説明

アルファ粒子放射体除去

【課題】低濃度のアルファ粒子放射性不純物を有する金属組成物の分野、および金属組成物からアルファ粒子放射性不純物を除去する方法を提供する。
【解決手段】アルファ放射性物質を有する酸性金属溶液を提供し、アルファ放射性物質の少なくとも一部分を除去するのに充分な期間にわたって金属溶液をイオン交換樹脂と接触させ、イオン交換樹脂と金属溶液とを分離して精製された金属溶液を提供する。イオン交換樹脂が、キレート化樹脂、アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂、チタニアベースの吸着性樹脂、並びにこれらの混合物から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低濃度のアルファ粒子放射性不純物を有する金属組成物の分野、および金属組成物からアルファ粒子放射性不純物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの製造には多くの様々な金属が使用される。これら金属のいくつかは、アルファ粒子を放射する特定の放射性同位元素(アルファ粒子放射体)を低濃度で含む場合がある。これら放射されるアルファ粒子は「ソフトエラー」と称される電気的状態の変化を引き起こしうる。このエラーは永続的ではないので「ソフト」と称される。しかし、これらのエラーは典型的には、少なくとも1ラウンドの誤った計算を引き起こす。これらソフトエラーは集積回路チップ製造についてますます大きな問題となっている。
【0003】
イオン化放射線の多くのソースが存在するが、半導体デバイスパッケージについて高頻度で最も問題があるこのソースははんだである。はんだは一般的に、集積回路(IC)チップをパッケージまたは基体に取り付けるために、半導体デバイスパッケージングにおいて利用される。IC回路を取り付けるはんだがアルファ粒子放射体を含む場合には、このICのごく近傍にアルファ粒子が放射され、パッケージ半導体デバイスにダメージを引き起こしうる。
【0004】
ICチップ回路の継続した小型化および増大する性能要求は、チップ製造者にイオン化放射線、例えばアルファ粒子の影響についてより多くの注意を払わせてきた。例えば、あるパッケージ設計は、アルファ粒子からICを保護するための遮蔽を組み込む。このような遮蔽は常に効果的なわけではなく、それはICチップパッケージの複雑さを追加する。よって、はんだ内のアルファ粒子放射体の濃度を低減することが望まれる。
【0005】
鉛は、スズ−鉛合金のような多くのはんだの一般的な成分である。しかし、鉛の同位体の1種(特に210Pb)はアルファ粒子に至る崩壊系列を有する。210Pbはウラン崩壊系列のメンバーであり、これはバルク金属材料(例えば、銀およびスズ)内の不純物としてのアルファ粒子放射体の主たる原因物質である。さらに、鉛の様々な一般的な汚染物質、例えば、ウラン(234,238U)、トリウム(230Th)、ラジウム(226Ra)、ラドン(222Rn)、ポロニウム(210,218Po)およびビスマス(211,212Bi)の同位体などがアルファ粒子を放射しうる。鉛に存在するアルファ粒子放射体は、鉛が最初に精錬される鉱石中に存在しうる。アルファ粒子放射体は、鉛の処理および/または使用中に、二者択一的にまたは追加的に導入されうる。例えば、リン酸およびいくつかの帯電防止システムはアルファ粒子放射体を含み;いくつかの研磨剤および洗浄剤は鉛にアルファ粒子放射体を導入することができ;並びに、市販の鉛の溶錬はウラン、トリウムおよび他のアルファ粒子放射体を脈石から鉛に導入しうる。
【0006】
鉛に存在するアルファ粒子放射体の量は典型的にはアルファフラックス測定によって決定され、結果はアルファ粒子カウント/単位面積/時間(cts/cm/hr)で示される。0.002〜0.02cts/cm/hrのアルファフラックスを有する鉛を商業的に得ることが可能であるが、より低いアルファフラックスの材料を得るのは非常に困難である。しかし、半導体産業は、例えば、0.0001cts/cm/hr未満のアルファフラックスを有する材料をはじめとする、有意により低いアルファフラックスの材料を必要としている。
【0007】
