アルツハイマー病に関する方法及び組成物
【課題】多くの薬剤が、アルツハイマー病に関連した行動に現れる症状(攻撃性、偏執章、妄想又は鬱)を治療するために使用されているが、4つの薬剤(コリンエステラーゼ阻害剤として知られている)のみが、ADと診断されたヒトの認知機能の改善を助けるのに利用することができる。これらの薬剤Cognex(tacrine)、Aricept(donepezil)、Exelon(rivastigmine)及びReminyl(galantamine)は、対症的な有益性のみ提供し、病気の経過を変更させることは見いだされていない。
【解決手段】本願発明は、正常な状態に比較して、アルツハイマー病において差異的に発現するタンパク質を含む、アルツハイマー病に関する方法及び組成物を提供する。更に、アルツハイマー病を治療又は予防するための化合物に対する潜在的な分子ターゲットである差異的に発現するタンパク質の同定のための方法、特に、実験的なパラダイムを提供する。また、アルツハイマー病の予防及び治療のための化合物の同定方法及びその治療上の使用を提供する。
【解決手段】本願発明は、正常な状態に比較して、アルツハイマー病において差異的に発現するタンパク質を含む、アルツハイマー病に関する方法及び組成物を提供する。更に、アルツハイマー病を治療又は予防するための化合物に対する潜在的な分子ターゲットである差異的に発現するタンパク質の同定のための方法、特に、実験的なパラダイムを提供する。また、アルツハイマー病の予防及び治療のための化合物の同定方法及びその治療上の使用を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病に関する方法及び組成物に関する。特に、本発明は、正常な状態に比較して、アルツハイマー病において差異的に発現するタンパク質を同定し且つそれを記載する。さらにまた、本発明は、アルツハイマー病を治療又は予防するための化合物に対する潜在的な分子ターゲットである差異的に発現するタンパク質の同定のための方法、特に、実験的なパラダイムを提供する。さらに本発明は、アルツハイマー病の予防及び治療のための化合物の同定方法及びその治療上の使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、高齢者の最も一般的な認知症の原因であり、現在のところ治療方法が存在しない衰弱性の神経変性疾患である。この病気により、脳の一部分、おもに記憶をコードすることに関与する海馬における神経を消滅させる。アルツハイマー病は、機能自律性及び認知機能の不可逆的な進行性消失をもたらす。ADの最も早期の兆候は、単純な健忘症と間違えられる可能性があるが、アルツハイマー病と結果的に診断されたヒト達においては、これらの初期的兆候は、冷酷なことに、精神機能低下のより重篤な兆候へと進行する。ADが進行する時間は、ヒトによって変わるが、進行した兆候には、重篤な記憶障害、混乱、言語障害、人格及び行動の変化、並びに判断力の低下が含まれる。ADを患ったヒトは、コミュニケーションをしようとせず、敵対心を有するようになる。この病気は、その進行において、深刻な認知症をもたらすので、患者は、自分自身でケアことができず、たびたび、収容又は家庭の場での専門的なケアが必要である。患者の中には、ADと診断された後も何年間も生存することができるヒトが存在し、診断後の平均寿命は8年である。
過去において、ADは、脳生検、又は患者が死亡した後での病理解剖により、確定をもって診断することができた。これらの方法は、脳における特徴的なプラーク及び絡み合った病巣の存在を実証し、ADの病理学的診断についての最も標準的な検査であると現在でも考えられている。しかしながら、臨床状況においては、脳生検はほとんど行われず、診断は、脳脊髄液及び血液中の生物学的マーカー(例えば、ApoE及びtauタンパク質又はβ-アミロイドペプチド)の測定を含む一連の神経学的試験、心理試験及び生化学的試験に依存する。
多くの薬剤が、ADに関連した行動に現れる症状(攻撃性、偏執章、妄想又は鬱)を治療するために使用されているが、4つの薬剤(コリンエステラーゼ阻害剤として知られている)のみが、ADと診断されたヒトの認知機能の改善を助けるのに利用することができる。これらの薬剤Cognex(tacrine)、Aricept(donepezil)、Exelon(rivastigmine)及びReminyl(galantamine)は、対症的な有益性のみ提供し、病気の経過を変更させることは見いだされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,376,110号
【特許文献2】米国特許第4,946,778号
【特許文献3】米国特許第4,873,191
【特許文献4】米国特許第4,109,496号
【特許文献5】米国特許第5,093,246号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.S.Rossier et al., 1999, Electrophoresis 20: pages 727-731
【非特許文献2】Proteins: Structures and Molecular Principles”, W.H. Freeman & Co., N.Y., pp. 34-49
【非特許文献3】Ausubel, supra. And PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (1990) Innis, M. et al., eds. Academic Press Inc., New York
【非特許文献4】Chien et al (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 9578-9582
【非特許文献5】Kohler and Milstein, 1975, Nature, 256, 495-497
【非特許文献6】Kosbor, et al., 1983, Immunology Today 4:72
【非特許文献7】Cole et al., 1983, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80;2026-2030
【非特許文献8】Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss Inc., pp-77-96
【非特許文献9】Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. 81: 6851-6855
【非特許文献10】Neuberger et al., 1984, Nature 312 :604-608
【非特許文献11】Takeda et al., 1985, Nature 314: 452-454
【非特許文献12】Bird, 1988, Science 242: 423-426
【非特許文献13】Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 :5879-5883
【非特許文献14】Ward et al., 1989, Nature 334 :544-546
【非特許文献15】Huse et al., 1989, Science 246: 1275-1281
【非特許文献16】Van der Putten et al., 1985, Proc. Nat. Acad. Sci., USA 82: 6148-6152
【非特許文献17】Thompson et al., 1989, Cell 56: 313-321
【非特許文献18】Lo, 1983, Mol.Cell Biol.3: 1803-1814
【非特許文献19】Lavitrano et al., 1989, Cell 57: 717-723
【非特許文献20】Gordon, 1989, Transgenic Animalsm Intl. Rev. Cytol. 115: 171-229
【非特許文献21】Lasko, M. et al., 1992, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6232-6236
【非特許文献22】Holcomb et al., Nat Med. 1998 Jan; 4(1): 97-100
【非特許文献23】Small et al., 1985, Mol. Cell Biol. 5: 642-648
【非特許文献24】Lam, K.S. et al., 1991, Nature 354: 82-84
【非特許文献25】Houghten, R. et al., 1991, Nature 354: 84-86
【非特許文献26】Rossi, 1994, Current Biology 4: 469-471
【非特許文献27】Marasco, W. et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 7889-7893
【非特許文献28】Weekes, J. et al. Electrophoresis, 20(4-5): 898-906, 1999
【非特許文献29】Heinke, M.Y. et al. (Electrophoresis, 20(10):2086-2093、1999
【非特許文献30】Pennington, K et al., Proteomics, 4(1): 27-30, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
広い意味で、本発明は、アルツハイマー病と関連するタンパク質マーカーを同定するための操作、及びADの診断又は予後診断のためのこれらのマーカーの使用に関する。本発明は、さらに、治療の標的としてのこれらのタンパク質の使用、及び、ADの治療において、又はADの治療のためのリード化合物の開発において有用であるかどうかを求めるための、候補化合物をスクリーニングする方法に関する。本明細書に開示された実験は、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein(APP))及び/又はプレセニリン-1(presenilin-1(PS-1))を発現するダブルトランスジェニックマウスであるアルツハイマー病のモデルマウスと比較した、正常なマウスにおけるタンパク質の差異的な発現を示す。
【0006】
従って、第一の態様として、本発明は、患者に由来するサンプルにおける、図3から6若しくは表7に示すタンパク質、又は図9に示すタンパク質の対応するヒトタンパク質の一つ又は複数の存在又は量を測定することを含む、患者におけるアルツハイマー病を診断する方法を提供する。
【0007】
さらなる態様として、本発明は、患者に由来するサンプルを使用した、アルツハイマー病の診断のための、図3から6若しくは表7に示すタンパク質、又は図9に示すタンパク質の対応するヒトタンパク質の一つ又は複数の存在又は量の使用を提供する。
【0008】
さらなる態様として、本発明は、アルツハイマー病を治療又は予防するための薬剤としての適合性について候補化合物をスクリーニングするための、図3から6若しくは表7に示すタンパク質、又は図9に示すタンパク質の対応するヒトタンパク質の使用を提供する。
【0009】
さらなる態様として、本発明は、以下の工程:
一つ又は複数の候補化合物が、図3から6若しくは表7に示すタンパク質、又は図9に示すタンパク質の対応するヒトタンパク質の一つ又は複数の発現又はレベルを調節することができるかどうかを測定する工程;
を含む、アルツハイマー病の予防又は治療に潜在的に有用である化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0010】
従って第一の態様として、本発明は、以下の工程:
(a)少なくとも一つのタンパク質が、アルツハイマー病を有する被検体又はアルツハイマー病になりやすい素因を有する被検体、及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するというパラダイムを確立する工程;
(b)スクリーニングされる薬剤で処理された、アルツハイマー病を有する被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織のサンプルを得る工程;
(c)処理された被検体から得た組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するタンパク質の存在、不存在、又は発現の度合いを測定する工程;並びに
(d)アルツハイマー病を有する処理された被検体において差異的に発現したタンパク質の発現、活性又は量を、正常な被検体のものへと変化させる程度に従って、上記薬剤を選択又は拒絶する工程;
を含む、アルツハイマー病の治療における有用性を決定するための薬剤のスクリーニング方法を提供する。
パラダイムは、差異的に発現する少なくとも一つのタンパク質を確立する工程を含む。しかしながら、幾つかの実施態様として、パラダイムは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10又は20個の差異的に発現したタンパク質を使用することができる。
【0011】
好ましくは、この方法においては、上記薬剤が、タンパク質の発現を、正常な被検体の発現に転換させるならば、この薬剤を選択する。スクリーニング方法で使用することができる差異的に発現するタンパク質の例は、図3から6及び図9並びに表7で提供され、グアノシンジホスフェート解離阻害因子1(guanosine diphosphate dissociation inhibitor 1)、ジヒドロピリミジニアーゼ関連タンパク質2(dihydropyrimidinease related protein-2)、プロテアソームサブユニットアルファタイプ6(proteasome subunit alpha type 6)、アポリポタンパク質E(apolipoprotein E)、シナプシンII(synapsin II)、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼアイソザイムL1(ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase isozyme L1)、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase)、グルタチオンS-トランスフェラーゼmu 1(glutathione S-transferase mu 1)、チューブリンベータ-4鎖(tubulin beta-4 chain)、WWドメイン結合タンパク質2(WW domain binding protein 2)、真核生物翻訳開始因子4H(eukaryotic translation initiation factor 4H)、チューブリンベータ-3(tubulin beta-3)、神経タンパク質Np25(neuronal protein Np25)、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼA(fructose-bisphosphate aldolase A)、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼC(fructose-bisphospahte aldolase C)、ヌクレオリシンTIA関連タンパク質(nucleolysin TIA related protein)、ペプチジルプロリルイソメラーゼD(peptidylprolyl isomerase D)、電位依存性アニオン選択的チャンネルタンパク質1(voltage-dependent anion-selective channel protein 1)及びミトコンドリア アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ前駆体(acetyl-COA acetyltransferase mitochondrial precursor)が含まれる。
【0012】
本明細書に記載の図及び表で示されるタンパク質について、プロセシングを受けた形態(例えば、前駆体形態の切断により、例えばシグナルペプチドの除去により生じた成熟タンパク質)が含まれる。プロセシングを受けた形態に対応するアミノ酸残基は、図又は表で示すSWISS-PROT又は他のデータベースエントリーで定められる。
【0013】
例としては、パラダイムは、(a) アミロイド前駆体タンパク質(APP)及びプレセニリン-1(PS-1)ダブルトランスジェニックマウス、並びに野生型マウスに由来するサンプル、並びに/又は、(b)APPマウス及び/若しくはシングルトランスジェニックPS-1マウスに由来するサンプルに基づくことができる。パラダイムは、また、ADの他の動物モデルに由来するサンプルを使用することができる。好ましいサンプルは、組織サンプル、例えば血清サンプル、又は最も有用には脳組織サンプル(例えば、海馬、脳半球、前側帯皮質組織)である。
【0014】
幾つかの実施態様として、パラダイムにおいては、異なるレベルのタンパク質発現を有する被検体は:
(a)野生型マウス及び上記したトランスジェニックマウス;並びに
(b)薬剤で処理されなかった上記したトランスジェニックマウス、及び薬剤で処理された上記したトランスジェニックマウス;
を含む。
【0015】
好ましくは、タンパク質発現の差異的なレベルは、薬剤で処理された野生型マウス及び薬剤で処理されなかった野生型マウスで見られない。
【0016】
付加的に又は代替的に、パラダイムにおいては、異なるレベルのタンパク質発現を有する被検体は:
(a)薬剤で処理された野生型マウス及び薬剤で処理されなかった野生型マウス;並びに
(b)薬剤で処理された上記したトランスジェニックマウス及び薬剤で処理されなかった上記したトランスジェニックマウス;
を含む。
【0017】
この場合、タンパク質発現の差異的なレベルは、野生型マウス又は薬剤で処理されなかったトランスジェニックマウスで見られない。
【0018】
本発明の全ての態様においては、サンプルに存在するタンパク質は、関連組織又はタンパク質を含む関連組織の抽出物で実施される二次元ゲル電気泳動又はSELDI分析を使用して、確立することができる。タンパク質は、以下に概略するように単離することができ、さらに同定のために分析することができる。タンパク質は、典型的には、上記タンパク質を分析するための質量分析及びデータベース検索を使用して、同定することができる。
【0019】
差異的な発現は、統計的分析、例えば、2Dゲル又はSELDIピークのスポットの強度の統計的分析を使用して確認することができる。統計的分析には、Mann-Whitney検定などの一変数方法、並びに主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)及び部分的最小二乗データ分析(Partial Least Squares Data Analysis:PLS-DA)などの多変数方法を含むことができる。
【0020】
好ましい実施態様として、病気の状態及びコントロールの間のタンパク質発現の変化の倍数は、少なくとも1.2、1.4、1.5、1.7、2、2.5又は3である。
【0021】
例えば、以下の方法を適用することができる。(a)ロードしたスポット内の対象ピークの場所は、データモデリングプロセスにおける群の分離に対する明らかな寄与を示し、交差検定の実施を可能とする。(b)p値<0.05は、Mann-Whitneyの一変数検定を使用して達成される。(c)2つの群間の多数のマーカーの変化の程度は、少なくとも1.5倍の上方制御又は下方制御である。
【0022】
質量分析により、多数のペプチド断片がSELDIピーク又は2Dゲルスポットに存在していることが明らかになる場合、SELDIピーク又は2Dゲルスポットの質量とマッチする、試験により産生したタンパク質の断片の可能性を予測するために、Biolynx(Micromass、UK)などのペプチド断片予測ソフトウェアを使用することができる。その後、予測された断片を、質量分析で同定された断片と比較することができる。
【0023】
本発明のさらなる好ましい実施態様として、上記方法で同定した差異的に発現するタンパク質を単離する工程、及び/又は、単離したタンパク質を特徴づけるする工程をさらに含むことができる。
【0024】
差異的に発現するタンパク質は、必要に応じて、2Dゲルスポットからの切除;又はSELDIチップからの溶出に続く、溶出タンパク質のゲル電気泳動による分離、及び、対象とするSELDIピークの分子量に対応する分子量に移動したタンパク質バンドのゲルからの切除、そして、上記抽出物中のタンパク質を同定する工程によって、同定することができる。
【0025】
本発明により同定されたタンパク質及び本明細書に開示された本発明の全ての態様における使用のために適用可能なタンパク質の例には、図3から6及び図9並びに表7で示されるタンパク質、特には、グアノシンジホスフェート解離阻害因子1、ジヒドロピリミジニアーゼ関連タンパク質2、プロテアソームサブユニットアルファタイプ6、アポリポタンパク質E、シナプシンII、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼアイソザイムL1、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼmu 1、チューブリンベータ-4鎖、WWドメイン結合タンパク質2、真核生物翻訳開始因子4H、チューブリンベータ-3、神経タンパク質Np25、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼA、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼC、ヌクレオリシンTIA関連タンパク質、ペプチジルプロリルイソメラーゼD、電位依存性アニオン選択的チャンネルタンパク質1及びミトコンドリア アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ前駆体が含まれる。
【0026】
一つの実施態様として、タンパク質は、タンパク質の特異的な結合パートナーのためのアッセイに使用することができる。タンパク質は、また、タンパク質のアゴニスト又はアンタゴニストのスクリーニングのためのアッセイに使用することができる。薬剤又はタンパク質は、ハイスループットスクリーニング方法を使用して、スクリーニングすることができる。
【0027】
アゴニスト又はアゴニストは、例えば、小分子、抗体、アンチセンス核酸又はsiRNAとすることができる。
【0028】
さらなる態様として、本発明は、上記方法を使用して薬剤を同定する工程、上記薬剤を製造して、上記薬剤を許容可能なキャリアーと調合して医薬組成物を提供する更なる工程を含む、医薬組成物の製造方法を提供する。
【0029】
さらなる態様として、本発明は、治療方法における使用のための、図3から6若しくは表7で示すタンパク質、又は図9に示すタンパク質の対応するヒトタンパク質を提供する。
【0030】
さらなる態様として、本発明は、アルツハイマー病の治療のための医薬の製造のための、前記方法によって同定された薬剤の使用を提供する。
【0031】
さらなる態様として、本発明は、上記方法によって同定された上記薬剤の治療上又は予防上の有効量を患者に投与する工程を含む、患者においてアルツハイマー病を治療する方法を提供する。
【0032】
さらなる態様として、本発明は、以下の工程:
(a)少なくとも一つのタンパク質が、アルツハイマー病を有する被検体及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するというパラダイムを確立する工程;
(b)上記被検体から上記組織のサンプルを得る工程;
(c)上記サンプルにおける差異的に発現するタンパク質の存在、不存在又は発現の度合いを測定する工程;並びに
(d)上記測定値と臨床上の情報の間の従前の相関関係を参考にして、アルツハイマー病の発症について測定値を関連させる工程;
を含む、ヒト又は動物被検体におけるアルツハイマー病の性質又は度合いを測定する方法を提供する。
【0033】
タンパク質の存在、不存在又は発現の度合いを、患者又は被検体に由来するサンプルにおいて測定する場合、サンプル中の上記タンパク質の量を、好ましくは、非-アルツハイマー病の被検体から得られたコントロールサンプルを参照にして確立する。
【0034】
組織サンプルは、例えば、血液、血漿、脳脊髄液又は血清とすることができる。
【0035】
一つの実施態様として、少なくとも4つのタンパク質を、パラダイムにおいて差異的に発現させて、アルツハイマー病の性質又は度合いの複合的なタンパク質フィンガープリントを提供する。
【0036】
差異的に発現するタンパク質は、上記タンパク質に特異的な抗体を使用して、例えばELISAアッセイ又はウェスタンブロッティングにより検出することができる。代替的に、差異的に発現するタンパク質は、とりわけ、2Dゲル電気泳動、又はLC/MS/MS、MALDI-TOF若しくはSELDI-TOFを含む質量分析手法により検出することができる。サンプルは、分析のための固体支持体上に固定化することができる。
【0037】
他の実施態様として、方法は、アルツハイマー病を治療するための有効な治療を求める工程を更に含む。
【0038】
さらなる態様として本発明は、対象におけるアルツハイマー病の進行を予防するための、アルツハイマー病の状態において差異的に発現する一つ又は複数のタンパク質の発現を、正常な状態において見出されるものに戻すであろう薬剤の使用による治療の方法を提供する。
【0039】
さらなる態様として本発明は、アルツハイマー病を有する個体の組織サンプル又は体液サンプル又は尿における差異的に発現したタンパク質のパターンを使用して、アルツハイマー病を緩和し上記治療の成功をモニターする最も適切で有効な治療方法を予測する方法を提供する。
【0040】
さらなる態様として、本発明は、アルツハイマー病を有する被検体及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するタンパク質であり、上記の組織又はそのタンパク質含有抽出物を用いた実施した二次元ゲル電気泳動方法によって入手可能であるタンパク質であって、上記方法が、以下の工程:
(a)3mm×180mmのアクリルアミドポリマーの非直線状固定化pH勾配(IPG)ストリップを準備する工程;
(b)尿素(8M)、3-[(コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS、2%w/v)、ジチオエリスリトール(DTE、10mM)、pH3.5から10の酸及び塩基の混合物(2%w/v)、及び微量のBromophenol Blueの水溶液を25ml含むカセット中で、上記IPGストリップを再水和する工程;
(c)上記カセットから液体を除き、湿った電極芯、電極、及びサンプルカップを備えた電気泳動トレーに上記ストリップを移し、上記ストリップとカップを低粘度のパラフィン油で覆う工程;
(d)上記IPGストリップの陰極末端で、サンプルカップに、尿素(8M)、CHAPS(4%w/v)、Tris(40mM)、DTE(65mM)、SDS(0.05%w/v)、及び微量のBromophenol Blue中で、関連生体組織の乾燥粉末化した材料の水溶液の200マイクログラムを適用する工程;
(e)3時間で300から3500Vまで直線状に増加させ、その後さらに3時間3500Vとし、その後pI依存性最終地点に、上記ストリップ中で上記タンパク質が移動するのに十分な時間5000Vとした電圧で、ゲル上で等電点電気泳動を実施する工程;
(f)Tris-HCl(50mM)pH6.8、尿素(6M)、グリセロール(30%v/v)、SDS(2%w/v)及びDTE(2%w/v)を含む100mlの水溶液で12分間、トレー内で上記ストリップを平衡化する工程;
(g)5分間この溶液を、Tris-HCl(50mM)pH6.8、尿素(6M)、グリセロール(30%v/v)、SDS(2%w/v)、ヨードアセタミド(2.5%w/v)、及び微量のBromophenol Blueを含む100mlの水溶液によって置換する工程;
(h)リーディングバッファーとしてのTris-HCl(0.375M)pH8.8中のTEMED(0.5%w/v)、過硫酸アンモニウム(0.1%w/v)、及びチオ硫酸ナトリウム(5mM)の存在下で重合した、アクリルアミド/ピペラジン-ジアクリリル架橋剤(9-16%T/2.6%C)の160×200×1.5mmの縦勾配スラブゲルを準備する工程;
(i)約2時間sec-ブタノールで上記ゲルを浸し、この液を除去し、それを水と置換する工程;
(j)陽極末端から6mmと陰極末端から14mmを除去して、二次元電気泳動のために適したサイズにIPGゲルストリップを切断する工程;
(k)リーディングバッファーとしてのアガロース(0.5%w/v)及びTris-グリシン-SDS(25mM-198mM-0.1%w/v)の水溶液でスラブゲルを浸し、70℃に加熱し、この浸した溶液を通じてスラブゲル上に上記IPGゲルストリップを乗せる工程;
(l)8-12℃で5時間40mAの一定電流で、二次元電気泳動を実施する工程;並びに
(m)ゲルを洗浄する工程;
を含む、タンパク質を提供する。
【0041】
他の態様として、本発明は、以下の工程:
a)図3から6、表7及び図9で示すタンパク質から、少なくとも一つの候補タンパク質を選択する工程;
b)狭い範囲の固定化pH勾配(IPG)を使用した二次元ゲル電気泳動を介して、他のタンパク質から、上記候補タンパク質が分離可能なpH範囲を選択する工程;
c)上記で選択したpH範囲のIPGを使用した二次元ゲル電気泳動によって、生物学的サンプル中の他のタンパク質から、上記候補タンパク質を分離する工程であって、上記サンプルが、それぞれ、アミロイド前駆体タンパク質(APP)及びプレセニリン-1(PS-1)ダブルトランスジェニックマウス並びに野生型マウスから得られる工程;
d)トランスジェニックマウス及び野生型マウスから得られたゲルにおけるスポットの強度を比較する工程;
e)強度が2つのゲルの間で異なるスポットを選択する工程;並びに
f)上記スポットにおけるタンパク質を同定する工程;
を含む、アルツハイマー病の患者とアルツハイマー病ではない患者との間で発現のレベルが異なるタンパク質を同定する方法を提供する。
【0042】
他の態様として、本発明は、以下の工程:
a)ゲル電気泳動により、生物学的サンプル中のタンパク質を分離する工程;
b)表3、4又は5で示すピークに対応する分子量に移動したタンパク質バンドを、ゲルから抽出する工程;及び
c)上記抽出物中のタンパク質を同定する工程;
を含む、アルツハイマー病の患者とアルツハイマー病ではない患者との間で発現のレベルが異なるタンパク質を同定する方法を提供する。
【0043】
好ましい実施態様として、抽出物中のタンパク質の同定は、質量分析によって実施する。抽出物が、複数のタンパク質断片を含む場合は、表3、4又は5で示すピークの更なる分析を、BioLynx(Micromass、UK)などのペプチド断片の産生を予測するソフトウェアを使用して実施することができる。その後、予測されたペプチドを、MSで同定されたペプチドとマッチさせることができる。
【0044】
差異的に発現したタンパク質の同定の確認は、質量分析によって同定されたペプチド上で見いだされるペプチドエピトープに特異的な抗体を用いた細胞サンプルのウェスタンブロッティング及びプロービングによって実施することができる。
【0045】
一つの実施態様として、リストしたタンパク質の差異的な発現は、図10で示すペプチドに特異的な抗体を用いたプロービングによって検出される。
【0046】
幾つかの実施態様として、シングルトランスジェニックAPPマウス及び/又はシングルトランスジェニックPS-1マウスに由来するサンプルも使用する。生物学的サンプルは、例えば、海馬組織などの脳組織、又は血清とすることができる。工程(f)は、上記タンパク質を分析するための質量分析を使用する工程、及び、同定した上記タンパク質についてデータベースを検索する工程を含みうる。
本発明の実施態様を、添付の図を参照に、例を介して開示するが、制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、海馬及び脳半球の残りの両方について、pH4-7L及びpH6-9Lを使用して得られた典型的なタンパク質発現プロファイルを示す。
【図2】図2は、ww及びtt群の分析における最初の2つの基本的な成分を示したPCAスコアプロットを示す(4-7ゲルの海馬組織)。横軸:群内変動。縦軸:群間変動。
【図3】図3は、質的な変化を示す3個のスポットにおいて同定したタンパク質の詳細を示す。
【図4A】図4A及び図4Bは、海馬のpH4-7で同定した28個のスポットにおいて同定したタンパク質の詳細を示す。
【図4B】図4Aを参照。
【図5A】図5A及び図5Bは、海馬のpH6-9で同定した7個のスポットにおいて同定したタンパク質の詳細を示す。
【図5B】図5Aを参照。
【図6】図6は、ROHのpH4-7で同定した5個のスポットにおいて同定したタンパク質の詳細を示す。
【図7】図7は、一つより多い比較において統計的に有意な発現を有する19個のスポットを示す。矢印は、wwに対する倍数についての発現の「方向」を示す。倍数は、一般的には≧2倍増加又は減少ではないが、典型的には、1.2から1.7の間である。
【図8A】図8A及び図8Bは、重要なタンパク質の同定及び一般的な機能を示す。
【図8B】図8Bを参照。
【図9A】図9Aから図9Iは、図3から6で示したマウス/ラットタンパク質に対応するヒトタンパク質についての、利用可能なaccession numberを示す。
【図9B】図9A参照。
【図9C】図9A参照。
【図9D】図9A参照。
【図9E】図9A参照。
【図9F】図9A参照。
【図9G】図9A参照。
【図9H】図9A参照。
【図9I】図9A参照。
【図9J】図9A参照。
【図10A】図10Aから図10Jは、対象とする6つのSELDIピークのBioLynx分析の結果を示す。図10Aは、「図10a:SELDI m/zピーク1(= 3771)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10B】図10Bは、「図10b:SELDI m/zピーク2(= 3900)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10C】図10Cは、「図10c:SELDI m/zピーク3(= 4013)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10D】図10Dは、「図10d:SELDI m/zピーク4(= 8619)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10E】図10E及び図10Fは、「図10e:SELDI m/zピーク5(= 8834)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10F】図10E参照。
【図10G】図10G及び図10Hは、「図10f:SELDI m/zピーク6(= 9172)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10H】図10G参照。
【図10I】図10I及び図10Jは、「図10g:SELDI m/zピーク1(= 3770)及びピーク4(=8618)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10J】図10I参照。
【図11A】図11は、BioLynxを使用した、観察されたペプチド断片を分析する論理的根拠を例示し、SELDIピークP1及びP2(図11a)並びにピークP4(図11b)に関するマウスのmajor urinary protein 1についての予測されたペプチド断片及び観察されたペプチド断片を示す。スペクトル及びゲルイメージの下に、major urinary protein 1(前駆体、すなわち全長)のアミノ酸配列を示す。その同定がMascotに由来するペプチドに下線を引いた。強調した表示は、SELDIピークのm/zとマッチする、BioLynxによって予測されたペプチドであり、Mascot(実験的に観察された)ペプチドも含む。テキストは、BioLynx予測ペプチドの相当するSwiss-Protアミノ酸残基番号を示す。また、タンパク質のシグナル配列(最初の19個のアミノ酸)を、黒線で示し、この領域は、一般的には、成熟タンパク質を生成するために除去される。
【図11B】図11A参照。
【発明を実施するための形態】
【0048】
(定義)
ここで使用される「差異的な発現」は、組織タンパク質発現における少なくとも一つの認識可能な差異を指す。それは、組織タンパク質発現における量的に測定可能な差異、半量的に見積もり可能な差異、又は質的に検出可能な差異であっても良い。かくして、差異的に発現するタンパク質(ここでDEPと称する)は、正常な状態における組織で強力に発現し、アルツハイマー病の状態の組織においてあまり強力に発現しない若しくは全く発現しないものでも良い。逆にそれは、疾患状態における組織において強力に発現し、正常な状態においてあまり強力に発現しない若しくは全く発現しないものでも良い。同様に差異的な発現は、非治療組織と治療組織との間の比較において各方向で見出される。さらに、発現は、タンパク質が比較の元で二つの状態の間で認識可能な変化を受けているのであれば、差異的であるとみなすことができる。
【0049】
用語、「パラダイム」は、プロトタイプの例、試験モデル、又はスタンダードを意味する。
【0050】
差異的に発現可能なタンパク質がスクリーニング方法において使用される場合はいつでも、タンパク質の差異的な発現性が事前に測定されるパラダイムを確立する予備工程を、過去のある時点でなされている必要がある。一度パラダイムが確立されたならば、スクリーニング方法が実施される全ての場合で再確立される必要はない。従って用語、「パラダイムの確立」が、構築されなければならない。
【0051】
「関連組織」は、アルツハイマー病に応答して生物学的変化を受ける任意の組織を意味する。
【0052】
「被検体の代表的な組織」は、上記の生物学的変化が、研究室の課題のためにシュミレーションすることができる任意の組織を意味し、例えば一次細胞組織、又は関連組織から最終的に由来する細胞系を含む。
【0053】
用語「被検体」は、ヒト及び動物の被検体を含む。
【0054】
上記治療は、一つ若しくは複数の薬剤若しくは食物の投与、及び/又は食餌若しくは運動のような他の因子を含むことができる。
【0055】
マウス又はラットタンパク質に対する用語「ヒトに対応する」は、対象とするマウス又はラットタンパク質と同じ名前を有するヒトタンパク質を示す。大部分の場合は、これは、対象とするマウス又はラットタンパク質に対して最も高いアミノ酸配列同一性を有するヒトタンパク質であろう。
【0056】
差異的に発現するタンパク質(DEP)は、「フィンガープリントタンパク質」、「標的タンパク質」又は「パスウェイタンパク質」を含む。
【0057】
ここで使用される用語「フィンガープリントタンパク質」はDEPを意味し、その発現が単独で又は他のDEPと組み合わされて、アルツハイマー病に罹患している疑いのある患者の状態をモニター又は評価するために使用できる。これらのタンパク質は、通常組み合わせて、特に4つ以上と組み合わせて使用されるので、これらは、場合により単独で又はこの目的のための一つ又は二つの他のタンパク質と共に使用される可能性に対して影響を受けることなく、好都合なことに、「フィンガープリントタンパク質」と称する。上記フィンガープリントタンパク質は、例えばアルツハイマー病の特定のタイプを診断し、それに対する特別の治療を示唆するのに使用できる。
【0058】
ここで使用される用語「診断」は、患者における上記疾患の存在、不存在又は可能性に関する任意の情報の提供を含む。それはさらに、それと関係する又は関係すると経験的に認識される疾患又は症状のタイプ又は分類に関する情報の提供を含む。上記疾患の治療過程の予後を包含する。
【0059】
ここで使用される用語「標的タンパク質」はDEPを意味し、そのレベル又は活性が、アルツハイマー病を緩和するための治療によって調節できる。患者における標的タンパク質のレベル又は活性の調節は、例えば、それと相互作用する標的タンパク質、別のタンパク質若しくは遺伝子、又はそれを中和する若しくは減少する薬剤(例えば、上記タンパク質に対する抗体、上記タンパク質の競合的なインヒビター、又は対応する遺伝子の転写若しくは翻訳のプロセスにおいて作用する薬剤)を投与することによって達成されても良い。
【0060】
ここで使用される用語「緩和する」は、アルツハイマー病に関して、一つ又は複数のアルツハイマー病の望ましくない兆候又は効果を減少させる任意の形態を意味する。患者のアルツハイマー病の任意の改善は、用語「緩和する」に含まれる。
【0061】
代替的に又は付加的に、DEPは、アルツハイマー病に関与する少なくとも一つの他のタンパク質又は遺伝子と相互作用できる。上記他のタンパク質は、ここで「パスウェイタンパク質」(PP)と称される。この用語は、DEPと相互作用するタンパク質に適用され、DEP自体には適用されないが、パスウェイタンパク質が別のDEPであっても良い。
【0062】
(アルツハイマー病の治療のための方法及び組成物)
正常な状態での発現に対してアルツハイマー病の状態で差異的に発現する、及び/又は、アルツハイマー病に対する処置に応答して差異的に発現する「標的タンパク質」と称するタンパク質及び/又はフィンガープリントタンパク質を開示する。付加的に、脳機能に関与するタンパク質と相互作用する「パスウェイタンパク質」と称するタンパク質を開示する。上記フィンガープリント標的及びパスウェイタンパク質を同定する方法も開示する。
【0063】
以下に、アルツハイマー病に関与する、タンパク質の発現を調節する化合物の同定方法を開示する。付加的に、以下に、アルツハイマー病の治療方法も開示する。
【0064】
また、以下に、アルツハイマー病の予後的及び診断的評価方法、並びに、この疾患に対する素因を呈する対象の同定方法を開示する。
【0065】
(1.差異的に発現タンパク質及びパスウェイタンパク質の同定)
一つの実施態様として、本発明は、アルツハイマー病に関与するタンパク質の同定のための方法に関する。上記タンパク質は、正常状態における発現に対して、アルツハイマー病において差異的に発現するタンパク質を表しても良い。さらに上記タンパク質は、アルツハイマー病を治療することに対する処置に応答して、差異的に発現する又は調節されるタンパク質を表しても良い。上記差異的に発現するタンパク質は、「標的」又は「フィンガープリント」タンパク質を表しても良い。上記タンパク質の同定のための方法は、セクション1.1に記載する。上記差異的に発現するタンパク質のさらなる特徴付けのための方法、並びに、標的及び/又はフィンガープリントタンパク質としての同定のための方法を、以下のセクションに示す。
【0066】
さらに、アルツハイマー病に関与するパスウェイタンパク質と称されるタンパク質の同定のための方法は、セクション1.3に記載する。ここで使用するパスウェイタンパク質は、アルツハイマー病に関連する他のタンパク質と相互作用する能力を示すタンパク質を指す。パスウェイタンパク質は差異的に発現しても良く、それ故、標的又はフィンガープリントタンパク質の特徴を有しても良い。
【0067】
ここで使用する「差異的な発現」は、タンパク質発現における質的及び量的な差異の両者を指す。かくして差異的に発現するタンパク質は、アルツハイマー病状態に対して正常な状態において、又は実験条件に対してコントロール条件において、活性化された発現又は完全に不活性化された発現を定性的に有しても良い。上記定性的に調節されたタンパク質は、所定の組織又は細胞タイプ内で発現のパターンを示し、それはコントロール又はアルツハイマー病の被検体のいずれかで検出可能であり、両者では検出可能ではない。代替的に、上記定性的に調節されるタンパク質は、一つ又は複数の細胞タイプ内で発現パターンを示し、それはコントロール又は実験被検体のいずれかにおいて検出可能であり、両者では検出可能ではない。ここで使用される「検出可能」は、ディファレンシャルディスプレイ2D電気泳動のような方法を使用して検出可能であるタンパク質発現パターンを指す。
