説明

アルツハイマー病及び関連状態の治療

脳内のAβの沈着を伴う疾患の治療又は予防において使用するための、成長ホルモン分泌促進薬と、(a)Aβの分泌を阻害する化合物;(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物;(c)Aβの凝集を阻害する化合物;及び(d)Aβに選択的に結合する抗体から選択される、脳におけるADの産生又はプロセシングを調整する少なくとも1つの薬剤との組み合わせを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの体の治療処置のための方法及び物質の使用に関する。とりわけ、本発明は、アルツハイマー病などの脳内のβ−アミロイド沈着を伴う疾患を治療する方法、又はこのような疾患を伴う認知症の発症を予防もしくは遅延させる方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、認知症の最も一般的な形態である。その診断については、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第4版(American Psychiatric Association(DSM−IV)より出版)において述べられている。この疾患は、神経変性疾患であり、臨床的には、記憶及び全般的な認知機能の進行性の喪失を特徴とし、病理学的には、患者の脳の皮質及び連合野領域における細胞外タンパク質様斑の沈着を特徴とする。これらの斑は、主に、β−アミロイドペプチド(Aβ)の繊維状凝集を含む。Aβは、酵素β−セクレターゼ及びγ−セクレターゼが関与する独立した細胞内タンパク質分解を介してアミロイド前駆体タンパク質(APP)から形成される。γ−セクレターゼが介在するタンパク質分解部位が多様であるために、例えば、Aβ(1−38)、Aβ(1−40)及びAβ(1−42)など、Aβの鎖長が多様になる。Aβ(4−42)などのN−末端短縮型もまた、おそらくβ−セクレターゼが介在するタンパク質分解部位が多様であることの結果として、脳内で見られる。便宜上、本明細書中で使用される、「Aβ(1−40)」及び「Aβ(1−42)」などの表現には、N−末端短縮型変異体などが含まれる。Aβは、細胞外液に分泌された後、ADにおいてキーとなる神経毒性物質であると広く考えられている(Gongら、PNAS、100(2003)、10417−22)、最初は可溶性である凝集体を形成し、それらは最終的に、ADの病理学的特徴である不溶性の沈着物及び密度の高い神経斑となる。
【0003】
脳内のAβの沈着を伴う他の認知症の状態には、脳アミロイドアンギオパチー、多発脳梗塞性認知症、ボクサー認知症及びダウン症候群が含まれる。
【0004】
ADに対する治療処置として、斑形成過程における様々な介入方法が提案されてきた(例えば、Hardy及びSelkoe、Science,297(2002),353−6を参照。)。提案された治療法の中のある方法は、例えば、β又はγ−セクレターゼの阻害により、Aβの産生をブロックするか、又は低下させるというものである。γ−セクレターゼを阻害する化合物は、WO01/53255、WO01/66564、WO01/70677、WO01/90084、WO01/77144、WO02/30912、WO02/36555、WO02/081435、WO02/081433、WO03/018543、WO03/013506、WO03/013527、WO03/014075、WO03/093252、WO2004/031137、WO2004/031138、WO2004/031139、WO2004/039800及びWO2004/039370に記載されている。β−セクレターゼを阻害する化合物は、WO03/037325、WO03/030886、WO03/006013、WO03/006021、WO03/006423、WO03/006453、WO02/002122、WO01/70672、、WO02/02505、、WO02/02506、、WO02/02512、WO02/02520、WO02/098849及びWO02/100820に記載されている。Aβの形成又は放出を阻害する他の化合物には、WO98/28268、WO02/47671、WO99/67221、WO01/34639、WO01/34571、WO00/07995、WO00/38618、WO01/92235、WO01/77086、WO01/74784、WO01/74796、WO01/74783、WO01/60826、WO01/19797、WO01/27108、WO01/27091、WO00/50391、WO02/057252、US2002/0025955及びUS2002/0022621で開示されているものが含まれる。
【0005】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)の阻害、とりわけ、GSK−3αの阻害により、Aβの産生がブロックされることもまた報告されている(Phielら、Nature,423(2003),435−9を参照。)。
【0006】
提案された別の治療法は、Aβ(1−42)の産生を選択的に低下させるように、γ−セクレターゼの作用を調整するということである。これにより、Aβの短鎖アイソフォームが優先的に分泌されるが、これは、自己凝集及び斑形成傾向が低く、従って、脳から容易に除去され、及び/又は毒性が低いと考えられている。この効果を示す化合物には、ある種の非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)及びその類似体(WO01/78721、及びUS2002/0128319を参照。)が含まれる。PPARα及び/又はPPARδの活性を調整する化合物はまた、Aβ(1−42)を減少させる効果を有することが報告されている(WO02/100836)。酸化窒素を放出可能なNSAID誘導体は、抗神経炎症作用を向上させ、及び/又は動物モデルにおいて大脳内のAβ沈着を低下させることが報告されている(WO02/092072、;Jantzenら、J.Neuroscience,22(2002),226−54)。
【0007】
提案されている別の治療方法は、Aβの凝集を妨害する化合物を投与するというものである。この機能を有する化合物には、クリオキノールなどのキレート剤(Gouras及びBeal,Neuron,30(2001),641−2)及びWO99/16741で開示されている化合物、とりわけ、DP−109として知られている化合物(Kalendarevら、J Pharm.Biomed.Anal.,24(2001),967−75)が含まれる。他のAβ凝集阻害剤には、WO96/28471、WO98/08868及びWO00/052048(ApanTM(Praecis)として知られている化合物を含む。)、WO00/064420、、WO03/017994、、WO99/59571及びAlzhemedTM(Neurochem)として知られている化合物、WO00/149281及びPTI−777及びPTI−00703(ProteoTech)として知られている組成物、WO96/39834、WO01/83425、WO01/55093、WO00/76988、WO00/76987、WO00/76969、WO00/76489、WO97/26919、WO97/16194及びWO97/16191で開示されている化合物が含まれる。
【0008】
提案されている別の治療方法は、Aβに選択的に結合する抗体を投与するというものである。このような抗体は、例えば、WO99/60024及びWO00/72880において述べられているように、脳浸透性であり、不溶性Aβに結合可能であり得る。あるいは、このような抗体は、脳浸透性である必要はなく、体液から可溶性Aβを捕捉することが可能であり得る。これらの環境において、非結合Aβを血清から除去することにより、脳と血清との間の関連する濃度勾配が上昇し、それにより、脳から血清へのAβの流出が起こると考えられている。このアプローチは、WO03/016466、WO03/016467、WO03/015691及びWO01/62801で述べられている。Aβ由来の拡散性リガンド(ADDLS)に特異的な抗体の使用も提案されている(WO2004/031400)。
【0009】