鉛含有はんだにおいてアルファ粒子放射体の数を低減させるのに使用されてきた方法の一つは、非常に少しの放射体しか含まない鉛材料で始めることである。現在は、このような材料の3種のソースがある:(1)210Pbが実質的に全て崩壊した非常に古い鉛;(2)非常にわずかな210Pbしか有さずかつ注意深く精錬されたある種の特別なPbS鉱体;並びに(3)鉛から210Pb同位体を除去するためにレーザー同位体分離にかけられた鉛。これらソースの全てには様々な問題が存在する。例えば、第1のソースは非常に古い鉛を利用するが、これは多くの場合不充分に精錬されており様々な放射性核種を汚染物質として含む。第2のソースは典型的には、半導体産業の最終的に望まれる要求をみたすのに充分に低いアルファ粒子放射体濃度を有しない。第3のソースは形成するのに非常にエネルギーがかかり、よって商業的に実行可能でない。
【0008】
はんだ中でのアルファ粒子放射体の濃度を低減させる方法の一つは「鉛フリー」はんだを作ることであった。適切な鉛フリーはんだは、様々な金属、例えば純粋なスズ、または合金、例えばスズ−銀、スズ−ビスマス、スズ−銅およびスズ−銀−銅などからなることができる。このようなはんだはたとえあるとしてもほとんど鉛を含まず、これは環境的視点から望ましい。しかし、このようなはんだを製造するために使用される材料は1種以上のアルファ粒子放射体を含む場合があり、かつアルファ粒子放射体を付与する酸、帯電防止剤、クリーナー、研磨剤または溶錬汚染物質に曝されうるので、これら鉛フリーはんだは、望ましくない量の存在するアルファ粒子放射体を依然として有する場合がある。
【0009】
はんだ材料中のアルファ粒子放射性不純物の量を低減させる試みがなされてきた。米国特許第7,521,286号は、水性硝酸浴を用いる電解精錬(electrorefining)によって鉛含有材料中のアルファ粒子放射性物質の量を、0.001cts/cm/hr未満のアルファフラックスまで低減させると主張する。このようなプロセスは依然としてエネルギーおよび時間を大量消費するものであり、鉛フリーはんだ材料からアルファ粒子放射性不純物を除去する問題に取り組んでいない。特開2003−193283号は、電気めっき浴をシリカゲルのような吸着剤と接触させ、次いでめっき浴のpHをアンモニアで強アルカリ性(pH10〜11)に調節し、この吸着剤と接触しているこの浴を一定期間加熱してこの吸着剤にアルファ放射性粒子を吸着させ、この吸着剤を除去し、次いでこの浴を沸騰させてアンモニアを除去し、次いでイオン交換樹脂を用いて残留アンモニアを除去し、次いでこの電気めっき浴を再度酸性化することにより、金属電気めっき浴からアルファ粒子放射性不純物を除去すると主張する。これは商業的に実行可能なプロセスではなく、かつこのプロセス中の塩基および酸の添加のせいで不純物についてより多くの可能性を導入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第7,521,286号明細書
【特許文献2】特開2003−193283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、金属溶液からアルファ粒子放射性不純物を除去する比較的簡単な手順についての必要性が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、アルファ放射性物質を有する酸性金属溶液を提供し;前記アルファ放射性物質の少なくとも一部分を除去するのに充分な期間にわたって前記金属溶液をイオン交換樹脂と接触させ;並びに、前記イオン交換樹脂と前記金属溶液とを分離して精製された金属溶液を提供する;ことを含む、金属溶液を精製する方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は金属溶液を製造する方法であって、金属イオンの酸性水溶液を提供し;アルファ粒子放射性物質を除去することができるイオン交換樹脂を提供し;前記金属イオンの水溶液を前記イオン交換樹脂と接触させて、前記アルファ粒子放射性物質の少なくとも一部分を除去し;次いで、前記イオン交換樹脂と前記金属溶液とを分離する;ことを含む方法を提供する。
【0014】
より具体的には、本発明は比較的低濃度のアルファ粒子放射体を有するスズ溶液を製造する方法であって、6.9以下のpHを有するスズイオンの水溶液を提供し;アルファ粒子放射性物質を除去することができるイオン交換樹脂を提供し;前記スズイオンの水溶液を前記イオン交換樹脂と接触させて、前記アルファ粒子放射性物質の少なくとも一部分を除去し;次いで、前記イオン交換樹脂と前記スズ溶液とを分離する;ことを含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
