説明

アルデヒド含有製品からアルデヒドを減少させるための酵素の使用

本発明は、ホルムアルデヒド含有製剤中のホルムアルデヒド含量を減少させるために、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品を使用することに関する。好ましい実施形態において、酵素標品は、Pseudomonas putida菌株由来のホルムアルデヒドジスムターゼを含有する。さらに本発明は、繊維製品の仕上げ加工のための架橋剤、または、たとえば、建設化学に使用されるポリマー分散剤中のホルムアルデヒド含量を減少させるための方法に関する。さらに本発明は、アルデヒド含有製剤中のホルムアルデヒド含量を減少させるために、アルデヒドの分解を触媒する酵素標品を使用することに関する。本発明はさらに、Pseudomonas putida由来ホルムアルデヒドジスムターゼの新規バリアントに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアルデヒド含有製剤および前記製剤で処理された製品から、ホルムアルデヒドを酵素的に除去することに関する。
【背景技術】
【0002】
ホルムアルデヒド(簡便のために以後多くの場合”FA"と表記する)は、建築資材および多数の家庭用品を製造する産業で広範に使用される、重要な化学物質である。FAは、たとえば、繊維工業において防しわ加工のために、木材加工業において合板の製造および塗装のために、さらに化学工業においてフェノール樹脂またはアミノ樹脂のような合成樹脂の製造のために使用される。FAは揮発性が高いため製造過程で空気中に放出されるので、健康および環境に重大な影響を及ぼすものとして考慮される。
【0003】
FAには4つの基本的な用途がある:樹脂製造の中間体;工業用化学物質製造の中間体;殺生物剤;および最終使用消費者製品の配合成分としての用途である。樹脂の製造は,全消費の約65%を占める。約3分の1は、ペンタエリトリトール、ヘキサメチレンテトラミン、およびブタンジオールなどの大量の化学物質誘導体の合成に使用される。2%は繊維製品の処理に使用され、小量のFAは、防腐剤または殺生物剤として、消費者製品および工業製品、たとえば化粧品、シャンプーおよび接着剤に含まれる。もっとも大量のFAが、尿素、メラミン、ナフタレンスルホン酸塩およびフェノールとの縮合物(すなわち樹脂)、ならびに小量ではあるが、それらの誘導体との縮合物(すなわち樹脂)を製造するために使用される。これらの樹脂の大部分は、接着樹脂および含浸樹脂を製造するために使用されるが、こうした樹脂はパーチクルボード、合板、および家具を製造するために用いられる。これらの縮合物はまた、表面塗装の原材料として、ならびに放出制御窒素肥料として、硬化性成形材料の製造に使用される。これらは、繊維、皮革、ゴムおよびセメント工業において補助剤として使用される。その他の用途としては、鋳物砂のバインダー、断熱材のロックウールおよびグラスウールマット、サンドペーパー、およびブレーキライニングがある。ごくわずかの尿素-FA縮合物は、鉱業部門、ならびに建物および運送車両の断熱に用途のある発泡樹脂の製造に使用される。
【0004】
FAを基本とする製品の一部は、未反応のFAを過剰に含有しており、そのFAが製品から放出される、またはその後の加水分解により遊離される可能性がある。その一例が尿素-FA樹脂である。尿素-FA樹脂は、実際は全種類の関連製剤を表す総称である。尿素-FA樹脂製品の約60%はパーチクルボードおよび合板の製造で消費され、この場合、この樹脂は接着剤として使用される。尿素-FA樹脂は、化粧板、繊維製品、紙、および鋳造砂型にも使用される。
【0005】
最後に、FA樹脂は、繊維製品を処理して衣類に防しわ性を与えるために使用される。樹脂加工またはケミカル加工は、たいていの場合、最新の繊維製品製造の最終段階である。目標は、漂白、染色または捺染した布を機械的および化学的処理によって販売に適した状態に変えることである。最も重要な工程の1つは、木綿、他のセルロース繊維、および合成繊維との混紡で作られた織り地および編み地を洗濯で色落ちしないように加工することである。
【0006】
はじめに、ビスコース短繊維織物の収縮を改善する樹脂加工剤が開発された。こうした化合物は通常、ホルムアルデヒドおよび尿素から誘導された。織物市場に対する木綿の競争力を向上させるために、ホルムアルデヒド、尿素およびグリオキサールをベースとするヘテロ環架橋試薬が開発され、イージーケアおよび防しわ加工のために広く使用されている。ヒトへの害が疑われるため、製品中および工業プロセスのFAレベルは、できる限り低く維持されるべきである。
【0007】
製品から、または上記のよく知られた広く使用されている樹脂から直接、放出されたときに空中を漂っている、FAを除去することを目的として、さまざまな技術が先行技術により開示されている。米国特許US5,352,274は、重ね合わされて、FA、アセトアルデヒドおよびアクロレインなどの不純物を吸着するためにカーボン粉末が封入されている、多数の波形の下地シートを用いた空気濾過を記載する。この技術は、FA分子を物理的に吸着する方法を与えるが、化学的または生化学的反応による分解は与えられない。US5,830,414は、強酸、強塩基、または強力な酸化剤などの、活性のある小分子による炭素繊維の処理を記載している。これらの化学物質は、活性炭繊維のような耐薬品性の高い繊維を処理するためにしか使用することができない。さらに、このようにして処理された繊維は、取扱が有害である可能性がある。ホルムアルデヒドを分解する酵素をエアフィルターに使用することは、JP2001340436に記載されている。
【0008】
繊維工業および建築資材に関して、FAを減少させる薬剤は、手触り、収縮、強度保持および暗度もしくは白色度といった織物の性質、またはパーチクルボードの機械的性質に悪影響を及ぼしてはならない。当然、製造において使用するために安価でなければならず、合理的水準で効率的でなければならない。Textile Chemist and Colorist, Vol. 16, No. 12, p. 33, Dec. 1984 (the American Association of Textile Chemists and Colorists刊)に記載のように、繊維工業において、活性メチレン基を有する化合物は、FAを減少させる薬剤として使用され、パーマネントプレス加工された布地から放出されるFA量を減少させた。活性メチレン水素を含有する、FAを減少させる薬剤は、尿素/ホルムアルデヒドまたはメラミン/ホルムアルデヒド樹脂を含有する塗料組成物に添加して、ホルムアルデヒド濃度を低下させることができる(たとえば、米国特許US5,795,933に記載)。尿素およびその誘導体の添加も、ホルムアルデヒドを除去することが知られている。
【0009】
前記樹脂で処理されるべき材料の性質に有害な影響を与えることなく、放出されるFAを、現在求められる低レベルまで減少させるのに有効な、FAを減少させる薬剤は、先行技術によって明らかにされていない。現在、パーマネントプレス加工組成物にもっとも広範に使用される、FAを減少させる薬剤は、ジエチレングリコールおよびソルビトールなどの多価アルコールであり、パーチクルボード製造に使用されるのは、尿素、メラミン、ジアジン、トリアジンおよびアミン化合物などの窒素含有化合物である(米国特許第4,559,097号)。しかしながら、こういった化合物は、FAレベルを低下させて現在求められる低レベルをもたらすのに十分に有効というわけではない。その上、これらの化合物はFAと結合するだけであって、その分解を触媒することはない。また、尿素のようなホルムアルデヒド捕捉剤は繊維架橋剤の反応性を緩慢にし、その有効性を低下させる。
【0010】
ホルムアルデヒドジスムターゼ(以下”FDM"と表記)活性は、Katoおよび共同研究者らにより1983年に最初に報告された(Kato et al., 1983, Agric. Biol. Chem., 47(1), 39-46)が、対応する遺伝子は1995年まで同定されなかった(Yanase et al. 1995, Biosci. Biotechnol. Biochem., 59(2), 197-202)。可溶性FDMの組換え生産および精製の最初のプロトコールは2002年に発表された(Yanase et al. 2002, Biosci. Biotechnol. Biochem., 66(1), 85-91)。FDMの結晶構造(Hasegawa et al. 2002, Acta Crystallogr.,Sect.A, 58, C102-C102)および他の関連酵素は2002年以来利用可能である(Tanaka et al. 2002, Journal of Molecular Biology, 324, 519-533)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,352,274号
【特許文献2】米国特許第5,830,414号
【特許文献3】特開2001-340436
【特許文献4】米国特許第5,795,933号
【特許文献5】米国特許第4,559,097号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Textile Chemist and Colorist, Vol. 16, No. 12, p. 33, Dec. 1984 (the American Association of Textile Chemists and Colorists刊)
【非特許文献2】Kato et al., 1983, Agric. Biol. Chem., 47(1), 39-46)
【非特許文献3】Yanase et al. 1995, Biosci. Biotechnol. Biochem., 59(2), 197-202
【非特許文献4】Yanase et al. 2002, Biosci. Biotechnol. Biochem., 66(1), 85-91
【非特許文献5】Hasegawa et al. 2002, Acta Crystallogr.,Sect.A, 58, C102-C102
【非特許文献6】Tanaka et al. 2002, Journal of Molecular Biology, 324, 519-533
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明の根底にある技術的問題は、たとえば、繊維工業または建設業において、さまざまな材料を処理するために使用される製剤からFA含量を減少させることができる、効果的な方法および手段を提供し、先行技術の欠点を克服することである。本発明の主題的内容によってこの問題は解決され、すなわち、本発明者らは驚くべきことに、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素を使用することにより、上記材料を処理するために使用される樹脂中のホルムアルデヒド含量を、効果的に減少させることができることを発見した。
【0014】
さらに、本発明は、ホルムアルデヒドに対する特異性が改善され、アセトアルデヒドに対する活性が強まり、熱安定性の高まったFDM変異体の、デザイン、特性評価、および結晶構造を記載する。特に、FDM I301L変異体は、野生型タンパク質と比べてホルムアルデヒドに対する活性の増加を示し、熱安定性が高い。この酵素は、発酵により高収率で容易に生産することができ、噴霧乾燥粉末として調製することができる。
【0015】
したがって、本発明の目的は、ホルムアルデヒド含有製剤中のホルムアルデヒド含量を減少させるために、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品を使用することに関する。
【0016】
好ましい実施形態において、酵素標品は、配列番号2のアミノ酸配列を有する酵素、またはそのバリアントを含有する。他の実施形態において、酵素は、細菌菌株由来のホルムアルデヒドジスムターゼ(FDM)であって、好ましくは、E.C分類EC 1.2.99.4.またはEC 1.2.1.46.の、Pseudomonas putida菌株に由来する前記酵素である。
【0017】
特に好ましい実施形態において、酵素標品は、配列番号8または配列番号10のアミノ酸配列を有する酵素を含有する。
【0018】
さらに好ましい実施形態において、製剤は樹脂である。樹脂は、繊維製品のための架橋剤、またはポリマー分散液を作製するために用いられるポリマー分散剤とすることができる。好ましい実施形態において、架橋剤は、木綿もしくはビスコースまたはそれらの混合物、および合成繊維との混紡といった、セルロース繊維を含有する繊維製品のために使用される。
【0019】
得られたポリマー分散液は、たとえば建築もしくは構造材、皮革、繊維板、パーチクルボード、合板、および/またはカーペットなどの材料を処理するために好適であり、塗料塗布または製紙に適している。
【0020】
別の実施形態において、本発明は、ホルムアルデヒド含有製剤中のホルムアルデヒド含量を減少させるための方法に言及するが、その方法はホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素と製剤を接触させることを含む。
【0021】
本発明はまた、繊維製品中のホルムアルデヒド含量を減少させるための方法に関するが,その方法はホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素と繊維製品を接触させることを含む。さらに、本発明は繊維製品のための架橋剤またはポリマー分散剤、およびホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品を含んでなる製剤に関する。
【0022】
本発明の他の実施形態は、コドン最適化された、ジスムターゼをコードする核酸、その核酸を含有するベクター、および発現宿主に関する。
【0023】
さらに、本発明は、新規FDMバリアントをコードする、単離された核酸、前記FDMバリアントのアミノ酸配列、ならびにそれらの特定の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】いくつかのホルムアルデヒドを基本とする架橋試薬。(A)尿素-FA、(B)メラミン-FA、(C) ジメチロールジヒドロキシエチレン 尿素(DMDHEU)。
【図2】HPLCにより測定された、FDM、FDM I301L、FDM F93AおよびFDM I301L / F93Aに関するアセトアルデヒド不均化反応(50 mM K2HPO4 pH 8、100 mM KCl中20 mM)の初速度。酵素濃度50μg/ml。
【図3】FDM I301Lバリアントを用いてHPLCにより経時的に追跡した、ホルムアルデヒド(上図)およびアセトアルデヒド(下図)の酵素的変換。30分間隔で2時間にわたって反応混合物を分析した。反応は、50 mM K2HPO4(ホルムアルデヒドについてはpH 7.3、ならびにアセトアルデヒドについてはpH 8)、100 mM KClおよび20 mMアルデヒド中で行った。酵素濃度は、アセトアルデヒドについては50μg/mlであり、ホルムアルデヒドについては2.4μg/mlとした。保持時間はホルムアルデヒド:16.6分;ギ酸:17,5分;メタノール:22,9分;アセトアルデヒド:21,2分;酢酸:18.9分;エタノール;25,2分。生成物の生成は等モルである。RIにより検出。
【図4】FDM I301LおよびFDM I301L / F93Aの温度-活性プロフィール。基質:アセトアルデヒド。
【図5】FDMおよびFDM I301Lの温度-活性プロフィール。基質:ホルムアルデヒド。
【図6】野生型Phe93をFDM I301L/F93A変異体の電子密度マップとともに示す。
【図7】ホルムアルデヒド(FA)と複合した野生型FDMの活性部位の拡大図。
【図8】ホルムアルデヒド(FA)と複合したFDM I301Lの活性部位の拡大図。
【図9】アセトアルデヒド(AA)と複合したFDM I301L / F93Aの活性部位の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
配列の説明
配列番号1
ホルムアルデヒドジスムターゼの核酸配列、GenBank受入番号L25862 (CDS 323..1522)。
配列番号2
ホルムアルデヒドジスムターゼのタンパク質配列、GenBank受入番号L25862。
配列番号3
Pseudomonas putida F61由来FDM(1197 bp)の最適化されたDNA配列。
配列番号4
pDHE-FDMのヌクレオチド配列。
配列番号5
pAgroのヌクレオチド配列。
配列番号6
pHSGのヌクレオチド配列。
配列番号7
ホルムアルデヒドジスムターゼIle-301-Leuの核酸配列。
配列番号8
ホルムアルデヒドジスムターゼIle-301-Leuのタンパク質配列。
配列番号9
ホルムアルデヒドジスムターゼPhe-93-Ala / Ile-301-Leuの核酸配列。
配列番号10
ホルムアルデヒドジスムターゼPhe-93-Ala / Ile-301-Leuのタンパク質配列。
【0026】
定義
当然のことながら、本発明は、そのように記載された特定の方法論、プロトコール、細胞株、植物種または属、構築物、および試薬に限定されない。やはり当然のことながら、本明細書で使用される専門用語は、個別の実施形態を説明することだけを目的としており、本発明の範囲を制限するものではなく、本発明は添付の請求の範囲によってのみ限定される。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される、単数形"a"、"an"、および"the"は、文脈から明らかにそうでないと指示されない限り、複数の指示を含んでいる。したがって、たとえば、"a vector"「ベクター(単数)」は、1つもしくは複数のベクターへの言及であり、当業者に公知のその同等物を含んでおり、その他も同様である。「約」という表現は、本明細書において、「およそ」、「ざっと」、「〜前後」、または「〜の辺り」を意味するために使用される。「約」という表現が数字で表した範囲とともに使用される場合、その境界を表記された数値の上および下に広げることによってその範囲を加減する。一般に、「約」という表現は、本明細書において、数値を、表記された数値の上下に、20%、好ましくは10%の相違分だけ上下に(高く、または低く)加減するために使用される。本明細書において、「または」という用語は、ある特定の一覧の任意のいずれかのメンバーを意味し、その一覧のメンバーの任意の組合せを含む。
【0027】
「ホルムアルデヒド」または「FA」という用語は、CAS番号50-00-0を有する一般式CH2Oの化合物を表す。これは、ホルマリン、酸化メチレン、メチルアルデヒド、メタナール、HCHO、ギ酸アルデヒド、オキソメタン、ホルモール、オキシメチレン、Morbicid、Veracur、メチレングリコール、Formalin 40、BFV、Fannoform、Formalith、YDE、HOCH、Karsan、Lysoform、Superlysoform、Methan 21としても当業者に知られている。ホルムアルデヒドは、純粋な形では気体であるが、水で希釈した後に液体の形で、メタンジオールとして知られる水和物HO-(CH2O)n-Hとして使用されることが多い。ホルムアルデヒドの水溶液はホルマリンと呼ばれる。それは1ppmで検出可能な刺激臭のある引火性の高い無色の液体もしくは気体である。ホルムアルデヒド混合物(たとえば、水、アセトン、ベンゼン、ジエチルエーテル、クロロホルムおよびエタノールとの混合物)も本発明の目的のために同様に含まれる。この定義に含まれるホルムアルデヒドのポリマーとしては、低分子量および高分子量ポリマー、なかでもパラホルムアルデヒド、ならびに直鎖状および環状ポリオキシメチレンが挙げられる。
【0028】
「アセトアルデヒド」または「AA」という用語は、CAS番号75-07-0を有する一般式CH3CHOの化合物を表す。これは当業者にエタナールとしても知られており、希釈するとわずかにフルーティとなる刺激性、窒息性の臭気のある無色の液体である。アセトアルデヒドは、動植物の代謝中間体であり、こうした生物において小量検出することができる。大量のアセトアルデヒドは生物学的過程を妨害する。アルコール発酵過程の中間体として、アセトアルデヒドは、ビール、ワインおよび蒸留酒など、すべてのアルコール飲料中に小量存在する。アセトアルデヒドは、植物の絞り汁および精油、焙煎したコーヒー、およびタバコの煙でも検出された。高濃度(1000 ppm以下)では、アセトアルデヒドは粘膜を刺激する。空気中のアセトアルデヒドの知覚限界は、0.07から0.25 ppmまでの範囲内である。そうした濃度では、アセトアルデヒドのフルーティな臭いが現れる。25から50 ppmの濃度に15分暴露すると結膜刺激が観察されたが、一過性の結膜炎および気道の刺激は200 ppmのアセトアルデヒドに15分間暴露した後に報告された。
【0029】
「メチルグリオキサール」という用語は、CAS番号78-98-8を有する、一般式(CH3-CO-CH=O)の化合物を表す(Kato et al., 1983, Agric. Biol. Chem., 47(1), pages 39-46)。それは、ピルブアルデヒド、2-オキソプロパナール、2-オキソプロピオンアルデヒドとしても当業者に知られており、いくつかの代謝経路の副生成物として形成される。
【0030】
本明細書で使用される「製剤」は、特定の処方および/または調製法にしたがって製造される、化学的組成物を意味する。したがって、それは天然に存在するFA含有起源から区別される。製剤はFAの添加によって製造される。場合によっては、製剤を「FA縮合物」とも表記する。
【0031】
本明細書で使用される「樹脂」という用語は、後に反応して高分子量ポリマーを形成する、またはセルロースのような機能的ポリマー鎖を架橋する、低分子量物質を意味する。特に、樹脂という用語は、「合成樹脂」を表し、これは、それ自体樹脂の特性を持たない、ホルムアルデヒドを含めた特定の反応物質間の重付加または重縮合といった、制御された化学反応の結果生じる樹脂として定義される。合成樹脂はまた、不飽和モノマーの重合によって得られる樹脂も意味することもある。この用語には、(i)炭化水素樹脂、すなわちコールタール、石油、およびテレペンチン油から重合によって作られる合成樹脂(こうした樹脂は、天然樹脂と同様に、たとえば、粘性、流動性、および硬さといった特別な性質を材料に付与するために他のポリマーと組み合わせて使用される)、および(ii)主としてホルムアルデヒド存在下で付加重合および重縮合によって得られる合成樹脂(より高分子量の合成樹脂であるプラスチックを合成する中間体となる)が含まれる。こうした樹脂の例および好ましい実施形態は、より詳細に後述する。
【0032】
本明細書で使用される「酵素標品」という用語は、その標品が酵素的に活性である限り、(その酵素を発現する宿主、すなわち大腸菌E. coliを使用することを含めて)任意の精製度の(任意の方法で得られた)あらゆる酵素標品を含むものとする。本発明の酵素標品は特異性の異なる複数の活性を示す標品を含んでおり、ほぼ粗酵素抽出液の状態で、1つもしくは複数のキャリアーと混合して使用するのが好ましい。
【0033】
本明細書で使用される「架橋剤」という用語は、防しわ性およびパーマネントプレス特性を特にセルロース繊維に付与する目的で、繊維製品のセルロース分子を架橋するために使用することができる、上記のようなFA含有樹脂を意味する。こうした架橋剤の例および好ましい実施形態は、より詳細に後述する。
【0034】
「繊維製品」または「織物」という用語は、ジュート、サイザル麻、ラミー、麻および木綿などの天然繊維、ならびに、ビスコース、レーヨン、セルロースエステル、ビニル樹脂繊維、ポリアクリロニトリルおよびそのコポリマー、エチレンなどオレフィン系のポリマーおよびコポリマー、ポリイミドもしくはナイロンタイプ、ポリエステルなどの合成繊維の多くから作られた製品および物を意味する。用いる繊維は、単一の組成であるかまたは繊維を混合したものであり得る。
【0035】
「ポリマー分散剤」という用語は、水に容易に溶解する高分子電解質を表す。もっとも一般的な代表例は、ポリ炭酸、ポリスルホン酸、またはポリリン酸のアルカリ金属塩、通常はナトリウム塩である。好ましい分散剤は、芳香族化合物とホルムアルデヒドとの縮合によって製造される。芳香族スルホン酸のホルムアルデヒドとの縮合産物を使用することが広く普及している。典型的には、それらは、ナフタレンスルホン酸塩、メラミンスルホン酸塩もしくはフェノールまたはそれらの誘導体を基本とするアニオン性ホルムアルデヒド樹脂である。他のポリマー分散剤には、アニオン性主鎖および非イオン性側鎖を基本とするグラフトポリマーがある。そういうものとして典型的には、ポリカルボン酸が主鎖として使用され、ポリアルキレングリコールが側鎖として使用される。前記ポリマー分散剤は、加工性、レオロジー特性をそれぞれ低下させることなく、セメントおよび硫酸カルシウムに基づく系のような、水硬性バインダー混合物中の水分含量を減少させることができる。ポリマー分散剤はさらに、水硬性バインダーの加工性を改善し、強度発達を増大させるために使用することができる。ポリマー分散剤は、当技術分野では「高性能減水剤」としても知られている。こうしたポリマー分散剤は、染料分散液を安定化するために繊維染色液にも用いられる。
【0036】
配列(たとえば、ポリペプチドもしくは核酸配列、たとえば、本発明の転写制御ヌクレオチド配列など)に関する「バリアント」という用語は、実質的に類似した配列を意味するものとする。オープンリーディングフレームを含むヌクレオチド配列について、バリアントには、遺伝暗号の縮重のため、天然タンパク質の同一アミノ酸配列をコードする配列が含まれる。このような天然に存在するアレルバリアントは、よく知られている分子生物学的技法、たとえばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびハイブリダイゼーション法を用いて同定することができる。バリアントヌクレオチド配列は、合成によって得られたヌクレオチド配列、たとえば、部位特異的変異誘発を用いて作製され、オープンリーディングフレームについては天然のタンパク質をコードしているヌクレオチド配列、ならびに天然のタンパク質に対してアミノ酸置換を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列も含んでいる。概して、本発明のヌクレオチド配列バリアントは、配列番号1のヌクレオチド配列に対して、少なくとも30、40、50、60、70%、たとえば、好ましくは71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、概して少なくとも80%、たとえば、81%-84%、少なくとも85%、たとえば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%および99%のヌクレオチド「配列同一性」を有する。「バリアント」ポリペプチドは、配列番号2のタンパク質から、天然タンパク質のN末端および/またはC末端での、1つもしくは複数のアミノ酸の欠失(いわゆるトランケーション)もしくは付加;天然タンパク質の1つもしくは複数の部位での、1つもしくは複数のアミノ酸の欠失もしくは付加;または、天然タンパク質の1つもしくは複数の部位での、1つもしくは複数のアミノ酸の置換によって得られたポリペプチドを意味する。こうしたバリアントは、たとえば、遺伝的多型または人為的操作の結果得られる。そうした操作の方法は当技術分野で広く知られている。
