説明

アルツハイマー病についての新規の治療および診断方法

本発明は、ホスホリルコリンコンジュゲートを使用した、アルツハイマー病を発病する高いまたは低いリスクと関連した、抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の存否を分析することに関する。加えて、本発明は、アルツハイマー病に対して対象を免疫化ならびに防止、予防および/または治療する方法であって、対象に、少なくとも1つのホスホリルコリンコンジュゲートを含む医薬組成物を投与する工程、または、対象に、ホスホリルコリンおよび/またはそのコンジュゲートに反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体を投与する工程を含む、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬および生物学の分野に関する。具体的には、アルツハイマー病の予防、治療、リスク評価および診断に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書中での明らかに以前に出版された刊行物のリストまたは議論は、これら刊行物が従来技術の一部である、或いは、一般的な知識であると認識するものとして必ずしも受け止めるべきではない。
【0003】
アルツハイマー病(AD)は、65歳を越える人口の約1%を苦しめる進行性の神経変性疾患である。この疾患の特徴的な特性には、異常なタウタンパク質の対になったらせん状細線維から構成される神経原線維変化、ニューロンの欠損および複数の神経伝達物質系の変化が含まれる。顕著な病理学的な特徴は、脳の辺縁領域に関連する過剰で広範かつ小型の老人斑である。これら老人斑は複数のタンパク質を含むが、コアは、主にβ-アミロイド、アミロイド前駆体タンパク質(APP)に由来する39-42アミノ酸タンパク質分解断片からなる。哺乳類の脳中でのβ-アミロイドの沈着がアルツハイマー病を特徴付ける特性であり、炎症経路の活性化が疾患の発病にとって重要であることを示す証拠が存在する。
【0004】
ホスホリルコリン(PC)は、炎症性リン脂質様血小板活性化因子-PAF中の(PAF-受容体との相互作用にとって必須である)およびoxLDL中の主要な成分であるだけではなく、S.pneumoniaeを含む多くの細菌の免疫原性成分でもある。更にその上、PCは、アポトーシス細胞によって発現される(Binder et al., 2002. Nature Medicine 8, 1218-26)。
【0005】
ヒト中でのPCに対する抗体(抗-PC)の存在が何十年も前から知られており(Shaw et al., 2000. J Clin Invest 105, 1731-1740)、肺炎(Nordenstam et al., 1990. Scand J Infect Dis 22, 187-195)ならびに口腔の病原体および歯肉炎(Schenkein et al., 1999. Infect Immun 67, 4814-4818)と関連付けられている。PCは、肺炎球菌のテイコ酸の主要抗原決定基である。暫らくの間は、PC-コンジュゲートでの免疫化が、S.pneumoniaeのような細菌での致死性の感染からマウスを防護できることが知られていた(Briles et al., 1982. J Exp Med 156, 1177-1185)。
【0006】
PCに対する抗体(抗-PC)は、正常で健康な個体に存在し、それ故、進化的に保存された天然の抗体として記載され、類似の抗体がマウスに存在する(Brown et al., 1984. J Immunol 132, 1323-1328)。
【0007】
米国特許第5455032号明細書においては、PC-コンジュゲートが、Streptococcus pneumoniaeなどの感染に対する免疫防御を誘導する為のワクチンにおいて使用されてきた。マウス中での肺炎球菌ワクチンを用いたBinder et al., 2003 (Nature Medicine 9, 736-43)の研究においては、ワクチンによって、アテローム性動脈硬化症が減少することも示された。アテローム性動脈硬化症マウスに由来するoxLDLに対する多くの自己抗体は、Streptococcus pneumoniaeを含む一般的な感染性病原体に対して防護する抗体と構造的な一致性を共有することが見出された。
【0008】
他の研究(Zanchetti et al., 1998. J Hypertens 16, 949-61)では、抗-PC抗体(抗-PC)の血清レベルが、歯周病のヒトにおいて上昇することが示された。結論は、PCは歯周病フローラ中の組織と関連した重要な口腔の抗原であること、およびPC抗体のレベルは歯周病の結果上昇することである。PC抗体(抗-PC)の高い血清レベルは、高血圧の患者におけるアテローム性動脈硬化の保護因子であることが示されており(Su et al., 2006. Atherosclerosis 188, 160-6)、PC抗体(抗-PC)の血清レベルが減少することは、心疾患のリスクが高いことと関連していることが示されている(国際公開第2005/100405号パンフレット)。
【0009】
PC-コンジュゲートに対する抗体を用いた受動免疫は、apoE -/-マウスにおいてアテローム性動脈硬化の発病を減少することが示されている(Faria-Neto et al., 2006. Atherosclerosis 189, 83-90)。最近、PC-コンジュゲートを用いた能動免疫が、apoE -/-マウスにおいてアテローム性動脈硬化の発病を減少することが示されている(Caliguiri et al., 2007. J Am Coll Cardiol 50, 540-546)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5455032号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/100405号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Binder et al., 2002. Nature Medicine 8, 1218-26
【非特許文献2】Shaw et al., 2000. J Clin Invest 105, 1731-1740
【非特許文献3】Nordenstam et al., 1990. Scand J Infect Dis 22, 187-195
【非特許文献4】Schenkein et al., 1999. Infect Immun 67, 4814-4818
【非特許文献5】Briles et al., 1982. J Exp Med 156, 1177-1185
【非特許文献6】Brown et al., 1984. J Immunol 132, 1323-1328
【非特許文献7】Nature Medicine 9, 736-43
【非特許文献8】Zanchetti et al., 1998. J Hypertens 16, 949-61
【非特許文献9】Su et al., 2006. Atherosclerosis 188, 160-6
【非特許文献10】Faria-Neto et al., 2006. Atherosclerosis 189, 83-90
【非特許文献11】Caliguiri et al., 2007. J Am Coll Cardiol 50, 540-546
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願発明者は、驚くべきことに、PC-コンジュゲートに反応性を有する抗体(抗-PC)のレベルが低いことが、アルツハイマー病の発病または進展のリスクが高くなることと関連していることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
それ故、本発明は、PC-コンジュゲート、またはPCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体を含む医薬組成物、ならびにアルツハイマー病の防止、予防および/もしくは治療におけるこれらの組成物の使用に関する。
【0014】
更にその上、本発明は、また、アジュバントを含んでいてもよいアルツハイマー病の防止、予防および/または治療用の医薬組成物を製造するための、PC-コンジュゲートまたは前記抗体調製物、例えばモノクローナル抗体の使用に関する。
【0015】
更にその上、本発明は、アルツハイマー病の発病の高いまたは低いリスクと関連した、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の不在、存在および/またはレベルを分析すること、ならびに、この情報の、個体がアルツハイマー病を発病するリスクを有するか、および/または実際にアルツハイマー病に既に発病しているリスクを有するかどうかを求めるための使用に関する。
【0016】
従って、本願発明の第一の態様は、アルツハイマー病の発病または進展の患者のリスクを評価する方法であって、ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体の患者のレベルを評価することを含む方法を提供する。ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルが低いことは、アルツハイマー病の発病または進展のリスクが高いことを予測する。典型的には、ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルは、患者から入手したサンプル、例えばex vivoサンプルにおいて評価する。この方法は、例えば、ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有するIgM、IgGおよび/またはIgA抗体のレベルを評価することができる。この方法は、例えば、ホスホリルコリンコンジュゲートを使用することによって、ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルを評価することができる。