【0068】
代替的に、差異的に発現するタンパク質は、アルツハイマー病の状態に対して正常な状態において、又は、実験条件に対してコントロール条件の下で、調節された発現を有する、即ち、質的に増大又は減少しても良い。アルツハイマー病の状態に対して正常な状態における、又は、実験条件に対してコントロール条件の下での、発現の異なる度合いは、2D電気泳動ゲルの銀染色のような標準的な特徴付け方法を介して視覚化するのに十分大きいことのみが必要である。発現差異を視覚化するための他の上記標準的な特徴付け方法は、当業者に周知である。これらは、クロマトグラフィー分離による連続的な分画を含み、そして、ピークの比較、キャピラリー電気泳動と、マイクロチップを含むマイクロチャネルネットワークを使用する分離を含む。
【0069】
クロマトグラフィーでの分離は、Pharmaciaの文献に記載された高速液体クロマトグラフィーによって実施でき、上記クロマトグラムは、分離の時間に対して280nmでの光の吸収のプロットの形態で得られる。次いで不完全に分解されたピークを与える物質が、再びクロマトグラフィー等の方法を受ける。
【0070】
キャピラリー電気泳動は、多くの文献に記載された方法であり、例えばP/ACE 5000システムを使用してBeckmanによって提供される文献"Total CE Solutions"において記載されている。この方法は、小さなキャピラリーチューブに含まれるサンプルを通過する電位を提供することに依存する。上記チューブは、負に荷電したシリケートガラスのような荷電した表面を有する。反対に荷電したイオン(この場合正イオン)がその表面に引きつけられ、次いで表面と同じ極性(この場合陰極)の適切な電極に移動する。サンプルのこの電気浸透流(EOF)において、正のイオンが最も早く移動し、次いで非荷電物質、その後負に荷電したイオンが移動する。かくして、タンパク質は、その荷電に従って必須に分離される。
【0071】
ミクロチャネルネットワークは、キャピラリーと幾分類似して機能し、ポリマー性材料のフォトアブレーションによって形成されることができる。この方法において、例えばポリエチレンテレフタレート又はポリカーボネートといった適切なUV吸収特性を有するポリマー上へのバーストを放射する高エネルギー光パルスを生産するために、UVレーザーが使用される。投射フォトンは閉ざされた空間を有する化学結合を切断し、内圧を生じて小さな爆発を起こし、溶けた物質の噴出を生じ、マイクロチャネルを形成する空間を背後に残す。マイクロチャネル物質は、キャピラリー電気泳動と同様に、EOFに基づく分離を達成する。それはマイクロチップ形態に採用可能であり、各チップは固有のサンプルインジェクター、分離カラム及び電気化学的検出器を有する:J.S.Rossier et al., 1999, Electrophoresis 20: pages 727-731参照。
【0072】
ProteinChip方法と組み合わせた表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(SELDI-TOF-MS)は、タンパク質を迅速に感度が高くプロファイリングする方法を提供することができ、相補的な2Dゲル電気方法の代替方法として使用される。ProteinChipシステムは、タンパク質サンプルを、チップの表面に選択的に結合することができるアルミニウムチップ(例えば、アニオン性、カチオン性、疎水性、親水性等)からなる。結合したタンパク質は、その後、過剰モルのエネルギー吸収小分子を用いて共結晶化させる。チップを、その後、N2 320nm UV短パルスレーザによって分析し、タンパク質分離及び検出は、飛行時間質量分析計により実施する。実験の各群のスペクトルプロファイルを比較し、任意の対象のピークを、以下に示す方法を使用して分析し、タンパク質の同定を確立する。
【0073】
差異的に発現するタンパク質は、標的タンパク質及び/又はフィンガープリントタンパク質としてさらに記載されても良い。ここで使用される「フィンガープリントタンパク質」は、アルツハイマー病の予後若しくは診断評価の一部として、その発現パターンが利用できる差異的に発現するタンパク質、又は、別法として、アルツハイマー病の治療に有用な化合物を同定するための方法において使用できるタンパク質を指す。フィンガープリントタンパク質は、標的タンパク質又はパスウェイタンパク質の特徴を有しても良い。
【0074】
ここで使用される「標的タンパク質」は、そのタンパク質のレベル又は活性の調節が、アルツハイマー病の進行を妨げるように機能するような、アルツハイマー病に関与する差異的に発現するタンパク質を指す。標的タンパク質は、フィンガープリントタンパク質又はパスウェイタンパク質の特徴を有しても良い。
【0075】
(1.1 差異的に発現するタンパク質の同定のための方法)
アルツハイマー病に関与するタンパク質の同定のために、各種の方法を使用できる。セクション1.1.1においては、上記タンパク質の同定のために使用できる被検体及びサンプルの産生に利用できるいくつかの実験的パラダイムを記載する。パラダイムコントロール及び実験被検体から得られた物質は、セクション1.1.2において以下に議論されるように、差異的に発現するタンパク質配列の存在について特徴付けされても良い。
【0076】
(1.1.1 差異的に発現するタンパク質の同定のためのパラダイム)
アルツハイマー病に関与する差異的に発現するタンパク質の同定のために利用可能なパラダイムにおいては、正常な状態とアルツハイマー病の状態との間で、差異的に発現するタンパク質を分析するように、パラダイムをデザインする。
【0077】
このようなパラダイムの一つの実施態様として、正常な被検体及びアルツハイマー病モデルの被検体に由来する脳組織を比較する。適切な組織には、制限されないが、海馬組織が含まれる。
【0078】
アルツハイマー病に関与する差異的に発現するタンパク質の同定のために利用可能な更なるパラダイムは、アルツハイマー病の遺伝モデルにおいて関与するであろうタンパク質を分析するようにデザインされたパラダイムである。従って、上記パラ代有無を、「遺伝的アルツハイマー病パラダイム」と称する。
【0079】
このようなパラダイムの一つの実施態様として、試験被検体には、トランスジェニック又はミュータントラット又はマウス、及び脳組織サンプルが含みうる。以下に示す例では、正常な動物に対して、アルツハイマー病のモデル動物において差異的に発現するタンパク質を同定する際における、このような遺伝パラダイムの使用を提供する。
【0080】
(1.1.2 パラダイム材料の分析)
差異的に発現するタンパク質を同定するために、1.1.1で上述のようなパラダイムで利用する被検体から得た脳組織を得る。さらに、脳組織で差異的に発現するタンパク質は、循環中に放出されるであろうため、血液及び体液を分析しても良い。
【0081】
(1.2 パスウェイタンパク質の同定のための方法)
パスウェイタンパク質の同定のための方法が、ここに記載される。ここで使用される「パスウェイタンパク質」は、アルツハイマー病に関与する差異的に発現するタンパク質と相互作用する能力を示すタンパク質を指す。パスウェイタンパク質は差異的に発現しても良く、それ故、標的タンパク質及び/又はフィンガープリントタンパク質の特徴を有しても良い。
【0082】
タンパク質-タンパク質相互作用を検出するのに適した任意の方法は、候補のタンパク質とアルツハイマー病の状態で差異的に発現することが周知であるタンパク質との間の相互作用を同定することによって、パスウェイタンパク質を同定するために使用されても良い。上記差異的に発現するタンパク質は、細胞内又は細胞外タンパク質であっても良い。上記差異的に発現するタンパク質と相互作用するこのタンパク質は、パスウェイ遺伝子産物に相当する。
【0083】
用いることができる伝統的方法の中には、共免疫沈降、架橋、及び勾配又はクロマトグラフカラムを介した共精製がある。
【0084】
代替的に、差異的に発現するタンパク質を、固体支持体上に固定化し、細胞抽出物とインキュベートして、相互作用するタンパク質を結合させる。固体支持体上に固定化されるタンパク質は、固体支持体に結合させるタンパク質に対する抗体を使用して、又は、周知の他の手法を介して固定化することができる。好ましい方法においては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)を含む融合タンパク質を使用する。このタンパク質は、グルタチオンアガロースビーズ上に固定化することができる。固体化されたタンパク質と細胞抽出物とのインキュベーション後に、遠心分離によって、ビーズ及び結合タンパク質を細胞抽出物から分離させることができ、更なる分析のために、例えばSDS-PAGEに供する。
【0085】
これらのような方法を使用することにより、パスウェイタンパク質の同定が可能となる。いったん同定すれば、パスウェイタンパク質を使用して、標準的な手法と組み合わせることにより、対応するパスウェイ遺伝子を同定することができる。例えば、パスウェイ遺伝子産物のアミノ酸配列の少なくとも一つの部分を、当業者に良く知られた手法(例えばエドマン分解法)を使用して確認することができる(Proteins: Structures and Molecular Principles”, W.H. Freeman & Co., N.Y., pp. 34-49参照)。得られたアミノ酸配列は、パスウェイ遺伝子配列のスクリーニングのために使用することができるオリゴヌクレオチド混合物の産生のガイドとして使用することができる。例えば、標準的なハイブリダイゼーション又はPCR手法によって、スクリーニングを達成することができる。オリゴヌクレオチド混合物の産生及びスクリーニングの手法は、周知である(例えば、Ausubel, supra. And PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (1990) Innis, M. et al., eds. Academic Press Inc., New York)。
【0086】
in vivoでタンパク質相互作用を検出する一つの方法である酵母のツーハイブリッドシステムは、例示のためだけであって、限定する意図なしに詳細に記載する。このシステムの一つの種類が開示されており(Chien et al (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 9578-9582)、Clontech(Palo Alto, Calif)から購入できる。
【0087】
ツーハイブリッドシステム又は関連する方法体系は、周知の差異的に発現する「ベイト」タンパク質と相互作用するタンパク質について、活性化ドメインライブラリーをスクリーニングするために使用されても良い。ゲノム全体又はcDNA配列は、活性化ドメイン(例えばGAL-4の活性化ドメイン)をコードするDNAに翻訳的に融合される。このライブラリーと、DNA結合ドメインに融合したベイトタンパク質産物のハイブリッドをコードするプラスミドとを、酵母リポーター株内に共トランスフォームし、生成したトランスフォーマントを、レポーター遺伝子を発現するものについてスクリーニングする。制限というよりはむしろ例として、ベイト遺伝子は、GAL4タンパク質のDNA結合ドメインをコードするDNAに翻訳的に融合されるように、ベクター中にクローン化できる。これらのクローンを精製し、レポーター遺伝子発現に関与するライブラリープラスミドを単離する。次いでライブラリープラスミドによってコードされるタンパク質を同定するために、DNAシークエンシングを使用する。
【0088】
ベイトタンパク質と相互作用するタンパク質を検出することができた細胞系のcDNAライブラリーを、この業界で一般的に実施されている方法を使用して調製することができる。
【0089】
タンパク質相互作用は、また、生体分子の結合をモニターするためのBiacore(商標)システムを使用してモニターして分析することができる。Biacore(商標)により、方法開発の迅速な評価及びこれらの生体分子の精製のための、生体分子の結合イベントの直接的な検出及びモニターリングが可能となる。差異的に発現するタンパク質などの標的生体分子を、センサーの表面に取り付け、この表面上にサンプルを通過させる。さらなるタンパク質が、センサー表面上の第一タンパク質に結合した場合、表面近辺で質量濃度の変化が見られる。この濃度の変化をリアルタイムで検出し、複合的な混合物からのネイティブなタンパク質の表面タンパク質への結合を、ラベル又はタグの事前の導入の必要なしにモニターする機会が得られる。結合したタンパク質を、その後、センサーチップの表面から取り除き、一般的な方法によって精製する(Nordhoff et al, 1999)。Biacore(商標)手法は、タンパク質相互作用のカイネティクス、親和性及び特異性についての情報を提供することができる。それゆえ、Biacore(商標)手法により、パスウェイタンパク質の検出が可能となる。
【0090】
一度パスウェイタンパク質を同定して単離すると、それはさらに、例えばセクション1.3で以下に記載されるように特徴付けることができる。
【0091】
(1.3 差異的に発現するタンパク質及びパスウェイタンパク質の特徴付け)
セクション1.1における上述の方法により同定されるもののような差異的に発現するタンパク質、セクション1.2における上述の方法により同定されるもののようなパスウェイタンパク質、並びに代替的手段によって同定される遺伝子は、例えばここに記載されるものような方法を利用してさらに特徴付けされても良い。上記タンパク質は、「同定されたタンパク質」としてここで称されるであろう。
【0092】
ここに記載されるもののような分析は、同定されたタンパク質の生物学的機能に関する情報を提供する。差異的に発現するタンパク質の生物学的機能の評価は、さらに、標的タンパク質及び/又はフィンガープリントタンパク質として称されることを可能にするであろう。
【0093】
特に、差異的に発現したタンパク質の調節、又は上記タンパク質の活性の調節が、アルツハイマー病を緩和できることを示すさらなる特徴を有する任意の発現タンパク質が、セクション1で上述のように「標的タンパク質」と称されるであろう。以下の議論と共に、上記標的タンパク質は、セクション3で以下に議論される化合物発見ストラテジーの焦点を構成する。さらに上記標的タンパク質及び/又は調節化合物は、アルツハイマー病の治療及び/又は予防の一部として使用できる。
【0094】
その調節が、アルツハイマー病に正に影響しないことを示す特徴を有するが、その発現パターンが、例えばアルツハイマー病と相関するタンパク質「フィンガープリント」パターンに寄与する、差異的に発現する任意のタンパク質が、「フィンガープリントタンパク質」と称されるであろう。「フィンガープリントタンパク質」は、セクション7.1で以下に十分に議論されるであろう。標的タンパク質のそれぞれはフィンガープリントタンパク質としても機能し、全て又は一部のパスウェイタンパク質であることができることに注意すべきである。
【0095】
さらに、パスウェイタンパク質は、ここに記載されるもののような方法に従って特徴付けできることに注意すべきである。差異的に発現すること、及び、タンパク質発現の調節、又はタンパク質活性の調節が、任意のアルツハイマー病を緩和することを示す情報を提供するパスウェイタンパク質は、「標的タンパク質」と称されるであろう。上記標的タンパク質は、上記の議論と共に、セクション3で以下に議論される化合物発見ストラテジーの焦点を構成し、以下のセクション4に記載される治療方法の一部として使用できる。
【0096】
さらに、パスウェイタンパク質の一つ又は複数の特徴が、差異的発現の欠如を明らかにするが、上記遺伝子の活性又は発現の調節が、言うまでもなくアルツハイマー病の兆候を緩和する証拠であることに注意すべきである。上記の場合、これらの遺伝子及び遺伝子産物は、以下のセクション3の化合物発見ストラテジーの焦点と考慮されるであろう。
【0097】
遺伝子発現又は遺伝子産物活性の調節が、アルツハイマー病に正に影響しないことをパスウェイタンパク質の特徴が示すが、その発現が差異的に発現し、例えばアルツハイマー病と相関する遺伝子発現フィンガープリントパターンに寄与する場合、上記パスウェイ遺伝子は、さらにフィンガープリント遺伝子と称されても良い。
【0098】
同定されたタンパク質をさらに特徴付けするために、各種の方法が利用できる。第一に、同定されたタンパク質の対応するヌクレオチド配列が、当業者に周知の標準法を使用することによって得られても良く、例えば、同定されたタンパク質の生物学的機能に関する情報を提供する一つ又は複数の周知の配列モチーフに対するホモロジーを明らかにするために使用されても良い。
【0099】
第二に、同定されたタンパク質の生物学的機能は、関連するin vivo及びin vitroシステムを使用することによってより直接的に評価されても良い。in vivoシステムは、制限するわけではないが、アルツハイマー病様の症状を天然で示す動物システム、又は、上記症状を示すように遺伝子操作されている動物システムを含んでも良い。さらに上記システムは、アルツハイマー病のさらなる特徴付けのためのシステムを含んでも良く、そして、これらに制限するわけではないが、上述のセクション1.1.1及び以下のセクション2.2.1に記載されたもののような天然で存在する及びトランスジェニック動物システムを含んでも良い。in vitroシステムは、これらに制限するわけではないが、インスリンを産生し分泌することが周知の細胞タイプを含む細胞ベースのシステムを含む。上記細胞は野生型細胞でも良く、又はアルツハイマー病に寄与することが周知の、又は寄与する疑いのある改変を含む非野生型細胞でも良い。上記システムは、以下のセクション2.2.2に詳細に記載される。
【0100】
同定されたタンパク質の生物学的機能をさらに特徴付けするために、これらのタンパク質の発現が、in vivo及び/又はin vitroシステムで、即ち例えばトランスジェニック動物及び/又は細胞系における過剰発現又は過小発現のいずれかで調節されても良く、その後上記システムに対する効果が評価されても良い。別法として、同定されたタンパク質の活性は、対象のin vivo及び/又はin vitroシステムにおける活性のレベルを増大又は減少することのいずれかによって調節されても良く、その後効果が評価されても良い。
【0101】
上記特徴付けを通じて得られた情報は、対象とするタンパク質を含むアルツハイマー病の治療のための関連する方法を示唆しても良い。さらに、対象とするタンパク質を含むアルツハイマー病の制御のための関連する方法が、上記特徴付けから得られた情報によって示唆されても良い。例えば、治療は、タンパク質発現及び/又はタンパク質活性の調節を含んでも良い。ここに記載されるような特徴付け方法は、上記調節が対象とするタンパク質の発現又は活性の増大又は減少を含むことを示しても良い。上記治療方法は、以下のセクション4に記載される。
【0102】
(2.差異的に発現するタンパク質及びパスウェイタンパク質)
これらに制限するわけではないが、上述のセクション1.1に同定されたような差異的に発現するタンパク質、並びに上述のセクション1.2に同定されたもののようなパスウェイタンパク質を含む同定されたタンパク質が、ここに記載される。特に、上記同定されたタンパク質のアミノ酸配列を記載する。さらに、同定されたタンパク質に対する抗体、並びに、同定されたタンパク質をさらに特徴付けして利用する細胞及び動物ベースのモデルを、このセクションにおいて記載する。
【0103】
(2.1 差異的に発現するタンパク質又はパスウェイタンパク質に特異的な抗体)
本発明は、一つ又は複数の差異的に発現するタンパク質又はパスウェイタンパク質のエピトープを特異的に認識可能な抗体の生産のための方法にも関する。そのような抗体は、これらに制限するわけではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、ヒト化又はキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab')2断片、Fab発現ライブラリーにより生産される断片、抗イディオタイプ(抗-Id)抗体、及び上記いずれかのエピトープ結合断片を含むことができる。そのような抗体は、アルツハイマー病治療法の一部として用いることができ、及び/又は、フィンガープリント、標的、若しくはパスウェイ遺伝子タンパク質の異常なレベル又は上記タンパク質の異常な形態の存在について被検体を試験することができる診断技術の一部として用いることができる。
【0104】
差異的に発現するタンパク質又はパスウェイタンパク質に対する抗体の生産のために、種々の宿主動物を、差異的に発現するタンパク質若しくはパスウェイタンパク質、又はそれらの一部の注入によって、免疫化させることができる。そのような宿主動物は、これらに制限するわけではないが、ウサギ、マウス及びラットを含む。リソレクチニン、Pluronicポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、及びBCG(bacille Calmette-Fuerin)及びCorynebacterium parvumなどの潜在的に有用なヒトアジュバンドを含む、様々なアジュバントを、宿主の種に依存して免疫応答を増加するために使用することができる。
【0105】
ポリクローナル抗体は、標的タンパク質のような抗原、又はその抗原機能を有する誘導体で免疫化された動物の血清に由来する抗体分子のヘテロジーニアスな集団である。ポリクローナル抗体の生産のために、上述のような宿主動物が、上述のようなアジュバントで補足した、差異的に発現するタンパク質又はパスウェイタンパク質を用いた注入によって免疫化されても良い。
【0106】
特定の抗原に対する抗体のホモジーニアスな集団であるモノクローナル抗体は、培養で連続的セルラインにより抗体分子の生産を提供する任意の技術によって、得ることができる。これらは、制限するわけではないが、Kohler及びMilstein(1975, Nature, 256, 495-497;及び米国特許第4,376,110号)、ヒトB-細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor, et al., 1983, Immunology Today 4:72;Cole et al., 1983, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80;2026-2030)及びEBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss Inc., pp-77-96)のハイブリドーマ技術を含む。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD及びそれらの任意のサブクラスを含む任意の免疫グロブリンクラスでも良い。本発明のmAbを生産するハイブリドーマは、in vitroでもin vivoでも培養することができる。in vivoでのmAbの高い力価の生産により、この方法は、生産の現在の好ましい方法となる。
【0107】
さらに、適当な抗原特異性のマウス抗体分子に由来する遺伝子を、適当な生物活性のヒト抗体分子に由来する遺伝子を用いてスプライシングすることにより、キメラ抗体の生産のために開発された技術(Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. 81: 6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature 312 :604-608; Takeda et al., 1985, Nature 314: 452-454)も用いることができる。キメラ抗体は、異なる部分が異なる動物の種に由来する分子であり、例えばネズミmAbに由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有する分子である。
【0108】
あるいは、一本鎖抗体の生産のために記載された技術は(米国特許第4,946,778号;Bird, 1988, Science 242: 423-426; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 :5879-5883;及び、Ward et al., 1989, Nature 334 :544-546)、差異的に発現するタンパク質又はパスウェイタンパク質-一本鎖抗体を生産するために、適合させることができる。一本鎖抗体を、アミノ酸架橋を介してFv領域の重鎖断片と軽鎖断片を連結させることにより形成し、一本鎖ポリペプチドを得る。
【0109】
特異的エピトープを認識する抗体断片は、既知の技術により生成することができる。例えば、そのような断片は、これらに制限するわけではないが、抗体分子のペプシン消化により生産されるF(ab')2断片、及び、F(ab')2断片のジスルフィド架橋を還元することにより生成されるFab断片を含む。あるいは、Fab発現ライブラリーを構築し、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速で且つ容易な同定を可能とする(Huse et al., 1989, Science 246: 1275-1281)。
【0110】
(2.2 細胞及び動物ベースのモデルシステム)
アルツハイマー病のためのモデルとして機能する、細胞及び動物ベースのシステムがここに記載される。これらのシステムは、各種の応用で使用されても良い。例えば、動物ベースのモデルシステムは、上述のセクション1.1.1に記載されたパラダイムの一つを介して、差異的に発現するタンパク質を同定するのに使用できる。細胞及び動物ベースのモデルシステムは、上述のセクション1.3に記載されたように、差異的に発現するタンパク質及びパスウェイタンパク質をさらに特徴付けするのに使用しても良い。上記さらなる特徴付けは、例えば、差異的に発現するタンパク質が標的タンパク質であることを示しても良い。第二に、上記アッセイは、以下に記載されるアルツハイマー病の症状を改善可能である化合物を同定するようにデザインされたスクリーニングストラテジーの一部として使用されても良い。かくして動物及び細胞ベースのモデルは、アルツハイマー病の治療において有効である薬剤、医薬、治療薬及び介入を同定するのに使用しても良い。さらに、以下のセクション6に記載するように、上記動物モデルは、動物被検体におけるLD50及びED50を測定するのに使用しても良く、上記データは、潜在的なアルツハイマー病治療のin vivoの効力を測定するのに使用できる。
【0111】
(2.2.1 動物ベースのシステム)
アルツハイマー病の動物をベースとしたモデルシステムは、これらに限定されないが、非遺伝子組換え動物及び遺伝子操作されたトランスジェニック動物を含んでも良い。
【0112】
加えて、アルツハイマー病を示す動物モデルは、当業者に周知であるトランスジェニック動物を産生するための手法を併用して、例えば、上述のセクション2に記載されたような標的タンパク質の遺伝子配列を利用することによって遺伝子組み換えすることができる。例えば、標的タンパク質の遺伝子配列を、対象とする動物のゲノムへと導入し、過剰発現させることができる、又は、標的タンパク質の内因性遺伝子配列が存在する場合、それらを過剰発現することができ、若しくは、代替的に、標的タンパク質の遺伝子発現を低発現化させるか不活性化させるために、それらを乱すことができる。
【0113】
標的タンパクの標的遺伝子配列を過剰発現するために、標的遺伝子配列のコード部位を、制御配列にライゲーションしてもよく、このことにより、対象とする動物及び細胞タイプにおいて遺伝子発現を誘導することができる。かかる制御領域は、当業者に周知である。
【0114】
標的タンパクの内因性遺伝子配列の低発現に関しては、その遺伝子配列を単離し、かつ、対象とする動物のゲノムに再導入された際に、その標的タンパクの内因性遺伝子アレルが不活性化されるように遺伝子操作する。好ましくは、動物のゲノムへのその遺伝子操作された標的遺伝子配列の組み込みの際に、その内因性配列が乱されるような遺伝子ターゲッティングを用いて、標的タンパクの操作された遺伝子配列が導入される。
【0115】
これらに限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、ミニブタ、ヤギ、並びにヒト以外の霊長類(例えば、ヒヒ、リス、サル、アカゲザル及びチンパンジー)を含むあらゆる種の動物を用いて、アルツハイマー病動物モデルを作製してもよい。
【0116】
当該技術分野で公知のあらゆる技術を用いて、標的タンパクの標的遺伝子トランスジーンを動物に導入して、トランスジェニック動物の創始者系統(founder line)を生じることができる。かかる技術は、これらに限定されないが、前核マイクロインジェクション(Hoppe,P.C. and Wagner,T.E., 1989, 米国特許第4,873,191);生殖細胞系へのレトロウイルス介在性遺伝子輸送(Van der Putten et al., 1985, Proc. Nat. Acad. Sci., USA 82: 6148-6152);胚幹細胞における遺伝子ターゲッティング(Thompson et al., 1989, Cell 56: 313-321);胚のエレクトロポレーション(Lo, 1983, Mol.Cell Biol.3: 1803-1814);及び、精子媒介性遺伝子輸送(Lavitrano et al., 1989, Cell 57: 717-723)等を含む。かかる技術のレビューについては、Gordon, 1989, Transgenic Animalsm Intl. Rev. Cytol. 115: 171-229を参照。
【0117】
本発明は、その全ての細胞にトランスジーンを有するトランスジェニック動物、並びに、その全ての細胞ではないがその一部にトランスジーンを有する動物、すなわちモザイク動物を提供する(例えば、Jakobovits, 1994, Curr.Biol. 4:761-763に記載された技術を参照)。トランスジーンは、単一のトランスジーンとして、あるいはコンカテマーとして、例えば、ヘッド−ヘッドタンデム又はヘッド−テイルタンデムに組み込まれてもよい。このトランスジーンは、例えば、Lasko et al.(Lasko, M. et al., 1992, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6232-6236)の教示に従って、特定の細胞タイプに選択的に導入及び活性化されてもよい。かかる細胞タイプの特異的活性化に必要な制御配列は、対象とする特定の細胞タイプに依存し、当業者に自明である。
【0118】
標的遺伝子トランスジーンが内因性標的遺伝子の染色体部位に組み込まれることを望むのであれば、遺伝子ターゲッティングが好ましい。要約すると、かかる技術を利用する場合には、対象とする内因性標的タンパクの遺伝子に相同なヌクレオチド配列を含むベクターを、染色体配列との相同的組換えを介して、内因性標的遺伝子のヌクレオチド配列に組み込み且つその機能を乱すようにデザインする。トランスジーンは、例えばGu et al. (Gu, H. et al., 1994, Science 265:103-106)の教示に従って、特定の細胞タイプに選択的に導入されて、その細胞タイプのみにおいて対象とする内因性遺伝子を不活性化することもできる。かかる細胞タイプの特異的不活性化に必要な制御配列は、対象とする特定の細胞タイプに依存し、当業者に自明である。
【0119】
トランスジェニック動物が発生したところで、組換え標的遺伝子及びタンパク質の発現を、標準的な手法を用いてアッセイする。最初のスクリーニングは、サザンブロット分析又はPCR技術によって達成してもよく、動物組織を分析してトランスジーンの組み込みが起こったか否かを評価する。トランスジェニック動物の組織中におけるトランスジーンのmRNA発現のレベルもまた、これらに限定されるものではないが、動物から得た組織サンプルのノーザンブロット分析、in situハイブリダイゼーション分析、及びRE-PCRを含む技術を利用して評価してもよい。標的タンパク質発現組織のサンプルもまた、対象とするトランスジーンタンパク質に特異的な抗体を使用して免疫細胞学的に評価してもよい。
【0120】
標的遺伝子mRNA又は標的タンパク質トランスジーンペプチド(標的タンパク質エピトープに対する抗体を使用して免疫細胞学的に検出)を容易に検出可能なレベルで発現する標的タンパク質トランスジェニック動物は、特徴的なアルツハイマー病様症状を呈する動物を識別するために、更に評価すべきである。更にまた、トランスジェニック動物内における特定の細胞型を分析し、アルツハイマー病に特徴的な細胞の表現型についてアッセイしてもよい。さらに、こうした細胞表現型は、アルツハイマー病を示す動物における、特定の細胞タイプのフィンガープリントタンパク質の発現パターンの評価、及び、この発現パターンと、その特定の細胞タイプの周知のフィンガープリント発現プロフィールとの比較を含んでも良い。こうしたトランスジェニック動物は、アルツハイマー病の適当なモデルとして役立つ。
【0121】
標的タンパク質トランスジェニック始祖動物(すなわち、対象とする細胞又は組織中において標的タンパク質を発現し、好ましくはアルツハイマー病の症状を呈する動物)が産生されたところで、これらを交配、同系交配、異系交配、又は異種交配して特定動物のコロニーを産生させる。こうした交配戦略の例には、これらに限定されるものではないが、一つ以上の組み込み部位を有する始祖動物の異系交配をして別々の系を構築すること;別々の系を同系交配して、各標的遺伝子トランスジーンの付加的発現の効果によって、対象とする標的タンパク質をより高レベルでトランスジェニックとして発現する標的タンパク質トランスジェニック体を産生すること;異型接合の動物を交配して、所定の組み込み部位について同型接合の動物を産生し、これによって発現を増大させると共にDNA分析による動物のスクリーニングが必要となる可能性を消失させること;別々の同型接合の系を交配して、異型接合体又は同型接合体の系を産生すること;動物を様々な同系交配遺伝的バックグラウンドに品種改良して、標的タンパク質の発現及びアルツハイマー病-様症状の進展に対する修飾アレルの効果を試験できるようにすることが含まれる。こうしたアプローチの一つは、標的タンパク質トランスジェニック始祖動物を野生型株と交配して、アルツハイマー病-様症状を呈するF1世代を産生することである。該F1世代は、その後同系交配させ、同型接合の標的タンパク質トランスジェニック動物が生存可能な場合には、同型接合の系を発生することができる。
【0122】
アルツハイマー病の好ましいトランスジェニック動物モデルには、APP又はPS1のミュータントアレルを過剰に発現するマウス、及び、APPとPS1の両方のミュータントアレルを過剰に発現するダブル(APP/PS1)トランスジェニックマウスが含まれる。アミロイド前駆体タンパク質 (APP)遺伝子における変異、又はAβペプチド断片の処理能力欠如により、プラークとして知られている不溶性の繊維状凝集体として脳のいたる所に(特に海馬に集中して)沈殿する[4]ペプチドの毒性の上昇がもたらされる。プレセニリン(PS) 1及びPS2遺伝子の変異も、Aβペプチドのレベルを変更し、このことは、結果として、このペプチドのADの進展における重要な役割を更に支持するものである。ミュータントAPP(K670N, M671L)トランスジェニック系、Tg2576は、若年期にアミロイドβ-タンパク質(Aβ)レベルの著しい上昇を示し、9から12月齢までに、皮質及び海馬において細胞外AD-型Aβ沈殿を進行させる。ミュータントPS1トランスジェニックマウスは、異常な病変を示さないが、高度にアミロイド生成性の42-又は43-アミノ酸ペプチドAβ42(43)のわずかに上昇したレベルを示す。ラインTg2576及びミュータントPS1M146Lトランスジェニックラインとの間の交雑に由来するダブルトランスジェニックの子孫においては、AD-様病変の進行は、実質的に上昇する(Holcomb et al., Nat Med. 1998 Jan; 4(1): 97-100)。
【0123】
(2.2.2 細胞ベースのアッセイ)
標的タンパクをコードする標的遺伝子配列を含み且つ発現し、そしてさらに、アルツハイマー病に関連する細胞表現形を示す細胞を、アルツハイマー病の症状を改善する能力を示す化合物を同定するために利用することができる。
【0124】
さらに、対象とする細胞のフィンガープリントタンパク質発現のパターンを分析し、正常なフィンガープリントパターンと比較することができる。アルツハイマー病を示す細胞に、対象とする細胞の正常なフィンガープリントパターンとより密接に類似するフィンガープリントパターンを生じさせる化合物は、アルツハイマー病の症状を改善する能力に関する更なる試験のための候補であると考えることができる。
【0125】
さらに、かかるアッセイに用いられる細胞系統は、組み換え、トランスジェニック細胞系統を含むことができる。例えば、セクション2.2.1で上記の本発明にかかるアルツハイマー病の動物モデルは、脳の機能に関連する一つ又は複数の細胞タイプを含む細胞系統を生じるために用いられ、これはこの疾患の細胞培養モデルとして使用することができる。本発明のアルツハイマー病モデルトランスジェニック動物から誘導された一次培養物を利用できるが、連続した細胞系統の産生が好ましい。トランスジェニック動物に由来する連続した細胞系統を誘導するために使用される技術の例として、Small et al., 1985, Mol. Cell Biol. 5: 642-648を参照。
【0126】
あるいは、アルツハイマー病に関与することが知られているタイプの細胞を、細胞内の標的タンパクの量を増加又は減少させることができる配列を用いてトランスフェクションしてもよい。例えば、標的タンパクの遺伝子配列を、対象とする細胞のゲノムに導入し過剰発現させるか、あるいは、標的タンパクの内因性遺伝子配列が存在するのであれば、それらを過剰発現するか、又は妨げて、標的タンパク発現を低発現又は不活性化させてもよい。
【0127】
標的タンパクの遺伝子配列を過剰発現するために、標的遺伝子配列のコード部位を、制御配列にライゲーションしてもよく、このことにより、対象とする細胞タイプにおいて遺伝子発現を誘導することができる。かかる制御領域は、当業者に周知であり、過度の実験をすることなく利用できる。
【0128】
内因性標的タンパクの低発現に関しては、その遺伝子配列を単離し、且つ、対象とする細胞タイプのゲノムに再導入された際に、その内因性標的遺伝子アレルが不活性化されるように遺伝子操作する。好ましくは、遺伝子操作された標的遺伝子配列は、その操作された標的遺伝子配列の、細胞のゲノムへの組み込みの際に、その内因性標的配列が乱されるように、遺伝子ターゲッティングを用いて導入される。遺伝子ターゲッティングは、セクション2.2.1で上述される。
【0129】
標的タンパク遺伝子配列核酸のトランスフェクションを、標準的な技術を用いて行うことができる。例えば、Ausebel, 1989上記を参照。トランスフェクションされた細胞は、組換え標的遺伝子配列の存在、標的遺伝子mRNAの発現及び蓄積、並びに組換え標的タンパク産生物の存在について調べるべきである。標的タンパク発現の低減が望ましい場合には、標準的な技術を用いて、内因性標的遺伝子発現及び/又は標的タンパク産生の低減が達成されたか否かを調べることができる。
【0130】
(3.標的タンパク質と相互作用する化合物についてのスクリーニングアッセイ)
以下のアッセイは、標的タンパク質に結合する化合物、標的タンパク質と相互作用する他の細胞タンパク質に結合する化合物、及び標的タンパク質と他の細胞タンパク質の相互作用を妨げる化合物を同定するためにデザインされる。上記化合物は、これらに制限するわけではないが、他の細胞タンパク質を含んでも良い。上記細胞タンパク質の同定のための方法は、セクション3.2で以下に記載する。
【0131】
化合物は、例えば、標的タンパク質膜貫通レセプターの細胞外ドメインを含むIgテール化融合ペプチド、D及び/又はL型アミノ酸より成るランダムペプチドライブラリーのメンバー(例えば、Lam, K.S. et al., 1991, Nature 354: 82-84; Houghten, R. et al., 1991, Nature 354: 84-86参照)、ホスホペプチド(ランダムな又は部分的に縮重した配向性ホスホペプチドライブラリーのメンバーを制限することなく含む:例えば、Songyang, Z. et al., 1993, Cell 72: 767-778参照)、抗体(ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、抗イディオタイプ、キメラ又は一本鎖抗体、並びにFAb、F(ab')2及びFAb発現ライブラリー断片、並びにそれらのエピトープ結合断片)を制限することなく含む可溶性ペプチドといったペプチド、並びに小さな有機又は無機分子を制限することなく含んでも良い。
【0132】
ここに記載されるようなアッセイを介して同定された化合物は、例えば標的タンパク質の生物学的機能を調べるため、及びアルツハイマー病を改善するために有用であろう。例えば、アルツハイマー病状態が、上記アルツハイマー病に関与する細胞又は組織における、標的タンパク質発現及び/又は標的タンパク質活性の全体のより低いレベルから生じている場合には、標的タンパク質と相互作用する化合物は、結合した標的タンパク質の活性を促進する又は増幅するものを含んでも良い。上記化合物は、標的タンパク質活性のレベルの有効な増大をもたらし、かくして症状を改善するであろう。標的遺伝子内の変異が、アルツハイマー病を導く負の効果を有する異常な標的タンパク質の生産を導く場合、標的タンパク質に結合して結合標的タンパク質の活性を阻害する化合物が同定されても良い。例えば、セクション3.1から3.3に記載された方法によって同定される化合物の有効性を試験するためのアッセイは、セクション3.4で以下に記載される。
【0133】
(3.1 標的タンパク質に結合する化合物についてのin vitroスクリーニングアッセイ)
in vitroシステムは、本発明の標的タンパク質に結合できる化合物を同定するようにデザインすることができる。同定された化合物は、例えば野生型及び/又はミュータント標的タンパク質の活性を調節することにおいて有用であり得、標的タンパク質の生物学的機能を作り上げることにおいて有用であり得、正常な標的タンパク質の相互作用を乱す、又はそれ自身そのような相互作用を乱す可能性のある化合物を同定するためのスクリーニングにおいて用いられることができる。
【0134】
標的タンパク質に結合する化合物を同定するために用いられるアッセイの原理は、標的タンパク質と試験化合物との反応混合物を、2つの成分が相互作用して結合することによって反応混合物中で除去できる及び/又は検出できる複合体を形成することを可能にする条件下かつ十分な時間で、調製することを含む。これらのアッセイは、種々の方法で行なうことができる。例えば、そのようなアッセイを行なうための一つの方法は、固相への標的タンパク質又は試験基質のアンカーリング、及び、反応の最後に固相上にアンカーリングされた標的タンパク質/試験化合物複合体の検出を含むであろう。そのような方法の一つの実施態様として、標的タンパク質を固体表面上にアンカーリングし、アンカーリングしていない試験化合物を直接的又は間接的に標識できる。
【0135】
実際に、好都合なことに、マイクロタイタープレートを固体相として利用することができる。アンカーリングした成分を、非共有又は共有結合によって固定することができる。非共有結合は、単に固体表面をタンパク溶液で被覆し、且つ乾燥させることによって行ってもよい。あるいは、固定化されるべきタンパクに特異的な固定抗体(好ましくはモノクローナル抗体)を用いて、タンパクを固体表面にアンカーリングしてもよい。表面は、あらかじめ調製され、貯蔵されてもよい。
