説明

アルツハイマー病および関連状態の治療に有用な1−アルキル−3−チオ置換インドール−2−アルキン酸

式(I)の化合物は、γ−セクレターゼの活性を修飾する。従って、アルツハイマー病および関連状態の治療および予防に使用される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の治療的処置に用いるための方法および材料の使用に関する。詳細には、脳内のβ−アミロイドペプチドの沈着に関連した疾病、例えばアルツハイマー病を治療するための方法、またはそうした疾病に関連した痴呆の発症を予防するもしくは遅らせるための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、痴呆の最も一般的な形態である。この診断法は、American Psychiatric Association発行のDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,4th ed.(DSM−IV)に記載されている。これは、記憶および一般認知機能の進行性喪失を臨床的特徴とし、ならびに罹患している皮質および関連脳領域における細胞外蛋白質様プラークの沈着を病理学的特徴とする、神経変性疾患である。これらのプラークは、主として、β−アミロイドペプチド(Aβ)の線維性凝集体を含む。Aβは、酵素β−セクレターゼおよびγ−セクレターゼが関与する別個の細胞内蛋白質分解事象によりアミロイド前駆体蛋白質(APP)から形成される。γ−セクレターゼによって媒介される蛋白質分解の部位の変動により、様々な鎖長のAβ、例えばAβ(1−38)、Aβ(1−40)およびAβ(1−42)が生じる。ことによると、β−セクレターゼによって媒介される蛋白質分解の部位の変動の結果として、Aβ(4−42)などのN末端トランケーションも脳内で見出される。便宜上、本明細書において用いる「Aβ(1−40)」および「Aβ(1−42)」などの表現は、こうしたN末端トランケート型変異体を含む。細胞外媒質への分泌後、Aβは、最初は可溶性である凝集体を形成する。これらは、ADにおける基本的な神経毒性因子であると一般に考えられており(Gongら,PNAS,100(2003),10417−22参照)、最終的にはADの病理学的特徴である不溶性沈着物および濃密な神経炎性プラークを生じさせる。
【0003】
脳内のAβの沈着に関連した他の痴呆状態には、脳アミロイドアンギオパチー、アミロイドーシスに伴う遺伝性脳出血、オランダ型(HCHWA−D)、多発脳梗塞性痴呆、ボクサー痴呆およびダウン症候群が挙げられる。
【0004】
プラーク形成プロセスへの様々な介入が、ADのための治療的処置として提案されている(例えば、Hardy and Selkoe,Science,297(2002),353−6参照)。提案されているそうした治療方法の一つは、例えばβ−またはγ−セクレターゼの阻害により、Aβの生産を阻止または低減する方法である。グリコーゲンシンターゼキナーゼ3の阻害(GSK−3)、特にGSK−3αの阻害によりAβの生産を阻止できることも報告されている(Phielら,Nature,423(2003),435−9参照)。
【0005】
提案された他の治療方法には、Aβの凝集を阻止する化合物の投与、およびAβに選択的に結合する抗体の投与が挙げられる。
【0006】
提案されたもう一つの治療は、Aβ(1−42)の生産を選択的に低減するようにγ−セクレターゼの作用を修飾するものである。これによって、より短い鎖のAβアイソフォームが優先的に分泌されることとなる。これらは、自己凝集およびプラーク形成の傾向が低いと考えられており、従って、より容易に脳から除去され、および/または神経毒性が低い。この効果を示す化合物には、一定の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびこれらの類似体が挙げられる(国際公開パンフレット第WO01/78721号および米国特許第2002/0128319号、ならびにWeggenら Nature,414(2001)212−16;Moriharaら,J.Neurochem.,83(2002),1009−12;およびTakahashiら,J.Biol.Chem.,278(2003),18644−70参照)。PPARαおよび/またはPPARδの活性を修飾する一定の化合物も、Aβ(1−42)を低下させる効果を有すると報告されている(国際公開パンフレット第WO02/100836号)。酸化窒素を放出することができるNSAID誘導体は、動物モデルにおいて、改善された抗神経炎症効果を示し、および/またはAβ脳内沈着を減少させると報告されている(国際公開パンフレット第WO02/092072号;Jantzenら,J.Neuroscience,22(2002),226−54)。米国特許第2002/0015941号は、容量性カルシウム流入活性を増進する薬剤は、Aβ(1−42)を低下させることができることを教示している。
【0007】
米国特許第5,081,138号は、喘息、アレルギー、炎症、下痢、高血圧、アンギナ、血小板凝集、脳の痙攣、早産、自然流産、月経困難および偏頭痛の治療に有用な、ロイコトリエン生合成の阻害剤としての広範な1−ベンジル−3−チオ置換インドール−2−アルカン酸類を開示している。Aβの分泌に対する何らかの効果、またはADもしくは脳内のAβの沈着に関連した何らかの他の疾患の治療もしくは予防における何らかの使用効果についての開示および示唆はない。
【発明の開示】
【0008】
一定の1−アルキル−3−チオ置換インドール−2−アルカン酸は、Aβ(1−42)の生産を選択的に阻害する望ましい特性を有することが、今般、判明した。
【0009】
本発明に従って、式I:
【0010】
【化6】

