説明

アルドース還元酵素阻害剤

【課題】優れたアルドース還元酵素阻害剤を得ることができ、しかも、天然の食用植物に由来する組成物であって、副作用がなく長期にわたって摂取できる安全な食品組成物又は医薬組成物を提供する。
【解決手段】前記課題を解決するための本発明のアルドース還元酵素阻害剤は、月見草種子、ライチ種子、及び黒米の溶媒抽出物を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、月見草種子、ライチ種子、及び黒米由来のアルドース還元酵素阻害剤に関するもので、また、前記没食子酸類、前記プロアントシアジニン類、前記カテキン類、及び前記ペンタガロイルグルコース類を含有するアルドース還元酵素阻害剤に関するものである。本発明は、飲食品、薬品等の素材として広く利用されるものである。
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
【0002】
我々は毎日、多くの糖質を食している。口から摂取した糖質は、体内のα・グルコシダーゼ等により代謝されて、単糖に分解された後、消化管から吸収される。過食、運動不足等により、インスリンが作用不足となり高血糖が持続し、糖尿病が発生する。糖尿病が進行すると、糖尿病由来の合併症等の重大な疾病をもたらす可能性がある。例えば、高血糖状態が続くと、様々な組織に分布しているアルドース還元酵素によって、グルコースからソルビトールへの変換が亢進される。その結果、細胞内でソルビトールが蓄積し、細胞浮腫と神経細胞変性などが糖尿病合併症として発症する。従って、アルドース還元酵素は、糖尿病合併症である神経障害の発症に深く関与していると考えられている。このような背景から糖尿病合併症の予防と治療には、原因となるソルビトールを生成させる変換酵素つまりアルドース還元酵素の作用を止める必要があると考えられている。
【0003】
本発明者らは、月見草種子、ライチ種子、及び黒米等の抽出物が、これら糖尿病合併症の発生に関与するアルドースレダクターゼの活性を強力に阻害することを新たに見出した。
【0004】
本発明の目的は、糖尿病合併症の予防および緩和においてきわめて有効なアルドース還元酵素阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明のアルドース還元酵素阻害剤は、没食子酸類、プロアントシアジニン類、カテキン類、及びペンタガロイルグルコース類、から選ばれる少なくとも1種を含有するポリフェノール成分を有効成分とすることを特徴とする。
また、本発明のアルドース還元酵素阻害剤は、月見草種子、ライチ種子、及び黒米のうちの少なくとも1種に由来するポリフェノール成分を有効成分とすることを特徴とする。
【0006】
更に、本発明のアルドース還元酵素阻害剤は、月見草種子、ライチ種子、及び黒米のうちの少なくとも1種からアルコール及び/又は水を用いて抽出された抽出物を配合してなることを特徴とする。
また、前記抽出物に含有するポリフェノール成分の含有量は、前記抽出物の全質量を100質量%とした場合、40〜99質量%であることが好ましい。
更に、前記ポリフェノール成分に含有される前記没食子酸類、前記プロアントシアジニン類、前記カテキン類、及び前記ペンタガロイルグルコース類の含有量の合計は、前記ポリフェノール成分の全質量を100質量%とした場合、50〜85質量%であることが好ましい。
【0007】
また、前記ポリフェノール成分に含有される前記没食子酸類、前記プロアントシアジニン類、前記カテキン類、及び前記ペンタガロイルグルコース類の各含有量は、前記ポリフェノール成分の含有量の合計を100質量%とした場合、没食子酸類3〜7質量%、プロアントシアジニン類55〜75質量%、カテキン類4〜7質量%、ペンタガロイルグルコース類3〜6質量%であることが好ましい。
また、本発明の糖尿病合併症予防用組成物は前記アルドース還元酵素阻害剤を含有してなることを特徴とする。
【0008】
更に、本発明の医薬品は、本発明の前記アルドース還元酵素阻害剤又は前記糖尿病合併症予防用組成物を含有することを特徴とする。
また、本発明の飲食品は、前記アルドース還元酵素阻害剤又は前記糖尿病合併症予防用組成物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明のアルドース還元酵素阻害剤は、アルドースレダクターゼの活性を強力に阻害する。従って、アルドース還元酵素阻害剤を摂取することにより糖尿病合併症を効果的に予防し、更に、糖尿病合併症に羅患した場合も、その症状を効果的に緩和することができる。
