説明

アルブミン変異体

本発明は、親アルブミンの変異体であって、親アルブミンと比べて改変された血漿中半減期を有する変異体に関する。また、本発明は、前記変異アルブミンを含む融合ポリペプチド及びコンジュゲートにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルブミン、その断片、又は、アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドと比較して、半減期が変更された、アルブミンの変異体又はその断片、又は、変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
アルブミンは、哺乳類血漿中に天然に、且つ、最も豊富に存在するタンパク質である。所望の血液浸透圧の維持や、種々の物質の血流輸送に、重要な役割を担っている。
【0003】
ヒト、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ等、多数の生物種のアルブミンの特性付けがなされており、それらは配列及び構造上、高度の相同性を有する。
【0004】
アルブミンはインビボ(in vivo)において、その受容体である新生児Fc受容体(neonatal Fc receptor:FcRn)「Brambell」に結合する。この相互作用は、アルブミンの血漿中半減期にとって重要であることが知られている。FcRnは膜結合タンパク質であり、多数の細胞型及び組織型において発現されている。FcRnは、細胞内分解されたアルブミンを再利用することが分かっている(Roopenian D. C. and Akilesh, S. (2007), Nat. Rev. Immunol 7, 715-725)。FcRnは二官能性分子であり、人間等の哺乳類におけるIgG及びアルブミンの血清中レベルを高く維持するのに寄与している。
【0005】
FcRn−免疫グロブリン(IgG)相互作用は従来から特性付けされてきたのに対し、FcRn−アルブミン相互作用の特性はそれほど分かっていない。主なFcRn結合部位は DIII(381-585) 内に存在する(Andersen et al, (2010), Clinical Biochemistry, 43,367-372)。データによれば、IgG及びアルブミンは、FcRn上の個別の部位に、非協調的に結合する(Andersen et al. (2006), Eur. J. Immunol 36, 3044-3051;Chaudhury et al. (2006), Biochemistry 45, 4983-4990)。
【0006】
マウスFcRnはマウス及びヒト由来のIgGに結合することが知られているが、ヒトFcRnはより特異性が高いように思われる(Ober et al. (2001) Int. Immunol 13, 1551-1559)。Andersen et al. (2010), Journal of Biological Chemistry 285(7):4826-36 は、ヒト及びマウスのFcRnの、マウス及びヒト各々のアルブミンに対する親和性を(可能なすべての組み合わせについて)記載する。生理pHでは、何れの生物種のアルブミンによる、何れの受容体に対する結合も見られなかった。酸性pHでは、結合親和性に100倍の差が見られた。何れの場合も、各生物種のアルブミン及びIgGの両受容体に対する結合は付加的であった。
【0007】
ヒト血清アルブミン(human serum albumin:HSA)は、585アミノ酸のポリペプチドとして、明確に特性付けされている。その配列は、Peters, T., Jr. (1996) All about Albumin: Biochemistry, Genetics and Medical, Applications pp10, Academic Press, Inc., Orlando (ISBN 0-12-552110-3) に示されている。ヒト血清アルブミンは、その受容体FcRnに対して、特徴的な結合を示す。pH6.0では結合するのに対し、pH7.4では結合しない。
【0008】
HSAの血漿中半減期はおよそ19日であることが分かっている。より短い血漿中半減期を有する天然変異体が特定されている(Peach, R. J. and Brennan, S. 0.,(1991) Biochim Biophys Acta.1097:49-54)。この変異体は置換D494Nを有し、この置換によって、野生型アルブミンには存在しないN−グリコシル化部位を有する。血漿中半減期の変化の原因が、グリコシル化にあるのか、それともアミノ酸の変化にあるのかは、分かっていない。
【0009】
アルブミンは血漿中半減期が長く、この特性ゆえに、薬物送達における使用が示唆されてきた。アルブミンを医薬的に有用な化合物とコンジュゲートしたところ(国際公開第2000/69902A号)、得られたコンジュゲートは、アルブミンの有する長い血漿中半減期を維持することが見出された。概して、このコンジュゲートの血漿中半減期は、有用な治療用化合物単独の血漿中半減期よりも、顕著に長かった。
【0010】
更に、アルブミンを治療上有用なペプチドと融合したところ(国際公開第2001/79271A号及び国際公開第2003/59934A号)、得られた融合体は、概して、治療上有用なペプチドの活性を維持するとともに、その血漿中半減期は、治療上有用なペプチド単独の血漿中半減期よりも顕著に長い、という結果が得られた。
【0011】
Otagiri et al (2009), Biol. Pharm, Bull. 32(4), 527-534 は、公知の77のアルブミンの変異のうち、25の変異がドメインIII内に存在することを開示している。カルボキシル末端の最後の175のアミノ酸を欠く天然変異体は、半減期が短縮されることが知られている(Andersen et al (2010), Clinical Biochemistry 43, 367-372)。Iwao et al.(2007) によれば、マウスモデルを用いて天然ヒトアルブミン変異体の半減期を調べたところ、K541E 及び K560E では半減期が短縮され、E501K 及び E570K では半減期が延長され、K573E は半減期に殆ど影響を与えないことが分かった(Iwao, et. al. (2007) B.B.A. Proteins and Proteomics 1774, 1582-1590)。
【0012】
Galliano et al (1993) Biochim. Biophys.Acta 1225, 27-32 は天然変異体 E505K を開示する。Minchiotti et al. (1990) は天然変異体 K536E を開示する。Minchiotti et al (1987) Biochim. Biophys. Acta 916, 411-418 は天然変異体 K574N を開示する。Takahashi et al (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 4413-4417 は天然変異体 D550G を開示する。Carlson et al (1992). Proc. Nat. Acad. Sci. USA 89, 8225-8229 は天然変異体 D550A を開示する。
【0013】
アルブミンは数々のリガンドに結合する能力を有し、これらはアルブミンに連結される(連結する)。この特性は、アルブミンに非共有的に結合する能力を有する薬物の血漿中半減期の延長に利用されてきた。これは、アルブミン結合特性を殆どあるいは全く持たない医薬的に有用な化合物に対して、アルブミン結合特性を有する部位を連結することによっても達成される。概説 Kratz (2008) Journal of Controlled Release 132, 171-183 及びそこに引用される文献を参照のこと。
【0014】
アルブミンは、医薬的に有用な化合物の調製物に使用される。斯かる調製物の例としては、限定されるものではないが、アルブミンのナノ粒子又はマイクロ粒子が挙げられる。これらの例では、医薬的に有用な化合物又は化合物の混合物の送達は、アルブミンの受容体に対する親和性の改変を通じて達成され、有用化合物は、送達の手段たるアルブミンと連結されていることが示されている。
【0015】
形成された連結物(アソシエート:例としては、限定されるものではないが、Levemir(登録商標)、Kurtzhals P et al. Biochem. J. 1995; 312:725-731)、コンジュゲート又は融合ポリペプチドの血漿中半減期が、何によって決定されるのかは明らかではないが、アルブミンと医薬的に有用な化合物/ポリペプチドとの組み合わせの結果によるものと思われる。所与のアルブミンのコンジュゲート、アソシエート、又はアルブミン融合ポリペプチドの血漿中半減期を制御し、それら連結、コンジュゲーション又は融合の要素により得られる血漿中半減期よりも延長又は短縮された血漿中半減期を達成できれば、治療対象とする適用の細目に応じた適切な薬物の設計が可能となり、望ましいであろう。
【0016】
アルブミンは腫瘍で蓄積、分解されることが知られている。また、関節リウマチ患者の炎症関節に蓄積することも示されている。概説 Kratz (2008), Journal of Controlled Release 132, 171-183 及びそこに引用される文献を参照のこと。HSA変異体のFcRnに対する親和性を増大することができれば、医薬的に有用な化合物の送達に有利であると予想される。
【0017】
更には、Kenanova et al (2009) J. Nucl. Med.; 50 (Supplement 2):1582 に記載のように、FcRnに対して殆ど、或いは全く結合しないアルブミン変異体が得られれば、より短い半減期や、制御された血清中薬物動態を達成することができ、望ましいであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、親アルブミンの変異体であって、その親と比べて特性が改善された変異体を提供する。特に、本発明は、親アルブミンの変異体であって、その親と比べて血漿中半減期が改変された変異体を提供する。
【0019】
本発明は、親アルブミンの単離された変異体又はその断片、又は、変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドであって、配列番号2の成熟ポリペプチドの位置417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584に相当する1又は2以上(数個)の位置に改変を含み、但し、配列番号2において置換D494N、E501K、K541E、D550G,A、K573E又はK574Nを有する配列からなる変異体ではない、変異体に関する。
【0020】
上記の1又は2以上の位置における改変は、置換、挿入及び欠失から独立に選択されるが、置換が好ましい。
【0021】
また、本発明は、前記変異体をコードする単離されたポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む核酸コンストラクト、ベクター及び宿主細胞、並びに前記変異体を作製する方法にも関する。
【0022】
また、本発明は、本発明に係る変異アルブミン又はその断片と、有用な治療用部位とを含むコンジュゲート又はアソシエート、及び、本発明の変異アルブミン又はその断片と、融合パートナーポリペプチドとを含む融合ポリペプチドにも関する。
【0023】
更に、本発明は、前記変異アルブミン、その断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドを、或いは、本発明に係る変異アルブミン又はその断片を含むコンジュゲートを、或いは、本発明に係る変異アルブミン又はその断片を含むアソシエートを含む組成物にも関する。前記組成物は医薬組成物であることが好ましい。
【0024】
更に、本発明は、変異アルブミン、その断片、変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドを、或いは、前記変異アルブミン又はその断片を含むコンジュゲートを、或いは、前記変異アルブミン又はその断片を含むアソシエートを含む医薬組成物であって、前記の変異アルブミン、その断片、変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドが、或いは、前記変異アルブミン又はその断片を含むコンジュゲートが、或いは、前記変異アルブミン又はその断片を含むアソシエートが、対応するHSA又はその断片、HSA又はその断片を含む融合ポリペプチド、又は、HSA又はその断片を含むコンジュゲート又はアソシエートの血漿中半減期と比べて、改変された血漿中半減期を有する、医薬組成物にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、発現プラスミドpDB4082の制限酵素地図を示す。
【図2】図2は、発現プラスミドpDB2305の制限酵素地図を示す。
【図3】図3は、発現プラスミドpDB4005の制限酵素地図を示す。
【図4】図4は、10μMアルブミンをshFcRn HSAに注入したSPRセンサーグラムを示す。HSA(JTA)はSigma-Aldrich 社製脂肪酸不含有HSA(A3782)であり、HSA(Novozymes)は市販の組換ヒトアルブミン血清アルブミン(RECOMBUMIN)である。
【図5】図5は、shFcRn−GSTのヒト血清アルブミン(HSA)変異体(100〜0.045μg/ml)に対するELISA結合を示す。WT、D494N、D494Q及びD494AのpH6.0及びpH7.4における結合。WT、D494N、D494N/T496A及びT496AのpH6.0及びpH7.4における結合。WT、E495Q及びE495AのpH6.0及びpH7.4における結合。
【図6】図6は、0.2μMのHSA変異体の固定化shFcRn(〜4600RU)に対する結合の代表的なセンサーグラムを示す。WT、D494N、D494Q、D494A、D494N/T496A及びT496A。
【図7】図7は、1μMのHSA変異体の固定化shFcRn(〜1400RU)に対する結合の代表的なセンサーグラムを示す。WT、D494N、D494Q、D494A、D494N/T496A及びT496A。
【図8】図8は、(A)図6及び(B)図7に示す2つの独立のSPR実験に基づくWTとの比較における、HSA変異体の相対結合を示す。
【図9】図9は、ELISAを示す。(A)ヒト、ロバ、ウシ、ヒツジ、ヤギ及びウサギ由来のアルブミンに対するpH6.0でのshFcRnの結合。(B)モルモット、ハムスター、ラット及びニワトリ由来のアルブミンに対するpH6.0でのshFcRnの結合。(C)ヒト、ロバ、ウシ、ヒツジ、ヤギ及びウサギ由来のアルブミンに対するpH7.4でのshFcRnの結合。(D)モルモット、ハムスター、ラット及びニワトリ由来のアルブミンに対するpH7.4でのshFcRnの結合。(E)種々のアルブミンの相対結合。ヒトアルブミンのshFcRnに対する相対結合を1.0と定義した。ELISA値は二重試験の平均値を示す。
【図10】図10は、SPRを示す。複数生物種由来のアルブミンに対するpH6.0及びpH7.4でのshFcRn−GSTの結合。種々の生物種由来のアルブミン5.0μMにおける結合を示す代表的なセンサーグラム。(A)ヒト、(B)ロバ、(C)ウシ、(D)ヤギ、(E)ヒツジ、(F)ウサギ、(G)イヌ、(H)モルモット、(I)ハムスター、(J)ラット、(K)マウス、及び(L)ニワトリ。アルブミン変異体を固定化GSTタグ化shFcRn(〜2100RU)に注入した。注入は25℃、流速40μl/分で実施した。
【図11】図11は、選択されたHSAミュータントのSPRセンサーグラムを、野生型HSAと比較して示す。20μMの(A)WT及びP499A、(B)WT及びK500A、(C)WT及びK536A、(D)WT及びP537A、(E)WT及びK538A、並びに(F)WT及びK537Aを、固定化shFcRnに対してpH6.0(〜1500RU)で注入した。
【図12】図12は、選択されたHSAミュータントのSPRセンサーグラムを、野生型HSAと比較して示す。10μMの(A)WT及びK573A、(B)WT及びK573C、(C)WT及びK573F、(D)WT及びK573G、(E)WT及びK573L、(F)WT及びK573M、(G)WT及びK573Q、(H)WT及びK573R、(I)WT及びK573T、並びに(J)WT及びK573Vを、固定化shFcRnに対してpH5.5及びpH7.4で注入した。注入は25℃、流速80μl/分で実施した。
【図13】図13は、選択されたHSAミュータントのSPRセンサーグラムを、野生型HSAと比較して示す。10μMの(A)WT及びK573D、(B)WT及びK573E、(C)WT及びK573H、(D)WT及びK573I、(E)WT及びK573N、(F)WT及びK573P、(G)WT及びK573S、(H)WT及びK573*、(I)WT及びK573W、並びに(J)WT及びK573Yを、固定化shFcRnに対してpH5.5及びpH7.4で注入した。注入は25℃、流速80μl/分で実施した。
【図14】図14は、HSAミュータントのSPRセンサーグラムを、野生型HSAと比較して示す。20μMの(A)WT及びE492G+K538H+K541N+E542D、(B)WT及びE492T+N503K+K541A、(C)WT及びE492P+N503K+K541G+E542P、(D)WT及びE492H+E501P+N503H+E505D+T506S+T540S+K541E、(E)WT及びA490D+E492T+V493L+E501P+N503D+A504E+E505K+T506F+K541D、並びに(F)WT及びE492G+V493P+K538H+K541N+E542Dを、固定化shFcRnに対してpH6.0で注入した。注入は25℃、流速80μl/分で実施した。
【図15】図15は、HSAミュータントのSPRセンサーグラムを、野生型HSAと比較して示す。12μMの(A)WT、(B)H440Q、(C)H464Q及び(D)H535Qを、固定化shFcRnに対してpH6.0で注入した。注入は25℃、流速80μl/分で実施した。
【図16】図16は、HSAミュータントK500EのSPRセンサーグラムを、野生型HSAと比較して示す。10μMのHSAミュータントK500Eを、固定化shFcRnに対してpH5.75で注入した。注入は25℃、流速30μl/分で実施した。
【図17】図17は、発現プラスミドpDB3017の制限酵素地図を示す。
【図18】図18は、発現プラスミドpDB3021の制限酵素地図を示す。
【図19】図19は、発現プラスミドpDB3056の制限酵素地図を示す。
【図20】図20は、発現プラスミドpDB3165の制限酵素地図を示す。
【図21】図21は、発現プラスミドpDB4172の制限酵素地図を示す。
【図22】図22は、発現プラスミドpDB4267の制限酵素地図を示す。
【図23】図23は、発現プラスミドpDB4285の制限酵素地図を示す。
【図24】図24は、WT HSA及びミュータントK573P HRPコンジュゲートのshFcRn分析におけるGP−HPLCクロマトグラムを示す。材料及び方法のランに記載のとおり、25μLをTSK G3000SWXLカラム(Tosoh Bioscience)に注入した。
【図25】図25は、フルオレセインをコンジュゲートしたアルブミンのSDS PAGE分離及び視認(A)及び紫外線(B)の双方による検出を示す。HSA::F5M(レーン1)、K573P::F5M(レーン2)及びrHA標準(レーン3)。
【図26】図26は、HSA変異体のshFcRn結合特性を示す。10μMのWT rHA及びE492T(A)、WT rHA及びD494N/E495Q/T496A(B)、WT rHA及びN503D(C)、WT rHA及びN503K(D)、WT rHA及びE492T/N503D(E)、WT rHA及びE495Q/T496A(F)、WT rHA及びK538H(G)、WT rHA及びE492D(H)を、固定化shFcRnに対してpH5.5で注入した。
【図27】図27は、HSA変異体のshFcRn結合特性を示す。10μMのWT rHA及びK541A(I)、並びにWT rHA及びK541N(J)を、固定化shFcRnに対してpH5.5で注入した。
【図28】図28は、shFcRn(100nM)を単独で、又は種々の量のHSA K573A及びK573Pと予インキュベート後、固定化HSA(〜2500RU)に対してpH6.0で注入して測定された、K573A及びK573Pの競合結合を示す。
【図29】図29は、shFcRn(100nM)を単独で、又は種々の量のHSA−FLAG変異体と共に、固定化HSA(〜2500RU)に対してpH6.0で注入して測定された、HSA−FLAG変異体の競合結合を示す。
【図30】図30は、shFcRn(100nM)を単独で、又は種々の量のHSA−IL1Ra変異体と共に、固定化HSA(〜2500RU)に対してpH6.0で注入して測定された、HSA−IL1Ra変異体の競合結合を示す。
【図31】図31は、shFcRn(100nM)を単独で、又は種々の量の(A)scFv−HSA−FLAG変異体若しくは(B)HSA−scFv−FLAG変異体と共に、固定化HSA(〜2500RU)に対してpH6.0で注入して測定された、scFv融合HSA変異体の競合結合を示す。
