説明

アルブミンを含有していない新規の第VIII因子処方物

【課題】アルブミンまたは他のタンパク質の非存在下で安定である治療用の第VIII因子処方物を提供すること。
【解決手段】第VIII因子に加えて以下の処方賦形剤:
マンニトール、グリシン、およびアラニンからなる群より選択される4%から10%の充填剤;
スクロース、トレハロース、ラフィノース、およびアルギニンからなる群より選択される1%から4%の安定化剤;
1mM〜5mMのカルシウム塩;
100mM〜300mMのNaCl;ならびに
約6〜8のpHを維持するための緩衝剤;
を含有する、アルブミンを添加することなく処方された第VIII因子組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
第VIII因子は、血液の凝固を導く反応のカスケードにおいて補因子として作用する、血漿中に見出されるタンパク質である。血液中の第VIII因子活性の量の欠乏は、主に男性が罹患する遺伝状態である、血友病Aとして公知の凝固障害を生じる。血友病Aは、ヒトの血漿に由来するかまたは組換えDNA技術を使用して製造された第VIII因子の治療用調製物で現在処置されている。このような調製物は、放血のエピソードに応答して(要求があり次第治療)、または制御されていない放血を予防するために頻繁に一定の間隔で(予防)のいずれかで、投与される。
【0002】
第VIII因子は、治療用調製物中では比較的不安定であることが公知である。血漿中では、第VIII因子は通常は、別の血漿タンパク質であるフォン・ビルブラント因子(vWF)(これは、第VIII因子に対して大過剰のモルで血漿中に存在し、そして成熟前の崩壊から第VIII因子を防御すると考えられている)と複合体を形成する。別の循環している血漿タンパク質であるアルブミンもまた、インビボで第VIII因子を安定化させることにおいて役割を果たし得る。従って、現在市場で売買されている第VIII因子調製物は、主に、製造プロセスの間および保存の間、第VIII因子を安定させるために、アルブミンおよび/またはvWFの使用に頼っている。
【0003】
現在市場で売買されている第VIII因子調製物中で使用されるアルブミンおよびvWFは、ヒトの血漿に由来するが、しかし、このような材料の使用は、特定の欠点を有する。第VIII因子と比較して大過剰のモルのアルブミンが、このような調製物中での第VIII因子の安定性を増大させるために一般的に添加されているので、これらの調製物中の第VIII因子タンパク質自体を特徴づけることは困難である。第VIII因子に対するヒトに由来するアルブミンの添加もまた、組換えによって産生された第VIII因子調製物に関して不利であると認められている。これは、組換えによって誘導された第VIII因子調製物が、このような添加されたアルブミンの非存在下では、他にヒトに由来するタンパク質を含まず、そしてウイルスを伝達する理論的な危険性が減少されるからである。
【0004】
アルブミンまたはvWFを伴わずに(または比較的低いレベルのこれらの賦形剤を用いて)第VIII因子を処方するためのいくつかの試みが記載されている。例えば、Freudenbergの米国特許第5,565,427号(EP 508 194)(Behringwerkeに譲渡)は、塩化ナトリウムおよびスクロースのような賦形剤に加えて、界面活性剤およびアミノ酸の特定の組合せ(詳細には、アルギニンおよびグリシン)を含む第VIII因子調子物を記載している。界面活性剤であるポリソルベート20またはポリソルベート80は、0.001から0.5%(v/v)の間の量で存在すると記載され、一方、アルギニンおよびグリシンは、0.01から1mol/lの間の量で存在する。スクロースは、0.1から10%の間の量で存在すると記載されている。この特許の実施例2は、溶液(1)(0.75%のスクロース、0.4Mのグリシン、および0.15MのNaCl)、ならびに溶液(2)(0.01Mのクエン酸ナトリウム、0.08Mのグリシン、0.016Mのリジン、0.0025Mの塩カルシウム、および0.4Mの塩化ナトリウム)は、16時間を超えると溶液中では安定ではないが、一方、溶液(3)(1%のスクロース、0.14Mのアルギニン、0.1Mの塩化ナトリウム)ならびに溶液(4)(1%のスクロース、0.4Mのグリシン、0.14Mのアルギニン、0.1Mの塩化ナトリウム、および0.05%のTween80)は安定性を示したことを主張する。
【0005】
Nayerの米国特許第5,763,401号(EP 818 204)(Bayerに譲渡)もまた、アルブミンを含有しない治療用の第VIII因子処方物を記載している。これは、15〜60mMのスクロース、50mMまでのNaCl、5mMまでの塩化カルシウム、65〜400mMのグリシン、および50mMまでのヒスチジンを含有する。以下の特定の処方物が安定であることが同定された:(1)150mMのNaCl、2.5mMの塩化カルシウム、および165mMのマンニトール;ならびに(2)1%のスクロース、30mMの塩化ナトリウム、2.5mMの塩化カルシウム、20mMのヒスチジン、および290mMのグリシン。より多い量の糖を含有する処方物(10%のマルトース、50mMのNaCl、2.5mMの塩化カルシウム、および5mMのヒスチジン)が、処方物(2)と比較して凍結乾燥された状態で安定性が低いことが見出された。
【0006】
Osterbergの米国特許第5,733,873号(EP 627 924)(Pharmacia & Upjohnに譲渡)は、0.01〜1mg/mlの界面活性剤を含む処方物を開示している。この特許は、以下の範囲の賦形剤を含有する処方物を開示している:少なくとも0.01mg/ml、好ましくは、0.02〜1.0mg/mlの量のポリソルベート20または80;少なくとも0.1MのNaCl;少なくとも0.5mMのカルシウム塩;および少なくとも1mMのヒスチジン。より詳細には、以下の特異的な処方物が開示されている:(1)14.7〜50〜60mMのヒスチジン、0.31〜0.6MのNaCl、4mMの塩化カルシウム、0.001〜0.02〜0.025%のポリソルベート80、0.1%のPEG 4000または19.9mMのスクロースを含むかまたは含まない;ならびに(2)20mg/mlのマンニトール、2.67mg/mlのヒスチジン、18mg/mlのNaCl、3.7mMの塩化カルシウム、および0.23mg/mlのポリソルベート80。
