説明

アルツハイマー病の治療又は予防剤のスクリーニング方法

【課題】 アミロイドβ蛋白質の沈着によって引き起こされる疾患の治療または予防に有効な剤をスクリーニングするためのスクリーニング方法を提供する。更に、本発明スクリーニング方法などに用いることのできるCLACのスプライスバリアントアイソフォームを提供する。
【解決手段】 CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維分解抵抗性を減少させる作用を示す被験物質を選択することにより、アルツハイマーなどのアミロイドβ蛋白質の沈着によって引き起こされる疾患の治療または予防に有効な剤のスクリーニングを実施する。CLACの新規スプライスバリアントアイソフォームを、スクリーニング方法に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病などのアミロイドβ蛋白質の沈着によって引き起こされる疾患の治療または予防に有用な剤のスクリーニング方法に関する。本発明はまた、本発明スクリーニング方法などに用いることができるCLACのスプライスバリアントに関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドβは、アルツハイマー病などのある種の神経疾患患者脳の神経細胞あるいは血管に沈着し痴呆などの症状を引き起こす原因物質とされている。アミロイドβは、正常脳でも恒常的に産生されている生理的なペプチドであるが、凝集・沈着を生じやすく、アルツハイマー病、ダウン症、高齢者の脳にみられる老人斑の主成分でもある。アミロイドβは、膜貫通前駆体蛋白質(βAPP)に由来する39〜43アミノ酸からなり、βAPPの細胞質での正常な代謝過程で生じると言われている。アルツハイマー病患者の脳におけるアミロイドβの蓄積はアミロイドβ分解系の欠陥または産生機序の異常による過剰発現により沈着することに起因すると考えられる。したがってアミロイドβ繊維分解に関与する物質はアルツハイマー病などのアミロイドの沈着によって引き起こされる疾患の治療および予防に有用であると考えられる。
従来、アミロイドβの除去、分解する方法あるいはアミロイドβの蓄積、繊維化を防止する物質のスクリーニング方法はアミロイドβと被検化合物の2者のみで構成されている。しかしながら、従来の技術では現在に至っても本課題を解決する医薬品は得られていない。
老人斑アミロイドの主成分はアミロイドβであるが、その他にもいくつかの蛋白性構成成分が同定されており、アミロイドβ繊維の形成やアルツハイマー病の発症に関与するものと考えられている。Hashimotoらにより老人斑アミロイドを構成する50/100 kDa蛋白質CLAC(collagen-like Alzheimer amyloid plaque component)が報告された(特許文献1,非特許文献1)。CLACは細胞外部分に反復するコラーゲン様配列を持つ新規の一回膜貫通型蛋白質であり、アミロイドβと共にアルツハイマー病患者およびアミロイドβが過剰発現することが知られているダウン症患者脳に蓄積することが公知となっている。さらにCLACは脳特異的に発現し、可溶化したアミロイドよりも繊維化したアミロイドβにより特異的に結合することも公知となっている。
2003年、CLACは従来から検討されてきたAMY(Alzheimer disease amyloid-associated protein)と同一であることが証明された(非特許文献2)。したがってCLACは、現在なお未知の部分が多いアルツハイマ-病の病理メカニズムに深く関与することが推定されているが、その機能や役割については依然不明な部分が多い。
【特許文献1】国際公開番号WO 01/58343
【非特許文献1】Hashimoto, T., et. al. EMBO J 2002 Apr 2;21(7):1524-34
【非特許文献2】Soderberg, Let., al. J Neuropathol Exp Neurol 2003 Nov;62(11):1108-17
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、アミロイドβ蛋白の沈着によって引き起こされる疾患の治療および予防に有用な物質のスクリ−ニング法を提供することを目的とする。
また本発明は、本発明スクリーニング方法などに用いることのできるCLACのスプライスバリアントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するためには新しい方法を開発する必要があると判断し、アミロイドβと共にアルツハイマー病患者脳内に沈着する成分に着目して鋭意研究を進めた結果、アミロイドβと共にアルツハイマー病患者脳内に沈着する蛋白質CLAC(collagenous Alzheimer amyloid plaque componentまたはcollagen-like Alzheimer amyloid plaque component)がアミロイドβ繊維に結合することにより、生体内酵素分解抵抗性を与えている事実を初めて明らかにした。更に、CLACのスプライスバリアントアイソフォームを新たに6種類同定した。
本発明者らは、これら知見により、CLACとアミロイドβ繊維の複合体(以下、本明細書において「CLAC/アミロイドβ繊維複合体」という。)のアミロイドβ分解抵抗性を減少させる物質をスクリーニングすることによって、これまでの公知のスクリーニング方法では見出すことのできなかった、アルツハイマーなどのアミロイドβ蛋白質の沈着によって引き起こされる疾患の治療または予防に有用な剤を見出すことができるとの確信を得た。また、新たに見出したCLACのスプライスバリアントは、本発明スクリーニング方法の実施に用いることができるのみならず、CLACの新たな機能の解明や研究に有用であると確信を得て、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち本発明は、下記に掲げるものである:
〔1〕 下記の工程(a)および(b)を含む、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維分解抵抗性を減少させる物質のスクリーニング方法、
(a)被験物質存在下において、CLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素と接触させる工程、
(b)CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を測定し、該複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を減少させる被験物質を選択する工程、
〔2〕 下記の工程(a)(b)および(c)を含む、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維分解抵抗性を減少させる物質のスクリーニング方法、
(a)被験物質存在下において、CLACとアミロイドβ線維とを接触させCLAC/アミロイドβ線維複合体を形成させる工程、
(b)形成されたCLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素と接触させる工程、
(c)CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を測定し、該複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を減少させる被験物質を選択する工程、