【図32】図32は、HSAの一重、二重及び三重ミュータントのshFcRnに対する結合を示す。10μMの各HSA変異体のサンプルを、固定化shFcRnに対してpH5.5又はpH7.4で注入した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、親アルブミンの単離された変異アルブミン又はその断片、又は、変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドであって、配列番号2の成熟ポリペプチドの位置417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584に対応する1又は2以上の(数個)位置に改変を含み、但し、配列番号2において置換D494N、E501K、K541E、D550G,A、K573E又はK574Nを有する配列からなる変異体ではない、変異体に関する。
【0027】
前記の1又は2以上の位置における改変は、置換、挿入及び欠失から独立に選択されるが、置換が好ましい。
【0028】
定義
・変異体:「変異体」(variant)との語は、親アルブミンに対して1又は2以上の改変、即ち置換、挿入、及び/又は欠失を、1又は2以上(数個)の位置に導入して得られたポリペプチドを意味する。置換(substitution)は、ある位置を占めるアミノ酸を異なるアミノ酸で置き換えることを意味し、欠失(deletion)とは、ある位置を占めるアミノ酸を除去することを意味し、挿入(insertion)とは、ある位置を占めるアミノ酸の隣に、1又は2以上、好ましくは1〜3のアミノ酸を付加することを意味する。
【0029】
ミュータント:「ミュータント」(mutant)との語は、変異体をコードするポリヌクレオチドを意味する。
【0030】
・野生型アルブミン:「野生型」(wild-type:WT)アルブミンとの語は、動物又は人間において天然に見出されるアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有するアルブミンを意味する。
【0031】
・親又は親アルブミン:「親」(parent)又は「親アルブミン」との語は、本発明のアルブミン変異体を産生するように人為的に改変を加える対象となるアルブミンを意味する。親は、天然(野生型)ポリペプチドであっても、その対立遺伝子(アレル:allele)でもよく、更にはその変異体でもよい。
【0032】
・FcRn及びshFcRn:「FcRn」との語は、ヒト新生児Fc受容体(human neonatal Fc receptor:FcRn)を意味する。shFcRnはFcRnの可溶性組換体である。
【0033】
・smFcRn:「smFcRn」との語は、マウス新生児Fc受容体(mouse neonatal Fc receptor)の可溶性組換体を意味する。
【0034】
・単離変異体:「単離変異体」(isolated variant)との語は、人為的に修飾された変異体であって、天然の状態で付随する少なくとも1つの成分から完全に又は部分的に分離された変異体を意味する。一側面によれば、斯かる変異体のSDS PAGE又はGP−HPLCにより決定される純度は、少なくとも1%、例えば、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも60%、少なくとも80%、及び、少なくとも90%である。
【0035】
・実質的に純粋な変異体:「実質的に純粋な変異体」(substantially pure variant)との語は、天然又は組換時に付随する他のポリペプチド物質の含量が、重量基準で最大10%、最大8%、最大6%、最大5%、最大4%、最大3%、最大2%、最大1%、及び最大0.5%である調製物を意味する。斯かる変異体は、調製物中に存在する総ポリペプチド物質に対する重量j基準の純度が、少なくとも92%、例えば、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、及び100%であることが好ましい。本発明の変異体は、実質的に純粋な形態であることが好ましい。これは例えば、周知の組換方法及び精製方法によって変異体を調製することにより達成される。
【0036】
・成熟ポリペプチド:「成熟ポリペプチド」(mature polypeptide)との語は、翻訳及び任意の翻訳後修飾(例えばN末端プロセシング、C末端切断、グリコシル化、リン酸化等)を経た最終形態にあるポリペプチドを意味する。一側面によれば、成熟ポリペプチドは、任意の翻訳後修飾を含む、配列番号2のアミノ酸1〜585を有する。
【0037】
・成熟ポリペプチドコーディング配列:「成熟ポリペプチドコーディング配列」(mature polypeptide coding sequence)との語は、成熟アルブミンポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを意味する。一側面によれば、成熟ポリペプチドコーディング配列は、配列番号1のヌクレオチド1〜1758である。
【0038】
・配列同一性:2つのアミノ酸配列又は2つのヌクレオチド配列の間の関連性を「配列同一性」(sequence identity)というパラメーターで記載する。
【0039】
本発明の目的においては、2つのアミノ酸配列間の同一性の度合いは、Needleman-Wunsch アルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48:443-453)を、EMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends in Genetics 16:276-277;http://emboss.org)のNeedleプログラム(好ましくはバージョン3.0.0以降)で実行することにより決定される。任意パラメーターは、ギャップ・オープン・ペナルティー(gap open penalty)が10、ギャップ・エクステンション・ペナルティー(gap extension penalty)が0.5であり、また、EBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換マトリックスを使用する。「最長同一性」(longest identity)と表示されたNeedleの出力値(-nobriefオプションを用いて得られるもの)を%同一性として使用する。これは以下の式に従い算出される。
(同一残基数 × 100)/(アラインメント長 − アラインメント中のギャップ総数)
【0040】
本発明の目的においては、2つのデオキシリボヌクレオチド配列間の同一性の度合いは、Needleman-Wunsch アルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970、同上)を、EMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000、同上;http://emboss.org)のNeedleプログラム(好ましくはバージョン3.0.0以降)で実行することにより決定される。任意パラメーターは、ギャップ・オープン・ペナルティー(gap open penalty)が10、ギャップ・エクステンション・ペナルティー(gap extension penalty)が0.5であり、また、EDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックスを使用する。「最長同一性」(longest identity)と表示されたNeedleの出力値(-nobriefオプションを用いて得られるもの)を%同一性として使用する。これは以下の式に従い算出される。
(同一デオキシリボヌクレオチド数 × 100)/(アラインメント長 − アラインメント中のギャップ総数)
【0041】
・断片:「断片」(fragment)との語は、アルブミン及び/又はアルブミン内部領域のアミノ及び/又はカルボキシル末端から1又は2以上(数個)のアミノ酸が欠失してなるポリペプチドであって、FcRnに結合する能力を維持しているものを言う。断片は、HSA由来の中断のない単一の配列からなっていてもよく、HSA由来の2以上の配列を含んでいてもよい。本発明に係る断片のサイズは、アミノ酸残基数およそ20超、好ましくはアミノ酸残基数30超、より好ましくはアミノ酸残基数40超、より好ましくはアミノ酸残基数50超、より好ましくはアミノ酸残基数75超、より好ましくはアミノ酸残基数100超、より好ましくはアミノ酸残基数200超、より好ましくは超300アミノ酸残基数、よりいっそう好ましくはアミノ酸残基数400超、最も好ましくはアミノ酸残基数500超である。
【0042】
・対立遺伝子多型(対立遺伝子変異体):対立遺伝子多型(対立遺伝子変異体)」(allelic variant)との語は、同一の染色体座を択一的に占める一遺伝子の複数形態の夫々を指す。対立遺伝子変異(allelic variation)は自然界において突然変異により生じる。これにより個体集団内に多型が生じる場合もある。遺伝子の突然変異はサイレントである(コードされるポリペプチドは変化しない)場合もあるが、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列に変化が生じる場合もある。ポリペプチドの対立遺伝子多型とは、遺伝子の対立遺伝子多型によりコードされるポリペプチドである。
【0043】
・コーディング配列:「コーディング配列」(coding sequence)との語は、そのポリペプチド産物のアミノ酸配列を直接規定するポリヌクレオチドを意味する。コーディング配列の境界は通常、オープン・リーディング・フレーム(open reading frame)により画定される。オープン・リーディング・フレームは通常、ATG開始コドン、又はGTGやTTG等の代替開始コドンから開始し、TAA、TAG、TGA等の停止コドンで停止する。コーディング配列はDNA、cDNA、合成、組換ポリヌクレオチドの何れでもよい。
【0044】
・cDNA:「cDNA」との語は、真核細胞から得られるスプライス後の成熟mRNA分子から逆転写により調製されるDNA分子として定義される。cDNAは、対応するゲノムDNA中に通常存在するイントロン配列を有さない。初期一次RNA転写産物がmRNAの前駆体となり、これが一連の処理工程を経て、最終的にスプライス後に成熟mRNAを生じる。
【0045】
・核酸コンストラクト:「核酸コンストラクト」(nucleic acid construct)との語は、天然遺伝子から単離され、或いは天然では存在しない核酸のセグメントを含むように修飾され、或いは合成された、一本鎖又は二本鎖の核酸分子を指す。核酸コンストラクトが本発明のコーディング配列の発現に必要な調節配列を含む場合、核酸コンストラクトは「発現カセット」(expression cassette)と同義となる。
【0046】
・調節配列:「調節配列」(control sequence)との語は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現に必要な全ての構成要素を含むものとして定義される。各調節配列は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対して同種でも外来でもよく、互いに同種でも外来でもよい。斯かる調節配列としては、これらに限定されるものではないが、リーダー、ポリアデニル化配列、プロペプチド配列、プロモーター、シグナルペプチド配列、及び転写ターミネーターが挙げられる。少なくとも、調節配列はプロモーターと、転写及び翻訳停止シグナルとを含む。特定の制限部位を導入する目的で、調節配列にリンカーを付加してもよい。これにより斯かる調節配列と、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドのコーディング領域との連結が容易になる。
【0047】
・作動式に連結され:「作動式に連結され」(operably linked)との語は、ポリペプチドのコーディング配列が調節配列により発現されるように、ポリヌクレオチド配列の調節配列がコーディング配列に対して適切な位置に配置された構成を意味する。
【0048】
・発現:「発現」(expression)との語は、ポリペプチドの産生に関与する任意のステップを意味する。斯かるステップとしては、これらに制限されるものではないが、転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾、及び分泌が挙げられる。
【0049】
・発現ベクター:「発現ベクター」(expression vector)との語は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むとともに、その発現を可能とする更なるヌクレオチドと作動式に連結された、線状又は環状DNA分子として定義される。
【0050】
・宿主細胞:「宿主細胞」(host cell)との語は、本発明のポリヌクレオチドを含む核酸コンストラクト又は発現ベクターにより形質転換(transformation)、トランスフェクション(transfection)、形質導入(transduction)等が可能な任意の細胞型を意味する。「宿主細胞」という語には、親細胞の任意の子孫であって、複製時に生じた突然変異により親細胞とは同一ではなくなったものも含まれる。
【0051】
・血漿中半減期:血漿中半減期(plasma half-life)は、適切な個体において、インビボで決定するのが理想的である。しかしながら、動物又は人間において実験を行うのは、時間及び費用がかかる上に、倫理的な問題が避けられないので、血漿中半減期が延長又は短縮されたことを確認するには、インビトロ(in vitro)アッセイを用いることが望ましい。アルブミンによるその受容体FcRnへの結合は血漿中半減期にとって重要であり、受容体結合と血漿中半減期とは、アルブミンの受容体に対する親和性が高いほど血漿中半減期が長くなるという相関関係にあることが知られている。従って、本発明では、アルブミンのFcRnに対する親和性が高いほど、血漿中半減期が延長されたものと判断し、アルブミンの受容体に対する親和性が低いほど、血漿中半減期が低減されたものと判断する。
【0052】
本明細書及び添付の特許請求の範囲では、アルブミン受容体FcRnに対するアルブミンの結合を、親和性(affinity)という語、及び、「(より)強い」(stronger)又は「(より)弱い」(weaker)等の表現を用いて表す。即ち、FcRnに対する親和性がHSAよりも高い分子は、HSAよりも強く(stronger)FcRnに結合し、FcRnに対する親和性がHSAよりも低い分子は、HSAよりも弱く(stronger)FcRnに結合すると解される。
【0053】
「(より)長い血漿中半減期」(longer plasma half-life)又は「(より)短い血漿中半減期」(shorter plasma half-life)、及びこれに類する表現は、対応する親アルブミン分子との関係で解釈すべきである。即ち、本発明の変異アルブミンが(より)長い血漿中半減期(longer plasma half-life)を有するとは、当該変異体が、配列番号2の位置417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584に対応する位置における(1又は2以上の)改変の他は同一の配列を有する対応するアルブミンと比べて、より長い血漿中半減期を有することを意味する。
【0054】
変異体の表示の規約
本発明の目的においては、配列番号2に開示の成熟ポリペプチドを用いて、別のアルブミンの対応するアミノ酸残基を決定する。別のアルブミンのアミノ酸配列を、配列番号2に開示の成熟ポリペプチドとアラインし、当該アラインメントに基づき、配列番号2に開示の成熟ポリペプチドの任意のアミノ酸残基に対応するアミノ酸位置番号を決定する。掛かる作業は、Needleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453)を、EMBOSSパッケージ(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277)のNeedleプログラム(好ましくはバージョン3.0.0以降)で実行して行う。
【0055】
別のアルブミンにおける対応するアミノ酸残基の同定は、「ClustalW」(Larkin et al., 2007, Bioinformatics 23:2947-2948)を用いた多重ポリペプチド配列のアラインメントにより行うことができる。
【0056】
配列番号2の成熟ポリペプチドに対して、他のポリペプチド(又はタンパク質)が、従来の配列に基づく比較ではその関連性を検出できない程度にまで分化している場合(Lindahl and Elofsson, 2000, J. Mol. Biol. 295: 613-615)、他の対配列比較アルゴリズムを使用することができる。ポリペプチドファミリー(プロファイル)の確率的表現を用いてデータベースを検索する検索プログラムを用いることにより、より高い感度で配列に基づく検索を行うことができる。例えば、PSI-BLAST プログラムは、反復データベース検索プロセスを通じてプロファイルを生成するもので、遠縁のホモログを検出することが可能である(Atschul et al., 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)。着目するポリペプチドのファミリー又はスーパーファミリーが1又は2以上(数個)の表現がタンパク質構造データベースに存在する場合には、更に高い感度が達成可能である。例えばGenTHREADER(Jones 1999, J. Mol. Biol. 287:797-815; McGuffin and Jones, 2003, Bioinformatics 19:874-881)等のプログラムは、種々のソース由来の情報(PSI-BLAST、二次構造予測(secondary structure prediction)、構造アラインメントプロファイル(structural alignment profiles)、及び溶媒和ポテンシャル(solvation potentials))をニューラルネットワークに入力し、クエリー配列の折り畳み構造を予測する。同様に、Gough et al., 2000, J. Mol. Biol. 313:903-919 の方法を用いれば、未知の構造の配列を SCOP データベースに存在するスーパーファミリーモデルとアラインすることができる。これらのアラインメントを用いれば、更に着目するポリペプチドのホモロジーを生成することができる。斯かるモデルの精度を検証するには、その目的で開発された種々のツールを用いればよい。
【0057】
構造既知のタンパク質の場合、構造的アラインメントの検索及び生成に、幾つかのツールやリソースが利用できる。例えばタンパク質の SCOP スーパーファミリーは構造的にアラインメントがなされており、斯かるアラインメントはアクセス及びダウンロード可能である。2以上のタンパク質構造のアラインメントには、種々のアルゴリズム、例えばディスタンス・アラインメント・マトリックス(distance alignment matrix)(Holm and Sander, 1998, Proteins 33:88-96)又はコンビナトリアル・エクステンション(combinatorial extension)(Shindyalov and Bourne, 1998, Protein Eng. 11:739-747)が使用できる。更には、これらのアルゴリズムを実行し、着目する構造について構造データベースにクエリーすれば、可能性のある構造的ホモログを発見することも可能である(例えば Holm and Park, 2000, Bioinformatics 16:566-567)。
【0058】
本発明のアルブミン変異体を記述するにあたり、参照の便宜のため、以下に記載の命名法を採用する。アミノ酸の略称としては、周知のIUPACによる1文字又は3文字の略称を用いる。
【0059】
置換 アミノ酸置換については、以下の命名法を使用する:原アミノ酸、位置、置換アミノ酸。従って、位置226におけるスレオニンのアラニンによる置換は、「Thr226Ala」又は「T226A」と表す。多重突然変異については、例えば加算記号(「+」)により区切って表記する。例えば「Gly205Arg+Ser411Phe」又は「G205R+S411F」は、位置205のグリシン(G)をアルギニン(R)に置換し、位置411のセリン(S)のフェニルアラニン(F)に置換する突然変異を表す。図では「/」も使用する。例えば「E492T/N503D」等。「/」は「+」と相互交換可能に用いる。
【0060】
欠失 アミノ酸欠失については、以下の命名法を使用する:原アミノ酸、位置*。従って、位置195におけるグリシンの欠失は、「Gly195*」又は「G195*」と表す。多重欠失は加算記号(「+」)により区切る。例えば「Gly195*+Ser411*」又は「G195*+S411*」等。
【0061】
挿入 アミノ酸挿入については、以下の命名法を使用する:原アミノ酸、位置、原アミノ酸、新たに挿入されるアミノ酸。従って、位置195のグリシンの後へのリシンの挿入は、「Gly195GlyLys」又は「G195GK」と表す。アミノ酸の多重挿入は、[原アミノ酸、位置、原アミノ酸、新たに挿入されるアミノ酸#1、新たに挿入されるアミノ酸#2;等]と表す。例えば、位置195のグリシンの後にリシン及びアラニンを挿入する場合、「Gly195GlyLysAla」又は「G195GKA」と表す。
【0062】
斯かる場合において、挿入される(1又は2以上の)アミノ酸残基の番号付けは、挿入される(1又は2以上の)アミノ酸残基に先立つアミノ酸残基の位置番号に対し、小文字を付加することにより行う。即ち、上記例の場合、配列は以下のようになる。
【表0】

