説明

アルツハイマー病の予防及び治療薬並びにアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法

【課題】脳内のAβの分解効率を飛躍的に向上させアルツハイマー病の発症及び進行を顕著に抑制し得るアルツハイマー病の予防及び治療薬を提供する。
【解決手段】リポプロテインリパーゼを有効成分とする、アルツハイマー病の予防及び治療薬である。本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬は、脳内に投与されることにより、LPLが脳内のミクログリアやアストロサイト等の細胞内へのAβの取り込みを促進し、取り込まれたAβは細胞内で速やかに分解されるので、脳内のAβの分解効率を飛躍的に向上させ、脳内でのAβの蓄積を顕著に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の予防及び治療薬並びにアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、認知機能低下、人格の変化を主な症状とする認知症をきたす神経変性疾患である。アルツハイマー病の主要な病理変化には老人斑と神経原線維変化があるが、老人斑は発症の早期から認められ、その主要構成成分はアミロイドβ蛋白質(Aβ:Amyloid β)である。Aβはアミノ酸が連なったペプチドであり、比較的疾患特異性は高いが、正常脳でも認められる。Aβは細胞外に蓄積し老人斑を形成するとともに、神経細胞内においても蓄積が認められる場合がある。従来は蓄積したAβに神経毒性があると考えられてきたが、近年の研究からAβの重合体がシナプスや神経細胞に対して毒性を発揮し、神経細胞を変性させて最終的には神経細胞の脱落を惹起するものと考えられている。
【0003】
現在、アルツハイマー病の治療法としては、Aβ前駆体タンパク質(APP:Amyloid β Protein Precursor)が切断されてAβが産生される際にAPPの切断を行うプロテアーゼであるβ−セクレターゼやγ−セクレターゼを阻害する薬剤を投与することにより脳内のAβ産生を抑制する方法や、Aβに対する抗体を投与もしくはAβで免疫することによりAβに対する抗体の産生を促し脳内Aβの除去を促進する方法等が知られている。
【0004】
一方、リポプロテインリパーゼ(LPL:Lipoprotein Lipase)は、リポタンパク質に含まれるトリグリセリドを脂肪酸とモノグリセリドに加水分解する酵素であり、脂肪組織等で合成及び分泌され、毛細血管の血管内皮細胞表面(脂肪細胞外)に存在することが知られている。また、LPLは、細胞表面のヘパラン硫酸プロテオグリカンやコンドロイチン硫酸プロテオグリカンと相互作用し、これらとリポタンパク質とを橋渡しすることにより、リポタンパク質の細胞内への取り込みを促進する作用を有することも知られている。近年、このLPLが、アルツハイマー病の脳において老人斑に共局在していることが確認されている(例えば、非特許文献1又は2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Baum、et al.、American Journal of Medical Genetics(Neuropsychiatric Genetics)、88、136−139(1999)
【非特許文献2】Baum、et al.、Microscopy Research and Tecnique、50、291−296(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、脳内の主なリポタンパク質画分は高比重リポタンパク(HDL:High Density Lipoprotein)でありトリグリセリドを含まないので、脳内にはLPLの基質が存在せず、また、活性化因子であるアポリポタンパク質C−IIも脳内には存在しない。従って、脳内ではLPLが酵素活性を発揮する場はないと考えられ、現在のところ、脳内におけるLPLの働きについては殆ど解明されていない。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、脳内のAβの脳内細胞への取り込みを活性化し、Aβの分解効率を飛躍的に向上させ、脳内でのAβの蓄積を抑えてアルツハイマー病の発症及び進行を顕著に抑制し得るアルツハイマー病の予防及び治療薬を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、被験物質のアルツハイマー病の予防及び治療に対する有効性を簡便かつ高精度に評価することのできるアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0010】
(1)すなわち、本発明は、リポプロテインリパーゼを有効成分とする、アルツハイマー病の予防及び治療薬である。
【0011】
