説明

アルツハイマー病の予防および/または治療用ワクチン組成物

【課題】アルツハイマー病の予防および/または治療のためのワクチン組成物を提供すること。
【解決手段】アミロイドβペプチドのN末端部分に由来する5〜15個の連続したアミノ酸配列が、単一もしくは複数個反復して、種子貯蔵タンパクのアミノ酸配列中に挿入されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質を含む、アルツハイマー病を予防および/または治療するためのワクチン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の予防および/または治療のためのワクチン組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、アミロイドβ等の原因物質が脳内に蓄積し、神経細胞の傷害を引き起こすことによる神経変性疾患である。高齢化社会を迎えアルツハイマー病患者数の増加が予想される一方、予防薬や治療薬がほとんどなく、新たな予防薬、治療薬、ワクチン等の開発が望まれている。
アルツハイマー病患者の脳で生じる主要なアミロイドβタンパク質は、アミロイド前駆体タンパク質のγセクレターゼによる切断によって生産されるアミノ酸40〜43個からなり、アミロイド斑(老人斑ともいう)はアミロイドβおよびその周辺のミクログリア、線維型アストログリアならびに異栄養神経突起で構成される凝集体である。現在アルツハイマー病の病態仮説として、アミロイドβの凝集および沈着によるアミロイド斑の形成が原因であるとする「アミロイドカスケード仮説」が最も有力である。この仮説をもとに、アルツハイマー病の新しい治療法としてのワクチン免疫療法が注目されている。このワクチン療法は、脳のアミロイドβを免疫学的手法により除去する方法で、アミロイドβ42をアジュバントと共に疾患モデル-トランスジェニックマウスに筋肉内投与し、脳内のアミロイド沈着の減少を確認したことが報告されている(特許文献1および非特許文献1)。
また、合成したアミロイドβ42がアジュバントと共に筋肉内投与され、被験者の血清中にアミロイドを認識する抗アミロイドβ抗体が検出されているものの、臨床試験において髄膜脳炎の副作用が問題となっている(非特許文献2)。
そのため、副作用のないアルツハイマー病の予防および/または治療のためのワクチン組成物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO 99/27944
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Schenk D. et al, Nature 400:173-177, 1999
【非特許文献2】Hock C. et al., Nat. Med. 8:1270-1275, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新たなアルツハイマー病の予防および/または治療のためのワクチン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、アミロイドβペプチドのN末端部分に由来する5〜15個の連続したアミノ酸配列が、単一もしくは複数個反復して、種子貯蔵タンパクのアミノ酸配列中に挿入されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質(改変型種子貯蔵タンパク質)を含むアルツハイマー病の予防および/または治療に関するワクチン組成物を見出すことに成功し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)アミロイドβペプチドのN末端部分に由来する5〜15個の連続したアミノ酸配列
が、単一もしくは複数個反復して、種子貯蔵タンパクのアミノ酸配列中に挿入されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質を含む、アルツハイマー病を予防および/または治療するためのワクチン組成物。
(2)前記種子貯蔵タンパク質が、ダイズの11SグロブリンのA1aB1bサブユニット、インゲンマメのアルセリン、イネのプロラミンのいずれかであることを特徴とする、(1)に記載のワクチン組成物。
(3)動物に投与した際にアミロイド特異性抗体の産生をもたらす、(1)または(2)のワクチン組成物。
(4)動物に投与した際に脳においてアミロイド斑に関連した可溶性および/または不溶性アミロイドβ1〜42の有意な減少を引き起こす、(1)または(2)のワクチン組成物。
(5)認知記憶能の喪失を特徴とするアルツハイマー病に罹患した動物への投与が認知記憶能の回復をもたらす、(1)または(2)のワクチン組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アルツハイマー病に対する新たなワクチン組成物を提供することが可能となり、アルツハイマー病の予防や治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ワクチン組成物によるマウス血清中の抗アミロイドβ抗体価の測定結果を示す図。
【図2】水路迷路試験による記憶障害改善効果を示す図。
【図3】マウス脳内のアミロイド蓄積量を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
1.アミロイドβ抗原ペプチドおよびそれをコードする遺伝子