また、本発明の医薬品は上記アルドース還元酵素阻害剤を含むので、糖尿病の合併症の予防及び緩和に極めて有効である。
更に、本発明の飲食品は上記アルドース還元酵素阻害剤を含むので、糖尿病の合併症の予防及び緩和に極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
上記「ポリフェノール」は、没食子酸類、エラグ酸類、プロアントシアジニン類、カテキン類、及びペンタガロイルグルコース類等フェノール系水酸基を含む化合物の総称である。ここで、本発明の上記「ポリフェノール成分」には、特に、上記「没食子酸類」、上記「エラグ酸類」、上記「プロアントシアジニン類」、上記「カテキン類」、及び上記「ペンタガロイルグルコース類」を含有している。これらは1種のみ含有しても良いし、2種類以上含有しても良く、また、これら以外のポリフェノールを含有していてもよい。
また、このポリフェノール成分は、没食子酸類、エラグ酸類、プロアントシアジニン類、カテキン類、及びペンタガロイルグルコース類のうちの少なくとも1種を含有していれば良いが、没食子酸類、プロアントシアジニン類、カテキン類、及びペンタガロイルグルコース類の全てを含有することが好ましい。アルドース還元酵素に対する高い阻害活性が得られるからである。
【0011】
また、没食子酸類、エラグ酸類、プロアントシアジニン類、カテキン類、及びペンタガロイルグルコース類は、没食子酸、エラグ酸、プロアントシアジニン、カテキン、及びペンタガロイルグルコースの誘導体の形であってもよい。詳細には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、アルミニウムといった金属類やアンモニウム等によって生じる塩類、アルコールや脂肪酸、アルキルハロゲナイド類などとの反応によって得られるアルキルエステルの如くのエステル類およびそれらの塩類、また、リン酸基を導入したリン酸化化合物、硫酸基を導入した硫酸化化合物、さらに、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールのようなC〜Cの程度の炭素鎖を有するアルキレンオキサイド類との反応によって得られるアルキルエーテル誘導体、グリシジルトリアルキルアンモニウムハロゲナイドの如く第4級アミンを分子内に有する基質との反応に生じる第4級アルキルアミン誘導体およびその塩類といった形で利用することもできる。
【0012】
また、上記ポリフェノール成分に含有される没食子酸類、プロアントシアジニン類、カテキン類、及びペンタガロイルグルコース類の含有量の合計は特に限定されないが、上記ポリフェノール成分の全質量を100質量%とした場合、50〜85質量%、好ましくは70〜83質量%、より好ましくは75〜81質量%とすることができる。上記含有量とすることによりアルドース還元酵素に対する高い阻害活性が得られるからである。
【0013】
また、(a)没食子酸類(b)プロアントシアジニン類(c)カテキン類、及び(d)ペンタガロイルグルコース類の各含有量は上記ポリフェノール成分の含有量の合計を100質量%とした場合、(a)没食子酸類3〜7質量%、(b)プロアントシアジニン類55〜75質量%(c)カテキン類4〜7質量%、(d)ペンタガロイルグルコース類3〜6質量%、好ましくは(a)没食子酸類4〜6質量%、(b)プロアントシアジニン類60〜70質量%、(c)カテキン類5〜6質量%、及び(d)ペンタガロイルグルコース類4〜5質量%、とすることが好ましい。上記含有量とすることによりアルドース還元酵素に対する高い阻害活性が得られるからである。
【0014】
更に、上記ポリフェノール成分は、月見草種子、ライチ種子、及び黒米(以下、これらを「ポリフェノール原料」という。)に由来するものである。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。また、これらのうち、月見草種子に由来するものが好ましい。上記(a)〜(d)のポリフェノールを多く含有しているので、より高いアルドース還元酵素阻害活性が得られるからである。
更に、上記月見草種子として、脱脂月見草種子を使用するのが好ましい。これは、種子中の油分を除くことにより、有効成分が脱脂物中に濃縮されるためである。脱脂方法は特に限定されないが、例えば、月見草種子を圧搾して油分を分離した後、圧搾物の残留油分を脂溶性有機溶媒により抽出分離するとよい。
