説明

アルツハイマー病の処置のための免疫学的方法および組成物

【課題】ADを処置するための有効な免疫治療法を提供すること。
【解決手段】一つの局面において、本発明は、アミロイドペプチドAβ42の残基4〜10(FRHDSGY)を含む免疫原性組成物およびペプチドに関する。本発明はさらに、Aβ(4−10)抗原決定基に結合する抗体に関する。本発明は、アルツハイマー病を処置するための方法、およびアルツハイマー病の患者におけるアミロイドの容量を減少するための方法を提供する。本発明はまた、アミロイド沈着物の低分子インヒビターを設計するための方法に関する。本発明の免疫原性組成物および抗体はまた、アルツハイマー患者におけるアミロイド負荷を減少することによって、アルツハイマー病の症状を改善するための方法において使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、アルツハイマー病のための免疫学的方法および組成物に関する。本発明はさらに、アミロイド斑形成を阻害し、そして/またはアルツハイマー病および他の神経変性疾患に関連する存在するアミロイド斑を排除する化合物を同定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の記載)
アルツハイマー病(「AD」)は、神経変性脳疾患であり、老年層の間の痴呆の主な原因である。ADの症状は、学習機能および記憶機能の進行性の喪失、人格の変化、神経筋変化、痙攣およびときおり見られる精神病性の挙動が挙げられ得る。
【0003】
アルツハイマー病は、以下の2つの異なる神経障害によって特徴付けられる:記憶機能および他の認知機能に重要な脳領域におけるアミロイド斑の沈着;ならびに神経細胞内の神経細線維もつれの発生。アミロイド斑の沈着は、脳のこれらの重要な領域において、脳機能を妨害すると考えられる。同様に、神経細線維もつれ(これは、AD患者の神経細胞内で蓄積している)により、ニューロン間の連絡が妨害されると提唱されている。
【0004】
アルツハイマー病のさらなる特徴は、アミロイド斑の主な構成成分としての疎水性アミロイドβペプチド(Aβ42)の存在である。アミロイドβペプチド(Aβ42)は、アミロイドタンパク質前駆体(APP)として公知の、またはあるいはアルツハイマー病アミロイドA4タンパク質として公知の、正常な完全膜タンパク質のタンパク質分解プロセシングから形成されるフラグメントである。
【0005】
アミロイドβペプチド(Aβ)は、APPからプロセシングされる、39〜43アミノ酸長のペプチドの群を含む。非特許文献1を参照のこと。Aβペプチドは、一般に、APP膜貫通領域の11〜15残基を含み、従って、疎水性領域を含むが、Aβペプチド全体は、両親媒性特徴を有し得る。非特許文献2を参照のこと。Aβペプチドは、培養物中で細胞に対して毒性であることが示されている。非特許文献3;非特許文献4を参照のこと。アルツハイマー病におけるAβペプチドの毒性は、可溶性Aβペプチドが不溶性原線維へと凝集し、その後、原線維がアミロイド斑へと組み込まれるプロセスに関連すると考えられている。非特許文献3;非特許文献5;および非特許文献6を参照のこと。同様に、Aβペプチドは、インビトロで原線維を形成し、このプロセスは、Aβ凝集および原線維形成の阻害を測定するために利用され得る。
【0006】
以前は、いくつかのグループが、アルツハイマー病のトランスフェニックマウスモデルを使用していた。そのモデルにおいて、トランスジェニックマウス(これは、脳におけるアミロイド沈着および認知欠損の両方を示す)が、Aβ42抗原調製物で免疫された。これらの研究からの結果により、Aβ42での免疫は、マウスのアルツハイマー病様神経障害および空間記憶の損傷両方の減少を生じ得ることが実証された。非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9および非特許文献10を参照のこと。Bardらは、Aβ42ワクチンでの免疫が、おそらく、小グリア細胞の活性化、およびその後の小グリア細胞によるAβ42凝集物の飲み込みをもたらすと仮定した。非特許文献11。不運なことに、アミロイド斑沈着の減少および改善された認知機能の根底にある免疫学的機構の全ては、未だ解明されていない。
【0007】
抗体3D6および10D5(そのエピトープは、それぞれ、Aβ残基1〜5および3〜6である)の受動的投与の以前の研究は、トランスジェニックマウスにおけるAβおよびアミロイド斑両方の負荷の減少において有効であった。非特許文献11を参照のこと。マウスは、ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)の変異疾患関連形態についてトランスジェニックであり、血小板由来(PD)増殖因子プロモーターの制御下にあった。これらの(PDAPP)マウスは、ヒトアミロイド前駆タイタンを過剰発現し、アルツハイマー病の病理学的症状の多くが現れる。非特許文献11を参照のこと。
【0008】
別の研究において、m266(Aβの残基13〜28に対する抗体)の末梢投与は、PDAPPマウスにおける血漿クリアランスを介して脳Aβ荷重を減少することが示された。非特許文献12を参照のこと。このm266抗体は、Aβの第2の免疫原性部位に対して指向され、Aβオリゴマー(プロトフィブリルおよび斑)に対する異なる結合特異性またはCNSへの差次的な接近を示し得る。
【0009】
Aβ42抗原およびAPPは、自己タンパク質であり、従って、これらのタンパク質を発現する個体において通常は免疫原性でない。結論として、これらの抗原に基づくワクチンを作ろうとする試みは、必ず自己免疫を誘導する必要がある。さらに、自己免疫を誘導しようとするいずれの免疫プロトコールも、このような自己抗原によって誘導される免疫応答を注意深く試験しなければならない。この場合、Aβ42またはAβ42のエレメントを組み込む任意の自己抗原が、通常のAPPタンパク質に対する自己免疫を誘導せず、その正常な細胞機能を破壊しないことは重要である。
【0010】
ADを処置するための有効な免疫治療法を開発するために、Aβ42型抗原での免疫後の、アミロイド斑負荷の免疫媒介性の減少の免疫学的機構が、決定され得ることは、望ましい。
【0011】
有益な生物学的活性を有するエピトープのみを組み込む免疫原性組成物および抗原を設計するために、アミロイド斑減少の機構の知見を利用することは有利である。さらなる利点は、このような免疫原性組成物が、有害な免疫を誘導するエピトープを排除するように設計され得ることである。従って、Aβ抗原の異常な形態のみに対する非常に特異的かつ制限された免疫応答を誘導する規定された抗原が必要である。
免疫療法において使用されて、Aβ抗原の病的な形態に対してのみ、非常に特異的かつ限定された免疫応答を誘導し得る規定された抗原を含む、免疫原性組成物もまた必要である。さらに、受動免疫療法において使用するための有利な生物学的特性を有する、規定されたAβエピトープに対する抗体を単離することは有利である。アルツハイマー病患者がAβ抗原の免疫原性組成物での治療から利益を得ているか否かを、治療を開始してできるだけすぐに決定するための診断アッセイを開発することは、さらに有利である。アミロイド沈着および原線維形成のインヒビターを同定することがさらに必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Pallittoら,Biochemistry 38:3570−3578(1999)
【非特許文献2】Kangら,Nature 325:733−736(1987)
【非特許文献3】Pikeら,Eur.J.Pharmacol.207:367−368(1991)
【非特許文献4】Iversenら,Biochem.J.311:1−16(1995)
【非特許文献5】Pikeら,Brain Research,563:311−314(1991)
【非特許文献6】Pikeら,J.Neurosci.13:1676−1687(1993)
【非特許文献7】Schenkら,Nature 400:173−177(1999)
【非特許文献8】Bardら,Nature Medicine 6:916−919(2000)
【非特許文献9】Janusら,Nature 408:979−982(2000)
【非特許文献10】Morganら,Nature 408:982−982(2000)
【非特許文献11】Bardら,Nature Medicine 6:916−919(2000)
【非特許文献12】Demattosら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:8850−8855(2001)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明は、アミロイドペプチドAβ42(配列番号2)の残基4〜10(およびAβ(4〜10)(配列番号1)として公知)を含む免疫原性組成物を提供することによって、前述の必要性を満たす。本発明の抗原および免疫原性組成物は、アルツハイマー病を処置するにあたって、アミロイド沈着の低分子インヒビターを設計するために、および診断試薬として有用である。本発明はさらに、Aβ(4〜10)抗原決定基に結合する抗体を提供する。本発明の免疫原性組成物および抗体はまた、アルツハイマー患者におけるアミロイド負荷を減少することによって、アルツハイマー病の症状を改善するための方法において使用され得る。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)

(A)−−(Th)−−(B)−−Aβ(4−10)−−(C)
によって表されるペプチドであって、ここで、
A、BおよびCの各々は、アミノ酸残基またはアミノ酸残基の配列であり;
n、oおよびpは、独立して、0〜約20の範囲の整数であり;
Thは独立して、ヘルパーT細胞エピトープまたは免疫増強アナログまたはこれらのセグメントを含むアミノ酸残基の配列であり;
oが0に等しい場合、Thはいかなるスペーサー残基も介することなくペプチド結合でB細胞エピトープに直接接続されており;
mは1〜約5の整数であり;そして
Aβ(4−10)は、(配列番号1)または保存的アミノ酸置換を含むそのアナログである、
ペプチド。
(項目2)
項目1に記載のペプチドであって、前記Thが配列番号3;配列番号4;配列番号5;配列番号6;配列番号7;配列番号8;配列番号9;配列番号10;配列番号11;配列番号12;配列番号13;配列番号14;配列番号15;配列番号16;配列番号17;配列番号18;配列番号19;配列番号20;および配列番号21からなる群から選択される、ペプチド。
(項目3)
項目1に記載のペプチドであって、該ペプチドが配列番号25;配列番号26;配列番号27;配列番号28;配列番号29;配列番号30;配列番号31;配列番号32;配列番号33;配列番号34;配列番号35;配列番号36;配列番号37;配列番号38;配列番号39;配列番号40;配列番号41;配列番号42;配列番号43;配列番号44;配列番号45;および配列番号46からなる群から選択される、ペプチド。
(項目4)

(A)−−(Th)−−(B)−−Aβ(4−10)−−(C)
によって表される2つ以上のペプチドの混合物を含むペプチド組成物であって、ここで、
A、BおよびCの各々は、アミノ酸残基またはアミノ酸残基の配列であり;
n、oおよびpは、独立して0〜約20の範囲の整数であり;
Thは独立して、ヘルパーT細胞エピトープまたは免疫増強アナログまたはこれらのセグメントを含むアミノ酸残基の配列であり;
oが0に等しい場合、Thは、いかなるスペーサー残基も介することなくペプチド結合でB細胞エピトープに直接接続されており;
mは1〜約5の整数であり;そして
Aβ(4−10)は、(配列番号1)または保存的アミノ酸置換を含むそのアナログである、
ペプチド組成物。
(項目5)
アミロイドβペプチド(配列番号2)に特異的に結合する抗体の産生を誘導するための免疫原性組成物であって、以下:
(a)有効量のT細胞ヘルプ(T−cell help)を提供するT細胞エピトープおよびペプチドAβ(4−10)(配列番号1)からなるB細胞エピトープを含む、抗原;ならびに
(b)アジュバント
を含む、免疫原性組成物。
(項目6)
項目5に記載の組成物であって、前記T細胞エピトープが、以下:
(a)同じタンパク質骨格上の前記B細胞エピトープに対してN末端に位置する1つ以上のT細胞エピトープ、
(b)該同じタンパク質骨格上の該B細胞エピトープに対してC末端に位置する1つ以上のT細胞エピトープ、および
(c)該B細胞エピトープを含むタンパク質骨格に共有結合を介して接着している異なるタンパク質骨格上に位置する1つ以上のT細胞エピトープ
からなる群から選択される、組成物。
(項目7)
項目5に記載の組成物であって、前記T細胞エピトープが、配列番号3;配列番号4;配列番号5;配列番号6;配列番号7;配列番号8;配列番号9;配列番号10;配列番号11;配列番号12;配列番号13;配列番号14;配列番号15;配列番号16;配列番号17;配列番号18;配列番号19;配列番号20;および配列番号21からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、組成物。
(項目8)
項目5に記載の組成物であって、前記アジュバントが、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、サポニン、Quill A、Quill A/ISCOM、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド/アビジン(arvidine)、ポリアニオン、フロイントの完全アジュバント、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、N−アセチルムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン、フロイントの不完全アジュバントおよびリポソームからなる群から選択される1つ以上の物質を含む、組成物。
(項目9)
アルツハイマー病に罹患している個体を処置するための方法であって、項目5〜8のうちのいずれか1項に記載の免疫原性組成物の有効量を該個体に投与する工程を包含する、方法。
(項目10)
アルツハイマー病に罹患している個体の脳におけるアミロイド沈着物の量を減少させる方法であって、項目5〜8のうちのいずれか1項に記載の免疫原性組成物の有効量を該個体に投与する工程を包含する、方法。
(項目11)
アルツハイマー病に罹患している個体の脳におけるアミロイド原線維を脱凝集するための方法であって、項目5〜8のうちのいずれか1項に記載の免疫原性組成物の有効量を該個体に投与する工程を包含する、方法。
(項目12)
ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)に結合し得る、単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目13)
アミロイド沈着を阻害する、項目12に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
(項目14)
アミロイド原線維を脱凝集する、項目12に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
(項目15)
アルツハイマー病に罹患している個体を処置するための方法であって、ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)を認識し、結合する抗体組成物の有効量を該個体に投与する工程を包含する、方法。
(項目16)
前記抗体組成物がポリクローナル抗体を含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記抗体組成物がモノクローナル抗体を含む、項目15に記載の方法。
(項目18)
化合物がアミロイド沈着および原線維形成のインヒビターであるかどうかを決定する方法であって、以下:
(i)該化合物をペプチドAβ(4−10)(配列番号1)と接触させる工程;および
(ii)該ペプチドとの該化合物の結合を検出する工程
を包含する、方法。
(項目19)
前記化合物がインビトロでのアミロイド原線維形成を阻害するかどうかを評価する工程をさらに包含する、項目18に記載の方法。
【0014】
1つの実施形態において、本発明は、式
(A)−−(Th)−−(B)−−Aβ(4−10)−−(C)
によって示されるペプチドを提供する。この式において、
A、BおよびCの各々は、アミノ酸残基またはアミノ酸残基の配列であり;
n、oおよびpは、独立して、0〜約20の範囲の整数であり;
Thは、独立して、ヘルパーT細胞エピトープまたはその免疫増強アナログもしくはセグメントを含むアミノ酸残基の配列であり;
oが0に等しい場合、Thは、何のスペーサー残基もなしに、ペプチド結合を介してB細胞エピトープに直接接続され;
mは1〜約5の整数であり;そして
Aβ(4−10)は、(配列番号1)または保存的アミノ酸置換を含むそのアナログである。
【0015】
好ましい実施形態において、本発明は、アミロイドβペプチド(配列番号2)特異的に結合する抗体を誘導するための免疫原性組成物を提供し、この組成物は、以下を含有する:有効量のT細胞ヘルプ(T−cell help)を提供するT細胞エピトープとペプチドAβ(4−10)(配列番号1)からなるB細胞エピトープとを含む、抗原;ならびにアジュバント。