本発明におけるアミロイドβ抗原ペプチドとは、天然のアミロイドβペプチド(42アミノ酸残基)のN末端部分に由来する5〜15個、好ましくは5〜10個の連続するアミノ酸残基からなるペプチドが挙げられる。具体的には、N末端から1番目〜15番目のアミノ酸(配列番号1)を含む領域のペプチドを好適に用いることができ、好ましくは1番目〜5番目のアミノ酸(配列番号2)からなるペプチドまたは4番目〜10番目のアミノ酸(配列番号3)からなるペプチドを用いることができ、さらに好ましくは4番目〜10番目のアミノ酸からなるペプチドを用いることができる。
また、これらのペプチドは単一でもよいが、複数個、例えば、2〜15個、好ましくは2〜5個を反復させた一続きの連結ペプチドとしても用いることができる。
アミロイドβ抗原ペプチドの遺伝子をコードする塩基配列は公知(GenBank accession No.AB113349)であるため、この塩基配列情報をもとに、cDNAライブラリーからアミロイドβペプチドをコードするDNAをスクリーニング操作によって単離することができる。また、アミロイドβペプチドをコードするDNAは化学合成により作製することもできる。
【0012】
2.野生型種子貯蔵タンパク質およびそれをコードする遺伝子
本発明における種子貯蔵タンパク質としては、日常の食生活において食経験がある作物種子に由来するタンパク質が挙げられる。例えば、ダイズの11Sグロブリンを構成する各サブユニット、ダイズの7Sグロブリンを構成する各サブユニット、インゲンマメのアルセリン、イネのプロラミン、イネのグロブリン、更には他の作物の種子貯蔵タンパク質が挙げられる。好ましい野生型種子貯蔵タンパク質としては、ダイズの11SグロブリンのA1aB1bサブユニット、7Sグロブリンのαサブユニットもしくはβサブユニット
が挙げられるが、ダイズの11SグロブリンのA1aB1bサブユニットがより好ましい。
本発明において野生型種子貯蔵タンパク質とはAβ抗原ペプチドが挿入される前の種子貯蔵タンパク質を意味し、配列番号5、23もしくは25のアミノ酸配列、又はこのアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性(identity)を有するアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。野生型種子貯蔵タンパク質は、種子貯蔵タンパク質としての機能を維持している限り、配列番号5、23もしくは25のアミノ酸配列において1個又は複数個(好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸の置換、挿入、付加及び/又は欠失が存在するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
ここで、アミノ酸配列の同一性(%)とは、比較する2つのアミノ酸配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させ、得られる最大のアミノ酸配列の同一性(%)をいう。アミノ酸配列の同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の周知の種々の方法を用いて行うことができ、例えばBLAST、BLAST−2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアや、Gene Works 2.5.1ソフトウェア((株)帝人システムテクノロジー)、GENETIX−WIN(ソフトウェア開発(株))等の市販のソフトウェアを使用することもできる。
【0013】
野生型種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子としては、上記のような野生型種子貯蔵タンパク質をコードする配列を有するものであれば特に制限されないが、例えば、配列番号4、22もしくは24の塩基配列を有する遺伝子が例示される。なお、種子貯蔵タンパク質としての機能を有する限り、配列番号4、22もしくは24の相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子であってもよい。ここで、ストリンジェントな条件としては、例えば、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSで洗浄する条件が挙げられる。
【0014】
3.野生型種子貯蔵タンパク質へAβ抗原ペプチドが挿入されたワクチン組成物
本発明のワクチン組成物は、アミロイドβペプチドのN末端部分に由来する5〜15個の連続したアミノ酸配列が、単一もしくは複数個反復して、種子貯蔵タンパクのアミノ酸配列中に挿入されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質(改変型種子貯蔵タンパク質)を含む。
ここで、融合タンパク質は、好ましくは、野生型種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子の可変領域コード部分にアミロイドβ抗原ペプチドをコードする遺伝子をフレームシフトが生じないように挿入することによって得ることができる。
【0015】
ここで、「アミロイドβ抗原ペプチドをコードする遺伝子をフレームシフトが生じないように挿入する」とは、改変型種子貯蔵タンパク質のアミノ酸配列のうち、アミロイドβ抗原ペプチドのアミノ酸配列を除いた配列が、野生型種子貯蔵タンパク質のアミノ酸配列と同一となるように、野生型種子貯蔵タンパク質の可変領域にアミロイドβ抗原ペプチドが挿入されたことをいうが、可変領域をコードする塩基配列を欠損することなくアミロイドβ抗原ペプチドをコードする遺伝子が挿入されたことの他、可変領域をコードする塩基配列の一部がアミロイドβ抗原ペプチドをコードする遺伝子と置換されたことをも含む。
