説明

アルテミシニン中間体の製造方法

この出願は、環外CC−二重結合のジイミン水素化によりアルテミシン酸またはアルテミシン酸エステルから、それぞれ、(2R)−ジヒドロアルテミシン酸または(2R)−ジヒドロアルテミシン酸エステルを製造するための方法および抗マラリア薬アルテミシニンの製造における該方法の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本願は2009年9月11日出願の米国仮出願番号第61/241,744号の35U.S.C.§119の下での利益を主張し、この仮出願は参照によりこの全体が組み込まれる。
マラリアは熱帯病であり、アフリカ、東南アジアおよび南アメリカにおいて一般的である。約3から5億の人々がマラリアに感染し、世界の主要感染病の1つになっている。2006年には、推定で1500から2700万人の死者がマラリアで生じ、死者の大部分は5歳未満の子供であった。疾病駆除は寄生虫プラスモジウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)の多剤耐性株の出現によって妨げられている。従って、新規抗マラリア薬および抗マラリア薬を製造する代替方法を開発することが重要な世界保健上の目的である。これらの坑マラリア薬の1つが式IIのアルテミシニン、
【0002】
【化1】

伝統的な中国の薬草アルテミシア・アヌア(Artemisia annua)の成分であるセスキテルペンラクトンエンドペルオキシドである。これは中国において1000年以上にわたって熱の症状を制御するのに用いられている。科学文献において、アルテミシニンは、時折、中国名キンガオス(Qinghaosu)でも呼ばれる。この分子の特性および構造の理解に近年進歩があった。この化合物は1972年に最初に単離された。この抗マラリア活性は1979年に発見された。この分子の最初の完全合成は1983年にHoffmann−La Rocheの化学者によって達成された(G.Schmidt,W.Hofheinz,J.Am.Chem.Soc.,105,624(1983))。アルテミシニンは多剤耐性プラスモジウム属種(Plasmodium spp.)に対して非常に有効であるが、不足していてほとんどのマラリア罹患者には手が届かない。アルテミシニンの製造は幾つかの経路によって達成することができる。方法の1つはアルテミシニンをアルテミシア・アヌア(Artemisia annua)から抽出することを含む。この方法の欠点は植物からのアルテミシニンの少なく一貫性のない収率(0.001から0.8%)である(Wallaart et al.,Planta Med;66,57(2000);Abdin et al.,Planta Med;69,289(2003))。
【0003】
アルテミシニンの代わりの調製手順は、式IIIa
【0004】
【化2】

の生合成前駆体分子アルテミシン酸をアルテミシア・アヌア(Artemisia annua)から抽出した後、この分子を幾つかの合成工程においてアルテミシニンに合成的に変換することを含む。式IIIaの酸はアルテミシア・アヌア(Artemisia annua)中にアルテミシニンの約10倍高い濃度で存在し得るため、前者の抗マラリア薬への変換は多くの注目を集めている。しかしながら、アルテミシア・アヌア(Artemisia annua)からの化合物IIIaの収率は変動し、アルテミシア・アヌア(Artemisia annua)の急速な生長にもかかわらず、現在、この植物の世界中の供給量が満たすのはアルテミシン酸およびアルテミシニンの世界中の需要の10%未満であるものと推測される(WO2006/128126)。
【0005】
別の代替製造手順はアルテミシニンの完全合成である。しかしながら、このような完全合成は多数の合成工程を含み、多量の所望薬物を提供するために効率的でも対費用効果が高いわけでもない。
【0006】
他方、遺伝的に操作された微生物の発酵によって産生しようとする、式IIIaのアルテミシン酸のような貴重な生合成前駆体からのこの半合成は、対費用効果が高く、環境に優しく、高品質であり、およびアルテミシニンの信頼のおける源であり得る。この目的を達成するための主な突破口は、改変メバロネート経路、アモルファジエンシンターゼおよび、式IIIaの中間体へのアモルファ−4,11−ジエンの3工程酸化を行う、アルテミシア・アヌア(Artemisia annua)由来の新規チトクームP450モノオキシゲナーゼを用いて高力価の式IIIaのアルテミシン酸を生成する改変酵母を用いる発酵法を開発した、Amyris Inc.およびBerkeleyのカリフォルニア大学からの科学者によって2006年に達成されている(J.D.Keasling et al.,Nature,440,940(2006))。2年後、これらの力価はさらに高く、さらに経済的なレベルにまで上昇している(R.Regentin et al.,Biotechnol.Prog.;24,1026(2008))。
【0007】
以下の方法を用いてアルテミシン酸またはアルテミシン酸エステルの位置および立体選択的還元を行うことができる:
a)しばしばホウ化ニッケルと呼ばれる試薬の組み合わせである水素化ホウ素リチウム(LiBH)および塩化ニッケル(NiCl)を用いる還元は、不十分な立体選択性である85:15の比で、望ましいジアステレオマー性ジヒドロアルテミシン酸またはジヒドロアルテミシン酸エステル(2R)−異性体Iおよび望ましくない(2S)−異性体IV
【0008】
【化3】