【0017】
第二の態様においては、本発明は、ホスホリルコリンコンジュゲートを使用して、アルツハイマー病の発病の高いまたは低いリスクと関連する、IgM、IgGまたはIgA抗体の存否を分析する方法を提供する。アルツハイマー病の発病の高いまたは低いリスクと関連したIgM、IgGまたはIgA抗体は、ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を示す抗体としうる。低いレベルの、アルツハイマー病の発病の高いまたは低いリスクに関連したIgM、IgGまたはIgA抗体は、アルツハイマー病の発病または進展のリスクが高いことが予測される。典型的には、アルツハイマー病の発病の高いまたは低いリスクに関連したIgM、IgGまたはIgA抗体のレベルは、患者から入手したサンプル、例えばex vivoサンプル中で評価する。
【0018】
本発明の第一および/または第二の態様による方法においては、PC-コンジュゲートは、スペーサーを介してキャリアに結合したホスホリルコリンを含んでも含まなくてもよい。PC-コンジュゲートは、キャリアタンパク質、例えばKLH(キーホールリンペットヘモシアニン)、ヒト血清アルブミン(HAS)またはウシ血清アルブミン(BSA)に結合したホスホリルコリンを含んでも含まなくてもよい。
【0019】
本発明の第一および/または第二の態様による方法においては、アッセイは、イムノアッセイとすることができる。
【0020】
本発明の第一および/または第二の態様による方法においては、患者は、例えばヒトとしうる。この場合、試験サンプルは、少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85歳以上のヒト患者から入手する。
【0021】
したがって、本発明の第三の態様においては、アルツハイマー病の発病または進展の個体のリスクを評価するための方法であって、ホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を有する抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の個体のレベルを評価する方法における、ホスホリルコリンコンジュゲートの使用を提供する。それ故、第三の態様の使用は、本発明の第一および/または第二の態様に従った、ホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルの評価における使用とすることができる。
【0022】
本発明の第四の態様は、アルツハイマー病の患者またはアルツハイマー病が発病するリスクに直面する患者の予防的および/または治療的処置方法であって、ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を示す抗体調製物を前記患者に投与することを含む方法を提供する。
【0023】
本発明の第五の態様は、アルツハイマー病に対する患者の免疫化ならびに予防、防止および/または治療のための方法であって、患者に、ホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を有する抗体調製物を含む医薬組成物を投与する工程を含む方法を提供する。
【0024】
本発明の第四または第五の態様による方法においては、PCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物は、例えば、PCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有するモノクローナル抗体を含むことができ、または、他の抗体調製物、例えば、以下に更に論じるような、静脈イムノグロブリン調製物から得られた抗-PC濃縮調製物もしくは組換え調製された抗-PC抗体および/もしくは他の人工的に作製された抗-PC抗体誘導体を使用することができる。
【0025】
第六の態様においては、本発明は、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療において使用するための、ホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を示す抗体を含む医薬組成物(例えば、本発明の第五および/または第六の態様に関して前記で定義したような組成物)を提供する。組成物は、例えば、注射による投与に適するであろう。
【0026】
第七の態様においては、本発明は、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療のための医薬組成物の製造における、ホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を有する抗体調製物(例えば、第六の態様による抗体調製物)の使用を提供する。治療は、例えば、注射によって投与することができる。
【0027】
第八の態様においては、本発明は、アルツハイマー病の対象またはアルツハイマー病を発病するリスクに直面する対象の予防的および/または治療的処置方法であって、治療上有効量の少なくとも1つのホスホリルコリンコンジュゲートを前記対象に投与することを含む方法を提供する。
【0028】
第九の態様においては、本発明は、アルツハイマー病に対する対象の感染化ならびに予防、防止および/または治療のための方法であって、対象に、少なくとも1つのホスホリルコリンコンジュゲートを含む医薬組成物を投与する工程を含む方法を提供する。
【0029】
第十の態様においては、本発明は、例えば、注射による、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療における使用のための、ホスホリルコリンコンジュゲートを含む医薬組成物を提供する。
【0030】
第十一の態様においては、本発明は、アジュバントと組合せてもよい、例えば、注射による、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療のための医薬組成物の製造におけるホスホリルコリンコンジュゲートの使用を提供する。
【0031】
第四から第十一の態様のいずれかにおいては、患者(または対象)は、ヒトであってもよく、ヒトでなくともよく、例えば、ヒト患者は、少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85歳以上である。
【0032】
第四から第十一の態様のいずれかにおいては、患者(または対象)は、アルツハイマー病の発病または進展の高いリスクを有すると診断されていてもよく、されていなくともよい。例えば、患者(または対象)は、本発明の第一、第二または第三の態様のいずれか1つによる方法または使用によって、アルツハイマー病の発病または進展の高いリスクを有するとして診断されていてもよく、されていなくともよい。
【0033】
それ故、本明細書に記載するように、本発明は、アルツハイマー病の免疫化ならびに予防、防止および/または治療用の医薬の製造における、少なくとも1つのPC-コンジュゲートの、またはPCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体の使用を提供する。この医薬は、アルツハイマー病に対して免疫原性または治療特性を有する能動免疫化(組成物は少なくとも1つのPC-コンジュゲートを含む)または受動免疫化(組成物は定義した抗体を含む)をもたらすことを意図する。
【0034】
言い換えれば、本発明は、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療における使用のための、少なくとも1つのPC-コンジュゲート、またはPCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物(例えばモノクローナル抗体)を提供する。
【0035】
また、本発明は、アルツハイマー病に対する免疫化および治療のための方法であって、対象に、少なくとも1つのPC-コンジュゲート、またはPCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物(例えばモノクローナル抗体)を含む医薬組成物を投与する工程を含む方法を提供する。この医薬組成物は、アルツハイマー病に対する免疫原性または治療特性を有する能動または受動免疫化をもたらすことを意図する。医薬調製物は、注射による投与を意図してもよい。
【0036】
PC-コンジュゲートは、場合によってはスペーサーを介してキャリアに結合したPC部分を意味する。構造成分PCは、PCの誘導体を含んでも含まなくともよい。キャリアは、例えば、タンパク質、糖、脂質、ポリマー、ラテックスビーズまたはコロイド金属としうる。PC-コンジュゲートは、例えば、タンパク質-PCコンジュゲート、例えばヒト血清アルブミン(HSA)-PCコンジュゲート、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)-PCコンジュゲートまたはウシ血清アルブミン(BSA)-PCコンジュゲートとしうる。PC-コンジュゲートの例および抗-PC抗体の産生は、例えば、国際公開第05/100405号パンフレットおよび米国特許第5455032号明細書に記載されており、これらの中身は、参照によって本明細書に含まれる。
【0037】
また、本発明は、アジュバントと組合せてもよい、アルツハイマー病の予防、防止および/または処置のための免疫療法または治療用医薬組成物の製造における、本発明の前記した態様に関連する定義した1つまたは複数のPC-コンジュゲートの使用を提供する。
【0038】
また、本発明は、アルツハイマー病の対象またはアルツハイマー病を発病するリスクに直面する対象の予防的または治療的処置方法であって、治療上有効量の少なくとも1つのPC-コンジュゲートまたはPCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体を投与する方法を提供する。