【0037】
「配列同一性」は、最適にアラインメントした2つのDNAまたはアミノ酸配列が、たとえばヌクレオチドまたはアミノ酸といった成分のアラインメントのウィンドウを通じて不変である度合いを表す。テスト配列および基準配列をアラインしたセグメントの「同一性比」は、アラインメントした2つの配列に共通する同一成分の数を基準配列セグメント、すなわち基準配列全体または基準配列の特定の小部分にある成分の総数で割ったものである。「同一性パーセント」は、同一性比に100をかけたものである。比較ウィンドウを対応付けて並べるための、最適な配列アラインメントは当業者によく知られており、SmithおよびWatermanのローカルホモロジーアルゴリズム、NeedlemanおよびWunschのホモロジーアラインメントアルゴリズム、PearsonおよびLipmanの相同性検索法などのツールを用いて、さらに、好ましくはGCG.RTM. Wisconsin Package.RTM. (Accelrys Inc. Burlington, Mass.)の一環として利用できるGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTAのように、上記アルゴリズムをコンピューター化して実施することにより、最適な配列アラインメントを行うことができる。
【0038】
「ppm」(100万分の1)という用語は、質量率を表し、"mg/kg"に相当する。
【0039】
ポリペプチド/タンパク質
「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書において相互に置き換え可能なものとして使用され、ペプチド結合により互いに連結された、任意の長さの重合したアミノ酸を表す。
【0040】
ポリヌクレオチド/核酸/核酸配列/ヌクレオチド配列
「ポリヌクレオチド」、「核酸配列」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」「核酸分子」という用語は、本明細書において相互に置き換え可能なものとして使用され、分枝せずに重合した任意の長さのヌクレオチド、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのいずれか一方、またはこの2つの組み合わせを表す。
【0041】
ホモログ
タンパク質の「ホモログ」は、当該の非改変タンパク質に対してアミノ酸置換、欠失、および/または挿入を有し、しかも元の非改変タンパク質と同様の生物学的および機能的活性を有する、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質および酵素を含んでいる。
【0042】
欠失は、タンパク質から1つもしくは複数のアミノ酸を除去することを意味する。
【0043】
挿入は、1つもしくは複数のアミノ酸残基がタンパク質の所定の部位に導入されていることを表す。挿入は、N末端および/またはC末端融合、ならびに1つもしくは複数のアミノ酸の配列内挿入を含んでいてもよい。概して、アミノ酸配列内挿入は、N-またはC-末端融合より小規模で、ほぼ1から10残基程度である。N-またはC-末端融合タンパク質またはペプチドの例としては、酵母2-ハイブリッド系で使用される転写活性化因子の結合ドメインまたは活性化ドメイン、ファージコートタンパク質、(ヒスチジン)-6-タグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ-タグ、プロテインA、マルトース結合タンパク質、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、Tag・100エピトープ、c-mycエピトープ、FLAG(登録商標)-エピトープ、lacZ、CMP(カルモデュリン結合ペプチド)、HAエピトープ、プロテインCエピトープ、およびVSVエピトープがある。
【0044】
置換は、タンパク質のアミノ酸を、同様の性質(たとえば、同様の疎水性、親水性、抗原性、αヘリックス構造またはβシート構造を形成する傾向)を持つ他のアミノ酸で置き換えることを表す。アミノ酸置換は,典型的には1つの残基についてであるが、そのポリペプチドに課された機能的制約に応じて、いくつも集まっていても良く、1から10アミノ酸までの範囲とすることができる;挿入は通常、約1から10アミノ酸残基程度とする。アミノ酸置換は好ましくは保存的アミノ酸置換である。保存的置換の表は当技術分野で周知である(たとえば、Creighton (1984) Proteins. W.H. Freeman and Company (Eds)を参照されたい)。
【0045】
アミノ酸置換、欠失および/または挿入は、当技術分野で公知のペプチド合成法、たとえば固相ペプチド合成などにより、または組換えDNA操作によって行うことができる。タンパク質の置換、挿入または欠失バリアントを作製するためにDNA配列を操作する方法は当業界でよく知られている。たとえば、DNAの所定の部位に置換変異をつくる方法は当業者によく知られており、M13変異誘発、T7-Gen in vitro変異誘発(USB, Cleveland, OH)、QuickChange Site Directed Mutagenesis (Stratagene, San Diego, CA)、PCRによる部位特異的変異導入、または他の部位特異的変異導入プロトコールがある。
【0046】
誘導体
「誘導体」には、当該タンパク質のような天然型のタンパク質のアミノ酸配列と比較して、天然に存在しないアミノ酸残基によるアミノ酸置換、または天然に存在しないアミノ酸残基の付加を含んでいると考えられるペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチドが含まれる。タンパク質の「誘導体」には、天然型のポリペプチドのアミノ酸配列と比べて、天然に存在する改変された(グリコシル化、アシル化、プレニル化、リン酸化、ミリストイル化、硫酸化など)アミノ酸残基、または天然に存在しない改変されたアミノ酸残基を有するペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチドも含まれる。誘導体は、元のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数の非アミノ酸置換または付加を含んでいてもよく、たとえば、アミノ酸配列に共有結合もしくは非共有結合したレポーター分子もしくは他のリガンド、たとえば、検出を容易にするために結合させたレポーター分子、ならびに天然に存在するタンパク質のアミノ酸配列と比較して天然に存在しないアミノ酸残基を含んでいてもよい。さらに、誘導体には、天然型タンパク質と、FLAG、HIS6もしくはチオレドキシンなどのタグを付るペプチドとの融合物も含まれる(タグを付けるペプチドに関する総説については、Terpe, Appl. Microbiol. Biotechnol. 60, 523-533, 2003を参照されたい)。
【0047】
発明の詳細な説明
本発明は、ホルムアルデヒド含有製剤中のホルムアルデヒド含量を減少させるために、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品を使用することに関する。
【0048】
ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素は当技術分野で知られている。たとえば、Bystrykh et al. (1993) J. Gen. Microbiol. 139, 1979-1985; Sakai, Y. et al (1995) FEMS Microbiol. Lett. 127, 229-234; またはIto et al. (1994) J. Bacteriol. 176, 2483-2491 もしくはor Gonzalez et al., J. Biol. Chem., Vol. 281, NO. 20, pp. 14514-14522, May 19, 2006には、S-ホルミルグルタチオンヒドロラーゼ、ホルムアルデヒドジスムターゼ、ギ酸メチルシンターゼ、またはグルタチオン非依存型ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼのような酵素が記載されており、これらをFA分解のために使用することができる。
【0049】
亜鉛含有中鎖アルコールデヒドロゲナーゼファミリーに属する酵素が、本発明に特に適している(Tanaka et al., J. Mol. Biol. (2002) 324, 519-533も参照されたい)。好ましい実施形態において、ピリジンヌクレオチドNAD(H)は、典型的なアルコールデヒドロゲナーゼの(補基質のような)補酵素とは異なり、酵素にしっかりと、しかし共有結合ではなく結合し、補酵素として作用する。
【0050】
「密接に結合した」とは、イオン結合、分子間力、水素結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用などの相互作用によって、補因子が酵素と結合することを意味する。不均化反応(同じ酵素によるFAのメタノールへの還元、およびFAのギ酸への酸化)の間、補因子はリサイクルされるので、本発明の方法は、コストの最小化という特別の利点を有するが、それは、酵素の活性を維持するために補因子を反応混合物に連続的に供給する必要がないためである。
【0051】
本発明の使用に特に適しているのは、アルデヒドまたはドナーのオキソ基に作用する酸化還元酵素である(E.C.分類1.2.)。好ましいのは、NADもしくはNADP、シトクロム、酸素、ジスルフィド、鉄硫黄タンパク質以外のアクセプターを用いる酸化還元酵素である(E.C.クラス1.2.99)。好ましくは、酵素は、細菌菌株から得られたホルムアルデヒドジスムターゼ(以後、”FDM"と略すことも多い)であるが、より好ましくはE.C分類EC1.2.99.4.またはEC 1.2.1.46の酵素であって、これはPseudomonas putida菌株から得られる。前記酵素はこのほかに、Kato, N., et al. (1983) Agric. Biol. Chem., 47(1), 39-46, Yanase, H., et al. (1995) Biosci. Biotechnol. Biochem., 59(2), 197-202 およびYanase, H., et al. (2002) Biosci. Biotechnol. Biochem., 66(1), 85-91に記載されている。
【0052】
好ましい実施形態において、酵素標品は、配列番号2のアミノ酸配列を有する酵素、またはそのバリアントを含有する。さらに好ましい実施形態において、酵素標品は、配列番号1の核酸によりコードされる酵素、またはそのバリアントを含有する。
【0053】
特に好ましい実施形態において、酵素標品は、配列番号2のアミノ酸配列のバリアントもしくは誘導体である酵素を含有するが、以下に、より詳細に記載するように、その93位のフェニルアラニンおよび/または301位のイソロイシン、および/または337位のメチオニンおよび/または127位のフェニルアラニンは、任意の他のアミノ酸で置換されている。
【0054】
本発明のために、酵素標品は、さまざまな精製度を有する精製された状態で、または未精製の抽出物、たとえば細菌抽出物として、すなわち望ましい酵素を自然に産生する細菌、または発現宿主として用いられた細菌から得られる抽出物として、使用することができる。あるいはまた、FDMをコードする核酸、核酸構築物、または前記核酸を有するベクターを含有する増殖細胞を、タンパク質精製ステップを全く含めずに、使用することもできる。休止細胞または破壊された細胞を使用することも可能である。破壊された細胞は、たとえば、溶媒などを用いた処理によって透過性となった細胞、または酵素処理、機械的処理(たとえば、フレンチプレスまたは超音波)または他の方法によって破壊された細胞を意味するものと理解される。このようにして得られた粗抽出物は、本発明にしたがって有効に使用するのに適している。本発明の方法のために、精製酵素または部分精製酵素を使用することもできる。固定化された微生物もしくは酵素は、有利に反応に使用することができるので、同様に適している。遊離の生物もしくは酵素が本発明の方法に使用される場合、それらは、抽出前に、たとえば濾過もしくは遠心によって適切に除去される。
【0055】
酵素標品は、接触させるべきFA含有製剤に応じて、遊離(可溶性、または固体)の状態、または固定化された形で使用することができる。固定化酵素は、不活性担体に固定された酵素を意味する。適当な担体材料およびそれに固定化される酵素は、EP-A-1149849、EP-A-1 069 183およびDE-A 100193773、ならびにそれらに引用された参考文献に記載されている。これについて、上記の公表文献の開示の全体を参照する。適当な担体材料はたとえば、粘土、カオリナイトなどの粘土鉱物、珪藻土、パーライト、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、セルロースパウダー、陰イオン交換体、合成ポリマー、たとえばポリスチレン、アクリル樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタン、ならびにポリオレフィン、たとえばポリエチレンおよびポリプロピレンである。担体材料は通常、担持された酵素を調製するために、微細化された粒子の形で使用され、多孔質構造が好ましい。担体材料の粒径は通常、5mm以下、特に2mm以下である(篩のグレード)。ホールセル触媒としてFDMを使用する場合も同様に、遊離型または固定化された形を選択することができる。担体材料はたとえば、アルギン酸カルシウムおよびカラギーナンである。酵素ならびに細胞は、グルタルアルデヒドと直接結合していてもよい(架橋してCLEAを与える)。対応する固定化法および他の固定化法は、たとえば、J. Lalonde and A. Margolin "Immobilization of Enzymes" in K. Drauz and H. Waldmann, Enzyme Catalysis in Organic Synthesis 2002, Vol. III, 991-1032, Wiley-VCH, Weinheimに記載されている。
【0056】
使用される酵素の量は、酵素標品の精製レベルによって決まる。本発明の方法に典型的な量は、処理されるFA含有製剤のグラム当たり0.1から1000ユニット、以下いずれも処理されるFA含有製剤のグラム当たり、好ましくは1から500ユニット、より好ましくは5から100ユニット、さらにもっと好ましくは8から30ユニット、もっとも好ましくは9から15ユニットの範囲内である。1ユニットは、1分あたり1μmolのギ酸生成を触媒するのに必要な酵素の量として定義される。精製FDMは、約100-200 U/mgの比活性を有する。酵素量は、温度およびインキュベーション時間のような反応条件に応じて変動しうるおおよその値にすぎない。最適な酵素量は、ありふれた実験を行うことによって容易に決定することができる。
【0057】
本発明は、ホルムアルデヒドを施されたあらゆる製剤に応用することができる。ホルムアルデヒド含有製剤の最大グループは、尿素、メラミン、ナフタレンおよびフェノール、ならびにDMDHEUのようなそれらの誘導体を含有する樹脂群である。FAとフェノールスルホン酸またはナフタレンスルホン酸との重縮合物のように、噴霧乾燥添加剤およびレオロジー改質剤は分散液の作製に使用される。他の製剤には、鋳物砂のバインダー、断熱材のロックウールおよびグラスウールマット、サンドペーパー、およびブレーキライニング、または発泡樹脂の製造に使用される尿素-ホルムアルデヒド縮合物がある。ホルムアルデヒドを含有する他の製剤には、ペンタエリトリトール(主として、表面塗装用の原材料、および検定爆薬に使用される)、ならびに、フェノール-ホルムアルデヒド縮合物の架橋剤および検定爆薬として使用されるヘキサメチレンテトラミンがある。化粧品業界では、ホルムアルデヒドは、たとえば、石けん、デオドラント、シャンプーおよびネイルハードナーなどの何百もの製品中で防腐剤として使用される。ホルムアルデヒド溶液は、なめし液、分散液、作物保護剤、および木材防腐剤のために防腐剤として使用されることも当技術分野で知られている。さらに、ホルムアルデヒドは、製糖業において、糖蜜回収中に細菌の増殖を予防するために必要とされる。
【0058】
したがって、好ましい実施形態において、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品と接触させられるべきホルムアルデヒド含有製剤は、樹脂である。樹脂、とくに合成樹脂、の一般的定義は上記で与えられる。
【0059】
好ましくは、本発明は、付加重合および重縮合により得られたFA樹脂に適用することができる。たとえば、フラン樹脂、ケトンおよびアルデヒド樹脂(アセトフェノンホルムアルデヒド樹脂またはアセトンホルムアルデヒド樹脂など)、フェノール樹脂(ノボラックおよびレゾールなど)、エポキシ樹脂(液状エポキシ樹脂(DGEBA)、GDEBAを基本とする固形エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂など)、スルホンアミド樹脂、またはアニリン樹脂などである。
【0060】
たとえば、木材を接着するために用いられるフェノール樹脂は、さまざまなフェノール化合物およびアルデヒドの縮合物である。フェノール化合物はフェノールそのものであってもよいが、多価フェノール、および脂肪族もしくは芳香族置換されたフェノールとすることができる。フェノール化合物の例としては、レゾルシノール、アルキルレゾルシノール、クレゾール、エチルフェノールおよびキシレノールなどのアルキルフェノール、ならびにタンニン、カルダノールおよびカルドールのような天然起源のフェノール化合物がある。フェノール樹脂組成物中の、ホルムアルデヒドを基本とするフェノール樹脂には、レゾルシノール-ホルムアルデヒド、フェノール-レゾルシノール-ホルムアルデヒド、およびタンニン-ホルムアルデヒド樹脂が含まれる。
【0061】
特に好ましい実施形態において、FA樹脂はアミノ樹脂、たとえば尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、シアナミド樹脂およびジシアンジアミド樹脂である。
【0062】
アミノ樹脂は、接着剤;含浸樹脂;成形材料;表面塗料製造の出発原料;紙、繊維、皮革および浮選の補助剤;建築資材の強化剤;高性能減水剤;ガラス繊維および砂型鋳造のバインダー;焚き付け;エメリー研磨紙;難燃塗料;防炎加工した可燃性アイテム;多目的の発泡樹脂;砥石車;イオン交換樹脂;汚水処理用凝集剤;およびマイクロカプセル製品として広く使用されている。
【0063】
本明細書で使用される”接着剤"という用語は、ものを1つにまとめて結び付けるグルー(接着剤)、積層用樹脂、および、ものを1つにまとめて結合させるマトリックス樹脂を意味する。グルー(接着剤)および含浸樹脂は、ホルムアルデヒドを用いて尿素、メラミンおよび/またはフェノールから作られる水性接着剤である。グルー(接着剤)は、たとえばパーチクルボード、中密度繊維板MDF、配向性ストランドボード、合板、コアボード、および下地板などの木質パネルの製造の分野で知られている。含浸樹脂は、紙を含浸するために使用され,その紙は、木質パネルを装飾的に被覆するために、たとえば家具および積層床材の表面に用いられる。含浸樹脂は、パーチクルボード、合板、繊維板および家具産業において樹脂系接着剤として使用される。含浸樹脂は、化粧板のために、ならびに木製パーチクルボードを塗装するためにも使用される。
【0064】
繊維製品材料は現在、一般的に、Pad-Dry-Cure法として知られる工程で、防しわ性またはノーアイロンとなる。このようなセルロースの架橋は、元の形状およびなめらかさに戻りやすい性質を布に付与する。ある種のDMDHEU樹脂は上記のように、従来、こうしたプロセスで架橋剤として広く使用されてきた。
【0065】
したがって、本発明のもう一つの実施形態において、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品と接触させられるべき架橋剤は、繊維製品の仕上げ加工に適した架橋剤である。
【0066】
繊維加工業で使用される架橋剤は、当技術分野で幅広く記載されている(たとえば、Ullmann IVth Edition Vol 23を参照されたい)。当業者に公知の架橋剤には、「自己架橋」(窒素原子上に反応性水素原子を有する)および「反応物架橋」剤(窒素原子はヘテロ環の環員である)がある。
【0067】
尿素の多官能性メチロール誘導体、置換尿素、またはこれらの化合物とホルムアルデヒドを反応させることにより作製されるメラミンは、商用イージーケア加工用の架橋剤として好ましい。重要な一群は、環状尿素誘導体のヒドロキシメチル化合物で構成される;例を挙げると、ジヒドロキシメチルエチレン尿素、ジヒドロキシメチルプロピレン尿素、およびジヒドロキシメチルウロンである。非環式化合物、たとえば、さまざまなカルバミン酸アルキルも、典型的な仕上げ加工剤である。純粋な尿素-ホルムアルデヒド化合物とは対照的に、これらは自己架橋樹脂を形成する性質をほとんど示さず、主にセルロースと反応して繊維を架橋する。
【0068】
尿素のメチロール誘導体それ自体は、特にレーヨン繊維に使用される。例としては、ジメチロール尿素、N,N"-ビス(ヒドロキシメチル)尿素、トリメチロールメラミンのジメチルエーテル、ウロン系化合物、すなわちテトラヒドロ-3,5-ビス(ヒドロキシメチル)-4H-1,3,5-オキサジアジン-4-オン、環状尿素製品、カルバミン酸エステル、特にカルバミン酸メチルおよびカルバミン酸メトキシエチルのメチロール誘導体がある。
【0069】
グリオキサールと尿素の反応により作製されるジヒドロキシエチレン尿素のメチロール誘導体をイージーケア加工の架橋剤として使用することが好ましいが、これはたとえば、WO98/029393などに記載のジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)、1,3-ジメトキシメチルDHEU、および完全にメチル化された製品である。さまざまに変更されたグリオキサール-尿素型製品はいずれも産業用に使用されている。メチル化され、かつヒドロキシ化合物を含む製品は、メチロール型のあらゆる市販イージーケア加工のうちで、ホルムアルデヒド発生の可能性がもっとも低い。さまざまな架橋剤がUllmann IV.th Edition Vol 23 Chap 7に記載されている。
【0070】
上記の架橋剤は主としてセルロース分子を架橋するために使用されるので、処理されるべき繊維製品はセルロースまたはセルロース系繊維を含有することが好ましい。
【0071】
本発明は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もっとも好ましくは100%までセルロース系繊維を含有する繊維状セルロース材料を処理するのに適している。例として、ジュート(黄麻)、リネン(亜麻)、フラックス(亜麻)、ヘンプ(麻)、ビスコース、レーヨンなどの再生セルロース、ならびに好ましくは木綿が挙げられる。セルロース材料は織物、不織布、もしくは編物であってよく、または繊維、リンター(短繊維の綿毛)、ロービング(粗紡糸)、スライバー(よりをかけていない繊維束)、スクリム(粗織り地)または紙の状態であってもよい。繊維状セルロース材料は、すべて木綿からなっていてもよいが、ポリエステルもしくはナイロンといった合成繊維と混紡された木綿でもよい。
【0072】
上記の樹脂、特にメラミン樹脂、または他の任意のアミノ-s-トリアジン、たとえばグアナミンは、建築資材、または高性能減水剤(コンクリート流動化剤としても知られる)として広く使用されている。こうした目的のために、前記樹脂は通常、他の化合物との反応により修飾されている。特に有用なのは、メラミン、ホルムアルデヒドおよび亜硫酸を基本とする縮合産物である(たとえば、EP 0 336 165)。
【0073】
これらのポリマーは、ラジカル開始剤、乳化剤および/または保護コロイドの存在下で、定義の項に記載のポリマー分散剤によって開始される、エマルション重合により、分散液として調製されれば好都合であるが、その場合レギュレーターおよび他の添加物が必要である。
【0074】
したがって、本発明のさらに好ましい実施形態において、樹脂は、ポリマー分散液を調製するために使用されるFA含有ポリマー分散剤またはFA縮合物である。
【0075】
「ポリマー分散液」という用語は、建設用化学品部門の原材料を表す。製品には、アクリル分散液、ならびにアクリルパウダーおよびスチレン/ブタジエン分散液がある。これらは、建設用化学品、建築用接着剤およびシーリング材の加工性および技術的性能を高める。ハイクラスポリマー分散液および添加物は、建築用塗料の原料として、他の成分と組み合わせて使用され、すぐにそのまま使える製品、たとえば、ペンキ、木材着色剤、またはテクスチュア仕上げ塗料を創出する。特に、この用語は、メタクリル酸(MAS)、メチロールメタクリルアミド(MAMol)および/またはメチロールアクリルアミド(AMol);アクリルアミド、アクリル酸、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、およびスチレンのホモ-およびコポリマーを含有する分散液を表し、繊維製品の顔料捺染および/または顔料塗布の結合剤としても使用される。そうした分散液の他の実例および好ましい実施形態を以下に示す。
【0076】
「顔料捺染」という用語は、当技術分野で広く知られており、世界中で長く行われてきた、シート状の繊維材料に色模様を付けるための工程を表す。顔料捺染では、通常、特定の顔料を、結合剤と合わせた水性捺染糊から織物繊維に塗り付けたのち乾燥させる。好ましくは合成樹脂結合剤系を硬化させ(キュアリング)、それで塗布した色素を固定するための、その後の乾熱処理で捺染工程は完了する。
【0077】
さらに、建築資材として使用するために、縮合産物、たとえば、亜硫酸修飾メラミン樹脂、ナフタレンスルホン酸は、水溶性ビニル-、またはアクリル-ポリマーと組み合わせて用いられる。適当なポリマーの例は、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、3から18個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝ビニルエステル、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(硫酸ビニル)、アクリル-およびメタクリル-モノマー、特にエステル類、さらにスチレンおよびエタン、マレイン酸-スチレンコポリマーの製品であって、これは、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーの形で、およびグラフトポリマーとして存在しうる。
【0078】
こうしたポリマー分散液の好ましい応用分野は、ペンキ、化粧塗料および保護塗料およびラッカー、建築用化学品(セメントモルタルおよび充填用コンパウンドの添加剤)、紙の製造および紙加工のための補助材料、織物被覆、およびプラスチック用着色剤である。
【0079】
さらに、本発明者らは、その応用に対応して、FAの分解を触媒する酵素標品を適用するさまざまな方法を確立した。
【0080】