【0016】
本発明において、野生型種子貯蔵タンパク質の可変領域とは、その中に外来遺伝子由来のアミノ酸配列が挿入された場合であっても、野生型種子貯蔵タンパク質と同等の安定した3次元構造を維持することができ、それにより野生型種子貯蔵タンパク質の特性を維持することができる領域をいう。
例えば、種子貯蔵タンパク質が、配列番号5のアミノ酸配列を含むダイズの11SグロブリンのA1aB1bサブユニットである場合には、配列番号5のアミノ酸番号20〜2
8の領域(可変領域I)、アミノ酸番号111〜128の領域(可変領域II)、アミノ酸番号198〜216の領域(可変領域III)、アミノ酸番号268〜315の領域(可変領域IV)、アミノ酸番号490〜495の領域(可変領域V)の5ヶ所が可変領域として知られている。
【0017】
また、野生型種子貯蔵タンパク質が、配列番号5のアミノ酸配列に1個又は複数個のアミノ酸の置換、挿入、付加及び/又は欠失が存在する、配列番号5のアミノ酸配列と一定の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである場合には、配列番号5のアミノ酸番号20〜28に相当する領域、アミノ酸番号111〜128に相当する領域、アミノ酸番号198〜216に相当する領域、アミノ酸番号268〜315に相当する領域、アミノ酸番号490〜495に相当する領域が可変領域となる。
ここで、特定のアミノ酸配列に「相当するアミノ酸配列」とは、最大のアミノ酸配列の同一性(%)が得られるように、比較する2つのアミノ酸配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させたときの、一方の特定の部分アミノ酸配列に対応する他方の部分アミノ酸配列をいい、このようなアミノ酸配列は当業者であれば容易に特定することができる。
【0018】
野生型種子貯蔵タンパク質に複数の可変領域が存在する場合には、1つ又は複数の可変領域にアミロイドβ抗原ペプチドを挿入することで、改変型種子貯蔵タンパク質を調製することができる。
例えば、野生型種子貯蔵タンパク質として、配列番号5のアミノ酸配列を含むダイズの11SグロブリンのA1aB1bサブユニットを用いる場合には、Aβ抗原ペプチドを挿入する好ましい可変領域として、可変領域II、III、IV、Vのいずれかを選択することができるが、IIIまたはIVに挿入することがより好ましい。また、アミロイドβ抗原ペプチドを挿入する可変領域として、可変領域II、III、IV、Vのうち2以上の領域を選択することもでき、例えば、IIIとIVの2つの領域に同時に挿入することや、IIとIIIとIVの3つの領域に同時に挿入することや、IIとIIIとIVとVの4つの領域に同時に挿入すること等もできる。ここで、アミロイドβ抗原ペプチドをコードする遺伝子は、野生型種子貯蔵タンパク質をコードする塩基配列にフレームシフトが生じないように導入する必要がある。
【0019】
また、野生型種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子として、配列番号23のアミノ酸配列を含むインゲンマメのアルセリン5をコードする遺伝子を用いる場合には、可変領域については知られていないため、A1aB1bサブユニットとのDNA配列を比較してディスオーダー領域を確認し、更にアミノ酸配列及び立体構造を他の類似貯蔵タンパクと比較し、配列のギャップ及び構造上の違いを確認することによって、可変領域を推定する必要がある。このような推定により特定される配列番号23のアミノ酸番号149〜150をコードする領域(可変領域A)及び/又はアミノ酸番号250〜251をコードする領域(可変領域B)にアルツハイマー病ワクチンをコードする遺伝子を挿入することが好ましい。
【0020】
また、野生型種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子が、配列番号23のアミノ酸配列に1個又は複数個のアミノ酸の置換、挿入、付加及び/又は欠失が存在する、配列番号23のアミノ酸配列と同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものである場合には、配列番号23のアミノ酸番号149〜150に相当するアミノ酸配列をコードする領域、アミノ酸番号250〜251に相当するアミノ酸配列をコードする領域にアルツハイマー病ワクチンをコードする遺伝子を挿入することが好ましい。
【0021】
さらに、野生型種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子として、配列番号25のアミノ酸配列を含むイネのプロラミンをコードする遺伝子を用いる場合には、立体構造および可変領域については知られていないため、アミノ酸配列を他の類似貯蔵タンパクと比較し、
ギャップ構造を確認することによって、可変領域を推定する必要がある。このような推定により特定される配列番号25のアミノ酸番号110〜111をコードする領域(可変領域a)にアルツハイマー病ワクチンをコードする遺伝子を挿入することが好ましい。
【0022】