【0016】
特定の実施形態において、本発明は、アミロイドβペプチドに特異的に結合する抗体集団を誘導するための免疫原性組成物を提供し、この組成物は、以下を含有する:有効量のT細胞ヘルプ(T−cell help)を提供するT細胞エピトープとペプチドAβ(4−10)(配列番号1)からなるB細胞エピトープとを含む、抗原;ならびにアジュバント。ここで、このT細胞エピトープは、以下からなる群より選択される:
(a)同じタンパク質骨格上のB細胞エピトープに対してN末端側に位置する、1つ以上のT細胞エピトープ、
(b)同じタンパク質骨格上のB細胞エピトープに対してC末端側に位置する、1つ以上のT細胞エピトープ、および
(c)B細胞エピトープを含むタンパク質骨格に共有結合を介して結合した異なるタンパク質骨格上に位置する1つ以上のT細胞エピトープ。
【0017】
特定の実施形態において、本発明は、B細胞エピトープおよびT細胞エピトープを有する免疫原性組成物を提供し、ここで、T細胞エピトープは、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する:配列番号1;配列番号2;配列番号3;配列番号4;配列番号5;配列番号6;配列番号7;配列番号8;配列番号9;配列番号10;配列番号11;配列番号12;配列番号13;配列番号14;配列番号15;配列番号16;配列番号17;配列番号18;配列番号19;配列番号20;および配列番号21。
【0018】
別の特定の実施形態において、本発明は、抗原とアジュバントとを含む免疫原性組成物を提供し、ここで、このアジュバントは、以下からなる群より選択される1つ以上の物質を含む:水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、サポニン、Quill A、Quill A/ISCOM、ジメチルジオクタデシル臭化アンモニウム/アルビジン(arvidine)、ポリアニオン、フロイント完全アジュバント、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、N−アセチルムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン、フロイント不完全アジュバントおよびリポソーム。
【0019】
別の好ましい実施形態において、本発明は、アルツハイマー病に罹患した個体を処置するための方法を提供し、この方法は、アミロイドβペプチド(配列番号2)に特異的に結合する抗体の産生を誘導するための有効量の免疫原性組成物を個体に投与する工程を包含し、この組成物は、以下を含有する:(a)有効量のT細胞ヘルプ(T−cell help)を提供するT細胞エピトープとペプチドAβ(4−10)(配列番号1)からなるB細胞エピトープとを含む抗原;ならびに(b)アジュバント。
【0020】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、アルツハイマー病に罹患した個体の脳におけるアミロイド沈着の量を減少させるための方法もまた提供し、この方法は、アミロイドβペプチド(配列番号2)に特異的に結合する抗体の産生を誘導するための有効量の免疫原性組成物を個体に投与する工程を包含し、この組成物は、以下を含有する:(a)有効量のT細胞ヘルプ(T−cell help)を提供するT細胞エピトープとペプチドAβ(4−10)(配列番号1)からなるB細胞エピトーとを含む抗原;ならびに(b)アジュバント。
【0021】
さらなる好ましい実施形態において、本発明は、アルツハイマー病に罹患した個体の脳におけるアミロイド線維を脱凝集させるための方法を提供し、この方法は、アミロイドβペプチド(配列番号2)に特異的に結合する抗体の産生を誘導するための有効量の免疫原性組成物を個体に投与する工程を包含し、この組成物は、以下を含有する:(a)有効量のT細胞ヘルプ(T−cell help)を提供するT細胞エピトープとペプチドAβ(4−10)(配列番号1)からなるB細胞エピトープとを含む抗原;ならびに(b)アジュバント。
【0022】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)に結合し得る、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0023】
特定の実施形態において、本発明は、ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)に結合し得る、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、ここで、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、アミロイド沈着を阻害する。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)に結合し得る、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、ここで、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、アミロイド線維を脱凝集させる。
【0025】
別の好ましい実施形態において、本発明は、アルツハイマー病に罹患した個体を処置するための方法を提供し、この方法は、ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)を認識しかつこれに結合する、有効量の抗体組成物を個体に投与する工程を包含する。
【0026】
特定の実施形態において、本発明は、アルツハイマー病に罹患した個体を処置するための方法を提供し、この方法は、ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)を認識しかつこれに結合する、有効量の抗体組成物を個体に投与する工程を包含し、ここで、この抗体組成物は、ポリクローナル抗体を含有する。
【0027】
特定の実施形態において、本発明は、アルツハイマー病に罹患した個体を処置するための方法を提供し、この方法は、ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)を認識しかつこれに結合する、有効量の抗体組成物を個体に投与する工程を包含し、ここで、この抗体組成物は、モノクローナル抗体を含有する。
【0028】
なお別の好ましい実施形態において、本発明は、ある化合物がアミロイド沈着またはアミロイド線維形成のインヒビターであるか否かを決定するための方法を提供し、この方法は、この化合物をペプチドAβ(4−10)(配列番号1)と接触させる工程;およびこの化合物とこのペプチドとの結合を検出する工程、を包含する。別の実施形態において、この方法はさらに、この化合物が、インビトロでアミロイド線維形成を阻害するか否かを評価する工程を包含する。
【0029】
別の好ましい実施形態において、本発明は、アルツハイマー病についての能動免疫治療の効力を予測するための診断方法を提供し、この方法は、ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)に対する免疫応答の発生をモニタリングする工程を包含する。ここで、ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)に対する受動的免疫応答は、治療が継続されるべきであることを示し、そして免疫応答の欠如または非常に弱い免疫応答は、治療が中断されるべきであることを示す。
【0030】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、免疫原性組成物を提供し、この組成物は、抗原およびアジュバントを含有し、ここで、この抗原は、有効量のT細胞ヘルプ(T−cell help)を提供するT細胞エピトープとペプチドAβ(4−10)(配列番号1)からなるB細胞エピトープとを含み;この抗原は、アミロイドβペプチド(配列番号2)中に位置する免疫標的に結合する抗体を誘導するために有効なタンパク質の構造関係を提供する。
【0031】
特定の実施形態において、本発明は、B細胞エピトープを含む抗原を提供し、ここで、免疫標的が見出された場合に、その免疫標的の二次構造の模倣をアミロイドβペプチド(配列番号2)に提供する、このB細胞エピトープのタンパク質の構造的な関係は、βシート、逆ターン、ヘリックス、ランダムコイルまたはこれらの組み合わせからなる群より選択される。特定のさらなる実施形態において、この抗原は、ペプチドAβ(4−10)(配列番号1)の模倣物を含むB細胞エピトープを含む。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(発明の詳細な説明)
(定義)
以下の用語は、他に示されない限り、以下の意味を有すると理解されるべきである:
(アジュバント)免疫原性組成物中の抗原の免疫原性を増強するために抗原と組み合わされる物質の混合物であり得る物質をいう。アジュバントは、通常、免疫系に対して直接作用することによって、そして抗原の緩徐な放出を提供することによって、抗原に対する免疫応答を増大させるように機能する。
【0033】
(アミロイドβペプチド(Aβ))アミロイド前駆タンパク質(APP)からプロセシングされた39〜43アミノ酸残基のペプチドの群の任意の1つをいう。本明細書中で使用される場合、Aβ42は、42アミノ酸残基のAβペプチドをいう。さらに、Aβ(4〜10)は、Aβ42の残基4〜残基10までの、7アミノ酸残基のペプチドをいう。以下により詳細に考察されるように、APP遺伝子は、選択的スプライシングを受けて、3つの一般的なアイソフォーム(770アミノ酸(APP770)、751アミノ酸(APP751)および695アミノ酸(APP695)を含む)を生じる。慣例により、最長のアイソフォームAPP770のコドン番号付けを、より短いアイソフォームのコドン位置をいう場合にも使用する。
【0034】
(抗原)本発明の抗原は、ヘルパーT細胞エピトープおよびB細胞エピトープの組み合わせである。ヘルパーT細胞エピトープは、同じポリペプチド骨格上のB細胞エピトープに対して、N末端またはC末端に位置し得る。例えば、小さいペプチドが、キャリア分子(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン)に共有結合して免疫原性を提供する場合、T細胞エピトープはまた、B細胞エピトープを含むポリペプチドに共有結合した異なるポリペプチド骨格上に位置し得る。あるいは、T細胞エピトープは、アジュバントを含む組成物中でT細胞エピトープおよびB細胞エピトープを組み合わせることによって、B細胞エピトープと非共有結合的に会合し得る。
【0035】
(抗原プロセシング)細菌、ウイルスまたは免疫原性組成物由来の細胞外抗原が、エンドサイトーシスまたは食作用によって、抗原提示細胞(APC)によって取り込まれるプロセスをいう。引き続いて、この抗原は、エンドソームまたはリソソームによってフラグメント化され、そしてペプチドフラグメントは、MHCクラスI分子およびMHCクラスII分子の結合溝へと装填(load)される。
【0036】
(抗原提示)MHCクラスI分子およびMHCクラスII分子が、プロセシングされた短いペプチドに結合し、そしてT細胞レセプターによって媒介される相互作用を介したT細胞によるスクリーニングのために、細胞表面上にこれらのペプチドを提示するプロセスをいう。
【0037】
(B細胞エピトープ)抗体結合の標的であり、抗原性決定基としても公知の、抗原の一部をいう。タンパク質抗原性決定基について、B細胞エピトープは、通常はネイティブの構造に対応する、特定の3次元配置にあるアミノ酸残基をいう。T細胞エピトープとは異なり、B細胞エピトープは、タンパク質コンフォメーションに対して非常に感受性であり得る。
【0038】
(有効量)規定された処置目的のいずれかを達成する、本発明の免疫原性組成物、抗体または抗原結合フラグメントの量をいう。有効量はまた、この組成物、抗体またはその抗原結合フラグメントの、予防的使用および治療的使用の両方を含むように意図される。
【0039】
(ヘルパーT細胞エピトープ)ヘルパーT細胞エピトープ(Thエピトープ)は、MHCクラスII分子に結合し、そして抗原に対する抗体応答を発生させるために、CD4+
T細胞を活性化して、サイトカインの形態で、B細胞に補助を提供するように働く、ペプチドである。MHCクラスII分子は、細胞外環境と連絡する細胞区画中の、約7〜約30残基長の、プロセシングされたペプチドフラグメントで装填される。従って、ヘルパーT細胞エピトープは、一般に、外来のタンパク質フラグメントを提示する。
【0040】
(免疫標的)抗原内のB細胞エピトープが模倣を試みている、アミロイド沈着Aβペプチドまたは循環Aβペプチド中の、実際の3次元エピトープ(ネイティブ)をいう。抗タンパク質抗体は、一般に、特定の二次構造中のアミノ酸の特定の配列に対して特異的である。理想的には、エピトープの抗原模倣物に対する抗体を含むことにより、病的なアミロイド沈着Aβペプチドまたは循環Aβペプチド中に存在する場合、ネイティブなエピトープを認識し、そしてこれに結合する抗体の産生を生じる。
【0041】
(免疫原)免疫原性であるとわかっている抗原をいう。
【0042】
(免疫原性)抗原が免疫応答を惹起する能力をいう。一般に、抗原は、免疫原性であるために、抗原提示細胞と会合しなければならない。抗原のサイズ、構造、配列、外来性の程度、アジュバントの存在、患者の免疫状態ならびに他の遺伝的要因を含む多くの要因が、免疫原性に影響する。
【0043】
(ペプチド)一緒に連結された小さい数(通常2以上)のアミノ酸をいう。
【0044】
(ポリペプチド)一緒に連結されたより長い鎖のアミノ酸をいうが、配列または長さは一般に規定されない。用語タンパク質、ペプチドおよびポリペプチドは、ときどき、相互交換可能に使用される。
【0045】
(乱雑な(promiscuous)ヘルパーT細胞エピトープ)多様なMHCハプロタイプを発現する多数の個体(すなわち、遺伝的に多様な集団)における、T細胞活性化応答(T細胞ヘルプ(T cell help))を誘導し得る、ヘルパーT細胞エピトープをいう。このようなThエピトープは、異種集団の多くの異なる個体において機能し、そして乱雑なThエピトープであるとみなされる。
【0046】
(タンパク質骨格またはポリペプチド骨格)タンパク質配列の一部としての、アミノ酸を提示する反復単位をいう。ポリペプチド骨格は、3原子の配列からなる:アミド窒素(N−H);α炭素(C);およびカルボニル炭素(C=O)。これは一般に、以下−N−C−C−として示され得る。
【0047】
(タンパク質)規定された配列、長さおよび折り畳まれたコンフォメーションを有する、アミノ酸の特定の鎖を一般にいうが、タンパク質、ポリペプチドおよびペプチドは、ときどき、相互交換可能に使用され得る。
【0048】
(処置(treatmentまたはtreating))以下の目的を含む:(1)所望でない症状または病理学的状態を有するとはまだ診断されていない被験体において、これらが発生するのを防ぐこと;(2)所望でない症状または病理学的状態を阻害すること(すなわち、それらの発症を停止させること);あるいは(3)所望でない症状または病理学的状態を寛解または緩和させること(すなわち、所望でない症状または病理学的状態の後退を引き起こすこと)。
【0049】
本発明の組成物および方法は、アミロイドプラーク沈着の免疫媒介性の減少および認識機能における対応する改善が、Aβ42中の特定の免疫標的またはB細胞エピトープに対する特異的抗体応答によって媒介され得るという本発明者らの発見に起因している。この重要な免疫標的は、最長のアイソフォーム(APP770)のコドン番号付けに従って、アミロイド前駆タンパク質(APP)の残基675〜681に対応する、Aβ42の残基4〜10(FRHDSGY)(配列番号1)として、本発明者らによって同定された。結果として、本発明者らは、Aβ42型抗原を用いた免疫後の、アミロイドプラーク装填の免疫媒介性の減少の、重要な免疫学的機構を解明した。
【0050】
本発明者らは、Aβ42の残基4〜10(FRHDSGY)(配列番号1)を認識し、そしてこれに結合する抗体が、Aβ原繊維形成およびAβ神経毒性を阻害することを発見した。さらに、本発明者らは、Aβ42の残基4〜10(FRHDSGY)を認識し、そしてこれに結合する抗体が、Aβ42の既に形成された原繊維を分解することを発見した。さらに、本発明者らは、Aβ42による免疫の間に産生された抗体が、Aβによって誘発されるインビトロの細胞死を排除したことを開示する。
【0051】
本発明は、ヒトADのモデルとしてTgCRND8マウスを使用して実施された。TgCRND8マウスは、ADのモデルとして有用である。なぜなら、TgCRND8マウスは、プリオンタンパク質プロモーターの制御下に、ヒト二重変異体APP695導入遺伝子を保有し、そして進行性の認識傷害を伴う大脳皮質におけるAβ42ペプチドおよび神経炎性アミロイドプラークの進行性の蓄積(ADの神経病理学的特徴)を示すからである。Chishtiら、J.Biol.Chem.,276:21562−570(2001)を参照のこと。
【0052】
本発明は、Aβ42の前原線維形態でのC57BL6 x C3Hマウスの免疫の間に生成された、AβのN末端ペプチドに対して特異的な抗体を提供する。本発明はさらに、Aβ(4−10)に対応するAβ配列FRHDSGY(配列番号1)を提供し、これは、アルツハイマー病についての保護免疫に重要なエピトープを示す。さらに、本発明は、Aβ(4−10)エピトープを、アルツハイマー病に罹患した患者において有益な保護免疫を生じるための免疫標的として同定する。
