説明

アルツハイマー病の視覚診断

【課題】哺乳動物におけるアルツハイマー病の状態に関する予後を診断する方法の提供。
【解決手段】アミロイドタンパク質に結合する、検出可能に標識した化合物に視覚組織を接触させることによって、哺乳動物におけるアルツハイマー病の状態に関する予後を診断するか又は提供する方法であり、正常な対照の結合レベルと比較し、その化合物の結合の増加は、その哺乳動物がアルツハイマー病に罹患しているか又は発症する危険性があることを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アルツハイマー病(AD)は、老化による慢性的な進行性の変性疾患であり、高齢者における罹患率及び理学療法の主な一因である。ADは現在、全ての痴呆症の約70%の原因であり、約200〜400万人の米国人を冒している。900百万人もの米国人が、2050年までにADを保有しうる。疫学的な調査では、もしADを5年遅らせることができれば、ADの発生率と流行性は、半分に減少するであろうと推定された。将来のADの治療法の開発及び実施は、この疾病に対する感度の良い初期診断に依存している。この疾病については多くのことが知られているが、今のところ、利用可能な初期の診断方法や効果的な治療方法はない。
【発明の概要】
【0003】
概要
本発明は、初期の信頼できるADの検出、又は疾患前の神経変性状態のための非侵襲的な方法を提供する。診断方法は、哺乳動物、例えばヒト患者の視覚組織に、アミロイドタンパク質、例えばアミロイド-β(Aβ)に結合する検出可能に標識された化合物を接触させることによって実施される。「アミロイドタンパク質」は、AD老人斑に関連するタンパク質やペプチドを意味する。好ましくは、アミロイドタンパク質は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、又は天然に存在するタンパク質分解産物である。APP分解産物は、酸化又は架橋されたAβだけでなく、Aβ1-40、Aβ2-40、Aβ1-42を含む。これらの化合物は、一塩基多型(SNP)の変異体を含む、APP及びAβの天然に存在する変異体に結合する。正常な対照の結合レベルに比較した、その化合物の視覚組織、例えばレンズ細胞の細胞内コンパートメントへの結合の増加は、その哺乳動物がADに罹患していること、又はADを発症する危険性があることを示す。好ましくは、その化合物は、Aβ1-42又は別のアミロイド前駆体タンパク質(APP)に結合する。その化合物は、タンパク質を含む他のβ-プリーツシートに比べて、優先的にアミロイドタンパク質に結合する。好ましくは、検出可能に標識された化合物は蛍光プローブを含む。例えば、蛍光プローブ又は蛍光体(fluorophor)は、{(トランス、トランス),-1-ブロモ-2,5-ビス-(3-ヒドロキシカルボニル-4-ヒドロキシ)スチルベンゼン(styrlbenzene)(BSB)}等の、クリサミン又はクリサミン誘導体である。
【0004】
本方法は、眼及び脳におけるAβの蓄積を阻害する化合物を同定するためのインビボでの薬物スクリーニング、疾患前のADの症状、診断、予後、及びADの薬物治療に対する患者の反応のモニタリングにとって有用である。眼の皮質領域におけるAβの凝集性の程度は、脳における神経病理学的なAβの沈着物に直接比例する。
【0005】
被験対象の眼の組織を化合物に接触させ、眼のレンズ領域における細胞に浸透させ、蛍光を測定する。眼の皮質領域は、蛍光スキャニングによって評価される。または、眼の房水、即ち角膜とレンズの間の澄んだ液体をスキャンする。正常な対照被験者(プローブ投与後)のレンズの蛍光と比較した、少なくとも10%の増加は、AD又はADへの素因を示唆する。典型的には、正常な対照は、プローブがレンズ組織にほとんど又は全く結合しない。正常なレンズの蛍光レベルは、検出可能に標識されたAβ-結合化合物に、正常な、ADのない対象(又は対象の集合)の眼を接触させた後、検出された蛍光レベルである。その値は、AD(家族歴、又は公知の遺伝的素因もない)をもたないことが知られている対象の個々のプールに由来する、平均値又は中央値を決定することにより選択的に導かれる。もし、用いられているプローブが正常なヒトのレンズの自己蛍光の範囲(青-緑の領域)で光を放射すれば、自己蛍光のレベルは読み取り値に含まれる。例えば、プローブ(自己蛍光)非存在下のレベルに比較した、蛍光(プローブ投与後)の10%の増加は、病理学的な状態又は神経病理学的な状態を発症する素因を示す。好ましくは、自己蛍光の基準は各個体について(プローブ投与に先立って)確立される。