また、野生型種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子が、配列番号25のアミノ酸配列に1個又は複数個のアミノ酸の置換、挿入、付加及び/又は欠失が存在する、配列番号25のアミノ酸配列と同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものである場合には、配列番号25のアミノ酸番号110〜111に相当するアミノ酸配列をコードする領域にアルツハイマー病ワクチンをコードする遺伝子を挿入することが好ましい。
【0023】
4.アミロイドβ抗原ペプチドが挿入されたワクチン組成物の製造
本発明のワクチン組成物を製造するための方法に限定はなく、慣用のペプチド合成法によるか、或いは、慣用のペプチド合成法によりあらかじめ、部分的に合成したペプチド同士を結合して、調製することができる。また当該ペプチドは、各メーカーから市販されているペプチドシンセサイザーを用いて装置のプロトコールに従って合成することができる。
【0024】
また、本発明の融合タンパク質は、組換えDNA技術により調製することができる。例えば、PCRや制限酵素などを用いて設計した融合タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNAを調製し、これを宿主において機能するプロモーターを含み、自律増殖可能なベクターに挿入し、それを大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母などの微生物、動植物やそれらの細胞又は組織等の宿主に導入して形質転換体としたり、トランスジェニック動植物を作製して、それらを培養、育成した後、本発明の融合タンパク質を適宜の方法により、採取・精製することができる。
【0025】
また、本発明の融合タンパク質は、組換え植物により製造することができる。植物種としては、例えば、キク科(Asteraceae)、アブラナ科(Brassicaceae)、ウリ科(Cucurbitaceae)、セリ科(Apiaceae)、バラ科(Rosaceae)、ブドウ科(Vitaceae)、ツツジ科(Vaccinium)、パパイヤ科(Caricaceae)、マメ科(Fabaceae)、クルミ科(Juglandaceae)、アカザ科(Chenopodiaceae)、又はナス科(Solanaceae)、ヒルガオ科(Convolvulaceae)、イネ科(Poaceae)、又はヤモノイモ科(Dioscoreaceae)、又はヒルガオ科(Convolvulaceae)などに属する植物種、より詳細には、レタス、チコリ、ヨモギ、ブロッコリ、キャベツ、ダイコン、ワサビ、カラシ、キュウリ、メロン、カボチャ、ハヤトウリ、ニンジン、ミツバ、セロリ、リンゴ、プラム、ウメ、モモ、イチゴ、ラズベリー、アーモンド、ナシ、ビワ、ブドウ、クランベリー、コケモモ、ブルーベリー、パパイヤ、アルファルファ、ダイズ、クルミ、ホウレンソウ、トマト、トウガラシ、サツマイモ、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ライムギ、ヤマノイモ、ジャガイモなどが挙げられる。
【0026】
上記宿主への改変型種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子の導入は、すでに報告され、確立されている種々の方法により行うことができるが、アグロバクテリウム法、PEG法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ウイスカー超音波法などを用いて遺伝子導入用ベクターを導入することが好ましい。
特に、組換え植物によって製造する場合は、本発明の融合タンパク質を発現させた植物体、例えば種子、茎葉、果実、塊茎等をそのまま加工して、本発明の融合タンパク質を含有する経口摂取用の組成物として使用することも随意である。
【0027】
5.ワクチン組成物の動物への投与方法
上記により製造された当該ワクチン組成物を動物個体に投与することにより、アミロイドβに対する免疫反応が誘導され、それによってアミロイドβ沈着を低下させることがで
きる。
本発明のワクチン組成物は、皮下、経口、筋内、非経口又は腸内経路などの従来の経路のいかなるものによっても投与することができる。例えば、経口摂取や、皮下、皮内、筋肉内、血管内、腹腔内や胸腔内などの体腔内への注射器、カテーテル、点滴などによる投与方法を使用することができる。
【0028】
本発明のワクチン組成物を投与する動物としては、例えば、ヒトを含む哺乳動物及びその他の脊椎動物等が挙げられる。
【0029】
本発明のワクチン組成物を投与する際に、ワクチンの処方に通常用いられるアジュバント(免疫原に対する免疫応答を増強できる物質または物質の組成物のこと)を配合することができ、アジュバントとしては、例えば、コレラトキシンBやサポニン系などが挙げられる。
【0030】
ワクチン組成物の投与量は、投与動物の年齢、性別、体重、症状、投与経路等の条件に応じて適宜設定することができるが、一般的には、アミロイドβペプチドの投与量に換算して一日あたり0.1〜3000μg/kg体重の範囲であり、好ましくは1〜1000μg/kg体重の範囲である。上記投与量は、数日間隔で投与してもよいし、数週間〜数ヶ月間隔、例えば1〜12週間隔で投与しても良い。また、投与回数は、数回から数十回が適当であるが、特に限定されるものではない。
本発明の方法により、アミロイドβに対する免疫反応が誘導される。アミロイドβに対する免疫反応は、抗アミロイドβ抗体の産生、脳組織内のアミロイドβ量の減少およびアミロイドβ沈着の減少などにより確認することができる。