用語「アルファ粒子放射体」、「アルファ粒子放射性物質」および「アルファ粒子放射性不純物」は交換可能に使用される。他に示されない限りは、全ての量は重量パーセンテージ(重量%)であり、全ての比率はモル比である。全ての数値範囲は包括的であり、かつこのような数値範囲が合計で100%になることに制約されることが明確である場合を除いて任意に組み合わせ可能である。
【0016】
本発明は、酸性金属溶液、好ましくは酸性スズ溶液から、既知のアルファ粒子放射性不純物を選択的に除去する特定のイオン交換樹脂を使用する。本明細書において使用される場合、用語「金属溶液」とは金属が0.01重量%以上の量、好ましくは0.01〜30重量%の量で存在する金属の溶液をいう。金属溶液がスズ−銀金属溶液のように2種以上の金属からなる場合には、それぞれの金属が0.01重量%以上の量、および好ましくは0.01〜30重量%の量で溶液中に存在する。好ましくは、金属溶液を製造するのに使用される金属はスズ、鉛、銀、銅、ビスマス、インジウムおよびこれらの混合物から選択され、より好ましくはスズ、銀、銅、ビスマスおよびこれらの混合物から選択され、さらにより好ましくはスズ、銀、銅およびこれらの混合物から選択され、最も好ましくはスズである。
【0017】
金属溶液は典型的には、元素スズ(Sn)のような元素金属、元素金属合金、または酸化スズ(SnO)のような金属塩を酸に溶解することにより製造される。元素金属の混合物、金属塩の混合物、または元素金属と金属塩との組み合わせが使用されうる。金属溶液を製造するのに使用されうる元素金属の典型的な混合物には、限定されないが、Sn−Ag、Sn−Ag−Cu、Sn−BiおよびSn−Cuが挙げられる。酸性水性媒体中に溶解する金属塩が本方法において使用されうる。典型的な金属塩には、これに限定されないが、金属酸化物、金属水酸化物、金属ハロゲン化物、金属カルボン酸塩、金属硝酸塩、および金属亜硝酸塩などが挙げられる。金属酸化物、金属ハロゲン化物および金属硝酸塩が好ましい金属塩である。Snまたはスズ塩を酸に溶解することによって金属溶液が製造されるのが好ましい。様々な酸が使用されることができ、好ましくはこの酸は鉱酸または有機スルホン酸であり、有機スルホン酸が好ましい。好ましい鉱酸には、限定されないが、ハロゲン化水素(hydrohalogen)酸、硝酸および硫酸が挙げられる。ハロゲン化水素酸はより好ましい鉱酸であり、塩酸がさらにより好ましい。好ましい有機スルホン酸はアルカンスルホン酸およびアリールスルホン酸である。特に好ましい有機スルホン酸には、これに限定されないが、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸およびフェノールスルホン酸が挙げられる。
【0018】
本明細書において使用される場合、用語「酸性金属溶液」とは6.9以下、好ましくは6.5以下のpH値を有する金属溶液をいう。金属溶液のpHが0〜6.5の範囲であるのがより好ましい。例えば、金属溶液が、水性塩酸に元素スズを溶解させることにより製造されるスズ溶液である場合には、pHは3.5以下であるのが好ましく、より好ましくは2以下、さらにより好ましくは1.5以下、およびさらにより好ましくは0.5以下である。あるいは、金属溶液が、酸化スズ(SnO)を水性有機スルホン酸、例えば、メタンスルホン酸に溶解することにより製造されるスズ溶液である場合には、そのpHは4〜6.9の範囲であるのが好ましく、より好ましくは4.5〜6.5、およびさらにより好ましくは5〜6.5である。アルファ粒子放射体を除去するのに有効である本方法については、金属溶液は均質であるべきであり、すなわちそれは沈殿または分散固体を含まないべきである。
【0019】
本金属溶液は、溶液中に含まれるアルファ粒子放射性不純物の少なくとも一部分を除去するために、特定のイオン交換樹脂と接触させられる。適切なイオン交換樹脂はアルファ粒子放射性物質を除去することができるものである。具体的なイオン交換樹脂は、キレート化樹脂、アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂、チタニアベースの吸着性樹脂、並びにこれらの混合物である。好ましいイオン交換樹脂は、イミノジ酢酸樹脂、ニトリロトリ酢酸樹脂、ホスフィノ酢酸樹脂、チオ尿素樹脂、ピコリルアミン樹脂、第四級アミン樹脂、第三級アミン樹脂、芳香族アミン樹脂、チオール樹脂、スルホン化フェノール樹脂、チタニアベースの吸着性樹脂およびこれらの混合物である。