【0063】
多重改変 多重改変を含む変異体は(「+」)により区切る。例えば「Arg170Tyr+Gly195Glu」又は「R170Y+G195E」は、位置170のチロシン及び位置195のグルタミン酸の、夫々アルギニン及びグリシンによる置換を表す。
【0064】
異なる置換 ある位置に2種以上の異なる置換を導入し得る場合、これらの異なる置換はカンマにより区切る。例えば「Arg170Tyr,Glu」は、位置170のアルギニンのチロシン又はグルタミン酸による置換を表す。即ち、「Tyr167Gly,Ala+Arg170Gly,Ala」は、「Tyr167Gly+Arg170Gly」、「Tyr167Gly+Arg170Ala」、「Tyr167Ala+Arg170Gly」、及び「Tyr167Ala+Arg170Ala」を指す。
【0065】
親アルブミン
アルブミンは、哺乳類血漿の最も豊富な構成要素であるタンパク質の総称である。多数の哺乳類由来のアルブミンが、生化学的手法及び/又は配列情報により特定されている。幾つかのアルブミン(例えばヒト血清アルブミン(human serum albumin:HSA)等)については、結晶学的特性及び構造も決定されている。
【0066】
本発明における好ましいアルブミンであるHSAは、585のアミノ酸残基からなるタンパク質であり、その分子量は67kDaである。天然の形態ではグリコシル化されていない。HSAのアミノ酸配列を配列番号2に示す。当業者には周知であるが、HSAと本質的に同一の特性を有するが、配列番号2に比べて1又は2以上のアミノ酸が異なる、天然の対立遺伝子が存在する場合がある。本発明者等は、斯かる天然対立遺伝子についても、本発明に係る親アルブミンとしての使用を考慮するものである。
【0067】
一般に、アルブミンの血漿中半減期は長く、凡そ20日又はそれ以上である。例えば、HSAの場合、血漿中半減期は19日である。HSAが有する長い血漿中半減期は、その受容体であるFcRnとの相互作用により媒介されることが知られている。しかしながら、HSAの長い半減期の背後にある正確な機序についての理解や知識は、本発明においては重要ではない。
【0068】
本発明によれば、「アルブミン」との語は、HSAと同一又は極めて類似の三次元構造 を有し、且つ長い血漿中半減期を有するタンパク質を意味する。本発明に係るアルブミンタンパク質の例としては、ヒト血清アルブミン、霊長類血清アルブミン(例えばチンパンジー血清アルブミン、ゴリラ血清アルブミン等)、齧歯類血清アルブミン(例えばハムスター血清アルブミン、モルモット血清アルブミン、マウスアルブミン及びラット血清アルブミン等)、ウシ血清アルブミン、ウマ血清アルブミン、ロバ血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、ヤギ血清アルブミン、ヒツジ血清アルブミン、イヌ血清アルブミン、ニワトリ血清アルブミン及びブタ血清アルブミン等が挙げられる。本発明に係るアルブミンとしては、配列番号2に開示のHSA又はその任意の天然対立遺伝子が好ましい。
【0069】
本発明に係る親アルブミン、その断片、又はアルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドのアルブミン部分は、配列番号2に示すHSAの配列と、通常は少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも86%、好ましくは少なくとも87%、好ましくは少なくとも88%、好ましくは少なくとも89%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも91%、好ましくは少なくとも92%、好ましくは少なくとも93%、好ましくは少なくとも94%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0070】
親は、配列番号2のアミノ酸配列を含み、又は当該配列からなることが好ましい。別の観点によれば、親は、配列番号2の成熟ポリペプチドを含み、又は当該配列からなる。
【0071】
別の態様によれば、親は、配列番号2の成熟ポリペプチドの対立遺伝子多型である。
【0072】
第2の観点によれば、親は、極めて低いストリンジェンシー条件、低いストリンジェンシー条件、中程度のストリンジェンシー条件、やや高いストリンジェンシー条件、高いストリンジェンシー条件、又は極めて高いストリンジェンシー条件の下で、(i)配列番号1の成熟ポリペプチドコーディング配列、(ii)配列番号1の成熟ポリペプチドコーディング配列、又は(iii)(i)若しくは(ii)の全長相補鎖とハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされる(J. Sambrook, E.F. Fritsch, and T. Maniatis, 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2d edition, Cold Spring Harbor, New York)。
【0073】
異なる属又は種の生物から親をコードするDNAを特定及びクローン化するべく、当業界で周知の方法により、配列番号1のポリヌクレオチド若しくはその下位配列、又は、配列番号2のアミノ酸配列若しくはその断片を用いて核酸プローブを設計してもよい。特に、斯かるプローブを用い、標準的なサザンブロッティングの手順に従って、所望の属又は種のゲノム又はcDNAとハイブリダイゼーションを行うことにより、対応する遺伝子を同定及び単離することが可能である。斯かるプローブは全長配列よりもずっと短くてよいが、少なくとも14、例えば少なくとも25、少なくとも35、又は少なくとも70ヌクレオチドの長さを有するべきである。斯かる核酸プローブは、少なくとも100ヌクレオチド長、例えば、少なくとも200ヌクレオチド、少なくとも300ヌクレオチド、少なくとも400ヌクレオチド、少なくとも500ヌクレオチド、少なくとも600ヌクレオチド、少なくとも700ヌクレオチド、少なくとも800ヌクレオチド、又は少なくとも900ヌクレオチドの長さを有することが好ましい。DNAプローブ及びRNAプローブの双方が使用可能である。対応する遺伝子を検出するために、斯かるプローブは通常(例えば32P、H、35S、ビオチン又はアビジン等で)標識される。斯かるプローブも本発明に包含される。
【0074】
上述したプローブにハイブリダイズし、親をコードするDNAを、斯かる他の生物から調製されたゲノムDNA又はcDNAライブラリーからスクリーニングしてもよい。斯かる他の生物由来のゲノム又は他のDNAは、アガロース又はポリアクリルアミドゲル電気泳動等の分離手法により分離することができる。ライブラリー由来のDNA又は分離されたDNAを、ニトロセルロース又は他の適切な担体材料に移し、固定化してもよい。配列番号1又はその下位配列と相同なクローン又はDNAを同定するには、斯かる担体材料を用いてサザンプロットを行う。
【0075】
本発明の目的においては、ハイブリダイゼーションによって、ポリヌクレオチドが、配列番号1に示すポリヌクレオチド、その相補鎖、又はその下位配列に対応する標識ヌクレオチドプローブと、低いストリンジェンシー条件ないし極めて高いストリンジェンシー条件の下でハイブリダイズすることを示す。プローブがハイブリダイズする分子は、例えばX線フィルムや、当業界で周知の他の任意の検出法を用いて検出することができる。
【0076】
一側面によれば、核酸プローブは、配列番号1の成熟ポリペプチドコーディング配列である。別の観点によれば、核酸プローブは、配列番号1のヌクレオチド1〜1785である。別の観点によれば、核酸プローブは、配列番号2のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその断片である。別の観点によれば、核酸プローブは配列番号1である。
【0077】
少なくとも100ヌクレオチド長を有する長いプローブの場合、極めて低いストリンジェンシーから極めて高いストリンジェンシーまでの条件は、以下のように定義される。プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションを、42℃、5×SSPE中、0.3%SDS、200μg/mlの剪断変性サケ精子DNA、及び、極めて低いストリンジェンシー及び低いストリンジェンシーの場合は25%ホルムアミド、中程度のストリンジェンシー及びやや高いストリンジェンシーの場合は35%ホルムアミド、高いストリンジェンシー及び極めて高いストリンジェンシーの場合は50%ホルムアミドの存在下、標準的なサザンブロッティング手順に従って、好適には12〜24時間行う。最後に担体材料を各々15分ずつ3回、2×SSC、0.2%SDSを用いて、45℃(極めて低いストリンジェンシー)、50℃(低いストリンジェンシー)、55℃(中程度のストリンジェンシー)、60℃(やや高いストリンジェンシー)、65℃(高いストリンジェンシー)、又は70℃(極めて高いストリンジェンシー)で洗浄する。
【0078】
約15ヌクレオチドから約70ヌクレオチド長を有する短いプローブの場合、ストリンジェンシー条件は以下のように定義される。プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションを、約5℃から約10℃、且つ、Bolton及びMcCarthy(1962, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 48: 1390)に従って計算されたT以下の温度で、0.9M NaCl、0.09M トリス−HCl pH7.6、6mM EDTA、0.5% NP-40、1×デンハート液(Denhardt's solution)、1mM ピロリン酸ナトリウム、1mM リン酸一ナトリウム、0.1mM ATP、及び1ml当たり0.2mgの酵母RNAの存在下、標準的なサザンブロッティング手順に従って、好適には12〜24時間行う。最後に担体材料を、5℃から10℃且つ計算されたT以下の温度で、6×SCC及び0.1%SDSを用いて15分1回、続いて6×SSCを用いて15分ずつ2回洗浄する。
【0079】
第3の観点によれば、親は、配列番号1の成熟ポリペプチドコーディング配列に対して、少なくとも60%、例えば、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有し、アルブミンとして機能し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドによりコードされる。一態様によれば、親は、配列番号1を含み、又は配列番号1からなるポリヌクレオチドによりコードされる。
【0080】
変異体の調製物
更なる観点によれば、本発明は、アルブミン、その断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドを調製する方法であって、
a)アルブミン、その断片、又は、アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドのアルブミン部分の中で、アルブミンのFcRnへの結合にとって重要な1又は2以上のアミノ酸残基位置を特定し、
b)前記アルブミン、その断片、又は、アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドのアルブミン部分をコードする核酸を用意し、
c)b)で用意した核酸について、a)で特定された位置の1又は2以上(数個)のアミノ酸残基が欠失し、又は異なるアミノ酸によって置換され、又は異なるアミノ酸が挿入されるように修飾し、
d)修飾された核酸を適切な宿主細胞内で発現させ、
e)前記の変異アルブミン、その断片、又は、アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドを回収する
工程を含む、方法に関する。
【0081】
アルブミン、その断片、又は、アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドのアルブミン部分の中における、アルブミンのFcRnへの結合にとって重要な1又は2以上のアミノ酸残基位置の特定は、幾つかの方法で達成できる。例としては、これらに限定されるものではないが、ランダム変異誘発後、生成されたミュータントを分析し、変異を有さない親分子と比較する方法や、構造を考慮した特定後、任意により、特定された改変を有する変異体を生成し、変異を有さない親分子と比較する方法等が挙げられる。
【0082】
天然のHSAと比較してFcRnに対する結合が改変された変異体HSAを調製するために変更すべき、1又は2以上のアミノ酸残基位置を特定するための好ましい方法は、
i)FcRnに対して異なる結合特性を有する非ヒトアルブミンを特定し、
ii)FcRnと相互作用するヒト血清アルブミンのアミノ酸残基を特定し、
iii)工程ii)で特定されたアミノ酸残基について、工程i)で特定された非ヒトアルブミンとヒト血清アルブミンとの間で一次及び/又は三次構造を比較し、前記非ヒトアルブミンとヒト血清アルブミンとの間で異なるアミノ酸残基を、観測された結合の相違に関与するものとして特定し、
iv)任意により、工程iii)で特定された位置におけるHSAの変異体を調製し、調製された変異体をHSAと比較して、FcRnに対する結合が改変されたか否か確認する、
工程を含む。
【0083】
上記工程i)は、例えば以下に記載のSPRアッセイを用いて実施することができる。しかしながら、当業者であれば理解するように、他の手法を用いて、FcRnに対する結合特性がHSAと異なる非ヒトアルブミンを特定してもよく、上記方法は、FcRnに対する結合特性が異なる非ヒトアルブミンをどのように特定するかには依存しない。
【0084】
好ましい態様によれば、特定される非ヒトアルブミンは、FcRnに対する結合がHSAよりも強い。FcRnに対する結合がHSAよりも強い非ヒトアルブミンの例としては、ロバ血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、イヌ血清アルブミン、ハムスター血清アルブミン、モルモット血清アルブミン、マウス血清アルブミン、及びラット血清アルブミンが挙げられる。FcRn、HSA、及びこれら2つの結合複合体の構造を考慮することにより、工程ii)を達成することができる。結合複合体の構造が入手できない場合は、HSA構造がFcRn構造内に格納された構造のモデルを用いることにより、FcRnと相互作用するHSAのアミノ酸残基を特定することが可能である。
【0085】
別の好ましい態様によれば、特定される非ヒトアルブミンは、FcRnに対する結合がHSAよりも弱い。FcRnに対する結合がHSAよりも弱い非ヒトアルブミンの例としては、ウシ血清アルブミン、ヤギ血清アルブミン、ヒツジ血清アルブミン、及びニワトリ血清アルブミンが挙げられる。FcRn、HSA、及びこれら2つの結合複合体の構造を考慮することにより、工程ii)を達成することができる。結合複合体の構造が入手できない場合は、HSA構造がFcRn構造内に格納された構造のモデルを用いることにより、FcRnと相互作用するHSAのアミノ酸残基を特定することが可能である。
【0086】
本発明及び請求項において、FcRnと相互作用すると判断されるHSAのアミノ酸残基とは、FcRn内のアミノ酸から10Å未満に位置するHSAの任意のアミノ酸残基、或いは、FcRn内のアミノ酸から10Å未満に位置するアミノ酸残基との水素結合、塩橋、又は、極性若しくは非極性の相互作用に関与する任意のアミノ酸残基である。HSA残基内のアミノ酸は、FcRn内のアミノ酸から10Å未満、より好ましくはFcRn内のアミノ酸から6Å未満、最も好ましくはFcRn内のアミノ酸から3Å未満に位置することが好ましい。
【0087】
工程iii)及びiv)は当業者に周知の手法を用いて実施できる。
【0088】
また、本発明は、変異アルブミン、その断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含むアソシエートを取得する方法であって、(a)変異アルブミン、その断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドに対して、配列番号2の成熟ポリペプチドの位置417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584に対応する1又は2以上(数個)の位置に改変を導入し、(b)変異アルブミン、その断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドを回収する工程を含む方法にも関する。
【0089】
変異体は、当業者であれば、当業界で公知の変異誘発手順、例えば部位特異的変異誘発、合成遺伝子構築、半合成遺伝子構築、ランダム変異誘発、シャッフリング等を用いて作成することができる。
【0090】
部位特異的変異誘発は、親をコードするポリヌクレオチド内の1又は2以上の所定の位置に、1又は2以上(数個)の変異を形成する手法である。
【0091】
部位特異的変異誘発は、所望の変異を含むオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRにより、インビトロで実施することができる。また、部位特異的変異誘発は、カセット変異誘発によっても、インビトロで実施することができる。斯かる手法は、親をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド内の部位を制限酵素で切断した後、ポリヌクレオチド内に変異を含むオリゴヌクレオチドを連結することにより行う。通常、プラスミドを消化する制限酵素と同一の制限酵素を用いてオリゴヌクレオチドを消化することにより、プラスミドとの連結及び相互の挿入が可能となる。例えば、Scherer and Davis, 1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76: 4949-4955; and Barton et al., 1990, Nucleic Acids Res. 18: 7349-4966 を参照のこと。
【0092】
また、部位特異的変異誘発は、当業界で公知の手法により、インビボでも実施可能である。例えば、米国特許出願公報第2004/0171154号;Storici et al., 2001, Nature Biotechnol. 19: 773-776;Kren et al., 1998、Nat. Med. 4: 285-290;及びCalissano and Macino, 1996, Fungal Genet. Newslett. 43: 15-16 を参照のこと。
【0093】
本発明では任意の部位特異的変異誘発を使用可能である。変異体の調製に使用し得るキットは多々市販されている。
【0094】
合成遺伝子構築(synthetic gene construction)は、所望のポリペプチド分子をコードするポリヌクレオチド分子を設計し、これをインビトロで合成するものである。遺伝子合成は数々の手法を用いて実施可能である。例としては、Tian, et. al.が報告する多重マイクロチップ法(multiplex microchip-based technology)(Tian, et. al., Nature 432:1050-1054)や、類似の手法が挙げられる。これらの手法は、光プログラム可能なマイクロ流体チップ上で、オリゴヌクレオチドを合成、構築するものである。
【0095】
単一又は多重のアミノ酸置換、欠失、及び/又は挿入を形成・検証するには、公知の変異誘発、組換え、及び/又はシャッフリングを用いた後、適切なスクリーニング法、例えば Reidhaar-Olson and Sauer, 1988, Science 241:53-57;Bowie and Sauer, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:2152-2156;国際公開第95/17413号;又は国際公開第95/22625号等に開示の手法を用いればよい。他の使用可能な方法としては、エラープローン(error-prone)PCR、ファージ・ディスプレイ(phage display)(例えば Lowman et al., 1991, Biochemistry 30:10832-10837;米国特許第5,223,409号;国際公開第92/06204号等)及び領域特異的変異誘発(Derbyshire et al., 1986, Gene 46:145;Ner et al., 1988, DNA 7:127)等が挙げられる。
【0096】
変異誘発/シャッフリング法をハイスループット自動スクリーニング法と組み合わせることにより、宿主細胞により発現されるクローン化突然変異ポリペプチドの活性を検出することが可能となる(Ness et al., 1999, Nature Biotechnology 17: 893-896)。当業界の標準法により、活性ポリペプチドをコードする変異誘発DNA分子を宿主細胞から回収し、即時に配列決定することができる。これらの手法により、ポリペプチドにおける個々のアミノ酸残基の重要性を、迅速に決定することが可能となる。
【0097】
半合成遺伝子構築(semi-synthetic gene construction)は、合成遺伝子構築、及び/又は部位特異的変異誘発、及び/又はランダム変異誘発、及び/又はシャッフリングの態様を組み合わせることにより実施される。半合成構築の代表的なプロセスは、合成ポリヌクレオチド断片をPCR法と組み合わせたものである。即ち、例えば遺伝子の所定の領域を新規合成し、他の領域は部位特異的突然変異プライマー等を用いて増幅し、更に別の領域についてはエラープローン(error-prone)PCRや非エラープローン(non-error-prone)PCR増幅等を用いることができる。その後、ポリヌクレオチド断片をシャッフルしてもよい。
【0098】
変異体
本発明は、親アルブミンの変異アルブミン、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドであって、配列番号2の位置417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584に対応する1又は2以上(数個)の位置に改変を含み、各改変は各々独立に、置換、挿入又は欠失であり、但し、当該変異体は、配列番号2において置換D494N、E501K、K541E、D550G,A、K573E又はK574Nを有する変異体ではないものも提供する。
【0099】
本発明に係る変異アルブミン、その断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドのアルブミン部分は、通常、配列番号2に示すHSAの配列に対して、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0100】
一側面によれば、本発明の変異体における改変の数は、1〜20、例えば1〜10、1〜5、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の改変である。
【0101】
変異アルブミン、その断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、対応する親アルブミン、その断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドと比べて、改変された血漿中半減期を有する。
【0102】
特定の好ましい態様によれば、親アルブミンはHSAであり、変異アルブミン、その断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、HSA、対応する断片、又は、HSA又はその断片を含む融合ポリペプチドと比べて、改変された血漿中半減期を有する。
【0103】
アルブミンのその受容体への結合と血漿中半減期との相関は、本発明者等により、HSAの天然の対立遺伝子D494Nに基づいて発見された。本発明者等は、この対立遺伝子を分析したところ、その受容体FcRnに対する親和性がより低いことを見出した。
【0104】
更に、天然のマウスFcRnがヒトFcRnで置換されたトランスジェニックマウスが、正常マウスと比べてより高い血清アルブミンを示すことが報告された(J Exp Med. (2003) 197(3):315-22 参照)。本発明者等は、ヒトFcRnのマウス血清アルブミンに対する親和性が、マウスFcRnのマウス血清アルブミンに対する親和性よりも高いこと、惹いては、前記のトランスジェニックマウスについて観察された血清アルブミンの上昇が、血清アルブミンとその受容体との親和性の高さに対応するものであることを見出し、アルブミンのFcRnに対する結合と血漿中半減期との相関を確認した。加えて、FcRnに対して殆ど或いは全く結合しないアルブミンの変異体が、マウスモデルにおいて短縮された半減期を示すことを見出した(Kenanova et al (2009) J. Nucl. Med.; 50 (Supplement 2): 1582)。
【0105】
変異アルブミンのFcRnに対する親和性が親アルブミンと比べて高いか低いかを決定する方法の一つは、後述する表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)アッセイの使用である。当業者であれば理解するように、変異アルブミンのFcRnに対する親和性が、親アルブミンのFcRnに対する親和性と比べて高いか低いかを決定するのに、他の方法が有用な場合もある。例えば、結合定数KDの決定及び比較が挙げられる。即ち、天然のHSAの場合のKDよりも低いKDを有する本発明に係る変異アルブミンは、HSAよりも高い血漿中半減期を有すると考えられ、天然のHSAの場合のKDよりも高いKDを有する本発明に係る変異アルブミンは、HSAよりも低い血漿中半減期を有すると考えられる。
【0106】
アルブミン、又はその断片、又はアルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドの変異体は、417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584からなる群より選択される位置に対応するHSAの1又は2以上(数個)の位置に、1又は2以上の改変、例えば置換、欠失又は挿入を有する。置換は、天然のアルブミン配列におけるアミノ酸が、残る19種の天然のアミノ酸から選択される異なるアミノ酸によって置換されるものであれば、任意の置換とすることができる。
【0107】
一側面によれば、変異体は、配列番号2の位置417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584に対応する1又は2以上(数個)の位置に改変を含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の位置417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584の何れかに対応する2つの位置に改変を含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の位置417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584の何れかに対応する3つの位置に改変を含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の位置417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584に対応する各位置に改変を含む。
【0108】