(式中、
各Rは、独立して、H、C1−6アルキルまたはC3−6シクロアルキルであり;
各Rは、独立して、HまたはC1−6アルキルであるか、2個のR基が合わさって、C3−6シクロアルキル基を完成しており;
は、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、COH、C1−4アルコキシカルボニル、C1−4アルキルカルボニルおよびC1−4アルキルカルボニルオキシから選択される2個以下の置換基を場合により有する炭素原子数10以下の炭化水素基を表すか;Rは、場合によりベンゾ融合しており、C1−4アルキル、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、COH、C1−4アルコキシカルボニル、C1−4アルキルカルボニルおよびC1−4アルキルカルボニルオキシから選択される2個以下の置換基を場合により有する、環原子数5または6のヘテロアリール基を表し;
、RおよびRは、独立して、H、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、COH、C1−4アルコキシカルボニル、C1−4アルキルカルボニルまたはC1−4アルキルカルボニルオキシを表すか、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、COH、C1−4アルコキシカルボニル、C1−4アルキルカルボニルおよびC1−4アルキルカルボニルオキシから選択される置換基を場合により有する炭素原子数7以下の炭化水素を表し;
は、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、COH、C1−4アルコキシカルボニル、C1−4アルキルカルボニルおよびC1−4アルキルカルボニルオキシから選択される2個以下の置換基を場合により有する炭素原子数10以下の炭化水素基を表し;
Xは、OまたはSを表し;
Yは、結合、CH、CHCH、CHCHCHまたはCHCHOを表し;ならびに
Zは、COHまたはテトラゾール−5−イルを表す。)
の化合物またはこの医薬適合性の塩
の治療有効量をこの必要がある患者に投与することを含む、脳内のAβの沈着に関連した疾病を治療または予防する方法を提供する。
【0011】
前記脳内のAβの沈着に関連した疾病は、典型的にはアルツハイマー病(AD)、脳アミロイドアンギオパチー、HCHWA−D、多発脳梗塞性痴呆、ボクサー痴呆またはダウン症候群、特にADである。
【0012】
第二の側面において、本発明は、上で定義した式Iの化合物またはこの医薬適合性の塩の治療有効量をこの必要がある患者に投与することを含む、アルツハイマー病、脳アミロイドアンギオパチー、HCHWA−D、多発脳梗塞性痴呆、ボクサー痴呆またはダウン症候群に関連した痴呆を治療するもしくは予防するまたはこの発症を遅らせる方法を提供する。
【0013】
本発明は、脳内のβ−アミロイドの沈着に関連した疾病を治療または予防するための医薬品を製造するための、上で定義した式Iの化合物の使用も提供する。
【0014】
さらなる側面において、本発明は、アルツハイマー病、脳アミロイドアンギオパチー、HCHWA−D、多発脳梗塞性痴呆、ボクサー痴呆またはダウン症候群に関連した痴呆を治療するもしくは予防するまたはこの発症を遅らせるための医薬品を製造するための、上で定義した式Iの化合物またはこの医薬適合性の塩の使用を提供する。
【0015】
式Iの化合物は、より短い鎖のアイソフォーム、例えばAβ(1−40)の生産を有意に低下させることなくAβの(1−42)アイソフォームの生産を選択的に低減するようにγ−セクレターゼの作用を修飾する。これにより、自己凝集する傾向および不溶性沈着物を形成する傾向が低く、より容易に脳から除去される、および/または神経毒性が低いAβが分泌されることとなる。従って、本発明のさらなる側面は、上で定義した式Iの化合物またはこの医薬適合性の塩の治療有効量をこの必要がある被験者に投与することを含む、脳内のAβの蓄積を遅延、阻止または予防するための方法を提供する。
【0016】
式Iの化合物は、γ−セクレターゼの活性を、前記活性の抑制ではなく修飾するため、副作用、例えばγ−セクレターゼにより制御される他のシグナル伝達経路(例えば、Notch)の破壊によって生じる副作用、の危険が低減された状態で、上記治療的利点が得られるであろう。
【0017】
本発明の一つの実施態様において、式Iの化合物は、AD、脳アミロイドアンギオパチー、HCHWA−D、多発脳梗塞性痴呆、ボクサー痴呆またはダウン症候群に罹患している患者、特に、ADに罹患している患者に投与される。
【0018】
本発明の別の実施態様において、式Iの化合物は、軽度認知機能障害または加齢性認知低下に罹患している患者に投与される。こうした治療の有利な成果は、AD発症の予防または遅延である。加齢性認知低下および軽度認知機能障害(MCI)とは、記憶障害は存在するが、痴呆に関する他の診断基準が存在しない状態である(Santacruz and Swagerty,American Family Physician,63(2001),703−13)。(「The ICD−10 Classification of Mental and Behavioural Disorders」,Geneva:World Health Organisation,1992,64−5も参照)。ここで用いる「加齢性認知低下」は、次のもののうちの少なくとも一つに関する少なくとも6ヶ月継続の低下を意味する:記憶および学習;注意および集中;思考;言語;ならびに視覚空間機能、およびMMSEなどの標準的な神経心理検査で規範より下である1つまたはそれ以上の標準偏差のスコア。特に、記憶の低下が進行性であり得る。より重度の状態MCIでは、記憶障害の度合いが、この患者の年齢には正常であると考えられる範囲を超えており、しかしADは存在しない。MCIおよび軽度ADの鑑別診断は、Petersenら,Arch.Neurol.,56(1999),303−8により記載されている。MCIの鑑別診断に関するさらなる情報は、Knopmanら,Mayo Clinic Proceedings,78(2003),1290−1308により提供されている。Tuokkoら(Arch,Neurol.,60(2003)577−82)は、老人被験者の試験において、最初にMCIを示した者は、5年以内に痴呆を発現する危険度が3倍増すことを見出した。