【0136】
アッセイを行うために、非固定化成分が、アンカーリングされた成分を含む被覆された表面に添加される。反応が終了した後、未反応成分を、形成されたあらゆる複合体が固体表面に固定されたまま残るような条件下で除去する(例えば、洗浄により)。固体表面にアンカーリングされた複合体の検出は、多くの手段により行うことができる。先に非固定化成分が予めラベルされている場合は、表面に固定されたラベルの検出が複合体の形成を示す。先に非固定化成分が予めラベルされていない場合は、間接的ラベルが、表面にアンカーリングされた複合体を検出するために用いられ、例えば、予め非固定化成分に特異的なラベル化抗体が用いられる(同様に、抗体が、ラベルされた抗Ig抗体で直接的又は間接的にラベルされてもよい)。
【0137】
あるいは、反応を液相で行ってもよく、反応生成物を未反応成分から分離し、複合体を(例えば、溶液中に形成されたあらゆる複合体をアンカーリングするための、標的タンパク質又はテスト化合物に特異的な固定化抗体、並びに、アンカーリングされた複合体を検出するための複合体の別の成分に特異的なラベル抗体を用いて)検出することができる。
【0138】
(3.2 標的タンパク質と相互作用する細胞性タンパク質のアッセイ)
タンパク質-タンパク質相互作用を検出するのに適した任意の方法を、新規の標的タンパク質-細胞性又は細胞外性タンパク質相互作用を同定するために使用することができる。これらの方法は、パスウェイタンパク質の同定のためのセクション1.2で上述したとおりであり、同定された標的タンパク質と相互作用するタンパク質の同定に関して、ここで利用できる。
【0139】
(3.3 標的タンパク/細胞性高分子相互作用を妨げる化合物のアッセイ)
本発明の標的タンパクは、in vivoにおいて、一つ又は複数の細胞性又は細胞外性高分子、例えばタンパク質と相互作用しうる。かかる高分子は、以下に限定されるものではないが、セクション3.2で上記のような方法を介して同定されるタンパク質及び核酸分子を含みうる。この議論のため、かかる細胞性及び細胞外性高分子を、「結合パートナー」と称する。かかる相互作用を乱す化合物は、標的タンパク質、特にミュータント標的タンパク質の活性を制御するのに使用できる。かかる化合物は、例えばセクション3.1に記載されるように、以下に限定されないが、抗体、ペプチド等の分子を含む。
【0140】
標的タンパク質とその細胞性又は細胞外性結合パートナーとの間の相互作用を妨げる化合物を同定するために使用されるアッセイシステムの基本原理は、標的タンパク質と結合パートナーとを含む反応混合物を、これら二つが相互作用し結合して複合体を形成するのに十分な条件下及び時間の下に調製することを含む。阻害活性について化合物を試験するために、反応混合物を、テスト化合物の存在下及び不在下で調製する。このテスト化合物は、最初から反応混合物に含まれてもよく、また、標的タンパク質及びその細胞性又は細胞外性結合パートナーの添加後に加えられてもよい。コントロール反応混合物を、テスト化合物なしに、又はプラセボと共にインキュベートする。その後、標的タンパク質と細胞性又は細胞外性結合パートナーとの間のあらゆる複合体の形成を検出する。テスト化合物を含む反応混合物では複合体が形成されないが、コントロール反応において複合体が形成されることは、標的タンパクと相互作用結合パートナーとの相互作用をその化合物が妨げることを意味する。さらに、反応混合物内の複合体形成は、テスト化合物とミュータント標的タンパク質とを含む。この比較は、正常な標的タンパク質ではなく、ミュータント標的タンパク質の相互作用を乱す化合物を同定したい場合に重要となりうる。
【0141】
標的と結合パートナーとの相互作用を妨げる化合物のアッセイは、ヘテロジーニアス又はホモジーニアスフォーマットにおいて実施することができる。ヘテロジーニアスアッセイは、標的タンパク質又は結合パートナーを固体相にアンカーリングさせ、反応の最後に固体相にアンカーリングした複合体を検出することを含む。ホモジーニアスアッセイでは、反応全体が液相で実施される。いずれのアプローチにおいても、反応物の添加順序は、テストされる化合物について異なる情報を得るために変更することができる。例えば、標的タンパク質と結合パートナーとの相互作用を、例えば競合により妨げるテスト化合物は、テスト物質の存在下で反応を実施することによって、すなわち、標的タンパク質と相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーと同時又はそれよりも前にそのテスト物質を反応混合物に加えることによって、同定することができる。あるいは、予め形成された複合体を妨げるテスト化合物、例えば複合体から成分の一つを置換するより高い結合定数を備えた化合物は、複合体が形成された後に反応混合物にそのテスト化合物を添加することによって試験することができる。種々のフォーマットを、以下に簡単に記載する。
【0142】
ヘテロジーニアスアッセイシステムでは、標的タンパク質又は相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーのいずれかを、固体表面にアンカーリングする一方で、アンカーリングを行わない種を、直接又は間接的にラベル化する。実際に、好都合なことに、マイクロタイタープレートを利用することができる。アンカーリングさせる種は、非共有又は共有結合によって固定されてもよい。非共有結合は、単に固体表面を標的遺伝子産物又は結合パートナーの溶液で被覆し、かつ乾燥させることによって行ってもよい。あるいは、アンカーリングすべき種に特異的な固定抗体を用いて、その種を固体表面にアンカーリングしてもよい。表面は、あらかじめ調製され、貯蔵されてもよい。
【0143】
アッセイを行うために、固定化種であるパートナーを、テスト化合物を用いて、あるいは用いずに被覆された表面に曝す。反応が終了した後、未反応成分を除き(例えば、洗浄により)、形成されたあらゆる複合体が固体表面に固定されたまま残る。固体表面にアンカーリングした複合体の検出は、多くの手段により行うことができる。非固定化種が予めラベルされている場合は、表面に固定されたラベルの検出は複合体が形成されたことを示す。非固定化種が予めラベルされていない場合は、間接的ラベルが、表面に固定された複合体を検出するために用いられ、例えば、最初に非固定化種に特異的なラベル化抗体が用いられる(同様に、抗体が、ラベルされた抗Ig抗体で直接的又は間接的にラベルされてもよい)。反応成分の添加順序に依存して、複合体形成を阻害、又は予め形成された複合体を妨げるテスト化合物を検出することができる。
【0144】
あるいは、反応を、テスト化合物の存在下又は不在下において液相で行ってもよく、反応生成物を未反応成分から分離し、複合体を(例えば、溶液中に形成されたあらゆる複合体をアンカーリングするための、結合成分の一つに特異的な固定化抗体、並びに、アンカーリングされた複合体を検出するための別のパートナーに特異的なラベル抗体を用いて)検出することができる。再度、液相に対する反応物の添加順序に依存して、複合体形成を阻害、又は予め形成された複合体を妨げるテスト化合物を検出することができる。
【0145】
本発明の他の実施態様として、ホモジーニアスアッセイを用いることができる。このアプローチでは、標的タンパク質と相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーとの予め形成された複合体を調製し、その際、標的タンパク質又はその結合パートナーのいずれかがラベルされるが、ラベルにより生成するシグナルは複合体形成により消失されてしまう(例えば、イムノアッセイにこのアプローチを用いるRubensteinによる米国特許第4,109,496号参照)。予め形成された複合体に由来する種の一つと競合し且つ置換するテスト物質の添加は、バックグラウンドの上にシグナルの生成をもたらす。このように、標的タンパク質/細胞性又は細胞外性結合パートナー相互作用を乱すテスト物質を同定することができる。
【0146】
特定の実施態様として、標的タンパク質は、セクション2.1に記載された組み換えDNA技術を用いて、固定化のために調製することができる。例えば、標的タンパク質遺伝子コード領域を、pGEX-5X-1のような融合ベクターを用いてグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)に、得られた融合タンパクにおいてその結合活性が維持されるように、融合させることができる。当該技術分野においてルーチンで実施されるセクション2.1で上記の方法を用いて、相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーを精製し、モノクローナル抗体を生成するために使用することができる。この抗体は、例えば、当該技術分野においてルーチンで実施される方法により、放射活性同位体125Iでラベルすることができる。ヘテロジーニアスアッセイでは、例えば、GST-標的タンパク質遺伝子融合タンパクを、グルタチオン−アガロースビーズにアンカーリングすることができる。次いで、相互作用及び結合を生じさせるように、相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーを、テスト化合物の存在下又は不在下で添加することができる。反応の最後に、未結合物質を洗浄し、ラベル化モノクローナル抗体をこのシステムに添加し、複合体形成成分に結合させることができる。標的タンパクと相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーとの間の相互作用を、グルタチオン-アガロースビーズと結合して残る放射活性の量を測定することによって検出することができる。テスト化合物による成功した相互作用の阻害は、測定された放射活性に低減をもたらす。
【0147】
あるいは、GST-標的タンパク質遺伝子融合タンパクと、相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーとを、固体であるグルタチオン-アガロースビーズの存在下で、液中で混合することができる。このテスト化合物を、種が相互作用する間又はその後に添加することができる。その後、この混合物を、グルタチオン-アガロースビーズに添加し、非結合物質を洗浄する。標的タンパク質/結合パートナー相互作用の阻害の程度を、ラベル化抗体を添加し、ビーズに結合した放射活性を測定することによって検出することができる。
【0148】
本発明の他の実施態様として、一方又は両方の全長タンパクの代わりに、標的タンパク質及び/又は相互作用細胞性若しくは細胞外性結合パートナー(結合パートナーがタンパク質の場合)の結合ドメインに対応するペプチドフラグメントを用いて、これらと同一の技術を用いることができる。当該技術分野でルーチンで用いられている多数の方法を、結合部位を同定及び単離するために使用することができる。これらの方法は、以下に限定されないが、タンパク質の一つをコードする遺伝子の変異及び共免疫沈降アッセイにおける結合の阻害のスクリーニングを含む。次いで、複合体における第二の種をコードする遺伝子における補償変異を、選択することができる。各タンパク質をコードする遺伝子の配列分析により、相互作用結合に関与するタンパク質の領域に対応する変異を明らかにするであろう。あるいは、あるタンパク質を、このセクションにおいて上述した方法を用いて固体表面にアンカーリングすることができ、トリプシンのようなタンパク質分解酵素を用いて処理されたラベル化結合パートナーと相互作用して結合することができる。洗浄後、結合ドメインを有する、短い、ラベル化されたペプチドが固体物質と結合して残り、これを単離し、アミノ酸配列決定によって同定することができる。また、細胞性又は細胞外性結合パートナーをコードする遺伝子が得られたら、短い遺伝子セグメントを、そのタンパク質のペプチドフラグメントを発現するように遺伝子操作することができ、これをその後、結合活性について試験し、精製又は合成することができる。
【0149】
例えば、しかし限定するものではないが、標的タンパク質を、このセクションにおいて上述したように、GST-標的タンパク質遺伝子融合タンパク質を形成し、且つ、それをグルタチオン-アガロースビーズに結合させることにより、固体物質に固定することができる。この相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーを、35Sのような放射活性同位体を用いてラベル化し、トリプシンのようなタンパク質分解酵素で切断することができる。次いで、切断生成物を、アンカーリングされたGST-標的タンパク質遺伝子融合タンパク質に添加し、結合させることができる。非結合ペプチドを洗浄した後、細胞性又は細胞外性結合パートナー結合ドメインを示すラベル化された結合物質を溶出し、精製し、周知の方法によりアミノ酸配列について分析することができる。このように同定したペプチドを、合成により製造し、あるいは、組み換えDNA技術を用いて適切な容易なタンパクに融合することができる。
【0150】
(3.4 アルツハイマー病の症状の改善のためのアッセイ)
これらに制限されないが、上述のアッセイシステムにおいて同定されるもののような化合物を含む任意の結合化合物は、アルツハイマー病の症状を予防又は改善する能力について試験しても良い。アルツハイマー病の症状を改善する上記能力を示す化合物の同定のための細胞ベース及び動物モデルベースのアッセイを、以下に記載する。
【0151】
第一に、セクション2.2.2で上述のような細胞ベースのシステムを、アルツハイマー病の症状を予防又は改善するように機能する化合物を同定するために使用しても良い。例えば、上記細胞システムを、アルツハイマー病を改善する能力を示す可能性のある化合物に曝しても良く、その場合、曝した細胞においてアルツハイマー病の改善を引き出すのに十分な濃度で且つ十分な時間、上記化合物に曝す。曝した後に、細胞を測定して、一つ又は複数のアルツハイマー病様の細胞表現型が、より正常な若しくはより野生型の表現型に、又は疾患の症状のより低い発生若しくはより低い重篤度となるようである表現型に類似するように改変されるかどうかについて求める。
【0152】
さらに、セクション2.2.1において上述されたもののような動物ベースのアルツハイマー病システムが、アルツハイマー病の症状を改善可能とする化合物を同定するために使用されても良い。上記動物モデルは、上記疾患を治療するのに有効である薬剤、医薬、治療薬、及び介入の同定のための試験物質として使用されても良い。例えば、動物モデルを、アルツハイマー病の症状を予防又は改善する能力を示す可能性のある化合物に曝しても良く、その場合、曝した動物においてアルツハイマー病の予防又は改善を引き出すのに十分な濃度で且つ十分な時間、上記化合物に曝す。曝したことによる動物の応答が、アルツハイマー病と関連する疾患の存在を評価することによってモニターしても良い。
【0153】
介入に関して、アルツハイマー病様の症状の任意の態様を回復する任意の治療が、ヒトのアルツハイマー病の治療的介入のための候補として考慮されるはずである。試験薬剤の投与量は、以下のセクション6.1に議論される投与量応答曲線から決定しても良い。
【0154】
同様に、アルツハイマー病の進行を妨げることができる任意の治療が、アルツハイマー病の予防の治療的介入の候補として考慮されるはずである。
【0155】
タンパク質発現パターンを、アルツハイマー病様の症状を改善する化合物の能力を評価するための細胞ベース又は動物ベースのシステムのそれぞれと組み合わされて使用しても良い。例えば、一つ又は複数のフィンガープリントタンパク質の発現パターンが、フィンガープリントプロフィールの一部を形成しても良く、次いでそれが評価などで使用されても良い。フィンガープリントプロフィールは、セクション7.1で以下に記載する。フィンガープリントプロフィールは、細胞及び/又は動物ベースのモデルシステム内で、アルツハイマー病又は正常な状態のいずれかを、周知の状態について特徴付けしても良い。その後、これらの周知のフィンガープリントプロフィールは、試験化合物が有する効果が上記のフィンガープリントプロフィールを改変し、上記プロフィールをより所望のフィンガープリントのものにより類似させることを確認するために、比較しても良い。例えば、化合物の投与は、アルツハイマー病のモデルシステムのフィンガープリントプロフィールを、コントロールシステムにより類似させることができる。別法として、化合物の投与は、コントロールシステムのフィンガープリントプロフィールを、アルツハイマー病状態を模倣し始めさせることができ、それによって、例えば、対象とする化合物をさらに特徴付けするために使用しても良く、又はさらなる動物モデルの生産において使用しても良い。
【0156】
(4.アルツハイマー病の治療のための化合物及び方法)
アルツハイマー病の症状を改善する方法及び組成物を、以下に記載する。アルツハイマー病は、少なくとも部分的には、標的タンパク質の異常なレベルによって、又は異常な活性を示す標的タンパク質の存在によって、発症するものである可能性が存する。上述のように、上記標的タンパク質のレベル及び/又は活性の減少は、アルツハイマー病様の症状の改善をもたらすであろう。標的遺伝子発現のレベル又は標的タンパク質活性のレベルの減少のための方法を、下記セクション4.1に記載する。
【0157】
別法として、アルツハイマー病は、少なくとも部分的には、標的タンパク質発現のレベルの不存在又は減少、あるいは標的タンパク質の活性のレベルの減少によって、発症するものである可能性が存する。そのような場合、標的タンパク質遺伝子発現及び/又は上記タンパク質の活性のレベルの増大が、アルツハイマー病様の症状の改善をもたらすであろう。標的タンパク質遺伝子発現のレベル又は標的タンパク質活性のレベルを増大するための方法を、セクション4.2に記載する。
【0158】
(4.1 ミュータント標的タンパク質の発現、合成又は活性を阻害する化合物)
上述のように、アルツハイマー病に関与する標的タンパク質は、標的タンパク質活性の増大したレベルによって上記疾患を引き起こすであろう。各種の方法を、上記標的遺伝子及び/又はタンパク質の発現、合成、又は活性を阻害するために使用しても良い。
【0159】
例えば、阻害活性を示す、セクション3で上述のアッセイを通じて同定されたもののような化合物を、アルツハイマー病の症状を予防又は改善するために、本発明に従って使用しても良い。上述のセクション3で記載したように、上記分子は、これらに制限するわけではないが、ペプチド(例えば、標的タンパク質膜貫通レセプターの可溶性細胞外部分を表すペプチドのような)、ホスホペプチド、有機若しくは無機小分子、又は抗体(例えば、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、抗イディオタイプ、キメラ若しくは一本鎖抗体、並びにFAb、F(ab')2及びFAb発現ライブラリー断片、並びにそのエピトープ結合断片を含む)を含んでも良い。上記化合物の有効投与量及び投与の決定のための方法を、以下のセクション6.1に記載する。阻害抗体法を、以下のセクション4.1.2にさらに記載する。
【0160】
さらに、標的タンパク質遺伝子の発現を阻害するアンチセンス及びリボザイム分子を、異常な標的タンパク質遺伝子の活性を阻害するために本発明に従って使用しても良い。上記方法を、以下のセクション4.1.1に記載する;トリプルへリックス分子を、異常な標的タンパク質遺伝子活性を阻害するために使用しても良い。
【0161】
(4.1.1 阻害性のアンチセンス、リボザイム及びトリプルへリックスアプローチ)
アルツハイマー病の症状を予防又は改善する能力を示す化合物の中では、アンチセンス、リボザイム及びトリプルへリックス分子が挙げられる。上記分子は、野生型、又は適切であればミュータント標的タンパク質遺伝子活性のいずれかを減少又は阻害するようにデザインされても良い。上記分子の生産及び使用のための方法は、当業者に周知である。
【0162】
アンチセンスRNA及びDNA分子は、標的mRNAにハイブリダイズし、タンパク質の翻訳を妨げることによって、mRNAの翻訳を直接ブロックするように機能する。アンチセンスDNAについては、翻訳開始部位に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチド(例えば、対象とする標的遺伝子ヌクレオチド配列の-10から+10領域の間である部位)が好ましい。
【0163】
リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することが可能な酵素的RNA分子である(レビューとして、Rossi, 1994, Current Biology 4: 469-471参照)。リボザイムの作用のメカニズムは、相補的な標的RNAに対するリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションと、その後のエンドヌクレアーゼ切断を含む。リボザイム分子の組成は、標的タンパク質mRNAに相補的な一つ又は複数の配列を含み、mRNA切断に関与する周知の触媒配列を含まなければならない。この配列については、米国特許第5,093,246号参照。標的タンパク質をコードするRNA配列のエンドヌクレアーゼ切断を特異的に且つ有効に触媒する、遺伝子操作されたハンマーヘッドモチーフリボザイム分子が、本発明の範囲内に入る。
【0164】
任意の潜在的なRNA標的内での特異的なリボザイム切断部位は、以下の配列:GUA、GUU及びGUCを含むリボザイム切断部位のための、対象とする分子をスキャンすることによって初めに同定する。一度同定すると、切断部位を含む、標的タンパク質遺伝子の領域に対応する15から20のリボヌクレオチドの短いTNA配列を、オリゴヌクレオチド配列を不適切なものにするであろう二次構造のような予測される構造的特徴について評価する。候補配列の適切性は、ribonuclease protection assayを使用して、相補的なオリゴヌクレオチドとハイブリダイズし易さを試験することによっても評価される。
【0165】
転写の阻害のためのトリプルへリックス形成において使用される核酸分子は、一本鎖であり、デオキシヌクレオチドより成るべきである。これらのオリゴヌクレオチドの塩基組成は、Hoogsteen塩基ペア規則によるトリプルへリックス形成を促進するようにデザインされなけれならず、上記形成は一般的に、二本鎖の中の一方の鎖に存在するプリン又はピリミジンのいずれかのかなりのストレッチを必要とする。ヌクレオチド配列はピリミジンベースでも良く、それは生じたトリプルへリックスの3つの会合する鎖を通じてTAT及びCGC+三塩基を生じるであろう。ピリミジンリッチな分子は、二本鎖の中の一方の鎖のプリンリッチな領域に対して相補的な塩基を、上記鎖と平行な向きに提供する。加えて、例えば、G残基のストレッチを含むプリンリッチな核酸分子が選択されても良い。これらの分子は、GCペアリッチなDNA二本鎖を有するトリプルへリックスを形成し、この場合、プリン残基の多数が、標的である二本鎖の一方の鎖に存在し、三重鎖の三つの鎖を通じてGGC三塩基を生じる。
【0166】
別法として、トリプルへリックス形成のための標的となり得る可能性のある配列は、「スイッチバック」核酸分子と称されるものを作製することによって増大しても良い。スイッチバック分子は、二本鎖の第一の一方の鎖と塩基ペアを形成するように、5'-3'の態様で改変し、次いで他方を3'-5'の態様で改変し、二本鎖の一方の鎖に存在するプリン又はピリミジンのいずれかのかなりのストレッチに対する必要性を消失させるように合成される。
【0167】
本発明のアンチセンスRNA及びDNA、リボザイム、及びトリプルへリックス分子は、DNA及びRNA分子の合成について当該技術分野で周知の方法によって調製しても良い。それらは、例えば、固相ホスホロアミダイト化学合成のような、当該技術分野で周知のオリゴデオキシリボヌクレオチド及びオリゴリボヌクレオチドを化学的に合成するための方法を含む。別法として、RNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードするDNA配列のin vitro及びin vivo転写によって生産しても良い。上記DNA分子は、適切なRNAポリメラーゼプロモーター(例えば、T7又はSP6ポリメラーゼプロモーター)を挿入している様々なベクター内に挿入しても良い。別法として、使用するプロモーターに依存して、構成的に誘導されるアンチセンスRNAを合成するアンチセンスcDNA構築物が、細胞系内に安定に取り込まれても良い。
【0168】
DNA分子に対する各種の周知な修飾を、細胞内安定性及び半減期を増大する手段として導入しても良い。考え得る修飾は、これらに制限するわけではないが、上記分子の5'及び/又は3'末端へのフランキング配列、又はリボ若しくはデオキシリボヌクレオチドの添加、あるいはオリゴデオキシリボヌクレオチド骨格内へのホスホジエステラーゼ結合よりむしろホスホロチオエート又は2'-O-メチルの使用を含む。
【0169】
(4.1.2 標的タンパク質の阻害のための抗体)
標的タンパク質に特異的であり、且つ、その活性を妨げる抗体を、標的タンパク質機能を阻害するために使用しても良い。所望する場合、上記ミュータント標的産物の活性を妨げるミュータント標的タンパク質に特異的な抗体を使用しても良い。上記抗体は、上記タンパク質自体に対して、又は上記タンパク質の一部に対応するペプチドに対して、上述のセクション2.3に記載された標準的な方法を使用して生産しても良い。上記抗体は、これらに制限するわけではないが、ポリクローナル、モノクローナル、Fab断片、一本鎖抗体、キメラ抗体等を含む。
【0170】
標的遺伝子タンパク質が細胞内に存し、抗体全体を使用する場合、内部化抗体が好ましいであろう。しかしながら、リポフェクチン又はリポソームを、細胞内の標的タンパク質エピトープに結合する抗体又はFab領域の断片を輸送するために使用しても良い。抗体の断片を使用する場合、標的タンパク質の結合ドメインに結合する最小の阻害断片が好ましい。例えば、標的タンパク質に結合する抗体の可変領域のドメインに対応するアミノ酸配列を有するペプチドを使用しても良い。上記ペプチドは、化学的に合成しても、又は、当該技術分野で周知の方法を使用して、組み換えDNA法によって生産しても良い(例えば、Creighton, 1983, 上記参照;及びSambrook et al., 1989, 上記参照を参照)。
【0171】
別法として、細胞内標的タンパク質エピトープに結合する一本鎖中和抗体を投与しても良い。上記一本鎖抗体は、例えば、Marasco et al(Marasco, W. et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 7889-7893)に記載されたもののような方法を使用することによって、標的細胞集団内に一本鎖抗体をコードするヌクレオチド配列を発現することによって投与しても良い。
【0172】
標的タンパク質が細胞外に存在する場合、又は膜貫通タンパク質である場合、ペプチド投与のために適切であるセクション6で以下に記載する任意の投与方法を、作用部位に阻害性標的タンパク質抗体を効率的に投与するために使用しても良い。
【0173】
(4.2 標的タンパク質の活性を回復するための方法)
アルツハイマー病を引き起こす標的タンパク質は、過小発現させても良い。別法として、アルツハイマー病の症状の進行を導く標的タンパク質の活性を減少させても良い。アルツハイマー病の症状を予防又は改善するレベルに、標的タンパク質のレベルを増大する方法を、このセクションに記載する。標的タンパク質の活性のレベルは、例えば、存在する標的タンパク質のレベルを増大することによって、又は、存在する活性な標的タンパク質のレベルを増大することのいずれかによって増大しても良い。
【0174】
例えば、アルツハイマー病の症状を改善するのに十分なレベルの標的タンパク質を、上記の兆候を示す被検体に投与しても良い。下記セクション6で議論する任意の方法を、上記投与のために利用しても良い。当業者は、下記セクション4.6.1に記載するもののような方法を使用して、正常な標的タンパク質の有効な非毒性の投与量の濃度を決定する方法を容易に理解するであろう。
【0175】
さらに、患者を、遺伝子置換療法によって治療することもできる。正常な標的タンパク質遺伝子の一つ若しくは複数のコピー、又は、標的タンパク質遺伝子機能を有する正常な標的タンパク質の産生をもたらす遺伝子の部分を、細胞に挿入してもよく、その際に、アデノウィルス、アデノ関連ウィルス、及びレトロウィルスベクターを含む(これらに制限するわけではないが)ベクターを、又は、リポソーム等の細胞中にDNAを導入する他の粒子を使用する。更にまた、上述のような技術を、ヒト細胞への正常な標的タンパク質遺伝子配列の導入のために利用しても良い。
【0176】
正常な標的タンパク質遺伝子配列を含む細胞、好ましくは自系細胞は、その後、患者に、アルツハイマー病の症状の予防又は改善が可能な部位に導入又は再導入するこことができる。こうした細胞置換技術は、例えば、標的タンパク質が分泌される、すなわち細胞外タンパク質である場合に好ましい。
【0177】
更に、標的タンパク質に特異的に結合し、結合によって、直接的又は間接的に標的タンパク質機能の活性化に役立つ抗体を、投与しても良い。こうした抗体は、これらに制限するわけではないが、ポリクローナル、モノクローナル、FAb断片、一本鎖抗体、キメラ抗体等を含む。上記抗体は、セクション2.3で上述のような標準的な方法を使用して生産しても良く、タンパク質自体に対して、又は上記タンパク質の一部に対応するタンパク質に対して生産しても良い。上記抗体は、例えばセクション4.1.2で上述の方法に従って投与しても良い。
【0178】
(5.医薬調製物及び投与の方法)
標的タンパク質の発現、合成、及び/又は活性に影響する同定された化合物、核酸分子、及び細胞は、アルツハイマー病を予防又は治療又は改善するための治療上の有効量で患者に投与することができる。治療上の有効量は、アルツハイマー病の症状の改善を導くのに十分な化合物の量を指し、又は、別法として、上記症状の改善を導くタンパク質の濃度を発現するのに十分な核酸分子の量を指す。
【0179】
(5.1 有効投与量)
こうした化合物の毒性及び治療有効性は、細胞培養又は実験動物における標準的な製薬手法、例えばED50(集団の50%において治療上の有効な投与量)による決定について、及び、任意の副作用のED50(毒性-TD50)の測定により決定可能である。毒性と治療有効性との投薬量比は、治療係数であり、TD50/ED50なる比として表すことができる。大きな治療係数を示す化合物が好ましい。毒性の副作用を有する化合物を使用しても良い一方で、注入していない細胞への損害の可能性を最小限にし、副作用を低減するために、こうした化合物を患部組織の部位へと向かわせるデリバリーシステムを、注意して設計するべきである。
【0180】
細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータは、ヒトにおける使用のための範囲の投薬量の処方に利用可能である。こうした化合物の投薬量は、毒性が僅か又は全くないED50を含む循環濃度の範囲内であることが好ましい。該投薬量は、この範囲内で、利用する投薬形態及び使用する投与経路によって変化しても良い。
【0181】
(5.2 製剤及び使用)
本発明に従った使用のための医薬組成物は、一つ又は複数の生理学的に許容可能なキャリアー又は賦形剤を使用して従来の方法において製剤化しても良い。
【0182】
かくして、上記化合物及びその生理学的に許容可能な塩及び溶媒は、吸入又は注入(口又は鼻を通じてのいずれか)又は経口、口内、非経口及び直腸投与によって投与するために製剤化しても良い。
【0183】
経口投与のためには、該医薬組成物は、例えば、定法により、結合剤(例えばプレゼラチン化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えばラクトース、ミクロクリスタリンセルロース、若しくはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えばマグネシウムステアレート、タルク、若しくはシリカ);崩壊剤(ジャガイモデンプン又はナトリウムデンプングリコレート);又は湿潤剤(例えばナトリウムラウリルスルフェート)等の製薬的に許容される賦形剤を用いて調製される錠剤、カプセルの形態をとりうる。錠剤は、当業界において周知の方法により被覆しても良い。経口投与のための液体調剤は、例えば、溶液、糖液、又は懸濁液の形態をとってよく、あるいは使用前に水又は他の好適な媒体と併せるための乾燥製品としてもよい。こうした液体調剤は、懸濁剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体、又は水素化食用脂肪);乳化剤(例えばレシチン又はアカシア);及び保存料(例えばメチル若しくはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエート、又はソルビン酸)等の製薬として許容される添加剤を用い、定法によって調製することができる。該調剤はまた、バッファー塩、香料、着色料、及び甘味料を適宜含有しても良い。
【0184】
経口投与のための調剤はまた、活性化合物の制御された放出を与えるために好適に製剤されうる。
【0185】
頬からの投与のためには、該組成物は定法によって製剤された錠剤又はロゼンジの形態をとりうる。
【0186】
吸入による投与のためには、本発明に従った使用のための化合物は、簡便のため、加圧パック又は噴霧器から、適当な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、又は他の適当な気体を使用して放出されるエアロゾルスプレーの形態で送達される。加圧エアロゾルの場合には、投薬単位は、測定量を送達するためのバルブを設けることによって決定することができる。吸入又は注入において使用するための、例えばゼラチン等のカートリッジ及びカプセルは、該化合物とラクトース又はデンプンなどの適当な粉末ベースとの粉末混合物を包含して製剤してもよい。
【0187】
該化合物は、注射、例えばボーラス注射又は連続注入による非経口投与向けに製剤しても良い。注射のための製剤は、単位投薬量形態であるとよく、例えば、アンプル又はマルチ投薬容器中で更に保存料を加えたものであって良い。該組成物は、懸濁液、溶液、又は油性若しくは水性の媒体中におけるエマルジョン等の形態をとってよく、懸濁化剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤化剤を含んでも良い。あるいはまた、該活性成分は、好適な媒体、例えば滅菌され、発熱物質を含まない水等と使用前に併せるための粉末形態としても良い。
【0188】
該化合物はまた、坐剤又は停留浣腸、例えばココアバター又は他のグリセリド等の従来の坐剤ベースを含有するもの等の結腸組成物中に処方しても良い。
【0189】
前述の製剤に加え、該化合物はまたデポー調製物として製剤されても良い。こうした長時間作用型製剤は、移植(例えば皮下又は筋内への)によって、又は筋内注射によって投与しても良い。したがって、例えば、該化合物は好適なポリマー性若しくは疎水性物質(例えば許容されるオイル中のエマルジョンとして)又はイオン交換樹脂、又は微溶性(sparingly soluble)誘導体として、例えば微溶性塩と共に製剤しても良い。
【0190】
該組成物は、所望により、パック又はディスペンサー装置中に存在しても良く、これは活性成分を含む一つ又は複数の単位投薬量形態を収容するとよい。パックは、例えば、金属又はプラスチックのホイル、例えばプラスチック包み(blister pack)を含んでも良い。パック又はディスペンサー装置には、投与のための指示を添付してあると良い。
【0191】
(6.アルツハイマー病の診断)
アルツハイマー病の診断、アルツハイマー病の素因のために、並びに、例えば、臨床試験の間に任意のアルツハイマー病化合物の有効性をモニターするために、及び、アルツハイマー病の治療のための臨床評価を受ける患者をモニターするために、種々の方法を用いることができる。フィンガープリントタンパク質は、また、アルツハイマー病の治療の同定及び/又は選択において補助するために、アルツハイマー病の性質を定義するのに使用することができる。
【0192】
上記方法はまた、例えば、セクション1に記載されたフィンガープリントタンパク質のような薬剤を利用し、並びに、セクション1.3(ペプチド)及び2.3(抗体)で上述のような差異的に発現するタンパク質及びパスウェイタンパク質に対する抗体を利用しても良い。特に上記薬剤は、(1)標的タンパク質の変異の存在の検出、又は(2)正常な状態に対する標的タンパク質の過剰若しくは過小の存在のいずれかの検出のために使用されても良い。
【0193】
ここに記載する方法は、例えば、少なくとも一つの特異的なフィンガープリントタンパク質、又はここに記載される抗フィンガープリントタンパク質抗体薬剤を含む、予めパック包装された診断キットを使用することによって実施されても良く、このキットは、例えば、アルツハイマー病の異常性又は症状を示す患者を診断するために臨床において便利に使用することができる。
【0194】
フィンガープリントタンパク質を発現する任意の細胞タイプ又は組織を、以下に記載する診断において利用しても良い。適切なサンプルタイプの例は、細胞サンプル、組織サンプル、及び血液、尿、又は血漿のような液体サンプルを含む。
【0195】
ここで使用可能な上記方法の中には、アルツハイマー病の治療のための臨床試験において化合物の効力をモニターする方法が挙げられる。上記化合物は、例えば、セクション4で上述のような化合物とすることができる。上記方法は、正常な状態における発現に対して、アルツハイマー病の状態において差異的に発現するタンパク質を、患者サンプル内で検出することを含む。
【0196】
臨床試験の間で、例えば、単一のフィンガープリントタンパク質の発現、又は、別法としてアルツハイマー病に関与する細胞のフィンガープリントパターンの発現を、試験する化合物の存在又は不存在下で測定することができる。化合物の効力を、その後、正常状態の対応する周知の発現パターンと得られた発現データとを比較することによって、実施する。効力を示す化合物は、単一のフィンガープリントタンパク質発現及び/又はフィンガープリントパターンを、正常な状態のものにより類似するように改変するものである。
【0197】
正常な状態の発現に対して、アルツハイマー病で差異的に発現するタンパク質の検出は、潜在的なアルツハイマー病化合物、並びにアルツハイマー病の治療のための化合物を、臨床試験の間でモニターするために使用できる。臨床試験の間で、例えば、差異的に発現するタンパク質のレベル及び/又は活性を、試験する化合物の存在下又は不存在下で、関連細胞及び/又は組織中で測定できる。上記化合物の効力は、その後、正常な状態における細胞及び/又は組織についての対応する周知のレベル/活性と、得られたタンパク質レベル及び/又は活性データとを比較することによって、実施する。効力を示す化合物は、アルツハイマー病に関与する細胞及び/又は組織のパターンを、正常な状態のものにより類似するように改変するものである。
【実施例】
【0198】
(実験)
シングル(ミュータントAPP又はPS-1トランスジェニック)並びにダブル(ミュータントAPP及びPS1トランスジェニック)トランスジェニックマウスを、野生型と比較した。
【0199】
[2Dゲル電気泳動を使用した差異的に発現するタンパク質の同定]
<サンプル>
凍結したマウスサンプルの一群を、以下の遺伝子型に従ってグループ分けした:[1]PS-1及びAPP遺伝子についてのダブルトランスジェニック(「TT」とする)、[2]PS-1遺伝子についてのシングルトランスジェニック(「WT」とする)、[3]APP遺伝子についてのシングルトランスジェニック(「TW」とする)、並びに、[4]野生型コントロール(遺伝子の改変を行わない、「WW」とする)。4から10匹のマウスを、表1に示すように各群から複数用い、様々な脳領域(海馬、及び、海馬切開後の脳半球の残り)を分析した。
【0200】
【表1】
【0201】
脳切片を、海馬に由来する物質を重点的に、14週齢で犠牲にした動物により分析した。2-DEを、Weekes, J. et al. (Electrophoresis, 20(4-5): 898-906, 1999)及びHeinke, M.Y. et al. (Electrophoresis, 20(10):2086-2093、1999)に従って実施した。この電気泳動では、海馬及びROH組織の両方について、pH 4-7L及びpH 6-9Lの固定化pH勾配(IPG)を使用した。全てのpH 6-9の勾配ストリップを、DeStreak rehydration solution (Amersham Biosciences)(Pennington, K et al., Proteomics, 4(1): 27-30, 2004)で再水和し、サンプルを陰極にロードした。二次元目は、12%のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用して実施した。
【0202】
<二次元ゲル電気泳動>
<タンパク質サンプル>
100mgの組織当たり1mlのリシスバッファー(9.5M 尿素、1% DTT、2% CHAPS、0.8% Pharmalyte pH3-10、1:10の濃度の「完全な」プロテアーゼ阻害剤混合物[Roche]を含む)の比率に従って、組織の質量に比例した容量のリシスバッファーで、脳組織を溶解した。400μgの総タンパク質を、micro-preparativeゲルへのローディングのために使用した。このゲルから、対象となる可能性のあるタンパク質スポットを、その後の質量分析のためにカットした。
【0203】
<一次元等電点フォーカシング(IEF)>
DeStreak rehydration solution (Amersham Biosciences)を、固定化pH勾配(IPG)ストリップを再水和するために使用し、サンプルを陰極にロードした。2つの異なるpH範囲を使用した。pH範囲4-7及び6-9をカバーする18cmのIPG(リニア)ストリップを使用した。
【0204】
<二次元SDS-PAGE>
フォーカシングしたIPGについて二次元目を行う前に、ストリップを、バッファー(1.5M、pH8.8、Tris[Genomic Solutions]、6M 尿素[Gibco]、30%グリセロール[BDH]、2% SDS[Genomic Solutions]、0.01%ブロモフェノールブルー[Sigma]、1% IAA[Sigma]を含む)内で15分間平衡化し、その後、4.8% IAA[Sigma] を含むバッファーで更に15分間平衡化する。DALTシステム[Amersham Biosciences]による12% T/2.6% C分離ゲルを用いて、SDS-PAGEを一晩(20mA/ゲル、10℃)かけて行った。アクリルゲルはBDHから供給され、SDS-PAGEランニングバッファーに用いる試薬(Tris、SDS、グリシン)は、Genomic Solutionsから供給された。使用した全ての水は、Elga Maxima Life Sciences water purification unitから供給された、18.2MΩcm-1であった。
【0205】
<2-DEタンパク質プロファイルの可視化>
二次元目の終了後は、ゲルを一晩固定した(50%メタノール、10%酢酸)。分析用ゲルを、市販の銀染色キット(「OWL」、Insight Biotechnology Ltd.)を用いて染色した。micro-preparativeゲルは、改変したプロトコール[1]による、質量分析に適した銀染色(「Plus-One」、Amersham Biosciences)を使用して染色した。使用した全ての水は、Elga Maxima Life Sciences water purification unitから供給された、18.2MΩcm-1であった。銀染色後、全てのゲルを、Molecular Dynamics Personal Densitometer SIを使用して、100μmの解像度でスキャンした。その後、染色した分析ゲルを、比較定量分析のために使用し、分析後に、対象となる可能性のあるタンパク質を、相当するmicro-preparativeゲルで特定し、このゲルからスポットをカットし、質量分析に供して、存在するタンパク質の同定を確立した。