【0053】
(抗原提示)
抗原提示とは、タンパク質抗原が抗原提示細胞(APC)によって取り込まれ、そしてプロセシングされる、分子事象および細胞事象をいう。次いで、プロセシングされた抗原フラグメントは、エフェクター細胞(これは、引き続いて活性化され、免疫応答を開始する)に対して提示される。最も活性な抗原提示細胞は、マクロファージ(これは、単球からの直接的発達産物である)、樹状細胞および特定のB細胞として特徴付けられている。
【0054】
抗原提示および免疫応答プロセスにおける重要な分子プレーヤーは、MHC分子であり、これは、主要組織適合遺伝子複合体(Mhc)として公知の領域中の染色体によりコードされた多型遺伝子ファミリーである。ヒトにおけるMHCクラスI分子およびクラスII分子は、HLA(ヒト白血球抗原)分子と称される。特定のMHC分子は、細胞表面上に独自の分子フラグメントを提示し、そしてT細胞および他の免疫系エフェクター細胞によるそれらの認識を促進するように機能する。D.H.Margulies,「The Major Histocompatibility Complex」,pp.263−285、Fundamental Immunology,第4版,W.F.Paul編,Lippencotto−Raven,Philadelphia,PA(1999)を参照のこと。さらに、MHCクラスI分子およびクラスII分子は、抗原提示細胞中のペプチドに結合し、次いで、T細胞の表面上のT細胞レセプターと相互作用するように機能する。
【0055】
より具体的には、MHCクラスI分子は、細胞自身のペプチド(内因性の細胞質ゾルタンパク質、新規に翻訳されたウイルス抗原および腫瘍抗原が挙げられる)のサンプルに結合し、そしてそのサンプルを提示する。MHCクラスI分子は、一般に、CD8+細胞傷害性T細胞によって認識される、約7〜約16残基長のペプチドを提示する。MHCクラスI分子は、細胞傷害性T細胞応答をもたらすことに関与し、ここで、ウイルスに感染した細胞が殺傷される。
【0056】
本発明は、抗原に対応する抗体応答の発生においてB細胞への補助を提供し得るCD4+T細胞を活性化するように作用するT細胞エピトープに主に関する。ヘルパーT細胞エピトープ(Thエピトープ)は、MHCクラスII分子に結合し、これには、細胞外環境と連絡する細胞区画において、約7〜約30残基長のプロセシングされたペプチドフラグメントが取り付け(load)られる。D.H.Margulies,「The Major Histocompatibility Complex」,pp.263−285、Fundamental Immunology,第4版,W.F.Paul編,Lippencott−Raven,Philadelphia,PA(1999)(Margulies)を参照のこと。より具体的には、MHCクラスII分子は、ペプチドのサンプルに結合し、そしてそれを提示し、これは、すぐ細胞外の環境からCD4+ T細胞へ、抗原提示細胞によって摂取される。次いで、CD4+ T細胞は活性化され、次いで、抗体を産生するために、B細胞に対してサイトカインの形態での補助を提供する。ヒトにおいて、MHCクラスII分子は、HLA−DR分子、HLA−DQ分子およびHLA−DP分子を含み、これらは、種々の遺伝的にコードされた対立遺伝子を生じる。
【0057】
本発明の免疫原性組成物は、いわゆる「抗原提示細胞」の表面上のMHC分子によってタンパク質またはペプチドフラグメントとしてプロセシングおよび提示され、そしてエフェクター細胞としてのCD4+ Tリンパ球によって認識される、B細胞エピトープおよびT細胞エピトープを有する抗原を含む。
【0058】
有効な免疫学的監視を確認するために、MHC分子の生理学は、これらが、可能な限り広いスペクトルの抗原ペプチドを提示し得るように、設計される。結果として、抗原提示細胞の細胞表面上の規定された抗原性ペプチドのコピー数は、非常に低い(約10のペプチドレセプターの総集団について、10の強度の規定された抗原性ペプチド)。これは、MHC分子に結合した抗原性ペプチド(「ペプチドリガンド」)の非常に不均一な混合物が、抗原提示細胞の細胞表面上に露出していることを意味する。
【0059】
用語「T細胞エピトープ」は、抗原プロセシングおよびMHCクラスII分子の結合ポケット中のペプチドの提示後の、CD4+ Tヘルパー(Th)リンパ球の活性化をもたらす、タンパク質の配列をいう。T細胞の表面上のα/βT細胞レセプターは、ペプチドMHCクラスII複合体と相互作用し、これは、活性化のための刺激として作用する。結果として、T細胞エピトープのネイティブのコンフォメーションは重要でなく、その一次配列よび特定のMHC分子に結合する能力のみが重要である。
【0060】
本発明は、ペプチド、好ましくは合成ペプチドに関し、これらは、Aβの病理学的形態(例えば、アミロイドプラークおよび原線維中に見出される形態)に対する抗体を誘導し得る。
【0061】
ペプチドの免疫原性は、ペプチド内の「B細胞エピトープ」または「抗原決定基」を特異的に認識および結合する抗体を含む抗体応答を誘導する、ペプチドの能力をいう。R.N.Germain,「Antigen Processing and Presentation」,pp.287−340,Fundamental Immunology,第4版,W.F.Paul編,Lippencott−Raven,Philadelphia,PA(1999)(Germain)を参照のこと。免疫原性であるために、B細胞エピトープを含むペプチドは、MHCクラスII抗原またはクラスII T細胞エピトープと一緒に提示されなければならない。T細胞エピトープは、通常、抗原提示細胞による抗原プロセシングの間、免疫原からプロセシングされ、次いで、配列特異的様式でMHCクラスII分子に結合する。Germainを参照のこと。このMHCクラスII T細胞エピトープ複合体は、CD4+ Tリンパ球(Th細胞)によって認識される。Th細胞は、提示された免疫原から、会合したB細胞エピトープを認識し得る抗体分子を産生する、特異的B細胞の増殖を引き起こす能力を有する。従って、特定のB細胞エピトープに特異的な抗体の産生は、免疫原内または免疫原と会合したT細胞エピトープの存在と関連する。
【0062】
抗原が外来タンパク質でない場合、別の合併症が生じる。Aβは自己の分子なので、これは、リンパ球活性化、従って、自己に対する抗体応答を誘導する、どのようなThエピトープも含まないはずである。従って、外来性T細胞エピトープは、強力な外来免疫原(破傷風毒素、百日咳毒素、麻疹ウイルスFタンパク質およびB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)などを含む)に由来する特定の配列を含めることによって、提供されるべきである。このようなT細胞エピトープの配列は、Aβ(4−10)ペプチドであるB細胞エピトープと同じタンパク質骨格上に含まれ得る。T細胞エピトープの位置は、B細胞エピトープに対してN末端側であるかまたはB細胞エピトープに対してC末端側であるかのいずれかであり得る。あるいは、T細胞エピトープは、B細胞エピトープを含むペプチドに共有結合していてもしていなくてもよい、キャリア分子として公知の別個のタンパク質骨格上に提供され得る。
【0063】
さらなるT細胞エピトープは、当該分野で周知の以下の手順によって(例えば、Rudenskyら、Nature 353:622−627(1991);Chiczら、Nature 358:764−768(1992)およびHuntら、Science 256:1817−1820(1992)に開示されるような、免疫親和性精製されたクラスII分子由来のMHCクラスII結合ペプチドの、酸溶出および質量分析配列決定によって)選択され得る。これらの文献の開示は、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0064】
理想的には、選択されたThエピトープは、好ましくは、多様なMHCハプロタイプを発現する多数の個体において、T細胞活性化応答(T細胞ヘルプ)を誘発し得る。これは、これらのエピトープが、異種集団の多数の異なる個体において機能し、そして乱雑なThエピトープであるとみなされることを意味する。乱雑なThエピトープは、遺伝的に多様な集団のほとんどのメンバーにおいて、強力な抗Aβ抗体応答を誘発する利点を提供する。
【0065】
本発明のTヘルパーエピトープは、所定の集団のほとんどのメンバーにおいて免疫応答を引き起こす能力についてだけでなく、記憶/追想(recall)応答を引き起こす能力についても、選択される。Aβ免疫療法を受けている大多数のヒト患者は、既に、麻疹、耳下腺炎、風疹、ジフテリア、百日咳および破傷風の小児ワクチンで免疫されている。従って、これらの患者は、免疫原混合物中に存在するThエピトープの1つより多くに、以前に曝されている。標準的なワクチンによる免疫を介したThエピトープへの以前の暴露は、直ぐに応答し得、そして抗体応答に補助を提供し得るTh細胞クローンを確立するはずなので、このような以前の暴露は有用である。
【0066】
ヘルパーT細胞エピトープは、Thエピトープを含むアミノ酸(天然アミノ酸または非天然アミノ酸)の配列である。ヘルパーT細胞は、連続したエピトープまたは不連続のエピトープから構成される。従って、ヘルパーT細胞エピトープの全アミノ酸残基が、そのエピトープの必要とされた部分とは限らない。従って、Thエピトープ(Thエピトープのアナログおよびセグメントを含む)は、Aβに対する免疫応答を促進または刺激し得る。免疫優性のヘルパーT細胞エピトープは、多岐にわたるMHC型を有する動物集団およびヒト集団において広く応答性である。Celisら、J.Immunol.140:1808−1815(1988);Demotzら、J.Immunol.142:394−402(1989);Chongら、Infect.Immun.60:4640−4647(1992)を参照のこと。被検体ペプチドのヘルパーT細胞エピトープは、約10〜約50アミノ酸、好ましくは約10〜約40アミノ酸残基、より好ましくは、約10〜約30アミノ酸残基、なおより好ましくは、約10〜約20アミノ酸残基、または好ましくは、約10〜約15アミノ酸残基を有する。多様なヘルパーT細胞エピトープが存在する場合(すなわち、n>2)、各ヘルパーT細胞エピトープは、独立して同じであるか、または異なる。
【0067】
ヘルパーT細胞エピトープとしては、このヘルパーT細胞エピトープにおける1〜約10アミノ酸残基のアナログ、置換体、欠損体および挿入体が挙げられ得る。これらのヘルパーT細胞エピトープセグメントは、Aβに対する免疫応答を促進または刺激するのに十分な、ヘルパーT細胞エピトープの連続した部分である。このヘルパーT細胞エピトープは、1つ以上のスペーサーアミノ酸残基によってB細胞エピトープから分離され得る。
【0068】
本発明のThエピトープとしては、以下が挙げられる:B型肝炎表面抗原ヘルパーT細胞エピトープ(HB−Th)、百日咳毒素ヘルパーT細胞エピトープ(PT−Th)、破傷風毒素ヘルパーT細胞エピトープ(TT−Th)、麻疹ウイルスFタンパク質ヘルパーT細胞エピトープ(MV−Th)、トラコーマクラミジア主要外膜タンパク質ヘルパーT細胞エピトープ(CT−Th)、ジフテリア毒素ヘルパーT細胞エピトープ(DT−Th)、熱帯熱マラリア原虫スポロゾイドヘルパーT細胞エピトープ(PF−Th)、マンソン住血吸虫トリオースリン酸イソメラーゼヘルパーT細胞エピトープ(SM−Th)、大腸菌Tra TヘルパーT細胞エピトープ(TraT−Th)ならびにこれらのThエピトープの任意の免疫促進アナログおよびセグメント。広範なThエピトープの選択は、Laddらに対する米国特許第5,759,551号に記載され、これらの開示は、その全体が参考として本明細書によって援用される。ヘルパーT細胞エピトープ配列の例は、以下に提供される。
【0069】
(表1.ヘルパーT細胞エピトープ)
【0070】
【表1−1】

【0071】
【表1−2】

特定の実施形態において、本発明は、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するT細胞エピトープを有する:配列番号3;配列番号4;配列番号5;配列番号6;配列番号7;配列番号8;配列番号9;配列番号10;配列番号11;配列番号12;配列番号13;配列番号14;配列番号15;配列番号16;配列番号17;配列番号18;配列番号19;配列番号20;および配列番号21。
【0072】
(抗原設計)
本発明の免疫原性組成物には、抗原(有効量のT細胞ヘルプを提供するT細胞エピトープおよびペプチドAβ(4−10)からなるB細胞エピトープを含む)が挙げられる。
【0073】
本発明の抗原ペプチドは、以下の式によって示される。
【0074】
I.(A)−−(Th)−−(B)−−Aβ(4−10)−−(C)
II.(A)n−−Aβ(4−10)−−(B)−−(Th)−−(C)
III.(D)q−−Aβ(4−10)−−(E)
ここで、A、C、D、およびEは、独立してアミノ酸残基またはアミノ酸残基の配列であり;
ここで、スペーサーであるBは、アミノ酸残基またはアミノ酸残基の配列であり;oが0である場合、Thは、どのようなスペーサー残基も含まずペプチド結合を介してB細胞エピトープに直接結合され;
ここで、n、o、およびpが独立して0〜約20の範囲の整数であり;oが0である場合、Thはどのようなスペーサー残基も含まずB細胞エピトープに直接結合され;
mが、1〜約5の整数であり;
ここでqおよびrは、独立して、0〜約100の範囲の整数であり;
Thは、独立して、ヘルパーT細胞エピトープまたはそれらの免疫促進アナログもしくはセグメントを含むアミノ酸残基の配列であるか;あるいは保存的アミノ酸置換を含むそれらのアナログであり;Thは、タンデムリピートされ得;
Aβ(4−10)は、Aβ42配列番号1の残基4−10(FRHDSGY)または保存的アミノ酸置換を含むそれらのアナログであり;Aβ(4−10)配列番号1は、タンデムリピートされ得るか、そうでなければ多重コピーに存在し得る。
【0075】
本発明はまた、式I、IIおよびIIIによって示される2つ以上のペプチドの組成物を含む。式Iの1つ以上のペプチドは、組成物を形成するために組み合せられ得る。あるいは、式I、IIおよびIII由来の1つ以上のペプチドは、混合物または組成物を形成するために組み合わせられ得る。
【0076】
本発明の抗原ペプチドは、約20〜約100アミノ酸残基、代替的には、約20〜約80アミノ酸残基を有する。特定の実施形態において、本発明の抗原ペプチドは、約20〜約60アミノ酸残基、好ましくは、約20〜約50アミノ酸残基、そしてより好ましくは、約25〜約40アミノ酸残基を有する。別の好ましい実施形態において、抗原ペプチドは、約20〜約35アミノ酸残基を有する。
【0077】
A、B、C、DおよびEは、アミノ酸残基である場合、これらは、任意の天然に存在しないアミノ酸残基または任意の天然に存在するアミノ酸残基であり得る。天然に存在しないアミノ酸としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:βアラニン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、チロキシン、γ−アミノ酪酸、ホモセリン、シトルリンなど。天然に存在するアミノ酸としては、以下が挙げられる:アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリン。さらに、mが少なくとも1つであり、かつA、B、C、DまたはEの基のうち2つ以上がアミノ酸である場合、各アミノ酸は、独立して同じであるか、または異なる。
【0078】
A、B、C、DまたはEの基のアミノ酸は、脂肪酸によって改変され得る。例えば、1つ以上のε−パルミトイルリジンが、AβエピトープにN末端およびC末端で付加され得、そしてペプチド全体がビヒクルの表面上に固定され得る。これらのビヒクルは、免疫刺激因子である脂質Aを含み得る。Nicolauら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:2332−2337(2002)を参照のこと、この開示は、本明細書によってその全体が参考として援用される。
【0079】
Aβ(4−10)エピトープは、タンパク質デンドリマーに、タンパク質抗原の構築のための直交カップリングストラテジー(orthogonal coupling strategy)を使用することによって組み込まれ得る。特異的に構築されたデンドリマーは、有効なワクチン抗原のアセンブリ(例えば、Tamらに対する米国特許第6,310,810(この開示は、本明細書によってその全体が参考として援用される)に記載されるような多重抗原ペプチド構築物が挙げられる)の基礎をなし得る。
【0080】
(抗原およびワクチンとしての合成ペプチド)
多くの場合、有効なワクチンおよびヒト疾患の免疫療法開発のために、免疫原ならびに病原菌としてタンパク質全体および糖タンパク質全体を使用することは、免疫原性の欠如に起因して効果がないか、または非保護的なエピトープを含むことに起因して感染および疾患を亢進させることが証明されている。Osterhausら、Vaccine,7:137−141(1989);Gilbertら、Virus Research,7:49−67(1987);Burke,D.Perspect.Biol.Med.,35:511−530(1992)を参照のこと。
