説明

アルツハイマー病末梢細胞におけるPKCアイソザイムプロセッシングの異常変化

本発明は、ベータ−アミロイドペプチドの不在下および存在下で、任意にPKC活性化因子の存在下で、試験対象の末梢細胞において異なるPKCアイソザイムの比を決定することによって得られるPKCアイソザイムインデックスを用いることによる、非AD状態からのADを診断するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年10月2日に出願された米国仮特許出願61/248,361の利益を主張し、その開示は参照によりその全体において本明細書中に組み込まれる。
【0002】
本発明は、対象におけるアルツハイマー病を診断するための方法、またはアルツハイマー病の存在もしくは不在を確認するための方法に関する。また、本発明は、アルツハイマー病の治療または予防に有用な治療薬の開発に用いることができるリード化合物をスクリーニングするための方法に関する。さらに、本発明は、定常状態のPKCアイソザイムまたはリン酸化されたPKCアイソザイムのレベルから構築されたアルゴリズム比を用いて、あるPKCアイソザイムのプロセッシングの変化を検出することによって、対象におけるアルツハイマー病を診断するための方法に関する。本明細書に記載されている方法は、アルツハイマー病の診断のため、アルツハイマー病進行のモニタリングのため、およびリード化合物を同定するためのスクリーニング法においてに有用である。また、本発明は、アルツハイマー病の治療に対する高い反応性を有する患者を選択するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
β−アミロイドタンパク質(Aβ)は、神経原線維変化とともに、アルツハイマー病(AD)の生理学的特徴である老人斑点の主要な構成物質である。Katzman,N Eng J Med.1986;314:964−973;Bushら,Pharmacol Ther.1992;56:97−117。様々な脳領域におけるAβの過剰な放出は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の突然変異型によって促進され、老人斑内へのAβの蓄積の一因となる。Wallace,Biochim Biophys Acta.1994;1227:183−187。線維芽細胞を含む、AD組織由来の多数の細胞種において、カルシウムの恒常性、イオンチャネル透過性、サイクリックAMP、ホスホイノシチド代謝物を含むシグナル伝達系の変化が示されている。また、Aβ産生の変化も示されている。さらに、Aβ自体は、同じ伝達系に影響を及ぼす可能性がある。
【0004】
プロテインキナーゼC(PKC)はプロテインキナーゼの最大の遺伝子ファミリーの1つである。LiuおよびHeckman,Cellular Signalling.1998;10(8):529−42。いくつかのPKCアイソザイムは脳に発現し、PKC−α、PKC−βI、PKC−βII、PKC−δ、PKC−ε、およびPKC−γを含む。PKCは、主に細胞質タンパク質であるが、刺激により細胞膜に転位置する。
【0005】
PKCは、ADに関連した多数の生化学的プロセスに関与することが示されている。PKC活性化は学習と記憶の強化において重要な役割を有し、PKC活性化因子は記憶と学習を増進することが示されている。SunおよびAlkon,Eur J Pharmacol.2005;512:43−51;Alkonら,Proc Natl Acad Sci USA.2005;102:16432−16437。また、PKC活性化は、ラットの海馬においてシナプス形成を誘導させることが示され、神経変性の状態中のPKC媒介性抗アポトーシスおよびシナプス形成の可能性を示唆する。SunおよびAlkon,Proc Natl Acad Sci USA.2008;105(36):13620−13625。PKC活性化因子であるブリオスタチン−1による虚血後/低酸素治療は、シナプス形成、神経栄養活性、および空間学習と記憶における虚血誘導性の欠損を効果的に救済した。SunおよびAlkon,Proc Natl Acad Sci USA.2008。この効果は、シナプスタンパク質であるスピノフィリンおよびシナプロフィシンのレベルの増加と、シナプス形態の構造的変化とを伴う。HongpaisanおよびAlkon,Proc Natl Acad Sci USA.2007;104:19571−19576。また、長期連想記憶に対するブリオスタチン誘導性シナプス形成はPKC活性化によって調節される。HongpaisanおよびAlkon,PNAS 2007。さらに、PKCはニューロトロフィン産生を活性化する。ニューロトロフィン、特に脳由来神経栄養因子(BDNF)および神経成長因子(NGF)は、損傷されたニューロンおよびシナプスの修復と再成長をイニシエートする主要な増殖因子である。いくつかのPKCアイソザイム、特にPKC−εおよびPKC−αの活性化は、恐らくはニューロトロフィンの産生を上方制御することによって、神経障害に対して保護する。Weinrebら,The FASEB Journal.2004;18:1471−1473)。また、PKC活性化因子は、チロシンヒドロキシラーゼの発現を誘導し、ニューロン生存と神経突起伸長を誘導することが報告されている。DuおよびIacovitti,J Neurochem.1997;68:564−69;HongpaisanおよびAlkon,PNAS 2007;Lallemendら,J Cell Sci.2005;118:4511−25。
【0006】
PKC遺伝子ファミリーは、現在11個の遺伝子からなり、それらは4つのサブグループに分けられる:1)伝統的なPKC−α、−β1、−β2(β1およびβ2は同一遺伝子の選択的スプライシング形態である)および−γ、2)新規なPKC−δ、−ε、−ηおよび−θ、3)非定型PKC−ζ、−λ、−η、−ι、および4)PKC−μ。PKC−μは、非定型PKCアイソザイムに似ているが、推定上の膜貫通ドメインを有することにより異なる。Bloheら,Cancer Metast.Rev.1994;13:411;Ilugら,Biochem J.1993;291:329;Kikkawaら,Ann.Rev.Biochem.1989;58:31。−α、−β1、−β2、および−γアイソザイムは、Ca2+、リン脂質およびジアシルグリセロール依存性であり、PKCの伝統的なアイソフォームを表し、一方、他のアイソザイムはリン脂質およびジアシルグリセロールによって活性化されるが、Ca2+には依存しない。全てのアイソザイムは、5つの可変(V1〜V5)領域を包含し、α、β、γアイソザイムは4つ(C1〜C4)の構造ドメインを含み、これらは高度に保存されている。PKC−α、−βおよび−γを除く全てのアイソザイムはC2ドメインを欠損し、−λおよび−ηアイソザイムは、ジアシルグリセロールが結合するC1の2つのシステインに富む亜鉛フィンガードメインの9つを欠損している。また、C1ドメインは、全てのアイソザイムの中で高度に保存され、および基質結合部位をブロックして酵素の不活性な立体構造を生ることによって自己調節機能の役割をする疑似基質配列を含む。Houseら,Science.1987;238:1726。
【0007】
これらの構造的特徴のため、多様なPKCアイソザイムは、生理学的刺激に応答してシグナル伝達において非常に特化された役割を有すると考えられる。刺激に対する種々のPKCアイソザイムの応答はADにおいて研究されている。例えば、AD患者は、PKCの主要な下流基質であるErk1/2のPKC−α/ε媒介性リン酸化のレベルが減少している。KhanおよびAlkon,Proc Natl Acad Sci USA.2006;103:13203−13207。さらに、正常な線維芽細胞へのAβペプチド適用はPKC活性を減少させ、これは、AβがPKCα/εを直接に下方制御するためである。PKC活性化因子、特にPKCα/εに特異的な活性化因子は、Aβの効果を中和し、それにより、Aβ誘導による変化を逆転するかまたは妨げることが示されている。
【0008】
また、PKCはAPPプロセッシングを調節することが明らかにされている。PKC活性化因子は、細胞により分泌された非アミロイド形成性の可溶性APP(sAPP)の相対量を有意に増加することが示されている。また、PKC活性化は、異常なMAPキナーゼのリン酸化を逆転させ、同時にAD線維芽細胞におけるAβのレベルを上昇した。米国特許出願公開US−2007−0082366を参照されたい。さらに、1つの強力なPKC活性化因子であるブリオスタチンは、ヒトAD遺伝子を有するトランスジェニックマウスの脳においてAβ(1−42)レベルを減少することが見出された。
【0009】
反対に、Aβペプチドはまた、非AD線維芽細胞と比較して、AD線維芽細胞におけるPKCアイソザイムに差次的に影響を及ぼすことが示されている。Favitら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA;1998.95:5562−67。ナノモル濃度のAβ(1−40)による非AD(AC)線維芽細胞の処理により、すでにAD線維芽細胞において低下したPKC−αの75%減少をもたらしたが、PKC−γの免疫反応性は減少しなかった。対照的に、AD線維芽細胞において、Aβ(1−40)は、PKC−γの70%減少を引き起こしたが、PKC−αの免疫反応性は減少しなかった。PKC活性化因子による処理は、AC細胞においてPKC−αシグナルを回復したが、AD細胞におけるPKC−γにおける効果を逆転しなかった。タンパク質合成阻害剤を用いた処理は、AD細胞におけるAβ(1−40)の効果を阻害しなかったが、PKC活性化因子を用いて処理されたAC細胞における効果を阻害し、これは、PKC活性化が、AD細胞ではなく、正常な細胞においてデノボのタンパク質合成を介した保護的役割を与えることを示唆した。
【0010】
本発明は、末梢細胞における種々のPKCアイソザイムのレベルにおけるAβ誘導性の変化の効果を利用するための方法を提供する。定常状態のPKCアイソザイムおよび/またはリン酸化されたPKCアイソザイムのレベルの測定、ならびにAβ誘導性の変化の測定は、ADの診断、ADの進行または非AD状態からADへの進行のモニタリングのために、並びにADを治療する治療薬を見つけるためのスクリーニング法において用いることができる。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、対象におけるアルツハイマー病の存在もしくは不在を決定または確認するための方法に関する。1つの実施形態において、本方法は、i)Aβペプチドの不在下および存在下で候補対象由来の細胞において第1のPKCアイソザイムの定常状態のタンパク質レベルを決定して、第1の比を生成することと;ii)Aβペプチドの不在下および存在下で第2のPKCアイソザイムの定常状態のタンパク質レベルを決定して、第2の比を生成することと、ここで、該第2のPKCアイソザイムはAβペプチドによって調節されることが知られていない;iii)第1の比を第2の比で割ることによってPKCアイソザイムインデックスを生成することとを含む。
【0012】
1つの実施形態において、AβペプチドはAβ(1−42)であるが、いずれのAβペプチドを用いてもよい。
【0013】
別の実施形態において、第1のPKCアイソザイムはPKC−α、および/またはPKC−εであり、第2のPKCアイソザイムはPKC−γである。
【0014】
1つの特定の実施形態において、PKCアイソザイムインデックスは、定常状態のPKCアイソザイムレベルの微分処理であり、以下の式:
【数1】

