説明

アルツハイマー病と加齢脳に対する補充療法

本発明は、アルツハイマー病(AD)及び加齢を含む神経変性状態の治療のための方法及び組成物を説明する。本発明は、ADの治療のための補充食療法を開示する。循環ケトン体を上昇させる、本発明の様々な実施態様に記載される高脂質低炭水化物食は、AD患者においてアミロイド−β(Aβ)沈着を減少させ、それによって認知能力及び自発運動能力を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的にアルツハイマー病(AD)と加齢に対する治療剤、より具体的には、認知を改善し、循環ケトン体を増加させ、AD患者のアミロイド−β(Aβ)沈着を減少させる、奇数鎖トリグリセリドを含むケトン産生食の使用に関する。
[連邦政府による資金援助を受けた研究についての声明]
なし。
[関連出願の相互参照]
なし。
[コンパクトディスク提出資料の援用による引用]
なし。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景は、本発明の分野を限定することなく、ADを含む神経変性疾患に関連する症状を治療及び緩和するための補充食の使用に関連して説明されている。
【0003】
Nathan(2002年)に交付された米国特許第6,335,361号は、認知障害、特に加齢と関連した認知障害を治療する方法を開示している。その方法はカルニチンと酸化剤を組み合わせて投与することを含んでいる。酸化剤はチオクト酸であることが好ましい。0.12〜3グラムのカルニチン(特にALC)と、0.12グラムと1.5グラムのR−α−リポ酸を投与することが好ましい。任意選択で、コエンザイムQ及び/又はクレアチンも投与する。一日につき10〜500mgのコエンザイムQ10と一日につき1〜30グラムのクレアチンを投与することが好ましい。同じ方法は、一酸化炭素中毒、軽度の外傷性脳損傷、2型真性糖尿病、強迫性障害、環境有害物質への曝露、及びその他の症状に関連する認知障害の治療に用いることができる。
【0004】
米国特許出願第20080287372号 (Henderson, 2008年) は、年齢関連性記憶障害(AAMI)を治療する治療剤の分野に関する。かかる発明は、特に、ほ乳類のケトン体濃度(例えばケトン産生化合物)を上昇させることができる少なくとも1つの化合物を含む組成物を用いて、AAMIで低下したニューロン代謝によって発生した認知機能の喪失を治療又は予防するための有効量を投与する。一実施態様では、この組成物は中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を含んでいる。別の実施態様では、この組成物は炭水化物の存在下で投与される。かかる発明は、経口投与剤形、特にほ乳類のケトン体濃度を上昇させることができる少なくとも1つの化合物を含む栄養ドリンクにも関する。
【0005】
米国特許出願第20090253781号(Veech, 2009年)は、ヒトと動物への投与に適し、とりわけ(i)心臓効率、特にブドウ糖利用における効率を上昇させ、(ii)特に糖尿病とインシュリン抵抗状態にエネルギー源を供給し、そして(iii)脳細胞の損傷、特にアルツハイマー病及び同様の疾患で見られるような記憶関連脳領域の脳損傷を遅らせる、又は予防することにより、脳細胞の損傷により引き起こされる障害を治療する特性を有する、ケトン体及び/又はその代謝的前駆体を含む組成物を開示している。これらの組成物は、運動選手用などの栄養剤、又は特に低い心臓効率、インシュリン抵抗性の状態、並びに神経損傷に関連する医学的状態を治療するための栄養剤として摂取されることもある。かかる発明はさらに治療方法と、かかる発明の組成物に含ませる新規エステル及びポリマーを提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,335,361号
【特許文献2】米国特許出願第20080287372号
【特許文献3】米国特許出願第20090253781号
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ADと加齢を含む、ヒト対象の神経及び神経変性状態を治療する補充食の使用を説明する。
【0008】
本発明の一実施形態は、神経疾患又は神経変性疾患に対する治療を必要とする成人患者を特定するステップと、前記患者に生理学的に効果的な量の製剤を経腸的又は非経口的に投与するステップとを含み、前記製剤が一般式:
【0009】
【化1】

【0010】
を有する1又は2以上の奇数鎖トリグリセリド(式中R、R、及びRはグリセロール基本骨格にエステル化しており、それぞれが独立して5〜15個の炭素原子を有する奇数炭素鎖を含む脂肪酸である)と、香味剤、ビタミン、ミネラル補給剤、タンパク質補給剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される1又は2以上の任意の添加剤を含む神経疾患又は神経変性疾患に対する治療を必要とする前記成人患者を治療する方法である。一態様では、R1、R2、及びR3炭素鎖はペンタノイン、ペンタノイルカルニチン、n―ペンタデカン酸、5炭素脂肪酸前駆体、及びその誘導体から選択される5炭素長である。一態様では、奇数鎖トリグリセリドはトリペンタノインである。一態様では、R1、R2、及びR3炭素鎖は7炭素長である。別の態様では、奇数鎖トリグリセリドはトリヘプタノインである。別の態様では、神経変性疾患はアルツハイマー病(AD)又は加齢である。
【0011】
本発明のさらなる別の実施形態は、アルツハイマー病(AD)に対する治療を必要とする成人患者を特定するステップと、トリヘプタノインの製剤をADの症状を治療又は軽減するための十分な量で経腸的又は非経口的に患者に投与するステップとを含む、ADを患っている成人患者を治療する方法である。一態様では、製剤は香味剤、ビタミン、ミネラル補給剤、タンパク質補給剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される1又は2以上の任意の添加剤を含む。一態様では、組成物はヒト対象に投与され、その対象の血液中の1又は2以上の循環ケトン体のレベルを上昇させる。
【0012】
本発明の別の実施形態は、ヒト対象に高脂肪低炭水化物食を提供する食餌組成物及び/又は食餌であって、一般式:
【0013】
【化2】

【0014】
を有する1又は2以上の奇数鎖トリグリセリド(式中R、R、及びRはグリセロール基本骨格にエステル化しており、それぞれが独立して5〜15個の炭素原子を有する奇数炭素鎖を含む脂肪酸である)と、香味剤、ビタミン、ミネラル補給剤、タンパク質補給剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される1又は2以上の任意の添加剤とを含む食餌組成物及び/又は食餌である。一態様では、R1、R2、及びR3炭素鎖はペンタノイン、ペンタノイルカルニチン、n−ペンタデカン酸、5個の炭素脂肪酸前駆体、及びその誘導体から選択される5炭素長である。別の態様では、R1、R2、及びR3炭素鎖は7炭素長である。一態様では、奇数鎖脂肪酸化合物はトリペンタノイン又はトリヘプタノインである。別の態様では、ヒト対象は健康なヒト対象、又はアルツハイマー病(AD)、老年認知症、血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、及び加齢からなる群から選択される1又は2以上の神経学的状態を患っているヒト対象である。別の態様では、ヒト対象はADを患っている。別の態様では、組成物を投与すると、ヒト対象の血液中の1又は2以上の循環ケトン体のレベルを上昇させる。
【0015】
本発明の別の態様は、中鎖トリグリセリド、5個、7個、及び15個の炭素脂肪酸の群から選択される奇数炭素鎖脂肪酸及びそのトリグリセリド、又は両方を含む食用に適した食餌製剤である。一態様では、脂肪酸はペンタン酸である。一態様では、脂肪酸はヘプタン酸である。別の態様では、奇数鎖トリグリセリドはトリペンタノイン又はトリヘプタノインである。別の態様では、組成物は神経変性疾患、アルツハイマー病(AD)、老年認知症、血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、及び加齢に関連する症状を治療又は軽減するように適合される。別の態様では、組成物はADを治療するように適合される。別の態様では、組成物は経腸的に提供されるように適合される。
【0016】
本発明の別の実施形態は、官能担体内のペンタノイン、トリヘプタノイン、ペンタノイルカルニチン、n−ペンタデカン酸、5個の炭素脂肪酸前駆体、及びその誘導体から選択される、単離及び精製された短鎖脂肪酸と、香味剤、ビタミン、ミネラル補給剤、タンパク質補給剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される1又は2以上の任意の添加剤とを含む、ヒト対象に高脂肪低炭水化物食を提供するための食餌組成物である。一態様では、組成物はアルツハイマー病(AD)、老年認知症、血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、及び加齢からなる群から選択される1又は2以上の神経学的状態を患っていることが疑われるヒト対象への投与のために適合される。別の態様では、組成物は投与されると、ヒト対象の血液中の1又は2以上の循環ケトン体のレベルを上昇させる。別の態様では、組成物は投与されると、アセチル−CoAの血清レベルを上昇させる。
【0017】
本発明のさらなる別の実施形態は、アルツハイマー病(AD)に対する治療を必要とする成人患者を特定するステップと、C5、C7、C9、C11、C13、C15、又はそのトリグリセリドの少なくとも1つを含む奇数鎖脂肪酸の製剤をADの症状を治療又は軽減するために十分な量で患者に投与するステップとを含む、ADを患う成人患者を治療する方法である。一態様では、製剤は、香味剤、ビタミン、ミネラル補給剤、タンパク質補給剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される1又は2以上の任意の添加剤を含む。別の態様では、組成物は投与されると、ヒト対象の血液中の1又は2以上の循環ケトン体のレベルを上昇させる。さらに別の態様では、製剤は非経口、経腸、静脈内、筋肉内投与のために適合される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の特徴と利点をより完全に理解するため、本発明の詳細を付随する図を参照して説明する。
【図1】図1は、アミロイド前駆タンパク質(APP)とAβを過剰発現させるトランスジェニックマウスにおけるC5−TGの有効性を測定するモデル1の研究の概略図である。
【図2】図2は、Aβを含むその他の要因の不在下において微小管関連リン酸化タウ(MAPT)を過剰発現させるトランスジェニックモデルマウスにおけるC5−TGの有効性を測定するモデル2の研究の概略図である。
【図3】図3は、老齢マウスにおける認知機能と自発運動を測定するモデル3の研究の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の様々な実施態様の実施と使用を以下に詳細に論じているが、当然のことながら、本発明は広範にわたる具体的な内容において実施が可能な多数の発明概念を提供する。本明細書で論じる具体的な実施態様は本発明を実施して使用するための具体的な方法を示すのみであり、本発明の範囲を定めるものではない。
【0020】