【0081】
ワクチンまたは免疫原性組成物における合成ペプチド抗原の使用は、組換えワクチンに関連する多くの問題を回避する。特定のタンパク質ドメインに対応する合成ペプチドを使用することの利点としては、以下が挙げられる:保護エピトープのみの選択および包含;疾患増強エピトープの排除;有害な自己免疫エピトープの排除;感染性物質の排除;そして、合成ペプチド抗原は、科学的によく規定され、かつ安価に生成され得る。ArnonおよびHorwitz,Curr.Opin.Immunol.,4:449−453(1992)を、参照のこと。
【0082】
不利な点は、この低分子合成ペプチドは、免疫系を呈示するために、主要な組織適合性複合体(MHC)I型およびII型タンパク質を加工するため、またはこれらに結合するために必須の、アミノ酸配列を正確に含まないことがあることである。Rothbard,Biotechnology,20:451−465,(1992)を、参照のこと。別の不利な点は、低分子ペプチドの三次元解析構造が、ネイティブなタンパク質において見出される構造と異なっており、従って、 このペプチドは、保護免疫を提供するための適切な特異性および親和性の体液性免疫を誘導しないことがあることである。Bernardら,Aids Res.and Hum.Retroviruses,6:243−249(1990)を、参照のこと。
【0083】
本発明のペプチド抗原は、広範な種々の方法において調製され得る。このペプチドは、その比較的サイズが小さいゆえに、従来技術に従い、溶液または固体支持体中で合成され得る。種々の自動合成および手動合成が、今日市販され、そして公知のプロトコールに従って使用され得る。例えば、米国特許第5,827,666(Finnらに対する);StewartおよびYoung,Solid Phase peptide Synthesis(第2版)Pierce Chemical Co.,1984;およびTamら,J.Am Chem.Soc.(1983)105:6442を参照のこと。これらの開示は、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【0084】
あるいは、ハイブリッドDNA技術が使用され得る。ここで、合成遺伝子は、そのポリペプチドをコードする一本鎖またはその実質的に相補な鎖を用いて調製され、かつ、この一本鎖は重複しており、ハイブリダイズのためにアニーリング培地中で一緒にされ得る。ハイブリダイズした鎖は、次いで連結されて完全な遺伝子を形成し得、そして、適切な末端の選択により、この遺伝子は、発現ベクター(その多くは今日市販されている)内に挿入され得、そして所望のペプチドを産生させる原核発現系または真核発現系において発現される。例えば、Sambrook,Fritsch & Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y(本明細書中の「Sambrookら,1989」)を、参照のこと。
【0085】
(キャリア)
本出願の範囲内で記載されるような、本発明のAβ(4−10)エピトープ抗原は、キャリア分子と結合されて、T細胞ヘルプを提供し得る。
【0086】
本発明の抗原が共有的に連結(結合)されるキャリア分子は、有利で、非毒性で、薬学的に受容可能で、かつ哺乳類において免疫応答を起こすために十分なサイズである。適切なキャリア分子の例としては、破傷風トキソイド、キーホールリンペットヘモシニアン(KLH)が挙げられ、gp120エンベロープ糖タンパク質のT細胞エピトープ(すなわち、T1およびT2)に対応するペプチドが、非AIDSウイルス由来キャリア分子の代わりとなり得るペプチド(Cease,Proc.Nat’l.Acad.Sci.(USA)84:4249,1987;Kennedyら,J.Biol.Chem.262:5769,1987)。ペプチドはまた、薬学的に受容可能なアジュバント(例えば、ミョウバン)と共に投与され得、または破傷風トキソイドより免疫原性の高い他のキャリア分子と結合され得る。
【0087】
キャリア分子の本発明のペプチド抗原との連結は、直接であり得るか、またはスペーサー分子を介してもよい。スペーサー分子は、有利で、非毒性で、且つ反応性である。ペプチドのアミノ末端に付加される2つのグリシン残基は、Aβ(4−10)配列またはその一部を、キャリア分子と連結するための、適切なスペーサー分子を提供し得る;あるいは、Aβ(4−10)配列またはその一部は、例えば、別の免疫原性アミロイド配列に直接隣接して、例えば、合成され得る。システインは、キャリア分子への結合のために、Aβ(4−10)ペプチドの、N末端またはC末端のどちらかまたは両方に付加され、ジスルフィド結合形成を介した鎖間重合体化を容易にし、より大きな分子集合体を形成し得る。キャリア分子のペプチドへの結合は、結合剤を使用して達成され得る。有利には、ヘテロ機能性結合剤M−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシミドエステル(MBS)または水溶性化合物m−マレイミドベンゾイルスルホサクシミドエステル(スルホ−MBS)が、Greenら,Cell,28:477(1982);およびPalkerら,Proc.Nat’l Acad.Sci.U.S.A.84:2479(1987)に記載のように、使用される。多くの他の結合剤(例えば、グルタルアルデヒド)が、ペプチドを他の分子に結合させるために使用され得る。結合方法は、当該分野で周知である。例えば、G.T.HermansonによるBioconjugate Techniques(Academic Press,San Diego 1996)の第9章(419頁〜455頁)および第11章(494頁〜527頁)を、参照のこと(この開示は、本明細書中でその全体が参考として援用される)。
【0088】
(アジュバント)
抗原の2つの特性は、その免疫原性、すなわちインビボで免疫応答を誘導するその能力(特異的抗体の形成を含む)、およびその抗原性、すなわち配列および構造に特異的な抗体によって選択的に認識される能力である。
【0089】
幾つかの抗原は、自身に投与された場合、弱くしか免疫原性でない。従って、弱い免疫原性抗原は、効果的な免疫治療または生物の保護を提供するために必須の免疫応答を、誘導し損なうことがある。
【0090】
抗原の免疫原性は、さらなる物質(アジュバントと呼ばれる)との混合物として投与によって高められ得る。アジュバントは、免疫系に直接作用するかまたは抗原の徐放をもたらすことにより、抗原に対する免疫応答を高めるように作用する。従って、アジュバントは、抗原の治療動態学的(thepharmacokinetic)特性を修正し、そして抗原と免疫応答との間の相互作用時間を延長する。アジュバントの使用は、当該分野で周知であり、そして多くの適切なアジュバントが、使用され得る。免疫原性組成物の調製およびアジュバントの使用は、概して、「Vaccine Design−−The subunit and adjuvant approach」(Ed.Powell and Newman)Pharmaceutical Biotechnology Vol.6 Plenum Press 1995において記載され、この開示は、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【0091】
最も広く知られているアジュバントは、フロイントアジュバント(鉱油中生理食塩水の中にミコバクテリアの死骸を含有する乳剤)およびフロイント不完全アジュバント(ミコバクテリアの死骸を含有しない)である。
【0092】
アジュバントは、抗原に対する免疫応答の強度を増加し得るか、または免疫系の特定の活性化をもたらし得る。アジュバントの5つの一般的な分類が存在する。(1)水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムのようなアルミニウム塩、(2)サポニンおよびQuill A、Quill A/ISCOM、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド/アルビジン(arvidine)のような界面活性剤、(3)ポリアニオン;(4)フロイント完全、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(ムラミルジペプチド)、N−アセチルムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(トレオニルMDP)のような細菌性誘導体、(5)フロイントの不完全(油乳剤)、リポソームのようなビヒクルおよび徐放物質が、挙げられる。A.C.AllisonおよびN.E.ByarsによるNew Generation Vaccines、第11章、129頁〜140頁、「Adjuvants for a New Generation of Vaccines」(Marcel Dekker,New York,1990)を、参照のこと。
【0093】
本発明の免疫原性組成物は、抗原およびアジュバントを含有する。適切なアジュバントとしては、ミョウバン(水酸化アルミニウムゲルまたはリン酸アルミニウムのようなアルミニウム塩)が挙げられるが、カルシウムの塩、鉄の塩、亜鉛の塩もあり得る。他の適切なアジュバントとしては、アクリル化チロシンもしくはアクリル化糖類、カチオン誘導化多糖類もしくはアニオン誘導化多糖類、またはポリホスファゼンの不溶性懸濁物が、挙げられる。
【0094】
アジュバント系を作成するのにアジュバントの組み合わせが使用され得る。適切なアジュバント系としては、例えば、モノホスホリルリピドA(好ましくは、3−de−O−アシル化モノホスホリルリピドA)(3D−MPL)とアルミニウム塩の組み合わせが挙げられる。代替のアジュバント系は、例えば、RIBI ADJUVANT SYSTEMTM(モノホスホリルリピドA(好ましくは、3−de−O−アシル化モノホスホリルリピドA)(3D−MPL)、合成トレハロースジコリノミコレート、および細胞壁骨格物質の組み合わせ)を含む。強化系は、モノホスホリルリピドAおよびサポニン誘導体の組み合わせ(特に、WO94/00153に開示されるようなQS21と3D−MPLとの組み合わせ)、またはWO96/33739に開示されるような、QS21がコレステロールでクエンチされた低反応性組成物を含む。水中油エマルジョン中にQS21、3D−MPL、およびトコフェロールを含む特に強力なアジュバント処方物が、WO95/17210に記載されており、好ましい処方物である。WO94/00153、WO96/33739、およびWO95/17210の開示は、それらの全体が本明細書中で参考として援用される。
【0095】
あるいは、本発明の免疫原性組成物は、Fullerton、米国特許第4,235,877号(その全体が本明細書中で参考として援用される)により記載されるようなリポソームまたはビヒクル中にカプセル化され得る。
【0096】
(抗体構造)
本発明は、Aβ(4−10)エピトープに結合しアミロイド沈着および原線維形成を阻害する抗体またはその抗原結合フラグメントを企図する。一般的に、基本抗体構造単位は、テトラマーを含むことが知られている。各テトラマーは、2つの同一のポリペプチド鎖対を含み、各対は、1つの「軽」鎖(約25kDa)および1つの「重」鎖(約50〜70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識を担う約100〜110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を含み得る。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能を担う定常領域を規定し得る。代表的には、ヒト軽鎖は、κ軽鎖およびλ軽鎖として分類される。さらに、ヒト重鎖は、代表的に、μ、γ、α、またはεとして分類され、そしてそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして抗体のアイソタイプを規定する。軽鎖および重鎖内では、可変領域および定常領域は、約12以上のアミノ酸の「J」領域により連結されており、重鎖はまた、約10以上のアミノ酸の「D」領域を含む。J.K.FrazerおよびJ.D.Capra,「Immunoglobulins:Structure and Function」,pp.37−75,Fundamental Immunology,第4版,W.F.Paul編,Lippencott−Raven,Philadelphia,PA(1999)(Frazer)を参照のこと(全ての目的のためにその全体が本明細書中で参考として援用される)。
【0097】
各軽/重鎖対の可変領域は、抗体結合部位を形成し得る。従って、一般的には、インタクトなIgG抗体は、2つの結合部位を有する。二機能性または二特異性抗体を除いて、2つの結合部位は、一般的に同一である。
【0098】
通常、全ての鎖は、3つの超可変領域により連結された、同じ一般構造の比較的保存されたフレームワーク領域(FR)(相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる)を示す。各対の2つの鎖由来のCDRは、通常、フレームワーク領域によって整列され、特定のエピトープへの結合を可能にする。一般的に、N末端からC末端に向かって、軽鎖および重鎖の両方は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4のドメインを含む。一般的に、各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health,Bethesda,Md.(1987および1991)、またはChothiaら,J.Mol.Biol.196:901−917(1987);Chothiaら,Nature 342:878−883(1989))に従う。
【0099】
(抗体のタイプ)
用語「抗体分子」は、抗体およびそのフラグメントを含むがこれらに限定されない。この用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二特異的抗体、、Fab抗体フラグメント、F(ab)抗体フラグメント、Fv抗体フラグメント(例えば、VまたはV)、単鎖Fv抗体フラグメント、およびdsFv抗体フラグメントを含む。さらに、本発明の抗体分子は、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体であり得る。好ましくは、抗体分子は、モノクローナル完全ヒト抗体である。
【0100】
本発明の抗Aβ(4−10)抗体分子は、好ましくは、ヒトアミロイドAβタンパク質およびペプチドを認識する;しかし、本発明は、異なる種(好ましくは、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、またはイヌ))由来のアミロイドAβタンパク質およびペプチドを認識する抗体分子を含む。
【0101】
さらに、本発明の抗Aβ(4−10)抗体分子は、ヒトモノクローナル抗体由来であり得る。このような抗体は、抗原チャレンジに応答して特定のヒト抗体を生成するよう「操作」されたトランスジェニックマウスから得られる。この技術において、ヒト重鎖および軽鎖の遺伝子座のエレメントは、内因性重鎖および軽鎖の遺伝子座の標的化された破壊を含む胚性幹細胞から誘導されたマウス系統に導入される。トランスジェニックマウスは、ヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成し得、そしてマウスは、ヒト抗体分泌ハイブリドーマを生成するために使用され得る。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得る方法は、Greenら,Nature Genet.7:13(1994),Lonbergら,Nature 368:856(1994)、およびTaylorら,Int.Immun.6:579(1994)に記載される。
【0102】
好ましい実施形態において、Aβ(4−10)に対する完全ヒトモノクローナル抗体は、マウス系ではなくヒト免疫系のパーツを有するトランスジェニックマウスを用いて生成される。これらのトランスジェニックマウス(本明細書中で、「HuMAb」マウスと称され得る)は、内因性μおよびκ鎖の遺伝子座を不活性させる標的化された変異と共に、再配置されていないヒト重鎖(μおよびγ)およびκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子小遺伝子座を含む(Lonberg,N.ら(1994)Nature 368(6474(856−859)。従って、このマウスは、減少したマウスIgMおよびκの発現を示し、そして免疫化に応答して、導入されたヒト重鎖および軽鎖導入遺伝子がクラススイッチおよび、高親和性ヒトIgGモノクローナル抗体を生成する体細胞変異を起こす(Lonberg,N.ら(1994),前出;Lonberg,N.(1994)Handbook of Experimental Pharmacology 113:49−101において総説されている;およびLongerg,N.ら(1995)Intern.Rev.Immunol.13:65−93)。HuMAbマウスの調製は、当該分野で一般的に公知であり、例えば、Lonberg,N.(1994)Handbook of Experimental Pharmacology 113:49−101;Lonberg,N.ら,(1995)Intern.Rev.Immunol.Vol.13:65−93;Fishwild,D.ら,(1996)Nature Biotechnology 14:845−851に記載されている。米国特許第5,814,318号;同第5,874,299号;および同第5,770,429号(全て、LobergおよびKay、ならびにGenPharm International);米国特許第5,545,807号(Suraniら)をさらに参照のこと(これらの全体が本明細書中で参考として援用される)。