【0007】
低いまたは高い濃度の塩化ナトリウムを使用する他の試みもまた、記載されている。Leeの米国特許第4,877,608号(EP 315 968)(Rhone−Poulene Rorerに譲渡)は、比較的低濃度の塩化ナトリウムを含有する処方物、言い換えれば、0.5mM〜15mMのNaCl、5mMの塩化カルシウム、0.2mM〜5mMのヒスチジン、0.01〜10mMのリジンヒドロクロライド、および10%までの糖を含有する処方物を教示している。「糖」は、10%までのマルトース、10%までのスクロース、または5%までのマンニトールであり得る。
【0008】
Leeの米国特許第5,605,884号(EP 0 314 095)(Rhone−Poulene Rorerに譲渡)は、比較的高濃度の塩化ナトリウムを含有する処方物の使用を教示している。これらの処方物は、0.35M〜1.2MのNaCl、1.5〜40mMの塩化カルシウム、1mM〜50mMのヒスチジン、および10%までの「糖」(例えば、マンニトール、スクロース、またはマルトース)を含有する。0.45MのNaCl、2.3mMの塩化カルシウム、および1.4mMのヒスチジンを含有する処方物が例示されている。
【0009】
Roserの国際特許出願番号第WO96/22107号(Quadrant Holdings Cambridge Limitedに譲渡)は、糖トレハロースを含有する処方物を記載している。これらの処方物は、以下を含有する:(1)0.1MのNaCl、15mMの塩化カルシウム、15mMのヒスチジン、および1.27M(48%)のトレハロース;または(2)0.011%の塩化カルシウム、0.12%のヒスチジン、0.002%のTris、0.002%のTween 80、0.004%のPEG 3350、7.5%のトレハロース、および0.13%または1.03%のいずれかのNaCl。
【0010】
先行技術の他の治療用の第VIII因子処方物は、一般的には、第VIII因子を安定化させる目的のためにアルブミンおよび/またはvWFを含み、従って、本発明には関係しない。例えば、Schwinnの米国特許第5,328,694号(EP 511 234)(Octapharma AGに譲渡)は、100〜650mMのジサッカライドおよび100mM〜1.0Mのアミノ酸を含有する処方物を記載している。詳細には、以下の処方物が開示されている:(1)0.9Mのスクロース、0.25Mのグリシン、0.25Mのリジン、および3mMの塩化カルシウム;ならびに(2)0.7Mのスクロース、0.5Mのグリシン、および5mMの塩化カルシウム。
【0011】
アルブミンまたはvWFを用いないで第VIII因子を処方するためのいくつかの試みが行われていているが、アルブミンまたは他のタンパク質の非存在下で安定である治療用の第VIII因子処方物の必要性は依然として残されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明は、アルブミンの非存在下で安定である治療用の第VIII因子組成物に関する。詳細には、本発明は、第VIII因子に加えて以下を含有する第VIII因子組成物を含む:マンニトール、グリシン、およびアラニンからなる群より選択される4%から10%の充填剤;スクロース、トレハロース、ラフィノース、アルギニンからなる群より選択される1%から4%の安定化剤;1mMから5mMのカルシウム塩;100mMから300mMのNaCl;ならびに約6から8の間のpHを維持するための緩衝剤。この組成物はさらに、ポリソルベート20、ポリソルベート80、Pluronic F68、またはBrij 35のような界面活性剤を含む。界面活性剤がポリソルベート80である場合は、これは、0.1%未満の量で存在する。
【0013】
本発明に従う第VIII因子組成物の緩衝剤は、好ましくは、10mMから50mMまでの濃度で存在し、そして好ましくは、ヒスチジン、Tris、BIS−Tris Propane、PIPES、MOPS、HEPES、MES、およびACESからなる群より選択される。有利には、緩衝剤は、ヒスチジンまたはTrisのいずれかである。本発明の第VIII因子組成物は、さらに抗酸化剤を含有し得る。
【0014】
本発明の第VIII因子組成物は、充填剤および安定化剤の両方を含み得る。充填剤は、約6%から約8%まで、好ましくは、約8%の量で存在し得る。安定化剤は、好ましくは、約2%の量で存在する。塩化ナトリウムもまたこれらの組成物中に存在し、好ましくは、150から350mMまでの量で、そしてより好ましくは、約225mMの量で存在する。組成物のカルシウム塩はまた、好ましくは、塩化カルシウムであり、そして組成物自体は好ましくは、凍結乾燥された形態である。
【0015】
別の実施形態においては、本発明は、第VIII因子に加えて以下の賦形剤を含有する、アルブミンを添加せずに処方された第VIII因子組成物を含有し得る:2%から6%のヒドロキシエチル澱粉;スクロース、トレハロース、ラフィノース、アルギニンからなる群より選択される1%から4%の安定化剤;1mMから5mMのカルシウム塩;100mMから300mMのNaCl;ならびに約6から8の間のpHを維持するための緩衝剤。好ましくは、このような組成物は、約4%のヒドロキシエチル澱粉を含み、そしてNaClは、200mMの量で存在する。安定化剤もまた、好ましくは、約2%の量で存在する。
【0016】