【0015】
に従って決定される。
【0016】
さらなる実施形態において、試験対象からのPKC−αインデックスは、非ADの対照対象由来の細胞のPKC−αインデックスと比較される。特定の実施形態において、対照対象の細胞は同じ細胞種のものであり、年齢が一致した非ADの対照対象(AC)由来である。
【0017】
1つの実施形態において、対照対象(AC)の細胞由来のPKC−αインデックスよりも低い、試験対象の細胞由来のPKC−αインデックスはADを示す。
【0018】
別の特定の実施形態において、対象は、PKC−αインデックス値が約1.0よりも大きいときにADであると診断される。
【0019】
別の特定の実施形態において、定常状態のPKCアイソザイムレベルの微分処理は、以下の式:
【数2】

【0020】
に従った比を用いて決定される。
【0021】
さらなる実施形態において、試験対象からのPKC−εインデックスは、非ADの対照対象由来の細胞のPKC−εインデックスと比較される。特定の実施形態において、対照対象由来の細胞は、同じ細胞種のものであり、年齢が一致した非ADの対照対象(AC)由来である。
【0022】
1つの実施形態において、対照対象(AC)由来の細胞からのPKC−εインデックスよりも低い、試験対象由来の細胞からのPKC−εインデックスはADを示す。
【0023】
別の特定の実施形態において、対象は、PKC−εインデックス値が約1.0よりも大きいときにADであると診断される。
【0024】
別の特定の実施形態において、本方法は、i)Aβペプチドの不在下および存在下で候補対象由来の細胞における第1のリン酸化されたPKCアイソザイムのタンパク質レベルを決定して、第1の比を生成することと;ii)Aβペプチドの不在下および存在下で第2のリン酸化されたPKCアイソザイムのタンパク質レベルを決定して、第2の比を生成することと、ここで、第2のPKCアイソザイムはAβペプチドによって調節されることが知られていない;iii)第1の比を第2の比で割ることによってリン酸化されたPKCアイソザイムインデックスを生成することと、を含む。
【0025】
特定の実施形態において、リン酸化されたPKC(p−PKC)アイソザイムインデックスは、リン酸化されたPKCアイソザイムの微分処理であり、以下の式:
【数3】

【0026】
に従って決定される。
【0027】
さらなる実施形態において、試験対象からのp−PKC−αインデックスは、非ADの対照対象由来の細胞のp−PKC−αインデックスと比較される。特定の実施形態において、対照対象の細胞は同じ細胞種のものであり、年齢が一致した非ADの対照対象(AC)由来である。
【0028】
1つの実施形態において、対照対象(AC)由来の細胞のp−PKC−αインデックスよりも低い、試験対象由来の細胞のp−PKC−αインデックスはADを示す。
【0029】
別の特定の実施形態において、対象は、p−PKC−αインデックス値が約1.0より大きいときにADであると診断される。
【0030】
別の特定の実施形態において、リン酸化されたPKCアイソザイムの微分処理は、以下の式:
【数4】

【0031】
に従った比を用いて決定される。
【0032】
さらなる実施形態において、試験対象からのp−PKC−εインデックスは、非ADの対照対象由来の細胞のp−PKC−εインデックスと比較される。特定の実施形態において、対照対象の細胞は同じ細胞種のものであり、年齢が一致した非ADの対照対象(AC)由来である。
【0033】
1つの実施形態において、対照対象(AC)由来の細胞のp−PKC−εインデックスよりも低い、試験対象由来の細胞からのp−PKC−εインデックスはADを示す。
【0034】
別の特定の実施形態において、対象は、p−PKC−εインデックス値が約1.0よりも大きいときにADであると診断される。
【0035】
またさらなる特定の実施形態において、対象細胞は、Aβの不在下および存在下で第1および/または第2のPKCアイソザイムのリン酸化を誘導するのに十分な濃度でPKC活性化因子と接触され、上記の式1、2、3および/または4に従ってPKCインデックスが決定される。
【0036】
さらなる実施形態において、上記の式によって決定されたインデックスは、非ADの対照対象由来の細胞のインデックスと比較される。特定の実施形態において、細胞は同じ細胞種のものであり、年齢が一致した非ADの対照対象(AC)由来である。
【0037】
別の特定の実施形態において、本発明は、軽度認識障害(MCI)などの前AD状態からADへの進行、または初期状態ADなどの当該疾患の初期状態からADへの進行を上記した方法を用いてモニタリングするための方法を提供する。この実施形態において、本発明の方法は、時間間隔をおいて繰り返され、経時的なPKCインデックスの減少は、非ADからADへの進行、または初期段階から後期段階へのADの進行を示す。
【0038】
本発明のある実施形態において、診断アッセイに用いられる細胞は末梢細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、皮膚細胞、皮膚線維芽細胞、血球または頬粘膜細胞である。
【0039】
特定の実施形態において、細胞は皮膚線維芽細胞である。
【0040】
別の実施形態において、本発明は、ADの治療に有用なリード化合物を同定するための方法を提供し、それは、ADであると診断された対象から単離された細胞と試験化合物とを接触させ、次に、i)式1に従うPKC−αインデックスにおける効果;ii)式2に従うPKC−εインデックスにおける効果;iii)式3に従うp−PKC−αインデックスにおける効果;および/またはiv)式4に従うp−PKC−εインデックスにおける効果;を決定することを含み、ここで、PKCインデックス(またはインデックスの組み合わせ)は、試験化合物の不在下で測定された同じインデックス(単数または複数)と比較して、試験化合物の存在下で増大する。
【0041】
別の実施形態において、本発明は、ADの検出または診断に有用な試薬を含むキットまたは器具を提供する。いくつかの実施形態において、キットは、Aβ(1−40)および/またはAβ(1−42)などの1つまたは複数のAβペプチド;定常状態のPKCアイソザイムおよびリン酸化されたPKCアイソザイムに特異的な抗体;イムノアッセイにおける対照として用いるためのPKCアイソザイムの1または複数のタンパク質試料;イムノアッセイを行うための使用説明書、結果を評価するための基準を含む使用説明書を含む。
【0042】
さらなる実施形態において、キットはまた、皮膚のパンチ生検などの1つまたは複数の生検を行うために必要な使用説明書と、緩衝液と、保存容器とを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】AD細胞と、年齢が一致した対照細胞(AC)との間のPKC−αインデックス(式1)の比較を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、ある態様において、試験および診断のために同定された対象から採取されたヒト細胞におけるアルツハイマー病を診断するための方法に関する。この診断は、対象から採取された末梢細胞における定常状態のPKCまたはリン酸化されたPKCのいずれかの差次的なレベル、ならびにそれらにおけるAβ誘導性の変化を使用してアルゴリズム比を構築し、対象がADを有するか否かを決定することができるという発見に基づいている。
【0045】
本方法は、候補対象由来の末梢細胞、任意に非ADの対照対象(AC)由来の末梢細胞における定常状態のPKCアイソザイムまたはリン酸化されたPKCアイソザイムのレベルの測定に依存する。連続してまたは同時に、第1のPKCアイソザイムの定常レベルは、Aβペプチドの不在下と存在下の両方でAD対象およびAC対象由来の末梢細胞において測定され、PKCアイソザイムレベルの第1の比(Aβペプチドの不在下でのPKCアイソザイムレベル/Aβペプチドの存在下でのレベル)を生じさせる。また、第2のPKCアイソザイム比は、再度、Aβペプチドの不在下および存在下で、対象由来の末梢細胞における第2のPKCアイソザイムの定常状態レベルまたはリン酸化レベルを測定することによって得られる。次に、これらの測定の結果は第3の比を構築するために使用され、このとき、第1の比(Aβペプチドと接触していない細胞において得られた第1のPKCアイソザイムのレベル/Aβペプチドと接触した細胞において得られた第1のPKCアイソザイムのレベル)を第2の比(Aβペプチドと接触していない細胞における第2のPKCアイソザイムのレベル/Aβペプチドと接触した細胞における第2のPKCアイソザイムのレベル)で割り、PKCアイソザイムインデックスが生成される。このPKCアイソザイムインデックスは、以下の一般式:
【数5】