ADの治療において成長ホルモンを使用することが提案されている。例えば、米国特許第4,902,680号は、ADが進行した段階において患者に成長ホルモンを投与することを主張しており、一方、WO00/13650は、脳内の成長ホルモンレベルを上昇させることにより、神経保護効果が与えられ、とりわけ、ADなどの神経変性疾患を伴うような障害の結果、そのままでは死に至るニューロンを救出することができるということを開示している。脳への成長ホルモンの注入は意図されている。
【0010】
成長ホルモン分泌促進薬(GHS)は、動物(ヒトなど)に投与した際に、その動物における内因性成長ホルモンの放出を刺激又は増加させる化合物である。これらの作用様式及び臨床的有用性については、Ankersenら、Drug Discovery Today,4(1999),497−506;Casanueva及びDieguez,TEM,10(1999),30−8;Smithら、ibid.,10(1999),128−35;Betancourt及びSmith,J.Anti.−Aging Med.,5(2002),63−72;及びGhigoら、ibid.,5(2002),345−56にまとめられているが、AD又は何らかの他の神経変性状態の治療については言及されていない。GHSである化合物を開示する特許及び特許出願には、米国特許第5,767,124号、米国特許第5,536,716号、WO94/13696、EP0615977B、米国特許第5,578,593号;WO01/04119、WO98/25897、WO98/10653、WO97/36873、WO97/34604、WO97/15574、WO97/11697、WO96/32943、WO96/13265、WO96/02530、WO95/34311、WO95/14666、WO95/13069、WO94/19367、WO94/05634及びWO92/16524(全て、Merck & Co.,Inc.に譲渡されている。);EP1002802A、EP0995748A、WO98/58948、WO98/58947及びWO97/24369(全て、Pfizer Inc.に譲渡されている。);WO01/34593、WO00/26252、WO00/01726、WO99/64456、WO99/58501、WO99/36431、WO98/58950、WO98/08492、WO98/03473、WO97/40071、WO97/40023、WO97/23508、WO97/00894、WO96/24587、WO96/24580、WO96/22997、WO95/17423及びWO95/17422(全て、Novo Nordisk A/Sに譲渡されている。);WO96/15148(Genentech Inc.);WO97/22620(Deghenghi);WO02/32888、WO02/32878、WO00/49037、WO00/10565及びWO99/08699(全て、Eli Lilly and Co.に譲渡されている。);WO02/057241、及びWO02/056873(両者とも、Bayer Corpに譲渡されている。);及びWO01/85695、WO00/54729及びWO00/24398(全て、Bristol−Myers Squibb Co.に譲渡されている。)が含まれる。これらの化合物は、食用動物の成長の促進のための使用及び、成長ホルモン分泌欠乏を特徴とする生理学的又は医学的状態、及び、成長ホルモンの同化作用により改善される医学的状態の治療のためのヒトにおける使用に推奨される。上記で挙げた開示のうちいくつかにおいて、治療し得る状態を列挙したものにADが含まれている。
【0011】
前述の米国特許第5,767,124号で開示されている化合物は、ADと無関係の治療分野において数多くの臨床試験の対象となっている(例えば、Murphyら、J.Bone Miner.Res.,14,(1999),1182−8;Chapmanら、J Clinical Endocrinology and Metabolism,81,(1996),4249−57;ibid.,82,(1997),3455−63;及びSvenssonら、ibid.,83,(1998),362−9を参照。)。
【発明の開示】
【0012】
本発明によると、脳内のAβの沈着を伴う疾患の治療又は予防において使用するための、
成長ホルモン分泌促進薬と、
(a)Aβの分泌を阻害する化合物;
(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物;
(c)Aβの凝集を阻害する化合物;及び
(d)Aβに選択的に結合する抗体
から選択される、脳におけるADの産生又はプロセシングを調整する少なくとも1つの薬剤との組み合わせが提供される。
【0013】
本発明によると、また、
(a)Aβの分泌を阻害する化合物;
(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物;
(c)Aβの凝集を阻害する化合物;及び
(d)Aβに選択的に結合する抗体
から選択される、脳内におけるAβの産生又はプロセシングを調整する少なくとも1つの薬剤の治療上有効量と組み合わせて、成長ホルモン分泌促進薬(GHS)の治療上有効量を、脳内のAβ沈着を伴う疾患の治療又は予防が必要な対象に投与することを含む、脳内のAβ沈着を伴う疾患の治療又は予防の方法も提供される。
【0014】
前記疾患は、一般に、アルツハイマー病、脳アミロイドアンギオパチー、多発脳梗塞性認知症、ボクサー認知症及びダウン症候群であるが、好ましくはアルツハイマー病である。
【0015】
本発明はさらに、アルツハイマー病、脳アミロイドアンギオパチー、多発脳梗塞性認知症、ボクサー認知症及びダウン症候群を伴う認知症の発症を治療、予防又は遅延させることが必要な患者に対して、上記で定義したような、脳におけるAβの産生又はプロセシングを調整する少なくとも1つの薬剤の治療上有効量と組み合わせて、成長ホルモン分泌促進薬の治療上有効量を投与することを含む、アルツハイマー病、脳アミロイドアンギオパチー、多発脳梗塞性認知症、ボクサー認知症及びダウン症候群を伴う認知症の発症を治療、予防又は遅延させる方法を提供する。
【0016】
本明細書中で使用される場合、「組み合わせて」という表現は、GHSと脳内のAβの産生又はプロセシングを調整する薬剤(本明細書中で、以後、「アミロイド調節物質」と称する。)の両方の治療上有効量が対象に投与される(これを遂行するための方法に制限はない。)ことを必要とする。このように、対象への同時投与のために、2種類を単一の剤形中で組み合わせ得るか、又は、対象への同時もしくは連続投与のために、別個の剤形で提供し得る。連続投与は、すぐに、又は、例えば、1種類を朝に投与し、他方を夕方投与するというように、長い間隔をあけて行い得る。個々の種を同じ頻度で、又は、例えば、一方を1日に1回投与し、他方を1日に2回以上投与するといったように、異なる頻度で投与し得る。それぞれの種を同じ経路で、又は、例えば1つの種類を経口投与し、他方を非経口投与するというように、異なる経路で投与し得るが、可能であれば、両種を経口投与することが好ましい。アミロイド調節物質が抗体である場合、それは通常、非経口的に、且つ、GHSとは別に投与することとなろう。
【0017】
本発明のさらなる局面によると、医薬適合性の担体中に、成長ホルモン分泌促進薬と、
(a)Aβの分泌を阻害する化合物;
(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物;及び
(c)Aβの凝集を阻害する化合物
から選択されるアミロイド調節物質とを含有する、医薬組成物が提供される。
【0018】
本発明はさらに、脳内のAβの沈着を伴う疾患の治療又は予防用の薬物製造のための、成長ホルモン分泌促進薬と、
(a)Aβの分泌を阻害する化合物;
(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物;
(c)Aβの凝集を阻害する化合物
から選択されるアミロイド調節物質との使用を提供する。
【0019】
前記疾患は、一般に、アルツハイマー病、脳アミロイドアンギオパチー、多発脳梗塞性認知症、ボクサー認知症及びダウン症候群であるが、好ましくはアルツハイマー病である。
【0020】