【0006】
蛍光の診断レベルは、好ましくは正常な対照値よりも少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、更に好ましくは少なくとも100%大きい。例えば、正常な対照値よりも2倍又はそれより大きい、Aβ-特異的プローブ蛍光の検出は、病理学的な症状を示す。正常なヒトのレンズ組織の自己蛍光は青-緑の領域内(495nm/520nm)であるので、プローブは好ましくは、青-緑のスペクトル外の光の波長を放射する。例えば、蛍光プローブは、520nmより大きな光の波長、例えば赤、オレンジ-赤、又は赤外線領域の蛍光を放射する。またはプローブは、450nm未満、例えば紫、又は紫外線(UV)領域の波長を放射する。
【0007】
アルツハイマー病の予後の方法は、(a)アミロイドポリペチドに結合する化合物に、哺乳動物の視覚組織を接触させる段階;(b)その化合物の視覚組織への結合を定量する段階;及び(c)正常な対照と結合レベルを比較する段階を含む。長期にわたる結合レベルの増加は、不利な予後を示す。プローブ投与後の試験患者のレンズの蛍光は、非AD対象(または個体集合)の内在性の蛍光、又はプローブ投与後の非AD対象(または非AD対象の集合)の蛍光レベルと比較される。本方法は、疾病の重篤度を設定し、薬物治療への反応をモニターし、Aβの蓄積を阻害する能力について薬物をスクリーニングするためにも用いられる。蛍光(皮質レンズのAβの蓄積を示して)の増加レベルは、ADのさらに進行した段階を示す。時間に伴う蛍光(皮質レンズのAβの蓄積を示して)のレベルの減少は、与えられた薬物がAβの蓄積を阻害することを示し、薬物治療のポジティブな臨床反応を示す。
【0008】
青-緑の領域外の光を放射する、検出可能に標識されたAβ結合化合物もまた、本発明の範囲内である。例えば結合化合物は、550nm〜700nmの間の波長の光を放射する蛍光プローブである。この化合物は、テキサスレッド又はその誘導体を含む。
【0009】
化合物、例えばポリペプチドリガンド、有機化合物、又は非有機化合物は、単離又は精製される。「単離された」又は「精製された」組成物は、細胞性の物質、もしくはそれが由来する細胞又は組織源からの他の混入タンパク質を実質的に含まないか、または化学的に合成されるときの前駆体や他の化学物質を実質的に含まない。好ましくは、化合物、例えば蛍光性Aβ結合化合物の調製物は、調製物の乾燥重量の少なくとも75%、より好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、より好ましくは98 %、最も好ましくは99%又は100%である。
【0010】
「蛍光」は、光エネルギー(「励起光」)が、結果的に「励起される」分子により吸収される現象である。1分〜24時間のような、所定の間隔の後、吸収された光エネルギーは励起した分子によって放射される。放射された光の波長は、典型的には、励起光よりも長い波長である。この放射された光は蛍光と呼ばれる。蛍光を示す分子は、「蛍光体」と呼ばれる。光の波長と、その波長で与えられた蛍光体の励起の程度との関係は、蛍光体の「励起スペクトル」により記載される。励起スペクトルは、励起波長領域とも呼ばれる。光の波長とその波長における蛍光放射の強度との関係は、発光スペクトル又は蛍光体の蛍光スペクトルにより記載される。発光スペクトルはまた、放射波長領域とも呼ばれる。励起の最大値は、蛍光体の蛍光が最大の強度に達する励起光の波長である。放射の最大値は、蛍光が最大の強度の時に励起された蛍光体によって放射される光の波長である。
【0011】