本発明の理解を容易にするため、以下に多数の用語を定義する。ここに定義する用語は、本発明の関連分野の当業者によって普通に理解される意味を有している。「a」、「an」、及び「the」などの用語は単に単数の存在に言及することを意図するものではなく、例示のために用いられる具体例の全般的な分類を含んでいる。ここに挙げる用語は、本発明の具体的な実施態様を説明するために用いられるが、その使用は、請求項における記載を除き、本発明の範囲を定めるものではない。
【0021】
本発明はAD、及びその他の神経変性状態を治療する補充食療法を説明する。本発明の高脂肪、適切なタンパク質、及び低炭水化物の食餌はAD患者の循環ケトン体を増加させ、アミロイド−β(Aβ)沈着を減少させ、それによって認知能力及び自発運動能力を改善する。
【0022】
本明細書では、「対象(subject)」又は「患者」という用語は、ここで言及する1又は2以上の状態を有する可能性のある生体を含むことを意図する。対象の例には、ヒト、サル、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、及びその遺伝子組み換えされた種が含まれる。それ以外の対象の例には、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシなどの実験動物が含まれる。対象は、神経又は神経変性疾患を患っている、又は患っていることが疑われるヒトであってもよい。
【0023】
本明細書では、「治療的に有効な用量」又は「治療的有効量」とは、神経又は神経変性疾患を有する治療を受けていない対象と比較して、感染した対象の病状の1又は2以上の症状の量を少なくとも約20%、少なくとも約40%、さらには少なくとも約60%、80%、若しくはさらには100%減少させる奇数鎖脂肪酸とその前駆体若しくは誘導体などの組成物又は組成物混合物の量である。活性化合物は、対象の状態に関連する状態に対して治療的に有効な用量で投与される。例えば、化合物の有効性は、ヒト又は動物の疾患を治療するに当たって有効性の予測となりうる、患者又はモデル動物システムで評価することができる。
【0024】
本明細書では、「奇数鎖脂肪酸」という用語は、脂肪酸と呼ぶ基本単位で構成される、食品中の油脂を説明するために用いる。これらは体内で通常、グリセロールに付着した脂肪酸として3つ組で移動してトリグリセリドを形成する。本明細書では、グリセロールに付着した奇数鎖脂肪酸は、奇数鎖トリグリセリドとして説明する。奇数鎖脂肪酸と奇数鎖トリグリセリドは共に本発明の一部であり、しばしば同じ意味で用いられる。例えば、奇数鎖脂肪酸に言及するとき、奇数鎖トリグリセリドと置換したり、又は奇数鎖トリグリセリドとして示すことができ、その逆も同様である。
【0025】
脂肪酸は、その化学構造に基づいて、一価不飽和脂肪、多価不飽和脂肪、及び飽和脂肪と3つの主要な部類に分類される。人間と動物が食する油脂はほぼ常にこれら3種の脂肪酸の混合物であり、1種が優位を占める。2種の具体的な多価不飽和脂肪酸であるリノール酸とα−リノール酸は必須脂肪酸と呼ばれる。これらは適切な栄養と健康に必要であると考えられるため、食餌に適当量存在しなければならない。リノール酸(LA)はω−6脂肪酸であり、例えばトウモロコシ、ベニバナ、ダイズ、並びにヒマワリ、及び全粒穀物、並びにクルミなど多くの油に存在する。α−リノール酸(ALA)はドコサヘキサエン酸の植物前駆体である。ALA源には海草並びに植物の緑葉(ごく少量で)、ダイズ、クルミ、バタグルミ、一部の種子(アマ、チア、アサ、カノーラ)、及びこれらの食品から抽出される油が含まれる。
【0026】
本明細書では、「栄養的に有効な量」という用語は、ほ乳類に有益な栄養効果又は反応をもたらす、奇数鎖脂肪酸及び/又は奇数鎖トリグリセリドを意味するために用いる。例えば、ビタミン含有及びミネラル含有栄養補助食品に対する反応がほ乳類によって異なるように、当然のことながら奇数鎖脂肪酸の栄養的に有効な量が異なることを理解されたい。したがって、1種のほ乳類で特定のプロフィールのビタミンとミネラルが規定量で存在することが必要であっても、別種のほ乳類では同一の特定のプロフィールのビタミンとミネラルが異なる規定量で存在することが必要であることもある。
【0027】
本発明の奇数鎖脂肪酸及び/又は奇数鎖トリグリセリドを栄養補助食品又は添加物として提供する場合、粉末、還元粉末、液固懸濁液、液体、カプセル、錠剤、カプセル型錠剤、ローション剤、及び乳剤の投与量形状に調製して、ほ乳類に投与した。製剤分野の当業者は、本明細書に開示された奇数鎖脂肪酸を、洗浄、眼、耳、直腸、舌下、経皮、口腔、膣、又は真皮などへの投与に適切な栄養補助食品(dietary supplement)として製剤化することができる。したがって、咀嚼できるキャンディーバー、濃縮食品、飴玉、エリキシル剤、乳濁液、薄膜、ゲル剤、顆粒、チューインガム、ゼリー、油、糊状剤、トローチ、小丸剤、シャンプー、リンス、石鹸、スポンジ、座薬、綿棒、シロップ剤、咀嚼できるゼラチン形状のもの、咀嚼錠、等その他の剤形を用いることができる。
【0028】
食餌は人によって異なるため、本発明の食餌奇数鎖脂肪酸を広い範囲の用量で投与し、かつ広い範囲の投与単位強度(dosage unit strength)で製剤化することができる。栄養補助食品の用量は、その補助食品を摂取しているときにほ乳類が患っている特別な病気又は障害によって異なることにも留意すべきである。例えば、慢性疲労症候群や線維筋痛症を患っているヒトは、一般的に、栄養面での有益性を得ること、あるいは精神集中を増大させることを求める運動選手とは異なる用量を必要とする。栄養補助食品の適切な用量は、その補助食品の特定の用量に対する患者の反応、すなわち総体的な健康を観察することによって容易に判断することができる。補助食品の適切な用量とそれぞれの作用剤の適切な用量は、患者の反応、すなわちそれぞれの特定の投与量に対する総体的な健康を観察することによって、同様なやり方で容易に決定することができる。
【0029】
奇数鎖脂肪酸は、1つの投与形態又は投与形態の組み合わせで同時に又は連続して投与されてもよい。本発明の栄養補助食品は全体的な健康に即座に有益性をもたらす可能性があり、またさらにはもたらす可能性が高いが、そうした有益性が具体化するには数日、数週間、又は数ヶ月かかることもある。それでもなお、本発明の奇数鎖脂肪酸栄養補助食品はそれを摂取するほ乳類に有益な栄養反応をもたらす。
【0030】
本発明の奇数鎖脂肪酸は、経口、又は皮下、静脈内、腹腔内などの投与(例えば注射による)によって投与してもよい。活性化合物は投与経路によって、中性化、混和、少なくとも部分的若しくは全体的に水溶性、又はさらには物質で被覆して、塩基、酸、酵素、若しくはその有効性、体内摂取、代謝利用を妨げる恐れのあるその他の自然条件から奇数鎖脂肪酸を保護してもよい。
【0031】
治療化合物を非経口投与以外で投与する場合は、化合物を物質で被覆する、又は化合物を物質と同時投与してその不活性化を防ぐことが必要となることもある。例えば、治療化合物は、対象に乳化剤、リポソーム、又は希釈剤など適切な担体中で投与してもよい。薬剤的に許容される希釈剤には生理食塩水及び水性緩衝剤が含まれる。治療用奇数鎖脂肪酸は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、並びにその混合物中、及び油に分散されていてもよい。通常の保存と使用の条件下で、これらの調製物は微生物の成長を防ぐために防腐剤を含んでもよい。
【0032】
注射用途に適した本発明の奇数鎖脂肪酸を含有する薬学的組成物は、滅菌水溶液、分散液、及び滅菌の注射可能溶液又は、分散液を即時調製するための無菌粉末を含んでもよい。すべての場合において、組成物は滅菌されていなければならず、注射器で容易に採取できる程度まで流動性を有していなければならない。製造と貯蔵の条件下で安定していなければならず、細菌類と真菌類などの微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。
【0033】
奇数鎖脂肪酸は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、並びに液体ポリエチレングリコール等)、その適切な混合物、及び植物油などを含有する溶媒又は分散液中で担体を用いて供給してもよい。適切な流動性は、レシチンなどの被膜を用いることによって、分散液の場合は必要な粒子径を維持することによって、及び界面活性剤を用いることによって、維持することができる。微生物作用の予防は、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール、等様々な抗菌剤と抗真菌剤によって達成することができる。多くの場合、組成物中に砂糖、塩化ナトリウム、又はマンニトール及びソルビトールなどの多価アルコールなどの等張剤を含むことが望ましいであろう。組成物中に、モノステアリン酸アルミニウム又はゼラチンなど吸収を遅らせる作用剤を含むことで、注射可能組成物の持続的吸収をもたらすことができる。
【0034】
奇数鎖脂肪酸は、粒子が静脈内に入ったときに血管内を移動できるように十分に小さいことなど、大きさと構造に対する患者の要件に応じて、1又は2以上の制御された大きさと特性で1又は2以上の水溶性ポリマーを用いて提供してもよい。合成又は自然発生ポリマーのいずれかを用いてもよく、これに限定されないものの、用いることができるある種のポリマーは多糖類(デキストラン、フィコールなど)、タンパク質(ポリリジンなど)、ポリ(エチレングリコール)、又はポリ(メタクリレート)である。異なるポリマーは、その異なる大きさと形状のため、標的組織又は標的器官中の奇数鎖脂肪酸に対して異なる拡散特性を生じる。
【0035】
滅菌した注射可能溶液は、必要に応じて、上記に列挙した1又は2以上の成分の組み合わせを用いた適切な溶媒に、必要な量の治療化合物を組み込んだ後ろ過滅菌を行って調製することができる。一般に分散液は、治療化合物を滅菌した担体に組み込んで調製し、この担体は基本的な分散媒体と、上記に列挙した成分から必要とされる成分とを含んでいる。滅菌した注射可能溶液を調製する滅菌粉末の場合、調製方法には真空乾燥、噴霧凍結、凍結乾燥、等が含まれ、活性成分(すなわち治療化合物)と、すでに滅菌濾過されたその溶液からの所望の追加の成分を生成する。
【0036】
奇数鎖脂肪酸は、不活性希釈剤又は吸収可能な可食担体を用いて経口投与することができる。治療化合物とその他の成分は、硬質若しくは軟質外皮のゼラチンカプセルに封入、錠剤に圧縮、又は対象の食餌に直接組み込んでもよい。奇数鎖脂肪酸は、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ剤、オブラート剤、等の中に1又は2以上の賦形剤を用いて組み込んでもよい。組成物の奇数鎖脂肪酸の量と調製は、言うまでもなく、患者個人の年齢、体重、性別、状態、疾患、及び、言うまでもなく、治療過程によって異なってもよい。当分野の技術者に理解されるように、小児の投与量は成人の投与量と異なる可能性が高い。そのような治療に有用な組成物の治療化合物の量によって、適切な用量が得られる。
【0037】
本明細書で開示する奇数鎖脂肪酸を用いる投与単位は、単一化合物、又はアミノ酸、核酸、ビタミン、ミネラル、プロビタミン、等その他の化合物との混合物であってもよい。化合物は一緒に混合、イオン結合、さらには共有結合を形成してもよい。薬剤目的には、本発明の奇数鎖脂肪酸(例えばC5、C7、C9、C11、C13、及び/又はC15)はすべて、経口、静脈内(ボーラス投与又は点滴)、腹腔内、皮下、又は筋肉内用の形態で、薬剤分野の当業者に既知の剤形を用いて投与してもよい。本発明の奇数鎖脂肪酸は、特定の部位又は送達手段によって、錠剤、カプセル、丸薬、粉末、顆粒、エリキシル剤、チンキ剤、懸濁液、シロップ剤、及び乳濁液など異なる剤形を用いて、多糖曹積病、疲労、気力減退、衰弱等、多数の状態を含む治療を必要とする患者に提供してもよい。奇数鎖脂肪酸は、公知の塩形態のいずれか1つとして投与してもよい。