好ましい脱脂用溶媒としては、n−ヘキサンが挙げられる。n−ヘキサンを使用すると、抽出油分を食用油として使用し得るとともに、脱脂月見草種子の抽出物を食品素材等に利用しやすくなる。なお、脱脂用の溶媒は、n−ヘキサンに限ることなく、アセトン等その他の非極性溶媒を用いることも可能である。
【0015】
上記ポリフェノール原料からポリフェノール成分を得る方法は特に限定されないが、例えば、上記ポリフェノール原料から極性溶媒を用いて抽出することによって得ることができる。
これらを抽出する極性溶媒として、例えば、水、アルコール、アセトン、酢酸エチル等が挙げられる。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上併用しても良い。また、これらのうち、水及び/又はアルコールを用いることが好ましく、更に、上記アルコールとしてエタノールを用いることがより好ましい。特に、含水エタノールを用いることが最も好ましい。
【0016】
抽出溶媒としての含水エタノール中のエタノール濃度は、含水エタノールの全体積を100体積%とした場合、40〜90体積%、好ましくは60〜80体積%とするとよい。エタノール濃度が40体積%未満であると、有効成分の抽出量が不十分になり、また、90体積%を超えると、月見草種子の油分が溶媒中に溶け出しやすくなるからである。なお、エタノール抽出は、有効成分の含有率を向上させるため、種々の濃度で繰り返すとよい。
【0017】
抽出方法としては、連続抽出、浸漬抽出、向流抽出、超臨界抽出など任意の方法を採用することができ、室温ないし還流加熱下において任意の装置を使用することができる。
【0018】
具体的な方法としては、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料(月見草種子又はその脱脂物)を投入し、攪拌しながら有効成分を溶出させる。例えば、抽出溶媒として含水エタノールを用いる場合には、抽出原料の5〜100倍量程度(重量比)の極性溶媒を使用し、30分〜2時間程度に抽出を行う。溶媒中に有効成分を溶出させた後、ろ過して抽出残渣を除くことによって抽出液を得る。その後、必要に応じて常法に従って抽出液に希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施し、抽出物とする。
なお、精製方法としては、例えば、活性炭処理、樹脂吸着処理、シリカゲル処理、イオン交換樹脂処理、液−液向流分配処理等の方法が挙げられるが、食品等に添加する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままで使用してもよい。
また、本発明に用いられるアルコール抽出物に含有されるポリフェノール成分の含有量は特に限定されないが、上記アルコール抽出物の全質量を100質量%とした場合、40〜99質量%、好ましくは55〜90質量%、より好ましくは60〜90質量%とすることができる。上記の範囲とすることにより、より高いアルドース還元酵素阻害活性を示すからである。
【0019】
本発明のアルドース還元酵素阻害剤におけるアルドース還元酵素阻害率は、下記実施例の方法にて測定した場合、濃度が1μg/mlのとき、1.5〜45%、好ましくは5〜35%、より好ましくは10〜30%、更に好ましくは20〜28%とすることができる。また、濃度が3μg/mlのとき、7〜75%、好ましくは、20〜70%より好ましくは40〜65%、更に好ましくは45〜60%とすることができる。更に、濃度が10μg/mlのとき、20〜99%、好ましくは50〜99%より好ましくは70〜99%、更に好ましくは90〜99%とすることができる。濃度が30μg/mlのとき、25〜100%、好ましくは、70〜100%より好ましくは80〜100%、更に好ましくは90〜100%とすることができる。濃度が100μg/mlのとき、50〜100%、好ましくは、80〜100%より好ましくは85〜100%、更に好ましくは90〜100%とすることができる。
【0020】
本発明のアルドース還元酵素阻害剤は、各種飲食品の素材として使用することができる。飲食品としては、例えば、菓子類(ガム、キャンディー、キャラメル、チョコレート、クッキー、スナック、ゼリー、グミ、錠菓等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、乳製品(ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト等)、調味料(味噌、醤油等)、スープ類、飲料(ジュース、コーヒー、紅茶、茶、炭酸飲料、スポーツ飲料等)をはじめとする一般食品や、健康食品(錠剤、カプセル等)、栄養補助食品(栄養ドリンク等)が挙げられる。これらの飲食品に本発明のアルドース還元酵素阻害剤を適宜配合するとよい。