GHS及びアミロイド調節物質は、脳内のAD蓄積低下において相乗的に作用する。従って、さらなる局面において、本発明は、脳内におけるADの蓄積を遅延、阻止又は妨害が必要である対象に対して、上記で定義したようなアミロイド調節物質の治療上有効量と組み合わせて、成長ホルモン分泌促進薬の治療上有効量を投与することを含む、脳内におけるADの蓄積を遅延、阻止又は妨害する方法を提供する。
【0021】
前述の相乗的相互作用ゆえに、同じ化合物を個別に投与するために通常用いられるであろう用量よりも低い該化合物の用量の投与により有益な治療効果を得ることができる。例えば、Aβの分泌を阻害する化合物(γ−セクレターゼ阻害剤など)は、Aβ産生を完全には抑制しないレベルで投与され得るが、GHSとの共投与の結果、それを完全に抑制するに匹敵する治療効果を発揮する。これは、ノッチシグナリングプロセスなどの、Aβ産生とは無関係である他の活性を抑制することにより生じ得る副作用を防ぐ可能性を有する。
【0022】
関連化合物の投与後の脳からのAβの除去は、脳脊髄液及び/又は血漿中の可溶性Aβレベルの上昇により明らかとなり得る。あるいは(又はさらに)、脳内のAβ蓄積の程度を監視するために、核磁気共鳴イメージング、陽電子放出断層撮影、単光子放出コンピューター断層撮影及び多光子顕微鏡などのイメージング技術を使用し得る(例えば、Bacskaiら、J.Cereb.Blood Flow Metab.,22(2002),1035−41を参照。)。
【0023】
本発明のある実施形態において、AD、脳アミロイドアンギオパチー、多発脳梗塞性認知症、ボクサー認知症及びダウン症候群、好ましくはADに罹患している患者に、GHS及びアミロイド調節物質を投与する。
【0024】
本発明の代替的な実施形態において、軽度認識障害又は加齢関連認知低下に罹患している患者に、GHS及びアミロイド調節物質を投与する。このような治療の好ましい成果とは、ADの発症を予防又は遅延させることである。加齢関連認知低下及び軽度認識障害(MCI)は、記憶障害が存在するが、認知症に対する他の診断基準がない状態である(Santacruz及びSwagerty,American Family Physician,63(2001),703−13)。(“The ICD−10 Classification of Mental and Behavioural Disorders”,Geneva:World Health Organisation,1992,64−5も参照のこと。)。本明細書中で使用される場合、「加齢関連認知低下」とは、記憶及び学習;注意及び集中;思考;言語;及び視空間機能のうち少なくとも1つが、少なくとも6ヶ月間低下し、及び、MMESなどの標準化神経心理学テストにおいて、複数の標準偏差のスコアが基準以下となることを意味する。とりわけ、記憶において進行性の低下があり得る。さらに重度のMCIにおいては、記憶障害の程度は、患者の年齢に対して正常とみなされる範囲外となるが、ADは存在しない。MCI及び軽度ADの鑑別診断については、Petersenら、Arch.Neurol.,56(1999),303−8により述べられている。MCIの鑑別診断に関するさらなる情報は、Knopmanら、Mayo Clinic Proceedings、78(2003),1290−1308により与えられている。高齢者の対象の研究において、Tuokkoら(Arch,Neurol.,60(2003)577−82)は、発症時にMCIを示す患者は、5年以内に認知症を発症するリスクが3倍上昇することを見出した。
【0025】
Grundmanら(J.Mol.Neurosci.,19(2002),23−28)は、MCI患者におけるベースライン海馬体積の低下は、その後のADに対する予後指標であることを報告している。同様に、Andreasenら(Acta Neurol.Scand,107(2003)47−51)は、総タウのCSFレベルが高い、ホスホ−タウのCSFレベルが高い、及びAp42のCSFレベルが低い場合、全て、MCIからADへの進行のリスクが高くなることを報告している。
【0026】
この実施形態内において、GHS及びアミロイド調節物質は、記憶機能障害はあるが、認知症の症状を示さない患者に、有利に投与される。このような記憶機能障害は通常、発作又は下垂体機能不全により生じる代謝疾患など、全身的もしくは大脳疾患に起因するものではない。このような患者は、とりわけ、55歳以上の人であり得、特に、60歳以上の人、好ましくは、65歳以上の人であり得る。このような患者は、その年齢において正常な、成長ホルモン分泌のパターン及びレベルを有し得る。しかし、このような患者は、アルツハイマー病発症の1つ又は複数のさらなる危険因子を保持し得る。このような因子には、該疾患の家族歴;該疾患に対する遺伝性素因;血清コレステロールの上昇;及び成人発症糖尿病が含まれる。
【0027】
本発明の特定の実施形態において、ADの家族歴;ADに対する遺伝性素因;血清コレステロールの上昇;成人発症糖尿病;ベースライン海馬体積の上昇;総タウのCSFレベル上昇;ホスホ−タウのCSFレベルの上昇;及びAβ(1−42)のCSFレベルの低下から選択される、1又は複数のAD発症の危険因子をさらに保持している加齢関連認知低下又はMCIの患者に、GHS及びアミロイド調節物質を投与する。
【0028】
遺伝性素因(特に、早期発症ADに対して)は、APP、プレセニリン−1及びプレセニリン−2遺伝子を含む、数ある遺伝子のうち1又は複数における点突然変異から生じ得る。また、アポリポプロテインE遺伝子のε4アイソフォームに対するホモ接合型である患者は、AD発症のリスクがより大きい。
【0029】
例えば、認知低下を減速させた、又は停止させた、など、治療コースにおける変化を検出し得るように、患者の認知低下又は障害の程度を、有利に、本発明による治療コースの前、最中及び/又は後に、定期的に評価する。この目的に対する分野において年齢及び教育により調整した基準を使用するミニメンタルステート検査(Mini−Mental State Examination)(MMSE)など、様々な神経心理学的テストが知られている(Folsteinら、J.Psych.Res.,12(1975),196−198,Anthonyら、Psychological Med.,12(1982),397−408;Cockrellら、Psychopharmacology,24(1988),689−692;Crumら、J.Am.Med.Assoc’n.18(1993),2386−2391)。MMSEは、簡潔に述べると、成人における認知状態の定量的測定である。これは、認知低下又は障害をスクリーニングするために、ある時点での認知低下又は障害の重症度を評価するために、長期にわたる個人の認知の変化の過程を追跡するために、及び治療に対する個人の反応を証明するために、使用され得る。別の適切なテストは、Alzheimer Disease Assessment Scale(アルツハイマー病評価スケール)(ADAS)、とりわけ、その認知機能検査(ADAS−cog)である(Rosenら、Am.J.Psychiatry,141(1984),1356−64を参照。)。
【0030】
本発明はさらに、成長ホルモン分泌促進薬を含有する第一の薬物と、アミロイド調節物質を含有する第二の薬物とを連続して、又は同時に、AD、加齢関連認知低下、MCI、脳アミロイドアンギオパチー、多発脳梗塞性認知症、ボクサー認知症又はダウン症候群に罹患している患者に投与するための使用説明書とともに、成長ホルモン分泌促進薬を含有する第一の薬物と、アミロイド調節物質を含有する第二の薬物とを包含するキット提供する。
【0031】
本発明で使用するGHSは、対象に投与した際に、内因性成長ホルモンの分泌を刺激又は促進する性能を有するあらゆる化合物、例えば、上記で挙げた特許又は特許出願で開示されているあらゆる化合物であり得る。しかし、好ましい化合物は、経口投与に適した化合物である。
【0032】
本発明における使用に適したGHSの第一のクラスは、その開示を本明細書中に参照により組み込むWO94/13696、とりわけ、EP0615977Bで開示されているそのサブセットである。このクラス内の好ましいGHSの例には、N−[1(R)−[(1,2−ジヒドロ−1−メタンスルホニルスピロ[3H−インドール−3,4’−ピペリジン]−1’−イル)カルボニル]−2−(フェニルメチルオキシ)エチル]−2−アミノ−2−メチルプロパンアミドと称する、式I:
【0033】
【化2】