【0046】
または
【数6】

【0047】
を用いて生成することができ、ここで、「x」は対象のPKCアイソザイムを表し、「z」は第2のPKCアイソザイムを表し、「p−PKC−x」および「p−PKC−z」はリン酸化されたPKCアイソザイムを表し、AβはPKCアイソザイムのレベルがAβペプチドの存在下で決定される細胞を表す。
【0048】
いくつかの実施形態において、PKC−xおよびp−PKC−xは、非AD細胞と比較して、ADにおけるAβペプチドによって差次的に影響を受けることが知られているPKCアイソザイムを表し、PKC−zおよびPKC−zは、非AD細胞と比較して、ADにおいてAβペプチドによって差次的に影響を受けることが知られていないPKCアイソザイムを表す。具体的には、PKC−xはPKC−αまたはPKC−εであり、PKC−zはPKC−γであると考えられる。
【0049】
1つの特定の実施形態において、本発明は、以下の式1:
【数7】

【0050】
に従ってPKC−αインデックスを生じることによって、ADの存在または不在を診断するための方法を提供する。
【0051】
予想外に、非AD対象からのPKC−αインデックスは、非AD認知症または健忘症を有する対象を含めて、ADを有する患者からの同じPKCインデックスよりも高くなることが発見された。
【0052】
1つの実施形態において、PKC−αインデックス値が約1.0またはそれ未満であるとき、これはADであると診断される。
【0053】
別の特定の実施形態において、本発明は、以下の式2:
【数8】