したがって、本発明のもう1つの目的は、ホルムアルデヒド含有製剤中のホルムアルデヒド含量を低下させる方法に関するものであって、その方法は、製剤を、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品と接触させることを含んでいる。
【0081】
「接触させること」は、製剤の目的とする使用の前に起こってもよいが使用中でもよい。接触させるとは、FA含有製剤が液体ならば、添加する、および/もしくは混合することを意味しうるが、製剤がかなり粘性のある、もしくは固体の材料であるならば表面に塗布することを意味しうる。
【0082】
ある例において、酵素標品は、パーチクルボードの製造に使用される尿素-ホルムアルデヒド樹脂に直接添加することができるが、パーチクルボードをプレスする前に、水で希釈してボード表面にスプレーしてもよい。塗布もしくは添加する酵素は、パーチクルボードに添加する樹脂の性質およびキュアリング条件によって決まる。しかしながら、任意の具体的事例についての正確な量は、さまざまな酵素量をテストして、ボードから放出されるホルムアルデヒド量を評価することにより決定することができる。
【0083】
本発明者らは、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品を繊維製品それ自体に直接使用すると、繊維製品中のホルムアルデヒド含量を低下させることができることを見いだした。
【0084】
したがって、本発明のもう一つの目的は、繊維製品中のホルムアルデヒド含量を低下させる方法であって、その方法は、繊維製品を、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品と接触させることを含んでいる。
【0085】
繊維製品は、上記のグリオキサール樹脂、ホルマリン、尿素ホルムアルデヒド樹脂、ジメチロール尿素、尿素ホルムアルデヒドのジメチルエーテル、メラミンホルムアルデヒド樹脂、環状エチレン尿素ノルムアルデヒド樹脂、たとえばジメチロール尿素、トリアジン-ホルムアルデヒド樹脂、トリアゾンホルムアルデヒド樹脂などの仕上げ加工剤を用いて加熱、乾燥およびキュアリングすることによって、湿った状態でも乾いた状態でも大小のしわを防ぐ性質を付与された、「架橋された繊維製品」であることが好ましい。
【0086】
手短に述べると、上記の架橋剤で処理された繊維製品に、実施例の項に記載の酵素標品を含浸させる。酵素標品とともにインキュベーションした後の残存FAの検出は、湿った繊維製品でも乾いた繊維製品でも行うことができる。湿った繊維製品で実施することが好ましい。
【0087】
本発明で言及されるFA含有製剤は約1から50,000 ppmのホルムアルデヒド濃度を示す。典型的な量は10から5.000 ppmである。本発明の方法は、ホルムアルデヒド含量の有意な減少を可能にする。
【0088】
FA含量は、酵素標品と接触させなかった製剤、最終製品と比較して、10、20、30、40、50、60から70%、たとえば、好ましくは71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、から79%、概して少なくとも80%、たとえば81%-84%、少なくとも85%、たとえば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、から98%および99%、および100%低下していることが適当である。
【0089】
残存するFA含量を測定するための方法は当技術分野でよく知られている。ホルムアルデヒドは、物理的または化学的方法のいずれかによって定量的に測定することができる。ホルムアルデヒド純水溶液の定量は、溶液の比重を測定することによって迅速に行うことができる。直接測定のために、ガスクロマトグラフィーおよび高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用することもできる。ホルムアルデヒドを測定するための最も重要な化学的方法は、H. Petersen, N. Petri, Melliand Textilber. 66 (1985) 217 - 222, 285 - 295, 363 - 369に要約されている。亜硫酸ナトリウム法はもっとも一般的な方法である。それは、ホルムアルデヒドが過剰の亜硫酸ナトリウムと反応したときに生成する、塩基の定量的遊離に基づく。化学量論的に形成された塩基を酸による滴定で測定する。空気中のホルムアルデヒドは、ガス採取装置を用いてμL/m3程度の濃度まで測定することができる。亜硫酸塩/パラローザニリン法による空気中のホルムアルデヒドの定量は、Verein Deutscher Ingenieure (VDI): 1, Messen gasfoermiger Immissionen, Bestimmen der Formaldehydkonzentration nach dem Sulfit-Pararosanilin-Verfahren, Richtlinie VDI 3484, Blatt 1, Duesseldorf 1979に記載されている。
【0090】
繊維製品に関するホルムアルデヒド放出分析に使用される他の検査法は多数あり、たとえば日本の厚生労働省令第112号(すなわち、アセチルアセトン法)、AATCC-112(すなわち、クロモトロープ酸法)、Shirley IおよびII法などである。繊維製品中のFA検出に好ましい方法は、上記省令第112号およびAATCC112法であり、欧州標準化委員会によりEN ISO 14184-1および-2で使用される。本発明の方法を用いて、残存するホルムアルデヒド含量を、250 ppm未満、好ましくは100 ppm未満、より好ましくは50 ppm未満、さらにより好ましくは20 ppm未満、そしてもっとも好ましくは10 ppm未満にまで減少させることができる。
【0091】
本発明の方法を実施するために必要な温度範囲は、10℃から100℃までの間でさまざまとすることができるが、好ましくは10℃から40℃まで、より好ましくは25℃から35℃まで、もっとも好ましくは30℃である。本発明の方法は通常pH3から12までさまざまなpH条件下で実施することができるが、好ましくは5から9の間、より好ましくは7から8の間である。至適pH値は当業者に周知の方法によって決定し、調整することができる。
【0092】
インキュベーション時間は、選択された酵素量、反応温度および製剤中のFA含量に応じて、また製剤自体の性質によっても、さまざまに変動しうる。典型的には、インキュベーション時間は、分単位または時間単位であり、好ましくは5分から10時間、より好ましくは20分から5時間、さらに好ましくは30分から2時間までである。最適なインキュベーション時間は、処理すべき製品に応じて、当業者が容易に決定し、調整することができる。
【0093】
本発明の方法は、従来型のバイオリアクター内で、バッチ式、半連続式、または連続式で行うことができる。適当な方法およびバイオリアクターは当業者によく知られており、たとえば、Roempp Chemie Lexikon 9th edition, Thieme Verlag, entry header “Bioreactors” またはUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th edition, volume B4, page 381ffに記載されているが、これらは参考として本明細書に含められる。リアクターおよび工程の操作状況は、望ましいFA分解反応の具体的な要件に合うよう、熟練した技術者に適合させることができる。工程をバッチモードで行う場合、酵素標品は、製剤の合成、重合、単離、ならびに、状況に応じて精製、の直後に添加される。FAジスムターゼによりホルムアルデヒドが良好に分解された後、製剤から酵素を分離することができる。あるいはまた、必要に応じて、次のような不活化が製剤に有害でないならば、酵素は製剤中に残されたまま、たとえば加熱もしくは酸性化により不活化することもできる。工程が連続的に実施される場合、酵素標品は、たとえば特定のカラムに充填することのできる担体に固定化されることが好ましい。典型的には、製剤は適当な条件下で、ポンプによってカラムを通す。FA減少効果をさらに強めるために、いくつかの酵素リアクターを次々とつなげることができる。
【0094】
本発明の目的のために、酵素標品は、当業者に知られている任意の形態、製剤および組成物として添加することができる。当業者には容易に理解されることであるが、本発明に適した酵素標品は、いくつかの要因に左右されると考えられ、その要因にはFA含有製剤の正確な組成が挙げられるがこれに限定されない。酵素標品を調製するためにいくつかの方法があることも当業者に理解されるであろう。酵素標品は、酵素の顆粒製剤および/または液体製剤の標準的な方法を用いて調製することができる。酵素の顆粒製剤および/または液体製剤に関連するステップの記述は、“Industrial Enzymes and their Application”, Helmut Uhlig, John Wiley and Sons, 1998にある。
【0095】
適当な酵素標品は、たとえば、酵素溶液の造粒、押出成形、噴霧乾燥、または凍結乾燥によって得られる固体酵素標品、ならびに好ましくは酵素の濃縮溶液であり、これは安定化剤を含有していてもよい。あるいはまた、固体または液体の酵素標品を、固体担体上に吸着させる、および/またはカプセルに包むことができる。固定化酵素の調製について提案されてきた方法には、基質結合法、架橋重合法、ゲル包括法などがある。
【0096】
ある実施形態において、本発明に使用される酵素標品が顆粒組成物または液体の状態で使用される場合、その酵素標品は、保存中に顆粒組成物の他の成分から酵素を保護するために、カプセル化された粒子の形をとることが望ましい。さらに、カプセル化は、FA分解プロセスの間、酵素標品の利用可能性を制御する手段でもあって、酵素標品の性能を高めることができる。任意の適当なカプセル化材料を本発明に使用できると考えられる。カプセル化材料は、典型的には、酵素標品の少なくとも一部をカプセルに包んでいる。通常、カプセル化材料は、水溶性および/または水分散性である。簡単に述べると、酵素標品は、アルギン酸ナトリウム、アガロースまたはセファデックスなどの化合物と混合した後、当技術分野で知られている方法にしたがって沈殿させる。あるいはまた、カプセル化は、酵素標品の噴霧乾燥または押出成形によって行うこともできる。
【0097】
前記酵素顆粒の保護コーティング材料の例としては、糖類、多糖類、コラーゲン、アルブミンもしくはゼラチンなどのポリペプチド、油、脂肪酸、ワックスなどの天然材料がある。また、コーティング材料として、化学修飾されたセルロース化合物、デンプン誘導体などの半合成材料、またはポリアクリレート、ポリアミドなどの合成コーティング材料も挙げられる。コーティングはさらに、ポリカチオンとポリアニオンの相互作用により生じる高分子電解質複合体を含んでいてもよい。典型的なポリカチオンには、キトサンなどの天然化合物、ならびに合成ポリマーがある。
【0098】
酵素標品は、化学的に不活性な担体材料もしくは結合材といっしょに造粒することができる。担体材料には、ケイ酸塩、炭酸塩もしくは硫酸塩がある。結合材は、たとえば、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニルピロリドン、多糖類などの非架橋ポリマー組成物である。
【0099】
あるいはまた、酵素標品を不活化もしくは変性から保護するために、安定化化合物を添加することが適当であると考えられる。安定化化合物の例としては、プロテアーゼインヒビター、たとえば、ボロン酸およびその誘導体、アミノアルコール、ならびに低級脂肪族アルコールがある。酵素標品は、物理的影響またはpH変動に対して、ポリアミドオリゴマーなどの化合物、またはリグニン、水溶性ビニルコポリマーなどのポリマー組成物を用いて保護することができる。さらに、ジチオスレイトール(DTT)などの酸化防止剤は、通常使用される酵素安定化剤である。
【0100】
ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品が、FA含有製剤中に直接組み込まれる場合、一部の実施形態では、酵素が乾燥した状態で存在することが必要である。ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品がFA含有製剤の使用時にのみ添加される場合、酵素標品は液体、ゼリー状、またはペースト状の形状で存在することができる。当技術分野で周知のタンパク質の精製および単離法の後、酵素標品を濃縮された水溶液、懸濁液または乳濁液として添加することができる。適当な酵素標品を得るために使用することができる溶媒の例としては、アルコール、アルカノールアミンまたはグリコールもしくはグリコールエーテル、グリセロール、ソルビトール、グルコース、サッカリンなどがある。粘性を高める目的で、酵素標品は1つもしくは複数の増粘剤を含有することができるが、これは膨張剤としても知られている。適当な増粘剤としては、たとえば、アルギン酸塩、ペクチン、デンプン、デキストリン、または合成増粘剤ポリ炭酸、ポリエチレングリコール、ポリアクリル組成物、ポリアミドもしくはポリエーテルが挙げられる。
【0101】
一部の製剤については、酵素標品が製剤中にすでに含まれていて、そうした製剤中のFA含量をできる限り低く維持することが望ましい。
【0102】
好ましい実施形態において、本発明の酵素標品は、(a) 0.1-10%のFA分解酵素、好ましくはFDM、および(b)1-80%の1つもしくは複数のポリオール(グリコール、グリセロール、ソルビトール、グルコース、ショ糖、ポリエチレングリコールなど)および(c)1-99%の水を含有する。
【0103】
本発明の別の実施形態において、乾燥(固体)酵素標品は、固体製品製剤に添加される。FA減少活性は、その固体製品に水を加えた時点でスタートする。
【0104】
したがって、本発明のもう一つの目的は、繊維製品仕上げ加工に適した製剤に関するが、その製剤は架橋剤、およびホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品を含有する。
【0105】
酵素標品は、既知のホルムアルデヒド低減剤と同様に使用することができる。たとえば、酵素標品は、メチロール架橋系を含むパーマネントプレス加工架橋剤、たとえばDMDHEUに組み入れることができる。全部または一部がセルロース繊維からなる繊維製品は、このパーマネントプレス加工組成物を用いて、パッドする、泡加工する、または染みこませることができる。
【0106】
好ましくは、架橋剤はメラミン-FA、尿素-FA、または尿素-グリオキサール-FA化合物からなる一群から選択される。
【0107】
本発明のもう1つの目的は、建築資材、特に水硬性バインダー、たとえば、セメント、石膏、モルタル、もしくは低品位石灰;繊維板、パーチクルボード、合板、木材、革、および/または絨毯地を処理するのに適した製剤に関するものであって、その製剤は、上記のポリマー分散剤およびホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品を含有する。
【0108】
好ましい実施形態において、ポリマー分散剤は、ナフタレンホルムアルデヒド縮合物、フェノールホルムアルデヒド縮合物、尿素ホルムアルデヒド縮合物、およびメラミンホルムアルデヒド縮合物からなる一群から選択される。
【0109】
架橋剤またはポリマー分散剤は、すでに酵素標品と混合されて提供されることもあるが、キットとして提供されることもあり、この場合、酵素標品は、最終製品のFA含量を低下させるために、上記の、目的とする使用の前に、架橋剤またはポリマー分散系に添加される。場合によっては、最終製品の過度の分解を避けるようインキュベーション時間を最適化しなければならない。
【0110】
本発明の目的のために、酵素を容易に大量に利用できるようにすることが望ましい。酵素は、異種発現されたタンパク質の大量生産を可能にする細菌において発現されるのが適当である。発現を最適化するために、すなわち、発現された酵素の収率を高めるために、本発明者らは、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素をコードする核酸を構築した。
【0111】
したがって、本発明のもう一つの目的は、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素をコードする、単離された核酸に関するものであって、その核酸配列は、発現宿主における発現のためにコドン最適化されている。
【0112】
好ましくは、発現宿主は大腸菌Escherichia coliである。
【0113】
大腸菌は、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素を発現させるために広く使用される細菌宿主細胞の一例であるが、本発明において、外来DNAを発現させるために、他の細菌宿主細胞、たとえば、エシェリキア属(Escherichia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、アゾトバクター属(Azotobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、バチルス属(Bacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ボルデテラ属(Bordetella)、ロドバクター属(Rhodobacter)、キシレラ属(Xylella)、クレブシエラ属(Klebsielia)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、赤痢菌属(Shigella)、根粒菌属(Rhizobium)、ビトレオシラ属(Vitreoscilla)、およびパラコッカス属(Paracoccus)など、ならびに真菌宿主細胞、たとえば、アスペルギルス属(Aspergillus)、ピキア属(Pichia)、トリコデルマ属(Trichoderma)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、クリソスポリウム属(Chrysosporium)、カンジダ属(Candida)およびトルロプシス属(Torulopsis)などを使用することができる。
【0114】
大腸菌における発現のためのコドン最適化の特徴および利点はBurgess-Brown et al., Protein Expr Purif., 2008 May;59(1):94-102に詳述されている。
【0115】
好ましい実施形態において、核酸配列は、配列番号3の配列、またはそのバリアントを含んでいる。
【0116】
本発明のもう一つの目的は、本発明の核酸を含有する発現ベクターに関する。
【0117】
適当なベクターには、ファージ、プラスミド、ウイルスもしくはレトロウイルスベクター、ならびに人工染色体、たとえば細菌もしくは酵母人工染色体がある。さらに、この用語は、ターゲッティング構築物にも関するものであって、ターゲッティング構築物のゲノムDNAへのランダムな組み込み、または部位特異的組み込みを可能にする。こうした標的構築物は、以下に詳細に記載するように、相同組換えまたは非相同組換えのために十分な長さを有するDNAを含んでなることが好ましい。本発明のポリヌクレオチドを含むベクターは、さらに、宿主における増殖および/または選択のために、選択可能なマーカーを含有することが好ましい。ベクターは、当技術分野でよく知られているさまざまな技術で宿主細胞内に組み入れることができる。宿主細胞に導入されたならば、ベクターは細胞質に存在してもよいが、ゲノムに取り込まれてもよい。後者の場合、当然のことながら、ベクターはさらに、相同組換えまたは異種挿入を可能にする核酸配列を含有することができる。ベクターは、従来の形質転換法またはトランスフェクション法によって原核細胞または真核細胞に導入することができる。「形質転換」および「トランスフェクション」、コンジュゲーションおよび形質導入という用語は、本発明の文脈で使用される場合、リン酸カルシウム、塩化ルビジウムもしくは塩化カルシウム共沈殿、DEAE-デキストランによるトランスフェクション、リポフェクション、自然形質転換能(natural competence)、炭素クラスター、化学的導入、エレクトロポレーション、または粒子衝突(たとえば、遺伝子銃)などの、外来の核酸(たとえばDNA)を宿主細胞に導入するための多岐にわたる先行技術の方法を含むものとする。
【0118】
好ましい実施形態において、本発明に適したベクターは、配列番号4、5、および/または6の配列を含んでなる核酸である。
【0119】
本発明のもう一つの態様は、アセトアルデヒド(AA)含有製剤中のアセトアルデヒド含量を減少させるための、アセトアルデヒドの分解を触媒する酵素標品の使用に関する。
【0120】
定義の項に記載のように、アセトアルデヒドはさまざまな液体および化合物中に存在し、人に有害である。さらに、アセトアルデヒドは、ポリビニルアルコール中に残存する化合物であることが知られている。ポリビニルアルコールはビニルアルコールのポリマーである。ビニルアルコールは、遊離の形で存在することはできないため、あらゆるポリビニルアルコール類はこれまで、ビニルアルコールとは違って安定な酢酸ビニルの重合により製造されている。製造されたポリ酢酸ビニルは次にアルコール分解を受ける。ポリビニルアルコールの技術的性質はそもそも、モル質量および残存するアセチル基の量に左右されるので、工業的製造工程は、こうしたパラメーターの正確な遵守を確保するように計画される。
【0121】
特に好ましい実施形態において、酵素標品はアルデヒドジスムターゼ活性を有する酵素を含有するが、この酵素は下記により詳細に説明するように、配列番号2のアミノ酸配列のバリアントまたは誘導体を含んでおり、その93位のフェニルアラニンおよび/または301位のイソロイシン、および/または337位のメチオニン、および/または127位のフェニルアラニンは他の任意のアミノ酸で置換されている。
【0122】
添付の図面によってさらに説明されるように、Pseudomonas putidaのホルムアルデヒドジスムターゼ酵素(配列番号2)の結晶構造解析から、酵素の反応中心の形成に関与する個々のアミノ酸残基またはアミノ酸配列部分を同定することが可能となったので、アルデヒド、なかでもホルムアルデヒドもしくはアセトアルデヒド ジスムターゼ活性を有する、適当な他の酵素のためのモデル系または基準酵素を確立することができた。
【0123】
詳細には、前記の具体的な基準酵素について、いくつかの重要なアミノ酸残基を同定することができたが、それらは基質ポケットの、機能的に異なる部分の形成に関与すると予想される。これらの機能的に異なる部分を、触媒部位1(CS1)、触媒部位2(CS2)、触媒部位3(CS3)、触媒部位4(CS4)と名付ける。
【0124】
第1の機能的部分はCS1であって、重要なアミノ酸残基はIle301である。
【0125】
さらに、一次アミノ酸配列では互いに隣接していない配列部分が、隣接していないにもかかわらず、結合ポケットの同一の機能的部分に影響を及ぼすことによって、機能的に関連していることが明らかになった。したがって、機能的部分CS2は、重要なアミノ酸残基Met337を含有することが観察された。
【0126】
前記基準酵素が、結合ポケット領域CS3およびCS4を形成することも観察されたが、それに関わるアミノ酸残基は、酵素に結合している基質に対するアミノ酸残基の優先的方向に応じてさらに細かく分類される。CS3およびCS4は重要なアミノ酸残基Phe127およびPhe93を含んでいる。
【0127】
本発明者らは、驚くべきことに、1つもしくは複数の重要なアミノ酸残基を置換することにより、配列番号2を有する野性型Pseudomonas putida酵素の活性と比較して、酵素活性を少なくとも5%、好ましくは少なくとも7%、より好ましくは少なくとも10%、もっとも好ましくは10から20%高めることができることを見いだした。加えて、1つもしくは複数の重要なアミノ酸残基を置換することにより、酵素の熱安定性を高めることができ、結果として、配列番号2を有する野性型Pseudomonas putida酵素が安定である温度より、少なくとも1、2、3、4、5℃高い温度で安定となった。このことは、精製および発現条件に関して、本発明の酵素を特に利用しやすくする。
【0128】
したがって、本発明のもう一つの目的は、アルデヒドジスムターゼ活性を有し、配列番号2のバリアントを含んでなる、単離されたペプチドであって、配列番号2の93位のフェニルアラニン、および/または配列番号2の301位のイソロイシン、および/または配列番号2の337位のメチオニン、および/または配列番号2の127位のフェニルアラニンが他の任意のアミノ酸で置換されている、前記ポリペプチドに関する。
【0129】
当業者には当然のことであるが、上記アミノ酸位置に非常に近接した位置にあるアミノ酸も、置換されていてもよい。したがって、もう一つの実施形態は、アルデヒドジスムターゼ活性を有し、配列番号2のバリアントを含んでなる、単離されたポリペプチドであって、配列番号2の93位のフェニルアラニンから±3、±2もしくは±1位のアミノ酸、および/または配列番号2の301位のイソロイシンから±3、±2もしくは±1位のアミノ酸、および/または配列番号2の337位のメチオニンから±3、±2もしくは±1位のアミノ酸、および/または配列番号2の127位のフェニルアラニンから±3、±2もしくは±1位のアミノ酸が他の任意のアミノ酸で置換されている、前記ポリペプチドに関する。
【0130】
この分析に基づいて、非常に特徴的な配列パターンを明らかにすることができたので、それを用いて、望ましい酵素活性を有する他のタンパク質候補を検索することができる。
【0131】
前記配列パターンを応用することにより、他の候補となる酵素を検索することも本発明の範囲に含まれる。当業者には当然のことながら、上記配列パターンは、前記パターンの2つの隣接するアミノ酸残基間の正確な距離によって限定されない。上記パターンにおいて2つの隣接するアミノ酸の間のそれぞれの距離は、たとえば、互いに無関係に、±10、±5、±3、±2もしくは±1アミノ酸位置まで変動しうる。
【0132】
本発明によって得られた結晶学的データに基づく、前記の、個々のアミノ酸残基に関する機能的および空間的解析に沿って、本発明のアルデヒドジスムターゼ活性を有する、潜在的に有用な酵素に特徴的な特有のアミノ酸部分配列を同定することができる。
【0133】
他の好ましい実施形態によれば、ジスムターゼ反応は、より詳細に上記に記載されたように、単離もしくは精製され、必要に応じて固定化された、アルデヒドジスムターゼを用いて、またはアルデヒドジスムターゼ酵素活性を発現する微生物を培養することによって、行われる。
【0134】
酵素活性に少しの影響しか及ぼさないと考えられる変異体は、たとえば、基質ポケットの配置もしくは可動性、または上記の構造要素(CS1、2、3、または4)に少し影響を与える、または影響を及ぼさない変異体である。
【0135】
酵素活性により顕著な影響を与える可能性のある変異体は、たとえば、基質ポケットの配置もしくは可動性、または上記の構造要素(CS1、2、3、または4)に強い影響を与える変異体であると考えられる。
【0136】
配列番号2のPseudomonas putidaタンパク質について、前記のような変異のうち少なくとも1つの原因となりうる重要なアミノ酸置換の、限定的でない例を下記に一覧表にして示す。
【0137】