の化合物及び医薬適合性のその塩、特にそのメタンスルホン酸塩が含まれるが、これらは米国特許第5,767,124号に記載されているようにして調製され得る。
【0034】
本発明における使用に適したGHSの第二のクラスは、その開示を本明細書中に参照により組み込む米国特許第5,578,593号で開示されているものである。このクラス内の好ましいGHSの例には、式II:
【0035】
【化3】

の化合物及び医薬適合性のその塩が含まれるが、これらは米国特許第5,578,593号に記載されているようにして調製され得る。
【0036】
本発明における使用に適したGHSの第三のクラスは、その開示を本明細書中に参照により組み込むWO92/16524で開示されているものである。このクラス内の好ましいGHSの例には、式III及びIV:
【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

の化合物及び医薬適合性のその塩、特にそのトリフルオロ酢酸塩が含まれるが、これらはWO92/16524に記載されているようにして調製され得る。
【0039】
本発明における使用に適したGHSの第四のクラスは、その開示を本明細書中に参照により組み込むWO97/23508で開示されているものである。このクラス内の好ましいGHSの例には、NN703としても知られている、式V:
【0040】
【化6】

の化合物及び医薬適合性のその塩が含まれるが、これらはWO99/64456に記載されているようにして調製され得る。
【0041】
本発明における使用に適したGHSの第五のクラスは、その開示を本明細書中に参照により組み込むWO97/24369で開示されているものである。このクラス内の好ましいGHSの例には、2−アミノ−N−[2−(3a−(R)−ベンジル−2−メチル−3−オキソ−2,3,3a,4,6,7−ヘキサヒドロ−ピラゾロ[4,3−c]ピリジン−5−イル)−1−(R)−ベンジルオキシメチル−2−オキソ−エチル]−イソブチルアミドと称する、式VI:
【0042】
【化7】

の化合物及び医薬適合性のその塩、特にカプロモレリンとしても知られるそのL−酒石酸塩が含まれるが、これらは、WO97/24369及びCarpinoら、Bioorg.Med,Chem,11(2003),581−90に記載されているようにして調製され得る。
【0043】
本発明における使用に適したGHSの第六のクラスは、その開示を本明細書中に参照により組み込むWO98/58947で開示されているものである。このクラス内の好ましいGHSの例には、式VII:
【0044】
【化8】

の化合物及び医薬適合性のその塩が含まれるが、これらは、WO98/58947に記載されているようにして調製され得る。
【0045】
本発明における使用に適したGHSの第七のクラスは、その開示を本明細書中に参照により組み込むWO99/08699で開示されているものである。このクラス内の好ましいGHSの例には、式VIII:
【0046】
【化9】

の化合物及び医薬適合性のその塩が含まれるが、これらは、WO99/08699及びWO02/32878に記載されているようにして調製され得る。
【0047】
本発明の使用に適切なさらなるGHSには、De Vitaら、J.Med.Chem.,41(1998),1716−28に記載されているようにして調製され得る、式IX:
【0048】
【化10】

の化合物及び医薬適合性のその塩、及び、Yangら、J.Med.Chem.,41(1998),2439−41に記載されているようにして調製され得る、式X:
【0049】
【化11】

の化合物及び医薬適合性のその塩が含まれる。
【0050】
好ましくは、GHSは、上記で示した式I、II、V、VI、VIII及びIXの化合物及び医薬適合性のそれらの塩から選択される。最も好ましくは、本発明で使用するGHSは、米国特許第5,767,124号に記載されている式Iの多形相の1つである、式Iの化合物のメタンスルホン酸塩である。
【0051】
本発明のある実施形態において、アミロイド調節物質は、Aβの分泌を阻害する化合物であり、例えば、γ−セクレターゼの阻害剤(WO01/53255、WO01/66564、WO01/70677、WO01/90084、WO01/77144、WO02/30912、WO02/36555、WO02/081435、WO02/081433、WO03/018543、WO03/013506、WO03/013527、WO03/014075、WO03/093252、WO2004/03437、WO2004/031138及びWO2004/031139、WO2004/039800及びWO2004/039370で開示されているものなど)、もしくはβ−セクレターゼ阻害剤(WO03/037325、WO03/030886、WO03/006013、WO03/006021、WO03/006423、WO03/006453、WO02/002122、WO01/70672、WO02/02505、WO02/02506、WO02/02512、WO02/02520、WO02/098849及びWO02/100820で開示されているものなど)又は、WO98/28268、WO02/47671、WO99/67221、WO01/34639、WO01/34571、WO00/07995、WO00/38618、WO01/92235、WO01/77086、WO01/74784、WO01/74796、WO01/74783、WO01/60826、WO01/19797、WO01/27108、WO01/27091、WO00/50391、WO02/057252、US2002/0025955及びUS第2002/0022621で開示されているもの及びGSK−3阻害剤、特に、Phielら、Nature,423(2003),435−9で開示されているような、リチウムなど、GSK−3a阻害剤も含む、Aβの形成もしくは放出を阻害するあらゆる他の化合物である。
【0052】
この実施形態内で、アミロイド調節物質は、有利に、γ−セクレターゼ阻害剤であり、その好ましい例には、式XI:
【0053】
【化12】