【0039】
また、本発明は、アルツハイマー病を発病する高いまたは低いリスクに関連する、PC-コンジュゲートに反応性を有する抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の存否を求める方法を提供する。
【0040】
したがって、本発明は、また、PC-コンジュゲート使用して、アルツハイマー病を発病する高いまたは低いリスクに関連した、抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の存否を分析する方法を提供する。
【0041】
それゆえ、本発明は、また、アルツハイマー病の発病または進展の個体のリスクを評価するための方法における、PC-コンジュゲートの使用であって、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の個体のレベルを評価する使用を提供する。
【0042】
PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の個体のレベルは、イムノアッセイを使用して評価することができる。適したイムノアッセイの例を以下に示し、いずれの場合も、当業者にとっては明らかである。
【0043】
本明細書に記載の任意の方法または組成物は、本明細書に記載の任意の他の方法または組成物に関して実施することができることを意図する。同じように、本発明の1つの態様に関して論じた任意の実施態様を、本発明の任意の他の態様において使用することができる。
【0044】
本願出願を通して、用語「約」は、値が、その値を求めるのに使用した装置または方法の誤差の標準偏差を含むことを意味するために使用する。代替的には、値の±20、10、5、4、3、2、1または1%未満である値を意味するために使用しうる。
【0045】
本明細書において使用する場合、「a」または「an」は、1つまたは複数を意味しうる。請求項において使用する場合、単語「含む」と組合せて使用する場合、単語「a」または「an」は、1つまたは複数を意味しうる。本明細書において使用する場合、「その他」は少なくとも二番目かそれ以上を意味しうる。
【0046】
請求項における単語「または」の使用は、開示内容が選択肢のみおよび「および/または」を指す定義をサポートするが、明確に選択肢のみであると指摘する以外または選択肢が相互に共有しない限りは、「および/または」を意味するとして使用する。
【0047】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な記載から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な記載および具体化した実施例は、本発明の好ましい実施態様を指摘するものであり、本発明の精神および範囲内での様々な変化および修飾は当業者によってこの詳細な記載から明らかになるので、例示のみの目的で与えられていることは理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
(I.診断およびリスク評価)
本発明は、低いレベルのPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体(抗-PC)が、アルツハイマー病を発病するリスクが高いことに関連し、そして、実際にアルツハイマー病に既に発病しているリスクが高いことに関連しているという驚くべき知見に基づく、
【0049】
したがって、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体の不在、存在および/またはレベルの測定を可能とする方法を、アルツハイマー病が発病する可能性に関する早期警戒メカニズム(すなわち予測方法)として、および/またはアルツハイマー病の存在のマーカーとして使用できる。
【0050】
前記で論じたように、本発明の態様は、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体(即ち、抗-PC抗体)、例えばIgA、IgMまたはIgG抗体の不在、存在および/またはレベルを分析する方法であって、前記因子がアルツハイマー病を発病する高いまたは低いリスクに関連しており、PC-コンジュゲートを使用する方法を提供すること、ならびに、この情報の、個体がアルツハイマー病を発病するリスクを有するか、および/または実際にアルツハイマー病に既に発病しているリスクを有するどうかを求めるための使用である。好ましい方法はイムノアッセイである。この方法は、アルツハイマー病の予防、防止および/もしくは治療を生じさせるために個体中で抗-PCタイターを増加させることを目的とする限り、アルツハイマー病の発病もしくは進展の個体のリスクを評価するのに使用することができ、ならびに/または、能動もしくは受動免疫による本発明の治療方法の効率をモニターするのに使用することができる。
【0051】
典型的には、分析方法は、被検対象から入手したサンプル、例えばex vivoサンプルで実施する。サンプルは、例えば、ex vivo血清サンプルまたはex vivo血漿サンプルとしうる。典型的には、被検対象はヒトである。被検サンプルを入手するヒト対象は、例えば、少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85歳以上としうる。
【0052】
PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の個体のレベルは、例えば、PC-コンジュゲートを被検対象に由来するサンプルに曝露し、PC-コンジュゲートに結合した抗体を検出することによって評価することができる。それゆえ、抗体レベルは、イムノアッセイを使用して求めることができる。適したイムノアッセイの例を以下に示し、いずれの場合でも、当業者にとっては明らかである。
【0053】
好ましくは、本発明による分析方法において使用する場合、PCはスペーサーを介してキャリアに結合する。この実施態様においては、典型的には、キャリアはタンパク質、好ましくはKLH(キーホールリンペットヘモシアニン)、トランスフェリン、ヒト血清アルブミン(HSA)またはウシ血清アルブミン(BSA)である。代替的には、キャリアはラテックスビーズとしうる。
【0054】
抗体のレベルは、PCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有する全ての抗体について、または特定のアイソタイプの抗体のみ、例えばIgM、IgGもしくはIgAについて、または2つ以上の抗体アイソタイプの組合せについてアッセイすることによって特徴付けることができる。1つの実施態様においては、IgMのレベルを求める。
【0055】
イムノアッセイは、競合的または非競合的としうる。典型的な競合イムノアッセイにおいては、サンプル中の抗体は、標識抗体と競合して、PCおよび/またはPC-コンジュゲートと結合する。その後、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに結合した標識抗体の量を測定する。サンプル中の抗体の濃度と検出された標識抗体の量との間には正反対の関係が存在する。非競合イムノアッセイにおいては、サンプル中の抗体はPCおよび/またはPC-コンジュゲートに結合し、その後、標識した検出剤、典型的には抗-イムノグロブリン抗体を、抗体に結合させる。その後、抗体に結合した、標識した検出剤の量を測定する。競合方法とは異なり、非競合方法の結果は、抗体の濃度と直接的に比例する
【0056】
非競合イムノアッセイまたはウェスタンブロットにおいては、標識した検出剤、典型的には抗-イムノグロブリン抗体を、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに結合する抗体を検出するために使用することができる。適した抗-イムノグロブリン抗体は、サンプルが得られた種のイムノグロブリンに特異的に結合する。検出剤は、その種の全てのイムノグロブリンアイソタイプに、またはアイソタイプのサブセットにのみ結合しうる。例えば、検出剤は、IgA、IgD、IgE、IgGもしくはIgMのみに、またはこれらアイソタイプの2つ以上の組み合わせに結合しうる。IgMへの結合が好ましい。抗-イムノグロブリン抗体は、任意のアイソタイプの特定のサブタイプにのみ特異的に結合しうる。ヒトIgAのサブタイプは、IgA1およびIgA2である。抗-イムノグロブリン抗体は、これらのサブタイプの一方または両方に結合しうる。ヒトIgGのサブタイプは、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4である。抗-イムノグロブリンは、これらヒトIgGサブタイプの1つまたは複数に結合しうる。ヒトIgMのサブタイプは、IgM1およびIgM2である。抗-イムノグロブリン抗体は、これらのサブタイプの一方または両方に結合しうる。当然のことながら、異なる脊椎動物種においては、異なるアイソタイプおよびサブタイプが存在する。
【0057】
ラジオイムノアッセイにおいては、抗体または検出剤は、ラジオアイソトープ、例えば131Iまたは125Iで標識されている。酵素イムノアッセイにおいては、抗体または検出剤は、酵素で標識されている。適した酵素には、発色性基質の使用により検出することができる酵素が含まれる。発色性基質は、酵素との反応の結果、分光分析的に検出することができる着色生成物を生じる基質である。酵素、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼおよび大腸菌に由来するピロフォスファターゼが広く使用されている。酵素、例えばルシフェラーゼに基づく化学発光システムも使用することができる。他の標識には、蛍光標識、例えばAlexaシリーズのフルオロフォアが含まれる。
【0058】