特に好ましいイオン交換樹脂はイミノジ酢酸樹脂、チオ尿素樹脂、第四級アミン樹脂、チオール樹脂、チタニアベースの吸着性樹脂およびこれらの混合物である。特定のイオン交換樹脂、例えば、ダウエックス(DOWEX)21kXLT樹脂(ザダウケミカルカンパニーから入手可能)のような第四級アミン樹脂は、234,238Uのようなウランを除去するのに特に有用である。鉛(210Pb)、ポロニウム(210,218Po)、ビスマス(211,212Bi)を除去するのに有用な他のイオン交換樹脂には、第四級アミンイオン交換樹脂、例えば、製品名XZ−91419およびダウエックスPSR−2で販売されているもの;製品名XUS−43600で販売されているチオ尿素ベースの樹脂;製品名アンバーセップ(AMBERSEP)GT−74で販売されているチオールベースの樹脂;製品名アンバーライト(AMBERLITE)IRC748iで販売されているイミノジ酢酸ベースの樹脂;並びに、製品名アンバーライトPWA5で販売されているトリエチルアンモニウム樹脂(全てミシガン州ミッドランドのザダウケミカルカンパニーから入手可能)が挙げられる。
【0020】
金属溶液は広範囲の温度でイオン交換樹脂と接触させられうる。典型的には金属溶液は、15〜90℃の範囲、好ましくは20〜80℃の範囲、およびより好ましくは25〜80℃の範囲の温度でイオン交換樹脂と接触させられうる。金属溶液およびイオン交換樹脂は、1種以上のアルファ粒子放射性不純物を少なくとも部分的に除去するのに充分な期間にわたって接触させられる。一般的には、この接触時間は数分から数日まで、好ましくは15分〜72時間まで、より好ましくは30分〜72時間まで、およびさらにより好ましくは1時間〜72時間まで変化することができる。
【0021】
使用においては、容器内である量のイオン交換樹脂がある量の金属溶液に添加されうる(バッチプロセス)。この混合物は、場合によっては、かき回され、または攪拌されうる。あるいは、イオン交換樹脂を収容しているカラムに金属溶液を通すことによって、金属溶液はイオン交換樹脂と接触させられうる。金属溶液はイオン交換カラムの頂部にシングルバッチとして添加されることができ、または別の方法として、イオン交換カラムはアルファ粒子放射体を除去するために、連続プロセスにおいて使用されうる。このようなイオン交換カラムの設計は充分に当業者の能力の範囲内にある。本プロセスにおいて、バッチにおいてまたはイオン交換カラムにおいて、単一種のイオン交換樹脂(単一床)が使用されることができ、または異なるイオン交換樹脂の混合物(混合床)が使用されうることが認識されるであろう。ある例においては、ダウエックス21kXLT樹脂のような第四級アミン樹脂と、以下の1種以上との混合物が使用される:製品名ダウエックスPSR−2およびXZ−91419で販売されているもののような第四級アミンイオン交換樹脂;製品名XUS−43600で販売されているチオ尿素ベースの樹脂;製品名アンバーセップGT−74で販売されているチオールベースの樹脂;製品名アンバーライトIRC748iで販売されているイミノジ酢酸ベースの樹脂;並びに、製品名アンバーライトPWA5で販売されているトリエチルアンモニウム樹脂。このような樹脂は一緒に混合されることができ(混合床)、そして金属溶液を含む容器に添加されることができ、または別の方法では、この混合物を収容するカラムに金属溶液が通されうる。さらに別の方法においては、2種以上の異なる樹脂が逐次的に使用されることができる。例えば、バッチプロセスにおいては、第1の樹脂が金属溶液と接触されることができ、次いで第1の樹脂から金属溶液を除去した後で、次いでこの金属溶液は第2の樹脂と接触させられうる。同様に、連続プロセスにおいては、金属溶液は、第1のイオン交換樹脂を収容している第1のカラムに通されることができ、次いで溶出液を集め、それを第2のイオン交換樹脂を収容している第2のカラムに通すことができる。2種以上の樹脂を一緒にまたは逐次的に用いることは、そのイオン交換樹脂の選択が金属溶液からのアルファ粒子放射体の除去を最大化することを可能にする。
【0022】
使用されるイオン交換樹脂の量は重要ではなく、具体的な量は当業者の能力の範囲内にある。一般的には、使用されるイオン交換樹脂の量は、溶液中の金属の重量を基準にして0.25〜30重量%、好ましくは0.5〜25重量%、より好ましくは1〜20重量%である。
【0023】