〔3〕 タンパク質分解酵素が生体内タンパク質分解酵素である、前記〔1〕または〔2〕記載のスクリーニング方法、
〔4〕 タンパク質分解酵素がネプリライシンまたはインスリン分解酵素である、前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載のスクリーニング方法、
〔5〕 アミロイドβ繊維分解抵抗性を測定する手法が、クーマシーブリリアントブルー染色法、ウエスタンブロット法または膜透過法である、前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載のスクリーニング方法、
〔6〕 アミロイドβ蛋白質の沈着によって引き起こされる疾患の治療または予防に有効な剤をスクリーニングするための、前記〔1〕〜〔5〕いずれか記載のスクリーニング方法、
〔7〕 アルツハイマー病の治療又は予防に有効な剤をスクリーニングするための、前記〔6〕記載のスクリーニング方法、
〔8〕 以下の(a)、(b)または(c)のDNAからなる遺伝子、
(a)配列番号3,5,7,9,11または13のいずれかで示される塩基配列からなるCLAC DNA、
(b)配列番号4,6,8,10,12または14のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるCLACをコードするDNA、
(c)配列番号3,5,7,9,11または13のいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアミロイドβ繊維と複合体を形成するという特徴を有する蛋白質をコードするDNA、
〔9〕 以下の(a)又は(b)の蛋白質からなるCLAC、
(a)配列番号4,6,8,10または12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)前記〔8〕に記載の遺伝子によりコードされる蛋白質。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、アミロイドβ繊維がCLACと複合体を形成することによって生体内タンパク質分解酵素により分解されにくくなる、すなわちアミロイドβ線維分解抵抗性を有する、という全く新しい知見に基づくものである。
本発明によって、これまでに知られている阻害剤とは異なる新たな作用機序に基づく新たなスクリーニング方法が提供され、アルツハイマー病などのアミロイドβ蛋白質の沈着によって引き起こされる疾患に有効な剤をスクリーニングすることができる。従来のスクリーニングではアミロイドβのみを標的としてスクリーング系が構築されてきたが、これまでに臨床応用されている報告は少ない。なぜならば、実際のアルツハイマー病患者の病態ではアミロイドβ以外にもCLACのようなアミロイド結合蛋白質が病態の進行に重要であると推定されるからである。したがって、本発明のスクリーニング方法では従来のスクリーニング系では得られない化合物を選別することができ、より臨床応用可能な物質を見出すことができる。本発明のスクリーニング方法によって得られる物質は、アルツハイマー病などの治療または予防剤などとして有効に利用することができる。
【0007】
また本発明によって、新しいCLACのスプライスバリアントが提供される。該スプライスバリアントは、本発明のスクリーニング方法の実施に用いることができるのみならず、公知のCLACを用いたスクリーニング方法やCLACの機能解明の研究などに利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC-IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)および当該分野における慣用記号に従う。
【0009】
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1,3,5,7,9,11,13または15)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば変異体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる変異体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、ストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1,3,5,7,9,11,13または15で示される特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
【0010】
本明細書において「CLAC/アミロイドβ線維複合体」とは、アミロイドβ繊維とCLACを接触させることにより、両者が結合することにより形成される蛋白質複合体のことである。CLAC/アミロイドβ線維複合体の調製は、公知の方法に従って行うことができ、例えば、CLACとアミロイドβ繊維を接触させることにより調製することができる(Methods Enzymol 1999;309:386-402)。
【0011】
本明細書において「CLAC」とは、配列番号2で示される公知のアミノ酸配列を含有するタンパク質のみならず、アミロイドβ繊維と結合するという特徴を有する限り、配列番号2に類似のアミノ酸配列や、それらの一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ポリペプチド)も包含される。
【0012】
なお、本明細書における「CLAC」には、本発明者が新たに見出したCLACのスプライスバリアントアイソフォームも含まれる。CLACのスプライスバリアントアイソフォームとしては、CLAC-P1、CLAC-P3/P8、CLAC-TA7、CLAC-TA9、CLAC-TA10およびAMY(CLAC-P)が挙げられる。
【0013】
本明細書においてCLAC-P1とは、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位および第952位〜第969位に位置するエクソンに該当する塩基配列によってコードされる部分が欠如していることを特徴とするCLACのスプライスバリアントである。CLAC-P1は、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含有するタンパク質のみならず、アミロイドβ繊維と結合するという特徴を有する限り、配列番号4に類似のアミノ酸配列や、それらの一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ポリペプチド)も包含される。
【0014】
本明細書においてCLAC-P3/P8とは、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位および第2296位〜第2607位に位置するエクソンに該当する塩基配列によってコードされる部分が欠如していることを特徴とするCLACのスプライスバリアントである。CLAC-P3/P8は、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含有するタンパク質のみならず、アミロイドβ繊維と結合するという特徴を有する限り、配列番号6に類似のアミノ酸配列や、それらの一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ポリペプチド)も包含される。
【0015】