(2)本発明はまた、脳内投与用である、(1)に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬である。
【0012】
(3)また、本発明は、脳内のリポプロテインリパーゼ量を指標とする、アルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法である。
【0013】
(4)本発明はまた、動物に被験物質を投与するステップと、前記動物の脳内のリポプロテインリパーゼ量を測定するステップと、を有することを特徴とする、(3)に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法である。
【0014】
(5)本発明はまた、前記動物は、哺乳類である、(4)に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法である。
【0015】
(6)本発明はまた、リポプロテインリパーゼ発現量を指標とする、アルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法である。
【0016】
(7)本発明はまた、リポプロテインリパーゼ発現細胞に被験物質を添加するステップと、前記リポプロテインリパーゼ発現細胞のリポプロテインリパーゼ発現量を測定するステップと、を有することを特徴とする、(6)に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法である。
【0017】
(8)本発明はまた、前記リポプロテインリパーゼ発現細胞は、線維芽細胞由来のもの、胎盤由来細胞由来のもの、脂肪細胞由来のもの、骨格筋由来のもの、アストロサイト由来のもの、グリア細胞由来のもの、神経細胞由来のもの、神経系細胞、心筋細胞、血液系細胞若しくは脂肪細胞に分化するもの、乳腺ガン細胞に由来するもの、マクロファージ細胞由来のもの、ミクログリア細胞由来のもの、卵巣由来のもの又は肝細胞由来のものである、(7)に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬は、LPLを有効成分とするので、脳内に投与されることにより、LPLが脳内のミクログリアやアストロサイト等の細胞内へのAβの取り込みを顕著に促進し、取り込まれたAβは細胞内で速やかに分解されるので、脳内のAβの分解効率を飛躍的に向上させることができ、脳内でのAβの蓄積を抑えてアルツハイマー病の発症及び進行を顕著に抑制することができる。
【0019】
また、本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法は、脳内のLPL量を指標とするので、動物に被験物質を投与して当該動物の脳内LPL量を測定することにより、被験物質のアルツハイマー病の予防及び治療に対する有効性を簡便かつ高精度に評価することができる。
【0020】
また、本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法によれば、LPL発現量を指標とするので、LPL発現細胞に被験物質を添加して当該LPL発現細胞のLPL発現量を測定することにより、被験物質のアルツハイマー病の予防及び治療に対する有効性を簡便かつ高精度に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ウェスタンブロット法を用いたマウス初代培養アストロサイトによるAβの取り込み状態を示す図である。
【図2】ウェスタンブロット法によるマウス初代培養アストロサイトとAβとの結合状態を示す図である。
【図3】免疫沈降法によるLPLとAβとの結合状態を示す図である。
【図4】ウェスタンブロット法を用いたマウス初代培養アストロサイトによって取り込まれたAβの分解状態を示す図である。
【図5】LPLとp−ニトロフェニル酢酸塩を反応させ、吸光度(450nm)を測定した結果を示す図である。
【図6】培養した3T3−L1細胞をリン酸緩衝生理食塩水中又はヘパリン含有リン酸緩衝生理食塩水中でインキュベートし、その上清にp−ニトロフェニル酢酸塩を加え、吸光度(450nm)を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬は、リポプロテインリパーゼ(LPL)を有効成分とするものである。
【0024】
本発明で利用可能なLPLとしては、ウシ、ヒト、マウス、モルモット等の哺乳類の組織や分泌物から精製されたものや、これらの哺乳類のLPLをコードする遺伝子から既知の遺伝子組み換え技術により製造したもの等が挙げられる。なお、上記哺乳類においては、アルツハイマー病患者やアルツハイマー病病態モデル動物等も含まれる。
【0025】