【0019】
Grundmanら(J.Mol.Neurosci.,19(2002),23−28)は、MCI患者における基線海馬体量低下が、続くADの予後徴候インジケータであると報告している。同様に、Andreasenら(Acta Neurol.Scand,107(2003)47−51)は、全タウの高いCSF中レベル、ホスホ−タウの高いCSF中レベルおよびAβ42のCSF中レベル低下が、すべて、MCIからADに進行する危険性増大と結びつくことを報告している。
【0020】
この実施態様の中で、式Iの化合物は、記憶機能障害に罹患しているが、痴呆の症状を示さない患者に有利に投与される。通常、記憶機能のこうした障害は、下垂体機能不全によって生じる卒中または代謝性疾患などの全身性または脳の疾病に起因するものではない。こうした患者は、特に55歳またはそれ以上の、とりわけ60歳またはそれ以上の人、好ましくは65歳またはそれ以上の人であり得る。こうした患者は、彼らの年齢には正常な成長ホルモン分泌パターンおよびレベルを有し得る。しかし、こうした患者は、アルツハイマー病の発現に関する追加の危険因子を一つまたはそれ以上有し得る。こうした因子には、前記疾病の家族歴;前記疾病の遺伝的素因;血清コレステロール上昇;および成人発症性糖尿病が挙げられる。
【0021】
本発明の特定の実施態様において、式Iの化合物は、加齢性認知低下またはMCIに罹患しており、加えて、ADの家族歴;ADの遺伝的素因;血清コレステロール上昇;成人発症性糖尿病;基線海馬体量上昇;全タウのCSF中レベル上昇;ホスホ−タウのCSF中レベル上昇;およびAβ(1−42)のCSF中レベル低下から選択されるADの発現に関する危険因子を1つまたはそれ以上をさらに有する患者に投与される。
【0022】
遺伝的素因(特に、早期発症性ADに向かう素因)は、APP、プレセニリン−1およびプレセニリン−2遺伝子を含む多数の遺伝子の1つまたはそれ以上における点突然変異から生じ得る。また、アポリポ蛋白E遺伝子のε4アイソフォームがホモ接合である被験者は、AD発現の危険がより高い状態にある。
【0023】
有利なことに、患者の認知低下または認知機能障害の程度を本発明の治療過程の前、間、および/または後、一定間隔で評価して、これらの変化、例えば認知低下の遅速または停止、を検出することができる。このための様々な神経心理検査、例えば、年齢および教養について調整した規範での簡易知能検査(Mini−Mental State Examination:MMSE)(Folsteinら,J.Psych.Res.,12(1975),196−198;Anthonyら,Psychological Med.,12(1982),397−408;Cockrellら,Psychopharmacology,24(1988),689−692;Crumら,J.Am.Med.Assoc’n.18(1993),2386−2391)が、当該技術分野において知られている。MMSEは、成人における認知状態の簡単で定量的な尺度である。これを使用して、認知低下または認知機能障害をスクリーニングすること、所定の時点での認知低下または認知機能障害の重症度を概算すること、個体の認知変化の過程を経時的に追跡すること、および治療に対する個体の反応を文書化することができる。もう一つの適する検査は、アルツハイマー病評価スケール(Alzheimer Disease Assessment Scale:ADAS)、特にこの認知要素(ADAS−cog)である(Rosenら,Am.J.Psychiatry,141(1984),1356−64参照)。
【0024】
可変項が、式Iまたはこの置換基において1回より多く出現する場合、特に他の指示がない限り、この可変項の個々の出現は、互いに独立している。
【0025】
ここで用いる表現「炭化水素基」は、炭素および水素原子のみから成る基を指す。こうした基は、直鎖、分枝鎖または環状構造を単独で、または指示された最大炭素原子数に矛盾しないあらゆる組合せで含むことができ、ならびに飽和されていてもよいし、不飽和であってもよい(他の指示がない限り、指示された最大炭素原子数がこのように許す場合には芳香族を含む。)。
【0026】
ここで用いる表現「C1−xアルキル」(この場合、xは、1より大きい整数である。)は、構成炭素原子数が1からxの範囲内である、直鎖および分枝鎖アルキル基を指す。特定のアルキル基は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルおよびt−ブチルである。「C2−6アルケニル」、「ヒドロキシC1−6アルキル」、「ヘテロアリールC1−6アルキル」、「C2−6アルキニル」および「C1−6アルコキシ」などの派生表現は、類似の方式で解釈すべきものである。最適には、こうした基における炭素数は、6以下である。
【0027】
ここで用いる用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を包含し、これらの中で、フッ素および塩素が好ましい。
【0028】
ここで用いる用語「ヘテロアリール」は、1個またはそれ以上の環原子が炭素以外である芳香族環を指す。好ましくは、前記1個またはそれ以上の環原子は、N、OおよびSから選択される。
【0029】
薬物において使用するための式Iの化合物は、医薬適合性の塩の形態であり得る。しかし、他の塩は、式Iの化合物またはこれらの医薬適合性の塩を製造する際に有用である。本発明の化合物の適する医薬適合性の塩には、例えば、本発明の化合物の溶液を、医薬適合性の酸、例えば塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸またはリン酸、の溶液と混合することにより形成することができる酸付加塩が挙げられる。また、本発明の化合物が、酸性部分を有する場合、医薬適合性の塩は、適する塩基での前記酸性部分の中和により形成することができる。このように形成される医薬適合性の塩の例には、アルカリ金属塩、例えばナトリウムまたはカリウム塩;アンモニウム塩;アルカリ土類金属塩、例えばカルシウムまたはマグネシウム塩;および適する有機塩基とで形成される塩、例えばアミン塩(ピリジニウム塩を含む)および第四アンモニウム塩が挙げられる。