【0021】
これら飲食品には、その種類に応じて種々の成分を配合することができ、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等の食品素材を使用することができる。
【0022】
具体的な製法としては、上記ポリフェノール原料の溶媒抽出物を粉末セルロースとともにスプレードライまたは凍結乾燥し、これを粉末、顆粒、打錠または溶液にすることで容易に飲食品(インスタント食品等)に含有させることができる。また、上記ポリフェノール原料の溶媒抽出物を、例えば、油脂、エタノール、グリセリンあるいはこれらの混合物に溶解して液状にし、飲料に添加するか、固形食品に添加することが可能である。必要に応じてアラビアガム、デキストリン等のバインダーと混合して粉末状あるいは顆粒状にし、飲料に添加するか固形食品に添加することも可能である。
【0023】
本発明のアルドース還元酵素阻害剤を飲食品に適用する場合の添加量としては、病気予防や健康維持が主な目的であるので、飲食品に対して有効成分の含量が合計1〜20質量%であるのが好ましい。
【0024】
本発明のアルドース還元酵素阻害剤は、薬品(医薬品および医薬部外品を含む。)の素材として用いてもよい。薬品製剤用の原料に、本発明のアルドース還元酵素阻害剤を適宜配合して製造することができる。本発明のアルドース還元酵素阻害剤に配合しうる製剤原料としては、例えば、賦形剤(ブドウ糖、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等)、結合剤(蒸留水、生理食塩水、エタノール水、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(アルギン酸ナトリウム、カンテン、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖、アラビアゴム末、ゼラチン、エタノール等)、崩壊抑制剤(白糖、ステアリン、カカオ脂、水素添加油等)、吸収促進剤(第四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等)、吸着剤(グリセリン、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、硅酸等)、滑沢剤(精製タルク、ステアリン酸塩、ポリエチレングリコール等)などが挙げられる。
【0025】
本発明によるアルドース還元酵素阻害剤の投与方法は、一般的には、錠剤、丸剤、軟・硬カプセル剤、細粒剤、散剤、顆粒剤、液剤等の形態で経口投与することができるが、非経口投与であってもよい。非経口剤として投与する場合は、溶液の状態、または分散剤、懸濁剤、安定剤などを添加した状態で、局所組織内投与、皮内、皮下、筋肉内および静脈内注射などによることができる。また、坐剤、点眼剤などの形態としてもよい。
【0026】
投与量は、投与方法、病状、患者の年齢等によって変化し得るが、大人では、通常、1日当たり有効成分として0.5〜5000mg、子供では通常0.5〜3000mg程度投与することができる。
上記アルドース還元酵素阻害剤の配合比は、剤型によって適宜変更することが可能であるが、通常、経口または粘膜吸収により投与される場合は約0.3〜15.0質量%、非経口投与による場合は、0.01〜10質量%程度にするとよい。なお、投与量は種々の条件で異なるので、前記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要のある場合もある。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0028】
[アルドース還元酵素阻害剤の製造]
(実施例1)
原料には、月見草油の製造過程で得られる圧搾粕を使用した。
まず、圧搾粕を破砕し、n−ヘキサンで還流し、圧搾粕に残存する油分を除いて脱脂物とした。次いで、この脱脂物を70体積%エタノールで還流し、エタノール抽出液を乾固させてアルドース還元酵素阻害剤とした。
(実施例2)
黒米100gに70体積%エタノール500mlを加えて加熱抽出し、その後、ろ過し、得られたろ液を乾固させてアルドース還元酵素阻害剤とした。
(実施例3)
ライチ種子100gに70体積%エタノール500mlを加えて加熱抽出し、その後ろ過し、得られたろ液を乾固させてアルドース還元酵素阻害剤とした。