【0103】
Aβ(4−10)に対する完全ヒトモノクローナル抗体を生成するために、HuMabマウスは、本発明のAβ(4−10)抗原を含む免疫原性組成物で免疫され得る。好ましくは、マウスは、第1免疫の際に6〜16週齢である。例えば、本発明のAβ(4−10)抗原を含む免疫原性組成物は、HuMabマウスを腹腔内免疫するために使用され得る。マウスはまた、Aβ(4−10)含有遺伝子で安定に形質転換またはトランスフェクトされた全HEK293細胞で免疫され得る。「抗原性Aβ(4−10)ポリペプチド」は、HuMabマウスにおいて抗Aβ(4−10)免疫応答を誘発するその任意のフラグメントのAβ(4−10)のことを言い得る。
【0104】
一般的に、HuMAbトランスジェニックマウスは、完全フロイントアジュバント中の抗原で最初に腹腔内(IP)免疫し、その後、不完全フロイントアジュバント中の抗原で毎週IP免疫(通常、6週まで)する場合、最も応答する。マウスは、最初、Aβ(4−10)を発現する細胞(例えば、安定に形質転換されたHEK293細胞)で、次いで、Aβ(4−10)を含む抗原の可溶性フラグメント(例えば、本発明の免疫原性組成物)で免疫され得、そして2つの抗原による交互の免疫を連続的に受け得る。免疫応答は、眼窩の後部(retro−orbital)または尾部の採血により得られた血漿サンプルを用いた免疫プロトコールの課程にわたってモニタリングされ得る。血漿は、抗Aβ(4−10)抗体の存在について、例えば、ELISAによってスクリーニングされ得、そして十分な免疫グロブリン力価を有するマウスは、融合のために使用され得る。マウスは、屠殺および脾臓採取の3日前に抗原で静脈内ブーストされ得る。各抗原について2〜3の融合が実施されることが必要であり得ると考えられる。数匹のマウスが、各抗原について免疫され得る。例えば、HC07およびHC012系統のHuMabマウス合計12匹が免疫され得る。
【0105】
モノクローナルの完全なヒト抗Aβ(4−10)抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、次いで、当該分野で一般に公知である方法により産生され得る。これらの方法は、制限されずに、当初、Kohlerら、Nature 256:495〜497(1975)によって開発されたハイブリドーマ技法;およびトリオーマ技法、Heringら、Biomed.Biochim.Acta.47:211〜216(1988)、およびHagiwaraら、Hum.Antibod.Hybridomas 4:15(1993);ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Kozborら、Immunology Today 4:72(1983);およびCoteら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 80:2026〜2030(1983);およびEBV−ハイブリドーマ技法(Coleら、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss、Inc.,77〜96頁、1985)を含む。好ましくは、マウス脾細胞が単離され、そして標準的なプロトコールに基づき、PEGを用いて、マウス骨髄腫細胞株に融合される。得られるハイブリドーマを、次いで、抗原特異的抗体の産生についてスクリーニングされる。例えば、免疫化されたマウスからの脾臓リンパ球の単一細胞懸濁液を、1/6の数のP3X63−Ag8.653非分泌性マウス骨髄腫細胞(ATCC、CRL 1580)に50%PEGを用いて融合する。細胞を、約2×10細胞で平底マイクロタイタープレートに入れ、20%ウシ胎児血清、18%「653」調整培地、5%オリゲン(IGEN)、4mM L−グルタミン、1mM L−グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、5mM HEPES、0.055mM 2−メルカプトエタノール、50単位/mlペニシリン、50mg/mlストレプトマイシン、50mg/mlゲンタマイシンおよび1×HAT(Sigma;このHATは、融合後24時間で添加される)を含む選択培地中、2週間インキュベーションする。2週間後、細胞を、HATがHTで置換される培地中で培養する。次いで、個々のウェルを、ELISAにより、ヒト抗Aβ(4−10)モノクローナルIgMおよびIgG抗体についてスクリーニングする。一旦、広範なハイブリドーマ成長が生じると、培地は、通常、10〜14日後に観察される。抗体分泌ハイブリドーマは、再びプレートに入れ、再びスクリーニングされ、そしてなお、ヒトIgGについて陽性であれば、抗Aβ(4−10)モノクローナル抗体は、少なくとも2回の制限希釈によってサブクローンされ得る。次いで、安定なサブクローンがインビトロで培養され、特徴付けのために、組織培養培地中で少量の抗体を生成する。
【0106】
本発明の抗Aβ抗体分子はまた、組換えにより産生され得る(例えば、上記のようなE.coli/T7発現系中)。この実施形態では、本発明の抗体分子(例えば、VまたはV)をコードする核酸は、petを基礎にしたプラスミド中に挿入され得、E.coli/T7系中で発現され得る。当該分野で周知である組換え抗体を生成するいくつかの方法がある。抗体の組換え産生のための方法の1つの例は、米国特許第4,816,567号中に開示され、これは、その全体が参考として本明細書中に援用される。抗体分子はまた、CHOまたはNSO細胞中で組換えにより産生され得る。
【0107】
本明細書で用いられる用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体、すなわち、個々の抗体を含むこの集団が、少数存在し得る可能な天然に生じる変異を除いて同一である、抗体の集団から得られる抗体をいう。モノクローナル抗体は、単一の抗原部位に対して惹起されており、高度に特異的である。モノクローナル抗体は、それらは、その他の免疫グロブリンによって本質的に汚染されていない、ハイブリドーマ培養によって合成され得るという点で有利である。修飾語「モノクローナルの」は、抗体の特徴が抗体の実質的に均一な集団から得られており、そして任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。上記のように、本発明に従って用いられるべきモノクローナル抗体は、Kohlerら、Nature 256:495(1975)によって最初に記載されるハイブリドーマ法によって作製され得る。
【0108】
ポリクローナル抗体は、1つ以上のその他の同一でない抗体の間または存在下で産生された抗体である。一般に、ポリクローナル抗体は、同一でない抗体を産生する、いくつかの他のBリンパ球の存在下、Bリンパ球から産生される。通常、ポリクローナル抗体は、免疫化された動物から直接得られる。
【0109】
用語「完全なヒト抗体」は、ヒト免疫グロブリン配列のみを含む抗体をいう。同様に、「マウス抗体」は、マウス免疫グロブリン配列のみを含む抗体をいう。
【0110】
本発明は、「キメラ抗体」−別の非ヒト種(例えば、マウス、ウマ、ウサギ、イヌ、ウシ、ニワトリ)から抗体領域(例えば、定常領域)と融合またはキメラ化された本発明の可変領域を含む抗体を含む。これら抗体は、非ヒト種において、Aβ(4−10)の発現または活性を調節するために用いられ得る。
【0111】
「ヒト化抗体」は、別のヒト抗体の定常領域に付着した、別のヒト抗体または非ヒト可変領域のフレームワーク内の非ヒトCDRを含む抗体をいう。本発明は、非ヒト種からのCDRまたは可変領域を含み、本発明の可変領域またはCDRのアミノ酸配列を含む、ヒト化抗体を企図する。
【0112】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、免疫グロブリンは異なるクラスに割り当てられ得る。少なくとも5つの免疫グロブリンの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMが存在し、そしてこれらのいくつかは、サブクラス(イソ形)、例えば、IgG−1、IgG−2、IgG−3およびIgG−4;IgA−1およびIgA−2にさらに分割され得る。好ましくは、本発明の抗体分子は、IgG−1またはIgG−4である。
【0113】
本発明の抗体はまた、99Tc、90Y、111In、32P、14C、125I、H、131I、11C、15O、13N、18F、35S、51Cr、57To、226Ra、60Co、59Fe、57Se、152Eu、67CU、217Ci、211At、212Pb、47Sc、109Pd、234Th、および40Kのような放射性同位体標識、ならびに157Gd、55Mn、52Tr、56Feのような非放射性同位体標識と結合され得る。
【0114】
本発明の抗体はまた、希土類元素キレート、フルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、イソチオシアネート、フィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド、フルオレスカミン、152Eu、ダンシル、アンベリフェロン、ルシフェリン、発光標識、イソ発光(isoluminal)標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジミウム塩標識、オキサレートエステル標識、エクオリン標識、2,3−ジヒドロフタラジンジオン、ビオチン/アビジン、スピン標識および安定なフリーラジカルのような蛍光物質を含む、蛍光または化学発光標識と結合され得る。
【0115】
本発明の抗体分子を種々の成分に結合するために当該技術分野で公知の任意の方法が用いられ得、Hunterら、Nature 144:945(1962);Davidら、Biochemistry 13:1014(1974);Painら、J.Immunol.Meth.40:219(1981);およびNygren J.、Histochem.およびCytochem.30:407(1982)によって記載されるような方法を含み、これらの開示は、それらの全体が参考として本明細書により援用される。抗体を結合するための方法は、通常であり、そして当該分野で周知である。
【0116】
本発明はまた、Aβ(4−10)またはAβペプチドに結合する分子を含む免疫原性組成物の投与に基づく特定の治療方法に関する。従って、Aβ(4−10)を含む抗原は、加齢におけるプラーク沈着、またはアルツハイマー病のようなヒト疾患を阻害またはこれらに対して薬効を増大するために投与され得る。
【0117】
本発明はまた、Aβ(4−10)抗原およびそのアナログを作製、同定、精製、特徴付ける方法;およびAβ(4−10)抗原およびそのアナログを用いる方法を包含する。Aβ(4−10)抗原は、天然の供給源から単離されたより大きなアミロイドペプチドのタンパク質分解切断を含む改変により、遺伝子操作技法、または化学的合成、例えば、固相ペプチド合成により産生され得るか;または遺伝子操作または固相ペプチド合成によってデノボで産生され得る。
【0118】
(分子生物学)
本発明に従って、当業者の技術範囲内の通常の分子生物学、微生物学、および組換えDNA技術が用いられ得る。このような技術は、文献中に完全に説明されている。例えば、Sambrook,Fristsch & Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(本明細書中で「Sambrookら、1989」);DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover編 1985);Oligonucleotide Synthesis (M.J.Gait編 1984);Nucleic Acid Hybridization [B.D.Hames & S.J.Higgins編(1985)];Transcription And Translatrion[B.D.Hames & S.J.Higgins編(1984)];Animal Cell Culture [R.I.Freshney編(1986)];Immobilized Cells And Enzymes[IRL
Press,(1986)];B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);F.M.Ausubelら(編),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.(1994)を参照のこと。
【0119】
(CRND8 マウス)
TgCRND8マウスは、三ヶ月齢までのCNSにおけるAβ合成およびアミロイド沈着の高いレベルを示すADの動物モデルである。国際公開番号WO01/97607(12/27/01に発行され、その開示が本明細書中にその全体において参考として援用されている)を参照のこと。さらに、TgCRND8マウスが、アミロイド沈着が始まる期間中に認識の変化を示す。トランスジェニックTgCRND8マウスモデルが、CNSにおけるAβアミロイドタンパク質の発現ならびに組織的分析、神経学および行動欠損に基づいて、自然に存在するアルツハイマー病表現型に対する大きな類似性によって特徴付けられる。
【0120】
APP遺伝子は、選択的なスプライシングを経て、3つの一般的なアイソフォームを生成する。770アミノ酸を含む最も長いアイソフォーム(APP770)および751アミノ酸を含む2番目に最も長いアイソフォーム(APP751)は、ほとんどの組織において発現される。695アミノ酸を含む、3番目の転写物(APP695)は、脳中で大部分が発現される。変換により、最も長いアイソフォーム(APP770)のコドン番号付けが、より短いアイソフォームのコドン位置をいう場合でさえ、使用される。
【0121】
TgCRND8トランスジェニックマウスは、脳特異的APP695アイソフォームの変異体形態を発現するトランスジーンを含む;このトランスジーンは、「Swedish」および「Indiana」APP変異の両方を有する。
【0122】
変異K595N/M596L(Swedish変異)およびV642F(Indiana変異)を含む(APP695のコドン番号付けを使用する)APP695 cDNAが、生成される。これらのAPP変異および他のAPP変異が、より一般的なAPP770コドン番号付けシステムにより、本明細書中で言及される(すなわち、これら2つの変異については、K670N/M671L(Swedish変異)およびV717F(Indiana変異))。
【0123】
二重変異APP695 cDNAカセットは、コスミド発現ベクター、cosTet中に挿入され、このベクターは、Syrianハムスタープリオンタンパク質遺伝子プロモーターを含む。次いで、このベクターを、マウス卵母細胞中に微量注入して、TgCRND8と呼ばれるトランスジェニック株を作製した。これらのマウスは、3ヵ月齢まで複数の広汎性アミロイド沈着物(diffuse amyloid deposits)を示し、この時空間学習における欠損が、明らかになる。
【0124】
TgCRND8マウスは、AD関連変異を有する種々の他のトランスジェニックマウスと交配され、2重トランスジェニックマウス(bi−transgenic mouse)を作製し、このマウスはさらに、高められたAD関連神経病理学を示す。
【0125】
(処置の投与および方法)
本発明はまた、Aβ(4−10)抗原を使用する方法を含み、Aβ42のプラークへの結合と干渉する薬物を同定する。1つのこのような局面は、Aβ42の効果を模倣し、そして/または補完する薬物を同定する薬物スクリーニングアッセイを包含する。1つのこのような実施形態において、薬物ライブラリーが、Aβ(4−10)を含むペプチドの、特異的な低分子に対する結合活性をアッセイすることにより、スクリーニングされる。プラークに対するAβ42の親和性に対する保護的薬物の効果が、モニタリングされる。薬物がAβ42のプラークに対する結合親和性を減少する場合、この薬物は、候補薬物となる。薬物は、プラーク形成を中断させ、原線維発生プロセスを阻害し、または実施された原線維を構成要素に分ける能力についてスクリーニングされ得る。
【0126】
抗原、抗体または他の本発明に有用な化合物が、薬学的組成物の成分として組み込まれ得る。薬学的組成物は、好ましくは、薬学的に有効なキャリアと、抗原、抗体またはその他の化合物の少なくとも1つの治療量または予防量とを含む。
【0127】