本明細書においてCLAC-TA7とは、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位、第952位〜第969位および第2296位〜第2607位に位置するエクソンに該当する塩基配列によってコードされる部分が欠如していることを特徴とするCLACのスプライスバリアントである。CLAC-TA7は、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含有するタンパク質のみならず、アミロイドβ繊維と結合するという特徴を有する限り、配列番号8に類似のアミノ酸配列や、それらの一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ポリペプチド)も包含される。
【0016】
本明細書においてCLAC-TA9とは、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位、第952位〜第969位、第1507位〜第1551位および第2296位〜第2607位に位置するエクソンに該当する塩基配列によってコードされる部分が欠如していることを特徴とするCLACのスプライスバリアントである。CLAC-TA9は、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含有するタンパク質のみならず、アミロイドβ繊維と結合するという特徴を有する限り、配列番号10に類似のアミノ酸配列や、それらの一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ポリペプチド)も包含される。
【0017】
本明細書においてCLAC-TA10とは、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位、第952位〜第969位、第1507位〜第1551位、第2161位〜第2187位、第2188位〜第2241位および第2296位〜第2607位に位置するエクソンに該当する塩基配列によってコードされる部分が欠如していることを特徴とするCLACのスプライスバリアントである。CLAC-TA10は、配列番号12で示されるアミノ酸配列を含有するタンパク質のみならず、アミロイドβ繊維と結合するという特徴を有する限り、配列番号12に類似のアミノ酸配列や、それらの一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ポリペプチド)も包含される。
【0018】
本明細書においてAMY(CLAC-P)とは、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位、第952位〜第969位、第1507位〜第1551位、第2296位〜第2607位および第2494位〜第2607位に位置するエクソンに該当する塩基配列によってコードされる部分が欠如していることを特徴とするCLACのスプライスバリアントである。AMY(CLAC-P)は、配列番号14で示されるアミノ酸配列を含有するタンパク質のみならず、アミロイドβ繊維と結合するという特徴を有する限り、配列番号14に類似のアミノ酸配列や、それらの一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ポリペプチド)も包含される。
【0019】
ここで「類似のアミノ酸配列」とは、例えば、アミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは1〜9個程度、より好ましくは1〜5個程度、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列が含まれる。
「一部からなるアミノ酸配列」とは、例えば、配列番号2の配列を有するCLACはアミロイドβ繊維と結合するという活性を示すことが知られているため、該活性を有する配列であればよい。なお、アミロイドβ繊維と結合するという活性は、アミロイドβをアッセイプレートに固相化したCLAC結合試験(Soderberg L, Kakuyama. H., Moller A, Ito A, Winblad B, Tjernberg L, Naslund J. J Biol Chem 2005;280:1007-1015)などの公知の方法により確認することができる。
【0020】
そのため、「CLAC遺伝子」といった用語を用いる場合、前記の「CLAC」をコードする遺伝子であるため、特に言及しない限り、配列番号1で示される公知の塩基配列を含有する遺伝子のみならず、該配列に類似の塩基配列を含有する遺伝子や、それらの一部である、前述の「一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ペプチド)」をコードする塩基配列も含まれる。
【0021】
更に「CLAC遺伝子」には、本発明者が新たに見出したCLACのスプライスバリアントアイソフォームをコードする遺伝子も含まれる。そのため、本明細書における「CLAC遺伝子」には、CLAC-P1遺伝子、CLAC-P3/P8遺伝子、CLAC-TA7遺伝子、CLAC-TA9遺伝子、CLAC-TA10遺伝子およびAMY(CLAC-P)遺伝子が含まれる。
【0022】
本明細書においてCLAC-P1遺伝子とは、前記のCLAC-P1をコードする遺伝子であるため、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位および第952位〜第969位に位置するエクソンに該当する塩基配列が欠如していることを特徴とする。CLAC-P1遺伝子は、特に言及しない限り、配列番号3で示される塩基配列を含有する遺伝子のみならず、該塩基配列に類似の塩基配列を含有する遺伝子や、それらの一部である、前述の「一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ペプチド)」をコードする塩基配列も含まれる。
【0023】
本明細書においてCLAC-P3/P8遺伝子とは、前記のCLAC-P3/P8をコードする遺伝子であるため、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位および第2296位〜第2607位に位置するエクソンに該当する塩基配列が欠如していることを特徴とする。CLAC-P3/P8遺伝子は、特に言及しない限り、配列番号5で示される塩基配列を含有する遺伝子のみならず、該塩基配列に類似の塩基配列を含有する遺伝子や、それらの一部である、前述の「一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ペプチド)」をコードする塩基配列も含まれる。
【0024】
本明細書においてCLAC-TA7遺伝子とは、前記のCLAC-TA7をコードする遺伝子であるため、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位、第952位〜第969位および第2296位〜第2607位に位置するエクソンに該当する塩基配列が欠如していることを特徴とする。CLAC-TA7遺伝子は、特に言及しない限り、配列番号7で示される塩基配列を含有する遺伝子のみならず、該塩基配列に類似の塩基配列を含有する遺伝子や、それらの一部である、前述の「一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ペプチド)」をコードする塩基配列も含まれる。
【0025】