【0029】
[月見草抽出物(実施例1)に含有するポリフェノール成分の分析]
(1)総ポリフェノール成分の定量の測定
上記実施例1の抽出物に含まれるポリフェノール成分の含有量の総量は、Foiln−Ciocalteu法にて分析した。すなわち、実施例1の月見草抽出物を100μg/ml、10質量%メタノール溶液に、10倍に希釈したFoiln−Ciocalteu試薬2.5mlを加え、その後、30秒以上8分以内に7.5質量%の炭酸ナトリウム溶液2ml加えてよく攪拌した。そして室温にて2時間放置した後、日立製作所製U−3200分光光度計にて765nmの吸光度を測定し、没食子酸(SIGMA製)を相当量としてポリフェノール成分の含有量の総量を求めた。
【0030】
(2)プロアントシアジニンの含有量の測定
上記実施例1の抽出物に含まれるプロアントシアジニンの含有量の総量は、Porter法を改変した方法にて測定した。
すなわち、実施例1の月見草抽出物と、メタノールを10質量%含有する含水メタノールとを混合した。混合比はこの含水メタノール1ml当たり100μgとなるようにした。そして、この混合液1mlに濃塩酸のn−ブタノール溶液(体積比にてn−ブタノール:濃塩酸=95:5)6ml及び2質量%のFe(NH)(SO・2HO水溶液0.2mlを順次加え、攪拌した。そして、この混合液を蓋付試験管内で95℃にて40分加熱した後、冷却を行った。その後、この混合液の550nmにおける吸光度を日立製作所製U−3200分光光度計にて測定し、プロアントシアジニンB2(アサヒビール製)相当量としてプロアントシアジニンの含有量の総量を測定した。
【0031】
(3)没食子酸、カテキン、及びペンタガロイルグルコースの各含有量の測定
没食子酸、カテキン、及びペンタガロイルグルコースの各含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。HPLCの分析条件は下記のとおりである。
注入試料:上記実施例1の月見草抽出物を80質量%含水エタノールにて5mg/mlとなるように調製したもの。
検出器:SPD−10A検出器(島津製作所製)。
データ処理装置:R−7Aplus(島津製作所製)。
カラム:Develosil ODS−UG−5カラム(4.6mm×250mm野村化学製)。
移動相:体積比にてHPO(0.05M)/NaHPO(0.05M)/エタノール/酢酸エチル=40/40/15/5。
流速:0.5ml。
検出波長:280nm。
カラム槽温度:40℃。
試料注入量:5μl。
【0032】
このとき、没食子酸及びカテキンの同定には市販の標準品(SIGMA製)を用いた。また、ペンタガロイルグルコースの同定には、Yoshizawaらの文献(Cancer Preventative Agents,ACSsymposium series,507巻,316−325頁(1992年))に準じた方法にて合成したものを使用した。尚、この合成品のペンタガロイルグルコースは、各種物理化学的測定機器用いた測定値により、実施例1の月見草抽出物から分取したペンタガロイルグルコースと同一物質であることを確認している。
【0033】
(4)上記(3)以外の単一ポリフェノール成分の含有量の測定
上記(3)以外の単一ポリフェノールの成分の含有量の測定はHPLCを用いて下記測定条件にて行った。
注入試料:上記月見草抽出物(実施例1)を80質量%含水エタノールにて5mg/mlとなるように調製したもの。
検出器:L7420 UV−VIS検出器(日立製作所製)。
データ処理装置:D−7000HPLC(日立製作所製)。
カラム:Inertsil ODS−3カラム(4.6mmI.D.×150mmジーエルサイエンス製)。
移動相:A液:体積比にてKHPO(0.05M)/メタノール=80/20。
B液:体積比にてKHPO(0.05M)/メタノール=50/50
尚、このとき使用したKHPOは、HPOにて、pH2.0にて調製したものである。
グラジェント条件:0〜10分のときA液100質量%であり、10分〜50分のときA液100質量%から徐々にB液を増やしていき50分のときB液が100質量%となるようにし、50〜65分のとき、B液が100質量%となるようにする。
流速:1.0ml。
検出波長:280nm。
カラム槽温度:30℃。
試料注入量:10μl。
【0034】
尚、各ポリフェノール成分の同定には、市販の標準品として、(−)−エピカテキン(SIGMA製)、エラグ酸(和光純薬製)、プロアントシアジニンB1(アサヒビール製)、プロアントシアジニンB2(アサヒビール製)、及びプロアントシアジニンC1(アサヒビール製)を用いた。