本発明の方法に有用な薬学的組成物を調製する際に、任意の適合性の、患者に対する本明細書中で開示される方法に従って同定される抗原、抗体またはその結合フラグメントあるいは治療化合物を送達するのに適切な、非毒性物質である、薬学的キャリアが使用されるべきである。滅菌水、アルコール、脂肪、ワックス、不活性固体、およびリポソームさえが、キャリアとして使用され得る。薬学的に受容可能なアジュバント(緩衝化剤、分散剤)がまた、薬学的組成物中に組み込まれ得る。抗体およびその薬学的組成物は、非経口投与(すなわち、静脈内、動脈内、筋肉内、または皮下)のために特に有用である。しかし、鼻内または他のエアロゾル処方物がまた、有用である。投与のための処方物における抗体のような化合物の濃度は、非常に広範、すなわち、約0.5重量%未満、普通少なくとも1重量%から、15重量%または20重量%以上まで、であり得、そして選択される投与の特定の様式に対して好ましい流体体積、粘度などに主に基づいて、主に選択される。投与可能な組成物を調製するための実際の方法は、当業者に公知または明らかであり、そして例えば、Remington’s Pharmaceutical Science,18th Ed.Mack Publishing Co.,Easton,Pa.(1990)に詳細に記載され、これは、参考として本明細書中に援用される。
【0128】
本発明の免疫原生組成物、抗体または抗原結合フラグメントが、被験体中のアミロイド沈着(またはアミロイド負荷)を調節するのに十分な治療有効投薬量で投与される。「治療的有効投薬量」は、処置されない被験体に対して、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、さらにより好ましくは少なくとも約60%、そしてなおより好ましくは少なくとも約80%、アミロイド沈着を調節する。アミロイド沈着を調節する方法の能力は、ヒト疾患におけるアミロイド沈着を調節する効力を予測し得るモデル系(例えば、当該分野で公知の動物モデル系(例えば、PCT公開番号WO96/28187に記載される方法))において、またはインビトロの方法(例えば、PCT公開番号WO97/07402に記載されるCharkrabarttyの方法)により、または本明細書中に記載されるTgCRND8モデル系において、評価され得る。さらに、被験体中のアミロイド沈着の量または分布は、例えば、アミロイド沈着物と結合し得る放射線標識されたトレーサーの使用、続くアミロイド沈着物を画像化するシンチグラフィーにより、インビボで非侵襲的にモニタリングされ得る(例えば、Aprile,C.ら、Eur.J.Nuc.Med.22:1393(1995);Hawkins,P.N.,Baillieres Clin.Rheumatol.8:635(1994)およびここで引用される参考文献を参照のこと)。従って、例えば、被験体のアミロイド負荷は、本発明の方法に従う処置の期間の後に評価され、そして本発明の治療的化合物で治療を始める前に被験体のアミロイド負荷と比較されて、被験体中のアミロイド沈着物に対する治療化合物の効果を決定し得る。
【0129】
アミロイド沈着またはアミロイド負荷を調節する本発明の方法の能力が、特定の実施形態において、インビボでのアミロイド沈着またはアミロイド負荷と関連する症状または徴候を観察することにより、評価され得ることが理解される。従って、例えば、アミロイド沈着またはアミロイド負荷を減少させる本発明の方法の能力は、裏に隠されたアミロイド関連疾患状態または症状の臨床的な病気の症状、あるいは症状の徴候の進行を遅くまたは延期することにおける観察可能な改善と関連付けられ得る。従って、疾患の臨床的な病気の症状をモニタリングすることは、本発明の方法のアミロイド調節効力を評価する際に有用であり得る。
【0130】
本発明の方法は、アミロイド沈着が生じる他の疾患に関連するアミロイド症の処置に有用であり得る。臨床的に、アミロイド症は、原発性、続発性、家族性または孤立性であり得る。アミロイドは、アミロイド内に含まれるアミロイド形成性タンパク質のタイプによって分類されてきた。調節され得るアミロイドの非限定的な例は、そのアミロイド形成性タンパク質によって同定されるように、以下のとおりである(アミロイド形成性タンパク質の後ろの括弧内の関連の疾患である):β−アミロイド(アルツハイマー病、ダウン症候群、遺伝性脳性出血性アミロイド症[オランダ]、脳血管障害);アミロイドA(反応性[続発性]アミロイド症、家族性地中海熱、蕁麻疹および難聴を伴う家族性アミロイドニューロパシー[Muckle−Wells症候群]);アミロイドκL鎖またはアミロイドλL鎖(突発性[原発性]、骨髄腫またはマクログロブリン血症関連);Aβ2M(慢性血液透析);ATTR(家族性アミロイド多発性ニューロパシー[ポルトガル、日本、スウェーデン]、家族性アミロイド心筋症[デンマーク]、孤立性心臓アミロイド、全身性老人性アミロイド症);AIAPPまたはアミリン(成人発症糖尿病、インスリノーマ);心房性ナトリウム利尿因子(孤立性心房性アミロイド);プロカルシトニン(甲状腺の髄様癌);ゲルソリン(家族性アミロイド症[フィンランド]);シスタチンC(アミロイド症を伴う遺伝性小脳出血[アイスランド]);AApoA−I(家族性アミロイド症多発性ニューロパシー[アイオワ]);AApoA−II(マウスにおける加速された老齢化);フィブリノーゲン関連のアミロイド;リゾチーム関連のアミロイド;およびAScrまたはPrP−27(スクラピー、クロイツフェルト−ヤーコプ病、ゲルストマン−シュトロイスラー症候群、ウシの海綿状脳症)。
【0131】
以下の実施例は、例示のために提供され、限定のためではない。
【実施例】
【0132】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
(実施例1)
(抗原合成および構造の特徴付け)
この実施例において、本発明者らは、合成Aβペプチド免疫原をどのように合成し、精製しそして特徴付けするかを記載する。
【0133】
以下のAβペプチド:Aβ42、Aβ40、Aβ30およびN末端エピトープペプチドの合成を、ABIMED EPS−221半自動化ペプチド合成機を用い、NovaSyn(Novabiochem)PEGグラフトポリマー樹脂およびFmocN末端保護法を記載されるようにして使用して実施した。Mayer−Fliggeら、J.Pept.Sci.4:355−363(1998)を参照のこと。Fmoc−脱保護工程および最終の脱保護サイクルを分光学的にモニタリングした。これらの合成ペプチドを、半調製用逆相C18μbondapakHPLCカラムを使用して精製した。
【0134】
次いで、精製した合成ペプチドの分子量を、プラズマ脱離質量分光法(MALDI)およびエレクトロスプレー質量分光法(ESI)によって特徴付けした。推定質量に対応する分子量を有するペプチド画分のみを、後の免疫に使用した。
【0135】
溶液中のペプチドの二次構造を、円偏光二色性(CD)を使用して評価した。このCDスペクトルを、JASCO J−500分光計を使用して記録した。Mayer−Fliggeら,J.Pept.Sci.4:355−363(1998)を参照のこと。さらに、NMR研究を、以前に記載されるようなBruker−AMX−600機器を用いる2D−NMR−NOESY分析を使用して実施した。Michelsら,「Structure and Functional Characterization of theperiplasmis N−terminal polypeptide domain of the sugar specific ion channel protein(scry−porin)」Protein Science(2002版)。
【0136】
(実施例2)
(Aβ42でのCRND8マウスの免疫)
この実施例において、本発明者らは、Aβ42ペプチドが、APP導入遺伝子を発現するマウスおよび非トランスジェニックマウスにおいて免疫原性であることを示す。
【0137】
(マウス)
TgCRND8マウスは、Chishtiら,J.Biol.Chem.276:21562−21570(2001)(この開示は、その全体が本明細書中で参考として援用される)によって他の場所で記載されている。これらのマウスを、β−APP695転写物上でシスでβ−APPSwedishおよびβ−APPV717F変異を過剰発現する非近交系C3H/C57BL/6Jバックグランドに維持した。β−APPSwedish遺伝子およびβ−APPV717F遺伝子を、シリアハムスタープリオン遺伝子プロモーターの制御下においた。C3H/C57BL6(82%/18%)導入遺伝子陽性ヘミ接合性マウスとwt C57BL/6Jマウスとの交配により誘導されたTgCRND8マウスを離乳させ、β−APP導入遺伝子の存在についてゲノム型決定し、標準的なマウスケージ中に、2〜4匹の同性のグループを収容した。これらのマウスに、食餌ペレット、粉末食餌および水を自由に与えた。全てのマウスを1週間飼育し、その後、1回目の免疫をし、そしてそれらの体重を、免疫の前および全ての免疫の2日後に記録した。実験グループの全ては、同じ性別および体重であった。
【0138】
(免疫プロトコールおよび血清単離)
合成Aβ42および島アミロイドポリペプチド(IAPP)ペプチドの残基8〜37(ATQRLANFLVHSSNNFGAILSSTNVGSNTY)(配列番号52)から構成されるコントロールペプチドを、C18μbondapakを用いる逆相HPLCによって単離し、そしてこれらのペプチドの純度を、質量分析およびアミノ酸分析によって決定した。
【0139】
免疫プロトコールおよびスケジュールは、Schenkら,Nature 400:173−177(1999)(この開示は、その全体が本明細書中で参考として援用される)に以前に記載された通りであった。次いで、抗体力価を、血清サンプル(200μlの血液)(13週齢で、後脚静脈の穿刺により、そして25週齢で、この手順の停止時に、心臓穿刺によって収集した)中で決定した。これらの研究で使用する前に、補体を、56℃で30分間インキュベートすることによって不活性化した。IG画分を、5mlのプロテインGカラムで単離した。サンプルを充填し、PBSで洗浄し、0.1Mのクエン酸Naで溶出し、そして1MのTrisで緩衝化した。全てのIg画分を、使用前に濾過滅菌した。
【0140】
(免疫の結果)
血清を、非免疫マウス(N=18)から、ならびにTgCRND8マウスおよびその非トランスジェニック同腹子の両方から単離した。これらのマウスは、5ヶ月にわたって、Aβ42(n=34、18 TgCRND8および16 非Tg)または末梢アミロイドペプチド(島関連ポリペプチド(IAPP))のいずれかで繰返し免疫されており、ここで免疫されたマウスの数は、17匹であり、10匹がTgCRND8であり、7匹が非トランスジェニック(non−tg)であった。これらのマウスは、Aβ42に対して(1:5000〜1:50,000)、およびIAPPに対して(1:5000〜1:30,000)有意な力価を発生した。興味深いことに、TgCRND8トランスジェニックマウスおよびそれらの非トランスジェニック同腹子の抗Aβ42力価における有意な差違は検出されなかった。Aβ42免疫マウス由来の血清の全てのサンプルは、20週齢の非免疫TgCRND8マウス由来の脳の組織学的切片中の成熟Aβプラークをポジティブに染色し得た。対照的に、コントロールペプチドIAPP免疫マウスおよび非免疫マウス由来の血清は、20週齢の非免疫TgCRND8マウス由来の脳の組織学的切片中の成熟Aβプラークを染色し得なかった。従って、これらの結果は、Aβを含む神経病理学的プラークを認識しそしてそれに結合し得る抗体自己免疫が誘導され得ることを示す。
【0141】
(実施例3)
(マウス免疫血清による原線維形成の阻害)
本実施例において、表2に示されるように、本発明者らは、ほとんどのAβ42免疫マウス由来の血清が、原線維形成を阻害したことを示す。
【0142】
低濃度のAβペプチドの溶液において、14日間のインキュベート期間にわたって、自発的に原線維へと集合する。これらの原線維は、50〜70Åという特徴的な直径を有し、これは、以下に記載されるように電子顕微鏡によってモニタリングされ得る。
【0143】
(電子顕微鏡)
10mg/mlのストック濃度の水中での可溶化後または成熟アミロイド原線維への集合後に、Aβ42を直接使用した。100μg/mlの最終ペプチド濃度の血清の存在下および非存在下において、Aβ42をインキュベートした。種々の血清の連続希釈液をAβ42に加え、室温(RT)で2週間までインキュベートした。ネガティブ染色電子顕微鏡にのために、炭素でコーティングしたピオロ型(pioloform)格子を、ペプチドの水溶液上に浮遊させた。格子をブロットし、風乾した後、これらのサンプルを1%(w/v)のリンタングステン酸により染色した。ペプチド集合体を、Hitachi 7000電子顕微鏡(倍率60,000倍、75Vで操作した)で観察した。
【0144】
(電子顕微鏡結果)
Aβから原線維への集合に対するAβ免疫マウス血清の効果を評価するために、Aβ42の存在下および非存在下において、上述のように37℃で14日まで血清をインキュベートした。各反応混合物からのアリコートを、ネガティブ染色電子顕微鏡によって、Aβ42原線維の存在下、1日目、3日目、7日目、10日目および14日目に試験した。
【0145】
血清の非存在下、または非免疫血清の存在下では、Aβ42は、50〜70Åという特徴的な直径を有する、長い原線維(約7500Å)を形成した。従って、長い原線維は、正常な血清成分が現在のアッセイ条件下では、Aβ原線維形成を阻害しないこを示した。IAPP免疫動物由来の血清の存在下では、より少ない長いAβ42原線維が生成されたが、形成した原線維は、50〜70Åという特徴的な直径を有した。対照的に、表2に示されるように、Aβ42免疫マウス血清(n=27/34)の大部分は、原線維形成を非常に阻害したが、幾つかの血清(n=7/34)は、ほとんどまたは全く効果を有さなかった。さらに、TgCRND8マウス由来または非トランスジェニック同腹子由来のAβ免疫血清は、等しくAβ原線維形成を阻害し、これは、抗体レパートリーが、免疫原のみに依存し、内因性Aβ42の充填には依存しないことを示す。
【0146】
表2にまとめられているように、非免疫マウス血清の存在下でインキュベートした場合、原線維の構造の差は、検出できなかった。IAPPで免疫したマウス由来の血清は、原線維形成の程度を減少させたが、形成した原線維は、Aβ42単独によって形成された原線維に類似していた。最後に、Aβ42で免疫したマウス由来の血清は、完全な阻害から原線維密度のわずかな減少のみという種々の程度まで原線維形成を阻害した(表2を参照のこと)。
【0147】
表2 原線維形成、原線維分解および細胞毒性に対する、非免疫Aβ42免疫血清およびIAPP免疫血清の効果のまとめ
【0148】
【表2】

(実施例4)
(免疫血清による存在する原線維の破壊)
本実施例において、本発明者らは、Aβ42免疫マウス由来の血清が、以前に形成されたAβ42原線維を分解するが、以前に形成されたAβ42原線維は、非免疫コントロールマウス血清とのインキュベーションによっても、IAPP免疫マウス由来の血清によっても影響を受けなかったことを示す。
【0149】
Aβ42免疫マウス由来の血清が、以前に形成されたAβ原線維を破壊し得るか否かを決定するために、Aβ42免疫マウス由来の血清を、以前に形成されたAβ原線維と共に30日までインキュベートした。明らかな凝集を有するAβ42原線維を、一定の攪拌を保ちながら、高濃度のAβアリコートをインキュベートすることによって生成した。血清なし(Aβ単独)、IAPP免疫血清または非免疫血清(データは示さず)とので以前に形成された原線維のインキュベーションは、30日のインキュベーション後でさえも、効果を有さなかった。対照的に、Aβ42免疫マウス由来の血清(n=26/34)は、平均長が100Åの直径30Åの小さな短い原線維か、または無定型の凝集体のいずれかにまで、Aβ42原線維を分解した。この分解は、インキュベーションのたった3日後でも明らかであり、14日目までには完全であった。さらに、分解は濃度依存性であり、抗体の濃度を増加させると、原線維の分解に必要な時間は減少した。最後に、1:1のAβ42に対する抗体の比は、分解には必要ではなかったので、抗Aβ抗体は、Aβ種のサブセット(例えば、原線維性オリゴマー(protofibillar oligomer)または他の前駆体)のみに結合した可能性がある。これらの結果を実施例4に記載されるように60,000倍の倍率で電子顕微鏡を使用して決定した。
【0150】
(実施例5)
(マウス抗血清によって認識されるAβ42の免疫標的エピトープの質量分析決定)
本実施例において、本発明者らは、アミロイド沈着疾患の治療での使用についての重大な生物学的有意性を有するエピトープを正確に同定する方法を示す。
【0151】
(一般的スキーム)
抗Aβ42血清によって認識されるエピトープを説明するために、ナノ電子スプレー(nESI)およびMALDI−イオン化の両方を使用する、高分解能フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT−ICR−MS;Marshallら、Mass Spectrom.Rev.17:1〜35(1998))を、以下に論じられるエピトープ切除手順およびエピトープ抽出手順と組み合わせて適用した。Machtら,Biochemistry 35:15,633−15,639(1996);Suckauら,Proc.Natl Acad.Sci.USA 87:9848−9852(1990);Przybylskiら,「Approaches to the characterization of tertiary and supramolecular