本明細書においてCLAC-TA9遺伝子とは、前記のCLAC-TA9をコードする遺伝子であるため、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位、第952位〜第969位、第1507位〜第1551位および第2296位〜第2607位に位置するエクソンに該当する塩基配列が欠如していることを特徴とする。CLAC-TA9遺伝子は、特に言及しない限り、配列番号9で示される塩基配列を含有する遺伝子のみならず、該塩基配列に類似の塩基配列を含有する遺伝子や、それらの一部である、前述の「一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ペプチド)」をコードする塩基配列も含まれる。
【0026】
本明細書においてCLAC-TA10遺伝子とは、前記のCLAC-TA10をコードする遺伝子であるため、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位、第952位〜第969位、第1507位〜第1551位、第2161位〜第2187位、第2188位〜第2241位および第2296位〜第2607位に位置するエクソンに該当する塩基配列が欠如していることを特徴とする。CLAC-TA10遺伝子は、特に言及しない限り、配列番号11で示される塩基配列を含有する遺伝子のみならず、該塩基配列に類似の塩基配列を含有する遺伝子や、それらの一部である、前述の「一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ペプチド)」をコードする塩基配列も含まれる。
【0027】
本明細書においてAMY(CLAC-P)遺伝子とは、前記のAMY(CLAC-P)をコードする遺伝子であるため、配列番号1に記載の塩基配列の第1位〜第531位、第952位〜第969位、第1507位〜第1551位、第2296位〜第2607位および第2494位〜第2607位に位置するエクソンに該当する塩基配列が欠如していることを特徴とする。AMY(CLAC-P)遺伝子は、特に言及しない限り、配列番号13で示される塩基配列を含有する遺伝子のみならず、該塩基配列に類似の塩基配列を含有する遺伝子や、それらの一部である、前述の「一部からなるアミノ酸配列を含有するタンパク質(ペプチド)」をコードする塩基配列も含まれる。
【0028】
なお、「類似の塩基配列を含有する遺伝子」とは、配列番号1,3,5,7,9,11または13に示される塩基配列中、1もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含有する遺伝子や、前記配列番号1,3,5,7,9,11または13で示される塩基配列と高い相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子が挙げられる。「高い相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子」とは、ストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子を意味する。例えば、具体的には公知のCLAC遺伝子であれば、配列番号1で示される塩基配列と75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子が挙げられる。CLAC-P1遺伝子であれば、配列番号3で示される塩基配列と75%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子が挙げられる。CLAC-P3/P8遺伝子であれば、配列番号5で示される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子が挙げられる。CLAC-TA7遺伝子であれば、配列番号7で示される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子が挙げられる。CLAC-TA9遺伝子であれば、配列番号9で示される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子が挙げられる。CLAC-TA10遺伝子であれば、配列番号11で示される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子が挙げられる。AMY(CLAC-P)遺伝子であれば、配列番号13で示される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子が挙げられる。
【0029】
ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイズ反応や洗浄の際の温度、塩濃度等を適宜変化させることにより調節することができ、所望の相同性に応じて設定されるが、例えば塩濃度:6XSSC、温度:65℃の条件が挙げられる。
【0030】
CLACは、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号:1,3,5,7,9,11,13)に基づいて、DNAクローニング、各発現ベクターの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。
発現ベクターの宿主へのトランスフェクションする方法としては、具体的にはリン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポレーション法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin; Gibco-BRL社)を用いる方法、マイクロインジェクション法等の公知の方法が挙げられる。発現ベクターは、一般的に使用されているGST、His-tag等のマーカータンパク等との融合タンパク質が発現されるように設計されたものであってもよい。
これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0031】
本明細書において「アミロイドβ線維」とは、アミロイドβ蛋白質が重合した複合体を示す。アミロイドβ繊維は、Myszka, D. G., Wood, S. J., and Biere, A. L. Methods Enzymol 1999;309:386-402.に記載の方法など、公知のアミロイドβ蛋白質を繊維化させる方法に従って調製することができる。
ここでアミロイドβ蛋白質は、一般的に用いられているアミロイドβ蛋白質であればよく、公知の方法で合成(文献名:有機合成〈4〉酸・アミノ酸・ペプチド実験化学講座 日本化学会 (編集) (1999/09 -- ISBN:4621045822 -- 丸善)、ペプチド合成の基礎と実験 泉屋 信夫 著(1985/01 -ISBN:4621029622 -- 丸善))することができる。アミロイドβ1−40などは市販の凍結乾燥品(American peptide社、ペプチド研究所、Bachem社製)を入手することもできる。
【0032】
本明細書において「アミロイドβ線維分解抵抗性」とは、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維が、単に繊維化させたアミロイドβ線維よりもタンパク質分解酵素に対して難分解性を示すことをいう。
【0033】