さらなる実施形態においては、本発明は、以下を含有する、アルブミンを用いることなく処方された第VIII因子組成物を含む:300mMから500mMのNaCl;スクロース、トレハロース、ラフィノース、およびアルギニンからなる群より選択される1%から4%の安定化剤;1mMから5mMのカルシウム塩;ならびに約6から8の間のpHを維持するための緩衝剤。好ましくは、NaClは約400mMの濃度で存在する。
【0017】
なお別の実施形態においては、本発明は、凍結乾燥装置を使用して容器中で水性の第VIII因子組成物を凍結乾燥させるためのプロセスを包含する。ここでは、このプロセスは、最初の凍結工程を包含し、そして最初の凍結工程は、さらに以下の工程を包含する:(a)少なくとも約−45℃に凍結乾燥装置のチャンバーの温度を低下させる工程;(b)約−15℃から−25℃の間の温度にチャンバーの温度を上昇させる工程;および続いて(c)少なくとも約−45℃にチャンバーの温度を低下させる工程。このプロセスにおいては、チャンバーの温度は、好ましくは、1分あたり約0.5℃から約1.0℃の間の速度で低下させられるかまたは上昇させられる。工程(a)においては、温度は、好ましくは、約1時間維持され、そして約−55℃まで低下させられる。工程(b)においては、温度は、好ましくは、−15℃および−25℃で、1〜3時間の間維持される。そしてより好ましくは、−22℃で維持される。そして工程(c)の温度は、好ましくは、約1時間の間維持される。このプロセスで使用される第VIII因子組成物は、好ましくは、マンニトール、グリシン、およびアラニンからなる群より選択される4%から10%の試薬を含み、そしてまた、好ましくは、スクロース、トレハロース、ラフィノース、およびアルギニンからなる群より選択される1%から4%の試薬を含有する。さらに、このプロセスにおいて使用される第VIII因子組成物はまた、好ましくは、100mMから300mMの間のNaClを含有する。
・本発明はさらに、以下を提供し得る:
・(項目1) 第VIII因子に加えて以下の処方賦形剤:
マンニトール、グリシン、およびアラニンからなる群より選択される4%から10%の充填剤;
スクロース、トレハロース、ラフィノース、およびアルギニンからなる群より選択される1%から4%の安定化剤;
1mM〜5mMのカルシウム塩;
100mM〜300mMのNaCl;ならびに
約6〜8のpHを維持するための緩衝剤;
を含有する、アルブミンを添加することなく処方された第VIII因子組成物。
・(項目2) 界面活性剤をさらに含有する、項目1に記載の第VIII因子組成物。
・(項目3) 上記界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート80、Pluronic F68、およびBrij35からなる群より選択される、項目2に記載の第VIII因子組成物。
・(項目4) 上記界面活性剤がポリソルベート80であり、そしてここで、上記ポリソルベート80が0.1%未満の量で存在する、項目3に記載の第VIII因子組成物。
・(項目5) 上記界面活性剤が約0.03%の量で存在する、項目1〜4に記載の第VIII因子組成物。
・(項目6) 上記緩衝剤が、Tris、BIS−Tris Propane、ヒスチジン、PIPES、MOPS、HEPES、MES、およびACESからなる群より選択される、項目1〜5に記載の第VIII因子組成物。
・(項目7) 上記緩衝剤がTrisを含む、項目6に記載の第VIII因子組成物。
・(項目8) 上記Trisが約20mMの量で存在する、項目7に記載の第VIII因子組成物。
・(項目9) 上記緩衝剤が約10mMと約50mMの間のヒスチジンを含む、項目6に記載の第VIII因子組成物。
・(項目10) 上記ヒスチジンが約25mMの量で存在する、項目9に記載の第VIII因子組成物。
・(項目11) 抗酸化剤をさらに含有する、項目1〜10に記載の第VIII因子組成物。
・(項目12) 上記抗酸化剤がグルタチオンである、項目11に記載の第VIII因子組成物。
・(項目13) 上記グルタチオンが約0.05mg/ml〜約1.0mg/mlの量で存在する、項目12に記載の第VIII因子組成物。
・(項目14) 上記充填剤が約8%の量で存在する、項目1〜13に記載の第VIII因子組成物。
・(項目15) 上記充填剤がマンニトールである、項目1〜14に記載の第VIII因子組成物。
・(項目16) 上記充填剤がグリシンである、項目1〜14に記載の第VIII因子組成物。
・(項目17) 上記安定化剤が約2%の量で存在する、項目1〜16に記載の第VIII因子組成物。
・(項目18) 上記安定化剤がスクロースである、項目1〜17に記載の第VIII因子組成物。
・(項目19) 上記安定化剤がアルギニンである、項目1〜17に記載の第VIII因子組成物。
・(項目20) 上記安定化剤がトレハロースである、項目1〜17に記載の第VIII因子組成物。
・(項目21) 上記NaClが約200mM〜約250mMの量で存在する、項目1〜20に記載の第VIII因子組成物。
・(項目22) 上記NaClが約225mMの量で存在する、項目21に記載の第VIII因子組成物。
・(項目23) 上記カルシウム塩が塩化カルシウムである、項目1〜22に記載の第VIII因子組成物。
・(項目24) 上記組成物が凍結乾燥された形態である、項目1〜23に記載の第VIII因子組成物。
・(項目25) 第VIII因子に加えて以下の処方賦形剤:
2%〜6%のヒドロキシエチル澱粉;
スクロース、トレハロース、ラフィノース、およびアルギニンからなる群より選択される1%〜4%の安定化剤;
1mM〜5mMのカルシウム塩;
100mM〜300mMのNaCl;ならびに
約6〜8のpHを維持するための緩衝剤;
を含有する、アルブミンを添加することなく処方された第VIII因子組成物。
・(項目26) 約4%のヒドロキシエチル澱粉を含有する、項目25に記載の第VIII因子組成物。
・(項目27) 約200mMのNaClを含有する、項目25〜26に記載の第VIII因子組成物。
・(項目28) 上記安定化剤が約2%の量で存在する、項目25〜27に記載の第VIII因子組成物。
・(項目29) 上記安定化剤がスクロースである、項目25〜28に記載の第VIII因子組成物。
