるまで継続される。昇圧工程が終了すれば、第2吸着塔23の切替バルブ23hと冷却・昇圧用配管23iの切替バルブ23nが閉じられ、これによって第2吸着塔23の全ての切替バルブ23b、23c、23f、23h、23jが閉じた状態となり、第2吸着塔23は次の吸着工程まで待機状態になる。
第2吸着塔23の吸着工程は第1吸着塔23の吸着工程と同様に実施される。第2吸着塔23において吸着工程が行われている間に、第1吸着塔23において脱着工程、洗浄工程、冷却工程、昇圧工程が第2吸着塔23におけると同様に進行される。
なお、TSAユニット20は図3に示すものに限定されず、例えば塔数は2以上、例えば3でも4でもよい。
【0024】
上記精製装置αによれば、少なくとも酸素、水素、一酸化炭素、および窒素を含有するアルゴンガスを精製する際に、そのアルゴンガスにおける酸素モル濃度が一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2以下である場合は、酸素を添加することで一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2を超える値に設定した後に、そのアルゴンガスにおける酸素を、一酸化炭素および水素と触媒を用いて反応させることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、次に、そのアルゴンガスにおける水分含有率を脱水操作により低減している。これにより、アルゴンガスの主な不純物は酸素、二酸化炭素、および窒素とされるので、その後の圧力スイング吸着法による不純物の吸着に際して水分の吸着が不要になり吸着負荷が軽減され、また、圧力スイング吸着法による吸着剤として酸素の吸着効果が高いカーボン系吸着剤が用いられる。これにより、圧力スイング吸着法による酸素吸着効果が高められるので、その後のサーマルスイング吸着法での酸素の吸着を不要にし、サーマルスイング吸着法での不純物の吸着温度を酸素を吸着する場合に比べて高くできる。よって、吸着処理の前処理で酸素を残留させても、冷却エネルギーを増大することなく、アルゴンガスの回収率および純度を高めることができる。
【実施例1】
【0025】
上記精製装置αを用いてアルゴンガスの精製を行った。アルゴンガスは不純物として酸素を500モルppm、水素を20モルppm、一酸化炭素を1800モルppm、窒素を1000モルppm、二酸化炭素を20モルppm、水分を20モルppmそれぞれ含有する。このアルゴンガスを標準状態で3.74L/minの流量で反応器3に導入し、さらに、そのアルゴンガスに酸素を標準状態で3.4mL/minの流量で添加した。反応器3に、アルミナ担持のプラチナ触媒を45mL充填し、反応条件は温度300℃、大気圧、空間速度5000/hとした。
反応器3から流出するアルゴンガスを、乾燥機5として冷凍式脱水装置を用いて−35℃まで冷却して水分を除去することで脱水操作を行い、アルゴンガスの水分含有率を低減した。
乾燥機5から流出するアルゴンガスを冷却器8で冷却後に、吸着装置9により不純物の含有率を低減した。PSAユニット10は3塔式とし、各塔に吸着剤として直径2mmの円柱状成形炭のカーボンモレキュラーシーブ(日本エンバイロケミカルズ製3k−172)を1.25L充填し、吸着圧力は0.9MPa、脱着圧力は0.1MPaとした。
PSAユニット10により精製されたアルゴンガスをTSAユニット20に導入した。TSAユニット20は2塔式とし、各塔に吸着剤としてCaX型ゼオライトを1.5L充填し、吸着圧力は0.8MPa、吸着温度は−35℃、脱着圧力は0.1MPa、脱着温度は40℃とした。
TSAユニット20から流出する精製されたアルゴンガスの組成を以下の表1に示す。なお、精製されたアルゴンガスにおける酸素濃度はTeledyne社製微量酸素濃度計型式311により、一酸化炭素および二酸化炭素の濃度は島津製作所製GC-FIDを用いてメタナイザーを介して測定した。水素濃度についてはGLscience 社製GC-PIDを用いて測定した。
【実施例2】
【0026】
酸素の添加流量を標準状態で5.00mL/minにした以外は実施例1と同様にしてアルゴンガスを精製した。その精製されたアルゴンガスの組成を以下の表1に示す。
【実施例3】
【0027】
TSAユニット20で用いる吸着剤をMgX型ゼオライトにした以外は実施例1と同様にしてアルゴンガスを精製した。その精製されたアルゴンガスの組成を以下の表1に示す。
【実施例4】
【0028】
TSAユニット20での吸着温度を−50℃にした以外は実施例1と同様にしてアルゴンガスを精製した。その精製されたアルゴンガスの組成を以下の表1に示す。
【比較例1】
【0029】
酸素の添加流量を標準状態で1mL/minにした以外は実施例1と同様にしてアルゴンガスを精製した。その精製されたアルゴンガスの組成を以下の表1に示す。
【比較例2】
【0030】
PSAユニット10で用いる吸着剤をCaA型ゼオライトにした以外は実施例1と同様にしてアルゴンガスを精製した。その精製されたアルゴンガスの組成を以下の表1に示す。
【比較例3】
【0031】
乾燥機による脱水操作を行わなかった以外は実施例1と同様にしてアルゴンガスを精製した。その精製されたアルゴンガスの組成を以下の表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
上記表1から、各実施例によれば各比較例よりもアルゴンガス純度が高く、比較例2、3よりも酸素濃度が低く、比較例1よりも一酸化炭素濃度が低く、比較例1、3よりも水素濃度が低いのを確認できる。
【符号の説明】
【0034】
α…精製装置、3…反応器、4…濃度調節装置、5…乾燥機、9…吸着装置、10…PSAユニット、20…TSAユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸素、水素、一酸化炭素、および窒素を不純物として含有するアルゴンガスを精製する方法であって、
前記アルゴンガスにおける酸素モル濃度が一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2以下である場合は、酸素を添加することで1/2を超える値に設定し、
次に、前記アルゴンガスにおける酸素を一酸化炭素および水素と触媒を用いて反応させることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、
次に、前記アルゴンガスにおける水分含有率を脱水操作により低減し、
次に、前記アルゴンガスにおける不純物の中の少なくとも酸素および二酸化炭素を、カーボン系吸着剤を用いた圧力スイング吸着法により吸着し、
しかる後に、前記アルゴンガスにおける不純物の中の少なくとも窒素を、−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着するアルゴンガスの精製方法。
【請求項2】
前記カーボン系吸着剤がカーボンモレキュラーシーブである請求項1に記載のアルゴンガスの精製方法。
【請求項3】
少なくとも酸素、水素、一酸化炭素、および窒素を不純物として含有するアルゴンガスを精製する装置であって、
前記アルゴンガスが導入される反応器と、
前記反応器に導入される前記アルゴンガスにおける酸素モル濃度が一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2以下である場合は、酸素を添加することで1/2を超える値に設定する濃度調節装置と、
前記反応器から流出する前記アルゴンガスの水分含有率を脱水操作を行うことで低減する乾燥機と、
前記乾燥機に接続される吸着装置とを備え、
前記反応器内で前記アルゴンガスにおける酸素が一酸化炭素および水素と反応することで、酸素が残留した状態で二酸化炭素と水が生成されるように、前記反応器に触媒が充填され、
前記吸着装置は、前記アルゴンガスにおける不純物の中の少なくとも酸素および二酸化炭素を、カーボン系吸着剤を用いた圧力スイング吸着法により吸着するPSAユニットと、前記アルゴンガスにおける不純物の中の少なくとも窒素を、−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着するTSAユニットとを有することを特徴とするアルゴンガスの精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195434(P2011−195434A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20725(P2011−20725)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)