【0030】
本発明の化合物が、少なくとも1つの不斉中心を有する場合、これらは、エナンチオマーとして存在し得る。本発明の化合物が、2つまたはそれ以上の不斉中心を有する場合、これらは、さらにジアステレオマーとして存在し得る。こうした異性体およびあらゆる比率でのこれらの混合物が、本発明の範囲内に包含されることは、理解されるはずである。
【0031】
式Iにおいて、Xは、OまたはSを表す。好ましい実施態様において、Xは、Sを表す。
【0032】
Yは、結合、CH、CHCH、CHCHCHまたはCHCHOを表す。典型的には、Yは、結合、CHまたはCHCHOを表し、好ましくはCHを表す。
【0033】
Zは、COHまたはテトラゾール−5−イルを表す。好ましくは、Zは、COHを表す。
【0034】
式Iにおいて、各Rは、独立して、H、C1−6アルキルまたはC3−6シクロアルキルである。例には、H、メチル、エチル、プロピルおよびシクロプロピルが挙げられる。好ましくは、少なくとも一方のRは、Hである。1つの好ましい実施態様において、R基は、両方ともHである。もう一つの好ましい実施態様において、一方のRは、Hであり、他方は、メチル、エチルまたはプロピル、好ましくはメチルである。
【0035】
各Rは、独立して、HまたはC1−6アルキル(例えば、メチルまたはエチル)であり、または2個のR基が合わさって、3から6員のシクロアルカン(例えば、シクロペンタンまたはシクロヘキサン)を完成している。好ましくは、少なくとも一方のRは、H以外であり、最も好ましくは、Rは、いずれもHでない。好ましい実施態様では、両方のR基が、メチルである。
【0036】
は、前に定義したとおり場合により置換されている炭素原子数10以下の炭化水素;または場合によりベンゾ融合しており、前に定義したように場合により置換されている、原子数5から6のヘテロアリールを表す。典型的な炭化水素基には、アルキル(特に、分枝鎖アルキル、例えばt−ブチル)、シクロアルキル(例えば、シクロヘキシル)、フェニル、フェニル置換アルキル(例えば、ベンジル)、およびアルキル置換フェニル(例えば、トルイルまたはキシリル)が挙げられる。好ましい置換基(存在する場合)には、ハロゲン、特にClが挙げられる。典型的なヘテロアリール環には、ピリジン、キノリン、イソキノリン、チアゾールおよびベンゾチアゾールが挙げられ、これらに対する好ましい置換基(存在する場合)には、ハロゲン、特にClが挙げられる。
【0037】
好ましい実施態様において、Rは、アルキル、シクロアルキル、アルキル置換フェニルおよびクロロ置換フェニルから選択される。
【0038】
によって表される基の具体例には、t−ブチル、シクロヘキシル、フェニル、2,5−ジメチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、3,5−ジメチルフェニル、3,4−ジメチルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、4−クロロフェニル、3,4−ジクロロフェニルおよび5−クロロベンゾチアゾール−2−イルが挙げられる。
【0039】
、RおよびRは、H、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−6アルキルおよび場合により置換されているフェニルから完全に選択される。好ましくは、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは、H以外である。R、RおよびRのうちの2つまたはそれ以上が、H以外である場合、これらは、非常に適切には、C1−6アルキルおよびハロゲンから選択される。R、RおよびRは、利用可能な環位置のいずれを占有していてもよいが、一つの好ましい実施態様では、R、RおよびRのうちの2つがHであり、3つ目は、5位に結合している。R、RおよびRによって表される基の具体例には、H、メチル、イソプロピル、Cl、Br、F、CF、OCFおよびフェニルが挙げられる。
【0040】
によって表される炭化水素基の例には、前に定義したとおり場合により置換されているアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピルまたはブチルなどの炭素原子数6以下のもの);アルケニル(例えば、ビニルまたはアリルなどの炭素原子数6以下のもの);シクロアルキル(例えば、シクロヘキシルなどの炭素原子数6以下のもの);および場合により置換されているフェニルが挙げられる。Rによって表されるフェニル基は、好ましくは少なくとも1個の置換基を有し、好ましくは2個より多くの置換基を有さない。2個より多くの置換基が存在する場合、これらのうちの少なくとも1個は、C1−4アルキルである。置換基が1個しか存在しない場合、これは、好ましくは(必ずではないが)、4位にある。好ましい置換基の例には、C1−4アルキル(例えば、メチル、エチル、プロピルおよびブチル、特にt−ブチル);ハロゲン(特にClおよびF);CN;CF;OCF;COHおよびC1−4アルキルチオ(特にメチルチオ)が挙げられる。Rによって表される基の具体例には、メチル、メトキシメチル、ビニル、シクロヘキシル、フェニル、4−クロロフェニル、4−トリフルオロメチルフェニル、4−フルオロフェニル、2,4−ジクロロフェニル、2,4−ジフルオロフェニル、4−トリフルオロメトキシフェニル、4−t−ブチルフェニル、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル、4−メチルチオフェニル、4−シアノフェニル、3−トリフルオロメチルフェニルおよび3−カルボキシフェニルが挙げられる。
【0041】
本発明での使用に適する具体例には、Xが、Sであり、Yが、CHであり、Zが、COHであり、一方のR基が、Hであり、両方のR基が、Me(他に指示がなければ)であり、残りの可変項が、次の表に示すとおりである、式Iの化合物が挙げられる。
【0042】
【表1】