アルファ粒子放射性物質の少なくとも一部分を除去した後で、金属溶液はイオン交換樹脂との接触から離される。バッチプロセスにおいては、金属溶液はろ過、デカンテーション、または他の適切な手段によって樹脂との接触から離されうる。イオン交換カラムが使用される場合には、金属溶液はカラムからの溶出液として集められる。集められた金属溶液はそのまま使用されることができ、または当該技術分野において既知の様々な技術によって金属がその塩としてその溶液から分離されうる。イオン交換樹脂との接触後に、金属溶液は、イオン交換樹脂との接触前の金属溶液と比較して低減された濃度のアルファ粒子放射体を有する。金属溶液から分離された金属塩も、結果的に本方法によって精製される前の金属または金属塩と比較して低減された濃度のアルファ粒子放射体を有するであろう。一般的に、金属溶液のイオン交換樹脂処理は、アルファ粒子放射体の濃度における5重量%以上の低減、好ましくは8重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらにより好ましくは12重量%以上、さらにより好ましくは15重量%以上、さらにより好ましくは20重量%以上の低減をもたらす。
【0024】
本方法における使用に適するイオン交換樹脂は1種以上のアルファ粒子放射性物質を除去することができる。特に、このような樹脂は、既知のアルファ粒子放射体であるウラン崩壊系列内での1以上の放射性核種、例えば、234,238U、230Th、226Ra、222Rn、210,218Po、210Pb、および211,212Biの除去を可能にする。好ましくは本方法は金属溶液から、210,218Po、210Pbおよび211,212Biを除去し、より好ましくは210Pbおよび211,212Biを除去する。永続平衡(すなわち、一つの放射性同位体をその前駆体同位体で置換えること)メカニズムはウラン崩壊系列のいくつかの段階に存在しており、かつ金属内でアルファ粒子放射性不純物の「定常状態」をもたらす。一例として、崩壊系列の過程中の210Pb崩壊につれて、210Poは徐々に置換えられる。この現象は1種類だけの不純物元素の選択的除去をアルファ粒子フラックスの低下に不適切にする。その代わりに、所望の材料内でアルファ粒子フラックスを効果的に低下させるために、崩壊系列内で緊密に関連するひとまとまりの元素群が除去されなければならない。本発明はウラン崩壊系列における永続平衡のメンバー、具体的には、ウラン、トリウム、ラジウム、ラドン、ポロニウム、ビスマスおよび鉛、好ましくはウラン、トリウム、ラジウム、ポロニウム、ビスマスおよび鉛、より好ましくは、ポロニウム、ビスマスおよび鉛、並びにさらにより好ましくはビスマスおよび鉛の少なくとも一部分を除去することができることにより、この結果を達成する。本発明はアルファ粒子放射体の濃度を低減させるのに、具体的にはポロニウム、ビスマスおよび鉛をバルク材料、例えば、SnClおよびSnOから選択的に除去することによってスズ中のアルファ粒子放射体の濃度を低減させるのに効果的である。
【0025】
本発明の方法は金属溶液、特にスズ含有金属溶液、並びにこの溶液から得られる、低減された濃度のアルファ粒子放射体を有する金属塩を提供する。この金属溶液およびこの溶液から得られる金属塩は、様々なエレクトロニクス関連用途に、例えば、はんだに有用である。パッケージング用途におけるようなエレクトロニクス用途においては、はんだははんだバンプ、はんだボール、ピラーまたはカラムの形成に使用されうる。それぞれの場合において、このようなはんだを製造するために、本金属溶液または得られる金属塩が使用される場合には、得られるはんだも低減された濃度のアルファ粒子放射体を有する。
【0026】
本方法は、低減された濃度のアルファ粒子放射体を有する金属塩、特にスズ塩を製造するために使用されうる。低減された濃度のアルファ粒子放射体を有するスズ塩が本方法に従って製造されることが好ましい。例えば、元素スズが水性HClに溶解され、そして本方法に従って精製されることができ、その後、低減された濃度のアルファ粒子放射体を有するSnClが金属溶液から分離されうる。別の方法では、市販のSnClが水性HClのような適切な酸に溶かされ、本方法に従って精製されることができ、その後低減された濃度のアルファ粒子放射体を有するSnClが金属溶液から分離されうる。さらに、本方法は低減された濃度のアルファ粒子放射体を有するSnOの製造を提供する。このSnOは元素スズまたは他の適切なスズ塩を水性HClのような水性酸に溶解させ、この金属溶液を本方法に従ってイオン交換樹脂と接触させ、次いでアルカリ溶液から分離されうるSnOを形成するのに充分な適切な塩基を添加することにより製造されうる。このSnOは、スズ、スズ−銀、スズ−銀−銅およびスズ−ビスマス電気めっき浴のようなスズベースのはんだ電気めっき浴中のスズイオンのソースとして特に有用である。