【0035】
(5)測定結果
上記方法により測定された各ポリフェノール成分の含有量を下記表1の濃度(1)として示し、更に、ポリフェノール成分全質量を100質量%とした場合の含有量を濃度(2)として示した。尚、下記表1においてPGGはペンタガロイルグルコース、PB1は、プロアントシアジニンB1、PB2は、プロアントシアジニンB1、PACは、プロアントシアジニンの合計の含有量を示している。
【0036】
【表1】

上記表1によれば、ポリフェノール成分の含有量の合計は、63.1質量%と本発明の範囲内である。また、エピカテキン及びエラグ酸は、含有しておらず、更に、ポリフェノール成分の全質量を100質量%とした場合における、ペンタガロイルグルコース、没食子酸、カテキン、及びプロアントシアジニンの含有量の合計は、82.6質量%であり、また、ペンタガロイルグルコース、没食子酸、カテキン、及びプロアントシアジニンの各含有量は、それぞれ、4.3質量%、4.9質量%、5.4質量%、65.6質量%であり、本発明の範囲内である。
【0037】
[アルドース還元酵素阻害率の測定]
実施例1〜3について、0.18Mリン酸緩衝液(pH7.0、500μL)、1.5mMNADPH(100μL)、100mMDL−グリセルアルデヒド(100μL)、水(295μL)およびDMSOに溶解したサンプル(10μL)を混合し、30℃で5分間予備加温した。ここに、1unit/mLアルドースレダクターゼ(5μL)を添加して、インキュベートを30分間行った。氷冷により反応を停止した後、反応液の吸光度(340nm)を測定した。
この測定値に基づいて酵素活性(%)を算出し、下記計算式により、阻害活性(%)を算出した。なお、酵素活性は、サンプル非共存下で測定した吸光度基準(100%)として算出した。
阻害活性(%)=100−酵素活性
尚、上記アルドースレダクターゼとして市販のアルドースレダクターゼ(和光純薬工業社製)を用いた。
更に、比較例としてルテインのアルドース還元酵素阻害率の測定を上記実施例の同様の方法にて測定した。これらの結果を表2示し、これらの結果のグラフを図1に示した。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示すように、ルテイン(比較例)のアルドース還元酵素阻害率は、濃度が10μg/mlのとき−21.0%であり、30μg/mlのとき−19.6%、100μg/mlのとき、−10.7%であり、アルドース還元酵素阻害活性がかなり劣っていることが判る。
これに対し、月見草、黒米及びライチのアルコール抽出物からなるアルドース還元酵素阻害剤(実施例1〜3)の場合、アルドース還元酵素阻害率は、濃度が1μg/mlのとき、1.9〜26.6%、濃度が3μg/mlのとき、8.8〜55.7%、濃度が10μg/mlのとき、99.0〜26.6%、濃度が30μg/mlのとき、28.0〜99.6%、濃度が100μg/mlのとき、57.5〜100.0%とすることができ、優れていることが判る。
特に、月見草のアルコール抽出物からなるアルドース還元酵素阻害剤(実施例1)の場合、アルドース還元酵素阻害率は、濃度が1ug/mlのとき、26.6%、濃度が3μg/mlのとき、55.7%、濃度が10μg/mlのとき、99.0%、濃度が30μg/mlのとき、99.6%、濃度が100μg/mlのとき、100.0%とすることができ、特に優れていることが判る。
【0040】
[配合例]
本発明によるアルドース還元酵素阻害剤の配合例を示す。尚、下記配合例は発明の要旨を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内での変更は可能であることはもちろんである。
配合例1:チューインガム
砂糖 53.0質量%
ガムベース 20.0
グルコース 10.0
水飴 16.0
香料 0.5
アルドース還元酵素阻害剤 0.5
100.0質量%
【0041】
配合例2:グミ
還元水飴 40.0質量%
グラニュー糖 20.0
ブドウ糖 20.0
ゼラチン 4.7
水 9.68
ユズ果汁 4.0
ユズフレーバー 0.6
色素 0.02
アルドース還元酵素阻害剤 1.0
100.0質量%
【0042】
配合例3:キャンディー
砂糖 50.0質量%
水飴 33.0
水 14.4
有機酸 2.0
香料 0.2
アルドース還元酵素阻害剤 0.4
100.0質量%
【0043】
配合例4:ヨーグルト(ハード・ソフト)
牛乳 41.5質量%
脱脂粉乳 5.8
