説明

アルゴン/ヘリウム/水素混合物を用いたTIGブレーズ溶接方法

【課題】消耗溶接ワイヤを用いて、未被覆および/または亜鉛メッキ炭素鋼をTIGブレーズ溶接する方法において、鋼のブレーズ溶接の生産性と品質を改善すること。
【解決手段】TIG溶接トーチ、消耗ワイヤおよびシールドガスを用いて1またはそれ以上の鋼ワークピースをTIGブレーズ溶接するための方法において、シールドガスとして、5体積%未満のヘリウム、1体積%未満の水素、および残部のアルゴンを含有する、ヘリウムと水素とアルゴンから形成される三元ガス混合物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルゴン、ヘリウムおよび水素を含有するガス混合物を用いて、未被覆炭素鋼および亜鉛メッキ炭素鋼をTIGブレーズ溶接するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス遮蔽TIGブレーズ溶接またはTIGろう付け、およびMAG、プラズマもしくはレーザろう付け方法は、特にフランジ−エッジ重ね継ぎ形態において特にビード外観およびシールの点で厳しい要求がある場合、自動車の製造の分野において、特にトランク部材や屋根部材のようなある種の車体部品を互いに接合するために使用されている。
【0003】
溶接ワイヤを用いるTIG溶接またはTIGブレーズ溶接の方法は、好適なシールドガスを用い、TIG溶接トーチ、すなわち電流を供給されるタングステンワイヤを備えるトーチにより消耗溶接ワイヤを溶融させることにより、金属ワークピースを互いに接合して、それらの間に溶接継手を形成することからなる。
【0004】
ろう付けにおいて、理論的には、ベース金属、あるいは互いに接合させるワークピースのエッジは溶融させない。結合は、溶接金属のベース金属中への拡散により提供され、それにより異種金属または同種金属であるが異なるグレードの金属で作られたワークピースを接合することが可能となる。しかしながら、実際には、ほとんどのアークろう付け方法において、ベース金属の若干の溶融が観察される。
【0005】
自動車用亜鉛メッキ板のTIGろう付けにおいて生産性と品質を向上させることは常に全く困難である。
【0006】
この問題を解決しようとしてガスの特定の選択に基づくいくつかの解決策が提案されているが、これまで完全に満足できるものはなかった。
【0007】
すなわち、ろう付け用ガスとして用いられる純アルゴンは、アークの不安定性により不十分な濡れと均一性の欠如をもたらすという不利点を有し、この問題は、高いろう付け速度、すなわち典型的に50cm/分以上で顕著である。
【0008】
これを解決するために、例えば特許文献1により、アルゴンと水素から構成される二元混合物が提案されている。水素は、プール面積の減少効果と相俟って、アークを拘束し安定化させるに役立つ。しかしながら、そのようなAr/H2混合物は、約2.5体積%以上の水素含有率で、継手中に実質的な気孔を発生させることが観察されている。現在、濡れと溶接速度を改善するために、より高い水素含有率が望ましいであろう。
【0009】
さらに、特許文献2は、アルゴン/ヘリウム二元混合物を用いることを提案している。これは、ヘリウムがより高いアーク電圧を、したがってより高い溶接エネルギーをもたらすからである。このことは、より大きな濡れをもたらすが、またより大きな変形をももたらす。さらに、これらの混合物はアーク電圧を実質的に高めるので、薄い板を互いに接合することはより困難となり、さらに、より大きな変形が観察され、とりわけ溶接速度は、アルゴン/水素二元混合物を用いた場合に比べ、改善されない。
【0010】
加えて、アルゴン/ヘリウム混合物は、アークストライクをより困難なものとし、このアークストライクを、溶接のためのアルゴン/ヘリウム混合物へ切り替える前に、アルゴンのみの中で行うことを要求し、それにより方法が複雑となる。
【0011】
さらに、特許文献3は、TIG溶接のためのアルゴン、ヘリウムおよび水素を含有する三元混合物を提案している。しかしながら、このガス混合物は、高いヘリウムおよび水素含有率のために大きすぎる溶接エネルギーを発生させ、それにより、得られる継手に過剰に大きな変形を誘起するという欠点を有する。
【0012】
最後に、特許文献4は、高合金鋼または低合金鋼のような、アルミニウムよりも低い熱伝導率を有する金属のTIG溶接のためのみに意図されたアルゴンとヘリウムと水素を含有するガス混合物に関する。ここでも再び、このガスは、ブレーズ溶接を行うためには推奨されない。
【特許文献1】GB−A−2038687
【特許文献2】EP−A−1201345
【特許文献3】EP−A−1295669
【特許文献4】US−A−6237836