protein strcutures by combination of protein chemistry and mass spectrometry」、New Methods for the study of Biomolecular
Complexes,Kluwer Acad.Publ.,Amsterdam,17−43ページ(1998)を参照のこと。
【0152】
エピトープ切除として公知の1つの手順において、本発明者らは、インタクトな固定化された免疫複合体と、放出された後の結合ペプチド上での質量分析ペプチドマッピングとを組み合わせた。特に、Aβ42免疫TgCRND8マウスの抗血清、IAPP免疫マウス由来のコントロール抗血清、マウス(モノクローナル)Aβ42抗体およびウサギ(ポリクローナル)Aβ42抗体を、セファロースマイクロキャピラリー中に固定化した。次に、固定化された抗体をAβ42凝集体に曝し、Aβ42エピトープを結合させた。免疫複合体のエピトープ切除手順を種々のプロテアーゼおよびエキソペプチドプチダーゼを使用するか、またはこれらと酵素の組み合わせを用いて実施した。表2を参照のこと。
【0153】
あるいは、エピトープ抽出手順を使用した。エピトープ抽出について、Aβ42を種々のプロテアーゼにより予備消化し、続いて、プロテアーゼ処理したAβ42ペプチドの対応する混合物を、抗体カラムに適用し、抗体をエピトープと結合させた。エピトープを、結合ペプチドの溶出の際に、質量分析を使用して同定した。この手順はエピトープ抽出として公知であった。
【0154】
個々の手順を以下に詳細に記載する:
(抗体の固定化)
100μgのカップリング緩衝液(0.2M NaHCO、0.5M NaCl、pH8.3)の溶液を乾燥NHS活性化6−アミノヘキサン酸−結合セファロース(Sigma)に加え、カップリング反応を20℃で60分実施した。次いで、セファロース材料を100μmのマイクロキャピラリーカラム上に移し、ここでは、材料の損失なく完全な洗浄を可能にした。Machtら,Biochemistry 35:15,633−15,639(1996)を参照のこと。記載のように、ブロッキング緩衝液(エタノールアミン/NaCl)および洗浄緩衝液(NaAc/NaCl)を交互に使用して、カラムを洗浄し、最後に、カラムをpH7.5のPBS中、4℃で保存した。Machtら,Biochemistry 35:15,633−15,639(1996)を参照のこと。
【0155】
(エピトープ切除)
エピトープ切除手順を、はじめの2〜5μgのAβ42または他のAβ抗原のその抗体微小カラムへの適用、および20℃で60分間の穏やかな振とうでインキュベートすることにより実施した。引き続いての5×4ml PBSでの洗浄の後、プロテアーゼ消化を、200μl PBSの中の0.2μgのプロテアーゼをインキュベートすることにより、37℃で2時間そのカラム上で実施した。そのプロテアーゼとしては、トリプシン;Lys−Cプロテアーゼ;Asp−N−プロテアーゼ;α−キモトリプシン;およびGlu−Cプロテアーゼが挙げられた。その非結合ペプチドおよび消化されたペプチドまたは上清を、5×4ml PBSでの洗浄により除去した。次に、その抗体に結合したエピトープペプチドを、500μl 0.1%(v/v)TFAの添加により解離させて溶出させた(エピトープ溶出)。20℃で15分間のインキュベーションの後、そのエピトープ溶出画分を、凍結乾燥させて質量分析解析のために10μl 0.1%TFAの中で再構成させた。さらなるエキソペプチダーゼ消化による手順を、30分間の0.1μgのアミノペプチダーゼMまたはカルボキシペプチダーゼYとのインキュベーション、およびその後の5×4ml PBSでの洗浄により実施した。
【0156】
(エピトープ抽出)
そのエピトープ抽出手順を、タンパク質分解消化物の混合物をその抗体カラムに適用して60分間20℃でインキュベートしたことを除き、エピトープ溶出と同じ手法で実施した。引き続いて、その非結合ペプチド(上清)を、5×4ml PBSでの洗浄により除去した。次に、その抗体に結合したエピトープを、500μl 0.1%(v/v)TFAの添加により解離させて溶出させた(エピトープ溶出)。20℃で15分間のインキュベーションの後、そのエピトープ溶出画分を、凍結乾燥しさらに質量分析解析のために10μl 0.1%TFAの中で再構成させた。
【0157】
(タンパク質分解消化)
遊離抗原のタンパク質分解消化を、50mM NHHCOに溶解した5〜50μgのペプチドにより、50:1の基質対プロテアーゼ比にて37℃で2時間実施した。その反応混合物を、質量分析解析のために凍結乾燥させるか、またはエピトープ抽出のために調製した。その使用したプロテアーゼは、トリプシン(Promega、Madison);Lys−C、Asp−N、Glu−C(Roche−Boehringer Mannheim);α−キモトリプシン、アミノペプチダーゼM、カルボキシペプチダーゼY(Sigma)であった。
【0158】
(質量分析)
FTICR−MSを、7Tの超伝導磁石およびICRアナライザーセルを備えたBruker(Bruker Daltonik、Bremen、FRG)Apex II FTICRスペクトロメータにより実施した。Bauerら,Anal.Biochem.298:25−31(2001)を参照のこと。パルス化衝突Apollo−nano−ESI−sourceによるMALDI−FTICR供給源、ならびに機器条件および質量較正については、以前に記載されてある。Fliggeら,Biochemistry 39:8491−8496(2000)を参照のこと。質量定量精度は、約1ppm(MALDI)であり、および典型的に、約200,000の質量分解能で0.5〜1ppm(ESI)であった。2,5−ジ−ヒドロキシ安息香酸(DHB)を、MALDI−MS試料調製のためのマトリックスとして使用した。Bauerら,Anal.Biochem.298:25−31(2001)を参照のこと。ESI−MSを、一般的に0.01%TFA水溶液で実施した。Fliggeら,Biochemistry 39:8491−8496(2000)を参照のこと。
【0159】
(質量分析の結果)
セファロース充填型マイクロキャピラリーに固定化した抗体によるエピトープの切除および抽出を、ESI−質量分析およびMALDI−FTICR−質量分析による解析とともに使用した。Machtら Biochemistry 35:15633−39(1996);Fliggeら,Biochemistry 39:8491−8496(2000)を参照のこと;Bauerら,Anal.Biochem.298:25−31(2001);Przybylskiら,「Approaches to the characterization of tertiary and supramolecular protein structures by combination of protein chemistry and mass spectrometry」、New Methods for the study of Biomolecular Complexes、Kluwer Acad.Publ.,Amsterdam,pp.17−43(1998)を参照のこと。はじめに、遊離Aβ42抗原のトリプシン分解ペプチド混合物のMALDI−MSは、以下を含む予想されるAβタンパク質分解ペプチドのすべてを示す:
【0160】
【表2A】

Lys−Cおよびトリプシンの消化を使用した場合では、エピトープ切除により、MALDI−FTICR検出を使用した場合に単一のイオン種Aβ(1−16) 1954.8806を産生する単一のペプチドが溶出された。この事例では、AβのR5残基が、Lys−Cおよびトリプシンによる消化から保護された。
【0161】
ペプチドフラグメントAβ(1−11),1324.5395Daは、S.Aureus Glu−Cプロテアーゼによるエピトープ切除において溶出された。
【0162】
α−キモトリプシンおよびアミノペプチダーゼMの切断の後のエピトープ抽出からの溶出液のESI−スペクトルおよびMALDIスペクトルにより、フラグメントAβ(1−10) 1195.4968DaおよびAβ(4−10) 880.3827Daが産生された。
【0163】
中核エピトープを、抗体に結合したキモトリプシン分解フラグメントおよびAβ(1−10)免疫複合体のアミノペプチダーゼM消化を使用する工程により決定した。この二重消化により、Aβ(4−10)、FRHDSGYを、Aβ42の場合に匹敵するアフィニティーを有する最小エピトープとして同定した。そのC末端アミノ酸は、Y10である。なぜならカルボキシペプチダーゼAを使用するY10からのさらなるC末端消化により、Aβ42と比較して劇的に減少したアフィニティーを有するペプチドが産生されたからである。
【0164】
表3は、エピトープ切除の質量分析ならびにその抗Aβ抗体およびAβペプチドを使用する抽出手順により得られたペプチドフラグメントを示す。Aβ42ペプチド(表3、第1列)をトリプシンにより前消化した場合、その抗体結合部位から得られるペプチドは、表3、第1列に示される配列に相当する。トリプシンおよびLys−Cプロテアーゼの組み合わせにより、同じ16残基のペプチド(表3、第2列)を同定した。そのプロテアーゼがS.Aureus Glu−Cプロテアーゼであって、それをエピトープ切除に使用した場合、第3列に示されるように、11残基のペプチドが、その抗体結合部位から溶出された。10残基のペプチドが、α−キモトリプシン単独の消化により観測された(表3、第4列)。表3、第5列に示されるように、そのプロテアーゼ消化がα−キモトリプシンおよびアミノペプチダーゼMの2つの酵素により実施された場合に、その7アミノ酸中核エピトープが、観測された。
【0165】
【表3】

(要旨)
MALDI−MSおよびESI−MS解析により、N末端配列、Aβ(1−10)を含む直鎖状エピトープが、エピトープ切除における唯一の、特異的な産物として同定された。表3および表4を参照のこと。その遊離Aβ42抗原のトリプシン消化の質量分析により、すべての予想されるペプチド、(1−16)、(6−16)、(17−28)、(29−42)が産生された。表3および表4を参照のこと。トリプシンおよびLys−C−プロテアーゼによるエピトープ切除により、単一のペプチド(1−16)が提供された。Glu−C−プロテアーゼおよびα−キモトリプシンでは、それぞれフラグメント(1−11)だけおよびフラグメント(1−10)だけが産生された。表3および表4を参照のこと。対照的に、残基R5、E3、F4は、それぞれこれらのプロテアーゼによる消化から保護された。抗体に結合したエンドプロテアーゼフラグメントのさらなる消化を、エキソペプチダーゼにより実施してその中核エピトープを規定した。そのキモトリプシン消化フラグメントのアミノペプチダーゼM消化により、Aβ(4−10);FRHDSGYを、Aβ42の場合に匹敵するアフィニティーを有する最小エピトープとして同定し、一方、Y10からのさらなるC末端消化(カルボキシペプチダーゼA)により、劇的に減少したアフィニティーが産生された。その質量分析エピトープ切除試験において得られたアフィニティーの差異は、N末端にてアルキルアミド−スペーサー基を通じてビオチン化された合成エピトープペプチドのELISAにより定量されたアフィニティーと全体的に合致した。Gitlinら,Biochem.J.242:923−926(1987);Craigら,Anal.Chem.68:697−701(1996)を参照のこと。そのエピトープを、その単一同位体分子イオンの高度な質量定量精度(0.5〜2ppm)により明確に同定した。さらに、これらの結果を、IR−多光子レーザー分離によるFTICRスペクトルにおける選択された分子イオンの配列特異的なフラグメント化により、および配列変異体および相同なAβ42ペプチドによるコントロール試験により、確証した(データは示さず)。Fliggeら,Biochemistry 39:8491−8496(2000)を参照のこと。それゆえ、R5GおよびY10Fの二重変異を含む、ラットAβ42では、エピトープ切除において溶出産物がまったく産生されなかった。対照的に、ヒトAβ(1−40)およびAβ(1−30)により、Aβ42と同じエピトープ(4−10)が提供された。IAPP免疫化マウスからのコントロール抗体では、検出可能なエピトープペプチドがまったく得られなかった。表3および表4を参照のこと。
【0166】
【表4】

(実施例6)
(Aβペプチドの構造的特徴付け)
この実施例において、本発明者らは、固定された抗体に対する、同定された合成エピトープペプチドの親和性とAβ42の親和性とを比較し、そして溶液中における合成エピトープペプチドの二次構造を特徴付けた。
【0167】
質量分析法によって同定されたエピトープは、対応する信頼できる(authentic)ペプチド(ビオチン−Gly−Gly−Aβ(1−10)およびビオチン−Aβ(4−10))の合成ペプチド、二次構造分析および免疫分析特徴付けを使用して、さらに特徴付けた。最初に、抗Aβ抗体についての種々のペプチドの親和性を、エピトープペプチドのELISAおよびドット−ブロット分析を使用して推定した(データは示さず)。結果は、表3に示されたペプチド全てが、Aβ42に匹敵する親和性を示したことを示した。
【0168】
活性エピトープの可能なコンフォメーションの効果を評価するために、以前に報告されたAβ40およびAβ42の構造を用いて、N末端ペプチドの二次構造比較を行った。N末端、極性ペプチドAβ(1−10)およびAβ(1−16)のCDスペクトルおよび2D NMR−NOESYスペクトル(データは示さず)は、Aβフラグメントについての明確な溶液構造のいかなる証拠も示さない。しかし、このようなデータは、抗体認識についてのエピトープの特定の可撓性を示唆する。これは、Aβ(4−10)エピトープ領域の周りのα−ヘリックス形成の傾向の中断を示す、Aβ42配列についての二次構造予測と一致する。対照的に、α−ヘリックスの傾向およびヘリックス−コイル/β−シートのコンフォメーションの変化を、膜貫通領域(Aβ(18−42))を含む配列について観察した。Colesら,Biochemistry 37:11064−11077(1998);Kohnoら,Biochemistry 35:16094−16104(1996)を参照のこと。
【0169】
(実施例7)
(Aβ誘導毒性に対する血清の効果)
この実施例において、本発明者らは、Aβ免疫化血清がAβ42誘導細胞傷害性を阻害する能力を評価した。
【0170】
(一般的スキーム)
Aβ免疫化後のTgCRND8マウスにおける記憶欠乏の予防が、Aβの細胞傷害性に対して類似の効果を反映するか否かを調べるために、本発明者らは、PC−12細胞を使用して、標準的なAβ42毒性アッセイを実施した。McLaurinら,J.Biol.Chem.275:18495−502(2000);Pallittoら,Biochemistry 38:3570−78(1999)を参照のこと。最初に、PC12細胞を、24時間、血清の存在下または非存在下で、Aβ42とともにインキュベートした。次に、細胞傷害性を、Alamarブルーアッセイ(Ahmedら,J.Immunol.Methods 170:211−24(1994))(これは、代謝活性を示す)およびLive/Deadアッセイ(Pikeら,J.Biol.Chem.270:23895−98(1995))(これは、細胞内エステラーゼ活性および原形質膜完全性の両方を示す)の両方を使用して、測定した。
【0171】
(Aβ毒性アッセイ)
PC−12細胞を、96ウェルプレート中に500細胞/ウェルでプレートし、そしてN2/DMEM(Gibco/BRL,Rockville,MD)中で希釈した30ng/mlのNGF(Alamone Labs,Israel)中に懸濁させた。細胞を、10,000〜15,000/ウェルの最終細胞数まで5〜7日間、分化させた。Aβを、RTで3日間、溶液(25マイクロモル濃度)で維持して、培養物を加える前に、原線維発生を誘導した。このAβ調製物は、電子顕微鏡によって決定されるように、多数のアセンブリオリゴマー(ADDLおよびプロトフィブリル(protofibril))(これまでに神経毒性として同定されているAβ種)を含む(データは示さず)。Lambertら,J.Neurochem.79:595−605(2001);Walshら,J.Biol.Chem.,274:25945−52(1999);Hartleyら,J.Neuroscience 19:8876−8884(1999)を参照のこと。さらに、ウェスタンブロット分析は、Aβ42免疫血清が、Aβ42モノマー、Aβ42テトラマー、Aβ42ヘキサマーおよび98kDaよりも大きなAβ42のオリゴマーを認識することを実証した(データは示さず)。3日間のプレインキュベーション後、Aβを、0.1μg/μlの最終濃度まで細胞培養物を添加し、そして37℃で24時間インキュベートした。次に、Live/Dead蛍光アッセイ(Molecular Probes,Eugene,OR)およびAlamar Blue Assay(Biosource Inc,Camarillo,CA)を使用して、毒性をアッセイした。
【0172】
(結果)