【0027】
本方法に従って処理される金属溶液は、その処理前の金属溶液と比較して、その処理後にアルファ粒子カウント/単位面積/時間(cts/cm/hr)で5%以上の低減を示すことが好ましく、好ましくはアルファ粒子カウント/単位面積/時間で10%以上、より好ましくは20%以上、さらにより好ましくは25%以上、さらにより好ましくは30%以上の低減を示す。
【実施例】
【0028】
以下の表1は以下の実施例において使用されるイオン交換樹脂を記載する。全てのイオン交換樹脂はミシガン州ミッドランドのザダウケミカルカンパニーから得られた。以下の表において、略語は以下の意味を有する:N/A=適用せず;ND=検出できず;DVB=ジビニルベンゼン;Quat.=第四級;SB=強塩基;WB=弱塩基;およびWA=弱酸。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例1
極度に低いpH
スズ金属(150g)が水性塩酸(20%w/w、1.1L)に溶かされた。得られた均質な溶液は100mLアリコートに分けられた。この溶液のpHは0.01未満であった。各アリコートにはイオン交換樹脂(1.5g)が添加され、7日間にわたって平衡化された。平衡化の後で、この混合物から溶液がデカントされ、鉛、ポロニウムおよびビスマスについてイオンカップル(ion−couple)プラズマ質量分析(ICP−MS)で分析された。これらの結果は表2に報告される。
【0031】
【表2】

【0032】
Poの検出限界は1ppmであった。対照サンプルは、いずれかの樹脂との接触前の、調製されたままのスズ溶液のサンプルである。表2においては、正の%変化は不純物の濃度が実際に増加したことを示し、一方で負の%変化は不純物の濃度の低減を示す。%変化は対照における不純物の濃度に対して測定された。サンプルC−1〜C−11は比較サンプルである。サンプル1および2は発明のサンプルである。この極端に低いpHシステムにおいては、樹脂は、それが不純物の5%以上を除去した場合に合格であると見なされた。
【0033】
実施例2
低pH例
スズ金属(150g)が水性塩酸(20%w/w、1.1L)に溶かされた。得られた溶液は、白色沈殿が形成されるまで水性苛性ソーダ(10%w/w)で滴定された。次いで、固体が溶けて溶液に戻るまで、この溶液は塩酸で逆滴定された。得られた溶液のpHは1.0であった。得られた均質な溶液は100mLアリコートに分けられた。各アリコートにはイオン交換樹脂(1.5g)が添加され、7日間にわたって平衡化された。この平衡化の途中で、水酸化スズ物質がこのシステムから沈殿した。平衡化の後で、この混合物から透明な溶液がデカントされ、Pb、BiおよびPo不純物についてICP−MSで分析された。結果は表3に報告された。混合されたスラリーのアリコートが分析され、そしてこの溶液と実質的に同じ結果を有することを見いだした。
【0034】
【表3】

【0035】
BiおよびPoの検出限界は両方とも1ppmであった。対照サンプルは、いずれかの樹脂との接触前の、調製されたままのスズ溶液のサンプルである。表3においては、正の%変化は不純物の濃度が実際に増加したことを示し、一方で負の%変化は不純物の濃度の低減を示す。%変化は対照における不純物の濃度に対して測定された。サンプルC−1〜C−10は比較サンプルである。サンプル1〜3は発明のサンプルである。この低いpHシステムにおいては、樹脂は、それが15%を超えてBiおよびPbのそれぞれを除去した場合に合格であると見なされた。
【0036】
実施例3
穏やかな酸性pH
酸化第一スズ(239g)が、メタンスルホン酸(70%、542g)および水(80g)を含む溶液に溶かされた。溶液のpHは5.5〜6.35であった。得られた無色透明溶液はいくつかのアリコートに分けられ、各アリコートには別々のイオン交換樹脂が添加された。この別々の溶液は7日間にわたって平衡化され、その後で、この混合物からこの液体がデカントされ、Pb、BiおよびPo不純物についてICP−MSで分析された。これらの結果は表4に報告される。
【0037】
【表4】

【0038】