の混合物を生じる(X.Xu et al.,Tetrahedron;42,819(1986))。加えて、極めて過剰な水素化物試薬が必要であり、大規模な取り扱いおよびワークアップが困難となる。さらに、この還元方法はR1がHではない式IIIの化合物に制限され、式IIIaの遊離酸を処理できることは記述されていない(WO2006/128126を参照)。以前の研究において、この変換の完全な立体選択性が報告されているが(M.Jung et al.;Synlett;74(1990))、高度のジステレオ選択性を再現することができず、後に他者が確認することができなかった(WO2006/128126を参照)。実際、この生成物比はホウ化ニッケル還元からの結果を上回るものではなかった。上述のものと同じ欠点を有するこの手順の幾つかの変更も記述された(例えば、R.J.Rothらによる、US4,992,561)。
【0009】
b)KnowlesおよびNoyoriによって開発されている位置およびジアステレオ選択的均一触媒水素化(W.S.Knowles et al.,J.Am.Chem.Soc.,99,5946(1977);R.Noyori et al.,J.Am.Chem.Soc.,102,7932(1980))は、アルケンのジアステレオまたはエナンチオ選択的水素化を達成するのに、それぞれ、キラルであってもよい遷移金属触媒を用いる。例えば、K.Reilingら(WO2006/128126)は、アキラルなロジウム系ウィルキンソン型触媒を用いることによって式IIIaの酸の式Iaの酸(即ち、R1が水素である式Iの化合物)への望ましい変換を行い、85:15の比を有する(2R)/(2S)−立体異性体の混合物を得た。しかしながら、遷移金属錯体を用いる均一触媒水素化は、貴金属(例えば、ロジウムまたはルテニウム)および錯体有機配位子、入念な金属および配位子回収、しばしば低い基質対触媒充填および回転率、痕跡触媒毒に対する反応の感受性並びに、例えば大規模には60barまでの水素圧で稼動する、高価な高圧反応器設備の必要性の観点で極めて高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2006/128126号
【特許文献2】米国特許第4,992,561号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】G.Schmidt,W.Hofheinz,J.Am.Chem.Soc.,105,624(1983)
【非特許文献2】Wallaart et al.,Planta Med;66,57(2000)
【非特許文献3】Abdin et al.,Planta Med;69,289(2003))
【非特許文献4】J.D.Keasling et al.,Nature,440,940(2006)
【非特許文献5】R.Regentin et al.,Biotechnol.Prog.;24,1026(2008)
【非特許文献6】X.Xu et al.,Tetrahedron;42,819(1986)
【非特許文献7】M.Jung et al.;Synlett;74(1990)
【非特許文献8】W.S.Knowles et al.,J.Am.Chem.Soc.,99,5946(1977)
【非特許文献9】R.Noyori et al.,J.Am.Chem.Soc.,102,7932(1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
商業的に入手可能な物質または、これら自体は商業的に入手可能な物質から容易に調製される、文献に既に記載される化合物のいずれかから出発して、式Iの化合物を調製するための方法が提供される。単純で環境的に適合する試薬および溶媒を用いて生成物の高い全収率および良好な純度を得ることができ、これを工業規模で実施することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
式Iの化合物は、ジイミンを水素化(還元)試薬として用いることにより、式IIIの化合物を水素化(還元)することによって得ることができる。この方法は高収率並びに良好な位置およびジアステレオ選択性を生じる。
【0014】
式Iの化合物
【0015】
【化4】

(式中、
R1は水素または1、2、3、4、5もしくは6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルキルまたは3、4、5、6もしくは7個の炭素原子を有するシクロアルキルである。)
を調製するための方法であって、式IIIの化合物
【0016】
【化5】

をジイミンと反応させることを含む方法も提供される。
【0017】
幾つかの実施形態において、R1は水素である。
【0018】
式Iの化合物
【0019】
【化6】

(式中、
R1は1、2、3、4、5もしくは6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルキルまたは3、4、5、6もしくは7個の炭素原子を有するシクロアルキルである。)
を調製するための方法であって、式IIIaの化合物
【0020】
【化7】