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、解決しようとする課題は、上記問題および欠点を軽減すること、すなわち消耗溶接ワイヤを用いて、未被覆および/または亜鉛メッキ炭素鋼をTIGブレーズ溶接する方法にして、これら鋼のブレーズ溶接の生産性と品質を改善することを可能とする、特に自動車製造セクターに意図された亜鉛メッキ鋼板のための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の解決策は、TIG溶接トーチ、消耗ワイヤおよびシールドガスを用いて1またはそれ以上の鋼ワークピースをTIGブレーズ溶接するための方法であって、前記シールドガスが5体積%未満のヘリウム、1体積%未満の水素、および残部のアルゴンを含有する、ヘリウムと水素とアルゴンから形成される三元ガス混合物であることを特徴とする方法である。
【0015】
場合により、本発明のTIGブレーズ溶接方法は、以下の特徴の1つまたはそれ以上を含み得る:
前記ガス混合物が、少なくとも0.1体積%のヘリウムを含有すること;
前記ガス混合物が、少なくとも0.4体積%のヘリウム、好ましくは少なくとも0.5体積%のヘリウムを含有すること;
前記ガス混合物が、約1体積%のヘリウムを含有すること;
前記ガス混合物が、0.8体積%未満の水素を含有すること;
前記ガス混合物が、少なくとも0.1体積%の水素を含有すること;
前記ガス混合物が、約0.5体積%の水素を含有すること;
複数の炭素鋼ワークピースのブレーズ溶接を行うこと;
複数の亜鉛メッキ炭素鋼ワークピースのブレーズ溶接を行う;
前記消耗ワイヤが、キュプロ−ケイ素(cupro-silicon)(CuSi3)またはキュプロ−アルミニウム(cupro-aluminum)で形成されていること。
【0016】
本発明は、また、自動車の車体を製造するための方法であって、溶接ワイヤを用いて本発明のTIGブレーズ溶接方法を実施することにより炭素鋼ワークピースを互いに接合することを特徴とする方法に関し、溶接トーチは、好ましくは、ロボットアームにより搬送される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
すなわち、本発明のTIGブレーズ溶接方法は、金属ワークピース、特に被覆炭素鋼ワークピース、殊に亜鉛メッキまたは電気亜鉛メッキ炭素鋼ワークピースを互いに接合し、TIGアーク溶接トーチを用いて消耗溶接ワイヤを溶融させることによりワークピース間に溶接継手を生成させることからなる。
【0018】
溶接継手を生成するとき、その目的は、互いに接合するワークピースのエッジを意図的に溶融させないことである。ワークピース間の結合は、通常、溶接ワイヤを溶融させ、付着した金属を固化させることによってのみ得られる。しかしながら、いくつかの場合には、エッジがわずかに溶融することがありえる。しかし、かかる溶融は、求めているものではないし、望むものでもない。
【0019】
ブレーズ溶接操作中、ブレーズ溶接領域は、ヘリウム、水素およびアルゴンから構成される三元シールドガス混合物により保護される。
【0020】
本発明によるブレーズ溶接方法に使用し得る好ましい三元混合物は、1%のヘリウムと0.5%の水素(パーセンテージは、体積による)が添加されたアルゴンから実質的になる。しかしながら、この三元混合物に近い組成を有するガス混合物は、満足できる結果をもたらす。
【0021】
すなわち、約0.5%の最小ヘリウム含有率は良好な結果をもたらすが、調整が若干困難であることが見いだされている。
【0022】
同様に、5%ヘリウム含有率は許容できるものであるが、10%のヘリウム含有率は、発生するエネルギーが高く、それにより、過大な変形が生じること、および亜鉛被覆鋼板の表面を覆う亜鉛層が実質的に除去されることにより、好ましくない。
【0023】
以下の表1は、種々の組成のガス混合物の種々の成分が濡れ、溶接速度、スパッタの量、および未被覆鋼および亜鉛メッキ鋼ワークピース上に得られた溶接ビードの気孔形成(porosity)に及ぼす影響を示すために行ったTIGブレーズ溶接方法の比較試験で得られた結果を示す。
【0024】
これらの試験を行うために用いた試験条件を表2に示す。
【表1】

【表2】

【0025】
溶接継手は、フラットな重ね継手の形態のものであった。
【0026】
用いたワイヤは、CuSi3タイプのものであり、試験に応じて1mmまたは1.2mmの直径(φ)を有するものであった。
【0027】
上記表1は、本発明によるガス混合物のみが、未被覆鋼および亜鉛メッキ鋼(すなわち、亜鉛被覆を有する)の両者に対し、許容できるまたは良好な結果を提供することを示している。
【0028】
特に、Ar+0.5H2+1%He混合物は、最良の性能を有する。より高い比率のヘリウムを有する混合物は、溶接エネルギーが高すぎ、過剰の変形をもたらす可能性がある。
【0029】
2.5%水素の二元混合物は、継手を生成させるために掃引(sweeping)を用いた場合、ビード中に気孔形成をもたらす危険がある。
【0030】
さらに、
試験A:0.5%H2+1%He+Ar(残部)
試験B:0.5%H2+20%He+Ar(残部)
からなる三元ガス混合物を用いて追加の試験を行った。
【0031】
これら試験AおよびBにおける溶接条件は、同じであり、120Aの電流、11.5Vの電圧、4m/分のワイヤ速度(Vf)、1m/分の溶接速度(Vs)、および15l/分のガス流量であった。使用した溶接ワイヤは、CuSi3タイプのものであった。
【0032】