抗体または検出剤のビタミンビオチンとのコンジュゲートはしばしば使用されている。なぜならば、このコンジュゲートは、高い特異性および親和性で結合する、酵素またはフルオロフォア結合アビジンまたはストレプトアビジンとの反応によって、容易に検出することができるからである。
【0059】
典型的な非競合酵素イムノアッセイにおいては、分析するサンプルは、固相物質に吸着させたPCおよび/またはPC-コンジュゲートと接触させ、インキュベートする。それゆえ、サンプル中に存在しうる任意の抗-PC抗体は、特異的に、固相物質上に吸着させたPCおよび/またはPC-コンジュゲートによって結合し、抗-PCとPCおよび/またはPC-コンジュゲートとの間で複合体を産生させる。その後、サンプルを固相物質から分離し、非結合物質を、例えば洗浄することによって取り除く。この方法の次の工程において、複合体の形態の物質上に存在する抗-PC抗体に結合することができるインディケーター抗体を、固相物質に添加し、抗-PCと、PCおよび/またはPC-コンジュゲートと、インディケーターとの間で複合体を産生させる。インディケーター抗体は、例えば、非ヒト動物種で得られた抗-ヒトIgMまたはIgGイムノグロブリンとしうる。最後に、抗-PCと、PCおよび/またはPC-コンジュゲートとインディケーターとの間の複合体の固相物質上での存在を検出し、固相物質上での前記複合体の存在により、個体に由来するサンプル中の抗-PC抗体の存在が示される。
【0060】
典型的には、固相物質は、マイクロタイタープレート、例えばELISA免疫アッセイを実施するのに一般的に使用されるタイプのプレートである。マイクロタイタープレートは、好ましくはポリスチレンプレートである。他の適した固相物質は、ラテックス粒子、ビーズおよび被覆された赤血球である。都合の良いことには、PCおよび/またはPC-コンジュゲートは、バッファー中で固相物質とインキュベートすることによって、固相物質に吸着される。適したバッファーには、カーボネートバッファーまたはリン酸緩衝生理食塩水が含まれる。代替的には、PCおよび/またはPC-コンジュゲートは、固相物質に共有結合することができる。典型的には、PCおよび/またはPC-コンジュゲートの固相物質への吸着または共有結合後に、固相物質をブロッキング剤とともにインキュベートし、サンプルに由来する物質の固相物質への非特異的結合を低下させる。適したブロッキング剤には、ウシ血清アルブミンが含まれる。
【0061】
PCおよび/またはPC-コンジュゲートに結合しうる抗体の定量的評価は、1つまたは複数の前記した手法によって得られることが好ましい。典型的な非競合アッセイにおいては、測定した変数(吸光度または他の出力値)と抗体濃度との間の直線関係を評価することができる。例えば、サンプルAが、アッセイにおいてサンプルBの二倍の吸光度を有するならば(バックグラウンドは両方から差し引いた)、抗体の濃度は、Bと比較してAで二倍であると考えられる。しかしながら、ポジティブ血清サンプルのプールの連続希釈物の標準曲線を構築することが好ましい。好ましくは、このような希釈物を、試験サンプルと同時にアッセイに供する。このことを実施することにより、サンプル中の抗体の量を測定するに際に、直線関係からの誤差を考慮に入れることができる。
【0062】
サンプル中のPCおよび/またはPC-コンジュゲートに対する抗体のレベルを評価する特に好ましいイムノアッセイは、Athera Biotechnologies ABから購入可能な市販のCVDefine(商標)アッセイキットを使用する。CVDefine(商標)アッセイは、多くの文献、例えば、Gronlund et al, 2009;de Faire et al, 2008a;Dahlbom et al, 2009;de Faire et al, 2008b;Frostegard et al, 2007;Sjoberg et al, 2008a;Sjoberg et al, 2008bおよびSu et al, 2006において論じられている。
【0063】
CVDefine(商標)アッセイは、ヒト血清または血漿中での抗-ホスホリルコリン(抗-PC)IgM抗体の定量的測定のための、間接的な非競合酵素イムノアッセイである。マイクロプレオートのウェルは、PC抗原でコーティングされている。患者サンプルに存在するPC-特異的IgM抗体は、抗原に結合する。第二の工程において、酵素標識二次抗体(コンジュゲート)が抗原-抗体複合体に結合し、酵素標識コンジュゲート-抗体-抗原複合体の形成をもたらす。酵素標識抗原-抗体複合体は、添加した基質を、着色溶液を形成するように変換する。色原体に由来する着色形成の割合は、結合抗体と複合体化したコンジュゲートの量に応じるものであり、それゆえ、患者サンプル中の各抗体の最初の濃度に比例する。CVDefine(商標)キットは、以下の試薬を含む:
・マイクロプレートのストリップ:ウシ血清アルブミン(BSA)にコンジュゲートしたPCで被覆した、12ストリップ×8ウェル(96測定)、乾燥剤を含むアルミパウチ中に保存。
・キャリブレーター:抗-PC IgM抗体キャリブレーターのバイアル、0-6.25-12.5-25-50-100 U/mlの濃度、BSA、0.095%(w/v)アジ化ナトリウム、界面活性剤およびヒト血清を含むバッファー中、各1.5ml、レディトゥユース。
・コントロール ハイ:BSA、0.095%(w/v)アジ化ナトリウム、界面活性剤およびヒト血清を含むバッファーのバイアル、1.5ml、レディトゥユース。このコントロール中のIgM抗-PCのレベルは、以下の方法によってアッセイに供した場合に、0.6より大きな吸光度を得るのに十分なほど高くすべきである。
・コントロール ロー:BSA、0.095%(w/v)アジ化ナトリウム、界面活性剤およびヒト血清を含むバッファーのバイアル、1.5ml、レディトゥユース。このコントロール中のIgM抗-PCのレベルは、以下の方法によってアッセイに供した場合に、0.2未満の吸光度を得るのに十分なほど低くすべきである。
・洗浄バッファーコンセントレート:20×PBSコンセントレートおよび界面活性剤のバイアル、75ml。
・サンプル希釈液:BSA、<0.1%(w/v)アジ化ナトリウムおよび界面活性剤(Tween20)を含むPBSのバイアル、100ml(黄色)、レディトゥユース。
・IgM HRPコンジュゲート:ヤギに由来する抗-ヒトIgM HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)のバイアル、20ml、レディトゥユース。
・基質TMB:TMB(3,3',5,5'テトラメチルベンジジン)、<0.05%(w/v)のバイアル、20mlの水中、レディトゥユース。
・停止溶液:0.5M H2SO4のバイアル、20ml(無色)、レディトゥユース。
【0064】
CVDefine(商標)アッセイの手順を以下に記す:
(i)サンプル希釈液を使用して、血清/血漿を希釈する(1:101)。
(ii)マイクロプレートストリップをパウチから取り出し、ストリップホルダーにしっかりとはめる。プレートを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のPC-BSA(10μg/ml)、50μl/ウェルでコーティングする。コーティングしたプレートを一晩4℃でインキュベートする。PBSでの洗浄後、プレートを、2% BSA/PBSで2時間室温でブロッキングし、PBSで洗浄する。
(iii)100μlのキャリブレーター、ハイおよびローコントロールならびに希釈した患者サンプルを適切なウェルに入れる。
(iv)30分間インキュベートする。
(v)ウェルから液体を吸引除去し、工程間で浸す工程を行いながら、以下のように、ウェルを3回洗浄バッファーで洗浄する。300μlの1×洗浄バッファーを各ウェルへ入れ、20秒間インキュベートする;洗浄バッファーを、ウェルから、吸引によって、またはシンク上でプレートを逆さにして激しく振ることによって除去する;残った洗浄バッファーを、逆さにしたプレートを新しい吸水性の紙の上でタッピングすることによって除去する。更に2回この手法を繰り返す。
(vi)100μlのIgM HRPコンジュゲートを全てのウェルに入れる。
(vii)30分間インキュベートする。
(viii)液体をウェルから吸引除去し、工程間で浸す工程を行いながら、ウェルを3回洗浄バッファーで洗浄する(前記工程(v)を参照せよ)。
(ix)100μlの基質TMBを全てのウェルに入れる。
(x)10分間暗黒下でインキュベートする。
(xi)50μlの停止溶液を全てのウェルに加える。
(xii)停止溶液を加えてから30分後に、450nm, maxの吸光度(OD)を読み込む。620nmのレファレンス波長を推奨する。
【0065】
CVDefine(商標)アッセイの直接的な結果は、最初は、任意単位(arbitrary units)として表される。キャリブレーターおよびコントロールは調整し、Athera Biotechnologies ABで構築された内部ヒトリファレンス血清調製物へとトレースすることができる。アッセイは、6.25U/mlから100U/mlの測定範囲および0.5U/mlの検出限界を有する。
【0066】
このタイプのアッセイから得られた結果の定量評価については、個別のキャリブレーターを各測定ごとに実施しなければならない。定量評価は、手動によりまたはデータ整理ソフトウェアの使用により実施することができる。
【0067】
手動による方法には、適したグラフ用紙上で0、6.25、12.5、25、50、100U/mlのキャリブレーター濃度に対してプロットする、各キャリブレーターの平均吸光度(OD)の計算が必要である。その後、全てのキャリブレーターの点を考慮して、スムーズな曲線を引き、その後、サンプルの濃度を、キャリブレーション曲線から読み取ることができる。
【0068】