可視光により励起され、可視光を放射するほとんどの蛍光体は、各々の最大値は異なるが、その励起領域に重複する発光スペクトルを有する。励起スペクトルの最大値と発光スペクトルの最大値の間のナノメートルの距離は、「ストークスシフト」として知られている。可視領域の長いストークスシフトを有する蛍光体は、本発明で最も良く作用する。例えば、400nmの励起の最大値と700nmの放射の最大値を有し、そのスペクトルがほとんど又は全く重複しない蛍光体が好ましい。
【0012】
本明細書において記載される方法は、AD診断の現在のアプローチに対していくつかの利点を提供する。第一に、本方法は生前に実行され、生きている組織中のAβの蓄積を正確に信頼性をもって同定する。本発明に先立って、沈着物の信頼できる検出は、AD患者の脳の検死を調査することから行われる。第二に、本方法は、非侵襲性、即ち組織の生体検査を必要としない。本方法は、生理学的に適合性のプローブを利用する。さらに、スキャニング手順自体は、数秒、例えば30秒〜数分を要する。最後に、Aβ蓄積の固有の解剖パターンのため、検出の特異性と感度は高い。即ち、非疾病状態のレンズの皮質領域は、タンパク質の蓄積/凝集がほとんど又は全くないことによって特徴づけられる。少量のAβタンパク質の蓄積でさえ、安定であり、眼のこの領域において容易に検出可能である。
【0013】
本発明の他の特徴、眼的、及び利点は、明細書及び図面から明らかである。
【0014】
詳細な説明
本明細書で開示される非侵襲性の視覚的な診断方法は、アミロイドタンパク質の蓄積によって仲介される、AD及び関連する神経変性疾患を診断し、予知し、かつモニターすることを容易にする。疾患のプロセスは、脳の脆弱な領域においてAβペプチドの病原性の蓄積を伴う。本発明は、これらの同じAβペプチドは、AD患者の視覚細胞、及び特に、レンズの皮質領域の中に微小凝集体として蓄積するという発見に基づく。眼の皮質における蓄積に加えて、Aβは眼の房水、例えば前房に蓄積する。疾病の進行は、細胞死及び細胞外Aβペプチドの蓄積をもたらす。タンパク質の凝集は、比較的希な白内障(「核上の」、又は深部の皮質の白内障)の進行を促進する。そのような核上の白内障は、ADのトランスジェニックマウスモデル、及び神経病理学にADが確認されたヒト患者からの死後のレンズにおいて検出された。本発明の診断方法は、かなり入手困難な脳室に生じるのと同様な事象に関する生物マーカーとして、レンズにおけるAβの凝集及び蓄積をモニターするための手段である。
【0015】
クリサミンG及びその誘導体は、当技術分野において知られている(例えば、米国特許第6,133,259号、米国特許第6,168,776号、米国特許第6,114,175号)。これらの化合物はAβペプチドに結合するが、蛍光性ではない。診断方法は、眼においてAβペプチドを検出するために、高度に親油性の蛍光性アミロイド結合クリサミンG誘導体を利用する。視覚組織をAβ特異的プローブに接触させた後、標準的な蛍光光度分析法の技術を用いた非侵襲性のスキャニングにより、結合の程度が明らかになる。眼の蛍光光度計及び他の眼の画像化装置は当技術分野で公知である(例えば、米国特許第6,198,532号、及び米国特許第6,013,034号)。
【0016】
本方法は、生物学的に利用可能な親油性の蛍光プローブを利用する。そのような蛍光体及びプローブは、例えばモレキュラープローブ社(Molecular Probes, Inc.、Eugene、OR)から市販されている。色素、例えばX-34又は{(トランス, トランス),-1-ブロモ-2,5-ビス-(3-ヒドロキシカルボニル-4-ヒドロキシ)スチルベンゼン(BSB)}(Styrenら、2000、J.Histochem. 48:1223-1232; Linkら、2001、Neurobiol.Aging 22:217-226;及びStrovonskiら、2000、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97:7609-7614)は、脳組織(眼組織ではない)を解析するために用いられてきた。これらのプローブは、青-緑の領域の光を放射し、このように診断上、適切な蛍光のレベルは、青-緑の領域のヒトのレンズの自己蛍光の総量を超える。
【0017】