【0054】
に従ってPKC−εインデックスを生じることによって、ADの存在または不在を診断するための方法を提供する。
【0055】
予想外に、非AD対象からのPKC−εインデックスは、非AD認知症または健忘症を有する対象を含めて、ADを有する患者からの同じPKCインデックスよりも高くなることが発見された。
【0056】
1つの実施形態において、PKC−εインデックス値が約1.0またはそれ未満であるとき、これはADであると診断される。
【0057】
また、本発明の方法は、PKC活性化因子との組み合わせにおいて用いることができる。この実施形態において、細胞は、Aβの不在下または存在下でPKC活性化因子と接触し、上記の式IおよびIIに従うPKCアイソザイムのレベルを用いて、本発明のPKCインデックスを決定することになる。
【0058】
本発明の診断方法、キット、および化合物を同定するためのスクリーニング法に使用することが具体的に意図されるプロテインキナーゼC活性化因子には、これらに限定するものではないが、大環状ラクトン、ベンゾラクタム、またはピロリジノン;ブラジキニン;ブリオスタチン1;ブリオスタチン2〜18;ネリスタチン;ホルボールエステル;ブラジキニン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジンF2αおよびバソプレッシンを含む。また、ブリオスタチンの誘導体である「ブリオログ(bryolog)」として知られている化合物も含まれる。ブリオスタチン−1は2つのピラン環と1つの6員環状アセタールを有するが、大部分のブリオログにおいては、ブリオスタチン−1のピランの1つが第2の6員アセタール環で置換されている。PCT WO2008/100449を参照されたい。最後に、エポキシ化され、シクロプロパン化された多価不飽和脂肪酸は、PKC−ε選択的活性化因子として同定されている。2009年7月28日に出願された、係属中のPCT出願番号PCT US/2009/051927を参照されたい。
【0059】
本発明に従うと、用語「PKCアイソザイム」とは、−α、−β1、−β2、−γ、−δ、−ε、−η、−θ、−ζ、−λ、−η、−ι、および−μアイソザイムを意味する。特定の実施形態において、PKCアイソザイムなる用語は、−α、−β、−γ、−δ、および−εを意味する。
【0060】
用語「Aβペプチド」とは、膜タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)由来の39〜43アミノ酸長であるペプチドを意味し、それは、アルツハイマー病患者の脳におけるアミロイドプラークの主要な構成物質であると考えられる。特定の実施形態において、本発明の方法に使用されるAβペプチドは、Aβ(1−40)および/またはAβ(1−42)である。用語「アミロイドベータペプチド」、「ベータアミロイドタンパク質」、「ベータアミロイドペプチド」、「ベータアミロイド」は互換可能に使用される。APPの多数のイソフォームが存在し、例えば、APP695、APP751、およびAPP770が存在する。ヒトにおいて存在することが現在知られているAPPの特定のイソタイプの例は、「正常な」APPとして指定されている、Kangら,Nature.1987;325:733−736によって報告されている695アミノ酸ポリペプチド;Ponteら,Nature.1988;331:525−527およびTanziら,Nature.1988;331:528−530によって報告されている751アミノ酸ポリペプチド;ならびにKitaguchiら,Nature.1988;331:530−532によって報告されている770アミノ酸ポリペプチドである。インビボまたはインサイチュにおける異なるα−およびβ−セクレターゼ酵素によるAPPのタンパク質分解プロセッシングの結果として、Aβは、長さにして40アミノ酸である「短鎖型」と、長さにして42〜43アミノ酸の範囲である「長鎖型」の両方において見出される。
【0061】
Aβペプチドは、例えば、rPeptides(Bogart,GA)またはGenScript(Piscataway,NJ)から市販されている。さらに、Aβペプチドは、既知の方法に従った組換え工学技術を用いて合成または生成され得る。
【0062】
また、本発明は、対象におけるADの進行をモニタリングするための方法を提供する。初期ADまたは軽度ADから中程度ADまたは重傷ADへなどのAD進行として、上記されるように決定されるPKCアイソザイムインデックスは、初期段階のADからのPKCアイソザイムインデックス値、または前AD状態からのPKCアイソザイムインデックス値と比較して、減少するか、またはマイナスにすらなることが期待される。
【0063】
本明細書で使用するとき、「初期段階のアルツハイマー病」とは疾患の段階を意味する。初期段階のADおよび関連した認知症を有する人々は、この疾患の症状に起因して軽度の機能障害のみを有する。これらの人々はそれにも拘らず働き、運転し、日常生活のある活動に伴う最小限の支援のみを必要とする。この段階にある個体は、多くの場合、それらの診断および能力を自分で認識している。
【0064】
「軽度のアルツハイマー病」とは、認知低下がより明らかとなった段階を意味する。軽度ADを有する対象は、最近の出来事または個人的な詳細について忘れがちであるときがある。他の問題には、数学的能力の機能障害(例えば、100から9ずつ差し引く計算の困難性)、パーティーを開くまたは財務管理のような複雑な課題を行う能力の低下、むら気、および社会的引きこもりが含まれる。
【0065】
本明細書で使用するとき、「非AD認知症」とは、ADを伴う症状を共有する状態を意味する。これらの状態には、軽度認識障害、血管性認知症、例えば脳卒中または頭部外傷によって引き起こされる血管性認知症、混合型認知症、レヴィー小体を伴う認知症、パーキンソン病、前頭側頭認知症、クロイツフェルト−ヤコブ病または別の感染病、ピック病、ハンチントン病、ウェルニッケ−コルサコフ症候群が挙げられる。
【0066】
「軽度認識障害」とは、加齢に伴う通常期待されるよりも多い記憶障害によって特徴付けられる状態を意味するが、判断または推論の機能障害などの認知症の他の症状を示さないものを指す。正常な高齢者人口では1%であるのとは対照的に、MCIを患っている人々の10〜15%が毎年ADを発症している。「健忘性MCI」は、短期記憶喪失を伴うあるMCIである。
【0067】
本発明に従う「非ADの対照対象」は、ADであると診断されておらず、およびADであることが疑われていない対象を意味する。このような対象は、非AD認知症または健忘症を有する対象を含んでもよい。
【0068】