* 2個のRが合わさって、シクロペンチル環を完成している。
【0043】
本発明での使用に適するさらなる具体的な化合物には、各Rが、Hであり、Rが、5−イソプロピルであり、RおよびRが、Hであり、Rが、4−クロロフェニルであり、残りの可変項が、表2に示すとおりである、式Iの化合物が挙げられる:
【0044】
【表2】

【0045】
式Iの化合物の第一の部分集合は、式II:
【0046】
【化7】

(式中、R1aは、C1−6アルキルまたはC3−6シクロアルキルであり、ならびにRからR、X、YおよびZは、前と同じ定義および好ましい素性を有する。)
によって定義される。
【0047】
式IIの化合物およびこれらの医薬適合性の塩は、新規であると考えられ、従って、本発明のさらなる側面を構成する。好ましくは、Xは、Sであり、Yは、CHであり、Zは、COHである。
【0048】
式Iの化合物の第二の部分集合は、式III:
【0049】
【化8】

(式中、nは、1または2であり、ならびにRからR、X、YおよびZは、前と同じ定義および好ましい素性を有する。)
によって定義される。
【0050】
式IIIの化合物およびこれらの医薬適合性の塩は、新規であると考えられ、従って、本発明のさらなる側面を構成する。好ましい実施態様において、nは、1であり、CF基は、4位にある。典型的に、Xは、Sであり、Yは、CHであり、Zは、COHである。
【0051】
本発明は、医薬適合性の担体中の式IIもしくはIIIの化合物またはこの医薬適合性の塩を含む医薬組成物も提供する。
【0052】
が場合により置換されているフェニルである式Iの化合物の合成は、米国特許第5.081,138号に記載されており、この全開示が、本明細書に参照により組み込まれる。類似の方法を使用して、Rがこの代替の素性を有する対応する化合物を製造してもよい。
【0053】
式I、IIおよびIIIの化合物は、1つまたはそれ以上の不斉中心を有し得るので、これらは、エナンチオマー形で存在し得る。所望される場合には、従来どおりの手段によって個々のエナンチオマーを純粋な形態で単離することができる。例えば、ラセミ混合物は、分取キラルHPLCによってこの成分エナンチオマーに分割することができ、または光学的に純粋なアミンで処理することにより分割して、分別結晶により分離することができるジアステレオマー塩対を形成することができ、これらから光学的に純粋な酸を再生することができる。同様に、ラセミ酸を光学的に純粋なアルコールまたはアミンと反応させて、対のジアステレオマーエステルまたはアミドを形成することができ、これらをクロマトグラフィーまたは分別結晶によって分離し、加水分解してエナンチオマー的に純粋な酸を生じさせることができる。これらの分割法は、式I、IIおよびIIIの化合物の合成前駆体に対して等しく効果的に実行することができ、得られた光学的に純粋な中間体を使用して、式I、IIおよびIIIの化合物を光学的に純粋な形態で製造することができる。
【0054】
式I、IIおよびIIIの化合物は、式I、IIまたはIIIの化合物1つまたはそれ以上ならびに医薬適合性の担体を含む医薬組成物の形態で一般に使用される。好ましくは、これらの組成物は、経口投与、非経口投与、鼻腔内投与、舌下投与もしくは直腸内投与、または吸入法もしくは通気法による投与のための単位剤形、例えば、錠剤、ピル、カプセル、粉末、顆粒、滅菌注射溶液もしくは懸濁液、計量エーロゾルもしくは液体噴霧剤、滴剤、アンプル、経皮パッチ、自己注射装置または座剤である。一般に、主活性成分を医薬適合性の担体、例えば、従来どおりの錠剤形成成分(コーンスターチ、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムおよびリン酸二カルシウムなど)、ゴム、分散剤、懸濁化剤または界面活性剤(モノオレイン酸ソルビタンおよびポリエチレングリコールなど)および他の医薬用希釈剤(例えば、水)と混合して、本発明の化合物またはこの医薬適合性の塩を含有する均質予調合組成物を形成する。これらの予調合組成物を均質と称する場合、これは、この組成物を均等に有効な単位剤形(例えば、錠剤、ピルおよびカプセル)に容易に小分けすることができるように、活性成分がこの組成物全体にわたって均一に分散されていることを意味する。次いで、この予調合組成物は、本発明の活性成分を0.1から約500mg含有する上記のタイプの単位剤形に小分けされる。典型的な単位座形は、1から100mg、例えば、1、2、5、10、25、50または100mgの活性成分を含有する。この組成物の錠剤またはピルをコーティングまたは別様に配合して、持続作用の利点を可能ならしめる剤形を生じさせることができる。例えば、錠剤またはピルは、内側の投薬成分と外側の投薬成分を含み、後者は、前者を覆う包膜の形態である。これら二成分は、胃での消化に耐えるために役立ち、内側の成分を無傷で十二指腸に通すことができるまたは放出を遅らせることができる腸溶層によって、分離することができる。様々な材料をこうした腸溶層またはコーティングに使用することができ、そうした材料には、多数の高分子酸ならびに高分子酸とセラック、セチルアルコールおよび酢酸セルロースなどの材料との混合物が挙げられる。
【0055】
本発明において有用な組成物を組み入れることができる、経口投与または注射による投与のための液体形には、水溶液、液体またはゲル充填カプセル、適切に着香されたシロップ、水性または油性懸濁液、および綿実油、ごま油、ヤシ油または落花生油などの食用油で着香された乳剤、ならびにエリキシルおよび同様の医薬用ビヒクルが挙げられる。水性懸濁液に適する分散または懸濁化剤には、合成および天然ゴム、例えばトラガカントゴム、アラビアゴム、アルジネート、デキストラン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)またはゼラチンが挙げられる。
【0056】
アルツハイマー病を治療または予防するために適する投薬レベルは、1日につき体重1gあたり約0.01から250mg、好ましくは1日につき約0.01から100mg/kg、より好ましくは1日につき約0.05から50mg/kgの活性化合物である。これらの化合物は、1日に1から4回の投薬計画で投与することができる。しかし、場合によっては、これら以外の投薬を用いることもできる。
【0057】
場合により、式Iの化合物は、ADまたはこの症状の治療または予防に有用であることが知られている1つまたはそれ以上の追加の化合物と併用で投与することができる。例えば、こうした追加の化合物には、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジルおよびガランタミン)、NMDA拮抗薬(例えば、メマンチン)またはPED4阻害剤(例えば、Ariflo(商標)および国際公開パンフレット第WO03/018579号、同第WO01/46151号、同第WO02/074726号および同第WO02/09878号に開示されている化合物類)などの向知性薬が挙げられる。こうした追加の化合物には、スタチン、例えばシンバスタチンなどのコレステロール低下薬も挙げられる。同様に、こうした追加の化合物には、脳におけるAβの生産またはプロセッシングを修飾すること(「アミロイド変性物質」)が知られている化合物、例えば、Aβの分泌を阻害する化合物(γ−セクレターゼ阻害剤、β−セクレターゼ阻害剤およびGSK−3α阻害剤を含む)、Aβの凝集を阻害する化合物、およびAβに選択的に結合する化合物が挙げられる。
【0058】
本発明のこの実施態様におけるアミロイド変性物質は、Aβの分泌を阻害する化合物、例えば、γ−セクレターゼの阻害剤(国際公開パンフレット第WO01/53255号、同第WO01/66564号、同第WO01/70677号、同第WO01/90084号、同第WO01/77144号、同第WO02/30912号、同第WO02/36555号、同第WO02/081435号、同第WO02/081433号、同第WO03/018543号、同第WO03/013506号、同第WO03/013527号および同第WO03/014075号に開示されているものなど)であってもよいし、またはβ−セクレターゼ阻害剤(国際公開パンフレット第WO03/037325号、同第WO03/030886号、同第WO03/006013号、同第WO03/006021号、同第WO03/006423号、同第WO03/006453号、同第WO02/002122号、同第WO01/70672号、同第WO02/02505号、同第WO02/02506号、同第WO02/02512号、同第WO02/02520号、同第WO02/098849号および同第WO02/100820号に開示されているものなど)であってもよいし、またはWO98/28268号、同第WO02/47671号、同第WO99/67221号、同第WO01/34639号、同第WO01/34571号、同第WO00/07995号、同第WO00/38618号、同第WO01/92235号、同第WO01/77086号、同第WO01/74784号、同第WO01/74796号、同第WO01/74783号、同第WO01/60826号、同第WO01/19797号、同第WO01/27108号、同第WO01/27091号、同第WO00/50391号、同第WO02/057252、US2002/0025955およびUS2002/0022621に開示されているものを含む、およびまたNature,423(2003),435−9に開示されているような、GSK−3阻害剤、特にGSK−3α阻害剤、例えばリチウムを含むAβの形成もしくは放出を阻害する他のあらゆる化合物であってもよい。
【0059】
この実施態様の中のアミロイド変性物質は、有利にはγ−セクレターゼ阻害剤であり、この好ましい例には、式XI:
【0060】
【化9】