Biの検出限界は1ppmであり、Poは5ppmであった。対照サンプルは、いずれかの樹脂との接触前の、調製されたままのスズ溶液のサンプルである。表4においては、正の%変化は不純物の濃度が実際に増加したことを示し、一方で負の%変化は不純物の濃度の低減を示す。%変化は対照における不純物の濃度に対して測定された。サンプルC−1〜C−6は比較サンプルである。サンプル1〜7は発明のサンプルである。この穏やかな酸性のpHシステムにおいては、樹脂は、それが不純物の5%より多くを除去した場合に合格であると見なされた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルファ放射性物質を有する酸性金属溶液を提供し;前記アルファ放射性物質の少なくとも一部分を除去するのに充分な期間にわたって前記金属溶液をイオン交換樹脂と接触させ;並びに、前記イオン交換樹脂と前記金属溶液とを分離して精製された金属溶液を提供する;ことを含む、金属溶液を精製する方法。
【請求項2】
金属がスズ、鉛、銀、銅、ビスマス、インジウムおよびこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸性金属溶液が6.9未満のpH値を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酸性金属溶液が有機スルホン酸を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
金属溶液をイオン交換樹脂と接触させる工程が15〜90℃の温度で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アルファ放射性物質が鉛、ビスマス、ポロニウム、ウラン、トリウム、ラドン、ラジウムおよびこれらの混合物から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
金属が0.01〜30重量%の量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
イオン交換樹脂が、キレート化樹脂、アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂、チタニアベースの吸着性樹脂、並びにこれらの混合物から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
イオン交換樹脂がイミノジ酢酸樹脂、ニトリロトリ酢酸樹脂、ホスフィノ酢酸樹脂、チオ尿素樹脂、ピコリルアミン樹脂、第四級アミン樹脂、第三級アミン樹脂、芳香族アミン樹脂、チオール樹脂、スルホン化フェノール樹脂、およびチタニアベースの吸着性樹脂から選択される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
金属溶液が2種類の異なるイオン交換樹脂と接触させられる請求項1に記載の方法。
【請求項11】
2種類の異なるイオン交換樹脂が混合床樹脂である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
金属溶液が2種類の異なるイオン交換樹脂と逐次的に接触する請求項10に記載の方法。
【請求項13】
金属溶液をイオン交換樹脂と接触させる工程が連続プロセスである請求項1に記載の方法。
【請求項14】
金属溶液をイオン交換樹脂と接触させる工程がバッチプロセスである請求項1に記載の方法。
【請求項15】
金属溶液を製造する方法であって、
金属イオンの酸性水溶液を提供し;アルファ粒子放射性物質を除去することができるイオン交換樹脂を提供し;前記金属イオンの水溶液を前記イオン交換樹脂と接触させて、前記アルファ粒子放射性物質の少なくとも一部分を除去し;次いで、前記イオン交換樹脂と前記金属溶液とを分離する;ことを含む方法。
【請求項16】
比較的低濃度のアルファ粒子放射体を有するスズ溶液を製造する方法であって、
6.9以下のpHを有するスズイオンの水溶液を提供し;アルファ粒子放射性物質を除去することができるイオン交換樹脂を提供し;前記スズイオンの水溶液を前記イオン交換樹脂と接触させて、前記アルファ粒子放射性物質の少なくとも一部分を除去し;次いで、前記イオン交換樹脂と前記スズ溶液とを分離する;ことを含む方法。

【公開番号】特開2013−40919(P2013−40919A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−115162(P2012−115162)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)