そのため、「アミロイドβ線維分解抵抗性を減少させる物質」とは、CLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素に接触させた場合に、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ分解抵抗性を減少させる物質であればよく、何ら限定されない。具体的には、例えば、CLAC/アミロイドβ複合体に直接作用することによって複合体の分解を促進させる物質、あるいはCLAC/アミロイドβ複合体の形成に関与することによって該複合体のタンパク質分解酵素抵抗性を弱める物質などが挙げられる。CLACとアミロイドβ繊維とでCLAC/アミロイドβ線維複合体を形成させる際に被験物質を加えておけば、該複合体の形成に関与することによってタンパク質分解酵素抵抗性を弱める物質を見出すことができる。一方で、CLAC/アミロイドβ複合体形成後に被験物質を加えれば、より強固な複合体を分解させる化合物を選別することができる。
【0034】
本明細書において「タンパク質分解酵素」とは、アミロイドβ繊維を分解する活性を有するタンパク質分解酵素であればよく、何ら限定されない。タンパク質分解酵素は生体内タンパク分解酵素が好ましく、更に好ましくはヒト由来の生体内タンパク分解酵素である。生体内タンパク質分解酵素とは、タンパク質分解酵素のうち生体内に存在するタンパク質分解酵素である。生体内タンパク分解酵素としては、具体的には、例えばネプリライシン、インスリン分解酵素、proteinase K、トリプシン等が挙げられ、更に好ましくはネプリライシン、インスリン分解酵素が挙げられる。
【0035】
本明細書においてネプリライシンといった用語を用いる場合、特に言及しない限り、国際酵素委員会分類番号EC 3.4.24.11で表される公知の酵素(タンパク質)だけでなく、その同族体や変異体などを包含する趣旨で用いられる。特開2002−34596に記載のネプリライシン様中性エンドペプチダーゼを、本明細書におけるネプリライシンとして用いることもできる。ネプリライシンの取得方法については、Neuroscience Letters, Volume 350, Issue 2, 23 October 2003, Pages 113-116や、特開2002−34596に記載されるように公知である。ネプリライシンは、例えば、ネプリライシン遺伝子の塩基配列情報に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養及び培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。なお、市販されているネプリライシン(Alpha Diagnostic International, Inc)を用いることもできる。
【0036】
本明細書においてインスリン分解酵素といった用語を用いる場合、特に言及しない限り、国際酵素委員会分類番号EC3.4.22.11で表される公知の酵素(タンパク質)だけでなく、その同族体や変異体も包含する趣旨で用いられる。インスリン分解酵素の取得方法についてはJ. Biol. Chem. 278, 4978949794(2003) に記載のように公知である。インスリン分解酵素は、ラット肝臓、ヒト赤血球、ヒト胎盤などから精製するか、あるいは該当cDNA(Science, 242, 1415(1988))を微生物、植物細胞あるいは動物細胞で発現させた後、単離精製することにより得られる。具体的には、例えば、インスリン分解酵素遺伝子の塩基配列情報(例えば、accession No:BX648462, M21188、配列番号:15)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養及び培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
タンパク質分解酵素は、市販されているタンパク質分解酵素であるproteinase K(シグマ社)を用いることもできる。
【0037】
本発明は、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を減少させる物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0038】
本発明は、実施例に示すように、アミロイドβ繊維とCLACとの複合体(CLAC/アミロイドβ繊維複合体)は、アミロイドβ繊維単独よりもタンパク質分解酵素によってアミロイドβ繊維が分解されにくいという性質、すなわちアミロイドβ繊維分解抵抗性を有しているという全く新しい知見に基づいたものである。
【0039】
本発明のスクリーニング方法は、CLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素と接触させる工程を、被験物質下において実施することによって行うことができる。
その場合、本発明のスクリーニング方法としては、例えば次の工程(a)および(b)を含むものが例示される:
(a)被験物質存在下において、CLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素と接触させる工程、
(b)CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を測定し、該複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を減少させる被験物質を選択する工程。
ここで被験物質の選別は、具体的には、被験物質(候補物質)を添加したCLAC/アミロイドβ線維複合体のタンパク質分解酵素によるアミロイドβ繊維分解抵抗性が、被験物質(候補物質)を添加しないCLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性に比して低くなることをもって、行うことができる。
【0040】
あるいは、本発明のスクリーニング方法は、CLAC/アミロイドβ線維複合体を形成させる工程を、被験物質下において実施することによっても行うことができる。
その場合、本発明のスクリーニング方法としては、例えば次の工程(a)(b)および(c)を含むものが例示される:
(a)被験物質存在下において、CLACとアミロイドβ線維とを接触させCLAC/アミロイドβ線維複合体を形成させる工程、
(b)形成されたCLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素と接触させる工程、
(c)CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を測定し、該複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を減少させる被験物質を選択する工程。
ここで被験物質の選別は、具体的には、被験物質の存在下で形成されたCLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性が、被験物質非存在下で形成されたCLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性に比して低くなることをもって、行うことができる。
なお、「CLAC/アミロイドβ線維複合体を形成させる工程」はCLACとアミロイドβ繊維を接触させてCLAC/アミロイドβ線維複合体が形成されればよく、反応温度や反応時間等の条件は何ら限定されない。例えば、公知の条件(Methods Enzymol 1999;309:386-402)または実施例に記載の条件に従って行うことができる。
【0041】
被験物質となりえるものとしては、制限されないが、ヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記CLAC/アミロイドβ線維複合体と接触させて行うことができる。かかる被験試料としては被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これに制限されない。