本発明の方法において、個体または患者から採取される末梢細胞は何れかの生存細胞であってもよい。1つの実施形態において、細胞は皮膚線維芽細胞であるが、何れかの他の末梢組織細胞(すなわち、中枢神経系を除く組織細胞)は、そのような細胞を得るまたは処理するのにより便利であるときには、本発明の試験に用いられてもよい。他の適切な細胞は、これらに限定するものではないが、赤血球およびリンパ球などの血球、頬粘膜細胞、嗅覚ニューロンなどの神経細胞、脳脊髄液、尿および何れか他の末梢細胞種を含む。さらに、比較の目的で使用される細胞は、必ずしも健常ドナー由来でなくてもよい。
【0069】
細胞は新鮮な細胞であっても、培養された細胞であってもよい(米国特許6,107,050を参照されたい。これは参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる)。特定の実施形態において、皮膚のパンチ生検を用いて、対象由来の皮膚線維芽細胞を得ることができる。これらの線維芽細胞は、本明細書に記載される技術を用いて直接分析されるか、または細胞培養の状況に導入される。次に、得られた培養線維芽細胞は、実施例および本明細書を通して記載されるように、分析される。他の段階が、頬粘膜細胞、嗅覚細胞などの神経細胞、赤血球およびリンパ球などの血球などの、分析に用いられてもよい他の細胞種を調製するために必要とされてもよい。例えば、血球は、末梢静脈から採血することによって容易に得ることができる。次に、細胞は、標準的な手順(例えば、細胞ソーター、遠心分離などを用いて)によって分離され、その後、分析され得る。
【0070】
本発明の方法に従うと、使用されるAβペプチドの濃度は、約1nM〜100μM、好ましくは約10nM〜10μMであってもよい。細胞は、処理されるときに約80〜100%コンフルエントでなければならない。
【0071】
当業者に知られている慣用な方法によって、タンパク質を細胞から単離してもよい。好ましい方法において、患者から単離された細胞を洗浄し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でペレットにする。次に、50nMのNaF、1mMのEDTA、1mMのEGTA、20μg/mlロイペプチン、50μg/mlペプスタチン、10mMのTRIS−HCl、pH=7.4を含む「均質化緩衝液」でペレットを洗浄し、遠心分離によってペレットにする。上清を捨て、「均質化緩衝液」をペレットに添加し、次に、ペレットを超音波処理する。タンパク質抽出物を新鮮な状態で用いてもよく、または後の分析のために−80℃で保存されてもよい。
【0072】
本発明の方法において、開示されているイムノアッセイに用いられる抗体は、起源はモノクローナルまたはポリクローナルであってもよい。抗体を生成させるために使用される、リン酸化された、およびリン酸化されていないPKCアイソザイム、タンパク質またはそれらの一部は、天然供給源もしくは組換え供給源由来であってもよく、または化学合成によって生成されてもよい。
【0073】
本発明の診断法のある実施形態において、PKCアイソザイムタンパク質はイムノアッセイによって検出される。本発明のある実施形態において、イムノアッセイは、ラジオイムノアッセイ、ウェスタンブロットアッセイ、免疫蛍光アッセイ、酵素免疫吸着法(ELISA)、免疫沈降アッセイ、化学発光アッセイ、免疫組織化学アッセイ、免疫電気泳動アッセイ、ドットブロットアッセイ、またはスロットブロットアッセイであってもよい。本発明の診断法のさらなる好ましい実施形態において、タンパク質アレイまたはペプチドアレイまたはタンパク質マイクロアレイが診断法に用いられてもよい。タンパク質定量は、例えば、密度測定法または分光光度法を用いて評価されてもよい。
【0074】
さらに、本明細書に開示されている方法は、他の診断法との組み合わせにおいて用いることができ、例えば、アルツハイマー病を診断するための線維芽細胞増殖パターンに関して、2009年10月2日に出願された、「アルツハイマー病を診断するための線維芽細胞増殖パターン(Fibroblast Growth Patterns for the Diagnosis of Alzheimer’s Disease)」と題する米国仮特許出願61/248,368、61/344,045、61/362,518、および61/365,545に基づく出願に記載されている診断法がある。本発明の方法との組み合わせにおいて使用することが考えられる他の方法は、Alkonらによる米国特許7,682,807、ならびにPCT出願PCT/US2004/038160およびPCT/US2005/036014に記載されている。
【0075】
また、本発明は、ある実施形態において、ADの検出または診断に有用な試薬を含むキットまたは器具に関する。例えば、キットは、1つまたは複数のAβペプチド、例えば、Aβ(1−40)および/またはAβ(1−42);定常状態のPKCアイソザイムおよびリン酸化されたPKCアイソザイムに特異的な抗体;イムノアッセイにおける対照として使用するためのPKCアイソザイムの1つまたは複数のタンパク質試料;ならびにイムノアッセイを行うための使用説明書および結果を評価するための基準を含む使用説明書を含む。また、キットは、本明細書に開示されているプロテインキナーゼC活性化因子(例えば、ブラジキニンまたはブリオスタチン)の何れか1つまたは複数を含んでもよい。キットは、皮膚のパンチ生検などの1つまたは複数の生検を行うために必要な器具と、緩衝液と、保存容器とを含んでもよい。また、キットは、緩衝液、二次抗体、対照細胞などを含んでもよい。
【0076】
さらなる態様において、本発明は、ADの治療に有用なリード化合物を同定するためのスクリーニング法、およびそれを必要とする対象におけるADの治療または予防のための医薬製剤においてこれらの化合物またはリード化合物の化学的誘導体を使用する方法に関する。治療物質を同定するためのこのようなスクリーニング法の1つは、AD患者由来の試料細胞と、本明細書においてスクリーニングされる物質とを接触させる工程と、次に、PKCインデックスを決定する工程とを含む。非AD対照細胞に見出されるレベルに戻るまで、ADのPCKインデックス値を逆転するかまたは改善する薬物は、ADの治療または予防に潜在的に有用な物質として同定および選択される。
【0077】
本明細書で使用するとき、「リード化合物」は、本明細書において開示されている化合物をスクリーニングする方法を用いて同定される化合物である。リード化合物は、本明細書に開示されているアルツハイマー病特異的な分子バイオマーカー、すなわちPKCインデックスを、本明細書に記載されているアッセイにおいて、非アルツハイマー病細胞について計算された値に対応する値にシフトさせる活性を有することができる。リード化合物は、続いて、化学的に修飾されて、アルツハイマー病の治療または予防用の医薬組成物に使用するために最適化されるかまたはそれらの活性を高められてもよい。
【0078】