をエステル化して式IIIの化合物
【0021】
【化8】

(式中、
R1は1、2、3、4、5もしくは6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルキルまたは3、4、5、6もしくは7個の炭素原子を有するシクロアルキルである。)
を生成し、
および、次に、式IIIの化合物をジイミンと反応させる
ことを含む方法も提供される。
【0022】
ジイミンはジイミドまたはジアゼンとも呼ばれる反応性試薬であり、化学式HN=NHを有する。
【0023】
幾つかの実施形態においては、ジイミンをその場で(in situ)生成させる。ジイミンを調製する幾つかの方法には、(i)場合によりCu(I)触媒の存在下での、酸化剤、例えば、過酸化水素もしくは酸素を用いるヒドラジンの酸化、(ii)アゾジカルボキシレートの酸触媒脱炭酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、酒石酸、クエン酸もしくはシュウ酸での二ナトリウムもしくは二カリウムアゾジカルボキシレートの脱炭酸、(iii)酢酸エステル、例えば、酢酸メチルもしくは酢酸エチルでのヒドロキシルアミンの処理、(iv)塩基でのヒドロキシルアミン−O−スルホン酸の処理、または(v)塩基、例えば、アルカリもしくはアルカリ土類金属(earth alkaline metal)水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム、またはナトリウムメチレート、ナトリウムエタノレート、カリウムメタノレート、カリウムエタノレート、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシド、またはアミン、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミンもしくはN−メチルアニリンでのヒドロキシルアミン−O−スルホン酸およびヒドロキシルアミンの処理が含まれる。ジイミンを生成するための多くの方法が容易に利用可能であり、これらは、例えば、D.J.Pasto,R.T.Taylor,Organic Reactions,40,91−155,1991に要約されている。
【0024】
場合により、当分野において公知の方法、例えば、クロマトグラフィーまたは結晶化によって式Iの化合物を単離することができ、これは、幾つかの実施形態において、生成物のジアステレオマー純度をさらに高め得る。
【0025】
式IIIaの化合物のエステル化は当分野において公知の方法により、例えば、W.Greene et al.;Protective Groups in Organic Synthesis;Wiley−Interscience 3rd ed.,chapter 5(1999)に記載されるように行うことができる。例えば、エステル化反応は以下の方法によって行うことができる:
(i)化合物IIIaを化合物R1−X(式中、XはF、Cl、BrもしくはIであり、幾つかの実施形態においては、XはClもしくはBrである。)と反応させる、または
(ii)化合物IIIaをジアゾアルカンと反応させる(例えば、ジアゾメタンと反応させてメチルエステルを得る。)、または
(iii)当分野において公知の方法によって化合物IIIaから式IIIbの酸塩化物
【0026】
【化9】