【0042】
「アミロイドβ線維分解抵抗性を測定」する工程は、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維の分解が検出できる測定方法であればよく、種々の実施態様を取ることができる。例えば、アミロイドβ分子量特性の可視化などにより測定することができる。
以下、アミロイドβ線維分解抵抗性の測定方法の具体例について例示する。
【0043】
(1)染色法によるアミロイドβ線維分解抵抗性の測定
アミロイドβ線維分解抵抗性の測定は、染色試薬、たとえばクーマシーブリリアントブルーR250を用いた方法にて実施することができ、その他にも、グルタルアルデヒドで処理したのちアンモニア性銀/ホルムアルデヒドで処理するなどの方法による銀染色クーマシーブルー染色、銀染色またはスピロルビー染色などの方法を用いて実施することができる。
具体的には、例えば、CLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素にて分解反応後に、常法に基づいてSDS-PAGEをする。SDS-PAGE終了後、クーマシーブリリアントブルー(Gel Code Blue stain reagent: PIRCE社)染色、銀染色クーマシーブルー染色、銀染色またはスピロルビー染色を、公知の方法に従って実施すれば、分解反応後に残存するCLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維の分子量を可視化することができ、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維分解抵抗性を測定することができる。
なお、SDS-PAGEをする際には、例えば、残存しているアミロイドβ繊維を蟻酸などを用いて可溶化し、蟻酸を除去後に、さらに尿素などを用いて再度溶解してからSDS-PAGEを行うのが好ましい。
【0044】
(2)ウエスタンブロット法によるアミロイドβ線維分解抵抗性の測定
アミロイドβ線維分解抵抗性の測定はウエスタンブロット法を用いて実施することができる。
具体的には、例えば、CLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素にて分解反応後に、常法に基づいてSDS-PAGEをする。SDS-PAGE終了後、分解されていないアミロイドβ繊維をウエスタンブロット法で検出すれば、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維分解抵抗性を測定することができる。
なおSDS-PAGEをする際には、例えば、残存しているアミロイドβ繊維を蟻酸などを用いて可溶化し、蟻酸を除去後に、さらに尿素などを用いて再度溶解してからSDS-PAGEを行うのが好ましい。
アミロイドβ繊維の検出に用いる抗体は、アミロイドβを特異的に認識することができる抗体であればよく、例えばアミロイドβ特異抗体である6E10、4G8(Signet Laboratories社)などを挙げることができる。
【0045】
(3)膜透過法によるアミロイドβ線維分解抵抗性の測定
アミロイドβ線維分解抵抗性の測定は膜透過法を用いて実施することができる。
具体的には、例えば、CLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素にて分解反応後に、反応溶液中に残存するアミロイドβ繊維を膜に吸着させることにより、酵素分解物と分離する。次に、膜上に吸着した残存アミロイドβ繊維量を、アミロイドβを特異的に認識する抗体を用いて一般的な免疫化学的測定方法で可視化すれば、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維分解抵抗性を評価することができる。
ここで用いる膜は、CLAC/アミロイドβ繊維複合体が吸着し、該複合体と酵素反応分解物とを分離することができるものであればよく、例えばニトロセルロースやセルロースアセテートなどを挙げることができる。
【0046】
また、標識化アミロイドβ(ラジオアイソトープ標識など)を一定割合で混合させたアミロイドβ繊維を用いて評価することもできる。その場合は、CLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素にて分解反応後に、反応溶液中に残存するアミロイドβ繊維を膜に吸着させ、酵素分解物と分離する。次に、膜上に吸着した残存アミロイドβ繊維量を、標識したアミロイド繊維の放射能を検出することによって測定すれば、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維分解抵抗性を評価することができる。
【0047】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
アミロイドβ繊維とCLAC複合体に対するproteinase Kによるアミロイドβ繊維分解反応を検討した。
(1)アミロイドβ繊維の調製
アミロイドβを繊維化させ、アミロイドβ繊維を調製する工程は、Myszka, D. G., Wood, S. J., and Biere, A. L. Methods Enzymol 1999;309:386-402の方法に従って実施した。1mgの凍結乾燥品アミロイドβ1−40 トリフルオロ酢酸塩(Bachem社製)をリン酸緩衝液で溶解した後、室温で2日間スターラーを用いて攪拌しながら、繊維化させた。繊維化したアミロイドβは最終濃度100μMに調製し、実験に使用するまで-70℃で保管した。
【0049】
(2)組み換えCLACの調製
組み換えヒトCLACを発現する細胞株を含む細胞培養物の調製はSoderberg L.et, al(2004) J Biol Chem in press.の方法に従って実施した。
【0050】
(3)アミロイドβ繊維とCLACの反応
細胞培養液から精製したCLACとアミロイドβ繊維とを接触させるため、(1)で調製したアミロイドβ繊維 (最終濃度50μM, 重量20μg)と、(2)で調製した組み換えCLAC(最終濃度200nM 重量5μg)を2時間リン酸緩衝液中に室温で接触させ、アミロイドβ繊維とCLACの複合体を形成させた。
【0051】
(4)アミロイドβ繊維の生体内蛋白質分解酵素による分解反応
前記(3)に続いて、アミロイドβ繊維CLAC複合体と生体内分解酵素を接触させた。アミロイドβ繊維CLAC複合体を蛋白質分解酵素proteinase K (Sigma社製) を重量比1:10 (酵素 : アミロイドβ繊維) と混合させ37℃で一晩反応させた。反応の停止は70%蟻酸添加によっておこない、蟻酸添加後、一晩放置してアミロイドβ繊維を可溶化させた。つぎにスピードバック(遠心濃縮装置)を用いて蟻酸を除去した後、9M尿素(100 mM Tris, pH 10.5)水溶液に再び溶解し、次の(5)のSDS-PAGEによる解析実験に供した。
【0052】
(5)アミロイドβ繊維分解活性の解析
アミロイドβ繊維分解活性の解析はSDS-PAGE法を用いた分子量特性決定法により評価した。SDS-PAGE法には10-20% tricine ゲル(Invitrogen社)、Tricin SDS緩衝液(Invitrogen社)を用いた。SDS-PAGE終了後アミロイドβの可視化にはクーマシーブリリアントブルー(Gel Code Blue stain reagent: PIRCE社)染色ならびにウエスタンブロット法を用いた。ウエスタンブロット法はSDS−PAGEにて分離したアミロイドβをPVDF膜(0.2μm BIO-RAD社)に転写した後、1次抗体にアミロイドβ特異抗体6E10、4G8(Signet Laboratories社)、2次抗体にhorseradish peroxidase結合 抗マウスヒツジIgG(Amersham社)を用い、ECL plus western blotting regents(Amersham社)を用いて可視化した。