データ整理ソフトウェアを使用する場合、4パラメーターまたはCubic Spline曲線フィッティングアルゴリズムを使用する適したコンピュータープログラムを選択する。実施した曲線フィッティングプログラムが自動的に0U/mlで標準を処理できない場合は、最小値をキャリブレーター1(0 U/ml)に割り当て、キャリブレーター2より低い1の対数尺度から導かれる(例えば、キャリブレーター1については0.625U/ml)。最も高いキャリブレーターを上回る吸光度を示すサンプルは、このアッセイの範囲外であり、>100U/mlとして言及すべきである。このようなサンプルは、適切に希釈して、再アッセイすべきである。
【0069】
四分位カット-オフ(quantile cut-off)は、コントロールグループの抗-PCの分布に基づくことができる。抗-PCの血清レベルとアルツハイマー病のリスクとの間の関連性は、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を有する条件付きロジスティック回帰モデルによって求めることができる。テストサンプルおよびコントロールは、試験のデザインによって、年齢および性別をマッチさせることができる。症例とコントロールとの間の平均値/中間値の差異について試験する為には、正規分布変数についてはt-検定を、非-正規分布変数についてはウィルコクスン順位和検定を使用することができる。カイ二乗検定(および少数のサンプルについてのフィッシャーの正確確率検定)を、集団間の差異について試験するために使用することができる。ノンパラメトリックなスピアマンの順位相関係数を、相互関係について試験するために使用することができる。比率の直線傾向は、コクラン-アミテージ傾向検定を介して評価することができる。四分位に対するORの直線傾向は、SAS PROC LOGISTICの連続型変数として含まれている四分位のスコア検定(コクラン-アミテージ傾向検定)によって評価することができる。両側仮説p-値<0.05を、有意であるとして考慮することができる。SASを、統計分析について使用することができる(release 9.2, SAS Institutet Inc. Cary, NC)。
【0070】
本願発明者は、驚くべきことに、典型的には、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルが低いことは、アルツハイマー病を発病する高いリスクの指標、および/または、実際にアルツハイマー病に既に発病しているリスクを有する指標であるということを実証した。逆に、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルが高いことは、アルツハイマー病を発病する低いリスクの指標、および/または、実際にアルツハイマー病に既に発病している低いリスクの指標である。
【0071】
特定の個体について求めたPCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルは、より広い集団または試験コホートで観察される幅を参照して、高いまたは低いとして分類することができる。アルツハイマー病の発病前のコホート中の個体から得られた血液サンプルの抗-PCレベル(incident case)を、関連性を有さない年齢および性別をマッチさせた3つのコントロールと比較して、採血時に(+/-1年)に、評価すること、ならびに/または、アルツハイマー病の発病後のコホート中の個体から得られた血液サンプルの抗-PCレベル(prevalent case)を、関連性を有さない年齢および性別をマッチさせた3つのコントロールと比較して、採血時に(+/-1年)に、評価することが適切であろう。コントロールを1以上の試験症例にマッチさせることが可能であり、それ故、コントロールの効果的な数は、3×症例数未満であろう。適したコホート中の試験個体およびコントロール個体の合計数は、100より大きく、例えば約200、300、400、500、600、700、800、900または1000とすることができる。試験症例が、平均値よりも低い、またはより広い集団またはコホートを参照に求めた特定のパーセンタイル値よりも低い抗-PC抗体のレベルを示す場合、低いレベルとして分類することができる。適したことには、低いレベルは、25パーセンタイル、または20、10もしくは5パーセンタイルよりも低い値に対応しうる。高いレベルは、例えば、5、10、20もしくは25パーセンタイルよりも大きな、または平均レベルよりも大きな値に対応しうる。
【0072】
実際に、当業者ならば、条件付きロジスティック回帰分析をテストコホートから得られた抗-PCレベルを用いて実施した場合に、以下の事象を示す限り、任意のパーセンタイル値カットオフポイントを、アルツハイマー病を発病する、またはアルツハイマー病を有する高いリスクと関連する低いレベルの抗-PCを示すのに使用することができると理解するであろう:
・このパーセンタイル群内の全ての個体について計算したオッズ比は1より大きい(このことは、このパーセンタイルと関連するレベルの範囲の抗-PCレベルを有するヒトは、このパーセンタイルを越える抗-PCレベルを有するヒトよりも、アルツハイマー病を発病する、またはアルツハイマー病を有する可能性が高いことを示す);ならびに
・このパーセンタイル群内の個体についての抗-PC値から計算したp-値が0.05未満であり、この群についての95%オッズ比信頼区間が、下限が1を超える範囲をもたらす(このようなp-値およびCI値は、このパーセンタイル群に存在する抗-PCレベルを有する個体を原因とするオッズ比の値が統計学的に有意であることを示す)。
【0073】
実際に、それ故、当業者ならば、コホートから得られたデータの統計学的分析によって、抗-PCレベルがアルツハイマー病を発病する、またはアルツハイマー病を有する統計学的に有意なリスクを示す最も高いパーセンタイル値を容易に求めることができ、そして、より低いパーセンタイル値内に存在する抗-PCレベルを有する抗体についての関連する(および徐々に増えてより高くなる)危険率も計算できる。
【0074】
加えて、または代替的には、本願発明者の知見によると、任意の個体について求めたPCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルは、その個体から入手したサンプルの抗-PC抗体の絶対レベル(absolute level)を参照に、高いまたは低いとして分類することができる。それ故、抗-PCのレベルを定量的に、例えばCVDefine(商標)キットアッセイを使用することによって求める場合は、本願発明者は、集団内の抗-PC IgMレベルの平均レベルは、典型的には約40-50U/ml(約4-5μg/mlに対応)であり、このレベルの、またはこのレベルより低いサンプル中の値は低いもと考えることができることを見出した。約25-20U/ml(約2.5-3μg/mlに対応する)の、またはこれより低いレベルの抗-PC IgMは、典型的には、約25パーセンタイルより低い値を代表するものであり、約17U/ml(約1.7μg/mlに対応する)より低い値の抗体は、典型的には、約10パーセンタイルより低い値を代表するものである。それ故、サンプル中の約50、40、30、25、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10U/ml(1U/mlはml当り約100ngの抗体に等しい)の、またはこれらの値より低い抗-PCレベル、例えばIgM抗-PCレベルは、アルツハイマー病を発病するリスクが高いことと関連し、および/または、実際にアルツハイマー病に既に発病していることのマーカーとして関連しうる。
【0075】
アルツハイマー病を発病する高いまたは低いリスクに関連するPC-コンジュゲートに反応性を有するIgM抗体の存否および/またはレベルを求めるための方法の例を以下に示す。当該業界で知られている他の方法も使用することができる。類似の方法も、PC-コンジュゲートに反応性を有するIgGまたはIgA抗体の存否および/またはレベルを求めるために、使用することができる。
【0076】
個体が、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルが低いと特徴付けられた場合は、この情報は、アルツハイマー病の診断、またはアルツハイマー病の発病もしくは進展の高いリスクの予後を助ける。
【0077】
医者は、診断または予後に至るのに、他の要因を考慮に入れるであろう。それ故、例えば、本発明による診断方法の結果は、他の既知のアルツハイマー病のリスクに関する試験、例えば、記憶力劣化試験(特に、最近覚えた情報を記憶する能力に関する試験)、変容行動(例えば、注意力、計画、柔軟性、抽象的思考、意味記憶および/もしくは無気力)、ミニメンタルステート検査(MMSE)を含む認識試験、脳スキャン(例えば、CT、MRI、SPECTもしくはPET)ならびに/またはアミロイドタンパク質および/もしくはタウタンパク質についての脳脊髄液の分析の結果と照合するであろう。
【0078】
例えば、認知症は、最初に、認知スクリーニング、次に、各疑われる症例の診断評価を必要とする2工程手法を介して解明することができる(Gatz et al, 2003, Behav Genet, 33(2) 95-105)。スクリーニングおよび診断評価は、以前から詳細に記されている(Dahl et al, 2007, Aging Clin Exp Res, 19(5):381-9)(Gatz et al, 1997, J Gerontol A Biol Sci Med Sc, 52(2), M117-25)。簡単に述べると、ミニメンタルステート検査(MMSE)(Folstein et al, 1975, J Psychiatr Res, 12, 189-198)を使用して、認知症についてスクリーニングすることができる。認知症の疑いについてポジティブとスクリーニングされたヒトは、更に、認識試験、臨床精密試験、インフォーマントインタビュー(informant interview)、医学的記録および検査室での試験のレビューを介して評価することができる。認知症の最終的な診断は、総合的なコンセンサス会議で決定されうる。認知症は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 3rd edition, revised (DSM-III-R)(American Psychiatric Association 1987, ISBN 089042019X)およびfourth edition (DSM-IV)(American Psychiatric Association 1994, ISBN 0890420246)における基準に従って診断され、そして、差異的に、アルツハイマー病(NINCDS/ADRDA基準に基づいて)(Dubois et al, 2007, Lancet Neurol, 6(8):734-46)、血管性認知症(NINDS-AIREN基準に基づいて)(Roman, 1993, Neurology, 43(2), 250-260)、混合型認知症(脳血管疾患を有するAD)、他の特定の認知症、または非特定の認知症として診断されうる。
