説明

アルデヒド・ケトン類分析用繊維充填ニードル、分析装置及び分析方法

【課題】溶媒による抽出やその濃縮という煩雑な操作を必要としない、簡便な、試料中のアルデヒド類、ケトン類の分析方法、この分析方法に使用する分析装置、繊維充填ニードルを提供すること。
【解決手段】2,4−ジニトロフェニルヒドラジンの塩酸塩又は硫酸塩を被覆した繊維;この繊維を充填したマイクロ抽出用ニードル;このニードルと吸引装置を含む分析装置;この分析装置のニードルから試料を吸引し、試料中のアルデヒド類、ケトン類を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンと反応させて対応する2,4−ジニトロフェニルヒドラゾンとした後、脱着させてクロマトグラフに導入して分析することを特徴とする試料中のアルデヒド類、ケトン類の分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン又はその塩を被覆した繊維、この繊維を充填したマイクロ抽出用ニードル、このニードルと吸引装置を含む分析装置、この分析装置を使用した、試料中のアルデヒド類、ケトン類の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在社会問題となっているシックハウスの原因物質であるホルムアルデヒドやアセトアルデヒドは、その沸点が低いため濃縮が難しいとされている。そこで、一般的には、2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを用いて2,4−ジニトロフェニルヒドラゾンに変換すると同時に濃縮を行っている。すなわち、2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを溶解させた酸性溶液中に試料ガス、例えば、空気をバブリングさせた後、有機溶媒で抽出、濃縮する方法、あるいは2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを含浸させたシリカゲルをガラス管に充填し、そのガラス管に空気を吸引した後、アセトニトリルで抽出する方法等が用いられている。しかしこれらの方法では、抽出した溶媒を濃縮して、分析装置に注入するという煩わしさがある(非特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】JTCCM(財団法人建材試験センター)平成16年4月19日発行「ホルムアルデヒド発散建築材料性能試験・評価業務方法書」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、溶媒による抽出やその濃縮という煩雑な操作を必要としない、簡便な、試料中のアルデヒド類、ケトン類の分析方法を提供することである。
本発明の他の目的は、上記分析方法に使用する分析装置、繊維充填ニードルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示す繊維、この繊維を充填したマイクロ抽出用ニードル、このニードルと吸引装置を含む分析装置、この分析装置を使用した、試料中のアルデヒド類、ケトン類の分析方法を提供するものである。
1.2,4−ジニトロフェニルヒドラジン又はその塩を被覆した繊維。
2.2,4−ジニトロフェニルヒドラジンの塩酸塩又は硫酸塩を被覆した繊維。
3.上記1又は2記載の繊維を充填したマイクロ抽出用ニードル。
4.アルデヒド類、ケトン類抽出用の上記3記載のニードル。
5.上記3又は4記載のニードルと吸引装置を含む分析装置。
6.上記5記載の分析装置のニードルから試料を吸引し、試料中のアルデヒド類、ケトン類を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンと反応させて相当する2,4−ジニトロフェニルヒドラゾンとした後、脱着させてクロマトグラフに導入して分析することを特徴とする試料中のアルデヒド類、ケトン類の分析方法。
7.試料中のホルムアルデヒドを分析する上記6記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、溶媒による抽出やその濃縮という煩雑な操作を必要とすることなく、試料中のアルデヒド類、ケトン類を簡便に分析することができる。
ことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明に使用する2,4−ジニトロフェニルヒドラジン又はその塩としては、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン、その塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、等が挙げられる。
本発明の2,4−ジニトロフェニルヒドラジン又はその塩を被覆した繊維に使用する繊維としては、シリカウール、ステンレスファイバ、高強度ポリマー、耐熱性ポリマー、耐久性ポリマー等が挙げられる。