の化合物(式中、
mは、0又は1であり;
Zは、ハロゲン、CN、NO、N、CF、OR2a、N(R2a、CO2a、OCOR2a、COR2a、CON(R2a、OCON(R2a、CONR2a(OR2a)、CON(R2a)N(R2a、CONHC(=NOH)R2a、ヘテロシクリル、フェニル又はヘテロアリール(前記ヘテロシクリル、フェニル又はヘテロアリールは、ハロゲン、CN、NO、CF、OR2a、N(R2a、CO2a、COR2a、CON(R2a及びC1−4アルキルから選択される0個から3個の置換基を有する。)を表し;
mが1である場合、R1b及びR1cは、両者ともC1−4アルキルを表さないという条件のもと;
1bは、H、C1−4アルキル又はOHを表し;
1cは、H又はC1−4アルキルを表し;
Arは、C6−10アリール又はヘテロアリール(これらは、いずれも、ハロゲン、CN、NO、CF、OH、OCF、C1−4アルコキシ又はC1−4アルキル(場合によっては、ハロゲン、CN、NO、CF、OH及びC1−4アルコキシから選択される置換基を有する。)から独立に選択される0個から3個の置換基を有する。)を表し;
Arは、C6−10アリール又はヘテロアリール(これらは、いずれも、ハロゲン、CN、NO、CF、OH、OCF、C1−4アルコキシ及びC1−4アルキル(場合によっては、ハロゲン、CN、NO、CF、OH及びC1−4アルコキシから選択される置換基を有する。)から独立に選択される0個から3個の置換基を有する。)を表し;
2aは、H、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C3−6シクロアルキルC1−6アルキル、C2−6アルケニル(これらのいずれも、場合によっては、ハロゲン、CN、NO、CF、OR2b、CO2b、N(R2b、CON(R2b、Ar及びCOArから選択される置換基を有する。)を表すか;又は、R2aは、Arを表すか;又は、2個のR2a基が、それらが互いに結合している窒素原子と一緒に、=O、=S、ハロゲン、C1−4アルキル、CN、NO、CF、OH、C1−4アルコキシ、C1−4アルコキシカルボニル、COH、アミノ、C1−4アルキルアミノ、ジ(C1−4アルキル)アミノ、カルバモイル、Ar及びCOArから独立に選択される0個から4個の置換基を有するN−ヘテロシクリル基を形成し得;
2bは、H、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル、C3−6シクロアルキルC1−6アルキル、C2−6アルケニル(これらのいずれも、場合によっては、ハロゲン、CN、NO、CF、OH、C1−4アルコキシ、C1−4アルコキシカルボニル、COH、アミノ、C1−4アルキルアミノ、ジ(C1−4アルキル)アミノ、カルバモイル、Ar及びCOArから選択される置換基を有する。)を表すか;又は、R2bは、Arを表すか;又は、2個のR2b基が、それらが互いに結合している窒素原子と一緒に、=O、=S、ハロゲン、C1−4アルキル、CN、NO、CF、OH、C1−4アルコキシ、C1−4アルコキシカルボニル、COH、アミノ、C1−4アルキルアミノ、ジ(C1−4アルキル)アミノ、カルバモイル、Ar及びCOArから独立に選択される0個から4個の置換基を有するN−ヘテロシクリル基を形成し得;
Arは、ハロゲン、C1−4アルキル、CN、NO、CF、OH、C1−4アルコキシ、C1−4アルコキシカルボニル、アミノ、C1−4アルキルアミノ、ジ(C1−4アルキル)アミノ、カルバモイル、C1−4アルキルカルバモイル及びジ(C1−4アルキル)カルバモイルから選択される0個から3個の置換基を有するフェニル又はヘテロアリールを表しており;
「ヘテロシクリル」は、その出現のたびに、C、N、O及びSから選択される環原子10個以下の環状又は多環式構造を意味し、この場合、いずれの構成環も芳香族性ではなく、及び、少なくとも1つの環原子は、C以外であり;
「ヘテロアリール」は、その出現のたびに、C、N、O及びSから選択される環原子10個以下の環状又は多環式構造を意味し、この場合、少なくとも1個の構成環は、芳香族性であり、及び、少なくとも1個の環原子は、C以外である。)
又は医薬適合性のそれらの塩が含まれる。
【0054】
このような化合物は、WO03/018543に記載されているようにして調製し得る。好ましい例には、式XIa:
【0055】
【化13】

で定義されるもの及び医薬適合性のそれらの塩が含まれる(式中、mは、0又は1であり、Xは、Cl又はCFであり、Yは、OH、OC1−6アルキル、NH又はNHC1−6アルキルである。)。特定の例には、mが1であり、YがOH(又はそのナトリウム塩)であるもの、及び、mが0であり、YがNH又はNHC1−6アルキルであるものが含まれる。
【0056】
本発明のこの実施形態において使用するためのγ−セクレターゼ阻害剤の別の好ましいクラスは、式XII:
【0057】
【化14】

により定義されるもの(式中、
Xは、場合によっては、3個以下のハロゲン原子で置換されている、1個から5個の炭素原子を含有する炭化水素置換基を場合によっては有する、2価のピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール又は1,3,4−オキサジアゾール残基であり;
Rは、
(i)CF又は、場合によってはハロゲン、CF、CHF、CN、OH、COH、C2−6アシル、C1−4アルコキシ又はC1−4アルコキシカルボニルで置換されている、10炭素原子以下の非芳香族炭化水素基;
(ii)オキソ、ハロゲン、CN、C1−6アルキル、OH、CF、CHF、CHF、C2−6アシル、COH、C1−4アルコキシ及びC1−4アルコキシカルボニルから独立に選択される0個から3個の置換基を有する、7個以下の環原子(そのうち3個までが、N、O及びSから選択され、残りの原子が炭素である。)を含有する非芳香族複素環基;
(iii)フェニル又は6員ヘテロアリール(いずれも、ハロゲン、CF、CHF、CHF、NO、CN、OCF、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシから独立に選択される0個から3個の置換基を有する。);及び
(iv)N(R(式中、各Rは、独立に、H又はC1−6アルキル(場合によっては、ハロゲン、CF、CHF、CN、OH、COH、C2−6アシル、C1−4アルコキシ又はC1−4アルコキシカルボニルで置換されている。)を表す。)
から選択される。)
又は医薬適合性のそれらの塩である。
【0058】
Xは、非常に適切な、5−置換−チアゾール−2−イル、5−置換−4−メチルチアゾール−2−イル、5−置換−1−メチルピラゾール−3−イル、1−置換−イミダゾール−4−イル又は1−置換−1,2,4−トリアゾール−3−イルである。好ましくは、Rは、例えば、フェニル、モノハロフェニル、ジハロフェニル、トリハロフェニル、シアノフェニル、メチルフェニル、メトキシフェニル、トリフルオロメチルフェニル、トリフルオロメトキシフェニル、ピリジル、モノハロピリジル及びトリフルオロメチルピリジル(ここで、「ハロ」は、フルオロ又はクロロを意味する。)などの、場合によっては置換されているフェニル又はヘテロアリールを表す。特に好ましいR−X−には、5−(4−フルオロフェニル)−1−メチルピラゾール−3−イル、5−(4−クロロフェニル)−1−メチルピラゾール−3−イル及び1−(4−フルオロフェニル)イミダゾール−4−イルが含まれる。このような化合物は、WO03/093252で開示されている方法により調製し得る。
【0059】
本発明のこの実施形態において使用するためのγ−セクレターゼ阻害剤の別の好ましいクラスは、式XIII:
【0060】
【化15】