・(項目30) 上記安定化剤がアルギニンである、項目25〜28に記載の第VIII因子組成物。
・(項目31) 上記安定化剤がトレハロースである、項目25〜28に記載の第VIII因子組成物。
・(項目32) 第VIII因子に加えて以下の処方賦形剤:
300mM〜500mMのNaCl;
スクロース、トレハロース、ラフィノース、およびアルギニンからなる群より選択される1%〜4%の安定化剤;
1mM〜5mMのカルシウム塩;ならびに
約6〜約8のpHを維持するための緩衝剤;
を含有する、アルブミンを添加することなく処方された第VIII因子組成物。
・(項目33) 上記NaClが約400mMの量で存在する、項目32に記載の組成物。
・(項目34) 血友病の処置のための医薬品の調製のための、項目1〜33のいずれかに記載の第VIII因子組成物の使用。
・(項目35) 結晶化が可能な充填剤およびNaClを含有する水性の薬学的処方物を凍結乾燥させる、改善された方法であって、ここで上記方法が、以下の工程:
(a)約−35℃未満の温度で水性の上記薬学的処方物を凍結する工程;
(b)約−30℃〜約−19℃で上記薬学的処方物をアニーリングする工程;
(c)約−50℃未満に上記薬学的処方物の温度を下げる工程;
(d)約−30℃〜−39℃で上記薬学的処方物をアニーリングする工程;次いで、
(e)上記薬学的処方物を凍結乾燥させる工程、
を包含する、改善された方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
(定義)
本明細書中で使用される場合は、以下の用語およびそのバリエーションは、他に特に示されない限りは、以下のように定義されるはずである:
第VIII因子:第VIII因子分子は、天然に存在し、そして単一の遺伝子産物から生じるポリペプチドの不均質な生体内分布として、治療用調製物中に存在する(例えば、Anderssonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83,2979−2983、1986年5月を参照のこと)。用語「第VIII因子」は、本明細書中で使用される場合は、血漿に由来するかまたは組換えDNA技術の使用を通じて産生されたかにはかかわらず、全てのこのようなポリペプチドをいう。第VIII因子を含有する治療用調製物の商業的に入手可能な例として、HEMOFIL MおよびRECOMBINATEの登録商標のもとで販売されているもの(Baxter Healthcare
Corporation,Deerfield,Illinois,U.S.A.から入手可能である)が挙げられる。他の現在開発されている調製物は、主に第VIII因子分子の単一のサブ集団を含み、これは、分子のBドメイン部分を欠失している。
【0019】
国際単位、IU:国際単位、すなわちIUは、以下の1つのような標準的なアッセイによって測定された場合の、第VIII因子の血液凝固活性(能力)の測定値の単位である:
一段階アッセイ。Lee、Martin Lら、An Effect of Predilution on Potency Assays of Factor VIII
Concentrates,Thrombosis Research(Pergamon Press Ltd.)30、511−519(1983)に記載されているような一段階アッセイが、当該分野で公知である。
【0020】
色素形成アッセイ。Coatest Factor VIII(Chromogenix AB,Molndal、Swedenから入手可能である)のような色素形成アッセイは、商業的に購入することができる。
【0021】
アニーリング:用語アニーリングは、調製物の凍結−乾燥の前に、凍結乾燥を受ける薬学的調製物の凍結乾燥プロセスにおける工程を示すために使用される。ここでは、調製物の温度は、より低い温度からより高い温度に上昇させられ、次いで一定の時間後に再び冷
却される。
【0022】
充填剤:本出願の目的のためには、充填剤は、「塊」の構造を提供するか、またはそれが凍結乾燥された後に薬学的調製物の残った固体の塊を提供し、そしてそれを崩壊から防御するそのような化学的実体である。結晶化が可能な充填剤は、本明細書中で使用される場合には、塩化ナトリウム以外の、凍結乾燥の間に結晶化され得る充填剤を意味する。HESは、結晶化が可能な充填剤のこの群には含まれない。
【0023】
凍結−乾燥、凍結、凍結乾燥:「凍結−乾燥」は、それが明らかである状況において他に示されない限りは、その中で薬学的調製物の温度が、調製物を水に溶解させる(water out)ために生じられる、凍結乾燥プロセスの一部を示すために使用される。凍結乾燥プロセスの「凍結」工程は、凍結乾燥の段階の前に行われるこれらの工程である。「凍結乾燥」は、他に特に示されない限りは、凍結工程および凍結−乾燥工程の両方を含む、凍結乾燥の全体のプロセスをいう。
【0024】
他に特に示されない限りは、パーセンテージの用語は、質量/容量のパーセンテージを示し、そして温度は摂氏尺度である。
【0025】
(処方物の成分)
本発明の第VIII因子組成物は、充填剤、安定化剤、緩衝剤、塩化ナトリウム、カルシウム塩、および有利には他の賦形剤を含有する。これらの賦形剤は、凍結乾燥された調製物中での第VIII因子の安定性を最大にするために選択されている。しかし、本発明の第VIII因子組成物は、液体の状態でもまた安定性を示す。
【0026】
本発明の処方物中で使用される充填剤(これは、凍結乾燥された生成物の結晶の部分を形成する(HESの場合を除く))は、マンニトール、グリシン、アラニン、およびヒドロキシエチル澱粉(HES)からなる群より選択される。マンニトール、グリシン、またはアラニンは、4〜10%の量で、好ましくは、6〜9%の量で、そしてより好ましくは、約8%の量で存在する。充填剤としてHESが使用される場合には、これは、2〜6%の量で、好ましくは、3〜5%の量で、そしてより好ましくは、約4%の量で存在する。