【0038】
奇数鎖脂肪酸の一日の合計量は患者の状態と必要性に応じて変わる。例えば、奇数鎖脂肪酸は即時、短期、中期、又は長期エネルギーの補助供給源として提供してもよく、即効性、遅効性、又は徐放性である製剤として提供してもよい。投与量は一日に消費するキロカロリーのパーセンテージとして、一日の合計カロリー摂取量のパーセンテージとして、決まった食餌、修正した食餌、又は徐々に変わる食餌の一部として、一日当たりのグラムで計量してもよい。例えば患者は、ケトン症に近づく、又は到達するために奇数鎖脂肪酸の量を「急増(spike)する」迅速な介入を必要とすることもある。その後これらの「ケトン産生」奇数鎖脂肪酸を、一日当たり合計カロリー摂取量の40%から始めて、続いて患者の状態、症状、臨床経過、及び/又は代謝条件が改善するにつれて徐々に減少させるなど、その他の副作用がもたらされないように変化させる。カロリー摂取量のパーセンテージの範囲は、約0.01、0.1、1、2、5、10、15、20、22、25、30、35、40の間、又はさらに高い割合で変化してもよく、1又は2以上の奇数鎖脂肪酸(例えばC5、C7、C9、C11、C13、及び/又はC15)(ドイツ・Sassol社などから入手可能)を含んでもよい。奇数鎖脂肪酸の効果及び/又は投薬を測定する1つの方法は、例えば生検と血液など、体固体と体液における検出可能な量をそれぞれ測定することである。例えば尿、涙、糞便、血液、汗、呼吸、等複数の発生源から、広範にわたる奇数鎖脂肪酸代謝物が検出されうる。
【0039】
奇数鎖脂肪酸の供給源としてC7などを用いる場合、これらはトリヘプタノインなどトリグリセリドの形態で供給することができる。有益な効果を提供するのに十分な濃度でトリグリセリドのトリヘプタノインを提供することが、本発明のこの態様で最も有用である。7炭素脂肪酸は次のように提供してもよい。
乳児 1〜4g/kg 35%キロカロリー
小児 3〜4g/kg 33〜37%キロカロリー
青年 1〜2g/kg 35%キロカロリー
成人 0.1〜2g/kg 35%キロカロリー
【0040】
乳児、小児、及び一部の青年について、4g/kg(標準体重(IBW)の範囲内)を用いて目標を設定した。青年について、2g/kg(IBWの範囲内)を用いて目標を設定した。成人について、2g/kg(IBWの範囲内)を用いて目標を設定したが、許容は1kg当たり1〜1.2g(予想される必要量の35%kcal)である。
【0041】
通常、奇数鎖脂肪酸は、意図する投与形態に基づいて、かつ従来の薬務と一致して選択される、適切な薬剤用の塩、緩衝剤、希釈剤、増量剤、賦形剤、及び/又は担体(本明細書では、まとめて薬剤的に許容される担体又は担体物質という)と混合して投与する。奇数鎖脂肪酸は、投与に最適な部位によって、経口、直腸、局所、静脈内注射、又は非経口投与の特定の形態について最大投与量及び/又は一貫した投与量などが提供されるように製剤化してもよい。奇数鎖脂肪酸は単独で又は他のものを混合せずに投与してもよく、薬剤的に許容される担体と混合した、安定した塩として提供してもよい。担体は、選択される投与の種類及び/又は部位によって、固体又は液体であってもよい。
【0042】
本発明を用いて有用な剤形を作成する技術と組成は、次の参照文献の1又は2以上に説明されている。すなわち、Ansel, Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms 2nd Edition (1976); Remington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed. (Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1985); Advances in Pharmaceutical Sciences (David Ganderton, Trevor Jones, Eds., 1992); Advances in Pharmaceutical Sciences Vol 7. (David Ganderton, Trevor Jones, James McGinity, Eds., 1995); Aqueous Polymeric Coatings for Pharmaceutical Dosage Forms (Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Series 36 (James McGinity, Ed., 1989); Pharmaceutical Particulate Carriers: Therapeutic Applications: Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Vol 61 (Alain Rolland, Ed., 1993); Drug Delivery to the Gastrointestinal Tract (Ellis Horwood Books in the Biological Sciences. Series in Pharmaceutical Technology; J. G. Hardy, S. S. Davis, Clive G. Wilson, Eds.); Modern Pharmaceutics Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Vol 40 (Gilbert S. Banker, Christopher T. Rhodes, Eds.)、及びその他同様なものであって、それぞれの関連部分が援用によって本明細書に引用されている。
【0043】
奇数鎖脂肪酸は、例えば荷電または非荷電の小単層小胞、大単層小胞、及び多層小胞など乳濁液及び/又はリポソームの形態で投与してもよい。リポソームは1又は2以上のリン脂質(例えばコレステロール)、ステアリルアミン及び/又はホスファチジルコリン、その混合物、等を含んでもよい。本発明と共に用いる乳化剤の例には、インウィトール370、インウィトール375、インウィトール377、インウィトール380、及びインウィトール829が含まれる。
【0044】
奇数鎖脂肪酸の小胞は、薬物担体若しくはプロドラッグとして1又は2以上の可溶性、生分解性、生体許容性のポリマーと結合してもよい。そのようなポリマーには、パルミトイル残基、その混合物、及びその他同様なもので置換した、ポリビニルピロリドン、ピラン共重合体、ポリヒドロキシルプロピルメタクリルアミド−フェノール、ポリヒドロキシエチルアスパルトアミドフェノール、又はポリエチレンオキシド−ポリリジンが含まれる。さらに小胞は、1又は2以上の生分解性ポリマーと結合して奇数鎖脂肪酸の制御放出を達成してもよい。本発明と共に用いる生分解性ポリマーには、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアシレート、並びにハイドロゲル、その混合物、及びその他同様のものの架橋共重合体若しくは両親媒性ブロック共重合体が含まれる。
【0045】
一実施態様では、奇数鎖脂肪酸は、ゼラチンカプセル(ジェルキャップ)にその天然状態で含まれてもよい。液体の剤形による経口投与のためには、経口薬成分が、乳化剤、希釈剤又は溶媒(エタノールなど)、グリセロール、水等のいずれかの経口、非毒性、薬剤的に許容される不活性担体と組み合わされてもよい。適切な液体剤形には、油剤若しくは水懸濁液、薬剤的に許容される油脂、アルコール、又はエステル、乳濁液、シロップ剤、若しくはエリキシル剤を含む有機溶剤、懸濁液、水溶液、及び/又は非発泡性顆粒から再構成された懸濁液、並びにさらには発泡性顆粒から再構成された調合液が含まれる。そうした液体剤形は、適切な溶剤、防腐剤、乳化剤、懸濁化剤、希釈剤、甘味料、増粘剤、並びに溶融助剤、その混合物等を含んでもよい。
【0046】
経口投与のための液体剤形には、患者の承諾、そしてそれによる投与計画の服薬順守を向上させるために着色剤と香味剤が含まれてもよい。概して、水、適切な油、生理食塩水、水性デキストロース(ブドウ糖、乳糖、並びに関連する糖溶液など)、及びグリコール(例えばプロピレングリコール又はポリエチレングリコール)を適切な非経口溶液に適した担体として用いてもよい。通常、非経口投与のための溶液には、活性成分の水溶性塩、適切な安定剤、及び必要であれば緩衝塩が含まれる。亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、及び/又はアスコルビン酸などの抗酸化剤は、単独で又は組み合わせで、適切な安定剤である。クエン酸とその塩、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)ナトリウムも、安定性を増大させるために含まれてもよい。加えて非経口溶液は、塩化ベンザルコニウム、メチル−若しくはプロピル−パラベン、及び/又はクロロブタノールなど薬剤的に許容される防腐剤を含んでもよい。適切な製剤的担体は、本分野の標準参照文献であるRemington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Companyの複数の版で説明されており、関連部分が援用によって本明細書に組み込まれている。
【0047】
奇数鎖脂肪酸は、鼻道、副鼻腔、口、喉、食道、気管、肺、及び肺胞への直接送達のために、適切な鼻腔媒体の使用を介する適切な経鼻投与の形態として送達してもよい。奇数鎖脂肪酸は、真皮及び経皮送達のために、当業者に既知であるように、ローション剤、乳剤、油、エリキシル剤、美容液(serum)、経皮吸収パッチ、等を用いて送達してもよい。非経口並びに静脈投与の形状には、注射の種類、又は緩衝等張液など選択された送達システムと調和するように、薬剤的に許容される塩及び/又はミネラル、及び他の物質が含まれてもよい。
【0048】
奇数鎖脂肪酸は、奇数鎖脂肪酸を乾燥した粉末又は形態に形成できうる範囲において、錠剤中に含まれてもよい。錠剤には通常、適切な結合剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、香味剤、流動誘導剤及び/又は溶融剤などが含まれる。例えば経口投与は、活性薬剤成分が、乳糖、ゼラチン、寒天、澱粉、ショ糖、ブドウ糖、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトール、その混合物、等の薬剤的に許容される非毒性不活性担体と結合した、錠剤、ジェルキャップ、カプセル型錠剤、又はカプセルの投与単位中にあってもよい。本発明と共に用いる適切な結合剤には、澱粉、ゼラチン、天然糖(例えば、ブドウ糖又はベータ−ラクトース)、コーン甘味料、天然並びに合成ガム(例えば、アカシア、トラガント、又はアルギン酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、蜜蝋、等が含まれる。本発明と共に用いる潤滑剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、その混合物、等が含まれる。崩壊剤には、澱粉、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム、その混合物、等が含まれる。
【0049】
カプセル。カプセルは、標準のツーピース式硬質ゼラチンカプセルにそれぞれ10〜500ミリグラムの粉末状活性成分、5〜150ミリグラムの乳糖、5〜50ミリグラムのセルロース、及び6ミリグラムのステアリン酸マグネシウムを充填して調製してもよい。