別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換Q417A,Hを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換H440Qを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換H464Qを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A490Dを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換E492G、T,P,Hを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換V493P,Lを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換D494N,Q,A,E,Pを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換E495Q,Aを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換T496Aを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換P499Aを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K500E,G,D,A,S,C,P,H,F,N,W,T,M,Y,V,Q,L,I,Rを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換E501A,P,Qを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換N503K,D,Hを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A504Eを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換E505K,Dを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換T506F,Sを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換H510Qを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換H535Qを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K536Aを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換P537Aを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K538A,Hを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換T540Sを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K541A,D,G,N,Eを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換E542P,Dを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換D550Nを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K573Y,W,P,H,F,V,I,T,N,S,G,M,C,A,E,Q,R,L,Dを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K574Nを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換Q580Kを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換L575Fを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A577T,Eを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A578R,Sを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換S579C,Tを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換Q580Kを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A581Dを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A582Tを含む。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換G584Aを含む。
【0109】
一側面によれば、変異体は、位置417に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置417に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAla又はHisにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換Q417A,Hを含む。
【0110】
別の観点によれば、変異体は、位置440に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置440に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換H440Qを含む。
【0111】
別の観点によれば、変異体は、位置464に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置464に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換H464Qを含む。
【0112】
別の観点によれば、変異体は、位置490に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置490に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A490Gを含む。
【0113】
別の観点によれば、変異体は、位置492に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置492に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはGlyにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換E492Gを含む。
【0114】
別の観点によれば、変異体は、位置493に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置493に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはProにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換V493Pを含む。
【0115】
別の観点によれば、変異体は、位置494に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置494に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAsn、Gln又はAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換D494N,Q,Aを含む。
【0116】
別の観点によれば、変異体は、位置495に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置495に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはGln又はAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換E495Q又はAを含む。
【0117】
別の観点によれば、変異体は、位置496に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置496に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換T496Aを含む。
【0118】
別の観点によれば、変異体は、位置499に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置499に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換P499Aを含む。
【0119】
別の観点によれば、変異体は、位置500に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置500に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K500E,G,D,A,S,C,P,H,F,N,W,T,M,Y,V,Q,L,I,Rを含む。
【0120】
別の観点によれば、変異体は、位置501に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置501に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより置換され、好ましくは親和性を低減すべくAla又はGlnにより置換され、親和性を向上すべくProにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換E501A,Q,Pを含む。
【0121】
別の観点によれば、変異体は、位置503に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置503に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAsp又はLys又はHisにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換N503D,K,Hを含む。
【0122】
別の観点によれば、変異体は、位置504に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置504に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A504を含む。
【0123】
別の観点によれば、変異体は、位置505に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置505に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換E505Dを含む。
【0124】
別の観点によれば、変異体は、位置506に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置506に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換T506S,Fを含む。
【0125】
別の観点によれば、変異体は、位置510に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置510に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはGlnにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換H510Qを含む。
【0126】
別の観点によれば、変異体は、位置535に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置535に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはGlnにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換H535Qを含む。
【0127】
別の観点によれば、変異体は、位置536に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置536に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K536Aを含む。
【0128】
別の観点によれば、変異体は、位置537に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置537に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換P537Aを含む。
【0129】
別の観点によれば、変異体は、位置538に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置538に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K538H,Aを含む。
【0130】
別の観点によれば、変異体は、位置540に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置540に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換T540Sを含む。
【0131】
別の観点によれば、変異体は、位置541に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置541に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはGly、Asp又はAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K541G,D,A,Nを含む。
【0132】
別の観点によれば、変異体は、位置542に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置542に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAsp又はProにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換E542D,Pを含む。
【0133】
別の観点によれば、変異体は、位置550に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置550に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValによりにより置換され、好ましくは親和性を減ずるべくAsnにより、また、好ましくは親和性を増ずるべくGluにより置換される。
【0134】
別の観点によれば、変異体は、位置573に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置573に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはTyr、Trp、Pro、His。Phe、Val、Ile、Thr、Asn、Ser、Gly、Met、Cys、Ala、Glu、Gln、Arg、Leu、Aspにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K573Y,W,P,H,F,V,I,T,N,S,G,M,C,A,E,Q,R,L,Dを含む。
【0135】
別の観点によれば、変異体は、位置574に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置574に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAsnにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換K574Nを含む。
【0136】
別の観点によれば、変異体は、位置575に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置575に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはPheにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換L575Fを含む。
【0137】
別の観点によれば、変異体は、位置577に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置577に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはThr又はGluにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A577TEを含む。
【0138】
別の観点によれば、変異体は、位置578に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置578に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはArg又はSerにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A578R,Sを含む。
【0139】
別の観点によれば、変異体は、位置579に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置579に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはCys又はThrにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換S579C,Tを含む。
【0140】
別の観点によれば、変異体は、位置580に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置580に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはLysにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換Q580Kを含む。
【0141】
別の観点によれば、変異体は、位置581に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置581に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAspにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A581Dを含む。
【0142】
別の観点によれば、変異体は、位置582に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置582に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはThrにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換A582Tを含む。
【0143】
別の観点によれば、変異体は、位置584に対応する位置に改変を含む。別の観点によれば、位置584に対応する位置のアミノ酸が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、又はValにより、好ましくはAlaにより置換される。別の観点によれば、変異体は、配列番号2の成熟ポリペプチドの置換G584Aを含む。
【0144】
別の観点によれば、変異体は、配列番号2の位置494及び496に対応する位置に、例えば上述した改変を含む。
【0145】
別の観点によれば、変異体は、配列番号2の位置位置492及び493に対応する位置に、例えば上述した改変を含む。
【0146】
別の観点によれば、変異体は、配列番号2の位置位置494及び417に対応する位置に、例えば上述した改変を含む。
【0147】
別の観点によれば、変異体は、配列番号2の位置位置492及び503に対応する位置に、例えば上述した改変を含む。
【0148】
別の観点によれば、変異体は、配列番号2の位置位置492及び573に対応する位置に、例えば上述した改変を含む。
【0149】
別の観点によれば、変異体は、配列番号2の位置位置492、503、及び573に対応する位置に、例えば上述した改変を含む。
【0150】
一態様によれば、本発明に係る変異アルブミン、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、配列番号2における417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584からなる群より選択されるHSA上の位置に対応する位置に置換を有する。但し、当該変異アルブミンは、配列番号2における置換D494N、E501K、K541E、D550G,A、K573E又はK574Nからなる変異体ではない。本発明に係る変異アルブミン、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、HSAの他の位置に対応する1又は2以上(数個)の位置に、更なる置換、挿入又は欠失を有していてもよい。
【0151】
別の態様によれば、本発明に係る変異アルブミン、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又はそれ以上の置換を、配列番号2の417、440、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、575、577、578、579、580、581、582及び584からなる群より選択される位置に対応するHSAの位置に含む。本発明に係る変異アルブミン、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、HSAの他の位置に、更なる置換、挿入又は欠失を含んでいてもよい。
【0152】
更なる態様によれば、本発明に係るアルブミンの変異体、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、親アルブミン、その断片、又は、親アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドの血漿中半減期よりも長い血漿中半減期を有する。斯かる態様の例としては、配列番号2の位置492、503、542、550、573、574、580、581、582又は584に対応する位置に置換を含む、アルブミンの変異体、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドが挙げられる。本発明のこの態様に係る好ましい置換としては、配列番号2の位置492に対応する位置のアミノ酸残基のG残基による置換、配列番号2の位置503に対応する位置のアミノ酸残基のH又はK残基による置換、配列番号2の位置550に対応する位置のアミノ酸残基のE残基による置換、配列番号2の位置573に対応する位置のアミノ酸残基のY,W,P,H,F,V,I,T,N,S,G,M,C,A,E,Q,R,L又はDによる置換、配列番号2の位置574に対応する位置のアミノ酸残基のN残基による置換、又は配列番号2の位置580に対応する位置のアミノ酸残基のK残基による置換が挙げられる。他の好ましい変異体は、配列番号2の位置492に対応する位置のアミノ酸残基のG残基による置換、及び、配列番号2の位置573に対応する位置のアミノ酸残基のA又はP残基による置換を有する。他の好ましい変異体は、配列番号2の位置492に対応する位置のH残基による、位置503に対応する位置に幾つかの置換を有する。
【0153】
他の好ましい変異体は、配列番号2の位置492に対応する位置のG残基による置換、及び、配列番号2の位置503に対応する位置のH又はKによる置換、及び、配列番号2の位置573に対応する位置のA又はP残基による置換を有する。
【0154】
更なる態様によれば、本発明に係るアルブミンの変異体、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、親アルブミン、その断片、又は、親アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドの血漿中半減期よりも短い血漿中半減期を有する。この態様の例としては、配列番号2の位置417、440、494、495、496、499、500、501、536、537、538、541、494+496又は492+493に対応する位置に置換を有する、アルブミンの変異体、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドが挙げられる。好ましい置換としては、配列番号2のQ417A、H440Q、D494E+Q417H、D494N,Q,A、E495Q,A、T496A、D494N+T496A、又は、P499A、K500A、E501A、E501Q、K536A、P537A、K538A、K541G、K541A、K541D又はD550Nに対応する置換が挙げられる。
【0155】
別の態様によれば、本発明に係るアルブミンの変異体、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、FcRnに対して結合する能力を喪失している。ここで、アルブミンの変異体、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドが、FcRnに対して結合する能力を喪失しているとは、後述のSPRアッセイにより測定される変異体のレゾナンス単位が、対応する親アルブミン又はその断片について測定されるレゾナンス単位の10%未満であることをいう。この態様の例としては、配列番号2の位置464、500、510又は535に対応する位置に置換を有する、アルブミンの変異体、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドが挙げられる。好ましい置換としては、配列番号2のH464Q、K500A,P,C,S,A,D,G、H510Q又はH535Qに対応する置換が挙げられる。
【0156】
配列番号2の位置417、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574、580、581、582及び584に対応する1又は2以上の位置における1又は2以上の置換に加えて、本発明に係る変異アルブミン、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、更なる置換、欠失又は挿入を、分子内の他の位置に有していてもよい。斯かる更なる置換、欠失又は挿入は、当該分子の他の特性を改変するのに有用な場合がある。例としては、限定されるものではないが、グリコシル化の改変、表面へのチオール基等の反応性基の導入、カルバモイル化部位の除去/生成、等が挙げられる。
【0157】
反応性残基を表面に供するべく改変可能な残基であって、本発明に有利に適用可能な残基としては、未公開特許出願、国際公開第2010/092135号(引用により組み込まれる)に開示されている。特に好ましい残基としては、配列番号2の位置に対応する位置の残基が挙げられる。
【0158】
反応性チオール基を表面に供するべく、配列番号2又は他のアルブミンの対応する位置に加えることが可能な改変としては、配列番号2の以下の改変に対応する改変が挙げられる:L585C、D1C、A2C、D562C、A364C、A504C、E505C、T79C、E86C、D129C、D549C、A581C、D121C、E82C、S270C、A578C、L595LC、D1DC、A2AC、D562DC、A364AC、A504AC、E505EC、T79TC、E86EC、D129DC、D549DC、A581AC、A581AC、D121DC、E82EC、S270SC、A579AC、C360*、C316*、C75*、C168*、C558*、C361*、C91*、C124*、C169*及びC567*。或いは、アルブミンのN又はC末端にシステイン残基を付与してもよい。
【0159】
ポリヌクレオチド
本発明は、本発明の変異体をコードする単離ポリヌクレオチドにも関する。
【0160】
核酸コンストラクト
本発明は、本発明の変異体をコード化するポリヌクレオチドと、前記ポリヌクレオチドに作動式に連結された1又は2以上(数個)の調節配列とを含み、前記調節配列が、前記調節配列に適合する条件下、適切な宿主細胞において、前記コーディング配列の発現を指示する、核酸コンストラクトにも関する。
【0161】
変異体の発現を提供するべく、種々の方法によりポリヌクレオチドを操作してもよい。ポリヌクレオチドはベクターへの挿入前に操作することが望ましく、発現ベクターによっては斯かるベクターへの挿入前の操作が必須である。組換DNA法を用いてポリヌクレオチドを操作する技術は当業界では周知である。
【0162】
調節配列としては、ポリヌクレオチドの発現のために宿主細胞に認識される、適切なプロモーター配列が挙げられる。プロモーター配列は、変異プロテアーゼ変異体の発現を媒介する転写調節配列を含む。プロモーターは、選択された宿主細胞内で転写活性を示すものであれば、如何なる核酸配列であってもよく、ミュータント型、切断型、ハイブリッド型等のプロモーターであってもよい。また、宿主細胞に対して同種又は異種の細胞外又は細胞内ポリペプチドをコードする何れの遺伝子から取得されたものでもよい。
【0163】
酵母宿主の場合、有用なプロモーターとしては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)エノラーゼ(ENO-1)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)プロテアーゼA(PRA1)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)プロテアーゼB(PRB1)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)転写延長因子(TEF1)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)転写延長因子(TEF2)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ガラクトキナーゼ(GAL1)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)アルコールデヒドロゲナーゼ/グリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(ADH1、ADH2/GAP)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)メタロチオネイン(CUP1)、及びサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)3−ホスホグリセリン酸キナーゼ由来のプロモーターが挙げられる。酵母宿主細胞に有用な他のプロモーターは、Romanos et al., 1992, Yeast 8:423-488 に記載されている。