(式中、m、Z、R1b、R1c、ArおよびArは、国際公開パンフレット第WO03/018543号において定義されているとおりである。)
の化合物またはこの医薬適合性の塩が挙げられる。
【0061】
こうした化合物は、国際公開パンフレット第WO03/018543号に記載されているとおり製造することができる。好ましい例には、式XIa:
【0062】
【化10】

(式中、mは、0または1であり、Xは、ClまたはCFであり、ならびにYは、OH、OC1−6アルキル、NHまたはNHC1−6アルキルである。)
により定義されるものおよびこの医薬適合性の塩が挙げられる。特定の例には、mが1であり、Yが、OHであるもの(またはこのナトリウム塩)およびmが、0であり、Yが、NHまたはNHC1−6アルキルであるものが挙げられる。
【0063】
本発明のこの実施態様において使用するためのもう一つの好ましいγ−セクレターゼ阻害剤類は、式XII:
【0064】
【化11】

(式中、XおよびRは、国際公開パンフレット第WO03/093252号において定義されているとおりである。)
により定義されるものまたはこの医薬適合性の塩である。
【0065】
Xは、非常に適切には5置換−チアゾール−2−イル、5−置換−4−メチルチアゾール−2−イル、5−置換−1−メチルピラゾール−3−イル、1−置換−イミダゾール−4−イルまたは1−置換−1,2,4−トリアゾール−3−イルである。好ましくは、Rは、場合により置換されているフェニルまたはヘテロアリール、例えばフェニル、モノハロフェニル、ジハロフェニル、トリハロフェニル、シアノフェニル、メチルフェニル、メトキシフェニル、トリフルオロメチルフェニル、トリフルオロメトキシフェニル、ピリジル、モノハロピリジルおよびトリフルオロメチルピリジルを表し、この場合の「ハロ」は、フルオロまたはクロロを指す。R−Xの特に好ましい素性には、5−(4−フルオロフェニル)−1−メチルピラゾール−3−イル、5−(4−クロロフェニル)−1−メチルピラゾール−3−イル、および1−(4−フルオロフェニル)イミダゾール−4−イルが挙げられる。こうした化合物は、国際公開パンフレット第WO03/093252号に開示されている方法によって製造することができる。
【0066】
さらに好ましいγ−セクレターゼ阻害剤類には、国際公開パンフレット第WO03/093264号、同第WO03/093251号、同第WO03/093253号、同第WO2004/039370号、同第WO2004/39800および同第WO2004/031139号に開示されているものが挙げられる。
【0067】
また、アミロイド変性物質は、Aβの凝集を阻害する化合物であり得る。適する例には、キレート剤、例えば、クリオキノール(Gouras and Beal,Neuron,30(2001),641−2)および国際公開パンフレット第99/16741号に開示されている化合物、特に、DP−109として知られているもの(Kalendarevら,J.Pharma.Biomed.Anal.,24(2001),967−75)が挙げられる。本発明での使用に適する他のAβ凝集阻害剤には、国際公開パンフレット第96/28471号、同第98/08868号および同第WO00/052048号に開示されている化合物[Apan(商標)(Praecis)として知られている化合物を含む];国際公開パンフレット第WO00/064420号、同第WO03/017994号および同第99/59571号に開示されている化合物ならびにAlzhemed(商標)(Neurochem)として知られている化合物;国際公開パンフレット第WO00/149281号に開示されている化合物ならびにPTI−777およびPTI−00703(Proteo Tech)として知られている組成物;WO96/39834、同第WO01/83425、同第WO01/55093、同第WO00/76988、同第WO00/76987、同第WO00/76969、同第WO00/76489、同第WO97/26919、同第WO97/16194およびWO97/16191に開示されている化合物が挙げられる。
【0068】
また、アミロイド変性物質は、Aβに選択的に結合する抗体であり得る。前記抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体であり、ならびに好ましくはヒトまたはヒト化抗体である。好ましくは、前記抗体は、国際公開パンフレット第WO03/016466号、同第WO03/016467号、同第WO03/015691号および同第WO01/62801号に記載されているように、生体液から可溶性Aβを離隔することができる抗体である。適する抗体には、ヒト化抗体266(国際公開パンフレット第WO01/62801号に記載されているもの)および国際公開パンフレット第WO03/016466号に記載されているこの変性バージョンが挙げられる。
【0069】
ここで用いる表現「と併用で」は、式Iの化合物と追加の化合物、両方の治療有効量を被験者に投与するが、これを達成するやり方に制限を設けないことを求める。従って、これら二つの化学種は、被験者に同時に投与するための単一剤形で併用してもよいし、または被験者に同時にもしくは逐次的に投与するための個別剤形で提供してもよい。逐次投与は、投与時間が近くてもよいし、または投与時間が遠くてもよい(例えば、一方の化学種を朝に投与し、他方を夕方に投与してもよい)。別個の化学種を同じ頻度で投与してもよいし、または異なる頻度、例えば、一方の化学種を1日1回、他方を1日2回またはそれ以上で投与してもよい。別個の化学種を同じ経路により投与してもよいし、または異なる経路により(例えば、一方の化学種を経口的に、他方を非経口的に)投与してもよいが、可能である場合には両方の化学種の経口投与が好ましい。前記追加化合物が、抗体である場合、これは、一般には、非経口的に、式Iの化合物とは別に投与されるであろう。
【0070】
さらなる側面において、本発明は、医薬適合性の担体中の式Iの化合物またはこの医薬適合性の塩および式XI(a)の化合物またはこの医薬適合性の塩を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、この医薬組成物は、錠剤またはカプセルなどの経口投与に適する単位剤形である。
【実施例】
【0071】
Aβ(1−42)の生産を選択的に阻害する式Iの化合物の能力を、次のアッセイを用いて判定した:
細胞ベースのγ−セクレターゼアッセイ
直接的γ−セクレターゼ基質SPA4CTを発現するヒトSH−SY5Y神経芽種細胞を酪酸ナトリウム(10mM)とともに4時間インキュベートした後、平板培養した。細胞を、96ウエルプレートに、フェノールレッド不含MEM/10%FBS、50mM HEPES、1%グルタミン中、細胞数35,000/ウエル/100μLで配置し、2時間、37℃、5%COでインキュベートした。
【0072】
検査用化合物をMeSOで希釈して、10点用量−反応曲線を得た。典型的には、MeSO中のこれらの希釈化合物10μLを182μLの希釈バッファ(フェノールレッド不含MEM/10%FBS、50mM HEPES、1%グルタミン)でさらに希釈し、希釈物の10μLを96ウエルプレート内の細胞に添加した(0.5%の最終MeSO濃度を生じさせた)。適切なビヒクル対照および阻害剤対照を用いて、アッセイのウインドウを決定した。
【0073】
37℃、5%COで一晩インキュベートした後、Aβ(40)およびAβ(42)ペプチドの検出のためにそれぞれ10μLおよび50μLの培地を新しいCostar丸底96ウエルプレートに移した。40μLのOrigenバッファ(PBS、2%BSA、0.2%Tween−20)をAβ(40)ウエルに添加し、次いで、25μLのそれぞれの抗体プレミックスをウエルに添加した。
【0074】
Aβ(40)プレミックス:Origenバッファで希釈した、1μg/mL ルテニウム処理G2−10抗体、4μg/mL ビオチン処理4G8抗体
Aβ(42)プレミックス:Origenバッファで希釈した、0.5μg/mL ルテニウム処理G2−11抗体、4μg/mL ビオチン処理4G8抗体
(ビオチン処理4G8抗体は、Signet Pathology Ltdにより供給されたものであり;G2−10およびG2−11抗体は、Chemiconによって供給されたものである。)
振盪器を用いて4℃で一晩、アッセイプレートをインキュベートした後、Origen M8 Analyzer(Igen Inc.)をこの製造業者の指示に従って較正した。25μLのストレプタビジン磁気ビーズ(Dynal)プレミックス(400μg/mL ストレプタビジンビーズ/(Origenバッファ中のmL))をアッセイプレートに添加し、振盪器で15分間インキュベートした。150μLのOrigenバッファを各ウエルに添加し、Origen M8 Analyzerをこの製造業者の指示に従って用いてプレートを読み取った。
【0075】
Aβアッセイのために培地を除去した後、製造業者の指示に従って、ホルマザンへのMTS(オーエン試薬)の生体還元を利用するカラーメトリック細胞増殖アッセイ(CellTiter 96(商標)AQアッセイ、Promega)を行うことにより、対応する細胞における細胞生存度を測定した。簡単に言うと、5μLの10x MTS/PESを残った50μLの培地に添加した後、インキュベータに戻した。〜4時間後、495nmで光学密度を読み取った。
【0076】
適切なソフトウェア(例えば、Excel fit)を使用し、非線形回帰フィット解析により、Aβ(40)およびAβ(42)の阻害についてのLD50値およびIC50値を計算した。全シグナルおよびバックグラウンドは、対応するMeSO対照および阻害剤対照によって定義した。
【0077】
上の表1に挙げた化合物すべてから、Aβ(1−40)阻害剤についての対応するIC50値より少なくとも2倍低い、典型的には5倍低い、好ましいケースでは少なくとも50倍低い、Aβ(1−42)についてのIC50値が得られた。
【0078】
すべての化合物は、米国特許第5,081,138号に開示されている方法によって調製した。以下に代表例を提供する:−
図式1
【0079】
【化12】