【0031】
抗アミロイドβ抗体の産生は、血中の抗アミロイドβ抗体の検出によって調べることができ、抗体レベルは、例えばELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)法により測定することができる。ELISA法は、例えばマイクロプレートに抗原を吸着させ、抗血清を調製し、調製した抗血清を2倍段階希釈(開始溶液1:1000)し、希釈した抗血清をプレートに加え抗原抗体反応を行わせることによって行なう。そして発色のために、免疫動物の抗体をペルオキシダーゼ酵素標識した異種抗体と反応させ、二次抗体とする。吸光度が最大発色吸光度の1/2である場合、抗体の希釈倍率に基づいて、抗体価を算出することができる。
【0032】
脳組織におけるアミロイドβレベルは、例えば脳組織の抽出物およびBiosource ELISA kitなどを用いて測定することができる。
【0033】
アミロイドβ沈着(アミロイド斑)の減少効果は、例えば次の方法によって測定することができる。脳組織切片を70%ギ酸で処理し、5%H2O2で内因性のペルオキシダーゼを失活させた後、抗Aβ抗体と切片を反応させ、ペルオキシダーゼ標識二次抗体を用いてDAB染色を行う。染色後、顕微鏡での観察によりAβ蓄積部分の面積を測定することができる。本発明のワクチン組成物を投与しない場合に比べ、蓄積部分の面積の割合が減少すれば、アミロイドβ沈着レベルが減少したと判断できる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
なお、以下の実施例で行われる実験操作の手順は、特に記述しない限り、「Molecular Cloning」 第2版 (J. Sambrookら、Cold Spring Habor Laboratory press, 1989年発行)に記載される方法に従っている。
【0036】
実施例1 アミロイドβ抗原ペプチドを挿入した改変型ダイズタンパク質の発現プラスミドの構築 (Aβ1−15抗原ペプチド)
βアミロイド抗原決定基として知られる配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド(以下Aβ15と略す)を含む改変型A1aB1bをコードする遺伝子をダイズ種子中で発現させるための発現プラスミドを構築した。
Aβ15をコードする塩基配列をリジン残基を2個間に挟んでタンデムに2つ連結したオリゴヌクレオチド(センス鎖、配列番号6)及びその相補配列からなるオリゴヌクレオチド(アンチセンス鎖、配列番号7)を、株式会社ファスマックのカスタムDNA受託合成サービスを利用して合成した(センス鎖をAB15F、アンチセンス鎖をAB15Rと呼ぶ)。AB15FおよびAB15Rの各100pmolを、それぞれ最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行い、反応後の各反応液を混合し、94℃で10分間加熱後、一時間かけて37℃まで徐々に冷却しアニーリングを行った。こうしてリジン残基を2個間に挟んでAβ15が2つ連なったペプチド(Aβ15×2)をコードする二本鎖DNA断片を得た。
公知のA1aB1b遺伝子(GenBank accession No.AB113349)のcDNAがpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)のSmaIサイトにクローニングされているプラスミドpBSK−A1aB1bを鋳型として、ベクター部分を含み、A1aB1bをコードする遺伝子の特定の可変領域が5’末端及び3’末端となるようにPCRを用いて増幅し、得られたDNA断片と、Aβ15×2をコードする前記二本鎖DNA断片とを連結して改変型A1aB1bをコードする遺伝子を含むプラスミドを作製した。具体的な方法を以下に示す。
配列番号4のA1aB1bをコードする遺伝子の可変領域IIIに挿入するための、配列番号8及び9のプライマーペアからなるプライマーセット(PS−2のプライマーセット)を調製した。
上記プライマーセットを用いてAβ15×2をコードするDNAが挿入される、配列番号4の塩基配列領域を、PS−2領域と呼ぶ。
pBSK−A1aB1bの10ngを鋳型としてPCRを行った。PCRは、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒及び伸長反応を68℃で5分を1サイクルとして25サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。以降PCRはプライマーを除き、特に記述がない限り同組成を用いて行った。
こうして得られたDNA断片の50fmolと上記のAβ15×2をコードする二本鎖DNA断片の150fmolとを、DNAライゲーションキット(タカラバイオ社製)を用いて、16℃で40分間連結反応を行った。反応産物を大腸菌DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に形質転換し、複数の形質転換大腸菌を得た。得られた大腸菌より、プラスミドDNAを抽出精製し、株式会社ファスマックのDNAシーケンシングサービスを用いて改変型A1aB1bをコードする遺伝子(以降A1aB1bMK1と称する)について塩基配列の確認を行った。
【0037】
実施例2 アミロイドβ抗原ペプチドを挿入した改変型ダイズタンパク質の発現プラスミドの構築(Aβ4−10抗原ペプチド)