本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬は、LPLに、必要に応じて蒸留水、pH調整剤、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、抗酸化剤、保存剤等を添加することにより、液状製剤として製造することができる。pH調整剤としては、塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられ、懸濁化剤としては、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられ、溶解補助剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられ、安定化剤としては、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム、エーテル等が挙げられ、等張剤としては、塩化ナトリウム、ぶどう糖等が挙げられ、保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等が挙げられる。
【0026】
本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬は、患者の脳内に局所投与して利用される。本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬の投与量は、患者、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性差、薬剤に対する感受性差等により著しく異なり、正確な投与量は医師の診断により決定されるものであるが、通常、成人に対し1日あたり、LPLの投与量換算で、0.001〜1000mgを、1日1回又は数回に分けて投与する。
【0027】
本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬の作用機序は必ずしも明らかではないが、有効成分であるLPLが脳内に投与されると、LPLとヘパラン硫酸プロテオグリカンやコンドロイチン硫酸プロテオグリカン等のプロテオグリカンとの相互作用により、脳内に存在するAβが、脳内のミクログリアやアストロサイト等の細胞内に積極的に取り込まれるものと考えられる。一度ミクログリアやアストロサイト等の細胞内にAβが取り込まれるとAβは速やかに分解されるので、結果としてLPLの投与により脳内Aβの分解効率が飛躍的に向上し、脳内でのAβの蓄積を抑制することにより、アルツハイマー病の発症及び進行を顕著に抑制することができるものである。
【0028】
また、本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法は、脳内のLPL量を指標とするものである。即ち、本発明のスクリーニング方法は、動物に被験物質を投与し、当該動物の脳内LPL量を測定することにより、被験物質のアルツハイマー病の予防及び治療に対する有効性を評価するものである。上述のとおり、脳内LPL量が増加するとAβの脳内細胞への取り込みが活性化され脳内Aβの分解効率が向上するので、被験物質の投与による脳内LPL量の変化を観測することにより、被験物質によるアルツハイマー病の予防及び治療効果を簡便かつ高精度に予測することができる。本発明のスクリーニング方法で利用することのできる動物としては、トガリネズミ科、モグラ科、ソレノドン科、ニシインドトガリネズミ科等のトガリネズミ目、ハリネズミ科等のハリネズミ目、オオコウモリ科、オナガコウモリ科、サシオコウモリ科、ブタバナコウモリ科、ミゾコウモリ科、アラコウモリ科、キクガシラコウモリ科、カグラコウモリ科、ウオクイコウモリ科、クチビルコウモリ科、チスイコウモリ科、ヘラコウモリ科、アシナガコウモリ科、ツメナシコウモリ科、スイツキコウモリ科、サラモチコウモリ科、ヒナコウモリ科、ツギホコウモリ科、オヒキコウモリ科等のコウモリ目(翼手目)、コビトキツネザル科、イタチキツネザル科、キツネザル科、インドリ科、アイアイ科、ロリス科、ガラゴ科、メガネザル科、オマキザル科、マーモセット科、オナガザル科、テナガザル科、オランウータン科、ヒト科等のサル目(霊長目)、ウサギ科、ナキウサギ科等のウサギ目(兎目、重歯目)、リス科、グンディ科、ヤマネ科、メクラネズミ科、ヨルマウス科、アシナガマウス科、キヌゲネズミ科、ネズミ科、トビネズミ科、ビーバー科、ウロコオリス科、トビウサギ科、ヤマアラシ科、アメリカヤマアラシ科(キノボリヤマアラシ科)、ヨシネズミ科、デバネズミ上科、デバネズミ科、デグー科、アメリカトビネズミ科、カプロミス科、ヌートリア科、アグーチ科(パカ科)、パカラナ科、テンジクネズミ科、カピバラ科、チンチラ科、チンチラネズミ科等のネズミ目(齧歯目)、ネコ科、マングース科、ジャコウネコ科、ハイエナ科、キノボリジャコウネコ科、イヌ科、レッサーパンダ科、アライグマ科、イタチ科、スカンク科、クマ科、アザラシ科、アシカ科等のネコ目(食肉目)、サイ科、ウマ科、バク科等のウマ目(奇蹄目)、ラクダ科、イノシシ科、ペッカリー科、マメジカ科、ジャコウジカ科、シカ科、キリン科、プロングホーン科、ウシ科、カバ科、マッコウクジラ科、コマッコウ科、アカボウクジラ科、インドカワイルカ科、ヨウスコウカワイルカ科、アマゾンカワイルカ科、ラプラタカワイルカ科、マイルカ科、ネズミイルカ科、イッカク科、セミクジラ科、コセミクジラ科、コククジラ科、ナガスクジラ科等のクジラ偶蹄目(鯨偶蹄目)、ジュゴン科、マナティー科等のジュゴン目(海牛目)等の哺乳類等が挙げられる。