【0080】
3−{3−[(2,5−ジメチルフェニル)チオ]−5−イソプロピル−1H−インドール−2−イル}−2,2−ジメチルプロパン酸メチル(2)
t−ブタノール(50mL)中の5−[(2,5−ジメチルフェニル)チオ]−2,2−ジメチル−4−オキソペンタン酸メチル(1)(8.0g、27.2mmol)[米国特許第5,081,138号の方法を使用して5−ブロモ−2,2−ジメチル−4−オキソペンタノエートおよび2,5−ジメチルチオフェノールから調製したもの]および塩酸(4−イソプロピルフェニル)ヒドラジン(5.0g、26.8mmol)の混合物を3時間還流させた。反応混合物を周囲温度に冷却し、真空下で濃縮した。残留物を酢酸エチル(100mL)で希釈し、水(1x100mL)、塩酸(2N、100mL)およびブライン(100mL)で順次洗浄した。この有機抽出物をMgSOで乾燥させ、真空下で濃縮し、2%酢酸エチル:ヘキサンで溶離するフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、3−{3−[(2,5−ジメチルフェニル)チオ]−5−イソプロピル−1H−インドール−2−イル}−2,2−ジメチルプロパン酸メチル(2)を白色の固体として得た(4.1g、37%)。H NMRδ(ppm)(400MHz,CDCl):9.11(1H,s),7.32(2H,m),7.10(1H,dd,5,8.5Hz),7.01(1H,d,J=7.5Hz),6.76(1H,d,J=7.5Hz),6.45(1H,s),3.73(3H,s),3.14(2H,s),3.00−2.90(1H,m),2.46(3H,s),2.03(3H,s),1.20−1.27(12H,m)。
【0081】
3−{1−アリル−3−[(2,5−ジメチルフェニル)チオ]−5−イソプロピル−1H−インドール−2−イル}−2,2−ジメチルプロパン酸メチル(3)
水素化ナトリウム(5mg、0.22mmol)を、DMF(3mL)中の3−{3−[(2,5−ジメチルフェニル)チオ]−5−イソプロピル−1H−インドール−2−イル}−2,2−ジメチルプロパン酸メチル(2)(60mg、0.15mmol)の氷冷溶液に添加し、得られた混合物を30分間、0℃で攪拌した。次いで、DMF(1mL)中の臭化アリル(26.6mg、0.22mmol)の溶液をゆっくりと添加し、0℃で30分間、この後、周囲温度で18時間、攪拌し続けた。この反応混合物を水(50mL)で希釈し、DCM(3x50mL)で抽出した。有機抽出物をブライン(1x100mL)で洗浄し、MgSOで乾燥させ、真空下で濃縮した。残留物を2%酢酸エチル:ヘキサンで溶離するフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、3−{1−アリル−3−[(2,5−ジメチルフェニル)チオ]−5−イソプロピル−1H−インドール−2−イル}−2,2−ジメチルプロパン酸メチル(3)を得た(53mg、80%)。H NMRδ(ppm)(360MHz,CDCl):7.35(1H,s),7.24(1H,m),7.11(1H,m),7.00(1H,d,J=7.5Hz),6.75(1H,d,J=7.5Hz),6.36(1H,s),5.94−5.84(1H,m),5.12(1H,d,J=10.5Hz),4.81−4.73(3H,m),3.67s),3.18(2H,s),3.00−2.90(1H,m),2.44(3H,s),2.01(3H,s),1.28−1.20(12H,m)。
【0082】
3−{1−アリル−3−[(2,5−ジメチルフェニル)チオ]−5−イソプロピル−1H−インドール−2−イル}−2,2−ジメチルプロパン酸(4)
水(1mL)中の水酸化リチウム(28mg、1.2mmol)の溶液を、ジオキサン(2mL)中の3−{1−アリル−3−[(2,5−ジメチルフェニル)チオ]−5−イソプロピル−1H−インドール−2−イル}−2,2−ジメチルプロパン酸メチル(3)(53mg、0.12mmol)の溶液に添加し、60℃で18時間攪拌した。この反応混合物を塩酸(2N、50mL)で希釈し、酢酸エチル(2x50mL)で抽出した。有機抽出物をブライン(1x50mL)で洗浄し、MgSOで乾燥させ、真空下で濃縮して、3−{1−アリル−3−[(2,5−ジメチルフェニル)チオ]−5−イソプロピル−1H−インドール−2−イル}−2,2−ジメチルプロパン酸を得た(41mg、78%)。H NMRδ(ppm)(360MHz,CDCl):7.36(1H,s),7.25(1H,m),7.12(1H,dd,J=1.5,8.5Hz),7.00(1H,d,J=7.5Hz),6.75(1H,d,J=7.5Hz),6.37(1H,s),5.94−5.86(1H,m),5.12(1H,d,J=10.5Hz),4.85(2H,m),4.77(1H,d,J=17.0Hz),3.22(2H,s),3.01−2.91(1H,m),2.44(3H,s),2.00(3H,s),1.23−1.27(12H,m)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳内のAβの沈着に関連した疾病を治療または予防するための医薬品を製造するための、式I:
【化1】