により定義されるもの(式中、
ピラゾール基は、星印により示される位置のうち1ヶ所で結合しており、Xは、それに隣接する位置で結合しており;
Xは、H、OH、C1−4アルコキシ、Cl又はFを表し;
Arは、フェニル又は6員へテロアリーリル(これらは、いずれも、ハロゲン、CF、CHF、CHF、NO、CN、OCF、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシから独立に選択される0個から3個の置換基を有する。)を表し;
は、場合によっては3個以下のハロゲン原子で置換されている、1個から5個の炭素原子の炭化水素基を表し;及び
は、H又は、場合によっては3個以下のハロゲン原子で置換されている、1個から10個の炭素原子の炭化水素基を表し;
Xが、Hである場合、Rは、2,2,2−トリフルオロエチルを表さない。)
又は医薬適合性のそれらの塩である。
【0061】
式XIIIの化合物の好ましい例には、Arが4−フルオロフェニルであり、Rがメチルであり、XがHであり、Rがベンジル、n−プロピル、2,2−ジメチルプロピル、n−ブチル、イソプロピル、t−ブチル、3,3,3−トリフルオロプロピル、アリル、シクロブチル又はシクロプロピルメチルであるものが含まれる。このような化合物は、WO2004/039800で開示されている方法により調製し得る。
【0062】
本発明のこの実施形態において使用するためのγ−セクレターゼ阻害剤の別の好ましいクラスは、式XIV:
【0063】
【化16】

により定義されるもの(式中、
ピラゾール基は、星印で示された位置の1つに結合し、Xは、その隣接した位置に結合しており;
Xは、H、OH、C1−4アルコキシ、Cl又はFを表し;
Yは、ボンド、O又はNRを表し;
Arは、フェニル又は6員ヘテロアリール(これらはいずれも、ハロゲン、CF、CHF、CHF、NO、CN、OCF、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシから独立に選択される0個から3個の置換基を有する。)を表し;
は、場合によっては3個以下のハロゲン原子で置換されている、1個から5個の炭素原子の炭化水素基を表し;及び
は、場合によっては3個以下のハロゲン原子で置換されている、1個から10個の炭素原子の炭化水素基、又は、ハロゲン、CF、CHF、CHF、NO、CN、OCF、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシから独立に選択される3個以下の置換基を場合によっては有する、5又は6個の環原子のヘテロアリールを表すか;又は、YがNRを表す場合、R及びRが一緒に、ハロゲン、CF、CHF、CHF、NO、CN、OCF、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシから独立に選択される3個以下の置換基を場合によっては有する6員以下の複素環を形成し得;
は、H又はC1−4アルキルを表すか、又はRと一緒に、上記で定義した複素環を形成する。)
又は医薬適合性のその塩である。
【0064】
式XIVの化合物の好ましい例には、Arが、4−フルオロフェニルであり、Rがメチルであり、XがHであり、Yがボンドであり、Rがn−ブチル、4−フルオロフェニル、5−クロロ−2−チエニル、5−イソチアゾリル、6−クロロピリジン−3−イルもしくは2−チエニルであるか、又は、YがNRであり、NRが、シクロブチルアミノ、2,2,2−トリフルオロエチルアミノ、n−プロピルアミノ、N−メチル−n−プロピルアミノ、ジメチルアミノ、ピロリジン−1−イル又は4−(トリフルオロメチル)ピペリジン−1−イルであるかのいずれかのものが含まれる。このような化合物は、WO2004/039370で開示されている方法により調製し得る。
【0065】
本発明のこの実施形態において使用するためのγ−セクレターゼ阻害剤の別の好ましいクラスは、式XV:
【0066】
【化17】