【0206】
<ゲルイメージ分析>
ゲルイメージの分析を、Progenesis software, version 2003.2(NonLinear Dynamics)を使用して、幾つかの工程で実施した。自動イメージ調整(ゲルスポット検出、ゲルイメージマッチング並びに補正、バックグラウンド除去及び定量標準化)を、ソフトウェアにより自動で一晩実施し、その後、ゲルイメージの簡単な手動による編集を行い、マッチング精度を75%まで上げた。その後、マッチング精度を85%より上げるのに必要な細かい手動によるイメージ編集を行い、比較分析に続き、事前に行った分析により見出した対象となる可能性のある全てのタンパク質スポットの視覚による詳細な確認が可能となった。バックグラウンド除去及び総スポット容量への標準化後に、タンパク質スポットデータを、定量統計分析及び定量的な変化の比較のためにExcelに移行した。
【0207】
<定量統計分析>
<Studentのt検定>
独立した2つの群の比較を、Studentのt検定を使用して、95%の信頼区間で実施した。各トランスジェニック群を、野生型に対して比較した。統計分析に含まれるスポットについては、少なくとも60%のゲルで存在する必要があった。顕著な結果を証明するために、前記比較に含まれる遺伝子型の混じり合ったものを含む5つの群を、それぞれの比較のために、ランダムに作製した。2つの群の比較のためのStudentのt検定を、前記と同じ方法を使用して、これらの混じり合った群で実施した。
【0208】
<主成分分析(PCA)>
PCAは、全てのデータセットで行った。最初に、全ての群で分析し、その後に、ww及びtt群のみで分析した。変数として含まれるスポットは、いずれか一つの群から少なくとも60%のゲルに存在するスポットとした。
【0209】
<共通スポット>
野生型と比較した場合に、1匹より多いトランスジェニック群において類似の発現の変化を示すことが見出されたスポットを、銀染色したmicro-preparativeゲルから切り出して、LC/MS/MSを使用して同定した。
【0210】
<質的スポット>
野生型と比較した場合に、トランスジェニックモデルのいずれか一つに存在又は非存在のスポット。使用した方法は、各スポットが、少なくとも60%のゲルに存在しなければならないというものであった。
【0211】
<酵素を用いた分解>
その後の質量分析の前に、in-gel還元、アルキル化及び分解(トリプシンを用いた)を実施した。システイン残基を、DTTで還元し、ヨードアセトアミドを用いた処理によって誘導体化して、安定なカルバミドメチル(CAM)誘導体を形成した。トリプシン分解は、最初の1時間を37℃でインキュベーションしてから、一晩室温で実施した。
【0212】
<MALDI-TOF MS>
必要ならば、分解したタンパク質サンプル(4μl)を、ZipTip C18マイクロチップ(Milipore)を使用して脱塩した。ペプチドを、4μlの50%アセトニトリル/0.1%トリフロオロ酢酸で溶出した。0.5μlを、その後、0.5μlのマトリクス(a-シアノ-4-ヒドロキシ-桂皮酸)とともにターゲットプレートにロードした。Voyager DE-PRO MALDI-TOF mass spectrometer(Applied Biosystems)を使用して、ペプチド質量フィンガープリントを得た。マススペクトルを、遅延引き出しの反射モードで得た。自己分解ペプチドの質量2163.0569Daを、その後に、内部基準物質として使用して、50ppmより良好な質量精度を達成した。
【0213】
<LC/MS/MS>
ゲル片から、アセトニトリルと水性液との連続した洗浄によって、ペプチドを抽出した。抽出物を最初の上清とともにプールし、凍結乾燥した。その後、各サンプルを7μlの50mM重炭酸アンモニウムで再懸濁し、LC/MS/MSによって分析した。クロマトグラフィーによる分離は、Ultimate LC system(Dionex, UK)を使用して実施した。75μmのC18 PepMapカラムを用いた逆相クロマトグラフィーにより、ペプチドを分離した。0.05%のギ酸を含むアセトニトリル勾配を用いて、流速200nl/分で、ペプチドを溶出した。Qtof-micro(Walters Corp, USA)にフィットさせたZ-spray源を使用したエレクトロスプレーイオン化により、ペプチドをイオン化した。装置をセットし、自動スイッチングモードで作動させ、衝突誘発断片化によるシークエンシングのために、その強度に基づいて前駆イオンを選択した。ペプチドのm/z及び電荷状態に基づいて選択した衝突エネルギープロファイルを使用して、MS/MS分析を行った。
【0214】
<データベース検索>
質量スペクトルデータを、ペプチド質量リスト(MALDIデータ)及びピークリスト(MS/MSデータ)へと加工し、Swiss Prot Database version 43(2004年3月現在)に対して、Mascot software(Matrix Science, UK)を使用して検索した。カルバミドメチル(C)及び酸化(M)を、検索パラメーターにおけるvariable modificationとしてセットした。高いレベルの信頼性が、これらのタンパク質の同定にアサインすることができ、これは、その結果が、各タンパク質に由来する複数のペプチドについてのMS/MSデータの正確なマッチングに基づくからである。
【0215】
<結果>
<ゲルイメージ分析>
ゲルイメージを、87%の精度を有する複製イメージレベルで、お互いにマッチさせた(表1参照)。いわゆる平均的なゲルイメージ(複製群のそれぞれに由来)を、その後、90%の精度でマッチさせた(表2参照)。
【0216】
<定量統計分析>
<Studentのt検定>
海馬のpH6-9(ww vs tw)及びpH4-7(ww vs tt)のみが、偶然のみによって予期される(表2、濃い灰色で強調)よりも多くの数の有意な差異が生み出された。薄い灰色で強調した数(表2)は、明らかに真の有意差があるスポットを示す。
【0217】
【表2】
【0218】
<主成分分析>
大部分のPCAスコアプロットの分析によっては、集団の帰属関係と相関する明確なクラスターが明らかにならなかった。この例外が、海馬4-7ゲルにおけるwwとttの比較であった(図2)。
【0219】
<共通スポット>
野生型と比較して、一つより多いトランスジェニック群において存在する全体で19のスポットが、統計的に有意である(p≦0.05)ことが見出され、その発現において類似の倍数変化を示した(図7)。
【0220】
<質的変化>
3個のスポットが、質的変化を示した(すなわち、一つの群しか存在しなかった)。海馬4-7ゲルについては、2個の質的変化が存在した。これらのスポットのうちの一つは、野生型のみに存在し、他の3個の遺伝子型には存在しなかった。もう一つは、ダブルトランスジェニック群(tt)には存在しなかったが、他の3つの群には存在した。海馬6-9ゲルについては、一つのスポットが、野生型(ww)群のみに存在した。
【0221】
<結論>
アルツハイマー病においては、タンパク質発現の主要な変化は、学習及び記憶に関連する脳の領域で生じると思われる。この理由のために、タンパク質変化の分析は、海馬組織に集中している。pH4-7及び6-9のIPGによる一次元目条件を使用した2Dゲル電気泳動によるタンパク質分離により、この組織で発現するタンパク質の1000を超えるスポットの提示が可能となった。野生型とダブルトランスジェニック動物とのタンパク質発現を比較するための包括的なイメージ分析により、海馬及びROHについて、全体で47のタンパク質スポットが、2つの異なる勾配(pH4-7及びpH6-9)において、その発現の有意な変化を示すことが判明した:
3個の質的な変化が見出された(図3)。
28個のスポットが、海馬pH4-7で同定された(図4)。
7個のスポットが、海馬pH6-9で同定された(図5)。
5個のスポットが、ROH pH4-7で同定された(図6)。
【0222】
前記タンパク質スポットのうちの19個が、野生型に比較して一つより多いトランスジェニック群で見出され、22個のスポットは、ttに特徴的であり(4-7 IPG海馬)、3個のスポットがtwに特徴的である(6-9 IPG海馬)。
【0223】
質量分析及びデータベース検索による、これらのスポットの更なる分析により、サンプルのそれぞれに存在する複数のタンパク質成分を同定した。図8に、ADの発症に関連しているであろう重要なタンパク質の幾つかを明らかにする。
【0224】
[SELDI質量分析を使用した差異的に発現したタンパク質の同定]
<サンプル調製>
血液を、14週齢のトランスジェニックマウス及び野生型マウス(n=18)から採血し、血漿サンプルを、9.5M 尿素、2% CHAPS、1% DTTで希釈した。
【0225】
<表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)質量分析>
血漿サンプルのプロファイリングを、eight spot strong anion exchange (Q10) protein chipを使用して実施した。全てのサンプルについて、2サンプルずつ、且つ、無作為の方法で実験した。Q10 chipを、100mM Tris HCl pH9.0で、4回平衡化した。5μlの希釈したサンプルを、各スポットにアプライして、chipを、保湿チャンバー内で45分間インキュベートした。サンプルを注意深く取り出し、100mM Tris HCl pH9.0で、chipを四回洗浄し、その後、18.2MΩ水で洗浄した。マトリクス溶液(シナピン酸-20mg/ml)を、50%アセトニトリルと0.5%トリフルオロ酢酸で調製し、二回、0.6μlで各スポットにアプライした。PBS-IIc reader(Ciphergen Biosystems)を使用して、データ獲得を行った。レーザー強度200、検出器感度8、及び、ファーカスマス(focus mass)25000を有するショットを合計155回使用して、スペクトルを得た。ベースライン除去及び総イオン数への標準化を、全てのスペクトルについて実施した。スペクトルの内部キャリブレーションは、各スペクトルにおける2つのピークの最小値を使用して実施した。
【0226】
<多変数データ分析>
<データ移行及び予めの加工>
多変数分析については、未加工のスペクトルをコンマで区切った(csv)形式に移行し、インハウスのプログラム(SMSS_0_3)をそれぞれの未加工のスペクトル上で実施し、各スペクトルにおける対応するマスについて強度値をアライメントした。個々の加工したスペクトルデータを、SIMCA-P(Umetrics)へと移行するために、一つのExcel(Microsoft)表計算シートに編集した。m/z 0からm/z 100,000の質量電荷比に対応する変数を、平均値に集中させた。
【0227】
<主成分分析(PCA)>
PCAモデルを、SIMCA-Pを使用した内部ルールに従ってフィットするできるだけ多数の成分(A)を有するデータセットにフィットさせて、成分の有意性を求めた(Eriksson et al. 2001)。goodness of fit(R2)及びgoodnes of prediction(Q2)パラメーターを使用して、モデルにフィットさせたその後に続く成分のそれぞれの有用性を評価した。Q2パラメーターが増加する間は、自動的にフィットさせた成分を調査して、続けた。最終的に許容された成分についての累積R2パラメーターによって、モデルによって説明されるデータの全体的な分散比率が得られた。主要成分(a)のペアについてobservation score(t)及びvariable loading(p)を示すプロットを作成した。スコアプロットを調べて、その後の分類化の妨げになる恐れのあるシステマチックなバラツキ(systematic variation)及び範囲外の観察(outlying observation)のパターンを探した。特に、各チップ上で分析した観察の部位を丹念に調べ、通常ではないチップについてチェックした。二重サンプル分析の再現性も、スコアプロットを使用してチェックした。スコアプロットの楕円形は、95%でのHotellingのT2、信頼区間の多変数適応に対応する。多変数通常分布を有するデータセットについては、観察の95%が、楕円によって含まれる領域に存在すると予期され、それ故、楕円の外に遠く離れた観察は、調査し評価すべき問題を示しているかもしれない。スコアプロットの調査を介して発見された傾向は、対応するローディングプロットに見出された変数の調査を介して解釈された。極端なプロットでプロッティングされた個々のm/z値は、群の分離に最も影響を及ぼすと考えられる。興味深いことに、このようなプロットは、幾つかの連続したm/zデータポイントを示し、これらは、SELDIプロファイルそれ自身で観察された元のピークを効率的に表す。
【0228】
<部分的最小二乗判別分析(PLS-DA)及びモデリング>
PLS-DAモデルの成分(A)を、SIMCA-Pによって使用したクライテリアを満たす限り、データセットにフィットさせて、成分の有意性を求めた(Eriksson et al. 2001)。PCAモデリングについては、R2及びQ2パラメーターを調査し、どの成分が、モデルに含まれているかを求めた。PCAモデリングと異なり、PLS-DAモデルは、X(測定)変数及びY(クラス)変数の両方へのモデルのフィットを示すR2値を有する。PLS成分(a)のペアについて、observation score(t)及びvariable weight(w*c)を示すプロットが得られた。X及びYデータを両方近似させて、XとYデータとの相関関係を最大になるように、各PLS成分をフィットさせたので、データセットに少しの群が存在する場合には、実際には、最初の1つ又は2つの成分が、通常は、観察を分離する。PLS weightは、PCA loadingに相似しているので、PLSスコア及びweight plotの解釈は、PCAモデルを解釈するのに使用したのと類似している。HotellingのT2をコンピューターで計算し、全てのPLSスコアプロット上で示して、deviating observationの同定の助けとした。
【0229】
<交差検定>
(新規の)サンプルのクラスを正確に予期するために作成したPLS-DAモデルの能力を、2分割交差検定により求めた。交差分割は、データセットをトレーニングセット及びテストセットへと分割することによって実施した(奇数をトレーニングセットのために用い、偶数をテストセットのために用いた)。PLS-DAモデルを、データセットのトレーニング部分にフィットさせ、その後、データセットのテスト部分のクラスを予期するのに使用した。その後、トレーニング及びテストデータセットを、交代させ、この工程を繰り返した。両方のテストのラウンドに由来する正確な分類及び不正確な分類の数を記録し、予測の感度及び特異性を計算するのに使用した。
【0230】
<変数選択>
variable influence on projection(VIP)及びPLS-coefficient(COEFF)と称する2つのパラメーターを、どのm/z値が、モデルを定義するのに及び群を説明するのに最も重要かを求めるために使用した。特異的な閾値を実験的に求めて、閾値よりも低いVIP及びCOEFF値を有する変数を除外するのに使用した。前記交差検定方法を、選択した変数を含むデータセットにフィットしたPLS-DAモデルにアプライした。
【0231】
<一変数データ分析>
自動ピーク検出及びマッチングを、全てのスペクトルで実施し、その後、このデータをMann-Whitney検定を使用した統計的有意差検定のためのBiomarker Wizard moduleに供した。p≦0.05のピークを視覚的に調査し、シングルピークに対応するか、ベースラインのノイズに対応しないかをチェックした。認められるピークを、手作業で印をつけ、これらのピークの物質質量及び強度データを、Excelに移し、各ピークについての倍数を計算した。マッチさせたピークの各セットの領域又は強度で見られた傾斜分布のために、分布の平均値及び中央値並びに標準偏差の計算に先立ち、データをlog10変換した。倍数及び効果量(Cohen’s D)を計算するために、分布のパラメーターを、その後、元のスケール上に戻した。効果量は、プールした標準偏差によって分割された2つの群の平均値間の差異として計算した。
【0232】
<第一の潜在的なバイオマーカー>
対象とする第一の潜在的なマーカーとして考慮するためには、各バイオマーカー(ピーク)が、以下の3つの基準を満たさなければならない。ピークを、PLS-DAによるVIP及びCOEFFパラメーターに従って選択する。各群の平均ピーク強度間の差異は、Mann-Whitney検定によって統計的に有意(p≦0.05)である。群の平均及び中央ピーク強度間の差異が、≧1.5倍増加又は減少する。
【0233】
表3は、各比較で見出された第一の潜在的なバイオマーカーを示す。表は、各比較における、野生型に対する、平均値及び中央値の倍数、並びに、変化の方向を示す。
【0234】
【表3】
【0235】
<第二の潜在的なバイオマーカー>
2つのタイプの第二の潜在的なバイオマーカーのリストを、多変数又は一変数分析のいずれかに基づいて作成した。
【0236】
第一のリストは、多変数分析に基づく(表4)。対象とするピークを、各比較の変数選択により選択したが、これらのピークは、p値≦0.05を伴っていなかった。
【0237】
【表4A】
【表4B】
【0238】
第二のリスト(表5)は、潜在的なバイオマーカーが以下の基準を満たす一変数分析に基づく:
各群の平均ピーク強度間の差異が、Mann-Whitney検定による統計的に有意(p≦0.05)である。
群の平均及び中央ピーク強度間の差異が、≧1.5倍増加又は減少する。
【0239】
【表5A】
【表5B】
【0240】
2匹以上のトランスジェニック群で現れるピークは、ピーク6、2、3、4、6、7、12、13、14、16、18、21、25、26、41、42、45である。
【0241】
第一の潜在的バイオマーカーとして分類された対象とするピークに対応する成分の同定を以下に記す。
【0242】
<SELDIピークの更なる分析>
ダブルトランスジェニックマウスにおける第一の潜在的なバイオマーカーとして同定されたピークを、更なる分析に供して、そこに含まれるタンパク質を同定した。この実験は、SELDI proteinchipから血漿物質を抽出すること、及び、1-Dゲル上での成分タンパク質を分離することによって実施した。タンパク質を、MS-適合銀染色を使用して可視化し、対象とする幾つかのSELDIピークのm/z値と等価な分子量のゲルバンドを切除した。タンパク質を、in-gel分解手法及びLC/MS/MSを使用して同定した。タンパク質の同定後、MassLynx software suite内のBioLynx分析ツールを使用して、同定を合理化する試みを行った。この分析において、対象とするSELDIピーク内に、同定したタンパク質断片の存在を確認することができた。
【0243】
<SELDI ProteinChipからの血漿サンプル物質の抽出>
血漿物質を、Q10 proteinchip(強アニオン交換クロマトグラフィー)から、5μlの加温したLaemmliバッファーのアップ/ダウンピペッティングを1分間行うことによって、抽出した。(サンプルを、対応する遺伝子型集団にプールした。)抽出後のスポットをSELDI機器で再び読み込んだところ、ピークが観察されなかったことから、この抽出方法が、proteinchipに結合した物質を取り出すのに非常に有効であることが判明した。
【0244】
<SDS-PAGE>
野生型(ww)及びダブルトランスジェニック(TT)のproteinchip抽出物を、NOVEX電気泳動装置(Invitrogen)で、1.5mmの厚さの16% tris-グリシン1-Dゲル(Invitrogen)を使用してSDS-PAGEによって分離した。16%ゲルを使用して、対象とするSELDIピークの大部分の分子量に対応する27kDa未満の領域におけるバンドの十分な物理的分離及び分解を達成した。ゲルを、上部のブロモフェノールブルー色素がゲルの底に達成するまで、1時間80Vで泳動し、その後、1時間30分120Vで泳動した。電気泳動後、デジタルイメージを得るために、ゲルを、銀染色に適合する質量分析(改変したPlus One kit[GE Healthcare])を使用して染色し、「Personal Densitometer SI」(Molecular Dynamics)を使用してスキャンした。
【0245】
<タンパク質の同定>
<酵素による分解>
対象とするSELDIピークのm/z値に対応する分子量のゲルバンドを、手動により切除した。質量分析によるその後の分析の前に、In-gel還元、アルキル化及び分解(トリプシンを用いた)を実施した。システイン残基をDTTで還元し、ヨードアセトアミドを用いた処理によって誘導体化し、安定なカルバミドメチル(CAM)誘導体を形成した。トリプシン分解物を、最初の1時間は37℃でインキュベートし、その後、一晩室温でインキュベートした。
【0246】
<LC/MS/MS>
ゲル片から、アセトニトリルと水性液との連続した洗浄によって、ペプチドを抽出した。抽出物を最初の上清とともにプールし、凍結乾燥した。その後、各サンプルを23μlの50mM重炭酸アンモニウムで再懸濁し、LC/MS/MSによって分析した。クロマトグラフィーによる分離は、Ultimate LC system(Dionex, UK)を使用して実施した。75μmのC18 PepMapカラムを用いた逆相クロマトグラフィーにより、ペプチドを分離した。0.05%のギ酸を含むアセトニトリル勾配を用いて、流速200nl/分で、ペプチドを溶出した。QTof-micro(Micromass, UK)にフィットさせたZ-spray源を使用したエレクトロスプレーイオン化により、ペプチドをイオン化した。装置をセットし、自動スイッチングモードで作動させ、衝突誘発断片化によるシークエンシングのために、その強度に基づいて前駆イオンを選択した。ペプチドのm/z及び電荷状態に基づいて選択した衝突エネルギープロファイルを使用して、MS/MS分析を行った。
【0247】
<データベース検索>
質量スペクトルデータピークリスト(MS/MSデータ)を、Swiss Prot又はnon-redundant databaseに対して、Mascot software(Matrix Science, UK)を使用して検索した。特定のアミノ酸修飾パラメーター、すなわち、可変のシステインカルバミドメチル化修飾(還元及びアルキル化反応に由来する)及び可変のメチオニン酸化修飾を使用して、データを検索した。
【0248】
<タンパク質断片の分析(BioLynx)>
MassLynx software suiteのBioLynx moduleを使用して、最初の対象であった7つのSELDIピークを分析した。対象とするSELDIピークの質量とマッチする、試験により産生したタンパク質の断片の可能性を予測するために、それぞれの同定したタンパク質について、アミノ酸配列を、BioLynxを使用して分析した。更にその上、それぞれの予測した断片についてのアミノ酸は配列を、Mascotで観察されたLC/MS/MS断片を用いてチェックした。原則的に、この方法でのBioLynxの使用により、対象とするSELDIピークの質量とマッチする質量のタンパク質の有望な断片の存在の確認が可能となる。断片が複数のピークにおいて表れるタンパク質は、潜在的に、バイオマーカーとして大いに興味深い。
【0249】
<結果>
SDS-PAGE上で、14kDa未満の領域における幾つかの十分に分離した薄い特定のバンドを可視化した。MS分析のための3-11kDa領域をカバーするTTゲルレーンから、22個のゲルバンドを手動で切除した。各バンドペア、例えばTT11及びTT27を、一つのエッペンドルフチューブに回収し、〜1mm立方体にカットした。このようにプールした後、8つのサンプルを、LC-MS/MSによって分析した。8つのサンプルの分析を包含する完全なデータセットを使用して、全体で65個のタンパク質を同定することが可能となった;しかしながら、これらの多くは、複数のゲルバンドに存在し、24個の特徴的なタンパク質のみが存在することが示された(表7)。これにより、複数のタンパク質断片化形態が存在することが示唆された。
【0250】
【表6A】
【表6B】
【表6C】
【表6D】
【表6E】
【0251】
【表7】
【0252】
BioLynx softwareを使用して、SELDIピーク1-6(表3参照)を試験した。BioLynx分析においては、対象とするピークの平均質量(すなわち、ゼロ電荷状態)は、予期される断片のために検索する時は、±2又は3ダルトンを使用した。
【0253】
図10は、ピーク1-6のSELDI m/z値に対応するゲルバンドにおいて同定されたタンパク質を示す。表は、(必要であるならば)BioLynxでの相当する残基番号とともに、対象とするタンパク質の同一性を求めるために使用したLC/MS/MSで観察されたペプチド(Mascot残基番号)、及び、そのMascotペプチド残基番号を「カバーする」又はマッチするBioLynxで予期されたペプチドのペプチド残基番号を示す。
【0254】
観察された各SELDIピークは、分子の混合物を含み、それぞれの分子が、ピークについて観察された強度の幾らかの割合をもたらす可能性がある。更にその上、同定したタンパク質の大部分が、11kDaより高い分子量であることが予期されたことから、SELDIピークは、これらのタンパク質の断片を含む可能性が非常に高い。BioLynx相関関係の実施により、表7で示された24個のタンパク質のいずれかに由来する、可能性ある断片配列のセットが産生した。
【0255】
図11は、BioLynxを使用した、観察されたペプチド断片を分析する理論的根拠を示す。図11aに示すように、例えば、ピーク1(平均 質量3770Da)は、LC/MS/MSサンプルTT43のゲルバンドTK及びTVで表される。スペクトル及びゲルイメージの下に、major urinary protein 1(前駆体、すなわち、全長)のアミノ酸配列を示す。その同定がMascotに由来するペプチドに下線を引く。強調した表示は、SELDIピークのm/zとマッチする、BioLynxによって予測されたペプチドであり、Mascot(実験的に観察された)ペプチドも含む。テキストは、BioLynxで予期されたペプチドの相当するSwiss-Protアミノ酸残基番号を示す。また、タンパク質のシグナル配列(最初の19個のアミノ酸)を黒線で示し、この領域は、一般的には、成熟タンパク質を生成するために除去される。
【0256】
LC/MS/MS実験で観察されたペプチドを、その後、タンパク質の予期された断片上にマッピングし、これは、観察されたSELDI値と一致する分子量を有しなければならない。
【0257】
複数のピークで観察されたタンパク質は、潜在的に、より好ましいバイオマーカー候補である。
【0258】
これらのバイオマーカーを立証する予備的な実験は、断片配列それ自身上の特徴的なエピトープを選択的に認識するが、タンパク質全体を認識しない注意深く選択された(カスタム-メイド)抗体を使用したウェスタンブロッティングを含むであろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病に関する方法及び組成物に関する。特に、本発明は、正常な状態に比較して、アルツハイマー病において差異的に発現するタンパク質を同定し且つそれを記載する。さらにまた、本発明は、アルツハイマー病を治療又は予防するための化合物に対する潜在的な分子ターゲットである差異的に発現するタンパク質の同定のための方法、特に、実験的なパラダイムを提供する。さらに本発明は、アルツハイマー病の予防及び治療のための化合物の同定方法及びその治療上の使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、高齢者の最も一般的な認知症の原因であり、現在のところ治療方法が存在しない衰弱性の神経変性疾患である。この病気により、脳の一部分、おもに記憶をコードすることに関与する海馬における神経を消滅させる。アルツハイマー病は、機能自律性及び認知機能の不可逆的な進行性消失をもたらす。ADの最も早期の兆候は、単純な健忘症と間違えられる可能性があるが、アルツハイマー病と結果的に診断されたヒト達においては、これらの初期的兆候は、冷酷なことに、精神機能低下のより重篤な兆候へと進行する。ADが進行する時間は、ヒトによって変わるが、進行した兆候には、重篤な記憶障害、混乱、言語障害、人格及び行動の変化、並びに判断力の低下が含まれる。ADを患ったヒトは、コミュニケーションをしようとせず、敵対心を有するようになる。この病気は、その進行において、深刻な認知症をもたらすので、患者は、自分自身でケアことができず、たびたび、収容又は家庭の場での専門的なケアが必要である。患者の中には、ADと診断された後も何年間も生存することができるヒトが存在し、診断後の平均寿命は8年である。
過去において、ADは、脳生検、又は患者が死亡した後での病理解剖により、確定をもって診断することができた。これらの方法は、脳における特徴的なプラーク及び絡み合った病巣の存在を実証し、ADの病理学的診断についての最も標準的な検査であると現在でも考えられている。しかしながら、臨床状況においては、脳生検はほとんど行われず、診断は、脳脊髄液及び血液中の生物学的マーカー(例えば、ApoE及びtauタンパク質又はβ-アミロイドペプチド)の測定を含む一連の神経学的試験、心理試験及び生化学的試験に依存する。
多くの薬剤が、ADに関連した行動に現れる症状(攻撃性、偏執章、妄想又は鬱)を治療するために使用されているが、4つの薬剤(コリンエステラーゼ阻害剤として知られている)のみが、ADと診断されたヒトの認知機能の改善を助けるのに利用することができる。これらの薬剤Cognex(tacrine)、Aricept(donepezil)、Exelon(rivastigmine)及びReminyl(galantamine)は、対症的な有益性のみ提供し、病気の経過を変更させることは見いだされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,376,110号
【特許文献2】米国特許第4,946,778号
【特許文献3】米国特許第4,873,191
【特許文献4】米国特許第4,109,496号
【特許文献5】米国特許第5,093,246号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.S.Rossier et al., 1999, Electrophoresis 20: pages 727-731
【非特許文献2】Proteins: Structures and Molecular Principles”, W.H. Freeman & Co., N.Y., pp. 34-49
【非特許文献3】Ausubel, supra. And PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (1990) Innis, M. et al., eds. Academic Press Inc., New York
【非特許文献4】Chien et al (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 9578-9582
【非特許文献5】Kohler and Milstein, 1975, Nature, 256, 495-497
【非特許文献6】Kosbor, et al., 1983, Immunology Today 4:72
【非特許文献7】Cole et al., 1983, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80;2026-2030
【非特許文献8】Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss Inc., pp-77-96
【非特許文献9】Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. 81: 6851-6855
【非特許文献10】Neuberger et al., 1984, Nature 312 :604-608
【非特許文献11】Takeda et al., 1985, Nature 314: 452-454
【非特許文献12】Bird, 1988, Science 242: 423-426
【非特許文献13】Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 :5879-5883
【非特許文献14】Ward et al., 1989, Nature 334 :544-546
【非特許文献15】Huse et al., 1989, Science 246: 1275-1281
【非特許文献16】Van der Putten et al., 1985, Proc. Nat. Acad. Sci., USA 82: 6148-6152
【非特許文献17】Thompson et al., 1989, Cell 56: 313-321
【非特許文献18】Lo, 1983, Mol.Cell Biol.3: 1803-1814
【非特許文献19】Lavitrano et al., 1989, Cell 57: 717-723
【非特許文献20】Gordon, 1989, Transgenic Animalsm Intl. Rev. Cytol. 115: 171-229
【非特許文献21】Lasko, M. et al., 1992, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6232-6236
【非特許文献22】Holcomb et al., Nat Med. 1998 Jan; 4(1): 97-100
【非特許文献23】Small et al., 1985, Mol. Cell Biol. 5: 642-648
【非特許文献24】Lam, K.S. et al., 1991, Nature 354: 82-84
【非特許文献25】Houghten, R. et al., 1991, Nature 354: 84-86
【非特許文献26】Rossi, 1994, Current Biology 4: 469-471
【非特許文献27】Marasco, W. et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 7889-7893
【非特許文献28】Weekes, J. et al. Electrophoresis, 20(4-5): 898-906, 1999
【非特許文献29】Heinke, M.Y. et al. (Electrophoresis, 20(10):2086-2093、1999
【非特許文献30】Pennington, K et al., Proteomics, 4(1): 27-30, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
広い意味で、本発明は、アルツハイマー病と関連するタンパク質マーカーを同定するための操作、及びADの診断又は予後診断のためのこれらのマーカーの使用に関する。本発明は、さらに、治療の標的としてのこれらのタンパク質の使用、及び、ADの治療において、又はADの治療のためのリード化合物の開発において有用であるかどうかを求めるための、候補化合物をスクリーニングする方法に関する。本明細書に開示された実験は、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein(APP))及び/又はプレセニリン-1(presenilin-1(PS-1))を発現するダブルトランスジェニックマウスであるアルツハイマー病のモデルマウスと比較した、正常なマウスにおけるタンパク質の差異的な発現を示す。
【0006】
従って、第一の態様として、本発明は、患者に由来するサンプルにおける、図3から6若しくは表7に示すタンパク質、又は図9に示すタンパク質の対応するヒトタンパク質の一つ又は複数の存在又は量を測定することを含む、患者におけるアルツハイマー病を診断する方法を提供する。
【0007】
さらなる態様として、本発明は、患者に由来するサンプルを使用した、アルツハイマー病の診断のための、図3から6若しくは表7に示すタンパク質、又は図9に示すタンパク質の対応するヒトタンパク質の一つ又は複数の存在又は量の使用を提供する。
【0008】
さらなる態様として、本発明は、アルツハイマー病を治療又は予防するための薬剤としての適合性について候補化合物をスクリーニングするための、図3から6若しくは表7に示すタンパク質、又は図9に示すタンパク質の対応するヒトタンパク質の使用を提供する。
【0009】
さらなる態様として、本発明は、以下の工程:
一つ又は複数の候補化合物が、図3から6若しくは表7に示すタンパク質、又は図9に示すタンパク質の対応するヒトタンパク質の一つ又は複数の発現又はレベルを調節することができるかどうかを測定する工程;
を含む、アルツハイマー病の予防又は治療に潜在的に有用である化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0010】
従って第一の態様として、本発明は、以下の工程:
(a)少なくとも一つのタンパク質が、アルツハイマー病を有する被検体又はアルツハイマー病になりやすい素因を有する被検体、及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するというパラダイムを確立する工程;
(b)スクリーニングされる薬剤で処理された、アルツハイマー病を有する被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織のサンプルを得る工程;
(c)処理された被検体から得た組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するタンパク質の存在、不存在、又は発現の度合いを測定する工程;並びに
(d)アルツハイマー病を有する処理された被検体において差異的に発現したタンパク質の発現、活性又は量を、正常な被検体のものへと変化させる程度に従って、上記薬剤を選択又は拒絶する工程;
を含む、アルツハイマー病の治療における有用性を決定するための薬剤のスクリーニング方法を提供する。
パラダイムは、差異的に発現する少なくとも一つのタンパク質を確立する工程を含む。しかしながら、幾つかの実施態様として、パラダイムは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10又は20個の差異的に発現したタンパク質を使用することができる。
【0011】
好ましくは、この方法においては、上記薬剤が、タンパク質の発現を、正常な被検体の発現に転換させるならば、この薬剤を選択する。スクリーニング方法で使用することができる差異的に発現するタンパク質の例は、図3から6及び図9並びに表7で提供され、グアノシンジホスフェート解離阻害因子1(guanosine diphosphate dissociation inhibitor 1)、ジヒドロピリミジニアーゼ関連タンパク質2(dihydropyrimidinease related protein-2)、プロテアソームサブユニットアルファタイプ6(proteasome subunit alpha type 6)、アポリポタンパク質E(apolipoprotein E)、シナプシンII(synapsin II)、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼアイソザイムL1(ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase isozyme L1)、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase)、グルタチオンS-トランスフェラーゼmu 1(glutathione S-transferase mu 1)、チューブリンベータ-4鎖(tubulin beta-4 chain)、WWドメイン結合タンパク質2(WW domain binding protein 2)、真核生物翻訳開始因子4H(eukaryotic translation initiation factor 4H)、チューブリンベータ-3(tubulin beta-3)、神経タンパク質Np25(neuronal protein Np25)、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼA(fructose-bisphosphate aldolase A)、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼC(fructose-bisphospahte aldolase C)、ヌクレオリシンTIA関連タンパク質(nucleolysin TIA related protein)、ペプチジルプロリルイソメラーゼD(peptidylprolyl isomerase D)、電位依存性アニオン選択的チャンネルタンパク質1(voltage-dependent anion-selective channel protein 1)及びミトコンドリア アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ前駆体(acetyl-COA acetyltransferase mitochondrial precursor)が含まれる。
【0012】
本明細書に記載の図及び表で示されるタンパク質について、プロセシングを受けた形態(例えば、前駆体形態の切断により、例えばシグナルペプチドの除去により生じた成熟タンパク質)が含まれる。プロセシングを受けた形態に対応するアミノ酸残基は、図又は表で示すSWISS-PROT又は他のデータベースエントリーで定められる。
【0013】
例としては、パラダイムは、(a) アミロイド前駆体タンパク質(APP)及びプレセニリン-1(PS-1)ダブルトランスジェニックマウス、並びに野生型マウスに由来するサンプル、並びに/又は、(b)APPマウス及び/若しくはシングルトランスジェニックPS-1マウスに由来するサンプルに基づくことができる。パラダイムは、また、ADの他の動物モデルに由来するサンプルを使用することができる。好ましいサンプルは、組織サンプル、例えば血清サンプル、又は最も有用には脳組織サンプル(例えば、海馬、脳半球、前側帯皮質組織)である。
【0014】
幾つかの実施態様として、パラダイムにおいては、異なるレベルのタンパク質発現を有する被検体は:
(a)野生型マウス及び上記したトランスジェニックマウス;並びに
(b)薬剤で処理されなかった上記したトランスジェニックマウス、及び薬剤で処理された上記したトランスジェニックマウス;
を含む。
【0015】
好ましくは、タンパク質発現の差異的なレベルは、薬剤で処理された野生型マウス及び薬剤で処理されなかった野生型マウスで見られない。
【0016】
付加的に又は代替的に、パラダイムにおいては、異なるレベルのタンパク質発現を有する被検体は:
(a)薬剤で処理された野生型マウス及び薬剤で処理されなかった野生型マウス;並びに
(b)薬剤で処理された上記したトランスジェニックマウス及び薬剤で処理されなかった上記したトランスジェニックマウス;
を含む。
【0017】
この場合、タンパク質発現の差異的なレベルは、野生型マウス又は薬剤で処理されなかったトランスジェニックマウスで見られない。
【0018】
本発明の全ての態様においては、サンプルに存在するタンパク質は、関連組織又はタンパク質を含む関連組織の抽出物で実施される二次元ゲル電気泳動又はSELDI分析を使用して、確立することができる。タンパク質は、以下に概略するように単離することができ、さらに同定のために分析することができる。タンパク質は、典型的には、上記タンパク質を分析するための質量分析及びデータベース検索を使用して、同定することができる。