βアミロイド抗原決定基として知られる配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド(以下Aβ7と略す)を含む改変型A1aB1bをコードする遺伝子をダイズ種子中で発現させるための発現プラスミドを構築した。
Aβ7をコードする塩基配列をタンデムに3つ連結したオリゴヌクレオチド(センス鎖、配列番号10)及びその相補配列からなるオリゴヌクレオチド(アンチセンス鎖、配列番号11)を、株式会社ファスマックのカスタムDNA受託合成サービスを利用して合成した(センス鎖を410F、アンチセンス鎖を410Rと呼ぶ)。以降、特に記述がない限りオリゴヌクレオチドは、同社のカスタムDNA受託合成サービスを利用して合成した。410Fおよび410Rの各100pmolを、それぞれ最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行い、反応後の各反応液を混合し、94℃で10分間加熱後、一時間かけて37℃まで徐々に冷却しアニーリングを行った。こうしてAβ7が3つ連なったペプチド(Aβ7×3)をコードする二本鎖DNA断片を得た。
公知のA1aB1b遺伝子(GenBank accession No.AB113349)のcDNAがpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)のSmaIサイトにクローニングされているプラスミドpBSK−A1aB1bを鋳型として、ベクター部分を含み、A1aB1bをコードする遺伝子の特定の可変領域が5’末端及び3’末端となるようにPCRを用いて増幅し、得られたDNA断片と、(Aβ7×3)をコードする前記二本鎖DNA断片とを連結して改変型A1aB1bをコードする遺伝子を含むプラスミドを作製した。具体的な方法を以下に示す。
配列番号4のA1aB1bをコードする遺伝子の可変領域II、IIIおよびIVに挿入するための、プライマーセット(PS−1、配列番号12、13)、プライマーセット(PS−2、配列番号8、9)、プライマーセット(PS−3、配列番号14、15)の計3つのプライマーセットを調製した。
pBSK−A1aB1bの10ngを鋳型としてPCRを行った。PCRは、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒及び伸長反応を68℃で5分を1サイクルとして25サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。
こうして得られた各DNA断片の50fmolと上記の(Aβ7×3)をコードする二本鎖DNA断片の150fmolとを、DNAライゲーションキット(タカラバイオ社製)を用いて、16℃で40分間連結反応を行った。このように作製された改変型A1aB1b(以降A1aB1bM1と称する)をコードする遺伝子について塩基配列の確認を行った。
【0038】
実施例3 大腸菌による改変型ダイズタンパク質の生産
上記で作製されたA1aB1bMK1およびA1aB1bM1を大腸菌中で発現させ、それぞれのタンパク質を生産するための発現プラスミドを構築した。
A1aB1bMK1およびA1aB1bM1遺伝子のDNA断片をリン酸化反応後、あらかじめNcoIおよびXhoIで切断後、T4DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)で平滑末端化した後、CIAP(タカラバイオ社製)で脱リン酸化反応を行った市販の大腸菌発現ベクターpET-21dベクター(NOVAGEN社製)と連結反応を行った。得られたクローンの塩基配列を解析することによって、A1aB1bMK1およびA1aB1bM1遺伝子が順方向で連結したクローンを選択した。
こうして、A1aB1bMK1およびA1aB1bM1をコードする遺伝子の下流に6×Hisタグが連結した大腸菌発現ベクターpETA1aB1bMK1およびpETA1aB1bM1を構築した。
上記の方法により作製したpETA1aB1bMK1およびpETA1aB1bM1を形質転換した市販の大腸菌AD494系統(NOVAGEN社製)を抗生物質として15mg/lのカナマイシン、50mg/lのカルベニシリンを添加した公知のLB培地で37℃、120rpmで18時間前培養を行った。前培養を行った菌液を、新たに作製した抗生物質として15mg/lのカナマイシン、50mg/lのカルベニシリンを添加し、NaCl濃度を1Mに改変した改変LB培地に、5%(容量/容量)添加し37℃、120rpmで2時間培養を行った後、IPTGを最終1mMの濃度で添加し、20℃、50rpmの条件で、培養を継続した。
培養後、遠心分離により菌体を回収した結果、6Lの培養液より約10gの菌体が回収された。
得られた菌体は、市販のBugBuster Protein Extraction Reagent(NOVAGEN社製)により可溶性タンパク質画分の抽出を行った。抽出後のタンパク質は、市販のHisBind Purification Kits(NOVAGEN社製)により、精製を行った。精製後のタンパク質は、50mMTris-HCl(pH8.0)、300mM NaCl、緩衝液で、一昼夜透析を行い脱塩した。
こうして改変型タンパク質をpETA1aB1bMK1を96mgおよびpETA1aB1bM1を60mgを得ることができた。
【0039】
実施例4 組換えダイズによる改変型ダイズタンパク質の生産