【0029】
また、本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法は、LPL発現量を指標とするものである。即ち、本発明のスクリーニング方法は、LPL発現細胞に被験物質を添加し、当該細胞のLPL発現量を測定することにより、被験物質のアルツハイマー病の予防及び治療に対する有効性を評価するものである。被験物質がLPL発現細胞を活性化しLPL発現を促進すれば、結果として脳内LPL量が増加することが予測されるので、被験物質の投与によるLPL発現細胞のLPL発現量の変化を観測することにより、被験物質によるアルツハイマー病の予防及び治療効果を簡便かつ高精度に予測することができる。本発明のスクリーニング方法で利用することのできるLPL発現細胞としては、3T3−L1細胞等の線維芽細胞由来のもの、HuG1−PI、BeWo、PL502細胞等の胎盤由来細胞由来のもの、RGB3T3−1、MC3T3−G2/PA6細胞等の脂肪細胞由来のもの、TIG−2M−30、L6細胞等の骨格筋由来のもの、U−251 MG、AP−16、KT−5、RNB、C6細胞等のアストロサイト由来のもの、A−172細胞等のグリア細胞由来のもの、Neuro2A、GOTO、PC12細胞等の神経細胞由来のもの、Hu5/E18、H−1、P19.CL6細胞等の神経系細胞、心筋細胞、血液系細胞、脂肪細胞等に分化するもの、BALB−MC、MCF7、FM3A細胞等の乳腺ガン細胞に由来するもの、J774.1細胞等のマクロファージ細胞由来のもの、MG5、MG6細胞等のミクログリア細胞由来のもの、CHO、OVMIU細胞等の卵巣由来のもの、Hep G2、JHH−1細胞等の肝細胞由来のもの等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬並びにアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
[参考例1]
【0032】
クリーンベンチ内で、生後1、2日齢のc57BL/6 Cr Slcマウス(SLC)から脳を取り出し、氷冷したハンクス平衡塩(HBSS、GIBCO(登録商標))の中に入れ、小脳、間脳、脳幹、硬膜等を取り除いて大脳皮質を得た。次に、得られた大脳皮質をハンクス平衡塩5ml/DNA分解酵素(ロシュ)500μl及びトリプシン(GIBCO(登録商標))150μlの中に移してピペッティングを行い、37℃で5分静置後に上清を除去して沈殿物を得た。次に、得られた沈殿物にダルベッコ変法イーグル培地5ml/10%ウシ胎児血清(GIBCO(登録商標))及びDNA分解酵素50μlを加えてピペッティングを行い、室温で5分静置後に得られた上澄みを他のチューブへ移した。次に、得られた上清を4℃、800rpmで5分間遠心分離機にかけて沈殿物を得た。次に、得られた沈殿物にダルベッコ変法イーグル培地/10%ウシ胎児血清を加え、4℃、800rpmで5分間遠心分離機にかけて沈殿物(細胞)を得た。次に、得られた細胞をダルベッコ変法イーグル培地/10%ウシ胎児血清、ペニシリンG及びストレプトマイシン(GIBCO(登録商標))で懸濁し、フラスコ(75cm、コーニング)に播種して7〜10日間培養した後、フラスコを37℃、200rpmで一晩振盪し、ミクログリアを浮遊させて取り除いた。次に、取り除いたミクログリアを1×トリプシン(GIBCO(登録商標))を用いて継代し、アストロサイトを得た。
【0033】
[実施例1]
【0034】
参考例1で得られた野生型マウス初代培養アストロサイト2×10個/cmを12ウェルプレート(コーニング)に播種して2日間培養した後、Aβ42(ペプチド研究所)500nM及びLPL(シグマ)1〜5μg/mlになるように添加し、37℃で1〜5時間培養して細胞を得た。次に、得られた細胞をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、更にリン酸緩衝生理食塩水1mlを加えてセルスクレイパーを用いて細胞を回収した。次に、回収された細胞にRIPA(1%[w/w]Nonidet P−40、0.5%[w/v]デオキシコール酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム、50mMトリス塩酸緩衝液pH8.0、1mMエチレンジアミン四酢酸、プロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュ))25μlを加えて超音波で破砕し、更に2×ドデシル硫酸ナトリウムサンプルバッファー(50mMトリス塩酸緩衝液、10%グリセロール、2%ドデシル硫酸ナトリウム、0.1%ブロモフェノールブルー、2%メルカプトエタノールpH6.8)25μlを加えて5分間煮沸して細胞溶解液を得た。