砂糖 8.0
寒天 0.15
ゼラチン 0.1
乳酸菌 0.005
アルドース還元酵素阻害剤 0.4
香料 微量
水 残余
100.0質量%
【0044】
配合例5:清涼飲料
果糖ブドウ糖液糖 30.0質量%
乳化剤 0.5
アルドース還元酵素阻害剤 0.3
香料 適量
精製水 残余
100.0質量%
【0045】
配合例6:錠菓
砂糖 76.4質量%
グルコース 19.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
アルドース還元酵素阻害剤 0.5
精製水 3.9
100.0質量%
【0046】
配合例7:ソフトカプセル
玄米胚芽油 47.0質量%
ユズ種子油 40.0
乳化剤 12.0
アルドース還元酵素阻害剤 1.0
100.0質量%
【0047】
配合例8:錠剤
乳糖 54.0質量%
結晶セルロース 30.0
澱粉分解物 10.0
グリセリン脂肪酸エステル 5.0
アルドース還元酵素阻害剤 1.0
100.0質量%
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、次のような優れた効果を奏する。
(a)月見草種子、ライチ種子、及び黒米由来の安全な抽出物を摂取することにより、優れたアルドース還元酵素阻害剤を得ることができ、糖尿病由来の網膜症等の合併症を効果的に予防または治療することができる。
(b)月見草種子、ライチ種子、及び黒米由来の安全な抽出物であるから、飲食品や薬品の素材として安心して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】 実施例1〜3のアルドース還元酵素阻害剤の濃度とアルドース還元酵素阻害率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
没食子酸類、プロアントシアジニン類、カテキン類、及びペンタガロイルグルコース類から選ばれる少なくとも1種を含有するポリフェノール成分を有効成分とするアルドース還元酵素阻害剤。
【請求項2】
月見草種子、ライチ種子、及び黒米のうちの少なくとも1種に由来するポリフェノール成分を有効成分とするアルドース還元酵素阻害剤。
【請求項3】
月見草種子、ライチ種子、及び黒米のうちの少なくとも1種からアルコール及び/又は水を用いて抽出された抽出物を配合してなるアルドース還元酵素阻害剤。
【請求項4】
前記抽出物に含有するポリフェノール成分の含有量は、前記抽出物の全質量を100質量%とした場合、40〜99質量%である請求項3に記載のアルドース還元酵素阻害剤。
【請求項5】
前記ポリフェノール成分に含有される前記没食子酸類、前記プロアントシアジニン類、前記カテキン類、及び前記ペンタガロイルグルコース類の含有量の合計は、前記ポリフェノール成分の全質量を100質量%とした場合、50〜85質量%である請求項1〜4に記載のアルドース還元酵素阻害剤。
【請求項6】
前記ポリフェノール成分に含有される前記没食子酸類、前記プロアントシアジニン類、カテキン類、及び前記ペンタガロイルグルコース類の各含有量は、前記ポリフェノール成分の含有量の合計を100質量%とした場合、前記没食子酸類3〜7質量%、前記プロアントシアジニン類55〜75質量%、前記カテキン類4〜7質量%、前記ペンタガロイルグルコース類3〜6質量%である請求項1〜5に記載のアルドース還元酵素阻害剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルドース還元酵素阻害剤を含有してなる糖尿病合併症予防用組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルドース還元酵素阻害剤又は請求項7に記載の糖尿病合併症予防用組成物を含有する医薬品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルドース還元酵素阻害剤又は請求項7に記載の糖尿病合併症予防用組成物を含有する飲食品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−335752(P2006−335752A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188919(P2005−188919)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(594045089)オリザ油化株式会社 (96)
【Fターム(参考)】