当業者には当然のことながら、上記の表に記載のものに加えて任意のアミノ酸を置換基として使用できると考えられる。そうした変異体の機能をテストするためのアッセイは、当技術分野で容易に利用できるが、それぞれ本発明の実施例の項に記載する。
【0138】
本発明はまた、以下にさらに記述するように、上記のアルデヒドジスムターゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸に関する。
【0139】
本発明はまた、発現カセットにも関するものであって、これは上記の核酸を含んでなり、機能しうるように少なくとも1つの制御核酸配列と連結されている。
【0140】
本発明はまた、少なくとも1つの発現カセットまたは上記の核酸を含んでなる、組換え発現ベクターに関する。
【0141】
本発明はまた、上記の発現ベクターを少なくとも1つを保有する組換え微生物に関する。
【0142】
本発明はまた、上記のようにアルデヒドジスムターゼ活性を有する少なくとも1つのタンパク質、または上記のような組換え微生物を、場合によっては固定化された形で含有するバイオリアクターに関する。
【0143】
本発明はまた、アルデヒドジスムターゼ活性を有する酵素を調製する方法に関するが、その方法は、上記のような組換え微生物を培養すること、ならびに、必要に応じてその培養物から前記アルデヒドジスムターゼを単離することを含んでいる。
【0144】
本発明はまた、アルデヒドジスムターゼ活性を有するタンパク質の結晶構造に関するが、特に、このアルデヒドジスムターゼ活性を有するタンパク質が上記の通りであるようなタンパク質結晶構造に関する。
【0145】
本発明はまた、上記のアルデヒドジスムターゼ活性を有するタンパク質の結晶構造を調製する方法に関するが、その方法は、(約1から50まで、または5から20 mg/mlまでの濃度の)前記タンパク質を含有する溶液に、8.3から8.7までの範囲内のpHを有する、たとえばpH 8.5の、好ましくはTrisバッファーで緩衝化された、結晶化剤(3 Mから3.5 M硫酸アンモニウム、好ましくは3.2 M硫酸アンモニウム、またはポリアルキレングリコール、ポリエチレングリコールなど、特にPEG 400から3500、PEG 400など)を添加することを含んでいる。
【0146】
本発明の他の実施形態
本発明のタンパク質
本発明は、具体的に明記された「アルデヒドジスムターゼ活性を有するタンパク質」に限定されず、それと機能的に同等なものにも及ぶ。
【0147】
具体的に明記された酵素の「機能的同等物」またはアナログは、本発明の範囲に含まれており、望ましい生物学的機能もしくは活性、たとえば酵素活性をさらに保有するさまざまなポリペプチドである。
【0148】
たとえば、「機能的同等物」は、酵素活性に用いられるテストにおいて、本明細書に記載の酵素の、少なくとも1から10%、もしくは少なくとも20%、もしくは少なくとも50%、もしくは少なくとも75%、もしくは少なくとも90%高い、または低い活性を示す酵素を意味する。
【0149】
「機能的同等物」はまた、本発明によれば、具体的には変異体を意味し、変異体は、上記アミノ酸配列の少なくとも1つの配列位置に、具体的に記載されたアミノ酸とは異なるアミノ酸を有するが、それにもかかわらず前記の生物学的活性の1つを保有する。したがって、「機能的同等物」は、1つもしくは複数のアミノ酸の付加、置換、欠失および/または挿入によって得られる変異体を含んでいるが、この前記の変異は、本発明の性質の特徴を有する変異体をもたらす限り、いかなる配列位置に生じてもよい。反応性パターンが変異体と未変異ポリペプチドの間で定性的に一致する場合、すなわち、たとえば、同じ基質が異なる速度で変換される場合にも、機能的同等物が与えられる。適当なアミノ酸置換の例を下記の表に示す:

上記の意味における「機能的同等物」はまた、記載されたポリペプチドの「前駆体」、ならびにポリペプチドの「機能的誘導体」および「塩」である。
【0150】
「前駆体」は、その場合、望ましい生物学的活性を持つ、または持たない、ポリペプチドの天然もしくは合成前駆体である。
【0151】
「塩」という表現は、本発明のタンパク質分子の、カルボキシル基の塩、ならびにアミノ基の酸付加塩を意味する。カルボキシル基の塩は、既知の方法で作製することができ、それには、無機塩、たとえばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄および亜鉛塩、ならびに有機塩基、たとえば、アミン類、たとえばトリエタノールアミン、アルギニン、リジン、ピペリジンなどとの塩が含まれる。酸付加塩、たとえば、塩酸もしくは硫酸などの無機酸との塩、ならびに、酢酸およびシュウ酸などの有機酸との塩も本発明に含まれる。
【0152】
また、本発明のポリペプチドの「機能的誘導体」は、既知の方法によって、機能的アミノ酸側鎖上で、またはN末端もしくはC末端で、作製することができる。こうした誘導体には、たとえば、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは第一級もしくは第二級アミンとの反応により得られるカルボキシル基のアミド;アシル基との反応により作製される、遊離アミノ基のN-アシル誘導体;またはアシル基との反応により作製される、遊離ヒドロキシ基のO-アシル誘導体がある。
【0153】
「機能的同等物」は当然、他の生物から得られるポリペプチド、ならびに天然に存在するバリアントも含んでいる。たとえば、相同配列領域の範囲は、配列比較により定めることができ、同等な酵素は、本発明の具体的なパラメーターに基づいて決定することができる。
【0154】
「機能的同等物」にはまた、本発明のポリペプチドの断片、好ましくは個々のドメインもしくは配列モチーフが含まれるが、これらはたとえば、望ましい生物学的機能を示す。
【0155】
さらに、「機能的同等物」は融合タンパク質であって、これは上記ポリペプチド配列の1つ、もしくはそれらから得られた機能的同等物、および少なくとも1つの他の機能的に異なる異種配列を、N末端もしくはC末端に機能的に結合した状態で有している(すなわち、融合タンパク質部分の機能は実質的に互いに損なわれていない)。こうした異種配列の限定的でない例には、たとえばシグナルペプチド、ヒスチジンアンカーまたは酵素がある。
【0156】
やはり本発明に含まれる「機能的同等物」は、具体的に明記されたタンパク質のホモログである。これらは、上記のようにパーセント同一性の値を有する。この値は、具体的に明記されたアミノ酸配列との同一性を表し、Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad, Sci. (USA) 85(8), 1988, 2444-2448のアルゴリズムにしたがって計算することができる。%同一性の値は、BLASTアラインメント、アルゴリズムblastp(タンパク質-タンパク質BLAST)からも、また下記のClustalセッティングを適用することによっても計算することができる。
【0157】
本発明の相同ポリペプチドのパーセント同一性は、具体的には本明細書に明確に記載された1つのアミノ酸配列の全長に対する、アミノ酸残基のパーセント同一性を意味する。
【0158】
タンパク質のグリコシル化が考えられる場合には、本発明の「機能的同等物」には、脱グリコシル化もしくはグリコシル化された形、ならびにグリコシル化パターンを変更することにより得られる修飾された形の、上記タイプのタンパク質が含まれる。こうした本発明のタンパク質もしくはポリペプチドの機能的同等物、またはホモログは、変異導入、たとえば点変異、タンパク質の伸張もしくは短縮により作製することができる。
【0159】
こうした本発明のタンパク質の機能的同等物もしくはホモログは、変異体、たとえば短縮変異体のコンビナトリアルデータベースをスクリーニングすることによって同定することができる。たとえば、合成オリゴヌクレオチド混合物の酵素的ライゲーションといった、核酸レベルでのコンビナトリアル変異導入により、変化に富んだタンパク質バリアントのデータベースを作成することができる。縮重オリゴヌクレオチド配列から可能性のあるホモログのデータベースを作成するために使用することができる、非常に多くの方法がある。自動DNA合成装置で、縮重した遺伝子配列の化学合成を行うことができるが、その合成遺伝子を次に適当な発現ベクターにライゲートすることができる。縮重したゲノムの使用は、可能性のあるタンパク質配列の望ましいセットをコードする、あらゆる配列を混合物として供給することを可能にする。縮重したオリゴヌクレオチドの合成法は当業者によく知られている(たとえば、Narang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3; Itakura et al. (1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323; Itakura et al., (1984) Science 198:1056; Ike et al. (1983) Nucleic Acids Res. 11:477)。
【0160】
先行技術において、点変異または短縮によって作成されたコンビナトリアルデータベースの遺伝子産物をスクリーニングする、ならびに選択された性質を有する遺伝子産物を求めてcDNAライブラリーをスクリーニングするための、いくつかの技法が知られている。これらの技法は、本発明のホモログのコンビナトリアル変異導入により作製された遺伝子バンクの迅速スクリーニングに適しているといえる。ハイスループット分析に基づく、大規模な遺伝子バンクのスクリーニングにもっともよく使用される技法には、複製可能な発現ベクターにおける遺伝子バンクのクローニング、その結果得られたベクターデータベースによる適当な細胞の形質転換、ならびに、望ましい活性の検出によって遺伝子産物が検出された遺伝子をコードするベクターの単離が容易となるような条件でのコンビナトリアル遺伝子の発現が含まれる。データベース中の機能的変異体の頻度を高める技術である、Recursive Ensemble Mutagenesis(REM)を、ホモログを同定するために、スクリーニングテストと併せて用いることができる(Arkin and Yourvan (1992) PNAS 89:7811-7815; Delgrave et al. (1993) Protein Engineering 6(3):327-331)。
【0161】
本発明の他の実施形態によれば、下記から選択される、単離されたポリペプチドが与えられる:
(i) 配列番号8または10のうちいずれか1つによって表されるアミノ酸配列;
(ii) 配列番号8または10のうちいずれか1つによって表されるアミノ酸配列に対して、少なくとも50%, 51%, 52%, 53%, 54%, 55%, 56%, 57%, 58%, 59%, 60%, 61%, 62%, 63%, 64%, 65%, 66%, 67%, 68%, 69%, 70%, 71%, 72%, 73%, 74%, 75%, 76%, 77%, 78%, 79%, 80%, 81%, 82%, 83%, 84%, 85%, 86%, 87%, 88%, 89%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%, または99%配列同一性を有するアミノ酸配列;
(iii) 上記(i)もしくは(ii)で与えられるアミノ酸配列のうちいずれかの誘導体。
【0162】
核酸コード配列
本発明はまた、本明細書に記載の酵素をコードする核酸配列に関する。
【0163】
本発明はまた、本明細書に具体的に明記された配列に対して、ある程度の「同一性」を有する核酸に関する。二つの核酸の間の「同一性」とは、それぞれの場合において核酸の全長にわたるヌクレオチドの同一性を意味する。
【0164】
たとえば、同一性は、下記の設定でClustal法(Higgins DG, Sharp PM. Fast and sensitive multiple sequence alignments on a microcomputer. Comput Appl. Biosci. 1989 Apr; 5(2):151-1)を用いてInformax社(USA)のVector NTI Suite 7.1プログラムによって計算することができる:

あるいはまた、同一性は、Chenna, Ramu, Sugawara, Hideaki, Koike,Tadashi, Lopez, Rodrigo, Gibson, Toby J, Higgins, Desmond G, Thompson, Julie D. Multiple sequence alignment with the Clustal series of programs. (2003) Nucleic Acids Res 31 (13):3497-500、ウェブページ:http://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw/index.html、ならびに下記の設定にしたがって決定することができる:

本明細書に記載のあらゆる核酸配列(一本鎖および二本鎖DNAおよびRNA配列、たとえばcDNAおよびmRNA)は、既知の方法で、ヌクレオチドビルディングブロックからの化学合成、たとえば、二重らせんの個々のオーバーラップした相補的核酸ビルディングブロックのフラグメント縮合によって作製することができる。オリゴヌクレオチドの化学合成は、たとえば、既知の方法で、ホスホアミダイト法(Voet, Voet, 2nd edition, Wiley Press, New York, pages 896-897)によって実施することができる。合成オリゴヌクレオチドを集積すること、およびDNAポリメラーゼのクレノウ断片を用いてギャップを埋めること、およびライゲーション反応、ならびに一般的なクローニング法は、Sambrook et al. (1989)に記載されているが、以下を参照されたい。
【0165】
本発明はまた、上記ポリペプチドおよびその機能的同等物の1つをコードする核酸配列(一本鎖および二本鎖DNAおよびRNA配列、たとえばcDNAおよびmRNA)に関するが、それはたとえば人工的なヌクレオチドアナログを用いて得ることができる。
【0166】
本発明は、単離された核酸分子および核酸断片の両者に関するものであって、前者は本発明のポリペプチドもしくはタンパク質、またはその生物学的に活性のあるセグメントをコードしており、後者はたとえばハイブリダイゼーションプローブもしくはプライマーとして本発明のコード核酸配列を同定もしくは増幅するために使用することができる。
【0167】
本発明の核酸分子は、遺伝子コード領域の3'および/または5’末端からの非翻訳配列を追加して含有することができる。
【0168】
本発明はさらに、具体的に記載されたヌクレオチド配列またはそのセグメントに相補的な核酸分子に関する。
【0169】
したがって、本発明の他の実施形態によれば、下記から選択される、単離された核酸分子が与えられる:
(i) 配列番号7または9のいずれか1つで表される核酸;
(ii) 配列番号7または9のいずれか1つで表される核酸と相補的な核酸;
(iii) 好ましくは遺伝子コードの縮重の結果として、配列番号8または10のいずれか1つで表されるポリペプチドをコードする核酸であって、この単離された核酸が、配列番号8または10のいずれか1つにより表されるポリペプチド配列に由来するといえる、前記核酸;
(iv) 配列番号7または9の核酸配列のいずれかと、少なくとも30 %, 31%, 32%, 33%, 34%, 35%, 36%, 37%, 38%, 39%, 40%, 41%, 42%, 43%, 44%, 45%, 46%, 47%, 48%, 49%, 50%, 51%, 52%, 53%, 54%, 55%, 56%, 57%, 58%, 59%, 60%, 61%, 62%, 63%, 64%, 65%, 66%, 67%, 68%, 69%, 70%, 71%, 72%, 73%, 74%, 75%, 76%, 77%, 78%, 79%, 80%, 81%, 82%, 83%, 84%, 85%, 86%, 87%, 88%, 89%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%, または99%の配列同一性を有する核酸;
(v) ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で(i)から(iv)の核酸分子とハイブリダイズする核酸分子;
(vi) アルデヒドジスムターゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸であって、そのポリペプチドが、配列番号8または10のいずれか1つにより表されるアミノ酸配列に対して、少なくとも50%, 51%, 52%, 53%, 54%, 55%, 56%, 57%, 58%, 59%, 60%, 61%, 62%, 63%, 64%, 65%, 66%, 67%, 68%, 69%, 70%, 71%, 72%, 73%, 74%, 75%, 76%, 77%, 78%, 79%, 80%, 81%, 82%, 83%, 84%, 85%, 86%, 87%, 88%, 89%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%, または99%の配列同一性を有する、前記核酸。
【0170】
本発明のヌクレオチド配列は、他の細胞型および生物において相同配列を同定および/またはクローニングするために使用することができる、プローブおよびプライマーの作製を可能にする。こうしたプローブまたはプライマーは一般に、「ストリンジェントな」条件(下記参照)下で、本発明の核酸配列のセンス鎖、または対応するアンチセンス鎖の、少なくとも約12、好ましくは少なくとも約25、たとえば約40、50、もしくは75個の連続したヌクレオチド上にハイブリダイズするヌクレオチド配列領域を含んでいる。
【0171】
「単離された」核酸分子は、核酸の天然起源に含まれる他の核酸分子から分離されており、さらに、それが組換え技法によって作製される場合には、他の細胞物質もしくは培地を実質的に含んでおらず、化学合成される場合には、化学的前駆体もしくは他の化学物質を含まないといえる。
【0172】
本発明の核酸分子は、分子生物学の標準的な技法、および本発明により提供される配列情報を用いて単離することができる。たとえば、cDNAは、具体的に明記された完全な配列の1つ、もしくはそのセグメントを、ハイブリダイゼーションプローブとして使用し、(たとえば、Sambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載の)標準的なハイブリダイゼーション法を用いて、適当なcDNAライブラリーから単離することができる。さらに、記載された配列の1つもしくはそのセグメントを含んでなる核酸分子を、この配列に基づいて構築されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応によって単離することができる。このようにして増幅された核酸は、適当なベクターにクローニングされ、DNA配列決定により特徴を明らかにすることができる。本発明のオリゴヌクレオチドは、標準的な合成法により、たとえば自動DNA合成装置を用いて、作製することもできる。
【0173】
本発明の核酸配列、またはその誘導体、前記配列のホモログもしくは一部は、たとえば、通常のハイブリダイゼーション法、またはPCR法により、他の細菌から、たとえばゲノムもしくはcDNAライブラリーを用いて単離することができる。こうしたDNA配列は標準条件で本発明の配列とハイブリダイズする。
【0174】
「ハイブリダイズする」とは、ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドが標準的な条件下でほぼ相補的な配列と結合することができる能力を意味するが、こうした条件では、相補的でないパートナー間では非特異的な結合は起こらない。このため、配列は90-100%相補的であるといえる。互いに特異的に結合することができる相補的配列の性質は、たとえば、ノーザンブロッティングもしくはサザンブロッティング、またはPCRもしくはRT-PCRでのプライマー結合に利用される。
【0175】
保存的領域の短いオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーションに用いるのは有益である。しかしながら、本発明の核酸のより長い断片、または完全な配列をハイブリダイゼーションに使用することも可能である。こうした標準的な条件は、使用される核酸(オリゴヌクレオチド、長い断片、もしくは完全な配列)に応じて、またはDNAもしくはRNAのいずれのタイプの核酸がハイブリダイゼーションに使用されるかに応じて、さまざまに変化する。たとえば、DNA:DNAハイブリッドの融解温度は、同じ長さのDNA:RNAハイブリッドより約10℃低い。
【0176】
たとえば、個別の核酸に応じて、標準条件は、0.1から5 x SSC(1 x SSC = 0.15 M NaCl、15 mMクエン酸ナトリウム、pH 7.2)の濃度の、または追加して50%ホルムアミドの存在下のバッファー水溶液中で、42から58℃までの温度を意味しており、たとえば5 x SSC、50%ホルムアミド中で42℃を意味する。DNA:DNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は、0.1 x SSCおよび約20℃から45℃の温度が好都合であるが、好ましくは約30℃から45℃までである。DNA:RNAハイブリッドについては、ハイブリダイゼーション条件は0.1 x SSCおよび約30℃から55℃の温度が好都合であるが、好ましくは約45℃から55℃である。上記のハイブリダイゼーション温度は、ホルムアミドなしでの、長さが約100ヌクレオチドでG+C含量が50%の核酸に関する、融解温度の計算値の例である。DNAハイブリダイゼーションの実験条件は、関連の遺伝学テキスト、たとえばSambrook et al., 1989に記載されており、当業者に知られている式を用いて、たとえば、核酸の長さ、ハイブリッドのタイプ、またはG+C含量に応じて、計算することができる。当業者は、下記のテキストからハイブリダイゼーションに関する情報をさらに得ることができる: Ausubel et al. (eds), 1985, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York; Hames and Higgins (eds), 1985, Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford; Brown (ed), 1991, Essential Molecular Biology: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford。
【0177】
「ハイブリダイゼーション」は特に、ストリンジェントな条件下で行うことができる。こうしたハイブリダイゼーション条件は、たとえば、Sambrook, J., Fritsch, E.F., Maniatis, T., in: Molecular Cloning (A Laboratory Manual), 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, pages 9.31-9.57 or in Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に記載されている。
【0178】
「ストリンジェントな」ハイブリダイゼーション条件とは、特に:50%ホルムアミド、5 x SSC (750 mM NaCl、75 mMクエン酸三ナトリウム)、50 mMリン酸ナトリウム(pH 7.6)、5x Denhardt溶液、10%デキストラン硫酸および20 g/mlの変性、破砕したサケ精子DNAからなる溶液中で42℃にて一晩インキュベーションした後、65℃にて0.1 x SSCによりフィルターを洗浄することを意味する。
【0179】
本発明はまた、具体的に記載された、または誘導可能な核酸配列の、誘導体に関する。
【0180】
したがって、本発明による他の核酸配列を、本明細書に具体的に記載された配列から誘導することができるが、その核酸配列は、1つもしくは複数のヌクレオチドの付加、置換、挿入もしくは欠失により記載された配列とは異なっており、その上、望ましい性質の特徴を有するポリペプチドをコードしている可能性がある。
【0181】
本発明はまた、いわゆるサイレント変異を有する核酸配列、または特定の生物もしくは宿主生物のコドン使用頻度にしたがって、具体的に記載された配列と比べて変更された核酸配列、ならびに天然に存在するバリアント、たとえばスプライシングバリアントもしくはアレルバリアントに関する。
【0182】
本発明はまた、保存的なヌクレオチド置換(すなわち、当該アミノ酸が同じ電荷、サイズ、極性および/または溶解性を持つアミノ酸によって置き換えられる)により得られる配列に関する。
【0183】
本発明はまた、配列多型によって具体的に記載された核酸から得られる分子に関する。これらの遺伝的多型は、自然変異のために集団内の個体間に存在する可能性がある。こうした自然変異は通常、遺伝子のヌクレオチド配列において1から5%の差異を生じる。
【0184】
本発明の核酸配列の誘導体は、たとえば、全配列範囲にわたって、誘導されたアミノ酸レベルで少なくとも60%の相同性を有する、好ましくは少なくとも80%の相同性、特に好ましくは少なくとも90%の相同性を有するアレルバリアントを意味する(アミノ酸レベルでの相同性に関しては、ポリペプチドについて上記で与えられる詳細を参照されたい)。有利なことに、配列の一部領域について相同性を高めることができる。
【0185】
さらに、誘導体はまた、当然のことながら、本発明の核酸配列のホモログであって、たとえば、コードおよび非コードDNA配列の、動物、植物、真菌もしくは細菌ホモログ、短縮された配列、一本鎖DNAもしくはRNAである。たとえば、ホモログは、DNAレベルで、本明細書に具体的に記載された配列において与えられる全DNA領域にわたって、少なくとも40%の相同性、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、さらに特に好ましくは少なくとも80%の相同性を有する。
【0186】
さらに、誘導体は当然のことながら、たとえば、プロモーターとの融合物である。記載されたヌクレオチド配列に付加されるプロモーターは、プロモーターの機能性もしくは有効性が損なわれることはないが、少なくとも1つのヌクレオチド置換、少なくとも1つの挿入、逆位、および/または欠失により改変されていることもある。さらに、プロモーターの有効性は、その配列を変更することにより高めることができるが、異なる属の生物のより有効なプロモーターで、完全に置き換えることもできる。
【0187】
本発明の構築物
本発明はまた、核酸制御配列の遺伝的制御下で、本発明のポリペプチドもしくは融合タンパク質をコードする核酸配列を含有する発現構築物;ならびに少なくとも1つのこうした発現構築物を含んでなるベクターに関する。
【0188】
「発現ユニット」は、本発明によれば、発現活性を有する核酸を意味するが、これは、本明細書に記載のプロモーターを含んでなり、発現されるべき核酸もしくは遺伝子と機能的に結合した後、この核酸もしくは遺伝子の発現、すなわち転写および翻訳を制御する。したがって、こうした文脈において、発現ユニットは、「核酸制御配列」とも呼ばれる。プロモーターに加えて、他の調節エレメント、たとえばエンハンサーが含まれていてもよい。
【0189】
「発現カセット」もしくは「発現構築物」は、本発明によれば、発現されるべき核酸、もしくは発現されるべき遺伝子と機能的に結合している発現ユニットを意味する。したがって、発現カセットは、発現ユニットとは異なり、転写および翻訳を制御する核酸配列だけでなく、転写および翻訳の結果としてタンパク質として発現されるべき核酸配列も含んでいる。
【0190】
「発現」または「過剰発現」という用語は、本発明の文脈では、微生物において1つもしくは複数の酵素の細胞内活性が生じること、または増加することをいうが、その酵素は対応するDNAによりコードされている。このために、たとえば、遺伝子を生物に挿入すること、既存の遺伝子を別の遺伝子で置き換えること、1つもしくは複数の遺伝子のコピー数を増やすこと、強いプロモーターを使用すること、または強い活性を持つ当該酵素をコードする遺伝子を使用することが可能であり、必要に応じてこれらの手段を組み合わせることができる。
【0191】
このような本発明の構築物は、それぞれのコード配列から5'上流にプロモーターを、3'下流に転写終結配列を、さらに必要に応じて他の通常の調節エレメントを、いずれの場合もコード配列に機能的に結合して、含んでいることが好ましい。
【0192】
「プロモーター」、「プロモーター活性を有する核酸」または「プロモーター配列」は、本発明によれば、転写されるべき核酸と機能的に結合して、この核酸の転写を調節する核酸を意味する。
【0193】
「機能的」または「機能しうる」結合とは、この文脈において、たとえば、プロモーター活性を有する核酸の1つ、および転写されるべき核酸配列、および必要に応じて他の調節エレメント、たとえば核酸の転写を可能にする核酸配列、およびたとえばターミネーターが、それぞれの調節エレメントが核酸配列の転写においてその機能を十分に果たすことができるように、順に配置されていることを意味する。このことは、必ずしも、化学的な意味で直接結合していることを必要としない。遺伝子制御配列、たとえばエンハンサー配列は、もっと遠く離れた位置から、あるいは他のDNA分子からでも、標的配列に対してその機能を発揮することができる。転写されるべき核酸配列がプロモーター配列の後ろ(すなわち3'末端側)にある配置が好ましく、その二つの配列は相互に共有結合している。プロモーター配列と、遺伝子導入により発現されるべき核酸配列との距離は、200 bp(塩基対)未満、または100 bp未満または50 bp未満とすることができる。
【0194】
プロモーターおよびターミネーターの他に、言及できる他の調節エレメントの例は、ターゲティング配列、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、選択可能なマーカー、増幅シグナル、複製開始点などである。適当な制御配列は、たとえば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。
【0195】
本発明の核酸構築物は、特に、本明細書で具体的に言及された配列から選択された配列、またはそれらの誘導体およびホモログ、ならびに本明細書で具体的に言及されたアミノ酸配列から誘導することができる核酸配列を含んでいるが、それらは、遺伝子発現を制御する(たとえば増加させる)ための、1つもしくは複数の制御シグナルと、機能しうるように、または機能的に結合していれば好都合である。
【0196】
これらの制御配列に加えて、上記配列の自然の調節が実際の構造遺伝子の前にまだ存在している可能性があり、場合によっては遺伝的に改変されている可能性もあるので、自然の調節のスイッチをオフにして、遺伝子の発現を増加させた。核酸構築物はまた、もっと簡単な構造をとることができ、すなわちコード配列の前に挿入される追加の制御シグナルもなく、コード配列を制御する天然のプロモーターを除去することもなしとすることもできる。その代わり、天然の制御配列は、もはや調節を行わず、遺伝子発現が増加するようにサイレント化される。
【0197】
好ましい核酸構築物は、有利なことに、プロモーターと機能的に結合された、1つもしくは複数の前記エンハンサー配列も含有しており、それによって核酸配列の発現増加が可能となる。追加の有利な配列、たとえば他の調節エレメントまたはターミネーターをDNA配列の3'末端に挿入することもできる。本発明の核酸の1つもしくは複数のコピーを構築物中に含有することができる。構築物はまた、必要に応じて構築物を選択するために、抗生物質耐性もしくは栄養要求性を補完する遺伝子などの他のマーカーを、含有することができる。
【0198】
適当な制御配列の例は、cos-、tac-、trp-、tet-、trp-tet-、lpp-、lac-、lpp-lac-、lacIq-、T7-、T5-、T3-、gal-、trc-、ara-、rhaP (rhaPBAD)SP6-、ラムダ-PR-またはラムダ-PL プロモーターなどのプロモーターに含まれているが、これらは、グラム陰性細菌において有利に応用される。他の有利な制御配列は、たとえば、グラム陽性プロモーター、ace、amy、およびSPO2、酵母もしくは真菌プロモーターADC1、MFalpha、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADHに含まれている。人工プロモーターも制御のために使用することができる。
【0199】
発現のために、核酸構築物は宿主生物に挿入されるが、ベクター、たとえば、プラスミドもしくはファージに挿入されれば好都合であって、それによって宿主における遺伝子の最適な発現が可能となる。プラスミドおよびファージに加えて、ベクターは、当然のことながら、当業者に知られている他のすべてのベクター、たとえば、SV40、CMV、バキュロウイルスおよびアデノウイルスなどのウイルス、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド(phasmid)、コスミド、および直鎖もしくは環状DNAを意味する。これらのベクターは、宿主生物において自律的に複製されるが、染色体的に複製されることもある。これらのベクターは、本発明の他の実施形態を表す。
【0200】
適当なプラスミドは、たとえば、大腸菌(E. coli)では、pLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223-3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11もしくはpBdCI;nocardioform放線菌では、pJAM2;ストレプトミセス属(Streptomyces)では、pIJ101、pIJ364、pIJ702もしくはpIJ361;バチルス属(Bacillus)では、pUB110、pC194もしくはpBD214;コリネバクテリウム属(Corynebacterium)では、pSA77もしくはpAJ667;真菌では、pALS1、pIL2もしくはpBB116;酵母では、2alphaM、pAG-1、YEp6、YEp13もしくはpEMBLYe23、または植物では、pLGV23、pGHlac+、pBIN19、pAK2004もしくはpDH51である。前記プラスミドは、可能性のあるプラスミドのうち少数を選び出したものを示す。他のプラスミドは当業者によく知られており、たとえば、書籍Cloning Vectors (Eds. Pouwels P.H. et al. Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985, ISBN 0 444 904018) に見いだすことができる。
【0201】
ベクターに関する他の実施形態において、本発明の核酸構築物、または本発明の核酸を含有するベクターは、直鎖DNAの形で微生物に挿入できれば好都合であり、非相同もしくは相同組換えによって宿主生物のゲノムに組み込むことができる。この直鎖DNAは、プラスミド、または単に本発明の核酸構築物もしくは核酸などの、線状化されたベクターを含めることができる。
【0202】
生物における異種遺伝子の最適発現のために、その生物で使用される特定のコドン使用頻度に応じて核酸配列を変更することが有益である。コドン使用頻度は、当該生物の他の既知遺伝子のコンピューター評価に基づいて容易に決定することができる。
【0203】
本発明の発現カセットの作製は、適当なプロモーターと適当なヌクレオチドコード配列および転写終結シグナルもしくはポリアデニル化シグナルとの融合に基づく。一般的な組換えおよびクローニング法がこれに使用されるが、たとえば、T. Maniatis, E.F. Fritsch and J. Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989) as well as in T.J. Silhavy, M.L. Berman and L.W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984)、およびAusubel, F.M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience (1987) に記載されている。
【0204】
組換え核酸構築物または遺伝子構築物は、適当な宿主生物において発現するために、宿主特異的ベクターに挿入されれば好都合であり、宿主において遺伝子の最適な発現が可能となる。ベクターは当業者によく知られており、たとえば”Cloning Vectors” (Pouwels P.H. et al., Publ. Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985) に記載されている。
【0205】
本発明にしたがって使用することができる宿主
文脈に応じて、「微生物」という用語は、出発微生物(野生型)もしくは本発明にしたがって遺伝的に改変された微生物、またはその両者を意味する。
【0206】
「野生型」という用語は、本発明によれば、対応する出発微生物を意味し、必ずしも天然に存在する生物に対応する必要はない。
【0207】
本発明のベクターを用いて、組換え微生物を作製することができるが、この組換え微生物は本発明の少なくとも1つのベクターで形質転換されており、本発明のポリペプチドを製造するために使用することができる。上記の本発明の組換え構築物は、適当な宿主に挿入されて発現されれば好都合である。それぞれの発現系において記載された核酸を確実に発現させるために、当業者によく知られている一般的なクローニングおよびトランスフェクション法、たとえば、共沈殿、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、レトロウイルストランスフェクションなどを使用することが好ましい。適当な系はたとえば、Current Protocols in Molecular Biology, F. Ausubel et al., Publ. Wiley Interscience, New York 1997、またはSambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている。
【0208】
原則として、あらゆる原核生物は、本発明の核酸もしくは核酸構築物のための組換え宿主と見なされる。細菌を宿主生物として使用するのは好都合である。大腸菌(Escherichia coli)は、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素を発現するために一般に使用される、細菌宿主細胞の一例であるが、たとえば、エシェリキア属(Escherichia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、アゾトバクター属(Azotobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、バチルス属(Bacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ボルデテラ属(Bordetella)、ロドバクター属(Rhodobacter)、キシレラ属(Xylella)、クレブシエラ属(Klebsielia)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、赤痢菌属(Shigella)、根粒菌属(Rhizobium)、ビトレオシラ属(Vitreoscilla)、およびパラコッカス属(Paracoccus)などの、他の細菌宿主細胞を本発明において外来DNAを発現するために使用することができる。さらに、たとえば、アスペルギルス属(Aspergillus)、ピキア属(Pichia)、トリコデルマ属(Trichoderma)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、クリソスポリウム属(Chrysosporium)、カンジダ属(Candida)およびトルロプシス属(Torulopsis)などの、真核生物の真菌宿主細胞を、外来DNA発現のために本発明に使用することができる。
【0209】
そこで、本発明の宿主生物は、上記にしたがって酵素活性をコードする、本発明に記載された少なくとも1つの核酸配列、核酸構築物もしくはベクターを含有することが好ましい。
【0210】
本発明の方法に使用される生物は、宿主生物に応じて、当業者によく知られているやり方で増殖または繁殖させることができる。通例、微生物は液体培地で、0℃から100℃までの温度、好ましくは10℃から60℃までの温度で、酸素通気して増殖させるが、こうした培地は、炭素源を一般に糖の形で含有し、窒素源を概して酵母エキスなどの有機窒素源、または硫酸アンモニウムなどの塩として含有し、鉄、マンガンおよびマグネシウム塩などの微量元素、ならびに必要に応じてビタミン類を含有する。液体栄養培地のpHは、培養中、一定の値に維持する、すなわち調節することができるが、調節されないこともある。増殖はバッチ式、半バッチ式で、または連続的に行うことができる。栄養物は発酵開始時に供給されていてもよいが、後から半連続的に、または連続的に供給することもできる。
【0211】
アルデヒドジスムターゼ活性を有する組換え作製タンパク質
本発明はまた、本発明のタンパク質を発現する微生物を培養し、その培養物から所望の生成物を単離することによって、前記タンパク質を製造するための方法に関する。
【0212】
本発明にしたがって使用される微生物は、バッチ培養法で、または流加培養法もしくは連続流加培養法で、連続的に、または不連続的に培養することができる。既知の培養法の総説は、Chmielによるテキスト(Bioprocesstechnik 1. Einfuehrung in die Bioverfahrenstechnik (Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, 1991))、またはStorhasによるテキスト(Bioreaktoren und periphere Einrichtungen (Vieweg Verlag, Braunschweig/Wiesbaden, 1994))に見いだすことができる。
【0213】
使用される培地は、個別の菌株の要求性を適切な方法で満足させなければならない。さまざまな微生物に関する培地の説明は、ハンドブック"Manual of Methods for General Bacteriology" of the American Society for Bacteriology (Washington D. C., USA, 1981) で与えられる。
【0214】
本発明にしたがって使用することができるこうした培地は、概して、1つもしくは複数の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミン類および/または微量元素を含有する。
【0215】
好ましい炭素源は、糖類、たとえば単糖、二糖もしくは多糖類である。非常に好ましい炭素源は、たとえば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、ショ糖、ラフィノース、デンプンもしくはセルロースである。糖類は、糖蜜、または精糖からの他の副産物などの、複雑な化合物によって培地に添加されることもある。さまざまな炭素源の混合物を添加することも好ましいかもしれない。他に考えられる炭素源は、油脂、たとえば大豆油、ひまわり油、ピーナッツ油およびココナツ油;脂肪酸、たとえばパルミチン酸、ステアリン酸もしくはリノール酸;アルコール、たとえばグリセロール、メタノールもしくはエタノール;ならびに有機酸、たとえば酢酸もしくは乳酸である。
【0216】
窒素源は通常、有機もしくは無機窒素化合物、またはこれらの化合物を含有する材料である。窒素源の例としては、気体アンモニアもしくはアンモニウム塩、たとえば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムもしくは硝酸アンモニウム;硝酸塩、尿素、アミノ酸、または複雑な窒素源、たとえばトウモロコシ浸出液、大豆粉、大豆タンパク質、酵素エキス、肉エキスなどがある。窒素源は別々に使用することができるが、混合物として使用することもできる。培地中に存在しうる無機塩化合物には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅および鉄の、塩化物、リン酸塩もしくは硫酸塩がある。無機硫黄含有化合物、たとえば硫酸塩、亜硫酸塩、亜ジチオン酸塩、テトラチオン酸塩、チオ硫酸塩、硫化物、ならびに有機硫黄化合物、たとえばメルカプタンおよびチオールも、硫黄源として使用することができる。
【0217】
リン酸、リン酸二水素カリウムもしくはリン酸水素二カリウム、または対応するナトリウム含有塩を、リン源として使用することができる。金属イオンを溶液中に保持するために、培地にキレート剤を添加することができる。特に適当なキレート剤には、ジヒドロキシフェノール、たとえばカテコールもしくはプロトカテク酸、または有機酸、たとえばクエン酸がある。本発明にしたがって使用される発酵培地はまた、他の増殖因子、たとえば、ビタミン類もしくは増殖促進物質を含有してもよく、これにはたとえば、ビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸およびピリドキシンがある。増殖因子は、酵母エキス、糖蜜、トウモロコシ浸出液などの培地の複雑な成分に由来することが多い。さらに、適当な前駆体を培地に添加することができる。培地中の化合物の正確な組成は、個別の実験に大きく左右されるので、それぞれの具体的ケースについて個々に決定されなければならない。培地の最適化に関する情報は、テキスト"Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach" (Publ. P.M. Rhodes, P.F. Stanbury, IRL Press (1997) p. 53-73, ISBN 0 19 963577 3) に見いだすことができる。増殖培地は、たとえばStandard I(Merck)またはBHI(Brain heart infusion、Difco)などのように、市販の供給業者から購入することもできる。あらゆる培地成分は、加熱(1.5バールおよび121℃にて20分)または無菌濾過によって滅菌される。成分は合わせて滅菌することができるが、必要ならば別々に滅菌することもできる。培地の全成分は、増殖開始時から存在していてもよいが、必要に応じて連続的に、またはバッチ式の供給によって添加することもできる。
【0218】
培養温度は、通常15℃から45℃の間であるが、好ましくは25℃から40℃までであり、実験の間、一定に保つこともできるが、変動することもある。培地のpH値は、5から8.5までの範囲内とすべきであるが、好ましくは約7.0である。増殖のためのpH値は、増殖の間中、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアもしくはアンモニア水などの塩基性化合物、またはリン酸もしくは硫酸などの酸性化合物の添加により調節することができる。消泡剤、たとえば、脂肪酸ポリグリコールエステルを、発泡を制御するために使用することができる。プラスミドの安定性を維持するために、選択作用を有する適当な物質、たとえば抗生物質を培地に添加することができる。酸素もしくは酸素含有気体混合物、たとえば周囲の空気が、好気条件を維持するために培養物に供給される。培養温度は通常20℃から45℃までである。培養は、望ましい生成物が最大に生成されるまで続けられる。これは通常10時間から160時間以内に達成される。
【0219】
細胞は、必要に応じて、高周波数超音波、高圧(たとえばフレンチプレス)、浸透圧、界面活性剤の作用、溶解酵素もしくは有機溶媒、ホモジナイザー、または上記方法のうち複数の組み合わせによって、破砕することができる。
【0220】
アルデヒドジスムターゼ活性を有する酵素の特定の使用
本発明はまた、アルデヒドジスムターゼ活性を有し、配列番号2のバリアントを含有する単離されたポリペプチドを、アルデヒド含有製剤中のアルデヒド含量を減少させるために使用することに関するが、このバリアントにおいて、配列番号2の93位のフェニルアラニン、および/または配列番号2の301位のイソロイシン、および/または配列番号2の337位のメチオニン、および/または配列番号2の127位のフェニルアラニンが他の任意のアミノ酸により置換されている。
【0221】
好ましい実施形態において、アルデヒドは定義の項に記載のようにアセトアルデヒドである。
【0222】
もう一つの好ましい実施形態において、アルデヒドはメチルグリオキサールである。
【0223】
以下の実施例は、本発明の説明として用いるのみである。当業者に明らかな、考えられる数多くの変更も本発明の範囲に含まれる。
【0224】
(実施例)
【実施例1】
【0225】
FDMの発現および精製
下記の手順は、既述のプロトコール(Yanase, H., Moriya, K., Mukai, N., Kawata, Y., Okamoto, K., Kato, N. (2002) Effects of GroESL Coexpression on the Folding of Nicotinoprotein Formaldehyde Dismutase from Pseudomonas putida F61 Biosci. Bitechnol. Biochem., 66(1), 85-91)に基づいており、さらに最適化された。FDMをコードする遺伝子のコドン使用頻度は大腸菌に最適化した。新たなDNA配列を合成し、ラムノース誘導性発現ベクターであるpDHE(配列番号4)にクローニングした。GroEL/Sシャペロンは可溶性FDMの産生に必要であって、IPTG誘導性pAgroベクター(配列番号5)にクローニングされている。lacリプレッサーはpHSGベクター(配列番号6)によりコードされる。FDMの発現は大腸菌TG10、すなわちTG1に由来するラムノースイソメラーゼを持たない菌株、を用いて行われた。pAgroおよびpHSGを含有するTG10細胞(TG10+)は、pDHE-FDMで形質転換し、アンピシリン(pDHE)、スペクチノマイシン(pAgro)およびクロラムフェニコール(pHSG)存在下、LB中で37℃にて5時間培養した。この培養物5 mlを、100μM IPTGおよび0.5 g/lラムノースを含有する同じ培地、500 mLに移した。37℃にて約18時間、誘導を行った。遠心により細胞を集め、溶解バッファー(10 mM KH2PO4、pH 7、0.5 mM MgCl2、140 μM PMSF)に再懸濁した。超音波処理によって細胞の溶解を起こさせた(<1’, 1s/1s> x10、振幅70%)。37℃で10'インキュベートして遠心後、透明な溶解液に硫酸アンモニウムを50%飽和まで加えた。不要なタンパク質(たとえばシャペロン)を氷上で2-4時間沈殿させた。
【0226】
沈殿を遠心により除去し、透明なFDM含有溶液をフェニルセファロースカラムにかけた(HICクロマトグラフィー)。FDM含有画分は、40%から0%までの硫酸アンモニウム濃度勾配を用いて溶出した(バッファー:10 mM KH2PO4、0.5 mM MgCl2、pH 7.2)。FDMの存在は、迅速比色分析により確認した:それぞれの画分10μLを、96ウェルMTPプレートに移し、250μLのホルムアルデヒド溶液とともにインキュベートした(100 mM KH2PO4(pH 7)中12.5 ppm、30分)。50μLプルパルド(Purpald)試薬(1 M NaOH中10 mg/ml、Sigma)を50μL反応混合物に加えることによって、未反応のホルムアルデヒドを検出した。発色は、集めた画分中に酵素がないことを示す。
【0227】
フェニルセファロース精製ステップ後、溶出された画分を限外濾過(10kDaカットオフ)により濃縮し、サイズ排除クロマトグラフィー(HiPrep Desalting 26/10 mL、Amersham)によって脱塩した。ランニングバッファーとして1x PBS、0,5 mM MgCl2 (pH 7.2)を使用した。このタンパク質溶液を限外濾過(10 kDaカットオフ)によって濃縮し、グリセロールを終濃度50%となるよう添加した。FDM原液(2-5 mg/ml)は−20℃で保存した。振盪フラスコから得られる典型的な収量はおよそ100 mg/Lであり、発酵からは約1 g/Lである。この手順により、タンパク質を、Coomassie染色SDS-PAGEで判定される均一にまで精製することができる(データ記載せず)。
【0228】
FDM変異体についても、下記の方法が同様に使用できる。
【0229】
下記の手順は、既述のプロトコール(Yanase et al. 2002, Biosci. Bitechnol. Biochem., 66(1), 85-91)に基づいており、さらに最適化された。FDM(または変異体)をコードする遺伝子のコドン使用頻度は大腸菌に最適化した(配列番号3)。新たなDNA配列を合成し、ラムノース誘導性発現ベクター、pDHE(配列番号4)にクローニングした。GroEL/Sシャペロンは可溶性FDMの産生に必要とされ、IPTG誘導性pAgroベクター(配列番号5)にクローニングされている。lacリプレッサーはpHSGベクター(配列番号6)によりコードされる。FDMの発現は、ラムノースイソメラーゼを持たない、TG1由来株である、大腸菌TG10を用いて行われた。pAgroおよびpHSGを含有するTG10細胞(TG10+)は、pDHE-FDMで形質転換し、アンピシリン(pDHE)、スペクチノマイシン(pAgro)およびクロラムフェニコール(pHSG)存在下、LB中で37℃にて5時間培養した。この培養物5 mlを、100μM IPTGおよび0.5 g/lラムノースを含有する同じ培地、500 mLに移した。37℃にて約18時間、誘導を行った。遠心により細胞を集め、溶解バッファー(10 mM KH2PO4、pH 7、0.5 mM MgCl2)に再懸濁した。超音波処理によって細胞の溶解を起こさせた(<3’, 15s/15s> x3、振幅85%)。37℃で10分インキュベートして遠心後、透明な溶解液に硫酸アンモニウムを50%飽和まで加えた。不要なタンパク質(たとえばシャペロン)を氷上で1-2時間沈殿させた。
【0230】
沈殿を遠心により除去し、透明なFDM含有溶液をフェニルセファロースカラムにかけた(HICクロマトグラフィー)。FDM含有画分は、40%から0%までの硫酸アンモニウム濃度勾配を用いて溶出した(バッファー:10 mM KH2PO4、0.5 mM MgCl2、pH 7.2)。FDMの存在は、迅速比色分析により確認した:それぞれの画分10μLを、96ウェルMTPプレートに移し、250μLのホルムアルデヒド溶液とともにインキュベートした(100 mM KH2PO4(pH 7)中12.5 ppm、30分)。50μLプルパルド(Purpald)試薬(1 M NaOH中10 mg/ml、Sigma)を50μL反応混合物に加えることによって、未反応のホルムアルデヒドを検出した。発色は、集めた画分中に酵素がないことを示す。
【0231】
フェニルセファロース精製ステップ後、溶出された画分を限外濾過(10kDaカットオフ)により濃縮し、サイズ排除クロマトグラフィー(HiPrep Desalting 26/10 mL、Amersham)によって脱塩した。ランニングバッファーとして10 mM KH2PO4、0,5 mM MgCl2 (pH 7)を使用した。このタンパク質溶液を限外濾過(10 kDaカットオフ)によって濃縮し、グリセロールを終濃度50%となるよう添加した。FDM原液(2-5 mg/ml)は−20℃で保存した。この手順により、タンパク質を、Coomassie染色SDS-PAGEで判定される均一にまで精製することができる(データ記載せず)。
【実施例2】
【0232】
pHスタット滴定によるFDMの特性解析
FDM活性は、20 mMホルムアルデヒド、100 mM KCl、0.25 mM KH2PO4 (pH 7)を含有する標準反応混合物中でアッセイした。25 mL反応混合物に5μL酵素溶液を添加することにより、室温にて反応を行った。5 mM NaOHを用いてpHスタット滴定により5分間にわたってギ酸生成をモニターした。1ユニットは、1分当たり1μmolのギ酸生成を触媒するのに必要な酵素量と定義される。TG10+において発現されるFMDは、100-200 U/mgの比活性を有していた。
【実施例3】
【0233】
ホルムアルデヒドの検出
省令第112号の方法の検出原理は、アンモニア存在下でホルムアルデヒドとアセチルアセトンとが反応して、黄色化合物3,5-ジアセチル-1,4-ジヒドロルチジンを生成すること(Hantzsch反応)によるものである(Nash, T. (1953) The Colorimetric Estimation of Formaldehyde by Means of the Hantzsch Reaction Biochem. J., 55(3), 416-421、およびFregert, S., Dahlquist, I., Gruvberger, B. (1984) A Simple Method for the Detection of Formaldehyde Contact Dermatitis, 10, 132-134)。定量的なホルムアルデヒド検出のために、試薬溶液は以下のように調製される:15 g酢酸アンモニウム、0.2 mLアセチルアセトン、0.3 mL酢酸を100 mL蒸留水中で混合する(4℃にて1週間保存可能)。検量線のために5から25 ppmまでのホルムアルデヒド水溶液を調製する。0.1 mLのサンプル水溶液(または標準もしくはブランクとして水)を0.15 mL試薬溶液と混合することにより反応を開始し、60℃にて10分インキュベートする。この溶液を室温に冷却した後、蒸留水を最終容量1 mLとなるまで添加する。3,5-ジアセチル-1,4-ジヒドロルチジンの生成を412 nmでモニターする。
【実施例4】
【0234】
酵素の予備的な性質検討
繊維製品に応用するためのホルムアルデヒドジスムターゼの有効性を確定するために、さまざまな濃度の酵素を220 ppmホルムアルデヒド(100 mM KH2PO4、pH 8溶液)とともに室温で30分インキュベートした。前記アセチルアセトン法でサンプルを分析した。酵素原液の比活性は165 U/mgであった。結果を表1に示す。
【0235】
表1 溶液中のホルムアルデヒドの酵素による除去(220 ppmホルムアルデヒド)。アセチルアセトン法による検出。数値は、室温にて30分インキュベート後に溶液中に残存するホルムアルデヒドを示す。
【表1】