次に、得られた細胞溶解液を5〜20%ゲル(和光純薬)にアプライし、85Vで90分間電気泳動してタンパク質を分離した。次に、分離したタンパク質をPVDF膜(ミリポア)に、セミドライブロッティング装置(日本エイドー)及びブロッティングバッファー(25mMトリス、192mMグリシン、10%メタノール)を用いて転写した。次いで、PVDF膜をブロッキングバッファー(20mMトリス、50mM塩化ナトリウム、1%ウシ血清アルブミン、3%スキムミルク、0.1%アジ化ナトリウム)中で室温で1時間ブロッキングし、更に、抗Aβ抗体(6E10、シグネット)と反応させ、引き続きHRP標識抗体(セルシグナリング)と反応させ、ウェスタンブロッティング検出試薬(ECL plus、GEヘルスケア)を用いて発色を行った結果を図1に示した。
【0035】
図1の結果から明らかな通り、LPLはマウス初代培養アストロサイトによるAβの取り込みを促進することがわかった。
【0036】
なお、図1に示したアクチンは、タンパク量補正のために示してあり、抗アクチン抗体(シグマ)を用いて、上記と同様に検出を行った。また、図1には、固形物を除いた液である細胞溶解液(lysate)及び媒地(medium)も示した。
【0037】
[実施例2]
【0038】
参考例1で得られた野生型マウス初代培養アストロサイトを実施例1と同様にして播種及び培養した後、500nMのAβ42及びLPLを2μg/mlになるように添加し、4℃で3時間培養して細胞を得た。次に、得られた細胞を実施例1と同様にして洗浄、回収、破砕及び煮沸を行い細胞溶解液を得た。次に、得られた細胞溶解液を実施例1と同様にしてタンパク質を分離し、分離したタンパク質を実施例1と同様にして転写した。次に、PVDF膜を、実施例1と同様にしてブロッキングし、抗Aβ抗体と反応させ、ウェスタンブロッキング試薬を用いて発色を行った結果を図2に示した。
【0039】
図2の結果から明らかな通り、LPLはマウス初代培養アストロサイトへのAβの結合を促進することがわかった。
【0040】
[実施例3]
【0041】
ダルベッコ変法イーグル培地200μl中で、500nMのAβ及びLPLを5μg/ml、37℃で3時間培養した。次に、磁性ビーズ(Dynabeads protein G、ダイナル)を、W/Bバッファー(0.2M NaPhosphate、0.01%Tween20)50μlで2度洗浄し、マウスモノクローナル抗LPL抗体(アブカム)3μgをW/Bバッファー200μlで希釈したものと室温で10分間反応させ、更にリン酸緩衝生理食塩水で3度洗浄し、上の反応液を加え、室温で10分間反応させた。次いで、マグネット(ダイナル)で磁性ビーズを回収し、リン酸緩衝生理食塩水で3度洗浄した。その後、マグネット(ダイナル)で磁性ビーズを回収し、ドデシル硫酸ナトリウム−サンプルバッファーを加え、70℃で10分間加熱した。次いで、マグネットで磁性ビーズと上清に分離し、上清を実施例1と同様にしてタンパク質を分離し、分離したタンパク質を実施例1と同様にして転写した。次いで、PVDF膜を、実施例1と同様にしてブロッキングし、抗Aβ抗体と反応させ、ウェスタンブロッキング試薬を用いて発色を行った結果を図3に示した。
【0042】
図3の結果から明らかな通り、AβはLPLと共沈降されたことから、LPLとAβとは結合することがわかった。なお、LPLに対する抗体(α−LPL)のコントロールとして、マウスIgG(ケミコン)を用いた。
【0043】
[実施例4]
【0044】
参考例1で得られた野生型マウス初代培養アストロサイトを実施例1と同様にして播種及び培養した。次に、Aβ42及びLPLを実施例2と同様にして添加して37℃で5時間培養した後、ダルベッコ変法イーグル培地で2回洗浄し、ダルベッコ変法イーグル培地を加えて37℃で12〜24時間培養した。次に、培養した細胞を実施例1と同様にして破砕及び煮沸し、細胞溶解液を得た。次いで、得られた細胞溶解液を実施例1と同様にしてタンパク質を分離し、分離したタンパク質を実施例1と同様にして転写した。次いで、PVDF膜を、実施例1と同様にしてブロッキングし、抗Aβ抗体と反応させ、ウェスタンブロッキング試薬を用いて発色を行った結果を図4に示した。
【0045】
図4の結果から明らかな通り、12時間培養後では、Aβのバンドがほぼ消失していることから、取り込まれたAβが分解されていることがわかった。
【0046】
[参考例2]
【0047】
96ウェルプレートに、リン酸緩衝生理食塩水で希釈したLPLを100μlと、100μMのp−ニトロフェニル酢酸塩100μlとを入れ、37℃で30分間インキュベートした後、LPLによってp−ニトロフェニル酢酸塩が加水分解されて生じたp−ニトロフェノールに由来する吸光度(450nm)を測定した結果を図5に示した。