本診断方法に用いられるプローブは、Aβ、及び他のβ-プリーツシートを含むタンパク質又はポリペプチドに関連するAβ関連タンパク質に特異的に結合する。プローブは、液体又は軟膏の形態で眼に適用される。化合物の親油性は、介在する構造に浸透することを容易にする。化合物は、レンズ及び他の視覚構造内のAβの蓄積に対して高い結合活性で結合する。例えば、蛍光性Aβ結合化合物の組織及び細胞への浸透を向上させるため、賦形剤、例えばDMSOを有する溶液中で処方される。眼とその化合物とを接触させた後、眼の蛍光性スキャニングよりも前に、その化合物は、ある時間、例えば1分〜5時間、視覚組織に浸透させる。好ましくは、蛍光光度計のスキャニングの前に、少なくとも1時間、眼をその化合物に接触させる。スキャニングの前、1日又はそれ以上、眼をプローブに接触させてもよい。視覚構造の特定のサブ領域内での蛍光プローブの眼への適用及び分配の前後における、蛍光光度分析のシグナルのレシオメトリック又は他の解析は、ADの疾患段階に関連するAβ蓄積の程度及び局在を定量的に明らかにする。正常な対照値に比較した、蓄積されたAβペプチドの総量の増加は、ADのような神経変性状態を示す。
【0018】
AD関連の核上白内障が形成されるレンズ領域は、レンズの核領域に比較して高分子の凝集体を形成する素因がない。加えて、レンズのタンパク質は、一度形成されると、比類なく長期間安定である。このように、脳においては複数のメカニズムが有害なAβペプチドの消失に関与するが、レンズのタンパク質及びペプチドは容易には消失せず、蓄積する傾向がある。このように、レンズAβの固有の状況は、脳に比較して初期の蓄積を促進する。レンズのこの特性は、疾病の過程の極めて初期に(例えば、公然に認識される又は神経学的な兆候の発生に先立って)、Aβに媒介される凝集及び蓄積の検出の正確性及び信頼性を向上させる。
【0019】
アミロイドタンパク質
ADは、著しい酸化傷害、及び脆弱な脳領域における不溶性タンパク質の病理学的な蓄積によって特徴づけられる。毒性のあるアミロイドAβペプチドは、通常、ADにおける主要な病因であると考えられている。これらの様々なペプチドは、β-アミロイド前駆体タンパク質(APP)(Selkoeら、2000、Annal. of N.Y.Acad.Sci.924:17-25)と呼ばれるより大きなタンパク質の切断によって生じる。プレセリニン(PS1、PS2)と呼ばれるタンパク質は、切断を調節する。他の老人斑関連タンパク質は、アミロイドタンパク質に関連するβ-アミロイド分泌酵素I及びII(BASEI及びII)を含む。得られるAβペプチドのいくつかは、他のものよりも高い毒性を有する。脳の特定のAβペプチドの増大は、ADの全ての公知の形態に原因として関係していると考えられている。これは一般に、脳におけるAβの発生、沈着、及び/又は蓄積は、この破壊的な神経学的障害の疾患プロセスの基礎にある、重要で最終的な一般的経路であるという「Aβ仮説」を受け入れる。
【0020】
アミロイドタンパク質(Aβ、APP、AS1、PS2)はまた、哺乳動物のレンズで発現される。Aβの凝集は、神経変性疾患の進行の段階に依存して、細胞の内外で起こる。Aβは、長持ちするαクリスタリンのようなレンズにおけるタンパク質と異常に相互作用しうる。本明細書で記載される診断方法は、次の所見に基づいている:I)Aβペプチドは、レンズの特定のサブ領域に蓄積し、ii)Aβペプチドは、レンズのタンパク質の凝集を強力に促進し、かつiii)特有の深部の核上の層間白内障は、十分に特徴づけられたADのモデル動物、アミロイドを有するAPP変異Tg2576トランスジェニックマウス、及び独立して神経病理学的にADと診断されたヒト患者に由来する死後のレンズにおける、Aβの過剰発現に関連する。
【0021】
眼におけるAD関連タンパク質蓄積の蛍光検出
本明細書に記載されるデータは、レンズタンパク質のインビボ試験は、診断的に適切なAβの蓄積に関する情報をもたらすが、それは脳のような入手が困難な組織からは得られないことを示す。これらの方法の重要な利点は、これらは非侵襲性であるということである。非侵襲性の方法は、インビボの薬物スクリーニング、診断、予後、及び治療的介入に対する患者の反応のモニタリングにおいて有用である。この技術は、{(トランス、トランス),-1-ブロモ-2,5-ビス-(3-ヒドロキシカルボニル-4-ヒドロキシ)スチルベンゼン(BSB)}のような、親油性で蛍光性の高親和性Aβ結合プローブを利用する。この化合物(親油性の蛍光性Aβ結合誘導体と同様に)は眼に適用され、レンズに分配される。