A1aB1bMK1をコードする遺伝子を種子特異的に発現させるため、上記で得られたA1aB1bMK1をコードする遺伝子、公知のダイズのプロモーターGy1PおよびターミネーターGy1Tを公知のpUHGベクター(Y. Kita,K. Nishizawa,M Takahashi, M. Kitayama, M. Ishimoto. (2007)Genetic improvement of somatic
embryogenesis and regeneration in soybean and transformation of the improved breeding lines. Plant Cell Reports 26:439−447)に連結し、発現プラスミドの構築を行った。
上記のうちA1aB1bMK1(配列番号17)をコードするDNA断片を得るため、配列番号18及び19のオリゴヌクレオチド対からなるプライマーセットを用いてPCRを行った。PCRは、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒及び伸長反応を68℃で2分を1サイクルとして25サイクル行った。こうして、A1aB1bMK1遺伝子のDNA断片を得た。A1aB1bMK1遺伝子のDNA断片、プロモーターDNA断片、ターミネーターDNA断片はリン酸化反応後、あらかじめSmaIで切断後CIAP(タカラバイオ社製)で脱リン酸化反応を行ったpUHGベクターと連結反応を行った。得られたクローンからGy1Pプロモーター、A1aB1bMK1をコードする遺伝子、Gy1Tターミネーターの順に正しく連結されたクローンを、塩基配列を解析することによって選択した。こうして、A1aB1bMK1をコードする遺伝子が種子特異的に発現する植物形質転換ベクターpUHGA1aB1bMK1を構築した。
【0040】
また、同様にしてGy1Pプロモーター、A1aB1bM1をコードする遺伝子、Gy1Tターミネーターの順に正しく連結されたA1aB1bM1(配列番号21)をコードする遺伝子を種子特異的に発現させるための植物形質転換ベクターpUHGA1aB1bM1を構築した。
【0041】
これらの植物形質転換ベクターは、公知の方法によってダイズ細胞に遺伝子導入を行い、A1aB1bMK1およびA1aB1bM1タンパク質が発現し、種子中に蓄積している形質転換種子を多数得ることができた。種子中のA1aB1bMK1およびA1aB1bM1タンパク質の蓄積は公知のアミロドβ抗体を用いたウエスタンブロット法による検出法で確認した。
【0042】
A1aB1bM1タンパク質の精製方法
上記実施例4において作製した、A1aB1bM1タンパク質を蓄積する形質転換種子10粒を(1.92g)ミルによって粉砕した。粉砕物の10倍容量のヘキサンと粉砕種子を混合し、室温で1時間振とう攪拌を行い脱脂した。15000rpm、室温、30分の遠心分離によりヘキサンを除いた後、種子粉砕物を室温で風乾した。風乾後の重量は1.8gであった。0.4M NaCl、35mM リン酸ナトリウム(pH7.6) 、10mM 2−メルカプトエタノール、1%プロテアーゼインヒビターカクテル(Protease Inhibitor Cocktail for plant cell
and tissue extracts,DMSO solution 、SIGMA社製)からなるタンパク質抽出バッファー20mlと脱脂種子粉砕物を混合し、室温で1時間振とう攪拌を行い種子タンパク質の抽出を
行った。15000rpm、室温、30分の遠心分離により上清16mlの回収を行い、RC
DCプロテインアッセイキットII(BioRad社製)によりタンパク質濃度を測定した。その結果、濃度は16.8mg/mlであり、269mgの種子タンパク質が抽出された。この種子タンパク質溶液を、ゲル濾過クロマトグラフィーに供試した。条件は以下のとおりである。カラム:Sephacryl S-300 26mmID×60cm(GEヘルスケア社製)、流速:2ml/min、緩衝液:0.4M NaCl、35 mM リン酸ナトリウム(pH7.6)、0.02% アジ化ナトリウム、10mM 2−メルカプトエタノール、フラクション回収:3min/fra 。各フラクションを実施例4と同様にウエスタンブロット法に供試し、A1aB1bM1画分の同定を行った。こうして、濃度1mg/mlのA1aB1bM1精製タンパク質溶液48mlを回収した。回収されたA1aB1bM1タンパク質を、上記実施例3で精製した大腸菌生産A1aB1bM1タンパク質を標品として用いたウエスタンブロット法による分析の結果、純度は100%であった。
【0043】
実施例5 ワクチン組成物によるマウス血清中の抗アミロイドβ抗体価の測定
市販の2ヶ月齢マウス(BALB/c)各試験区5匹を用い、実施例3で得られたA1aB1bMK1およびA1aB1bM1を50μg/匹/回の投与量で1週間おきに5回皮下注射した。アジュバントとして、AbISCO-100(ISCONOVA社製)を12μg/匹/回を用いた。投与開始から10週後にマウスから血液を採取し、血清中の抗Aβ42抗体量を測定した。Aβ1−42合成ペプチド((株)ペプチド研究所社製)(5μg/mL)100μlを、ELISA用96ウェルプレート(greiner社製)の各ウェルに吸着させ、Blocker Casein in PBS(Thermo SCIENTIFIC社製)でブロッキングした後、マウス血清を加え、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(Thermo SCIENTIFIC社製)で検出した。検出試薬として1-step Ultra TMB-ELISA(Thermo SCIENTIFIC社製)を用いた。抗体価の評価は、RAINBOW sunriseマイクロプレートリーダー(TECAN社製)での吸光度測定(O.D.450)により行った。