【0164】
調節配列としては、転写を停止するために宿主細胞に認識される、適切な転写ターミネーター配列も挙げられる。ターミネーター配列は、変異体をコードするポリヌクレオチドの3’末端に作動式に連結される。宿主細胞において機能し得る任意のターミネーターを使用することができる。
【0165】
酵母宿主細胞の場合に好ましいターミネーターとしては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)エノラーゼ、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)シトクロームC(CYC1)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH1)、及びサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)グリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ由来のターミネーターが好ましい。酵母宿主細胞に有用な他のターミネーターは、Romanos et al., 1992(同上)に記載されている。
【0166】
調節配列としては、適切なリーダー配列も挙げられる。リーダー配列は、宿主細胞による翻訳に重要な役割を果たすmRNAの非翻訳領域である。リーダー配列は、変異体をコードするポリヌクレオチドの5’末端に作動式に連結される。宿主細胞において機能し得る任意のリーダー配列を使用することができる。
【0167】
酵母宿主細胞に適したリーダー配列としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)エノラーゼ(ENO-1)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)3-ホスホグリセリン酸キナーゼ、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)α−因子、及びサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)アルコールデヒドロゲナーゼ/グリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(ADH2/GAP)由来のリーダー配列が挙げられる。
【0168】
調節配列としては、ポリアデニル化配列も挙げられる。ポリアデニル化配列は、ポリペプチドをコードする配列の3’末端に作動式に連結され、転写時に宿主細胞によって、転写されたmRNAにポリアデノシン残基を付加するシグナルとして認識される。宿主細胞において機能し得る任意のポリアデニル化配列を使用することができる。
【0169】
酵母宿主細胞において有用なポリアデニル化配列は、Guo and Sherman, 1995, Molecular Cellular Biology 15:5983-5990 に記載されている。
【0170】
調節配列としては、シグナルペプチドコーディング領域も挙げられる。これは、変異プロテアーゼ変異体のアミノ末端に連結され、コードされたポリペプチドを細胞の分泌経路に誘導するためのアミノ酸配列をコードする配列である。ポリヌクレオチドのコーディング配列の5’末端が、翻訳リーディングフレーム内において、分泌される変異プロテアーゼ変異体をコードするコーディング領域のセグメントと当初から連結された、固有のシグナルペプチドコーディング領域を有していてもよい。或いは、コーディング配列の5’末端が、コーディング配列に対して外来のシグナルペプチドコーディング領域を有していてもよい。外来のシグナルペプチドコーディング領域が必要となるのは、例えば、コーディング配列が生来のシグナルペプチドコーディング領域を有さない場合である。或いは、変異プロテアーゼ変異体の分泌を促進するために、外来のシグナルペプチドコーディング領域により、生来のシグナルペプチドコーディング領域をそのまま置換してもよい。しかしながら、発現されたポリペプチドを宿主細胞の分泌経路に誘導し得るものであれば、任意のシグナルペプチドコーディング領域を使用できる。
【0171】
酵母宿主細胞において有用なシグナルペプチドとしては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)α−因子及びサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)インベルターゼが挙げられる。他の有用なシグナルペプチドコーディング配列は、Romanos et al., 1992(同上)に記載されている。
【0172】
ポリペプチドのアミノ末端にシグナルペプチド及びプロペプチド領域の双方が存在する場合には、ポリペプチドのアミノ末端の隣にプロペプチド領域が配置され、プロペプチド領域のアミノ末端の隣にシグナルペプチド領域が配置される。
【0173】
作製方法
本発明の変異体は、当業者に周知の手法を用いて調製することが可能である。便宜な手法としては、親アルブミン、又はその断片、又はアルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドをコードする核酸をクローン化し、配列番号2の位置417、464、490、492、493、494、495、496、499、500、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、550、573、574及び580に対応する1又は2以上(数個)の位置に所望の置換を導入するよう、前記核酸を修飾し(ここで得られる変異体は、配列番号2における置換D494N、E501K、K541E、D550G,A、K573E又はK574Nからなる変異体ではない)、修飾された核酸が適切な調節遺伝要素(例えばプロモーター、ターミネーター、活性化部位、リボゾーム結合部位等)と作動式に連結されるような位置に配置された適切な遺伝子コンストラクトを調製し、前記遺伝子コンストラクトを適切な宿主生物内に導入し、形質転換された宿主生物を変異体の発現を生じる条件下で培養し、得られた変異体を回収する、という手法が挙げられる。これらの手法は何れも当業界で公知であり、平均的な当業者の技量があれば、本発明に係る具体的な変異体を調製するための適切な方法を設計することが可能である。
【0174】
本発明の変異ポリペプチドにシグナル配列を連結し、形質転換された宿主生物の培養時に、変異ポリペプチドが成長培地中に分泌されるようにしてもよい。変異ポリペプチドを成長培地中に分泌されるようにすると、一般に回収及び精製が容易になるので好ましい。
【0175】
変異ポリペプチドを調製する手法は、国際公開第2009019314号(引用により組み込まれる)にも開示されており、これらの手法を本発明にも適用可能である。
【0176】
アルブミンはこれまで、種々の宿主において、組換タンパク質として首尾よく発現されてきた。例としては、真菌類(例えば、これらに限定されるものではないが、アスペルギルス(Aspergillus)(WO06066595)、クリベロミセス(Kluyveromyces)(Fleer 1991, Bio/technology 9, 968-975)、ピチア(Pichia)(Kobayashi, 1998 Therapeutic Apheresis 2, 257-262)及びサッカロミセス(Saccharomyces)(Sleep 1990, Bio/technology 8, 42-46)等)、細菌(Pandjaitab 2000, J. Allergy Clin. Immunol. 105, 279-285))、動物(Barash 1993, Transgenic Research 2, 266-276)及び植物(例えば、これらに限定されるものではないが、ジャガイモ及びタバコ(Sijmons 1990, Bio/technology 8, 217 及び Farran 2002, Transgenic Research 11、337-346)等)が挙げられる。本発明の変異ポリペプチドは、適切な宿主細胞において、遺伝子組換えにより作製されることが好ましい。原則として、適切な量のポリペプチドを産生することが可能な任意の宿主細胞を使用することができ、平均的な当業者の技量があれば、本発明に係る適切な宿主細胞を選択することが可能である。好ましい宿主生物は酵母であり、好ましくはサッカロミセス属(Saccharomycacae)より選択され、より好ましくはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
【0177】
本発明の変異ポリペプチドは、公知の分離法(例えば濾過、遠心分離、クロマトグラフィー、及びアフィニティー分離法等)を組み合わせて用いることにより、成長培地から回収・精製することができる。平均的な当業者の技量があれば、斯かる公知の分離工程を具体的に組み合わせて、本発明の変異体を精製することが可能である。本発明の変異体に適用可能な精製法の例としては、WO0044772に教示されている手法を挙げることができる。
【0178】
本発明の変異ポリペプチドは、治療上有用な化合物を、それを必要とする動物又はヒト個体に送達するために使用できる。斯かる治療上有用な化合物としては、これらに限定されるものではないが、診断(例えば種々のイメージング法)に使用される標識や易検出性化合物;医薬活性化合物(例えば薬物等)、又は特異的結合部分(例えば抗体等)等が挙げられる。本発明の変異体を更に、2以上の異なる治療上有用な化合物(例えば抗体及び薬物)と組み合わせることにより、斯かる組み合わせ分子に所望の標的への特異的結合能を付与し、惹いては特定の標的における前記薬剤の濃度を高めることも可能である。
【0179】
融合ポリペプチド
本発明に係るアルブミンの変異体又はその断片を、非アルブミンポリペプチド融合パートナーと融合させてもよい。斯かる融合パートナーは、原則としてはどのようなポリペプチドでもよいが、通常は治療又は診断特性を有するポリペプチドであることが好ましい。アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドは当業界では公知である。斯かるアルブミン又はその断片と融合パートナーポリペプチドとを含む融合ポリペプチドは、融合されていない融合パートナーポリペプチドと比べて、血漿中半減期が延長されることが判明している。本発明によれば、従来の対応する融合ポリペプチドと比較して、本発明に係る融合ポリペプチドの血漿中半減期を改変することが可能である。
【0180】
1又は2以上の治療ポリペプチドを、アルブミンのN末端やC末端に連結してもよく、アルブミン構造のループ内に挿入してもよく、これらを組み合わせてもよい。また、融合ポリペプチドの種々の要素を分離するリンカー配列を有してもよく、有しなくてもよい。
【0181】
アルブミン又はその断片の融合に関する教示は当業界では公知であり、当業者であれば斯かる教示を本発明に適用することも可能である。また、国際公開第2001/79271A号及び国際公開第2003/59934A号には、アルブミン又はその断片に融合可能な治療ポリペプチドの例が記載されており、これらの例を本発明に適用することも可能である。
【0182】
コンジュゲート
本発明に係るアルブミンの変異体又はその断片は、当業界で公知の手法により、第2の分子にコンジュゲートされてもよい。前記第2の分子は、診断部位を有していてもよく、この態様によれば、得られるコンジュゲートは、例えば診断ツールとして、例えばイメージングに有用である。或いは、第2の分子は、治療用化合物であってもよく、この態様によれば、得られるコンジュゲートは、例えば治療目的に有用である。この場合、コンジュゲートは、治療用化合物の治療特性に加えて、アルブミンの長い血漿中半減期を兼ね備えることになる。アルブミンと治療分子とのコンジュゲートは当業界では公知であり、斯かるコンジュゲートは、コンジュゲートされていない遊離状態の治療分子単独の場合と比べて、長い血漿中半減期を有することが確認されている。斯かるコンジュゲートは、周知の化学法を用いて、HSAの表面に存在する遊離状態のチオ基(成熟HSAのアミノ酸残基34)を介して連結することが可能である。
【0183】
ある特定の好ましい観点によれば、変異アルブミン又はその断片は、有用な治療用化合物にコンジュゲートされ、斯かるコンジュゲートは、それを必要とする患者における、選択された特定の治療用化合物に対して感受性の状態を処置するために使用される。斯かる治療用化合物を変異アルブミン又はその断片にコンジュゲートする手法は当業界では公知である。国際公開第2009/019314号には、治療用化合物をポリペプチドにコンジュゲートするのに適した手法の例が開示されており、斯かる手法を本発明に適用することも可能である。更に、国際公開第2009/019314号には、置換トランスフェリンにコンジュゲートし得る化合物及び部分の例が開示されておりこれらの例を本発明に適用することも可能である。国際公開第2009/019314号の教示は引用により本明細書に組み込まれる。
【0184】
天然形態のHSAは遊離チオール基を一つ有しており、これをコンジュゲーションに遊離に使用することが可能である。この観点における具体的な態様として、変異アルブミン又はその断片を更に修飾し、表面に更なる遊離チオール基を供してもよい。これによって変異アルブミン又はその断片のペイロードを増加させることができるという利点がある。これにより、変異アルブミン又はその断片の各分子に対して、2分子以上の治療用化合物をコンジュゲートさせることができる。或いは、変異アルブミン又はその断片の各分子に対して、2種以上の異なる治療用化合物(例えば標的化特性を有する化合物(例えば腫瘍特異的抗体)と細胞毒性薬等)をコンジュゲートさせることが可能となり、惹いては腫瘍に対して極めて特異性の高い薬を提供することが可能となる。更なる遊離チオール基を表面に供するべく修飾可能な具体的な残基については、例えば、同時係属中の特許出願である国際公開第2010/092135号(これは引用により組み込まれる)に開示されている。
【0185】
アソシエート
更に、アルブミンの変異体又はその断片は、「アソシエート」の形態で使用することも可能である。ここで、「アソシエート」(associates)という語は、アルブミンの変異体又はその断片と、非共有結合により当該変異アルブミン又はその断片に結合又は関連付け(associated)された別の化合物とを含む化合物を意味する。斯かるアソシエートの例としては、変異アルブミンと、前記アルブミンに疎水性相互作用によって関連付けされた資質とからなるアソシエートが挙げられる。斯かるアソシエートは当業界で公知であり、周知の手法によって調製可能である。本発明に係る好ましいアソシエートの例としては、変異アルブミンとパクリタキセルとを含むアソシエートが挙げられる。
【0186】
他の用途
本発明に係る変異アルブミン、又はその断片、又は変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドは、親アルブミン、又はその断片、又は親アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドと比べて、血漿中半減期が改変されたという利点を有する。これにより、本発明に係る変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は変異アルブミン若しくはその断片を含むコンジュゲート、又は変異アルブミン若しくはその断片を含むアソシエートの血漿中半減期を、具体的な治療目的に応じて選択し得るという利点がある。
【0187】
例えば、動物又は人間のイメージング用途に使用されるコンジュゲート、アソシエート又は融合ポリペプチドであって、イメージング部分が極めて短い半減期を有し、HSAを含むコンジュゲート又は融合ポリペプチドが、イメージング目的に必要とされるよりもはるかに長い血漿中半減期を有する場合、親アルブミン又はその断片よりも短い血漿中半減期を有する本発明の変異アルブミン又はその断片を用いて、イメージング目的には十分に長いものの、投与された患者の体外に十分に排出される程度に短い血漿中半減期を有する融合ポリペプチドのコンジュゲートを提供することができるという利点がある。
【0188】
別の例として、それを必要とする患者において、ある特定の状態を処置又は軽減するのに有効な治療用化合物を含むコンジュゲート、アソシエート又は融合ポリペプチドの場合、親アルブミン又はその断片よりも長い血漿中半減期を有する変異アルブミン又はその断片を用いることにより、より長い血漿中半減期を有するアソシエート又はコンジュゲート又は融合ポリペプチドを提供できるという利点がある。即ち、斯かる本発明のアソシエート又はコンジュゲート又は融合ポリペプチドによれば、親アルブミン又はそのアソシエート又はその断片を用いた場合と比べて、必要な投与頻度又は用量を低減して副作用を軽減することができるという点で有利である。
【0189】
更なる観点によれば、本発明は、本発明に係る変異アルブミン、そのアソシエート若しくはその断片、変異アルブミン断片若しくはそのアソシエート、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチドを含む組成物に関する。斯かる組成物は医薬組成物であることが好ましい。斯かる組成物は、当該分野で周知の手法、例えば医薬分野で認められている教科書に開示の手法を用いて調製することができる。
【0190】
特定の態様によれば、斯かる組成物は、本発明に係る変異アルブミン又はその断片と、医薬的に有用な部位及びアルブミン結合ドメイン(albumin binding domain:ABD)を含む化合物とを含む。本発明において、ABDとは、アルブミンをインビボにおいて循環させることができ、これによりABD及び前記ABDに結合された任意の化合物又は部分の循環による運搬を可能とする部位、部分又は領域を意味する。ABDは当業界で公知であり、アルブミンに対して極めて強固に結合することが示されている。よって、アルブミンに結合したABD含有化合物は、ある程度は単一の分子としての挙動を示すはずである。本発明者等は、発明に係る変異アルブミン又はその断片を、医薬的に有用な部位とABDとを有する化合物と組み合わせて使用することにより、それを必要とする患者に前記化合物を単独で注射し、又は天然のアルブミン又はその断片を含む製剤として投与した場合と比べて、医薬的に有用な部位及びABDを含む化合物の血漿中半減期を改変することが可能であることを見出した。
【0191】
本発明に係る変異アルブミン若しくはその断片、変異アルブミン若しくはその断片を含むコンジュゲート、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は変異アルブミン又はその断片を含むアソシエートを、当業界で周知の手法を用いて、ナノ又はマイクロ粒子内に組み込んでもよい。斯かるナノ又はマイクロ粒子を調製するための好ましい方法であって、本発明に係る変異アルブミン又はその断片に適用可能な方法は、国際公開第2004/071536号に開示されており、本文献は引用により本明細書に組み込まれる。
【0192】
組成物
本発明は、本発明に係るアルブミンの変異体若しくはその断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は、アルブミン変異体若しくはその断片を含むコンジュゲート、又は、アルブミン変異体若しくはその断片を含むアソシエートの、医薬組成物の製造における使用であって、前記のアルブミンの変異体若しくはその断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は、アルブミン変異体若しくはその断片を含むコンジュゲート又は、アルブミン変異体若しくはその断片を含むアソシエートが、HSA若しくは対応するその断片、又は、HSA若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は、HSAを含むコンジュゲートと比べて、改変された血漿中半減期を有する使用も対象とする。
【0193】
ここで、対応するHSAの断片とは、比較対象となる変異アルブミンの断片とアラインされ、且つ、変異アルブミンの断片と同数のアミノ酸を有する、HSAの断片を意味する。同様に、対応するHSAを含む融合ポリペプチド又はHSAを含むコンジュゲートとは、比較対象となる変異アルブミンを含むコンジュゲートの融合ポリペプチドと同じサイズ及び同じアミノ酸配列を有する分子を意味する。
【0194】
前記のアルブミンの変異体若しくはその断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は、アルブミン変異体若しくはその断片を含むコンジュゲートは、HSA若しくは対応するその断片、又は、HSA若しくはその断片を含む融合ポリペプチドの血漿中半減期よりも高い血漿中半減期を有することが好ましい。
【0195】
或いは、前記のアルブミンの変異体若しくはその断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は、アルブミン変異体若しくはその断片を含むコンジュゲートは、HSA若しくは対応するその断片、又は、HSA若しくはその断片を含む融合ポリペプチドの対応するKDよりも、FcRnに対するKDが低い、と言い換えることも可能である。前記のアルブミンの変異体若しくはその断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は、アルブミン変異体若しくはその断片を含むコンジュゲートのKDは、HSAに対して0.9X KD未満、より好ましくはHSAに対して0.5X KD未満、より好ましくはHSAに対して0.1X KD未満、よりいっそう好ましくはHSAに対して0.05X KD未満、よりいっそう好ましくはHSAに対して0.02X KD未満、最も好ましくはHSAに対して0.01X KD未満であることが好ましい。
【0196】
アルブミンの変異体若しくはその断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は、アルブミン変異体若しくはその断片を含むコンジュゲートは、本発明に係るアルブミンの変異体若しくはその断片、又は、変異アルブミン若しくはその断片を含む融合ポリペプチド、又は、アルブミン変異体若しくはその断片を含むコンジュゲートであることが好ましい。
【0197】
本発明を以下の実施例に即して更に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0198】
材料及び方法
ELISA:
ウェルを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)により別記の濃度に希釈された野生型HSA又は変異体により被覆し、4℃で一晩インキュベートし、次に4%スキムミルク(Acumedia)により室温で1時間ブロックした。次に、ウェルを、FEBS J. 2008 Aug;275(16):4097-110の記載に従って、PBS/0.005% TWEEN(登録商標)20(PBS/T)pH6.0、続いてグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)融合shFcRn(0.5μg/ml)により4回洗浄し、ヤギ由来のホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートポリクローナル抗GST(1:5000;GE Healthcare)と共に予インキュベートし、4%スキムミルクに希釈し、PBS/0.005% TWEEN(登録商標)20(PBS/T)pH6.0を各ウェルに添加し、室温で1.5時間インキュベートし、続いてPBS/T(pH6.0)により4回洗浄した。100μlの基質テトラメチルベンジジン(TMB)(Calbiochem)を各ウェルに添加し、45分間インキュベートし、続いて100μlの0.25MのHClを添加した。吸光度を、Sunrise TECAN分光光度計(TECAN, Maennedorf、スイス)を用いて450nmで測定した。同じELISAをPBS/T(pH7.4)を用いて反復した。
【0199】
表面プラズモン共鳴(SPR):
SPR実験をBiacore 3000 装置(GE Healthcare)を用いて実施した。CM5センサーチップの流動細胞を、shFcRn−GST(〜1400−5000RU)により、メーカー提供のプロトコールに記載のアミンカップリング化学を用いてカップリングした。このカップリングは、10mMの酢酸ナトリウムpH5.0(GE Healthcare)中、10μg/mlのタンパク質の注入により実施した。リン酸緩衝液(67mMのリン酸緩衝液、0.15MのNaCl、0.005% TWEEN(登録商標)20(pH6.0))を、実行緩衝液及び希釈緩衝液として使用した。表面の再生を、pH7.4でのHBS-EP緩衝液(0.01M のHEPES、0.15M のNaCl、3mMのEDTA、0.005%の界面活性剤P20)(Biacore AB)の注入を用いて達成した。固定されたshFcRn-GSTへの結合については、1.0〜0.5μMの各HSA変異体を、25℃で一定の流速(40μl/ml)で前記表面上に注入した。何れの実験でも、データをゼロ点調整し、参照細胞を減算した。データ評価は、BIAevaluation 4.1ソフトウェア(BIAcore AB)を用いて実施した。
同じSPRアッセイを、HBS−EP緩衝液pH7.4を用いて反復した。
【0200】
本特許の目的においては、別途記載しない限り、HSA、WT HSA、rHAとしては、市販の組換ヒトアルブミン血清アルブミン登録商標名RECOMBUMIN(Novozymes Biopharma UK Ltd, Nottingham UKから入手可能)を使用した。
【0201】
他の生物種由来の血清アルブミン:これらのアルブミンは、別途記載しない限り、組換品であり、一般利用可能なデータベースから提供される配列を用いて作製した。或いは商業的供給者から購入した。
【0202】
FcRn:可溶性ヒト(shFcRn)及びマウス(smFcRn)FcRnの発現及び精製:shFcRn及びsmFcRn発現プラスミドの生成方法、並びに、各ヘテロダイマーの発現及び精製方法は、例えば Berntzen et al. (2005) J. Immunol に記載されている。或いは、shFcRn FcRnへテロダイマーは、GeneArt AG (独国)により製造された。ヘテロダイマーの2つのサブユニットの配列は、例えば配列番号3及び4に示すとおりである。可溶性受容体は、HEK293細胞を用いて発現させ、Ni-HiTrapクロマトグラフィーカラムを用いて培養上清液から精製した。
【0203】
実施例1.変異体の調製
特定のHSAムテイン発現プラスミドの調製
HSA変異体及びHSA融合変異体の発現方法としては、数種の手法を用いて製造した。標準的な分子生物学の手法(例えばSambrook, J. and D. W. Russell, 2001. Molecular Cloning: a laboratory manual, 3rd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Yに記載の手法等)を、全体を通じて使用した。
【0204】
方法1.表1に詳述するHSAのアミノ酸置換
翻訳されたタンパク質内に所望のアミノ酸置換を導入するべく、HSAコーディング遺伝子(配列番号1)内に点突然変異を含む合成DNAのNcoI/SacI断片(859bp)を、遺伝子アセンブリー(GeneArt AG, Germany)により生成した。HSAコーディング遺伝子内にアミノ酸置換を導入するべく使用したコドンを表2に詳述する。未変更アミノ酸(即ち野生型)をコードする合成断片のヌクレオチド配列は、pDB2243(国際公開00/44772号に記載)の配列と同一とした。合成ヌクレオチド断片を、NcoI/SacIにより消化したpDB2243に連結し、プラスミドpDB3876-pDB3886(表1)を生成した。発現プラスミドを作製すべく、pDB3876〜pDB3886(表1参照)を各々NotI及びPvuIにより消化し、得られたDNA断片を0.7%(w/v)TAEゲルを通して分離し、2992bpの断片(PRB1プロモーター、融合リーダー(FL)配列をコードするDNA(国際公開第2010/092135号開示)、HSA及びADH1ターミネーターをコードするヌクレオチド配列を含む「NotIカセット」;図1参照)を、Qiagen Gel Extraction Kitを用いて、メーカーの説明書に従って、アガロースゲルから精製した。この「NotIカセット」を、(欧州特許出願第286424号に開示及びSleep, D.,et al. (1991) Bio/Technology 9, 183-187に記載の)NotI/エビアルカリホスファターゼ(Roche)で処理された「分解」(disintegration)プラスミドpSAC35中に連結した。連結混合物を用いて、ケミカルコンピテント大腸菌(E. coli)DH5αを形質転換した。「NotIカセット」を含む発現プラスミドpDB3887〜pDB3897、pSAC35誘導体を、標準法を用いて同定した。分解プラスミドpDB3887〜pDB3897及びpDB2244(野生型HSAの発現については国際公開第00/44772号に記載)(表1)を用いて、(前述の国際公開第2001/0799480号に従い)後述の通りにS.セレビシエ(S. cerevisiae)BXP10cir0を形質転換した。
【0205】
【表1】