【0053】
図1に示すように、クーマシーブリリアントブルー染色法による結果、CLAC添加群では、蛋白質分解酵素proteinase Kと2時間および一晩反応させてもアミロイドβ特異的なバンド(アミロイドβ繊維量)が検出された。一方、CLAC非添加群では2時間反応後すでにアミロイドβ特異的なバンド(アミロイドβ繊維量)は減弱し、一晩反応させた後の検体ではアミロイドβ繊維は完全に分解され検出されなかった。すなわちCLACがアミロイドβ繊維に結合することにより、生体内蛋白質分解酵素であるproteinase Kによるアミロイドβ繊維分解作用に対する抵抗性がCLAC/アミロイドβ繊維複合体に付与されることが判明した。
ウエスタンブロット法による結果も、上記のクーマシーブリリアントブルーによる結果と同じ結果を示した。6E10はアミロイドβN末端付近を認識する抗体であり、4G8はアミロイドβのアミノ酸配列中央付近を認識する抗体である。2種類の異なる領域を認識する抗体を用いても、CLACによるアミロイドβ繊維への蛋白質分解酵素抵抗性の付与が確認できた。(4)の反応によって減少するアミロイドβ繊維残存量をSDS-PAGE法で分子量サイズ特性も決定できた。
これらの結果より、この原理を用いてスクリーニングすれば、CLAC-アミロイドβ繊維複合体のアミロイドβ繊維分解を促進する化合物など、アミロイドβ繊維分解抵抗性を弱める化合物を見出すことが可能であることが判明した。
【実施例2】
【0054】
(1)アミロイドβ繊維、CLACの反応
実施例1の(1)(2)の手順に従ってアミロイドβ繊維とCLACを調製後に、細胞培養液から精製したCLACとアミロイドβ繊維とを接触させた。実施例1(1)で調製したアミロイドβ繊維 (最終濃度0.1μM)、および実施例1(2)で調製した組み換えCLAC(最終濃度100nM )を2時間リン酸緩衝液中に室温で接触させ、アミロイドβ繊維とCLACの複合体を形成させた。
【0055】
(2)アミロイドβ繊維の生体内蛋白質分解酵素による分解反応
アミロイドβ繊維CLAC複合体を蛋白質分解酵素proteinase K (Sigma社製)を重量比58:1 (酵素: アミロイドβ繊維) で混合させ、さらに最終濃度SDS(sodium dodeclsulfate)0.4%存在下、37℃で一晩反応させた。反応の停止は、反応溶液の温度を室温に戻し、さらに10%SDS(最終濃度5 SDS%)を添加して反応溶液を希釈して行った。
【0056】
(3)アミロイドβ繊維分解活性の解析
アミロイドβ繊維分解活性の解析は、膜透過法で行った。残存アミロイドβ繊維と酵素分解物の分離にセルロースアセテート膜(ポアサイズ0.2μm, Schleicher&Schuell社)およびドットブロット装置(Slotblot, Amersham社)を用いた膜透過法を用いた。残存アミロイドβ繊維量の可視化には1次抗体にアミロイドβ特異抗体6E10 (Signet Laboratories社)、2次抗体にhorseradish peroxidase結合 抗マウスヒツジIgG(Amersham社)を用い、ECL plus western blotting regents(Amersham社)を用いた。
膜透過法により評価した結果、図2に示すように、酵素添加群(レーン5-12)では酵素非添加群(レーン1-4)よりもアミロイドβ繊維量の減少が認められた。酵素添加群のうちCLAC添加群(レーン9-12)のアミロイドβ残繊維量はCLAC非添加群(レーン5-8)より多かった。したがってCLAC添加により酵素分解によるアミロイドβ繊維の減少が抑制された。すなわち膜透過法においてもCLACのアミロイドβ繊維への蛋白質分解酵素抵抗性の付与が確認できた。
【実施例3】
【0057】
(1)スクリーニング方法1
上記の実施例1(1)(2)の手順に従ってアミロイドβ繊維とCLACを調製し、調製したアミロイドβ繊維と組み換えCLACを、2時間リン酸緩衝液中に室温で接触させ、CLAC/アミロイドβ繊維複合体を形成させる。
次に、被験化合物存在下で、アミロイドβ繊維CLAC複合体と生体内蛋白質分解酵素(ネプリライシン又はインスリン分解酵素)を混合させて37℃で一晩反応させ、実施例2(3)の手順に従って、膜透過法によりアミロイドβ繊維分解活性の解析を行う。被験化合物非存在下でCLAC/アミロイドβ繊維複合体と該酵素を反応させたものを対照として用いることができる。
【0058】
(2)スクリーニング方法2
上記の実施例1(1)(2)の手順に従ってアミロイドβ繊維とCLACを調製し、調製したアミロイドβ繊維と組み換えCLACを、被験化合物存在下で、2時間リン酸緩衝液中に室温で接触させ、CLAC/アミロイドβ繊維複合体を形成させる。
次に、アミロイドβ繊維CLAC複合体と生体内蛋白質分解酵素(ネプリライシン又はインスリン分解酵素)を混合させて37℃で一晩反応させ、実施例2(3)の手順に従って、膜透過法によりアミロイドβ繊維分解活性の解析を行う。
【実施例4】
【0059】
CLACの6種類の新規スプライスバリアントアイソフォームをヒト脳cDNAライブラリーよりクローニングし、配列を同定した。
(1)CLACアイソフォームスプライスバリアントのクローニング
CLAC前駆体(CLAC-P)はヒト脳cDNAライブラリー (QUICK-Clone cDNA, BD Bioscience Clontech, Palo Alto, CA)を用いてクローニングした。すなわち1 ng のライブラリーをテンプレートとして用い、forward 1 (F1)およびreverse 1 (R1) プライマーを用いて touch-down PCR法により実施した(2)(表1)。テンプレートとして用いた配列は、Homo sapiens collagen-like Alzheimer amyloid plaque component precursor type I mRNA CLAC-P nucleotide sequence (accession no. AF293340)である。
つぎにPCR法を用いて増幅させたCLAC配列をpCR 2.1-TOPO TA クローニングベクター(Invitrogen, Life Technologies)に挿入しサブクローニングを行った。
【0060】
表1にCLAC cDNA中に含まれるプライマーの配列を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
(2)遺伝子配列解析
挿入された CLAC cDNAの配列解析は ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer sequencer (Applied Biosystems Foster City CA) 、BigDye Terminator Cycle Sequencing キット および表1に記載した F1-F4 , R1-R3 (Thermo-Hybaids, Thermo Electron Corporation, Ulm, Gerrmay) を用いて行った。cDNA クローンの配列は 標識色素ヌクレオチドを用い、公知である (Big-Dye, Perkin-Elmer Corp., Norwalk, CT)の説明書に従い実施した。