生きているヒトの脳におけるニューロンへの直接的なアクセスは不可能であるため、アルツハイマー病の早期診断は非常に困難である。本明細書に開示されているアルツハイマー病に特異的な分子バイオマーカーを測定することによって、本発明は、アルツハイマー病の早期診断のために非常に実践的な、非常に特異的な、非常に選択的な試験を提供する。さらに、本明細書に記載されているアルツハイマー病に特異的なPKCインデックスは、疾患の進行を追跡し、アルツハイマー病の治療および予防を標的とする薬物を開発するための候補治療薬を同定するための基礎を提供する。
【0079】
本発明の多大な利点は、本明細書に開示されているアッセイおよび方法に用いられる組織が、最小限の侵襲性の手順を用いて、すなわち脊椎穿刺を用いずに、対象から得ることができることである。
【0080】
[例]
例1:アルツハイマー病末梢細胞における異常なPKCアイソザイムプロセッシング
原理:PKCシグナル伝達経路は、アルツハイマー病(AD)の学習および記憶、並びに神経変性病理学における重要な分子イベントを制御する。PKCアイソザイムの因果的役割は、AD患者の死後脳、皮膚線維芽細胞および血液試料の欠損と関係している。Erkのリン酸化を直接的または間接的に介するPKC−αおよびPKC−εが、α、βおよびγセクレターゼの翻訳後のプロセッシングに関与する全ての主要な経路を制御し、それはAβの産生を制御する。PKC−αおよびPKC−εアイソザイムにおけるAβ処理の効果は、PKC−γと比較してより重大である。いくつかの診断法は、内部標準としてPKC−γを用いて調べられている。本発明は、末梢組織を用いて、年齢が一致した対照(AC)症例および他の非AD認知症症例からADを診断する方法に関する。これらの方法は、ADを治療または予防するための化合物についてスクリーニングするために使用することができる。
【0081】
細胞試料。本発明の方法に用いられる試料は、以下の通りであった:
(1)10例のAD、10例のC、10例の非AD認知症;
(2)90%コンフルエントの皮膚線維芽細胞;
(3)処置:24時間、1μMのAβ(1−42)。
【0082】
皮膚線維芽細胞は2種の異なる供給源から得られた:(A)新たに得られた皮膚線維芽細胞 新鮮な皮膚線維芽細胞はBRNI系統機関への登録、およびジョーンズホプキンス大学とその系統センターから得られた;および(B)コーリエル医学研究所(Coriell Institute for Medical Research)(ニュージャージー州カムデン)から購入されたバンク保存のヒト皮膚線維芽細胞。新たに得られた皮膚組織からの線維芽細胞の回収および培養を以下の通りに行った:AD、非AD認知症患者、および年齢が一致した対照からの皮膚組織のパンチ生検試料は、有資格者によって採取された。即ち、皮膚組織の外側角質層(生検試料)は、冷却した生理食塩水溶液によって完全にすすがれた後に除去された。この組織の残りの部分を小片(約1mm)にミンスした。小片をT−25(25平方cm)の細胞培養フラスコに維持した。培養フラスコの表面に細胞を数時間付着させた。45%ウシ胎仔血清(FBS)およびペニシリン/ストレプトマイシンを含む3mLのDMEM培養液をフラスコに注意深く加え、5%CO2および37℃のインキュベータ内に3日間配置した。3日後、5mLの追加の培養培地を添加した。全てのフラスコは定期的に検査され、7〜10日後にそれらはコンフルエントになった。細胞をトリプシン処理し、細胞の数に従って増殖させた。細胞継代の総数は16を超えないようにした。AD患者のバンク保存された線維芽細胞および年齢が一致した対照は、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するDMEM培養培地を含むT25/T75培養フラスコ中に維持および培養された。細胞継代の総数は16を超えないようにした。
【0083】
Aβペプチド処理。ADおよび対照患者由来の線維芽細胞株は、90〜100%のコンフルエントに到達した後、10%ウシ胎仔血清を含むDMEM培養培地中で5%CO2および37℃のインキュベータ内で24時間、1.0μMのAβ(1−42)(アメリカンペプチドカンパニー(American Peptide Company)、カリフォルニア州サニーベール)で処理された。1.0μMのAβ(1−42)とのインキュベーションの24時間後、培地を取り除き、血清を含まない通常の培養培地で3回洗浄し、16時間維持した。
【0084】
PKCアイソザイムの検出:以下のアッセイに記載されているPKCアイソザイムをウェスタンブロット(イムノブロット)によって検出した。
【0085】
アッセイ1:PKC−α、PKC−γおよびPKC−ε;
アッセイ2:p−PKC−α、p−PKC−γおよびp−PKC−ε;
アッセイ3:PKC転位置。
【0086】
タンパク質抽出は従来報告されるように行われた(Favitら,PNAS,1998,上述)。即ち、0.1MのHEPES、0.04MのEDTA、0.8Mのスクロース、0.01Mのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、2.4単位/mlのアプロチニン、および1%のSDSを含む均質化緩衝液中にペレットを再懸濁し、超音波処理(ウルトラソニックホモジナイザー(ultrasonic homogenizer),Cole−Parmer)した。決められた方法に従って、タンパク質濃度を決定した。イムノブロット分析を行う直前に粗抽出物を4℃に置いた。
【0087】
ウェスタンブロット分析について、1.5mm厚の10%アクリルアミド勾配ゲル(Invitrogen,サンディエゴ)内でSDS/PAGEを行った。粗ホモジネートは、0.5MのTris HCl(pH6.8)、10%のグリセロールおよび2%のSDS、0.5%の2−メルカプトエタノールを含む試料緩衝液で平衡化し、最終体積を20mlとし、総タンパク質濃度を10μg/mlとした。試料を電気泳動し、ニトロセルロースペーパー(Invitrogen)に一晩転写した。ニトロセルロースを1%BSA/95%TBS中で1時間ブロックし、次に、異なるPKCアイソザイムモノクローナル抗体(PKC−α、PKC−γ、およびPKC−ε;Transduction Laboratories,ケンタッキー州レキシントン)と1時間インキュベートした。その後、ブロットを抗マウスアルカリホスファターゼと結合された抗体(Sigma)と1時間インキュベートした。最後に、0.1MのTrisHCl(pH9.6)、0.001MのMgCl、1%のニトロブルーテトラゾリウム(Pierce)および1%の5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸トルイジン塩(Pierce)を含む溶液でニトロセルロースを染色した。全ての反応を室温で行った。イムノブロットは、フラットベットスキャナ上でデジタル化され、以下のように定量分析によって分析された。
【0088】
アッセイ1;総PKC
【数9】