こうして得られた溶接ビード(試験AおよびB)の表面を目視観察したところ、20%ヘリウムでは、多量のヘリウムを含有する混合物が提供するより高いエネルギーのために、ビードの前により多量のスモークが付着しており、ビードの後に痕跡量の焼けた亜鉛が観察された。
【0033】
さらにまた、
試験C:2.5%H2+20%He+Ar(残部)
試験D:5%H2+Ar(残部)
からなるガス混合物を用いて他の試験を行った。
【0034】
レール・リキードが供給しているARCAL(登録商標)タイプのガスを用いて行った試験Dは、ビード中に存在する凹凸のために、満足できるものではなかった。
【0035】
なお、ここでの溶接条件は、155Aの電流、12.5Vの電圧、2.9m/分のワイヤ速度、1m/分の溶接速度、および15l/分のガス流量であった。使用した溶接ワイヤは、CuSi3タイプのものであった。
【0036】
ここで、ビード表面を目視観察したところ、最小水素含有率がない場合、すなわち試験Dでは、凹凸が観察された。
【0037】
本発明の方法に用いる三元混合物は、溶接速度に対し有益な効果を、特に電気亜鉛メッキ板についての最大溶接速度約2m/分あるいは3.5m/分を達成し、さらに濡れおよび溶接ビードの外観に有益な効果を達成し、CuSi3中の気孔形成の問題を解消することを可能とし、しかも少ないヘリウム含有率(5%未満)故により安価なガス混合物であり、より容易なアークストライクをもたらす。
【0038】
本発明の方法は、特に文献EP−A−1459831に記載されているロボット溶接装置に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TIG溶接トーチ、消耗ワイヤおよびシールドガスを用いて1またはそれ以上の鋼ワークピースをTIGブレーズ溶接するための方法であって、前記シールドガスが、
5体積%未満のヘリウム、
1体積%未満の水素、および
残部のアルゴン
を含有する、ヘリウムと水素とアルゴンから形成される三元ガス混合物であることを特徴とする該方法。
【請求項2】
前記ガス混合物が、少なくとも0.1体積%のヘリウムを含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガス混合物が、少なくとも0.4体積%のヘリウム、好ましくは少なくとも0.5体積%のヘリウムを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガス混合物が、約1体積%のヘリウムを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ガス混合物が、0.8体積%未満の水素を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ガス混合物が、少なくとも0.1体積%の水素を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ガス混合物が、約0.5体積%の水素を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記三元ガス混合物が、0.45〜0.55体積%の水素、0.95〜1.05体積%のヘリウムおよび残部のアルゴンからなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記三元ガス混合物が、0.5体積%の水素、1体積%のヘリウムおよび残部のアルゴンからなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
複数の炭素鋼ワークピースのブレーズ溶接を行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
複数の亜鉛メッキ炭素鋼ワークピースのブレーズ溶接を行うことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記消耗ワイヤが、キュプロ−ケイ素(CuSi3)またはキュプロ−アルミニウムで形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
自動車の車体を製造するための方法であって、溶接ワイヤを用いて請求項1〜12のいずれか1項に記載のTIGブレーズ溶接方法により炭素鋼ワークピースを互いに接合することを特徴とする該方法。
【請求項14】
溶接トーチが、ロボットアームにより搬送されることを特徴とする請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2006−341313(P2006−341313A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156211(P2006−156211)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(591036572)レール・リキード−ソシエテ・アノニム・ア・ディレクトワール・エ・コンセイユ・ドゥ・スールベイランス・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード (438)
【Fターム(参考)】