【0027】
本発明の処方物中で使用される安定化剤は、スクロース、トレハロース、ラフィノース、およびアルギニンからなる群より選択される。これらの薬剤は、1〜4%の間の量で、好ましくは、2〜3%、より好ましくは、約2%の量で本発明の処方物中に存在する。ソルビトールおよびグリセロールは、可能な安定化剤として評価されたが、これらは、本発明の処方物中では好ましくない安定化剤であることが見出された。
【0028】
塩化ナトリウムは、100〜300mMの量で、好ましくは、150〜250mMで、そして最も好ましくは、約225mMの量で本発明の処方物中に含まれる。本発明の1つの実施形態においては、300mMから500mMのNaClの間、好ましくは、350から450mMのNaClの間、そして最も好ましくは、約400mMのNaClの量で処方物中に含まれる場合には、塩化ナトリウム自体は、上記のいずれの充填剤も伴わずに使用され得る。
【0029】
さらに、緩衝剤が、これらの処方物中に存在する。なぜなら、第VIII因子分子が凍結乾燥の間のpHのシフトによって有害な影響を受け得ると考えられるからである。pHは好ましくは、凍結乾燥の間は6から8の間の範囲、そしてより好ましくは、約7のpHに維持されるはずである。緩衝剤は、任意の薬学的に受容可能な化学的実体または、ヒスチジン、Tris、BIS−Tris、Propane、PIPES、MOPS、HPES、MES、およびACESを含む緩衝剤として作用する能力を有する化学的実体の組合
せであり得る。これらの緩衝剤の完全な化学的名称が、以下の表1に列挙される。代表的には、緩衝剤は、10〜50mMの濃度で含まれる。ヒスチジンが処方物に添加される場合は、20mMを超える濃度、そして好ましくは、約25mMが、単独で、またはTrisのような他の緩衝剤と組合せて使用される。ヒスチジンは、以下に非常に詳細に記載されるように、本発明の組成物中での使用にとくに好ましい。
【0030】
【表1】

第VIII因子の活性を保存するためには、本発明の処方物はまた、カルシウムまたは第VIII因子と相互作用することが可能な別のニ価のカチオンを含み、そしてその活性を、おそらく、第VIII因子の重鎖および軽鎖の会合を維持することによって維持することが、重要である。1mMから5mMの間、より好ましくは、3〜4mM、そして最も好ましくは、約4mMのカルシウム塩が使用され得る。カルシウム塩は、好ましくは、塩化カルシウムであるが、カルシウムグルコネート、カルシウムグルビオネートまたはカルシウムグルセプテートのような他のカルシウム塩でもあり得る。
【0031】
本発明の第VIII因子組成物はまた、好ましくは、界面活性剤を、好ましくは、0.1%以下の量で、そしてより好ましくは、約0.03%の量で含有する。界面活性剤は、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、プルロニック(pluronic)ポリオール、およびBrij 35(ポリオキシエチレン23ラウリルエーテル)からなる群より選択され得る。プルロニックポリオールのいくつかのグレード(BASF Wyandotte Corporationによって製造された、登録商標Pluronicのもとで販売されている)が利用可能である。多様化した分子量(1,000から16,000以上まで)および物理化学的特性のこれらのポリオールが、界面活性剤として使用されている。分子量5,000のPluronic F−38および分子量9,000のPluronic F−68の両方が、(重量で)80パーセントの親水性のポリオキシエチレン基、および20パーセントの疎水性のポリオキシプロピレン基を含む。しかし、市販されているポリソルベートであるTween−80(特に、植物に由来するTween−80)が、本発明の処方物に好ましい。
【0032】
本発明の第VIII因子処方物はまた、好ましくは、抗酸化剤を含む。本発明の凍結乾燥させた処方物に対する抗酸化剤の添加は、これらの処方物の安定性を改善し、従って、それらの保存期間を延長させることが見出されている。使用される抗酸化剤は、薬学的調製物との使用に適合性でなければならず、そしてさらに、好ましくは、水可溶性である。処方物に対して抗酸化剤を添加する場合には、可能である場合には、抗酸化剤の自発的な酸化を回避するために、凍結乾燥の前のプロセスの後半に、このような抗酸化剤を添加することが好ましい。以下の表2は、適切な抗酸化剤を列挙する。これらは、CalbiochemおよびSigmaのような会社を通じて市販されている。
【0033】
【表2】

上記の抗酸化剤のうちでは、グルタチオンが好ましい。約0.05mg/mlから1.0mg/ml以上までの範囲の濃度が全て、第VIII因子組成物の安定性を増強することが見出されており、そしてより高い濃度もまた有用である(任意の毒性の影響、または凍結乾燥させた生成物のガラス転移温度の低下のような有害な製造による影響の点まで)と考えられる。
【0034】
特に、ヒスチジンおよびグルタチオンの組合せが、第VIII因子組成物の安定性に対して共作用性の有利な影響を生じることが見出されている。ヒスチジン(緩衝剤として作用するが)もまた、金属キレート化剤として作用し得る。従って、第VIII因子の不活化が金属によって誘導される酸化によって引き起こされる程度までは、ヒスチジンは、酸化金属イオンのような結合剤によって、第VIII因子を安定化させるように作用し得る。これらの金属の結合によって、グルタチオン(または実際には存在する任意の他の抗酸化剤)は、それによって、さらに抗酸化保護を提供することができると考えられる。なぜなら、ヒスチジンによって結合された金属イオンの酸化効果が含まれているからである。
【0035】
他のキレート化剤もまた、本発明の組成物中で使用され得る。このような試薬は、好ましくは、組成物中でカルシウム塩が使用される場合には、カルシウムよりも大きな親和性を有して銅および鉄のような金属と結合するはずである。1つのこのようなキレート化剤は、デフェロキサミンであり、これは、Al++および鉄の除去を促進するキレート化剤である。Deferoxamine Mesylate、C25H48N6O8*CH4