【0050】
軟質ゼラチンカプセル。奇数鎖脂肪酸は、ダイズ油、綿実油、又はオリーブ油など可消化性油に溶解してもよい。非消化性油を用いて、油から供給される合計カロリー摂取量をよりよく管理してもよい。活性成分は、ゼラチンに挿入した容積型移送式ポンプを用いて調製及び射出して、例えば100〜500ミリグラムの活性成分などを含む軟質ゼラチンカプセルを形成してもよい。カプセルは、洗浄して乾燥させる。
【0051】
錠剤。多数の錠剤は、投与単位は100〜500ミリグラムの活性成分、0.2ミリグラムのコロイド状二酸化ケイ素、5ミリグラムのステアリン酸マグネシウム、50〜275ミリグラムの結晶セルロース、11ミリグラムの澱粉、98.8ミリグラムの乳糖となるよう、従来の手順で調製された。適切なコーティングを適用して嗜好性を向上、又は吸収を遅延させてもよい。
【0052】
発泡錠を提供するには、適量のクエン酸一ナトリウムと炭酸水素ナトリウムなどを一緒に混合して、その後水の不在下でローラー圧縮して薄片を形成して、続いてその薄片を粉砕して顆粒にする。続いて顆粒を、活性成分、薬剤、及び/又はその塩、従来のビーディング(beading)剤若しくは充填剤、及び任意の甘味料、香味剤、並びに潤滑剤と混合する。
【0053】
注射可能溶液。注射による投与に適した非経口組成物は、十分な活性成分を脱イオン水中で撹拌して、例えば最大10容量%のプロピレングリコール、塩、及び/又は水などと混合して、濃縮形態若しくはすぐに使える形態の組成物を送達するように調製する。奇数鎖脂肪酸の性質(単独、一部又は完全に水溶性)によって奇数鎖脂肪酸の分量及び最終濃度は異なり、液体は注射器及び/又は標準静脈注射用液体若しくは流体を用いて静脈内に提供してもよい。溶液は通常、塩化ナトリウムを用いて等圧に作成して、限外濾過などを用いて滅菌する。
【0054】
懸濁液。水性懸濁液は経口投与のために調製され、それぞれ5mlが100mgの微細分割された活性成分、200mgのナトリウムカルボキシメチルセルロース、5mgの安息香酸ナトリウム、1.0gのソルビトール溶液(米国薬局方(U.S.P.))、及び0.025mlのバニリンを含有する。
【0055】
小錠剤。小錠剤については、活性成分を6〜12Kp.の範囲の硬度に圧縮する。最終錠剤の硬度は顆粒の調製に用いる線形ローラーの圧縮強度による影響を受け、顆粒は炭酸水素一ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムなどの粒子径による影響を受ける。より小さな粒径には、約15〜20KN/cmの線形ローラー圧縮強度を用いてもよい。
【0056】
キット。本発明は、術前、術中、又は術後などに代替細胞エネルギーの即時供給源を提供するためなどに有用な医薬キットも含んでいる。投与量は通常、1又は2以上の破壊される容器(例えば封入ガラスアンプル)、即時投与のために注射器で刺せる容器、又はさらには圧力容器など、滅菌してすぐに使えるように調製する。所望するならば、そのようなキットがさらに、薬剤的に許容される希釈剤、担体、追加容器など、従来の様々な医薬キットの1又は2以上の成分を含んでよいことは、当業者には明白であろう。投与する成分の量、投与についてのガイドライン、及び/又は成分を混合するガイドラインを示す、印刷された指示書を挿入物又はラベルのいずれかとしてキットに含めてもよい。当然のことながら、本発明を実施するに当たって特定された物質及び条件は重要であるものの、本発明を実現する有益性を妨げるものでない限りにおいて、特定されていない物質及び条件を除外するものではない。
【0057】
薬剤投与形態。本発明の奇数鎖脂肪酸は液体形態で提供してもよく、又はカプセル、ジェルキャップ、若しくはその他の封入した形態で提供してもよい。概して、本発明の一組成物は、例えばカオリン粘土又はその他の担体の半分を混合物に加えて、続いて、例えば水性乳濁液として、最終的な液体懸濁液中でより溶解性が少ない塩形態などの第一の活性塩形態を追加して調製する。この工程は、500、1,000、3,000、又はさらには5,000リットルなどきわめて大量の混合物について特に適する。
【0058】
本発明の奇数鎖脂肪酸を送達する1つの特定手段は、腸内送達のためにコーティングされた錠剤、カプセル、又はジェルキャップ中にあることである。腸溶コーティングは、薬用内容物、この場合は1又は2以上の奇数鎖脂肪酸(例えば、C5、C7、C9、C11、C13、及び/又はC15、混合物、及びその組み合わせ)を、腸内への送達に、胃を介して変化することなく送達するために、担体に適用する、担体と組み合わせる、担体と混合する、又は担体に追加する、薬剤的に許容される賦形剤の混合物に関する。コーティングは、圧縮若しくは成形、又は押出し錠剤、ゼラチンカプセル、及び/又は担体若しくは組成物の小丸剤、ビーズ、顆粒、粒子に適用してもよい。コーティングは水性分散液を通じて、又は適切な溶媒に溶解した後に適用してもよい。追加の添加物とその程度、及び主要の(1又は2以上の)コーティング剤の選択は、次の特性に依存する。すなわち、胃中での溶解及び分解に対する耐性、胃中にあるときの胃液及び薬剤/担体/酵素に対する不浸透性、標的腸部位で急速に溶解若しくは分解する能力、保管中の物理的及び化学的安定性、非毒性、コーティングとしての容易な適用性(基質に適する)、及び経済的実用性である。腸溶剤皮のための手段は、当分野で周知である。
【0059】
Remington's Pharmaceutical Sciencesは、通常、腸溶ポリマー担体が、分子にカルボキシル基と疎水基を含んでいること、かつ腸溶ポリマーが、特定のpH値を有する溶媒中で、カルボキシル基の解離を通じて溶解することを開示している。例えば、市販のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートはヒドロキシプロピルメチルセルロースの誘導体であって、カルボキシル基(サクシニル基)と疎水基(アセチル基)で置換される。アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、及びその他の天然物質も腸溶コーティングを形成するために用いてもよい。
【0060】
その後、その他の添加剤及び賦形剤を一部水溶性の担体活性奇数鎖脂肪酸混合物の製剤に追加してもよく、例えばポビドン(例えばポビドン30)、キサンタンガム(又はその他のガム)、及びソルビトールをカノリン粘土の混合物に追加することで、本発明の一つの製剤の一具体例が提供される。当業者には明らかであるように、一部が賦形剤溶解性である活性塩(例えば非水溶性又は一部水溶性)の実際の量は活性物の溶解特性に従って異なってもよく、水中などでの活性物の可溶性及び/又は溶解性に影響する補助剤の追加によってさらに変化してもよい。小児用製剤については、活性物の量は、小児用に承認される投与形態に従って減少してもよい。
【0061】
液体奇数鎖脂肪酸の薬学的組成物の一例は、次の成分を用いて経腸用又は非経口用に調製してもよい。
【0062】
成分 重量
奇数鎖脂肪酸/トリグリセリド 1.0kg
乳化剤(例えばインウィトール375) 100g
精製水(米国薬局方(UAP)) 2.0kg
【0063】
製剤はさらに次のものなどを含んでもよい。
グリセリン(USP) 500.0ml
ソルビトール溶液、70%(USP) 500.0ml
サッカリンナトリウム(USP) 10.0g
クエン酸(USP) 10.0g
安息香酸ナトリウム(国民医薬品集(NF)) 6.0g
コリドン30 330.0g
キサンタンガム200メッシュ 20.0g
バブルガム味 11.1g
メチルパラベン 1.0g
プロピルパラベン 100mg
プロピレングリコール(USP) 75ml
追加の脱イオン化蒸留水(ddH2O) 適量から5l
増量については上記を適宜増量する。
【0064】
ビーズなど担体上の包絡調製物中の混合溶出奇数鎖脂肪酸は、次の成分を用いて調製してもよい。
成分 重量
乳化奇数鎖脂肪酸/トリグリセリド 8.0mg
担体 51.7mg
ステアリン酸カルシウム 4.0mg
滑石 4.0mg
医薬用上薬 5.5mg
【0065】
奇数鎖脂肪酸(C5、C7、C9、C11、C13、及び/又はC15)を組み合わせる場合、これらは次のように製剤化してもよい。単一カプセルでの、包絡製剤中の第一活性物の徐放と第二活性物の徐放用のカプセル:
【表1】

【0066】
奇数鎖脂肪酸を組み合わせる場合、これらは次のように製剤化してもよい。単一カプセルでの、包絡製剤中の第一活性物の徐放と第二活性物の徐放用のカプセル:
【表2】

【0067】
単一ジェルキャップでの、包絡製剤中の第二活性物の奇数鎖脂肪酸の徐放用の処方:
【表3】

【0068】
座薬中の奇数鎖脂肪酸の直腸溶出用の製剤:
成分 重量
奇数鎖脂肪酸 100mg
担体 10mg
滑石 12.6mg
ステアリン酸カルシウム 12.6mg
蜜蝋/グリセロール 1〜2g
【0069】
奇数鎖脂肪酸(乳化剤を伴うもの、又は伴わないもの)を含む腸溶被覆軟質ゼラチンカプセルは、奇数鎖脂肪酸を親油性物質で被覆して顆粒を得て、得たその顆粒を、油性基質、抗酸化剤、及び防腐剤と混合して脂質懸濁液を形成して、その脂質懸濁液を軟質ゼラチン膜内で混合して、その軟質ゼラチン膜を被覆して腸溶性軟質ゼラチンカプセルを得る。
【0070】
奇数鎖脂肪酸、ステアリン酸、及びトリエタノールアミンを加熱及び混合して乳化流体を形成する。結果として生じる乳化流体をホモジナイザーによって十分に混合して、腸溶被覆された乳化懸濁液を得る。形成物の例には以下が含まれる。
成分 重量
奇数鎖脂肪酸 360.0g
ステアリン酸 78.6g
エタノールアミン 21.4g

成分 重量
奇数鎖脂肪酸 360.0g
ステアリン酸 30.0g
トリエタノールアミン 20.0g

成分 重量
奇数鎖脂肪酸 400.0g
ステアリン酸 77.0g
エタノールアミン 23.0g
セチルアルコール 50.0g

成分 重量
奇数鎖脂肪酸 245.0g
ステアリン酸 38.5g
エタノールアミン 11.5g
セチルアルコール 50.0g
カルボキシメチルセルロース 25.0g
【0071】