【0236】
非常に低い酵素濃度でも、ホルムアルデヒド含量をほとんど完全に低下させるのに十分すぎるほどである。技術的応用のために興味深いもう一つの性質は、アルコール(エタノール、イソプロパノール)または純水をバッファーの代わりにすることへの耐性である。そのために、17 mg/Lホルムアルデヒドジスムターゼを30℃にて、100 mM KH2PO4 (pH 8)、220 ppmホルムアルデヒド、および10または20 % v/v溶媒(エタノールもしくはイソプロパノール)中でインキュベートした。あるいはまた、リン酸バッファーの代わりに蒸留水を使用した。結果を表2にまとめている。
【0237】
表2 エタノール、イソプロパノール(% v/v単位)および純水のFDM活性への影響(17 mg/L FDM、220 ppmホルムアルデヒド)。数値は、30℃にて30分インキュベート後に溶液中に残存するホルムアルデヒドを示す。アセチルアセトン法による検出。
【表2】

【0238】
P. putida F61から得られたホルムアルデヒドジスムターゼは、大量のエタノール存在下ではFAと有効に反応しない。10 % v/vでも、FAに対する酵素活性は強く阻害されている。比較的低濃度のイソプロパノールは問題ないが、10 % v/vを超えると活性にマイナスの影響を及ぼす。純水は酵素を不活化する;ギ酸の生成は酸性のpHシフトを引き起こす(pHは7から4に低下する)。
【実施例5】
【0239】
完成繊維製品のFDMによる処理
ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素架橋剤で仕上げ加工された綿繊維をFDMで処理した。架橋剤と綿繊維とを縮合させた後、繊維製品中に約114 ppmの遊離のホルムアルデヒドが、アセチルアセトン法で測定された。次にこの繊維製品サンプルを、さまざまな濃度の酵素溶液(100 mM KH2PO4、pH 8、0-150 mg/L酵素)に浸漬し、ただちに2つの金属回転シリンダーに通した(図3)。湿潤サンプルを30℃で60分インキュベートした。1グラムの繊維サンプルから抽出されたホルムアルデヒドを、アセチルアセトン法(省令第112号)により定量した。そのデータを表3にまとめる。
【0240】
表3 改変されたジメチルールジヒドロキシエチレン尿素架橋剤を用いて架橋された綿に対するさまざまなFDM濃度の影響(酵素処理前の繊維製品中114 ppmホルムアルデヒド)。
【表3】

【0241】

ジスムターゼなしでホルムアルデヒド含量は約70 ppmに減少した(乾燥繊維製品からは95)が、これはおそらく浸漬工程中のなんらかの「ウォッシュアウト」効果によるのかもしれない。概して、ホルムアルデヒドジスムターゼは、明らかに、ホルムアルデヒド抽出量を20から40 ppmレベルまで低下させることができる。湿潤と乾燥のホルムアルデヒド検出の相違は、繊維製品の含水量の見積もりの相違によるのかもしれない。表4は、大量のFAを含有する別のジメチロールジヒドロキシエチレン尿素架橋剤で架橋された繊維製品に対して実施した同じ実験を示す(酵素処理前の繊維製品中641 ppmホルムアルデヒド)。
【0242】
表4 ジメチルールジヒドロキシエチレン尿素製剤を用いて架橋された綿に対するさまざまなFDM濃度の影響。
【表4】

【0243】
「ウォッシュアウト」効果のため、ジスムターゼなしのサンプルは、ホルムアルデヒド含量の明確な低下を示す。それにもかかわらず、ジスムターゼ量を増やして使用することにより、完成繊維製品から放出されるホルムアルデヒドは明らかに減少する。約70%の吸水は、繊維製品1 kg当たり約100 mgのジスムターゼがホルムアルデヒド含量を実質的に減少させるのに十分すぎるほどであることを意味する。
【0244】
酵素処理後に繊維製品を乾燥するための時間およびエネルギーコストを下げるために、こうした応用において含水量を減少させることは有益であろう。このために、架橋された繊維サンプルに少し異なる処理を行った:濃縮酵素溶液(1x PBS中1350 mg/L、25%グリセロール)を繊維製品上にスプレーした。水分吸収を微調整して、0-50%の湿潤性を分析することができた(表5)。すべての繊維プローブは、30℃にて60分間インキュベートした。
【0245】
表5 ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素製剤で架橋された綿(酵素処理前の繊維製品中のアルデヒド641 ppm)に対する吸水量の相違の影響。FDMの濃縮原液(1x PBS中1350 mg/L、25%グリセロール)を噴霧した。
【表5】

【0246】
酵素をスプレーとして使用しても、ある程度のホルムアルデヒドの「ウォッシュアウト」は避けられなかった(バッファー吸収20%、放出ホルムアルデヒド465 ppm)。それにもかかわらず、同じ水分吸収を伴う酵素の使用(繊維製品1 kg当たり酵素270 mg)は、結果として50%を超える放出ホルムアルデヒドの減少をもたらした。繊維製品の含水量が70%に達する、金属シリンダーによる酵素の使用と比べて、スプレー使用の有効性はあまりはっきりしない。
【実施例6】
【0247】
さまざまな繊維仕上げ加工剤のFA含量に対するFDMの効果
繊維製品中のホルムアルデヒド含量を減少させる別の方策は、繊維製品との縮合ステップの前に架橋剤溶液に直接、ジスムターゼを使用することである。そのために、3つの製剤を、ホルムアルデヒドジスムターゼを用いてテストした:ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素製剤(製剤1)、メトキシメチル化メラミン製剤(製剤2)およびFA含量の少ない重縮合メトキシメチル化メラミン製剤(製剤3)。架橋剤製剤1は、高濃度で弱酸性(pH 5-6)の水溶液で、0.1から1%のホルムアルデヒド(1000から10,000 ppm)を含有する。製剤2は、濃縮された水溶液(pH 8-9)で、1.5から2.5%のホルムアルデヒドを含有する。製剤3は、弱塩基性水溶液で0.2から1%のホルムアルデヒドを含有する(pH 8-9)。
【0248】
典型的には、87μLの純粋な製剤を、10μLの3 M KH2PO4(pH 7)および3μLの50%グリセロールと混合した(ネガティブコントロール)。酵素処理サンプルでは、グリセロールの代わりに酵素原液(4.8 mg/mL)を使用した。製剤溶液中の酵素の終濃度は〜150 mg/Lであった。ホルムアルデヒドはアセチルアセトン法で検出した。表6は、架橋剤溶液へのFDMの効果を示す。
【0249】
表6 製剤1、2および3に対するFDM(〜150 mg/L)の影響。反応混合物は、約300 mM KH2PO4 (pH 7)で緩衝化し、30℃で60分間インキュベートした。数値は、濃縮製剤中の処理後の残存ホルムアルデヒド(ppm)を示す。アセチルアセトン法による検出。
【表6】

【0250】
製剤1については最良の結果が得られ、ホルムアルデヒド含量は約70%減少した。製剤3のホルムアルデヒド含量は約50%だけ減少した。製剤2のFDMによる処理は、高いホルムアルデヒド含量を20%しか低下させなかった。FDMへの長時間の暴露は製剤の分解をもたらす可能性があることに留意すべきである。
【0251】
全体として、これらの予備的な結果は、FDMを製剤溶液に直接使用できる可能性があることを示している。
【実施例7】
【0252】
修飾されたジメチロールジヒドロキシエチレン尿素化合物中のFA含量を低下させるためのFDMの使用
セルロース繊維素材、およびセルロース繊維と合成繊維との混紡素材の繊維製品のイージーケア加工のために架橋剤が使用される。このような化学物質の重要な一群が、修飾されたジメチロールジヒドロキシエチレン尿素化合物群である。そこで、本発明者らは、4つの異なる製剤をホルムアルデヒドジスムターゼ(FDM)で処理し、製剤中に残存するホルムアルデヒドを測定した。さらに、酵素処理した製剤を綿の仕上げ加工に使用した。繊維製品(綿)のホルムアルデヒド含量を定量し、仕上げ加工の性能を数値化した。
【0253】
製剤を次のように処理した:17.4 gの架橋試薬(濃縮された水溶液)および2 mLの3M KH2PO4(pH 7)を0.6 mLのFDM(4.8 mg/mL)と静かに混合した。酵素の終濃度は、約140 mg/Lとなった。酵素過程は、室温で約3時間行った。ホルムアルデヒド含量は前記のように測定した(アセチルアセトン法)(表7参照)。
【表7】

【0254】
製剤中のホルムアルデヒド含量は、70-80%低下した。製剤1(メチロール基は保護されていない)のホルムアルデヒド除去は、時間がたつと製剤の分解をもたらす可能性がある。
【0255】
酵素処理製剤および未処理製剤を、綿の仕上げ加工に使用した(繊維製品:CO-Popelin、次の処方による:57.5 g/L架橋試薬、10 g/L MgCl2・6 H2O、pH 5.0(酢酸添加による))。綿サンプル(吸水量約70%)を110℃で乾燥させて、最終的な水分を約6%とした。次のキュアリングステップは150℃で3分間実施した。綿サンプル中のホルムアルデヒド含量は、省令第112号により測定した(数値の単位ppm)。他の性能を示す指標は、乾燥状態のしわ回復角(dcra)(単位°)、引張強さ(張力単位N、40 x 100 mm)、パーマネントプレスの滑らかさの評価(DP評価)、Monsantoの滑らかさの評価(Monsanto評価)、収縮(縦糸(w)および横糸(f)、単位%)とした。次の表(表8)に結果をまとめる(1: 未加工綿、2: 製剤1、3: 製剤1 + FDM、4: 製剤2、5: 製剤2 + FDM、6: 製剤3、7: 製剤3 + FDM、 8: 製剤4、9: 製剤4 + FDM)。
【表8】

【実施例8】
【0256】
ポリマー分散剤/高性能減水剤として使用されるスルホン化メラミン-FA重縮合物中のFA含量を低下させるためのFDMの使用
スルホン化メラミン-FA重縮合物は、特にセメントおよび硫酸カルシウムを基本とする混合物の流動化および減水のために最適化されている。典型的には、これらの製品は、20%w/v水溶液として使用され、pH値は約9から11.4(サンプル1)および7から10(サンプル2)である。本項では(表9参照)、2つのサンプルの20%w/v希釈標準溶液をFDM(終濃度140 mg/L)で処理し、さまざまなインキュベーション時間後に、残存するホルムアルデヒドを既述のアセチルアセトン法により定量した(値はppm単位)。
【表9】

【0257】
1時間酵素処理した後の製品の性能は、硬化時間、流動および強度に関して悪影響を及ぼさなかった。1/5の酵素濃度を用いても同様の結果が得られる。これらの製品において、ホルムアルデヒドの除去は、時間の経過とともに、ポリマーの分子量分布の変化をもたらす可能性がある。
【実施例9】
【0258】
修飾されたアニオン性ポリアルキルグリコール-フェノール-FA樹脂中のFA含量を低下させるためのFDMの使用
修飾されたアニオン性ポリアルキル-フェノール-アルデヒド樹脂は、特にセメントおよび硫酸カルシウムを基本とする混合物の流動化および減水のために最適化されている。この製品は、濃縮された水溶液(pH 5-8)として調製される。酵素処理は、製品に直接FDMを添加することにより行われた。未処理の製品は、アセチルアセトン法による測定で、約250 ppmホルムアルデヒドを含有している。下記の表(表10)は、FDMとともに0.5時間、3時間および24時間インキュベートした後の残存ホルムアルデヒド(ppm単位)を示す。
【表10】