【0022】
例えば、コンゴレッドやチオフラビンのような比較的非特異的なアミロイド性のプローブを用いる他の方法と違い、本方法は、Aβペプチドに極めて特異的なプローブを用いる。他のアミロイド性プローブは、眼に存在するβ-プリーツシートタンパク質構造に結合し、クリサミンに基づくプローブは、特異的にAβ及び他のAPP断片に結合する。クリサミンG及びコンゴレッドのアミロイド結合性誘導体は、プローブのアミロイド結合部分として有用であり、検出可能な標識、例えば蛍光体は蛍光性スキャニングをするために接着している。クリスタミン及びコンゴレッド誘導体は、いくつかのアミロイドペプチド鎖に及ぶ接着を通して、アミロイドタンパク質に結合する。
【0023】
光学軸に沿ったAβ結合量は、蛍光光度分析技術をスキャンすることによってモニターされる。自己蛍光の基準を決定するプローブの適用前に、光学軸に沿った蛍光が測定される。次に、蛍光プローブの投与後、再び測定される。蛍光は核領域だけでなく、レンズの前後の核上の深部皮質領域で測定される。プローブ投与前の核の蛍光に対する皮質の蛍光比は、プローブ投与後の比と比較される。例えば、プローブ投与前の核の蛍光に対する皮質の比は2:2であり、プローブ投与後は、比は10:2である。この比較は、Aβの蓄積(及びADの診断又はADを発症する素因)を示す。正常な対照値は、プローブ投与後、皮質領域における蛍光の最小値か又は検出されない。核領域に比較した、皮質レンズ領域における蛍光性シグナルの増加によって示されるように、親油性の蛍光性Aβ結合プローブの結合は、疾病の有無に相関する測定基準をもたらす。Aβの蓄積の程度は、他の組織と比較してレンズ内においてより大きく速い。この蓄積は、疾病の段階を示している。即ち、より大きな蓄積は、ADの更に進行した段階、又は関連する神経変性状態に相関する。自己蛍光の基準上の蛍光の強度は、疾病の重篤度と相関する。これらの結合データは、脳におけるAβ沈着の生物学的指標、または生物マーカーとして役立つ。
【0024】
Aβ特異的プローブは親油性であり、比較的非電荷性である。これと対照的に、抗体プローブ又は抗体断片は、大きな分子量と電荷のため、そのアッセイには適さない。プローブの親油性の性質は、眼の組織への効率的な接触、及び眼の親油性バリア及び眼の構造の細胞膜の通過を仲介する。加えて親油性は、眼のレンズ領域において細胞の細胞内コンパートメントへの接近を容易にする。ADの初期の段階では、Aβは細胞外よりもむしろ細胞内に蓄積するため、プローブのこの局面は、初期の疾病の検出にとって決定的である。単に疾病の進行や細胞死として、細胞外の蓄積や斑がはっきり表れる。
【0025】
光のスペクトルの青-緑の領域の光を放射する、上記のプローブに加えて、その方法は(多かれ少なかれ)正常なレンズの自己蛍光の領域(495nm/520nm)外の蛍光シグナルを放射する他のプローブも利用する。当技術分野で公知の方法を用いて、様々な低分子の蛍光体がアミロイド結合化合物、例えばクリサリンG又はクリオキノールに結合させる。例えば、長波長の蛍光体、例えばテキサスレッド及びその誘導体が用いられる。そのような色素は、正常なレンズの自己蛍光の妨害なしに、例えば遠赤外線領域の波長で調査され得る。
【0026】
実施例1:ADに関連した白内障の形成
眼の組織におけるAβ蓄積の進行は、白内障の形成につながる。脳と異なり、スキャンされる眼のレンズ領域は、低いタンパク質回転率を特徴とする。レンズのタンパク質は、何十年もの間安定であり、消失しない。このように、APPタンパク質、例えばAβペプチドは、疾病の進行の極めて初期に検出され、長い間安定であり検出可能である。
【0027】
ADは、Aβペプチドから構成されるタンパク質凝集体の皮質への蓄積によって特徴づけられる。脳におけるAβペプチドの蓄積に先立ち、または同時に、眼の組織においてペプチドが蓄積し、検出可能である。ADに関連した深部皮質(核上)白内障の形成は、死後のヒトAD患者及びアミロイドを有するTg2576トランスジェニックマウスからのレンズにおいて検出される。