結果を図1に示す。コントロール群(A1aB1b(野生型種子貯蔵タンパク質)投与群)と比較し、治療群の全個体において吸光度が高く抗体価の顕著な増加が観察された。
【0044】
実施例6 ワクチン組成物の経口投与による行動試験
本実施例で実施する行動試験では、公知のモーリス水迷路試験を行った。2ヶ月齢のAPPトランスジェニックマウスTgCRND8 ( Early-onset amyloid deposition and cognitive deficits in transgenic mice expressing a double mutant form of amyloid precursor protein 695.(2001) Chishti MA, Yang DS, Janus C, Phinney AL, Horne P, Pearson J, Strome R, Zuker N, Loukides J, French J, Turner S, Lozza G, Grilli M, Kunicki S, Morissette C, Paquette J, Gervais F, Bergeron C, Fraser PE, Carlson GA, George-Hyslop PS, Westaway D., THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY 276(24):21562-70) を用い、本発明のワクチン組成物A1aB1bM1の認知機能回復効果について検討した。マウスを8匹ずつ2群に分け、予備訓練の後、1群をA1aB1bM1投与群とし、もう1群はアミロイドβ抗原を含まないA1aB1bコントロール群とした。投与群には、A1aB1bM1を0.5mg/匹/回の投与量で毎週1回で計16回(4ヶ月間)経口投与した。A1aB1bコントロール群も同様に行なった。
試験は円形のプール(直径150cm、深さ45cm)の底に、水中に隠れるように円形のプラットホームを置き、マウスにプラットホームの位置を記憶させた後、投与群、コントロール群および非投与群のマウスを1ヶ月毎に1回/日で5日連続の遊泳試験を行った。この試験では、遊泳開始後プラットホームに到達するまでの遊泳時間を測定した。
結果を図2に示す。A1aB1bM1投与群ではコントロール群に比べプラットフォーム到達までの時間において有意な改善が認められ、疾患マウスの学習障害を改善することが明らかとなった。
【0045】
実施例7 脳アミロイドへの影響
上記A1aB1bM1もしくはA1aB1bを経口投与したトランスジェニックマウス
または非投与トランスジェニックマウスを、投与後4ヶ月で解剖し、前頭葉皮質、頭頂葉、および海馬の皮質を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンワックスに包埋して脳組織切片を調製した。上記組織を用いてアミロイドβタンパク質またはアミロイド斑を検出するために、組織切片を70%ギ酸で処理し、5% H2O2で内因性のペルオキシダーゼを失活させた。次いで組織切片をラビット抗pan-Aβ抗体(1000倍希釈)と反応させ、ペルオキシダーゼ標識二次抗体を加え、DAB染色を行った。染色した切片を、顕微鏡に連結させた3CCDカメラを用いて観察し、各領域におけるアミロイドβ蓄積部分の面積を測定し、面積率(指数)を計算した。
アミロイドβ沈着指数を図3に示す。A1aB1bM1投与により、アミロイド斑がコントロール(A1aB1b投与群)に比べ有意に減少したことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイドβペプチドのN末端部分に由来する5〜15個の連続したアミノ酸配列が、単一もしくは複数個反復して、種子貯蔵タンパクのアミノ酸配列中に挿入されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質を含む、アルツハイマー病を予防および/または治療するためのワクチン組成物。
【請求項2】
前記種子貯蔵タンパク質が、ダイズの11SグロブリンのA1aB1bサブユニット、インゲンマメのアルセリン、イネのプロラミンのいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
動物に投与した際にアミロイド特異性抗体の産生をもたらす、請求項1または2記載のワクチン組成物。
【請求項4】
動物に投与した際に脳においてアミロイド斑に関連した可溶性および/または不溶性アミロイドβ1〜42の有意な減少を引き起こす、請求項1または2記載のワクチン組成物。
【請求項5】
認知記憶能の喪失を特徴とするアルツハイマー病に罹患した動物への投与が認知記憶能の回復をもたらす、請求項1または2記載のワクチン組成物。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−112668(P2013−112668A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262159(P2011−262159)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、植物機能を活用した高度モノづくり基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】