【0079】
個体が、アルツハイマー病を有する、またはアルツハイマー病を発症するリスクが高いと決定された場合は、治療(例えば、本発明による治療)ならびに/またはライフスタイルの変化(例えば、精神的刺激、運動および/もしくは食事の変化)が推奨されうる。このような治療および/またはライフスタイルの変化は、個々に適合させることができる。
【0080】
(II.予防、防止および治療)
それ故、本発明の更なる態様は、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療に関する。
【0081】
本発明は、アルツハイマー病の免疫化ならびに予防、防止および/または治療用の医薬の製造における、少なくとも1つのPC-コンジュゲートの、またはPCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体の使用を提供する。この医薬は、アルツハイマー病に対して免疫原性または治療特性を有する能動免疫化(組成物は少なくとも1つのPC-コンジュゲートを含む)または受動免疫化(組成物は定義した抗体を含む)をもたらすことを意図する。
【0082】
言い換えれば、本発明は、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療における使用のための、少なくとも1つのPC-コンジュゲート、またはPCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物(例えばモノクローナル抗体)を提供する。
【0083】
また、本発明は、アルツハイマー病に対する免疫化および治療のための方法であって、対象に、少なくとも1つのPC-コンジュゲート、またはPCおよび/もしくはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物(例えばモノクローナル抗体)を含む医薬組成物を投与する工程を含む方法を提供する。この医薬組成物は、アルツハイマー病に対する免疫原性または治療特性を有する能動または受動免疫化をもたらすことを意図する。医薬調製物は、注射による投与を意図してもよい。
【0084】
典型的には、本発明によるアルツハイマー病の予防、防止および/または治療は、ヒトの治療を意図する。ヒト対象は、例えば、少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85歳以上としうる。ヒト対象は、例えば、本発明の他の態様による抗-PCレベルの評価に基づく分析方法を使用することによって、アルツハイマー病の発病または進展の高いリスクを有すると診断された対象であってよい。
【0085】
(III.PCおよび/またはPC-コンジュゲートに対する抗体)
[ホスホリルコリンコンジュゲートに対するモノクローナル抗体]PCおよび/またはPC-コンジュゲートに対して反応性を有するモノクローナル抗体は、当該業界の任意の既知の標準的な方法を使用して産生することができる。例えば、Briles et al., 1982. J Exp Med 156, 1177-1185またはSpira et al., 1988. J Immunology 140, 2675-2680を参照。
【0086】
ホスホリルコリンおよび/またはそのコンジュゲートに対する他の抗体は、当該業界の当業者に周知の方法を使用して産生することができる。例えば、ヒトイムノグロブリン調製物の抗-PC活性を有するsub-fractionを、例えば下記に記すように、例えばホスホリルコリンコンジュゲートを使用したアフィニティ精製によって産生することができる。静注用イムノグロブリン調製物(例えばIGIV;Baxterおよびその他)は、高い純度に精製された市販のIgG調製物であり、抗体産生を有さないか、非常に低いレベルの抗体産生を有する患者の治療に使用される。イムノグロブリン調製物には、以下の製造者から購入可能な調製物が含まれる:Baxter (US)、例えばGammagard(登録商標)、Isiven (Antimo Naples, Italy)、Omrix (Tel-Hashomer、Israel)、Miles (Biological Products Division、West Heaven、CT)、Sclavo (Lucca、Italy)、Sandoz (Novautis、Basel、Swizerland)、例えばSandoglobulin(登録商標)、Biotest Diagnostic Corporation (Deville、NJ)。イムノグロブリン調製物の例としては、GammagardS/D(登録商標)、GammarIV(登録商標)、Gaimnar-PIV(登録商標)、Gammimune N(登録商標)、Iveegam(登録商標)、Panglobulin(登録商標)、Polygam S/D(登録商標)、Sandoglobulin(登録商標)、Venoglobulin(登録商標)が挙げられる。イムノグロブリン調製物は、典型的には、IgGだけでなくいくらかのIgMを含む。微量な量のIgMは、Gammagard(登録商標)に存在する。Pentaglobin (Biotest)は、SARSの治療のために使用される濃縮したIgM調製物である。抗-PC活性を有するsubfractionは、IgGおよびIgMの両方を含む可能性があり、または、主にIgGを(例えば、IgGが豊富な調製物、例えばGammagard(登録商標)を用いて調製を開始することによって、および/もしくはIgGについてセレクションすることによって)、もしくは主にIgMを(例えば、IgMが豊富な調製物、例えばPentaglobinを用いて調製を開始することによって、および/もしくはIgMについてセレクションすることによって)含むように選択することができる。
【0087】
加えて、本発明は、リコンビナントで産生された抗-PC抗体および/または他の人工的に産生された抗-PC抗体誘導体、例えば、CDR-移植および/もしくはヒト化抗体、scFv、dAb、FabもしくはFvまたは抗体のPC-結合フラグメントを含むもしくは抗体のPC-結合フラグメントからなる他の分子の使用を意図する。
【0088】
PC-コンジュゲートに対して特異性を有する抗体調製物は、コンジュゲートしていないPCに結合し、PCが暴露されたPC含有化合物中に(例えばリソホスファチジルコリン中に)存在するPCにも結合しうる(例えば、Kim et al., 2002 J Exp Med. 196, 655-65を参照)。それ故、PC-コンジュゲートに対して特異性を有する抗体調製物は、リソホスファチジルコリンにも結合しうる。
【0089】
[能動免疫]それ故、本発明の1つの実施態様は、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療に使用する医薬組成物の製造のために、PC-コンジュゲートを使用することである。コンジュゲートは、医薬的に許容可能なタンパク質、糖またはポリマーに結合したPCとしうる。この医薬組成物は、好ましくは、注射によって投与され、しかし、実際には、PC-コンジュゲートが投与される対象に免疫応答を惹起させることができる任意の適した手段によって投与することができる。能動免疫の提案する方法によって、抗-PC抗体のタイターを調節し、アルツハイマー病の発病に対して好ましい効果をもたらす。それ故、能動免疫は、抗-PC抗体のタイターを、本発明による分析方法によって評価した場合に「低い」とは言われないレベルにまで、またはアルツハイマー病の発病もしくは進展の高いリスクを表すとは言われないレベルにまで増加させるのに、使用することができる。それ故、本発明による能動免疫の方法は、前記した方法によって試験した場合に、個体中の抗-PCレベル、例えばIgM抗-PCレベルを、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60または65U/mlより大きいレベルに増加させるのに使用することができる。従って、本発明による能動免疫方法は、抗-PCレベルを、平均値を超える、またはより広い集団を参照に求めた特定のパーセンタイル値を超える、例えば5、10、20もしくは25パーセンタイルを超えるレベルに、例えば、統計学的に有意な低いリスクのレベルを表す、オッズ比が1より小さく、p値が<0.05であり、オッズ比信頼区間の上限が1未満であるレベルに増加させるのに使用することができる。
【0090】