【0206】
【表2】

【0207】
方法2.HSA変異体D494N+E495Q+T496A及びE495Q+T496Aの生成
QuickChange Lightening Kit(Statagene)を用いたPCRに基づく方法を用いて、HSA内に点突然変異を導入した。オリゴヌクレオチド対xAP094(配列番号5)/xAP095(配列番号6)及びxAP096(配列番号7)/xAP097(配列番号8)を用いて、2種のHSA変異体(それぞれ、D494N+E495Q+T496A及びE495Q+T496A)を生成した。プラスミドpDB3927(国際公開第2010/092135号に開示)を鋳型DNAとして使用し、キットのメーカーが推奨する方法に従った。得られたプラスミドをpDB3995及びpDB3996(それぞれHSA D494N+E495Q+T496A 及び E495Q+T496A発現カセットを含む)と命名した。pDB3995及びpDB3996をBstEII/BsrBIで消化し、線状化されたDNA分子を標準法を用いて精製した。QiagenPCR精製キットを用いてメーカーの説明書に従って精製された各100ngのBstEII/BsrBI消化DNAをそれぞれ、100ngのAcc65I/BamHI消化pDB3936(国際公開第2010/092135号に開示)と混合し、後述のSigma Yeast形質転換キットを用いて、後述のS.セレビシエ(S. cerevisiae)BXP10cir0を直接形質転換した。
【0208】
方法3.表3に詳述するHSAのアミノ酸置換
成熟HSAタンパク質内のアミノ酸置換に応じて、プラスミドpDB3927(国際公開第2010/092135号に開示)(pDB2243と同一のHSAコードヌクレオチド配列を含む)を操作した。翻訳されたタンパク質配列内に所望のアミノ酸置換を導入するための点突然変異をHSAコーディング遺伝子内に含む合成DNA断片を生成した(GeneArt AG(独国)又は DNA2.0 Inc.(米国))(NcoI/Bsu36I、AvrII/SphI又はSacI/SphI断片)。HSAコーディング遺伝子内にアミノ酸置換を導入するべく使用したコドンを表2に詳述する。未変更アミノ酸(即ち野生型)をコードする合成断片のヌクレオチドは、pDB3927における配列と同一とした。合成DNA断片をNcoI/Bsu36I、AvrII/SphI、SacI/Sph消化pDB3927(PCT 11527.204-WOに記載)内にサブクローン化し、pDB4006〜pDB4010、pDB4083〜pDB4101及びpDB4103〜pDB4111、並びにpDB4194、pDB4200、pDB4202(表3参照)を生成した。
【0209】
同様に、HSAをコードするヌクレオチド配列内に点突然変異を含むBamHI/SalI断片を、遺伝子アセンブリー(DNA 2.0 Inc, USA)により生成し、BamHI/SalI消化pDB3964(国際公開第2010/092135号に記載)内に連結し、プラスミドpDB3986〜pDB3989を生成した(表3)。
【0210】
HSA中の位置573〜585(KKLVAASQAALGL)(配列番号9)由来のアミノ酸のC末端鎖を、マカクザル(PKFVAASQAALA)(配列番号10)、マウス(PNLVTRCKDALA)(配列番号11)、ウサギ(PKLVESSKATLG)(配列番号12)及びヒツジ(PKLVASTQAALA)(配列番号13)血清アルブミンの対応するアミノ酸に対して変異誘発した。各アミノ酸置換の導入に使用したコドンを表2に示す。合成DNA断片(SacI/SphI)を、遺伝子アセンブリー(DNA2.0 Inc、米国)により生成し(未変更アミノ酸(即ち野生型)をコードする合成断片のヌクレオチド配列は、pDB3927の配列と同一とした)、SacI/SphI消化pDB3927内にサブクローン化し、プラスミドpDB4114〜4117(表3)を生成した。
【0211】
プラスミドpDB3883(表1)、pDB4094及びpDB4095(表3)をNcoI/SacIにより消化し、各消化物から857bpの断片を精製した後、NcoI/SacI消化pDB4006又はpDB4110(8.688kb)(表3)内に連結し、pDB4156〜pDB4161を生成した。
【0212】
発現プラスミドをインビボ生成(即ち、S.セレビシエ(S. cerevisiae)の相同組換による;通称ギャップ修復又はインビボクローニング法 〜 Orr-Weaver & Szostak. 1983. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 80:4417-4421参照)した。表3に示す修飾プラスミドをBstE2/BsrBI消化し、線状化されたDNA分子を標準法を用いて精製した。Qiagen PCR精製キットを用いてメーカーの説明書に従って精製された、各100ngのBstE2/BsrBI消化DNAをそれぞれ、100ngのAcc65I/BamHI消化pDB3936(国際公開第2010/092135号に開示)と混合し、後述のSigma Yeast形質転換キットを用いて、S.セレビシエ(S. cerevisiae)BXP10cir0を直接形質転換した。
【0213】
【表3】

【0214】
【表4】

【0215】
【表5】

【0216】
方法4.HSA K500及びK573順列ライブラリー
PCRを用いて2つの順列ライブラリーを製造した。本ライブラリーでは、成熟HSAのアミノ酸500又は573をコードするコドンを、他の非野生型アミノ酸及び終止コドン(K5XXSTOP)に変更(変異)させた。HSAコーディングDNAが増幅され、所望の変更が導入されるように、変異誘発オリゴヌクレオチド(表4及び5)を設計した。即ち、位置500での変更については、pDB4082(図1)を鋳型DNAとして使用した。pDB4082は、pDB2305(欧州特許出願第1788084号に開示)の誘導体であり、以下のように作製した。pDB2305(図2)をNsiI/SpeIにより消化し、得られる8.779kbのNsiI断片を自己連結し、pDB4005(図3)を作製した。遺伝子アセンブリー(DNA2.0 Inc, USA)により作製された合成DNA断片(BsaI/SphI)(配列番号1)(PRB1プロモーターの3’領域、修飾された融合リーダー配列、HSAをコードするヌクレオチド配列、及び修飾されたADH1ターミネーターの5’領域を含む)を、Hind3/SphI消化pDB4005(図3)内に連結し、pDB4082を作製した。注:PRB1プロモーター部位のHindIII部位は除去され、HSAコーディングヌクレオチド配列内にSacII部位が導入されている。
【0217】
HSAの位置500の順列ライブラリーについては、SalI/HindIII部位間のヌクレオチド配列に対応するHSAコーディングヌクレオチド配列(プラスミド地図pDB4082、図1参照)を、New England Biolabs Phusionキット(表6)及び表4に列挙されるオリゴヌクレオチドを用いて生成した。使用したPCR法を表7に記す。
【0218】
HSA内のアミノ酸位置573の順列ライブラリーを、鋳型DNAとしてpDB3927を用いて生成するとともに、表5に記載されるオリゴヌクレオチドを用いて、NcoI部位とBsu361部位との間のDNAに対応するアルブミンコーディングDNAを増幅した。
【0219】
【表6】

【0220】
【表7】

【0221】
位置500及び573のアルブミン変異体については、各PCR生成物を、Qiagen PCR−クリーンアップキットを用いて(メーカーの説明書に従って)精製し、SalI/HindIII(位置500ライブラリー)又はNcoI/Bsu36I(位置573ライブラリー)により消化した。次に、消化されたDNAを、Qiagen PCR−クリーンアップキットを用いて精製し、夫々SalI/HindIII又はNcoI/Bsu36Iで消化されたpDB4082又はpDB3927中に連結し、対応する内在配列を置換した。連結体を用いて大腸菌(E. coli)DHSαを形質転換し、続いてプラスミドを、Qiagenミニプレプキットを用いて(メーカーの説明書に従って)形質転換体から単離し、正しいコンストラクトを制限分析により同定した。こうして、位置500又は573のアミノ酸のコドンに対応する配列(それぞれ表4及び5)のみが異なるアルブミン遺伝子を含むプラスミドpDB4204〜pDB4222(位置500ライブラリー)及びpDB4173〜pDB4190(位置573ライブラリー)の集合を取得した。各プラスミドにおける具体的な変化を配列決定により確認した。
【0222】
得られたプラスミドを用いて、上記のインビボクローニングにより、発現プラスミド及びアルブミン融合体生成酵母を生成した。即ち、100ngのBestEII/BsrBI消化HSA変異体含有プラスミド及び100ngのAcc65I/BamHI消化pDB3936の混合物を用いて、後述のSigma Yeast形質転換キットによりS.セレビシエ(S. cerevisiae)を形質転換した。
【0223】
S.セレビシエ(S. cerevisiae)の形質転換:
S.セレビシエ(S. cerevisiae)BXP10 cir0(上述の国際公開第2001/079480号を参照)又は菌株A Ciro(国際公開第2005/061718号に記載)を、YEPDプレート(1%(w/v)酵母抽出物、2%(w/v)バクトペプトン、2%(w/v)グルコース、1.5%寒天)上に画線培養し、30℃で4日間増殖させてから形質転換に供した。1μgの完全プラスミド(即ち環状プラスミド)又は、ギャップ修復用に、100ngのBstEII/BsrBI又はNsiI/PvuI消化HSA変異体又はHSA変異体融合体含有プラスミド、及び100ngのAcc65I/BomHI消化pDB3936を用いて、改良された酢酸リチウム法を用いたSigma Yeast 形質転換キット(Sigma yeast transformation kit YEAST-1, protocol 2; Ito et al. (1983) J. Bacteriol., 153, 16; Elble, (1992) Biotechniques, 13, 18)により、S.セレビシエ(S. cerevisiae)を形質転換した。前記プロトコールを僅かに変更し、ヒートショックの前、室温で4時間、前記形質転換物をインキュベートした。ヒートショックに続いて、細胞を軽く遠心分離してから、200μlの1Mソルビトールに再懸濁し、BMMD寒天プレート上に展開した。BMMDの組成はSleep et al., (2001), Yeast, 18, 403に記載される。プレートを30℃で4日間インキュベートした後、各コロニーを新鮮なBMMDプレート上にパッチした。酵母株番号を表1に詳述する。
【0224】
各酵母株のストックを次の手順で調製した。BMMDブイヨンに各酵母パッチをヘビーループ(heavy loop)により接種し、200rpmのオービタル振盪下、30℃で24時間増殖させた。細胞をSorval RT600遠心分離機により1900×gで5分間遠心分離して収穫し、15mlの上清液を除去し、トレハロース40%(w/v)で置換した。細胞を再懸濁し、低温用バイアル(1ml)に移して−80℃で貯蔵した。
【0225】
S.セレビシエ(S. cerevisiae)の振盪フラスコ増殖:
BMMD(レシピ、アミノ酸及び硫酸アンモニウムを有さない0.17%(w/v)の酵母窒素基質(Difco)、37.8mMの硫酸アンモニウム、29mMのクエン酸、142mMのオルトリン酸水素ニナトリウム二水和物pH6.5、2%(w/v)グルコース)培地(10cml)に、各酵母株を接種し、200rpmのオービタル振盪下、30℃で12時間増殖させた。各開始培養物のアリコート(4ml)を2×200mlのBMMD培地に接種し、200rpmのオービタル振盪下、30℃で36時間増殖させた。GF-Dプレフィルター(Whatman)を備えた0.2μmの真空フィルター膜(Stericup, Millipore)を用いた濾過により細胞を収穫し、上清液を精製用に取得した。
【0226】
初期濃度:
取得された培養物上清液を、トランスメンブラン圧20psi及び循環速度180ml・分−1で、Omega 10KD(0.093sq.m2)フィルター(LV CentramateTM カセット, Pall Filtron)を備えたPall Filtron LVシステムを用いた接線流濾過(Tangential Flow Filtration)を用いて濃縮した。
【0227】
発酵:
10LのSartorius Biostat C発酵器を用い、30℃で流加発酵(fed-batch fermentation)を実施した。pHをモニターし、アンモニア又は硫酸の添加により適宜調節した。アンモニアは培養物の窒素源としても利用した。溶解酸素のレベルをモニターし、撹拌速度に反映させて、20%以上の飽和レベルを維持した。接種物を緩衝化最少培地(レシピ)を含む振盪フラスコ内で増殖させた。バッチ相については、培養物を、2%(w/v)スクロースを含む発酵培地(発酵器体積の約50%)中に接種した。供給段階は、溶解酸素レベルの急激な上昇により自動的に開始した。供給速度を所定の名目増殖速度に調節することにより、スクロースを増殖制限濃度に維持した。供給物の構成は50%(w/v)スクロースを含む発酵培地であった。何れもCollins(Collins, S.H., (1990) Production of secreted proteins in yeast, in: T.J.R. Harris (Ed.) Protein production by biotechnology, Elsevier, London, pp. 61-77)に記載のとおりである。
【0228】
GP−HPLC定量化:
精製されたアルブミン変異体、融合体及びコンジュゲートを、以下の手順でGP−HPLC及び定量化分析した。長さ7.8mm id × 300mmのTSK G3000SWXLカラム(Tosoh Bioscience)及び長さ6.0mm id × 40mmのTSK SWガードカラム(Tosoh Bioscience)に、それぞれ25μlを注入した。サンプルを、25mMのリン酸ナトリウム、100mMの硫酸ナトリウム、0.05%(w/v)のアジ化ナトリウム、pH7.0、1ml/分でクロマトグラフィー処理した。サンプルを、280nmのUV検出により、ピーク面積に基づき、既知濃度(10mg/ml)の組換ヒトアルブミン標準を基準として定量化し、相対的消衰係数を補正した。
【0229】
振盪フラスコからのアルブミン変異体の精製:
振盪フラスコ(培養物上清液又は濃縮培養物上清液の何れか)から、アルブミン親和性マトリックス(AlbuPure(登録商標)- ProMetic BioSciences, Inc.)を用いた単一クロマトグラフィー工程を用いて、アルブミン変異体を精製した。クロマトグラフィーは常時一定線速度240cm/時で実施した。培養物上清液を、50mMの酢酸ナトリウム(pH5.3)で前平衡化された層高6cm、2.0mlの充填層に負荷した。負荷後、カラムを10カラム体積(CV)の平衡化緩衝液、次に50mMの酢酸アンモニウム(pH8.0)(10CV)で洗浄した。生成物を、50mM 酢酸アンモニウム、10mM オクタノエートpH8.0、50mM 酢酸アンモニウム、30mM オクタン酸ナトリウム、200mM 塩酸ナトリウム(pH7.0)、又は200mM チオシアン酸カリウムの何れかにより溶出した。カラムを、0.5MのNaOH(3cv)及び20mM NaOH(3.5cv)により洗浄した。各アルブミン変異体由来の溶出物画分を濃縮し、10体積部の50mM 塩化ナトリウムに対してダイアフィルトレートした(任意のダイアフィルトレーションカップを備えたVivaspin20 10,000 MWCO PES、Sartorius)。精製されたアルブミン変異体を、上記に従ってGP−HPLCにより定量化した。
【0230】
振盪フラスコからのアルブミン融合変異体の精製:
振盪フラスコ培養物上清液から、アルブミン親和性マトリックス(AlbuPure(登録商標)- ProMetic BioSciences, Inc.)を用いた単一クロマトグラフィー工程を用いて、アルブミン融合変異体を精製した。クロマトグラフィーは常時一定線速度240cm/時で実施した。培養物上清液又は濃縮された培養物上清液を、50mM 酢酸ナトリウム(pH5.3)で前平衡化された層高6cm、2.0mlの充填層に負荷した。負荷後、カラムを10カラム体積(CV)の平衡化緩衝液、次に50mM 酢酸アンモニウム(pH8.0)(10CV)で洗浄した。生成物を、50mM 酢酸アンモニウム、10mM オクタノエートpH8.0、50mM 酢酸アンモニウム、30mM オクタン酸ナトリウム、200mM 塩酸ナトリウムpH7.0、50mM 酢酸アンモニウム、100mM オクタン酸ナトリウム又は200mM チオシアン酸カリウムの何れかにより溶出した。カラムを、0.5M NaOH(3cv)及び20mM NaOH(3.5cv)により洗浄した。各アルブミン変異体融合物由来の溶出物画分を濃縮し、、10体積部の50mM 塩化ナトリウムに対してダイアフィルトレートした(任意のダイアフィルトレーションカップを備えたVivaspin20 10,000 MWCO PES、Sartorius)。精製されたアルブミン融合変異体を、上記に従ってGP−HPLCにより定量化した。
【0231】
発酵物からのアルブミン変異体の精製:
アルブミン変異体を、Sorvall RC 3C遠心分離機(DuPont)を用いた遠心分離により分離した後、高細胞密度流加発酵上清液から精製した。培養物上清液を、上記に従って、注文合成されたアルブミン親和性マトリックス(AlbuPure(登録商標) - ProMetic BioSciences, Inc.)を充填した層高11cm、充填層8.6mlのカラムを通してクロマトグラフィー処理した。生成物を、流速120cm/時で、上記溶出緩衝液を用いて溶出した。溶出物画分をGP−HPLC(上記)及び純度についての還元性SDS−PAGEにより分析し、必要に応じて濃縮し(Vivaspin20 10,000 MWCO PES)、25mM トリス、150mM NaCl、2mM KCl(pH7.4)中、流速39cm/時で、Supardox75を充填した2.4×96cmカラムに導入した。ピークを分取し、GP−HPLCでアッセイし、所望のモノマータンパク質をプールして取得した。プールされた画分を濃縮した(Vivaspin20 10,000 MWCO PES, Sartorius)。
【0232】
受容体(FcRn)結合特性及び/又は他の分析用にアッセイされるタンパク質は、何れも上記に従ってGP−HPLCにより定量化し、相対的消衰係数を補正した。
【0233】
実施例2.血液由来HSA及び組換ヒトアルブミンの受容体(shFcRn)結合特性の決定
実質的に脂肪酸を有さないHSA(Sigma-Aldrich)を、Andersen et al. (2010), J. Biol. Chem. 285, (7), 4826-4836の記載に従って、サイズ排除クロマトグラフィーにより更に精製した。10μMノモノマーHSA及びrHAを、上記に従ってSPRを用いて分析した。データを図4に示す。
【0234】
HSA(血液由来)を、組換ヒトアルブミン(Recobumin)と同濃度(10μM)で直接比較したところ(図4A及び4B)、両サンプルの固定shFcRn(それぞれpH6.0、pH7.4)への結合は可逆性且つpH依存性であった。また、HSAを、Bosse et al. (2005), J. Clin. Pharmacol. 45; 57-67による組換ヒトアルブミンと比較したところ、インビボでのヒトの研究の場合と同等の半減期を示した。
【0235】
実施例3.アルブミン変異体の受容体(shFcRn)結合特性の決定
確立された2種のFcRn結合アッセイ、ELISA及びSPRを使用した。これらのアッセイには大きな違いがある。ELISA系では、ウェルをHSAで直接被覆し、shFcRn−GSTを溶液として添加する。一方、FPRアッセイでは、shFcRn−GSTをCM5チップに固定し、HSAを溶液として注入する。何れの系でもpHは可変である。
【0236】
ELISAを用いて変異体をpH6.0及びpH7.4で分析した。結果を図5に示す。ELISA値は二重試験の平均を表す。
【0237】
SPR分析を用いて変異体をpH6.0及びpH7.0で分析した。代表的な数種の変異体について、図6では変異体濃度0.2μMの場合の結果を、図7では変異体濃度1μMの場合の結果を示す。
【0238】
図6及び7に示すSPRデータを正規化した。各濃度での変異体の相対的結合を、それぞれ図8A及びBに示す。
【0239】
分析結果によれば、試験した変異体は何れも、pH6.0では受容体に顕著な結合を示すが、pH7.4では結合を示さない。変異体D494N,Q,A、E495Q,A、T496A、及びD494N+T496Aは、HSAと比較して、受容体への結合が低下していた。
【0240】
実施例4.アルブミン変異体の受容体(shFcRn/smFcRn)結合特性の決定
HSA及びマウス血清アルブミン(MSA)のヒト及びマウスFcRnへの結合について、下記SPR分析法を用いて、会合定数Ka、解離定数Kd及び結合定数KDを計算した(表8)。
【0241】
SPR分析− SPR分析は、CM5チップを用いて、BIAcore 3000機器(GE Healthcare)により実施した。smFcRn−GST及びshFcRn−GST変異体又はsmFcRnの固定化は、アミンカップリングキット(GE Healthcare)を用いて実施した。タンパク質サンプル(10μg/ml)は、10mM 酢酸ナトリウム(pH4.5)中で(GE Healthcare)、何れもメーカーの指示に従って注入した。表面上の未反応分を、1Mのエタノールアミンによりブロックした。何れの実験でも、pH6.0又は7.4でのリン酸緩衝液(67mMリン酸緩衝液、0.15M NaCl、0.005% TWEEN(登録商標)20)、又はpH7.4でのHBS−P緩衝液(0.01M HEPES、0.15M NaCl、0.005%界面活性剤P20)を、泳動用緩衝液又は希釈用緩衝液として用いた。動態測定(kinetic measurement)は、低密度固定化表面(100〜200共鳴単位(RU))を用いて実施した。hIgG1(2000.0〜31.2nM)、mIgG1(1000.0〜15.6nM)、MSA(20.0〜0.3μM)及びHSA(200.0〜3.1μM)の段階希釈溶液を、pH6.0又はpH7.流速4、50μl/分、25℃で注入した。次に、HSA(10μM)、MSA(5μM)、hIgG1(100nM)又はmIgG1(100nM)のうち1種又は2種を、25℃、20μl/分、pH6.0で、固定されたshFcRn(約600RU)又はsmFcRn(約600RU)上に注入し、付加結合を記録した。更に、shFcRn(50nM)又はsmFcRn(100nM)を単独で、又は異なる量のHSA又はMSA(10.0〜0.05μM)と一緒に、固定されたHSA(約2600RU)又はMSA(約2000RU)上に注入し、競合結合を測定した。何れの場合も、非特異的結合及びバルク緩衝効果を補正するために、対照表面及びブランク注入から得られた応答を、各相互作用曲線から減算した。運動速度値を、BIAevaluation 4.1ソフトウェアにより供される事前定義モデル(Langmuir 1:1リガンドモデル、異種リガンドモデル及び定常状態親和性モデル)を用いて計算した。平均二乗を表す統計値χで記述される適合近似は、何れの親和性評価でも2.0未満であった。
【0242】
【表8】