【0028】
レンズにおけるAβペプチドは、スリットランプ光学顕微鏡法、Aβ-免疫金電子顕微鏡法(EM)、定量的ウェスタンブロット、共免疫沈降法、及びインビトロの比濁分析を用いて解析された。神経病理学的に確認されたAD症例由来のレンズは、核上レンズ領域内の白内障を示す。正常な対照被験者においては、この領域での白内障の形成は希である。Aβの蓄積と核上白内障は、AD患者の死後のレンズ組織、及びTg2576トランスジェニックマウス、ヒトADに対する人工モデルで検出される。ヒトADレンズのEM研究は、皮質の繊維細胞の細胞質内において、Aβ免疫反応性の微小凝集体の集団を示す。ほとんどのレンズAβは、Aβ-クリスタリンを含む他のタンパク質に関係する。Aβは、微少金属依存的酸化メカニズムを通して、ヒトのレンズタンパク質の凝集を強力に促進する。
【0029】
これらのデータは、細胞内Aβタンパク質の凝集が核上の白内障の形成をもたらすことを示す。Aβに関連したレンズの凝集物の蓄積は、ADの初期において生じ、インサイチューで維持される。このように、レンズは皮質のアミロイド化プロセスにおいて、末梢の接触可能な「分子の窓」を提供する。眼においてAβを定量するための非侵襲性の診断やモニタリングの方法は、初期の信頼できるADの同定、潜在性の患者、またはADのような神経変性状態を発症しやすいAD患者に許される。
【0030】
実施例2:Aβペプチドのアミロイド化、細胞毒性、及び酸化還元プロフィール
年齢関連性白内障(ARC)及びアルツハイマー病(AD)は、酸化損傷及び凝集したタンパク質の病理学的な蓄積によって特徴づけられる。Aβペプチド及びADに関連したタンパク質はレンズで発現される。金属タンパク質反応は、アミロイド化、細胞毒性、及び異なるAβペプチドの還元プロフィールに相互に関連する。
【0031】
Aβペプチド及び金属タンパク質の化学的性質の、レンズタンパク質の凝集への貢献は、次のように研究された。アミロイドを有するTg+トランスジェニック(vs Tg-)マウス及びヒト標本由来のレンズは、スリットランプ光学顕微鏡法によって調査し、定量的ウェスタンブロット、EM、及び免疫組織化学によってAβ及びAPPを解析した。インビトロの凝集研究は、合成Aβペプチド、キレート、酸化防止剤捕捉剤を含む、可溶性の全レンズタンパク質(TLP)をインキュベートすることにより実施され、続いて光学濃度解析、ウェスタンブロット、及び標準的なアミロイドアッセイ法を行った。
【0032】
データは、以下のことを示した:1)Aβ及びAPPはレンズで発現され;2)Aβは、単量体、多量体、架橋、及び凝集した種として見いだされ;3)Tg2576 APP-変異トランスジェニックマウスは、両側性の核上の「層間」白内障を発症し;4)インビトロでのTLP凝集は、微量金属及び反応性のある酸素スペック(ROS)に依存し;かつ5)Aβ、特に高いアミロイド形成性のヒトAβ1-42は、金属/ROS依存的かつペプチド特異的な方法でTLP凝集を著しく増強する。レンズのAβ1-42は、白内障の発生に寄与し、AD及びそれに対する素因を示す。そのデータは、AD及びARCの発症に寄与するプロセスは、生化学的に関連していることも示す。
【0033】
銅、亜鉛、および鉄などの金属は、Aβと強く関連する。金属は、Aβの蓄積又は斑と共に局在化する。したがって、親油性の蛍光性金属キレート剤、例えばクリオキノールは、レンズの皮質領域におけるAβの沈着を検出するのに有用である。金属結合化合物は、(検出可能な蛍光を示している場合)単独で用いられるか、又は蛍光を付与するもしくは増大させるための蛍光体の接着によって改変される。本明細書に記載されるアミロイド結合及び金属プローブは、タンパク質の凝集を妨げるように治療的に投与され得る。
【0034】