アルツハイマー病(AD) は多くの種類の認知症の中で最も多く見られるものであり、臨床的に重度の認知障害、記憶喪失、失名詞症、失行症、及び人格変化によって特徴付けられる。ADは、死体の解剖によってのみ決定することのできる2つの主要な神経病理学的変化によっても特徴付けられる。第一のものは拡散斑であり、アミロイド−ベータ(Aβ)と呼ぶペプチドの凝集体からなる(Glenner GG, Wong CW, Quaranta V, Eanes ED. The amyloid deposits in Alzheimer's disease: their nature and pathogenesis. Appl Pathol. 1984;2(6):357-69; Masters CL, Simms G, Weinman NA, Multhaup G, McDonald BL, Beyreuther K. Amyloid plaque core protein in Alzheimer disease and Down syndrome. Proc Natl Acad Sci USA. 1985;82(12):4245-9)。これらのアミロイド前駆体(AP)斑は特定の脳領域に見つかり、細胞外沈着物として産生する。第二のものは神経原線維のもつれを形成するタウタンパク質のリン酸化形態の凝集体であり、神経細胞内に蓄積する(Goedert M, Wischik CM, Crowther RA, Walker JE, Klug A. Cloning and sequencing of the cDNA encoding a core protein of the paired helical filament of Alzheimer disease: identification as the microtubule-associated protein tau. Proc Natl Acad Sci USA. 1988; 85(11):4051-5.; Grundke-Iqbal I, Iqbal K, Tung YC, Quinlan M, Wisniewski HM, Binder LI. Abnormal phosphorylation of the microtubule-associated protein tau (tau) in Alzheimer cytoskeletal pathology. Proc Natl Acad Sci USA. 1986;83(13):4913-7)。炎症反応及び酸化ストレスを含む、AD脳内のその他の変化が続いて発生することがあり、その複合的影響は重度の神経とシナプスの機能不全である。アミロイド・カスケード仮説がHardy及びHigginsによって1992年に初めて提唱され(Hardy JA, Higgins GA. Alzheimer's disease: the amyloid cascade hypothesis.Science.1992 Apr 10;256(5054): 184-5. Review)、ADと、タウの病状を含むその他の表現型変化の発症が引き起こされると仮定している。この仮説は家族性ADにおいてすべての突然変異がAP蓄積の増加を引き起こす結果になることを示す研究によって裏づけられている。散発性ADでは、原因不明のその他の根本的原因がその同じ事象のカスケードを引き起こす。すべてのADの症例で最大の割合(90〜95%)を占めるものは、晩期発症型かつ散発性である。
【0072】
高齢化する人口におけるADの有病率の統計は驚くべきものである。米国では72秒ごとに誰かがこの疾病を発症している。2007年には推定510万人のアメリカ人がADを発症した(Alzheimer's Report Facts and Figures, 2007)。この数値には、早期発症型ADを発症した、65歳以下の20万人が含まれる。ADを患っているアメリカ人の割合は次の通りである。すなわち、65〜74歳では2%、75〜84歳では19%、そして85歳以上では42%。さらなる驚きは、2050年にはADを患っている65歳以上の個人の数が1,100万〜1,600万人の範囲となる可能性があるという予測である。アルツハイマー病は65歳以上の人間の主な死因の第5位である。2000〜2004年にADによる死亡は32.8%増加し、その一方心臓疾患などその他の主な疾患による死亡は8%減少した(CDC, National Vital Statistics Reports)。これらの統計は、ADの病因に係わるリスク要因と生化学的機構について我々の知識を前進させた膨大な量の研究にもかかわらず、現在なお病態修飾療法が存在しないという理解である。せいぜい米国食品医薬品局(FDA)が承認した医薬品が、それらを服用する者のほぼ半数の症状の悪化を約6〜12ヶ月間一時的に遅らせるにすぎず、現行の療法は生活の質を改善することに向けられている。
【0073】
効果的治療を見つけるためには、病態生理学的カスケードの開始因子の特定がきわめて重要である。Aβの沈着の増大、タウのリン酸化、酸化ストレス、金属イオン調節不全、及び炎症を含む複数の理論が提唱されている。これらの様相がADに関連しており、ほぼ確実にADに関与している事実にもかかわらず、これらのいずれの理論もこの疾病の広範にわたる異常性を説明することはできない。しかし、ミトコンドリアエネルギー代謝の調節不全が、周知の主な神経病理学的事象の開始要因である可能性がある。ヒトの脳は体内でもっとも代謝的に活発な臓器の1つである。脳はそのエネルギーをブドウ糖からアデノシン三リン酸(ATP)の形態で得るが、そのために循環からの摂取に大きく依存している。脳に蓄えられているグリコーゲンはごく少量であり、これは、ほぼ5分間の通常機能に十分なブドウ糖を供給する量でしかないと推定されている(Clarke DO, Sokoloff L. Circulation and energy metabolism of the brain. In: Siegel GJ, AgranoffBW, Albers RW, MolinoffPB, eds. Basic neurochemistrt. New York: Raven Press, 1994: 645-680)。再現性かつ一貫性のある知見は、脳代謝率(CMRglc)がAD脳で17〜24%減少することである(Buckner RL, Andrews-Hanna JR, Schacter DL. The brain's default network: anatomy, function, and relevance to disease. Ann NY Acad Sci. 2008;1124:1-38. Review)。さらに、低CMRglcが領域特異的であり、認知スコアと相関することが示されている。低CMRglcが大量のAβが産生されるかなり以前に疾患の初期に表れることは周知である。これが、エネルギー代謝の不足が、Aβによって開始される事象のカスケードに先行するという推測を導いた。興味深いことに、細胞培養モデルにおけるエネルギー産生阻害が、Aβを形成することのできるアミロイド前駆体タンパク質(APP)を80倍に増大させるという結果をもたらした(Gabuzda 0, Busciglio J, Chen LB, Matsudaira P, Yankner BA. Inhibition of energy metabolism alters the processing of amyloid precursor protein and induces a potentially amyloidogenic derivative. J BioI Chern. 1994;269( 18): 13623-8)。エネルギー欠乏は、インシュリンと2−デオキシグルコースで処理した野生型マウスで誘導されて、この結果、Aβ形成の律速段階である13−セクレターゼ(BACE)の活動性が増大した(Velliquette RA, O'Connor T, Vassar R. Energy inhibition elevates beta-secretase levels and activity and is potentially amyloidogenic in APP transgenic mice: possible early events in Alzheimer's disease pathogenesis. J Neurosci. 2005;25(47):10874-83)。この効果は7日間持続して、その結果Aβレベルが2倍増大した。ADにおいては、脳のエネルギー欠乏の原因は不明である。
【0074】
特に興味深いのは、トランスジェニックモデルマウスでAβとリン酸化タウタンパク質の増加を導く遺伝子の突然変異が、シナプス機能不全とアポトーシス細胞死を導くミトコンドリア機能不全に関連しており、二次的エネルギー欠乏が原因であることを示唆する最近の実証である。ミトコンドリアの機能不全には、ミトコンドリアの酸化的リン酸化(複合体I、III、及びIV)の障害、及びシトクロムcオキシダーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDF)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、並びにa−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(aKGDH)の活性の減少が含まれ、すべてATPレベルの減少に関連している。このエネルギー代謝への弊害は、ベータ−セクレターゼの作用によって産生するアミロイド−β 1−42フラグメントに暴露されたニューロン培養の多数の研究で実証されている。ニューロン中のミトコンドリアエネルギー論に対する弊害は、明らかに疾患の進行に関連するシナプス機能不全と細胞死を導くであろう。
【0075】
要約すれば、初期のエネルギー欠乏がアミロイドのカスケードを開始させて、Aβとリン酸化タウタンパク質の沈着を導きうる。今度はこれらのタンパク質が、エネルギー代謝に関与する酵素を阻害して、ニューロンに有害であり、ADの病態生理の一因となり得るエネルギー欠乏を引き起こしうる。エネルギー代謝を改善することがAD患者にとって大きな利点でありうる。
【0076】
ケトン産生食の使用:ケトン産生食は、脳にエネルギーを供給する代替供給源として用いられてきた。体に高脂肪、適切なタンパク質、及び低炭水化物の食餌を供給することは飢餓の特徴を再現して、体に炭水化物よりも脂肪を燃焼することを強いる。この結果、循環ケトン体(KB)が増加して、脳に取り入れられる。この結果、循環ケトン体 (KB:ベータ−ヒドロキシ酪酸 [BHB] とアセトアセテート [AcAc])が増加して、クエン酸回路を介するエネルギー代謝と、呼吸鎖を介する、その後のATP産生のために脳に取り入れられる。ケトン産生食はさまざまな神経疾患の治療に用いられてきた。ケトン産生食はADに対する潜在治療でもあり、1つのADのトランスジェニックモデル動物で用いられた。Van der Auwera et al. (Van der Auwera I, Wera S, Van Leuven F, Henderson ST. A ketogenic diet reduces amyloid beta 40 and 42 in a mouse model of Alzheimer's disease. Nutr Metab (Lond). 2005;2:28)は、APPとAβを過剰発現するマウスをケトン産生食を用いて43日間治療した。これらのマウスは早くも3ヶ月で脳にAβの沈着物を産生させて、12〜14ヶ月までに広範にわたる沈着物を蓄積させた。ケトン産生食は、血清BHBの実質的な増加と、脳中のAβレベルの25%の著しい減少とをもたらした。これらの有望な前臨床結果研究にもかかわらず、ADにおけるケトン産生食の研究は不足している。わずか1つの研究のみがADであると推定される対象に対する中鎖トリグリセリド(MCT)の使用について公表されている(Reger MA, Henderson ST, Hale C, Cholerton B, Baker LD, Watson OS, Hyde K, Chapman D, Craft S. Effects of beta-hydroxybutyrate on cognition in memoryimpaired adults. Neurobiol Aging. 2004;25(3):311-4)。20名のAD対象に40gのMCTの単一投与を与えた結果、90分後に認知(ADAS−cog)スコアに著しい改善と血清BHB濃度の10倍の増加がもたらされた(Reger MA, Henderson ST, Hale C, Cholerton B, Baker LD, Watson OS, Hyde K, Chapman D, Craft S. Effects of beta-hydroxybutyrate on cognition in memoryimpaired adults. Neurobiol Aging. 2004;25(3):311-4)。発明者らは達成可能なレベルのケトン症がAD患者に有益でありうると結論づけている。