O3Sは、Sigma(Sigma
Prod.No.D9533)から入手可能である。アルミニウムおよび鉄(II)キレート化剤は、イオンを+3の酸化状態のみならず+2の酸化状態にもキレート化し(1:1のキレート複合体)、そしてマンガンイオンおよび他の金属にも結合し得る。デフェロキサミンは、0.25mg/lの量で有利に使用され得る。
【0036】
本発明の処方物中で使用される第VIII因子は、高度に精製されたヒトの血漿に由来する第VIII因子であり得るか、またはより好ましくは、組換えによって産生された第VIII因子であり得る。組換え第VIII因子は、第VIII因子分子をコードするD
NA配列を保有しているベクターでトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生され得る。このようなトランスフェクトされたCHO細胞を作成するための方法は、とりわけ、Toole,Jrらの米国特許第4,757,006号に記載されているが、別の方法もまた、当該分野で公知である(例えば、またToole,Jr.の米国特許第4,868,112号、およびPCT国際出願番号第WO−A−91/09122号を参照のこと)。第VIII因子を産生するようにこのようなCHO細胞を培養するために使用される方法もまた、当該分野で公知である。例えば、Genetic Instituteの、「Improved method for producing Factor VIII:C−type proteins」の表題の、欧州特許出願番0 362 218号。しかし、組換え第VIII因子はまた、他の細胞株(例えば、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞)中で産生され得る。第VIII因子分子自体は、組換えによって産生された場合には、全長の第VIII因子またはその欠失誘導体(例えば、Bドメインを欠失している第VIII因子分子)のいずれかであり得る。
【0037】
本出願に記載される第VIII因子組成物は凍結乾燥され得、そして示された濃度で再構成され得るが、当業者は、これらの調製物がまた、さらなる稀釈液の形態で再構成され得ることを理解する。例えば、凍結乾燥されそして/または通常は2mlの溶液に再構成される本発明に従う調製物はまた、5mlのようなのような稀釈液の容量で再構成され得る。これは、第VIII因子調子物が患者にすぐに注射される場合に特に適切である。なぜなら、第VIII因子が活性を損失する(これは第VIII因子のより稀い溶液中でより迅速に生じ得る)可能性が低いからである。
【0038】
(処方物および凍結乾燥の開発)
最大の安定性を達成するために、本発明の第VIII因子組成物は、好ましくは、凍結乾燥される。凍結乾燥の間には、第VIII因子は、水性の相から非結晶性の固相に転換され、これは、化学的および/または立体構造的な不安定性からタンパク質を保護する。凍結乾燥された調製物は、非結晶相を含むのみならず、凍結乾燥の間に結晶化する成分をもまた含む。これは、第VIII因子組成物の迅速な凍結乾燥、およびより洗練された形態の塊(すなわち、その中でそれが凍結乾燥された容器の側部から最少の収縮を有する塊)の形成を可能にすると考えられる。本発明の処方物においては、安定化剤は、凍結乾燥させた生成物の非結晶相中に主に存在するように選択され、一方、充填剤(HESを除く)は、凍結の間に結晶化するように選択されている。
【0039】
第VIII因子および安定化剤の両方が、好ましくは、凍結乾燥された塊の非結晶相中に分散される。安定化剤の量はまた、好ましくは、非結晶性の形態中の他の賦形剤と比較して多い。さらに、非結晶相の見かけのガラス転移温度(Tg’)は、好ましくは、凍結
−乾燥の間には比較的高く、そして固体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくはおそらく、保存の間には高い。生成物中の塩化ナトリウムの結晶化は、望ましいと考えられる。なぜなら、非結晶性の塩化ナトリウムは、非結晶相のTg'を低下させるからである。
【0040】
特定の組成物の塊の崩壊を避けるために、最初の乾燥が、好ましくは、凍結濃縮物の見かけのガラス転移温度以下の温度の生成物に対して行われる。乾燥時間の増大もまた、Tg’の低下をオフセットするために必要とされ得る。凍結乾燥についてのさらなる情報は
、Carpenter,J.F.およびChang,B.S.,Lyophilization of Protein Pharmacuticals,Biotchnology and Biopharmaceutical Manufacturing,Processing and Preservation,K.E.AvisおよびV.L.Wu編(Buffalo Grove,I.L.:Interpharm Press,Inc.)、199〜264頁(1996)に見出され得る。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
第VIII因子の濃度の影響、および第VIII因子の回収の際の安定化剤の添加の影響を、いくつかの実験において調べた。これらの実験を、モデル充填剤としてマンニトールを、そしてモデル安定化剤としてスクロースを使用して行った。以下の表3に記載する3つのサンプル処方物を,これらの実験において使用した。これらの実験で使用した全ての処方物は、10mMのTris、200mMのNaCl、8%のマンニトール、4mMのCaCl2、および0.02%のTween−80を含み、そしてpH7.0で行われ
た。
【0042】
【表3】

これらのサンプルを、見かけのガラス転移温度(Tg’)未満の温度で生成物を維持す