他の態様は、上記の特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物においてアルツハイマー病を診断する方法であって、アミロイドタンパク質に結合する検出可能に標識された化合物に、視覚組織を接触させる段階を含み、正常な対照の結合レベルに比較した該化合物の視覚組織への結合の増加が、該哺乳動物がアルツハイマー病に罹患しているか又は発症する危険性があることを示す方法。
【請求項2】
検出可能に標識された化合物が蛍光体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
蛍光体が青-緑スペクトル外の光の波長を放射する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
蛍光体が520nmより大きな光の波長を放射する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
蛍光体が赤外線領域の光の波長を放射する、請求項2記載の方法。
【請求項6】
蛍光体が450nm未満の光の波長を放射する、請求項2記載の方法。
【請求項7】
蛍光プローブがクリサミン化合物である、請求項2記載の方法。
【請求項8】
化合物がアミロイド-β(Aβ)ポリペプチドに優先的に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
化合物がAβ(1-42)に優先的に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
蛍光プローブが、{(トランス、トランス),-1-ブロモ-2,5-ビス-(3-ヒドロキシカルボニル-4-ヒドロキシ)スチルベンゼン(BSB)}である、請求項2記載の方法。
【請求項11】
眼の皮質領域を画像化する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
眼の核上領域を画像化する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
眼の房水領域を画像化する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
増加が正常な対照値より少なくとも10%大きい、請求項1記載の方法。
【請求項15】
増加が正常な対照値より少なくとも25%大きい、請求項1記載の方法。
【請求項16】
増加が正常な対照値より少なくとも50%大きい、請求項1記載の方法。
【請求項17】
増加が正常な対照値より少なくとも100%大きい、請求項1記載の方法。
【請求項18】
550〜700nmの間の波長の光を放射する、検出可能に標識されたAβ結合化合物。
【請求項19】
テキサスレッド又はその誘導体を含む、請求項18記載の化合物。
【請求項20】
化合物がアミロイド前駆体タンパク質(APP)に結合する、請求項18記載の方法。
【請求項21】
化合物がAβ1-40に結合する、請求項18記載の方法。
【請求項22】
化合物がAβ2-40に結合する、請求項18記載の方法。
【請求項23】
化合物がAβ1-42に結合する、請求項18記載の方法。
【請求項24】
化合物が酸化されたAβに結合する、請求項18記載の方法。
【請求項25】
化合物が架橋されたAβに結合する、請求項18記載の方法。
【請求項26】
(a)アミロイドポリペプチドに結合する化合物に、哺乳動物の視覚組織を接触させる段階;
(b)該化合物の該視覚組織との結合レベルを定量する段階;及び
(c)該結合レベルを正常な対照の結合レベルと比較する段階
を含む、アルツハイマー病を予知する方法であって、長期にわたる結合レベルの増加が不利な予後を示す方法。

【公開番号】特開2009−280594(P2009−280594A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167348(P2009−167348)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【分割の表示】特願2003−522583(P2003−522583)の分割
【原出願日】平成14年4月25日(2002.4.25)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【Fターム(参考)】