【0019】
差異的な発現は、統計的分析、例えば、2Dゲル又はSELDIピークのスポットの強度の統計的分析を使用して確認することができる。統計的分析には、Mann-Whitney検定などの一変数方法、並びに主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)及び部分的最小二乗データ分析(Partial Least Squares Data Analysis:PLS-DA)などの多変数方法を含むことができる。
【0020】
好ましい実施態様として、病気の状態及びコントロールの間のタンパク質発現の変化の倍数は、少なくとも1.2、1.4、1.5、1.7、2、2.5又は3である。
【0021】
例えば、以下の方法を適用することができる。(a)ロードしたスポット内の対象ピークの場所は、データモデリングプロセスにおける群の分離に対する明らかな寄与を示し、交差検定の実施を可能とする。(b)p値<0.05は、Mann-Whitneyの一変数検定を使用して達成される。(c)2つの群間の多数のマーカーの変化の程度は、少なくとも1.5倍の上方制御又は下方制御である。
【0022】
質量分析により、多数のペプチド断片がSELDIピーク又は2Dゲルスポットに存在していることが明らかになる場合、SELDIピーク又は2Dゲルスポットの質量とマッチする、試験により産生したタンパク質の断片の可能性を予測するために、Biolynx(Micromass、UK)などのペプチド断片予測ソフトウェアを使用することができる。その後、予測された断片を、質量分析で同定された断片と比較することができる。
【0023】
本発明のさらなる好ましい実施態様として、上記方法で同定した差異的に発現するタンパク質を単離する工程、及び/又は、単離したタンパク質を特徴づけるする工程をさらに含むことができる。
【0024】
差異的に発現するタンパク質は、必要に応じて、2Dゲルスポットからの切除;又はSELDIチップからの溶出に続く、溶出タンパク質のゲル電気泳動による分離、及び、対象とするSELDIピークの分子量に対応する分子量に移動したタンパク質バンドのゲルからの切除、そして、上記抽出物中のタンパク質を同定する工程によって、同定することができる。
【0025】
本発明により同定されたタンパク質及び本明細書に開示された本発明の全ての態様における使用のために適用可能なタンパク質の例には、図3から6及び図9並びに表7で示されるタンパク質、特には、グアノシンジホスフェート解離阻害因子1、ジヒドロピリミジニアーゼ関連タンパク質2、プロテアソームサブユニットアルファタイプ6、アポリポタンパク質E、シナプシンII、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼアイソザイムL1、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼmu 1、チューブリンベータ-4鎖、WWドメイン結合タンパク質2、真核生物翻訳開始因子4H、チューブリンベータ-3、神経タンパク質Np25、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼA、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼC、ヌクレオリシンTIA関連タンパク質、ペプチジルプロリルイソメラーゼD、電位依存性アニオン選択的チャンネルタンパク質1及びミトコンドリア アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ前駆体が含まれる。
【0026】
一つの実施態様として、タンパク質は、タンパク質の特異的な結合パートナーのためのアッセイに使用することができる。タンパク質は、また、タンパク質のアゴニスト又はアンタゴニストのスクリーニングのためのアッセイに使用することができる。薬剤又はタンパク質は、ハイスループットスクリーニング方法を使用して、スクリーニングすることができる。
【0027】
アゴニスト又はアゴニストは、例えば、小分子、抗体、アンチセンス核酸又はsiRNAとすることができる。
【0028】
さらなる態様として、本発明は、上記方法を使用して薬剤を同定する工程、上記薬剤を製造して、上記薬剤を許容可能なキャリアーと調合して医薬組成物を提供する更なる工程を含む、医薬組成物の製造方法を提供する。
【0029】
さらなる態様として、本発明は、治療方法における使用のための、図3から6若しくは表7で示すタンパク質、又は図9に示すタンパク質の対応するヒトタンパク質を提供する。
【0030】
さらなる態様として、本発明は、アルツハイマー病の治療のための医薬の製造のための、前記方法によって同定された薬剤の使用を提供する。
【0031】
さらなる態様として、本発明は、上記方法によって同定された上記薬剤の治療上又は予防上の有効量を患者に投与する工程を含む、患者においてアルツハイマー病を治療する方法を提供する。
【0032】
さらなる態様として、本発明は、以下の工程:
(a)少なくとも一つのタンパク質が、アルツハイマー病を有する被検体及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するというパラダイムを確立する工程;
(b)上記被検体から上記組織のサンプルを得る工程;
(c)上記サンプルにおける差異的に発現するタンパク質の存在、不存在又は発現の度合いを測定する工程;並びに
(d)上記測定値と臨床上の情報の間の従前の相関関係を参考にして、アルツハイマー病の発症について測定値を関連させる工程;
を含む、ヒト又は動物被検体におけるアルツハイマー病の性質又は度合いを測定する方法を提供する。
【0033】
タンパク質の存在、不存在又は発現の度合いを、患者又は被検体に由来するサンプルにおいて測定する場合、サンプル中の上記タンパク質の量を、好ましくは、非-アルツハイマー病の被検体から得られたコントロールサンプルを参照にして確立する。
【0034】
組織サンプルは、例えば、血液、血漿、脳脊髄液又は血清とすることができる。
【0035】
一つの実施態様として、少なくとも4つのタンパク質を、パラダイムにおいて差異的に発現させて、アルツハイマー病の性質又は度合いの複合的なタンパク質フィンガープリントを提供する。
【0036】
差異的に発現するタンパク質は、上記タンパク質に特異的な抗体を使用して、例えばELISAアッセイ又はウェスタンブロッティングにより検出することができる。代替的に、差異的に発現するタンパク質は、とりわけ、2Dゲル電気泳動、又はLC/MS/MS、MALDI-TOF若しくはSELDI-TOFを含む質量分析手法により検出することができる。サンプルは、分析のための固体支持体上に固定化することができる。
【0037】
他の実施態様として、方法は、アルツハイマー病を治療するための有効な治療を求める工程を更に含む。
【0038】
さらなる態様として本発明は、対象におけるアルツハイマー病の進行を予防するための、アルツハイマー病の状態において差異的に発現する一つ又は複数のタンパク質の発現を、正常な状態において見出されるものに戻すであろう薬剤の使用による治療の方法を提供する。
【0039】
さらなる態様として本発明は、アルツハイマー病を有する個体の組織サンプル又は体液サンプル又は尿における差異的に発現したタンパク質のパターンを使用して、アルツハイマー病を緩和し上記治療の成功をモニターする最も適切で有効な治療方法を予測する方法を提供する。
【0040】
さらなる態様として、本発明は、アルツハイマー病を有する被検体及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するタンパク質であり、上記の組織又はそのタンパク質含有抽出物を用いた実施した二次元ゲル電気泳動方法によって入手可能であるタンパク質であって、上記方法が、以下の工程:
(a)3mm×180mmのアクリルアミドポリマーの非直線状固定化pH勾配(IPG)ストリップを準備する工程;
(b)尿素(8M)、3-[(コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS、2%w/v)、ジチオエリスリトール(DTE、10mM)、pH3.5から10の酸及び塩基の混合物(2%w/v)、及び微量のBromophenol Blueの水溶液を25ml含むカセット中で、上記IPGストリップを再水和する工程;
(c)上記カセットから液体を除き、湿った電極芯、電極、及びサンプルカップを備えた電気泳動トレーに上記ストリップを移し、上記ストリップとカップを低粘度のパラフィン油で覆う工程;
(d)上記IPGストリップの陰極末端で、サンプルカップに、尿素(8M)、CHAPS(4%w/v)、Tris(40mM)、DTE(65mM)、SDS(0.05%w/v)、及び微量のBromophenol Blue中で、関連生体組織の乾燥粉末化した材料の水溶液の200マイクログラムを適用する工程;
(e)3時間で300から3500Vまで直線状に増加させ、その後さらに3時間3500Vとし、その後pI依存性最終地点に、上記ストリップ中で上記タンパク質が移動するのに十分な時間5000Vとした電圧で、ゲル上で等電点電気泳動を実施する工程;
(f)Tris-HCl(50mM)pH6.8、尿素(6M)、グリセロール(30%v/v)、SDS(2%w/v)及びDTE(2%w/v)を含む100mlの水溶液で12分間、トレー内で上記ストリップを平衡化する工程;
(g)5分間この溶液を、Tris-HCl(50mM)pH6.8、尿素(6M)、グリセロール(30%v/v)、SDS(2%w/v)、ヨードアセタミド(2.5%w/v)、及び微量のBromophenol Blueを含む100mlの水溶液によって置換する工程;
(h)リーディングバッファーとしてのTris-HCl(0.375M)pH8.8中のTEMED(0.5%w/v)、過硫酸アンモニウム(0.1%w/v)、及びチオ硫酸ナトリウム(5mM)の存在下で重合した、アクリルアミド/ピペラジン-ジアクリリル架橋剤(9-16%T/2.6%C)の160×200×1.5mmの縦勾配スラブゲルを準備する工程;
(i)約2時間sec-ブタノールで上記ゲルを浸し、この液を除去し、それを水と置換する工程;
(j)陽極末端から6mmと陰極末端から14mmを除去して、二次元電気泳動のために適したサイズにIPGゲルストリップを切断する工程;
(k)リーディングバッファーとしてのアガロース(0.5%w/v)及びTris-グリシン-SDS(25mM-198mM-0.1%w/v)の水溶液でスラブゲルを浸し、70℃に加熱し、この浸した溶液を通じてスラブゲル上に上記IPGゲルストリップを乗せる工程;
(l)8-12℃で5時間40mAの一定電流で、二次元電気泳動を実施する工程;並びに
(m)ゲルを洗浄する工程;
を含む、タンパク質を提供する。
【0041】
他の態様として、本発明は、以下の工程:
a)図3から6、表7及び図9で示すタンパク質から、少なくとも一つの候補タンパク質を選択する工程;
b)狭い範囲の固定化pH勾配(IPG)を使用した二次元ゲル電気泳動を介して、他のタンパク質から、上記候補タンパク質が分離可能なpH範囲を選択する工程;
c)上記で選択したpH範囲のIPGを使用した二次元ゲル電気泳動によって、生物学的サンプル中の他のタンパク質から、上記候補タンパク質を分離する工程であって、上記サンプルが、それぞれ、アミロイド前駆体タンパク質(APP)及びプレセニリン-1(PS-1)ダブルトランスジェニックマウス並びに野生型マウスから得られる工程;
d)トランスジェニックマウス及び野生型マウスから得られたゲルにおけるスポットの強度を比較する工程;
e)強度が2つのゲルの間で異なるスポットを選択する工程;並びに
f)上記スポットにおけるタンパク質を同定する工程;
を含む、アルツハイマー病の患者とアルツハイマー病ではない患者との間で発現のレベルが異なるタンパク質を同定する方法を提供する。
【0042】
他の態様として、本発明は、以下の工程:
a)ゲル電気泳動により、生物学的サンプル中のタンパク質を分離する工程;
b)表3、4又は5で示すピークに対応する分子量に移動したタンパク質バンドを、ゲルから抽出する工程;及び
c)上記抽出物中のタンパク質を同定する工程;
を含む、アルツハイマー病の患者とアルツハイマー病ではない患者との間で発現のレベルが異なるタンパク質を同定する方法を提供する。
【0043】
好ましい実施態様として、抽出物中のタンパク質の同定は、質量分析によって実施する。抽出物が、複数のタンパク質断片を含む場合は、表3、4又は5で示すピークの更なる分析を、BioLynx(Micromass、UK)などのペプチド断片の産生を予測するソフトウェアを使用して実施することができる。その後、予測されたペプチドを、MSで同定されたペプチドとマッチさせることができる。
【0044】
差異的に発現したタンパク質の同定の確認は、質量分析によって同定されたペプチド上で見いだされるペプチドエピトープに特異的な抗体を用いた細胞サンプルのウェスタンブロッティング及びプロービングによって実施することができる。
【0045】
一つの実施態様として、リストしたタンパク質の差異的な発現は、図10で示すペプチドに特異的な抗体を用いたプロービングによって検出される。
【0046】
幾つかの実施態様として、シングルトランスジェニックAPPマウス及び/又はシングルトランスジェニックPS-1マウスに由来するサンプルも使用する。生物学的サンプルは、例えば、海馬組織などの脳組織、又は血清とすることができる。工程(f)は、上記タンパク質を分析するための質量分析を使用する工程、及び、同定した上記タンパク質についてデータベースを検索する工程を含みうる。
本発明の実施態様を、添付の図を参照に、例を介して開示するが、制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、海馬及び脳半球の残りの両方について、pH4-7L及びpH6-9Lを使用して得られた典型的なタンパク質発現プロファイルを示す。
【図2】図2は、ww及びtt群の分析における最初の2つの基本的な成分を示したPCAスコアプロットを示す(4-7ゲルの海馬組織)。横軸:群内変動。縦軸:群間変動。
【図3】図3は、質的な変化を示す3個のスポットにおいて同定したタンパク質の詳細を示す。
【図4A】図4A及び図4Bは、海馬のpH4-7で同定した28個のスポットにおいて同定したタンパク質の詳細を示す。
【図4B】図4Aを参照。
【図5A】図5A及び図5Bは、海馬のpH6-9で同定した7個のスポットにおいて同定したタンパク質の詳細を示す。
【図5B】図5Aを参照。
【図6】図6は、ROHのpH4-7で同定した5個のスポットにおいて同定したタンパク質の詳細を示す。
【図7】図7は、一つより多い比較において統計的に有意な発現を有する19個のスポットを示す。矢印は、wwに対する倍数についての発現の「方向」を示す。倍数は、一般的には≧2倍増加又は減少ではないが、典型的には、1.2から1.7の間である。
【図8A】図8A及び図8Bは、重要なタンパク質の同定及び一般的な機能を示す。
【図8B】図8Bを参照。
【図9A】図9Aから図9Iは、図3から6で示したマウス/ラットタンパク質に対応するヒトタンパク質についての、利用可能なaccession numberを示す。
【図9B】図9A参照。
【図9C】図9A参照。
【図9D】図9A参照。
【図9E】図9A参照。
【図9F】図9A参照。
【図9G】図9A参照。
【図9H】図9A参照。
【図9I】図9A参照。
【図9J】図9A参照。
【図10A】図10Aから図10Jは、対象とする6つのSELDIピークのBioLynx分析の結果を示す。図10Aは、「図10a:SELDI m/zピーク1(= 3771)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10B】図10Bは、「図10b:SELDI m/zピーク2(= 3900)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10C】図10Cは、「図10c:SELDI m/zピーク3(= 4013)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10D】図10Dは、「図10d:SELDI m/zピーク4(= 8619)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10E】図10E及び図10Fは、「図10e:SELDI m/zピーク5(= 8834)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10F】図10E参照。
【図10G】図10G及び図10Hは、「図10f:SELDI m/zピーク6(= 9172)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10H】図10G参照。
【図10I】図10I及び図10Jは、「図10g:SELDI m/zピーク1(= 3770)及びピーク4(=8618)に対応する1-Dゲルバンドで同定したタンパク質」を示す。
【図10J】図10I参照。
【図11A】図11は、BioLynxを使用した、観察されたペプチド断片を分析する論理的根拠を例示し、SELDIピークP1及びP2(図11a)並びにピークP4(図11b)に関するマウスのmajor urinary protein 1についての予測されたペプチド断片及び観察されたペプチド断片を示す。スペクトル及びゲルイメージの下に、major urinary protein 1(前駆体、すなわち全長)のアミノ酸配列を示す。その同定がMascotに由来するペプチドに下線を引いた。強調した表示は、SELDIピークのm/zとマッチする、BioLynxによって予測されたペプチドであり、Mascot(実験的に観察された)ペプチドも含む。テキストは、BioLynx予測ペプチドの相当するSwiss-Protアミノ酸残基番号を示す。また、タンパク質のシグナル配列(最初の19個のアミノ酸)を、黒線で示し、この領域は、一般的には、成熟タンパク質を生成するために除去される。
【図11B】図11A参照。
【発明を実施するための形態】
【0048】
(定義)
ここで使用される「差異的な発現」は、組織タンパク質発現における少なくとも一つの認識可能な差異を指す。それは、組織タンパク質発現における量的に測定可能な差異、半量的に見積もり可能な差異、又は質的に検出可能な差異であっても良い。かくして、差異的に発現するタンパク質(ここでDEPと称する)は、正常な状態における組織で強力に発現し、アルツハイマー病の状態の組織においてあまり強力に発現しない若しくは全く発現しないものでも良い。逆にそれは、疾患状態における組織において強力に発現し、正常な状態においてあまり強力に発現しない若しくは全く発現しないものでも良い。同様に差異的な発現は、非治療組織と治療組織との間の比較において各方向で見出される。さらに、発現は、タンパク質が比較の元で二つの状態の間で認識可能な変化を受けているのであれば、差異的であるとみなすことができる。
【0049】
用語、「パラダイム」は、プロトタイプの例、試験モデル、又はスタンダードを意味する。
【0050】
差異的に発現可能なタンパク質がスクリーニング方法において使用される場合はいつでも、タンパク質の差異的な発現性が事前に測定されるパラダイムを確立する予備工程を、過去のある時点でなされている必要がある。一度パラダイムが確立されたならば、スクリーニング方法が実施される全ての場合で再確立される必要はない。従って用語、「パラダイムの確立」が、構築されなければならない。
【0051】
「関連組織」は、アルツハイマー病に応答して生物学的変化を受ける任意の組織を意味する。
【0052】
「被検体の代表的な組織」は、上記の生物学的変化が、研究室の課題のためにシュミレーションすることができる任意の組織を意味し、例えば一次細胞組織、又は関連組織から最終的に由来する細胞系を含む。
【0053】
用語「被検体」は、ヒト及び動物の被検体を含む。
【0054】
上記治療は、一つ若しくは複数の薬剤若しくは食物の投与、及び/又は食餌若しくは運動のような他の因子を含むことができる。
【0055】
マウス又はラットタンパク質に対する用語「ヒトに対応する」は、対象とするマウス又はラットタンパク質と同じ名前を有するヒトタンパク質を示す。大部分の場合は、これは、対象とするマウス又はラットタンパク質に対して最も高いアミノ酸配列同一性を有するヒトタンパク質であろう。
【0056】
差異的に発現するタンパク質(DEP)は、「フィンガープリントタンパク質」、「標的タンパク質」又は「パスウェイタンパク質」を含む。
【0057】
ここで使用される用語「フィンガープリントタンパク質」はDEPを意味し、その発現が単独で又は他のDEPと組み合わされて、アルツハイマー病に罹患している疑いのある患者の状態をモニター又は評価するために使用できる。これらのタンパク質は、通常組み合わせて、特に4つ以上と組み合わせて使用されるので、これらは、場合により単独で又はこの目的のための一つ又は二つの他のタンパク質と共に使用される可能性に対して影響を受けることなく、好都合なことに、「フィンガープリントタンパク質」と称する。上記フィンガープリントタンパク質は、例えばアルツハイマー病の特定のタイプを診断し、それに対する特別の治療を示唆するのに使用できる。
【0058】
ここで使用される用語「診断」は、患者における上記疾患の存在、不存在又は可能性に関する任意の情報の提供を含む。それはさらに、それと関係する又は関係すると経験的に認識される疾患又は症状のタイプ又は分類に関する情報の提供を含む。上記疾患の治療過程の予後を包含する。
【0059】
ここで使用される用語「標的タンパク質」はDEPを意味し、そのレベル又は活性が、アルツハイマー病を緩和するための治療によって調節できる。患者における標的タンパク質のレベル又は活性の調節は、例えば、それと相互作用する標的タンパク質、別のタンパク質若しくは遺伝子、又はそれを中和する若しくは減少する薬剤(例えば、上記タンパク質に対する抗体、上記タンパク質の競合的なインヒビター、又は対応する遺伝子の転写若しくは翻訳のプロセスにおいて作用する薬剤)を投与することによって達成されても良い。
【0060】
ここで使用される用語「緩和する」は、アルツハイマー病に関して、一つ又は複数のアルツハイマー病の望ましくない兆候又は効果を減少させる任意の形態を意味する。患者のアルツハイマー病の任意の改善は、用語「緩和する」に含まれる。
【0061】
代替的に又は付加的に、DEPは、アルツハイマー病に関与する少なくとも一つの他のタンパク質又は遺伝子と相互作用できる。上記他のタンパク質は、ここで「パスウェイタンパク質」(PP)と称される。この用語は、DEPと相互作用するタンパク質に適用され、DEP自体には適用されないが、パスウェイタンパク質が別のDEPであっても良い。
【0062】
(アルツハイマー病の治療のための方法及び組成物)
正常な状態での発現に対してアルツハイマー病の状態で差異的に発現する、及び/又は、アルツハイマー病に対する処置に応答して差異的に発現する「標的タンパク質」と称するタンパク質及び/又はフィンガープリントタンパク質を開示する。付加的に、脳機能に関与するタンパク質と相互作用する「パスウェイタンパク質」と称するタンパク質を開示する。上記フィンガープリント標的及びパスウェイタンパク質を同定する方法も開示する。
【0063】
以下に、アルツハイマー病に関与する、タンパク質の発現を調節する化合物の同定方法を開示する。付加的に、以下に、アルツハイマー病の治療方法も開示する。
【0064】
また、以下に、アルツハイマー病の予後的及び診断的評価方法、並びに、この疾患に対する素因を呈する対象の同定方法を開示する。
【0065】
(1.差異的に発現タンパク質及びパスウェイタンパク質の同定)
一つの実施態様として、本発明は、アルツハイマー病に関与するタンパク質の同定のための方法に関する。上記タンパク質は、正常状態における発現に対して、アルツハイマー病において差異的に発現するタンパク質を表しても良い。さらに上記タンパク質は、アルツハイマー病を治療することに対する処置に応答して、差異的に発現する又は調節されるタンパク質を表しても良い。上記差異的に発現するタンパク質は、「標的」又は「フィンガープリント」タンパク質を表しても良い。上記タンパク質の同定のための方法は、セクション1.1に記載する。上記差異的に発現するタンパク質のさらなる特徴付けのための方法、並びに、標的及び/又はフィンガープリントタンパク質としての同定のための方法を、以下のセクションに示す。
【0066】
さらに、アルツハイマー病に関与するパスウェイタンパク質と称されるタンパク質の同定のための方法は、セクション1.3に記載する。ここで使用するパスウェイタンパク質は、アルツハイマー病に関連する他のタンパク質と相互作用する能力を示すタンパク質を指す。パスウェイタンパク質は差異的に発現しても良く、それ故、標的又はフィンガープリントタンパク質の特徴を有しても良い。
【0067】
ここで使用する「差異的な発現」は、タンパク質発現における質的及び量的な差異の両者を指す。かくして差異的に発現するタンパク質は、アルツハイマー病状態に対して正常な状態において、又は実験条件に対してコントロール条件において、活性化された発現又は完全に不活性化された発現を定性的に有しても良い。上記定性的に調節されたタンパク質は、所定の組織又は細胞タイプ内で発現のパターンを示し、それはコントロール又はアルツハイマー病の被検体のいずれかで検出可能であり、両者では検出可能ではない。代替的に、上記定性的に調節されるタンパク質は、一つ又は複数の細胞タイプ内で発現パターンを示し、それはコントロール又は実験被検体のいずれかにおいて検出可能であり、両者では検出可能ではない。ここで使用される「検出可能」は、ディファレンシャルディスプレイ2D電気泳動のような方法を使用して検出可能であるタンパク質発現パターンを指す。
【0068】
代替的に、差異的に発現するタンパク質は、アルツハイマー病の状態に対して正常な状態において、又は、実験条件に対してコントロール条件の下で、調節された発現を有する、即ち、質的に増大又は減少しても良い。アルツハイマー病の状態に対して正常な状態における、又は、実験条件に対してコントロール条件の下での、発現の異なる度合いは、2D電気泳動ゲルの銀染色のような標準的な特徴付け方法を介して視覚化するのに十分大きいことのみが必要である。発現差異を視覚化するための他の上記標準的な特徴付け方法は、当業者に周知である。これらは、クロマトグラフィー分離による連続的な分画を含み、そして、ピークの比較、キャピラリー電気泳動と、マイクロチップを含むマイクロチャネルネットワークを使用する分離を含む。
【0069】
クロマトグラフィーでの分離は、Pharmaciaの文献に記載された高速液体クロマトグラフィーによって実施でき、上記クロマトグラムは、分離の時間に対して280nmでの光の吸収のプロットの形態で得られる。次いで不完全に分解されたピークを与える物質が、再びクロマトグラフィー等の方法を受ける。
【0070】
キャピラリー電気泳動は、多くの文献に記載された方法であり、例えばP/ACE 5000システムを使用してBeckmanによって提供される文献"Total CE Solutions"において記載されている。この方法は、小さなキャピラリーチューブに含まれるサンプルを通過する電位を提供することに依存する。上記チューブは、負に荷電したシリケートガラスのような荷電した表面を有する。反対に荷電したイオン(この場合正イオン)がその表面に引きつけられ、次いで表面と同じ極性(この場合陰極)の適切な電極に移動する。サンプルのこの電気浸透流(EOF)において、正のイオンが最も早く移動し、次いで非荷電物質、その後負に荷電したイオンが移動する。かくして、タンパク質は、その荷電に従って必須に分離される。
【0071】
ミクロチャネルネットワークは、キャピラリーと幾分類似して機能し、ポリマー性材料のフォトアブレーションによって形成されることができる。この方法において、例えばポリエチレンテレフタレート又はポリカーボネートといった適切なUV吸収特性を有するポリマー上へのバーストを放射する高エネルギー光パルスを生産するために、UVレーザーが使用される。投射フォトンは閉ざされた空間を有する化学結合を切断し、内圧を生じて小さな爆発を起こし、溶けた物質の噴出を生じ、マイクロチャネルを形成する空間を背後に残す。マイクロチャネル物質は、キャピラリー電気泳動と同様に、EOFに基づく分離を達成する。それはマイクロチップ形態に採用可能であり、各チップは固有のサンプルインジェクター、分離カラム及び電気化学的検出器を有する:J.S.Rossier et al., 1999, Electrophoresis 20: pages 727-731参照。
【0072】
ProteinChip方法と組み合わせた表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(SELDI-TOF-MS)は、タンパク質を迅速に感度が高くプロファイリングする方法を提供することができ、相補的な2Dゲル電気方法の代替方法として使用される。ProteinChipシステムは、タンパク質サンプルを、チップの表面に選択的に結合することができるアルミニウムチップ(例えば、アニオン性、カチオン性、疎水性、親水性等)からなる。結合したタンパク質は、その後、過剰モルのエネルギー吸収小分子を用いて共結晶化させる。チップを、その後、N2 320nm UV短パルスレーザによって分析し、タンパク質分離及び検出は、飛行時間質量分析計により実施する。実験の各群のスペクトルプロファイルを比較し、任意の対象のピークを、以下に示す方法を使用して分析し、タンパク質の同定を確立する。
【0073】
差異的に発現するタンパク質は、標的タンパク質及び/又はフィンガープリントタンパク質としてさらに記載されても良い。ここで使用される「フィンガープリントタンパク質」は、アルツハイマー病の予後若しくは診断評価の一部として、その発現パターンが利用できる差異的に発現するタンパク質、又は、別法として、アルツハイマー病の治療に有用な化合物を同定するための方法において使用できるタンパク質を指す。フィンガープリントタンパク質は、標的タンパク質又はパスウェイタンパク質の特徴を有しても良い。
【0074】
ここで使用される「標的タンパク質」は、そのタンパク質のレベル又は活性の調節が、アルツハイマー病の進行を妨げるように機能するような、アルツハイマー病に関与する差異的に発現するタンパク質を指す。標的タンパク質は、フィンガープリントタンパク質又はパスウェイタンパク質の特徴を有しても良い。
【0075】
(1.1 差異的に発現するタンパク質の同定のための方法)
アルツハイマー病に関与するタンパク質の同定のために、各種の方法を使用できる。セクション1.1.1においては、上記タンパク質の同定のために使用できる被検体及びサンプルの産生に利用できるいくつかの実験的パラダイムを記載する。パラダイムコントロール及び実験被検体から得られた物質は、セクション1.1.2において以下に議論されるように、差異的に発現するタンパク質配列の存在について特徴付けされても良い。
【0076】
(1.1.1 差異的に発現するタンパク質の同定のためのパラダイム)
アルツハイマー病に関与する差異的に発現するタンパク質の同定のために利用可能なパラダイムにおいては、正常な状態とアルツハイマー病の状態との間で、差異的に発現するタンパク質を分析するように、パラダイムをデザインする。
【0077】
このようなパラダイムの一つの実施態様として、正常な被検体及びアルツハイマー病モデルの被検体に由来する脳組織を比較する。適切な組織には、制限されないが、海馬組織が含まれる。
【0078】
アルツハイマー病に関与する差異的に発現するタンパク質の同定のために利用可能な更なるパラダイムは、アルツハイマー病の遺伝モデルにおいて関与するであろうタンパク質を分析するようにデザインされたパラダイムである。従って、上記パラ代有無を、「遺伝的アルツハイマー病パラダイム」と称する。
【0079】
このようなパラダイムの一つの実施態様として、試験被検体には、トランスジェニック又はミュータントラット又はマウス、及び脳組織サンプルが含みうる。以下に示す例では、正常な動物に対して、アルツハイマー病のモデル動物において差異的に発現するタンパク質を同定する際における、このような遺伝パラダイムの使用を提供する。
【0080】
(1.1.2 パラダイム材料の分析)
差異的に発現するタンパク質を同定するために、1.1.1で上述のようなパラダイムで利用する被検体から得た脳組織を得る。さらに、脳組織で差異的に発現するタンパク質は、循環中に放出されるであろうため、血液及び体液を分析しても良い。
【0081】
(1.2 パスウェイタンパク質の同定のための方法)
パスウェイタンパク質の同定のための方法が、ここに記載される。ここで使用される「パスウェイタンパク質」は、アルツハイマー病に関与する差異的に発現するタンパク質と相互作用する能力を示すタンパク質を指す。パスウェイタンパク質は差異的に発現しても良く、それ故、標的タンパク質及び/又はフィンガープリントタンパク質の特徴を有しても良い。
【0082】
タンパク質-タンパク質相互作用を検出するのに適した任意の方法は、候補のタンパク質とアルツハイマー病の状態で差異的に発現することが周知であるタンパク質との間の相互作用を同定することによって、パスウェイタンパク質を同定するために使用されても良い。上記差異的に発現するタンパク質は、細胞内又は細胞外タンパク質であっても良い。上記差異的に発現するタンパク質と相互作用するこのタンパク質は、パスウェイ遺伝子産物に相当する。
【0083】
用いることができる伝統的方法の中には、共免疫沈降、架橋、及び勾配又はクロマトグラフカラムを介した共精製がある。
【0084】
代替的に、差異的に発現するタンパク質を、固体支持体上に固定化し、細胞抽出物とインキュベートして、相互作用するタンパク質を結合させる。固体支持体上に固定化されるタンパク質は、固体支持体に結合させるタンパク質に対する抗体を使用して、又は、周知の他の手法を介して固定化することができる。好ましい方法においては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)を含む融合タンパク質を使用する。このタンパク質は、グルタチオンアガロースビーズ上に固定化することができる。固体化されたタンパク質と細胞抽出物とのインキュベーション後に、遠心分離によって、ビーズ及び結合タンパク質を細胞抽出物から分離させることができ、更なる分析のために、例えばSDS-PAGEに供する。
【0085】
これらのような方法を使用することにより、パスウェイタンパク質の同定が可能となる。いったん同定すれば、パスウェイタンパク質を使用して、標準的な手法と組み合わせることにより、対応するパスウェイ遺伝子を同定することができる。例えば、パスウェイ遺伝子産物のアミノ酸配列の少なくとも一つの部分を、当業者に良く知られた手法(例えばエドマン分解法)を使用して確認することができる(Proteins: Structures and Molecular Principles”, W.H. Freeman & Co., N.Y., pp. 34-49参照)。得られたアミノ酸配列は、パスウェイ遺伝子配列のスクリーニングのために使用することができるオリゴヌクレオチド混合物の産生のガイドとして使用することができる。例えば、標準的なハイブリダイゼーション又はPCR手法によって、スクリーニングを達成することができる。オリゴヌクレオチド混合物の産生及びスクリーニングの手法は、周知である(例えば、Ausubel, supra. And PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (1990) Innis, M. et al., eds. Academic Press Inc., New York)。
【0086】
in vivoでタンパク質相互作用を検出する一つの方法である酵母のツーハイブリッドシステムは、例示のためだけであって、限定する意図なしに詳細に記載する。このシステムの一つの種類が開示されており(Chien et al (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 9578-9582)、Clontech(Palo Alto, Calif)から購入できる。
【0087】
ツーハイブリッドシステム又は関連する方法体系は、周知の差異的に発現する「ベイト」タンパク質と相互作用するタンパク質について、活性化ドメインライブラリーをスクリーニングするために使用されても良い。ゲノム全体又はcDNA配列は、活性化ドメイン(例えばGAL-4の活性化ドメイン)をコードするDNAに翻訳的に融合される。このライブラリーと、DNA結合ドメインに融合したベイトタンパク質産物のハイブリッドをコードするプラスミドとを、酵母リポーター株内に共トランスフォームし、生成したトランスフォーマントを、レポーター遺伝子を発現するものについてスクリーニングする。制限というよりはむしろ例として、ベイト遺伝子は、GAL4タンパク質のDNA結合ドメインをコードするDNAに翻訳的に融合されるように、ベクター中にクローン化できる。これらのクローンを精製し、レポーター遺伝子発現に関与するライブラリープラスミドを単離する。次いでライブラリープラスミドによってコードされるタンパク質を同定するために、DNAシークエンシングを使用する。
【0088】
ベイトタンパク質と相互作用するタンパク質を検出することができた細胞系のcDNAライブラリーを、この業界で一般的に実施されている方法を使用して調製することができる。
【0089】
タンパク質相互作用は、また、生体分子の結合をモニターするためのBiacore(商標)システムを使用してモニターして分析することができる。Biacore(商標)により、方法開発の迅速な評価及びこれらの生体分子の精製のための、生体分子の結合イベントの直接的な検出及びモニターリングが可能となる。差異的に発現するタンパク質などの標的生体分子を、センサーの表面に取り付け、この表面上にサンプルを通過させる。さらなるタンパク質が、センサー表面上の第一タンパク質に結合した場合、表面近辺で質量濃度の変化が見られる。この濃度の変化をリアルタイムで検出し、複合的な混合物からのネイティブなタンパク質の表面タンパク質への結合を、ラベル又はタグの事前の導入の必要なしにモニターする機会が得られる。結合したタンパク質を、その後、センサーチップの表面から取り除き、一般的な方法によって精製する(Nordhoff et al, 1999)。Biacore(商標)手法は、タンパク質相互作用のカイネティクス、親和性及び特異性についての情報を提供することができる。それゆえ、Biacore(商標)手法により、パスウェイタンパク質の検出が可能となる。
【0090】
一度パスウェイタンパク質を同定して単離すると、それはさらに、例えばセクション1.3で以下に記載されるように特徴付けることができる。
【0091】
(1.3 差異的に発現するタンパク質及びパスウェイタンパク質の特徴付け)
セクション1.1における上述の方法により同定されるもののような差異的に発現するタンパク質、セクション1.2における上述の方法により同定されるもののようなパスウェイタンパク質、並びに代替的手段によって同定される遺伝子は、例えばここに記載されるものような方法を利用してさらに特徴付けされても良い。上記タンパク質は、「同定されたタンパク質」としてここで称されるであろう。
【0092】
ここに記載されるもののような分析は、同定されたタンパク質の生物学的機能に関する情報を提供する。差異的に発現するタンパク質の生物学的機能の評価は、さらに、標的タンパク質及び/又はフィンガープリントタンパク質として称されることを可能にするであろう。
【0093】
特に、差異的に発現したタンパク質の調節、又は上記タンパク質の活性の調節が、アルツハイマー病を緩和できることを示すさらなる特徴を有する任意の発現タンパク質が、セクション1で上述のように「標的タンパク質」と称されるであろう。以下の議論と共に、上記標的タンパク質は、セクション3で以下に議論される化合物発見ストラテジーの焦点を構成する。さらに上記標的タンパク質及び/又は調節化合物は、アルツハイマー病の治療及び/又は予防の一部として使用できる。
【0094】
その調節が、アルツハイマー病に正に影響しないことを示す特徴を有するが、その発現パターンが、例えばアルツハイマー病と相関するタンパク質「フィンガープリント」パターンに寄与する、差異的に発現する任意のタンパク質が、「フィンガープリントタンパク質」と称されるであろう。「フィンガープリントタンパク質」は、セクション7.1で以下に十分に議論されるであろう。標的タンパク質のそれぞれはフィンガープリントタンパク質としても機能し、全て又は一部のパスウェイタンパク質であることができることに注意すべきである。
【0095】
さらに、パスウェイタンパク質は、ここに記載されるもののような方法に従って特徴付けできることに注意すべきである。差異的に発現すること、及び、タンパク質発現の調節、又はタンパク質活性の調節が、任意のアルツハイマー病を緩和することを示す情報を提供するパスウェイタンパク質は、「標的タンパク質」と称されるであろう。上記標的タンパク質は、上記の議論と共に、セクション3で以下に議論される化合物発見ストラテジーの焦点を構成し、以下のセクション4に記載される治療方法の一部として使用できる。
【0096】
さらに、パスウェイタンパク質の一つ又は複数の特徴が、差異的発現の欠如を明らかにするが、上記遺伝子の活性又は発現の調節が、言うまでもなくアルツハイマー病の兆候を緩和する証拠であることに注意すべきである。上記の場合、これらの遺伝子及び遺伝子産物は、以下のセクション3の化合物発見ストラテジーの焦点と考慮されるであろう。
【0097】
遺伝子発現又は遺伝子産物活性の調節が、アルツハイマー病に正に影響しないことをパスウェイタンパク質の特徴が示すが、その発現が差異的に発現し、例えばアルツハイマー病と相関する遺伝子発現フィンガープリントパターンに寄与する場合、上記パスウェイ遺伝子は、さらにフィンガープリント遺伝子と称されても良い。
【0098】
同定されたタンパク質をさらに特徴付けするために、各種の方法が利用できる。第一に、同定されたタンパク質の対応するヌクレオチド配列が、当業者に周知の標準法を使用することによって得られても良く、例えば、同定されたタンパク質の生物学的機能に関する情報を提供する一つ又は複数の周知の配列モチーフに対するホモロジーを明らかにするために使用されても良い。
【0099】
第二に、同定されたタンパク質の生物学的機能は、関連するin vivo及びin vitroシステムを使用することによってより直接的に評価されても良い。in vivoシステムは、制限するわけではないが、アルツハイマー病様の症状を天然で示す動物システム、又は、上記症状を示すように遺伝子操作されている動物システムを含んでも良い。さらに上記システムは、アルツハイマー病のさらなる特徴付けのためのシステムを含んでも良く、そして、これらに制限するわけではないが、上述のセクション1.1.1及び以下のセクション2.2.1に記載されたもののような天然で存在する及びトランスジェニック動物システムを含んでも良い。in vitroシステムは、これらに制限するわけではないが、インスリンを産生し分泌することが周知の細胞タイプを含む細胞ベースのシステムを含む。上記細胞は野生型細胞でも良く、又はアルツハイマー病に寄与することが周知の、又は寄与する疑いのある改変を含む非野生型細胞でも良い。上記システムは、以下のセクション2.2.2に詳細に記載される。
【0100】
同定されたタンパク質の生物学的機能をさらに特徴付けするために、これらのタンパク質の発現が、in vivo及び/又はin vitroシステムで、即ち例えばトランスジェニック動物及び/又は細胞系における過剰発現又は過小発現のいずれかで調節されても良く、その後上記システムに対する効果が評価されても良い。別法として、同定されたタンパク質の活性は、対象のin vivo及び/又はin vitroシステムにおける活性のレベルを増大又は減少することのいずれかによって調節されても良く、その後効果が評価されても良い。