(式中、
各Rは、独立して、H、C1−6アルキルまたはC3−6シクロアルキルであり;
各Rは、独立して、HまたはC1−6アルキルであるか、2個のR基が合わさって、C3−6シクロアルキル基を完成しており;
は、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、COH、C1−4アルコキシカルボニル、C1−4アルキルカルボニルおよびC1−4アルキルカルボニルオキシから選択される2個以下の置換基を有する炭素原子数10以下の炭化水素基を表すか;Rは、場合によりベンゾ融合しており、C1−4アルキル、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、COH、C1−4アルコキシカルボニル、C1−4アルキルカルボニルおよびC1−4アルキルカルボニルオキシから選択される2個以下の置換基を場合により有する、環原子数5または6のヘテロアリール基を表し;
、RおよびRは、独立して、H、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、COH、C1−4アルコキシカルボニル、C1−4アルキルカルボニル、C1−4アルキルカルボニルオキシを表すか、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、COH、C1−4アルコキシカルボニル、C1−4アルキルカルボニルおよびC1−4アルキルカルボニルオキシから選択される置換基を場合により有する炭素原子数7以下の炭化水素を表し;
は、ハロゲン、CN、CF、OCF、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、COH、C1−4アルコキシカルボニル、C1−4アルキルカルボニルおよびC1−4アルキルカルボニルオキシから選択される2個以下の置換基を有する炭素原子数10以下の炭化水素基を表し;
Xは、OまたはSを表し;
Yは、結合、CH、CHCH、CHCHCHまたはCHCHOを表し;ならびに
Zは、COHまたはテトラゾール−5−イルを表す。)
の化合物またはこの医薬適合性の塩の使用。
【請求項2】
前記疾病が、アルツハイマー病、脳アミロイドアンギオパチー、HCHWA−D、多発脳梗塞性痴呆、ボクサー痴呆およびダウン症候群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
アルツハイマー病、脳アミロイドアンギオパチー、HCHWA−D、多発脳梗塞性痴呆、ボクサー痴呆またはダウン症候群に関連した痴呆を治療するもしくは予防するまたはこの発症を遅らせるための医薬品を製造するための、請求項1に記載の式Iの化合物またはこの医薬適合性の塩の使用。
【請求項4】
脳内のAβの蓄積を遅延、阻止または予防するための医薬品を製造するための、請求項1に記載の式Iの化合物またはこの医薬適合性の塩の使用。
【請求項5】
前記医薬品が、軽度認知機能障害または加齢性認知低下に罹患している患者に投与するためのものである、請求項1から4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
Xが、Sである、請求項1から5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
Yが、CHである、請求項1から6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
Zが、COHである、請求項1から7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
式I中のRが、アルキル、シクロアルキル、アルキル置換フェニルおよびクロロ置換フェニルから選択される、請求項1から8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
式I中のRが、炭素原子数6以下のアルキル、シクロアルキルもしくはアルケニル、または場合により置換されているフェニルから選択される、請求項1から9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
式II:
【化2】

(式中、R1aは、C1−6アルキルまたはC3−6シクロアルキルを表し、ならびにRからR、X、YおよびZは、請求項1において定義したとおりである。)
の化合物またはこの医薬適合性の塩の、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
式III:
【化3】

(式中、nは、1または2であり、ならびにRからR、X、YおよびZは、請求項1において定義したとおりである。)
の化合物またはこの医薬適合性の塩の、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
式II:
【化4】

(式中、R1aは、C1−6アルキルまたはC3−6シクロアルキルを表し、ならびにRからR、X、Yおよびzは、請求項1において定義したとおりである。)
の化合物またはこの医薬適合性の塩。
【請求項14】
式III:
【化5】

(式中、nは、1または2であり、ならびにRからR、X、Yおよびzは、請求項1において定義したとおりである。)
の化合物またはこの医薬適合性の塩。
【請求項15】
医薬適合性の担体中の式IIもしくは式IIIの化合物またはこの医薬適合性の塩を含む医薬組成物。

【公表番号】特表2007−513128(P2007−513128A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542000(P2006−542000)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004985
【国際公開番号】WO2005/054193
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【出願人】(390035482)メルク シャープ エンド ドーム リミテッド (81)
【Fターム(参考)】