を調製し、次にこの酸塩化物を式R1−OHのアルコールと反応させる、または
(iv)カルボニルジイミダゾール、カルボジイミドもしくはクロロホルメートの存在下で式IIIaの化合物を式R1−OHの各アルコールと縮合させる。
【0027】
アルテミシン酸IIIaまたは一般式IIIのこのエステル誘導体は、穏やかな条件下で高収率に、良好な位置およびジアステレオ選択性においてその場で調製されるジイミンを用いることによって、高価な貴金属および配位子なしに水素化(還元)できることが見出されている。
【0028】
十分な量のアルテミシン酸IIIaを幾つかの源から、例えば、アルテミシア・アヌア(Artemisia annua)の植物抽出物から(R.J.Roth et al.,Planta Med;53,501(1987))、またはJ.D.Keaslingら(Nature,440,940(2006))によって記述される酵母発酵法から入手することができる。R1が1、2、3、4、5もしくは6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルキルまたは3、4、5、6もしくは7個の炭素原子を有するシクロアルキルである式IIIの化合物は当業者が一般に公知の方法によるアルテミシン酸IIIaのエステル化によって調製することができる。例えば、X.Xu et al.,Tetrahedron 42,819(1986)には、例えばエーテル中0℃で、アルテミシン酸をCHと反応させることによるアルテミシン酸メチルエステル(R1がメチルである式IIIの化合物)の合成が記述されている。Zhouら(Huaxue Xuebao 43(9),845−851,1985)は、アルテミシン酸と塩化ピバロイルとの混合無水物を生成し、この生成物をナトリウムtert−ブタノレートで処理することによるアルテミシン酸tert−ブチルエステルの合成を記載している。酸をエステルに変換するための手順のさらなる例は、例えば、W.Greene et al.;Protective Groups in Organic Synthesis,Wiley−Interscience 3rd ed.,chapter 5(1999)に示されている。
【0029】
式Iの化合物を式IIのアルテミシニンに酸化することができ、これは当分野において公知の方法により、例えば、X.Xuら(Tetrahedron;42,819(1986))、R.J.Rothら(U.S.4,992,561)およびK.Reilingら(WO2006/128126)によって記述されている方法、即ち、式Iの化合物を過酸化水素およびモリブデン酸ナトリウム二水和物で酸化した後、銅(II)トリフルオロメタンスルホネートの存在下、酸素で第2酸化して式IIのアルテミシニンを得ることによるものである。
【0030】
R1が1、2、3、4、5もしくは6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルキルまたは3、4、5、6もしくは7個の炭素原子を有するシクロアルキルである式Iの化合物においては、このエステル化合物を、W.Greene et al.,Protective Groups in Organic Synthesis,Wiley−Interscience 3rd ed.によって記述されるような当分野において公知の方法によって、例えば、該化合物を塩基と反応させることによって、R1がHである式Iの化合物に予め開裂することができる。
【0031】
式IIのアルテミシニンの調製方法であって、式IIIaの化合物をジイミンと反応させて式Iaの化合物を得、続いて、上述のように、化合物Iaを式IIのアルテミシニンに酸化する方法も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の以下の実施形態はその場でのジイミン生成の手順を含み、これはここに記述される水素化(還元)過程に有用であることが見出された。これらは説明として提供されるものであって限定としてのものではなく、これは、他の実験手順をその場でのジイミンの生成に同様に適用可能であり、これが同様の結果をもたらすであろうことを当業者が容易に理解し、詳細な反応条件はジイミン生成を実施するために選択される方法に依存するためである。
【0033】
範囲は、指定された終末点を含んでこの間の全ての点を含むものと理解される。例えば、約15℃から25℃の温度範囲は、約15℃および約25℃の間の全ての各温度を含む。同様に、1から3時間の範囲は、1および3時間の間の全ての各時間を含む。
【0034】
幾つかの実施形態においては、式IIIの化合物を水に溶解する。幾つかの実施形態において、式IIIの化合物中のR1が水素であるとき、式IIIの化合物はアルテミシン酸、式IIIaの化合物である。場合により、水混和性溶媒、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ジオキサン、テトラヒドロフランおよびジメチルホルムアミドから選択される有機共溶媒を添加することができる。幾つかの実施形態においては、低沸点アルコール、例えば、メタノール、エタノールまたはイソプロパノールを添加する。幾つかの実施形態においては、メタノールまたはエタノールを添加する。幾つかの実施形態において、pH値を4から14、例えば、8から10に調整するのに塩基を添加することができる。塩基の例は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、他のアルカリもしくはアルカリ土類金属水酸化物、ナトリウムメチレート、ナトリウムエタノレート、カリウムメタノレート、カリウムエタノレート、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシドまたはアミン、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミンもしくはN−メチルアニリンである。ジイミンの形成に利用可能である方法の例として、上に列挙される塩基のうちの少なくとも1つを添加することによってpHを6から14の範囲で一定に保持しながら、ヒドロキシルアミンおよびヒドロキシルアミン−O−スルホン酸(HN−OSOH、HOSA)を反応媒体に添加する。幾つかの実施形態においては、pHを8から10の範囲で一定に保持する。幾つかの実施形態においては、この過程を実施するのに少なくとも当量または過剰の、例えば、1.0から7.0当量のヒドロキシルアミンおよびHOSAの各々を用いる。幾つかの実施形態において、反応温度は−60℃から120℃の範囲である。幾つかの実施形態において、反応温度は−20℃から60℃の範囲である。反応時間は可変であり、この反応に向けて選択される反応規模、塩基、溶媒および温度に依存する。反応時間は、反応温度が60℃から−20℃の範囲であるとき、0.5時間から24時間の範囲をとり得る。反応回転率は、混合物をワークアップ手順に渡す前に反応を監視することによって、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー技術(RP−HPLC)を用いることによって制御することができる。基質の完全消費の後、当業者に公知の方法により、この方法によって得られた式Iの化合物を単離することができる。これらの手順には反応混合物の水性ワークアップ(aqueouswork−up)または反応混合物のクロマトグラフィーが含まれ得る。都合のよいワークアップ手順の一例は、例えば塩酸で、反応混合物を酸性化した後、例えば水混和性溶媒、例えば、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、メチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)、トルエン、酢酸エチル、ヘプタン、シクロヘキサン、メチル−イソブチルケトン、ベンゼンまたは酢酸イソブチルを用いる標準抽出により、所望の式Iの生成物を抽出することを含む。幾つかの実施形態において、水混和性溶媒はジクロロメタンまたはMTBEである。標準水性ワークアップ手順は式Iの化合物の単離を可能にする。この代わりに、クロマトグラフィー精製または結晶化によって所望の生成物を得ることができる。結晶化なしにこの手順によって達成することができる式I:IVの粗製生成物のジアステレオマー比は、典型的には、90%:10%より良好であり、99%:1%の比に近づき得る。加えて、結晶化により、生成物のジアステレオマー純度を100%まで高めることができる。
【0035】