このようなポリマーの具体例としては、アラミド繊維(例えば、PPTA繊維(例えば、ケブラー(登録商標))、テクノーラ(登録商標)等);全芳香族ポリエステル(ポリアリレート)(例えば、ベクトラン(登録商標)、エコノール(登録商標)等);複素環を持つ芳香族ポリマー及び他のロッド状ポリマー(例えば、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)(例えば、ザイロン(登録商標)等)、ポリベンツイミダゾール(PBI)、ポリベンゾビスチアゾール(PBT)等);ポリイミド;ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等);ポリオキシアルキレン(例えば、ポリオキシメチレン);ポリビニルアルコール;ナイロン(例えば、ナイロン6、ナイロン66等);ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)、カーボン繊維、セルロースアセテート、及びこれらの2種以上の組合せ等が挙げられる。
【0008】
本発明に使用する繊維は、直径が好ましくは100nm〜100μm、さらに好ましくは500nm〜15μmである。繊維の長さはニードルの長さ又はそれ以上であれば特に制限されないが、通常は1μm〜100m、好ましくは1mm〜10mである。繊維の断面は、円形、三角形、四角形、他の多角形、V型、Y型、星型等の任意の形状とすることができる。
繊維をニードルに充填する際には、繊維製造時に繊維表面に付着したり繊維中に混入した不純物を除去するために、適当な溶媒による洗浄、加熱処理等を施すことが好ましい。
【0009】
本発明に使用するニードルは、溶融シリカ、ガラス、プラスチックス、金属、合金、複合材料等、被分析物、抽出媒体、溶出媒体と相互作用しない材料であれば任意の材料を用いて作成できる。ニードルの内径は、通常500nm〜600μm、好ましくは1〜600μm、さらに好ましくは450〜500μmであり、外径は作成に用いる材料にもよるが、通常170〜800μm、好ましくは200〜800μm、さらに好ましくは650〜700μmである。
【0010】
繊維は、ニードルの長手方向に沿って充填することが好ましく、充填する繊維の総本数は、通常10〜3000本、好ましくは100〜2000本、さらに好ましくは500〜1000本である。総本数が少ないと繊維の表面積が小さく分離効率、後述する固相抽出媒体とした場合の抽出効率が充分でなく、また総本数が多過ぎると、流体を流すのに高い圧力が必要となるという問題がある。
繊維は同じ太さのものを使用しても良いし、異なる太さのものを使用しても良い。また、繊維は撚ったものでも良いし、撚ってないものでも良い。
繊維の洗浄処理、加熱処理、表面処理等は、繊維をニードルに充填する前に行っても良いし、充填中又は充填後に行っても良い。
また、抽出効率や分離効率を良くするために、繊維をシリコーンオイル、ポリエチレングリコール等、一般にガスクロマトグラフィー(GC)に使用される液相類等の表面処理剤により表面処理(化学修飾を含む)をしたり、例えば、ビストリメチルシリルアセトアミド(BSA)やジメチルジクロロシラン(DMCS)等の不活性化処理剤等により処理して表面を化学修飾しておくことも好ましい。
【0011】
繊維に対する2,4−ジニトロフェニルヒドラジン又はその塩の被覆量は、特に限定されない。通常は、2,4−ジニトロフェニルヒドラジンとして好ましくは0.001〜1質量%、さらに好ましくは0.005〜0.025質量%である。この被覆量は、ニードル中に存在する2,4−ジニトロフェニルヒドラジン又はその塩の量が、2,4−ジニトロフェニルヒドラジンとして好ましくは1〜1000ng、さらに好ましくは150〜500ngとなるように調整すればよい。
【0012】
本発明のニードルと吸引装置を含む分析装置に使用する吸引装置は、試料を吸引してニードル中に導入しうる機能を有するものであれば特に限定されない。例えば、通常の注射針(シリンジ)が使用できる。シリンジの容量は特に限定されないが通常は10〜1000mL、好ましくは50〜100mLである。また被分析物の濃度が低い試料を分析する場合には、大容量のシリンジ、及び小容量のシリンジを準備し、まず大容量のシリンジの先端にニードルを取り付け、大量の液体又は気体試料を吸引して試料中の被分析物を反応させ2,4−ジニトロフェニルヒドラゾン誘導体とする。この際、吸引には真空ポンプを使用しても良い。大容量シリンジ及び小容量シリンジの容量も特に限定されないが、それぞれ10〜500ml及び1〜5ml程度が、携帯用としては便利である。
【0013】
本発明の分析方法では、分析装置のニードル先端から試料を吸引し、試料中のアルデヒド類、ケトン類を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンと反応させて2,4−ジニトロフェニルヒドラゾン誘導体とした後、脱着させてクロマトグラフに導入して分析する。
2,4−ジニトロフェニルヒドラゾン誘導体を脱着させるには、シリンジから溶離媒体を流してクロマトグラフの試料注入口に注入し、クロマトグラフィーを行う。大容量のシリンジを使用した場合は、そのまま、あるいはこれを小容量のシリンジと交換して使用してもよい。
【0014】
本発明の方法を適用するのに好適な被分析物の例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド等のアルデヒド類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類が挙げられる。
本発明の方法を適用するのに好適なクロマトグラフィーの例としては、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーが挙げられる。
【0015】