【0077】
脳にエネルギー源を供給する代替かつより効率的な手段は、本明細書に開示しているようにトリヘプタノン(C7TG)を用いて補充することである。このトリグリセリドが経腸的に与えられると、最初に1モルのグリセロールと3モルのヘプタン酸(C7)に転換されて、これらが門脈循環を介して肝臓に送達される。ヘプタン酸がミトコンドリアに入り、ここでC7がC5−CoA(ペンタノイル−CoA)、続いて3−ケト−ペンタノイル−CoA(BKP−CoA)に転換される。続いて開裂を介してBKP−CoAがさらにアセチル−CoAとプロピオニル−CoAに代謝されて、それによってCACが肝臓に直接供給されるが、BKP−CoAもHMG経路に入ってC5−ケトン体 (3−ヒドロキシペンタ酸と3−ケトペンタン酸) を産生して、これらが脳を含むその他の臓器系に送り出されて、ここで再びプロピオニル−及びアセチル−CoAに転換されてCACに必要な基質を提供して(Kinman RP, Kasumov T, Jobbins KA, Thomas KR, Adams JE, Brunengraber LN, Kutz 0, Parenteral and enteral metabolism of anaplerotic triheptanoin in normal rats. Brewer WU, Roe CR, Brunengraber H. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2006;291(4):)、ATPの産生を増強させる。C7−TGは、脂肪とグリコーゲン代謝の遺伝性疾患、及びピルビン酸カルボキシラーゼ欠損を持つ患者の治療に用いられて成功を収めており、脳と、筋肉や心臓など周辺臓器のエネルギー代謝の間接手段に関して好ましい効果を示している(Roe CR, Mochel F. Anaplerotic diet therapy in inherited metabolic disease: therapeutic potential.J Inherit Metab Dis. 2006;29(2-3):332-40. Review; Roe, C.R., Sweetman, L., Roe, D.S., David, F., Brunengraber, H.Effective Dietary Treatment of Cardiomyopathy & Rhabdomyolysis in Long-Chain Fat Oxidation Disorders using an Anaplerotic Odd-Chain Triglyceride. J. Clin. Invest. 110 (2): 259-269, 2002)。ADにおけるエネルギー欠乏の早期是正が病態修飾療法で成功を収める鍵である。Aβによって引き起こされる事象のカスケードを予防するために早期介入がきわめて重要なことは明らかである。ひとたびアミロイド形成斑が蓄積してリン酸化タウが脳組織内で神経原線維のもつれに発展すると、ニューロンとシナプスに不可逆的損傷が生じる。AD発症前の段階でエネルギー代謝を増大することで本格的な病態の発症を予防できる可能性がある。
【0078】
食餌性トリヘプタノインの事前有益性及び作用機序:現在C7−TGの有益性は動物とヒトとの両方の臨床試験結果として理解されている。治療仮説は、これらの遺伝性疾患を持つ対象のクエン酸回路(CAC)に燃料を適切に供給することができないためにエネルギー代謝に重度な弊害がもたらされるという可能性に基づいている。ATP産生のために呼吸鎖に連結されているCACが効果的に機能するには、アセチル−CoAと共に適切なオキザロ酢酸があることがクエン酸シンターゼ反応のために必要である。ブドウ糖と中鎖脂肪酸(C8とC10)はアセチル−CoAのみしか供給できないため、C7−TGの効果は、ミトコンドリア内で産生されて、CACに燃料を供給するために必要な基質を提供するアセチル−CoAとオキザロ酢酸(プロピオニル−CoA成分に由来)の両方の優れた供給源である。経腸的に与えられると、C7−TGに由来するヘプタン酸(C7)はほぼ完全に肝臓に取り入れられる。C7はミトコンドリアに入るためにカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT I)、カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ、又はカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(CPT II)を必要としない。ヘプタン酸は中鎖アシル−CoAシンテターゼによってヘプタノイル−CoAに活性化されるように見える。β−酸化の一回路後、アセチル−CoAとペンタノイル−CoAが産生される。後者は続いてβ−ケトペンタノイル−CoAに酸化されて、チオール開裂を経て別のアセチル−CoA部分とプロピオニル−CoAを産生する。産生された2つのアセチル−CoAはアセトアセチル−CoAに転換することができる。アセトアセチル−CoAとβ−ケトペンタノイル−CoAは共に、HMG−CoA経路を介して進んで、4個の炭素(アセトアセテートとβ−ヒドロキシ酪酸)と5個の炭素(β−ケトペンタン酸[BHP]とβ−ヒドロキシペンタン酸[BHP])の両方を含むケトン体を形成する。両方のケトン体は、肝臓から送り出されると、脳を含むすべての周辺臓器に取り込まれる。アセトアセテート及びベータ−ヒドロキシ酪酸と同様に、ケトンは他の臓器のミトコンドリア中の酵素を利用してBKPとBHPを共にCoAチオエステルに活性化する。BHP−CoAは、アセチル−CoAとプロピオニル−CoAの両方に開裂するBKP−CoAに転換される。プロピオニル−CoAはスクシニル−CoAのレベルでCACに入ってオキザロ酢酸に転換される。続いてアセチル−CoAとオキザロ酢酸は共にCACのクエン酸シンターゼ反応に利用できるようになる。結果は、エネルギー欠損を是正する可能性がある、呼吸鎖を介するATP形成の増大である。これが、必要とされる基質を提供することによってCACに燃料を直接供給する「補充」療法の基礎である。
【0079】
鬱血性心不全、肥大性心筋症、並びに拡張型心筋症、肝不全、及び再発性横紋筋融解症、並びに低血糖症に関連する障害に対する効用に加えて、急速かつ用量依存的反応が複数の中枢神経系(CNS)欠損で観察されてきた。これらには、他の設定では「自閉症」と、アルツハイマー病に類似する認知症に分類されるであろう設定とが含まれている。次第に名前を思い出せなくなる、読むことに集中する能力を失う、言うことが「わかっている」が言葉が出てこない、そしてほんの5分前に言ったばかりであることがわからずに会話を繰り返すことは、早期発症型アルツハイマー病に関連するすべての認知障害である。C7−TGとその他の奇数鎖脂肪酸化合物は、本明細書で説明しているように、老化による代謝作用を補うため又は遅らせるために老年認知症及び早期アルツハイマー病を持つ加齢対象の治療に用いられうる。
【0080】
トリペンタノイン(グリセリル−トリペンタノアート−CSTG)を用いる論理的根拠:前述のように、ペンタノイル−CoAはC7−TGに由来するヘプタン酸の肝臓酸化の中間物である。ペンタノイル−CoAのさらなる代謝は、ヘプタン酸のそれと同一であるが、肝臓エネルギー生成のためのアセチル−CoAとプロピオニル−CoA、及び他の臓器系に送り出すための5炭素ケトン体(BKPとBHP)を提供するという同一の最終結果を達成するために必要なステップは少ない。ヘプタン酸は2モルのアセチル−CoAと1モルのプロピオニル−CoAを提供するが、ペンタノアートはそれぞれを1モルずつのみを提供する。これは、4炭素ケトン体(BHBとAcAc)の産生を減少させて、その一方で5炭素ケトン体(BKPとBHP)の産生を助ける。これは、BKPとBHPの利用についての競合を排除して、それによりペンタノアートからより効果的な補充反応を提供する。マウス脳中での、プロピオニル−CoA前駆体の注入に続く、ペンタノアートにより増強された補充反応(CACの刺激作用及びエネルギー生成)が、ヘプタノン酸、BKP、又はプロピオナートより優れていることは明らかに実証されている(Xiao Wang, Guofang Zhang, Michelle A. Puchowicz ,Takhar Kasumov, Frederick Allen Jr, Adam J. Rubin, Ming Lu, Xin Yu , Charles R. Roe, and Henri Brunengraber: Fatty acid oxidation and anaplerosis from (Intravenous) propionylCoA precursors in normal and the very-long-chain acyl-CoA dehydrogenase deficient mouse brain. J. BioI. Chern. In Press 2009)。前述の理由により、本発明は経腸的トリペンタノンを用いて、これらのモデルマウスの脳に最適補充反応を提供する。
【0081】
AbPPの分解を非アミロイド産生経路からアミロイド産生経路に移して、おそらくα−とβ−セクレターゼ複合体の活性の変異若しくは改変に関連する、後期発症変性が存在する。これは、エネルギー代謝におけるミトコンドリア機能に対するβ−アミロイドの潜在性影響に関連する可能性もある。以前に実証されたアルツハイマー病におけるミトコンドリア機能不全は、ATP欠損とミトコンドリア内酸化還元改変を引き起こしてシナプス機能不全と細胞死を導く可能性のある、CACのための基質の欠損と関連しうる。以前の研究がAbPP分解の同じ問題(血小板など)と、周辺臓器も同じβアミロイドの蓄積を有する可能性を示しているため、βアミロイドも周辺臓器代謝から脳に移動して細胞内に組み込まれて、そこでミトコンドリア機能に影響を及ぼして神経細胞死をもたらすという証拠が増大している。トリペンタノイン(C5−TG)は、肝臓酸化を介して十分な「S−炭素ケトン」体を産生して、脳に適切な基質を提供してこの疾病のエネルギー欠損を補える。「周辺」臓器とCNSの両方を治療することが、アルツハイマー病と、脳中でエネルギー生成が障害された結果であり得るその他の老齢発症認知症の状態に関与するニューロンに対する、βアミロイド又はその産生の増強の作用を軽減するのに重要なように見える。「ケトン産生」食療法の新規のバリエーション、すなわちクエン酸回路にアセチル−CoAとプロピオニル−CoAの両方を燃料として直接供給すること。望ましい結果は、酸化還元異常が正常化される、PDH、mICDH、及びKGDHが正常に機能する、そしてATP産生が増強されることであろう。本開示は、AD脳で発生する神経病理学的変化の一部を要約するトランスジェニックモデル動物におけるC5TGの効果を研究することを対象とする研究の概略を説明する。
【0082】
本開示は、以下を対象とする研究を説明する。すなわち、(i)変異ヒトAPPとプレセニリンを過剰発現する二重トランスジェニックマウスにおける認知機能、自発運動、及びオープンフィールド行動に対するC5−TGの効果を測定すること、(ii)APを含む、その他の要因不在下で微小管関連リン酸化タウ(MAPT)を過剰発現するトランスジェニックマウスにおける認知機能、自発運動、及びオープンフィールド行動に対するC5−TGの効果を測定すること、(iii)C57BL16の月齢22ヶ月のマウスにおける認知機能、自発運動、及びオープンフィールド行動におけるC5−TGの効果を測定すること、及び (iv) C5−TGで治療されているADモデルマウスと老齢モデルマウスにおける神経化学的及び代謝的変化を評価すること。局部脳組織の定量分析には、APフラグメント1−40及び1−42、リン酸化タウ、高エネルギーリン酸化合物(AMP/ADP/ATP)、アセチルコリン(Ach)、ドーパミン(DA)、セロトニン(5HT)、γ−ヒドロキシ酪酸(GABA)、及びアミノ酸完全解析が含まれる。血漿アミノ酸、アクリル−カルニチン、及び尿有機酸も測定する。