【0101】
上記特徴付けを通じて得られた情報は、対象とするタンパク質を含むアルツハイマー病の治療のための関連する方法を示唆しても良い。さらに、対象とするタンパク質を含むアルツハイマー病の制御のための関連する方法が、上記特徴付けから得られた情報によって示唆されても良い。例えば、治療は、タンパク質発現及び/又はタンパク質活性の調節を含んでも良い。ここに記載されるような特徴付け方法は、上記調節が対象とするタンパク質の発現又は活性の増大又は減少を含むことを示しても良い。上記治療方法は、以下のセクション4に記載される。
【0102】
(2.差異的に発現するタンパク質及びパスウェイタンパク質)
これらに制限するわけではないが、上述のセクション1.1に同定されたような差異的に発現するタンパク質、並びに上述のセクション1.2に同定されたもののようなパスウェイタンパク質を含む同定されたタンパク質が、ここに記載される。特に、上記同定されたタンパク質のアミノ酸配列を記載する。さらに、同定されたタンパク質に対する抗体、並びに、同定されたタンパク質をさらに特徴付けして利用する細胞及び動物ベースのモデルを、このセクションにおいて記載する。
【0103】
(2.1 差異的に発現するタンパク質又はパスウェイタンパク質に特異的な抗体)
本発明は、一つ又は複数の差異的に発現するタンパク質又はパスウェイタンパク質のエピトープを特異的に認識可能な抗体の生産のための方法にも関する。そのような抗体は、これらに制限するわけではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、ヒト化又はキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、F(ab')2断片、Fab発現ライブラリーにより生産される断片、抗イディオタイプ(抗-Id)抗体、及び上記いずれかのエピトープ結合断片を含むことができる。そのような抗体は、アルツハイマー病治療法の一部として用いることができ、及び/又は、フィンガープリント、標的、若しくはパスウェイ遺伝子タンパク質の異常なレベル又は上記タンパク質の異常な形態の存在について被検体を試験することができる診断技術の一部として用いることができる。
【0104】
差異的に発現するタンパク質又はパスウェイタンパク質に対する抗体の生産のために、種々の宿主動物を、差異的に発現するタンパク質若しくはパスウェイタンパク質、又はそれらの一部の注入によって、免疫化させることができる。そのような宿主動物は、これらに制限するわけではないが、ウサギ、マウス及びラットを含む。リソレクチニン、Pluronicポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、及びBCG(bacille Calmette-Fuerin)及びCorynebacterium parvumなどの潜在的に有用なヒトアジュバンドを含む、様々なアジュバントを、宿主の種に依存して免疫応答を増加するために使用することができる。
【0105】
ポリクローナル抗体は、標的タンパク質のような抗原、又はその抗原機能を有する誘導体で免疫化された動物の血清に由来する抗体分子のヘテロジーニアスな集団である。ポリクローナル抗体の生産のために、上述のような宿主動物が、上述のようなアジュバントで補足した、差異的に発現するタンパク質又はパスウェイタンパク質を用いた注入によって免疫化されても良い。
【0106】
特定の抗原に対する抗体のホモジーニアスな集団であるモノクローナル抗体は、培養で連続的セルラインにより抗体分子の生産を提供する任意の技術によって、得ることができる。これらは、制限するわけではないが、Kohler及びMilstein(1975, Nature, 256, 495-497;及び米国特許第4,376,110号)、ヒトB-細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor, et al., 1983, Immunology Today 4:72;Cole et al., 1983, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80;2026-2030)及びEBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss Inc., pp-77-96)のハイブリドーマ技術を含む。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD及びそれらの任意のサブクラスを含む任意の免疫グロブリンクラスでも良い。本発明のmAbを生産するハイブリドーマは、in vitroでもin vivoでも培養することができる。in vivoでのmAbの高い力価の生産により、この方法は、生産の現在の好ましい方法となる。
【0107】
さらに、適当な抗原特異性のマウス抗体分子に由来する遺伝子を、適当な生物活性のヒト抗体分子に由来する遺伝子を用いてスプライシングすることにより、キメラ抗体の生産のために開発された技術(Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. 81: 6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature 312 :604-608; Takeda et al., 1985, Nature 314: 452-454)も用いることができる。キメラ抗体は、異なる部分が異なる動物の種に由来する分子であり、例えばネズミmAbに由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有する分子である。
【0108】
あるいは、一本鎖抗体の生産のために記載された技術は(米国特許第4,946,778号;Bird, 1988, Science 242: 423-426; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 :5879-5883;及び、Ward et al., 1989, Nature 334 :544-546)、差異的に発現するタンパク質又はパスウェイタンパク質-一本鎖抗体を生産するために、適合させることができる。一本鎖抗体を、アミノ酸架橋を介してFv領域の重鎖断片と軽鎖断片を連結させることにより形成し、一本鎖ポリペプチドを得る。
【0109】
特異的エピトープを認識する抗体断片は、既知の技術により生成することができる。例えば、そのような断片は、これらに制限するわけではないが、抗体分子のペプシン消化により生産されるF(ab')2断片、及び、F(ab')2断片のジスルフィド架橋を還元することにより生成されるFab断片を含む。あるいは、Fab発現ライブラリーを構築し、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速で且つ容易な同定を可能とする(Huse et al., 1989, Science 246: 1275-1281)。
【0110】
(2.2 細胞及び動物ベースのモデルシステム)
アルツハイマー病のためのモデルとして機能する、細胞及び動物ベースのシステムがここに記載される。これらのシステムは、各種の応用で使用されても良い。例えば、動物ベースのモデルシステムは、上述のセクション1.1.1に記載されたパラダイムの一つを介して、差異的に発現するタンパク質を同定するのに使用できる。細胞及び動物ベースのモデルシステムは、上述のセクション1.3に記載されたように、差異的に発現するタンパク質及びパスウェイタンパク質をさらに特徴付けするのに使用しても良い。上記さらなる特徴付けは、例えば、差異的に発現するタンパク質が標的タンパク質であることを示しても良い。第二に、上記アッセイは、以下に記載されるアルツハイマー病の症状を改善可能である化合物を同定するようにデザインされたスクリーニングストラテジーの一部として使用されても良い。かくして動物及び細胞ベースのモデルは、アルツハイマー病の治療において有効である薬剤、医薬、治療薬及び介入を同定するのに使用しても良い。さらに、以下のセクション6に記載するように、上記動物モデルは、動物被検体におけるLD50及びED50を測定するのに使用しても良く、上記データは、潜在的なアルツハイマー病治療のin vivoの効力を測定するのに使用できる。
【0111】
(2.2.1 動物ベースのシステム)
アルツハイマー病の動物をベースとしたモデルシステムは、これらに限定されないが、非遺伝子組換え動物及び遺伝子操作されたトランスジェニック動物を含んでも良い。
【0112】
加えて、アルツハイマー病を示す動物モデルは、当業者に周知であるトランスジェニック動物を産生するための手法を併用して、例えば、上述のセクション2に記載されたような標的タンパク質の遺伝子配列を利用することによって遺伝子組み換えすることができる。例えば、標的タンパク質の遺伝子配列を、対象とする動物のゲノムへと導入し、過剰発現させることができる、又は、標的タンパク質の内因性遺伝子配列が存在する場合、それらを過剰発現することができ、若しくは、代替的に、標的タンパク質の遺伝子発現を低発現化させるか不活性化させるために、それらを乱すことができる。
【0113】
標的タンパクの標的遺伝子配列を過剰発現するために、標的遺伝子配列のコード部位を、制御配列にライゲーションしてもよく、このことにより、対象とする動物及び細胞タイプにおいて遺伝子発現を誘導することができる。かかる制御領域は、当業者に周知である。
【0114】
標的タンパクの内因性遺伝子配列の低発現に関しては、その遺伝子配列を単離し、かつ、対象とする動物のゲノムに再導入された際に、その標的タンパクの内因性遺伝子アレルが不活性化されるように遺伝子操作する。好ましくは、動物のゲノムへのその遺伝子操作された標的遺伝子配列の組み込みの際に、その内因性配列が乱されるような遺伝子ターゲッティングを用いて、標的タンパクの操作された遺伝子配列が導入される。
【0115】
これらに限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、ミニブタ、ヤギ、並びにヒト以外の霊長類(例えば、ヒヒ、リス、サル、アカゲザル及びチンパンジー)を含むあらゆる種の動物を用いて、アルツハイマー病動物モデルを作製してもよい。
【0116】
当該技術分野で公知のあらゆる技術を用いて、標的タンパクの標的遺伝子トランスジーンを動物に導入して、トランスジェニック動物の創始者系統(founder line)を生じることができる。かかる技術は、これらに限定されないが、前核マイクロインジェクション(Hoppe,P.C. and Wagner,T.E., 1989, 米国特許第4,873,191);生殖細胞系へのレトロウイルス介在性遺伝子輸送(Van der Putten et al., 1985, Proc. Nat. Acad. Sci., USA 82: 6148-6152);胚幹細胞における遺伝子ターゲッティング(Thompson et al., 1989, Cell 56: 313-321);胚のエレクトロポレーション(Lo, 1983, Mol.Cell Biol.3: 1803-1814);及び、精子媒介性遺伝子輸送(Lavitrano et al., 1989, Cell 57: 717-723)等を含む。かかる技術のレビューについては、Gordon, 1989, Transgenic Animalsm Intl. Rev. Cytol. 115: 171-229を参照。
【0117】
本発明は、その全ての細胞にトランスジーンを有するトランスジェニック動物、並びに、その全ての細胞ではないがその一部にトランスジーンを有する動物、すなわちモザイク動物を提供する(例えば、Jakobovits, 1994, Curr.Biol. 4:761-763に記載された技術を参照)。トランスジーンは、単一のトランスジーンとして、あるいはコンカテマーとして、例えば、ヘッド−ヘッドタンデム又はヘッド−テイルタンデムに組み込まれてもよい。このトランスジーンは、例えば、Lasko et al.(Lasko, M. et al., 1992, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6232-6236)の教示に従って、特定の細胞タイプに選択的に導入及び活性化されてもよい。かかる細胞タイプの特異的活性化に必要な制御配列は、対象とする特定の細胞タイプに依存し、当業者に自明である。
【0118】
標的遺伝子トランスジーンが内因性標的遺伝子の染色体部位に組み込まれることを望むのであれば、遺伝子ターゲッティングが好ましい。要約すると、かかる技術を利用する場合には、対象とする内因性標的タンパクの遺伝子に相同なヌクレオチド配列を含むベクターを、染色体配列との相同的組換えを介して、内因性標的遺伝子のヌクレオチド配列に組み込み且つその機能を乱すようにデザインする。トランスジーンは、例えばGu et al. (Gu, H. et al., 1994, Science 265:103-106)の教示に従って、特定の細胞タイプに選択的に導入されて、その細胞タイプのみにおいて対象とする内因性遺伝子を不活性化することもできる。かかる細胞タイプの特異的不活性化に必要な制御配列は、対象とする特定の細胞タイプに依存し、当業者に自明である。
【0119】
トランスジェニック動物が発生したところで、組換え標的遺伝子及びタンパク質の発現を、標準的な手法を用いてアッセイする。最初のスクリーニングは、サザンブロット分析又はPCR技術によって達成してもよく、動物組織を分析してトランスジーンの組み込みが起こったか否かを評価する。トランスジェニック動物の組織中におけるトランスジーンのmRNA発現のレベルもまた、これらに限定されるものではないが、動物から得た組織サンプルのノーザンブロット分析、in situハイブリダイゼーション分析、及びRE-PCRを含む技術を利用して評価してもよい。標的タンパク質発現組織のサンプルもまた、対象とするトランスジーンタンパク質に特異的な抗体を使用して免疫細胞学的に評価してもよい。
【0120】
標的遺伝子mRNA又は標的タンパク質トランスジーンペプチド(標的タンパク質エピトープに対する抗体を使用して免疫細胞学的に検出)を容易に検出可能なレベルで発現する標的タンパク質トランスジェニック動物は、特徴的なアルツハイマー病様症状を呈する動物を識別するために、更に評価すべきである。更にまた、トランスジェニック動物内における特定の細胞型を分析し、アルツハイマー病に特徴的な細胞の表現型についてアッセイしてもよい。さらに、こうした細胞表現型は、アルツハイマー病を示す動物における、特定の細胞タイプのフィンガープリントタンパク質の発現パターンの評価、及び、この発現パターンと、その特定の細胞タイプの周知のフィンガープリント発現プロフィールとの比較を含んでも良い。こうしたトランスジェニック動物は、アルツハイマー病の適当なモデルとして役立つ。
【0121】
標的タンパク質トランスジェニック始祖動物(すなわち、対象とする細胞又は組織中において標的タンパク質を発現し、好ましくはアルツハイマー病の症状を呈する動物)が産生されたところで、これらを交配、同系交配、異系交配、又は異種交配して特定動物のコロニーを産生させる。こうした交配戦略の例には、これらに限定されるものではないが、一つ以上の組み込み部位を有する始祖動物の異系交配をして別々の系を構築すること;別々の系を同系交配して、各標的遺伝子トランスジーンの付加的発現の効果によって、対象とする標的タンパク質をより高レベルでトランスジェニックとして発現する標的タンパク質トランスジェニック体を産生すること;異型接合の動物を交配して、所定の組み込み部位について同型接合の動物を産生し、これによって発現を増大させると共にDNA分析による動物のスクリーニングが必要となる可能性を消失させること;別々の同型接合の系を交配して、異型接合体又は同型接合体の系を産生すること;動物を様々な同系交配遺伝的バックグラウンドに品種改良して、標的タンパク質の発現及びアルツハイマー病-様症状の進展に対する修飾アレルの効果を試験できるようにすることが含まれる。こうしたアプローチの一つは、標的タンパク質トランスジェニック始祖動物を野生型株と交配して、アルツハイマー病-様症状を呈するF1世代を産生することである。該F1世代は、その後同系交配させ、同型接合の標的タンパク質トランスジェニック動物が生存可能な場合には、同型接合の系を発生することができる。
【0122】
アルツハイマー病の好ましいトランスジェニック動物モデルには、APP又はPS1のミュータントアレルを過剰に発現するマウス、及び、APPとPS1の両方のミュータントアレルを過剰に発現するダブル(APP/PS1)トランスジェニックマウスが含まれる。アミロイド前駆体タンパク質 (APP)遺伝子における変異、又はAβペプチド断片の処理能力欠如により、プラークとして知られている不溶性の繊維状凝集体として脳のいたる所に(特に海馬に集中して)沈殿する[4]ペプチドの毒性の上昇がもたらされる。プレセニリン(PS) 1及びPS2遺伝子の変異も、Aβペプチドのレベルを変更し、このことは、結果として、このペプチドのADの進展における重要な役割を更に支持するものである。ミュータントAPP(K670N, M671L)トランスジェニック系、Tg2576は、若年期にアミロイドβ-タンパク質(Aβ)レベルの著しい上昇を示し、9から12月齢までに、皮質及び海馬において細胞外AD-型Aβ沈殿を進行させる。ミュータントPS1トランスジェニックマウスは、異常な病変を示さないが、高度にアミロイド生成性の42-又は43-アミノ酸ペプチドAβ42(43)のわずかに上昇したレベルを示す。ラインTg2576及びミュータントPS1M146Lトランスジェニックラインとの間の交雑に由来するダブルトランスジェニックの子孫においては、AD-様病変の進行は、実質的に上昇する(Holcomb et al., Nat Med. 1998 Jan; 4(1): 97-100)。
【0123】
(2.2.2 細胞ベースのアッセイ)
標的タンパクをコードする標的遺伝子配列を含み且つ発現し、そしてさらに、アルツハイマー病に関連する細胞表現形を示す細胞を、アルツハイマー病の症状を改善する能力を示す化合物を同定するために利用することができる。
【0124】
さらに、対象とする細胞のフィンガープリントタンパク質発現のパターンを分析し、正常なフィンガープリントパターンと比較することができる。アルツハイマー病を示す細胞に、対象とする細胞の正常なフィンガープリントパターンとより密接に類似するフィンガープリントパターンを生じさせる化合物は、アルツハイマー病の症状を改善する能力に関する更なる試験のための候補であると考えることができる。
【0125】
さらに、かかるアッセイに用いられる細胞系統は、組み換え、トランスジェニック細胞系統を含むことができる。例えば、セクション2.2.1で上記の本発明にかかるアルツハイマー病の動物モデルは、脳の機能に関連する一つ又は複数の細胞タイプを含む細胞系統を生じるために用いられ、これはこの疾患の細胞培養モデルとして使用することができる。本発明のアルツハイマー病モデルトランスジェニック動物から誘導された一次培養物を利用できるが、連続した細胞系統の産生が好ましい。トランスジェニック動物に由来する連続した細胞系統を誘導するために使用される技術の例として、Small et al., 1985, Mol. Cell Biol. 5: 642-648を参照。
【0126】
あるいは、アルツハイマー病に関与することが知られているタイプの細胞を、細胞内の標的タンパクの量を増加又は減少させることができる配列を用いてトランスフェクションしてもよい。例えば、標的タンパクの遺伝子配列を、対象とする細胞のゲノムに導入し過剰発現させるか、あるいは、標的タンパクの内因性遺伝子配列が存在するのであれば、それらを過剰発現するか、又は妨げて、標的タンパク発現を低発現又は不活性化させてもよい。
【0127】
標的タンパクの遺伝子配列を過剰発現するために、標的遺伝子配列のコード部位を、制御配列にライゲーションしてもよく、このことにより、対象とする細胞タイプにおいて遺伝子発現を誘導することができる。かかる制御領域は、当業者に周知であり、過度の実験をすることなく利用できる。
【0128】
内因性標的タンパクの低発現に関しては、その遺伝子配列を単離し、且つ、対象とする細胞タイプのゲノムに再導入された際に、その内因性標的遺伝子アレルが不活性化されるように遺伝子操作する。好ましくは、遺伝子操作された標的遺伝子配列は、その操作された標的遺伝子配列の、細胞のゲノムへの組み込みの際に、その内因性標的配列が乱されるように、遺伝子ターゲッティングを用いて導入される。遺伝子ターゲッティングは、セクション2.2.1で上述される。
【0129】
標的タンパク遺伝子配列核酸のトランスフェクションを、標準的な技術を用いて行うことができる。例えば、Ausebel, 1989上記を参照。トランスフェクションされた細胞は、組換え標的遺伝子配列の存在、標的遺伝子mRNAの発現及び蓄積、並びに組換え標的タンパク産生物の存在について調べるべきである。標的タンパク発現の低減が望ましい場合には、標準的な技術を用いて、内因性標的遺伝子発現及び/又は標的タンパク産生の低減が達成されたか否かを調べることができる。
【0130】
(3.標的タンパク質と相互作用する化合物についてのスクリーニングアッセイ)
以下のアッセイは、標的タンパク質に結合する化合物、標的タンパク質と相互作用する他の細胞タンパク質に結合する化合物、及び標的タンパク質と他の細胞タンパク質の相互作用を妨げる化合物を同定するためにデザインされる。上記化合物は、これらに制限するわけではないが、他の細胞タンパク質を含んでも良い。上記細胞タンパク質の同定のための方法は、セクション3.2で以下に記載する。
【0131】
化合物は、例えば、標的タンパク質膜貫通レセプターの細胞外ドメインを含むIgテール化融合ペプチド、D及び/又はL型アミノ酸より成るランダムペプチドライブラリーのメンバー(例えば、Lam, K.S. et al., 1991, Nature 354: 82-84; Houghten, R. et al., 1991, Nature 354: 84-86参照)、ホスホペプチド(ランダムな又は部分的に縮重した配向性ホスホペプチドライブラリーのメンバーを制限することなく含む:例えば、Songyang, Z. et al., 1993, Cell 72: 767-778参照)、抗体(ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、抗イディオタイプ、キメラ又は一本鎖抗体、並びにFAb、F(ab')2及びFAb発現ライブラリー断片、並びにそれらのエピトープ結合断片)を制限することなく含む可溶性ペプチドといったペプチド、並びに小さな有機又は無機分子を制限することなく含んでも良い。
【0132】
ここに記載されるようなアッセイを介して同定された化合物は、例えば標的タンパク質の生物学的機能を調べるため、及びアルツハイマー病を改善するために有用であろう。例えば、アルツハイマー病状態が、上記アルツハイマー病に関与する細胞又は組織における、標的タンパク質発現及び/又は標的タンパク質活性の全体のより低いレベルから生じている場合には、標的タンパク質と相互作用する化合物は、結合した標的タンパク質の活性を促進する又は増幅するものを含んでも良い。上記化合物は、標的タンパク質活性のレベルの有効な増大をもたらし、かくして症状を改善するであろう。標的遺伝子内の変異が、アルツハイマー病を導く負の効果を有する異常な標的タンパク質の生産を導く場合、標的タンパク質に結合して結合標的タンパク質の活性を阻害する化合物が同定されても良い。例えば、セクション3.1から3.3に記載された方法によって同定される化合物の有効性を試験するためのアッセイは、セクション3.4で以下に記載される。
【0133】
(3.1 標的タンパク質に結合する化合物についてのin vitroスクリーニングアッセイ)
in vitroシステムは、本発明の標的タンパク質に結合できる化合物を同定するようにデザインすることができる。同定された化合物は、例えば野生型及び/又はミュータント標的タンパク質の活性を調節することにおいて有用であり得、標的タンパク質の生物学的機能を作り上げることにおいて有用であり得、正常な標的タンパク質の相互作用を乱す、又はそれ自身そのような相互作用を乱す可能性のある化合物を同定するためのスクリーニングにおいて用いられることができる。
【0134】
標的タンパク質に結合する化合物を同定するために用いられるアッセイの原理は、標的タンパク質と試験化合物との反応混合物を、2つの成分が相互作用して結合することによって反応混合物中で除去できる及び/又は検出できる複合体を形成することを可能にする条件下かつ十分な時間で、調製することを含む。これらのアッセイは、種々の方法で行なうことができる。例えば、そのようなアッセイを行なうための一つの方法は、固相への標的タンパク質又は試験基質のアンカーリング、及び、反応の最後に固相上にアンカーリングされた標的タンパク質/試験化合物複合体の検出を含むであろう。そのような方法の一つの実施態様として、標的タンパク質を固体表面上にアンカーリングし、アンカーリングしていない試験化合物を直接的又は間接的に標識できる。
【0135】
実際に、好都合なことに、マイクロタイタープレートを固体相として利用することができる。アンカーリングした成分を、非共有又は共有結合によって固定することができる。非共有結合は、単に固体表面をタンパク溶液で被覆し、且つ乾燥させることによって行ってもよい。あるいは、固定化されるべきタンパクに特異的な固定抗体(好ましくはモノクローナル抗体)を用いて、タンパクを固体表面にアンカーリングしてもよい。表面は、あらかじめ調製され、貯蔵されてもよい。
【0136】
アッセイを行うために、非固定化成分が、アンカーリングされた成分を含む被覆された表面に添加される。反応が終了した後、未反応成分を、形成されたあらゆる複合体が固体表面に固定されたまま残るような条件下で除去する(例えば、洗浄により)。固体表面にアンカーリングされた複合体の検出は、多くの手段により行うことができる。先に非固定化成分が予めラベルされている場合は、表面に固定されたラベルの検出が複合体の形成を示す。先に非固定化成分が予めラベルされていない場合は、間接的ラベルが、表面にアンカーリングされた複合体を検出するために用いられ、例えば、予め非固定化成分に特異的なラベル化抗体が用いられる(同様に、抗体が、ラベルされた抗Ig抗体で直接的又は間接的にラベルされてもよい)。
【0137】
あるいは、反応を液相で行ってもよく、反応生成物を未反応成分から分離し、複合体を(例えば、溶液中に形成されたあらゆる複合体をアンカーリングするための、標的タンパク質又はテスト化合物に特異的な固定化抗体、並びに、アンカーリングされた複合体を検出するための複合体の別の成分に特異的なラベル抗体を用いて)検出することができる。
【0138】
(3.2 標的タンパク質と相互作用する細胞性タンパク質のアッセイ)
タンパク質-タンパク質相互作用を検出するのに適した任意の方法を、新規の標的タンパク質-細胞性又は細胞外性タンパク質相互作用を同定するために使用することができる。これらの方法は、パスウェイタンパク質の同定のためのセクション1.2で上述したとおりであり、同定された標的タンパク質と相互作用するタンパク質の同定に関して、ここで利用できる。
【0139】
(3.3 標的タンパク/細胞性高分子相互作用を妨げる化合物のアッセイ)
本発明の標的タンパクは、in vivoにおいて、一つ又は複数の細胞性又は細胞外性高分子、例えばタンパク質と相互作用しうる。かかる高分子は、以下に限定されるものではないが、セクション3.2で上記のような方法を介して同定されるタンパク質及び核酸分子を含みうる。この議論のため、かかる細胞性及び細胞外性高分子を、「結合パートナー」と称する。かかる相互作用を乱す化合物は、標的タンパク質、特にミュータント標的タンパク質の活性を制御するのに使用できる。かかる化合物は、例えばセクション3.1に記載されるように、以下に限定されないが、抗体、ペプチド等の分子を含む。
【0140】
標的タンパク質とその細胞性又は細胞外性結合パートナーとの間の相互作用を妨げる化合物を同定するために使用されるアッセイシステムの基本原理は、標的タンパク質と結合パートナーとを含む反応混合物を、これら二つが相互作用し結合して複合体を形成するのに十分な条件下及び時間の下に調製することを含む。阻害活性について化合物を試験するために、反応混合物を、テスト化合物の存在下及び不在下で調製する。このテスト化合物は、最初から反応混合物に含まれてもよく、また、標的タンパク質及びその細胞性又は細胞外性結合パートナーの添加後に加えられてもよい。コントロール反応混合物を、テスト化合物なしに、又はプラセボと共にインキュベートする。その後、標的タンパク質と細胞性又は細胞外性結合パートナーとの間のあらゆる複合体の形成を検出する。テスト化合物を含む反応混合物では複合体が形成されないが、コントロール反応において複合体が形成されることは、標的タンパクと相互作用結合パートナーとの相互作用をその化合物が妨げることを意味する。さらに、反応混合物内の複合体形成は、テスト化合物とミュータント標的タンパク質とを含む。この比較は、正常な標的タンパク質ではなく、ミュータント標的タンパク質の相互作用を乱す化合物を同定したい場合に重要となりうる。
【0141】
標的と結合パートナーとの相互作用を妨げる化合物のアッセイは、ヘテロジーニアス又はホモジーニアスフォーマットにおいて実施することができる。ヘテロジーニアスアッセイは、標的タンパク質又は結合パートナーを固体相にアンカーリングさせ、反応の最後に固体相にアンカーリングした複合体を検出することを含む。ホモジーニアスアッセイでは、反応全体が液相で実施される。いずれのアプローチにおいても、反応物の添加順序は、テストされる化合物について異なる情報を得るために変更することができる。例えば、標的タンパク質と結合パートナーとの相互作用を、例えば競合により妨げるテスト化合物は、テスト物質の存在下で反応を実施することによって、すなわち、標的タンパク質と相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーと同時又はそれよりも前にそのテスト物質を反応混合物に加えることによって、同定することができる。あるいは、予め形成された複合体を妨げるテスト化合物、例えば複合体から成分の一つを置換するより高い結合定数を備えた化合物は、複合体が形成された後に反応混合物にそのテスト化合物を添加することによって試験することができる。種々のフォーマットを、以下に簡単に記載する。
【0142】
ヘテロジーニアスアッセイシステムでは、標的タンパク質又は相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーのいずれかを、固体表面にアンカーリングする一方で、アンカーリングを行わない種を、直接又は間接的にラベル化する。実際に、好都合なことに、マイクロタイタープレートを利用することができる。アンカーリングさせる種は、非共有又は共有結合によって固定されてもよい。非共有結合は、単に固体表面を標的遺伝子産物又は結合パートナーの溶液で被覆し、かつ乾燥させることによって行ってもよい。あるいは、アンカーリングすべき種に特異的な固定抗体を用いて、その種を固体表面にアンカーリングしてもよい。表面は、あらかじめ調製され、貯蔵されてもよい。
【0143】
アッセイを行うために、固定化種であるパートナーを、テスト化合物を用いて、あるいは用いずに被覆された表面に曝す。反応が終了した後、未反応成分を除き(例えば、洗浄により)、形成されたあらゆる複合体が固体表面に固定されたまま残る。固体表面にアンカーリングした複合体の検出は、多くの手段により行うことができる。非固定化種が予めラベルされている場合は、表面に固定されたラベルの検出は複合体が形成されたことを示す。非固定化種が予めラベルされていない場合は、間接的ラベルが、表面に固定された複合体を検出するために用いられ、例えば、最初に非固定化種に特異的なラベル化抗体が用いられる(同様に、抗体が、ラベルされた抗Ig抗体で直接的又は間接的にラベルされてもよい)。反応成分の添加順序に依存して、複合体形成を阻害、又は予め形成された複合体を妨げるテスト化合物を検出することができる。
【0144】
あるいは、反応を、テスト化合物の存在下又は不在下において液相で行ってもよく、反応生成物を未反応成分から分離し、複合体を(例えば、溶液中に形成されたあらゆる複合体をアンカーリングするための、結合成分の一つに特異的な固定化抗体、並びに、アンカーリングされた複合体を検出するための別のパートナーに特異的なラベル抗体を用いて)検出することができる。再度、液相に対する反応物の添加順序に依存して、複合体形成を阻害、又は予め形成された複合体を妨げるテスト化合物を検出することができる。
【0145】
本発明の他の実施態様として、ホモジーニアスアッセイを用いることができる。このアプローチでは、標的タンパク質と相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーとの予め形成された複合体を調製し、その際、標的タンパク質又はその結合パートナーのいずれかがラベルされるが、ラベルにより生成するシグナルは複合体形成により消失されてしまう(例えば、イムノアッセイにこのアプローチを用いるRubensteinによる米国特許第4,109,496号参照)。予め形成された複合体に由来する種の一つと競合し且つ置換するテスト物質の添加は、バックグラウンドの上にシグナルの生成をもたらす。このように、標的タンパク質/細胞性又は細胞外性結合パートナー相互作用を乱すテスト物質を同定することができる。
【0146】
特定の実施態様として、標的タンパク質は、セクション2.1に記載された組み換えDNA技術を用いて、固定化のために調製することができる。例えば、標的タンパク質遺伝子コード領域を、pGEX-5X-1のような融合ベクターを用いてグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)に、得られた融合タンパクにおいてその結合活性が維持されるように、融合させることができる。当該技術分野においてルーチンで実施されるセクション2.1で上記の方法を用いて、相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーを精製し、モノクローナル抗体を生成するために使用することができる。この抗体は、例えば、当該技術分野においてルーチンで実施される方法により、放射活性同位体125Iでラベルすることができる。ヘテロジーニアスアッセイでは、例えば、GST-標的タンパク質遺伝子融合タンパクを、グルタチオン−アガロースビーズにアンカーリングすることができる。次いで、相互作用及び結合を生じさせるように、相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーを、テスト化合物の存在下又は不在下で添加することができる。反応の最後に、未結合物質を洗浄し、ラベル化モノクローナル抗体をこのシステムに添加し、複合体形成成分に結合させることができる。標的タンパクと相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーとの間の相互作用を、グルタチオン-アガロースビーズと結合して残る放射活性の量を測定することによって検出することができる。テスト化合物による成功した相互作用の阻害は、測定された放射活性に低減をもたらす。
【0147】
あるいは、GST-標的タンパク質遺伝子融合タンパクと、相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーとを、固体であるグルタチオン-アガロースビーズの存在下で、液中で混合することができる。このテスト化合物を、種が相互作用する間又はその後に添加することができる。その後、この混合物を、グルタチオン-アガロースビーズに添加し、非結合物質を洗浄する。標的タンパク質/結合パートナー相互作用の阻害の程度を、ラベル化抗体を添加し、ビーズに結合した放射活性を測定することによって検出することができる。
【0148】
本発明の他の実施態様として、一方又は両方の全長タンパクの代わりに、標的タンパク質及び/又は相互作用細胞性若しくは細胞外性結合パートナー(結合パートナーがタンパク質の場合)の結合ドメインに対応するペプチドフラグメントを用いて、これらと同一の技術を用いることができる。当該技術分野でルーチンで用いられている多数の方法を、結合部位を同定及び単離するために使用することができる。これらの方法は、以下に限定されないが、タンパク質の一つをコードする遺伝子の変異及び共免疫沈降アッセイにおける結合の阻害のスクリーニングを含む。次いで、複合体における第二の種をコードする遺伝子における補償変異を、選択することができる。各タンパク質をコードする遺伝子の配列分析により、相互作用結合に関与するタンパク質の領域に対応する変異を明らかにするであろう。あるいは、あるタンパク質を、このセクションにおいて上述した方法を用いて固体表面にアンカーリングすることができ、トリプシンのようなタンパク質分解酵素を用いて処理されたラベル化結合パートナーと相互作用して結合することができる。洗浄後、結合ドメインを有する、短い、ラベル化されたペプチドが固体物質と結合して残り、これを単離し、アミノ酸配列決定によって同定することができる。また、細胞性又は細胞外性結合パートナーをコードする遺伝子が得られたら、短い遺伝子セグメントを、そのタンパク質のペプチドフラグメントを発現するように遺伝子操作することができ、これをその後、結合活性について試験し、精製又は合成することができる。
【0149】
例えば、しかし限定するものではないが、標的タンパク質を、このセクションにおいて上述したように、GST-標的タンパク質遺伝子融合タンパク質を形成し、且つ、それをグルタチオン-アガロースビーズに結合させることにより、固体物質に固定することができる。この相互作用細胞性又は細胞外性結合パートナーを、35Sのような放射活性同位体を用いてラベル化し、トリプシンのようなタンパク質分解酵素で切断することができる。次いで、切断生成物を、アンカーリングされたGST-標的タンパク質遺伝子融合タンパク質に添加し、結合させることができる。非結合ペプチドを洗浄した後、細胞性又は細胞外性結合パートナー結合ドメインを示すラベル化された結合物質を溶出し、精製し、周知の方法によりアミノ酸配列について分析することができる。このように同定したペプチドを、合成により製造し、あるいは、組み換えDNA技術を用いて適切な容易なタンパクに融合することができる。
【0150】
(3.4 アルツハイマー病の症状の改善のためのアッセイ)
これらに制限されないが、上述のアッセイシステムにおいて同定されるもののような化合物を含む任意の結合化合物は、アルツハイマー病の症状を予防又は改善する能力について試験しても良い。アルツハイマー病の症状を改善する上記能力を示す化合物の同定のための細胞ベース及び動物モデルベースのアッセイを、以下に記載する。
【0151】
第一に、セクション2.2.2で上述のような細胞ベースのシステムを、アルツハイマー病の症状を予防又は改善するように機能する化合物を同定するために使用しても良い。例えば、上記細胞システムを、アルツハイマー病を改善する能力を示す可能性のある化合物に曝しても良く、その場合、曝した細胞においてアルツハイマー病の改善を引き出すのに十分な濃度で且つ十分な時間、上記化合物に曝す。曝した後に、細胞を測定して、一つ又は複数のアルツハイマー病様の細胞表現型が、より正常な若しくはより野生型の表現型に、又は疾患の症状のより低い発生若しくはより低い重篤度となるようである表現型に類似するように改変されるかどうかについて求める。
【0152】
さらに、セクション2.2.1において上述されたもののような動物ベースのアルツハイマー病システムが、アルツハイマー病の症状を改善可能とする化合物を同定するために使用されても良い。上記動物モデルは、上記疾患を治療するのに有効である薬剤、医薬、治療薬、及び介入の同定のための試験物質として使用されても良い。例えば、動物モデルを、アルツハイマー病の症状を予防又は改善する能力を示す可能性のある化合物に曝しても良く、その場合、曝した動物においてアルツハイマー病の予防又は改善を引き出すのに十分な濃度で且つ十分な時間、上記化合物に曝す。曝したことによる動物の応答が、アルツハイマー病と関連する疾患の存在を評価することによってモニターしても良い。
【0153】
介入に関して、アルツハイマー病様の症状の任意の態様を回復する任意の治療が、ヒトのアルツハイマー病の治療的介入のための候補として考慮されるはずである。試験薬剤の投与量は、以下のセクション6.1に議論される投与量応答曲線から決定しても良い。
【0154】
同様に、アルツハイマー病の進行を妨げることができる任意の治療が、アルツハイマー病の予防の治療的介入の候補として考慮されるはずである。
【0155】
タンパク質発現パターンを、アルツハイマー病様の症状を改善する化合物の能力を評価するための細胞ベース又は動物ベースのシステムのそれぞれと組み合わされて使用しても良い。例えば、一つ又は複数のフィンガープリントタンパク質の発現パターンが、フィンガープリントプロフィールの一部を形成しても良く、次いでそれが評価などで使用されても良い。フィンガープリントプロフィールは、セクション7.1で以下に記載する。フィンガープリントプロフィールは、細胞及び/又は動物ベースのモデルシステム内で、アルツハイマー病又は正常な状態のいずれかを、周知の状態について特徴付けしても良い。その後、これらの周知のフィンガープリントプロフィールは、試験化合物が有する効果が上記のフィンガープリントプロフィールを改変し、上記プロフィールをより所望のフィンガープリントのものにより類似させることを確認するために、比較しても良い。例えば、化合物の投与は、アルツハイマー病のモデルシステムのフィンガープリントプロフィールを、コントロールシステムにより類似させることができる。別法として、化合物の投与は、コントロールシステムのフィンガープリントプロフィールを、アルツハイマー病状態を模倣し始めさせることができ、それによって、例えば、対象とする化合物をさらに特徴付けするために使用しても良く、又はさらなる動物モデルの生産において使用しても良い。
【0156】
(4.アルツハイマー病の治療のための化合物及び方法)
アルツハイマー病の症状を改善する方法及び組成物を、以下に記載する。アルツハイマー病は、少なくとも部分的には、標的タンパク質の異常なレベルによって、又は異常な活性を示す標的タンパク質の存在によって、発症するものである可能性が存する。上述のように、上記標的タンパク質のレベル及び/又は活性の減少は、アルツハイマー病様の症状の改善をもたらすであろう。標的遺伝子発現のレベル又は標的タンパク質活性のレベルの減少のための方法を、下記セクション4.1に記載する。
【0157】
別法として、アルツハイマー病は、少なくとも部分的には、標的タンパク質発現のレベルの不存在又は減少、あるいは標的タンパク質の活性のレベルの減少によって、発症するものである可能性が存する。そのような場合、標的タンパク質遺伝子発現及び/又は上記タンパク質の活性のレベルの増大が、アルツハイマー病様の症状の改善をもたらすであろう。標的タンパク質遺伝子発現のレベル又は標的タンパク質活性のレベルを増大するための方法を、セクション4.2に記載する。
【0158】
(4.1 ミュータント標的タンパク質の発現、合成又は活性を阻害する化合物)
上述のように、アルツハイマー病に関与する標的タンパク質は、標的タンパク質活性の増大したレベルによって上記疾患を引き起こすであろう。各種の方法を、上記標的遺伝子及び/又はタンパク質の発現、合成、又は活性を阻害するために使用しても良い。
【0159】