[受動免疫]本発明の他の実施態様は、アルツハイマー病の治療、予防および/または防止に使用するための医薬組成物を製造するための、PC-コンジュゲートを認識する抗体調製物、例えばモノクローナル抗体の使用である。モノクローナル抗体は、当該業界の周知の方法を使用して産生することができる。他の抗体調製物、例えば、前記したような、静注用イムノグロブリン調製物から得られた抗-PCが濃縮された調製物、組換え調製された抗-PC抗体および/または他の人工的に産生した抗-PC抗体誘導体を使用することができる。それ故、受動免疫は、抗体中の抗-PC抗体のタイターを、本発明による分析方法によって評価した場合に「低い」とは言われないレベルにまで、またはアルツハイマー病の発病もしくは進展の高いリスクを表すとは言われないレベルにまで増加させるのに、使用することができる。それ故、本発明による受動免疫の方法は、前記した方法によって試験した場合に、個体中の抗-PCレベル、例えばIgM抗-PCレベルを、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60または65U/mlより大きいレベルに増加させるのに使用することができる。従って、本発明による能動免疫方法は、抗-PCレベルを、平均値を超える、またはより広い集団を参照に求めた特定のパーセンタイル値を超える、例えば5、10、20もしくは25パーセンタイルを超えるレベルに、例えば、統計学的に有意な低いリスクのレベルを表す、オッズ比が1より小さく、p値が<0.05であり、オッズ比信頼区間の上限が1未満であるレベルに増加させるのに使用することができる。
【0091】
(IV.実験)
以下の実施例を、本発明の様々な態様を更に例示するために含める。当該業界の当業者ならば、以下に続く実施例に記載される手法が、本発明の実施において十分に機能する、本願発明者によって発見された手法および/または組成物を表し、実施の好ましい態様を構成すると考えられることは当然ながら理解する。しかしながら、当該業界の当業者ならば、本発明の開示に照らし合わせて、多くの変化を、開示された特定の実施態様において加えることができ、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、同様のまたは類似の結果を得ることができることを当然ながら理解する。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
[試験の記述]PC-コンジュゲートに反応性を有する抗体、抗-ホスホリルコリン(抗-PC)、IgM抗体の血清レベルと、認知症との間の関連性のケースコントロール研究(case-control study)。PCは、アテローム斑の成分であり、低いレベルの抗-PCは、以前の試験において、心疾患の高いリスクと関連していた(Su et al., 2006 Atherosclerosis 188, 160-6)。今回の試験では、本願発明者は、抗-PCの血清レベルと、1)認知症、2)アルツハイマー病(AD)および3)血管性認知症(VaD)との間の関連性を試験した。
【0093】
試験は、高齢化と認知症の試験に参加したSwedish Twin Registryの双子のサンプルに基づく。病気の発病の前に血液を与えた認知症症例(incident case)および病気の発病の後に血液を与えた認知症症例(prevalent case)を、採血時に(+/-1年)性別および年齢についての3つの非関連コントロールにマッチさせた。コントロールは、1つ以上の症例にマッチさせ、それ故、有効な量のコントロールは3×症例数未満である。
【0094】
[試験サンプル]試験サンプルは、842の双子からなる。179の認知症のincident case、102の認知症のprevalent caseおよび561のコントロールが存在する。サンプルは、また、(incident)認知症について不一致の61の完全な双子の対(そのうちの13が一卵性[MZ]である)を含む。経時的な抗PCの個体間誤差を試験するために、本願発明者は、また、23のランダムに選択したコントロールについての血清のフォローアップサンプルを含ませた。
【0095】
[分析]抗-PC抗体のレベルを、血清中で、ml当り0.5ユニット(U/ml)の検出限界を有するELISA手法(CVDefine(商標)、Athera Biotechnologies AB、前記で論じた)を用いて測定した。試験の正確性は、2.5%未満(アッセイ間の誤差)および7%未満(アッセイ内の誤差)であった(Athera CVDefine(商標) product sheetから)。サンプル中の抗-PC抗体の濃度の分布に基づいて、双子を、四分割した(25%のユニット)。認知症のオッズ比(OR)は、1つの症例およびマッチさせたコントロールを含む階層別に条件付きロジスティック回帰を用いてモデル化した。
【0096】
[結果-記述統計学]ケースコントロールサンプル。全てのサンプルについての採血時の平均年齢は、78.6(幅52.6-94.3)であった。抗PC濃度の平均(幾何平均)は、48.2U/mlであり、四分位数は、<=28.5、28.5-46.6、46.6-75.9、>75.9であった。incident caseの血液サンプルは、平均して認知症発病前4.6年(幅0.1-15.0)で回収した。incident case-controlおよびprevalent case-controlサンプルに関する記載は、表1および2において見ることができる。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
[結果-記述統計学]フォローアップサンプル。フォローアップサンプルを、元のサンプル後に平均して3.1年で回収した(幅2.9-4.2)。濃度は、平均して、59.5から52.9U/mlへと6.6U/ml(p=0.04)減少していた。最初のサンプルからフォローアップサンプルへの間に抗PC濃度の第一四分位から他へと変更した6の双子(30.4%)が存在していた。
【0100】
[結果-認知症のリスク]認知症、ADまたはVaD/混合型認知症のincident caseのORは、表3において見ることができる。
【0101】
最も低い四分位と残りのサンプルと比較した場合、認知症およびADのリスクは、認知症の発病の4年以上前に血液を与えた症例(OR 1.86(1.07-3.22)において、認知症の発病前の4年未満に血液を与えた症例(OR 1.29(0.75-2.20))と比較してより顕著であった。ADについては、この効果は、それぞれOR 4.83(1.95-11.96)とOR 1.20(0.60-2.41)であり、更により顕著であったと考えられる。表4は、認知症、ADまたはVaD/混合型認知症のprevalent caseのORを示す。
【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
[結果-記述統計学]双子比較分析(co-twin control analysis)。48の二卵生(DZ)双子のペアに基づく認知症のincident caseのORは、1.09(0.62-1.92)であった。13のMZ双子のペアについては、ORは0.86(0.29-2.55)であった。
【0105】
[考察]我々の知る限りでは、ヒトまたは動物モデルにおける認知症、ましてやアルツハイマー病と抗-PC抗体との間の関係についての過去の研究は存在しない。
【0106】
天然の抗-PCは、異なってはいても関連するメカニズムを介してアルツハイマー病の発病に直接的に関連しているのであろう。我々は、最近、抗-PCが、PAFによって誘導される内皮活性化に対する阻害効果によって、抗-炎症特性を有することを報告し、低いレベルの抗-PCが、炎症性、PAF様、PC暴露リン脂質によって媒介される慢性炎症および自己免疫疾患にかかりやすい可能性があることを示唆した(Su et al, 2008)。従って、グリセロホスホリルコリンがADの脳で(Barany et al, 1985およびNitsch et al, 1992)ならびに脳脊髄液(Walter et al, 2004)で増加することを指摘することは興味深い。これらのデータは、増加したホスホリパーゼ活性によって媒介されるであろうホスファチジルコリン加水分解がアルツハイマー病の脳で生じており、暴露されたPCを有する炎症性リン脂質を産生していることを暗示している(Walter et al, 2004)。実際に、ホスホリパーゼA(2)(PLA(2))酵素は、アルツハイマー病の記憶障害および神経変性に関与しうる(Schaeffer & Gattaz , 2008)。また、酸化ストレスはアルツハイマー病で増加し(Draczynska-Lusiak et al, 1998、Lovell & Markesbery 2007およびPratico 2008)、低い抗-PCは、PLA2または酸化によって産生する炎症性リン脂質の阻害が減少することによって、アルツハイマー病を促進するであろう。
【0107】
この試験に基づいて、我々は、炎症性因子様酸化リン脂質と抗-PCとしての天然の防御免疫との間のバランスが、アルツハイマー病に罹りやすくするであろう免疫不全状態が原因で、シフトするという新規の理論的枠組みを提案する。抗-PCレベルが上がることは、アルツハイマー病の発病を遅らせるのに、またはアルツハイマー病の症状を改善するのに有効である。
【0108】
本明細書に開示した、または請求項に記載の全ての組成物および方法は、本開示に照らし合わせて、過度の実験を必要無く、実施および実行することができる。本発明の組成物および方法は好ましい実施態様の観点から記載されているが、当業者は、変更を、組成物および方法に、および本明細書に記載の方法の工程または一連の工程に、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく加えることができると当然ながら理解する。より具体的には、同じまたは類似の結果が得られる間は、化学的および生理学的に関連した特定の薬剤を、本明細書の薬剤と置換できると当然ながら理解される。当業者にとって明白な全てのこのような類似の置換および修飾は、請求項によって定義される本発明の精神、範囲および概念の範囲内に存在すると見なされる。
【0109】
以下の参考文献は、例示の手続に関する詳細または本明細書に記載する詳細を補足する他の詳細を提供する程度に、特に参照によって本明細書に含まれる。
【0110】
[参考文献]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病の発病または進展の患者のリスクを評価する方法であって、ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体の患者のレベルを評価する工程を含む、方法。