るために、以下の表4に示す凍結−乾燥のサイクルを使用して凍結乾燥させた。ディファレンシャルスキャニング熱量測定(DSC)実験は、マンニトール処方物中での約−40℃での転移の存在を示した。この値未満の温度で生成物を維持するために、棚の温度を、最初の乾燥の間は−32℃に設定した。これらの条件下での最初の乾燥を、約80時間の全サイクル時間を用いて、約55時間行った。
【0043】
【表4】

一段階の凝固アッセイによって決定したこれらのサンプルの第VIII因子活性を、−45℃に保ったコントロールと比較した。アッセイの結果を、以下の表5に示す。
【0044】
【表5】

これらの結果は、タンパク質の濃度が、凍結の間の第VIII因子の回収に対して影響を有することを示す。60IU/mlを含有している処方物は、凍結工程の間に最初の第VIII因子活性の約37〜42%を欠失し、一方、第VIII因子活性の6.7%が、600IU/mlを含有している処方物については失われた。これらの結果は、より高いタンパク質濃度が、凍結の間の防御効果を有することを示す。スクロースは、中間の温度の維持の間、ならびに凍結−乾燥の間に第VIII因子に対していくらかの保護を提供したが、これは、最初の凍結工程の間にタンパク質を保護することはできなかった。
【0045】
(実施例2)
実施例1に概説される凍結乾燥プロセスの開発の後、このプロセスのさらなる最適化を行った。より高いガラス転移温度を有する(そして、理論的には、より良好の第VIII因子の安定性を有する)凍結乾燥した組成物を、以下によって産生することができる:(1)最初に−45℃以下に凍結温度を低下させる(例えば、約−50℃または−55℃に低下させる);(2)−20℃または−22℃(±5℃)に温度を上昇させる;次いで、(3)再び−45℃以下に温度を低下させる。温度を、可能である場合には、1分間に約0.5℃から約1.0℃の間の速度で、低下または上昇させる。一旦、所望される温度に到達すると、組成物を1から3時間の間その温度で維持する。この改良された凍結サイクルを、以下の表6に示す。
【0046】
【表6】

他に特に示されない限りは、この実施例および他の実施例で言及する温度は、凍結乾燥装置の棚の温度をいい、そして生成物自体の温度をいうわけではない。改良された凍結サイクルに続いて、凍結乾燥プロセスの残りを、上記の実施例1に概説されるように、またはそうでなければ本明細書中にさらに記載されるように、または当業者によって決定されるように、行うことができる。
【0047】
この改良された凍結乾燥プロセスが、充填剤としてグリシンを含有する処方物、ならびにマンニトールを使用する処方物について有用であることを見出した。これはさらに、本発明の他の充填剤を使用する処方物に対して十分な適用可能性を有すると考えられる。
【0048】
(実施例3)
受容可能な塊の出現およびガラス転移温度を有する凍結乾燥させた生成物を産生するために、塩化ナトリウムを含有している凍結乾燥させた薬学的調製物の充填剤(例えば、グリシンまたはマンニトール)が、結晶化のために必要とされ得ると考えられる。従って、結晶化が可能な充填剤についての以下の改良した凍結乾燥プロセスを開発した。
【0049】
【表7】

凍結工程においては、温度の変更は、約0.5℃/分と約1℃/分との間の速度で行った。より長い持続時間の工程もまた有効であると考えられる。
【0050】
最初の凍結工程の前に、温度を、全てのバイアルをほぼ同じ温度にする目的のために、約1時間、約2℃と約8℃との間にした。この後、凍結乾燥装置を−5℃に冷却した。最初の凍結工程は、−30℃未満、好ましくは、−35℃未満、そしてより好ましくは、約−40℃の温度で行うべきである;この後、最初のアニーリング工程を、−30℃と−19℃との間、より好ましくは、約−25℃と約−28℃との間(グリシンが充填剤である場合)、または−21℃と−24℃との間(マンニトールが充填剤である場合)のいずれかで行うべきである。−23℃と−26℃との間の温度が最も好ましい。この温度では、結晶化が可能な充填剤が、少なくとも一部結晶化すると考えられる。しかし、−27℃付近の低い範囲は、マンニトールおよびアルギニンを含有している処方物については推奨されない。この工程を、好ましくは、約3時間行う。
【0051】
最初のアニーリング工程の後、温度を、好ましくは、約−50℃未満に、そしてより好ましくは、−55℃未満に、約1時間低下させる。調製物中の塩化ナトリウムがこの時点で凝集すると考えられる。
【0052】
第2のアニーリング工程の間に、薬学的調製物の温度を、約−30℃と約−39℃との間、そして好ましくは、マンニトールを含有している組成物については約−33℃、そしてグリシンを含有している組成物については−36℃に、上昇させる。NaClの結晶の成長が少なくとも一部、この時点で生じると考えられる。この工程を、好ましくは約4時間行う。この後、凍結乾燥装置の温度を約−50℃に、好ましくは、調製物の温度を低下させるために約1時間、低下させる。
【0053】
この後の凍結−乾燥工程においては、温度の変更を、約0.5℃/分と約1℃/分との間の速度で行った。約65mTorrに凍結乾燥装置の圧力を低下させた後、最初の乾燥のために、温度を約−32℃と約−35℃との間に上昇させる。調製物中の氷の結晶が、この温度で昇華する。この工程を、約100時間まで、または氷のほとんどが調製物から昇華するまで行う。ほとんどの氷が昇華した点は、例えば、露点センサーを使用して決定することができる。露天決定装置は、読み取り値が下がるときに氷の昇華の終わりを示す(湾曲点)。
【0054】
最初の乾燥の後、調製物からさらに水を除くための2回目の乾燥を開始するために、温度を+40℃に、好ましくは、0.2℃/分の速度で上昇させる。この温度を、好ましくは、約3時間維持する。2回目および3回目の二次的な乾燥工程が、1回目の工程に続く。ここでは、2%(w/w)未満に凍結乾燥させた塊中の水分を減少させるために、温度を約3時間の間+45℃に上昇させ、次いで約+50℃にさらに3時間以上上昇させる。
【0055】
(実施例4)