【0089】
このアッセイの結果を図1に示す。AD患者の細胞中のPKC−αインデックスは、非ADの対照対象から得られたPKC−αインデックスよりも有意に低いことが示される。
【数10】

【0090】
アッセイ2:ホスホ−PKC
【数11】

【0091】
特許、特許出願、刊行物、製品説明書、およびプロトコールが本出願の全体に亘り引用され、それらの開示は全ての目的のためにその全体に亘り参照することにより本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
候補対象におけるアルツハイマー病の存在または不在を決定する方法であって、
i)Aβペプチドの不在下および存在下で候補対象由来の末梢細胞中の第1のPKCアイソザイムのタンパク質レベルを決定し、第1の比を生成することと;
ii)Aβペプチドの不在下および存在下で候補対象由来の末梢細胞中の第2のPKCアイソザイムのタンパク質レベルを決定し、第2の比を生成することと、ここで、前記第2のPKCアイソザイムは、非AD細胞と比較して、AD細胞中でAβペプチドによって差次的に調節されることが知られていない;
iii)前記第1の比を前記第2の比で割ることによってPKCアイソザイムインデックスを生じさせることと、ここで、約1.0または1.0未満のPKCアイソザイムインデックスはアルツハイマー病の診断を示し、1.0よりも大きいPKCアイソザイムインデックスはアルツハイマー病の不在を示す;
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、PKCアイソザイムインデックスが、次の式I:
【数1】