例えば、阻害活性を示す、セクション3で上述のアッセイを通じて同定されたもののような化合物を、アルツハイマー病の症状を予防又は改善するために、本発明に従って使用しても良い。上述のセクション3で記載したように、上記分子は、これらに制限するわけではないが、ペプチド(例えば、標的タンパク質膜貫通レセプターの可溶性細胞外部分を表すペプチドのような)、ホスホペプチド、有機若しくは無機小分子、又は抗体(例えば、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、抗イディオタイプ、キメラ若しくは一本鎖抗体、並びにFAb、F(ab')2及びFAb発現ライブラリー断片、並びにそのエピトープ結合断片を含む)を含んでも良い。上記化合物の有効投与量及び投与の決定のための方法を、以下のセクション6.1に記載する。阻害抗体法を、以下のセクション4.1.2にさらに記載する。
【0160】
さらに、標的タンパク質遺伝子の発現を阻害するアンチセンス及びリボザイム分子を、異常な標的タンパク質遺伝子の活性を阻害するために本発明に従って使用しても良い。上記方法を、以下のセクション4.1.1に記載する;トリプルへリックス分子を、異常な標的タンパク質遺伝子活性を阻害するために使用しても良い。
【0161】
(4.1.1 阻害性のアンチセンス、リボザイム及びトリプルへリックスアプローチ)
アルツハイマー病の症状を予防又は改善する能力を示す化合物の中では、アンチセンス、リボザイム及びトリプルへリックス分子が挙げられる。上記分子は、野生型、又は適切であればミュータント標的タンパク質遺伝子活性のいずれかを減少又は阻害するようにデザインされても良い。上記分子の生産及び使用のための方法は、当業者に周知である。
【0162】
アンチセンスRNA及びDNA分子は、標的mRNAにハイブリダイズし、タンパク質の翻訳を妨げることによって、mRNAの翻訳を直接ブロックするように機能する。アンチセンスDNAについては、翻訳開始部位に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチド(例えば、対象とする標的遺伝子ヌクレオチド配列の-10から+10領域の間である部位)が好ましい。
【0163】
リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することが可能な酵素的RNA分子である(レビューとして、Rossi, 1994, Current Biology 4: 469-471参照)。リボザイムの作用のメカニズムは、相補的な標的RNAに対するリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションと、その後のエンドヌクレアーゼ切断を含む。リボザイム分子の組成は、標的タンパク質mRNAに相補的な一つ又は複数の配列を含み、mRNA切断に関与する周知の触媒配列を含まなければならない。この配列については、米国特許第5,093,246号参照。標的タンパク質をコードするRNA配列のエンドヌクレアーゼ切断を特異的に且つ有効に触媒する、遺伝子操作されたハンマーヘッドモチーフリボザイム分子が、本発明の範囲内に入る。
【0164】
任意の潜在的なRNA標的内での特異的なリボザイム切断部位は、以下の配列:GUA、GUU及びGUCを含むリボザイム切断部位のための、対象とする分子をスキャンすることによって初めに同定する。一度同定すると、切断部位を含む、標的タンパク質遺伝子の領域に対応する15から20のリボヌクレオチドの短いTNA配列を、オリゴヌクレオチド配列を不適切なものにするであろう二次構造のような予測される構造的特徴について評価する。候補配列の適切性は、ribonuclease protection assayを使用して、相補的なオリゴヌクレオチドとハイブリダイズし易さを試験することによっても評価される。
【0165】
転写の阻害のためのトリプルへリックス形成において使用される核酸分子は、一本鎖であり、デオキシヌクレオチドより成るべきである。これらのオリゴヌクレオチドの塩基組成は、Hoogsteen塩基ペア規則によるトリプルへリックス形成を促進するようにデザインされなけれならず、上記形成は一般的に、二本鎖の中の一方の鎖に存在するプリン又はピリミジンのいずれかのかなりのストレッチを必要とする。ヌクレオチド配列はピリミジンベースでも良く、それは生じたトリプルへリックスの3つの会合する鎖を通じてTAT及びCGC+三塩基を生じるであろう。ピリミジンリッチな分子は、二本鎖の中の一方の鎖のプリンリッチな領域に対して相補的な塩基を、上記鎖と平行な向きに提供する。加えて、例えば、G残基のストレッチを含むプリンリッチな核酸分子が選択されても良い。これらの分子は、GCペアリッチなDNA二本鎖を有するトリプルへリックスを形成し、この場合、プリン残基の多数が、標的である二本鎖の一方の鎖に存在し、三重鎖の三つの鎖を通じてGGC三塩基を生じる。
【0166】
別法として、トリプルへリックス形成のための標的となり得る可能性のある配列は、「スイッチバック」核酸分子と称されるものを作製することによって増大しても良い。スイッチバック分子は、二本鎖の第一の一方の鎖と塩基ペアを形成するように、5'-3'の態様で改変し、次いで他方を3'-5'の態様で改変し、二本鎖の一方の鎖に存在するプリン又はピリミジンのいずれかのかなりのストレッチに対する必要性を消失させるように合成される。
【0167】
本発明のアンチセンスRNA及びDNA、リボザイム、及びトリプルへリックス分子は、DNA及びRNA分子の合成について当該技術分野で周知の方法によって調製しても良い。それらは、例えば、固相ホスホロアミダイト化学合成のような、当該技術分野で周知のオリゴデオキシリボヌクレオチド及びオリゴリボヌクレオチドを化学的に合成するための方法を含む。別法として、RNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードするDNA配列のin vitro及びin vivo転写によって生産しても良い。上記DNA分子は、適切なRNAポリメラーゼプロモーター(例えば、T7又はSP6ポリメラーゼプロモーター)を挿入している様々なベクター内に挿入しても良い。別法として、使用するプロモーターに依存して、構成的に誘導されるアンチセンスRNAを合成するアンチセンスcDNA構築物が、細胞系内に安定に取り込まれても良い。
【0168】
DNA分子に対する各種の周知な修飾を、細胞内安定性及び半減期を増大する手段として導入しても良い。考え得る修飾は、これらに制限するわけではないが、上記分子の5'及び/又は3'末端へのフランキング配列、又はリボ若しくはデオキシリボヌクレオチドの添加、あるいはオリゴデオキシリボヌクレオチド骨格内へのホスホジエステラーゼ結合よりむしろホスホロチオエート又は2'-O-メチルの使用を含む。
【0169】
(4.1.2 標的タンパク質の阻害のための抗体)
標的タンパク質に特異的であり、且つ、その活性を妨げる抗体を、標的タンパク質機能を阻害するために使用しても良い。所望する場合、上記ミュータント標的産物の活性を妨げるミュータント標的タンパク質に特異的な抗体を使用しても良い。上記抗体は、上記タンパク質自体に対して、又は上記タンパク質の一部に対応するペプチドに対して、上述のセクション2.3に記載された標準的な方法を使用して生産しても良い。上記抗体は、これらに制限するわけではないが、ポリクローナル、モノクローナル、Fab断片、一本鎖抗体、キメラ抗体等を含む。
【0170】
標的遺伝子タンパク質が細胞内に存し、抗体全体を使用する場合、内部化抗体が好ましいであろう。しかしながら、リポフェクチン又はリポソームを、細胞内の標的タンパク質エピトープに結合する抗体又はFab領域の断片を輸送するために使用しても良い。抗体の断片を使用する場合、標的タンパク質の結合ドメインに結合する最小の阻害断片が好ましい。例えば、標的タンパク質に結合する抗体の可変領域のドメインに対応するアミノ酸配列を有するペプチドを使用しても良い。上記ペプチドは、化学的に合成しても、又は、当該技術分野で周知の方法を使用して、組み換えDNA法によって生産しても良い(例えば、Creighton, 1983, 上記参照;及びSambrook et al., 1989, 上記参照を参照)。
【0171】
別法として、細胞内標的タンパク質エピトープに結合する一本鎖中和抗体を投与しても良い。上記一本鎖抗体は、例えば、Marasco et al(Marasco, W. et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 7889-7893)に記載されたもののような方法を使用することによって、標的細胞集団内に一本鎖抗体をコードするヌクレオチド配列を発現することによって投与しても良い。
【0172】
標的タンパク質が細胞外に存在する場合、又は膜貫通タンパク質である場合、ペプチド投与のために適切であるセクション6で以下に記載する任意の投与方法を、作用部位に阻害性標的タンパク質抗体を効率的に投与するために使用しても良い。
【0173】
(4.2 標的タンパク質の活性を回復するための方法)
アルツハイマー病を引き起こす標的タンパク質は、過小発現させても良い。別法として、アルツハイマー病の症状の進行を導く標的タンパク質の活性を減少させても良い。アルツハイマー病の症状を予防又は改善するレベルに、標的タンパク質のレベルを増大する方法を、このセクションに記載する。標的タンパク質の活性のレベルは、例えば、存在する標的タンパク質のレベルを増大することによって、又は、存在する活性な標的タンパク質のレベルを増大することのいずれかによって増大しても良い。
【0174】
例えば、アルツハイマー病の症状を改善するのに十分なレベルの標的タンパク質を、上記の兆候を示す被検体に投与しても良い。下記セクション6で議論する任意の方法を、上記投与のために利用しても良い。当業者は、下記セクション4.6.1に記載するもののような方法を使用して、正常な標的タンパク質の有効な非毒性の投与量の濃度を決定する方法を容易に理解するであろう。
【0175】
さらに、患者を、遺伝子置換療法によって治療することもできる。正常な標的タンパク質遺伝子の一つ若しくは複数のコピー、又は、標的タンパク質遺伝子機能を有する正常な標的タンパク質の産生をもたらす遺伝子の部分を、細胞に挿入してもよく、その際に、アデノウィルス、アデノ関連ウィルス、及びレトロウィルスベクターを含む(これらに制限するわけではないが)ベクターを、又は、リポソーム等の細胞中にDNAを導入する他の粒子を使用する。更にまた、上述のような技術を、ヒト細胞への正常な標的タンパク質遺伝子配列の導入のために利用しても良い。
【0176】
正常な標的タンパク質遺伝子配列を含む細胞、好ましくは自系細胞は、その後、患者に、アルツハイマー病の症状の予防又は改善が可能な部位に導入又は再導入するこことができる。こうした細胞置換技術は、例えば、標的タンパク質が分泌される、すなわち細胞外タンパク質である場合に好ましい。
【0177】
更に、標的タンパク質に特異的に結合し、結合によって、直接的又は間接的に標的タンパク質機能の活性化に役立つ抗体を、投与しても良い。こうした抗体は、これらに制限するわけではないが、ポリクローナル、モノクローナル、FAb断片、一本鎖抗体、キメラ抗体等を含む。上記抗体は、セクション2.3で上述のような標準的な方法を使用して生産しても良く、タンパク質自体に対して、又は上記タンパク質の一部に対応するタンパク質に対して生産しても良い。上記抗体は、例えばセクション4.1.2で上述の方法に従って投与しても良い。
【0178】
(5.医薬調製物及び投与の方法)
標的タンパク質の発現、合成、及び/又は活性に影響する同定された化合物、核酸分子、及び細胞は、アルツハイマー病を予防又は治療又は改善するための治療上の有効量で患者に投与することができる。治療上の有効量は、アルツハイマー病の症状の改善を導くのに十分な化合物の量を指し、又は、別法として、上記症状の改善を導くタンパク質の濃度を発現するのに十分な核酸分子の量を指す。
【0179】
(5.1 有効投与量)
こうした化合物の毒性及び治療有効性は、細胞培養又は実験動物における標準的な製薬手法、例えばED50(集団の50%において治療上の有効な投与量)による決定について、及び、任意の副作用のED50(毒性-TD50)の測定により決定可能である。毒性と治療有効性との投薬量比は、治療係数であり、TD50/ED50なる比として表すことができる。大きな治療係数を示す化合物が好ましい。毒性の副作用を有する化合物を使用しても良い一方で、注入していない細胞への損害の可能性を最小限にし、副作用を低減するために、こうした化合物を患部組織の部位へと向かわせるデリバリーシステムを、注意して設計するべきである。
【0180】
細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータは、ヒトにおける使用のための範囲の投薬量の処方に利用可能である。こうした化合物の投薬量は、毒性が僅か又は全くないED50を含む循環濃度の範囲内であることが好ましい。該投薬量は、この範囲内で、利用する投薬形態及び使用する投与経路によって変化しても良い。
【0181】
(5.2 製剤及び使用)
本発明に従った使用のための医薬組成物は、一つ又は複数の生理学的に許容可能なキャリアー又は賦形剤を使用して従来の方法において製剤化しても良い。
【0182】
かくして、上記化合物及びその生理学的に許容可能な塩及び溶媒は、吸入又は注入(口又は鼻を通じてのいずれか)又は経口、口内、非経口及び直腸投与によって投与するために製剤化しても良い。
【0183】
経口投与のためには、該医薬組成物は、例えば、定法により、結合剤(例えばプレゼラチン化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えばラクトース、ミクロクリスタリンセルロース、若しくはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えばマグネシウムステアレート、タルク、若しくはシリカ);崩壊剤(ジャガイモデンプン又はナトリウムデンプングリコレート);又は湿潤剤(例えばナトリウムラウリルスルフェート)等の製薬的に許容される賦形剤を用いて調製される錠剤、カプセルの形態をとりうる。錠剤は、当業界において周知の方法により被覆しても良い。経口投与のための液体調剤は、例えば、溶液、糖液、又は懸濁液の形態をとってよく、あるいは使用前に水又は他の好適な媒体と併せるための乾燥製品としてもよい。こうした液体調剤は、懸濁剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体、又は水素化食用脂肪);乳化剤(例えばレシチン又はアカシア);及び保存料(例えばメチル若しくはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエート、又はソルビン酸)等の製薬として許容される添加剤を用い、定法によって調製することができる。該調剤はまた、バッファー塩、香料、着色料、及び甘味料を適宜含有しても良い。
【0184】
経口投与のための調剤はまた、活性化合物の制御された放出を与えるために好適に製剤されうる。
【0185】
頬からの投与のためには、該組成物は定法によって製剤された錠剤又はロゼンジの形態をとりうる。
【0186】
吸入による投与のためには、本発明に従った使用のための化合物は、簡便のため、加圧パック又は噴霧器から、適当な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、又は他の適当な気体を使用して放出されるエアロゾルスプレーの形態で送達される。加圧エアロゾルの場合には、投薬単位は、測定量を送達するためのバルブを設けることによって決定することができる。吸入又は注入において使用するための、例えばゼラチン等のカートリッジ及びカプセルは、該化合物とラクトース又はデンプンなどの適当な粉末ベースとの粉末混合物を包含して製剤してもよい。
【0187】
該化合物は、注射、例えばボーラス注射又は連続注入による非経口投与向けに製剤しても良い。注射のための製剤は、単位投薬量形態であるとよく、例えば、アンプル又はマルチ投薬容器中で更に保存料を加えたものであって良い。該組成物は、懸濁液、溶液、又は油性若しくは水性の媒体中におけるエマルジョン等の形態をとってよく、懸濁化剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤化剤を含んでも良い。あるいはまた、該活性成分は、好適な媒体、例えば滅菌され、発熱物質を含まない水等と使用前に併せるための粉末形態としても良い。
【0188】
該化合物はまた、坐剤又は停留浣腸、例えばココアバター又は他のグリセリド等の従来の坐剤ベースを含有するもの等の結腸組成物中に処方しても良い。
【0189】
前述の製剤に加え、該化合物はまたデポー調製物として製剤されても良い。こうした長時間作用型製剤は、移植(例えば皮下又は筋内への)によって、又は筋内注射によって投与しても良い。したがって、例えば、該化合物は好適なポリマー性若しくは疎水性物質(例えば許容されるオイル中のエマルジョンとして)又はイオン交換樹脂、又は微溶性(sparingly soluble)誘導体として、例えば微溶性塩と共に製剤しても良い。
【0190】
該組成物は、所望により、パック又はディスペンサー装置中に存在しても良く、これは活性成分を含む一つ又は複数の単位投薬量形態を収容するとよい。パックは、例えば、金属又はプラスチックのホイル、例えばプラスチック包み(blister pack)を含んでも良い。パック又はディスペンサー装置には、投与のための指示を添付してあると良い。
【0191】
(6.アルツハイマー病の診断)
アルツハイマー病の診断、アルツハイマー病の素因のために、並びに、例えば、臨床試験の間に任意のアルツハイマー病化合物の有効性をモニターするために、及び、アルツハイマー病の治療のための臨床評価を受ける患者をモニターするために、種々の方法を用いることができる。フィンガープリントタンパク質は、また、アルツハイマー病の治療の同定及び/又は選択において補助するために、アルツハイマー病の性質を定義するのに使用することができる。
【0192】
上記方法はまた、例えば、セクション1に記載されたフィンガープリントタンパク質のような薬剤を利用し、並びに、セクション1.3(ペプチド)及び2.3(抗体)で上述のような差異的に発現するタンパク質及びパスウェイタンパク質に対する抗体を利用しても良い。特に上記薬剤は、(1)標的タンパク質の変異の存在の検出、又は(2)正常な状態に対する標的タンパク質の過剰若しくは過小の存在のいずれかの検出のために使用されても良い。
【0193】
ここに記載する方法は、例えば、少なくとも一つの特異的なフィンガープリントタンパク質、又はここに記載される抗フィンガープリントタンパク質抗体薬剤を含む、予めパック包装された診断キットを使用することによって実施されても良く、このキットは、例えば、アルツハイマー病の異常性又は症状を示す患者を診断するために臨床において便利に使用することができる。
【0194】
フィンガープリントタンパク質を発現する任意の細胞タイプ又は組織を、以下に記載する診断において利用しても良い。適切なサンプルタイプの例は、細胞サンプル、組織サンプル、及び血液、尿、又は血漿のような液体サンプルを含む。
【0195】
ここで使用可能な上記方法の中には、アルツハイマー病の治療のための臨床試験において化合物の効力をモニターする方法が挙げられる。上記化合物は、例えば、セクション4で上述のような化合物とすることができる。上記方法は、正常な状態における発現に対して、アルツハイマー病の状態において差異的に発現するタンパク質を、患者サンプル内で検出することを含む。
【0196】
臨床試験の間で、例えば、単一のフィンガープリントタンパク質の発現、又は、別法としてアルツハイマー病に関与する細胞のフィンガープリントパターンの発現を、試験する化合物の存在又は不存在下で測定することができる。化合物の効力を、その後、正常状態の対応する周知の発現パターンと得られた発現データとを比較することによって、実施する。効力を示す化合物は、単一のフィンガープリントタンパク質発現及び/又はフィンガープリントパターンを、正常な状態のものにより類似するように改変するものである。
【0197】
正常な状態の発現に対して、アルツハイマー病で差異的に発現するタンパク質の検出は、潜在的なアルツハイマー病化合物、並びにアルツハイマー病の治療のための化合物を、臨床試験の間でモニターするために使用できる。臨床試験の間で、例えば、差異的に発現するタンパク質のレベル及び/又は活性を、試験する化合物の存在下又は不存在下で、関連細胞及び/又は組織中で測定できる。上記化合物の効力は、その後、正常な状態における細胞及び/又は組織についての対応する周知のレベル/活性と、得られたタンパク質レベル及び/又は活性データとを比較することによって、実施する。効力を示す化合物は、アルツハイマー病に関与する細胞及び/又は組織のパターンを、正常な状態のものにより類似するように改変するものである。
【実施例】
【0198】
(実験)
シングル(ミュータントAPP又はPS-1トランスジェニック)並びにダブル(ミュータントAPP及びPS1トランスジェニック)トランスジェニックマウスを、野生型と比較した。
【0199】
[2Dゲル電気泳動を使用した差異的に発現するタンパク質の同定]
<サンプル>
凍結したマウスサンプルの一群を、以下の遺伝子型に従ってグループ分けした:[1]PS-1及びAPP遺伝子についてのダブルトランスジェニック(「TT」とする)、[2]PS-1遺伝子についてのシングルトランスジェニック(「WT」とする)、[3]APP遺伝子についてのシングルトランスジェニック(「TW」とする)、並びに、[4]野生型コントロール(遺伝子の改変を行わない、「WW」とする)。4から10匹のマウスを、表1に示すように各群から複数用い、様々な脳領域(海馬、及び、海馬切開後の脳半球の残り)を分析した。
【0200】
【表1】
【0201】
脳切片を、海馬に由来する物質を重点的に、14週齢で犠牲にした動物により分析した。2-DEを、Weekes, J. et al. (Electrophoresis, 20(4-5): 898-906, 1999)及びHeinke, M.Y. et al. (Electrophoresis, 20(10):2086-2093、1999)に従って実施した。この電気泳動では、海馬及びROH組織の両方について、pH 4-7L及びpH 6-9Lの固定化pH勾配(IPG)を使用した。全てのpH 6-9の勾配ストリップを、DeStreak rehydration solution (Amersham Biosciences)(Pennington, K et al., Proteomics, 4(1): 27-30, 2004)で再水和し、サンプルを陰極にロードした。二次元目は、12%のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用して実施した。
【0202】
<二次元ゲル電気泳動>
<タンパク質サンプル>
100mgの組織当たり1mlのリシスバッファー(9.5M 尿素、1% DTT、2% CHAPS、0.8% Pharmalyte pH3-10、1:10の濃度の「完全な」プロテアーゼ阻害剤混合物[Roche]を含む)の比率に従って、組織の質量に比例した容量のリシスバッファーで、脳組織を溶解した。400μgの総タンパク質を、micro-preparativeゲルへのローディングのために使用した。このゲルから、対象となる可能性のあるタンパク質スポットを、その後の質量分析のためにカットした。
【0203】
<一次元等電点フォーカシング(IEF)>
DeStreak rehydration solution (Amersham Biosciences)を、固定化pH勾配(IPG)ストリップを再水和するために使用し、サンプルを陰極にロードした。2つの異なるpH範囲を使用した。pH範囲4-7及び6-9をカバーする18cmのIPG(リニア)ストリップを使用した。
【0204】
<二次元SDS-PAGE>
フォーカシングしたIPGについて二次元目を行う前に、ストリップを、バッファー(1.5M、pH8.8、Tris[Genomic Solutions]、6M 尿素[Gibco]、30%グリセロール[BDH]、2% SDS[Genomic Solutions]、0.01%ブロモフェノールブルー[Sigma]、1% IAA[Sigma]を含む)内で15分間平衡化し、その後、4.8% IAA[Sigma] を含むバッファーで更に15分間平衡化する。DALTシステム[Amersham Biosciences]による12% T/2.6% C分離ゲルを用いて、SDS-PAGEを一晩(20mA/ゲル、10℃)かけて行った。アクリルゲルはBDHから供給され、SDS-PAGEランニングバッファーに用いる試薬(Tris、SDS、グリシン)は、Genomic Solutionsから供給された。使用した全ての水は、Elga Maxima Life Sciences water purification unitから供給された、18.2MΩcm-1であった。
【0205】
<2-DEタンパク質プロファイルの可視化>
二次元目の終了後は、ゲルを一晩固定した(50%メタノール、10%酢酸)。分析用ゲルを、市販の銀染色キット(「OWL」、Insight Biotechnology Ltd.)を用いて染色した。micro-preparativeゲルは、改変したプロトコール[1]による、質量分析に適した銀染色(「Plus-One」、Amersham Biosciences)を使用して染色した。使用した全ての水は、Elga Maxima Life Sciences water purification unitから供給された、18.2MΩcm-1であった。銀染色後、全てのゲルを、Molecular Dynamics Personal Densitometer SIを使用して、100μmの解像度でスキャンした。その後、染色した分析ゲルを、比較定量分析のために使用し、分析後に、対象となる可能性のあるタンパク質を、相当するmicro-preparativeゲルで特定し、このゲルからスポットをカットし、質量分析に供して、存在するタンパク質の同定を確立した。
【0206】
<ゲルイメージ分析>
ゲルイメージの分析を、Progenesis software, version 2003.2(NonLinear Dynamics)を使用して、幾つかの工程で実施した。自動イメージ調整(ゲルスポット検出、ゲルイメージマッチング並びに補正、バックグラウンド除去及び定量標準化)を、ソフトウェアにより自動で一晩実施し、その後、ゲルイメージの簡単な手動による編集を行い、マッチング精度を75%まで上げた。その後、マッチング精度を85%より上げるのに必要な細かい手動によるイメージ編集を行い、比較分析に続き、事前に行った分析により見出した対象となる可能性のある全てのタンパク質スポットの視覚による詳細な確認が可能となった。バックグラウンド除去及び総スポット容量への標準化後に、タンパク質スポットデータを、定量統計分析及び定量的な変化の比較のためにExcelに移行した。
【0207】
<定量統計分析>
<Studentのt検定>
独立した2つの群の比較を、Studentのt検定を使用して、95%の信頼区間で実施した。各トランスジェニック群を、野生型に対して比較した。統計分析に含まれるスポットについては、少なくとも60%のゲルで存在する必要があった。顕著な結果を証明するために、前記比較に含まれる遺伝子型の混じり合ったものを含む5つの群を、それぞれの比較のために、ランダムに作製した。2つの群の比較のためのStudentのt検定を、前記と同じ方法を使用して、これらの混じり合った群で実施した。
【0208】
<主成分分析(PCA)>
PCAは、全てのデータセットで行った。最初に、全ての群で分析し、その後に、ww及びtt群のみで分析した。変数として含まれるスポットは、いずれか一つの群から少なくとも60%のゲルに存在するスポットとした。
【0209】
<共通スポット>
野生型と比較した場合に、1匹より多いトランスジェニック群において類似の発現の変化を示すことが見出されたスポットを、銀染色したmicro-preparativeゲルから切り出して、LC/MS/MSを使用して同定した。
【0210】
<質的スポット>
野生型と比較した場合に、トランスジェニックモデルのいずれか一つに存在又は非存在のスポット。使用した方法は、各スポットが、少なくとも60%のゲルに存在しなければならないというものであった。
【0211】
<酵素を用いた分解>
その後の質量分析の前に、in-gel還元、アルキル化及び分解(トリプシンを用いた)を実施した。システイン残基を、DTTで還元し、ヨードアセトアミドを用いた処理によって誘導体化して、安定なカルバミドメチル(CAM)誘導体を形成した。トリプシン分解は、最初の1時間を37℃でインキュベーションしてから、一晩室温で実施した。
【0212】
<MALDI-TOF MS>
必要ならば、分解したタンパク質サンプル(4μl)を、ZipTip C18マイクロチップ(Milipore)を使用して脱塩した。ペプチドを、4μlの50%アセトニトリル/0.1%トリフロオロ酢酸で溶出した。0.5μlを、その後、0.5μlのマトリクス(a-シアノ-4-ヒドロキシ-桂皮酸)とともにターゲットプレートにロードした。Voyager DE-PRO MALDI-TOF mass spectrometer(Applied Biosystems)を使用して、ペプチド質量フィンガープリントを得た。マススペクトルを、遅延引き出しの反射モードで得た。自己分解ペプチドの質量2163.0569Daを、その後に、内部基準物質として使用して、50ppmより良好な質量精度を達成した。
【0213】
<LC/MS/MS>
ゲル片から、アセトニトリルと水性液との連続した洗浄によって、ペプチドを抽出した。抽出物を最初の上清とともにプールし、凍結乾燥した。その後、各サンプルを7μlの50mM重炭酸アンモニウムで再懸濁し、LC/MS/MSによって分析した。クロマトグラフィーによる分離は、Ultimate LC system(Dionex, UK)を使用して実施した。75μmのC18 PepMapカラムを用いた逆相クロマトグラフィーにより、ペプチドを分離した。0.05%のギ酸を含むアセトニトリル勾配を用いて、流速200nl/分で、ペプチドを溶出した。Qtof-micro(Walters Corp, USA)にフィットさせたZ-spray源を使用したエレクトロスプレーイオン化により、ペプチドをイオン化した。装置をセットし、自動スイッチングモードで作動させ、衝突誘発断片化によるシークエンシングのために、その強度に基づいて前駆イオンを選択した。ペプチドのm/z及び電荷状態に基づいて選択した衝突エネルギープロファイルを使用して、MS/MS分析を行った。
【0214】
<データベース検索>
質量スペクトルデータを、ペプチド質量リスト(MALDIデータ)及びピークリスト(MS/MSデータ)へと加工し、Swiss Prot Database version 43(2004年3月現在)に対して、Mascot software(Matrix Science, UK)を使用して検索した。カルバミドメチル(C)及び酸化(M)を、検索パラメーターにおけるvariable modificationとしてセットした。高いレベルの信頼性が、これらのタンパク質の同定にアサインすることができ、これは、その結果が、各タンパク質に由来する複数のペプチドについてのMS/MSデータの正確なマッチングに基づくからである。
【0215】
<結果>
<ゲルイメージ分析>
ゲルイメージを、87%の精度を有する複製イメージレベルで、お互いにマッチさせた(表1参照)。いわゆる平均的なゲルイメージ(複製群のそれぞれに由来)を、その後、90%の精度でマッチさせた(表2参照)。
【0216】
<定量統計分析>
<Studentのt検定>
海馬のpH6-9(ww vs tw)及びpH4-7(ww vs tt)のみが、偶然のみによって予期される(表2、濃い灰色で強調)よりも多くの数の有意な差異が生み出された。薄い灰色で強調した数(表2)は、明らかに真の有意差があるスポットを示す。
【0217】
【表2】
【0218】
<主成分分析>
大部分のPCAスコアプロットの分析によっては、集団の帰属関係と相関する明確なクラスターが明らかにならなかった。この例外が、海馬4-7ゲルにおけるwwとttの比較であった(図2)。
【0219】
<共通スポット>
野生型と比較して、一つより多いトランスジェニック群において存在する全体で19のスポットが、統計的に有意である(p≦0.05)ことが見出され、その発現において類似の倍数変化を示した(図7)。
【0220】
<質的変化>
3個のスポットが、質的変化を示した(すなわち、一つの群しか存在しなかった)。海馬4-7ゲルについては、2個の質的変化が存在した。これらのスポットのうちの一つは、野生型のみに存在し、他の3個の遺伝子型には存在しなかった。もう一つは、ダブルトランスジェニック群(tt)には存在しなかったが、他の3つの群には存在した。海馬6-9ゲルについては、一つのスポットが、野生型(ww)群のみに存在した。
【0221】
<結論>
アルツハイマー病においては、タンパク質発現の主要な変化は、学習及び記憶に関連する脳の領域で生じると思われる。この理由のために、タンパク質変化の分析は、海馬組織に集中している。pH4-7及び6-9のIPGによる一次元目条件を使用した2Dゲル電気泳動によるタンパク質分離により、この組織で発現するタンパク質の1000を超えるスポットの提示が可能となった。野生型とダブルトランスジェニック動物とのタンパク質発現を比較するための包括的なイメージ分析により、海馬及びROHについて、全体で47のタンパク質スポットが、2つの異なる勾配(pH4-7及びpH6-9)において、その発現の有意な変化を示すことが判明した:
3個の質的な変化が見出された(図3)。
28個のスポットが、海馬pH4-7で同定された(図4)。
7個のスポットが、海馬pH6-9で同定された(図5)。
5個のスポットが、ROH pH4-7で同定された(図6)。
【0222】
前記タンパク質スポットのうちの19個が、野生型に比較して一つより多いトランスジェニック群で見出され、22個のスポットは、ttに特徴的であり(4-7 IPG海馬)、3個のスポットがtwに特徴的である(6-9 IPG海馬)。
【0223】
質量分析及びデータベース検索による、これらのスポットの更なる分析により、サンプルのそれぞれに存在する複数のタンパク質成分を同定した。図8に、ADの発症に関連しているであろう重要なタンパク質の幾つかを明らかにする。
【0224】
[SELDI質量分析を使用した差異的に発現したタンパク質の同定]
<サンプル調製>
血液を、14週齢のトランスジェニックマウス及び野生型マウス(n=18)から採血し、血漿サンプルを、9.5M 尿素、2% CHAPS、1% DTTで希釈した。
【0225】
<表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)質量分析>
血漿サンプルのプロファイリングを、eight spot strong anion exchange (Q10) protein chipを使用して実施した。全てのサンプルについて、2サンプルずつ、且つ、無作為の方法で実験した。Q10 chipを、100mM Tris HCl pH9.0で、4回平衡化した。5μlの希釈したサンプルを、各スポットにアプライして、chipを、保湿チャンバー内で45分間インキュベートした。サンプルを注意深く取り出し、100mM Tris HCl pH9.0で、chipを四回洗浄し、その後、18.2MΩ水で洗浄した。マトリクス溶液(シナピン酸-20mg/ml)を、50%アセトニトリルと0.5%トリフルオロ酢酸で調製し、二回、0.6μlで各スポットにアプライした。PBS-IIc reader(Ciphergen Biosystems)を使用して、データ獲得を行った。レーザー強度200、検出器感度8、及び、ファーカスマス(focus mass)25000を有するショットを合計155回使用して、スペクトルを得た。ベースライン除去及び総イオン数への標準化を、全てのスペクトルについて実施した。スペクトルの内部キャリブレーションは、各スペクトルにおける2つのピークの最小値を使用して実施した。
【0226】
<多変数データ分析>
<データ移行及び予めの加工>
多変数分析については、未加工のスペクトルをコンマで区切った(csv)形式に移行し、インハウスのプログラム(SMSS_0_3)をそれぞれの未加工のスペクトル上で実施し、各スペクトルにおける対応するマスについて強度値をアライメントした。個々の加工したスペクトルデータを、SIMCA-P(Umetrics)へと移行するために、一つのExcel(Microsoft)表計算シートに編集した。m/z 0からm/z 100,000の質量電荷比に対応する変数を、平均値に集中させた。
【0227】
<主成分分析(PCA)>
PCAモデルを、SIMCA-Pを使用した内部ルールに従ってフィットするできるだけ多数の成分(A)を有するデータセットにフィットさせて、成分の有意性を求めた(Eriksson et al. 2001)。goodness of fit(R2)及びgoodnes of prediction(Q2)パラメーターを使用して、モデルにフィットさせたその後に続く成分のそれぞれの有用性を評価した。Q2パラメーターが増加する間は、自動的にフィットさせた成分を調査して、続けた。最終的に許容された成分についての累積R2パラメーターによって、モデルによって説明されるデータの全体的な分散比率が得られた。主要成分(a)のペアについてobservation score(t)及びvariable loading(p)を示すプロットを作成した。スコアプロットを調べて、その後の分類化の妨げになる恐れのあるシステマチックなバラツキ(systematic variation)及び範囲外の観察(outlying observation)のパターンを探した。特に、各チップ上で分析した観察の部位を丹念に調べ、通常ではないチップについてチェックした。二重サンプル分析の再現性も、スコアプロットを使用してチェックした。スコアプロットの楕円形は、95%でのHotellingのT2、信頼区間の多変数適応に対応する。多変数通常分布を有するデータセットについては、観察の95%が、楕円によって含まれる領域に存在すると予期され、それ故、楕円の外に遠く離れた観察は、調査し評価すべき問題を示しているかもしれない。スコアプロットの調査を介して発見された傾向は、対応するローディングプロットに見出された変数の調査を介して解釈された。極端なプロットでプロッティングされた個々のm/z値は、群の分離に最も影響を及ぼすと考えられる。興味深いことに、このようなプロットは、幾つかの連続したm/zデータポイントを示し、これらは、SELDIプロファイルそれ自身で観察された元のピークを効率的に表す。
【0228】
<部分的最小二乗判別分析(PLS-DA)及びモデリング>
PLS-DAモデルの成分(A)を、SIMCA-Pによって使用したクライテリアを満たす限り、データセットにフィットさせて、成分の有意性を求めた(Eriksson et al. 2001)。PCAモデリングについては、R2及びQ2パラメーターを調査し、どの成分が、モデルに含まれているかを求めた。PCAモデリングと異なり、PLS-DAモデルは、X(測定)変数及びY(クラス)変数の両方へのモデルのフィットを示すR2値を有する。PLS成分(a)のペアについて、observation score(t)及びvariable weight(w*c)を示すプロットが得られた。X及びYデータを両方近似させて、XとYデータとの相関関係を最大になるように、各PLS成分をフィットさせたので、データセットに少しの群が存在する場合には、実際には、最初の1つ又は2つの成分が、通常は、観察を分離する。PLS weightは、PCA loadingに相似しているので、PLSスコア及びweight plotの解釈は、PCAモデルを解釈するのに使用したのと類似している。HotellingのT2をコンピューターで計算し、全てのPLSスコアプロット上で示して、deviating observationの同定の助けとした。
【0229】
<交差検定>
(新規の)サンプルのクラスを正確に予期するために作成したPLS-DAモデルの能力を、2分割交差検定により求めた。交差分割は、データセットをトレーニングセット及びテストセットへと分割することによって実施した(奇数をトレーニングセットのために用い、偶数をテストセットのために用いた)。PLS-DAモデルを、データセットのトレーニング部分にフィットさせ、その後、データセットのテスト部分のクラスを予期するのに使用した。その後、トレーニング及びテストデータセットを、交代させ、この工程を繰り返した。両方のテストのラウンドに由来する正確な分類及び不正確な分類の数を記録し、予測の感度及び特異性を計算するのに使用した。
【0230】
<変数選択>
variable influence on projection(VIP)及びPLS-coefficient(COEFF)と称する2つのパラメーターを、どのm/z値が、モデルを定義するのに及び群を説明するのに最も重要かを求めるために使用した。特異的な閾値を実験的に求めて、閾値よりも低いVIP及びCOEFF値を有する変数を除外するのに使用した。前記交差検定方法を、選択した変数を含むデータセットにフィットしたPLS-DAモデルにアプライした。
【0231】
<一変数データ分析>
自動ピーク検出及びマッチングを、全てのスペクトルで実施し、その後、このデータをMann-Whitney検定を使用した統計的有意差検定のためのBiomarker Wizard moduleに供した。p≦0.05のピークを視覚的に調査し、シングルピークに対応するか、ベースラインのノイズに対応しないかをチェックした。認められるピークを、手作業で印をつけ、これらのピークの物質質量及び強度データを、Excelに移し、各ピークについての倍数を計算した。マッチさせたピークの各セットの領域又は強度で見られた傾斜分布のために、分布の平均値及び中央値並びに標準偏差の計算に先立ち、データをlog10変換した。倍数及び効果量(Cohen’s D)を計算するために、分布のパラメーターを、その後、元のスケール上に戻した。効果量は、プールした標準偏差によって分割された2つの群の平均値間の差異として計算した。
【0232】
<第一の潜在的なバイオマーカー>
対象とする第一の潜在的なマーカーとして考慮するためには、各バイオマーカー(ピーク)が、以下の3つの基準を満たさなければならない。ピークを、PLS-DAによるVIP及びCOEFFパラメーターに従って選択する。各群の平均ピーク強度間の差異は、Mann-Whitney検定によって統計的に有意(p≦0.05)である。群の平均及び中央ピーク強度間の差異が、≧1.5倍増加又は減少する。
【0233】
表3は、各比較で見出された第一の潜在的なバイオマーカーを示す。表は、各比較における、野生型に対する、平均値及び中央値の倍数、並びに、変化の方向を示す。
【0234】
【表3】
【0235】
<第二の潜在的なバイオマーカー>
2つのタイプの第二の潜在的なバイオマーカーのリストを、多変数又は一変数分析のいずれかに基づいて作成した。
【0236】
第一のリストは、多変数分析に基づく(表4)。対象とするピークを、各比較の変数選択により選択したが、これらのピークは、p値≦0.05を伴っていなかった。
【0237】
【表4A】
【表4B】
【0238】
第二のリスト(表5)は、潜在的なバイオマーカーが以下の基準を満たす一変数分析に基づく:
各群の平均ピーク強度間の差異が、Mann-Whitney検定による統計的に有意(p≦0.05)である。
群の平均及び中央ピーク強度間の差異が、≧1.5倍増加又は減少する。
【0239】
【表5A】
【表5B】
【0240】
2匹以上のトランスジェニック群で現れるピークは、ピーク6、2、3、4、6、7、12、13、14、16、18、21、25、26、41、42、45である。
【0241】
第一の潜在的バイオマーカーとして分類された対象とするピークに対応する成分の同定を以下に記す。
【0242】
<SELDIピークの更なる分析>