【請求項2】
ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体の低いレベルが、アルツハイマー病の発病または進展の高いリスクを予測する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルを、患者から入手したサンプル、例えばex vivoサンプルにおいて評価する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有するIgM、IgGおよび/またはIgA抗体のレベルを評価する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルを、ホスホリルコリンコンジュゲートを使用して評価する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ホスホリルコリンコンジュゲートを使用した、アルツハイマー病を発病する高いまたは低いリスクに関連する、IgM、IgGまたはIgA抗体の存否を分析する方法。
【請求項7】
アルツハイマー病を発病する高いまたは低いリスクに関連するIgM、IgGまたはIgA抗体が、ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アルツハイマー病を発病する高いまたは低いリスクに関連するIgM、IgGまたはIgA抗体の低いレベルが、アルツハイマー病の発病または進展の高いリスクを予測する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
アルツハイマー病を発病する高いまたは低いリスクに関連するIgM、IgGまたはIgA抗体のレベルを、患者から入手したサンプル、例えばex vivoサンプルにおいて評価する、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
PC-コンジュゲートが、スペーサーを介してキャリアに結合したホスホリルコリンを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
PC-コンジュゲートが、キャリアタンパク質に結合したホスホリルコリンを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
タンパク質が、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)、ヒト血清アルブミン(HSA)またはウシ血清アルブミン(BSA)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アッセイがイムノアッセイである、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
患者がヒトである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
テストサンプルを、少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85歳以上のヒト患者から入手する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
アルツハイマー病の発病または進展の個体のリスクを評価するための方法における、ホスホリルコリンコンジュゲートの使用であって、ホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を有する抗体、例えばIgM、IgGまたはIgA抗体の個体のレベルを評価する、使用。
【請求項17】
ホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を有する抗体のレベルを、請求項1から15のいずれか一項で定義した方法によって評価する、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
アルツハイマー病の対象またはアルツハイマー病の発病のリスクに直面する対象の予防的および/または治療的処置方法であって、治療上有効量の、ホスホリルコリン(PC)および/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物を、対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項19】
アルツハイマー病に対して対象を免疫化ならびに予防、防止および/または治療する方法であって、対象に、ホスホリルコリンおよび/またはホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を有する抗体調製物を含む医薬組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項20】
PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有する抗体調製物が、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有するモノクローナル抗体を含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
ホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を有する抗体を含む、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療用医薬組成物。
【請求項22】
注射による投与用である、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
抗体が、PCおよび/またはPC-コンジュゲートに反応性を有するモノクローナル抗体である、請求項21または22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
アルツハイマー病の予防、防止および/または治療用医薬組成物の製造における、ホスホリルコリンおよび/またはホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を有する抗体調製物の使用。
【請求項25】
抗体調製物が、ホスホリルコリンおよび/またはホスホリルコリンコンジュゲートに反応性を有するモノクローナル抗体を含む、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
医薬組成物が、注射による投与用である、請求項24または25に記載の使用。
【請求項27】
アルツハイマー病の対象またはアルツハイマー病を発病するリスクに直面する対象の予防的および/または治療的処置方法であって、治療上有効量の少なくとも1つのホスホリルコリンコンジュゲートを対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項28】
アルツハイマー病に対して対象を免疫化ならびに予防、防止および/または治療する方法であって、対象に、少なくとも1つのホスホリルコリンコンジュゲートを含む医薬組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項29】
ホスホリルコリンコンジュゲートを含む、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療用医薬組成物。
【請求項30】
注射による投与用である、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
アジュバントを組合せてもよい、アルツハイマー病の予防、防止および/または治療用医薬組成物の製造における、ホスホリルコリンコンジュゲートの使用。
【請求項32】
医薬組成物が、注射による投与用である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
患者がヒトである、請求項18から20、27および28のいずれか一項に記載の方法、請求項21から23、29および30のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項24から26、31および32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
ヒト患者が、少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85歳以上である、請求項33に記載の方法、医薬組成物または使用。
【請求項35】
患者が、アルツハイマー病の発病または進展の高いリスクを有すると診断されている、請求項18から20、27、28、33および34のいずれか一項に記載の方法、請求項21から23、29、30、33および34のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項24から26および31から34のいずれか一項に記載の使用。
【請求項36】
患者が、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法によって、アルツハイマー病の発病または進展の高いリスクを有すると診断されている、請求項35に記載の方法、医薬組成物または使用。

【公表番号】特表2011−527016(P2011−527016A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517006(P2011−517006)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004849
【国際公開番号】WO2010/003602
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(510119773)アセラ・バイオテクノロジーズ・アーベー (3)
【Fターム(参考)】