【0083】
モデルマウスの論理的根拠:C5−TGの有効性をトランスジェニックADモデル2体と老齢モデルマウス1体で試験した。モデル1(図1)では、APPとAPを過剰発現するマウスは月齢6ヶ月で歴然としており、月齢12ヶ月で広範な沈着がある。認知障害もまた早くにも月齢6ヶ月で歴然としており、年齢と共にさらに顕著になる。モデル2(図2)では、APを含む、その他の要因の不在下で微小管関連リン酸化タウ(MAPT)を過剰発現するトランスジェニックマウスを研究した。この病原性タウは、細胞体と、ニューロンの樹状突起に時空関連的分布で蓄積する。モデル3(図3)では、老齢マウスを研究する。老齢マウスは、Baylor Institute of Metabolic Diseaseで事前に特性が明らかにされていた。モリス水迷路試験により、月齢22ヶ月で、同一系統の月齢3ヶ月のマウスと比べて顕著な自発運動と認知機能の減少が評価されている。このモデルを用いて、年齢関連の認知低下に対するC5−TGの効果を調べた。これは、ヒトでは、約40%の患者がADに進行する軽度認知障害(MCI)に相当する。これらのモデルとその使用を以下に詳細に説明する。
【0084】
モデル1:ADトランスジェニックマウス:Jackson Laboratories (ストック番号004462)、系統名: B6C3−Tg(APPswe,PSEN1dE9)85Dbo/J、二重トランスジェニックマウスがキメラ性マウス/ヒト・アミロイド前駆体タンパク質(Mo/HuAPP695swe)と変異ヒト・プレセニリン1(PS 1−dE9)を共にCNSニュートロンを対象として発現する。両方の変異は早期発症型アルツハイマー病に関連している。「ヒト化」Mo/HuAPP695swe導入遺伝子により、マウスはヒトA−βペプチドを分泌することができる。トランスジェニックペプチドとホロタンパク質は共に、この領域内でヒト分泌に特異的な抗体によって検出することができる(Signet Laboratoriesの単一クローン性抗6E10抗体)。含まれているスウェーデン変異(K595N/M596L)が、β―セクレターゼ経路を通じた過程を助けることにより、導入遺伝子から産生されるA−βの量が上昇する。この「ヒト化」Mo/HuAPP695sweタンパク質は全脳タンパク質ホモジネートで免疫検出される。トランスジェニック変異ヒト・プレセニリンタンパク質(PS1−dE9)は、高レベルで検出可能な内因性マウスタンパク質を置換するが、これもまた全脳タンパク質ホモジネートで免疫検出される。これらのトランスジェニックマウスは、月齢6〜7ヶ月までにβ−アミロイド沈着物を脳内に蓄積させて認知機能に障害を発生させる。これらのマウスは、脳の神経疾患、特にアルツハイマー病、アミロイド斑の形成、及び加齢の研究に有益でありうる。
【0085】
モデル2:ADトランスジェニックマウス: Jackson Laboratories(ストック番号:05491)、 系統名: B6.Cg_Maplml(EGFP)Klt Tg(MAPT)8cPdav/J。標的対立遺伝子についてホモ接合性であって導入遺伝子について半接合性であるマウスは、生存能力及び繁殖力がある。内因性マウスMAPTはまったく検出されないものの、ヒトMAPTの6種のすべてのアイソフォーム(3Rと4Rの両形態を含む)を発現する。月齢3ヶ月までに、過剰リン酸化MAPTが細胞体と樹状突起内で検出される。凝集した不溶性MAPTの対らせん状フィラメントは早くも月齢2ヶ月に脳組織から単離することができる。これらの変異マウスは、ヒトMAPTとアルツハイマー病の発症原因との関係を調べる研究に有用でありうる。
【0086】
モデル3:老齢マウス:NIH/NIA(Charles River Labsにて育成)、系統: C57BL16 National Institute on Aging(NIA)は、加齢と加齢関連疾患に直接関係する科学界の研究のために老齢ラットと老齢マウスのコロニーを育成している。動物は特定病原体不在バリヤー内で飼育されて、遺伝的純度と健康状態をモニタされて、動物のそれぞれの出荷には健康診断書が添付される。同一系統の月齢3ヶ月のマウスと比べて、月齢22ヶ月で自発運動と認知機能に顕著な減少があることがロータロッド試験とモリス水迷路試験によって評価されている。
【0087】
研究デザイン:マウスは、Baylor Institute of Metabolic Diseaseの動物施設で飼育されている。C5−TGを含む試験飼料と対照飼料を標準カゼイン精製飼料(Harland Teklad社, MN)から特別調製する。試験飼料では合計カロリー要求量の41%がC5−TGによって供給される。モデル1と2(Tg AD)(図1及び図2)では、マウスは週齢4週目からその飼料に曝露されて、6、12、又は15ヶ月の期間継続された。行動、神経化学的、及び代謝試験のために、3ヶ月間隔で動物の別個のグループが必要となる。研究の目的は、いかなる神経病理学的変化も発生する以前にC5−TGを用いた治療をマウスで開始して、認知機能を評価することであった。別の一連の研究では、マウスは月齢6ヶ月又は12ヶ月のいずれかでC5−TG試験飼料に曝露された。マウスは月齢18ヶ月まで3ヶ月間隔で評価された。この研究の目的は、脳内に神経学的変化が確定されてから、疾病の進行に対するC5−TGの作用を判断することである。
【0088】
モデル3(図3)で、マウスは月齢12ヶ月でC5−TG食と対照飼料に曝露されて、月齢18ヶ月と24ヶ月で行動及び神経化学的変化について評価された。この研究の目的は、異常発現したAPやリン酸化タウタンパク質の不在下における年齢関連の認知低下に対するC5−TGの作用を測定することである。
【0089】
行動的手法:次の行動的手法が、Baylor Institute of Metabolic Diseaseの神経薬理学研究所で確立されて実証された。
1.時空間的記憶機能についてのモリス水迷路試験。
2.運動協調性についてのロータロッド試験。
3.光束で作動する場所における探査行動、自発運動、及び不安を評価するオープンフィールド行動試験。
4.後肢の握力試験。
【0090】
神経化学的手法:次の神経化学的手法が、神経薬理学研究所で確立されて実証された。
1.ELISA試験キットを用いて、脳ホモジネート中のアミロイドβのフラグメント1−40と1−42を測定した。
2.ELISA試験キットを用いて、脳ホモジネート中のリン酸タウタンパク質を測定する。
3.局部脳組織中のAMP/ADP/ATPの測定を、紫外線検出を用いる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。酵素を不活性化させて死後変化を防ぐために、マウスをマイクロウェーブ固定により屠殺することを要した。
4.局部脳組織中の脳アセチルコリン(Ach)の測定を、電気化学検出を用いるHPLCによって測定した。酵素を不活性化させて死後変化を防ぐために、マウスをマイクロウェーブ固定により屠殺することを要した。
5.脳内ドーパミン、セロトニン、及びノルエピネフリン局部脳組織を、電気化学検出を用いるHPLCによって測定した。
6.血漿及び脳組織の完全定量的アミノ酸プロファイリングを、紫外線検出を用いるHPLCによって実施した。GABA及びその他の興奮性及び阻害性アミノ酸を脳組織で測定した。
7.尿有機酸と血液アシル−カルニチンをガスクロマトグラフ質量分析によって測定した。
【0091】
本明細書で説明したいずれの実施形態も、本発明のいかなる手段、キット、試薬、又は組成物に関して実施できることが予測され、その逆もまたしかりである。さらに、本発明の方法を達成するために、本発明の組成物を用いることができる。
【0092】
本明細書で説明した具体的な実施形態は例示のために示されており、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されよう。本発明の主たる特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく様々な実施形態に用いられうる。当業者は通常の実験を用いることで、本明細書で説明した具体的な手順について多数の同等物を認識、又は確認することができよう。そうした同等物は本発明の範囲内にあると考慮され、請求項によって網羅される。
【0093】
明細書で言及するすべての刊行物及び特許出願は、本発明が属する当業者の技術レベルを示すものである。すべての刊行物及び特許出願は、あたかもそれら個々の刊行物又は特許出願が個々に具体的に援用により組み込まれているものとして示されたと同程度に、援用により本明細書に組み込まれている。
【0094】
「a」又は「an」という用語は、請求項及び/又は明細書で「comprising(を含む)」という用語と併せて用いるとき、「1つの」を意味しうるが、「1又は複数の」、「少なくとも1つの」、及び「1又は2以上の」の意味とも矛盾するものではない。請求項で「or」という用語を用いるとき、選択肢のみに言及する、又は選択肢が互いに排他的であることが明示的に示されない限り、「及び/又は」を意味するが、本開示は選択肢のみ、及び「及び/又は」に言及する定義を支持する。本明細書全体を通じて、「about」という用語を用いるとき、数値が装置、数値を測定するために用いた手段に固有の誤差、又は研究の対象間に存在する変化を含むことを示す。
【0095】
本明細書及び請求項で用いるとおり、「comprising(を含む)」(及び「comprise」と「comprises」など「comprising」のすべての形態)、「having(を有する)」(及び「have」と「has」など「having」のすべての形態)、「including(を含有する)」(及び「includes」と「include」など「including」のすべての形態)、又は「containing(を含む)」(及び「contains」と「contain」など「contain」のすべての形態)は、包括的である、又は制約がなく、言及されないさらなる要素若しくは手法段階を除外するものではない。
【0096】
本明細書で「or combinations thereof(又はその組合せ)」という用語を用いるとき、この用語に先立って挙げられた項目のすべての順列と組み合わせに言及する。例えば、「A,B,C,or combinations thereof(A、B、C又はその組合せ)」は、A、B、C、AB、AC、BC、又はABC、そしてある特定の内容において順序が重要であれば、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC、若しくはCABの少なくとも1つを含むことを意図する。この例に続いて、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABB、及びその他など、1又は2以上の項目又は用語の繰り返しを含む組み合わせを明示的に含んでいる。当業者は、内容からそれが明白でない限り、いかなる組み合わせにおいても項目又は用語の数には通常制約がないことを理解しよう。
【0097】
本明細書で開示して請求するすべての組成物及び/又は手段は、本開示に照らして過度の実験を行わずに作成して実施できうる。本発明の組成物及び手段を好ましい実施形態の観点から説明してきたが、本発明の概念、精神、及び範囲から逸脱することなく、組成物及び/又は手段、並びに本明細書で説明した手段の段階若しくは段階の順番に変更を加え得ることは、当業者には明白であろう。当業者に明白なそうしたすべての同様な代替物及び改変は、添付の請求項によって定義される本発明の精神、範囲、及び概念の範囲内にあると見なされる。