さらなる実験を、充填剤としてグリシンまたはマンニトールを含有している凍結乾燥させた第VIII因子組成物に対するヒスチジンの影響を詳細に試験するために行った。不可逆的な熱の流れ(Madulated DSC,mDSC)を、冷却の間のこれらの充填剤の結晶化を検出するために使用した。結晶化の温度および結晶化の全熱量の両方を、結晶化発熱線を使用して決定した。暖化の間のNaCl共晶融解吸熱の出現を、NaClの結晶化を検出するために使用した。mDSC中で、結晶化の程度を、全熱流シグナルを使用することによって、純粋なNaCl溶液の融解のエンタルピーに対する、処方物の融解のエンタルピーの比として決定した。さらに、X線回折分析を、凍結乾燥させた処方物中での結晶化の程度を決定するために行った。
【0056】
20mM未満のヒスチジン濃度は、グリシンの結晶化に対して有意な効果を有さなかったが、50mMのヒスチジンは、グリシンの結晶化の程度を減少させた。十分に規定されたNaClの結晶化の発熱線は、グリシンを含有している処方物の冷却の間には観察しなかった。しかし、加熱の間の共晶融解吸熱は、NaClが、−50℃未満への冷却、ならびに−30℃、−35℃、および−40℃でのアニーリングの後で結晶化した(>50%)ことを示した。グリシンを含有している処方物中に50mMのヒスチジンを含むことによって、NaClの結晶化は遅れた。結果として、アニーリング時間は、同等の結晶度を達成するためには、このような処方物については3倍に増大した。
【0057】
しかし、グリシンを含有している処方物中でのNaClの結晶化に対する20mMのヒスチジンの影響は最少であった。凍結−乾燥実験においては、凍結乾燥させた塊の崩壊を、50mMのヒスチジンを含有しているグリシンを含有している処方物中で可視的に観察した。X線粉末回折データは、ヒスチジンを含有しているサンプル中のNaClの結晶度における減少を示した。マンニトールを含有している処方物中では、代表的には、83%〜90%の塩化ナトリウムが、アニーリングを必要とすることなく、−40℃と−50℃との間での冷却の間に結晶化した。処方物に対して20mMのヒスチジンを含有することによって、冷却、アニーリングの間のNaClの結晶化を抑制した、これによって、NaClの約40%の結晶化を生じた。
【0058】
従って、結晶化が可能な充填剤(例えば、グリシンまたはマンニトール)およびNaClを含有している処方物中では、ヒスチジンを含むことは、NaClの結晶化の程度を減少させ得る。このことは、いくつかの場合においては、凍結乾燥の間に形成される塊の崩壊を導き得るが、このような処方物中での比較的低濃度のヒスチジンの使用はこの効果を緩和し得る。それにもかかわらず、受容可能な塊が、35mMおよび50mMのヒスチジンの濃度で形成されている。HEPESの使用がヒスチジンの同様の量よりも大きな程度にTg’を低下させることが観察されているように、ヒスチジンはまた、マンニトールに基づく処方物、およびグリシンに基づく処方物中で、緩衝液としてHEPESを好み得る。
【0059】
(実施例5)
多数の可能性のある第VIII因子処方物(7個の候補の安定化剤および5個の充填剤を含む)の物理的な特徴を、別の実験において評価した。充填剤および安定化剤に加えて、以下の表8に列挙する全ての処方物(処方物11を除く)は、10mMのTris−HCl、200mMのNaCl、0.02%のTween−80、4mMのCaCl2を含
有し、そしてpH7.0であった。処方物11は、10mMのTris−HCl、0.02%のTween−80、および4mMのCaCl2を含有し、そしてこれもまた、pH
7.0であった。全てのpH測定を、室温で行った。
【0060】
【表8】

凍結−乾燥顕微鏡による崩壊温度の測定値、およびDSCによる熱転移測定値を、凍結−乾燥の性状を推定するために使用した。DSC、X線粉末回折、および偏光顕微鏡もまた、凍結乾燥させたサンプルの結晶度を決定するために使用した。再構成時間およびサンプルの出現もまた、評価した。これらの測定の全ての結果を以下の表9にまとめる。
【0061】
【表9】

マンニトール:リジンを除いて、全ての処方物が、十分な物理的な出現を有することを示した。リジンは、マンニトールおよびグリシンの両方の結晶化を妨害した。これは、ガラス転移温度の低下、および凍結乾燥した塊の崩壊を生じた。
【0062】
(実施例6)
上記の表8に記載する第VIII因子組成物を、それらの安定性について評価するために、時間の長さを変化させて、−70℃、25℃、40℃、および50℃での保存中に配置した。第VIII因子の活性レベルを、2週間後、1ヶ月後、2ヶ月後、および3ヶ月後に評価し、そして結果を以下の表10にまとめる。サンプルのうちの2つ(1つは、充填剤としてマンニトールを使用し、そして安定化剤としてソルビトールを使用する、そして他方は、充填剤としてマンニトールを使用し、そして安定化剤としてグリセロールを使用する)は、低い安定性を示した。残りの処方物は全て、第VIII因子を安定化させる能力を示した。
【0063】
【表10】


(実施例7)
実施例5および6に記載する実験の間の得た情報に基づいて、以下の表11に示す賦形剤を有する候補の処方物をさらに開発することを決定した。
【0064】
【表11】

これらのパラメータに基づいて、以下の特異的処方物を開発した。
【0065】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載されるような発明

【公開番号】特開2012−72198(P2012−72198A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−9767(P2012−9767)
【出願日】平成24年1月20日(2012.1.20)
【分割の表示】特願2008−120035(P2008−120035)の分割
【原出願日】平成12年2月22日(2000.2.22)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501315876)ユニバーシティ オブ コネチカット (22)
【Fターム(参考)】