【0243】
KDはBIAevaluation 4.1ソフトウェアを用いて生成した。全てにおいてLangmuir 1:1リガンドモデルを使用した。速度値は三重反復試験の平均を表す。ND:測定されず(not determined)。NA:取得されず(not acquired)。
【0244】
実施例5:ヒトFcRnへの他生物種由来アルブミンの結合
市販の動物アルブミン(Sigma-Aldrich又はCalbiochemの何れか)を、Andersen et al., (2010). J.Biol.Chem. 285, (7), 4826-4836の記載に従って更に精製した。ロバ血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ヤギ血清アルブミン、ヒツジ血清アルブミン、 ウサギ血清アルブミン、イヌ血清アルブミン、ハムスター血清アルブミン、モルモット血清アルブミン、ラット血清アルブミン及びニワトリ血清アルブミンのshFcRnへの結合を、材料及び方法の欄に記載の手法を用いて決定した。ELISAの結果を図9A〜Dに示す。相対的結合を図9Eに要約する。
【0245】
SPR結果を図10に示す。ここでは各アルブミン種のpH6.0及びpH7.4での結合を示す。表10に、ELISA及びSPRを用いて測定した相対結合応答の概要を示す。
【0246】
【表10】

【0247】
最強から最弱までの結合の順位は次の通りである。モルモット=/>ウサギ>ハムスター/イヌ>ラット/マウス>ロバ>ヒト>ウシ>ヤギ>ヒツジ<ニワトリ。このデータは、動物アルブミンのshFcRnに対する親和性が異なっていることを示す。
【0248】
実施例6.shFcRnに対するHSA変異体の動態(Kinetics)
本発明の変異体の結合定数を、材料及び方法の欄に記載の方法に従って決定した。
【0249】
【表11】

【0250】
KDはBIAevaluation 4.1ソフトウェアを用いて生成した。全てにおいてLangmuir 1:1リガンドモデルを使用した。動態値(kinetic values)は三重反復試験の平均を表す。NDは測定されず(not determined)の意。
【0251】
これらの結果は、SPR及びELISAのデータに基づく実施例3での結論に整合している。更に、E492Gの受容体に対する親和性が向上したことも示している。
【0252】
実施例7.HSA変異体の競合分析
実施例1で調製されたHSA変異体及びWT HSAの競合分析を、実施例4に記載の方法を用いて実施した。結果を図15に示す。これらの結果は、変異体E492Gが、E492H E492P及びE492G+V493Pとは異なり、HSAよりもshFcRnに対してより強い結合性を有することを示している。
【0253】
実施例8.Q417置換の分析
実施例1の方法を用いて、置換Q417A及びD494E+Q417Hを有するHSAの変異体を構築した。これらの変異体の動態特性(kinetic properties)を、材料及び方法の欄に記載の方法を用いて試験した。結果を表12に示す。
【0254】
【表12】

【0255】
これらのデータは、変異体Q417A及びD494E+Q417Hが、野生型HSAと比べて受容体に対する結合が弱いことを示す。
【0256】
実施例9.位置499、500、536、537、538及び573のHSA変異体の分析
実施例1の方法を用いて、置換P499A、K500A、K536A、P537A、K538A及びK573Aを有するHSAの変異体を構築した。これらの変異体の受容体結合特性を、材料及び方法の欄の記載に従って試験した。結果を図11に示す。
【0257】
これらのデータは、変異体P499A、K536A、P537A及びK538AのHSAに対する結合親和性が減少していたことを示す。変異体K500Aは、ShFcRnに結合するその能力をほぼ完全に失っていた。K573Aは、HSAよりもshFcRnに対する結合親和性の方が高かった。
【0258】
実施例10.HSAの位置501における変異体の分析
実施例1の方法を用いて、置換E501A及びE501Qを有するHSAの変異体を構成した。それらの変異体の動態特性を、材料及び方法の欄の記載に従って試験した。
【0259】
【表13】

【0260】
データは、変異体E501A及びE501QがHSAに対してよりもshFcRn対してわずかに低められた結合親和性を有することを示す。
【0261】
実施例11.位置573でのHSA変異体の分析
実施例1の方法を用いて、位置573に置換を有するHSAの変異体を構成した。位置573における全変異体の生成、及びそれらの変異体の受容体結合特性の試験は、材料及び方法の欄の記載に従って行ったが、pH5.5でのSPR分析を追加した。結果を下記表14並びに図12及び13に示す。
【0262】
【表14】

【0263】
これらの結果によれば、位置573に置換を有する変異体の全てが、WT HSAと比較して、shFcRnに対する結合性が改善されていた。特に、変異体K573F、K573H、K573P、K573W及びK573Yは、sAFcRnに対するKDが親HSAの10分の1未満であった。変異体K573STOPは、位置573に停止コドンを有する切断型アルブミンである。K573STOP変異体のセンサーグラムは、WT HSAと比べて有意に低減された結合性を示すと共に、高いKDを生成した。変異体K573Eは、Otagiri (2009). Biol.Pharm. Bull. 32(4) 527-534において同定された天然変異体であるが、親和性の向上が示されたことから、インビボでの半減期は延長されることが予測される。
【0264】
実施例12.更なるHSA変異体の分析
実施例1の方法を用いて、置換E492G、E492G+N503H、N503H、D550E、E492G+N503K、E542P、H440Q、K541G、K541D、D550N、E492G+K538H+K541N+E542D、E492T+N503K+K541A、E492P+N503K+K541G+E542P、E492H+E501P+N503H+E505D+T506S+T540S+K541E、A490D+E492T+V493L+E501P+N503D+A504E+E505K+T506F+K541D、E492G+V493P+K538H+K541N+E542Dを有するHSAの変異体を構成した。それらの変異体の受容体結合特性を、材料及び方法の欄の記載に従って試験した。結果を表15及び図14に示す。
【0265】
【表15】

【0266】
これらの結果が示すとおり、位置550をEに置換した場合、pH6.0でのshFcRnに対する親和性は増加したのに対し、Nに置換した場合、当該親和性は低下した。しかし、この分析をpH5.5、D550E置換について反復したところ、親和性の上昇は観察されなかった。酸性アミノ酸(E)で置換した場合、結合性は維持及び改善される。しかし、非荷電アミドアミノ酸残基で置換した場合、pH6.0での結合性は低減される。斯かる観察によれば、塩基性アミノ酸(H、K及びR)への置換が結合のさらなる低下をもたらすことを予測する。
【0267】
実施例13.His残基への変異誘発
次の変異体を、実施例1に記載される方法を用いて生成した。H440Q、H464Q、H510Q及びH535Q。材料及び方法の欄の記載に従って得られた、これらの変異体とshFcRnとの相互作用のSPRセンサーグラムを図15に示す。
【0268】
変異体H440QがHSAに匹敵する親和性で結合したことが見出された。対照的に、H464Q、H510Q及びH535Qは、shFcRnに対する親和性が有意に低減された。これらの結果は、ヒスチジン残基の変異誘発によって、HSAのshFcRnへの結合性が有意に低減されるという従来の知見(Wu et al. (2010). PEDS, 23(10)789-798)を支持している。Wu et al.は、マウスにおける二重特異的抗体(scFv-DIII)2の半減期の短縮を、除去の最も遅いものから最も早いものまで以下の順序で示している。Db−DIII WT>H535A>H510A>H464A>Db。shFcRnに対する親和性に基づいて、SmFcRn(実施例5)と比較した場合、ヒトにおけるクリアランスの順序は(グルタミン(Q)置換に関して)WT>H440Q>H510Q>H464Q>H535Qの順になると予測される。
【0269】
実施例14.追加の変異体
以下の変異体を、実施例1に記載の方法を用いて生成した。HSAのK574N及びQ580K。これらの変異体のFcRnへの結合を、材料及び方法の欄に記載のSPRアッセイを用いて試験した。結果を表16に示す。これらの結果は、変異体K574N及びQ580Kが、shFcRnに対して強く結合したことを示す。
【0270】
【表16】

【0271】
実施例15.位置500のHSA変異体の分析
実施例1の方法を用いて、位置500に置換を有するHSAの変異体を構成した。位置500における全変異体の生成、及びこれらの変異体の受容体結合特性の試験を行った。何れの分析でも、Biacore X、 Biacore X100 及び Sensor Chip CM5を用いた。これらは何れもGE Healthcareにより提供される。GeneArt AG(独国)により生成されるshFcRn(10mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)により10μg/mlに希釈(GE Healthcare))を、流動細胞2(FC2)に対して、標準アミンカップリングにより、メーカーの説明書(GE Healthcare)に従って1600〜2200応答単位(RU)のレベルまで固定した。流動細胞1(FC1)にはブランクの固定化を実施し、対照細胞として使用した。アッセイの安定化のため、まずランニングバッファー(67mM リン酸緩衝液、0.15M NaCl、0.005% Tween 20(pH5.75±0.25))のみを用いて3〜5回の始動サイクルを実施し、続いて再生を行った。WT rHA及びK500ライブラリー変異体を、25℃、一定流速(30μl/分)で90秒間、種々の濃度(1μM〜150μM)で注入し、続いて、初期基線RUが概ね回復されるまで(通常は12秒パルスで十分)、HBS−EP緩衝液pH7.4(GE Healthcare)を用いて表面を再生した。
結果を表17及び図16に示す。
【0272】
【表17】

【0273】
これらの結果は、変異体K500R及びK500Iが各々、WT HSAと比較して、shFcRnに対する親和性が同等又はより高かったことを示している。変異体K500Eは固定化shFcRnに強固に結合したが、そのFcRn相互作用は依然として特徴的なpH依存性を示した。この複合体は非常に安定であり、動態分析は不可能であった(図16)。他の変異体は何れも、shFcRnに対する結合性がwt rHAよりも低い。
【0274】
全変異体がpH5.5でshFcRnに(ある程度)結合した。K500ライブラリー変異体のshFcRnへの結合は、pH7.4では検出できなかった。
【0275】
実施例16. 融合ペプチド
アルブミンムテインを含むアルブミン融合体の生成:
scFv(vHvL)生成用の発現カセットを、HSAのN末端又はC末端の一方又は両方に、遺伝子的手法で融合したプラスミド(Evans et al., 2010. Protein Expression and Purification. 73,113-124に記載)を、アルブミン融合体を生成し得るようインビボクローニング(上述)で修飾した。即ち、pDB3017(図17)、pDB3021(図18)、pDB3056(図19)をNsiI/SpeIにより消化し、それぞれ9.511kb、9.569kb及び8.795kbに対応するNsiI断片を、標準法を用いて精製した。精製HsiI断片を自己連結し、それらを用いてケミカルコンピテント大腸菌(E. coli)DHSαを形質転換することにより、それぞれpDB4168、pDB4169及びpDB4170を生成した(表18)。
【0276】
同様に、pDB3165(二価融合体を含む)(図20)をNotIにより消化し、発現カセット(4.506kbの断片)を精製後、NotI消化pDB3927内に連結し、pDB4172(図21、表18)を生成した。
【0277】
翻訳されたアルブミンのタンパク質配列に、K500A、又はD550N又はK573Pに対応するアミノ酸置換を導入するべく、アルブミンコーディングヌクレオチド配列内に点突然変異を含む合成SalI/Bsu36I DNA断片(269bp)を、遺伝子アセンブリー(GeneArt AG, Germany)により生成した。SalI/Bsu36I断片をそれぞれ、SalI/Bsu36I消化pDB4168〜pDB4170及びpDB4172内に連結し、標準法を用いてケミカルコンピテント大腸菌(E. coli)DH5αを形質転換し、プラスミドpDB4265〜pDB4276を生成した(表18)。
【0278】
【表18】

【0279】
同様に、翻訳されたアルブミンタンパク質配列にK573A置換を導入するべく、DNA断片をPCRにより(標準法を用いて)生成した。鋳型DNAとしてpDB4267(図22)を用い、更にオリゴヌクレオチドxAP238(配列番号53)及びxAP239(配列番号54)を用いて、New England Biolabs PhusionキットによりPCRを実施した。
PCRサイクルを表19に示す。
【0280】
【表19】