【0048】
図5の結果から明らかな通り、吸光度(450nm)とLPL濃度がよく相関する事が分かり、この方法によりLPL量を定量することができることがわかった。
【0049】
[実施例5]
【0050】
96ウェルプレートに3T3−L1細胞を播種し、コンフルーエントに達するまで培養した。次に、それらをリン酸緩衝生理食塩水で洗浄後、リン酸緩衝生理食塩水又は10mg/mlヘパリン(シグマ)150μl加え、37℃で10分間培養した。次に、得られた溶液から100μl採取して別の96ウェルプレートに移し、100μMのp−ニトロフェニル酢酸塩100μlを入れて、37℃で30分間インキュベートした後、吸光度(450nm)を測定した。次に、ヘパリン中でインキュベートしたものの値から参考例1の結果(リン酸緩衝生理食塩水中でインキュベートしたものの値)を引いた差をLPLの活性に由来したものとして算出した結果を図6に示した。
【0051】
図6の結果から明らかな通り、この系を利用すれば、被験物質のLPL発現促進能を評価できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
上述したように、本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬は、脳内に投与されることにより、有効成分であるLPLがアルツハイマー病の発病の原因物質と考えられているAβの細胞内への取り込みを促進させて、Aβの分解効率を飛躍的に向上させ、脳内でのAβの蓄積を顕著に抑制することができるので、家族性アルツハイマー病やアルツハイマー型老年認知症等のアルツハイマー病の予防及び治療に用いた場合極めて有用である。
【0053】
また、本発明のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法は、脳内のLPL量を指標とするので、動物に被験物質を投与して当該動物の脳内LPL量を測定することにより、被験物質のアルツハイマー病の予防及び治療に対する有効性を評価することができる。また、本発明のスクリーニング方法は、LPL発現量を指標とするので、LPL発現細胞に被験物質を添加して当該LPL発現細胞のLPL発現量を測定することにより、被験物質のアルツハイマー病の予防及び治療に対する有効性を評価することができる。従って、本発明のスクリーニング方法は、アルツハイマー病の予防及び治療薬の有効成分の探索に利用した場合極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポプロテインリパーゼを有効成分とする、アルツハイマー病の予防及び治療薬。
【請求項2】
脳内投与用である、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬。
【請求項3】
脳内のリポプロテインリパーゼ量を指標とする、アルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法。
【請求項4】
動物に被験物質を投与するステップと、
前記動物の脳内のリポプロテインリパーゼ量を測定するステップと、
を有することを特徴とする、請求項3に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記動物は、哺乳類である、請求項4に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法。
【請求項6】
リポプロテインリパーゼ発現量を指標とする、アルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法である。
【請求項7】
リポプロテインリパーゼ発現細胞に被験物質を添加するステップと、
前記リポプロテインリパーゼ発現細胞のリポプロテインリパーゼ発現量を測定するステップと、
を有することを特徴とする、請求項6に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記リポプロテインリパーゼ発現細胞は、線維芽細胞由来のもの、胎盤由来細胞由来のもの、脂肪細胞由来のもの、骨格筋由来のもの、アストロサイト由来のもの、グリア細胞由来のもの、神経細胞由来のもの、神経系細胞、心筋細胞、血液系細胞若しくは脂肪細胞に分化するもの、乳腺ガン細胞に由来するもの、マクロファージ細胞由来のもの、ミクログリア細胞由来のもの、卵巣由来のもの又は肝細胞由来のものである、請求項7に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−126847(P2011−126847A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289487(P2009−289487)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】