幾つかの実施形態においては、以下に記述されるように溶媒中に式IIIの化合物および塩基を含む反応媒体にHOSAを少しずつ、または連続的に添加する。幾つかの実施形態において、反応媒体はアルテミシン酸IIIaを含む。少なくとも1当量または過剰量、例えば、1.0から7.0当量のHOSAを方法の実施に用いる。反応を実施するための塩基は、これらに限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、他のアルカリもしくはアルカリ土類金属水酸化物、ナトリウムメチレート、ナトリウムエタノレート、カリウムメタノレート、カリウムエタノレート、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシドまたはアミン、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミンもしくはN−メチルアニリンであり得る。幾つかの実施形態において、溶媒は、場合により水混和性溶媒、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ジオキサン、テトラヒドロフランまたはジメチルホルムアミドの添加を伴う、水である。幾つかの実施形態においては、低沸点アルコール、例えば、メタノール、エタノールまたはイソプロパノールを添加する。幾つかの実施形態においては、メタノールまたはエタノールを添加する。反応温度は、溶媒の沸点に依存して、10℃から120℃の範囲である。幾つかの実施形態において、反応温度は20℃および溶媒、例えば、それぞれ、水性メタノールまたはエタノールの沸点の間の範囲である。反応時間は、反応温度がメタノール中で65℃から同じ溶媒中で30℃までの範囲であるとき、1時間から24時間の範囲をとり得る。反応回転率は混合物をワークアップ手順に渡す前に反応を監視することによって制御することができる。例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー技術(RP−HPLC)による決定で、基質の完全消費の後、この方法によって得られた式Iの生成物を上で概述される方法で単離することができる。この手順によって達成することができる式I:IVの粗製生成物のジアステレオマー比は、典型的には、所望のジアステレオマーについて90%:10%より良好であり、99%:1%以上にまで近づき得る。
【0036】
幾つかの実施形態においては、式IIIの化合物を、場合により可変量の水混和性アルコール性溶媒、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノールまたはイソプロパノールを添加しながら、水に溶解する。幾つかの実施形態において、式IIIの化合物中のR1が水素であるとき、式IIIの化合物はアルテミシン酸、例えば、式IIIaの化合物である。幾つかの実施形態においては、反応温度を−40℃から80℃の範囲に保持しながら、過酸化水素水溶液、例えば、水中10%から70%溶液およびヒドラジン水和物水溶液、例えば、水中64%溶液を同時に添加する。幾つかの実施形態において、反応温度は−20℃から40℃の範囲である。幾つかの実施形態においては、少なくとも1当量または過剰量、例えば、1.0から7.0当量のヒドラジン水和物および過酸化水素の各々を方法の実施に用いる。
【0037】
反応回転率は、混合物をワークアップ手順に渡す前に反応を、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー技術(RP−HPLC)を用いることによって監視することによって制御される。この手順によって達成することができる式I:IVの粗製生成物のジアステレオマー比は、典型的には、所望のジアステレオマーについて90%:10%より良好であり、反応条件に依存して99%:1%以上まで近づき得る。
【0038】
反応速度は反応媒体中の反応性成分に適用される反応温度、溶媒および混合条件に依存する。基質の有利な回転率を達成するのに微量混合技術が有用であり得る。それぞれの基質の完全消費の後、反応混合物を水および水非混和性溶媒、例えば、MTBE、シクロヘキサン、メチル−シクロヘキサン、トルエンまたは潜在的に残留する過剰の過酸化水素と過酸化物を形成しない他のあらゆる水非混和性有機溶媒で希釈する。有機相中に幾らかの過剰の過酸化水素が存在する場合、当業者に公知の方法、例えば、カタラーゼを用いて、または硫酸鉄水溶液で洗浄することにより、これを破壊することができる。その後、有機溶液からクロマトグラフィーにより、または結晶化により溶媒もしくは溶媒の混合液、例えば、MTBE、ヘプタン、トルエン、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、プロパノールおよび水から直接、生成物を単離する。
【0039】
幾つかの実施形態においては、式IIIの化合物を溶媒、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、トルエン、ジオキサン、イソプロパノール、tert−ブタノール、メタノール、エタノール、エチレングリコール−モノメチルエーテルまたはエチレングリコール−ジメチルエーテル中のアゾジカルボン酸の二ナトリウムまたは二カリウム塩の懸濁液に添加する。幾つかの実施形態において、式IIIの化合物中のR1が水素であるとき、式IIIの化合物はアルテミシン酸、例えば、式IIIaの化合物である。幾つかの実施形態において、溶媒はエタノール、メタノールまたはイソプロパノールである。幾つかの実施形態においては、アゾジカルボン酸のナトリウムまたはカリウム塩を弱酸、例えば、クエン酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、シュウ酸またはギ酸を用いて、用いられる溶媒に依存して、約−10℃から100℃の反応温度で分解することにより、ジイミンを反応混合物中でその場で生成させる。反応時間は、反応規模および反応温度に依存して、数分から数時間まで可変である。幾つかの実施形態においては、少なくとも1当量または過剰量、例えば、1.0から7.0当量のアゾジカルボン酸のナトリウムまたはカリウム塩を方法の実施に用いる。反応の監視およびワークアップ手順は上に概述されるものと同じである。
【0040】
幾つかの実施形態においては、アルテミシン酸IIIaをジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)またはN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)に溶解し、DMF、NMPまたはDMA中にヒドロキシルアミンおよび酢酸エチルまたは酢酸メチルを含む溶液と反応させる。幾つかの実施形態においては、アルテミシン酸IIIaをDMFに溶解し、DMF中にヒドロキシルアミンおよび酢酸エチルまたは酢酸メチルを含む溶液と反応させる。幾つかの実施形態においては、反応を20℃から120℃の範囲に保持する。幾つかの実施形態においては、反応を50℃から100℃の範囲に保持する。幾つかの実施形態においては、少なくとも1当量または過剰量、例えば、1.0から20当量のヒドロキシルアミンおよび酢酸エステルの各々を方法の実施に用いる。反応回転率は、混合物をワークアップ手順に渡す前に反応を監視することによって、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー技術(RP−HPLC)を用いることによって制御する。この手順によって達成することができる式Ia:IVaの粗製生成物(即ち、それぞれ、R1が水素である式IおよびIVの化合物)のジアステレオマー比は、典型的には、90%:10%より良好である。反応速度は反応媒体中の反応性成分に適用される反応温度、溶媒および混合条件に依存する。幾つかの実施形態においては、完全変換の後、例えば希塩酸で、反応混合物を酸性化し、水非混和性溶媒、例えば、MTBE、シクロヘキサン、メチル−シクロヘキサンまたはトルエンで生成物を抽出する。その後、クロマトグラフィーまたは結晶化により、生成物を有機溶液から慣例的に単離する。
【0041】
略語:
DMF ジメチルホルムアミド
DMSO ジメチルスルホキシド
g グラム
h 時間
HOSA ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸
KOH 水酸化カリウム
MHz メガヘルツ
MTBE メチル−tert−ブチルエーテル
MeOH メタノール
Mp 融点
NaOH 水酸化ナトリウム
NMR 核磁気共鳴
ppm 百万分率
RP−HPLC 逆相高速液体クロマトグラフィー
TMS テトラメチルシラン
【実施例】
【0042】
以下の実施例は例示の手段としてのみ示されるものであり、限定として示されるものではない。当業者は、変更または改変して同様の結果を得ることができる様々なパラメータを容易に認識するであろう。
【0043】
NMRの割当は、当業者によって行われる一次元H−NMRおよび13C NMRスペクトルの解析に基づく、説明のみのためのものである。スペクトルのより詳細な解析は幾つかのNMRピークの些細な再割当につながるかもしれないが、これが全体の割当を変化させることはない。全てのH−NMRスペクトルは500MHz機器で記録し、シフトは[ppm]表示でTMSに対するものであり、溶媒はDMSO−dである。
【0044】
NMR解析に加えて、式IおよびIVの化合物のジアステレオマー比を決定するのにHPLC/MS分析法を用いた。
【0045】
HPLC分析実験条件:
カラム Atlantis T3 長さ150mm4.6mm;空隙率:3μm
溶離液A 0.04%v/vのギ酸を含む水
溶離液B 0.05%v/vのギ酸を含むアセトニトリル
注入 10μl
検出 205nm
温度 35℃
勾配
【0046】
【表1】