非免疫マウスまたはIAPP免疫マウス由来の血清は、Aβ毒性アッセイに対して効果が無かった。対照的に、Aβ42免疫マウスから単離された血清は、濃度依存性の様式で、Aβ42細胞毒性を妨げたが、この効果の範囲において、顕著な可変性を示した。このアッセイにおいて、Aβ42誘導毒性と比較して、n=18/22(p<0.01)およびn=4/22(p<0.001)であった。細胞生存と原線維脱凝集との間の相関を、個々の血清についてプロットし、そして毒性を阻害する血清の有効性と原線維を脱凝集する血清の有効性との間の直接的な相関を明らかにした。さらに、原線維形成/脱凝集を阻害する際に最も効果的であった抗体はまた、毒性の減少において最も有効であった(不活性血清と比較して、3日、p<0.001および7日、p<0.0001)。
【0173】
細胞傷害性を妨げるのに必要なAβに対する抗体の化学量論は、作用の機構についての見識を提供し得た。細胞傷害性の阻害を誘発するために必要なAβに対する抗体の化学量論を決定するために、本発明者らは、10個の反応性血清についてEC50を決定した。EC50がAβ誘導性細胞傷害性の50%をレスキュー(rescue)する血清の量として規定される場合、EC50値は、234±39の平均±SDで、1:100〜1:300の範囲であった。結果として、本発明者らは、保護効果が、小さい抗体:Aβ比(50:1)で検出されたことが見出され、これは、抗体が、モノマーAβまたはAβ凝集物よりもむしろ、Aβ−オリゴマー、プロトフィブリル、または前駆体タンパク質フラグメントのような少ない存在比の種のAβに結合していることを示唆した。さらに、活性血清は、試験された全ての用量においてAβ−細胞傷害性で有意な減少を引き起こした;これは、細胞死が、血清によって特異的にブロックされたプロセスによって誘導されたことを示唆する。Fischer’s PLSDp<0.01および†p<0.001を用いて、一方向ANOVAを使用して、統計学的な分析を達成した。
【0174】
(実施例8)
(保護効果を媒介する血清成分)
この実施例において、本発明者らは、どの血清成分が、Aβの細胞傷害性の減少を担うかを決定するための方法を示す。本発明者らは、活性成分が、血清由来の精製されたIgG画分に存在し、他の血清成分が、Aβ媒介細胞死を阻害し得ないことを見出した。
【0175】
Aβ免疫化が、いくつかの他の効果(例えば、他の血清タンパク質の発現の二次的変化)に起因するというよりもむしろ、Aβ誘導抗体に起因したことを確認するため。従って、Aβ(4−10)エピトープを選択的に標的化する抗体のみが、有効であったことを確認するために、本発明者らは、Aβ42免疫化血清由来の精製IgG画分を使用して、細胞傷害性実験を実行した。さらに、本発明者らは、Aβの特定のエピトープに対する特異性を有する市販のモノクローナル抗体、4G8、6E10およびBam10を含んだ。
【0176】
結果は決定的であった。Aβ42を免疫した血清から精製した免疫グロブリンGは、粗血清と同じ毒性阻害を示し、これは、他の血清成分が防御応答に寄与しなかったこと示唆する。さらに、これらのIgG画分は、全血清と同じ程度に、Aβの原線維形成を阻害し、そしてAβ原線維脱凝集を誘導した。4G8抗体および6E10抗体(それぞれ、Aβ配列の17〜24および11〜17を認識する)は、原線維形成を阻害しないが、総原線維の量を減少させる。これらの抗体は、溶液中の少量の遊離Aβペプチドと結合するので、後者の効果が生じ得、その結果、原線維形成からそれを隔離する。対照的に、Bam10(Aβ1〜10内の配列を認識する)は、Aβ42を免疫した血清で示されたものと同様の原線維形成を阻害する。Aβ配列のN端を認識する唯一の抗体は、原線維形成の効果的なインヒビターであり、そして、Aβ42を免疫した血清中の活性成分は、特定のIgGであるということを、これらの結果はさらに示した。
【0177】
(実施例9〜27)
(抗原設計)
表5および実施例9〜27に示したペプチドを、以下に示した式に従って設計する:
I.(A)−−(Th)−−(B)−−Aβ(4−10)−−(C)(ここで、Aβ(4−10)の単一コピーが存在し、nは0、mは1、oは2、Bはグリシン、Cはグリシン、pは1、そして、ヘルパーT細胞のエピトープは配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21のいずれかである)。これらの結合したB細胞およびT細胞のエピトープ含有抗原は、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42および43に対応する。
【0178】
【表5−1】

【0179】
【表5−2】

(実施例28)
(抗原設計)
実施例28(表5)に示したペプチド(配列番号44に対応する)は、一例である(ここで、nは0、mは1、oは1、Bはグリシン、Cはグリシン、pは1、そして、ヘルパーT細胞のエピトープは配列番号21である)。結合したB細胞およびT細胞のエピトープ含有抗原は、配列番号44に示したペプチドに対応する。
【0180】
(実施例29)
(抗原設計)
実施例29(表5)に示したペプチド(配列番号45に対応する)は、一例である(ここで、nは0、mは1、oは0、そして、T細胞のエピトープはペプチド結合を通してB細胞のエピトープと直接結合し、Cはグリシン、pは1、また、ヘルパーT細胞のエピトープは配列番号21である)。結合したB細胞およびT細胞のエピトープ含有抗原は、配列番号45に示したペプチドに対応する。
【0181】
(実施例30)
(抗原設計)
実施例30(表5)に示したペプチド(配列番号46に対応する)は、一例である(ここで、nは0、mは1、oは0、そして、T細胞のエピトープはペプチド結合を介してB細胞のエピトープと直接結合し、Cはグリシン、pは1、ヘルパーT細胞のエピトープは配列番号21である)。結合したB細胞およびT細胞のエピトープ含有抗原は、配列番号46に示したペプチドに対応する。
【0182】
(実施例31〜33)
(抗原設計)
実施例31〜33(表5)に示したペプチドは、以下に示した式IIに従って設計する:
II.(A)−−Aβ(4−10)−−(B)−−(Th)−−(C)(ここで、Aβ(4−l0)の単一コピーが存在し、nは2、mは1、oは2、AおよびBはグリシン、そして、pは0、また、ヘルパーT細胞のエピトープは配列番号21である)。これらの結合したB細胞およびT細胞のエピトープ含有抗原は、配列番号47、48および49に対応する。
【0183】
(実施例34および35)
(抗原設計)
実施例34(表5)に示したペプチドは、以下に示した式IIに従って設計する:
II.(A)−−Aβ(4−10)−−(B)−−(Th)−−(C)(ここで、Aβ(4−l0)の単一コピーが存在し、nは0、mは1、実施例34ではoは2、実施例35ではoは1、Bはグリシン、そして、pは0、また、ヘルパーT細胞のエピトープは配列番号21である)。これらの結合したB細胞およびT細胞のエピトープ含有抗原は、配列番号50および51に対応する。
【0184】
(実施例36)
(設計したペプチドの合成)
配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、47、48、49、50、51およびコントロールペプチド(膵膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)(配列番号52))に対応する設計したペプチドの固相ペプチド合成を、100μモルのスケールで、マニュアルの固相合成を用いて実施し、そして、Fmoc保護化Rink Amide MBHA樹脂、Fmoc保護化アミノ酸、O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液中のN−テトラメチル−ウロニウム−ヘキサフルオロホスフェート(HBTU)およびN−メチルモルフォリン(NMM)活性、ならびにFmoc基のピペリジン脱保護を用いたSymphony Peptide Synthesizerで実施する(工程1)。必要な場合、Lys(Aloc)基の選択的な脱保護を、マニュアルで実施し、そして、5mLのCHCl:NMM:HOAc(18:1:0.5)中に溶解した3当量のPd(PPh3)4溶液で樹脂を2時間処置することによって達成する(工程2)。次いで、樹脂をCHCl(6×5mL)、20%HOAc含有ジクロロメタン(DCM)(6×5mL)、DCM(6×5mL)およびDMF(6×5mL)で洗浄する。ある場合に、次いで、1つのAEEA(アミノエトキシエトキシ酢酸)基の添加、酢酸の添加または3−マレイミドプロピオン酸(MPA)の添加について、合成を再び自動化する(工程3)。85% TFA/5% TIS/5%チオアニソールおよび5%フェノールを用いて、樹脂の切断および生成物の単離を実施し、その後、ドライアイスで冷やしたEtOに沈殿させた(工程4)。Varian(Rainin)調製用バイナリーHPLC系(30〜55%Bの勾配溶出(0.045% TFA含有H.sub.2 O(A)および0.045% TFA含有CHCN
(B))(Phenomenex Luna 10μフェニルヘキシル、21mm×25cmカラムおよび214nmと254nmのUV検出器(Varian Dynamax UVD II)を使用、9.5mL/分で180分以上)を用いて、調製用逆相HPLCで生成物を精製する。ダイオードアレイ検出器を備えたHewlett Packard LCMS−1100シリーズ分光器、および電気スプレーの電離(electro−spray ionization)を用いたRP−HPLCマススペクトロメータによって、純度および質量検定を95%と決定する。
【0185】
(実施例37)
(式Iおよび式IIに従って設計したペプチド抗原を用いたCRND8マウスの免疫)
実施例2に記載するように、TgCRND8マウスを離乳し、β−APPトランスジーンの存在について遺伝子型を特定し、標準のマウスのケージの中に、2〜4匹(同性)のマウスの群に収容する。随時、食物ペレット、粉末食餌、および水をマウスに与える。最初の免疫前の1週間の間、全てのマウスを取り扱い、そして、免疫毎の前日および2日後、これらの体重を記録する。全ての実験群は、同一の性であり、体重も一致している。
【0186】
(免疫プロトコールおよび血清単離)
配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、47、48、49、50、51およびコントロールペプチド(膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)ペプチド(配列番号52))に対応する合成ペプチドを用いて、トランスジェニックCRND8マウスを免疫する。免疫プロトコールおよび免疫スケジュールは、以前にSchenkら、Nature 400:173−177(1999)で示された通りであり、この開示は、本明細書中においてその全体が参考として援用される。各々の注射のセットに対して、各ペプチドを凍結乾燥した粉末から新たに調製する。免疫に対して、0.9mlの脱イオン水を含む別の容器に、2mgの各ペプチドを添加し、そして、溶液を混ぜるために、その混合物をボルテックスする。次いで、100μlの10×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(1×PBSは、0.15M Nacl、0.01リン酸ナトリウム(pH7.5))を各ペプチド溶液に添加する。再度、各溶液をボルテックスし、37℃で一晩置く。最初の免疫においては、完全Fruendアジュバントを用いて、そして、その後の追加免疫についてFruend不完全アジュバントを用いて、このペプチドを1:1(v/v)の割合で乳化する。最初の追加免疫は、初回免疫2週後であり、その後は月ごとである。1回の注射あたり、約100μgの抗原を用いて、各々の動物を免疫する。各々の免疫群は、6〜10匹のマウスである。次いで、13週齢で後肢静脈穿刺を介して回収した血清サンプル(200μlの血液)、また25週齢で処置を中止し、心臓の穿刺によって回収した血清サンプルにおいて、抗体の力価を決定する。これらの研究に使用する前に、56℃で30分間インキュベートすることによって、補体を不活性化させる。Ig分画を5mlのプロテインGカラムを通して単離する。サンプルを充填し、PBSで洗浄し、0.1M クエン酸ナトリウムで溶出し、そして、1M Trisで緩衝する。全てのIg分画を使用前にフィルター滅菌する。
【0187】
(免疫結果)
配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、47、48、49、50、51およびコントロールペプチド(膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)ペプチド(配列番号52))に対応する合成ペプチドで免疫したマウス、ならびに非免疫化TgCRND8マウスおよびそれらの非トランスジェニック同腹子から、血清を単離する。
【0188】
ほとんどのマウスは、Aβ42(免疫原)またはIAPPに対して、有意な力価を発現する。興味深いことに、TgCRND8トランスジェニックマウスおよびそれらの非トランスジェニック同腹子において、抗Aβ42の力価に有意な相違は検出されない。20週齢の非免疫化TgCRND8マウス由来の脳の組織学的切片について、免疫されたマウスからの血清を成熟Aβプラークの陽性染色のために使用する。対照的に、20週齢の非免疫化TgCRND8マウス由来の脳の組織学的切片について、コントロールペプチドであるIAPP免疫マウスおよび非免疫化マウスからの血清は、成熟Aβプラークを染色し得ない。従って、Aβを含む神経病理学的なプラークを認識し得、そして結合し得る自己免疫抗体が誘導され得ることを、この結果は示す。
【0189】
(実施例38)
(マウス免疫血清による原線維形成の阻害)
実施例3で議論したように、Aβペプチドは、14日間のインキュベーション期間にわたって、自然に原線維を組み立て、この原線維は、特徴的に直径50〜70Åであり、これは、以下に記載するように、電子顕微鏡検査によってモニタリングされ得る。
【0190】
(電子顕微鏡検査)
Aβ42を、10mg/mlのストック濃度にて水中で可溶化した後または成熟なアミロイド原線維に組み立てられた後、直接用いる。Aβ42を、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、47、48、49、50、51およびコントロールペプチドである膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)のペプチドに対応するペプチド抗原の100μg/mlの最終ペプチド濃度で免疫したマウスからの血清の存在下および不在下にてインキュベートする。この血清の段階希釈をAβ42に加え、2週間まで室温(RT)でインキュベートする。電子顕微鏡検査のネガティブ染色のために、炭素でコーティングしたピオロ型(pioloform)グリッドをペプチド水溶液上に浮かせる。グリッドをブロットし、風乾した後、このサンプルを1%(w/v)リンタングステン酸で染色する。ペプチドの組み立てを、Hitachi 7000電子顕微鏡(75V、倍率60,000×にて操作する)で観察する。
【0191】
(電子顕微鏡検査の結果)
Aβの原線維への組み立てについての、免疫されたマウス血清の効果を評価するために、上記のように、血清をAβ42の存在下または不在下で、37℃で14日までインキュベートする。各反応混合物からのアリコートを、電子顕微鏡検査のネガティブ染色によって、Aβ42原線維の存在について1、3、7、10および14日目に試験する。
【0192】
血清の不在下、または、非免疫化血清の存在下において、Aβ42は、特徴的な50〜70Åの直径を有する長い原線維(約7500Å)を形成した。IAPP免疫した動物からの血清の存在下において、わずかに長いAβ42原線維が生成されるが、形成された原線維は特徴的な50〜70Åの直径を有した。対照的に、わずかに効果を示すか、または効果を示さない血清もあるが、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、47、48、49、50および51(これは、B細胞エピトープであるAβ(4−10)を含む)に対応するペプチド抗原で免疫されたマウスからのマウス血清の大部分は、原線維形成を概ねブロックした。
【0193】
さらに、原線維の構造に変化がないことは、原線維が非免疫化マウスの血清の存在下でインキュベートされる場合に検出可能である。IAPPで免疫されるマウスからの血清は、原線維形成の程度を減少するが、実際に形成される原線維は、Aβ42単独によって形成される原線維に類似する。最後に、配列番号25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、47、48、49、50および51に対応するペプチド抗原で免疫されるマウスからの血清は、多様な程度に原線維形成を阻害する。
【0194】
【表6−1】

【0195】
【表6−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【公開番号】特開2013−75898(P2013−75898A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−249078(P2012−249078)
【出願日】平成24年11月13日(2012.11.13)
【分割の表示】特願2009−251464(P2009−251464)の分割
【原出願日】平成15年4月7日(2003.4.7)
【出願人】(501318567)ザ ガバニング カウンシル オブ ザ ユニバーシティ オブ トロント (8)
【Fターム(参考)】