【0281】
PCR生成物を精製し、SalI/Bsu36Iで消化し、単離された断片(269bp)を、SalI/Bsu36I消化pDB4168〜pDB4170及びpDB4172内に連結し、ケミカルコンピテント大腸菌(E. coli)DH5αを形質転換した。得られたプラスミド(pDB4277〜pDB4280)を表18に示す。
【0282】
FLAG標識をコードするヌクレオチド配列を、プラスミドpDB4168及びpDB4268〜4270(scFv発現用プラスミドをそれぞれHSA及びHSAムテインK500A、D550N及びK573PにN末端融合したもの)から除去した。pDB4168及びpDB4268〜4270(表18)をBsu36I/SphIにより消化し、HSAコーディング遺伝子の3’領域、FLAG標識をコードするヌクレオチド配列及びADH1ターミネーターの5’領域を含む、231bpの産物を除去した。pDB4181由来のHSAコーディング遺伝子の3’領域及びmADH1ターミネーター(配列番号1)の5’領域を含むBsu36I/SphI断片(207bp)を、標準法を用いて、Bsu36I/SphI消化pDB4168及びpDB4268〜pDB4270内に連結した。連結混合物を用いて、標準法を用いてケミカルコンピテント大腸菌(E. coli)DH5αを形質転換し、プラスミドpDB4281〜pDB4284(表18)を生成した。
【0283】
pDB4265〜pDB4284をBstE2/BsrBIで消化し、線状化されたDNA分子を標準法を用いて精製した。100ngのBstE2/BsrBI DNAサンプルを、100ngのAcc65I/BamHI消化pDB3936と混合し、これを用いて、後述のSigma Yeast形質転換キットによりS.セレビシエ(S. cerevisiae)BXP10cir0を形質転換した。何れの場合でも、発現プラスミドは酵母において、アルブミン融合体含有プラスミド(pDB4265〜pDB4280)(表18)とpDB3936との間の相同組換(インビボクローニング)により生成した。
【0284】
プラスミド(pDB3017、pDB3021、pDB3056及びpDB3165)(Evans et al., 2010. Protein Expression and Purification. 73,113-124に記載の野生型HSA融合体)を用いて、後述のSigma Yeast形質転換キットにより、S.セレビシエ(S. cerevisiae)株Acir0(国際公開第2005/061718号記載)を形質転換した。
【0285】
ヒトIL−1RA(インターロイキン−1受容体アンダゴニスト)(受託番号CAA59087)をコードするヌクレオチド配列は、遺伝子アセンブリーにより合成可能である。708bpの合成断片(Bsu 36I/SphI断片)のヌクレオチド配列を配列番号1に示す。本配列は、HSAをコードする遺伝子の3’領域、GSリンカーをコードするヌクレオチド配列、ヒトIL−1RAをコードするヌクレオチド配列(N連結グリコシル化モチーフを破壊するためのN84Q)、及びADH1ターミナルの5’領域を含む。合成DNA断片を、Bsu36I/SphI消化pDB3927内に連結し、pDB2588を生成した。
【0286】
IL−1RA生成用の発現カセットをHSA及びHSA変異体K500A、D550N、K573A及びK573PのC末端に遺伝子的手法で融合したプラスミドは、以下の手順で調製した。pDB2588をBsu35I/SphIで消化し、HSAコーディング遺伝子の3’領域、GSリンカーをコードするヌクレオチド配列、ヒトIL1−RA(N84Q)をコードするヌクレオチド配列、及び修飾されたS.セレビシエ(S. cerevisiae)ADH1ターミナル(配列番号3)の5’領域を含む705bpの断片を、標準法を用いて精製した後、Bsu36I/SphI消化pDB4006(HSA K573A発現カセットを含む)、pDB4010(HSA D550N発現カセットを含む)、pDB4086(HSA K500A発現カセットを含む)、pDB4110(HSA K573P発現カセットを含む)内に連結し、それぞれpDB4287、pDB4286、pDB4285及びpDB4288を生成した(例として図23を参照)。pDB4285〜pDB4288をNsiI/PvuIで消化し、線状化されたDNA分子を標準法を用いて精製した。100ngのNsiI/PvuI消化DNA分子を、100ngのAcc65I/BamHI消化pDB3936(9721bp)と混合し(即ち、インビボクローニング)、これを用いて、後述のSigma Yeast形質転換キットにより(即ち、インビボクローニングにより)、S.セレビシエ(S. cerevisiae)を形質転換した。
【0287】
野生型HSAをGSリンカー及びIL1−RA(H84Q)(表18参照)に遺伝子的手法で融合した融合体を発現するS.セレビシエ(S. cerevisiae)株を、下記方法によって調製することも実施である。
【0288】
融合ペリペプチドを、上記SPR方法を用いて、FcRnへのそれらの結合について分析し、そして次の結果を得た。
【0289】
【表20】

【0290】
実施例8では、K500A変異体がshFcRnに対して有意に結合しないことが示され、実施例10では、K573P及びK573A変異体がHSAよりもshFcRnに対する結合が強いことが示され、実施例11では、D550N変異体がHSAよりもFcRnに対する結合が弱いことが示された。
【0291】
本実施例では、上記観察された結合特性の相違が、以下の異なる構成を有する融合ポリペプチドにも反映されていることが示された。即ち、小型部分を有するC末端融合体(HSA−FLAG);大型のポリペプチドを有するC末端融合体(HSA−IL1RA);ポリペプチドを有するN末端融合体(scFv−HSA);N及びC末端融合体(scFv−HSA−FLAG及びscFv−HSA−scFv−FLAG)。
【0292】
実施例17.アルブミン及びK573P変異体へのホースラディッシュペルオキシダーゼタンパク質のコンジュゲート
コンジュゲート分析では、市販の組換アルブミン(Recombumin(登録商標))を対照分子として使用した。この実施例では、流加発酵から、最終量200mg/mlの本発明のアルブミンK573P変異体を、材料及び方法の欄に記載の手段で精製した。
【0293】
精製は二段階で実施した。
第一段階では、AlbuPure(登録商標)マトリックス(ProMetic)を充填したカラム(層体積約400ml、層高11cm)を使用した。これを50mM 酢酸ナトリウム(pH5.3)で平衡化し、新鮮な培養上清液を、約pH5.5〜6.5で、約20mg/mlマトリックスとなるように充填した。次にカラムを、約5カラム体積の50mM 酢酸ナトリウム(pH5.3)、50mM リン酸ナトリウム(pH6.0)、50mM リン酸ナトリウム(pH7.0)及び50mM 酢酸アンモニウム(pH8.0)によりそれぞれ洗浄した。結合されたタンパク質を、約2カラム体積の50mM 酢酸アンモニウム、10mM オクタノエート(pH7.0)を用いて溶出した。全精製を通じて流速は154ml/分とした。
【0294】
第二段階では、第一段階の溶出物を水で約2倍に希釈し、酢酸でpH5.3±0.3に調節したところ、導電性は2.5±0.5mS/cmとなった。これを、80mM 酢酸ナトリウム、5mM オクタノエート(pH5.5)により平衡化されたDEAE-Sepharose Fast Flow(GE Healthcare)カラム(層体積約400ml、層高11cm)に負荷した。負荷は約30mgタンパク質/mlマトリックスであった。カラムを約5カラム体積の80mM 酢酸ナトリウム、5mM オクタノエート(pH5.5)、続いて約10カラム体積の15.7mM カリウム四ホウ酸塩(pH9.2)により洗浄した。結合されたタンパク質を、2カラム体積の110mM カリウム四ホウ酸塩、200mM 塩化ナトリウム(約pH9.0)を用いて溶出した。流速は、負荷及び洗浄時は183ml/分、溶出時は169ml/分とした。
【0295】
流出物を濃縮し、Pall Centramate Omega 10,000 Nominal MWCO膜を用いて、145mM NaClに対してダイアフィルトレートし、最終タンパク質濃度約200mg/mlを得た。
【0296】
rHA及びK573P変異体アルブミンの何れも200mg/mlのストック溶液を、リン酸緩衝溶液(PBS)を用いて5mg/mlに希釈し、pHを6.5〜6.7に調節した。これによって、EZ-Link(登録商標)マレイミド活性化ホースラディッシュペルオキシダーゼ(Thermo Scientific)のマレイミド反応基が、遊離スルフィドリルと反応し、安定したチオエステル結合を形成する上で好ましいpH環境を確保した。2mgのEZ-Link(登録商標)マレイミド活性化ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)を、1mlの5mg/mlのrHA又はK573P変異体アルブミンと混合した。この混合によって、アルブミン又はK573P変異体アルブミンは約2倍のモル過剰となった。この混合物を4℃で24時間微小インキュベートした。次に、反応混合物におけるコンジュゲートを、GP−HPLCを用いて調べた。
【0297】
非コンジュゲート種(rHA、又はアルブミン変異体K573P及び未反応HRP)を対応するコンジュゲート種から分離するべく、サンプルをまず濃縮し(Vivaspin20, 10,000 MWCO PES, Sartorius)、次に個別にTricorn Superdex(登録商標)200、10/300 GLカラム(GE Healthcare)に、PBS中、流速45cm/時で通過させた。溶出ピークを分別し、GP−HPLC分析した。コンジュゲート種を含む画分をプールし、濃縮し、50mM NaClに対してダイアフィルトレートし、GP−HPLCで分析した(図24)。
【0298】
次にこれらのサンプルを、本明細書に記載のBiacore法を用いて分析した(表21)。本実施例は、K573Pが、WTC HSAと比べて、shFcRnに対する親和性が高い状態で維持されることを示す。
【0299】
実施例18.アルブミン及びK573P変異体へのフルオレセインのコンジュゲート
実施例17で使用した2種のアルブミンサンプル、即ち約200mg/mlのrHA又はK573Pアルブミン変異体を、本実施例でも出発材料として用いた。
【0300】
フルオレセイン−5−マレイミド(Themo Scientific)(F5M)をジメチルホルムアミドに溶解し、25mg/mlの最終濃度を得た。次にこれを18mlのPBSで更に希釈し、pHを約6.5に調節した。この溶液に、1mlの200mg/ml rHA又は1mlの200mg/ml K573P変異体を添加した。これにより、約20倍の最終モル過剰のF5Mを得た。これらのサンプルをインキュベートし、暗室において4℃で一晩コンジュゲートさせることにより、F5M上のマレイミド基を、両アルブミン種に存在する遊離スルフィドリルと優先的に反応させた。
【0301】
一晩のインキュベーションの後、反応混合物のアリコートを50mM NaClに対して広範にダイアフィルトレートし、未コンジュゲートFSMを除去した(Vivaspin20, 10,000 MWCO PES, Sartorius)。コンジュゲートは、標準SDS−PAGEに従い、コンジュゲート化フルオレセイン::アルブミンの紫外線可視化により確認した(図25)。
【0302】
次に、ダイアフィルトレートされたサンプルを、本明細書に記載のBiacore法を用いてアッセイした(表21)。本実施例は、小分子のrHA又は変異体(例えばK573P等)へのコンジュゲートが、shFcRnへの結合親和性の傾向に影響を与えないことを示す。
【0303】
【表21】

【0304】
実施例19.追加のアルブミン変異体
実施例1に記載の方法を用いて以下の変異体を生成した。E492T、N503D、 E492T+N503D、K538H、E542D、D494N+E495Q+T496A、E495Q+T496A、N403K、K541A及びK541N。実施例15の記載に従ってSPR分析を実施した。結果を図26及び27に示す。
【0305】
図30A及び30Bは、アルブミン変異体のshFcRn結合に対する効果を示す。HSA内の置換N503D、D494N+E495Q+T496A、E492T+N503D、E495Q+T496Aは、pH5.5でのshFcRnへの結合に対して負の影響を有した。
【0306】
実施例20.C末端のアルブミンの変異体
実施例1に記載の方法を用いて以下の変異体を生成した。shFcRnに対する結合性を、材料及び方法の欄の記載に従って決定した。結果を表22に示す。
【0307】
【表22】

【0308】
本実施例は、試験された全てのヒトアルブミンC末端スワップについて、ドナーアルブミンに対する結合性の上昇が観察されたことを示す。何れのドナー配列も、結合性を有意に向上させることが示されているK573P置換を含むが、K573P単独では結合性は低い(表20)。
【0309】
実施例21.変異体アルブミン融合体の競合結合分析
実施例1の記載に従って調製された変異体アルブミン融合体及び変異体アルブミンの選択を用いて、実施例4の記載に従って競合結合試験を実施した。結果を図28〜31に示す。
【0310】
競合結合の順位は、HSA−FLAG及びN+C末端scFv HSA−FLAGの変異体融合については、個々のHSA変異体(融合の有無を問わず)の親和性データの順位と同一であった。IL1Raに関して、変異体K573P、K573A及びK500Aは予測通りであったが、D550NはWT融合体よりも効率的に阻害するように思われる。
【0311】
実施例22.追加のHSA変異体
実施例1に記載の方法を用いて以下の変異体を生成した。HSA E492G+K573A、HSA E492G+N503K+K573A、HSA E492G+N503H+K573A、HSA E492G+K573P、HSA E492G+N503K+K573P、HSA E492G+N503H+K573P。材料及び方法の欄の記載に従ってSPR分析を実施した。その結果(図32)は、全てのHSA変異体が、野生型HSAと比較して、shFcRnに対するpH5.5での結合がより強かったことを示している。
【0312】
HSA E492G+N503H+K573Aとは異なり、HSA E492G+K573A、HSA E492G+N503K+K573Aは、HSA K573Aの結合性よりもわずかに改善された結合性を有した。K573Pを含む組合せの変異体は、K573Pのみの変異体と比べて、より改善された結合性を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドを調製する方法であって、
a)配列番号2に対して少なくとも80%の配列同一性を有する親アルブミンをコードする核酸を用意する工程、
b)以下から選択される配列番号2の置換に対応する1又は2以上の置換を有するアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドをコードするように、工程a)の配列を修飾する工程、
Q417A,C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,N,P,R,S,T,V,W,Y;
H440A,C,D,E,F,G,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
A490C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,N,P,R,S,T,V,W,Y
E492A,C,D,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
V493A,C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T.W,Y:
D494A,C,E,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
E495A,C,D,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
T496A,C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,V,W,Y;
P499A,C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,N,Q,R,S,T,V,W,Y;
K500A,C,D,E,F,G,H,I,,L,M,N,Q,R,S,T,V,W,Y;
E501A,C,D,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
N503A,C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
A504C,D,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
E505A,C,D,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
T506A,C,D,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,V,W,Y;
H510A,C,D,F,G,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
H535A,C,D,F,G,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
K536A,C,D,E,F,G,H,I,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
P537A,C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,N,Q,R,S,T,V,W,Y;
K538A,C,D,E,F,G,H,I,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
T540A,C,D,E,F,G,H,I,L,M,N,P,Q,R,S,,V,W,Y;
K541A,C,D,E,F,G,H,I,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
E542A,C,D,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
D550A,C,E,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
K573A,C,D,E,F,G,H,I,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
K574A,C,D,E,F,G,H,I,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
Q580A,C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,N,P,R,S,T,V,W,Y;
A581C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
A582C,D,E,F,G,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;又は
G584A,C,D,E,F,H,I,K,L,M,N,P,Q,R,S,T,V,W,Y;
c)工程b)で修飾した配列を適切な宿主細胞に導入する工程、
d)前記細胞を、適切な成長培地において、前記のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドが発現される条件下で培養する工程、及び、
e)前記のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドを、成長培地から回収する工程を含み、
前記のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドが、親アルブミン、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドと比べて、改変された血漿中半減期を有する、方法。
【請求項2】
アルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドであって、親アルブミン、その断片、又は、前記親アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドと比べて、改変された血漿中半減期を有し、且つ、573、500、550、492、580、574、417、440、464、490、493、494、495、496、499、501、503、504、505、506、510、535、536、537、538、540、541、542、575、577、578、579、581、582及び584から選択される配列番号2の位置に対応する位置に置換を有し、但し、前記変異体は、配列番号2において置換D494N、E501K、K541E、D550G,A、K573E又はK574Nを有する配列からなる変異体ではない、アルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド。
【請求項3】
親アルブミンよりも血漿中半減期が長い、請求項2に記載のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド。
【請求項4】
配列番号2における以下の置換に相当する1又は2以上の置換を有する:K573Y,W,P,H,F,V,I,T,N,S,G,M,C,A,E,Q,R,L,D、K573P+K574N+A577T+A578R+S579C+Q580K+A581D+G584A、
K573P+A577E+A578S+Q580K+A582T、K573P+A578S+S579T+G584A、K573P+L575F+G584A、E492G、N503K、K500R N503H、D550E、K574N、Q580K及びE492G+N503K、E492G+N503H、E492H+E501P+N503H+E505D+T506S+T540S+K541E、E492G+K573A、E492G+N503K+K573A、E492G+N503H、E492G+K573P、E492G+N503K+K573P、E492G+N503H+K573P、
請求項3に記載のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド
【請求項5】
親アルブミンよりも血漿中半減期が短い、請求項2に記載のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド。
【請求項6】
配列番号2における以下の置換に相当する1又は2以上の置換を有する:K500E,G,D,A,S,C,P,H,F,N,W,T,M,Y,V,Q,L,I,R、D550N、H464Q、H510Q、H535Q、D494N,Q,A、E495Q,A、T496A、E492G+V493P、K541G,D、D494N+E495Q+T496A、E495Q+T496A、E492G+V493P+K538H+K541N+E542D、N503K,D P499A、K541A,N、D494E+Q417H、Q417A、E492T+N503D、A490D+E492T+V493L+E501P+N503D+A504E+E505K+T506F+K541D、K536A、P537A、E501A,Q、E492G+K538H+K541N+E542D、
請求項5に記載のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド
【請求項7】
表面にチオ基を生じる1又は2以上の更なる改変を含む、請求項1〜6の何れか一項に記載のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド。
【請求項8】
前記のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドの配列番号2に対する配列同一性が、80%超、好ましくは90%超、より好ましくは95%超、より好ましくは96%超、よりいっそう好ましくは97%超、より好ましくは98%超、最も好ましくは99%超である、請求項1〜7の何れか一項に記載のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド。アルブミンの変異体断片、又は、アルブミンの変異体断片を含む融合ポリペプチドであって、前記断片が、少なくとも20アミノ酸、好ましくは少なくとも50アミノ酸、好ましくは少なくとも100アミノ酸、より好ましくは少なくとも200アミノ酸、より好ましくは少なくとも300アミノ酸、より好ましくは少なくとも400アミノ酸、最も好ましくは少なくとも500アミノ酸である、請求項1〜7の何れか一項に記載のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド。
【請求項9】
請求項2に記載のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチドをコードする核酸。
【請求項10】
請求項2に記載の変異アルブミン又はその断片と、有用な治療用部位とを含むコンジュゲート。
【請求項11】
請求項2に記載の変異アルブミン又はその断片と、有用な治療用部位とを含むアソシエート。
【請求項12】
請求項2に記載の変異アルブミン又はその断片と、融合パートナーポリペプチドとを含む融合ポリペプチド。
【請求項13】
アルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド、又は、前記変異アルブミンを含むコンジュゲート、を含む組成物であって、FcRnに対する結合が、対応するアルブミン又はその断片、又は、前記アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド、又は、前記アルブミンを含むコンジュゲートよりも強い、組成物。
【請求項14】
FcRnに対する結合が、HSAのFcRnに対する結合よりも強い、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記のアルブミンの変異体、その断片、又は、前記変異アルブミン又はその断片を含む融合ポリペプチド、又は、前記変異アルブミンを含むコンジュゲートの、FcRnに対する結合係数が、HSAに対して0.9X KD未満、より好ましくはHSAに対して0.5X KD未満、より好ましくはHSAに対して0.1X KD未満、よりいっそう好ましくはHSAに対して0.05X KD未満、よりいっそう好ましくはHSAに対して0.02X KD未満、最も好ましくはHSAに対して0.01X KD未満である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の変異アルブミン又はその断片、請求項10に記載のコンジュゲート、請求項11に記載のアソシエート、又は、請求項12に記載の融合ポリペプチドを含む、請求項12〜15の何れか一項に記載の組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の変異アルブミン又はその断片を含むとともに、ABDと医薬的に有用な部位とを含む化合物を更に含む、請求項13〜16の何れか一項に記載の組成物。
【請求項18】
医薬組成物である、請求項13〜17の何れか一項に記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate


【公表番号】特表2013−509170(P2013−509170A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535864(P2012−535864)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066572
【国際公開番号】WO2011/051489
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(509198343)ノボザイムス バイオファーマ デーコー アクティーゼルスカブ (11)
【Fターム(参考)】