後時間(Post Time) 5分
【0047】
[実施例1]
メタノール中65℃でのHOSAおよびナトリウムメチレートからのジイミン生成によるジヒドロアルテミシン酸Iaの合成
0.248g(0.001mol)のアルテミシン酸IIIaを10mL MeOHに溶解した。次に、0.432g(0.008mol)のナトリウムメチレートを添加した。この反応混合物を還流温度(65℃)まで加熱し、0.628g(0.005mol)のヒドロキシルアミン−O−スルホン酸(HOSA)を少しずつ添加した。添加が完了した後、RP−HPLC分析が出発物質の完全消費を示すまで、反応混合物を同じ温度でさらに1時間撹拌した。反応混合物を希塩酸水溶液でpH2に酸性化した。生成物をMTBEで抽出して硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を蒸発させて0.22g(93%)の標題化合物を得、これは静置することで結晶化した。H−NMRおよび HPLC/MS分析によって決定される非精製生成物中のジアステレオマー比は、所望の立体異性体Ia側に優勢であり、>96:4であった。
【0048】
(2R)−立体異性体Ia:
【0049】
【化10】

融点 137−138℃(lit.:136−137℃,T.E.Wallaart et al.,J.Nat.Prod.1999,62,430−433)。H NMR(DMSO−d):
12.0(s,1H,OH)、5.14(s,1H,H−11)、2.52(m,1H,H−2)、2.54(m,1H,H−12)、1.95 and 1.84(m,2H,H−9)、1.98 and 1.59(m,2H,H−8)、1.66(m,1H,H−3)、1.46、1.16(m,2H,H−4)、1.65(s,3H,10−Me)、1.63 and 1.00(m,2H,H−5)、1.46(m,1H,H−6)、1.28(m,1H,H−7)、1.22(d,2H,2−Me)、0.89(d,3H,6−Me)。
【0050】
13C NMR(DMSO−d):
184.01(C−1)、42.24(C−2)、15.05(2−Me)、43.55(C−3)、27.40(C−4)、35.22(C−5)、27.65(C−6)、19.68(6−Me)、41.71(C−7)、25.76(C−8)、26.60(C−9)、136.00(C−10)、23.81(10−Me)、119.29(C−11)、36.33(C−12)。
【0051】
(2S)−立体異性体IVa:
【0052】
【化11】