具体的には、2,4−ジニトロフェニルヒドラジンの塩酸塩または硫酸塩を被覆した繊維をニードルに充填して、試料の空気を吸引する。空気中のアルデヒド類、ケトン類だけが選択的に容易に2,4−ジニトロフェニルヒドラジンの塩酸塩または硫酸塩と反応して、それぞれのアルデヒド又はケトンに対応する2,4−ジニトロフェニルヒドラゾン誘導体になる。このニードルをガスクロマトグラフの注入口に挿入し、少量の媒体、例えば、アセトニトリルおよび窒素ガスで脱着させて直接分析装置に導入し、分析を行う。
【実施例】
【0016】
次に、実施例及び試験例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
実施例1
ニードルの作製
図1に示す注射針(外径0.7mm、内径0.5mm、長さ85mmのステンレスチューブ)に、横穴から2本に折りたたんだ釣り糸を通し、反対側(ロック側)まで到達させ、ロック側の釣り糸の輪に、HR-1(濃度3%)(信和化工製キャピラリーカラムの液相:ジメチルシリコン)をコーティングしたZylon繊維(繊維長さ40mm、繊維径11μm)332本を通してから2本に折り、横穴から釣り糸を引いてニードル内に繊維を引き込む(2本に折るため繊維の長さは20mm、充填本数は664本になる)。
2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)塩酸塩をアセトニトリルに溶解し100ppm(w/v)溶液を作製した。これをシリンジに入れ、繊維充填ニードルに取り付け、マイクロフィーダーで上記溶液を16μL/分で2〜6分間流し、繊維に吸着させた。ニードル内に窒素を流し残った余分な溶液を取り除いた。
【0017】
気体試料の作成法及び採取法
・ホルムアルデヒド
パラホルムアルデヒド約100mgを二口フラスコに入れ、一方をシリコンキャップで封をし、他方には冷却管を付け(発生したホルムアルデヒドがドラフトの外に漏れるのを防止するため)、その先に流動パラフィンを入れたバブラーに接続した。フラスコをオイルバスに浸して約120℃に加熱し、パラホルムアルデヒドが分解し、ホルムアルデヒドが生成したことをバブラーにより確認した後、シリコンキャップからガスタイトシリンジを入れて1mL(これをホルムアルデヒド100%とした)採取し、真空捕集瓶で窒素を用いて希釈した。
【0018】
・アセトアルデヒド/プロピオンアルデヒド
真空捕集瓶を真空ポンプで減圧した後、液体試料を注入し、完全に気化させて、窒素で希釈した。各試料をテドラーバッグでさらに希釈し、北川式ガス採取器で吸引・誘導体化を行った。
【0019】
GC−MSの条件
注入口温度:175℃、注入口圧:68kPa、スプリット比:5:1、
カラム温度:ホルムアルデヒド:100℃〜250℃(1分ホールド)(10℃/分)
アセトアルデヒド:100℃〜250℃(3分ホールド)(10℃/分)
プロピオンアルデヒド:100℃〜255℃(3分ホールド)(20℃/分)
GC−MSへの注入
500μLガスタイトシリンジにアセトニトリル(脱着溶媒)を50μL取り、次に窒素を250μL吸引した。ニードルをシリンジに取り付け、アセトニトリルが下側(ニードル側)になっていることを確認してから、GC−MSの注入口にニードルを刺し溶媒を窒素を流し込んだ。
【0020】
結果
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドの誘導体化・分析を行うことができた。アセトアルデヒド−DNPHは、ほぼ同じ大きさのピークが2本観測されたが、これはSyn及びAnti異性体と推測される。
【0021】
実施例2
実施例1と同様にして、アセトンの誘導体化・分析を行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ニードルに繊維を導入する過程の概略を示す断面図である。
【図2】実施例1で測定したホルムアルデヒドのガスクロマトグラムを示す。
【図3】実施例1で測定したアセトアルデヒドのガスクロマトグラムを示す。
【図4】実施例1で測定したプロピオンアルデヒドのガスクロマトグラムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,4−ジニトロフェニルヒドラジン又はその塩を被覆した繊維。
【請求項2】
2,4−ジニトロフェニルヒドラジンの塩酸塩又は硫酸塩を被覆した繊維。
【請求項3】
請求項1又は2記載の繊維を充填したマイクロ抽出用ニードル。
【請求項4】
アルデヒド類、ケトン類抽出用の請求項3記載のニードル。
【請求項5】
請求項3又は4記載のニードルと吸引装置を含む分析装置。
【請求項6】
請求項5記載の分析装置のニードルから試料を吸引し、試料中のアルデヒド類、ケトン類を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンと反応させて相当する2,4−ジニトロフェニルヒドラゾンとした後、脱着させてクロマトグラフに導入して分析することを特徴とする試料中のアルデヒド類、ケトン類の分析方法。
【請求項7】
試料中のホルムアルデヒドを分析する請求項6記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−205867(P2007−205867A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24829(P2006−24829)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(591159251)信和化工株式会社 (10)
【Fターム(参考)】