【0259】
1時間酵素処理した後の製品の性能は、硬化時間、流動および強度に関して悪影響を及ぼさなかった。
【0260】
FDMを産生している未精製細胞抽出物またはホールセルを用いて同様の結果が得られる。
【実施例10】
【0261】
基質特異性を拡大するためのFDMの合理的設計
FDMの活性部位は、比較的狭い、ほとんど疎水性のポケット内にホルムアルデヒド分子が結合することを示す。しっかり結合したNADHコファクター分子により供与される水素化物イオンによる求核攻撃を目的として、戦略的に配置された亜鉛イオンがルイス酸として機能して、基質を活性化する。不均化反応の想定される反応メカニズムは、2つの共役した半反応からなる。第1の半反応では、ホルムアルデヒド分子は、酵素(E)-NAD+複合体によって不可逆的に酸化され、ギ酸および(E)-NADH複合体が形成される。第2の半反応では、もう一つのホルムアルデヒド分子が(E)-NADHと結合し、不可逆的に還元されてメタノールとなり、次の反応のために(E)-NAD+が残される。FDMにより触媒される不均化について想定される反応メカニズムは、Tanaka et al. (2002), Journal of Molecular Biology, 324, 519-533に記載され、説明されている。2.3Åの分解能でのP. putida F61由来FDMの活性部位は、Hasegawa et al. (2002), Acta Crystallogr.,Sect.A, 58, C102-C102により報告され、説明されている。ホルムアルデヒドは疎水性ポケット内にしっかりと詰め込まれており(Met 337、Ile 301、Phe 93およびPhe 127)、亜鉛イオンよびNAD(H)コファクターのすぐ近くにある。
【0262】
P. putida F61由来のFDMは、ある程度の基質の多様性を有することが示されている(Kato et al Agric., 1983, Biol. Chem., 47(1), 39-46)。野生型酵素は、ホルムアルデヒドに対する相対活性が100%であるとして、アセトアルデヒド(5-10%、本発明者らの結果はさらに低いことを示す)およびメチルグリオキサール(22%)に対して弱い活性を示すが、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘプトアルデヒド、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキサールまたはグルタルアルデヒドなどの、より立体的に条件が厳しい基質に対しては活性を示さない。より大きなアルデヒド、特にアセトアルデヒドに対する基質特異性を向上させるために、337、301、127および93位で、活性部位の内側を覆う大きな疎水性残基をもっと小さい対応物で置き換えることによりFDMの活性ポケットを改変することに踏み切った。その結果、下記の単一変異体を調製し、性質検討した。
【0263】

【実施例11】
【0264】
pHスタット滴定およびHPLCによって測定されたFDM変異体の活性
FDMおよびそのバリアントの活性は、20 mMホルムアルデヒド、100 mM KCl、0.25 mM KH2PO4 (pH 7)を含有する標準反応混合物中で、pHスタット滴定によってアッセイした。反応は、25 mLの反応混合物に5μL酵素溶液を添加することにより行った(活性に応じて、典型的には0.1-0.5μg/mL酵素)。ギ酸の生成は、5 mM NaOHを用いた滴定によって5分間にわたってモニターした。1ユニットは、1分当たり1μmolのギ酸生成を触媒するのに必要な酵素量と定義される。FDM F93A / I301L (0,7μg/mL)は、pH 7でホルムアルデヒドの代わりに20 mMアセトアルデヒドを用いてpHスタット滴定によりテストした唯一の変異体であった。FDMおよび単一変異体のすべてのアセトアルデヒドに対する活性が弱すぎてpHスタット滴定で追跡できないことから、FDMおよびそのバリアントをHPLC(Aminex HPX-87 Hカラム、5 mM H2SO4中、RIにより検出、0,5 mL/分)によって比較することを決定した。酵素反応は、50 mM KH2PO4 (pH 8)、100 mM KClおよび20 mMアセトアルデヒド中で行った。反応は、FDMまたはそのバリアント(50μg/mL)の添加により開始した。アセトアルデヒド、エタノールおよび酢酸は、30分間隔で定量した(保持時間:アセトアルデヒド21.2分;エタノール25.2分;酢酸18.9分)。反応初速度が測定され(30分値)、1分間に1μmol酢酸を生成するのに必要とされる酵素量としてユニット数が算出された。
【0265】
その結果は、ほとんどの変異が二つのアルデヒドのいずれに対しても比活性に有害な影響を及ぼすことを明白に示す。I301LおよびF33Aのみが、興味深い性質を有すると判明した。300位にロイシンを導入すると、アセトアルデヒド活性が2.5倍に増加したのに対して、ホルムアルデヒドに対する比活性は約10から20%増加した。F92Aバリアントは、ホルムアルデヒド活性をほぼ完全に喪失したのに対して、アセトアルデヒドとの比活性は野生型酵素に対して約3倍に増加し、FDM I301L変異体の活性と同様である(表11)。
【表11】

【0266】
表11は、さまざまな活性部位変異体のホルムアルデヒド(FA)およびアセトアルデヒド(AA)に対する比活性を示す。FA活性はpHスタット滴定により測定した;AA活性はHPLCにより上記のように測定した。*この値は、pHスタット滴定により測定された活性と一致する。n.a. 活性なし。
【0267】
301および93位の変異を組み合わせて、FDM I301L / F93Aバリアントを作製した。この二重変異体は、ホルムアルデヒドに対しては活性がないが、アセトアルデヒドに対しては5倍増加した活性を有する。二つの置換は、アセトアルデヒドとの活性の増強に相乗効果を有する(図2)。
【0268】
変異体I301Lは、基質特異性の拡大を示すが、FDM F93Aバリアントおよび - 特に - 二重変異体は、基質特異性のホルムアルデヒドからアセトアルデヒドへの転換を示す。図3はFDM I301LのHPLCによる活性プロフィールを示す。
【実施例12】
【0269】
FDM、FDM I301LおよびFDM I301L / F93Aの熱安定性
FDMおよびそのバリアントの重要な性質は、酵素精製(滅菌)中にも、技術的応用中にも、温度上昇に対して耐性があることである。FDM、FDM I301LおよびFDM I301L / F93Aの温度安定性を、酵素をさまざまな温度で20分間(25-65℃)プレインキュベートした後、そのサンプルをアセトアルデヒドまたはホルムアルデヒドについてテストすることによって、比較した。FDM I301LおよびFDM I301L / F93Aサンプルは、アセトアルデヒド活性についてはHPLCで上記のようにテストした。データは、室温で得られた値と比較した相対活性として示す(図4)。
【0270】
FDMおよびFDM I301Lサンプルは、上記のようにpHスタット滴定によりホルムアルデヒド活性を調べた。データは室温で得られた値に対する相対活性として示す(図5参照)。興味深いことに、FDM I301L変異体は、野生型タンパク質と比べて、熱安定性の明白な増加を示す(+5℃、図5)。F301LおよびF301L/F33A変異体は、アセトアルデヒドに関して同様の熱安定性プロフィールを示す(T50 約55℃)。
【実施例13】
【0271】
FDM、FDM I301LおよびFDM I301L / F93Aの結晶構造
FDM I301L / F93AおよびFDM I301Lの結晶は、スイス、ビリンゲン(Villingen)にあるシンクロトロンSLSで測定した(表12)。
【表12】

【0272】
FDM I301L / F93Aの構造は、野生型構造を構造テンプレートとして用いて分子置換法により決定した(pdbコード:2DPH)。データの質に関する例として、構造決定に使用された93位の野生型フェニルアラニン残基を、FDM I301L / F93A変異体の密度地図とともに示す(図6)。赤で差異を示す電子密度は、フェニルアラニンが、そのフェニル環のCε位にアラニンおよび水分子が位置しているようにモデル化されるべきであることを示す。酵素全体の全体構造は変異によって変化しない。変異の影響は、変異した位置およびその近傍に限定される。図7は、野生型FDMの活性部位のクローズアップを示す。タンパク質はリボン様式で表現されている。次のアミノ酸は球棒モデルで示す:Cys 46、His 67、およびAsp 170は触媒亜鉛を配位する;Ile 301およびPhe 93は変異が導入された部位である;Met 337およびPhe 127は変異の影響下でそのコンフォメーションが変化するアミノ酸である。亜鉛イオンおよびコファクター(NADH)も示す。
【0273】
FDM I301L変異体の構造:
イソロイシン301のロイシンへの変異は、電子密度地図において明確に認められる。側鎖は活性部位から離れる方向になるのでVal 303、Phe 265およびPhe 57との疎水的接触が強まる。こうした相互作用の強化は、熱安定性が高まる原因となる可能性がある。この変異はフェニルアラニン127にも影響を及ぼす。側鎖全体が少し動いて、フェニル環は野生型と比べて約70°回転する(図8)。フェニル環は、基質結合ポケットの一部であって、その側鎖の新しい位置は、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドのカルボニル基がNADHコファクターからの水素化物移動のためにもっと好ましい位置にくるように、結合ポケットをすぼめている。その上、イソロイシン301のロイシンへの変異は、結合ポケットを反対側に広げるので、野生型と比較して、立体的により条件が厳しいアセトアルデヒドを、基質としてもっとうまく受け入れることが可能になる。
【0274】
FDM I301L / F93Aの構造:
イソロイシン301のロイシンへの変異は、単一変異体の構造におけるLeu 301およびPhe 127への影響と同じ影響を及ぼす。第2の変異(Phe 93からAlaへ)は、野生型のフェニル環のCε位の近傍にある水分子(H2O 339)に余地を与える。水分子は、NADHのニコチンアミド酸素、および触媒亜鉛のリガンドの1つであるAsp 170のカルボニル酸素に、水素結合する。Ala 338の主鎖カルボニル酸素と、第3の弱い水素結合が形成される。水分子とAsp 170との強い水素結合は、主鎖のコンフォメーションを変形させるので、亜鉛の配位を弱める。水素結合を形成するためにAsp 170の側鎖は約14°回転する必要がある(図9)。この回転によって、亜鉛イオンとそのカルボニル酸素間の距離が2.0から2.4Åに増加する。亜鉛の最適な配位が失われることで、二重変異体の活性の全体的低下が説明されるであろう。さらに、野生型酵素およびI301L変異体より大きい活性部位は、ホルムアルデヒドが触媒反応のために有利な向きをとることを妨げると思われる。このことは、観察された、ホルムアルデヒドからアセトアルデヒドへの特異性の切り替えを説明することができると考えられる。変異のもう一つの影響はMet 337のコンフォメーションの変化である。Met 337のCε原子は前のフェニル環の位置に向かって90°回転している。このコンフォメーションは、タンパク質においてメチオニンにもっとも好ましい回転異性体であるため、非常に低エネルギーのコンフォメーションである。
【0275】
これらの結果は全体として、FDM I301L単一変異体が技術的応用のためにもっとも好ましい候補であることを示唆する。
【実施例14】
【0276】
改変アニオン性ポリアルキルグリコール-フェノール-FA樹脂中のFA含量を減少させるためにFDM I301L変異体の乾燥製剤を使用すること
約120 ppmの残存FA含量を有する、さらに改変されたアニオン性ポリアルキルグリコール-フェノール-FA樹脂を、乾燥FDM I301L製剤(製剤の比活性:約50 U/mg)で処理した。テストは、樹脂に50 mg/Lの酵素粉末を加えた後、室温でインキュベートすることにより行った。次の表(表13)は、5時間後および42日後の残存ホルムアルデヒド(ppm)を示す。
【0277】

ホルムアルデヒド含量は、実施例3に記載のように、アセチルアセトン法により測定した。
【実施例15】
【0278】
改変βナフタレン-FAスルホネート樹脂中のFA含量を減少させるためにFDM I301L変異体の乾燥製剤を使用すること
水溶性ポリマー溶液(改変βナフタレン-FAスルホネート樹脂)をさまざまな量のFDM I301L乾燥製剤で処理し(20から200 mg製剤/ Lポリマー溶液)、室温にて5時間インキュベートした。この時点で同じ量の酵素を添加し、インキュベーションを11日までの間継続した。次の表(表14)は、2 x 50 mg/Lの乾燥酵素製剤を用いた5時間、24時間、4日、7日および11日後の残存ホルムアルデヒド(ppm)を示す。
【0279】

ホルムアルデヒド含量は、実施例3に記載のように、アセチルアセトン法により測定した。
【実施例16】
【0280】
安定化されたアニオン性アクリレートコポリマー分散液中のFA含量を減少させるための、FDM I301L変異体の乾燥製剤の使用
安定化されたアニオン性アクリレートコポリマー水中分散液(固体含量54%)を、室温にて、10 mg/L の乾燥FDM I301L製剤で処理した。遠心(14,000 rpmで2-4時間、室温)後、透明な水相のホルムアルデヒド含量を測定した。次の表(表15)は、酵素処理の5、24および96時間後の分散液中のホルムアルデヒド含量(ppm)を示す。
【0281】

ホルムアルデヒド含量は実施例3に記載のように、アセチルアセトン法により測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルムアルデヒド含有製剤におけるホルムアルデヒド含量を低下させるための、ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品の使用。
【請求項2】
酵素標品がEC分類E.C. 1.2の酵素を含有する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
酵素標品が、その補酵素と密接に結合した酵素を含有する、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
酵素標品が、配列番号2のアミノ酸配列を有する酵素、またはそのバリアントを含有する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の使用。
【請求項5】
バリアントが、他の任意のアミノ酸で置換された、93位のフェニルアラニン、および/または301位のイソロイシン、および/または337位のメチオニン、および/または127位のフェニルアラニンを有する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
製剤が樹脂である、請求項1〜5のいずれか1つに記載の使用。
【請求項7】
樹脂が、繊維製品の仕上げ加工に適した架橋剤、または顔料捺染のための固定剤である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
繊維製品がセルロース繊維を含有する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
繊維製品が綿である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
樹脂がポリマー分散剤である、請求項6に記載の使用。
【請求項11】
ポリマー分散剤が、ナフタレンホルムアルデヒド縮合物、フェノールホルムアルデヒド縮合物、尿素ホルムアルデヒド縮合物、およびメラミンホルムアルデヒド縮合物、ならびにそれらの混合物からなる一群から選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品とホルムアルデヒド含有製剤を接触させることを含む、前記製剤中のホルムアルデヒド含量を減少させるための方法。
【請求項13】
製剤が、繊維製品の仕上げ加工に適した架橋剤、またはポリマー分散剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品と繊維製品を接触させることを含む、繊維製品中のホルムアルデヒド含量を減少させるための方法。
【請求項15】
酵素標品が、請求項2〜5のいずれか1つに記載の酵素を含有している、請求項12〜14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
繊維製品仕上げ加工に適した製剤であって、架橋剤、およびホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品を含有する前記製剤。
【請求項17】
架橋剤が、メラミン-FA、尿素-FA、もしくはジメチロールジヒドロキシエチレン尿素、またはそれらの誘導体からなる一群から選択される、請求項16に記載の製剤。
【請求項18】
建築資材、繊維板、パーチクルボード、合板、木材、革、塗料、および/または絨毯を処理するために好適な製剤であって、ポリマー分散剤、およびホルムアルデヒドの分解を触媒する酵素標品を含有する前記製剤。
【請求項19】
ポリマー分散剤が、ナフタレンホルムアルデヒド縮合物、フェノールホルムアルデヒド縮合物、尿素ホルムアルデヒド縮合物、およびメラミンホルムアルデヒド縮合物、ならびにそれらの混合物からなる一群から選択される、請求項18に記載の製剤。
【請求項20】
酵素標品が、請求項2〜5のいずれか1つに記載の酵素を含有している、請求項16〜19のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項21】
アルデヒドジスムターゼ活性を有する単離されたポリペプチドであって、配列番号2の93位のフェニルアラニン、および/または配列番号2の301位のイソロイシン、および/または配列番号2の337位のメチオニン、および/または配列番号2の127位のフェニルアラニンが任意の他のアミノ酸で置換されている配列番号2のバリアントを含有する、前記ポリペプチド。
【請求項22】
ポリペプチドが、
(i) 配列番号8または10のいずれか1つによって表されるアミノ酸配列;
(ii) 配列番号8、10または12のうちいずれか1つによって表されるアミノ酸配列に対して、少なくとも50%, 51%, 52%, 53%, 54%, 55%, 56%, 57%, 58%, 59%, 60%, 61%, 62%, 63%, 64%, 65%, 66%, 67%, 68%, 69%, 70%, 71%, 72%, 73%, 74%, 75%, 76%, 77%, 78%, 79%, 80%, 81%, 82%, 83%, 84%, 85%, 86%, 87%, 88%, 89%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%, または99%配列同一性を有するアミノ酸配列;
(iii) 上記(i)もしくは(ii)で与えられるアミノ酸配列のうちいずれか1つの誘導体、
から選択される、請求項21に記載のポリペプチド。
【請求項23】
請求項21または22に記載のポリペプチドをコードする、単離された核酸。
【請求項24】
核酸が、
(i) 配列番号7または9のいずれか1つで表される核酸;
(ii) 配列番号7または9のいずれか1つで表される核酸の相補物;
(iii) 好ましくは遺伝子コードの縮重の結果として、配列番号8または10のいずれか1つで表されるポリペプチドをコードする核酸であって、この単離された核酸が、配列番号8または10のいずれか1つにより表されるポリペプチド配列から導かれうる、前記核酸;
(iv) 配列番号7または9の核酸配列のいずれか1つと、少なくとも30 %, 31%, 32%, 33%, 34%, 35%, 36%, 37%, 38%, 39%, 40%, 41%, 42%, 43%, 44%, 45%, 46%, 47%, 48%, 49%, 50%, 51%, 52%, 53%, 54%, 55%, 56%, 57%, 58%, 59%, 60%, 61%, 62%, 63%, 64%, 65%, 66%, 67%, 68%, 69%, 70%, 71%, 72%, 73%, 74%, 75%, 76%, 77%, 78%, 79%, 80%, 81%, 82%, 83%, 84%, 85%, 86%, 87%, 88%, 89%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%, または99%の配列同一性を有する核酸;
(v) ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で(i)から(iv)の核酸分子とハイブリダイズする核酸分子;
(vi) アルデヒドジスムターゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸であって、そのポリペプチドが、配列番号8または10のいずれか1つにより表されるアミノ酸配列に対して、少なくとも50%, 51%, 52%, 53%, 54%, 55%, 56%, 57%, 58%, 59%, 60%, 61%, 62%, 63%, 64%, 65%, 66%, 67%, 68%, 69%, 70%, 71%, 72%, 73%, 74%, 75%, 76%, 77%, 78%, 79%, 80%, 81%, 82%, 83%, 84%, 85%, 86%, 87%, 88%, 89%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%, または99%の配列同一性を有する、前記核酸、
から選択される、請求項23に記載の核酸。
【請求項25】
少なくとも1つの核酸制御配列に機能的に連結された、請求項23または24に記載の核酸を含んでなる、発現カセット。
【請求項26】
請求項25に記載の発現カセット、または請求項23もしくは24に記載の核酸を含んでなる、組換え発現ベクター。
【請求項27】
請求項26に記載の発現ベクターを保有する組換え微生物。
【請求項28】
請求項21または22に記載のポリペプチドを調製する方法であって、請求項27に記載の組換え微生物を培養すること、ならびに、必要に応じて培養物から前記ポリペプチドを単離することを含んでなる、前記方法。
【請求項29】
アルデヒド含有製剤中のアルデヒド含量を減少させるための、請求項21もしくは22に記載のポリペプチド、または請求項28にしたがって調製された発現産物の使用。
【請求項30】
アルデヒドがアセトアルデヒドまたはメチルグリオキサールである、請求項29に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−522528(P2012−522528A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503977(P2012−503977)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054284
【国際公開番号】WO2010/115797
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】