H NMR(DMSO−d):12.0(s,1H,OH)、5.33(s,1H,H−11)
【0053】
[実施例2]
メタノール中40から50℃でのヒドロキシルアミンおよびHOSAからのジイミン生成によるジヒドロアルテミシン酸Iaの合成
5.3g(0.08mol)のヒドロキシルアミン(水中50%)および15.1g(0.12mol)のHOSA(25mLの水に溶解)を、5N NaOH水溶液でpH値をpH9で一定に保持しながら、10mL MeOH中に4.69g(0.02mol)のアルテミシン酸IIIaの溶液に連続的に添加した。温度範囲は40℃から50℃であった。添加が完了した後、pH変化が検出可能でなくなるまで、反応混合物をさらに1時間撹拌した。アルテミシン酸Iaの完全消費をRP−HPLC分析で確認した。次に、反応混合物を希塩酸水溶液でpH2に酸性化した。生成物をMTBEで抽出して硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を蒸発させて4.8g(100%)の標題化合物を得、これは静置することで結晶化した。H−NMRおよびLC/MS分析によって決定される非精製生成物中のジアステレオマー比は、標題化合物側に優勢であり、96:4であった。
【0054】
[実施例3]
メタノール中−5℃から0℃でのヒドロキシルアミンおよびHOSA/NaOHからのジイミン生成によるジヒドロアルテミシニン酸Iaの合成
2.34g(0.01mol)のアルテミシニン酸IIIaを20mLのMeOHに溶解した。次に、32%NaOH水溶液でpH9を維持しながら、1.98g(0.03mol)のヒドロキシルアミン(水中50%)および5.65g(0.045mol)のHOSA(10mLの水に溶解)を連続的に添加した。温度を−5℃から0℃に調整した。添加が完了した後、pH変化が検出可能でなくなるまで、反応混合物をさらに1時間撹拌した。アルテミシン酸の完全消費をRP−HPLC分析で確認した。次に、反応混合物を希塩酸水溶液でpH2に酸性化した。生成物をMTBEで抽出して硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を蒸発させて2.25g(95%)の標題化合物を得、これは静置することで結晶化した。H−NMRおよびLC/MS分析によって決定される非精製生成物中のジアステレオマー比は、所望の立体異性体Ia側に優勢であり、98:2であった。
【0055】
[実施例4]
ヒドロキシルアミンおよび酢酸エチルからのジイミン生成によるジヒドロアルテミシニン酸Iaの合成
6.95g(0.1mol)の塩酸ヒドロキシルアミンを10mLのDMFに懸濁させ、6.60gの粉末化KOHを添加した。30℃で10分後、この懸濁液を濾過し、ヒドロキシルアミンを含む濾液を集めた。氷浴での冷却下、3.19g(0.044mol)の酢酸エチルをヒドロキシルアミン溶液に添加した。次に、この溶液を、90℃の、10mLのDMFに溶解した0.47g(0.002mol)のアルテミシニン酸IIIaの溶液に滴下により添加した。添加が完了した後、アルテミシニン酸の完全消費がRP−HPLC分析によって確認されるまで、反応混合物をさらに1時間撹拌した。続いて、希塩酸水溶液で反応混合物をpH2に酸性化した。生成物をMTBEで抽出して硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を蒸発させて0.36g(76%)の粗製生成物を得、これをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液としての1:2 酢酸エチル:ヘプタン)の後に結晶化して0.26g(55%)の精製標題化合物を得た。H−NMRおよびLC/MS分析によって決定される非精製粗製反応生成物中のジアステレオマー比は、所望の立体異性体Ia側に優勢であり、95:5であった。
【0056】
[実施例5]
ヒドロキシルアミンおよびHOSA/KOHからのジイミン生成によるジヒドロアルテミシニン酸Iaの合成
0.248g(0.001mol)のアルテミシニン酸IIIaを5mL MeOHに溶解した。次に、2.24g(0.02mol)のKOH(水中50%)を添加した。この反応混合物を40℃に加熱し、0.264g(0.004mol)のヒドロキシルアミンおよび0.754g(0.006mol)のHOSA酸を同時に少しずつ添加した。添加が完了した後、RP−HPLC分析で出発物質の完全消費が確認されるまで、反応混合物を同じ温度でさらに1時間撹拌した。次に、反応混合物を希塩酸水溶液でpH2に酸性化した。H−NMRおよびLC/MS分析によって決定される非精製粗製反応生成物中のジアステレオマー比は、所望の立体異性体側に優勢であり、95:5であった。
【0057】
[実施例6]
ヒドラジンおよび過酸化水素からのジイミン生成によるジヒドロアルテミシニン酸Iaの合成
2mLの無水EtOH中に0.248g(0.001mol)のアルテミシニン酸IIIaおよび0.821g(0.0105mol)のヒドラジン水和物(水中64%)の氷冷溶液に0.641mL(0.0063mol)の30%過酸化水素水溶液を1時間の間に添加した。添加が完了した後、この反応混合物を室温まで暖め、RP−HPLC分析で出発物質の完全消費が確認されるまで、さらに4時間撹拌した。次に、混合物を希塩酸水溶液でpH2に酸性化して生成物をMTBEで抽出し、FeSO−溶液および食塩水で1回洗浄して硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を蒸発させ、0.222g(93%)の結晶性標題化合物を得た。H−NMRおよびLC/MS分析によって決定される非精製生成物中のジアステレオマー比は、所望の立体異性体Ia側に優勢であり、95:5であった。
【0058】
[実施例7]
ヒドロキシルアミンおよびHOSAからのジイミン生成によるジヒドロアルテミシニン酸Iaの大規模合成
11.72g(0.05mol)のアルテミシニン酸IIIaを25mLの熱(約50℃)MeOHに溶解した。NaOHの32%水溶液でpHを9に調整した。NaOHの32%水溶液でpH9を維持しながら、13.2g(0.2mol)のヒドロキシルアミン(50%水溶液)および25.1g(0.2mol)のHOSA(30mLの水に溶解)を同時に添加した。冷却により内部温度範囲を−5℃から5℃に保持した。添加が完了した後、pHが一定のままであるまで、反応混合物をさらに1時間撹拌した。アルテミシニン酸IIIaの完全消費をRP−HPLC分析で確認した。約30mLの合計体積のNaOH(約6.5当量)を消費した。次に、反応混合物を希塩酸水溶液でpH2に酸性化した。生成物を100mLのMTBEで抽出し、25mLの水で1回洗浄して硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を蒸発させて11.1g(93%)の結晶性標題化合物を得た。NMR解析で不純物としてのMTBEが明らかになった。ジアステレオマー比は、H−NMR解析により、所望の標題化合物側に優勢であり、>97:3であるものと評価された。この物質を以下のようにさらに精製した:11gの粗製生成物を12mLの還流エタノールに溶解し、6mLの水を加熱体に添加した。ゆっくりと冷却することで結晶が生成し、氷冷浴において30分撹拌した後、これを濾別した。濾紙ケークを20mLの氷冷エタノール/水(1/1)で1回、次いで30mLの水で洗浄した。乾燥させることで9.0g(76%)の所望の生成物Iaが生じ、これに対して望ましくないジアステレオマーは適用されるNMRおよび HPLC法の検出限界を下回った。