により定義されるもの(式中、
nは、1又は2であり;
は、CF又はC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C3−9シクロアルキル又はC3−6シクロアルキルC1−6アルキル(これらのいずれも、ハロゲン、CN、CF、OR、COR、CO、OCOR、SO、N(R及びCON(Rから選択される2個以下の置換基を有し得る。)を表すか、
又は、Rは、アリール、アリールC1−6アルキル、C−ヘテロシクリル又はC−ヘテロシクリルC1−6アルキルを表しており;
は、H又はC1−4アルキルを表し;
は、H、C1−4アルキル、フェニル又はヘテロアリールを表し;
は、C1−4アルキル、フェニル又はヘテロアリールを表し;
は、H又はC1−4アルキルを表すか、又は2個のR基が、それらがそれぞれ結合する窒素原子と一緒に、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン又はチオモルホリン−1,1−ジオキシド環を形成し;
Ar及びArは、独立に、フェニル又はヘテロアリール(これらはいずれも、ハロゲン、CN、NO、CF、CHF、OH、OCF、CHO、CH=NOH、C1−4アルコキシ、C1−4アルコキシカルボニル、C2−6アシル、C2−6アルケニル及びC1−4アルキル(場合によっては、ハロゲン、CN、NO、CF、OH及びC1−4アルコキシから選択される置換基を有する。)から独立に選択される0個から3個の置換基を有し得る。)を表し;
「アリール」は、その出現のたびに、ハロゲン、CN、NO、CF、OCF、OR、COR、CO、OCOR、N(R、CON(R及び場合によっては置換されているC1−6アルキル、C1−6アルコキシ、C2−6アルケニル又はC2−6アルケニルオキシ(ここで、置換基は、ハロゲン、CN、CF、フェニル、OR、CO、OCOR、N(R及びCON(Rから選択される。)から選択される3個以下の置換基を場合によっては有するフェニル又はヘテロアリールを意味し;
「C−ヘテロシクリル」及び「N−ヘテロシクリル」は、その出現のたびに、それぞれ炭素又は窒素を介して結合されており、非芳香族であり、10個以下の原子を有し、そのうち少なくとも1個が、O、N又はSであり、場合によっては、オキソ、ハロゲン、CN、NO、CF、OCF、OR、COR、CO、OCOR、OSO、N(R、CON(R及び場合によっては置換されているフェニル、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、C2−6アルケニル又はC2−6アルケニルオキシ(ここで、置換基は、ハロゲン、CN、CF、OR、CO、OCOR、N(R及びCON(Rから選択される。)から選択される、3個以下の置換基を有している複素環系を意味する。)
又は医薬適合性のそれらの塩である。
【0067】
式XVの化合物の好ましい例には、RがCFであり、Arが2,5−ジフルオロフェニルであり、Arが4−クロロフェニル、4−トリフルオロメチルフェニル又は6−トリフルオロメチルピリジン−3−イルであるものが含まれる。式XVの化合物は、WO2004/031139で開示されているような方法により調製し得る。
【0068】
本発明の第二の実施形態において、アミロイド調節物質は、Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物である。このような化合物の適切な例には、スリンダックスルフィド、フルフェナミン酸、イブプロフェン、フルルビプロフェン、フェノプロフェン、メフェナム酸、インドメタシン及び(R)−フルルビプロフェンなど、非ステロイド抗炎症剤(NSAID)及び、WO01/78721及びUS2002/0128319で開示されているそれらの類似体が含まれる。あるいは、酸化窒素を放出することができるNSAID誘導体(例えば、WO02/092072及びJantzenら、J.Neuroscience,22(2002),226−54で開示されている化合物。)を使用し得る。NO放出化合物の好ましい例には、フルルビプロフェンの4−ニトロオキシブチルエステル(NiCoxにより生成し、HCT−1026としても知られている。)及び、NCX−2216(NiCox)として知られている化合物:
【0069】
【化18】