【0098】
(参考文献)
米国特許番号第6,335,361号: Method of treating benign forgetfulness.
【0099】
米国特許出願番号第20080287372号: Use of Ketogenic Compounds for Treatment of Age-Associated Memory Impairment.
【0100】
米国特許出願番号第20090253781号: Therapeutic compositions.
【0101】
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【0112】
12. Kinman RP, Kasumov T, Jobbins KA, Thomas KR, Adams JE, Brunengraber LN, Kutz 0, Parenteral and enteral metabolism of anaplerotic triheptanoin in normal rats. Brewer WU, Roe CR, Brunengraber H. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2006;291(4):
【0113】
13. Roe CR, Mochel F. Anaplerotic diet therapy in inherited metabolic disease: therapeutic potential.J Inherit Metab Dis. 2006;29(2-3):332-40. Review.
【0114】
14. Roe, C.R., Sweetman, L., Roe, D.S., David, F., Brunengraber, H.Effective Dietary Treatment of Cardiomyopathy & Rhabdomyolysis in Long-Chain Fat Oxidation Disorders using an Anaplerotic Odd-Chain Triglyceride. J. Clin. Invest. 110 (2): 259-269, 2002.
【0115】
15. Xiao Wang, Guofang Zhang, Michelle A. Puchowicz ,Takhar Kasumov, Frederick Allen Jr, Adam J. Rubin, Ming Lu, Xin Yu , Charles R. Roe, and Henri Brunengraber: Fatty acid oxidation and anaplerosis from (Intravenous) propionylCoA precursors in normal and the very-long-chain acyl-CoA dehydrogenase deficient mouse brain. J. BioI. Chern. In Press 2009.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経疾患又は神経変性疾患に対する治療を必要とする成人患者を特定するステップと、
前記成人患者に生理学的に効果的な量の製剤を投与するステップとを含み、前記製剤が一般式:
【化1】

を有する1又は2以上の奇数鎖トリグリセリド(式中R、R、及びRはグリセロール基本骨格にエステル化しており、それぞれが独立して5〜15個の炭素原子を有する奇数炭素鎖を含む脂肪酸である)と、香味剤、ビタミン、ミネラル補給剤、タンパク質補給剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される1又は2以上の任意の添加物とを含む、前記神経疾患又は神経変性疾患に対する治療を必要とする前記成人患者を治療する方法。
【請求項2】
、R、及びR炭素鎖が、ペンタノイン、ペンタノイルカルニチン、n−ペンタデカン酸、5炭素脂肪酸前駆体、及びその誘導体から選択される5炭素長である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
、R、及びR炭素鎖が7炭素長である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
奇数鎖トリグリセリドがトリヘプタノインである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
神経変性疾患がアルツハイマー病(AD)又は加齢である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アルツハイマー病(AD)に対する治療を必要とする成人患者を特定するステップと、前記患者にADの症状を治療又は軽減するために十分な量でトリヘプタノインの製剤を経腸的又は非経口的に投与するステップとを含む、ADを患っている前記成人患者を治療する方法。
【請求項7】
製剤が、香味剤、ビタミン、ミネラル補給剤、タンパク質補給剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される、1又は2以上の任意の添加物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
組成物を投与すると、ヒト対象の血液中の1又は2以上の循環ケトン体のレベルが上昇する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
高脂質低炭水化物食をヒト対象に提供する食餌組成物であって、一般式:
【化2】

を有する1又は2以上の奇数鎖トリグリセリド(式中R、R、及びRはグリセロール基本骨格にエステル化しており、それぞれが独立して5〜15個の炭素原子を有する奇数炭素鎖を含む脂肪酸である)と、香味料、ビタミン、ミネラル補給剤、タンパク質補給剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される1又は2以上の任意の添加物とを含む、食餌組成物。
【請求項10】
、R、及びR炭素鎖が、ペンタノイン、ペンタノイルカルニチン、n−ペンタデカン酸、5炭素脂肪酸前駆体、及びその誘導体から選択される5炭素長である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
、R、及びR炭素鎖が7炭素長である、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
奇数鎖脂肪酸がトリヘプタノインである、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
ヒト対象が、健康なヒト対象、又はアルツハイマー病(AD)、老年認知症、血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、及び加齢からなる群から選択される1又は2以上の神経学的状態を患っているヒト対象である、請求項9に記載の組成物。
【請求項14】
ADを患っていることが疑われるヒト対象への投与に適合された、請求項9に記載の組成物。
【請求項15】
投与すると、ヒト対象の血液中の1又は2以上の循環ケトン体のレベルが上昇する、請求項9に記載の組成物。
【請求項16】
中鎖トリグリセリド、5、7、及び15個の炭素脂肪酸からなる群から選択される奇数炭素鎖脂肪酸及びそのトリグリセリド、又はその両方を含む、食用に適した食餌製剤。
【請求項17】
脂肪酸がペンタン酸である、請求項16に記載の製剤。
【請求項18】
脂肪酸がヘプタン酸である、請求項16に記載の製剤。
【請求項19】
奇数鎖トリグリセリドがトリヘプタノインである、請求項16に記載の製剤。
【請求項20】
組成物が、神経変性疾患、アルツハイマー病(AD)、老年認知症、血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、及び加齢に関連する症状を治療又は軽減するために用いられる、請求項16に記載の製剤。
【請求項21】
ADを患う患者への送達に適合された、請求項16に記載の製剤。
【請求項22】
経腸投与に適合された、請求項16に記載の製剤。
【請求項23】
高脂質低炭水化物食をヒト対象に提供する食餌組成物であって、官能担体中のペンタノイン、ペンタノイルカルニチン、n−ペンタデカン酸、5炭素脂肪酸前駆体、並びにその誘導体から選択される、単離及び精製された短鎖脂肪酸、及び香味剤、ビタミン、ミネラル補給剤、タンパク質補給剤、着色剤、並びに防腐剤からなる群から選択される、1又は2以上の任意の添加物とを含む、食餌組成物。
【請求項24】
アルツハイマー病(AD)、老年認知症、血管性認知症、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、及び加齢からなる群から選択される、1又は2以上の神経学的状態を患っていることが疑われるヒト対象への投与に適合された、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
投与すると、ヒト対象の血液中の1又は2以上の循環ケトン体のレベルが上昇する、請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
投与すると、アセチル−CoAの血清レベルが上昇する、請求項23に記載の組成物。
【請求項27】
アルツハイマー病(AD)に対する治療を必要とする成人患者を特定するステップと、C5、C7、C9、C11、C13、C15、又はそのトリグリセリドの少なくとも1つを含む奇数鎖脂肪酸の製剤をADの症状を治療又は軽減するために十分な量で患者に投与するステップとを含む、ADを患っている前記成人患者を治療する方法。
【請求項28】
製剤が、香味剤、ビタミン、ミネラル補給剤、タンパク質補給剤、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される、1又は2以上の任意の添加物を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
組成物を投与すると、ヒト対象の血液中の1又は2以上の循環ケトン体のレベルが上昇する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
製剤が非経口、経腸、静脈内、又は筋肉内投与に適合された、請求項27に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−516416(P2013−516416A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547178(P2012−547178)
【出願日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/062054
【国際公開番号】WO2011/082111
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(509004712)ベイラー リサーチ インスティテュート (38)
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR RESEARCH INSTITUTE
【Fターム(参考)】