ダブルトランスジェニックマウスにおける第一の潜在的なバイオマーカーとして同定されたピークを、更なる分析に供して、そこに含まれるタンパク質を同定した。この実験は、SELDI proteinchipから血漿物質を抽出すること、及び、1-Dゲル上での成分タンパク質を分離することによって実施した。タンパク質を、MS-適合銀染色を使用して可視化し、対象とする幾つかのSELDIピークのm/z値と等価な分子量のゲルバンドを切除した。タンパク質を、in-gel分解手法及びLC/MS/MSを使用して同定した。タンパク質の同定後、MassLynx software suite内のBioLynx分析ツールを使用して、同定を合理化する試みを行った。この分析において、対象とするSELDIピーク内に、同定したタンパク質断片の存在を確認することができた。
【0243】
<SELDI ProteinChipからの血漿サンプル物質の抽出>
血漿物質を、Q10 proteinchip(強アニオン交換クロマトグラフィー)から、5μlの加温したLaemmliバッファーのアップ/ダウンピペッティングを1分間行うことによって、抽出した。(サンプルを、対応する遺伝子型集団にプールした。)抽出後のスポットをSELDI機器で再び読み込んだところ、ピークが観察されなかったことから、この抽出方法が、proteinchipに結合した物質を取り出すのに非常に有効であることが判明した。
【0244】
<SDS-PAGE>
野生型(ww)及びダブルトランスジェニック(TT)のproteinchip抽出物を、NOVEX電気泳動装置(Invitrogen)で、1.5mmの厚さの16% tris-グリシン1-Dゲル(Invitrogen)を使用してSDS-PAGEによって分離した。16%ゲルを使用して、対象とするSELDIピークの大部分の分子量に対応する27kDa未満の領域におけるバンドの十分な物理的分離及び分解を達成した。ゲルを、上部のブロモフェノールブルー色素がゲルの底に達成するまで、1時間80Vで泳動し、その後、1時間30分120Vで泳動した。電気泳動後、デジタルイメージを得るために、ゲルを、銀染色に適合する質量分析(改変したPlus One kit[GE Healthcare])を使用して染色し、「Personal Densitometer SI」(Molecular Dynamics)を使用してスキャンした。
【0245】
<タンパク質の同定>
<酵素による分解>
対象とするSELDIピークのm/z値に対応する分子量のゲルバンドを、手動により切除した。質量分析によるその後の分析の前に、In-gel還元、アルキル化及び分解(トリプシンを用いた)を実施した。システイン残基をDTTで還元し、ヨードアセトアミドを用いた処理によって誘導体化し、安定なカルバミドメチル(CAM)誘導体を形成した。トリプシン分解物を、最初の1時間は37℃でインキュベートし、その後、一晩室温でインキュベートした。
【0246】
<LC/MS/MS>
ゲル片から、アセトニトリルと水性液との連続した洗浄によって、ペプチドを抽出した。抽出物を最初の上清とともにプールし、凍結乾燥した。その後、各サンプルを23μlの50mM重炭酸アンモニウムで再懸濁し、LC/MS/MSによって分析した。クロマトグラフィーによる分離は、Ultimate LC system(Dionex, UK)を使用して実施した。75μmのC18 PepMapカラムを用いた逆相クロマトグラフィーにより、ペプチドを分離した。0.05%のギ酸を含むアセトニトリル勾配を用いて、流速200nl/分で、ペプチドを溶出した。QTof-micro(Micromass, UK)にフィットさせたZ-spray源を使用したエレクトロスプレーイオン化により、ペプチドをイオン化した。装置をセットし、自動スイッチングモードで作動させ、衝突誘発断片化によるシークエンシングのために、その強度に基づいて前駆イオンを選択した。ペプチドのm/z及び電荷状態に基づいて選択した衝突エネルギープロファイルを使用して、MS/MS分析を行った。
【0247】
<データベース検索>
質量スペクトルデータピークリスト(MS/MSデータ)を、Swiss Prot又はnon-redundant databaseに対して、Mascot software(Matrix Science, UK)を使用して検索した。特定のアミノ酸修飾パラメーター、すなわち、可変のシステインカルバミドメチル化修飾(還元及びアルキル化反応に由来する)及び可変のメチオニン酸化修飾を使用して、データを検索した。
【0248】
<タンパク質断片の分析(BioLynx)>
MassLynx software suiteのBioLynx moduleを使用して、最初の対象であった7つのSELDIピークを分析した。対象とするSELDIピークの質量とマッチする、試験により産生したタンパク質の断片の可能性を予測するために、それぞれの同定したタンパク質について、アミノ酸配列を、BioLynxを使用して分析した。更にその上、それぞれの予測した断片についてのアミノ酸は配列を、Mascotで観察されたLC/MS/MS断片を用いてチェックした。原則的に、この方法でのBioLynxの使用により、対象とするSELDIピークの質量とマッチする質量のタンパク質の有望な断片の存在の確認が可能となる。断片が複数のピークにおいて表れるタンパク質は、潜在的に、バイオマーカーとして大いに興味深い。
【0249】
<結果>
SDS-PAGE上で、14kDa未満の領域における幾つかの十分に分離した薄い特定のバンドを可視化した。MS分析のための3-11kDa領域をカバーするTTゲルレーンから、22個のゲルバンドを手動で切除した。各バンドペア、例えばTT11及びTT27を、一つのエッペンドルフチューブに回収し、〜1mm立方体にカットした。このようにプールした後、8つのサンプルを、LC-MS/MSによって分析した。8つのサンプルの分析を包含する完全なデータセットを使用して、全体で65個のタンパク質を同定することが可能となった;しかしながら、これらの多くは、複数のゲルバンドに存在し、24個の特徴的なタンパク質のみが存在することが示された(表7)。これにより、複数のタンパク質断片化形態が存在することが示唆された。
【0250】
【表6A】
【表6B】
【表6C】
【表6D】
【表6E】
【0251】
【表7】
【0252】
BioLynx softwareを使用して、SELDIピーク1-6(表3参照)を試験した。BioLynx分析においては、対象とするピークの平均質量(すなわち、ゼロ電荷状態)は、予期される断片のために検索する時は、±2又は3ダルトンを使用した。
【0253】
図10は、ピーク1-6のSELDI m/z値に対応するゲルバンドにおいて同定されたタンパク質を示す。表は、(必要であるならば)BioLynxでの相当する残基番号とともに、対象とするタンパク質の同一性を求めるために使用したLC/MS/MSで観察されたペプチド(Mascot残基番号)、及び、そのMascotペプチド残基番号を「カバーする」又はマッチするBioLynxで予期されたペプチドのペプチド残基番号を示す。
【0254】
観察された各SELDIピークは、分子の混合物を含み、それぞれの分子が、ピークについて観察された強度の幾らかの割合をもたらす可能性がある。更にその上、同定したタンパク質の大部分が、11kDaより高い分子量であることが予期されたことから、SELDIピークは、これらのタンパク質の断片を含む可能性が非常に高い。BioLynx相関関係の実施により、表7で示された24個のタンパク質のいずれかに由来する、可能性ある断片配列のセットが産生した。
【0255】
図11は、BioLynxを使用した、観察されたペプチド断片を分析する理論的根拠を示す。図11aに示すように、例えば、ピーク1(平均 質量3770Da)は、LC/MS/MSサンプルTT43のゲルバンドTK及びTVで表される。スペクトル及びゲルイメージの下に、major urinary protein 1(前駆体、すなわち、全長)のアミノ酸配列を示す。その同定がMascotに由来するペプチドに下線を引く。強調した表示は、SELDIピークのm/zとマッチする、BioLynxによって予測されたペプチドであり、Mascot(実験的に観察された)ペプチドも含む。テキストは、BioLynxで予期されたペプチドの相当するSwiss-Protアミノ酸残基番号を示す。また、タンパク質のシグナル配列(最初の19個のアミノ酸)を黒線で示し、この領域は、一般的には、成熟タンパク質を生成するために除去される。
【0256】
LC/MS/MS実験で観察されたペプチドを、その後、タンパク質の予期された断片上にマッピングし、これは、観察されたSELDI値と一致する分子量を有しなければならない。
【0257】
複数のピークで観察されたタンパク質は、潜在的に、より好ましいバイオマーカー候補である。
【0258】
これらのバイオマーカーを立証する予備的な実験は、断片配列それ自身上の特徴的なエピトープを選択的に認識するが、タンパク質全体を認識しない注意深く選択された(カスタム-メイド)抗体を使用したウェスタンブロッティングを含むであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)少なくとも一つのタンパク質が、アルツハイマー病を有する被検体又はアルツハイマー病になりやすい素因を有する被検体、及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するというパラダイムを確立する工程;
(b)スクリーニングされる薬剤で処理された、アルツハイマー病を有する被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織のサンプルを得る工程;
(c)処理された被検体から得た組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するタンパク質の存在、不存在、又は発現の度合いを測定する工程;並びに
(d)アルツハイマー病を有する処理された被検体において差異的に発現したタンパク質の発現、活性又は量を、正常な被検体のものへと変化させる程度に従って、上記薬剤を選択又は拒絶する工程;
を含む、アルツハイマー病の治療における有用性を決定するための薬剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
上記薬剤が、タンパク質の発現を、正常な被検体のものに変換するのであれば、上記薬剤を選択する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記パラダイムが、アルツハイマー病の動物モデルである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
上記動物モデルが、アミロイド前駆体タンパク質(APP)及びプレセニリン-1(PS-1)ダブルトランスジェニックマウス及び野生型マウス、並びに/又はシングルトランスジェニックAPPマウス及び/若しくはシングルトランスジェニックPS-1マウスに基づく、請求項3記載の方法。
【請求項5】
上記組織サンプルが、脳組織サンプルである、請求項1から4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
上記組織サンプルが、血液、血清又は脳脊髄液サンプルである、請求項1から4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
タンパク質発現の差異的なレベルを有する被検体が、
(a)請求項9記載のトランスジェニックマウス及び野生型マウス;並びに
(b)上記薬剤で処理しなかった請求項4記載のトランスジェニックマウス、及び上記薬剤で処理した請求項4記載のトランスジェニックマウス
を含む、請求項1から6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
タンパク質発現の差異的なレベルを有する被検体が、
(a)上記薬剤で処理した野生型マウス、及び上記薬剤で処理しなかった野生型マウス;並びに
(b)上記薬剤で処理した請求項4記載のトランスジェニックマウス、及び上記薬剤で処理しなかった請求項4記載のトランスジェニックマウス
を含む、請求項1から6のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
サンプルに存在するタンパク質が、上記関連組織又はそのタンパク質含有抽出物で実施される二次元ゲル電気泳動又はSELDI分析を使用して確立される、請求項1から8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
上記タンパク質を、上記タンパク質を分析するための質量分析及びデータベース検索を使用して、事後的に同定する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
上記方法で同定した差異的に発現するタンパク質を単離する工程を更に含む、請求項1から10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
上記単離したタンパク質を特徴付けする工程を更に含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
上記差異的に発現するタンパク質が、図3から6又は表7で示すタンパク質の一つ又は複数を含む、請求項1から12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
上記タンパク質が、グアノシンジホスフェート解離阻害因子1、ジヒドロピリミジニアーゼ関連タンパク質2、プロテアソームサブユニットアルファタイプ6、アポリポタンパク質E、シナプシンII、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼアイソザイムL1、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼmu 1、チューブリンベータ-4鎖、WWドメイン結合タンパク質2、真核生物翻訳開始因子4H、チューブリンベータ-3、神経タンパク質Np25、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼA、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼC、ヌクレオリシンTIA関連タンパク質、ペプチジルプロリルイソメラーゼD、電位依存性アニオン選択的チャンネルタンパク質1及びミトコンドリア アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ前駆体の一つ又は複数を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
上記タンパク質の特異的な結合パートナーのためのアッセイにおいて、上記タンパク質を使用する工程を更に含む、請求項11又は12記載の方法。
【請求項16】
上記タンパク質のアゴニスト又はアンタゴニストのためのアッセイにおいて、上記タンパク質を使用する工程を更に含む、請求項11又は12記載の方法。
【請求項17】
上記薬剤又はタンパク質が、ハイスループットスクリーニング方法を使用してスクリーニングされる、請求項1から16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項記載の方法を使用して薬剤を同定する工程、更に、上記薬剤を製造する工程、上記薬剤を許容可能なキャリアーと調合して医薬組成物を提供する工程を含む、医薬組成物の製造方法。
【請求項19】
アルツハイマー病の治療のための医薬の製造における、図3から6若しくは表7で示すタンパク質から選択されるタンパク質、又は、図9で示す対応するヒトタンパク質の使用。
【請求項20】
上記タンパク質が、図3から6で示すスポット1341、1498、1976、1017、884、1023及び1823で表されるタンパク質、又は図9で示す対応するヒトタンパク質から選択される、請求項19記載の使用。
【請求項21】
アルツハイマー病の治療のための医薬の製造のための、請求項1から17のいずれか一項記載の方法によって同定された薬剤、結合パートナー、アゴニスト又はアンタゴニストの使用。
【請求項22】
上記アゴニストが活性化抗体である、請求項21記載の使用。
【請求項23】
上記アゴニストが、ブロッキング抗体、アンチセンス分子、siRNA、リボザイム又はトリプルヘリックス分子である、請求項21記載の使用。
【請求項24】
請求項1から17のいずれか一項記載の方法によって同定した薬剤の治療上又は予防上の有効量を患者に投与する工程を含む、患者においてアルツハイマー病を治療する方法。
【請求項25】
患者に由来するサンプル中の、図3から6若しくは表7で示すタンパク質、又は、図9で示す対応するヒトタンパク質の一つ又は複数の存在又は量を測定する工程を含む、患者におけるアルツハイマー病をin vitroで診断する方法。
【請求項26】
上記サンプルが、血液、血清又は脳脊髄液サンプルである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
特異的な抗体を用いて上記タンパク質を検出する工程を含む、請求項25又は26記載の方法。
【請求項28】
上記サンプルについて二次元ゲル電気泳動を実施する工程を含む、請求項25又は26記載の方法。
【請求項29】
一つ又は複数の候補化合物が、図3から6若しくは表7で示すタンパク質、又は、図9で示す対応するヒトタンパク質の一つ又は複数の発現又はレベルを調節することができるかどうかを測定する工程
を含む、アルツハイマー病の予防又は治療に潜在的に有用な化合物のためのスクリーニング方法。
【請求項30】
in vitro方法である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
アルツハイマー病の治療又は予防のための薬剤としての適合性について、候補化合物をスクリーニングするための、図3から6若しくは表7で示すタンパク質、又は、図9で示す対応するヒトタンパク質の使用。
【請求項32】
以下の工程:
(a)少なくとも一つのタンパク質が、アルツハイマー病を有する被検体及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するというパラダイムを確立する工程;
(b)上記被検体から上記組織のサンプルを得る工程;
(c)上記サンプルにおける差異的に発現するタンパク質の存在、不存在又は発現の度合いを測定する工程;並びに
(d)上記測定値と臨床上の情報の間の従前の相関関係を参考にして、アルツハイマー病の発症について測定値を関連させる工程;
を含む、ヒト又は動物被検体におけるアルツハイマー病の性質又は度合いを測定する方法。
【請求項33】
上記組織サンプルが、血液、血清又は脳脊髄液である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
少なくとも4つのタンパク質が、上記パラダイムにおいて、差異的に発現する、請求項32又は33記載の方法。
【請求項35】
上記差異的に発現するタンパク質が、図3から6又は表7で示すタンパク質の一つ又は複数を含む、請求項32から34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
上記タンパク質が、グアノシンジホスフェート解離阻害因子1、ジヒドロピリミジニアーゼ関連タンパク質2、プロテアソームサブユニットアルファタイプ6、アポリポタンパク質E、シナプシンII、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼアイソザイムL1、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼmu 1、チューブリンベータ-4鎖、WWドメイン結合タンパク質2、真核生物翻訳開始因子4H、チューブリンベータ-3、神経タンパク質Np25、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼA、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼC、ヌクレオリシンTIA関連タンパク質、ペプチジルプロリルイソメラーゼD、電位依存性アニオン選択的チャンネルタンパク質1及びミトコンドリア アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ前駆体の一つ又は複数を含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
アルツハイマー病を治療するための有効な治療法を決定する工程を更に含む、請求項32から36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
アルツハイマー病を有する被検体及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するタンパク質であり、上記の組織又はそのタンパク質含有抽出物で実施した二次元ゲル電気泳動方法によって入手可能であるタンパク質であって、上記方法が、以下の工程:
(a)3mm×180mmのアクリルアミドポリマーの非直線状固定化pH勾配(IPG)ストリップを準備する工程;
(b)尿素(8M)、3-[(コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS、2%w/v)、ジチオエリスリトール(DTE、10mM)、pH3.5から10の酸及び塩基の混合物(2%w/v)、及び微量のBromophenol Blueの水溶液を25ml含むカセット中で、上記IPGストリップを再水和する工程;
(c)上記カセットから液体を除き、湿った電極芯、電極、及びサンプルカップを備えた電気泳動トレーに上記ストリップを移し、上記ストリップとカップを低粘度のパラフィン油で覆う工程;
(d)上記IPGストリップの陰極末端で、サンプルカップに、尿素(8M)、CHAPS(4%w/v)、Tris(40mM)、DTE(65mM)、SDS(0.05%w/v)、及び微量のBromophenol Blue中で、関連生体組織の乾燥粉末化した材料の水溶液の200マイクログラムを適用する工程;
(e)3時間で300から3500Vまで直線状に増加させ、その後さらに3時間3500Vとし、その後pI依存性最終地点に、上記ストリップ中で上記タンパク質が移動するのに十分な時間5000Vとした電圧で、ゲル上で等電点電気泳動を実施する工程;
(f)Tris-HCl(50mM)pH6.8、尿素(6M)、グリセロール(30%v/v)、SDS(2%w/v)及びDTE(2%w/v)を含む100mlの水溶液で12分間、トレー内で上記ストリップを平衡化する工程;
(g)5分間この溶液を、Tris-HCl(50mM)pH6.8、尿素(6M)、グリセロール(30%v/v)、SDS(2%w/v)、ヨードアセタミド(2.5%w/v)、及び微量のBromophenol Blueを含む100mlの水溶液によって置換する工程;
(h)リーディングバッファーとしてのTris-HCl(0.375M)pH8.8中のTEMED(0.5%w/v)、過硫酸アンモニウム(0.1%w/v)、及びチオ硫酸ナトリウム(5mM)の存在下で重合した、アクリルアミド/ピペラジン-ジアクリリル架橋剤(9-16%T/2.6%C)の160×200×1.5mmの縦勾配スラブゲルを準備する工程;
(i)約2時間sec-ブタノールで上記ゲルを浸し、この液を除去し、それを水と置換する工程;
(j)陽極末端から6mmと陰極末端から14mmを除去して、二次元電気泳動のために適したサイズにIPGゲルストリップを切断する工程;
(k)リーディングバッファーとしてのアガロース(0.5%w/v)及びTris-グリシン-SDS(25mM-198mM-0.1%w/v)の水溶液でスラブゲルを浸し、70℃に加熱し、この浸した溶液を通じてスラブゲル上に上記IPGゲルストリップを乗せる工程;
(l)8-12℃で5時間40mAの一定電流で、二次元電気泳動を実施する工程;並びに
(m)ゲルを洗浄する工程;
を含む、タンパク質。
【請求項39】
以下の工程:
a)図3から6又は表7で示すタンパク質から少なくとも一つの候補タンパク質を選択する工程;
b)狭い範囲の固定化pH勾配(IPG)を使用した二次元ゲル電気泳動を介して、組織サンプル中の他のタンパク質から、上記候補タンパク質が分離可能なpH範囲を選択する工程;
c)上記で選択したpH範囲のIPGを使用した二次元ゲル電気泳動によって、生物学的サンプル中の他のタンパク質から、上記候補タンパク質を分離する工程であって、上記サンプルが、アミロイド前駆体タンパク質(APP)及びプレセニリン-1(PS-1)ダブルトランスジェニックマウス並びに野生型マウスから得られたものである工程;
d)トランスジェニックマウス及び野生型マウスから得られたゲルにおけるスポットの強度を比較する工程;
e)強度がゲルの間で異なるスポットを選択する工程;並びに
f)上記スポットにおけるタンパク質を同定する工程;
を含む、アルツハイマー病の患者とアルツハイマー病ではない患者との間で発現のレベルが異なるタンパク質を同定する方法。
【請求項40】
シングルトランスジェニックAPPマウス及び/又はシングルトランスジェニックPS-1マウスに由来するサンプルも比較する、請求項39記載の方法。
【請求項41】
上記生物学的サンプルが脳組織である、請求項39又は40記載の方法。
【請求項42】
上記生物学的サンプルが海馬又は脳半球組織である、請求項41記載の方法。
【請求項43】
上記生物学的サンプルが、血液、血清又は脳脊髄液である、請求項39又は40記載の方法。
【請求項44】
上記工程(f)が、質量分析を使用して上記タンパク質を分析する工程、及び、データベースを検索して上記タンパク質を同定する工程を含む、請求項39から43のいずれか一項記載の方法。
【請求項1】
以下の工程:
(a)少なくとも一つのタンパク質が、アルツハイマー病を有する被検体又はアルツハイマー病になりやすい素因を有する被検体、及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するというパラダイムを確立する工程;
(b)スクリーニングされる薬剤で処理された、アルツハイマー病を有する被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織のサンプルを得る工程;
(c)処理された被検体から得た組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するタンパク質の存在、不存在、又は発現の度合いを測定する工程;並びに
(d)アルツハイマー病を有する処理された被検体において差異的に発現したタンパク質の発現、活性又は量を、正常な被検体のものへと変化させる程度に従って、上記薬剤を選択又は拒絶する工程;
を含む、アルツハイマー病の治療における有用性を決定するための薬剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
上記薬剤が、タンパク質の発現を、正常な被検体のものに変換するのであれば、上記薬剤を選択する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記パラダイムが、アルツハイマー病の動物モデルである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
上記動物モデルが、アミロイド前駆体タンパク質(APP)及びプレセニリン-1(PS-1)ダブルトランスジェニックマウス及び野生型マウス、並びに/又はシングルトランスジェニックAPPマウス及び/若しくはシングルトランスジェニックPS-1マウスに基づく、請求項3記載の方法。
【請求項5】
上記組織サンプルが、脳組織サンプルである、請求項1から4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
上記組織サンプルが、血液、血清又は脳脊髄液サンプルである、請求項1から4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
タンパク質発現の差異的なレベルを有する被検体が、
(a)請求項9記載のトランスジェニックマウス及び野生型マウス;並びに
(b)上記薬剤で処理しなかった請求項4記載のトランスジェニックマウス、及び上記薬剤で処理した請求項4記載のトランスジェニックマウス
を含む、請求項1から6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
タンパク質発現の差異的なレベルを有する被検体が、
(a)上記薬剤で処理した野生型マウス、及び上記薬剤で処理しなかった野生型マウス;並びに
(b)上記薬剤で処理した請求項4記載のトランスジェニックマウス、及び上記薬剤で処理しなかった請求項4記載のトランスジェニックマウス
を含む、請求項1から6のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
サンプルに存在するタンパク質が、上記関連組織又はそのタンパク質含有抽出物で実施される二次元ゲル電気泳動又はSELDI分析を使用して確立される、請求項1から8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
上記タンパク質を、上記タンパク質を分析するための質量分析及びデータベース検索を使用して、事後的に同定する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
上記方法で同定した差異的に発現するタンパク質を単離する工程を更に含む、請求項1から10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
上記単離したタンパク質を特徴付けする工程を更に含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
上記差異的に発現するタンパク質が、図3から6又は表7で示すタンパク質の一つ又は複数を含む、請求項1から12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
上記タンパク質が、グアノシンジホスフェート解離阻害因子1、ジヒドロピリミジニアーゼ関連タンパク質2、プロテアソームサブユニットアルファタイプ6、アポリポタンパク質E、シナプシンII、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼアイソザイムL1、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼmu 1、チューブリンベータ-4鎖、WWドメイン結合タンパク質2、真核生物翻訳開始因子4H、チューブリンベータ-3、神経タンパク質Np25、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼA、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼC、ヌクレオリシンTIA関連タンパク質、ペプチジルプロリルイソメラーゼD、電位依存性アニオン選択的チャンネルタンパク質1及びミトコンドリア アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ前駆体の一つ又は複数を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
上記タンパク質の特異的な結合パートナーのためのアッセイにおいて、上記タンパク質を使用する工程を更に含む、請求項11又は12記載の方法。
【請求項16】
上記タンパク質のアゴニスト又はアンタゴニストのためのアッセイにおいて、上記タンパク質を使用する工程を更に含む、請求項11又は12記載の方法。
【請求項17】
上記薬剤又はタンパク質が、ハイスループットスクリーニング方法を使用してスクリーニングされる、請求項1から16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項記載の方法を使用して薬剤を同定する工程、更に、上記薬剤を製造する工程、上記薬剤を許容可能なキャリアーと調合して医薬組成物を提供する工程を含む、医薬組成物の製造方法。
【請求項19】
アルツハイマー病の治療のための医薬の製造における、図3から6若しくは表7で示すタンパク質から選択されるタンパク質、又は、図9で示す対応するヒトタンパク質の使用。
【請求項20】
上記タンパク質が、図3から6で示すスポット1341、1498、1976、1017、884、1023及び1823で表されるタンパク質、又は図9で示す対応するヒトタンパク質から選択される、請求項19記載の使用。
【請求項21】
アルツハイマー病の治療のための医薬の製造のための、請求項1から17のいずれか一項記載の方法によって同定された薬剤、結合パートナー、アゴニスト又はアンタゴニストの使用。
【請求項22】
上記アゴニストが活性化抗体である、請求項21記載の使用。
【請求項23】
上記アゴニストが、ブロッキング抗体、アンチセンス分子、siRNA、リボザイム又はトリプルヘリックス分子である、請求項21記載の使用。
【請求項24】
請求項1から17のいずれか一項記載の方法によって同定した薬剤の治療上又は予防上の有効量を患者に投与する工程を含む、患者においてアルツハイマー病を治療する方法。
【請求項25】
患者に由来するサンプル中の、図3から6若しくは表7で示すタンパク質、又は、図9で示す対応するヒトタンパク質の一つ又は複数の存在又は量を測定する工程を含む、患者におけるアルツハイマー病をin vitroで診断する方法。
【請求項26】
上記サンプルが、血液、血清又は脳脊髄液サンプルである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
特異的な抗体を用いて上記タンパク質を検出する工程を含む、請求項25又は26記載の方法。
【請求項28】
上記サンプルについて二次元ゲル電気泳動を実施する工程を含む、請求項25又は26記載の方法。
【請求項29】
一つ又は複数の候補化合物が、図3から6若しくは表7で示すタンパク質、又は、図9で示す対応するヒトタンパク質の一つ又は複数の発現又はレベルを調節することができるかどうかを測定する工程
を含む、アルツハイマー病の予防又は治療に潜在的に有用な化合物のためのスクリーニング方法。
【請求項30】
in vitro方法である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
アルツハイマー病の治療又は予防のための薬剤としての適合性について、候補化合物をスクリーニングするための、図3から6若しくは表7で示すタンパク質、又は、図9で示す対応するヒトタンパク質の使用。
【請求項32】
以下の工程:
(a)少なくとも一つのタンパク質が、アルツハイマー病を有する被検体及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するというパラダイムを確立する工程;
(b)上記被検体から上記組織のサンプルを得る工程;
(c)上記サンプルにおける差異的に発現するタンパク質の存在、不存在又は発現の度合いを測定する工程;並びに
(d)上記測定値と臨床上の情報の間の従前の相関関係を参考にして、アルツハイマー病の発症について測定値を関連させる工程;
を含む、ヒト又は動物被検体におけるアルツハイマー病の性質又は度合いを測定する方法。
【請求項33】
上記組織サンプルが、血液、血清又は脳脊髄液である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
少なくとも4つのタンパク質が、上記パラダイムにおいて、差異的に発現する、請求項32又は33記載の方法。
【請求項35】
上記差異的に発現するタンパク質が、図3から6又は表7で示すタンパク質の一つ又は複数を含む、請求項32から34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
上記タンパク質が、グアノシンジホスフェート解離阻害因子1、ジヒドロピリミジニアーゼ関連タンパク質2、プロテアソームサブユニットアルファタイプ6、アポリポタンパク質E、シナプシンII、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼアイソザイムL1、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼmu 1、チューブリンベータ-4鎖、WWドメイン結合タンパク質2、真核生物翻訳開始因子4H、チューブリンベータ-3、神経タンパク質Np25、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼA、フルクトース-ビスホスフェートアルドラーゼC、ヌクレオリシンTIA関連タンパク質、ペプチジルプロリルイソメラーゼD、電位依存性アニオン選択的チャンネルタンパク質1及びミトコンドリア アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ前駆体の一つ又は複数を含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
アルツハイマー病を治療するための有効な治療法を決定する工程を更に含む、請求項32から36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
アルツハイマー病を有する被検体及び正常な被検体から得た関連組織、又は上記被検体の代表的な関連組織において差異的に発現するタンパク質であり、上記の組織又はそのタンパク質含有抽出物で実施した二次元ゲル電気泳動方法によって入手可能であるタンパク質であって、上記方法が、以下の工程:
(a)3mm×180mmのアクリルアミドポリマーの非直線状固定化pH勾配(IPG)ストリップを準備する工程;
(b)尿素(8M)、3-[(コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS、2%w/v)、ジチオエリスリトール(DTE、10mM)、pH3.5から10の酸及び塩基の混合物(2%w/v)、及び微量のBromophenol Blueの水溶液を25ml含むカセット中で、上記IPGストリップを再水和する工程;
(c)上記カセットから液体を除き、湿った電極芯、電極、及びサンプルカップを備えた電気泳動トレーに上記ストリップを移し、上記ストリップとカップを低粘度のパラフィン油で覆う工程;
(d)上記IPGストリップの陰極末端で、サンプルカップに、尿素(8M)、CHAPS(4%w/v)、Tris(40mM)、DTE(65mM)、SDS(0.05%w/v)、及び微量のBromophenol Blue中で、関連生体組織の乾燥粉末化した材料の水溶液の200マイクログラムを適用する工程;
(e)3時間で300から3500Vまで直線状に増加させ、その後さらに3時間3500Vとし、その後pI依存性最終地点に、上記ストリップ中で上記タンパク質が移動するのに十分な時間5000Vとした電圧で、ゲル上で等電点電気泳動を実施する工程;
(f)Tris-HCl(50mM)pH6.8、尿素(6M)、グリセロール(30%v/v)、SDS(2%w/v)及びDTE(2%w/v)を含む100mlの水溶液で12分間、トレー内で上記ストリップを平衡化する工程;
(g)5分間この溶液を、Tris-HCl(50mM)pH6.8、尿素(6M)、グリセロール(30%v/v)、SDS(2%w/v)、ヨードアセタミド(2.5%w/v)、及び微量のBromophenol Blueを含む100mlの水溶液によって置換する工程;
(h)リーディングバッファーとしてのTris-HCl(0.375M)pH8.8中のTEMED(0.5%w/v)、過硫酸アンモニウム(0.1%w/v)、及びチオ硫酸ナトリウム(5mM)の存在下で重合した、アクリルアミド/ピペラジン-ジアクリリル架橋剤(9-16%T/2.6%C)の160×200×1.5mmの縦勾配スラブゲルを準備する工程;
(i)約2時間sec-ブタノールで上記ゲルを浸し、この液を除去し、それを水と置換する工程;
(j)陽極末端から6mmと陰極末端から14mmを除去して、二次元電気泳動のために適したサイズにIPGゲルストリップを切断する工程;
(k)リーディングバッファーとしてのアガロース(0.5%w/v)及びTris-グリシン-SDS(25mM-198mM-0.1%w/v)の水溶液でスラブゲルを浸し、70℃に加熱し、この浸した溶液を通じてスラブゲル上に上記IPGゲルストリップを乗せる工程;
(l)8-12℃で5時間40mAの一定電流で、二次元電気泳動を実施する工程;並びに
(m)ゲルを洗浄する工程;
を含む、タンパク質。
【請求項39】
以下の工程:
a)図3から6又は表7で示すタンパク質から少なくとも一つの候補タンパク質を選択する工程;
b)狭い範囲の固定化pH勾配(IPG)を使用した二次元ゲル電気泳動を介して、組織サンプル中の他のタンパク質から、上記候補タンパク質が分離可能なpH範囲を選択する工程;
c)上記で選択したpH範囲のIPGを使用した二次元ゲル電気泳動によって、生物学的サンプル中の他のタンパク質から、上記候補タンパク質を分離する工程であって、上記サンプルが、アミロイド前駆体タンパク質(APP)及びプレセニリン-1(PS-1)ダブルトランスジェニックマウス並びに野生型マウスから得られたものである工程;
d)トランスジェニックマウス及び野生型マウスから得られたゲルにおけるスポットの強度を比較する工程;
e)強度がゲルの間で異なるスポットを選択する工程;並びに
f)上記スポットにおけるタンパク質を同定する工程;
を含む、アルツハイマー病の患者とアルツハイマー病ではない患者との間で発現のレベルが異なるタンパク質を同定する方法。
【請求項40】
シングルトランスジェニックAPPマウス及び/又はシングルトランスジェニックPS-1マウスに由来するサンプルも比較する、請求項39記載の方法。
【請求項41】
上記生物学的サンプルが脳組織である、請求項39又は40記載の方法。
【請求項42】
上記生物学的サンプルが海馬又は脳半球組織である、請求項41記載の方法。
【請求項43】
上記生物学的サンプルが、血液、血清又は脳脊髄液である、請求項39又は40記載の方法。
【請求項44】
上記工程(f)が、質量分析を使用して上記タンパク質を分析する工程、及び、データベースを検索して上記タンパク質を同定する工程を含む、請求項39から43のいずれか一項記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図9H】
【図9I】
【図9J】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図10G】
【図10H】
【図10I】
【図10J】
【図11A】
【図11B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図9H】
【図9I】
【図9J】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図10G】
【図10H】
【図10I】
【図10J】
【図11A】
【図11B】
【公開番号】特開2012−82218(P2012−82218A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285674(P2011−285674)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【分割の表示】特願2007−528991(P2007−528991)の分割
【原出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(501467371)プロティオーム・サイエンシィズ・ピーエルシー (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【分割の表示】特願2007−528991(P2007−528991)の分割
【原出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(501467371)プロティオーム・サイエンシィズ・ピーエルシー (8)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]