が含まれる。この実施形態内のさらなる代替物として、PPARα及び/又はPPARδの活性を調整する化合物(WO02/100836で開示されているようなもの)を用い得る。
【0070】
本発明の第三の実施形態において、アミロイド調節物質は、Aβの凝集を阻害する化合物である。適切な例には、クリオキノール(Gouras及びBeal,Neuron,30(2001),641−2)などのキレート剤及びWO99/16741で開示されている化合物、とりわけ、DP−109(Kalendarevら、J.Phare.Biomed.Anal.,24(2001),967−75)として知られているもの、が含まれる。本発明における使用に適切なAβ凝集の他の阻害剤には、ApanTM(Praecis)として知られている化合物を含む、WO96/28471、WO98/08868及びWO00/052048で開示されている化合物;WO00/064420、WO03/017994、WO99/59571で開示されている化合物及びAlzhemedTM(Neurochem)として知られている化合物;WO00/149281で開示されている化合物及びPTI−777及びPTI−00703(ProteoTech)として知られている組成物;WO96/39834、WO01/83425、WO01/55093、WO00/76988、WO00/76987、WO00/76969、WO00/76489、WO97/26919、WO97/16194及びWO97/16191で開示されている化合物が含まれる。
【0071】
本発明の第四の実施形態において、アミロイド調節物質は、選択的にAβに結合する抗体である。前記抗体は、ポリクローナル又はモノクローナルであり得るが、モノクローナルであることが好ましく、ヒト又はヒト化抗体であることが好ましい。好ましくは、WO03/016466、WO03/016467、WO03/015691及びWO01/62801に記載されているように、本抗体は、体液から可溶性Aβを捕捉することができる。適切な抗体には、ヒト化抗体266(WO01/62801に記載)及びWO03/016466に記載のその改変抗体が含まれる。さらなる適切な抗体には、WO2004/031400に記載のADDLSに特異的な抗体が含まれる。
【0072】
本発明の特定の実施形態において、アミロイド調節物質は、
(a)Aβの分泌を阻害する化合物;
(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物;
(c)Aβの凝集を阻害する化合物
から選択される。
【0073】
それらを一緒に投与するか、又は個別に投与するかによって、GHS及びアミロイド調節物質は通常、活性成分と医薬適合性の担体とを含有する、単一の、又は複数の医薬組成物として供給される。好ましくは、これらの組成物は、経口、非経口、鼻内、舌下又は直腸投与用、もしくは吸入又はガス注入による投与のための、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、顆粒、無菌非経口溶液又は懸濁液、定量エアロゾル又は液体スプレー、ドロップ、アンプル、経皮パッチ、自動注入装置又は坐薬のような単位投与形態である。通常、医薬担体、例えばコーンスターチ、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム及びリン酸二カルシウム又はゴムのような従来の成形成分、分散剤、沈殿防止剤又はソルビタンモノオレエートもしくはポリ(エチレングリコール)のような界面活性剤、及び、例えば水などの他の医薬希釈剤と、主要有効成分を混合して、一方又は両方の活性化合物又は医薬適合性のそれらの塩を含有する、均一な製剤組成物を形成する。これらのプレ製剤組成物を均一と称するときは、該組成物が錠剤、丸剤及びカプセルのような等しく有効な単位投与形態へと容易にさらに分割され得るように、その活性化合物が組成物全体に均等に分散されていることを意味する。次に、このプレ製剤組成物を、本活性化合物 0.01mgから約500mgを一般に含有する上述した種類の単位投与形態にさらに分割する。通常の単位投与形態には、本活性化合物 0.05mgから100mg、例えば0.05、0.1、0.5、1、2、5、10、25、50又は100mgが含有される。本医薬組成物の錠剤又は丸剤は、持続作用の利点を与える投与形態を提供するように被覆又は調合することができる。例えば、前記錠剤又は丸剤は、内側投与成分と外側投与成分を含有することができ、後者は前者を覆う膜の形態をとる。胃での崩壊に抗する働きをし、内側成分を完全なまま十二指腸内へと通過させる、又は内側成分の放出を遅延させることができる、腸溶層によって、これら2つの成分を分けることができる。様々な材料がそのような腸溶層又は被覆のために使用でき、そのような材料には、多くの高分子酸、及び高分子酸とシェラック、セチルアルコール及び酢酸セルロースのような物質との混合物が含まれる。
【0074】
本発明において有用な医薬組成物を経口投与又は注射による投与のために組み込み得る液状形態には、水溶液、液体もしくはジェルを充填したカプセル、適切に着香されたシロップ、水性又は油性懸濁液、及び綿実油、ゴマ油、ココナツ油もしくはピーナツ油のような食用油による着香乳剤、ならびにエリキシル及び同様の医薬ビヒクルが含まれる。水性懸濁液のための適切な分散剤又は沈殿防止剤には、トラガカント、アカシア、アルギン酸塩、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)及びゼラチンのような合成及び天然ゴムが含まれる。
【0075】
アミロイド調節物質が抗体である場合を除き、経口投与に適した医薬組成物が好ましく、アミロイド調節物質が抗体である場合は、例えば皮下、静脈内又は腹腔内注入など、その抗体を非経口投与することが好ましい。
【0076】
ADの治療又は予防のために、GHS及びアミロイド調節物質を、個々の化合物の本来の目的に有効なレベルで投与し得る。従って、必要に応じて、GHSは通常、ヒト対象において内因性の成長ホルモン分泌を増加させることが知られているレベルで投与し、アミロイド調節物質は、Aβ又はその1−42アイソフォームの分泌を顕著に阻害するか、又はAβの凝集を顕著に阻害するか、又は、可溶性Aβを顕著に捕捉することが知られているレベルで投与することになろう。多くの場合、これらの用量レベルは、既刊文献から得ることができるが、それ以外では、標準的な臨床的方法により容易に決定される。しかし、上記で説明したように、GHSとの相乗的相互作用の観点から、別に指示される量よりも低いアミロイド調節物質の用量を使用することが可能且つ有益であり得る。
【0077】
関連化合物の投与頻度(例えば、1日1回、2回、3回又は4回)は、対象化合物の薬物動態プロファイルにより選択し得る。
【0078】
式Iの好ましいGHSの場合、1日あたり約0.01から5.0mg/kg体重、好ましくは1日あたり約0.05から2.5mg/kg体重、より好ましくは約0.1から1.0mg/kg体重の用量を意図し得る。とりわけ、遊離塩基 5mg、10mg又は25mgに相当する用量を、患者に対して、1日1回、経口投与し得る。
【0079】
Aβの分泌を阻害する化合物の場合、その投与量は、Aβの分泌を完全に抑制するか、又は、例えば、Aβ分泌を50%低下させるなど、ある程度のみ抑制するように調整し得る。上記式XI又はXIIのγ−セクレターゼ阻害剤の場合、1人あたり約25mgから500mgの1日経口用量、特に、1人あたり約25mgから250mgが考えられる。
【0080】
さらなる局面において、本発明は、医薬適合性の担体中に、式Iの化合物又は医薬適合性のその塩と、式XI(a)の化合物又は医薬適合性のその塩とを含有する医薬組成物を提供する。好ましくは、式Iの化合物は、メタンスルホン酸塩の形態である。好ましくは、本医薬組成物は、錠剤又はカプセルなどの、経口投与に適した単位用量形態である。特定の実施形態において、前記単位用量形態には、式Iの遊離塩基 5、10又は25mg相当及び式XI(a)の化合物の25mgから250mg相当が含有される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳内のAβの沈着を伴う疾患の治療又は予防において使用するための、
成長ホルモン分泌促進薬と、
(a)Aβの分泌を阻害する化合物、
(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物、
(c)Aβの凝集を阻害する化合物、及び
(d)Aβに選択的に結合する抗体
から選択される、脳におけるAβの産生又はプロセシングを調整する少なくとも1つの薬剤と
の組み合わせ。
【請求項2】
脳内のAβの沈着を伴う疾患の治療又は予防用の薬物の製造のための、
成長ホルモン分泌促進薬と、
(a)Aβの分泌を阻害する化合物、
(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物、及び
(c)Aβの凝集を阻害する化合物
から選択されるアミロイド調節物質と
の使用。
【請求項3】
前記疾患がアルツハイマー病である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記薬物がMCIに罹患している患者への投与用である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記患者が、ADの家族歴、ADに対する遺伝性素因、血清コレステロールの上昇、成人発症糖尿病、ベースライン海馬体積の上昇、総タウのCSFレベル上昇、ホスホ−タウのCSFレベルの上昇、及びAβ(1−42)のCSFレベルの低下から選択される、1又は複数のAD発症の危険因子をさらに保持している、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記成長ホルモン分泌促進薬が、N−[1(R)−[(1,2−ジヒドロ−1−メタンスルホニルスピロ[3H−インドール−3,4’−ピペリジン]−1’−イル)カルボニル]−2−(フェニルメチルオキシ)エチル]−2−アミノ−2−メチルプロパンアミド、又は医薬適合性のその塩である、請求項2から請求項5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
前記アミロイド調節物質がγ−セクレターゼ阻害剤である、請求項2から請求項6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記γ−セクレターゼ阻害剤が、式XIa:
【化1】

の化合物及び医薬適合性のその塩(式中、mは、0又は1であり、Xは、Cl又はCFであり、Yは、OH、OC1−6アルキル、NH又はNHC1−6アルキルである。)である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記アミロイド調節物質が、Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物である、請求項2から請求項6のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
前記アミロイド調節物質が、R−フルルビプロフェンである、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
成長ホルモン分泌促進薬と、
(a)Aβの分泌を阻害する化合物、
(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物、及び
(c)Aβの凝集を阻害する化合物
から選択されるアミロイド調節物質と
を医薬適合性の担体中に含む、医薬組成物。
【請求項12】
成長ホルモン分泌促進薬を含む第一の薬物と、
(a)Aβの分泌を阻害する化合物、
(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物、
(c)Aβの凝集を阻害する化合物、及び
(d)Aβに選択的に結合する抗体から選択される、アミロイド調節物質を含む第二の薬物と
を、順次に又は同時に、AD、加齢関連認知低下、MCI、脳アミロイドアンギオパチー、多発脳梗塞性認知症、ボクサー認知症又はダウン症候群に罹患している患者に投与するための使用説明書とともに、包含するキット。
【請求項13】
(a)Aβの分泌を阻害する化合物、
(b)Aβの1−42アイソフォームの分泌を選択的に阻害する化合物、
(c)Aβの凝集を阻害する化合物、及び
(d)Aβに選択的に結合する抗体
から選択される、脳におけるAβの産生又はプロセシングを調整する少なくとも1つの薬剤の治療上有効量と組み合わせて、成長ホルモン分泌促進薬(GHS)の治療上有効量を、脳内のAβ沈着を伴う疾患の治療又は予防が必要な対象に投与することを含む、脳内のAβ沈着を伴う疾患の治療又は予防の方法。

【公表番号】特表2006−527244(P2006−527244A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516374(P2006−516374)
【出願日】平成16年6月4日(2004.6.4)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002381
【国際公開番号】WO2004/110443
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(390035482)メルク シャープ エンド ドーム リミテッド (81)
【Fターム(参考)】