【0059】
[実施例8]
二カリウムアゾジカルボキシレートからのジイミン生成によるジヒドロアルテミシン酸Iaの合成
5℃の、4.22g(0.035mol)のKOH(水中40%)の撹拌溶液に0.500g(0.0043mol)のアゾジカルバミドを少量ずつ添加した。さらに1時間撹拌した後、沈殿した明黄色固体を濾別し、冷メタノールで数回洗浄して0.683g(80%)の二カリウムアゾジカルボキシレートを得た。この塩および0.234g(0.001mol)のアルテミシン酸IIIaを5mLの無水メタノールに懸濁させた。撹拌および氷浴での冷却の下、1mLの無水メタノール中に0.36g(0.006mol)の酢酸の溶液を30分以内に滴下により添加した。室温で4時間撹拌した後、水およびMTBEを添加し、有機相を10mLの1M HCl水溶液で1回洗浄して硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を蒸発させることで0.23(97%)の結晶性標題化合物を得た。H−NMRおよびLC/MS分析によって決定される非精製生成物中のジアステレオマー比は、所望の立体異性体Ia側に優勢であり、97:3であった。
【0060】
[実施例9]
ヒドラジンおよび過酸化水素からのジイミン生成によるジヒドロアルテミシニン酸メチルエステル(R1=メチルである化合物I)の合成
2mLの無水エタノール中の、文献の方法(X.Xu et al.,Tetrahedron 42,819 1986)によって調製された、0.248g(0.001mol)のアルテミシン酸メチルエステル(R1=メチルである化合物III)の氷冷溶液および0.821g(0.0105mol)のヒドラジン水和物(64%水溶液)に0.641mL(0.0063mol)の30%過酸化水素水溶液を1時間の間に添加した。添加が完了した後、反応混合物を室温まで暖め、RP−HPLC分析で出発化合物の完全消費が示されるまで、さらに4時間撹拌した。この反応混合物を希塩酸水溶液でpH2に酸性化して生成物をMTBEで抽出し、FeSO−溶液および食塩水で1回洗浄して硫酸マグネシウムで脱水し、蒸発させて0.222g(93%)の標題化合物を得た。H−NMRおよびLC/MS分析によって決定されるジアステレオマー比は、所望の化合物側に優勢であり、97:3であった。
【0061】
H NMR(DMSO−d):5.15(s,1H,H−11)、3.60(s,3H,OMe)、1.62(s,3H,10−Me)、1.05(d,2H,2−Me)、0.84(d,3H,6−Me);少量異性体に対応するシグナルは5.25(s,1H,H−11)、3.59(s,3H,OMe)に現れる。
【0062】
[実施例10]
ヒドラジンおよび過酸化水素でのジイミン生成によるジヒドロアルテミシン酸tert−ブチルエステル(R1=tert−ブチルである化合物I)の合成
2mLの無水エタノール中の、文献の方法(W.Zhou et al.,Huaxue Xuebao 43(9),845−851,1985)によって調製された、0.290g(0.001mol)のアルテミシン酸tert−ブチルエステル(R1=tert−ブチルである化合物III)の氷冷溶液および0.821g(0.0105mol)のヒドラジン水和物(64%水溶液)に0.641mL(0.0063mol)の30%過酸化水素水溶液を1時間の間に添加した。添加が完了した後、反応混合物を室温まで暖め、RP−HPLC分析で出発化合物の完全消費が示されるまで、さらに4時間撹拌した。この反応混合物を希塩酸水溶液でpH2に酸性化して生成物をMTBEで抽出し、FeSO−溶液および食塩水で1回洗浄して硫酸マグネシウムで脱水し、蒸発させて0.290g(98%)の標題化合物を得た。
【0063】
H NMR(DMSO−d):5.14(s,1H,H−11)、1.58(s,3H,10−Me)、1.44(s,9H,t−Bu)、1.02(d,2H,2−Me)、0.88(d,3H,6−Me)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物
【化1】

(式中、R1は水素または1、2、3、4、5もしくは6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖アルキルまたは3、4、5、6もしくは7個の炭素原子を有するシクロアルキルである。)
を調製するための方法であって、式IIIの化合物
【化2】

をジイミンと反応させることを含む方法。
【請求項2】
ジイミンをその場で調製する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジイミンをヒドロキシルアミンおよびヒドロキシルアミンO−スルホン酸から塩基の存在下で生成する、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
ジイミンをヒドロキシルアミン−O−スルホン酸から塩基の存在下で生成する、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ジイミンをヒドロキシルアミンおよび酢酸エステルから生成する、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ジイミンをヒドラジンおよび酸化剤から生成する、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ジイミンをアゾジカルボキシレートの酸触媒脱炭酸から生成する、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
式Iの化合物の、アルテミシニンII
【化3】

への酸化をさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2013−504557(P2013−504557A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528468(P2012−528468)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/IB2010/002566
【国際公開番号】WO2011/030223
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】