精製産物を自動配列解析装置ABI PRISM(登録商標) 3100 Genetic Analyzer (Applied Biosystems Foster City CA社)を用いて解析した。実験に用いたプライマーF1-F4 および R1-R3はそれぞれ CLAC-P cDNA 双方向に全長まで伸展させた。それぞれのプライマーは少なくとも3回、挿入配列の解析に用いられた。
つぎに各cDNA クローンの配列は (コンティングアゼンブリプログラム) Cap3 アゼンブリソフトウウェアーを用いて解析した(http://bio.ifom-firc.it/ASSEMBLY/assemble.html にて入手可能)。
【0063】
その結果、合計6種類の異なる長さを持った新規CLAC-Pアイソフォームを見出した。新規に見出された配列は、それぞれP1, P3/P8, TA7, TA9, TA10およびAMY/CLAC-P と命名した。なおAMY/CLAC-P は、そのアミノ酸配列を既に発表(Soderberg L, Kakuyama. H., Moller A, Ito A, Winblad B, Tjernberg L, Naslund J. J Biol Chem 2005;280:1007-1015)しているが、コードする塩基配列については未発表である。
表2に、すでに報告されている最長の塩基配列を持つ公知のクローン(Homo sapiens collagen-like Alzheimer amyloid plaque component precursor type I mRNA 配列AF293340:NCBI sequence database)と比較した結果を相同性(%)も合わせて示した。表2において欠損塩基配列位置とは、配列番号1に記載の塩基配列における欠損塩基配列の位置を示している。
【0064】
表2に新規CLACアイソフォームをAF293340と比較した結果を示す。
【0065】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によって、これまでに知られている阻害剤と異なる新たな作用機序に基づく、アルツハイマー病などのアミロイドβ蛋白質の沈着によって引き起こされる疾患に有効な剤のスクリーニング方法が提供される。本発明のスクリーニング方法によって得られる物質は、アルツハイマー病などのの治療または予防剤などとして有効に利用することができる。
更に、本発明によって本発明スクリーニング方法などに用いることのできる新規なCLACのスプライスバリアントアイソフォームが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】CLAC は繊維化したアミロイドβ繊維に蛋白質分解酵素抵抗性を与えている。Aはウエスタンブロット法による結果、Bはクーマシーブリリアントブルー染色法による結果を示す。CLAC+:CLAC添加群、CLAC−:CLAC非添加群。2h: 酵素への接触反応が2時間の反応例、on: 酵素への接触反応が1晩(およそ12時間)の反応例。
【0068】
【図2】膜透過法法による評価結果を示す。CLAC は繊維化したアミロイドβ繊維に蛋白質分解酵素抵抗性を与えている。アミロイドβ繊維+ CLAC: レーン1-4, アミロイドβ繊維+酵素: レーン5-8, アミロイドβ繊維+CLAC +酵素: レーン9-12

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)および(b)を含む、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維分解抵抗性を減少させる物質のスクリーニング方法、
(a)被験物質存在下において、CLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素と接触させる工程、
(b)CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を測定し、該複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を減少させる被験物質を選択する工程。
【請求項2】
下記の工程(a)(b)および(c)を含む、CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ線維分解抵抗性を減少させる物質のスクリーニング方法、
(a)被験物質存在下において、CLACとアミロイドβ線維とを接触させCLAC/アミロイドβ線維複合体を形成させる工程、
(b)形成されたCLAC/アミロイドβ線維複合体をタンパク質分解酵素と接触させる工程、
(c)CLAC/アミロイドβ線維複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を測定し、該複合体のアミロイドβ繊維分解抵抗性を減少させる被験物質を選択する工程。
【請求項3】
タンパク質分解酵素が生体内タンパク質分解酵素である、請求項1または2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
タンパク質分解酵素がネプリライシンまたはインスリン分解酵素である、請求項1〜3いずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
アミロイドβ繊維分解抵抗性を測定する手法が、クーマシーブリリアントブルー染色法、ウエスタンブロット法または膜透過法である、請求項1〜4いずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
アミロイドβ蛋白質の沈着によって引き起こされる疾患の治療または予防に有効な剤をスクリーニングするための、請求項1〜5いずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
アルツハイマー病の治療又は予防に有効な剤をスクリーニングするための、請求項6記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
以下の(a)、(b)または(c)のDNAからなる遺伝子、
(a)配列番号3,5,7,9,11または13のいずれかで示される塩基配列からなるCLAC DNA、
(b)配列番号4,6,8,10,12または14のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるCLACをコードするDNA、
(c)配列番号3,5,7,9,11または13のいずれかで示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアミロイドβ繊維と複合体を形成するという特徴を有する蛋白質をコードするDNA。
【請求項9】
以下の(a)又は(b)の蛋白質からなるCLAC、
(a)配列番号4,6,8,10または12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)請求項8に記載の遺伝子によりコードされる蛋白質。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−204150(P2006−204150A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18801(P2005−18801)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】