ここで、「x」は第1のPKCアイソザイムを表し、「z」は第2のPKCアイソザイムを表し、AβはAβペプチドと接触した細胞を表す;
によって表されるPKCアイソザイムの定常状態レベルを用いて生成される方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、PKCアイソザイムインデックスが、次の式II:
【数2】

ここで、「x」は第1のPKCアイソザイムを表し、「z」は第2のPKCアイソザイムを表し、AβはAβペプチドと接触した細胞を表し、p−PKC−xおよびp−PKC−zはリン酸化されたPKCアイソザイムを表す;
によって表されるPKCアイソザイムのリン酸化レベルを用いて生成される方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、PKC活性化因子の存在下で、ステップiおよびiiにおける第1のPKCアイソザイムおよび第2のPKCアイソザイムのタンパク質レベルを決定することをさらに含む方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、第1のPKCアイソザイムがPKC−αであり、第2のPKCアイソザイムがPKC−γである方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、第1のPKCアイソザイムがPKC−εであり、第2のPKCアイソザイムがPKC−γである方法。
【請求項7】
請求項2に記載の方法であって、第1のPKCアイソザイムがPKC−αであり、第2のPKCアイソザイムがPKC−γである方法。
【請求項8】
請求項2に記載の方法であって、第1のPKCアイソザイムがPKC−εであり、第2のPKCアイソザイムがPKC−γである方法。
【請求項9】
請求項3に記載の方法であって、第1のPKCアイソザイムがPKC−αであり、第2のPKCアイソザイムがPKC−γである方法。
【請求項10】
請求項3に記載の方法であって、第1のPKCアイソザイムがPKC−εであり、第2のPKCアイソザイムがPKC−γである方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、AβペプチドがAβ(1−40)またはAβ(1−42)である方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、末梢細胞が皮膚細胞、皮膚線維芽細胞、血球または頬粘膜細胞である方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、末梢細胞が皮膚線維芽細胞である方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、Aβペプチドが約1.0nMから10μMの濃度で存在する方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、Aβペプチドが約1.0μMの濃度で存在する方法。
【請求項16】
対象においてアルツハイマー病の進行をモニタリングする方法であって、
i)請求項1に記載の方法に従って、第1の時点で、試験対象の末梢細胞からPKCアイソザイムインデックスを生成して、対象について参照PKCアイソザイムインデックスを得ることと、ここで、対象は、アルツハイマー病であると診断されている;
ii)前記第1の時点の後の1または複数の時点で、同じ対象の末梢細胞から同じPKCアイソザイムインデックスを生成することと;
iii)第1の時点からのPKCアイソザイムインデックスと比較したとき、前記第1の時点の後の1または複数の時点から得られたPKCアイソザイムインデックスに減少があるか否かを決定することと;
を含み、
ここで、第1の時点からのPKCアイソザイムインデックスと比較したとき、第1の時点の後の1または複数の時点からのPKCアイソザイムインデックスの減少は、アルツハイマー病の進行を示す方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、試験対象が、第1の時点で初期アルツハイマー病であると診断されている方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、試験対象が、第1の時点で軽度アルツハイマー病であると診断されている方法。
【請求項19】
対象において非アルツハイマー病状態からアルツハイマー病への進行をモニタリングする方法であって、
i)請求項1に記載の方法に従って、第1の時点で、試験対象の末梢細胞からPKCアイソザイムインデックスを生成して、対象について参照PKCアイソザイムインデックスを得ることと、ここで、対象は、アルツハイマー病であると診断されていない;
ii)第1の時点の後の1または複数の時点で、同じ対象の末梢細胞から同じPKCアイソザイムインデックスを生成することと;
iii)第1の時点からのPKCアイソザイムインデックスと比較したとき、第1の時点の後の1または複数の時点から得られたPKCアイソザイムインデックスに減少があるか否かを決定することと;
を含み、
ここで、第1の時点からのPKCアイソザイムインデックスと比較したとき、第1の時点の後の1または複数の時点からのPKCアイソザイムインデックスの減少はアルツハイマー病への進行を示す、対象における、非アルツハイマー病状態からアルツハイマー病への進行をモニタリングする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、非アルツハイマー病状態が軽度認識障害である方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、軽度認識障害が健忘性認識障害である方法。
【請求項22】
1または複数のAβペプチドと、非AD細胞と比較してAD細胞においてAβペプチドによって差次的に調節されることが知られているPKCアイソザイムに特異的な少なくとも1つの抗体と、非AD細胞と比較してAD細胞において前記Aβペプチドによって差次的に調節されることが知られていないPKCアイソザイムに特異的な少なくとも1つの抗体と、PKCアイソザイムインデックスを決定するための使用説明書とを含むキット。
【請求項23】
請求項22に記載のキットであって、AβペプチドがAβ(1−40)またはAβ(1−42)である方法。
【請求項24】
請求項22に記載のキットであって、AD細胞においてAβペプチドによって差次的に調節されることが知られているPKCアイソザイムがPKC−αである方法。
【請求項25】
請求項22に記載のキットであって、AD細胞においてAβペプチドによって差次的に調節されることが知られているPKCアイソザイムがPKC−εである方法。
【請求項26】
請求項22に記載のキットであって、AD細胞においてAβペプチドによって差次的に調節されないことが知られているPKCアイソザイムがPKC−γである方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−506844(P2013−506844A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532353(P2012−532353)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/051112
【国際公開番号】WO2011/041670
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(503310224)ブランシェット・ロックフェラー・ニューロサイエンスィズ・インスティテュート (25)
【Fターム(参考)】